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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】動力作業機
(51)【国際特許分類】
   F02N 19/00 20100101AFI20240208BHJP
   F02N 3/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F02N19/00 F
F02N3/02 S
F02N19/00 G
F02N19/00 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019185687
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060018
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 稔
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-035743(JP,U)
【文献】特開平06-159146(JP,A)
【文献】特開2007-092581(JP,A)
【文献】特開2009-024540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業器具と、
前記作業器具を駆動させるエンジンと、
前記エンジンのクランクシャフトの回転により発電する発電機と、
外部からの入力により前記クランクシャフトを回転させるスタータ装置と、
制御装置と、を備え、
前記エンジンに接続された燃料供給路には、通電により開弁する電磁弁が設けられ、
前記発電機で発電した電力を、前記エンジンの点火装置に給電するとともに、前記電磁弁に給電するように構成され、
前記外部から前記スタータ装置に入力されたときに、
前記制御装置は、
前記発電機で発電した電力のうち、前記発電機から前記点火装置に給電するための電力の少なくとも一部を前記電磁弁に優先して給電する始動補助モードを実行可能であるとともに、
前記発電機で発電した電力を、前記点火装置および前記電磁弁に給電する通常始動モードを実行可能であり、
前記始動補助モードにおいて前記電磁弁に給電する電力は、
前記通常始動モードにおいて前記電磁弁に給電する電力よりも大きいことを特徴とする動力作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の動力作業機であって、
前記エンジンは2サイクルエンジンであり、
前記燃料供給路には、燃料を前記電磁弁に供給可能な手動式ポンプが設けられている小型軽量手持式作業機であることを特徴とする動力作業機。
【請求項3】
請求項2に記載の動力作業機であって、
前記スタータ装置は、前記クランクシャフトに巻かれたロープを有し、前記ロープに加えられた引張力によって、前記クランクシャフトを回転させるリコイルスタータであることを特徴とする動力作業機。
【請求項4】
請求項1に記載の動力作業機であって、
前記通常始動モードでは、前記発電機から前記点火装置に給電する電力が、前記電磁弁に給電する電力より大きいことを特徴とする動力作業機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の動力作業機であって、
前記始動補助モードでは、前記電磁弁に給電した後は、前記外部から前記スタータ装置への一回の入力に対して、前記発電機から前記点火装置に少なくとも一回給電させることを特徴とする動力作業機。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の動力作業機であって、
前記制御装置は、
前記外部から前記スタータ装置への入力により前記始動補助モードを実行したときに、
前記クランクシャフトの回転量、回転量の総数および回転速度の少なくとも一つが規定値に達していない場合には、
前記外部から前記スタータ装置への次の入力時にも、前記始動補助モードを実行することを特徴とする動力作業機。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の動力作業機であって、
前記制御装置は、
前記エンジンの温度が規定値に達していない場合には、前記外部から前記スタータ装置に入力されたときに、前記始動補助モードを実行することを特徴とする動力作業機。
【請求項8】
請求項7に記載の動力作業機であって、
前記エンジンの温度を温度センサによって直接計測することを特徴とする動力作業機。
【請求項9】
請求項8に記載の動力作業機であって、
前記制御装置は、
前記エンジンの駆動を制御する他の制御を実行可能であり、
前記温度センサによって計測された温度は、前記他の制御にも利用されることを特徴とする動力作業機。
【請求項10】
請求項9に記載の動力作業機であって、
前記制御装置における前記他の制御では、前記温度センサの温度に基づいて、前記エンジンのシリンダに対するピストンの摺動状態を検出することを特徴とする動力作業機。
