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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】塗膜剥離剤及び塗膜の剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 9/00 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
C09D9/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019080128
(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2020176220
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000123491
【氏名又は名称】化研テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 薫夫
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 恒治
(72)【発明者】
【氏名】中塚 祥一
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224165(JP,A)
【文献】特開昭61-098776(JP,A)
【文献】特開2020-152753(JP,A)
【文献】特開平10-168364(JP,A)
【文献】特表2001-502376(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0023047(US,A1)
【文献】特開2009-179860(JP,A)
【文献】特開平09-235497(JP,A)
【文献】特開2016-069633(JP,A)
【文献】特開2017-155199(JP,A)
【文献】特開2004-250573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に設けられた塗膜を剥離するための塗膜剥離剤であって、
下記式(1)で表される芳香族アルコールと、
水とを含み、
前記水は、その含有割合が前記塗膜剥離剤の全量に対して10~94質量%であり、
前記芳香族アルコールの含有割合と、前記水の含有割合との合計は、前記塗膜剥離剤の全量に対して90質量%以上100質量%以下であり、
ジメチルスルホキシド及びN-メチルピロリドンを含まず、
セルロース誘導体、無機アルカリ化合物及び過酸化物それぞれの含有割合が前記塗膜剥離剤の全量に対して0質量%を超えて0.01質量%以下であるか、又は、前記セルロース誘導体、前記無機アルカリ化合物及び前記過酸化物を含まず、
前記塗膜は、塗料に由来する塗膜であり、
前記塗料は、ポリエステル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、アルキドメラミン樹脂塗料、又はニトロセルロース系塗料を含み、
前記塗料は、フラックス、ドライフィルムレジスト、及びソルダーペーストを含まない、塗膜剥離剤。
【化1】

(式(1)中、
Lは-(CH-(nは1又は2の整数)、及び、-CH-O-C-からなる群より選ばれる2価の基を示し、
Rは水素原子を示す。)
【請求項2】
前記芳香族アルコールを含む有機相と、前記水を含む水相とを含み、
前記塗膜を剥離する温度において静置時に、前記有機相からなる第一層と前記水相からなる第二層とを含む少なくとも2層以上に分離している、請求項1に記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
前記Lは炭素数1又は2のアルキレン基を示し、前記Rは水素原子を示す、請求項1又は請求項2に記載の塗膜剥離剤。
【請求項4】
炭素数4~12の脂肪族炭化水素を更に含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【請求項5】
基材の表面に設けられた塗膜の剥離方法であって、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤を前記塗膜に接触させることを含み、
前記塗膜は、塗料に由来する塗膜であり、
前記塗料は、ポリエステル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、アルキドメラミン樹脂塗料、又はニトロセルロース系塗料を含み、
前記塗料は、フラックス、ドライフィルムレジスト、及びソルダーペーストを含まない、塗膜の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜剥離剤及び塗膜の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドア等の被塗装物への塗装は、通常塗装用の固定治具又は可動式治具(ストッパー治具等)に上記被塗装物を固定した状態で行われている。このような塗装用治具を用いた塗装では、複数回の塗装を行うと上記塗装用治具にも塗料が付着する傾向がある。上記塗装用治具に塗料が付着し硬化すると、例えば、静電塗装時において上記塗装用治具が導通不良を起こす場合がある。そのため、上記塗装用治具に付着した塗料(以下、「塗膜」という場合がある。)は定期的に、剥離する必要がある。
