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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】高絶縁性濃色フッ素樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240208BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019109499
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020200414
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越前 恒雄
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012787(JP,A)
【文献】特開2014-034650(JP,A)
【文献】特開平10-310712(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023956(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111102(WO,A1)
【文献】特開昭61-261396(JP,A)
【文献】特開昭62-137436(JP,A)
【文献】特開昭63-049638(JP,A)
【文献】特開昭58-023130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/18
C08K 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対して含有し、前記絶縁性顔料の平均粒径が、1.0超~1.5μmであり、且つ組成物中の前記絶縁性顔料の含有量が3重量%を超え、かつ7重量%未満であり、前記絶縁性顔料と前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の添加剤の含有量が10重量%以下であり、
前記絶縁性顔料が、CuO-Cr 2 3 -Mn 2 3 系、CoO-Fe 2 3 -Cr 2 3 系、若しくはCuO-Fe 2 3 -Mn 2 3 系の絶縁性顔料である黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対して含有し、前記絶縁性顔料の平均粒径が、1.5超~3.0μmであり、且つ組成物中の前記絶縁性顔料の含有量が5重量%を超え、かつ8重量%未満であり、前記絶縁性顔料と前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の添加剤の含有量が10重量%以下であり、
前記絶縁性顔料が、CuO-Cr 2 3 -Mn 2 3 系、CoO-Fe 2 3 -Cr 2 3 系、若しくはCuO-Fe 2 3 -Mn 2 3 系の絶縁性顔料である黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対して含有し、前記絶縁性顔料の平均粒径が、0.1超~0.4μmであり、且つ組成物中の前記絶縁性顔料の含有量が1重量%を超え、かつ3重量%未満であり、前記絶縁性顔料と前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の添加剤の含有量が10重量%以下であり、
前記絶縁性顔料が、CuO-Cr23-Mn23系の絶縁性顔料である黒色系フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対して含有し、前記絶縁性顔料の平均粒径が、0.4超~1.0μmであり、且つ組成物中の前記絶縁性顔料の含有量が1.5重量%を超え、かつ5重量%未満であり、前記絶縁性顔料と前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の添加剤の含有量が10重量%以下であり、
前記絶縁性顔料が、CuO-Cr23-Mn23系の絶縁性顔料である黒色系フッ素樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性であるポリテトラフルオロエチレン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は優れた耐熱性や耐薬品性、低摩擦性、非粘着性、高絶縁性、低誘電率などの電気特性など、様々な特性が非常に優れている。このため、高い絶縁性や低誘電率・低誘電正接などの電気特性を活かして、電子基板材料や電線の被覆材、絶縁テープの材料として用いられている。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、導電性や耐摩耗性などの特性を付与するために、各種の充填材を添加する改良も行われている。また、フッ素系樹脂のマイクロパウダー分散体として、着色材料と、シアン酸エステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物(特許文献1)も作成されている。このように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、優れた物性を有することから、着色することにより、更に、隠蔽性、光学特性、遮光性や光反射性、意匠性などの改善により、より様々な用途に使用することが期待できる。
【0003】
