(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】免震建物及び免震システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240208BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240208BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240208BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 351
F16F15/04 E
F16F15/02 L
F16F15/02 E
F16F7/08
(21)【出願番号】P 2019143821
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】北村 佳久
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和秀
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-242818(JP,A)
【文献】特開2002-364706(JP,A)
【文献】特開2016-138592(JP,A)
【文献】特開平09-072125(JP,A)
【文献】特開2017-145839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02-15/04
F16F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤側に構築され、前記地盤と連動して変位する下部構造体と、
前記下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体と、
前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じて
前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承と、
前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか一方に連動するように取り付けられた滑り板と、
前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか他方に連動するように取り付けられ前記滑り板に当接すると共に前記上部構造体の水平方向の移動に連動して前記滑り板に対して相対的に水平方向に摺動する移動部
及び前記移動部を前記滑り板に対して押圧する方向に付勢する弾性体と
、を有する滑り支承と、を備え、
前記滑り支承は、
前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じた前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量の増加に伴って、前記弾性体を介して前記移動部を前記滑り板へ押し付ける押圧力を増大することで、前記移動部と前記滑り板との間の摩擦抵抗力を増大させる効果を用いて、前記上部構造体の変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーとして機能
するように、前記上部構造体の上面と前記下部構造体から延びる屋根板との間、又は、前記上部構造体の側面から突出する突出部と前記下部構造体から延びる天板との間、に設けられていることを特徴とする、
免震建物。
【請求項2】
地盤側に構築され、前記地盤と連動して変位する下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じて
前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承と、
前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか一方に連動するように取り付けられた滑り板と、
前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか他方に連動するように取り付けられ前記滑り板に当接すると共に前記上部構造体の水平方向の移動に連動して前記滑り板に対して相対的に水平方向に摺動する移動部
及び前記移動部を前記滑り板に対して押圧する方向に付勢する弾性体と
、を有する滑り支承と、を備え、
前記滑り支承は、
前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じた前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量の増加に伴って、前記弾性体を介して前記移動部を前記滑り板へ押し付ける押圧力を増大することで、前記移動部と前記滑り板との間の摩擦抵抗力を増大させる効果を用いて、前記上部構造体の変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーとして機能