【0003】
特開2009-203403号公報(特許文献1)には、高温使用時でも鉄系素材に錆を発生させないように腐食抑制添加成分を添加した塗膜用水系剥離剤であって、1価または2価のアルコール系溶剤を5~90重量%、水を5重量%以上、腐食抑制添加成分としてグルコン酸塩を0.01~10重量%含有することを特徴とする塗膜用水系剥離剤が開示されている。
【0004】
特開平5-279607号公報(特許文献2)には、N-メチル-2-ピロリドンを70~100重量%、および水を0~30重量%含有する液から成る、金属表面に付着した熱硬化性樹脂の塗膜剥離剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-203403号公報
【文献】特開平5-279607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、塗装品質(艶、輝き、塗装不良の低減等)に要求される水準が高まっている。例えば、塗装用治具に付着した塗膜が脱落又は飛散し被塗装物に付着することがあり、このような異物混入による塗装不良を減らすことが求められている。上記塗装不良を減らすために、塗装を1回行う毎に塗装用治具を清浄化することが求められており、これまで以上に短時間で塗膜を剥離できる塗膜剥離剤の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、剥離性に優れ、繰り返しの利用に適した塗膜剥離剤、及び塗膜の剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、特定の構造を有する芳香族アルコールと水とを含む塗膜剥離剤が、剥離性に優れ、更に繰り返しの利用に適していることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]基材の表面に設けられた塗膜を剥離するための塗膜剥離剤であって、
下記式(1)で表される芳香族アルコールと、
水とを含み、
上記水は、その含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して10~94質量%である塗膜剥離剤。
【化1】

(式(1)中、
Lは炭素数1~6の2価の炭化水素基を示し、
Rは水素原子、又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、上記2価の炭化水素基に含まれる-CH-は、-O-に置き換わっていてもよい。)
[2]上記芳香族アルコールを含む有機相と、上記水を含む水相とを含み、
上記塗膜を剥離する温度において静置時に、上記有機相と上記水相とを含む少なくとも2層以上に分離している、[1]に記載の塗膜剥離剤。
[3]上記芳香族アルコールの含有割合と、上記水の含有割合との合計は、上記塗膜剥離剤の全量に対して90質量%以上100質量%以下である、[1]又は[2]に記載の塗膜剥離剤。
[4]セルロース誘導体、無機アルカリ化合物及び過酸化物それぞれの含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して0質量%を超えて0.01質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の塗膜剥離剤。
[5]上記セルロース誘導体、上記無機アルカリ化合物及び上記過酸化物を含まない、[4]に記載の塗膜剥離剤。
[6]上記Lは炭素数1~3のアルキレン基を示し、上記Rは水素原子を示す、[1]~[5]のいずれかに記載の塗膜剥離剤。
[7]上記芳香族アルコールは、ベンジルアルコール、4-イソプロピルベンジルアルコール、1-フェニルエタノール、フェネチルアルコール、γ-フェニルプロピルアルコール、α,α-ジメチルフェネチルアルコール、1-フェニル-1-プロパノール、シンナミルアルコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、及びベンジルグリコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
[8]炭素数4~12の脂肪族炭化水素を更に含む、[1]~[7]のいずれかに記載の塗膜剥離剤。
[9]基材の表面に設けられた塗膜の剥離方法であって、[1]~[8]のいずれかに記載の塗膜剥離剤を上記塗膜に接触させることを含む、塗膜の剥離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離性に優れ、繰り返しの利用に適した塗膜剥離剤、及び塗膜の剥離方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、従来の塗膜剥離剤を用いた場合における剥離のメカニズムを説明する模式図(上)、及び剥離処理後の処理液(塗膜剥離剤と塗膜とを含む)の写真(下)である。
