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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】尿素製造装置及び尿素製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/04 20060101AFI20240208BHJP
   C07C 275/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C07C273/04
C07C275/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023542574
(86)(22)【出願日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2023002846
(87)【国際公開番号】W WO2023153257
(87)【国際公開日】2023-08-17
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2022017752
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/放電プラズマによるCO2還元・分解反応の基盤研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000253075
【氏名又は名称】澤藤電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003890
【氏名又は名称】弁理士法人SIPPs
(72)【発明者】
【氏名】神原 信志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友規
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】滝谷 茂生
(72)【発明者】
【氏名】小寺 知一
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0043119(US,A1)
【文献】特開2017-164736(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0031681(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111848312(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体を備えた本体部と、
前記本体部の内部に配置される第一の電極と、
前記本体部の外部であって、少なくとも一部が前記第一の電極に対向して配置される第二の電極と、
を備えた尿素製造装置であって、
前記本体部と、前記第一の電極または前記第二の電極のいずれか一方の電極との間に形成される気体流路と、
一方が前記気体流路に接続され、他方が二酸化炭素貯蔵源に接続される第一の原料導入路と、
前記第一の原料導入路と異なる原料導入路であって、一方が前記気体流路に接続され、他方がアンモニア貯蔵源に接続される第二の原料導入路と、を備えており、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電圧を印加し、放電を発生可能であることを特徴とする尿素製造装置。
【請求項2】
前記第二の原料導入路は、前記第一の原料導入路とは入口から出口に至るまで異なる経路で形成されていることを特徴とする請求項1記載の尿素製造装置。
【請求項3】
前記気体流路が、前記本体部と前記第一の電極との間に形成され、
前記第一の電極の外周面と前記本体部の内周面との間の距離が0.1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の尿素製造装置。
【請求項4】
前記気体流路が、前記本体部と前記第二の電極との間に形成され、
前記第二の電極の内周面と前記本体部の外周面との間の距離が0.1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の尿素製造装置。
【請求項5】
前記気体流路の一方の端部に前記第一の原料導入路及び前記第二の原料導入路が接続され、前記気体流路の他方の端部に前記放電によるアンモニアと二酸化炭素の合成反応により生成された尿素を回収する回収部を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の尿素製造装置。
