(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】マッドガード
(51)【国際特許分類】
B62D 25/18 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
B62D25/18 A
(21)【出願番号】P 2020114955
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 雄洋
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124452(JP,A)
【文献】特表2004-520225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され
、
前記第1対向部および前記第2対向部は、前記車輪に対応するホイールハウスの下端よりも車両下方に位置するように配置されていることを特徴とするマッドガード。
【請求項2】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第1傾斜部の下端部は、前記第2対向部の下端部よりも車両上側に位置していることを特徴とする
マッドガード。
【請求項3】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第2対向部の上部は、前記第1対向部の側に傾斜し、車両前方に向かうに従い車両下方に傾斜する第2傾斜部を有していることを特徴とする
マッドガード。
【請求項4】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第1対向部における前記第2対向部の側に位置する側部は、前記第2対向部よりも車両後方に配置されており、
前記第1対向部の前記側部から車両前方に延びて前記第2対向部と接続される接続部をさらに備え、
前記接続部は、下端の位置が車両後方に向かうに従い徐々に高くなっていることを特徴とする
マッドガード。
【請求項5】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第1対向部における前記第2対向部の側に位置する側部は、前記第2対向部よりも車両後方に配置されており、
前記第1対向部の前記側部から車両前方に延びて前記第2対向部と接続される接続部をさらに備え、
前記第1対向部および前記接続部は、前記第2対向部よりも車幅方向内側に配置されており、
前記接続部は、車両後方に向かうに従い車幅方向内側に傾斜しており、
前記接続部の車両前後方向に対する傾斜度合が、前記車輪の最大外旋回時の車両前後方向に対する傾斜度合よりも小さいことを特徴とする
マッドガード。
【請求項6】
前記接続部は、直進位置にある前記車輪の後側部分と対向していることを特徴とする請求項
4または5に記載のマッドガード。
【請求項7】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記車両は、旋回位置にある前記車輪の上面を覆う第1上面部と、直進位置にある前記車輪の上面を覆う第2上面部と、を有するホイールハウスを備えており、
前記第1傾斜部の上端部は、下面視で、前記第1上面部の後端部と重なる位置、または、前記第1上面部の後端部よりも車両後方の位置に設けられていることを特徴とする
マッドガード。
【請求項8】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第1対向部における前記第2対向部の側に位置する側部は、前記第2対向部よりも車両後方に配置されており、
前記第2対向部は、前記第1対向部の前記側部の側に傾斜している第2傾斜部を有することを特徴とする
マッドガード。
【請求項9】
前記第2傾斜部は、車両前方に向かうに従い車両下方に傾斜していることを特徴とする請求項8に記載のマッドガード。
【請求項10】
車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、
前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、
前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、
前記第1傾斜部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している複数の板状部材が車両上下方向に間隔を空けて配置されている鎧戸形状を有することを特徴とする
マッドガード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のマッドガードに関する。
【背景技術】
【0002】