図2図2は、本実施形態に係る塗膜剥離剤を用いた場合における剥離のメカニズムを説明する模式図(上)、及び剥離処理後の処理液(塗膜剥離剤と塗膜とを含む)の写真(下)である。
図3図3は、塗膜剥離剤中の水分含有割合と剥離性との相関関係を示すグラフである。
図4図4は、塗膜剥離剤中の塗膜固形分の含有割合と剥離性との相関関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例の試料No.3-1の塗膜剥離剤と比較例の試料No.3-12の塗膜剥離剤それぞれを撹拌した後、静置したときの経時変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X~Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味する。Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。
【0013】
≪塗膜剥離剤≫
本実施形態に係る塗膜剥離剤は、基材の表面に設けられた塗膜を剥離するための塗膜剥離剤であって、
下記式(1)で表される芳香族アルコールと、
水とを含み、上記水は、その含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して10~94質量%である。式(1)中、Lは炭素数1~6の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、上記2価の炭化水素基に含まれる-CH-は、-O-に置き換わっていてもよい。
【0014】
【化2】
【0015】
上記塗膜剥離剤は、基材の表面に設けられた塗膜を剥離するために用いられる。上記基材としては、通常用いられる材料であればどのような基材であってもよい。上記基材の材料としては、例えば、鉄、SUS、及びアルミニウム等の金属、並びに、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びエポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0016】
上記基材の表面に設けられた塗膜は、通常用いられる塗料に由来する塗膜であればどのような塗膜であってもよい。上記塗料としては、例えば、ポリエステル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、アルキドメラミン樹脂塗料、及びニトロセルロース系塗料などが挙げられる。
上記塗膜は、上記基材の直上に設けられていてもよい。上記基材の表面が粗い場合、上記塗膜は、金属めっき(Ni、Sn、Cr、Cu等)及び、上記塗膜とは種類が異なる樹脂材料のコーティングなどのプレコートを介して基材の上に設けられていてもよい。
【0017】
<芳香族アルコール>
上記塗膜剥離剤は、芳香族アルコールを含む。上記芳香族アルコールは、上記式(1)で表される。上記芳香族アルコールは、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記芳香族アルコールは、市販品をそのまま用いてもよい。
【0018】
上記式(1)中、Lは炭素数1~6の2価の炭化水素基を示す。上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。上記2価の炭化水素基に含まれる-CH-は、-O-に置き換わっていてもよい。上記2価の炭化水素基に含まれる-CH-が-O-に置き換わっている場合、置き換わる前の炭素数を当該炭化水素基の炭素数とする。
Lは、-(CH-(nは1~6の整数、好ましくは1~3の整数)、-(O-C-(mは1又は2の整数)、-CH=CH-CH-、-CH-C(CH-、-CH(CH)-、及び-CH-O-C-からなる群より選ばれる2価の基であることが好ましい。Lは、-(CH-(nは1~3の整数)で示される2価の基であることがより好ましい。
【0019】
上記式(1)中、Rは水素原子、又は炭素数1~3の炭化水素基を示す。上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基であることが好ましい。Rは、水素原子であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態の一側面において、上記式(1)中、上記Lは炭素数1~3のアルキレン基(すなわち、-(CH-(nは1~3の整数))を示し、上記Rは水素原子を示すことが好ましい。
【0021】
上記芳香族アルコールは、ベンジルアルコール、4-イソプロピルベンジルアルコール、1-フェニルエタノール、フェネチルアルコール、γ-フェニルプロピルアルコール、α,α-ジメチルフェネチルアルコール、1-フェニル-1-プロパノール、シンナミルアルコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、及びベンジルグリコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。上記芳香族アルコールは、ベンジルアルコールを含むことがより好ましい。上述した芳香族アルコールの構造式を以下に示す。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