【請求項11】
請求項9に記載の動力作業機であって、
前記制御装置における前記他の制御では、前記温度センサの温度に基づいて、冷間始動制御または温間始動制御を実行することを特徴とする動力作業機。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の動力作業機であって、
前記電磁弁と前記発電機との間には、
前記発電機から前記電磁弁への給電状態および非給電状態を切り替えるスイッチが設けられていることを特徴とする動力作業機。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の動力作業機であって、
前記電磁弁と前記発電機との間には、
前記発電機から給電される蓄電装置と、
前記蓄電装置から前記電磁弁への給電状態および非給電状態を切り替えるスイッチと、が設けられていることを特徴とする動力作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のチェンソー、刈払機、ブロワなどの動力作業機は、エンジンと、クランクシャフトの回転により発電する発電機と、ロープを引くことでクランクシャフトを回転させるスタータ装置と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。また、動力作業機は、エンジンに接続された燃料供給路に設けられた電磁弁と、エンジンの点火装置に給電するコンデンサ(蓄電装置)と、を備えている。
【0003】
従来の動力作業機のエンジンを始動するときは、作業者がスタータ装置のロープを引くことで、発電機から電磁弁およびコンデンサに給電される。そして、通電により電磁弁が開弁して、燃料が燃料供給路を通じてエンジンのシリンダ内に供給される。その後、コンデンサからエンジンの点火装置に給電されてエンジンが始動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-125347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来のチェンソーでは、燃料に含まれるオイルなどの影響により、電磁弁の弁体が弁座面に固着してしまう場合がある。この場合には、発電機から電磁弁に給電されても、電磁弁が開弁し難いため、エンジンの始動性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決し、エンジンの始動性を向上させることができる動力作業機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、動力作業機であって、作業器具と、前記作業器具を駆動させるエンジンと、前記エンジンのクランクシャフトの回転により発電する発電機と、外部からの入力により前記クランクシャフトを回転させるスタータ装置と、制御装置と、を備えている。前記エンジンに接続された燃料供給路には、通電により開弁する電磁弁が設けられている。前記発電機で発電した電力を、前記エンジンの点火装置に給電するとともに、前記電磁弁に給電するように構成されている。前記外部から前記スタータ装置に入力されたときに、前記制御装置は、前記発電機で発電した電力のうち、前記発電機から前記点火装置に給電するための電力の少なくとも一部を前記電磁弁に優先して給電する始動補助モードを実行可能であるとともに、前記発電機で発電した電力を、前記点火装置および前記電磁弁に給電する通常始動モードを実行可能である。前記始動補助モードにおいて前記電磁弁に給電する電力は、前記通常始動モードにおいて前記電磁弁に給電する電力よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動力作業機では、エンジンの始動時に電磁弁に優先して給電することで、電磁弁が開弁し易くなるため、エンジンの始動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一実施形態に係るチェンソーを示した側面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るチェンソーの各部を示したブロック図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るチェンソーにおける始動時の制御を示した簡易タイムテーブルである。
図4】本発明の第二実施形態に係るチェンソーにおける始動時の制御を示した簡易タイムテーブルである。
図5】本発明の第三実施形態に係るチェンソーの各部を示したブロック図である。
図6】本発明の第四実施形態に係るチェンソーの各部を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の一例について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
以下の実施形態では、樹木や板などを切断するためのチェンソーに、本発明を適用した構成を例として説明する。
