(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アンモニアセンサーを無くしたソフトウェアアルゴリズムによるアンモニア過剰の動的検出方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240208BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240208BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20240208BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F01N3/08 H ZAB
F01N3/28 301D
F01N3/28 301E
F01N3/28 301B
F01N11/00
B01D53/86 222
B01D53/86 228
(21)【出願番号】P 2021504803
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2019000242
(87)【国際公開番号】W WO2020057768
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】102018007421.9
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592007771
【氏名又は名称】ドイツ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】スミッ,ヴォルカー
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-115032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/28
F01N 11/00
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの流れ方向に、還元剤としてのアンモニアおよび/またはアンモニアに分解される化合物を浄化すべき排気ガス中に注入するための装置と、第1のSCRユニットを形成する1つまたは複数のSCR触媒コンバーターと、2番目のSCRユニットを形成する1つまたは複数のSCR触媒および/または少なくとも1つのアンモニア酸化触媒および/または少なくとも1つのアンモニアスリップ触媒(ASC)と、排気管内の窒素酸化物(NOx)の濃度を決定するための窒素酸化物センサー(NOxセンサー)とをこの順序で有する排気ガス後処理システムを備えた内部燃焼エンジンであって、排気ガス中に注入される上記アンモニアおよび/またはアンモニアに分解する化合物の量を排気管中のNOxセンサーを使用して調節し、NOxセンサーのセンサー信号から、窒素酸化物濃度と排気ガス中のアンモニア過剰発生の有無の両方を横断感応性(Querempfind-lichkeit)によって評価
し、上記アンモニア過剰は、SCR触媒コンバーターの下流にある窒素酸化物センサーの低周波成分と高周波成分との商(quotient)を用いて比較して検出するアルゴリズムを用いて検出することを特徴とする内部燃焼エンジン。
【請求項2】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムがSCR触媒コンバーター後の窒素酸化物センサーの周波数のみを検査する請求項
1に記載の内燃エンジン。
【請求項3】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムが、高周波数成分に対する低周波数の商を計算し、それを閾値と比較して、排気ガス中のアンモニア過剰の発生または非発生を決定し、商で比較される上記閾値はSCR触媒コンバーター上流の窒素酸化物センサー信号のダイナミクスに対する線形補間(lineare Interpolation)によって決定す
る請求項1
または2に記載の内燃エンジン。
【請求項4】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムのパラメータ化が測定データに基づく遺伝的アルゴリズム(genetischen Algorithmus)によって設計され
