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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】スペースデブリ除去装置
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/62 20060101AFI20240208BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20240208BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20240208BHJP
   B64G 1/64 20060101ALI20240208BHJP
   B64G 1/56 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
B64G1/62
B64G1/24 Z
B64G1/40 900
B64G1/64 600
B64G1/56
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020020658
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126908
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年度修士論文審査会(中京大学 工学研究科 電気電子工学専攻)において平成31年2月12日に発表した。
(73)【特許権者】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】村中 崇信
(72)【発明者】
【氏名】上野 一磨
(72)【発明者】
【氏名】奥村 哲平
(72)【発明者】
【氏名】大川 恭志
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-285137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0024005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、前記第1の面および前記第2の面を異なる電位に帯電可能な構造を有する膜部材と、
前記膜部材と電気的に接続され、前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように前記膜部材を帯電させる帯電装置と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備え
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される導電性材料からなる第3導体と、
前記第1導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体と、
前記第2導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体と
を備える、スペースデブリ除去装置。
【請求項2】
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、給電を受けて前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように帯電される膜部材と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備え
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される導電性材料からなる第3導体と、
前記第1導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体と、
前記第2導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体と
を備える、スペースデブリ除去装置。
【請求項3】
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、前記第1の面および前記第2の面を異なる電位に帯電可能な構造を有する膜部材と、
前記膜部材と電気的に接続され、前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように前記膜部材を帯電させる帯電装置と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備え、
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体と
を備える、スペースデブリ除去装置。
【請求項4】
