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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】歯科用チップおよび歯科用シリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61C 17/02 20060101AFI20240208BHJP
   A61C 17/022 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61C17/02 G
A61C17/022
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020144378
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039383
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】518378466
【氏名又は名称】宇田川 恵司
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 恵司
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-167088(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1970153(KR,B1)
【文献】実開昭54-163097(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 17/02
A61C 17/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも空気を噴射する歯科用シリンジのノズルの先端部に着脱自在に取り付けられる歯科用チップであって、
前記ノズルの先端部が嵌合する嵌合部と、
前記ノズルの孔と連通する流路を内部に有し、前記嵌合部から延在する管状の本体部と、
前記本体部の端部に前記流路と連通する開口を有する開口部と、
前記嵌合部および前記本体部のいずれか一方または両方に設けられる係合部と、
前記係合部と前記シリンジの一部に係合し、前記嵌合部を前記ノズルの先端部に押し付けるように付勢する弾性部材と、
を備え、
前記弾性部材は、前記ノズルの先端から空気が送出される際、該空気が前記流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、前記嵌合部と前記ノズルの先端部の間に隙間が生じ、該隙間から空気が漏出する弾性係数を有する、
歯科用チップ。
【請求項2】
前記嵌合部付近の前記本体部の前記流路の内径は、前記ノズルの先端における孔の内径より大きく、前記開口部付近の前記流路の内径は、前記嵌合部付近の前記本体部の前記流路の内径および前記ノズルの先端における孔の内径より小さいことを特徴とする請求項1に記載の歯科用チップ。
【請求項3】
前記嵌合部は、前記ノズルの先端部に当接する当接部と、前記当接部から前記ノズル側に延在し、前記ノズルの先端部の周りを囲む嵌合延在部と、を有し、
前記嵌合延在部の長さは、前記摩擦抗力が付勢力を上回り前記当接部が前記ノズルの前記先端部から離れた場合であっても、その離れた距離以上の長さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の歯科用チップ。
【請求項4】
内部に少なくとも空気を流通させる内管および表面に少なくとも空気を噴射させることを操作する操作部を備えるシリンジ本体と、
前記シリンジ本体に接続され、前記内管と連通して少なくとも空気を噴射するノズルと、
前記ノズルの先端部に着脱自在に取り付けられる歯科用チップと、
を備える歯科用シリンジであって、
前記歯科用チップは、
前記ノズルの先端部が嵌合する嵌合部と、
前記ノズルの孔と連通する流路を内部に有し、前記嵌合部から延在する管状の本体部と、
前記本体部の端部に前記流路と連通する開口を有する開口部と、
前記嵌合部および前記本体部のいずれか一方または両方に設けられる係合部と、
前記係合部と前記シリンジ本体の一部に係合し、前記嵌合部を前記ノズルの先端部に押し付けるように付勢する弾性部材と、
を備え、
前記弾性部材は、前記ノズルの先端から空気が送出される際、該空気が前記流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、前記嵌合部と前記ノズルの先端部の間に隙間が生じ、該隙間から空気が漏出する弾性係数を有する、