上記芳香族アルコールは、その含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して6~90質量%であることが好ましく、10~87質量%であることがより好ましく、10~85質量%であることが更に好ましく、15~80質量%であることが更により好ましく、20~70質量%であることが特に好ましい。このようにすることで、剥離性が更に優れる塗膜剥離剤となる。上記芳香族アルコールの含有割合は、ガスクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。ガスクロマトグラフィーによる分析の条件は以下の通りである。
装置:ガスクロマトグラフ GC-14B(株式会社島津製作所製)
検出器:熱伝導度型検出器(TCD)
カラム:Thermon-3000(信和化工株式会社製)
気化室温度:160℃
検出器温度:160℃
【0025】
<水>
上記塗膜剥離剤は、水を含む。上記水は、各種工業製品の原料として用いられる水、水道水、井戸水等であれば特に制限はない。上記水は、蒸留水であってもよいし、イオン交換水であってもよい。本実施形態の一側面において、上記水は、その電気伝導率が1~300μS/cmであってもよいし、1~100μS/cmであってもよい。
【0026】
上記水は、その含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して10~94質量%であり、13~90質量%であることが好ましく、15~90質量%であることがより好ましく、20~85質量%であることが更に好ましく、30~80質量%であることが更により好ましい。このようにすることで、剥離性が更に優れる塗膜剥離剤となる。上記水の含有割合は、カールフィッシャー水分計による分析で求めることができる。カールフィッシャー水分計による分析の条件は以下の通りである。
カールフィッシャー水分計の分析条件
装置:カールフィッシャー水分計 MKS-500(京都電子工業株式会社製)
測定方法:容量滴定法
測定温度:20℃
【0027】
本実施形態の一側面において、上記芳香族アルコールの含有割合と、上記水の含有割合との合計は、上記塗膜剥離剤の全量に対して90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、99.9質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。本実施形態において、上記塗膜剥離剤は、上記式(1)で表される芳香族アルコール及び水のみからなっていてもよい。
【0028】
<脂肪族炭化水素>
上記塗膜剥離剤は、炭素数4~12の脂肪族炭化水素を更に含むことが好ましく、炭素数4~8の脂肪族炭化水素を更に含むことがより好ましい。このようにすることで、剥離対象物によっては剥離性が更に優れる塗膜剥離剤となる。上記炭素数4~12の脂肪族炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。上記塗膜剥離剤は、ヘキサン、イソヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。上記炭素数4~12の脂肪族炭化水素は、後述する芳香族アルコールを含む有機相(「第一の有機相」という場合がある。)に含まれるか、又は第二の有機相(芳香族アルコールを含む有機相とは異なる相)を形成する。
【0029】
上記炭素数4~12の脂肪族炭化水素は、その含有割合が、上記塗膜剥離剤の全量に対して1~10質量%であることが好ましく、3~6質量%であることがより好ましい。
【0030】
<セルロース誘導体、無機アルカリ化合物及び過酸化物>
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、セルロース誘導体、無機アルカリ化合物及び過酸化物それぞれの含有割合が上記塗膜剥離剤の全量に対して0質量を超えて0.01質量%以下であることが好ましい。セルロース誘導体の含有割合を上述の範囲にすることによって、塗膜剥離剤の安定的な乳化が抑えられ、優れた剥離性を維持することが可能になる。無機アルカリ化合物の含有割合を上述の範囲とすることによって、剥離処理中における塗膜の加水分解が抑えられる。また、無機アルカリ化合物の含有割合を上述の範囲とすることによって、上記塗膜剥離剤は「毒物及び劇物取締法」における毒物及び劇物に該当しなくなる。すなわち、当該塗膜剥離剤は取り扱い上の安全性が向上すると把握できる。過酸化物の含有割合を上述の範囲にすることによって、上記塗膜剥離剤は「毒物及び劇物取締法」における毒物及び劇物に該当しなくなる。すなわち、当該塗膜剥離剤は取り扱い上の安全性が向上する(例えば、人体への悪影響を抑える等)と把握できる。本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、上記セルロース誘導体、上記無機アルカリ化合物及び上記過酸化物を含まないことが好ましい。
