(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】パワー半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20240208BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240208BHJP
【FI】
H01L25/04 C
(21)【出願番号】P 2022506212
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2020071387
(87)【国際公開番号】W WO2021018957
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プタコバ,ズザナ
(72)【発明者】
【氏名】ティルザー,ミハル
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-084926(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03007220(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00415059(EP,A2)
【文献】特表2018-518051(JP,A)
【文献】特開2016-062983(JP,A)
【文献】特開昭54-161272(JP,A)
【文献】特開平11-002326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/52-21/58
H01L23/00-23/26
H01L25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体デバイス(10)であって、
第1の接触面(14a)を有する円盤状の第1の電極(12a)、および前記第1の接触面(14a)と反対側の第2の接触面(14b)を有する円盤状の第2の電極(12b)と、
前記第1の電極(12a)と前記第2の電極(12b)との間に挟まれているウェハ(16)と、
前記第1の電極(12a)および前記第2の電極(12b)に取り付けられ、前記ウェハ(16)を取り囲む外側絶縁リング(24)と、
前記外側絶縁リング(24)の内側の、前記ウェハ(16)を取り囲む内側絶縁リング(42;42′)と、
前記第1の電極(12a)の主要部(121a)を横方向に取り囲むリング状の第1のフランジ部(50)とを備え、第1の径方向(R)は前記第1の接触面(14a)に平行であり、前記パワー半導体デバイス(10)はさらに、
前記第1の電極(12a)の前記主要部(121a)を径方向に取り囲み、前記第1の接触面(14a)に垂直な第2の方向(Z)において前記内側絶縁リング(42;42′)と前記第1のフランジ部(50)との間に挟まれているOリング(20)を備え、
前記Oリング(20)は、弛緩状態では、前記径方向(R)に垂直な鉛直方向(Z)に細長い断面を有し、弛緩状態では、前記鉛直方向における前記Oリングの高さは前記径方向における前記Oリングの幅よりも大きく、前記Oリング(20)は弾力的に可逆的に変形可能であ
り、
前記第1の電極(12a)は、前記第1のフランジ部(50)の前記Oリング(20)と反対側で前記第1の電極(12a)の前記主要部(121a)から径方向に延在する第2のフランジ部(52)を有し、
前記第1の接触面(14a)に平行な平面上への直交射影において、前記第1のフランジ部(50)は、前記Oリング(20)と前記第1の電極(12a)の前記主要部(121a)との間を径方向に延在する領域において前記第2のフランジ部(52)と重なる、
パワー半導体デバイス(10)。
【請求項2】
前記内側絶縁リング(42;42′)はポリマー材料を含む、
請求項1に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項3】
前記外側絶縁リング(24)はセラミック材料を含む、
請求項1または請求項2に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項4】
前記第1の電極(12a)および/または前記第2の電極(12b)は銅製である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項5】
前記第1のフランジ部(50)は鋼鉄を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項6】
前記第2のフランジ部(52)は銅を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項7】
