(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】洗い場床
(51)【国際特許分類】
E03C 1/20 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
E03C1/20 E
(21)【出願番号】P 2023147092
(22)【出願日】2023-09-11
【審査請求日】2023-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】須澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】永田 優
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138367(JP,A)
【文献】特許第5371337(JP,B2)
【文献】特開2010-281032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12 - 1/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性および撥油性を有し、表面が凹凸状に形成された洗い場床であって、
前記表面は、
上部と、
前記上部から下方に向けて傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部の最低位置にある溝部と、
を備え、
前記上部からの高さが150mmの位置から1.0mLの水を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記水の広がり面の水平方向の最長の長さを第1の長さとし、
前記上部からの高さが50mmの位置から0.05mLのオレイン酸からなる油を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記油の広がり面の水平方向の最長の長さを第2の長さとした場合に、
前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、前記第1の長さ以下で前記第2の長さよりも大きいことを特徴とする洗い場床。
【請求項2】
前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、11mmよりも大きく、27mm以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の洗い場床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に洗い場床に関する。
【背景技術】
【0002】
湯水を排水口に向けて導く溝部が設けられた洗い場床が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗い場床においては、湯水を溝部に集めて排水口に流すことで、洗い場床に湯水が長期間残るのを抑制している。一方、皮脂などの汚れは、湯水と一緒に排水口まで流される必要がある。しかし、皮脂汚れが洗い場床に広がってしまうと、皮脂汚れを湯水と一緒に排水口に流しにくくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、使い勝手のよい洗い場床を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、親水性および撥油性を有し、表面が凹凸状に形成された洗い場床であって、前記表面は、上部と、前記上部から下方に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の最低位置にある溝部と、を備え、前記上部からの高さが150mmの位置から1.0mLの水を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記水の広がり面の水平方向の最長の長さを第1の長さとし、前記上部からの高さが50mmの位置から0.05mLのオレイン酸からなる油を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記油の広がり面の水平方向の最長の長さを第2の長さとした場合に、前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、前記第1の長さ以下で前記第2の長さよりも大きいことを特徴とする洗い場床である。
【0007】