【0031】
(セルロース誘導体)
本実施形態において上記セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース、プロピルセルロース等が挙げられる。すなわち、上記塗膜剥離剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース、及びプロピルセルロースを含まないことが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース、及びプロピルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも一種のセルロース誘導体を含まないことが好ましい。
【0032】
(無機アルカリ化合物)
本実施形態において上記無機アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム(苛性カリ)、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。すなわち、上記塗膜剥離剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、及び水酸化カルシウムを含まないことが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機アルカリ化合物を含まないことが好ましい。
【0033】
(過酸化物)
本実施形態において上記過酸化物としては、過酸化水素、尿素過酸化物、過酢酸等が挙げられる。すなわち、上記塗膜剥離剤は、過酸化水素、尿素過酸化物、及び過酢酸を含まないことが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、過酸化水素、尿素過酸化物、及び過酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の過酸化物を含まないことが好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本実施形態に係る塗膜剥離剤は、本発明の効果が奏される範囲内において、その他の成分が更に含まれていてもよい。上記その他の成分としては、例えば、界面活性剤、防錆剤、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、湿潤剤、蒸発遅延剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、香料及び防腐剤等が挙げられる。
【0035】
<塗膜剥離剤の特性>
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は上記芳香族アルコールを含む有機相(第一の有機相)と、上記水を含む水相とを含むと把握することができる。上記塗膜剥離剤は、上記塗膜を剥離する温度において静置時に、上記有機相と上記水相とを含む少なくとも2層以上に分離していることが好ましい。ここで「塗膜を剥離する温度」とは、剥離処理において上記塗膜が剥離しうる、塗膜剥離剤の温度を意味する。当該温度は、例えば、20~120℃であってもよいし、30~80℃であってもよいし、40~70℃であってもよい。「静置時」とは、上記塗膜剥離剤が、重力以外の外力を受けていない状態を4時間維持した時を意味する。より具体的には、上記「静置時」は上記塗膜剥離剤が、振動、回転及び撹拌されていない状態を4時間維持した時と把握することもできる。上記塗膜剥離剤は、上記塗膜を剥離する温度において静置すると上記有機相と上記水相とを含む少なくとも2層以上に分離する点において、乳化した塗膜剥離剤とは異なるものである。ここで、「乳化した塗膜剥離剤」とは、長期間(例えば、24時間)乳化した状態を維持している塗膜剥離剤のことを意味する。
【0036】
従来から用いられている塗膜剥離剤は、芳香族アルコール及び水を含むものがあるが、それらは有機相と水相とに2層分離せず、静置時においても均一に混ざり合っていた。このような従来型の塗膜剥離剤は、通常、有機相と水相との相溶を促す目的で界面活性剤が添加されていたり、剥離性を向上させるために無機アルカリ化合物が添加されている。従来型の塗膜剥離剤を用いた場合における塗膜が剥離するメカニズムを図1を用いて説明する。図1の(A)において、円の中にAと記載されてるものは無機アルカリ化合物等のアルカリ成分を示す。円の中にBと記載されているものは、芳香族アルコールであるベンジルアルコールを示す。まず有機相中のベンジルアルコールが塗膜に浸透して塗膜を膨潤する。次に、膨潤によって基材(治具)への付着力が低下した塗膜にアルカリ成分が作用し、塗膜の加水分解が促進される。加水分解した塗膜は、細かい断片となって塗膜剥離剤に懸濁し、剥離が完了する(図1の(B))。なお、上記メカニズムでは、アルカリ成分による塗膜の加水分解を促進するために、70℃以上の温度で塗膜を剥離する必要がある。
【0037】