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、給電を受けて前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように帯電される膜部材と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備え、
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体と
を備える、スペースデブリ除去装置。
【請求項5】
前記膜部材および前記取付装置と機械的に接続され、推進機能を有する衛星本体をさらに備え、
前記取付装置は、所定の長さを有し、前記スペースデブリを捕獲するための捕獲機構を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のスペースデブリ除去装置。
【請求項6】
前記所定の電位差は、10V~1000Vである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のスペースデブリ除去装置。
【請求項7】
前記第1の面の電位は、-10V以下に設定されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のスペースデブリ除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペースデブリ除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星打ち上げ時の使用済みロケットなどの宇宙ゴミ(スペースデブリ)は増加の一途をたどっており、現在軌道上に存在しているスペースデブリは1mm以上のもので1億を超えると予想されている。このようなスペースデブリ同士が衝突すれば新たに数百、数千のより小さなスペースデブリが発生し、指数関数的にスペースデブリが自己増殖する。そのため、スペースデブリを除去するための早急な対策が求められている。
【0003】
特許文献1には、スペースデブリ除去装置が開示されている。このスペースデブリ除去装置は、円形又は多角形からなる膜部材あるいはガス圧封入可能なバルーンないしはエアーマット状の構造物からなる抗力増大装置を有する。このスペースデブリ除去装置は、スペースデブリに取り付けられ、抗力増大装置により微量の大気および太陽光輻射圧を受けて、スペースデブリの軌道を変更する。このようにしてスペースデブリを保護すべき重要な衛星軌道から離脱させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-285137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、軌道高度が高くなるにつれて大気密度が著しく低下するため、特許文献1のスペースデブリ除去装置では軌道高度が高くなるにつれて大気から得られる抗力が低下する。大気密度は、例えば高度400km~600kmに比べて高度1000km付近で1/50~1/100程度まで低下することが確認されている。従って、特許文献1のスペースデブリ除去装置では、そのような大気密度が十分でない軌道高度の領域では、十分な実行能力が得られないおそれがある。
【0006】
上記のような大気密度が十分でない軌道高度の領域では、電気的に中性な気体と、その一部が太陽紫外線によって電離した電離気体(イオンおよび電子)から構成される。従って、大気密度の変化を詳細に確認すると、中性大気の密度は上記の通り高度が高くになるにつれて著しく低下するが、イオン密度の減少はこれよりも少ないものとなっている。換言すれば、大気密度が十分でない軌道高度の領域では、中性大気からの抗力を受けるよりもイオンによる抗力を受けることが有効である可能性がある。そのためには、例えば、特許文献1の膜部材を帯電させて膜面周辺にシース(電位勾配を有する電気的に中性でない空間電荷層)を形成し、収集されたイオンがシース内で静電加速された結果、イオンからの抗力を増大させることができると考えられる。
【0007】
しかし、特許文献1の膜部材を帯電させる方法においても、膜部材に対する印加電圧の絶対値が増大すると、抗力を増大させることができないおそれがある。具体的には、膜部材に対する印加電圧の絶対値が増大すると、膜部材の周囲にシース(電位勾配を有する電気的に中性でない空間電荷層)が等方的に形成され、膜面の軌道運動速度相当で流れるイオンの流れ場において、上流側および下流側に向く膜部材の両面でイオン収集が発生し得る。即ち、イオンが膜部材の下流側面へと回り込むおそれがある。その結果、イオンと膜面との運動量交換が上流側面と下流側面で相殺してしまい、膜面の進行方向にイオンから十分な抗力を得られず、抗力を増大させることが現実的に困難となるおそれがある。
【0008】
本発明は、帯電型の膜部材を有するスペースデブリ除去装置において、抗力を増大させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、前記第1の面および前記第2の面を異なる電位に帯電可能な構造を有する膜部材と、