【請求項6】
誘電体を備えた本体部の内側に配置されている第一の電極と、前記本体部の外側に配置されている第二の電極との間で放電を発生させ、
前記本体部と、前記第一の電極または前記第二の電極のいずれか一方の電極との間に形成される気体流路に流入する二酸化炭素とアンモニアとをプラズマ化することにより尿素を製造する尿素製造方法であって、
前記気体流路に前記二酸化炭素を導入する工程と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間で放電を発生させて前記二酸化炭素をプラズマ化する工程と、
前記放電を継続している状態で、前記気体流路に前記アンモニアを導入する工程と、
前記放電を発生させて前記アンモニアをプラズマ化する工程と、
を備えていることを特徴とする尿素製造方法。
【請求項7】
前記気体流路に前記二酸化炭素を導入する工程は、第一の原料導入路より行い、
前記アンモニアを導入する工程は、前記第一の原料導入路とは入口から出口に至るまで異なる経路で形成された第二の原料導入路より行うことを特徴とする請求項6記載の尿素製造方法。
【請求項8】
前記気体流路に導入する前記二酸化炭素と前記アンモニアのモル比が、前記二酸化炭素:前記アンモニア=1:1以上1:3以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の尿素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素製造装置と尿素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを実現するために、二酸化炭素を固定し、資源として活用する技術の確立が求められている。たとえば、火力発電所等から排出される排ガス中の二酸化炭素を分離して回収し、回収した二酸化炭素から有用な化学物質を製造する検討が進められている。二酸化炭素の分離と回収に係る技術の中には、すでに実用化段階となったものがある。一方で、二酸化炭素を有用な物質に変換し利用する技術には、未だ改善の余地のあるものが多い。
【0003】
二酸化炭素を原料として製造可能な物質の一つに、尿素がある。尿素は,化学製品の原料や薬品、肥料として利用でき、二酸化炭素を再排出することのない二酸化炭素固定物質として優れている。
【0004】
現在、普及している尿素の製造方法は、二酸化炭素とアンモニアを直接反応させる直接合成法である。例えば、特許文献1には、従来技術として、温度160-250℃、圧力40MPaで、尿素の収率は50-60%であり、温度150-200℃、圧力8.2-12.4MPaで、尿素の収率が20-34%であることが開示されている。また、特許文献1には、尿素化合物の製造方法として、二酸化炭素を溶解させた水を反応媒体とし、水溶性の塩を触媒とし、アミン化合物原料として、式:R-NHで表されるアミン化合物を用いる合成方法が開示されている。特許文献1の実施例1には、二酸化炭素を炭酸ナトリウム水溶液に圧力5MPaで溶解させ、温度180℃でデシルアミンと反応させることでジデシルウレアを生成し、結果として溶解させた二酸化炭素を100%固定する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されているように、従来の尿素や尿素化合物の製造は、二酸化炭素の固定技術として有効である。しかしながら、従来の尿素の製造は高温且つ高圧の条件下で行われる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-111711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる現状に鑑みてなされものであって、高温且つ高圧を必要としない条件下で、二酸化炭素とアンモニアを原料として尿素を製造できる尿素製造装置および尿素製造方法の提供を、解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は尿素製造装置に関する。本発明の尿素製造装置は、誘電体を備えた本体部と、本体部の内部に配置される第一の電極と、本体部の外部であって、少なくとも一部が第一の電極に対向して配置される第二の電極と、を備えた尿素製造装置であって、本体部と、第一の電極または第二の電極のいずれか一方の電極との間に形成される気体流路と、一方が気体流路に接続され、他方が二酸化炭素貯蔵源に接続される第一の原料導入路と、第一の原料導入路と異なる原料導入路であって、一方が気体流路に接続され、他方がアンモニア貯蔵源に接続される第二の原料導入路と、を備えており、第一の電極と第二の電極との間に電圧を印加し、放電を発生可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明の尿素製造装置は、気体流路の内部及び外部に配置された第一の電極と第二の電極との間に電圧を印加して放電を発生させることにより、気体流路に導入された二酸化炭素及びアンモニアをプラズマ化して反応させることにより、尿素を製造することができる。