【0011】
[第一実施形態]
第一実施形態のチェンソー1Aは、図1に示すように、小型軽量手持式作業機であり、樹脂製の箱体である本体ケース10と、本体ケース10に設けられた切断部20と、切断部20を駆動させるエンジン30と、燃料タンク40と、を備えている。また、チェンソー1Aの本体ケース10内には、図2に示すように、発電機50と、スタータ装置60と、コンデンサ等を含む蓄電装置70と、制御装置100と、が設けられている。
【0012】
第一実施形態のエンジン30は、公知の2サイクルエンジンであり、点火装置32によってシリンダ内の混合気に着火して燃焼させることで、ピストンが往復動してクランクシャフト31が回転する。点火装置32は蓄電装置70に電気的に接続されている。
【0013】
本体ケース10には、図1に示すように、前方に突出している切断部20が設けられている。切断部20は、切断作業用の作業器具であり、ガイドバー21およびソーチェン22を備えている。
ガイドバー21は、前後方向に延びている板状部材であり、ガイドバー21の後端部が本体ケース10に取り付けられている。
【0014】
ガイドバー21の外周部には、環状のソーチェン22が巻回されている。ソーチェン22の後端部は、エンジン30のクランクシャフト31に連結された駆動ギヤ(図示せず)に係合されている。
エンジン30を駆動させて駆動ギヤを回転させると、ソーチェン22がガイドバー21の外周に沿って回転する。
【0015】
チェンソー1Aによって樹木や板などの切断対象物を切断する場合には、作業者は本体ケース10のトップハンドル12およびリアハンドル13を把持して、チェンソー1Aを携帯する。
作業者がリアハンドル13のトリガーレバー13aを引くと、クランクシャフト31の回転に連動してソーチェン22が回転する。これにより、ソーチェン22によって切断対象物を切断できる。
【0016】
本体ケース10には、図2に示すように、クランクシャフト31の回転量(回転数)を計測する回転計測器35が設けられている。
回転計測器35は、配線によって制御装置100に電気的に接続されており、計測された回転量が制御装置100に出力される。
【0017】
エンジン30には、エンジン30の温度を直接計測する温度センサSが取り付けられている。温度センサSは、配線によって制御装置100に電気的に接続されており、計測された温度が制御装置100に出力される。
【0018】
温度センサSで計測された温度は、制御装置100において、エンジン30の始動時の制御や他の制御に利用される。
例えば、制御装置100では、温度センサSで計測された温度に基づいて、エンジン30のシリンダに対するピストンの摺動状態を検出することができる。エンジン30の温度が高い場合には、シリンダとピストンとの間の摩擦熱が高い可能性があり、エンジン30のメンテナンスが必要となる。
また、制御装置100では、温度センサSで計測された温度に基づいて、燃料と空気との混合比を調整する冷間始動制御または温間始動制御を実行することもできる。
【0019】
エンジン30には、燃料タンク40からシリンダ内に燃料を供給するための燃料供給路45が接続されている。燃料供給路45には、手動式ポンプPと、常閉型の電磁弁80と、が設けられている。
【0020】
手動式ポンプPは、燃料タンク40内の燃料を吸い出して、電磁弁80側に送り込むものである。エンジン30の始動前に作業者が手動式ポンプPを操作して、燃料タンク40内の燃料を電磁弁80に供給する。
【0021】
電磁弁80は、弁体と、弁体を駆動させる電磁コイルと、が設けられているソレノイド弁である。通常時(非通電時)は弁体が弁座面に着座して閉弁しており、電磁コイルに通電されると、弁体が弁座面から離間して開弁し、燃料が電磁弁80を流通可能となる。電磁弁80の電磁コイルは、配線C1によって発電機50および蓄電装置70に電気的に接続されている。
【0022】
発電機50は、クランクシャフト31の回転を動力源としている公知の発電機である。発電機50は、配線C1によって蓄電装置70および電磁弁80に電気的に接続されている。そして、発電機50から蓄電装置70および電磁弁80に給電される。
【0023】
蓄電装置70は、配線C1によって発電機50および電磁弁80に電気的に接続されるとともに、配線C2によって点火装置32に電気的に接続されている。発電機50から蓄電装置70に給電することで蓄電装置70が蓄電される。
【0024】
発電機50および蓄電装置70と、電磁弁80との間の配線C1には、スイッチSW1が設けられている。スイッチSW1は、配線によって制御装置100に電気的に接続されている。
スイッチSW1は、通常時は非給電状態(OFF)であり、制御装置100によって非給電状態から給電状態(ON)に切り替わると、発電機50から電磁弁80の電磁コイルと蓄電装置70に給電される。蓄電装置70に電荷が最大まで溜まると、点火装置32へ給電するためのSW2が給電状態(ON)にならない限り、発電機50から蓄電装置70に給電される分の電力も、電磁弁80の電磁コイルに給電される。
【0025】
