(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】セラミックマトリックス複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20240208BHJP
B28B 1/38 20060101ALI20240208BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C04B35/80
B28B1/38 D
C04B35/83
(21)【出願番号】P 2019223025
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131119(JP,A)
【文献】特開2009-203091(JP,A)
【文献】特開2016-141583(JP,A)
【文献】特開2006-265080(JP,A)
【文献】特開2002-362975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/71-35/84
B28B 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維からなるシート状の骨材と、セラミックマトリックスと、からなるセラミックマトリックス複合材料の製造方法であって、
前記シート状の骨材は、前記セラミック繊維を複数本束ねたストランドを用いて形成されており、
前記
シート状の骨材を、
前記ストランドが存在する領域と前記ストランドが存在しない領域に分類する分類工程と、
前記ストランドが存在しない領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入する含浸工程と、
前記前駆体が含浸された含浸体を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程で硬化した含浸体を焼成する焼成工程と、
からなることを特徴とするセラミックマトリックス複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックマトリックスの前駆体は、セラミック粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のセラミックマトリックス複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記シート状の骨材は、前記ストランドを用い、クロス、フィラメントワインディング、又は、ブレイディングの形態で形成されていることを特徴とする請求項
1又は2に記載のセラミックマトリックス複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記骨材は、前記ストランドを組み合わせることにより、開口を有するパターンが形成されており、
前記含浸工程では、ノズルを前記開口に当接し、前記セラミックマトリックスの前駆体を吐出する工程を、順次その位置を変えながら繰り返すことを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載のセラミックマトリックス複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック繊維は、炭素繊維又は炭化ケイ素繊維からなり、前記セラミックマトリックスは、黒鉛又は炭化ケイ素からなる請求項1~
4のいずれか1項に記載のセラミックマトリックス複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックマトリックス複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度のセラミック繊維をマトリックスで固定した複合材料は、広く使用されている。マトリックスには、樹脂を用いたもの、前駆体を焼成してセラミック化したものがあり、それぞれの用途に応じて様々な組み合わせの複合材料が存在し、目的の形状に合わせて様々な成形方法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、強化繊維と樹脂とを組み合わせた複合材の成型方法が記載されている。具体的には、複合材の面内における一方向において、複合材の板厚が変化する場合であっても、未含浸領域の形成を抑制することで、複合材を好適に成形する成型方法として、強化繊維基材が積層されてなる複合材を成形する複合材の成形方法であって、前記複合材を成形するための成形用治具の成形面に、前記強化繊維基材が積層された積層体を配置し、前記積層体をフィルムで覆って気密に封止し、前記積層体の前記フィルム側に設けられた樹脂供給部から、前記積層体へ向けて樹脂を供給し、前記積層体の前記成形面側に設けられると共に前記積層体の積層方向に直交する面内の一方向に亘って設けられた脱気防水部から、前記フィルム内の樹脂の通過を遮断しつつ、前記フィルム内の雰囲気を吸引して、前記積層体に前記樹脂を含浸させ、前記積層体への前記樹脂の含浸後、前記積層体の前記フィルム側に設けられた樹脂排出部から、前記フィルム内の樹脂を排出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の発明は、強化繊維と樹脂マトリックスとを組み合わせた複合材であり、このような複合材は、表面は樹脂で覆われた構造となって平滑性を確保している。