しかしながら、PTFEは白色であることから、樹脂組成物の主成分とした場合、上記の特性を維持して十分な黒色に着色することは困難であった。従来から黒色にするために使用されるカーボンブラックは、比較的少量の添加で樹脂組成物を黒色に着色できるが、カーボンブラックは導電性材料であるため、添加により樹脂組成物の電気特性に影響を与えることになる。このため、高い絶縁性を有し、且つ、十分な黒色を呈する樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-12786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、黒色系高絶縁性フッ素樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特定の平均粒径を有する、特定の黒色系絶縁性粒子を、特定の含有量で、フッ素樹脂に加えることにより、黒色性と絶縁性に優れたフッ素樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
本発明の一の態様は、絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に対して含有し、組成物中の黒色系絶縁性顔料の含有量が1重量%を超え、かつ8重量%未満であることを特徴とする黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物である。絶縁性顔料の含有量は、1.5重量%を超え、かつ7重量%未満であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の一の態様は、絶縁性顔料の平均粒径が、0.1超~0.4μmであり、且つ前記絶縁性顔料の含有量が1重量%を超え、かつ3重量%未満であるフッ素樹脂組成物であり、更に、本発明の一の態様は、絶縁性顔料の平均粒径が、0.4超~1.0μmであり、且つ前記絶縁性顔料の含有量が1.5重量%を超え、かつ5重量%未満であるフッ素樹脂組成物である。
【0009】
また、本発明の一の態様は、絶縁性顔料の平均粒径が、1.0超~1.5μmであり、且つ前記絶縁性顔料の含有量が3重量%を超え、かつ7重量%未満であるフッ素樹脂組成物であり、更に、本発明の一の態様は、絶縁性顔料の平均粒径が、1.5超~3.0μmであり、且つ前記絶縁性顔料の含有量が5重量%を超え、かつ8重量%未満であるフッ素樹脂組成物である。
【0010】
また、絶縁性顔料は、Co,Ti,Ni,Zn,Al,Cr,Cu,Mn,Feの酸化物の何れか一つ又は複数であることが好ましく、Cu,Cr,Mn,Feの複合酸化物の何れか一つ又は複数であることがより好ましい。更に、絶縁性顔料は、CoO-Cr23-Mn23系、CoO-Fe23-Cr23系、若しくはCuO-Fe23-Mn23系の黒色系絶縁性顔料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の黒色系高絶縁性フッ素樹脂組成物は、高い絶縁性を有し、且つ黒色であり、加工性にも優れていることから、各種の絶縁性が必要とされる電子基板材料等において幅広く使用することが出来る。本発明により、耐熱性、電気特性、加工性などに優れる黒色性の高絶縁性フッ素樹脂組成物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.本発明の黒色系高絶縁性フッ素樹脂組成物
本発明の黒色系高絶縁性フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂と、黒色系絶縁性顔料を含むことを特徴とするものである。
【0013】
(1)フッ素樹脂
本発明の黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物には、フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンが含まれる。ポリテトラフルオロエチレンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(ホモPTFE)若しくは、TFEと共重合可能な単量体が1重量%以下の範囲で含まれるTFE共重合体(変性PTFE)、又は、これらの混合物を使用することができる。
【0014】
変性PTFEに含まれるTFEと共重合可能な単量体(コモノマー)としては、不飽和結合を含みラジカル重合が可能な単量体が使用できる。耐熱性・耐薬品性などのPTFEの優れた性能を維持するためには、コモノマーとして、含フッ素単量体を使用することが好ましい。コモノマーの具体例としては、炭素数3以上、好ましくは炭素数3-6個のパーフルオロアルケン、炭素数1-6個のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの中では、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PPVE)、クロロトリフルオロエチレンを使用することが好適である。
【0015】
変性PTFEを使用した場合、コモノマーの存在により、分子鎖同士が滑りにくくなるため、樹脂の強度や弾性係数が大きくなり、耐クリープ性も改善される。しかし、コモノマーの量が1重量%を超えると、PTFEの摺動性が低下すると共に、融点以上の温度で流動性を示すようになるため、高温下での使用には適さなくなる。また、圧縮成形した組成物を融点以上で加熱焼成する、フリーベーキング法による成形品の作製が困難となってしまう。このため、コモノマー含有量は、コモノマー単位が0.001~1重量%の範囲であることが好ましい。
【0016】
