IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社eフレームの特許一覧

<>
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図1
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図2
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図3
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図4
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図5
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図6
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図7
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図8
  • 特許-法面の削孔方法並びに装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】法面の削孔方法並びに装置
(51)【国際特許分類】
   E21B 7/06 20060101AFI20240208BHJP
   E02F 5/00 20060101ALI20240208BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E21B7/06
E02F5/00 Z
E02D17/20 106
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019204738
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075940
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】512173014
【氏名又は名称】株式会社eフレーム
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 潮
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089935(JP,A)
【文献】特開2001-271351(JP,A)
【文献】特開平11-280027(JP,A)
【文献】特開平11-101085(JP,A)
【文献】特開2003-082679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0335649(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 7/06
E02F 5/00
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔用のドリルロッドとその駆動ユニットとを具えた削孔機本体と、
法面に対し起立状態に設置され、前記削孔機本体を支持・案内するポストとにより削孔機組立体を構成し、
ポストと法面またはその周辺に設けられた支持体とを結ぶようにテンションワイヤを張設して、削孔機組立体を法面に対して起立状態に設定し、
前記ドリルロッドに具えられたドリルビットにより、法面から地盤に向かって削孔する法面の削孔方法であって、
削孔時に削孔機組立体にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力の適正値を求め、
次いでこの対盤圧力の適正値を得るためのテンションワイヤの張力を導出し、
前記テンションワイヤを用いてポストを起立状態に設定する際に、
テンションワイヤに具えられたテンションゲージの値を測定しながら、テンションワイヤの張設を行い、実際のテンションワイヤの張力を、前記事前に導出された張力に設定することを特徴とする法面の削孔方法。
【請求項2】
前記支持体としてワイヤポストを用い、このワイヤポストを、法面またはその周辺の土壌とを一体化することを特徴とする請求項1記載の法面の削孔方法。
【請求項3】
前記テンションワイヤの張力を、事前に導出された張力に設定するにあたっては、
テンションワイヤとして、本張ワイヤと並設して仮張ワイヤを設け、
仮張ワイヤに具えられた縮長手段により仮張ワイヤを縮長させて仮張ワイヤに張力を加えてゆき、本張ワイヤが緩められた状態で、仮張ワイヤに具えられたテンションゲージにより測定される値が事前に導出された張力となるように設定し、