これに対して、セラミックマトリックス複合材料では、強化繊維の内部及び表面に付着した有機高分子、無機高分子などの前駆体を焼成するプロセスが加わるため、前駆体が焼成過程で収縮し、表面に付着した前駆体には微細なクラックによる凹凸が生じ、強度への貢献はほとんどなく、除去して使用してもよい要素となってしまう。
このため、特に高価な無機高分子などの前駆体を使用する場合や、除去が困難なセラミックマトリックスを使用する場合に、コスト上昇のもととなる。
【0006】
本発明では前記課題に鑑み、セラミックマトリックス複合材料の製造過程において、必要充分なセラミック前駆体を含浸することによりセラミック前駆体の使用量を減らし、低コスト化することが可能であるとともに、強度を改善することが可能なセラミックマトリックス複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のセラミックマトリックス複合材料の製造方法は、セラミック繊維からなるシート状の骨材と、セラミックマトリックスと、からなるセラミックマトリックス複合材料(以下、CMCともいう)の製造方法であって、
上記セラミック繊維からなるシート状の骨材を、その形状に基づいて複数の領域に分割するとともに、分割した領域をその形状の特徴ごとに分類する分類工程と、形状に関する特定の特徴を有する領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入する含浸工程と、上記前駆体が含浸された含浸体を硬化させる硬化工程と、上記硬化工程で硬化した含浸体を焼成する焼成工程と、からなることを特徴とする。
【0008】
本発明のCMCの製造方法によれば、分類工程において、シート状の骨材を、その形状に基づいて複数の領域に分割するとともに、分割した領域をその形状の特徴ごとに分類し、含浸工程において、形状に関する特定の特徴を有する領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入するので、少量ずつ狙った領域にセラミックマトリックスの前躯体を充填することができ、かつ、片側からの充填であるので、裏面に到達した時点で圧入を停止することができ、セラミック前駆体の使用量を減らし、低コスト化することが可能である。
【0009】
さらに、シート状の骨材の強度が改善できる部分に、重点的にマトリックスを補充することができるので、得られるCMCの強度を効果的に改善することができる。
【0010】
本発明のCMCの製造方法では、上記セラミックマトリックスの前駆体は、セラミック粒子を含有することが望ましい。
【0011】
本発明のCMCの製造方法において、上記セラミックマトリックスの前駆体が、セラミック粒子を含有していると、上記焼成工程におけるマトリックスの収縮によるクラックの発生等を防止することができ、歩留まりを高めることができ、効率よくCMCを形成することができる。また、セラミックマトリックスにセラミック粒子が含まれることにより、セラミックマトリックスの機械的強度を改善することができ、結果的にCMCの機械的特性を改善することができる。
【0012】
本発明のCMCの製造方法では、上記骨材は、上記セラミック繊維を複数本束ねたストランドを用いて形成されていることが望ましい。
【0013】
本発明のCMCの製造方法において、上記シート状の骨材が、上記セラミック繊維を複数本束ねたストランドを用いて形成されていると、セラミック繊維の強度が強化され、得られるCMCの強度がより高くなる。また、ストランドが存在するセラミック繊維の密度の高い部分と、セラミック繊維が存在しない空隙含有部分や開口部分とが明確に分かれ、セラミックマトリックスの前駆体を圧入すべき箇所を明確に特定することができ、効率よくCMCを形成することができる。
【0014】
本発明のCMCの製造方法では、上記シート状の骨材は、上記ストランドを用い、クロス、フィラメントワインディング、又は、ブレイディングの形態で形成されていることが望ましい。
【0015】
上記CMCの製造方法において、上記シート状の骨材が、上記ストランドを用い、クロス、フィラメントワインディング、又は、ブレイディングの形態で形成されていると、規則的に開口部分が形成された骨材を形成することができるので、容易にセラミックマトリックスの前駆体を圧入することができる。
【0016】
本発明のCMCの製造方法では、上記骨材は、上記ストランドを組み合わせることにより、開口を有するパターンが形成されており、上記含浸工程では、ノズルを上記開口に当接し、上記セラミックマトリックスの前駆体を吐出する工程を、順次その位置を変えながら繰り返すことが望ましい。
【0017】
本発明のCMCの製造方法において、上記骨材は、上記ストランドを組み合わせることにより、開口を有するパターンが形成されており、上記含浸工程では、ノズルを上記開口に当接し、上記セラミックマトリックスの前駆体を吐出する工程を、順次その位置を変えながら繰り返すことにより、セラミックマトリックスの前駆体を狙った個所だけに圧入することができる。また、ノズルを用いて順次当接する位置を変えながら圧入できるので、効率よくCMCを製造することができる。
【0018】