歯科用シリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用チップおよび歯科用シリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯科治療において、歯髄を除去した後の歯根管や歯周ポケットを空気や液体等で洗浄したり、歯根管周囲の象牙質に接着剤を固化させたり乾燥させるために空気を吹き付けたりするための歯科用チップやシリンジが知られている。たとえば、特許文献1は、チップ本体部とチップ部との接合部にかかる応力を緩和して該接合部での破損を防止することを目的とした歯科用イリゲーションチップを開示する。この歯科用イリゲーションチップは、歯科用ハンドピース本体部に着脱自在に連結されるチップ本体部と、該チップ本体部に接合されたチップ部とから成り、該チップ部より液体を噴射して歯牙又は歯周ポケットの洗浄を行う。この歯科用イリゲーションチップは、チップ本体部とチップ部とを接合した接合部を含む外周部が弾性部材にて覆われている。
【0003】
また、特許文献2は、歯間等の細かい部位に対しても効果的に清掃することのできる歯面清掃用のノズルチップを開示する。このノズルチップは、エアー回路と水回路とを有するとともに、エアー回路中に歯面清掃用のパウダーを収容するパウダータンクを着脱自在に有する歯面清掃ハンドピースに着脱自在に装着されて使用される。ハンドピース内のエアー回路と水回路を共に開いてノズルチップの先端よりパウダーを含んだエアーと水とを噴射して歯面を清掃する。ノズルチップは、エアーを噴射する内管と、内管との間に空隙を作りこの空隙より水を噴射する外管との2重管より成り、先端部において、細径の内管が外管より前方に延出している。内径の先端部外周外壁部にも、横穴が設けられており、径方向にもパウダー・エアーが噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-340361号公報
【文献】特開2002-165806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、特許文献1における歯科用チップは、接合部の弾性部材が劣化してくるとシリンジからの空気圧や水圧により吹き飛ばされてしまう恐れがある。また特許文献2におけるノズルチップは、構造が複雑で製作コストが増加する。さらに、歯科用チップの先端から噴き出す空気は、あまりに過大であると都合が悪く、洗浄や固化させるために適した圧力で噴き出される必要がある。したがって、歯科用チップは、様々な圧力で空気等を送出するシリンジに装着されることを前提にすると、シリンジが歯科用チップに送出する空気等の全量を先端から噴き出す場合問題を生ずる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情を鑑みて考案されたものであり、シリンジからの空気圧により吹き飛ばされることがなく、安いコストで製作でき、どのようなシリンジであっても先端から適切な空気圧で空気を噴射させる歯科用チップおよびその歯科用チップを装着した歯科用シリンジを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、少なくとも空気を噴射する歯科用シリンジのノズルの先端部に着脱自在に取り付けられる歯科用チップであって、ノズルの先端部が嵌合する嵌合部と、ノズルの孔と連通する流路を内部に有し、嵌合部から延在する管状の本体部と、本体部の端部に流路と連通する開口を有する開口部と、嵌合部および本体部のいずれか一方または両方に設けられる係合部と、係合部とシリンジの一部に係合し、嵌合部をノズルの先端部に押し付けるように付勢する弾性部材と、を備え、弾性部材は、ノズルの先端から空気が送出される際、その空気が流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じ、その隙間から空気が漏出する弾性係数を有する歯科用チップが提供される。
これによれば、ノズルの先端から歯科用チップへ空気が送出される際、その空気が流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、弾性部材は、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じ、その隙間から空気が漏出する程度の弾性係数を有することで、どのような空気圧で送出するシリンジであっても先端から適切な空気圧で空気を噴射させる歯科用チップを提供することができる。
【0008】
さらに、嵌合部付近の本体部の流路の内径は、ノズルの先端部における孔の内径より大きく、開口部付近の流路の内径は、嵌合部付近の本体部の流路の内径およびノズルの先端部における孔の内径より小さいことを特徴としてもよい。
これによれば、摩擦抵抗を発生させやすい構造にすることで、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じやすくすることができる。
【0009】
さらに、嵌合部は、ノズルの先端部に当接する当接部と、当接部からノズル側に延在し、ノズルの先端部の周りを囲む嵌合延在部と、を有し、嵌合延在部の長さは、摩擦抗力が付勢力を上回り当接部がノズルの先端部から離れた場合であっても、その離れた距離以上の長さを有することを特徴としてもよい。
これによれば、嵌合延在部の長さは、摩擦抗力が付勢力を上回り当接部がノズルの先端部から離れた場合であっても、その離れた距離以上の長さを有することで、シリンジからの空気圧により吹き飛ばされることがない。
【0010】
