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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】拡散防止装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/06 20060101AFI20240208BHJP
   F24F 8/15 20210101ALI20240208BHJP
   F24F 8/167 20210101ALI20240208BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F24F7/06 B
F24F8/15
F24F8/167
A61L9/16 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020040379
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021139606
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591274325
【氏名又は名称】株式会社ゲンダイプラント
(73)【特許権者】
【識別番号】591274314
【氏名又は名称】元上 章清
(73)【特許権者】
【識別番号】507327752
【氏名又は名称】元上 博章
(73)【特許権者】
【識別番号】507327763
【氏名又は名称】元上 雅章
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(72)【発明者】
【氏名】元上 章清
(72)【発明者】
【氏名】元上 博章
(72)【発明者】
【氏名】元上 雅章
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-319943(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056486(WO,A1)
【文献】特開2009-045225(JP,A)
【文献】特開2000-023987(JP,A)
【文献】特開2017-074245(JP,A)
【文献】特開2012-207822(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0197197(US,A1)
【文献】国際公開第2004/058311(WO,A1)
【文献】特開2011-045845(JP,A)
【文献】特開2019-147131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/06
F24F 8/15
F24F 8/167
A61L 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリンから揮発されるホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する装置であって、
ファンと、
ファンよって励起される気流により前記ホルムアルデヒドを吸気する吸気機構と、
前記吸気機構の下流側に設けられる流路と、
前記流路の下流側に設けられ、前記流路を経由する気体を室内に排気する排気機構と、
前記流路内に設けられ、前記ホルムアルデヒドの一部を酸化分解する酸化分解機構と、
前記流路内に設けられ、前記ホルムアルデヒドの一部を化学反応吸着する化学吸着機構と、
を備え、
前記流路において、上流から、前記酸化分解機構と、前記化学吸着機構と、前記排気機構の順で直線状に配置され、
前記酸化分解機構は、多孔質処理された二酸化マンガンにより形成される、配列された連通孔からなるメッシュ状フィルタブロックであり、
前記化学吸着機構は、セラミックス素材にカルボジヒドラジドを担持させた、配列された連通孔からなるメッシュ状フィルタブロックであり、
前記酸化分解機構は、前記吸気機構が吸気するホルムアルデヒドの90~98%を酸化分解し、
前記化学吸着機構は、前記吸気機構が吸気するホルムアルデヒドの2~10%を吸着し、
前記ファンよって励起される気流の風量(m3/Hr)/前記酸化分解機構の触媒容積(m3)が、12000-20000(/Hr)である
ことを特徴とする拡散防止装置。
【請求項2】
前記流路を経由する気体を室外に排気する外部排気機構を備えない
ことを特徴とする請求項1記載の拡散防止装置。
【請求項3】
切り出し作業台、切り出しフード、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、保管棚いずれかに実装される
ことを特徴とする請求項1または2記載の拡散防止装置。
【請求項4】
少なくとも、切り出し作業台、流し台、注液装置、保管棚を備え、
前記切り出し作業台、流し台、注液装置、保管棚には、それぞれ、請求項1または2記載の拡散防止装置が実装されている
ことを特徴とする病理検査室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する装置に関し、特に、室内循環型の拡散防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院の病理検査において、ホルマリンに浸して検体臓器を固定(細胞組織形態が変化するのを防止)したり、固定した検体臓器を切り出し台において適切な大きさに切り出す作業が行われている。固定作業や切り出し作業の際に付着したホルマリン等を流し台において洗浄する。その際に、ホルマリンからホルムアルデヒドが揮発するおそれがある。