なお、発電機50と蓄電装置70のコンデンサ等との間に、図示しないスイッチを設け、そのスイッチのON-OFF操作により、蓄電装置70に電荷を溜める分も電磁弁80の電磁コイルへ給電するように構成してもよい。また、回路を変更して蓄電装置70に溜めた電力を電磁弁80の電磁コイルへ給電するように構成してもよい。
【0026】
第一実施形態のチェンソー1Aの蓄電装置70と点火装置32との間の配線C2には、スイッチSW2が設けられている。スイッチSW2は、配線によって制御装置100に電気的に接続されている。
スイッチSW2は、通常時は非給電状態(OFF)であり、制御装置100によって非給電状態から給電状態(ON)に切り替わると、蓄電装置70から点火装置32に給電される。
【0027】
スタータ装置60は、外部からの入力によりクランクシャフト31を回転させることで、発電機50に発電させるものである。スタータ装置60は、図1に示すように、クランクシャフト31に連結されたプーリーに巻き付けられたロープ61を有する公知のリコイルスタータである。
チェンソー1Aの外部から作業者がロープ61を引いて、クランクシャフト31を回転させることで、発電機50が作動して発電する。
【0028】
制御装置100は、図2に示すように、本体ケース10内に収容されており、電子回路がプリントされた基板に、CPUやメモリなどの電子部品を取り付けたものである。
制御装置100は、配線によってスイッチSW1,SW2、温度センサSおよび回転計測器35に電気的に接続されている。制御装置100は、回転計測器35からのデータを回転速度や回転量(回転数)として読み取っている。
【0029】
制御装置100は、エンジン30を始動させるときに、発電機50で発電した電力を点火装置32および電磁弁80に給電させる通常始動モードを実行可能である。
また、制御装置100は、エンジン30を始動させるときに、発電機50で発電した電力の点火装置32に給電される分を電磁弁80に使用して、後記する通常始動モードよりも電磁弁80に優先して給電する始動補助モードを実行可能である。
【0030】
制御装置100では、温度センサSで計測されたエンジン30の温度が、予め規定した規定値に達していない場合には、外部からスタータ装置60に入力されたときに始動補助モードを実行する。
なお、本体ケース10に設けたスイッチやレバーを操作することで、通常始動モードと始動補助モードとを切り替えるように構成してもよい。
【0031】
制御装置100による通常始動モードでは、作業者がスタータ装置60を操作すると、発電機50から蓄電装置70に給電される。また、スイッチSW1が給電状態となり、発電機50で発電した電力の一部が電磁弁80に給電される。これにより、電磁弁80が開弁してエンジン30に燃料が供給される。さらに、制御装置100によって、スイッチSW2が給電状態となり、蓄電装置70から点火装置32に給電されることで、シリンダ内の混合気が燃焼してエンジン30が始動する。
通常始動モードでは、発電機50から蓄電装置70を介して点火装置32に給電される電力が、発電機50から電磁弁80に給電される電力よりも大きくなるように設定されている。
【0032】
次に、第一実施形態のチェンソー1Aにおける始動補助モードについて説明する。以下の説明では、図3のタイムチャートを適宜に参照する。
【0033】
まず、作業者がスタータ装置60のロープを引いて発電機50を発電させる。このとき、発電機50と電磁弁80との間のスイッチSW1は非給電状態であるため、発電機50で発電した電力は蓄電装置70に給電される。
【0034】
制御装置100は、最適なタイミングでスイッチSW1を非給電状態から給電状態に切り替える。
これにより、点火装置32へ給電するためのスイッチSW2が給電状態にならない限り、発電機50から蓄電装置70へ給電される分の電力も、電磁弁80の電磁コイルに給電される。
【0035】
この場合に、発電機50と蓄電装置70のコンデンサ等との間に図示しないスイッチを設け、そのスイッチのON-OFF操作により、蓄電装置70に溜める電力も電磁弁80の電磁コイルへ給電するように構成してもよい。
また、この場合に、回路を変更して蓄電装置70に溜めた電力を電磁弁80の電磁コイルへ給電するように構成してもよい。
これにより、発電機50から電磁弁80に給電されるとともに、蓄電装置70に蓄電された電力の一部も電磁弁80に給電される。
これらにより、発電機50から点火装置32に給電するための電力の少なくとも一部が優先的に電磁弁80に給電される。
【0036】
第一実施形態の始動補助モードにおいて電磁弁80に給電される電力は、通常始動モードにおいて電磁弁80に給電される電力よりも大きくなる。
このようにして、図3に示すように、始動制御モードを実行したときには、図2に示すクランクシャフト31が一回転する毎に、スイッチSW1を非給電状態から給電状態に切り替えて、発電機50から電磁弁80に給電している。
したがって、第一実施形態の始動制御モードでは、電磁弁80に対して大きな電力を繰り返し給電することで、電磁弁80が開弁し易くなる。