オフロード走行が想定される車両は、オンロード走行が想定される車両と比べて、最低地上高が高く設定されているため、走行中に車輪から泥や水、雪、粉塵(以下では「泥等」とする)が跳ねやすい。このような泥等の跳ねを抑制するために、当該車両には車輪の後方にマッドガードが配置されている。例えば、特許文献1に開示されているマッドガードは、車幅方向の寸法を、直進状態にある前輪のトレッド面に対向する対向領域よりも広く設定することで、前輪の傾斜時(車両旋回時)においても、前輪後方に泥等が跳ねることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような従来のマッドガードについては、前輪が直進状態で走行している間、前輪のトレッド面に対向する対向領域よりも車幅方向外側および内側に位置する部分によって車両下方を流れる空気が遮られ車両の空気抵抗が高くなってしまうという問題点があった。これに関して特許文献1のマッドガードは、車幅方向の形状が湾曲しているとともに車両上側部分が車幅方向全体に亘って前方に傾斜配置されているので、マッドガードの車両前面投影面積を減少させることができ空気抵抗を低減可能な形状になっている。しかしながら、このようなマッドガードの形状を採用した場合、直進位置にある車輪の後方におけるマッドガードの収容スペースが増加してしまう可能性があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、車輪後方におけるマッドガードの収容スペースの増加を抑制しつつ、車両の空気抵抗を低減することができるマッドガードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るマッドガードの一態様は、車両の車輪が旋回位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第1対向部と、前記車輪が直進位置にあるときに該車輪の後側部分と対向する第2対向部と、を備えているマッドガードにおいて、前記第1対向部は、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部を有し、前記第2対向部は、車両上下方向に対して、前記第1傾斜部の傾斜度合よりも小さな傾きで配置され、前記第1対向部および前記第2対向部は、前記車輪に対応するホイールハウスの下端よりも車両下方に位置するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るマッドガードによれば、前述した従来の形状のようにマッドガードの上側部分を車幅方向全体に亘って傾斜配置する必要がないので、直進位置にある車輪の後方におけるマッドガードの収容スペースの増加を抑制することができる。また、車両走行中、車輪の側面に沿って流れる空気はマッドガードの第1対向部に導かれ、さらに該第1対向部に設けられた第1傾斜部によって車両下方へ導かれるようになる。これにより、マッドガードの第1対向部に導かれる空気をマッドガードよりも車両後方に導き易くすることができ、車両の空気抵抗を低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマッドガードが適用される車両の外観を示す側面図である。
【
図2】上記実施形態における左前輪用マッドガードの構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図2のマッドガードを車両前方から見た正面図である。
【
図4】
図2のマッドガードを車両外側(左方)から見た側面図である。
【
図5】マッドガードが車体に固定された状態を示す正面図である。
【
図6】マッドガードが車体に固定された状態を示す側面図である。
【
図7】直進位置にある車輪とマッドガードの位置関係を示す正面図である。
【
図8】直進位置にある車輪とマッドガードの位置関係を示す下面図である。
【
図9】旋回位置にある車輪とマッドガードの位置関係を示す下面図である。
【
図10】車輪、マッドガードおよびホイールハウスを
図5のA-A線に沿って切断した断面図である。
【
図11】車輪、マッドガードおよびホイールハウスの位置関係を示す下面図である。
【
図12】上記実施形態のマッドガードにおける空気の流れを説明するための側面図である。
【
図13】上記実施形態のマッドガードにおける接続部の形状が空気の流れに与える影響を説明するための側面図である。
【
図14】上記実施形態のマッドガードにおいて直進位置にある車輪により跳ね上げられた泥等の移動を説明するための図である。
【
図15】上記実施形態における第1傾斜部の変形例を示す断面図である。
【
図16】上記実施形態における第2対向部の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~
図14は、本発明の一実施形態に係るマッドガードを示すものである。なお、図において、矢印F方向は車両前後方向で車両前方を示し、矢印O方向は車幅方向で車両外方(車両外側)を示し、矢印U方向は車両上下方向で車両上方を示している。また、実施形態の説明における「左右」は、車両室内から前方を見たときの左右に対応している。
【0010】