【0010】
気体流路が、本体部と第一の電極との間に形成され、第一の電極の外周面と本体部の内周面との間の距離が0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0011】
気体流路が、本体部と第二の電極との間に形成され、第二の電極の内周面と誘電体の外周面との間の距離が0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0012】
気体流路の一方の端部に第一原料導入路及び第二原料導入路が接続され、気体流路の他方の端部に前記放電によりアンモニアと二酸化炭素の合成反応により生成された尿素を回収する回収部を備えていることが好ましい。
【0013】
また、本発明は尿素製造方法を提供する。本発明の尿素製造方法は、誘電体を備えた本体部の内側に配置されている第一の電極と、本体部の外側に配置されている第二の電極との間で放電を発生させ、本体部と、第一の電極または第二の電極のいずれか一方の電極との間に形成される気体流路に流入する二酸化炭素とアンモニアとをプラズマ化することにより尿素を製造する尿素製造方法であって、気体流路に二酸化炭素を導入する工程と、第一の電極と第二の電極との間で放電を発生させて二酸化炭素をプラズマ化する工程と、放電を継続している状態で、気体流路にアンモニアを導入する工程と、放電を発生させてアンモニアをプラズマ化する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の尿素製造方法は、気体流路に導入する二酸化炭素とアンモニアのモル比が、二酸化炭素:アンモニア=1:1以上1:3以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のことから、本発明の尿素製造装置および尿素製造方法は、高温且つ高圧を必要としない条件下で、二酸化炭素とアンモニアを原料として尿素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の好適な尿素製造装置の縦断面図を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明の尿素製造装置に供給するアンモニアと二酸化炭素のモル比と尿素生成量との関係を示すグラフである。
図3図3は、本発明の尿素製造装置に供給する原料に占めるアンモニアの割合と二酸化炭素の転換率との関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の尿素製造装置で製造した物質の、プロトン核磁気共鳴による分析結果を示す図である。
図5図5は、本発明の尿素製造装置で製造した物質の、フーリエ変換赤外線分光法による分析結果を示す図である。
図6図6は、本発明の別実施例の尿素製造装置の縦断面図である。
図7図7は、本発明の好適な尿素製造方法のフローチャートである。
図8図8は、本実施例の尿素製造装置を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の尿素製造装置と尿素製造方法の好適な実施形態を列記する。
(1)尿素製造装置の容器は、円筒状の誘電体を備えた本体部材(本発明における本体部)と、本体部材の内部に第一の電極を保持する封止部材とを備えている。
(2)本体部材の誘電体は、アルミナなどのセラミックス、チタン酸バリウム、ポリカーボネート、アクリルなどの絶縁性の高い樹脂、石英ガラスなどのガラス、およびこれらの材料の組み合わせによって構成することができる。誘電体として最も好ましい材料は、石英ガラスである。
(3)好ましい封止部材は、シリコーン製のOリングである。
(4)第一の電極は断面円形の棒状であり、その全長は容器の本体部材よりも長い。第一の電極の両端部には、封止部材の一部を収容する凹部が形成されている。第一の電極は、凹部に封止部材を係合した状態で本体部材の内部に収容されることで、本体部材に対して同心円状に固定される。
(5)封止部材は、第一の電極の外周面と容器の本体部材の内周面との間を閉鎖する。本体部材と第一の電極との間に、距離が0.1mm以上5mm以下の気体流路が形成される。