る請求項1~
3のいずれか一項に記載の内燃エンジン。
【請求項5】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムのパラメータ化が遺伝的アルゴリズムを使用して最適化され、SCR触媒コンバーターの前にある窒素酸化物センサーの現在のダイナミクスに対する閾値の線形補間では低周波成分と高周波成分の商が比較され、低周波成分と高周波成分の範囲を決定し、測定データに基づいてSCR触媒コンバーターの前にある窒素酸化物センサーのダイナミクスに基づいて
上記閾値を最適化す
る請求項1~
4のいずれか一項に記載の内燃エンジン。
【請求項6】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムが高速フーリエ変換およびその後の正規化によってSCR触媒コンバーター下流の窒素酸化物センサーの正規化された振幅スペクトルを用いて周波数分析す
る請求項1~
5のいずれか一項に記載の内燃エンジン。
【請求項7】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムが高速フーリエ変換およびその後の正規化によってSCR触媒コンバーターの下流の窒素酸化物センサーの正規化された振幅スペクトルの低周波および高周波成分を決定し、正規化された振幅スペクトルを積分し、この積分にはシンプソンルールを使用して正規化された振幅スペクトルの積分をす
る請求項1~
6のいずれか一項に記載の内燃エンジン。
【請求項8】
アンモニア過剰を検出するアルゴリズムがハイパスフィルタリングによってSCR触媒コンバーター上流の窒素酸化物センサーのダイナミクスを決定し、それに続いて注入量を生成し、平均化す
る請求項1~
7のいずれか一項に記載の内燃エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
いわゆる非道路ディーゼルエンジン(Nonroad-Dieselmotoren)に適用される欧州、米国および中国の排出規制に準拠するためには、ディーゼルエンジンに排気ガス浄化システムを装備することが不可欠である。典型的な排気ガス浄化システムは一酸化炭素と炭化水素を酸化除去するためのディーゼル酸化触媒を含み、必要に応じてその下流側にディーゼル微粒子フィルター、脱窒ユニットが配置される。商用車部門および非道路部門のディーゼルエンジン排気ガスの脱窒に一般的な窒素酸化物の選択的触媒還元用ユニットは、いわゆるSCR触媒コンバーター(SCR:Selective Catalytic Reduction)と、被浄化排気ガス流中に還元剤として注入されるアンモニアまたはアンモニアに分解可能な化合物の注入装置(Vorrichtung zur Eindosierung)とを使用する。好ましい還元剤は尿素水溶液またはカルバミン酸アンモニウム溶液で、特に尿素溶液が好ましい。このSCRユニットは一般に上流のディーゼル酸化触媒コンバーター(DOC)および/またはディーゼル微粒子フィルター(DPF)の下流に配置される。
【0002】
特にEUのステージIVまたはTier4fの排出基準を遵守するためには、EP-B1054722に準拠したシステムまたはディーゼル微粒子フィルター無しシステム(DOC+SCRのみ)が使用される。特に、排気ガスの浄化にディーゼル微粒子フィルター無しのシステムを使用する後者の「オープン」システムではエンジンの燃焼プロセスが粒子の排出を最少に抑えるように調整される。そのため生のNOx排出量が大幅に増加する。従って、法定の排出制限量を達成するためにはシステムの全運転寿命にわたってSCRユニットの窒素酸化物変換率を90%以上にすることが要求される。
【0003】
SCRシステムの効率はSCR触媒コンバーターの温度と質量流量だけでなくSCR触媒コンバーター上流のNO2/NOx比および還元剤量によっても決まる。NO2/NOx比は上流のDOCおよび/またはDPFの排気ガス精製ユニットによって設定され、0.2~0.7、特に好ましくは0.4~0.6の値に設定される。
【0004】