図1は、本実施形態のマッドガードが適用される車両の外観を示す側面図である。
図1において、マッドガード10は、例えば、オフロード走行が想定される車両1において、車両前側に位置する左右の車輪2の後方にそれぞれ設けられている。左前輪用および右前輪用の各マッドガード10は左右対称の形状を有している。以下では、左前輪用マッドガード10の構成例について具体的に説明し、左前輪用マッドガード10と同様な構成の右前輪用マッドガードについては説明を省略する。
【0011】
図2は、左前輪用マッドガード10の構成例を示す斜視図である。また、
図3は、
図2のマッドガード10を車両前方から見た正面図であり、
図4は、
図2のマッドガード10を車両外側(左方)から見た側面図である。さらに、
図5は、マッドガード10が車体に固定された状態を示す正面図であり、
図6は、マッドガード10が車体に固定された状態を示す側面図である。加えて、
図7は、直進位置にある車輪2とマッドガード10の位置関係を示す正面図であり、
図8は、直進位置にある車輪2とマッドガード10の位置関係を示す下面図であり、
図9は、旋回位置にある車輪2とマッドガード10の位置関係を示す下面図である。
【0012】
図2~
図9において、左前輪用マッドガード10は、例えば、車両1の車輪(左前輪)2が旋回位置にあるときに該車輪2の後側部分と対向する第1対向部11と、車輪2が直進位置にあるときに該車輪2の後側部分と対向する第2対向部12と、第1対向部11および第2対向部12の間を接続する接続部13と、を備えている。
【0013】
第1対向部11は、車輪(左前輪)2の左右両方向への旋回のうち、左方向への旋回、すなわち、車輪2の車両外側への旋回(以下では「外旋回」とする)に対応する側に配置されている。第1対向部11は、外旋回位置にある車輪2の車両後側に位置するトレッド部21および側面部22と対向している(
図7~
図9を参照)。車輪2のトレッド部21は、車輪2が地面と接触する部分である。また、車輪2の側面部22は、サイドウォール部22aだけでなくショルダー部22b(サイドウォール部22aとトレッド部21との繋ぎ目)を含むものとする。車輪2の外旋回位置は操舵角に応じて移動するため、第1対向部11は最大操舵角までの車輪2の移動範囲に亘ってトレッド部21および側面部22と対向している。第1対向部11における第2対向部12の側に位置する側部11aは、第2対向部12よりも車両後方に配置されている(
図3および
図4を参照)。第1対向部11の側部11aに隣接する部分には、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している第1傾斜部111が形成されている。
【0014】
第1傾斜部111は、車両上下方向に対して傾斜角度A1(
図4を参照)で直線的に傾斜している。第1傾斜部111は、第1対向部11の側部11aから車両内側に向かって延びている。第1傾斜部111の先端部分(側部11aとは車幅方向で反対側に位置する端部)には、第1縦面部112が連続して設けられている。第1傾斜部111と第1縦面部112の接続部分には、切欠き部113が形成されている。第1縦面部112は、車両上下方向に延びるとともに車幅方向および車両前方に向けて車両内側に回り込むように形成された曲面を有しており、該曲面によって外旋回時の車輪2の移動範囲をカバーしている。つまり、マッドガード10の第1対向部11は、車両上下方向に対して傾斜角度A1で傾斜した第1傾斜部111と、車両上下方向に略平行な第1縦面部112とを有し、第1傾斜部111および第1縦面部112が、外旋回位置にある車輪2の後側部分(トレッド部21および側面部22)と対向するように配置されている。
【0015】
上記のようにマッドガード10の第1対向部11に第1縦面部112が設けられていることにより、車両旋回時における車輪2後方から車幅方向内側への泥等の飛び跳ねを防止するができる。具体的には、車幅方向で接続部13と対面する位置に第1縦面部112が設けられているので、例えば
図5に示すように、第1縦面部112よりも車幅方向内側に車載部品5が配置されている場合でも、車両旋回時に車輪2によって跳ね上げられた泥等が車載部品5側に跳ねることを抑制できる。なお、車載部品5に代えて、第1縦面部112よりも車幅方向内側に泥等の飛び跳ねを避けたい部材や、車両の泥等の跳ねを避けたい部位(例えば吸気口)を配置してもよい。
【0016】
また、第1傾斜部111と第1縦面部112の間に切欠き部113が形成されていることにより、マッドガード10を弾性変形させ易くなるので、マッドガード10の取り付け作業を容易に行うことができる。さらに、切欠き部113が第1傾斜部111の車幅方向内側に位置しているので、車輪2によって跳ね上げられた泥等が切欠き部113を通過しても、その泥等が車両外側に流れることを抑制できる。加えて、切欠き部113を設けることでマッドガード10の車両前面投影面積を小さくすることが可能になるので、車両前進時の空気抵抗を小さくすることもできる。なお、本実施形態では、マッドガード10の第1対向部11に第1縦面部112を設けた一例を示したが、第1縦面部112を省略することも可能である。その場合、第1縦面部112が配置される位置に泥等の飛び跳ねが許容される部材や車載部品を配置することもできる。