するように、前記上部構造体の上面と前記下部構造体から延びる屋根板との間、又は、前記上部構造体の側面から突出する突出部と前記下部構造体から延びる天板との間、に設けられていることを特徴とする、
免震システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に建物に加わる地震力を抑制する免震建物及び免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震時に建物に加わる地震力を抑制するための免震装置が知られている。免震装置は、免震対象の上部構造体と、上部構造体から切り離された下部構造体との間の免震層に設けられている。免震装置は、地震時に上部構造体と下部構造体とが相対的に移動した場合、上部構造体を元の位置に戻すような復元力が作用するように構成されている。
【0003】
出願人は既に、V字型に形成されたレールと、レール上に設けられた滑り板と、滑り板上を滑動するようにすべり材が設けられた摺動子とを備えた免震支承を既に提案している(例えば、特許文献1参照)。この免震支承によれば、地盤側の基礎にレールを設けると共に、免震対象となる建物側に摺動子を設けて傾斜したレールの上を摺動子が滑るように構成されている。この免震支承によれば、地震時に建物が水平方向に変位するのに従って建物が上方に変位し、建物に作用する重力により建物が元の位置に戻ろうとする復元力が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
将来的に南海トラフ地震や直下型地震が発生することが想定されており、建設地によっては非常に大きな地震動を建物が受けることが想定される。しかしながら、傾斜滑り支承が適用された建物は、摩擦係数を小さくすると地震動を受けた際の免震効果を高めることができるが、大きな地震動を受けた際には揺れの減衰効果が低下する虞がある。また、傾斜滑り支承が適用された建物は、傾斜滑り支承の摩擦係数が小さいと風荷重が建物に作用した場合に建物が動いてしまう虞がある。
【0006】
大きな地震動に対応するために免震構造を備える建物にダンパーを増設して減衰量を大きくすると、発生頻度の高い中小地震に対する免震の効果が損なわれる。特許文献1では、傾斜滑り支承のダンパー効果についてはまだ提案されていなかった。出願人は、免震の効果を更に高めることについて鋭意研究を続けてきた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、地震力を免震で抑制すると共に、地震動の大きさに応じて減衰量を増大できる免震建物及び免震システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、本発明は、地盤側に構築され、前記地盤と連動して変位する下部構造体と、前記下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体と、前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じて前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承と、前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか一方に連動するように取り付けられた滑り板と、前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか他方に連動するように取り付けられ前記滑り板に当接すると共に前記上部構造体の水平方向の移動に連動して前記滑り板に対して相対的に水平方向に摺動する移動部及び前記移動部を前記滑り板に対して押圧する方向に付勢する弾性体と、を有する滑り支承と、を備え、前記滑り支承は、前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じた前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量の増加に伴って、前記弾性体を介して前記移動部を前記滑り板へ押し付ける押圧力を増大することで、前記移動部と前記滑り板との間の摩擦抵抗力を増大させる効果を用いて、前記上部構造体の変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーとして機能するように、前記上部構造体の上面と前記下部構造体から延びる屋根板との間、又は、前記上部構造体の側面から突出する突出部と前記下部構造体から延びる天板との間、に設けられていることを特徴とする免震建物である。
【0009】
本発明によれば、地震力により生じる上部構造体へ作用する力を傾斜滑り支承により抑制すると共に、滑り支承が移動部を滑り板に対して押圧して摩擦抵抗力を生じさせてダンパーとして機能し、建物の免震力を高めることができる。