還元剤の注入量が過少(例えば、α=0.8、ここで、αはSCR触媒コンバーター上流での被浄化排気ガス中のNH3対NOxのモル比を表す)になると、利用可能な還元剤の量に従って理論上の可能窒素酸化物変換率が制限される(α=0.8の場合、窒素酸化物変換率は最大80%)。還元剤の注入量を過剰(α>1)にすればSCR触媒コンバーターによる熱力学的な可能最大窒素酸化物変換率が達成できる。これは各運転条件(排気ガスの質量流量、温度、SCR前のNO2/NOx比)における触媒コンバーターの材料の特性によってのみ決まる。
【0005】
しかし、還元剤を過剰注入するとアンモニアがSCR触媒コンバーターを通過(ブレークスルー)してしまう。アンモニアはEUの危険表示に基づく環境に危険な有毒ガスであるため、残留ガス中への排出は絶対に避けなければならない。
【0006】
従来のシステムでは一般にモデルに基づいて還元剤の注入量を調節する。すなわち、エンジン制御ユニットに格納したソフトウェアが、生の排出ガス中のNOx含有量と予め実験で求めたSCR触媒コンバーターの効率とに基づいて、考えられる全ての動作点での還元剤の化学量論的必要量を計算し、それに従って注入する尿素溶液の量(いわゆる「入力量(Vorsteuermenge)」を制御する。しかし、遷移金属で交換したゼオライトベースのSCR触媒はアンモニア保存容量が非常に大きいためこのパイロット制御(事前制御)は困難である。触媒に保持できるアンモニア量は作動温度と触媒のエージング状態によって異なる。従って、運転ポイントに応じて注入した還元剤量の一部が触媒コンバーターのアンモニア貯蔵器を充填するために使用される。この貯蔵によって貯蔵器からのアンモニアを使用して排気ガス中に含まれる窒素酸化物を減らすことで、動的運転時に生じる短期的な過少注入を補償することができる。その後は還元剤の過剰注入を減らしてアンモニア貯蔵量を補充する必要がある。
【0007】
こうした触媒貯蔵挙動のためSCR触媒内での複雑な化学-物理プロセスを数学的に説明することは非常に難しく、パイロット制御モデルを最適に適応させることは困難である。従って、還元剤注入量をモデルベースで調整する方法では全ての運転ポイント、特にエンジンの過渡的運転時でのSCR触媒コンバータの最大効率を確保できないという欠点がある。
【0008】
SCRシステムの先行技術ではアンモニアセンサーを用いてSCR触媒コンバーター下流のアンモニア通過(ブレークスルー)を検出することは公知である。
【背景技術】
【0009】
[特許文献1](国際公開第WO2010/062566号公報)にはアンモニアセンサーの構造および動作モードが開示されている。
【0010】
[特許文献2](ドイツ特許公開第DE102006051790号公報)は内部燃焼エンジンの排気ガスを浄化するための排気ガス後処理システムを開示しており、このシステムは排気ガスの流れ方向に第1の酸化触媒、薬剤を排気ラインに導入する装置、第2の酸化触媒、ディーゼル粒子フィルター、窒素酸化物の削減に効果的な還元剤の注入装置、SCR触媒およびオプションとしての酸化触媒活性を有する(アンモニア)ブロッキング触媒をこの順序で含んでいる。SCR触媒の下流には還元剤添加調整の改善または診断目的でアンモニアセンサーを設置することができる。
【0011】
[特許文献3](欧州特許公開第EP-A2317091号公報)には、排気ガスの流れ方向に酸化触媒、尿素溶液用の注入装置を備えた排気ガス管およびSCR触媒で構成される排気ガス浄化システムをこの順序で含む排気ガス浄化システムが開示されている。温度センサーはSCR触媒コンバーターに統合されている。SCR触媒コンバーターの下流側には排気ガス中のアンモニア濃度を検出するためのアンモニアセンサーが設置されてる。このアンモニアセンサーの下流側にアンモニア酸化触媒コンバーターを配置できる。このEP-A2317091に開示のシステムではエンジンの回転数およびトルクを関数として注入する尿素液の量(プレコントロール量)が決定される。それと同時に注入開始からアンモニアスリップ開始までの遅延時間からSCR触媒のアンモニア貯蔵容量が計算される。SCR触媒コンバーターの下流にあるアンモニアセンサーによってアンモニアスリップが示された場合には、プレコントロール量と比較して実際に注入する尿素液量を減少させる。SCR触媒コンバーターのアンモニア貯蔵容量を計算した結果、制御ソフトウェアに保存されている基準値よりも小さい値が得られた場合には、実際に注入する尿素液の量をプレコントロール量に比較して増加させる。