この状態で、本張ワイヤに具えられた縮長手段を縮長させて本張ワイヤに張力を加えてゆき、
仮張ワイヤから本張ワイヤに張力を移行させて、テンションゲージを解放状態とするようにしたことを特徴とする請求項1記載の法面の削孔方法。
【請求項4】
削孔用のドリルロッドとその駆動ユニットとを具えた削孔機本体と、
法面に対し起立状態に設置され、前記削孔機本体を支持・案内するポストと、により削孔機組立体を構成し、
ポストと法面に設けられた支持体とを結ぶようにテンションワイヤを張設して、削孔機組立体を法面に対して起立状態に設定し、更に削孔時に削孔機本体にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力を得るとともに、
前記ドリルロッドに具えられたドリルビットにより、法面から地盤に向かって削孔する法面の削孔装置であって、
前記テンションワイヤにおけるポストと支持体との間に、縮長手段及びテンションゲージが具えられることを特徴とする法面の削孔装置。
【請求項5】
前記テンションワイヤは、本張ワイヤと並設して仮張ワイヤが具えられるものであり、
この仮張ワイヤにおけるポストと支持体との間に、縮長装置及びテンションゲージが具えられていることを特徴とする請求項4記載の法面の削孔装置。
【請求項6】
前記削孔機組立体におけるポストはジュラルミン合金素材により構成され、且つ溶射による表面硬化処理が施されていることを特徴とする請求項4または5記載の法面の削孔装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面、傾斜面等の崩壊を防止するための保全工事を行う法面の削孔方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば山間地等の法面、傾斜面等の崩落を防止する為に、法面を押え板(法枠)により押えるようにした保全工事が採られており、この押え板は、地盤中に立込固定された保全アンカーにより保持されている。
このような保全工事を行うにあたっては、法面から地盤面に向かって数メートルから十数メートル近く削孔し、ここにグラウトとともに保全アンカーを挿入・保持させている。
このため、まず保全アンカーの設置用のアンカー孔を削孔する作業が行われる。この作業の手法は、一般的には振動ドリル状に作用する削孔ドリルを具えた削孔機本体と、法面に対し起立状態に設置され、この削孔機本体を支持・案内するポストとを具えた削孔機組立体を用い、前記削孔ドリルにより法面にアンカー孔を削孔するようにしている。
【0003】
ところで削孔ドリルの地盤への進入削孔の際には、当然その削孔作用に対する反力が削孔機組立体に掛かってくるものであり、その反力を受け止めるために削孔機組立体はその自重を重くし、且つこれを法面の削孔位置近くに設けた足場状の仮設架台上に載せて作業が行われていた。
当然ながらこのような手法は、削孔位置に応じて大掛かりな足場状の仮設架台を設置する作業を必要とし、削孔作業全体としてはその作業効率を上げるのにも一定の限界があった。
このため足場状の仮設架台を組むことなく、テンションワイヤをポスト上方に作用させてその分力により、削孔機組立体を法面に押し付けて削孔時の反力を押さえ込むようにした提案がされている(例えば特許文献1参照)。
この手法は、削孔機組立体が用いられる法面上方に支持体を設定し、そこにテンションワイヤの上端を保持させると共に、下端側をポスト上部に接続し、また下方においてもポスト上部と法面下方位置に設けた支持体との間にテンションワイヤを張設するものであって、これらテンションワイヤに生ずる張力の分力成分で、削孔機組立体を法面に押し付けるようにしている。
【0004】
このような手法を採るにあたって、実際には現場にある立ち木等を利用して支持体としており、経験的に充分な太さの立ち木を選んでテンションワイヤを固定した上で、削孔機組立体のポストを法面上に立設するようにしていた。
しかしながら、この際、立ち木等の耐久性や、削孔機組立体が削孔反力を受け止めるのに充分な圧力で法面に押え付けられているか等については、殆ど経験的な勘による設置作業にゆだねられ、数値的な検証は一切為されずに作業が行われていた。