また、滑り支承において、移動部の滑り板に対する押圧力を移動体の変位が大きくなるほど大きくして摩擦抵抗力を増大させることで、移動体の変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーを実現できる。
【0014】
また、上記の目的を達するために、本発明は、地盤側に構築され、前記地盤と連動して変位する下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じて前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承と、前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか一方に連動するように取り付けられた滑り板と、前記上部構造体又は前記下部構造体のいずれか他方に連動するように取り付けられ前記滑り板に当接すると共に前記上部構造体の水平方向の移動に連動して前記滑り板に対して相対的に水平方向に摺動する移動部及び前記移動部を前記滑り板に対して押圧する方向に付勢する弾性体と、を有する滑り支承と、を備え、前記滑り支承は、前記上部構造体の水平方向の移動量の増加に応じた前記上部構造体の鉛直方向上方の移動量の増加に伴って、前記弾性体を介して前記移動部を前記滑り板へ押し付ける押圧力を増大することで、前記移動部と前記滑り板との間の摩擦抵抗力を増大させる効果を用いて、前記上部構造体の変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーとして機能するように、前記上部構造体の上面と前記下部構造体から延びる屋根板との間、又は、前記上部構造体の側面から突出する突出部と前記下部構造体から延びる天板との間、に設けられていることを特徴とする免震システムである。
【0015】
本発明によれば、地震力により生じる上部構造体へ作用する力を傾斜滑り支承により抑制すると共に、滑り支承が移動部を滑り板に対して押圧して摩擦抵抗力を生じさせてダンパーとして機能し、建物の免震力を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地震力を免震で抑制すると共に、地震動の大きさに応じて減衰量を増大できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る免震建物の構成を示す概略図である。
【
図4】地震時の免震建物の動作を示す概略図である。
【
図8】地震時の変形例に係る免震建物の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る免震建物及び免震システムの実施形態について説明する。免震建物は、免震システムにより地震力が免震される構造物である。
【0019】
図1に示されるように、免震建物1は、免震対象の建物2と、建物2を免震する免震システム30とを備える。建物2は、免震対象となる構造体3と、構造体3を支持する基礎8とを備える。免震システム30は、構造体3の下部を支持する傾斜滑り支承31と、構造体2を支持する滑り支承35とを備える。
【0020】
構造体3は、箱状に形成されている。構造体3は、下部構造体を含む基礎8と別体に形成されている上部構造体である。構造体3は、1階分のフロアであってもよいし、内部に複数のフロアを有していてもよい。構造体3は、傾斜滑り支承31を介して基礎8に移動自在に支持されている。構造体3は、下方に設けられた床板4と、床板4の周囲を覆うように設けられた壁板5と、壁板5の上部に設けられた天井板6とを備える。
【0021】
床板4は、矩形の板状に形成されている。床板4は、例えば、鉄骨で形成されたフレームに板状体が取り付けられて形成されている。床板4の周囲の4辺から上方に起立して4枚の壁板5が設けられている。壁板5は、矩形の板状に形成されている。壁板5は、例えば、鉄骨で形成されたフレームに板状体が取り付けられて形成されている。壁板5には、窓が形成されていてもよい。4枚の壁板5で囲まれて形成された空間を覆うように上部に天井板6が設けられている。
【0022】
天井板6は、矩形の板状に形成されている。天井板6は、例えば、鉄骨で形成されたフレームに板状体が取り付けられて形成されている。構造体3は、床板4、壁板5、及び天井板6が一体で形成されている。床板4は、傾斜滑り支承31を介して基礎8に支持されている。天井板6には、外光を取り入れるための天窓が設けられていてもよい。
【0023】
基礎8は、地盤E側に構築されている。基礎8は、地震時に地盤Eと連動して変位する。基礎8は、構造体3を支持する土台9と、構造体3を覆うように形成された外殻10とを備える。土台9は、地盤E側に構築されている下部構造体である。土台9は、例えば、鉄筋コンクリートで形成されている。土台9の上部には、外殻10が一体に設けられている。外殻10は、例えば、鉄骨等で形成されたフレームである。外殻10は、構造体3の周囲を覆う4枚の外壁11を備える。
【0024】