前記膜部材と電気的に接続され、前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように前記膜部材を帯電させる帯電装置と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備える、スペースデブリ除去装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、膜部材の第1の面と第2の面に対して電位差を設けているため、シースが膜部材の周囲に等方的に形成されることを抑制できる。このとき、スペースデブリと対向する第1の面はイオン流の上流側の面(受圧側の面)となり、第2の面はイオン流の下流側の面となっている。従って、イオン流の上流側の第1の面におけるシースが拡大し、第1の面において正イオン(以下、単にイオンともいう。)を効率的に収集できるとともに、第2の面におけるシースが縮小し、イオンの第2の面への回り込みが抑制される。これにより、イオンの膜部材に対する運動量交換がイオン流の上流側(第1の面側)と下流側(第2の面側)で相殺することを抑制でき、イオンから十分な抗力を得ることができる。また、上記構成では、スペースデブリ除去装置に帯電装置が搭載されているため、外部から給電される必要なくスペースデブリ除去装置単体で上記のような抗力増大機能を達成できる。ここで、帯電装置は、例えば、単に電源であってもよいし、イオン源であってもよい。
【0011】
本発明の第2の態様は、
地球を周回するスペースデブリに取り付けられ、前記スペースデブリの周回速度を低下させることにより前記スペースデブリの軌道を変更するスペースデブリ除去装置であって、
前記スペースデブリと対向する第1の面および前記第1の面と反対面の第2の面を有し、給電を受けて前記第1の面が前記第2の面よりも所定の電位差だけ低くなる負電位になるように帯電される膜部材と、
前記膜部材を前記スペースデブリに取り付ける取付装置と
を備える、スペースデブリ除去装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、膜部材の第1の面と第2の面に対して電位差を設けているため、シースが膜部材の周囲に等方的に形成されることを抑制できる。このとき、スペースデブリと対向する第1の面はイオン流の上流側の面(受圧側の面)となり、第2の面はイオン流の下流側の面となっている。従って、イオン流の上流側の第1の面におけるシースが拡大し、第1の面において正イオン(以下、単にイオンともいう。)を効率的に収集できるとともに、第2の面におけるシースが縮小し、イオンの第2の面への回り込みが抑制される。これにより、イオンの膜部材に対する運動量交換がイオン流の上流側(第1の面側)と下流側(第2の面側)で相殺することを抑制でき、イオンから十分な抗力を得ることができる。また、上記構成では、スペースデブリ除去装置に帯電装置が搭載されていないため、上記第1の態様と比べて部品点数を削減できる。
【0013】
前記膜部材および前記取付装置と機械的に接続され、推進機能を有する衛星本体をさらに備え、
前記取付装置は、所定の長さを有し、前記スペースデブリを捕獲するための捕獲機構を含んでもよい。
【0014】
この構成によれば、既に宇宙空間に存在するスペースデブリを積極的に除去できる。スペースデブリの除去には2種類の手法があるとされる。第1の手法が運用を終了した衛星やロケットの軌道からの自力離脱であるPMD(Post Mission Disposal)である。第2の手法が既に地球周回軌道上に存在するスペースデブリを取り除くADR(Active Debris Removal)である。前者のPMDは、衛星やロケットの打ち上げ前に上記スペースデブリ除去装置を予め搭載しておく必要があり、それらの運用の終了とともに上記スペースデブリ除去装置を展開する。しかし、後者のADRは、衛星やロケットの打ち上げ前に上記スペースデブリ除去装置を予め搭載しておく必要がなく、それらの運用の終了とともにスペースデブリとなった衛星やロケットの残骸を積極的に捕獲して除去することができる。ここで、上記の所定の長さとは、十分なイオン収集能力を発揮できる程度の長さであり、スペースデブリの大きさに応じて異なる。大型のスペースデブリ後方では、スペースデブリに近いほどスペースデブリの軌道速度に対して熱速度が相対的に遅いイオンの割合が低下する空間(イオンウェイク)が生じる。このイオンウェイクの領域に膜部材が位置すると、膜部材のイオン収集能力が低下する。従って、イオンウェイクの領域に膜部材が位置することを回避するために、膜部材をスペースデブリから一定以上離す必要がある。よって、取付装置には所定の長さが必要となる。例えば、ロケット上段部は直径約2m~4m程度、高度700-1000kmの軌道速度が約7.5km/s、イオンのうち大きな運動量を持つ酸素イオンの熱速度が約1.1km/s程度であるため、上記所定の長さとしては最低でも10~20m、好ましくは30m程度が想定される。