(6)第二の電極は、本体部材の外周面に接した状態で、第一の電極に対向する位置に配置される。第一の電極と第二の電極との間の気体流路内で後述するアンモニアと二酸化炭素の合成反応が生じる。
(7)第一の電極は、両側の端部が本体部材から外側に突出するように固定される。
(8)気体流路の一方の端部には、二酸化炭素貯蔵源と気体流路とを接続する第一の原料導入路と、アンモニア貯蔵源と気体流路とを接続する第二の原料導入路とが接続されている。第一の原料導入路と第二の原料導入路とは異なった(独立した)流路であり、アンモニアと二酸化炭素を混合させずに、気体流路に流入させることができる。
(9)気体流路の他方の端部には、回収部に接続される気体導出路が接続されている。
(10)気体導出路の出口には冷却槽と回収部が設けられており、主に、尿素及び尿素製造段階で排出される余剰のアンモニアを回収することができる。また、回収部は、冷却槽により冷却されることにより、効率よく尿素を回収することができる。
(11)尿素製造方法においては、最初に、二酸化炭素貯蔵源から二酸化炭素を気体流路に供給し、気体流路内に二酸化炭素を流入させ、第一の電極と第二の電極間で放電を行い、当該放電を継続した状態で、アンモニア貯蔵源から気体流路内にアンモニアを流入させる。
(12)尿素製造方法においては、第一の電極と第二の電極との間で放電を行う間、気体流路内部の温度を尿素の融点(135℃)以上とすることが好ましい。
【実施例
【0018】
<実施例1>
以下、本発明にかかる尿素製造装置の好適な実施例1について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施例の尿素製造装置1を模式的に示す縦断面図である。尿素製造装置1は、容器を構成する本体部材2及び封止部材5と、第一の電極3と、第二の電極4とを備えている。
【0019】
本実施例の本体部材2は、円筒状の石英ガラス(誘電体)で形成されている。また本実施例の封止部材5は、シリコーン製のOリングである。封止部材5は、本体部材2の両端部の内側に配置されて、第一の電極3を保持する。
【0020】
第一の電極3は断面円形の棒状のSUS材からなる電極であり、その全長は本体部材2よりも長い。第一の電極3の両端部には、封止部材5を部分的に収容し、位置決めする凹部(図示略)が設けられている。第一の電極3は電気的に接地されている。
【0021】
第一の電極3は、凹部に封止部材5を係合した状態で、本体部材2の中心軸に沿うように、本体部材2の内部に収容されることで、本体部材2に対して同心円状に配置される。第一の電極3は、両側の端部が本体部材2から外側に延在するように固定される。封止部材5は、第一の電極3の外周面と本体部材2の内壁面との間を所定の距離で閉鎖し、気体流路11を規定する。気体流路11内部は、従来技術と比較して高圧ではない状態にある。
【0022】
第二の電極4は、円筒状のSUS材で形成されており、本体部材2の外周面に接した状態で、第一の電極3に対向する位置に配置される。即ち、第一の電極3と第二の電極4は少なくとも一部が対向する一対の電極を構成する。第二の電極4は電源6に接続されており、電圧の印加によって、第一の電極3と第二の電極4の間で誘電体バリア放電を発生させる。好適な電源6は、両極性パルス波形を発生させて、電子エネルギー密度の高い電力を第二の電極4に供給する電源である。第一の電極3と第二の電極4との間の気体流路11で、後述する式1~式3に示す尿素の合成反応が生じる。なお、当該尿素の合成反応については、第一の電極3と第二の電極4が対向する領域に限らず、気体流路11の第一の電極3と第二の電極4が対向していない領域内でも生じる。
【0023】
第一の電極3の一端部(図1における左側端部)に、気体流路11に連通する二個の貫通穴が形成されている。(第一の電極3に形成された)二個の貫通穴は、それぞれが、第一の原料導入路12の一部と第二の原料導入路13の一部を構成する。二個の貫通穴は、ともに一方が第一の電極3の軸方向側面に開口しており、他方が第一の電極3の半径方向側面に開口している。第一の原料導入路12と第二の原料導入路13は、それぞれが入口から出口に至るまで異なる経路(換言すれば、独立した経路)として形成されている。第一の原料導入路12の気体原料と第二の原料導入路13の気体原料は、混じり合うことなく、それぞれ個別に気体流路11に供給される。これにより、気体流路に流入する手前でアンモニアと二酸化炭素の合成を防止し、気体流路内でアンモニアと二酸化炭素の合成をさせることができる。
【0024】