前記第1のフランジ部(50)は第1の平坦面部(50a)を有し、前記第2のフランジ部(52)は、前記第1の平坦面部(50a)に平行な、前記第1の平坦面部(50a)に押圧される第2の平坦面部(52a)を有し、前記第1の接触面(14a)に平行な平面上への直交射影において、前記第1の平坦面部(50a)および前記第2の平坦面部(52a)は前記Oリング(20)と前記第1の電極(12a)の前記主要部(121a)との間の領域において延在する、
請求項1から6のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項8】
前記第1の平坦面部(50a)と前記第2の平坦面部(52a)との間にポリマー箔(56)が挟まれている、
請求項7に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項9】
前記径方向(R)に沿って見ると、前記第1のフランジ部(50)の第1の部分(50b)は前記内側絶縁リング(42;42′)の第2の部分(42b)と完全に重なっており、前記Oリング(20)は前記第1の部分(50b)および前記第2の部分の径方向外側に配置されている、
請求項1から8のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項10】
前記第1の電極(12a)と前記ウェハ(16)との間に配置される交換可能な銅インサート(85)を備える、
請求項1から9のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項11】
前記内側絶縁リング(42;42′)は前記第2の方向(Z)に第1の端および第2の端を有し、前記Oリング(20)は前記第1の端に配置され、前記第2の端は、前記第2の電極(12b)に向かって径方向内向きに延在する径方向突出底部(42a;42a′)を有する、
請求項1から10のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項12】
ゴム保護リング(38)が前記内側絶縁リング(42;42′)の径方向内側で前記ウェハ(16)に取り付けられて前記ウェハ(16)を取り囲み、前記
径方向突出底部(42a;42a′)は前記ゴム保護リング(38)と接触する、
請求項11に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項13】
前記内側絶縁リング(42;42′)と、前記第1の電極(12a)と、前記ゴム保護リング(38)と、前記第1のフランジ部(50)とによって空間(60)が画定される、
請求項12に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【請求項14】
前記Oリング(20)の断面は楕円形である、
請求項1から13のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、パワー半導体デバイスに関し、特に、同様に設計された他のプレスパックパワー半導体デバイスと積層され得るプレスパックパワー半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
プレスパックパワー半導体デバイスは、大電流整流器または中電圧ドライブなどの大電力変換器用途で使用され得る。これらのシステムでは、デバイスが阻止能力を失って逆方向の過大な故障電流を受け得る故障状況が発生することがある。この故障電流によって起こる局所的な加熱は、デバイス内部の電気アーク放電を引き起こすことがある。電気アークの高温(約20,000℃)およびそれに伴う圧力上昇により、気密封止されたプレスパックハウジングが損傷することがある。
【0003】
電気アーク放電で放出されるエネルギーが十分に高い場合、アークプラズマによってハウジングの金属フランジが溶け落ちたり、デバイスウェハを取り囲むハウジングのセラミック絶縁リングにひび割れが生じることがある。パワー半導体デバイスを保護するために、十分に速いヒューズが使用される場合がある。また、予想される短絡電流間隔では破裂しないようなハウジング設計によって、さらなる保護が提供される場合がある。
【0004】
アークプラズマがフランジおよびセラミックリングに影響を及ぼすのを防止し、それによってプレスパックパワー半導体デバイスの非破裂能力を高めるために、セラミックリングとデバイスウェハとの間の容積に、ポリマー材料で作られた保護リング状部品が配置される場合がある。
【0005】
DE 103 06 767 A1は、2つの電極間に介在する、ハウジング絶縁体を有するプレスパック半導体デバイスに関する。ハウジング絶縁体の内部では、さらに他の絶縁体が半導体素子を取り囲んでいる。
【0006】
DE 89 09 244 U1は、ハウジングの一部としてセラミックリングを有するプレスパックパワー半導体デバイスを開示している。セラミックリングの内部にはテフロンバンド(「テフロン」は登録商標)が配置され得る。
【0007】