【0015】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される導電性材料からなる第3導体と、
前記第1導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体と、
前記第2導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体と
を備えてもよい。
【0016】
この構成によれば、膜部材が5層構造によって構成され、具体的に第1の面および第2の面に対して所定の電位差を設けることができる。特に中央に第3導体が配置されることで、第1導体および第2導体に対して第3導体からの電位差をそれぞれ正確に与えることができる。
【0017】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体と
を備えてもよい。
【0018】
この構成によれば、膜部材が3層構造によって構成され、具体的に第1の面および第2の面に対して所定の電位差を設けることができる。一般に、膜部材は宇宙空間で展開されるまでは折り畳まれた状態で収納されることが想定される。従って、膜部材が多層になるほど部材や電気的な結線や配線が増え、収納が困難となり、結線や配線の不具合などを防止するための取り扱いが困難となるおそれがある。そのため、膜部材を3層に構成することで、構造を単純化し、取り扱いを容易にすることができる。
【0019】
前記所定の電位差は、10V~1000Vであってもよい。ただし、前記第1の面の電位は-10V以下に(負側に大きく)設定されることが望ましい。
【0020】
この構成によれば、シースが膜部材の周囲に等方的に形成されることを抑制できるとともに、第1の面においてイオンを効率的に収集できるシースを形成できる。また、シース内でイオンを十分静電加速し増速することができる。換言すれば、10V未満の電位差では第1の面においてイオンを効率的に収集できる大きさのシースを形成できず、また、第1の面の電位が-10Vより大きく(負側に小さく)設定された場合は、シース内でイオンは静電加速するが増速は十分とは言えない。1000V以上の電位差では膜面に流入する電子もしくはイオン電流による電力消費が大となり、本システムが消費電力の観点から非効率となるおそれがある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、帯電型の膜部材を有するスペースデブリ除去装置において、膜部材を複数電位に帯電させるため、抗力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係るスペースデブリ除去装置の概略構成図。
図2】第1実施形態における膜部材の一部の断面図。
図3】第1実施形態とは異なる単電位型の膜部材周囲のシースを示す模式図。
図4】第1実施形態における複数電位型の膜部材周囲のシースを示す模式図。
図5図2の変形例における膜部材の一部の断面図。
図6図5の変形例における膜部材の一部の断面図。
図7図1の膜部材の変形例を示すスペースデブリ除去装置の概略構成図。
図8図7の帯電装置の変形例を示す膜部材の正面図。
図9】第2実施形態に係るスペースデブリ除去装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るスペースデブリ除去装置1の概略構成図である。本実施形態のスペースデブリ除去装置1は、地球を周回するスペースデブリ2に取り付けられ、スペースデブリ2の周回速度を低下させることによりスペースデブリ2の軌道を変更する。これにより、スペースデブリ2を地上へと落下させるなどして人工衛星等に使用される重要な軌道を保護する。
【0025】
図1では、スペースデブリ2の進行方向が矢印A1で示されている。スペースデブリ除去装置1から見れば、矢印A1とは反対方向にイオン流が相対的に流れている。また、破線円で示されるスペースデブリ除去装置1の一部が拡大して示されている。
【0026】
本実施形態のスペースデブリ除去装置1は、衛星本体10と、膜部材20と、帯電装置30と、取付装置40とを備える。
【0027】
衛星本体10は、膜部材20および取付装置40と機械的に接続され、推進機能を有している。詳細を図示しないが、推進機能は、イオンエンジンなどの公知の機構によって達成され得る。
【0028】
膜部材20は、スペースデブリ2に向かって凸形状を有する概ね半球殻状ないし傘状である。膜部材20は、後述するようにイオン流から抗力を受けてスペースデブリ2の周回速度を低下させる。
【0029】