外壁11は、例えば、フレームに取り付けられた板状体やガラスで矩形の板状に形成されている。4枚の外壁11は、土台9の周囲から上方に起立して設けられている。外壁11と壁板5との間には、隙間T1が形成されている。4枚の外壁11の上部には、屋根板12が設けられている。屋根板12は、矩形の板状に形成されている。
【0025】
屋根板12は、4枚の外壁11により形成された空間を覆うように4枚の外壁11の上部に設けられている。屋根板12は開口13が設けられていてもよい。開口13を上方で覆うように、屋根が設けられていてもよい。屋根板12と構造体3の天井板6との間には、隙間T2が形成されている。屋根板12と構造体3の天井板6との間には、屋根板12を支持する滑り支承35が設けられている。
【0026】
次に、免震システム30の傾斜滑り支承31及び滑り支承35について説明する。
【0027】
傾斜滑り支承31は、構造体3を鉛直方向に支持しつつも水平方向に柔軟に変位させることができる免震機構である。傾斜滑り支承31は、地盤Eに設けられた土台9に対して相対的に移動自在な構造体3の水平方向の移動量の増加に応じて鉛直方向上方の移動量が増加するように構造体3を支持する。傾斜滑り支承31は、土台9と構造体3との間に設けられている。土台9と構造体3との間には、例えば、構造体3の四隅を支持するために4個の傾斜滑り支承31が設けられている。傾斜滑り支承31は、4個以上設けられていてもよい。
【0028】
傾斜滑り支承31は、例えば、土台9上に設けられた傾斜支持部材32Aと、構造体3の床板4の下面側に固定された傾斜支持部材32Bと、傾斜支持部材32Aおよび傾斜支持部材32Bとの間に設けられた移動部材32Cとを備える。傾斜支持部材32Aと傾斜支持部材32Bとは、平面視して長手方向が直交するように配置されている。土台9と床板4とは、傾斜滑り支承31を介して水平方向に相対的に移動自在に構築されている。土台9と床板4とは、水平方向の相対変位の変位量に応じて鉛直方向上方に相対変位が生じる。
【0029】
傾斜支持部材32Aは、例えば、矩形断面の棒状に形成されている。傾斜支持部材32Aは、長手方向が構造体3の一辺に沿った方向に配置されている。傾斜支持部材32Aは、長手方向に直交する方向から側面視して上面の中央部から両端部に向かうほど上方に跳ね上がるように傾斜するV字状の傾斜面32A1,32A2が形成されている。傾斜面32A1及び傾斜面32A2の水平面に対する傾斜角は、絶対値がそれぞれ所定値θになるように形成されている。傾斜面32A1及び傾斜面32A2の表面には、摩擦係数を低減させるためのポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene:PTFE)、いわゆるテフロン(登録商標)などの樹脂製の滑り材がコーティング加工されている。傾斜面32A1及び傾斜面32A2の表面は、ステンレス製の鋼板等の滑り材が貼り付けられていてもよい。
【0030】
傾斜面32A1及び傾斜面32A2の上方には、移動部材32Cが載置されている。移動部材32Cは、ブロック状に形成されている。移動部材32Cは、傾斜支持部材32Aの短手方向から見て傾斜支持部材32Aより幅が広くなるように形成されている。移動部材32Cの下方には、傾斜支持部材32Aの短手方向から見て傾斜支持部材32Aが幅方向に挟持されて嵌るように段差D1が形成されている。
【0031】
移動部材32Cは、段差D1内に中央部に向かうほど下方に突出するようにV字形の傾斜面32C1,32C2が形成されている。傾斜面32C1及び傾斜面32C2の表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材が貼り付けられている。傾斜面32C1及び傾斜面32C2の水平面に対する傾斜角は、絶対値がそれぞれ所定値θになるように形成されている。傾斜面32C1及び傾斜面32C2は、傾斜面32A1及び傾斜面32A2に当接している。
【0032】
移動部材32Cは、傾斜支持部材32Bの短手方向から見て傾斜支持部材32Bより幅が広くなるように形成されている。移動部材32Cの上方には、傾斜支持部材32Bの短手方向から見て傾斜支持部材32Bが幅方向に挟持されて嵌るように段差D2が形成されている。移動部材32Cは、段差D2内に中央部に向かうほど上方に突出するように逆V字形の傾斜面32C3,32C4が形成されている。傾斜面32C3及び傾斜面32C4の表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材がコーティング加工されている。傾斜面32C3及び傾斜面32C4の表面は、ステンレス製の鋼板等の滑り材が貼り付けられていてもよい。
【0033】
傾斜面32C3,32C4は、平面視して傾斜面32C1及び傾斜面32C2と傾斜方向が直交する方向に形成されている。傾斜面32C3及び傾斜面32C4の表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材が貼り付けられている。傾斜面32C1及び傾斜面32C2の上方には、傾斜支持部材32Bが載置されている。
