(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】キャップ材用アルミニウム合金板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20240208BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20240208BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 686A
(21)【出願番号】P 2019228824
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】山口 真一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 充
(72)【発明者】
【氏名】湯田 晃典
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180141(JP,A)
【文献】特開2010-189730(JP,A)
【文献】特開2007-191760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/00~ 1/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.4質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、板厚が0.20mm以上0.26mm以下、引張強度が150MPa以上250MPa以下、耐力が140MPa以上240MPa以下、かつ、
以下に示す耳率が6%以下であることを特徴とするキャップ材用アルミニウム合金板。
耳率は、ポンチ径を33mm、ダイ内径を33.7mm、絞り比を1.75、しわ抑え圧を5kNとして作製した円筒部の側面に形成される山の高さの平均値及び谷の高さの平均値から、下記の式により導き出される値である。
(式)耳率(%)=(山高さの平均値-谷高さの平均値)/谷高さの平均値×100
【請求項2】
請求項1に記載のキャップ材用アルミニウム合金板の製造方法であって、
60質量%以上のアルミニウムスクラップ材を含み、Si:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.4質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を溶解鋳造した後、均質化処理を施して熱間圧延することにより、厚さ2.0mm以上3.6mm以下の第1板材を形成し、前記第1板材に完全軟化焼鈍を施した後、第1冷間圧延を施し、前記第1冷間圧延後に400℃以上550℃以下で5秒以上30秒以下保持する中間焼鈍を施した後、最終冷延率30%以上70%以下で冷間圧延して厚さ0.20mm以上0.26mm以下の第2板材を形成し、前記第2板材に180℃以上260℃以下で3時間以上5時間以下の最終焼鈍を施すことを特徴とするキャップ材用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記均質化処理及び前記熱間圧延を施すことにより形成された前記第1板材に対して、圧下率10%以上40%以下の第2冷間圧延を施した後、前記完全軟化焼鈍を施すことを特徴とする請求項2に記載のキャップ材用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムボトル等からなるボトル缶のキャップとなるキャップ材用アルミニウム合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金は、リサイクル性に優れた材料である。このアルミニウム又はアルミニウム合金のスクラップ材を再利用してアルミニウム合金を製造すると、アルミニウム地金を採用する場合に比べて、CO2の発生量を大幅に抑制し、環境負荷を低減できることが知られている。このようなスクラップ材を再利用したアルミニウム合金板として、例えば、特許文献1及び2に記載のアルミニウム合金板が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1のアルミニウム合金板は、質量%で、Si:0.5~1.5%、Mg:0.2~2.0%を含み、Fe:1.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Zr:0.5%以下、V:0.3%以下、Ti:0.2%以下、Zn:1.5%以下、Cu:1.0%以下とし、更に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、Wの合計含有量が0.015%以上で、かつ0.5%以下とし、残部がAlおよび不純物からなる。
【0004】
この特許文献1に記載のアルミニウム合金板は、上記組成のアルミニウム合金鋳塊を、500℃以上、融点未満の温度で均質化熱処理後に、500℃から350℃までの平均冷却速度を40℃/h以上100℃/h未満として、一旦200℃以下の温度まで冷却した上で、300~450℃の温度まで再加熱後に熱間圧延を開始し、この熱間圧延の終了温度を170~300℃として熱延板を製作し、更に、この熱延板を、予め焼鈍を施すことなく、冷間圧延を行なって冷延板を製作し、この冷延板を560℃以上の温度で溶体化処理および焼入れ処理することにより製造されている。これにより、特許文献1に記載のアルミニウム合金板は、0.5μm以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度が3000~20000個/mm2であり、これら測定された分散粒子のサイズXμmを横軸、個数密度Y個/mm2を縦軸とした座標において、Xが10μm以下のサイズの分散粒子が、Y=Aexp(BX)で表される分散粒子サイズ分布式において、A/Bが1000~40000の範囲であり、Bが0.5~2の範囲となる。
【0005】
また、特許文献2に記載のアルミニウム合金板は、Si:0.5~1.4質量%、Fe:0.3~1.1質量%、Cu:0.1~0.3質量%、Mg:0.03~0.6質量%、Mn:0.7~1.4質量%、Ti:0.01~0.1質量%、及び残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%以下である成分組成を有している。
【0006】