DE 30 32 133 C2は、セラミック製の筒状素子がシリコーン製の防爆素子を取り囲み、内部に半導体ウェハが配置されたプレスパックパワー半導体デバイスを開示している。
【0008】
EP 1 906 443 A2は、一対の電極を有する半導体基板を挟持する熱緩衝板とフランジを有する主電極ブロックとを含み、フランジを接合して絶縁容器を形成することによって半導体基板が気密空間内に封止される圧接型半導体デバイスを開示している。この半導体デバイスは、半導体基板の最外周が、気密空間内の主電極ブロックの外周と嵌合する中空円筒状の絶縁体に取り囲まれ、Oリングが各主電極ブロックと円筒状の絶縁体との間にそれぞれ嵌合して、Oリングの反力で気密空間を封止するように構成されている。
【0009】
US 4 274 106 Aより、フラットパッケージ半導体デバイスが知られている。2つの対向電極が、半導体素子を挟むように中空の電気絶縁円筒の両端に配置され、薄い金属環状体を介してそれらの両端にそれぞれ接続されている。半導体素子は、各電極の周方向の突出部と中空円筒との間に介在する環状部材によって、または突出部を円筒と直接接触させることによって、金属環状体の各々から物理的に分離されている。各電極と中空の電気絶縁円筒の端面との間のOリングをそれぞれ弾性変形させながら、電極を介して圧力を加えて半導体素子をそれらの電極と圧縮接触させ続ける。
【0010】
公知のプレスパックパワー半導体デバイスは、いずれもハウジングが特定のウェハ径に対して、かつ特定のウェハの厚みに対して使用されるように構成されている。異なるウェハの厚みおよび/または異なるウェハ径を有する異なるウェハに対しては、その幾何学的寸法が互いに異なる、異なるハウジングを使用しなければならない。
【0011】
さらに、公知のプレスパックパワー半導体デバイスにおいて電極ブロックから横方向に突出して外側絶縁リングに接続されるフランジは、デバイス故障の場合にアークプラズマに対する耐性を確保し、それによって防爆ハウジングを確保するために、比較的厚いものでなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
先行技術の上記問題に鑑みて、本発明の目的は、さまざまな異なるウェハの厚みに対して使用されるハウジングを含む、改良されたパワー半導体デバイスを提供することである。本発明のこの目的は、請求項1に記載のパワー半導体デバイスによって達成される。本発明のさらなる展開は従属請求項に規定されている。
【0013】
本発明のパワー半導体デバイスは、第1の接触面を有する円盤状の第1の電極、および第1の接触面と反対側の第2の接触面を有する円盤状の第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に挟まれているウェハと、第1の電極および第2の電極に取り付けられ、ウェハを取り囲む外側絶縁リングと、外側絶縁リングの内側の、ウェハを取り囲む内側絶縁リングと、第1の電極を径方向に取り囲むリング状の第1のフランジ部と、第1の電極を取り囲み、内側絶縁リングと第1のフランジ部との間に挟まれているOリングとを含む。Oリングは、弛緩状態では、径方向に垂直な鉛直方向に細長い断面を有し、弛緩状態では、鉛直方向におけるOリングの高さは径方向におけるOリングの幅よりも大きい。たとえば、Oリングは断面が楕円形であり、この楕円形の断面は、第1の接触面に垂直な方向に細長い。ここで、断面は、Oリングの主軸に直交する平面に沿った断面、すなわち、第1の接触面に直交して径方向に平行な平面に沿った断面であり、第1の接触面に平行である。Oリングの断面は、Oリングの異なる圧縮状態に対してOリングが比較的高い反力を提供することができるように形成、成形および/または設計される。Oリングは弾性および/または弾力材料で作られている。Oリングは弾性的である。Oリングは弾力的である。Oリングは可逆的に変形可能である。Oリングは断面を有し、Oリングに外力が加えられたときにOリングが特に鉛直方向に沿って変形するような材料で作られている。その力を取り除くとOリングは元のサイズおよび形状に戻る。
【0014】
本発明のパワー半導体デバイスでは、Oリングの楕円形によって、ウェハの厚みが異なる半導体ウェハに対して同じハウジングを使用する場合に、さまざまな異なる組み立て高さに対して比較的高い反力を提供することができる。つまり、楕円形のOリングは、Oリングの異なる圧縮状態に対して比較的高い反力を提供することができる。
【0015】
例示的な実施形態において、内側絶縁リングはポリマー材料で作られている。ポリマー材料は、電気アーク放電の場合に外側絶縁リングを保護してハウジングの爆発を防止するための内側絶縁リングに特に適した特性を有する。
【0016】
例示的な実施形態において、外側絶縁リングはセラミック材料で作られている。セラミック材料は理想的な電気絶縁性を有する。
【0017】