この洗い場床によれば、水が凹凸パターンより広く広がり、オレイン酸からなる油(皮脂汚れ)が凹凸パターンより狭く留まる。これにより、広がった水が、油を効率的に溝部に運ぶことが可能となる洗い場床を提供することができる。人体の皮脂汚れにおいては、凹凸パターンより広く広がり、溝部に入り込んで付着してしまうと、皮脂汚れを洗い流す水が多く必要となり、洗い流す水の量が少ない場合には、皮脂汚れが溝部に残ってしまうおそれがある。そこで、洗い場床は、皮脂汚れが広く広がらずに、凹凸パターンよりも小さく留まり、水が広く広がって、凹凸パターンよりも大きく広がるようになっている。その結果、皮脂汚れを水と一緒に溝部から排水口まで運ぶことができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、11mmよりも大きく、27mm以下となっていることを特徴とする洗い場床である。
【0009】
この洗い場床によれば、皮脂汚れは、広く広がらずに、凹凸パターンよりも小さく留まり、水が広く広がって、凹凸パターンよりも大きく広がる。これにより、皮脂汚れを水と一緒に溝部から排水口まで運ぶことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、使い勝手のよい洗い場床を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る洗い場床を備えた浴室ユニットを示す斜視図である。
【
図3】
図2中の洗い場床を矢示A-A方向からみた断面図である。
【
図4】洗い場床の上部に滴下した水の広がり状態を示す平面図である。
【
図5】
図4中の洗い場床を矢示B-B方向からみた断面図である。
【
図6】洗い場床に滴下された水の広がり長さのデータを示す表である。
【
図7】洗い場床の上部に滴下した油の広がり状態を示す平面図である。
【
図8】
図7中の洗い場床を矢示C-C方向からみた断面図である。
【
図9】洗い場床に滴下された油の広がり長さのデータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、実施形態に係る洗い場床を備えた浴室ユニットを示す斜視図である。
図1に示すように、浴室ユニット1は、洗い場床10と、浴槽90と、壁パネル96a~96fと、を備える。
【0013】
浴槽90の横の空間において、洗い場床10が設置されている。洗い場床10の表面20は、浴室外部に水を漏出させない防水性を有する。また、洗い場床10の表面20は、親水性および撥油性を有する。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加温されたお湯も含むものとする。
【0014】
洗い場床10の裏側(下方側)において、浴槽90との境界部近傍には排水配管92が設けられている。洗い場床10において、例えば浴槽90との境界部近傍には、排水配管92に連通する排水口10hが形成されている。排水口10hが設けられた部分は、下方に窪んでおり、洗い場床10の表面20には、排水口10hに向けて下向き傾斜した排水勾配が付けられている。また、浴槽90の底部に設けられた図示しない排水口も、排水配管92に接続されている。排水勾配の水平に対する傾斜角度は、例えば1.1度である。
【0015】
浴槽90と洗い場床10との境界には、浴槽90における洗い場床10側の側面を覆い隠すバスエプロン94が設けられている。なお、浴槽90の構造によっては、バスエプロン94を設けなくてよいものもある。
【0016】
図1において二点鎖線で表すように、浴槽90のリムの上には壁パネル96a~96cが設置されている。また、洗い場床10の周縁部の上には、壁パネル96d~96fが設置されている。また、壁パネル96fには、図示しないドア取付枠を介してドアが取り付けられる。
【0017】
図2は、洗い場床を上方からみた平面図である。
図3は、
図2中の洗い場床を矢示A-A方向からみた断面図である。
洗い場床10の表面20は、凹凸状に形成されている。
図2に矢印で示すように、洗い場床10の表面20は、排水口10hに向けて排水勾配が形成されている。これにより、洗い場床10の表面20に付着した水は、排水口10hに流れるようになっている。
【0018】
洗い場床10の表面20は、表面処理加工を施すことにより、親水性および撥油性を有している。洗い場床10の表面20は、例えば親水基を有することにより、水が表面20になじむようになっている。すなわち、洗い場床10の表面20上の水は、膜状に広がりやすくなっている。また、洗い場床10の表面20は、例えば撥油基を有することにより、油(皮脂汚れ)をはじきやすくなっている。なお、洗い場床10は、表面20の凹凸形状や排水勾配により、親水性および撥油性を有していてもよい。
【0019】
洗い場床10の表面20は、撥油性により皮脂汚れが固着しにくいようになっている。そして、皮脂汚れは、膜状に広がる水が表面20と皮脂汚れとの間に入り込むことにより、水と一緒に排水口10hに向けて流される。これにより、洗い場床10の表面20は、皮脂汚れがつきにくくなっている。
【0020】