【0017】
第2対向部12は、直進位置にある車輪2の車両後側に位置するトレッド部21および側面部22と対向する第2縦面部121と、第2縦面部121の上部から車両後方斜め上向きに延びている第2傾斜部122と、を有している。第2縦面部121は、車両上下方向に対して、第1対向部11の第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置されている。すなわち、第2縦面部121は、
図4に示すように、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜角度A1よりも小さな角度A2で配置されている。なお、第2縦面部121の車両上下方向に対する傾きは、上記角度A2が実質的に0°、つまり、第2縦面部121が車両上下方向に延びている場合を含むものとする。第2対向部12の下端部12aに対して、第1傾斜部111の下端部111aは、車両上側に位置している(
図3および
図4を参照)。第2傾斜部122は、第1対向部11の側部11aの側に傾斜しており、かつ、車両前方に向かうに従い車両下方に傾斜している。
【0018】
接続部13は、第1対向部11の側部11aから車両前方に延びて第2対向部12における第1対向部11の側に位置する側部12bと接続している。本実施形態における接続部13は、第1対向部11の第1傾斜部111と第2対向部12の第2縦面部121および第2傾斜部122との間に位置して各々の間を互いに接続している。つまり、マッドガード10は、第1対向部11、第2対向部12および接続部13が一体に形成されている。なお、ここではマッドガード10に接続部13を設けて第1対向部11および第2対向部12を一体形成する一例を示したが、第1対向部11および第2対向部12を別部材で構成して接続部13を省略することも可能である。その場合、接続部13に相当する壁面として、マッドガード10以外の部材(例えば、車体フレーム、車載部品など)の車幅方向外側面を利用してもよい。
【0019】
接続部13の下端13aの位置は、車両後方に向かうに従い徐々に高くなっている(
図4を参照)。また、接続部13は、車両後方に向かうに従い車幅方向内側に傾斜している(
図3、
図8および
図9を参照)。接続部13の車両前後方向に対する傾斜度合(角度B1)は、車輪2の最大外旋回時の車両前後方向に対する傾斜度合(角度B2)よりも小さい。接続部13は、直進位置にある車輪2の後側部分と対向している。具体的には
図7に示すように、接続部13は、前方視で、直進位置にある車輪2の側面部22と重なる位置に設けられている。
【0020】
上記マッドガード10における第1対向部11および第2対向部12の各上部には、車体側に固定するための複数の固定部14a~14fが設けられている。本実施形態では、第1対向部11における第1縦面部112の上部に2個の固定部14a,14b、および第1傾斜部111の上部に2個の固定部14c,14dが配置されている。また、第2対向部12における第2傾斜部122の上部に1個の固定部14e、および第2縦面部121の車両外側に位置する側部に1個の固定部14fが配置されている。マッドガード10の各固定部14a~14fは、
図5および
図6に示すように、車体フレーム3やホイールハウス4にボルト等(図示省略)でそれぞれ固定される。ホイールハウス4は、外旋回位置にある車輪2の上面を覆う第1上面部41と、直進位置にある車輪2の上面を覆う第2上面部42と、を有している。
【0021】
具体的に、第1縦面部112の上部に配置されている固定部14a,14bは、車体フレーム3の車幅方向外側に位置する側面3aにそれぞれ固定されている(
図5および
図6を参照)。また、第1傾斜部111の上部に配置されている固定部14c,14dは、ホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aの下方に位置する車体部分にそれぞれ固定されている(
図5を参照)。第2傾斜部122の上部に配置されている固定部14eは、ホイールハウス4の第2上面部42の後端面に固定されている(
図5を参照)。第2縦面部121の側部に配置されている固定部14fは、ホイールハウス4の第2上面部42の車両外側に位置する側面下部に固定されている(
図6を参照)。なお、マッドガード10が可撓性を有する場合には、車体側への取り付け作業は、マッドガード10を折り曲げながら行うことが可能である。
【0022】
ここで、マッドガード10とホイールハウス4との位置関係について説明する。
図10および
図11は、車輪(左前輪)2、マッドガード10、およびホイールハウス4の位置関係を示すものであり、
図10は、