例示的な実施形態において、第1の電極および/または第2の電極は銅製である。銅は導電率が非常に高いので、第1および第2の電極の材料として最適である。
【0018】
例示的な実施形態において、第1のフランジ部は鋼鉄製である。鋼鉄は高温に耐えることができるので、アーク放電の場合にアークプラズマに対して特に耐性がある。
【0019】
例示的な実施形態において、第1の電極は、第1のフランジ部のOリングと反対側で第1の電極の主要部から径方向に延在する第2のフランジ部を有する。第2のフランジ部は、第1の電極の一体部分であってもよく、気密ハウジングの形成を容易にする。
【0020】
例示的な実施形態において、第2のフランジ部は銅製である。このような例示的な実施形態では、鋼鉄製の第1のフランジ部は、電気アーク放電の場合に第2のフランジ部をアークプラズマから最も効率的に保護し得る。
【0021】
例示的な実施形態において、第1の接触面に平行な平面上への直交射影において、第1のフランジ部は、Oリングと第1の電極の主要部との間を径方向に延在する領域において第2のフランジ部と重なる。このような構成では、電気アーク放電の場合に第1のフランジ部によって第2のフランジ部をアークプラズマから最も効率的に保護することができる。
【0022】
例示的な実施形態において、第1のフランジ部は第1の平坦面部を有し、第2のフランジ部は、第1の平坦面部に平行な、第1の平坦面部に押圧される第2の平坦面部を有し、第1の接触面に平行な平面上への直交射影において、第1の平坦面部および第2の平坦面部はOリングと第1の電極との間の領域において延在する。第1の平坦面部が第2の平坦面部に押圧されることにより、第1のフランジ部と第2のフランジ部との間の隙間を最小にすることができるので、電気アーク放電の場合に第1のフランジ部は第2のフランジ部をアークプラズマから最も効率的に保護することができる。
【0023】
例示的な実施形態において、第1の平坦面部と第2の平坦面部との間にポリマー箔が挟まれている。この例示的な実施形態におけるポリマー箔は、第1のフランジ部と第2のフランジ部との間の隙間にアークプラズマが入り込まないように効率的な封止を提供する。
【0024】
例示的な実施形態において、径方向に沿って見ると、第1のフランジ部の第1の部分は内側絶縁リングの第2の部分と完全に重なっており、Oリングは第1の部分および第2の部分の径方向外側に配置されている。重なり合う第1の部分および第2の部分は、電気アーク放電の場合にOリングをいずれのアークプラズマからも効果的に遮蔽することができる。
【0025】
例示的な実施形態において、パワー半導体デバイスは、第1の電極とウェハとの間に交換可能な銅インサートを含む。この交換可能な銅インサートにより、異なるウェハ径に対して同じハウジング部品を使用することができる。このような場合、交換可能な銅インサートを対応するウェハ径に適合させるだけでよく、残りのハウジング部品はさまざまな異なるウェハ径に対して使用することができる。本明細書全体を通して、交換可能な要素とは、この要素が別個の部品であること、すなわちパワー半導体デバイスの他の部品と一体化していない(ただし、他の部品に着脱可能に接続され得る)ことを意味する。
【0026】
例示的な実施形態において、内側絶縁リングは、径方向に垂直な方向に第1の端および第2の端を有し、Oリングは第1の端に配置され、第2の端は、第2の電極に向かって径方向内向きに延在する径方向突出底部を有する。このような例示的な実施形態では、内側絶縁リングの底部は、電気アーク放電の場合に、底部の下に設けられたハウジングの任意の部分をアークプラズマから効率的に遮蔽することができる。この例示的な実施形態では、ゴム保護リングが内側絶縁リングの径方向内側でウェハに取り付けられてウェハを取り囲んでもよく、底部はゴム保護リングと接触してもよい。底部とゴム保護リングとの直接接触により、底部の上方の空間を効率的に封止することができる。
【0027】
例示的な実施形態において、内側絶縁リングと、第1の電極と、ゴム保護リングと、第1のフランジ部とによって空間が画定される。このような空間は、デバイス故障の場合にアークプラズマのための空間を提供し、この空間が電気アーク放電の場合に圧力上昇を緩和することができるので、それにより爆発のリスクを低減させる。
【0028】
本発明の詳細な実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一実施形態に係るパワー半導体デバイスの部分断面図である。
【
図2】
図1のパワー半導体デバイスの縦断面図である。
【
図3】
図1のパワー半導体デバイスに含まれる第1の電極の縦断面図である。
【
図4】
図1のパワー半導体デバイスに含まれるOリングの縦断面図である。
【
図5】
図1のパワー半導体デバイスに含まれる第2の電極の断面図である。
【
図6a】ある組み立て高さに対する
図2の縦断面の一部を示す図である。
【
図6b】ある組み立て高さに対する
図2の縦断面の一部を示す図である。