本発明のCMCの製造方法では、上記セラミック繊維は、炭素繊維又は炭化ケイ素繊維からなり、上記セラミックマトリックスは、黒鉛又は炭化ケイ素からなることが望ましい。
本発明のCMCの製造方法において、上記セラミック繊維が、炭素繊維又は炭化ケイ素繊維からなり、上記セラミックマトリックスが、黒鉛又は炭化ケイ素からなると、高温耐熱性のCMCを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のCMCの製造方法によれば、含浸工程において、形状に関する特定の特徴を有する領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入するので、少量ずつ狙った領域にセラミックマトリックスの前躯体を充填することができ、かつ、片側からの充填であるので、裏面に到達した時点で圧入を停止することができ、セラミック前駆体の使用量を減らし、低コスト化することが可能である。さらに、シート状の骨材の強度が改善できる部分に、重点的にマトリックスを補充することができるので、得られるCMCの強度を効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、シート状の骨材の形状の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、シート状の骨材の形状の他の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、シート状の骨材のパターンの一例を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、シート状の骨材のパターンの他の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のCMCの製造方法について、各実施形態に分けて詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0022】
本発明のCMCの製造方法は、セラミック繊維からなるシート状の骨材と、セラミックマトリックスと、からなるCMCの製造方法であって、
上記セラミック繊維からなるシート状の骨材を、その形状に基づいて複数の領域に分割するとともに、分割した領域をその形状の特徴ごとに分類する分類工程と、形状に関する特定の特徴を有する領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入する含浸工程と、上記前駆体が含浸された含浸体を硬化させる硬化工程と、上記硬化工程で硬化した含浸体を焼成する焼成工程と、からなることを特徴とする。
【0023】
本発明のCMCの製造方法の対象となる基材は、セラミック繊維からなるシート状の骨材である。
セラミック繊維としては、例えば、SiC繊維、TaC繊維、WC繊維、炭素繊維、TaN繊維、チタンシリコンカーバイド繊維等が挙げられる。
【0024】
上記した導電性セラミック繊維のなかでは、炭素繊維及びSiC繊維が望ましい。
耐熱性を備え、高強度であるので、高強度で耐熱性の高いCMCを製造することができる。
【0025】
上記骨材は、前記セラミック繊維を複数本束ねたストランドの形態で構成されていることが望ましい。
ストランドを構成するセラミック繊維の数は100~10000本であることが好ましい。ストランドを構成するセラミック繊維の数が100本以上であると充分な太さのストランドが得られるのでセラミックマトリックスの前駆体を圧入する箇所が明確にでき、効率よくCMCを製造することができる。
【0026】
ストランドを構成するセラミック繊維の数が10000本以下であると、ストランドを曲げた際にストランドの断面形状が容易に潰れ、セラミック繊維が自由に再配列しやすく、曲げ応力のかかりにくい薄いバンド状に容易に変形することができる。
【0027】
前記シート状の骨材は、前記ストランドを用い、クロス、フィラメントワインディング、又は、ブレイディングの形態で形成されていることが望ましい。
【0028】
ストランドがクロス(織物)である場合、その種類は、特に限定されず、平織、綾織、繻子織、三次元立体織等により形成されたもの等が挙げられる。ストランドがクロス(織物)である場合、クロスは、平面状であっても、円筒等の立体的な形状であってもよい。
【0029】
ブレイディング体は、ストランドを管状となるように織ったものであって、管状体の表面に沿って互いに逆方向に旋回するように2方向のストランドが配列されたものである。管状体の長手方向に沿って配列したストランドをさらに加えたブレイディング体であってもよい。この場合には3方向のストランドが配列して形成されていることとなる。
【0030】
複数本のセラミック繊維を束ねてリボン状あるいは棒状のストランドを形成し、成形型の外周に沿って3次元ブレイディング法によりストランドを織り合わせることによって、円筒形状の開口を有するメッシュ体からなるブレイディング体を形成することができる。なお、3次元ブレイディング法によるメッシュ体の形成は公知の方法に従って行うことができる。
ストランドの製織には、市販の自動織機(例えば、豊和工業社製、TWM-32C、TRI-AX)を利用することができる。自動織機が入手困難な場合は、組紐と同じ要領で手作業で円筒形状のメッシュ体からなるブレイディング体を形成することができる。
【0031】