このため仮設架台を排し、テンションワイヤによる削孔機組立体の法面への押し付け固定手法を採りながらも、安全性や耐反力を充分に確保することについては信頼性が担保されたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-89935公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来手法を根本的に見直した手法を提案するものであって、安全性を考慮したテンションワイヤの張力設定を数値的に把握し、このテンションワイヤの張力を実測しながら設定し、もって安全な作業環境を実現し、更に削孔機組立体自体の軽量化をも達成した新規な法面の削孔方法並びに装置の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載の法面の削孔方法は、削孔用のドリルロッドとその駆動ユニットとを具えた削孔機本体と、法面に対し起立状態に設置され、前記削孔機本体を支持・案内するポストとにより削孔機組立体を構成し、ポストと法面またはその周辺に設けられた支持体とを結ぶようにテンションワイヤを張設して、削孔機組立体を法面に対して起立状態に設定し、前記ドリルロッドに具えられたドリルビットにより、法面から地盤に向かって削孔する法面の削孔方法であって、削孔時に削孔機組立体にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力の適正値を求め、次いでこの対盤圧力の適正値を得るためのテンションワイヤの張力を導出し、前記テンションワイヤを用いてポストを起立状態に設定する際に、テンションワイヤに具えられたテンションゲージの値を測定しながら、テンションワイヤの張設を行い、実際のテンションワイヤの張力を、前記事前に導出された張力に設定することを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載の法面の削孔方法は、前記請求項1記載の要件に加え、前記支持体としてワイヤポストを用い、このワイヤポストを、法面またはその周辺の土壌とを一体化することを特徴として成るものである。
【0009】
更にまた請求項3記載の法面の削孔方法は、前記請求項1記載の要件に加え、前記テンションワイヤの張力を、事前に導出された張力に設定するにあたっては、テンションワイヤとして、本張ワイヤと並設して仮張ワイヤを設け、仮張ワイヤに具えられた縮長手段により仮張ワイヤを縮長させて仮張ワイヤに張力を加えてゆき、本張ワイヤが緩められた状態で、仮張ワイヤに具えられたテンションゲージにより測定される値が事前に導出された張力となるように設定し、この状態で、本張ワイヤに具えられた縮長手段を縮長させて本張ワイヤに張力を加えてゆき、仮張ワイヤから本張ワイヤに張力を移行させて、テンションゲージを解放状態とするようにしたことを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載の法面の削孔装置は、削孔用のドリルロッドとその駆動ユニットとを具えた削孔機本体と、法面に対し起立状態に設置され、前記削孔機本体を支持・案内するポストと、により削孔機組立体を構成し、ポストと法面に設けられた支持体とを結ぶようにテンションワイヤを張設して、削孔機組立体を法面に対して起立状態に設定し、更に削孔時に削孔機本体にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力を得るとともに、前記ドリルロッドに具えられたドリルビットにより、法面から地盤に向かって削孔する法面の削孔装置であって、前記テンションワイヤにおけるポストと支持体との間に、縮長手段及びテンションゲージが具えられることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載の法面の削孔装置は、前記請求項4記載の要件に加え、前記テンションワイヤは、本張ワイヤと並設して仮張ワイヤが具えられるものであり、この仮張ワイヤにおけるポストと支持体との間に、縮長装置及びテンションゲージが具えられていることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6記載の法面の削孔装置は、前記請求項4または5記載の要件に加え、前記削孔機組立体におけるポストはジュラルミン合金素材により構成され、且つ溶射による表面硬化処理が施されていることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、支持体が削孔時にかかる負荷に耐え得ることを定量的に確認するため、削孔作業の安全性を明確に示すことができる。また安全性を考慮したテンションワイヤの張力設定を数値的に把握し、このテンションワイヤの張力を実測しながら設定し、もって安全な作業環境を実現し、更に削孔機組立体自体の軽量化をも達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の法面の削孔装置の使用状態を示す斜視図である。