【0012】
[特許文献4](欧州特許公開第EP-A2317090号公報)はSCRシステムを運転する方法を開示しており、運転条件によってSCR触媒コンバーターをアンモニア通過が予想される場合には、計量量の還元剤の予備的な回収を行う。運転条件のこのような変化には排気ガスの質量流量の変化および/または排気ガス温度の上昇が含まれる。このEP-A2317090号公報は2つのSCR触媒コンバーターの間に配置したアンモニアセンサーによってアンモニアスリップのリスクを検出する方法も開示しており、第1の上流SCR触媒の後で、事前に定義したアンモニアスリップ量を超えた時には還元剤の計量をオフにする。
【0013】
[特許文献5](ドイツ特許公開第DE102008043141号公報)はディーゼル内部燃焼エンジン用の排気ガス浄化システムを開示しており、排気ガスの流れ方向にディーゼル酸化触媒、排気システムへアンモニアを注入する装置、SCR触媒、排気ガス中の窒素酸化物を検出するためのNOxセンサー、アンモニア酸化触媒、排気システムへ水を注入する装置およびアンモニアセンサーを備えている。アンモニア酸化触媒コンバーター後の排気ガス中に所定値を超えるアンモニア濃度が検出された場合には、アンモニア酸化触媒コンバーター下流の排気システムに水を注入して、排気管中に存在するアンモニアを「キャッチ」してアンモニアが大気中に逃げるのを防いでいる。
【0014】
[特許文献6](米国特許公開第US2009/0272099号明細書)および[特許文献7](米国特許公開第US2010/0242440号明細書)には、排気ガスの流れ方向に酸化触媒、ディーゼル粒子フィルター、アンモニアまたは尿素溶液などの還元剤を注入するための装置、SCR触媒およびアンモニア酸化触媒をこの順序で有する排気ガス後処理システムが開示されている。アンモニア酸化触媒コンバーターの流出側、SCRの流入側および/またはアンモニア酸化触媒コンバーターの上流側にアンモニアセンサーを配置でき、さらに、排気ガス中の窒素酸化物含有量を検出するためのNOxセンサーを備えることができる。実際の還元剤の注入量はこれらセンサー信号を用いて調整される。すなわち、パイロット制御モデルのエラーまたは不整合(モデリングエラー、触媒の老化またはセンサーの老化による実際の効率レベルの偏差、還元剤濃度の偏差、注入遅延など)が原因で生じる還元剤の最適ではない注入量が修正される。
【0015】
[特許文献8](国際公開第WO2011/139971号公報)には排気ガスの流れ方向に2つのSCR触媒コンバーターが配置され、2つのSCR触媒コンバーター間にアンモニアセンサーが配置され、第2のSCR触媒コンバーターの下流側にNOxセンサーが配置されたSCRシステムの運転方法が開示されている。この特許の特徴はアンモニアセンサーによって求めた2つのSCR触媒間の排気ガス中のアンモニア濃度のデフォルト値が2番目のSCR触媒コンバーター後のNOxセンサーによって求めた排気ガス中のNOx濃度に応じて変更または調節される点にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開第WO2010/062566号公報
【文献】ドイツ特許公開第DE102006051790号公報
【文献】欧州特許公開第EP-A2317091号公報
【文献】欧州特許公開第EP-A2317090号公報
【文献】ドイツ特許公開第DE102008043141号公報
【文献】米国特許公開第US2009/0272099号明細書
【文献】米国特許公開第US2010/0242440号明細書
【文献】国際公開第WO2011/139971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、還元剤としてのアンモニアおよび/またはアンモニアに分解可能な化合物を可能最大限に供給することによってSCR触媒コンバーターの理論効率を可能最大限に利用でき、SCRシステムによるアンモニアの通過(ブレークスルー)を体系的に回避でき、それと同時に、アプリケーションおよびデータ(Applikations- und Bedatungsaufwand)の要求を可能な限り少なくすることができることを特徴とする、選択触媒還元によってディーゼルエンジン排気ガスの窒素酸化物を低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の上記目的は、排気ガスの流れ方向に以下を以下の順序で含む排気ガス後処理システムを用いたディーゼルエンジン排気ガスから窒素酸化物を低減させる方法によって達成される:
(1)被浄化排気ガス中に還元剤としてのアンモニアおよび/またはアンモニアに分解可能な化合物を注入するための装置、
(2)1番目のSCRユニットを形成する1つまたは複数のSCR触媒コンバーター、
(3)2番目のSCRユニットを形成する1つまたは複数のSCR触媒コンバーターおよび/またはアンモニア酸化触媒コンバーター、および
(4)排気管内の窒素酸化物(NOx)の濃度を求めるための窒素酸化物センサー(NOxセンサー)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明方法を実施するための排気ガス後処理システムおよびSCR制御の概念図。
【
図2】NRTCでの化学量論以上の注入時のアンモニア過剰(Ammoniak-Uberschuss)検出の比較。
【
図3】「ユニホームドライビングサイクルサイクル(Einheitsfahr-Zyklus)での化学量論以上の注入時のアンモニア過剰検出の比較。
【発明を実施するための形態】
【0020】
大抵の場合、排気ガス浄化システムの構成要素の一つは選択触媒還元(SCR)である。このSCR排気後処理は窒素酸化物を減らすために使用され、尿素溶液(例えば.Bアドブルーまたは尿素/DEF)の注入によって窒素酸化物が還元される。注入された尿素溶液は反応してアンモニア(NH3)になる。
【0021】
SCR触媒コンバーターでは廃棄ガス中の窒素酸化物が最適効率でアンモニアと反応して主として窒素と水になる。SCRシステムの効率は温度、質量流量、NO
2/NOx比だけでなく尿素量にも依存する。使用量が少ない(λ<1)とSCR触媒が窒素酸化物を変換できないため窒素酸化物の排出量が増加する。一方、還元剤が過量注入(λ>1)されるとアンモニア過剰になり、触媒から排出される。アンモニアは有毒で環境に有害な特性を有しているので、放出されるアンモニアの量を規制し、厳格に避ける必要がある。余分なアンモニアの一部はアンモニアスリップ触媒(ASC)を使用して一酸化窒素(NO)に戻すことができるが、変換率が必ずしも十分ではないため、過剰なアンモニアを完全に一酸化窒素に変換できない。ASCによる残留アンモニア過剰を検出するための従来の解決方法はDelphi社のNH
3センサーを設けることであった([
図1]を参照)。SCRによるアンモニア過剰が検出された場合にセンサー値を用いてSCRアクチュエータの量を補正できるので、ASCに従ってアンモニア過剰をモニターすることで注入量に関するSCRシステムの効率を、アンモニア過剰のリスク無しに、最適に利用できる。
【0022】
本発明による新しい解決方法ではソフトウェア・アルゴリズムを用いてアンモニア過剰を検出する。この新しい解決方法と従来の解決方法とを比べた時の利点はNH3センサーの購入・組立てコストが節約でき、しかも、SCRによるアンモニア過剰に起因する一酸化窒素の生成を検出できる点にある。
【0023】
上記のソフトウェアアルゴリズムでは、SCR触媒コンバーターの後に配置した窒素酸化物センサー、例えばコンチネンタル社(Firma Continental)の窒素酸化物センサーの分析に基づいてアンモニア過剰を検出する。この分析では、アンモニアに対する窒素酸化物センサーの横断感応性(交差感受性、Querempfindlichkeit)を利用し、高速フーリエ変換(FFT、Radix-2 時間間引き(Decimation in Time))および正規化によって正規化された振幅スペクトル(normierte Amplitudenspektrum)を求める。この高速フーリエ変換(Fast-Fourier-Transformation、FFTと略称)は離散フーリエ変換(diskreten Fourier-Transformation、DFT)を効率的に計算するためのアルゴリズムである。これによってデジタル信号をその周波数成分に分解し、分析できる。