【0037】
第一実施形態の制御装置100では、電磁弁80に対して優先的に給電した後に、蓄電装置70と点火装置32との間のスイッチSW2を非給電状態から給電状態に切り替える。このように、始動補助モードでは、電磁弁80に給電した後に、発電機50から蓄電装置70を介して点火装置32に一回給電する。
そして、発電機50から電磁弁80への給電により、電磁弁80が開弁している場合には、エンジン30に燃料が供給されているため、点火装置32によってシリンダ内の混合気に着火されて、エンジン30が始動する。
【0038】
一回目のスタータ装置60への入力において、エンジン30が始動しない場合には、作業者はスタータ装置60のロープを再度引いて発電機50を発電させる。制御装置100では、エンジン30が始動するまで、スタータ装置60に入力される毎に始動補助モードを繰り返すか、通常始動モードに移行するかを選択する。
【0039】
制御装置100は、二回目以降のスタータ装置60への入力時に、クランクシャフト31の、前回の入力時の回転量、前回までの回転量の総数および前回の回転速度の少なくとも一つが規定値に達していない場合には、二回目のスタータ装置60への入力時にも始動補助モードを実行する。
なお、クランクシャフト31の回転量の総量とは、一回目のスタータ装置60への入力時からのクランクシャフト31の回転量を加算したものである。
また、制御装置100では、二回目以降のスタータ装置60への入力時に、クランクシャフト31の回転量、回転量の総数および回転速度が全て規定値に達している場合には、二回目以降のスタータ装置60への入力時に通常始動モードを実行するように構成することがよい。
【0040】
以上のような第一実施形態のチェンソー1A(動力作業機)は、図1に示すように、切断部20(作業器具)と、切断部20を駆動させるエンジン30と、を備えている。また、チェンソー1Aは、図2に示すように、エンジン30のクランクシャフト31の回転により発電する発電機50と、外部からの入力によりクランクシャフト31を回転させるスタータ装置60と、制御装置100と、を備えている。エンジン30に接続された燃料供給路45には、通電により開弁する電磁弁80が設けられている。発電機50で発電した電力を、エンジン30の点火装置32に給電するとともに、電磁弁80に給電するように構成されている。外部からスタータ装置60に入力されたときに、制御装置100は、発電機50で発電した電力を電磁弁80に優先して給電する始動補助モードを実行する。
このように、エンジン30の始動時に電磁弁80に優先して給電することで、電磁弁80が開弁し易くなるため、エンジン30の始動性を向上させることができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0041】
第一実施形態の始動補助モードでは、発電機50から点火装置32に給電するための電力の少なくとも一部を、電磁弁80に優先して給電することで、電磁弁80を開弁し易くしている。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0042】
制御装置100は、外部からスタータ装置60に入力されたときに、発電機50で発電した電力を、点火装置32および電磁弁80に給電する通常始動モードを実行可能である。そして、始動補助モードにおいて電磁弁80に給電する電力を、通常始動モードにおいて電磁弁80に給電する電力よりも大きくすることで、始動補助モードにおいて、電磁弁80に大きな電力を給電することが好ましい。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0043】
また、通常始動モードでは、発電機50から点火装置32に給電する電力が、電磁弁80に給電する電力より大きいため、シリンダ内の混合気に着火し易くなっている。したがって、始動補助モードでは、その大きな電力が優先して電磁弁80に給電される。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0044】
チェンソー1Aは、エンジン30が2サイクルエンジンであり、燃料供給路45には、燃料を電磁弁80に供給可能な手動式ポンプPが設けられている小型軽量手持式作業機である。
チェンソー1Aでは、小型軽量手持式作業機のように発電機50の発電容量が小さい場合でも、小さな電力で電磁弁80を開弁させることができるため、エンジン30の始動性を向上させることができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0045】
2サイクルエンジンでは、燃料にオイルが混合されているため、エンジン30が停止しているときに、燃料が揮発すると、オイルが弁体および弁座面に付着し、オイルによって弁体が弁座面に固着する場合があり、チェンソー1Aでは、手動式ポンプPによって電磁弁80に燃料を供給して弁体および弁座面に付着したオイルを溶かすことができる。