図2】設置穴にワイヤポストを設置する様子を示す斜視図である。
図3】同上、側面図及びコネクションウィングを示す平面図である。
図4】削孔機組立体を示す正面図及び側面図である。
図5】削孔機組立体にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力を得るためのテンションワイヤの張力を示す模式図である。
図6】本発明の法面の削孔方法におけるテンションワイヤの張設の様子を段階的に示す正面図である。
図7】ワイヤポストの形態を異ならせた実施例を示す斜視図である。
図8】同上、斜視図及び側面図である。
図9】支持体として足場取付金具を適用した実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の「法面の削孔方法並びに装置」の最良の形態は以下に示すとおりであるが、この形態に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例
【0016】
本発明の「法面の削孔方法並びに装置」は、図1、3に示すように法面S等の傾斜面の崩壊を防止するための法枠の設置等の保全工事を行うためのものであり、はじめに削孔装置1について説明し、続いてこの削孔装置1を用いた削孔方法について説明する。
前記削孔装置1は、削孔ドリルとその駆動ユニットとを具えた削孔機本体3と、法面Sに対し起立状態に設置され、前記削孔機本体3を支持・案内するポスト4と、により構成された削孔機組立体2を主要部材として具えるものである。
【0017】
削孔機組立体2は図4に示すように、ポスト4の上端にコネクションウィング41及びモータ42を具え、下端に石突43を具えて成るものであり、ドリルロッド31を具えた削孔機本体3が、ポスト4の長手方向に沿って移動可能に構成されている。なお削孔機本体3の移動はモータ42によって駆動されるラック・ピニオン機構等により行われる。また前記ドリルロッド31の先端には適宜のドリルビットが具えられる。
【0018】
前記削孔機本体3は、一例として図示しないコンプレッサから供給される圧縮空気によりドリルロッド31に回転・進退振動を生起させるように構成されている。なお削孔機本体3を油圧駆動式とすることもできる。
【0019】
また前記ポスト4の上端に設けられるコネクションウィング41は、図3に示すように一例として平面視矩形状の板部材であり、複数個所に接続孔41aが形成されている。
【0020】
なおこの実施例では、前記ポスト4は一例としてジュラルミン等の軽量な合金素材により構成されるものとし、更にポスト4における削孔機本体3との接触部位には、炭素鋼による溶射等の表面硬化処理を施すものとした。
またこの実施例で示す削孔機組立体2の重量は約200kgと、〔背景技術〕で述べた従来機器と比べて極めて軽量なものとなっている。
【0021】
また法面S等施工現場において、前記削孔機組立体2の上方または上方及び下方に支持体5を設けるものであり、この実施例では図2に示すように、ベースプレート51に対して柱53が立設されたワイヤポスト50が用いられるものとした。前記ベースプレート51は一例として75cm×75cmの平面形状を有する正方形状の金属板であり、ボルト孔52が一例として四隅に形成されている。また前記柱53は一例として20cm×20cmの横断面形状を有する角鋼管である。なお柱53の上端部に抜止板54を設けるようにしてもよい。
そして支持体5の強度試験(引張試験)を実施して、以降の削孔作業に耐え得ることを確認する。
なお施工現場に十分な強度の立木がある場合には、この立木を支持体5として利用することもできる。
【0022】
そして前記削孔機組立体2におけるポスト4と支持体5とを結ぶようにテンションワイヤ6が張設され、削孔機組立体2を法面Sに対して起立状態に設定することにより、削孔装置1が構成されることとなる。なおテンションワイヤ6におけるポスト4と支持体5との間には縮長手段7が具えられる。
前記テンションワイヤ6は、本張ワイヤ61と並設して仮張ワイヤ62が具えられるものであり、この仮張ワイヤ62におけるポスト4と支持体5との間に、縮長手段7及びテンションゲージ8が具えられる
【0023】
本発明の削孔装置1は一例として上述したように構成されるものであり、以下、法面Sに対する削孔装置1の設置態様と併せて、本発明の「法面の削孔方法」について説明する。
【0024】
(1)支持体としてのワイヤポストの設置
まず図2に示すように、法面Sまたはその周辺に一例として80cm×80cm×150cm程の設置穴Hを形成する。