この特許文献2に記載のアルミニウム合金板は、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3~10mmのスラブに連続的に鋳造し、スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、冷間圧延を施し、コイルをバッチ炉に挿入し、保持温度430~510℃で0.5~12時間保持する中間焼鈍を施した後、最終冷延率50~90%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施すことにより製造されている。これにより特許文献2に記載のアルミニウム合金板は、引張り強度が180MPa超、0.2%耐力が140MPa未満、及び伸びの値が23%以上であり、再結晶粒の平均粒径が30μm未満である冷延焼鈍材となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-169740号公報
【文献】特開2015-96650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1及び2に記載のアルミニウム合金は、自動車の車体用に形成されており、そのままキャップ材用のアルミニウム合金として用いることは難しい。このため、スクラップ材を主成分とする加工に適したキャップ材用アルミニウム合金板が望まれている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、スクラップ材を主原料とすることで環境負荷を抑制しつつ、加工性を向上できるキャップ材用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本研究者らは、鋭意研究の結果、アルミニウム圧延工場で発生するスクラップ材の成分を分析し、スクラップ材に多く含まれる合金元素の影響を詳細に検討して、合金成分範囲の選択と、その後の製造条件の組み合わせを適切に制御することで、ボトル缶のキャップに使用可能なキャップ材用アルミニウム合金材を見出した。
【0011】
すなわち、本発明のキャップ材用アルミニウム合金板は、Si:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.5質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、板厚が0.20mm以上0.26mm以下、引張強度が150MPa以上250MPa以下、耐力が140MPa以上240MPa以下、かつ、耳率が6%以下である。
【0012】
本発明では、板厚が0.20mm以上0.26mm以下に設定されている。この板厚が0.20mm未満であるとキャップ材として十分な耐圧性能が保てなくなり、0.26mmを超えると適正な荷重で巻締ができなくなる。また、引張強度が150MPa以上250MPa以下に設定されている。この引張強度が150MPa未満であると、キャップ材の耐圧強度が不足し、250MPaを超えると、加工性が低下して成形不良を生じるおそれがある。さらに、耐力が140MPa以上240MPa以下に設定されている。引張強度と同様に、耐力が140MPa未満であると耐圧強度が不足し、240MPaを超えると加工性が低下し、成形不良を生じるおそれがある。また、耳率が6%未満であるので、キャップ材のトリム欠けや、キャップ材への印刷時の歪みを抑制でき、加工性を向上できる。
なお、「耳率」とは、キャップ材の円筒部の側面(先端部)に形成される山の高さの平均値及び谷の高さの平均値から、下記の式により導き出される値である。
(式)耳率(%)=(山高さの平均値-谷高さの平均値)/谷高さの平均値×100
【0013】
Siは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.9質量%未満であると引張強度が低下し、1.6質量%を超えると引張強度が高くなりすぎるとともに、金属間化合物の割合が増加する。
Feは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.2質量%未満であると引張強度が低下し、0.6質量%を超えると金属間化合物の割合が増加する。
Cuは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.15質量%未満であると引張強度が低下し、0.5質量%を超えると引張強度が高くなりすぎる。
Mnは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.6質量%未満であると引張強度が低下し、1.1質量%を超えると引張強度が高くなりすぎるとともに、金属間化合物の割合が増加する。
Mgは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.04質量%未満であると引張強度が低下し、0.2質量%を超えると引張強度が高くなりすぎる。
Znは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与し、0.2質量%未満であるとキャップ材の加工時(成形時)に成形不良を起こす可能性があり、0.6質量%を超えると引張強度が高くなりすぎる。
【0014】
Crは、必ずしも含有する必要はなく、0.05質量%以上含有すると、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度が高くなりすぎる。
Tiは、必ずしも含有する必要はなく、0.1質量%以上含有すると、キャップ材用アルミニウム合金板の表面に肌荒れが生じる。
Zrは、必ずしも含有する必要はなく、0.06質量%以上含有すると、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度が高くなりすぎる。
【0015】
本発明のキャップ材用アルミニウム合金板の製造方法は、60質量%以上のアルミニウムスクラップ材を含み、Si:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.5質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を溶解鋳造した後、均質化処理を施して熱間圧延することにより、厚さ2.0mm以上3.6mm以下の第1板材を形成し、前記第1板材に完全軟化焼鈍を施した後、第1冷間圧延を施し、前記第1冷間圧延後に400℃以上550℃以下で5秒以上30秒以下保持する中間焼鈍を施した後、最終冷延率30%以上70%以下で冷間圧延して厚さ0.20mm以上0.26mm以下の第2板材を形成し、前記第2板材に180℃以上260℃以下で3時間以上5時間以下の最終焼鈍を施す。
【0016】