上記課題を解決するために、内部に少なくとも空気を流通させる内管および表面に少なくとも空気を噴射させることを操作する操作部を備えるシリンジ本体と、シリンジ本体に接続され、内管と連通して少なくとも空気を噴射するノズルと、ノズルの先端部に着脱自在に取り付けられる歯科用チップと、を備える歯科用シリンジであって、歯科用チップは、ノズルの先端部が嵌合する嵌合部と、ノズルの孔と連通する流路を内部に有し、嵌合部から延在する管状の本体部と、本体部の端部に流路と連通する開口を有する開口部と、嵌合部および本体部のいずれか一方または両方に設けられる係合部と、係合部とシリンジ本体の一部に係合し、嵌合部をノズルの先端部に押し付けるように付勢する弾性部材と、を備え、弾性部材は、ノズルの先端から空気が送出される際、その空気が流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じ、その隙間から空気が漏出する弾性係数を有する歯科用シリンジが提供される。
これによれば、ノズルの先端から歯科用チップへ空気が送出される際、その空気が流路を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、弾性部材は、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じ、その隙間から空気が漏出する程度の弾性係数を有することで、どのような空気圧で送出するシリンジであっても先端から適切な空気圧で空気を噴射させる歯科用チップが、ノズルの先端部に着脱自在に取り付けられた歯科用シリンジを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、シリンジからの空気圧により吹き飛ばされることがなく、安いコストで製作でき、どのようなシリンジであっても先端から適切な空気圧で空気を噴射させる歯科用チップおよびその歯科用チップを装着した歯科用シリンジを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る第一実施例の歯科用シリンジの斜視図。
図2】本発明に係る第一実施例の歯科用チップの、(A)正面図、(B)平面図、(C)左側面図、(D)右側面図。
図3】本発明に係る第一実施例の歯科用チップを、同歯科用シリンジに装着した場合の平面図。
図4】本発明に係る第一実施例の歯科用チップと歯科用シリンジ(ノズル部分)の断面図。(A)歯科用チップのA-A断面における断面図、(B)歯科用チップを歯科用シリンジに装着した場合であって摩擦抗力が付勢力を下回っている場合の同断面における断面図、(C)歯科用チップを歯科用シリンジに装着した場合であって摩擦抗力が付勢力を上回り、嵌合部とノズルの先端部の間に隙間が生じた場合の同断面における断面図。
図5】本発明に係る第一実施例の歯科用シリンジのノズルからの空気の流量と歯科用チップの先端からの空気の流量を示すグラフ。
図6】本発明に係る第二実施例の歯科用チップの、(A)正面図、(B)平面図、(C)左側面図、(D)右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る各実施例について説明する。
<第一実施例>
図1乃至図5を参照し、本実施例における歯科用チップ100および歯科用シリンジ200を説明する。歯科用シリンジ200は、図1に示すように、くの字状に屈曲し筒状に形成されたシリンジ本体210と、シリンジ本体210の下端に取り付けられたホース230と、上端に取り付けられたノズル220とを備える。シリンジ本体210は、ホース230とノズル220を連通するために設けられ内部に空気や水などの流体を流通させる内管(図示せず)と、上部表面に設けられ空気等をノズル220から噴射させるために操作する操作部212と、後述する弾性部材150と係合するシリンジ係合部211と、を備える。ホース230は、一端側をシリンジ本体210の内管に接続されると共に、他端にコネクター231を有し、空気や水の流体を送出するコンプレッサーに接続される。ノズル220は、一端側をシリンジ本体210の上端において内管に接続され、他端側のノズルの孔222はシリンジ本体210の内管に連通している。
【0014】
シリンジ本体210は、歯科医師等により手動式の操作部212が操作されることで、流路を閉塞している弁が連動して流路を開放し、液体や気体などの流体を流通させるものである。すなわち、操作部212が操作されることで、ホース230を通って流入した流体が、シリンジ本体210の内側に形成された内管を通ってノズルの孔222から流体が噴射される。なお、本実施例では、ノズル220は直線形状であるが、これに限定されず、内部の流体の流通を妨げない範囲でノズルの先端部221付近で屈曲していてもよい。歯根管や歯周ポケットに空気等を吹き付け易い角度にするためである。
【0015】