図5のA-A線に沿って切断した断面図、
図11は、車両下方から見た下面図である。マッドガード10における第1傾斜部111の上端部111bは、下面視で、ホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aと重なる位置に設けられている。なお、ここではマッドガード10の第1傾斜部111の上端部111bとホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aとが重なるように配置される一例を示したが、マッドガード10の第1傾斜部111の上端部111bは、下面視で、ホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aよりも車両後方の位置に設けられるようにしてもよい。
【0023】
次に、本実施形態によるマッドガード10の作用について詳しく説明する。
上述したような構成のマッドガード10では、外旋回位置にある車輪2と対向する第1対向部11に第1傾斜部111が設けられているとともに、直進位置にある車輪2と対向する第2対向部12が、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置されていることにより、従来のマッドガードのように、マッドガードの上側部分を車幅方向全体に亘って傾斜配置する必要がないので、直進位置にある車輪2の後方におけるマッドガード10の収容スペースの増加を抑制することができる。また、本実施形態において、車両1が直進方向に走行している際、車輪2の内側に位置する側面部22に沿って流れる空気は、
図12の一点鎖線矢印F1に示すように、車輪2の回転方向に沿って車輪2の後方かつ上方に流れようとしてマッドガード10の第1対向部11に導かれることになる。この第1対向部11に導かれる空気の流れF1は、第1対向部11に設けられた第1傾斜部111によって車両下方へ導かれる。これにより、マッドガード10の第1対向部11に導かれる空気をマッドガード10よりも車両後方に導き易くすることができ、車両1の空気抵抗を低減させることが可能である。
【0024】
なお、「第2対向部12が、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置されている」とは、第2対向部12が第1傾斜部111よりも車両前方側に配置されるような傾きを含むものとする。このような傾きであれば、第2対向部12が車両上下方向に沿って延びる、つまり、走行路面の垂線に沿う方向に延びる場合も、「第2対向部12が、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置されている」ものと解される。また、第1傾斜部111および第2対向部12が円弧状に傾斜または湾曲している場合でも、第2対向部12の曲率半径が第1傾斜部111の曲率半径よりも小さければ「第2対向部12が、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置されている」ものと解される。
【0025】
また、本実施形態のマッドガード10では、第1傾斜部111の下端部111aが第2対向部12の下端部12aよりも車両上側に位置しているので、マッドガード10の車両前面投影面積が、第1傾斜部111の下端部111aと第2対向部12の下端部12aとの段差に相当する分だけ減少するようになり、車両1の空気抵抗をより低減させることができる。第1傾斜部111の下端部111aが第2対向部12の下端部12aより高い位置に設けられていても、第1傾斜部111全体としては車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜しているので、第1対向部11による泥等の跳ねの抑制機能としては、第1対向部11に第1傾斜部111が設けられていない場合(すなわち、第1対向部11全体が第1縦面部112で構成されている場合)と同等のレベルを維持することが可能である。また、第1傾斜部111の下端部111aが高い位置に設けられることで第1傾斜部111全体のサイズを小さくすることができるので、第1傾斜部111の配置スペースも減少させることが可能である。これにより、第1傾斜部111の後方に車載部品等を配置し易くなる。
【0026】
さらに、本実施形態のマッドガード10においては、第1対向部11の側部11aが第2対向部12よりも車両後方に配置されるとともに、第1対向部11の側部11aから車両前方に延びて第2対向部12と接続される接続部13が設けられている。これにより、マッドガード10全体が第1対向部11、第2対向部12および接続部13の3面に分かれた一体構造となるので面剛性を高めることができるとともに、接続部13により第1対向部11を補強して、第1対向部11の変形を抑制することが可能になる。また、接続部13が設けられていることにより、車両走行中に車輪2の内側に位置する側面部22に沿って流れる空気が、接続部13に沿いながら第1対向部11の第1傾斜部111にスムーズに導かれるようになるため、車両1の空気抵抗を効果的に低減させることができる。