洗い場床10の表面20は、上部21と、上部21から下方に向けて傾斜する傾斜部23と、傾斜部23の最低位置にある溝部25と、を有している。表面20は、複数の上部21、傾斜部23、および溝部25が連続することにより、凹凸状に形成されている。
【0021】
上部21は、傾斜部23の最高位置となっている。すなわち、上部21は、洗い場床10を水平にした状態で、隣り合う溝部25の間の最も高い位置となっている。この例では、上部21は、隣り合う溝部の間の中間地点となっている。傾斜部23は、上部21から溝部25に向けて上方に向けて凸状に滑らかに湾曲する湾曲面となっている。表面20は、このような傾斜部23により、スポンジなどの清掃用具を溝部25に入り込みやすくしている。
【0022】
表面20は、例えば複数の溝部25により格子状に形成されている。溝部25は、例えば浴槽90と平行方向(左右方向)および直交方向(前後方向)に延びている。上部21および傾斜部23上の水は、傾斜部23の傾斜により溝部25に流れる。そして、溝部25に流れた水は、排水勾配により排水口10hに導かれる。上部21を挟んで隣り合う溝部25の間隔Lは、例えば前後方向および左右方向で同じ値となっている。
【0023】
ここで、例えば皮脂汚れが溝部25に固着した場合には、皮脂汚れを水と一緒に排水口10hに流しにくくなるがおそれがある。従って、皮脂汚れは、水と一緒に溝部25に流れるのが好ましい。そこで、洗い場床10の表面20は、皮脂汚れのみが溝部25に残留するのを低減させるような隣り合う溝部25の間隔が設定されている。
【0024】
図4は、洗い場床の上部に滴下した水の広がり状態を示す平面図である。
図5は、
図4中の洗い場床を矢示B-B方向からみた断面図である。
図6は、洗い場床に滴下された水の広がり長さのデータを示す表である。
図7は、洗い場床の上部に滴下した油の広がり状態を示す平面図である。
図8は、
図7中の洗い場床を矢示C-C方向からみた断面図である。
図9は、洗い場床に滴下された油の広がり長さのデータを示す表である。
【0025】
皮脂汚れは、シャワーなどの水が利用者の頭や身体にあたることで水とともに流れ落ちる。この場合、皮脂汚れは、水とともに利用者の頭や身体を伝って、比較的低い位置(例えば、足首など)から洗い場床10の表面20に落ちる場合が多い。また、皮脂汚れの量は、水の量よりも少ない。一方、シャワーなどの水は、利用者の頭や身体に沿って流れるだけでなく、膝下や洗い場の椅子などの高さから表面20に落下することが多い。また、水の量は、皮脂汚れの量よりも多量となる。
【0026】
このような実使用環境を想定して、溝部25の間隔は設定されている。水Wの場合は、表面20の上部21からの高さ150mmから1.0mLの水Wを表面20に滴下させた場合の広がりを測定している。また、皮脂汚れは、皮脂汚れを想定したオレイン酸からなる油Oを用いる。油Oの場合は、表面20の上部21からの高さ50mmから0.05mLの油Oを表面20に滴下させた場合の広がりを測定している。すなわち、皮脂汚れ(油O)は、実使用環境を想定して、水Wを滴下する条件よりも滴下高さを低く、滴下量を減らしている。なお、この測定は、常温(20℃~25℃)下で、洗い場床10を水平にした状態で行っている。
【0027】
まず、洗い場床10の表面20における水Wの広がりについて、
図4~6を参照して説明する。
【0028】
図4、
図5に示すように、滴下装置50は、表面20の上部21から高さHの位置から水Wを滴下する。高さHは、150mmとなっている。滴下装置50は、例えば0.1mLの水滴を10秒間滴下する。これにより、滴下装置50は、合計1.0mLの水Wを上部21に付着させる。滴下装置50から滴下された水Wは、上部21に付着した後に、水滴同士が結合するとともに、表面20の親水性および傾斜部23の傾斜により広がる。表面20に広がる水Wは、水Wの滴下が終了してから10数秒位で安定する。
【0029】
表面20で広がった水Wの広がり面の水平方向の最長の長さを第1の長さWmとする。この場合、上部21を挟んで隣り合う溝部25の間隔Lは、第1の長さWm以下となっている(L≦Wm)。すなわち、洗い場床10の表面20は、上部21から150mmの高さ位置から1.0mLの水を滴下させたときに、水Wが溝部25に到達するような親水性および傾斜部23を有している。
【0030】
図6には、1.0mLの水Wを上部21に向けて5回滴下した場合のデータが示されている。このデータに示されるように、第1の長さWmは、27mm以上35mm以下(5回平均:30.4mm)となっている。
【0031】
次に、洗い場床10の表面20における油Oの広がりについて、
図7~9を参照して説明する。
【0032】
図7、