ポリテトラフルオロエチレンの重合方法としては、懸濁重合や乳化重合等の公知の重合方法を利用できる。本発明の樹脂組成物には、以下の理由から、懸濁重合によって得られた粉末PTFE(モールディングパウダー)が好ましく用いられる。乳化重合で得られたポリテトラフルオロエチレンと比較し、懸濁重合によって得られたポリテトラフルオロエチレンは、せん断応力による繊維化を引起しにくいため、常温の乾式混合が可能である。また、懸濁重合は、成形時の投入作業においても、粉が固まることがなく取扱い性に優れており、また、低コストという点でも優れている。
【0017】
ポリテトラフルオロエチレンは、圧縮成形等の手段で成形可能な分子量を有していれば、成形材料として使用することができる。PTFEの融点は分子量と相関していることが知られており、融点が約327℃の重合体は、機械的強度および耐熱性が良好な摺動部品等用の成形樹脂として好適に使用することができる。
【0018】
また、このポリテトラフルオロエチレンは、通常パウダー状態で各種製品の成形に使用される。その平均粒径は100μm以下、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmの範囲が望ましい。平均粒径がこの範囲にあるポリテトラフルオロエチレンは、各種充填材との均一混合性に優れている。そのようなポリテトラフルオロエチレンは、懸濁重合法によって直接パウダー状に製造することができる。また、このような平均粒径を有しているものであれば、市販のモールディングパウダーを使用することもできる。
【0019】
このようなPTFEモールディングパウダーとしては、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7-J(ホモPTFE 平均粒径:50μm)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7A-J(ホモPTFE 平均粒径:30μm)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 70-J(変性PTFE 平均粒径:35μm)が挙げられる。
【0020】
(2)黒色系絶縁性顔料
(ア)絶縁性顔料
本発明の樹脂組成物には、絶縁性の金属酸化物である絶縁性顔料が含まれる。絶縁性顔料には、金属酸化物である無機顔料(Co,Ti,Ni,Zn,Al,Cr,Cu,Mn,Feなどの酸化物)、および、これらの複合体が含まれる。樹脂組成物を濃い黒色にするためには、Cu,Cr,Mn,Feの複合酸化物である無機顔料を使用することが好ましい。黒色系の絶縁性顔料の具体例としては、Cu-Cr-Mnの酸化物,Cu-Fe-Mnの酸化物,Co-Fe-Crの酸化物などが挙げられる。より具体的には、黒色系の絶縁性顔料として、CuO-Cr23系、CoO-Cr23-Mn23系、CoO-Fe23-Cr23系、CuO-Fe23-Mn23系の顔料を、単独若しくは、組合せて使用することが出来る。これらの顔料は、耐熱性、耐薬品性にも優れた絶縁性顔料である。
【0021】
ここで黒色とは厳密には限定されないが、光の反射率がゼロに近く、ほぼ全ての波長の光または可視光を吸収する色であり得るが、人の目に黒色と知覚し得る程度の黒色であってもよい。明度指数(JIS Z8781-4:2013に規定されるL***表色系による表記)で、L*の値が低いものを、ここでいう黒色系とすることができる。
【0022】
黒色系の絶縁性顔料は、この顔料粒子の粒径が小さいと、顔料による樹脂の着色力が強くなるが、顔料の凝集が発生しやすくなり、樹脂組成物との混合が難しくなる。その結果、粒径が小さい顔料を樹脂に加えた場合には、樹脂組成物の絶縁性を低下させやすくなる。一方、顔料粒子の粒径が大きいと、顔料による樹脂組成物の着色は難しくなるが、樹脂組成物の絶縁性を低下させ難い。
【0023】
高い絶縁性と、濃い黒色性の両立という観点からは、顔料粒子の平均粒径は、0.1~3.0μmの範囲であり、好ましくは0.4~1.5μmの範囲である。
【0024】
ここで「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法によって得られる粒度分布における積算値50%(体積基準)での粒径を意味する。
【0025】
(イ)顔料の含有率
以下に、フッ素系樹脂に対する絶縁性顔料の含有率について説明する。
本発明の樹脂組成物における絶縁性顔料の含有比率(組成物中の重量%)は、十分な黒色を付与し、樹脂組成物の絶縁性を低下させないという観点からは、1~8重量%であり、好ましくは、1.5~7重量%である。
【0026】
顔料の最適な含有量(含有比率)は、求める性能(黒色性及び絶縁性)と、顔料の平均粒径によって変化する。例えば、平均粒径が0.4~1.5μmの範囲の顔料を使用する場合は、1.5重量%以上で使用することが好ましく、1.5~7重量%で使用することがより好ましい。また、平均粒径が相対的に小さい粒子を含む場合には、その含有量が絶縁性に与える影響が大きくなりえる。このため、平均粒径が0.4μm以下の顔料を使用する場合は、5重量%以下で使用することが好ましく、1.0~3重量%で使用することがより好ましい。
【0027】
(3)任意の添加物
本発明の黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物には、上記の絶縁性顔料、フッ素樹脂の他に任意成分を加えることが出来る。絶縁性材料以外の添加剤・充填材を加えると、高い絶縁性に影響を与えることになるため、添加する量は10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。求める特性に応じて、性能に影響を与えない範囲で加えることは可能である。
【0028】