【0003】
また、切り出し前や切り出し後の検体をいれた容器を保管する。確実に容器を密閉すれば、ホルムアルデヒドが揮発するおそれはないが、不測の事態をも想定して、慎重に取り扱うことが重要である。
【0004】
すなわち、病理検査室においては、切り出し作業台、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、流し台、保管棚などが設置されているが、それぞれ、ホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する機構が設けられている。
【0005】
近年、特定化学物質障害予防規則が改正され、発癌性の観点から、例えばホルムアルデヒドや1,3-ブタンジエン、硫酸ジエチルの取扱いには大きな注意が要求されるようになった。今回の改正で、ホルムアルデヒドは第3類物質から特定第2類物質に変更された。
【0006】
病理検査室内においても、ホルムアルデヒドの管理濃度は0.1ppm以下と設定され、排気設備の設置や定期的な作業環境測定が義務付けられている。さらに、各病院は、作業環境測定において、第1管理区分(ホルムアルデヒドの管理濃度は0.03ppm以下)と評価されることを望んでいる。これに対し、本願発明者は、上記要望に対応する製品を開発してきた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-040949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、排気設備を有する切り出し作業台、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、流し台、保管棚などの各装置は外部排気機構を有する。室外への外部排気箇所はなるべく少ない(1か所)であることが好ましい。そのため、各装置からの排気流路のレイアウトに制約がある。また、大型化、複雑化する傾向にある。
【0009】
また、病理検査室内においては、作業環境向上のため、適切な空調がされている。空調された気体を外部排気することはエネルギーの浪費となる。さらに、大量の気体を外部排気すると室内が陰圧になる。これに対応する外部から室内に吸気する機構や外部気体を清浄する機構が必要となる。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、外部排気することなく、ホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、外部排気することなく、ホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する装置として、内部循環型装置を検討した。一方、近年、ホルムアルデヒドの管理基準は厳しくなっている。そこで厳しいホルムアルデヒドの管理基準を実現できる内部循環型装置の具体的構成を限定した。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である拡散防止装置は、ホルマリンから揮発されるホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する。拡散防止装置は、ファンと、ファンよって励起される気流により前記ホルムアルデヒドを吸気する吸気機構と、前記吸気機構の下流側に設けられる流路と、前記流路の下流側に設けられ、前記流路を経由する気体を室内に排気する排気機構と、前記流路内に設けられ、前記ホルムアルデヒドの一部を酸化分解する酸化分解機構と、前記流路内に設けられ、前記ホルムアルデヒドの一部を化学反応吸着する化学吸着機構と、を備える。
【0013】
これにより、外部排気することなく、ホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止できる。すなわち、内部循環を実現できる。
【0014】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記酸化分解機構は、多孔質処理された二酸化マンガンにより形成されるメッシュ状フィルタである。
【0015】
これにより、常温にて効率よくホルムアルデヒドを酸化分解できる。
【0016】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記化学吸着機構は、セラミックス素材にカルボジヒドラジドを担持させたメッシュ状フィルタである。
【0017】
これにより、確実にホルムアルデヒドを除去できる。
【0018】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記酸化分解機構は前記化学吸着機構の上流にある。
【0019】
これにより、まず、酸化分解機構によりホルムアルデヒドを酸化分解し、酸化分解機構により酸化分解できなかったホルムアルデヒドを化学吸着機構により吸着除去する。