一方、本実施形態に係る塗膜剥離剤は、上記塗膜を剥離する温度において静置時に、水相と有機相とを含む少なくとも2層以上に分離している点で従来型の塗膜剥離剤と異なっている。以下、本実施形態の塗膜剥離剤を用いた場合における塗膜が剥離するメカニズムを図2を用いて説明する。なお、下記メカニズムは発明者らが推測しているメカニズムである。図2の(A)において、円の中にWと記載されてるものは水を示す。円の中にBと記載されているものは、芳香族アルコールであるベンジルアルコールを示す。まず有機相中のベンジルアルコールが塗膜に浸透して塗膜を膨潤する。次に、膨潤によって基材(治具)への付着力が低下した塗膜と、上記基材との間に水相が入り込む。その後、上記塗膜と上記水相との間の静電気的反発力によって塗膜が剥離する。上記静電気的反発力は、温度依存性がないため、50℃以下の比較的低温環境でも塗膜を剥離することが可能である。また上記メカニズムの場合、加水分解による塗膜の断片化が生じない(図2の(B))。そのため、剥離後の塗膜の回収が、従来型の塗膜剥離剤よりも容易であり、塗膜剥離剤の繰り返しの使用に適している。
【0038】
上記塗膜剥離剤が炭素数4~12の脂肪族炭化水素を更に含む場合、上記塗膜剥離剤は、上記塗膜を剥離する温度において静置時に、上記第一の有機相と、上記水相と、上記炭素数4~12の脂肪族炭化水素を含む第二の有機相とに3層分離してもよい。
本実施形態の一側面において、上記塗膜剥離剤は、上記塗膜を剥離する温度において静置時に、4層以上に分離してもよい。
【0039】
上記塗膜剥離剤が上記第一の有機相と、上記水相とからなる場合、上記塗膜剥離剤は、静置時に上記水相が上層となり、上記第一の有機相が下層となる。すなわち、上記塗膜剥離剤は、静置時に上記第一の有機相が大気に触れることがない。そのため、上記塗膜剥離剤は、引火性がほとんどないと本発明者らは考えている。
【0040】
上記塗膜剥離剤は、そのpHが4~10であることが好ましく、5~9であることがより好ましく、6~8であることが更に好ましい。当該pHをこのようにすることで、塗膜の加水分解が抑制され、繰り返しの使用に適した塗膜剥離剤となる。また、上記塗膜剥離剤を用いて塗膜の剥離を行う際に、作業安全性が向上する。
【0041】
≪塗膜剥離剤の製造方法≫
本実施形態に係る塗膜剥離剤の製造方法は、上記芳香族アルコールと上記水とを準備する工程と、上記芳香族アルコールを上記水に添加する工程を含む。当該添加する工程は、どのような手法を用いてもよい。添加する工程としては、例えば、フラスコに上記芳香族アルコール及び上記水を加えること、及び化学プラント等において、工業的規模で上述した芳香族アルコール及び水を加えること等が挙げられる。
【0042】
≪塗膜の剥離方法≫
本実施形態に係る塗膜の剥離方法は、
基材の表面に設けられた塗膜の剥離方法であって、上記塗膜剥離剤を上記塗膜に接触させることを含む。
【0043】
上記塗膜剥離剤を上記塗膜に接触させる方法は特に制限されない。当該方法は、例えば、浸漬、塗布、及びスプレー又はシャワーによる噴霧などの方法によって、大気中、減圧下、または加圧下で常温下又は加熱下で接触させることが挙げられる。浸漬によって上記塗膜剥離剤を上記塗膜に接触させる場合、必要に応じて、超音波処理、バブリング処理、揺動等の操作を行ってもよい。当該方法は、加温した上記塗膜剥離剤が投入された剥離剤槽に、塗膜を有する基材を浸漬して、上記塗膜を剥離することが好ましい。このとき、上記塗膜剥離剤を撹拌して上記水相と上記有機相とが均一に分散した状態とすることが好ましい。浸漬する時間は、1分間~60分間であることが好ましい。
【0044】
本実施形態の塗膜の剥離方法は、上記剥離剤の温度を20~120℃とすることが好ましく、30~80℃とすることがより好ましく、40~70℃とすることが更に好ましい。
【0045】
その後、通常の洗浄、乾燥で剥離剤を、塗膜が剥離された上記基材から除去すればよい。例えば塗膜が剥離された上記基材を、水、アセトン、イソプロピルアルコールなどを用いて洗浄した後、室温で乾燥すればよい。
【0046】
本実施形態に係る塗膜剥離剤は、上述した塗装用治具の他にも、自動車用部品、自転車用部品、精密機器、及び電子部品の外装の塗装物に対する塗膜の剥離にも好適に用いることができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
≪原料≫
本実施例において使用した原料となる化合物の名称等を以下に示す。
ベンジルアルコール :東京応化工業株式会社製、商品名ベンジルアルコール
クメン :三菱ケミカル株式会社製、商品名キュメン
フェニルグリコール :日本乳化剤株式会社製、商品名PhG
エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル:日本乳化剤株式会社製、商品名EHG
デカン :JXTGエネルギー株式会社製、商品名カクタスノルマルパラフィンN-10
デカリン :新日鉄住金化学株式会社製、商品名デカヒドロナフタリン
N-メチル-2-ピロリドン(NMP) :三菱ケミカル株式会社製、商品名NMP
プロピレングリコール :株式会社ADEKA製、商品名工業用プロピレングリコール
セルロース誘導体 :信越化学工業株式会社製、商品名メトローズ60SH-40