例えば、固体潤滑剤、酸化安定剤、耐熱安定剤、耐摩耗材、耐候安定材、難燃剤、顔料などの1種または2種以上の各種添加剤を含有していてもよい。追加成分として、固体潤滑剤を微量に配合することは、自己潤滑性の向上に有用である。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、窒化ホウ素などが挙げられる。このほか、導電性、発泡防止など求める特性に応じて顔料や各種の添加剤も加えることができる。
【0029】
(4)黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物
本発明の黒色系絶縁性樹脂組成物は、高い絶縁性を有することを特徴とする。絶縁性に関しては、破壊電圧(V/mm)を指標として評価することが出来る。この破壊電圧が高い値を示すことは、組成物が高い絶縁性を有することを意味している。本発明の黒色系絶縁性樹脂組成物は、44kV/mm以上の高い絶縁性を示すことができる。また、本発明の黒色系絶縁性樹脂組成物は、樹脂と黒色系絶縁性粒子の種類及び比率を適宜変更することにより、47kV/mm以上、更に50kV/mm以上のより高い絶縁性を備えた樹脂組成物を製造することも出来る。
【0030】
また、本発明の黒色系絶縁性樹脂組成物は、濃い黒色を有することが特徴である。濃い黒色、つまり、黒色性は、シートや成形品の表面の明度指数(L*)を測定することにより、評価することが出来る。この明度指数(L*)の値が小さいことは、それだけ濃い黒色性を有ることを意味する。例えば、従来から使用されているカーボンブラックを含む樹脂組成物の明度指数は17程度であることから、これらの値が黒色性の一つの基準となり得るが、一般的には25以下であれば黒色といえ、20以下であると十分な黒色を呈しているといえる。具体的には、シートや成形品の表面について色味測定を行い、明度指数(L*)として評価することが出来る。
【0031】
そして、本発明の黒色系絶縁性樹脂組成物は、上記の濃い黒色性と高絶縁性の両方を有することを特徴とするものである。
【0032】
(5)樹脂組成物の製造方法
本発明の黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物は、上記のフッ素樹脂に、上記の比率で、黒色系絶縁性顔料、及び、上記の任意の添加物を添加して混合し、作成することが出来る。混合方法としては公知の各種方法が利用できるが、水や有機溶剤などの液媒体を用いない乾燥条件下での高速攪拌・高速回転(ドライブレンド)がシンプルで、生産性が良いので好ましい。
【0033】
混合に用いる装置としては、ドライブレンドを行う装置としては、カッターミキサー、ヘンシェルミキサー、チョッパー付V型ブレンダー、チョッパー付ダブルコーンミキサー、ロッキングミキサー、レディゲミキサーなどが挙げられる。混合された樹脂組成物は、使用目的に従って、所定の形状に成形される。
【実施例
【0034】
(1)サンプルの調製
以下、具体的な実施例を示す。表1に記載の種々の絶縁性顔料と、フッ素樹脂(PTFE:三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7A-J)とを混合して黒色系絶縁性フッ素系樹脂組成物を作成した。そして、得られた樹脂組成物を直径50mm、内径20mmの金型に入れ、300kgf/cm2で加圧することにより予備成形し、それを電気炉中で、370℃、3時間焼成することにより、高さ約100mmの円筒状成形物を得た。得られた円筒状の成形物をスカイブ加工によって厚さ0.3mmのシートを作成した。このシートの破電値(kV/mm)を測定して絶縁性を評価した。また、このシートの明度を測定して黒色性の評価とした。
【0035】
(2)絶縁性[破電値]の測定
得られたシートについて、YSS式耐電破壊試験機(安田精機製作所製、No.175)を用いて、JIS C-2110に準拠した電極を使用し、破壊電圧を室温で測定した。測定時に、シートの外を通電したもの、欠陥部から通電したように見えたときのデータを除いて、平均値を求めた。
【0036】
(3)色の濃さ[明度]の測定
厚さ300μmのテープ(上記0.3mmのシートと同様のもの)を用いて、色差計(日本電色工業株式会社製、測色色差計ZE6000)を使用して、L*(明度指数)を測定した。
【0037】
(4)黒色系顔料
具体的には、以下の表1に記載の顔料を、実施例では使用した。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例1)
表2に示す含有比率で、PTFE樹脂(PTFE:三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7A-J)のパウダー198gと、黒色系絶縁性顔料(Pigment Black 26(C.I No.77494):平均粒径、2.8μm)2gとを、合計200gとなるように秤取し、攪拌羽根付きミル(大阪ケミカル株式会社製ワンダークラッシュミルD3V-10、攪拌羽根直径142mm)に投入し、40秒間25000rpmで撹拌した。得られた混合粉末を、上記の方法にて、0.3mm厚のシートに成形した。これについて、上記の測定方法により、絶縁性(破電値)と、色の濃さ(明度)を測定した。
なお以後、Pigment Black 26(C.I No.77494)はPB26、Pigment Black 27(C.I No.77502)はPB27、Pigment Black 28(C.I No.77428)はPB28と略称する。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2~3)
実施例1において、上記表2に記載のように、顔料の含有量を変更(実施例2では3重量%、実施例3では5重量%)した以外は、実施例1と同様の条件で樹脂組成物を作成した。そして、この組成物から成形シートを作成して、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0042】