【0027】
加えて、本実施形態のマッドガード10では、接続部13の下端13aの位置が車両後方に向かうに従い徐々に高くなっているので、車両走行中に車輪2の内側に位置する側面部22に沿って流れる空気が、広い面積を有する接続部13に沿いながら第1対向部11の第1傾斜部111によりスムーズに導かれるようになる。この作用について具体的に説明すると、マッドガード10の接続部13が、例えば
図13の二点鎖線で示すような下端13a’、すなわち、第2対向部12の下端部から車両上方に延びて途中で屈曲し車両後方に向けて略水平に延びるような下端13a’を有している場合、車輪2の内側に位置する側面部22に沿う空気の流れF1’は、本実施形態における接続部13の下端13aの場合(
図12に示した空気の流れF1を参照)と比べて、車両上方に導かれ易くなる。このような空気の流れF1’が、車両前方から第1対向部11にダイレクトに導かれる空気の流れF2と衝突すると乱流が発生する可能性があり、空気の流れF2を第1傾斜部111に沿って車両後方に導き難くなる。したがって、接続部13の下端13aの位置が車両後方に向かうに従い徐々に高くなるようにしておくことで、車両1の空気抵抗をより効果的に低減することができる。ただし、接続部13が
図13に例示したような下端13a’を有している場合であっても、前述したような接続部13を設けたことによる作用効果は十分に得られる。
【0028】
また、本実施形態のマッドガード10では、接続部13が車両後方に向かうに従い車幅方向内側に傾斜しているとともに、接続部13の車両前後方向に対する傾斜度合(角度B1)が車輪2の最大外旋回時の車両前後方向に対する傾斜度合(角度B2)よりも小さくされている(
図9を参照)。これにより、車輪2の外旋回時、車輪2の外側に位置する側面部22とマッドガード10の第2対向部12との間に形成される隙間を流れる空気(
図9中の一点鎖線矢印を参照)を第1対向部11の第1傾斜部111に導き易くなる。したがって、車輪2の外旋回時においてもマッドガード10に導かれた空気を車両後方へ容易に導くことができ、車両の空気抵抗を低減させることが可能である。
【0029】
さらに、本実施形態のマッドガード10では、接続部13が、直進位置にある車輪2の後側部分と対向している。前述したように車両1が直進方向に走行している際、車輪2の内側に位置する側面部22に沿って流れる空気は、車輪2の回転方向に沿って車輪2の後方かつ上方に流れようとする(
図12の一点鎖線矢印F1を参照)。この空気の流れF1は、車輪2の後側部分と対向している接続部13に沿って第1対向部11に導かれ、さらに第1傾斜部111に沿って車両下方へ導かれるようになる。特に、本実施形態においては、接続部13が、前方視で、直進位置にある車輪2の側面部22と重なる位置に設けられているので、車輪2の回転に合わせて側面部22に沿って巻き上がる空気を、接続部13に沿って第1傾斜部111に導き易くすることができる。
【0030】
加えて、本実施形態のマッドガード10においては、第1傾斜部111の上端部111bが、下面視で、ホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aと重なる位置に設けられているので、ホイールハウス4の第1上面部41に沿って流れる空気(
図10中の一点鎖線矢印を参照)をマッドガード10における第1対向部11の第1傾斜部111に導き易くなり、当該空気をマッドガード10よりも車両後方へ容易に導くことができる。このような作用効果は、第1傾斜部111の上端部111bが、下面視で、ホイールハウス4の第1上面部41の後端部41aよりも車両後方の位置に設けられている場合にも同様に得られる。
【0031】
また、本実施形態のマッドガード10では、第2対向部12が、第1対向部11の側部11aの側に傾斜している第2傾斜部122を有していることで、直進位置にある車輪2の後側部分と第2対向部12との間で泥や雪などが跳ねた場合でも、その泥や雪などが、例えば
図14の一点鎖線矢印M1に示すように、第2傾斜部122に沿って第1対向部11の側に移動し易くなる。これにより、車輪2の後側部分と第2対向部12との間に泥や雪などが堆積或いは固着し難くなる。
【0032】
さらに、本実施形態のマッドガード10においては、第2対向部12の第2傾斜部122が車両前方に向かうに従い車両下方に傾斜しているので、第2傾斜部122に泥や雪などが一時的に堆積したとしても、その泥や雪などを第2傾斜部122の車両前方側(
図14の一点鎖線矢印M2を参照)および第1対向部11側(
図14の一点鎖線矢印M1を参照)にそれぞれ逃がすことができるので、マッドガード10への泥や雪などの堆積或いは固着を効果的に防ぐことができる。しかも、本実施形態のマッドガード10においては、