図2は、膜部材20の一部の断面図である。膜部材20は、以下のように複数電位に帯電可能な構造を有している。膜部材20は、スペースデブリ2と対向する第1の面21aおよび第1の面21aと反対面の第2の面22aを有している。第1の面21aおよび第2の面22aは、互いに異なる電位に帯電可能な構造となっている。具体的には、膜部材20は、第1の面21aを構成する導電性材料からなる第1導体21と、第2の面22aを構成する導電性材料からなる第2導体22と、第1導体21と第2導体22との間に配置される導電性材料からなる第3導体23とを備える。また、膜部材20は、第1導体21と第3導体23との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体24と、第2導体22と第3導体23との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体25とを備える。本実施形態では、第1不導体24および第2不導体25は、ともにポリイミドからなる。
【0030】
帯電装置30は、電源31を含む。電源31は、膜部材20と電気的に接続されている。詳細には、電源31の負極が第1導体21に電気的に接続され、電源31の正極が第2導体22に電気的に接続されている。第3導体23は接地部10に接続されているが、これは第3導体23が衛星本体10に電気的に接続されていることを示す。従って、ここでは、接地部10と衛星本体10とを同じ参照符号で示している。宇宙空間では、衛星本体10の電位は必ずしもゼロではなく、衛星本体10の周囲環境によって衛星本体10の電位は変動する。従って、接地部10の電位は、衛星本体10が存在する位置におけるいわゆる宇宙機電位を示す。本実施形態では、帯電装置30によって、第1の面21aが第2の面22aよりも所定の電位差だけ低くなる負電位に帯電される。ここでの宇宙機電位は、宇宙空間における宇宙機(衛星本体10)の基準電位と考える。
【0031】
代替的には、電源31は、イオン源に置換されてもよい。イオン源は、宇宙空間に正および/または負のイオンを放出することにより、自身の基準電位をはじめの状態から放出イオンの電荷と逆電位に変動させることができる。この原理により、イオン源の基準電位に接続された膜部材20を前述のように複数電位に帯電させることができる。この場合、電源31と置換されたイオン源の少なくともひとつは接地部10と電気的に浮動である必要がある。ここでは、上記のようなイオン源による膜部材20への帯電態様も電気的な接続に含む。また、イオン源を使用する場合、イオンを放出する反作用力を、スペースデブリ2に接近するための推進力またはスペースデブリ2を減速させるための抗力として活用することもできる。
【0032】
第1導体21(第1の面21a)と第2導体22(第2の面22a)との間の上記所定の電位差は、好ましくは、10V~1000Vと設定され、より好ましくは、100V~1000Vと設定される。また、好ましくは、第1導体21(第1の面21a)の電位は-10V以下と(負側に大きく)設定され、より好ましくは-100V以下と(負側に大きく)設定される。なお、ここでの-10V以下または-100V以下の電位は、上記宇宙機電位を基準とする電位である。当該電位差および電位によれば、シースが膜部材20の周囲に等方的に形成されることを抑制できるとともに、第1の面21aにおいてイオンを効率的に収集できるシースを形成できる。また、シース内でイオンを十分静電加速し増速することができる。換言すれば、10V未満の電位差では第1の面21aにおいてイオンを効率的に収集できる大きさのシースを形成できず、また、第1の面の電位が-10Vより大きく(負側に小さく)設定された場合は、シース内でイオンは静電加速するが増速は十分とは言えない。1000V以上の電位差では膜面に流入する電子もしくはイオン電流による電力消費が大となり、本システムが消費電力の観点から非効率となるおそれがある。
【0033】
図1を参照して、取付装置40は、所定の長さを有し、スペースデブリ2を捕獲するための捕獲機構41を有する。
【0034】
捕獲機構41は、スペースデブリ2に打ち込まれる銛41aと、スペースデブリ2に打ち込むために銛41aを射出する射出装置41bと、銛41aおよび射出装置41bを繋ぐテザー41cとを含む。このような捕獲機構41は、ADR(Active Debris Removal)に特有である。
【0035】
上記構成を有するスペースデブリ除去装置1は、衛星本体10の推進機能によってスペースデブリ2に接近し、射出装置41bからテザー41cの付いた銛41aを射出し、スペースデブリ2に銛41aを打ち込んで捕獲する。次いで、膜部材20を展開し、スペースデブリ2の周回速度を低下させることによりスペースデブリ2の軌道を変更する。従って、本実施形態のスペースデブリ除去装置1は、ADR対応のものといえる。
【0036】
大型のスペースデブリ2の後方では、スペースデブリ2に近いほどスペースデブリの軌道速度に対し熱速度が相対的に遅いイオンの割合が低下する空間(イオンウェイク)が生じる。このイオンウェイクの領域に膜部材20が位置すると、膜部材20のイオン収集能力が低下するおそれがある。従って、イオンウェイクの領域に膜部材20が位置することを回避するためにテザー41cには所定の長さが必要となる。例えば、スペースデブリ2として、運用を終了したロケットの上段部が想定される。その場合、ロケット上段部は直径約2m~4m程度、高度700-1000kmの軌道速度が約7.5km/s、イオンのうち大きな運動量を持つ酸素イオンの熱速度が約1.1km/s程度であるため、上記所定の長さとしては最低でも10~20m、好ましくは30m程度が想定される。