図8に示すように、滴下装置50は、表面20の上部21から高さHの位置から油Oを滴下する。高さHは、50mmとなっている。滴下装置50は、例えば0.05mLの油Oを滴下する。滴下装置50から滴下された油Oは、上部21に付着した後に、表面20の撥油性および傾斜部23の傾斜により広がる。表面20に広がる油Oは、油Oの滴下が終了してから10数秒位で安定する。
【0033】
表面20で広がった油Oの広がり面の水平方向の最長の長さを第2の長さOmとする。この場合、上部21を挟んで隣り合う溝部25の間隔Lは、第2の長さOmよりも大きい(L>Om)。すなわち、洗い場床10の表面20は、上部21から50mmの高さ位置から0.05mLの油Oを滴下させたときに、油Oが溝部25に到達しないような撥油性および傾斜部23を有している。
【0034】
図9には、0.05mLの油Oを上部21に向けて5回滴下した場合のデータが示されている。このデータに示されるように、第2の長さOmは、10mm以上11mm以下(5回平均:10.2mm)となっている。
【0035】
上部21を挟んで隣り合う溝部25の間隔Lは、第1の長さWm以下で、第2の長さOmよりも大きくなっている。具体的には、上部21を挟んで隣り合う溝部25の間隔Lは、11mmよりも大きく、27mm以下となっている。
【0036】
これにより、洗い場床10は、傾斜部23上で皮脂汚れを水に混ぜ、その後水と皮脂汚れとを一緒に溝部25へと流すことができる。すなわち、洗い場床10の表面20は、皮脂汚れの多くを傾斜部23上で水に混ぜ、親水性による水の広がりに皮脂汚れを載せて溝部25から排水口10hに流すことができる。従って、洗い場床10は、溝部25に皮脂汚れが残留するのを低減できる。
【0037】
実施形態では、傾斜部23が上方に凸状の湾曲面となっている場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明の態様はこれに限らず、例えば傾斜部は、上部21から溝部25に向けて直線状に傾斜していてもよい。また、上部は、平坦面となっていてもよい。
【0038】
実施形態は、以下の構成を含んでもよい。
(構成1)
親水性および撥油性を有し、表面が凹凸状に形成された洗い場床であって、
前記表面は、
上部と、
前記上部から下方に向けて傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部の最低位置にある溝部と、
を備え、
前記上部からの高さが150mmの位置から1.0mLの水を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記水の広がり面の水平方向の最長の長さを第1の長さとし、
前記上部からの高さが50mmの位置から0.05mLのオレイン酸からなる油を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記油の広がり面の水平方向の最長の長さを第2の長さとした場合に、
前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、前記第1の長さ以下で前記第2の長さよりも大きいことを特徴とする洗い場床。
(構成2)
前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、11mmよりも大きく、27mm以下となっていることを特徴とする構成1に記載の洗い場床。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、洗い場床などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0040】
1 浴室ユニット
10 洗い場床
10h 排水口
20 表面
21 上部
23 傾斜部
25 溝部
50 滴下装置
90 浴槽
92 排水配管
94 バスエプロン
96a~96f 壁パネル
O 油
W 水
【要約】
【課題】使い勝手のよい洗い場床を提供する。
【解決手段】親水性および撥油性を有し、表面が凹凸状に形成された洗い場床であって、前記表面は、上部と、前記上部から下方に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の最低位置にある溝部と、を備え、前記上部からの高さが150mmの位置から1.0mLの水を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記水の広がり面の水平方向の最長の長さを第1の長さとし、前記上部からの高さが50mmの位置から0.05mLのオレイン酸からなる油を前記上部に滴下させた場合に、前記表面で広がった前記油の広がり面の水平方向の最長の長さを第2の長さとした場合に、前記上部を挟んで隣り合う溝部の間隔は、前記第1の長さ以下で前記第2の長さよりも大きいことを特徴とする洗い場床。
【選択図】
図4