【0020】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記酸化分解機構は、前記吸気機構が吸気するホルムアルデヒドの90~98%を酸化分解し、前記化学吸着機構は、前記吸気機構が吸気するホルムアルデヒドの2~10%を吸着する。
【0021】
酸化分解機構の分解率を98%以下とすることで装置のコンパクト性を維持できる。残留ホルムアルデヒドを10%以下とすることで、化学吸着機構の交換頻度が減る。なお、原則として、酸化分解機構においてメンテナンスの必要がない。その結果、装置全体としてメンテナンス容易となる。
【0022】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記ファンよって励起される気流の風量(m3/Hr)/前記酸化分解機構の触媒容積(m3)が、12000-20000(/Hr)である。
【0023】
これにより、酸化分解機構の分解率95-98%を実現できる。
【0024】
上記発明の一態様において、好ましくは、前記流路を経由する気体を室外に排気する外部排気機構を備えない。
【0025】
これにより、病理検査室において排気流路レイアウトを検討する必要がない。病理検査室における空間的制約を解消できる。
【0026】
上記発明の一態様において、好ましくは、切り出し作業台、切り出しフード、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、保管棚いずれかに実装される。
【0027】
本願拡散防止装置はコンパクト性を維持するため、各装置に実装できる。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である病理検査室は、少なくとも、切り出し作業台、流し台、注液装置、保管棚を備える。前記切り出し作業台、流し台、注液装置、保管棚には、それぞれ、本願拡散防止装置が実装されている。
【0029】
各装置においてホルムアルデヒド除去が完結する。分岐・合流等、排気流路レイアウトを検討する必要がない。その結果、病理検査室における空間的制約を解消できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の拡散防止装置によれば、外部排気することなく、ホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本装置の概念構成図
図2】酸化分解機構の一例
図3】酸化分解機構の性能を示す実験結果
図4】化学吸着機構の一例
図5】切り出し作業台への実装例
図6】切り出し作業台外観
図7】卓上切り出しフードへの実装例
図8】卓上切り出しフードの外観
図9】注液装置への実装例
図10】注液装置の外観
図11】プッシュプル型流し台への実装例
図12】プッシュプル型流し台の外観
図13】保管棚への実装例
図14】保管棚の外観
図15】プッシュプル型保管棚への実装例
図16】プッシュプル型保管棚の外観斜視図
図17】病理検査室の一例
【発明を実施するための形態】
【0032】
~概略構成~
図1は、本装置の概念構成図である。本装置はホルマリンから揮発されるホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止する。本装置においては、流路1上に、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とが設けられている。
【0033】
吸気機構2はホルムアルデヒド発生源に近位であって流路上流に設けられ、排気機構6は流路下流に設けられる。ファン3により気流が励起され、ホルムアルデヒドは気流に乗って吸気機構2から吸気され、分解および吸着され排気機構6から室内に排気される。
【0034】
すなわち、流路を経由する気体を室外に排気する外部排気機構を備えない。
【0035】
ファン3は、吸気機構2近位側に設置されていてもよいし、排気機構6近位側に設置されていてもよい。ファン3のメンテナンスしやすい側に設ければよい。
【0036】
酸化分解機構4は、気流に含まれるホルムアルデヒドの一部を酸化分解する。化学吸着機構5は、気流に含まれるホルムアルデヒドの一部を化学反応吸着する。
【0037】
~酸化分解機構4~
図2は、酸化分解機構4の一例示である。酸化分解機構4は多孔質処理された二酸化マンガンにより形成されるメッシュ状フィルタである。
【0038】
二酸化マンガン粉末を多孔質処理し、比表面積を増やすことで、反応の活性化を図る。当該粉末とバインダにより100mm角の立方体ブロックとし、一面に格子状の連通孔を設け、加熱成形する。成形容易の為、格子状メッシュであることが好ましいが、円形、三角形、六角形の孔でもよい。なお、六角形孔でなくても、ハニカム構造と呼ぶこともある。
【0039】
流路1内に必要個数(たとえば、800mm×200mm×200mm相当の場合は32個)のブロックを設置する。
【0040】
二酸化マンガンはホルムアルデヒドと酸素とを反応させ、水と二酸化炭素とに分解する。
HCHO+O2 → H2O+CO2
【0041】
とくに、活性化された二酸化マンガンは常温にて酸化分解触媒として作用する。一般に常温とは20℃±15℃の範囲として規定されている。本件では病理検査室内の温度をいう。病理検査室内は15~30℃程度に空調されている。すなわち加熱等は不要である。
【0042】