フィラメントワインディング体は、ストランドをマンドレルの周囲に巻回することによって得られるものであり、CMC製造の前、又は、CMCの製造後に、マンドレルを取り去ってもよい。マンドレル(母型)が特定の物品である場合には、特定の物品の周囲にCMCが形成された製品となる。
また、セラミック繊維をマンドレルの周囲に巻回する際、規則的に方向を変えて巻回すると、例えば、ストランドが交互に積み重ねられ、所定の規則的なパターンを有する骨材となる。
【0032】
図1及び
図2は、それぞれシート状の骨材の形状を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、骨材10は、ストランド11を組み合わせることにより形成された、直径よりも高さが高い細長い円筒形状のものであってもよく、
図2に示すように、ストランド21を組み合わせることにより形成された、直径に比べて高さが低い形状のものであってもよい。
【0033】
図3及び
図4は、それぞれシート状の骨材のパターンの一例を模式的に示す平面図である。
前記シート状の骨材の形態は、特に限定されるものではないが、
図3及び
図4に示すように、ストランド11、21を組み合わせることにより、開口15、25を有するパターンが形成された骨材10、20となる。
図3又は
図4に示すパターンの骨材が平面状(布状)に形成されていてもよい。
【0034】
まず、セラミック繊維の材料が炭素繊維である場合、炭素繊維の材料は特に限定されず、PAN系炭素繊維であっても、ピッチ系炭素繊維であってもよい。
【0035】
炭素繊維の直径は、5~50μmが望ましい。炭素繊維の直径が5μm以上であると、炭素繊維が充分な強度を有するので、炭素複合材の機械的特性を改善することができる。一方、炭素繊維の直径が50μm以下であると、炭素繊維の直径が大きすぎないので、曲げても折れにくい。
【0036】
セラミック繊維の材料が炭化ケイ素繊維である場合、炭化ケイ素繊維の直径が5~20μmであることが望ましい。
SiC繊維の直径が5μm以上であると繊維表面に発生する微少な傷などの欠陥の影響を小さくすることができ、折れにくくすることができる。SiC繊維の直径が20μm以下であると、曲げに伴って延びる側の外表面に発生する張力を抑制することができ、折れにくくすることができる。
【0037】
セラミックマトリックスとは、上記骨材と組み合わされたCMCを構成するセラミックであり、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、コージェライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物セラミック、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、及び、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、黒鉛等の炭素材料等が挙げられる。これらのなかでは、炭化ケイ素、黒鉛等の炭素材料が好ましい。
これらのセラミックマトリックスは、セラミックマトリックスの前駆体を硬化させた後、焼成することにより製造される。
セラミックマトリックスとセラミック繊維とは、同じ材料であることが望ましい。二つの材料は、親和性に優れるので、骨材であるセラミック繊維とセラミックマトリックスとが強固に接合された機械的特性に優れたCMCとなる。
【0038】
次に、CMCの製造方法について具体的に説明することとする。
まず、最初に分類工程として、上記セラミック繊維からなるシート状の骨材を、その形状に基づいて複数の領域に分割するとともに、分割した領域をその形状の特徴ごとに分類する。
【0039】
この分類工程では、具体的には、例えば、
図4に示す骨材の場合、シート状の骨材をカメラを用いて撮影し、その画像を読み込んだ後、開口25が形成された領域(以下、A領域という)と開口25が形成されていない(ストランド21が存在する)領域(以下、B領域という)とに分割し、分割された画像の位置と形状とを特定し、A領域とB領域とに分類する。B領域を、さらに複数の形状に分割、分類してもよい。
【0040】
骨材のパターンに関する設計図等が存在する場合には、設計図に基づいてA領域とB領域とを決定し、撮影された画像をA領域とB領域とに分割、分類する。
【0041】
次に、含浸工程として、形状に関する特定の特徴を有する領域に、複数回に分けてセラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入し、含浸体を作製する。
上記した例においては、A領域として分類された領域(開口が形成された領域)に、順次、セラミックマトリックスの前駆体を片面から圧入する。
【0042】
上記した分類工程と含浸工程においては、例えば、PC制御画像認識塗布システムを用いることができる。
このPC制御画像認識塗布システムは、処理する物体を撮影するカメラと、注入装置と注入装置から延びるノズルと、ノズルの3次元方向の相対的な移動を制御するモータ等の移動制御機構と、得られた画像を解析し、その特徴に基づいて複数の領域に分割する画像解析プログラムや、上記画像解析結果に基づいて、所定領域にセラミックマトリックスの前駆体を注入する工程を制御するプログラム等がインストールされたコンピュータ等とを備えている。
【0043】