【0037】
本実施形態では、捕獲機構41が銛41aを含む例を示しているが、捕獲機構41の捕獲態様は銛41aを使用するものに限定されない。代替的には、ロボットアームなどのその他の態様の捕獲器具を使用してもよい。
【0038】
図3,4を比較参照して、単電位型の膜部材200と、複数電位型の膜部材20との差を説明する。なお、説明を簡単にするため、膜部材20の形状は平板状としている。
【0039】
図3は、本実施形態とは異なる単電位型の膜部材200を使用した場合のシースSmの形状を示している。図4は、本実施形態と同じ複数電位型の膜部材20を使用した場合のシースSmの形状を示している。図3,4のシースSmは、イオンを収集する領域を示している。
【0040】
まず、図3を参照して、単電位型の膜部材200では、シースSmが膜部材200の周囲に等方的(概ね球体状)に形成されている。このような等方的なシースSmでは、スペースデブリ2と対向する第1の面210だけでなく、第1の面210と反対面の第2の面220においてもイオンが収集される。結果として、イオン流A2の回り込みが発生し、イオンの運動量交換がイオン流A2の上流側(第1の面21a側)と下流側(第2の面22a側)で相殺し、イオンから十分な抗力を得ることができないおそれがある。
【0041】
次に、図4を参照して、複数電位型の膜部材20では、第1の面21a側にのみイオン収集に実効的に寄与するシースSm(この場合はイオンシース)が形成されている。換言すれば、第2の面22aにおけるシースは、第2の面22aの電位が空間電位と同等となる場合は、図3の状態から大きく縮小してイオン収集に実効的に寄与しない。そのため、イオンの運動量交換がイオン流A2の上流側(第1の面21a側)と下流側(第2の面22a側)で相殺することを抑制でき、第1の面21aにおいてのみイオンを収集し、第1の面21aにおいてのみ抗力を受けることができる。なお、図4では、破線にて第2の面22aの正の電位に基づく領域Sp(この場合は電子シース)も示されている。当該領域Spでは、イオンの収集が抑制され、即ちイオン流A2の回り込みが抑制される。
【0042】
本実施形態のスペースデブリ除去装置1によれば、膜部材20の第1の面21aと第2の面22aに対して電位差を設けているため、シースが膜部材20の周囲に等方的に形成されることを抑制できる。このとき、スペースデブリ2と対向する第1の面21aはイオン流の上流側の面(受圧側の面)となり、第2の面22aはイオン流の下流側の面となっている。従って、イオン流の上流側の第1の面21aにおけるシースが拡大し、第1の面においてイオンを効率的に収集できるとともに、第2の面22aにおけるシースが縮小し、イオンの第2の面22aへの回り込みが抑制される。また、第1の面21aにおけるシース内ではイオンが静電加速により大きく増速し抗力増大に寄与する(図4におけるイオン流A2参照)。なお、本実施形態では第2の面22aにおいてシースSmが縮小するだけなく、正の電位に基づく領域Spが形成されている。これにより、イオンの膜部材20に対する運動量交換がイオン流の上流側(第1の面21a側)と下流側(第2の面22a側)で相殺することを抑制でき、イオンから十分な抗力を得ることができる。また、上記構成では、スペースデブリ除去装置1に帯電装置30が搭載されているため、外部から給電される必要なくスペースデブリ除去装置1単体で上記のような抗力増大機能を達成できる。
【0043】
また、膜部材20が5層構造によって構成されているので、具体的に第1の面21aおよび第2の面22aに対して所定の電位差を設けることができる。特に中央に第3導体23が配置されることで、第1導体21および第2導体22に対して第3導体23からの電位差をそれぞれ正確に与えることができる。
【0044】
本実施形態のスペースデブリ除去装置1には、様々な変形例が考えられる。
【0045】
例えば、帯電装置30および衛星本体10は、スペースデブリ除去装置1に必須の構成ではない。即ち、膜部材20および取付装置40のみをパッケージ化してスペースデブリ除去装置1としてもよく、衛星本体10および帯電装置30は外部装置としてもよい。このようにして、既存の衛星にパッケージ化したスペースデブリ除去装置1を追加的に搭載することもできる。
【0046】
図5は、図2の変形例における膜部材20の一部の断面図である。
【0047】
図5に示す変形例において、膜部材20は、上記実施形態と同様に、スペースデブリ2と対向する第1の面26aおよび第1の面26aと反対面の第2の面27aを有している。第1の面26aおよび第2の面27aは、互いに異なる電位に帯電可能な構造となっている。具体的には、膜部材20は、第1の面26aを構成する導電性材料からなる第1導体26と、第2の面27aを構成する導電性材料からなる第2導体27と、第1導体26と第2導体27との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体28とを備える。本変形例では、不導体28は、ポリイミドからなる。