図3は、酸化分解機構4の性能を示す実験結果である。横軸にSv値(/Hr)をとり、縦軸に酸化分解率(%)をとる。
【0043】
Sv値(/Hr)=ファンよって励起される気流の風量(m3/Hr)/酸化分解機構の触媒容積(m3)
反応時間(s)=3600/Sv値(/Hr)
すなわち、Sv値は酸化分解能力の指標であり、Sv値が大きくなるほど、反応時間が短くなる一方、コンパクトになる。Sv値が小さくなるほど、反応時間が長くなる一方、大型化する。
【0044】
実験結果によれば、Sv値12000-40000の範囲において、ホルムアルデヒドの分解率90~98%を実現できる。さらに、Sv値12000-20000の範囲において、ホルムアルデヒドの分解率95~98%を実現できる。
【0045】
一方で、分解率98%超を実現しようとすると、急激に大型化する必要があり、酸化分解機構のみで分解率100%を実現することは実用的ではない。
【0046】
~化学吸着機構5~
図4は、化学吸着機構5の一例示である。化学吸着機構5は、セラミックス素材にカルボジヒドラジドを担持させたメッシュ状フィルタである。
【0047】
粘土鉱物を主成分とするセラミックス材料を100mm×100mm×30mmの長方体ブロックとし、一面に格子状の連通孔を設け、焼成する。成形容易の為、格子状メッシュであることが好ましいが、円形、三角形、六角形の孔でもよい。なお、六角形孔でなくても、ハニカム構造と呼ぶこともある。なお、セラミックス材料は平均直径50オングストローム程度の多孔を有する。
【0048】
流路1内に必要個数(たとえば、800mm×200mm×60mm相当の場合は32個)のブロックを設置する。
【0049】
さらに、カルボジヒドラジド溶液に含浸させたのち乾燥させ、カルボジヒドラジド成分をセラミックスに担持させる。
【0050】
カルボジヒドラジドは両末端にアミノ基(-NH2)を有しており、アミノ基はCH2-を吸着し、水を排出する。
2HCHO+NH2NH-CO-NHNH2 → CH2NNH-CO-NHNCH2+2H2O
【0051】
カルボジヒドラジドに替えてスルファミン酸に吸着させてもよい。水を排出する。
2HCHO+NH2HSO3 → CH2NSO2(OH)+H2O
【0052】
~基本思想~
本願は、酸化分解機構4と化学吸着機構5とを併設することを特徴とする。その際、酸化分解機構4と化学吸着機構5との役割分担が重要となる。
【0053】
酸化分解機構4は優れた酸化分解能力を持ち(図3参照)、また、ほぼメンテナンスフリーという有利な特徴を持つが、分解率98%超を実現しようとすると、急激に大型化する必要がある。
【0054】
化学吸着機構5は確実にホルムアルデヒドを吸着するが、吸着するたび能力が落ち、交換が必要となる。
【0055】
そこで、可能な範囲で酸化分解機構4により酸化分解し、酸化分解しきれなかった残留ホルムアルデヒドを化学吸着し、ほぼ100%(管理濃度0.03ppm以下)の処理を行う。
【0056】
すなわち、酸化分解機構4は化学吸着機構5の上流にある。
【0057】
好ましくは、酸化分解機構4は、吸気機構2が吸気するホルムアルデヒドの90~98%を酸化分解し、化学吸着機構5は、吸気機構2が吸気するホルムアルデヒドの2~10%(酸化分解できなかった残留分)を吸着する。
【0058】
より好ましくは、酸化分解機構4は、吸気機構2が吸気するホルムアルデヒドの95~98%を酸化分解し、化学吸着機構5は、吸気機構2が吸気するホルムアルデヒドの2~5%(酸化分解できなかった残留分)を吸着する。
【0059】
~実施例に基づく効果~
実施例と比較例を比較することで、本願効果について説明する。想定風量を400m3/Hrとする。
【0060】
比較例1-1:図3によれば分解率98%以下においてSv値と分解率は、マイナスの傾きを持つ一次関数に近似できる。分解率98%を実現するために、実用的な範囲にて図2に示すブロックを所定数配置できる。しかしながら、たとえば、発生ホルムアルデヒドの濃度が2ppmの場合、仮に分解率98%としても、排出ホルムアルデヒドの濃度が0.04ppmとなり、管理濃度0.03ppm以下とはならない。
【0061】
比較例1-2:分解率98%超を実現すようとすると、上記近似式に従わず、急激に大型化する必要があり、実用的な範囲から逸脱する。
【0062】
比較例2:化学吸着機構5は確実にホルムアルデヒドを吸着する。仮に上記同等(たとえば、800mm×200mm×60mm相当の場合32個)のブロックを設置し、発生ホルムアルデヒドの濃度が2ppmとし、標準的な稼働を想定すると、約1.5か月で交換時期となる。ところで、病理検査室内の各装置は10年程度を交換時期の目途とする。化学吸着機構5の交換は80回と想定される。
【0063】
実施例:発生ホルムアルデヒドの濃度が2ppmとし、酸化分解機構4の分解率を95%とすると、ホルムアルデヒドの濃度が0.1ppmとなる。分解率を95%であれば、極端に大型化することはない。さらに、5%の残留ホルムアルデヒドを化学吸着機構5により吸着する。標準的な稼働を想定すると、約3年で交換時期となる。ところで、原則として、酸化分解機構においてメンテナンスの必要がない。すなわち、各装置において、メンテナンスは化学吸着機構5の交換2~3回程度と想定される。実施例において、室内に排気される気体のホルムアルデヒドの濃度が0.00ppmであった。すなわち測定器の分解能以下であった。