【0024】
同様に、逆離散フーリエ変換の逆高速フーリエ変換(IFFT)がある。IFFTでも同じアルゴリズムを使用するが、共役係数(konjugierten Koeffizienten)を使用する。
【0025】
FFTは工学、自然科学、応用数学の分野で多数の応用分野を有し、また、UMTSやLTEなどのモバイル テクノロジや、WLAN ワイヤレス ネットワーク技術などのワイヤレス データ伝送でも使用されている。クーリーとトゥキー(Cooley und Tukey)のアルゴリズム(Radix-2)は古典的なパートアンドルール(Teile-und-herrsche-Verfahren)法で、そのアプリケーションの前提条件は、サポートポイントまたはサンプリングポイントの数が2の累乗であることであるが、このような点数は一般に測定方法の文脈で自由に選択できるため、これは重大な制限ではない。
【0026】
このアルゴリズムはサイズ2nのDFTの計算は(偶数または奇数インデックスのエントリを持つベクトルを用いて)サイズnのDFTの2つの計算に分解でき、変換後にサイズ2nの2つのサブ結果を再び組み合わせることができるという観測に基づいている。
【0027】
半分の長さのDFTの計算には、元のDFTの複雑な乗算と加算の4分の1しか必要としないので、出力ベクトルの長さに応じてルールを連続して数回適用でき、基本的な考え方を再帰的に適用することで最終的に時間内に計算できる。ランダウ記号(Landau-Symbole)は数学やコンピューターサイエンスで関数やシーケンスの漸近的な振る舞いを説明するために使用される。コンピュータサイエンスではこれがアルゴリズムの分析に使用され、入力変数のサイズに応じて基本ステップまたはメモリーユニットの数のレベル値を与える。複雑性理論(Komplexitatstheorieie)ではこれらを使用して解決がどれだけ「困難」またはコストがかかるかに応じて、さまざまな問題を比較する。「困難な問題」はインスタンスまたは急激に指数関数的に成長し、「軽い問題」の場合には、実行時間の増加が多項式の成長によって制限されるアルゴリズムがあると言われている。これらは多項式で解決可能(または不可能)と呼ばれる。三角法計算演算を省くために、FFTではフーリエ行列の標準根の特性をさらに利用することができる。ここで使用する値の範囲は間隔[0,1]で、この間隔[0,1]は後の振幅スペクトルの正規化で参照される。次に、正規化された振幅スペクトルの商(Quotient)が決定され、それによって高周波成分と低周波成分の比率が求められる。これはシンプソン(Simpsonregel)の法則を使用して2つの周波数範囲に対する正規化振幅スペクトルの積分の形で行われる。シンプソン(トーマスシンプソ)の法則またはケプラー(ヨハネスケプラー)の法則は数値積分の方法であり、積分が困難な関数f(x)を正確に積分可能なパラボラ(Parabel)P(x)を用いて近似することによって間隔[a、b]で関数f(x)の積分の近似値が計算される。
【0028】
パラボラP(x)は関数値による補間多項式として点a、b、m=(a+b)/2の位置に挿入され、パラボラ積分で積分値が近似される。従って、シンプソン(Simpsonregel)の法則はいわゆる閉じたニュートン・コーツ(Newton-Cotes-Formel)の公式である。下記:
の近似式S(f)は下記になる:
【0029】
商(Quotient)が特定の閾値を超えた場合、ソフトウェアアルゴリズムがアンモニア過剰を示す。
【0030】
さらに、ハイパスフィルタリングし、SCR触媒コンバーター上流にある窒素酸化物センサーからの窒素酸化物信号の絶対値と平均値を作って動的検出を実現する。この動的検出からの値を使用して高速フーリエ変換による分析が有効になり、また、閾値が調整され、商(Quotient)と比較される。
【0031】