第一の原料導入路12は、二酸化炭素貯蔵源7と気体流路11とを接続しており、稼働時には気体流路11に二酸化炭素を供給する二酸化炭素導入路となる。本実施例における第一の原料導入路12は、第一の電極3の貫通穴の入口に二酸化炭素貯蔵源7から延びる配管を接続して形成されている。第一の原料導入路12上にはバルブ15が設けられており、二酸化炭素の供給量と供給タイミングを制御する。
【0025】
第二の原料導入路13は、アンモニア貯蔵源8と気体流路11とを接続しており、稼働時には、気体流路11にアンモニアを導入するアンモニア導入路となる。本実施例における第二の原料導入路13は、第一の電極3の貫通穴にアンモニア貯蔵源8から延びる配管を接続して形成されている。第二の原料導入路13上にはバルブ16が設けられており、アンモニアの供給量と供給タイミングを制御する。
【0026】
本実施例における尿素製造装置1は、気体導出路14を備えている。気体導出路14は、第一の電極3の他端部(図1における右側端部)に設けられて気体流路11と外部とを連通させる貫通穴と、貫通穴から回収部9まで延びる配管で構成される。気体導出路14は、製造した尿素が通過する他、尿素に転換しなかった原料を含む排出ガスを排出する流路としても使用される。気体導出路14の出口には回収部9が配置されている。回収部9は、主に、製造された尿素、及び(尿素の合成に用いられなかった)アンモニアを回収することができる。
【0027】
なお、本実施例では、回収部9は、冷却槽10によって冷却され尿素の回収効率をより向上させている。また、気体導出路14から排出された二酸化炭素は、例えば、フィルタ等を介して、二酸化炭素貯蔵源7に戻してもよいし、また、敢えて図示はしないが何らかの手段により回収されるようにしてもよい。
【0028】
尿素製造装置1に二酸化炭素を供給する二酸化炭素貯蔵源7とは、二酸化炭素を固体または気体の状態で貯蔵する容器であってもよい。また、二酸化炭素貯蔵源7は、二酸化炭素を製造させる装置であってもよい。同様に、アンモニア貯蔵源8とは、アンモニアを液体または気体の状態で貯蔵する容器や、アンモニアを製造させる装置であってもよい。
【0029】
第一の電極3の外周面と本体部材2の内周面との間には、径方向の距離が0.1mm以上5mm以下の気体流路11が形成されている。また、第一の電極3の外周面は、第一の電極3の軸心を中心とした半径方向外側の表面をいい、容器の本体部材2の内周面は、容器の軸心を中心とした半径方向内側の表面をいう。なお、第一の電極3の外周面と本体部材2の内周面との間の距離とは、軸方向において、第一の電極3の外周面と本体部材2の内周面の間の径方向距離が最も近い距離を意味する。
【0030】
本体部材2と第一の電極3との間の距離を0.1mm以上とすることにより、尿素の前駆体の生成を防止し、この尿素の前駆体による気体流路11のつまりを防止することができ、結果として、尿素の製造が停止することを防止することができる。
【0031】
また、本体部材2と第一の電極3との間の距離を5mm以下とすることにより、気体流路11で放電を均一に発生させることができる。即ち、本実施例における尿素製造装置1は、十分に気体原料(主に、アンモニア、二酸化炭素)をプラズマ化することができ、尿素の製造量の低下を防止することができる。
【0032】
気体流路11内は、放電によるジュール熱により5~10分で135℃に昇温される。即ち、気体流路11内は、従来と比較して、低温である。また、本実施例において、第一の電極3および気体導出路14は、電熱性の良い金属である。このため、気体流路11の熱を受け、気体の状態を維持した尿素を回収部9に排出することができる。そのため、気体流路11及び気体導出路14については、尿素を気体のまま維持するために、例えば、ヒーターによる加熱を必要としない。
【0033】
本実施例の尿素製造装置1で製造される尿素は、第一の電極3と第二の電極4の放電時に生成され、回収部9から固体の状態で回収される。なお、尿素の回収については、第一の原料導入路12および第二の原料導入路13から水を注入し、固体の尿素を水に溶かして気体導出路14から尿素を排出する手段を用いてもよい。
【0034】
本実施例の尿素製造装置1を用いて尿素を製造する工程について説明する。尿素製造装置1の気体流路における、尿素の合成反応を以下の式1から式4に示す。
CO+e → CO+0.5O +e (式1)
NH+e → NH+0.5H +e (式2)
CO+(2NH+H) → NHCONH + H (式3)
+0.5O → HO (式4)
【0035】