【0048】
帯電装置30においては、電源31の負極が第1導体26に電気的に接続され、電源31の正極が第2導体27に電気的に接続されている。図5では、第1導体26および第2導体27は、ともに接地部(衛星本体)10に電気的に接続されていないが、図6に示す別の変形例のように第2導体27を接地部(衛星本体)10に電気的に接続してもよい。いずれの場合でも、帯電装置30により、第1の面26aが第2の面27aよりも所定の電位差だけ低くなる負電位に帯電可能である。これにより、膜部材20が上記実施形態と同様に複数電位に帯電される。
【0049】
図7は、図1の膜部材20の変形例を示すスペースデブリ除去装置1の概略構成図である。図7では、図1と同様にスペースデブリ2の進行方向が矢印A1で示されている。スペースデブリ除去装置1から見れば、矢印A1とは反対方向にイオン流が相対的に流れている。また、破線円で示されるスペースデブリ除去装置1の一部が拡大して示されている。
【0050】
図7に示す変形例において、膜部材20は、平坦な板状である。正面視(スペースデブリ2と対向する面視)における膜部材20の形状は、例えば、正方形、長方形、その他の多角形、または円形などであり得る。また、その他の構造は、図1に示す上記実施形態と同様である。このように、膜部材20の形状は、特段限定されない。
【0051】
図8は、図7の帯電装置30の変形例を示す膜部材20の正面図である。なお、図8の例では、膜部材20の正面視の形状を正方形としている。
【0052】
図8に示す変形例において、帯電装置30は、太陽電池32を含む。太陽電池32は、斜線部で示されており、膜部材20の4つの縁部20a~20dに取り付けられている。換言すると、太陽電池32は、膜部材20の中央部20eには設けられていない。
【0053】
図8に示す変形例では、膜部材20において、太陽電池32の部分は帯電させておらず、太陽電池32の部分を除く中央部20eを帯電させている。
【0054】
本変形例によれば、太陽電池32を利用するため、帯電装置30の耐用年数を長く確保できる。また、帯電装置30を膜部材20とともに構成でき、帯電装置30を膜部材20とともに収納できるため取り扱いが容易となる。
【0055】
(第2実施形態)
図9に示す第2実施形態のスペースデブリ除去装置1は、PMD(Post Mission Disposal)対応のものである。以下で説明する構成以外は、第1実施形態のADR対応のスペースデブリ除去装置1の構成と実質的に同じであり得る。従って、第1実施形態にて示した構成と同じ部分については同じ符号を付して説明を省略する場合がある。
【0056】
本実施形態のスペースデブリ除去装置1は、第1実施形態とは異なり、衛星本体10(図1参照)や捕獲機構41(図1参照)を有していない。本実施形態では、取付装置40は、スペースデブリ2を膜部材20に直接固定する固定具42を含む。代替的には、取付装置40は、図1に示すようなテザー41cを含み、テザー41cを介してスペースデブリ2と膜部材20を機械的に接続してもよい。
【0057】
本実施形態のスペースデブリ除去装置1は、衛星やロケットの打ち上げ前に衛星やロケットに予め搭載される。そして、それらの運用の終了とともにスペースデブリ除去装置1が展開される。従って、除去対象となる衛星やロケットの残骸を宇宙空間で捕獲する必要がなく、除去対象の確実な除去を期待できる。なお、固定具42は衛星やロケットの打ち上げ前にスペースデブリ2となり得る部材と膜部材20とを予め固定しおいてもよいし、衛星やロケットの運用終了とともにスペースデブリ2となり得る部材と膜部材20とを固定してもよい。
【0058】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0059】
例えば、上記第1,2実施形態において、第2の面22a,27a(即ち第2導体22,27)を第1の面21a,26a(即ち第1導体21,26)よりも小さく形成してもよい。また、第2の面22a,27a(即ち第2導体22,27)に対してスリットや切り欠きなどを設けてもよい。これらにより、シースの等方的な形成が一層抑制され得る。
【符号の説明】
【0060】
1 スペースデブリ除去装置
2 スペースデブリ
10 衛星本体(接地部)
20 膜部材
20a~20d 縁部
20e 中央部
21 第1導体
21a 第1の面
22 第2導体
22a 第2の面
23 第3導体
24 第1不導体
25 第2不導体
26 第1導体
26a 第1の面
27 第2導体
27a 第2の面
28 不導体
30 帯電装置
31 電源
32 太陽電池
40 取付装置
41 捕獲機構
41a 銛
41b 射出装置
41c テザー
42 固定具
200 膜部材
210 第1の面
220 第2の面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9