その適応は個別の線形補間(stuckweise lineare Interpolation)によってSCR触媒コンバーター上流の窒素酸化物信号の現在のダイナミクスに従って行われる。2つの周波数範囲(低周波数成分と高周波数成分)へ分割するパラメータ、FFT分析qdynのリリースの閾値および商のqintと比較するための閾値を調整するためのパラメータは代表的な顧客サイクルをベースにした遺伝的アルゴリズム(GA)で最適化する。遺伝的アルゴリズム(GA)は進化的アルゴリズム(EA)のクラスに属する。EAはダーウィニアンの進化の原理(変化、再現、選択)に基づいたヒューリスティックな検索アルゴリズムで、最適化の問題を繰り返し解決するために技術レベルでこの原理を模倣する。
【0032】
そのために、多数の固体(Individuen)の母集団(Population)を構築または初期化する。各固体は一つの可能な解決策を有する。続いて、品質関数に従って各固体の適合性(Tauglichkeit)または進化的適合性(evolutionare Fitness)が決定される。終了基準(Abbruchkriterium)が満たされるとアルゴリズムは停止される。終了基準の例は品質関数の目標値の達成またはアルゴリズムの反復回数である。終了基準が満たされない場合には次の反復のために新しい母集団が作成される。これは進化の分野では世代とも呼ばれる。
【0033】
ここがダーウィンの進化論のアナロジーの主要部分が行われる場所である。既存の母集団から最高の適合性を有する新しい母集団の固体が選択され、組換えに使用される。組換えでは「親」とも呼ばれる選択された個体の構成要素(遺伝子)を使用して新しい個体を作成する。新しい固体は進化的アルゴリズムの分野では子孫または子とも呼ばれる。組換え後に個体を突然変異させて新しい集団を作成することもできる。突然変異では、例えばランダムな個体を選択し、これら個体の個々の遺伝子を再び変更する。ここで、新しい固体の適応度が決定され、次いで進化的適応度に関してどの固体が次世代に参加するかが選択される。新しい母集団の生成後、終了基準が再度チェックされ、終了基準が満たされるまでアルゴリズムが続行される。
【0034】
基本的なプロセスを以下に簡単に要約する:
1.母集団の初期化
2.母集団の評価
3.終了基準の確認:
充足 ->アルゴリズム停止
非充足->次のステップに進む
4.次世代のための新しい母集団の創造
組換え候補の選択
組換え
突然変異
新しい固体の評価
次世代の新しい母集団を決定するための選択
5.手順3に進む。
【0035】
NH3検出を最適化するための適合度関数(Fitnessfunktion)は、仮想NH3センサーの検出とテストベンチで測定されたアンモニアの比較の一致度(Ubereinstimmungen)の合計から得られる。換言すると、NH3を評価する測定ウィンドウ内で平均10ppm以上である場合、参照(Referenz)は論理1、それ以外は0を表示する。NH3センサーの仮想パラメータ化は参照に一致するように可能な限り頻繁にGAによって設計する。
【実施例】
【0036】
添付の2つの図([
図2]と[
図3])は一方が5つのカスタマーサイクルで構成される「ユニホームドライビングサイクル(Einheitsfahr-Zyklus)」を示し、他方が非道路過渡サイクル(NRTC)を示している。
【0037】
両方の図の下側の図でソフトウェアソリューションの検出結果とDelphi社のアンモニアセンサーの検出結果とを比較できる。センサーでは100秒間で平均10ppmのアンモニア値を測定した場合にセンサーがアンモニア過剰を示している。ここに示したNRTCはλ=2.6の化学量論の注入量で実行した。ソフトウェアソリューションの検出はセンサーの検出にほぼ対応しており、全てのアンモニア過剰状況と、平均で10ppmを超えるアンモニア過剰が無い全ての状況を検出している。深刻な過剰摂取をシミュレートするために「ユニホームドライビングサイクル」の開始時にデフォルトのλ=2を選択し、その後、注入量を徐々にλ=1に減らした。これは[
図3]の3000秒からのサイクル後半で見ることができる。センサーおよびソフトウェアアルゴリズムの両方が深刻な過剰注入および化学量論注入の領域を認識している。
【0038】
要約すると、本発明のソフトウェアソリューションは、アンモニア過剰の有無に関する定性的ステートメントに関してNH3センサーと同等の結果を提供し、従って、アンモニア過剰を検出するためのSCR触媒コンバーターの全体的な制御戦略での使用に適していると言える。