式1は、二酸化炭素がプラズマとなることで、一酸化炭素と酸素に分解した状態を示している。式2は、アンモニアがプラズマとなることで、アンモニアイオン(イミド)と水素に分解した状態を示している。式3は、一酸化炭素とアンモニアイオンが反応することによって、尿素が合成される反応を示している。式4は、式1で発生した酸素と式3で発生した水素が反応し、水を生成する反応を示している。
【0036】
尿素製造装置1を使用した尿素製造方法を、図7にフローチャートとして示す。以下、図7を参照しつつ、尿素の製造方法の実施例について説明する。
【0037】
まず、二酸化炭素貯蔵源7から第一の原料導入路12を経由して、気体流路11に二酸化炭素を供給する(ステップ1)。
【0038】
次に、気体流路11に二酸化炭素が供給されている状態で、第二の電極4に電力を供給し、第一の電極3と第二の電極4との間に放電を発生させる(ステップ2)。このステップ2においては、上述した式1に相当する化学反応が生じる。即ち、放電によって、気体流路11内の二酸化炭素はプラズマとなり、一酸化炭素と酸素に分解する。本実施例では、一例として、第二の電極4に供給する電力を電圧16kV、放電頻度10kHzとしている。
【0039】
さらに、第一の電極3と第二の電極4のジュール熱によって、気体流路11の雰囲気温度は135℃に昇温する(ステップ3)。
【0040】
次に、第一の電極3と第二の電極4間の放電を継続させている状態で、気体流路11にアンモニア貯蔵源8から気体流路11にアンモニアを導入する(ステップ4)。このステップ4においては、上述した式2に相当する反応により、気体流路11内のアンモニアは、プラズマとなり、アンモニアイオンと水素に分解される。なお、ステップ4においては、式1に示す化学反応も同時に生じる。
【0041】
次に、式3に相当する化学反応が生じる。要するに、ステップ2およびステップ5において生成されたアンモニアイオンと一酸化炭素が合成反応することによって尿素が製造される(ステップ5)。
【0042】
最後に、製造された尿素は回収部9にて回収される(ステップS6)。
【0043】
以上のステップを用いた尿素製造方法により、尿素製造装置1は尿素を製造できる。
【0044】
以下では、上記のステップにより、プラズマ化した二酸化炭素とアンモニアから尿素を製造できたことについて詳述する。
【0045】
まず、図4図5に示すように、二酸化炭素に対するアンモニアのモル比が1.0、すなわち、二酸化炭素に対するアンモニアの混合割合を体積比で1:1として、二酸化炭素及びアンモニアをプラズマ化させることにより製造した析出物を分析した結果、析出物は尿素であることを確認できた。
【0046】
図4は、製造した物質のプロトン核磁気共鳴による分析結果を示す図である。図5は、フーリエ変換赤外線分光法による分析結果を示す図である。図4に示すように、析出物は、(一部に前駆体である炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムを含む)高濃度の尿素であることを確認できた。また、図5に示すように、析出物は、尿素特有の化学構造であるカルボニル基を有し、尿素として同定できるものである。
【0047】
また、図3は、二酸化炭素に対するアンモニアの添加割合と、二酸化炭素の転換率の関係を示す。上述の図4図5に示す分析結果と相まって、アンモニアの混合割合を体積比で1:1(50%:50%)とした場合、二酸化炭素の尿素への転換率は33%であることを確認できた。
【0048】
また、後述する二酸化炭素に対するアンモニアの混合割合を10%以上とした場合に尿素の生成量が向上することを確認できた。これに対し、二酸化炭素に対するアンモニアの添加割合を10%未満とした場合、カルバミン酸アンモニウムが生成され、尿素の製造量が減少することを確認できた。
【0049】
即ち、本実施例は、図3図5に示す分析結果に示すように、二酸化炭素に最適な量のアンモニアを混合させ、それらをプラズマ化させることにより、効率よく尿素を製造できる。
【0050】
更に、本実施例の尿素製造方法は、二酸化炭素とアンモニアの導入時期及びモル比を制御し、より効率よく尿素を製造している。
【0051】
まず、本実施例における二酸化炭素とアンモニアの『導入時期』について説明する。
【0052】
一般的に、二酸化炭素とアンモニアの両方が気体流路11に存在している状態で電圧を印加した場合、尿素の前駆体であるカルバミン酸アンモニウムが生成されてしまうため、尿素の回収率が低下してしまう。
【0053】
これに対し、本実施例では、二酸化炭素とアンモニアの導入時期を制御し、二酸化炭素が放電でプラズマとなっているときにアンモニアを導入することにより、二酸化炭素が高い転換率で尿素となる。