【0064】
実施例と比較例を比較によれば、本実施例では、コンパクト性とメンテナンスの容易性とを両立させながら、内部循環によりホルムアルデヒドが室内に拡散するのを防止できる。
【0065】
ところで、現在、酸化分解機構4の価格は化学吸着機構5の価格の約6倍以上である。上記交換頻度を考慮して、実施例と比較例2の材料コストを比較によれば、約1/9となり、コストの観点からも有利である。
【0066】
~実装例~
本願装置は、病理検査室における、切り出し作業台、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、保管棚などの各装置に実装可能である。各装置の実装例について説明する。
【0067】
図5は、切り出し作業台への実装例である。図6は、切り出し作業台の外観斜視図である。切り出し作業台は、作業面と、下部空間と、整流機構と、拡散防止装置とを備える。流路1は下向きに設けられている。ファン3は下流側(上方)に設けられている。
【0068】
作業面では、ホルマリンに浸して固定(細胞組織形態が変化するのを防止)した検体臓器を適切な大きさに切り出す作業が行われる。作業面は多数の通気孔が全面に設けられた平板により形成される。
【0069】
作業面下部には空間が設けられ、整流機構が配置されている。作業面で発生したホルムアルデヒドは、整流機構を介して均等に拡散防止装置に吸引されている。
【0070】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は下向きに設けられている。ファン3は下流側(上方)に設けられている。
【0071】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、下部空間奥に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6は切り出し作業台下面に設けられている。
【0072】
図7は、卓上切り出しフードへの実装例である。図8は、卓上切り出しフードの外観斜視図である。卓上切り出しフードをテーブル上に設置することで、切り出し作業台と同様の作業を行なう。テーブルが作業面となる。作業面では、ホルマリンに浸して固定(細胞組織形態が変化するのを防止)した検体臓器を適切な大きさに切り出す作業が行われる。卓上切り出しフードは左右の壁と前面のロールスクリーンにより、作業空間を囲う。
【0073】
作業面で発生したホルムアルデヒドは、奥側の壁に設けられた吸引機構により吸引されている。
【0074】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は上向きに設けられている。ファン3は下流側(上方)に設けられている。
【0075】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、壁奥に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6は卓上切り出しフード上面に設けられている。
【0076】
図9は、注液装置への実装例である。図10は、注液装置の外観斜視図である。注液装置は、キュービーテナー載置台と、作業スペース部と、複数面の壁と、シンクと、ろ過装置と、拡散防止装置とを備える。
【0077】
キュービーテナー載置台は、ホルマリンが充填されたキュービーテナーが載置される。作業スペース部は、キュービーテナー載置台の手前側で200~300mm程度低い位置に設けられる。作業スペース部には、容器が載置され、高低差による圧力により容器にホルマリンが注液される。キュービーテナーは複数の壁に囲まれている。作業スペース部手前にはシンクとろ過装置とが設けられている。注液から溢れたホルマリンはろ過装置によりろ過され廃液タンクに溜められる。
【0078】
ホルマリンが注液されるときや廃液処理されるとき、ホルムアルデヒドが発生し、各壁に設けられた吸引機構により吸引されている。
【0079】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は下向きに設けられている。ファン3は上流側(上方)に設けられている。
【0080】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、各壁に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6は注液装置下面に設けられている。
【0081】
図11は、プッシュプル型流し台への実装例である。図12は、プッシュプル型流し台の外観斜視図である。プッシュプル型流し台は、混合栓と、シンクと、エアカーテン発生装置と、拡散防止装置とを備える。
【0082】
エアカーテン発生装置は、シンク上方から斜め下方にエアを噴射するとともに、シンク下方から斜め上方にエアを噴射し、衝突させる(プッシュ)。流し台において、臓器検体や容器に付着しているホルマリンを洗浄するとき、ホルムアルデヒドが発生する。ホルムアルデヒドはエアカーテンを超えて拡散することはなく、吸引機構により吸引されている(プル)。
【0083】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は上向きに設けられている。ファン3は下流側(上方)に設けられている。