【
図6c】ある組み立て高さに対する
図2の縦断面の一部を示す図である。
【
図7】
図1のパワー半導体の第1の変形実施形態の縦断面図である。
【
図8】パワー半導体デバイスの第2の変形実施形態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
例示的な実施形態の詳細な説明
図面に使用されている参照符号およびその意味は、参照符号のリストにまとめている。一般に、本明細書全体を通して同様の要素は同じ参照符号を有する。記載されている実施形態は、例として意図されており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係るパワー半導体デバイス10の部分断面図であり、
図2は
図1に示されるパワー半導体デバイス10の縦断面図である。パワー半導体デバイス10は、円盤状の第1の電極12aと、円盤状の第2の電極12bと、第1の電極12aと第2の電極12bとの間に挟まれているウェハ16と、外側絶縁リング24と、内側絶縁リング42と、リング状の第1のフランジ部50と、Oリング20とを含む。
【0032】
さらに、ウェハ16と第2の電極12bとの間に、熱緩衝層としてモリブデン層70が配置されてもよい。ウェハ16は、たとえば低温接合プロセス(LTB:low temperature bonding process)によってモリブデン層70に接合されてもよい。これに代えて、第1のモリブデン70は、ウェハ16に接合されずに浮遊していてもよい。
【0033】
ウェハ16は、たとえばシリコンウェハであってもよい。サイリスタ、トランジスタ、またはパワーダイオードなどのスイッチがウェハ16に実装されてもよい。
【0034】
第1の電極12aは第1の接触面14aを有し、第2の電極12bは第1の接触面14aと反対側の第2の接触面14bを有する。ここで、第1の接触面14aおよび第2の接触面14bはいずれも平坦であり、互いに平行である。一例として、第1の接触面14aおよび第2の接触面14bは、
図1に示されるように円形であってもよい。パワー半導体デバイス10を、同様に設計された他のプレスパックパワー半導体デバイス10とスタック状に積層する場合、第1の電極12aおよび第2の電極12bはコンタクトポール片として機能してもよい。
【0035】
外側絶縁リング24は、中空円筒の形態であり、第1の電極12aと第2の電極12bとの間の必要な間隙および/または沿面距離を確保するために
図1および
図2に示されるようなフィン構造をさらに含んでもよい。
図2に示されるように、外側絶縁リング24は上側の第1の端および下側の第2の端を有する。本明細書全体を通して、パワー半導体デバイス10の上側とは、パワー半導体デバイス10の第1の接触面14aが配置される側であり、パワー半導体デバイス10の下側とは、パワー半導体デバイス10の第2の接触面14bが配置される側である。外側絶縁リング24は、第1の端が第1の電極12aに取り付けられ、第2の端が第2の電極12bに取り付けられている。内側絶縁リング42は外側絶縁リング24の内側に横方向に配置され、すなわち外側絶縁リング24は内側絶縁リング42を径方向に取り囲み、径方向Rは、第1の接触面14aに平行な、第1の接触面14aの横方向中心から離れるように延びる方向である。外側絶縁リング24および内側絶縁リング42はいずれも、ウェハ16を径方向に取り囲むように配置されている。外側絶縁リング24は、パワー半導体デバイス10の気密封止されたハウジングの側壁を形成している。
【0036】
図3は、第1の電極12aの縦断面図である。
図3に示されるように、第1の電極12aは、主要部121aと、主要部121aの上端から径方向に延在する第2のフランジ部52とを有する。第1の電極12aの上端とは、鉛直方向Zにおいて第1の接触面14aが配置される側にある第1の電極12aの端である。第1の電極12aは、その下側18に、後述するばね要素80を受けるための凹部15を有する。
図1~
図3から分かるように、第1のフランジ部50は第1の電極12aの主要部121aを径方向に取り囲んでいる。
【0037】
図1および
図2に示されるようなパワー半導体デバイス10では、第1の電極12aの主要部121aを径方向に取り囲むOリング20は、内側絶縁リング42の上端と第1のフランジ部50の下側との間に挟まれている。
図4は、弛緩状態における、すなわち、内側絶縁リング42および第1のフランジ部50がOリング20に圧力を加えていないときの、Oリング20の縦断面図である。この弛緩状態では、Oリング20は、径方向Rと第1の接触面14aに垂直な鉛直方向Zとに平行な平面に沿った断面を有し、この平面は
図4の紙面である。