次いでこの設置穴Hの底部Bにワイヤポスト50を載置し、ロックボルト55をベースプレート51におけるボルト孔52に挿通状態としてねじ込むことにより、設置穴Hの底部Bにベースプレート51を固定する。
次いで設置穴Hを埋め戻すとともに、適宜踏み固めることにより、ワイヤポスト50と周辺土壌とを一体化する。
なお前記ロックボルト55に代えて、釘、ペグ等を打ち込むようにしてもよい。
【0025】
(2)支持体の耐荷重確認
次いで支持体5としてのワイヤポスト50の耐荷重確認を行うものであり、ワイヤポスト50にテンションワイヤ6を接続するとともに、荷締め機、ホイスト等の縮長手段7を用いて負荷を掛けて引張試験を行う。前記負荷はテンションワイヤ6に設けられたテンションゲージ8により測定されるものであり、削孔装置1の重量及び削孔時にかかる負荷を考慮した余裕を持った値とされる。
また引張方向についてはより多くの方向で測定することが好ましいが、この実施例では一例として三方向で引張試験を行うようにした。
もちろんこのような引張試験を行った際に、ワイヤポスト50のガタツキや抜けが生じてしまった場合には、ワイヤポスト50の設置をやり直すこととなる。
【0026】
(3)テンションワイヤによる削孔機組立体の吊持
次いで図6(a)に示すように、法面Sの上部に位置する三基の支持体5(ワイヤポスト50)に対して、それぞれ本張ワイヤ61の一端を巻き付け、他端側を図3に拡大して示すようにポスト4の頂部に設けられたコネクションウィング41における接続孔41aにシャックル63を介して接続する。なお図6において、コネクションウィング41の上側に接続される本張ワイヤ61は左から本張ワイヤ61a、本張ワイヤ61b、本張ワイヤ61cと呼ぶ。
またコネクションウィング41の下側に接続される本張ワイヤ61は左から本張ワイヤ61d、本張ワイヤ61eと呼ぶものであり、これらは法面Sに打ち込まれた支持体5としてのペグに接続される。
なおこの時点で各本張ワイヤ61はあくまで仮付けの状態であり、図6(a)においては、一例として上側中央の本張ワイヤ61bを最も縮長させて張りつめた状態とし、その両側の本張ワイヤ61a、61c及び下側左右の本張ワイヤ61d、61eは多少緩んだ状態とさせている。
またこの時点で削孔機組立体2は、図3中仮想線で示すように、法面Sにおける削孔箇所の僅かに下方に石突43が当接し、ポスト4は法面Sに対して非垂直状態となっているものとする。
【0027】
(4)削孔姿勢
次いで適宜縮長手段7a、7b、7c、7d、7eを操作して本張ワイヤ61a、61c、61d、61eを縮長、伸長させて調整し、図6(b)及び図5(a)に示すように、ポスト4を法面Sに対して垂直状態(削孔姿勢)とする。
【0028】
(5)テンションワイヤの張力の適正化
次いでテンションワイヤ6の張力の適正化を行うものであり、ドリルロッド31による削孔時に、削孔機組立体2にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力Pの適正値を求め、次いでこの対盤圧力Pの適正値を得るためのテンションワイヤ6の張力を導出する。
【0029】
なお対盤圧力Pの適正値を得るためのテンションワイヤ6の張力は、一例として図5(a)に示すように法面Sの傾斜角度γと、ポスト4とテンションワイヤ6との角度α、β、削孔機組立体2の重量Wが決定すると、一例として下式(1)によって求めることができる。

式(1):P=Wcosγ+T1cosα+T2cosβ

なおこの実施例では、T1はTa、Tb、Tcの合力であり、T2はTd、Teの合力である。
またこの実施例では、コネクションウィング41の上側に接続される各本張ワイヤ61a、61b、61cにかかる張力Ta、Tb、Tcが均等であるとみなすようにした。
同様にコネクションウィング41の下側に接続される各本張ワイヤ61d、61eにかかる張力Td、Teも均等であるとみなすようにした。
もちろん、対盤圧力Pの適正値を得るためのテンションワイヤ6の張力は、テンションワイヤ6の本数や施工現場の状態等、異なる状況に応じて適宜の手法によって求められるものであり、上記式(1)と異なる導出手法、数式を採ることも可能である。
【0030】
そして前記テンションワイヤ6の張力Ta、Tb、Tc、Td、Teを、事前に導出された値に設定するにあたっては、一例として図6(c)に示すように、本張ワイヤ61aの左側に並設するように仮張ワイヤ62を設け、この仮張ワイヤ62に具えられた縮長手段7により仮張ワイヤ62を縮長させて仮張ワイヤ62に張力を加えてゆく。