図14に示すように、第1傾斜部111の車幅方向外側の上端と第2傾斜部122の前端とが車両幅方向で概ね重なる位置にあるので、第1対向部11側に逃した泥や雪などを第1傾斜部111に沿って車両後方側に逃がすることができ、マッドガード10への泥や雪などの堆積或いは固着を一層効果的に防ぐことができる。また、第1傾斜部111の上端位置を第2傾斜部122の上端位置よりも後方に配置する構成を採用して、泥や雪などを第2傾斜部122から第1対向部11側に逃がし易くすれば、マッドガード10への泥や雪などの堆積或いは固着をより一層効果的に防ぐことができる。上述した構成は、直進位置にある車輪2の後側部分と第2対向部12との間の隙間が狭くて第2対向部12の上方に堆積した泥や雪を当該隙間から下方へ逃がしにくい場合に特に好適である。
【0033】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、マッドガード10における第1対向部11の第1傾斜部111が直線状の傾斜形状を有する一例を示したが、本発明の第1傾斜部の形状は直線状に限定されるものではなく、例えば、円弧状の傾斜形状としてもよい。円弧状の第1傾斜部111とした場合の傾斜角度A1としては、円弧の上端および下端を結んだ直線の車両上下方向に対する傾斜角度を用いることが可能である。また、直線状の傾斜形状において、第1傾斜部の後端部分を車両下方に折り曲げた形状としても構わない。
【0034】
さらに、第1傾斜部111の傾斜形状に関する変形例として、
図15の断面図に示すように、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している複数の板状部材111cが車両上下方向に間隔を空けて配置されている鎧戸形状を有する第1傾斜部111’を適用することも可能である。第1傾斜部を鎧戸形状とすることにより、既述の実施形態と同様な作用効果を実現しつつ、第1傾斜部の車両後方への張り出しを減少させることができ、第1傾斜部の後方に車載部品等を一層配置し易くなる。
【0035】
加えて、第2対向部12に関する変形例として、
図16の正面図に示すように、第2対向部12におけるホイールハウス4の下端部よりも車両下方に延びる部分に、第3傾斜部123と接続領域124とをさらに設けることも可能である。具体的に、第3傾斜部123は、第2対向部12における第2縦面部121の車幅方向内側の下部に配置されており、車両下方に向かうに従い車両後方に傾斜している。接続領域124は、第3傾斜部123の車幅方向外側に設けられ、第2縦面部121と第3傾斜部123の間を接続している。このような第3傾斜部123および接続領域124を第2対向部12に設けることによって、車両前進時に第2対向部12に沿って流れる空気が、第3傾斜部123および接続部13を介して第1対向部11の第1傾斜部111側に導かれ易くなるので、第2対向部12の下部に流れる空気が車幅方向外側に流れ難くなって、泥等の跳ねをより効果的に抑制することができる。
【0036】
また、既述の実施形態では、マッドガード10とホイールハウス4とが別部材で構成される一例を示したが、マッドガード10とホイールハウス4を一体構造としてもよい。この際、マッドガード10の第1対向部11、第2対向部12および接続部13の少なくとも1つをホイールハウス4(具体的には、例えば、ホイールハウス4における車輪2の対向面に配置されるフェンダライニング等)と一体構造することが可能である。マッドガード10とホイールハウス4を一体構造とすることで、車体側へのマッドガード10の取り付けが容易になり、車両の製造コスト等を削減することが可能になる。
【0037】
さらに、既述の実施形態では、第2対向部12が、車両上下方向に対して、第1傾斜部111の傾斜度合よりも小さな傾きで配置される構成を示したが、本発明の応用として、例えば、第1傾斜部111の傾斜度合(A1)と第2対向部12の傾き(A2)とを略一致させつつ、第1傾斜部111の下端部111aを第2対向部12の下端部12aよりも車両上側に位置させたり、第1傾斜部111に前述の
図14に示した鎧戸形状を採用したりしてもよい。このような応用例においても、直進位置にある車輪2の後方におけるマッドガード10の収容スペースの増加を抑制しつつ、第1対向部11に導かれる空気をマッドガード10よりも車両後方に導き易くすることができ、車両1の空気抵抗を低減させることが可能である。なお、第1傾斜部111に鎧戸形状を採用する場合は、第1傾斜部111の下端部111aが第2対向部12の下端部12aと同じ高さに設定しても構わない。
【符号の説明】
【0038】
1…車両
2…車輪
3…車体フレーム
4…ホイールハウス
5…車載部品
10…マッドガード
11a…側部
11…第1対向部
111…第1傾斜部
111a…下端部
111b…上端部
111c…板状部材
112…第1縦面部
113…切欠き部
12…第2対向部
12a…下端部
121…第2縦面部
122…第2傾斜部
13…接続部
13a…下端
14a~14f…固定部
41…第1上面部
41a…後端部
42…第2上面部