陰イオン界面活性剤 :花王株式会社製、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム50%水溶液、ペレックスSS-H
ジエチレングリコールモノエチルエーテル :株式会社日本触媒製、商品名シーホゾールDG
グルコン酸ソーダ :ライオン株式会社製、商品名グルコン酸ソーダ
苛性カリ :東亜合成株式会社製、商品名フレーク苛性カリ
プソイドクメン:丸善石油化学株式会社製、商品名1,2,4-トリメチルベンゼン
ヘプタン:丸善石油化学株式会社製、商品名ノルマルヘプタン
ヘキサン:丸善石油化学株式会社製、商品名ノルマルヘキサン
イソドデカン:丸善石油化学株式会社製、商品名マルカゾールR
【0049】
≪実験1:各種有機溶剤と水とを含む塗膜剥離剤の剥離性の比較≫
<塗膜剥離剤の作製>
まず、表1に示される配合組成に基づいて試料No.1-1~試料No.1-7の塗膜剥離剤を作製した。試料No.1-1~試料No.1-6の塗膜剥離剤は、常温(25℃)及び上記塗膜を剥離する温度(50℃)において、静置した状態では、水相と有機相の2層に分離していた。
【0050】
<塗膜に対する剥離性の評価>
(テストピースの準備)
以下の手順によって、剥離性の評価に用いるためのテストピースを作製した。具体的には、まず冷間圧延鋼板(サイズ70mm×50mm(t=0.8mm)、株式会社スタンダードテストピース製、商品名冷間圧延鋼材)を準備した。次に準備した冷間圧延鋼板を脱脂した後、その表面に黒色の塗料(日本ペイント株式会社製、商品名パワーニックス150、エポキシ系樹脂塗料)をカチオン電着塗装によって塗装した。その後、上記黒色の塗料を乾燥させて、黒色の塗膜が設けられたテストピースを得た。
【0051】
(剥離性の評価試験)
以下の手順で、試料No.1-1~試料No.1-7の塗膜剥離剤の剥離性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記塗膜剥離剤を400ml加えて、50℃になるまで加温した。次に加温された塗膜剥離剤を撹拌して水相と有機相とが分散するようにした。上述の分散した状態を維持しながら上記塗膜剥離剤にテストピースを浸漬した。テストピースを上記剥離剤に浸漬してから所定の時間が経過した後に、上記テストピースを取り出し、水洗後、目視によって塗膜の剥離状態を観察した。塗膜が完全に剥離するまでの浸漬時間に応じて以下の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。表1中、「-」で示されている箇所は、該当する成分を加えなかったことを示している。表1において、試料No.1-1及び試料No.1-2は、実施例に相当する。試料No.1-3~試料No.1-5は、比較例に相当する。試料No.1-6及び試料No.1-7は、参考例に相当する。
評価ランクの基準
Sランク :1.5分間以下
Aランク :1.5分間を超えて、2分間以下
Bランク :2分間を超えて、2.5分間以下
Cランク :2.5分間を超えて、3.5分間以下
Dランク :3.5分間を超えて、5分間以下
Eランク :5分間を超えて、10分間以下
Fランク :10分間超
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から、芳香族アルコール(ベンジルアルコール、又はフェネチルアルコール)と、水とからなる塗膜剥離剤(試料No.1-1、試料No.1-2)は、Aランク又はBランクを示していた。一方、有機溶剤として芳香族アルコール以外の化合物を用いた試料No.1-3~試料No.1-5の塗膜剥離剤は、Fランクであった。試料No.1-1の塗膜剥離剤は、従来から用いられている有機溶剤からなる塗膜剥離剤(試料No.1-7)に匹敵する剥離性であった。
【0054】
≪実験2:芳香族アルコールと水との配合比率と、剥離性との相関関係≫
芳香族アルコールと水との配合比率を変えた塗膜剥離剤(試料No.2-1~試料No.2-11)を作製し、実験1と同様の方法によって、剥離性を評価した。芳香族アルコールとしてはベンジルアルコールを用いた。結果を表2及び図3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2及び図3の結果から水の配合比率(水分濃度)が上記塗膜剥離剤の全量に対して10~94質量%の範囲(特に30~80質量%の範囲)において、良好な剥離性を示すことが分かった。
【0057】
ベンジルアルコールの代わりにNMPを用いた比較実験も行った。すなわち、含窒素化合物と水との配合比率を変えた塗膜剥離剤(試料No.2-12~試料No.2-18)を作製し、実験1と同様の方法によって、剥離性を評価した。含窒素化合物としてはNMPを用いた。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3の結果から、含窒素化合物と水とからなる塗膜剥離剤では、NMPの配合比率が減少するに従って(すなわち、水分濃度が増加するに従って)、剥離性が低下することが分かった。NMPは水との親和性が高いため、水の配合比率が増大するとNMPの塗膜への浸透が阻害され、剥離性が低下していると考えられる。
【0060】