【0054】
次に、導入する二酸化炭素とアンモニアのモル比について説明する。
【0055】
図2に、尿素製造装置1に供給する二酸化炭素の流量とアンモニアの流量をそれぞれ0.1L/minとした場合におけるアンモニアと二酸化炭素のモル比(1.0~3.0)と尿素生成量との関係を示す。二酸化炭素に対するアンモニアのモル比が1.0または3.0の場合と比較して、二酸化炭素に対するアンモニアのモル比が2.0の場合が、最も尿素を多く生成することができる。
【0056】
なお、このことは、量論値(NH/CO=2.0)とも一致しており、一酸化炭素とアンモニアイオンの直接反応で効率よく尿素を製造できていることは明らかである。
【0057】
以上のことから、本実施例の尿素製造装置と尿素製造方法は、製造工程において高温且つ高圧条件を適用することなく、尿素を製造できる。また、本実施例の尿素製造装置と尿素製造方法は、導入する二酸化炭素とアンモニアのモル比を最適化することで、効率よく尿素を製造することができる。
【0058】
<実施例2>
次に、図8を用いて、本発明にかかる尿素製造装置の実施例2について説明する。図8は、本実施例の尿素製造装置101を模式的に示す縦断面図である。
【0059】
実施例2では、各部品番号の下二桁が実施例1と同一の番号である場合には、実施例1における同一機能をもつ部品を意味する。
【0060】
実施例2に示す尿素製造装置は、主に気体流路111の位置が実施例1と異なっている。具体的には、本実施例では、気体流路111は、本体部材(誘電体)102と第二の電極104との間に形成されている。第二の電極104の内周面と本体部材102の外周面との間の距離が0.1mm以上5mm以下である。
【0061】
また、実施例2では、気体導出路114が2つ形成されている構成を備えていることも実施例1と異なっている。
【0062】
本実施例におけるその他の構成については、第1実施例とほぼ同一である。即ち、尿素製造装置101は、誘電体を備えた本体部材102と、本体部材102の内部に配置される第一の電極103と、本体部材102の外部であって、少なくとも一部が第一の電極103に対向して配置される第二の電極104と、を備えている。尿素製造装置101は、本体部材102と、第二の電極104との間に形成される気体流路111と、一方が気体流路111に接続され、他方が二酸化炭素貯蔵源107に接続される第一の原料導入路112と、第一の原料導入路112と異なる原料導入路であって、一方が気体流路111に接続され、他方がアンモニア貯蔵源108に接続される第二の原料導入路113と、を備えており、第一の電極103と第二の電極104との間に電圧を印加し、放電を発生可能である。
【0063】
また、尿素製造装置101は、以下の構成のように捉えることもできる。気体が流入する気体導入路(第一の原料導入路112、第二の原料導入路113)と、気体が排出される気体導出路114と、気体導入路および気体導出路114と接続される気体流路111を備えている。尿素製造装置101は、気体流路111が、誘電体を備えた本体部材102と、本体部材102の両側に少なくとも一部が対向するように一対の電極(第一の電極103、第二の電極104)を備えており、本体部材102と第二の電極104との間に形成されている。気体導入路は、一方が気体流路111に接続され、他方が二酸化炭素貯蔵源107に接続される第一の原料導入路112と、第一の原料導入路112と異なる原料導入路であって、一方が気体流路111に接続され、他方がアンモニア貯蔵源108に接続される第二の原料導入路113と、を備えている。尿素製造装置101は、一対の電極の電極(第一の電極103、第二の電極104)間に電圧を印加し、放電を発生可能である。
【0064】
更に、本実施例の尿素製造方法は、本体部材102の内側に配置されている第一の電極103と、本体部材102の外側に配置されている第二の電極104との間で放電を発生させ、本体部材102と前記第二の電極104との間に形成される気体流路111に流入する二酸化炭素とアンモニアとをプラズマ化することにより尿素を製造する尿素製造方法である。本尿素製造方法は、気体流路111に二酸化炭素を導入する第1の工程と、第一の電極103と第二の電極104との間で放電を発生させて二酸化炭素をプラズマ化する第2の工程と、放電を継続している状態で、気体流路111にアンモニアを導入する第3の工程と、放電を発生させてアンモニアをプラズマ化する第4の工程と、を備えている。
【0065】