図4に示される断面はOリング20の主軸に直交している。ここで、この断面は、径方向Rに垂直な鉛直方向Zに細長い。鉛直方向Zに沿ってOリング20は第1の幅d1を有し、径方向Rに沿ってOリング20は第1の幅d1よりも小さい第2の幅d2を有する。一例として、第1の幅d1は縦断面におけるOリング20の最大幅であり、第2の幅d2は縦断面におけるOリング20の最小幅である。一例として、Oリング20は、図に示されるように楕円形の断面形状を有する。一例として、Oリング20はシリコーン材料で作られている。シリコーン材料は良好な弾性特性を有し、パワー半導体デバイスの動作時の熱負荷に耐える十分な耐熱性を有する。一例として、Oリング20は弾力的におよび/または可逆的に変形可能な別の材料で作られている。
【0038】
内側絶縁リング42は、良好な電気絶縁性を有するポリマー材料で作られてもよい。外側絶縁リング24はセラミック材料で作られてもよい。内側絶縁リング42は、電気アーク放電の場合に外側絶縁リング24をアークプラズマから効率的に遮蔽し、デバイス故障および電気アーク放電の場合にパワー半導体デバイス10のハウジングの爆発を防止することができる。
【0039】
図1および
図2に示されるパワー半導体デバイス10では、第2のフランジ部52は、第1のフランジ部50のOリング20と反対側に配置され、この側で径方向に延在している。第1の電極12aおよび第2の電極12bは、銅などの導電率が高い材料で作られている。特に、第2のフランジ部52は、デバイス故障に起因する電気アーク放電の場合にアークプラズマと接触すると容易に損傷を受ける可能性がある比較的軟質の材料である銅で作られてもよい。
【0040】
第1のフランジ部50は、電気アーク放電の場合にアークプラズマの高温に耐えることができる材料で作られている。一例として、第1のフランジ部50は鋼鉄製であってもよい。第1の接触面14aに平行な平面上への直交射影において、第1のフランジ部50は、Oリング20と第1の電極12aの主要部121aとの間を径方向に延在する領域において第2のフランジ部52と重なる。第1のフランジ部50は第1の平坦面部50aを有し、第2のフランジ部52は、第1の平坦面部50aに平行な、第1の平坦面部50aに押圧される第2の平坦面部52aを有し、第1の接触面14aに平行な平面上への直交射影において、第1の平坦面部50aおよび第2の平坦面部52aはOリング20と第1の電極12aとの間の領域において延在する。
図1に示される例示的な実施形態では、第1の平坦面部50aは第2の平坦面部52aと直接接触しているとして示されている。
図7に示されるような第1の変形実施形態では、さらなる封止効果を提供するために、第1の平坦面部50aと第2の平坦面部52aとの間にポリマー箔56が挟まれてもよい。ポリマー箔56はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)箔であってもよい。ポリマー箔56は、一例として50μm~500μmの範囲の厚みであってもよい。ポリマー箔56の追加特徴以外は、第1の変形実施形態は
図1および
図2に示される実施形態と同一であってよい。
【0041】
図1および
図2から分かるように、径方向Rに沿って見ると、第1のフランジ部50の第1の部分50bは内側絶縁リング42の第2の部分42bと完全に重なっている。Oリング20は、第1の部分50bおよび第2の部分の径方向外側に配置されている。第1の部分50bと第2の部分42bとが径方向に重なっているので、Oリング20は、デバイス故障に起因する電気アーク放電の場合にパワー半導体デバイス10内に発生するアークプラズマから遮蔽される。
【0042】
内側絶縁リング42は、径方向Rに垂直な鉛直方向Zに第1の端および第2の端部を有し、Oリング20は第1の端に配置されている。第2の端は、第2の電極12bに向かって径方向内向きに延在する径方向突出底部42aを有する。ゴム保護リング38が、内側絶縁リング42の径方向内側でウェハ16に取り付けられてウェハ16を取り囲んでいる。底部42aは、内側絶縁リング42と、第1の電極12aと、ゴム保護リング38と、第1のフランジ部50とによって空間60が画定されるように、ゴム保護リング38と接触する。この空間は、一例として窒素またはヘリウムなどの保護ガスで充填されてもよい。デバイス故障に起因する電気アーク放電の場合、空間60を設けることによって、パワー半導体デバイス10のハウジング内の圧力上昇を比較的低く抑えることができ、それによってハウジングの爆発を防止することができる。
【0043】
パワー半導体デバイス10は、第1の電極12aとウェハ16との間に交換可能な銅インサート85を含む。このような交換可能な銅インサート85により、第1の電極12aとウェハ16上の主コンタクトとの間の電気接触面積を、異なるウェハ径に対して調整することができる。したがって、異なるサイズの銅インサートをそれぞれ使用することによって、同じハウジング(第1の電極12a、第2の電極12b、外側絶縁リング24、第1のフランジ部50、および内側絶縁リング42を含む)をさまざまなチップ径に対しても使用することができる。