歯科用チップ100は、ノズルの孔222を覆うように、ノズルの先端部221に着脱自在に取り付けられる。図2に示すように、歯科用チップ100は、ノズルの先端部221が嵌合する嵌合部110と、装着された場合にノズルの孔222と連通する流路121を内部に有し、嵌合部110から延在する管状の本体部120と、本体部120の端部122に流路121と連通する開口を有する開口部130と、嵌合部110に設けられた係合部140と、係合部140とシリンジ本体210のシリンジ係合部211に両端が係合し、嵌合部110をノズル220の軸方向でノズルの先端部221に押し付けるように付勢する弾性部材150と、を備える。
【0016】
嵌合部110は、図4(B)に示すように、ノズルの先端部221を受け入れて、内壁でノズルの先端部221を取り囲む。嵌合部110は、その内壁において、ノズルの先端部221に当接する当接部111と、当接部111からノズル側に延在し、ノズルの先端部221の周りを囲む嵌合延在部112とを有する。嵌合部110の内壁は、図4に示すように、シリンジ本体210側では大きい半径を、本体部120側では小さい半径を有する円錐台の形を形成することが好ましい。ノズルの先端部221が当接部111において弾性部材150により確実に当接することができると共に、ノズルの先端部221の半径の大きさの違いをある程度許容することができるからである。さらに、ノズルの先端部221の概形は半径が不変のほぼ円筒形であるところ、嵌合部110の内壁が円錐台の形であることで、嵌合部110とノズルの先端部の間に隙間Sが生じ、その隙間Sから空気が漏出する場合、漏出した空気をシリンジ本体210側へ容易に排出することができる(図4(C)の右向きの灰色矢印)。
【0017】
本体部120は、図4に示すように、嵌合部110からノズル220の反対側へ延在し、ノズルの孔222と連通する流路121を内部に有する管である。本体部120の内径は、嵌合部110近傍では大きく、端部122では小さいことが好ましい。より具体的には、嵌合部110付近すなわち嵌合部110寄りの本体部120の流路121の内径D2は、ノズルの先端部221における孔222の内径D3より大きく、開口部130付近すなわち開口部130寄りの流路121の内径D1は、嵌合部110付近の本体部120の流路121の内径D2およびノズルの先端部221における孔222の内径D3より小さいことが好ましい。これによれば、摩擦抵抗を発生させやすい構造になり、これにより嵌合部110とノズルの先端部221の間に隙間Sが生じやすくすることができる。本体部120の端部122の外径は、歯根管や歯周ポケットに空気等を噴射するのに適した大きさである。開口部130は、本体部120の端部122において流路121と連通する開口を有し、その開口から空気等の流体を噴射する。
【0018】
係合部140は、嵌合部110の外表面の2か所に設けられているが、これに限定されず、本体部120に設けられてもよいし、吹き飛ばされないように二重化して嵌合部110と本体部120の両方に設けられてもよいし、3か所以上に設けられてもよい。係合部140は、弾性部材150が係合しやすい形状であればよい。弾性部材150は、たとえば、係合部140とシリンジ係合部211に両端が係合する輪ゴムや、両端が係合部140とシリンジ係合部211に係合できるように形成されたゴムバンドである。弾性部材150は、図3に示すように、伸びた状態で係合部140とシリンジ係合部211に両端が係合し、嵌合部110をノズルの先端部221に押し付けるように付勢する。
【0019】
シリンジ係合部211がない場合、弾性部材150は、歯科用チップ100の係合部140とシリンジ本体210(シリンジの一部)に係合することで、嵌合部110をノズルの先端部221に押し付けるように付勢してもよい。また、弾性部材150は、1つであり、両端を一方と他方の係合部140に係合し、中間部分をシリンジ本体210に回し掛けるようにして、嵌合部110をノズルの先端部221に押し付けるように付勢してもよい。このように、容易に掛け外しができるような弾性部材150を用いることで、劣化した弾性部材150を使用し続けることがなくなり、歯科用チップ100が空気圧等により吹き飛ばされる恐れがなくなる。
【0020】
弾性部材150は、ノズルの先端部221から空気が送出される際、その空気が流路121を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、嵌合部110とノズルの先端部221の間に隙間Sが生じ、その隙間Sから空気が漏出する弾性係数を有する。図4(B)と図4(C)を参照し説明する。図4(B)は、歯科用チップ100を歯科用シリンジ200のノズル220に装着し、ノズルの孔222から空気を送出しているが、その空気流量が小さい状態を示している。ノズルの孔222から送出されている空気流量(小さい左向き灰色矢印)は、本体部120の流路121を流れることにより、流路接線方向成分の抗力(空気と流路の壁面との摩擦力により生ずる抗力)、いわゆる摩擦抗力F1(左向き黒色矢印)を生じさせる。しかし、歯科用チップ100には弾性部材150によりノズル220の方へ付勢されており、摩擦抗力F1がその付勢力F2(右向き黒色矢印)より小さいため、歯科用チップ100はノズルの先端部221に押し付けられたままであり、嵌合部110とノズルの先端部221の間に隙間が生ずることはない。
【0021】