以上の構成により、本実施例の尿素製造装置101と尿素製造方法は、従来よりも低温で、且つ大気圧の条件下で尿素を製造することができる。要するに、本実施例の尿素製造装置101と尿素製造方法は、製造工程に高温且つ高圧を必要としない条件下で尿素を製造できる。
【0066】
実施例1、2の尿素製造装置1、101は、ともに大気圧下で使用することができ、例えば、尿素製造装置1、101内部に圧力を付与する加圧装置等が不要となるため、より小型に装置を構成することができる。
【0067】
また、実施例1、2の尿素製造装置1、101は、他の設備への組み込みや、二酸化炭素の排出経路への設置によって、様々な工程における二酸化炭素の排出量削減を図ることができる。
【0068】
更に、実施例1、2の尿素製造装置1、101で使用するアンモニアは、二酸化炭素を排出しない工程で製造されたグリーンアンモニア、または二酸化炭素の排出量の少ない工程で製造されたブルーアンモニアを用いることによって、二酸化炭素の固定量を一層増大させることができる。
【0069】
以上、実施例1及び実施例2に基づいて本発明の尿素製造装置および尿素製造方法にかかる技術を説明したが、特許請求の範囲は、実施例に限定されるものではなく、尿素製造装置と尿素製造方法の構成は適宜変更が可能である。たとえば、電圧を第一の電極に印加することも可能である。図6に、代替的な尿素製造装置の電極の配置例を示す。実施例では、第一の電極を接地し、第二の電極を電源に接続して電力を供給していたが、図6のように、第一の電極に電力を供給し、第二の電極を接地してもよい。また、第一の原料導入路と第二の原料導入路については、第一の電極の貫通穴を経由させず、二酸化炭素貯蔵源とアンモニア貯蔵源からのそれぞれの配管を直接気体流路に導入しても良い。
【0070】
また、本体部材、第一の電極、第二の電極の軸方向の長さ関係については、図6に示すように、第一の電極が最も長く、本体部材、第二の電極の順に短くなっているが、第一の電極、第二の電極間で誘電体バリア放電を生じさせることができれば、これらの部材の軸方向長さの関係でもよい。例えば、第一の電極より本体部材(誘電体)を長くしてもよい。
【0071】
また、気体流路については、流路の少なくとも一部を周方向に蛇行させる、いわゆるラビリンス構造を採用してもよい。この構成により、アンモニアの前駆体の生成による流路のつまりをさせない範囲で、プラズマ放電下で原料ガスの滞留時間を長くし、より十分な原料ガスの合成反応を行うことができる。
【0072】
また、第1電極については、複数に分割して、2個以上の電極であってもよい。この場合、第1電極を形成する各電極の少なくとも一部が第2電極との間で対向する位置関係にあればよい。第2電極についても同様に複数に分割してもよい。
【0073】
実施例1においては気体導出路が1つ、実施例2においては気体導出路が2つ形成されているが、気体導出路については、1つまたは2つでもよいし、3つ以上形成されていてもよい。
【0074】
また、気体導入路についても気体導出路と同様に個数は限定しない。第1原料導入路および第2原料導入路をそれぞれ1つずつの合計2つであるが、第1原料導入路および第2原料導入路が気体流路に入力されるまでに異なった(独立した)流路であればよく、例えば、第1原料導入路および第2原料導入路をそれぞれ複数備え、2つ以上形成してもよい。
【0075】
第1実施例、第2実施例では、大気圧の条件下で尿素製造装置を用いて、尿素を製造しているが、高圧にならない範囲で尿素製造装置(より具体的には気体流路)に圧力をかけてもよい。
【0076】
また、第1実施例、第2実施例では、伝熱性のよい金属製の気体導出路を用いているが、他の材料であってもよい。また、尿素等の排出する気体の状態を維持するために気体導出路を保温部材や加熱部材を配置してもよい。
【0077】
第1実施例の本体部材については、誘電体のみで形成されているが、誘電体と他の部材を組み合わせた部材であってもよい。ただし、この場合、本体部材の内、第1電極、第2電極が対向する領域については、誘電体で形成されている。
【符号の説明】
【0078】
1、101 尿素製造装置
2、102 本体部材
3、103 第一の電極
4、104 第二の電極
5、105 封止部材
6、106 電源
7、107 二酸化炭素貯蔵源
8、108 アンモニア貯蔵源
9、109 回収部
10、110 冷却槽
11、111 気体流路
12、112 第一の原料導入路
13、113 第二の原料導入路
14、114 気体導出路
15、16、115、116 バルブ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8