【0034】
例えば、矩形断面の棒状に形成されている。傾斜支持部材32Bは、傾斜支持部材32Aと同じ形状の部材であり、上下逆方向に配置されている。傾斜支持部材32Bは、長手方向が傾斜支持部材32Aの長手方向に直交する方向に配置されている。傾斜支持部材32Aは、長手方向に直交する方向から側面視して下面の中央部から両端部に向かうほど下方に下がるように傾斜する逆V字状の傾斜面32B1,32B2が形成されている。傾斜面32B1及び傾斜面32B2の水平面に対する傾斜角は、絶対値がそれぞれ所定値θになるように形成されている。
【0035】
傾斜面32B1及び傾斜面32B2の表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材がコーティング加工されている。傾斜面32B1及び傾斜面32B2の表面には、摩コーティング加工の他に、ステンレス製の鋼板等の滑り材が貼り付けられていてもよい。傾斜面32B1及び傾斜面32B2の下方には、移動部材32Cが配置されており、傾斜面32C3及び傾斜面32C4が当接している。
【0036】
次に、滑り支承35について説明する。
【0037】
滑り支承35は、屋根板12を支持すると共に、構造体3の鉛直方向上方の移動量の増加を抑制するダンパー機構である(
図1参照)。外殻10と構造体3の天井板6との間には、例えば、天井板6の上面の四隅を支持するために4個の滑り支承35が設けられている。滑り支承35は、天井板6の上面の四隅以外の場所に設けられていてもよい。
【0038】
図3に示されるように、滑り支承35は、構造体3に連動するように取り付けられた滑り板36と、滑り板に36当接する移動37部と、移動部37を滑り板36に対して押圧する方向に付勢するバネ40とを有する。滑り板36は、例えば、構造体3の天井板6の上面側の四隅に取り付けられている。滑り板36は、天井板6の上面側の四隅以外の場所に取り付けられていてもよい。滑り板36は、矩形の板状に形成されている。滑り板36は、例えば、ステンレス製の鋼板により形成されている。
【0039】
滑り板36の上面には、移動部37が当接している。移動部37は、構造体3の水平方向の移動に連動して滑り板に対して相対的に水平方向に摺動する。移動部37は、本体部38と、本体部38に形成された摺動面39とを有する。摺動面39は、滑り板36に当接すると共に滑り板36を摺動する。摺動面39は、例えば、テフロン等の滑り材が貼り付けられている。本体部38の基端は、屋根板12の下面側に固定されている。
【0040】
本体部38は、径が異なる2個の筒状体38A,38Bにより伸縮自在に形成されている。筒状体38Aには、筒状体38Bが挿入されている。筒状体38Bは、筒状体38Aに対して摺動自在である。本体部38の内部には、コイル状のバネ40が挿入されている。バネ40は、弾性体であり、バネ40と同様の効果があれば他の弾性体が用いられていてもよい。バネ40は、本体部38を伸長方向に付勢する。即ち、バネ40は、摺動面39を滑り板36に対して押圧する方向に付勢する。
【0041】
次に、免震システム30の動作について説明する。まず、傾斜滑り支承31の動作について説明する。
【0042】
図4に示されるように、地震が発生すると、土台9は水平方向に移動し、構造体3は慣性によりその場に留まろうとし、構造体3と土台9との間に、相対的な水平方向の変位が生じる。このとき、構造体3のx軸方向の変位に連動して傾斜支持部材32Bがx軸方向に変位すると、移動部材32Cは、段差D2に傾斜支持部材32Bが引っかけられて傾斜支持部材32Bと共にx軸方向に移動する(
図2参照)。このとき、移動部材32Cは、傾斜面32C2が傾斜支持部材32Aの傾斜面32A2に対して摺動し、登り勾配を上る方向に移動する(
図2参照)。
【0043】
水平変位が反対方向の場合、移動部材32Cは、傾斜面32C1が傾斜支持部材32Aの傾斜面32A1に対して摺動し、登り勾配を上る方向に移動する。それに伴い、移動部材32Cに載置された傾斜支持部材32Bは鉛直方向上方に変位する(
図2参照)。
【0044】
また、構造体3のy軸方向の変位に連動して傾斜支持部材32Bがy軸方向に変位すると、傾斜支持部材32Bの傾斜面32B1が移動部材32Cの傾斜面32C3を摺動し、登り勾配を上る方向のy軸方向に移動する(
図2参照)。
【0045】
水平変位が反対方向の場合、構造体3のy軸方向の変位に連動して傾斜支持部材32Bがy軸方向に変位すると、傾斜支持部材32Bの傾斜面32B2が移動部材32Cの傾斜面32C4を摺動し、登り勾配を上る方向のy軸方向に移動する。移動部材32Cは、段差D1に傾斜支持部材32Aが引っかけられて傾斜支持部材32Aと共に傾斜支持部材32Bに対して相対的に移動する。
【0046】
構造体3が水平方向に移動すると、傾斜滑り支承31の動作により、水平方向の移動量に応じて鉛直方向上方に変位が生じる。構造体3の鉛直方向上方の変位の量に応じて構造体3の位置エネルギーが増加する。鉛直方向上方に変位した構造体3には、鉛直方向下方に重力が作用して元の位置に戻ろうとする復元力が働く。