このPC制御画像認識塗布システムを用いると、まず、分類工程として、カメラにより対象となるシート状の骨材を撮影し、その形状に基づいて複数の領域に分割するとともに、分割した領域をその形状の特徴ごとに分類する。具体的には、シート状の骨材の画像を開口が形成された領域(A領域)と開口が形成されていない領域(B領域)に分割し、領域ごとにA領域とB領域とに分類する。
【0044】
次に、A領域に上記前駆体を圧入するとの指示に基づいてノズルをA領域まで移動させるとともに当接させ、注入装置を駆動させて塗布液であるセラミックマトリックスの前駆体を押し出し、骨材の片面から開口に上記前駆体を圧入する。この工程を、複数のA領域に対して繰り返すことにより、シート状の骨材の開口部分の全てにセラミックマトリックスの前駆体を注入し、前駆体充填部を有する含浸体を作製する。
【0045】
圧入の際に、セラミックマトリックスの前駆体が骨材を通過してシート状の骨材より落下しないように、シート状の骨材の圧入する側の反対側にプラスチックシート等を貼り付けておくことが望ましい。
また、骨材が円筒形状のような立体である場合、2次元的な形状に折り畳んでもよく、骨材を円柱形状の基台に設置し、A領域を立体的に認識させて上記工程を行ってもよい。
【0046】
上記の例では、シート状の骨材に開口が形成されており、この開口にセラミックマトリックスの前駆体を圧入する構成となっていたが、圧入部分は、必ずしも開口でなくてもよく、例えば、3次元織りの場合等において、特定の部分に繊維の密度の低い部分等が発生したり、窪みの部分が発生する場合には、該当する部分にセラミックマトリックスの前駆体を圧入してもよい。
【0047】
セラミックマトリックスの前駆体は、特に限定されるものではないが、焼成することにより炭素化又は黒鉛化するマトリックスの前駆体としては、コプナ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂等の炭化収率の高い熱硬化性樹脂のほか、石油系、石炭系等から得られるコールタールやピッチ等を用いることができる。
【0048】
他のマトリックスの前駆体としては、例えば、ポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリボロシロキサン、ポリカルボシラザン等が挙げられる。上記マトリックスの前駆体のなかで、ポリカルボシランからはSiC、ポリオルガノボロシラザンからはSiNBCセラミック、ポリメタロキサンからは酸化物系セラミック、ポリオルガノボロシラザンからは、B-Si-C-N系セラミック、ポリカルボシラザンからはSi-C-N系セラミックが得られる。
これらの前駆体で液状のものはそのまま使用でき、固体のものは、所定の溶媒を用いることにより、上記前駆体を含む溶液となるので、骨材の開口に吐出することが可能である。
【0049】
これらのマトリックスの前駆体は、黒鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミック粒子を含んでいることが望ましい。上記焼成工程におけるマトリックスの収縮によるクラックの発生等を防止することができ、歩留まりを高めることができ、効率よくCMCを形成することができる。また、セラミック粒子が含まれることにより、マトリックスの前駆体が焼成体となった際、焼成体の強度を増加させることができる。
これらの観点から、セラミックマトリックスの前駆体に含有されるセラミック粒子は、セラミックマトリックスと同じ材料からなるものが望ましい。
【0050】
次に、硬化工程として、上記前駆体が含浸された含浸体を硬化させる。
上記硬化工程では、含浸工程を経た含浸体を加熱することにより硬化させることができる。
マトリックスの前駆体が熱硬化性樹脂であれば、加熱することにより重合が進行するため、硬化させることができる。また、溶媒を含む前駆体であれば、溶媒を蒸発させることにより、硬化させることができる。さらに、マトリックスの前駆体が紫外線等を照射することにより硬化する樹脂であれば、紫外線等を照射すればよい。
【0051】
次に、硬化工程を経て、充填部が硬化された含浸体を焼成することにより、硬化した充填部をセラミックマトリックスとする。
マトリックスの前駆体として、コールタールやピッチ等を用いた場合には、1000℃程度の温度で焼成し、必要があれば2000~3000℃程度の高温で加熱処理することにより黒鉛化させる。
マトリックスの前駆体として、熱硬化性樹脂を用いた場合には、400~600℃程度で脱脂処理を施した後、800~2000で焼成し、セラミックマトリックスを得ることができる。
セラミックマトリックスは、充分に炭素化していればよく、必ずしも完全に黒鉛化していなくてもよい。
【0052】
マトリックスの前駆体として、ポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリボロシロキサン、ポリカルボシラザン等を用いた場合、800~2000℃で加熱処理することにより、セラミックマトリックスとすることができる。製造するセラミックマトリックスが非酸化物セラミックスの場合には、焼成処理は、不活性ガス雰囲気で行うことが望ましく、製造するセラミックマトリックスが酸化物セラミックスの場合、酸素を含む雰囲気で行うことが望ましい。
【符号の説明】
【0053】
10、20 骨材
11、21 ストランド
15、25 開口