(実施例4~6)
実施例4~6は、上記表2に記載のように、それぞれ実施例1~3に対応するものであり、顔料の種類を、PB26(平均粒径2.8μm)からPB27(平均粒径1.4μm)に変更した点以外は、それぞれ実施例1~3と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0043】
(実施例7~9)
実施例7~9は、上記表2に記載のように、それぞれ実施例1~3に対応するものであり、顔料の種類を、PB26(平均粒径2.8μm)からPB28(平均粒径0.8μm)に変更した点以外は、それぞれ実施例1~3と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0044】
(比較例1~4)
実施例1において、上記表2に記載のように、顔料として、カーボンブラックを使用(比較例1では含有量0.3重量%、比較例2では含有量0.5重量%、比較例3では含有量0.7重量%、比較例4では含有量1重量%)した以外は、実施例1と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0045】
表2の結果から、平均粒径2.8μmの黒色系絶縁性顔料を含有する場合(実施例1~実施例3)では、絶縁性の面では非常に優れているが、黒色度では明度20~25の範囲内であり、黒色であると言えるが、他の実施例に比べると黒色度は低い。平均粒径が0.8μm、1.4μmの黒色系絶縁性顔料を含有する場合(実施例4~実施例9)では、粒子の含有率が1,3,5重量%の何れの場合においても、十分な黒色度(低い明度)を示し、しかも、51~58(kV/mm)という高い絶縁性(高い破電値)を示した。これらの実施例の結果を総合すると、同じ平均粒径の顔料を使用した場合には、粒子の含有量を1,3,5重量%と増加させると、明度は減少(より黒色化)したが、破電値(絶縁性)も低下した。また、顔料の含有量が同じ場合では、粒子の平均粒径を2.8μm、1.4μm、0.8μmと小さくさせると、明度は減少(より黒色化)したが、破電値(絶縁性)も低下した。
【0046】
【表3】

【0047】
(実施例10~12)
実施例10~12は、上記表2に記載のように、それぞれ実施例7~9に対応するものであり、同じ種類の顔料PB28であるが、異なる平均粒径(0.6μm)の粒子を使用した以外は、それぞれ実施例7~9と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0048】
(比較例5及び6)
比較例5及び比較例6は、実施例10において、PB28(平均粒径:0.6μm)含有量を変更(比較例5では0.2重量%、比較例6では10重量%)した以外は、実施例10と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0049】
(実施例13~15)
実施例13~15は、上記表2に記載のように、それぞれ実施例7~9に対応するものであり、同じ顔料のPB28であるが、異なる平均粒径(0.3μm)の粒子を使用した以外は、それぞれ実施例7~9と同様の条件で樹脂組成物を作成して、この組成物から成形シートを作成した。そして、同様に、成形シートの破電値と明度を測定した。
【0050】
表3の結果から、平均粒径が0.6μm及び0.3μmの黒色系絶縁性顔料を含有する場合には(実施例10~実施例15)、粒子の含有率が1,3,5重量%の何れの場合においても、比較例1として示したカーボンブラックを含有した樹脂組成物とほぼ同程度の明度(黒色性)を示し、且つ、高い絶縁性(高い破電値)を示した。一方、粒子の含有率を、0.2重量%と低くした場合(比較例5)は、明度指数が30と高くなり、黒色性としては不十分であった。また、粒子の含有率を10重量%と高くした場合(比較例6)では、ミキサー内壁に顔料が凝集してしまい均一な樹脂組成物を作成することが出来ず、また、その成形シートは、粒子の含有率が0.5重量%の実施例12と比較して、明度の違いは余りなかったが、破電値は41.5kV/mmに低下した。
【0051】
また、平均粒径が0.6μmの粒子を使用した場合(実施例10~実施例12)では、粒子の含有率を1,3,5重量%に変化させると、含有率の増加に伴い、明度は減少(より黒色化)したが、破電値(絶縁性)も低下した。同様に、平均粒径が0.3μmの粒子を使用した場合(実施例10~実施例12)では、粒子の含有率を1,3,5重量%に変化させると、含有率の増加に伴い、明度は減少(より黒色化)したが、破電値(絶縁性)も低下した。但し、平均粒径が0.3μmの粒子を使用した場合は、粒子の含有量が増加すると、破電値(絶縁性)の低下の程度は大きくなった(3重量%の含有率で破電値47.4kV/mm、5重量%の含有率で破電値43.9kV/mm)。この点から、平均粒径が0.3μmよりも大きい粒子を使用することが、絶縁性を低下させないという点からは好ましいことが示唆された。
【0052】
本発明は、本明細書に記載の実施例の開示内容、本明細書に開示されている発明の実施態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限り、本明細書に開示されている事項等に基づいて、適宜変更を加えた発明の内容を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の黒色系絶縁性フッ素樹脂組成物は、優れた絶縁性を有し、濃い黒色性を備えているため、各種の絶縁性が必要とされる電気、電子関連の材料として広く使用することが出来る。