【0047】
そうすると、移動部材32Cには、傾斜支持部材32Aの傾斜面32A1又は傾斜面32A2を滑って傾斜支持部材32Aの中央部に戻る力が働く。同様に、移動部材32Cには、傾斜支持部材32Bの傾斜面32B1又は傾斜面32B2を滑って傾斜支持部材32Aの中央部に戻る力が働く。上記の傾斜滑り支承31の動作により、構造体3は、水平変位が生じた場合、復元力が生じて元の位置に戻る。
【0048】
次に、滑り支承35の動作について説明する。
【0049】
図5に示されるように、構造体3が水平方向に移動した際、滑り支承35の滑り板36が構造体3に連動して移動する。構造体3の水平方向の移動に連動して移動部37の摺動面39が滑り板36の表面を摺動する。構造体3の水平方向の移動量に応じて鉛直方向上方の移動量が増加するのに従って屋根板12と天井板6との間が近位する。移動部37は、屋根板12と天井板6との間が近位するのに従って本体部38が縮み、バネ40が圧縮される(
図5(B)参照)。
【0050】
そうすると、移動部37は、構造体3の水平方向の移動量に応じて摺動面39を滑り板36に押し付ける押圧力を増大させて滑り板36と摺動面39との間に生じる摩擦抵抗を増大させる。また、摺動面39を滑り板36に押し付ける押圧力が増大した場合、傾斜滑り支承31においても移動部材32Cと傾斜支持部材32Aとの間の摩擦抵抗力が増大すると共に、移動部材32Cと傾斜支持部材32Bとの間の摩擦抵抗力が増大する。これにより滑り支承35は、構造体3と外殻10との間において変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる免震用の可変減衰ダンパーとして機能する。
【0051】
図6に示されるように、免震システム30の摩擦抵抗力により生じる履歴ループは、蝶々形に表される。免震システム30は、構造体3の水平変位の増大に応じて減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーであり、巨大地震時には減衰力を大きくすると共に、免震建物1の変位を小さくする。また、免震システム30は、中小地震時には減衰力を小さくすると共に、免震建物1の免震効果を高めることができる。
【0052】
[変形例]
免震建物1の構造体3は、風の影響が無視できる場合には必ずしも外殻10で覆われていなくてもよい。以下の説明では、上記実施形態の構成と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0053】
図7に示されるように、免震建物1は、基礎8が地下に設けられている。構造体3は、底部において壁板5より外側に突出した突出部7が設けられている。基礎8には、突出部7を覆う天板14が設けられている。天板14は、地表面に近い高さに設けられている。突出部7と天板14との間には、滑り支承35が設けられている。
【0054】
図8に示されるように、地震時に構造体3が水平方向に移動した際に鉛直方向上方の変位が生じた場合、構造体3には滑り支承35により生じる摩擦抵抗力のダンパー効果が作用する。
【0055】
上述したように、免震建物1によれば、変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる可変減衰ダンパーを組み込むことで、発生する可能性が低い巨大地震に対応しながら、発生頻度の高い中小地震の免震効果を高められる。免震建物1によれば、外殻10が形成されていることにより、風の荷重Pから構造体3を遮断することで低摩擦タイプの免震支承を採用でき、風の影響を低減しつつも免震効果の高い建物を実現できる。また、免震建物1によれば、外殻10を設けない場合でも、傾斜滑り支承31とばね付きの滑り支承35の組み合わせにより、中小地震での免震効果を損なわずに巨大地震時の変位を抑制する免震構造を実現できる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上述した滑り支承35は、上下逆に取り付けられていてもよい。即ち、滑り支承35の滑り板36は、構造体3又は地盤Eのいずれか一方に連動するように取り付けられていてもよい。また、免震建物1は、建物内部の展示物等を免震する中間構造体に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…免震建物、2…建物、3…構造体、4…床板、5…壁板、6…天井板、7…突出部、8…基礎、9…土台、10…外殻、11…外壁、12…屋根板、13…開口、14…天板、30…免震システム、31…傾斜滑り支承、32A…傾斜支持部材、32A1、32A2…傾斜面、32B…傾斜支持部材、32B1、32B2…傾斜面、32C…移動部材、32C1、32C2、32C3、32C4…傾斜面、35…滑り支承、36…滑り板、37…移動部、38…本体部、38A…筒状体、38B…筒状体、39…摺動面、40…バネ、D1…段差、D2…段差、E…地盤