やがて図6(d)に示すように、仮張ワイヤ62に隣接する本張ワイヤ61aに緩みが生じ始めるものであり、仮張ワイヤ62に具えられたテンションゲージ8により測定される値が張力T0となった時点で、縮長手段7による仮張ワイヤ62の縮長を停止する。
【0031】
次いで本張ワイヤ61aに具えられた縮長手段7aにより本張ワイヤ61aを縮長させて張力を加えてゆくと、やがて図6(e)に示すように仮張ワイヤ62に緩みが生じるため、この時点で本張ワイヤ61aに掛かる張力は、T0よりも若干大きな値となるものの、T0とほぼ等しい値とみなすことができる。
なお仮張ワイヤ62が緩んだ状態となることは、テンションゲージ8を観察し、その値がT0よりも低下したことを視認することにより明確に判断することができる。
このように、あたかも仮張ワイヤ62にかかっていた張力を、本張ワイヤ61aに移行させるような操作を行うことにより、テンションゲージ8が具えられていない本張ワイヤ61aにかかる張力を所望の値T0に極めて近い値とすることができる。
その後、仮張ワイヤ62をコネクションウィング41から取り外す。
【0032】
次いで本張ワイヤ61aにかかる張力に合わせて、本張ワイヤ61b、61c、61d、61eにかかる張力を、縮長手段7b、7c、7d、7eを操作して調整し、法面Sに対して垂直状態に立設したポスト4の姿勢を安定させ、削孔作業に備える。
【0033】
そして削孔機本体3に圧縮空気を供給してドリルロッド31に回転・進退振動を生起させ、法面Sの下層の地盤Gにアンカー孔Aを削孔してゆく。
この際、本発明の削孔装置1は、削孔機組立体2にかかる反力を抑えるために要求される対盤圧力Pを得ることができ、ドリルロッド31による削孔を円滑に行うことができる。
【0034】
〔他の実施例〕
本発明は上述した実施例を基本となる実施例とするものであるが、本発明の技術的思想の範囲内含まれる、以下に示す実施例を採ることもできる。
すなわち上述の基本となる実施例では、支持体5たるワイヤポスト50として、ベースプレート51に対して角鋼管が適用された柱53が立設されるワイヤポスト50を用いたが、これよりも軽量で可搬性に優れた部材を用いることも可能である。
具体的には図7、8に示すように、柱53として杭丸太等を用い、この柱53を50cm程度地中に打ち込むことにより、柱53と周辺土壌とを一体化する。そして単管パイプ等を適用した支柱56を組んでやぐら57を構成して、前記柱53を支えるようにするものである。
そしてこのように構成された支持体5の強度試験(引張試験)を実施して、前出の基本となる実施例に示された削孔作業に耐え得ることを確認した後、削孔を行ってゆくものである。
もちろん前記支持体5たるワイヤポスト50として、ベースプレート51に対して角鋼管が適用された柱53が立設されされたものと、柱53として杭丸太を用いたやぐら57とを、併用することも可能である。
【0035】
また上述の基本となる実施例では、法面Sに直接削孔を行うようにしたが、図9に示す様に法面Sを覆うように格子状のモルタル・コンクリートを造成して法枠Fを設け、この法枠Fを介して削孔を行うこともできる。
そしてこのような場合、法枠Fの一部を挟み込むようにして固定される足場取付金具58(一例として岡部株式会社製 フレームキャッチャー(登録商標))等を法枠Fの上部に対して設置し、この足場取付金具58を支持体5として供することにより、法枠Fを傷付けることなく、耐荷重に優れた支持体5を容易に設置することが可能となる。
なお法枠Fが設けられていない場合であっても、足場取付金具58を確実に設置することができる状況であれば、足場取付金具58を支持体5として用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 削孔装置

2 削孔機組立体
3 削孔機本体
31 ドリルロッド
4 ポスト
41 コネクションウィング
41a 接続孔
42 モータ
43 石突

5 支持体
50 ワイヤポスト
51 ベースプレート
52 ボルト孔
53 柱
54 抜止板
55 ロックボルト
56 支柱
57 やぐら
58 足場取付金具

6 テンションワイヤ
61 本張ワイヤ
61a 本張ワイヤ
61b 本張ワイヤ
61c 本張ワイヤ
61d 本張ワイヤ
61e 本張ワイヤ
62 仮張ワイヤ(パイロットワイヤ)
63 シャックル

7 縮長手段
7a 縮長手段
7b 縮長手段
7c 縮長手段
7d 縮長手段
7e 縮長手段

8 テンションゲージ

A アンカー孔
B 底部
F 法枠
G 地盤
H 設置穴
S 法面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9