第一実施形態のチェンソー1Aでは、制御装置100による始動補助モードと、手動式ポンプPとの協働により、エンジン30の始動性を向上させることができる。
【0046】
チェンソー1Aのスタータ装置60は、クランクシャフト31に巻かれたロープ61を有し、ロープ61に加えられた引張力によって、クランクシャフト31を回転させるリコイルスタータである。
チェンソー1Aでは、発電容量が小さいリコイルスタータでも、制御装置100による始動補助モードによって、電磁弁80に大きな電力を給電することができるため、エンジン30の始動性を向上させることができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0047】
始動補助モードでは、電磁弁80に給電した後は、外部からスタータ装置60への一回の入力に対して、発電機50から点火装置32に少なくとも一回給電している。このようにすると、一回目のスタータ装置60への入力によってエンジン30が始動する場合もある。また、このときに、電磁弁80が固着している場合でも一回目の入力でエンジン30が始動する場合もある。
【0048】
制御装置100において、外部からスタータ装置60への入力により始動補助モードを実行したときに、クランクシャフト31の回転量、回転量の総数および回転速度の少なくとも一つが規定値に達していない場合がある。この場合には、制御装置100において、外部からスタータ装置60への次の入力時にも始動補助モードを実行することで、エンジン30を確実に始動させることができる。また、この構成では、電磁弁80が固着している場合に確実に電磁弁80に大きな電力を給電することができる。
【0049】
制御装置100では、エンジン30の温度が規定値に達していない場合に、外部からスタータ装置60に入力されたときには、始動補助モードを実行する。この構成では、エンジン30の温度が低い場合でもエンジン30の始動性を向上させることができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0050】
なお、エンジン30の温度を温度センサSによって直接計測することで、エンジン30の正確な温度を測定することが好ましい。
【0051】
また、制御装置100は、エンジン30の駆動を制御する他の制御を実行可能であり、温度センサSによって計測された温度を他の制御にも利用することができる。
例えば、制御装置100における他の制御としては、温度センサSの温度に基づいて、エンジン30のシリンダに対するピストンの摺動状態を検出することができる。
また、制御装置100における他の制御としては、温度センサSの温度に基づいて、冷間始動制御または温間始動制御を実行することができる。
【0052】
チェンソー1Aでは、電磁弁80と発電機50との間には、発電機50から電磁弁80への給電状態および非給電状態を切り替えるスイッチSW1が設けられている。
この構成では、発電機50で発電した後にスイッチSW1を非給電状態から給電状態に切り替えることで、大きな電力を電磁弁80に給電することができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0053】
チェンソー1Aは、電磁弁80と発電機50との間には、発電機50から給電される蓄電装置70(蓄電装置)と、蓄電装置70から電磁弁80への給電および非給電を切り替えるスイッチSW1と、が設けられている。
この構成では、蓄電装置70に電力を溜めた後にスイッチSW1を非給電状態から給電状態に切り替えることで、大きな電力を電磁弁80に給電することができる。また、この構成は、電磁弁80が固着している際に有効である。
【0054】
以上、本発明の第一実施形態の一例について説明したが、本発明は前記第一実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。また、場合によっては、後記の第二実施形態から第四実施形態の構成を適用してもよい。
第一実施形態のチェンソー1Aでは、エンジン30の温度やクランクシャフト31の回転に基づいて、制御装置100が始動補助モードまたは通常始動モードを選択しているが、制御装置100が常に始動補助モードを実行するように構成してもよい。
【0055】
第一実施形態のチェンソー1Aのスタータ装置60は、リコイルスタータであるが、バッテリーによりモータを駆動させることで、クランクシャフト31を回転させてもよい。
【0056】
第一実施形態では、本発明を適用したチェンソー1Aについて説明しているが、本発明を適用可能な動力作業機は限定されるものではなく、刈払機、ヘッジトリマー、ブロワなどの各種の動力作業機に適用可能である。
【0057】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態のチェンソーについて説明する。第二実施形態のチェンソー1Bは、図5に示すように、蓄電装置70から電磁弁80に給電する点が、前記第一実施形態のチェンソー1A(図2参照)と異なっている。また、第二実施形態のチェンソーでは、始動補助モードにおいて、電磁弁80の電磁コイルに給電するタイミングが前記第一実施形態の始動補助モードと異なっている。