【0044】
図1に示される例示的な実施形態では、ゲートリード90が、内側絶縁リング42の第1の径方向開口部92を通って、かつ外側絶縁リング24の第2の径方向開口部94を通って案内される。ゲートリード90はさらに、銅インサート85のチャネルもしくは第1の電極12aのチャネル、または銅インサート85と第1の電極12aとの間のチャネルを通って、ウェハ16の横方向中央における制御端子に案内される。銅インサート85は、ゲートリード90またはゲートリード90に接続されたゲートコンタクトをウェハ16の制御端子に押圧するために使用されるばね要素80を受けるための、第1のゲート電極12aの上記凹部15と位置合わせされた開口部を有する。
【0045】
図5は、
図1のパワー半導体デバイスに含まれる第2の電極12bの縦断面図である。第2の電極12bは、主要部121bと、主要部121bの下側から径方向に延在する第3のフランジ部54とを含む。主要部121bの下側は第2の接触面14bを形成し、主要部121bの上側17はモリブデン層70に電気的に接続されている。第2の電極12bは、第3のフランジ部54が外側絶縁リング24に取り付けられている。
【0046】
図6a~
図6cは、異なるウェハの厚みに起因する異なる組み立て高さに対する
図2の縦断面の一部をそれぞれ示す。組み立て高さが異なると、Oリング20の圧縮状態が異なる。
図6aではOリング20は鉛直方向の幅h1まで鉛直方向に圧縮されており(比較的低い圧縮状態)、
図6bではOリング20は鉛直方向の幅h2<h1まで圧縮されており(中間の圧縮状態)、
図6cではOリングは鉛直方向の幅h3<h2まで圧縮されている(強い圧縮状態)。Oリング20の断面は、図に一例として示されているOリング20の縦断面の楕円形のように鉛直方向に細長いので、Oリング20の反力は3つの異なる圧縮状態のいずれについても比較的高く、異なるウェハの厚みに起因する異なる組み立て高さに対して、第1のフランジ部50と内側絶縁リング42との間の良好な封止効果を達成することができる。
【0047】
本発明は添付の請求項によって定義されている本発明の範囲から逸脱することなく他の特定の形態で実施できることを、当業者は理解するであろう。
【0048】
たとえば、
図8は、パワー半導体デバイス10の第2の変形実施形態であるパワー半導体デバイス10′の部分断面図である。パワー半導体デバイス10′は、第2の電極12bに向かって径方向内向きに延在する内側絶縁リング42′の底部42a′が内側絶縁リング42の底部とは異なる形状を有するという点においてのみ、
図1のパワー半導体デバイス10と異なる。具体的には、底部42′は縦断面において段差形状を有する。
【0049】
図1に示されるような実施形態では、ゴム保護リング38はウェハ16の側面と上面の一部のみとを覆っている。しかしながら、ゴム保護リング38は、ウェハ表面の他の部分、たとえばウェハ16の下側、または側面の一部のみを覆っていてもよい。
【0050】
上記実施形態では、ウェハ16は、ゲートリード90を介して外部に接続される制御端子を有するものとして説明した。しかしながら、ウェハ16は制御端子を有していなくてもよく、ゲートリード90は設けられなくてもよい。したがって、外側絶縁リング24は第1の径方向開口部92を有していなくてもよく、内側絶縁リング42は第2の径方向開口部94を有していなくてもよい。
【0051】
ウェハ16と第1の電極12aとの間に、熱緩衝層として第2のモリブデン層が配置されてもよい。
【0052】
パワー半導体デバイス10は、ウェハ16と第1の電極12aとの間に交換可能な銅インサート85が配置されているとして説明した。しかしながら、別の例示的な実施形態では、第1の電極12aとウェハ16との間に銅インサート85を介在させなくてもよい。
【0053】
「備える」という用語は他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数形を排除するものではないことに留意されたい。また、異なる実施形態に関連して説明した要素は組み合わされてもよい。
【0054】
参照符号のリスト
10,10′ パワー半導体デバイス
12a 第1の電極
12b 第2の電極
14a 第1の接触面
14b 第2の接触面
16 ウェハ
17 上側
18 下側
20 Oリング
24 外側絶縁リング
38 ゴム保護リング
42 内側絶縁リング
42a,42a′ 底部
42b 第2の部分
50 第1のフランジ部
50a 第1の平坦面部
50b 第1の部分
52 第2のフランジ部
52a 第2の平坦面部
54 第3のフランジ部
56 ポリマー箔
60 空間
70 モリブデン層
80 ばね要素
85 銅インサート
90 ゲートリード
92 第1の径方向開口部
94 第2の径方向開口部
121a,121b 主要部
d1 第1の幅
d2 第2の幅
h1,h2,h3 鉛直方向の幅
R 径方向
Z 鉛直方向