【0084】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、奥の壁に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6はプッシュプル型流し台上面に設けられている。
【0085】
図13は、保管棚への実装例である。図14は、保管棚の外観斜視図である。保管棚は、扉と、棚と、拡散防止装置とを備える。
【0086】
切り出し前の検体臓器や切り出し後の検体臓器はホルマリンにより浸され容器に保存される。容器は棚に保管される。容器を密閉すればらホルムアルデヒドが揮発するおそれはないが、不測の事態をも想定して、慎重に取り扱うことが重要である。容器からホルムアルデヒドが漏れ、保管棚内に拡散するおそれもある。
【0087】
扉には吸引孔が設けられ、保管庫外部と連通しており、陰圧とならない様に外部空気が供給される。保管棚内のホルムアルデヒドは奥側の壁に設けられた吸引機構により吸引される。
【0088】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は横向きに設けられている。ファン3は上流側(上方)に設けられている。
【0089】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、奥の壁に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6は保管棚上部に設けられている。
【0090】
図15は、プッシュプル型保管棚への実装例である。図16は、プッシュプル型保管棚の外観斜視図である。プッシュプル型保管棚は、エアカーテン発生装置と、棚と、拡散防止装置とを備える。
【0091】
切り出し前の検体臓器や切り出し後の検体臓器はホルマリンにより浸され容器に保存される。容器は棚に保管される。容器を密閉すれば、ホルムアルデヒドが揮発するおそれはないが、不測の事態をも想定して、慎重に取り扱うことが重要である。容器からホルムアルデヒドが漏れ、保管棚内に拡散するおそれもある。
【0092】
エアカーテン発生装置は、棚ごとに設けられ、それぞれ斜め上方にエアを噴射する(プッシュ)。保管棚内のホルムアルデヒドはエアカーテンを超えて拡散することはなく、奥側の壁に設けられた吸引機構により吸引される(プル)。なお、扉がなく取り出し容易である。
【0093】
拡散防止装置は、流路1と、吸気機構2と、ファン3と、酸化分解機構4と、化学吸着機構5と、排気機構6とを備える。流路1は横向きに設けられている。ファン3は上流側(上方)に設けられている。
【0094】
ファン3が稼働すると、ホルムアルデヒドは、奥の壁に設けられる吸気機構2から吸引され、酸化分解機構4により酸化分解され、化学吸着機構5により吸着され、ホルムアルデヒドが処理された気体が排気機構6から室内に排出される。排気機構6は保管棚上部に設けられている。
【0095】
~病理検査室~
図17は病理検査室の一例を示す図である。病理検査室には、切り出し作業台、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、保管棚などの各装置が設けられている。切り出し作業台に替えて卓上切り出しフードを用いてもよい。
【0096】
ところで一般に病理検査室は空間的な制約がある。例えば、狭い部屋に複数の装置を設置する必要がある。
【0097】
これに対し、本願拡散防止装置はコンパクト性を維持できるため、各装置それぞれに実装可能である。これにより、各装置においてホルムアルデヒド除去が完結する。分岐・合流等、各装置の排気流路のレイアウトに係る制約がない。これにより、病理検査室における空間的な制約が解消される。
【0098】
また、各装置が内部循環型拡散防止装置を備えることにより、空調した室内気体を無駄にすることがない。室内が陰圧になることもない。
【0099】
~内部循環の検討~
本願発明者が本願発明に至った思考過程について説明する。本願発明者は、酸化分解機構または化学吸着機構を用いて内部循環(室内排気)を実現することを試みた。しかしながら、管理濃度0.1ppm以下を実現することは困難であった。そこで、排気に酸素クラスターイオンを放出することにより、残留ホルムアルデヒド濃度を下げた。酸素クラスターイオンが汚染物質を包み込んで分解するものと思われる。
【0100】
しかしながら、酸素クラスターイオンを放出する機構が必須となり、拡散防止装置が大型化および高コスト化する。拡散防止装置が大型化すると、切り出し作業台、流し台、撮影台、注液装置、ろ過装置、保管棚などそれぞれに実装することは実務上不可能である。その結果、分岐・合流等、排気流路レイアウトを検討する必要がある。また、管理濃度を更に大幅改善(たとえば0.03ppm以下)することは困難であった。
【0101】
そこで、酸化分解機構と化学吸着機構とを併用することで内部循環を実現することを着想した。その際、酸化分解機構と化学吸着機構との役割分担について詳細に検討し、本反発明を完成させるに至った。
【符号の説明】
【0102】
1 流路
2 吸気機構
3 ファン
4 酸化分解機構
5 化学吸着機構
6 排気機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17