第二実施形態のチェンソーは、始動補助モードの制御以外の構成は第一実施形態のチェンソー1A(図2参照)の構成と同一である。そのため、第二実施形態のチェンソーの構成要素には、第一実施形態のチェンソー1Aの構成要素と同一の符号を付している。また、以下の説明では、図4のタイムチャートを適宜に参照する。
【0058】
第二実施形態の制御装置100では、始動制御モードを実行したときに、図5に示すように、蓄電装置70に電力を溜めてからスイッチSW1を非給電状態から給電状態に切り替えて、蓄電装置70から電磁弁80に給電している。
このように、第二実施形態の始動制御モードでは、電磁弁80に対して大きな電力を蓄電装置70に溜めて給電することで、電磁弁80が開弁し易くなる。
【0059】
以上、本発明の第二実施形態の一例について説明したが、本発明は前記第二実施形態に限定されることなく、前記第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
【0060】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態のチェンソー1Bについて説明する。第三実施形態のチェンソー1Bは、図5に示すように、蓄電装置70から電磁弁80に給電する点が、前記第一実施形態のチェンソー1A(図2参照)と異なっている。
【0061】
第三実施形態のチェンソー1Bの発電機50は、配線C4によって蓄電装置70に電気的に接続されている。蓄電装置70は、図示しないコンデンサ等を点火装置32用および電磁弁80用として備える。そして、発電機50から複数のコンデンサ等に給電され、コンデンサ等からそれぞれ電磁弁80および点火装置32に給電される。
これにより、点火装置32へ給電するためのスイッチSW2が給電状態にならない限り、発電機50から点火装置32へ給電される分の電力も電磁弁80用のコンデンサ等に給電される。
なお、前記した構成において、発電機50と蓄電装置70のコンデンサ等との間に図示しないスイッチを設け、そのスイッチのON-OFF操作により、蓄電装置70に電力も電磁弁80の電磁コイルへ給電するようにしてもよい。
【0062】
以上、本発明の第三実施形態の一例について説明したが、本発明は前記第三実施形態に限定されることなく、前記第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
【0063】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態のチェンソー1Cについて説明する。第四実施形態のチェンソー1Cは、図6に示すように、第一発電機51および第二発電機52を備えている点が、前記第一実施形態のチェンソー1A(図2参照)と異なっている。
【0064】
第四実施形態のチェンソー1Cでは、クランクシャフト31の回転により、第一発電機51および第二発電機52が発電する。
第四実施形態のチェンソー1Cでは、第一発電機51が配線C5によって蓄電装置70に電気的に接続されている。また、第二発電機52が配線C6によって電磁弁80に電気的に接続されている。
【0065】
第一発電機51が発電すると、第一発電機51から蓄電装置70に給電され、蓄電装置70から点火装置32に給電される。つまり、第一発電機51で発電した電力は、点火装置32のみに給電される。
また、第二発電機52が発電すると、第二発電機52から電磁弁80に給電される。つまり、第二発電機52で発電した電力は、電磁弁80のみに給電される。
【0066】
このように、電磁弁80のみに給電する第一発電機51を設けることで、電磁弁80に確実に大きな電力が給電されるため、始動補助モードとして開弁時間を長くするように設定すること等により、電磁弁80が開弁し易くなる。また、この構成では、第二発電機52とスイッチSW1とを図示しない配線で接続しても良い。そうすれば、第二発電機52の電力を始動補助モードにおいて電磁弁80が利用するように設定することができる。
【0067】
以上、本発明の第四実施形態の一例について説明したが、本発明は前記第四実施形態に限定されることなく、前記第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1A チェンソー(第一実施形態)
1B チェンソー(第三実施形態)
1C チェンソー(第四実施形態)
10 本体ケース
12 トップハンドル
13 リアハンドル
20 切断部
21 ガイドバー
22 ソーチェン
30 エンジン
31 クランクシャフト
32 点火装置
35 回転計測器
40 燃料タンク
45 燃料供給路
50 発電機
51 第一発電機
52 第二発電機
60 スタータ装置
61 ロープ
70 蓄電装置
80 電磁弁
100 制御装置
P 手動式ポンプ
S 温度センサ
SW1 スイッチ
SW2 スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6