≪実験3:塗膜剥離剤の状態と、剥離性との相関関係≫
本実施例に係る塗膜剥離剤は、常温(25℃)及び上記塗膜を剥離する温度(50℃)において、静置した状態では有機相と水相とに2層分離している(例えば、図5の試料No.3-1)。一方、従来から用いられている塗膜剥離剤は、常温及び上記塗膜を剥離する温度において、静置した状態でも有機相と水相とが2層分離せずに均一な状態であるか、乳化した状態である(例えば、図5の試料No.3-12)。そこで、このような塗膜剥離剤の状態と剥離性との相関関係を検討した。具体的には、まず表4に示される配合組成に基づいて試料No.3-1、及び試料No.3-11~試料No.3-13の塗膜剥離剤を作製した。次に、実験1と同様の方法によって、試料No.3-1、及び試料No.3-11~試料No.3-13の塗膜剥離剤の剥離性を評価した。結果を表4に示す。表4中、「-」で示されている箇所は、該当する成分を加えなかったことを示している。表4において、試料No.3-1は、実施例に相当する。試料No.3-11~試料No.3-13は、比較例に相当する。
【0061】
【表4】
【0062】
表4の結果から、有機相と水相とが静置時に均一な状態の塗膜剥離剤(試料No.3-11、試料No.3-13)及び有機相と水相とが静置時に乳化した状態の塗膜剥離剤(試料No.3-12)は、50℃における剥離性の評価では、Cランク又はFランクであることが分かった。一方、実施例である有機相と水相とが静置時に2層分離している塗膜剥離剤(試料No.3-1)では、50℃における剥離性の評価でAランクであった。以上の結果から、塗膜剥離剤を構成する有機相と水相とが、2層に分離していることによって剥離性が向上していることが分かった。当該塗膜剥離剤は以下のメカニズムによって塗膜を剥離していることが示唆された(図2の(A)参照)。すなわち、まず有機相中のベンジルアルコールが塗膜に浸透して塗膜を膨潤する。次に、膨潤によって基材への付着力が低下した塗膜と、上記基材との間に水相が入り込む。その後、上記塗膜と上記水相との間の静電気的反発力によって塗膜が剥離する。
【0063】
≪実験4:塗膜剥離剤の状態と、長期使用時の剥離性との相関関係≫
表4に示される配合組成を有する試料No.3-1、及び試料No.3-11~試料No.3-13の塗膜剥離剤を用いて、これらの塗膜剥離剤の長期使用時における剥離性を評価した。具体的には以下の手順で行った。まず、各塗膜剥離剤200gに対し、エポキシ樹脂塗料に由来する硬化塗膜を10g(5%)、20g(10%)、40g(20%)とそれぞれ加え、塗料固形分濃度が異なる3種類のサンプルを用意した。次に、各サンプルを90℃にて24時間加温した。加温した後の各サンプルを塗膜剥離剤として用いて、実験1と同様の方法によって剥離性を評価した。
【0064】
結果を図4に示す。横軸は剥離処理前における塗膜剥離剤中の塗料固形分(塗膜)の含有割合(塗料固形分濃度)を示している。塗料固形分の含有割合が高い塗膜剥離剤は、長期間、繰り返して剥離処理を行ったモデルにできると本発明者らは考えている。
【0065】
図4の結果から、実施例である試料No.3-1の塗膜剥離剤では、塗料固形分濃度が上昇しても剥離性はAランクの状態を維持していることが分かった。一方、比較例である試料No.3-11及び試料No.3-12の塗膜剥離剤は、塗料固形分濃度が上昇するに伴い、CランクからEランク又はFランクに変化して、剥離性が低下していることが分かった。なお、比較例である試料No.3-13の塗膜剥離剤は、実験の当初からFランクのままであった。以上の結果から、実施例に係る塗膜剥離剤は、長期間使用しても剥離性の低下が起こらず、高い剥離性を維持していることが示唆された。すなわち、実施例に係る塗膜剥離剤は、繰り返して剥離処理を行うことに適していることが示唆された。
【0066】
≪実験5:他の有機溶剤添加による剥離性の向上効果の検討≫
芳香族アルコール(ベンジルアルコール、又はベンジルグリコール)と水とからなる塗膜剥離剤において、他の有機溶剤を配合することによる剥離性の向上効果を検討した。まず、表5に示される配合組成に基づいて試料No.5-1~試料No.5-13、試料No.5-20及び試料No.5-21の塗膜剥離剤を作製した。次に、実験1と同様の方法によって、試料No.5-1~試料No.5-13、試料No.5-20及び試料No.5-21の塗膜剥離剤の剥離性を評価した。結果を表5-1及び表5-2に示す。表5中、「-」で示されている箇所は、該当する成分を加えなかったことを示している。表5-1及び表5-2において、試料No.5-1~試料No.5-13の塗膜剥離剤は実施例に相当する。試料No.5-20の剥離剤は比較例に相当する。試料No.5-21は参考例に相当する。
【0067】
【表5-1】
【0068】
【表5-2】
【0069】
表5-1及び表5-2の結果から、表面張力が低い、脂肪族炭化水素を塗膜剥離剤に添加することで、剥離性が更に向上することが分かった(表5-1及び表5-2、特に試料No.5-5~5-7)。
【0070】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5