一方、図4(C)は、歯科用チップ100を歯科用シリンジ200のノズル220に装着し、ノズルの孔222から比較的多くの空気(大きい左向き灰色矢印)を送出している状態を示している。図4(B)に示す状態から次第にノズルの孔222から送出する空気流量を大きくしていくと、それに従って歯科用チップ100に働く摩擦抗力F1も大きくなり、摩擦抗力F1が付勢力F2を上回ることになる。そうすると、歯科用チップ100は、ノズル220から離れる方向(図視左方向)に移動し、ノズルの先端部221は当接部111から離れてノズルの先端部221と嵌合部110の間に隙間Sが生ずる。隙間Sが生ずると、ノズルの孔222から送出された空気の一部が隙間Sを通してシリンジ本体210の方へ漏出する。これにより流路121を流れようとする空気流量が減少することにより摩擦抗力F1が減少し、また歯科用チップ100がノズル220から遠ざかる方へ移動し弾性部材150の付勢力F2が増加することにより、摩擦抗力F1と付勢力F2が均衡することで隙間Sが維持される状態になる。弾性部材150の弾性係数が大きすぎると隙間Sが生ずることはなく、その弾性係数が小さすぎると少量の空気流量でも隙間Sが生じてしまい都合が悪い。したがって、弾性部材150の弾性係数は、本体部120の流路121に生ずる摩擦抗力とノズル220から送出される空気流量に応じて、適宜調整して定められる。
【0022】
図5は、歯科用シリンジ200において操作部212が2段ストロークで空気の送出を制御できる場合を示す。一段目のストロークでは隙間Sが生じないように弾性部材150の弾性係数を調整した場合、ノズルの孔222から送出される空気流量と歯科用チップ100の開口から噴射される空気流量は、ノズルの孔222が送出した空気の全量が歯科用チップ100の開口から噴射されるので等しい。二段目のストロークの途中の空気流量で隙間Sが生じるように弾性係数を調整した場合、隙間Sが生じた以降は、歯科用チップ100の開口から噴射される空気流量は一定になる。
【0023】
これによれば、ノズルの先端部221から歯科用チップ100へ空気が送出される際、その空気が流路121を流れることにより生ずる摩擦抗力が付勢力を上回った場合、弾性部材150は、嵌合部110とノズルの先端部221の間に隙間Sが生じ、その隙間Sから空気が漏出する程度の弾性係数を有することで、どのような空気圧で送出するシリンジであっても先端から適切な空気圧で空気を噴射させる歯科用チップ100を提供することができる。また、かかる歯科用チップ100を備えた歯科用シリンジ200を提供することができる。
【0024】
また、嵌合部110において、図4(B)に示すように、嵌合延在部112の長さL1すなわち当接部111から嵌合部110の端までの長さは、摩擦抗力F1が付勢力F2を上回り当接部111がノズルの先端部221から離れた場合であっても、その離れた距離以上の長さを有することが好ましい。これによれば、歯科用チップ100が歯科用シリンジ200のノズル220の先端から外れて、空気圧により吹き飛ばされることがない。
【0025】
<第二実施例>
図6を参照して、本実施例における歯科用チップ100Aを説明する。なお、重複記載を避けるため、同じ構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。歯科用チップ100Aは、ノズルの先端部221が嵌合する嵌合部110と、装着された場合にノズルの孔222と連通する流路121を内部に有し、嵌合部110から延在する管状の本体部120Aと、本体部120Aの端部122Aに流路121と連通する開口を有する開口部130と、嵌合部110に設けられた係合部140と、係合部140とシリンジ本体210のシリンジ係合部211に両端が係合し、嵌合部110をノズル220の軸方向でノズルの先端部221に押し付けるように付勢する弾性部材150と、を備える。本体部120Aは、一定の内径の流路121を有する中間部分で図視下方に内部の流体の流通を妨げない程度に屈曲している。歯根管や歯周ポケットに空気等を吹き付け易い角度にするためである。
【0026】
なお、本実施例のように本体部120Aの流路121が屈曲している場合、屈曲部において流路垂線方向成分の抗力がノズル220の軸方向の力として働くため、弾性部材150の弾性係数を本実施例の歯科用チップ100Aに合わせて調整することが好ましい。
【0027】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0028】
100 歯科用チップ
110 嵌合部
111 当接部
112 嵌合延在部
120 本体部
121 流路
122 端部
130 開口部
140 係合部
150 弾性部材
200 歯科用シリンジ
210 シリンジ本体
211 シリンジ係合部
212 操作部
220 ノズル
221 ノズルの先端部
222 ノズルの孔
230 ホース
231 コネクター
F1 摩擦抗力
F2 付勢力
S 隙間
D1 開口部付近の流路の内径
D2 嵌合部付近の流路の内径
D3 ノズルの先端における孔の内径
L1 嵌合延在部の長さ

図1
図2
図3
図4
図5
図6