本発明では、熱間圧延により第1板材の厚さを2.0mm以上3.6mm以下とした上で、最終の厚さを0.20mm以上0.26mm以下とするので、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度を150MPa以上250MPa以下、耐力を140MPa以上240MPaかつ、耳率を6%以下にできる。
第1板材の厚さが2.0mm未満になると均一な厚みで圧延できなくなり、3.6mmを超えると生産性が低下する。また、第2板材(キャップ材用アルミニウム合金板の最終の厚さ)が0.20mm未満であるとキャップ材として十分な耐圧性能が保てなくなり、0.26mmを超えると適正な荷重で巻締ができなくなる。
【0017】
中間焼鈍の温度が400℃未満である又は保持時間が5秒未満である場合、引張強度が不足し、中間焼鈍の温度が550℃を超えている又は保持時間が30秒を超えている場合、キャップ材用アルミニウム合金板の生産性が低下する。
最終冷延率が30%未満であると、引張強度が低下し、70%を超えていると、引張強度が高くなりすぎる他、耳率が6%を超えるおそれがある。
最終焼鈍温度が180℃未満であると、加工性が低下し、260℃を超えていると、引張強度が低下する。また、最終焼鈍の上記温度での保持時間が3時間未満であると加工性が低下し、5時間を超えるとキャップ材用アルミニウム合金板の生産性が低下する。
【0018】
また、前記均質化処理及び前記熱間圧延を施すことにより形成された前記第1板材に対して、圧下率10%以上40%以下の第2冷間圧延を実施した後、前記完全軟化焼鈍を施してもよい。
熱間圧延工程において再結晶化が進みすぎた場合に軽度の冷間圧延(第2冷間圧延)で導入された歪が駆動力となって再結晶化を促進させることができる。
なお、圧下率が10%未満であると、上記駆動力としては不十分となる可能性があり、40%を超えると圧延集合組織が過度に発達し、再結晶化後もランダム方位の組織が得られなくなり、耳率が高くなる可能性がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、再利用が難しいスクラップ材を主原料とすることで環境負荷を抑制しつつ、加工性を向上できるキャップ材用アルミニウム合金板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るキャップ材用アルミニウム合金板の実施形態について説明する。
【0021】
[キャップ材用アルミニウム合金板の構成]
キャップ材用アルミニウム合金板は、絞り加工等が施されることにより、アルミニウムボトル等のボトル缶に装着されるキャップ材となる。このキャップ材用アルミニウム合金板は、スクラップ材を主原料とするアルミニウム合金から形成されている。具体的には、キャップ材用アルミニウム合金板となるアルミニウム合金には、スクラップ材が60質量%以上含まれており、全てスクラップ材により形成されていてもよい。
また、このようなスクラップ材は、アルミニウム圧延工場で発生するものであり、例えば、熱交換器に用いられるAl-Mn-Cu系合金からなる芯材に、Al-Si系合金からなるろう材やAl-Zn系合金からなる犠牲材がクラッドされたクラッド材からなる。
【0022】
また、キャップ材用アルミニウム合金板は、上述したように、アルミニウムスクラップ材を主原料とするため、複数の元素を含んでいる。具体的には、キャップ材用アルミニウム合金板は、Si:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.5質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
【0023】
「Si」0.9質量%以上1.6質量%以下
Siは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Siは、同時に含有されるMg等とともに金属間化合物を形成し、固溶硬化作用、分散硬化作用及び析出硬化作用で引張強度を向上させる。
このSiの含有量が0.9質量%未満であると引張強度が低下し、また原料として利用できるスクラップ材の使用比率が低下し、1.6質量%を超えると金属間化合物の割合が増加することにより引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0024】
「Fe」0.2質量%以上0.6質量%以下
Feは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Feは、Al-Mn-Fe系金属間化合物の析出量を増加させ、結晶を微細化させることにより、引張強度を向上させる。
このFeの含有量が0.2質量%未満であると、上記金属間化合物の析出量が少なくなり、結晶を微細化させることができず、引張強度が低下し、また原料として利用できるアルミニウムスクラップ材の比率が低下する。一方、Feの含有量が0.6質量%を超えると、引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0025】
「Cu」0.15質量%以上0.5質量%以下
Cuは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Cuは、Siと同様に、同時に含有されるMg等とともに金属間化合物を形成し、固溶硬化作用、分散硬化作用及び析出硬化作用で引張強度を向上させる。
このCuの含有量が0.15質量%未満であると十分な引張強度が得られず、また原料として利用できるアルミニウムスクラップ材の比率が低下し、0.5質量%を超えると引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0026】
「Mn」0.6質量%以上1.1質量%以下
Mnは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Mnは、Al-Mn-Fe系金属間化合物を形成し、晶出層及び分散層となることにより分散硬化作用を発揮し、これにより引張強度を向上させる。
このMnの含有量が0.6質量%未満であると上記金属間化合物の析出量が少なくなり、十分な硬化特性が得られなることから引張強度が低下するとともに、キャップ材に加工された際の耐圧強度が低下する他、原料として利用できるアルミニウムスクラップ材の比率が低下する。一方、Mnの含有量が1.1質量%を超えると上記金属間化合物の割合が増加することにより引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0027】
「Mg」0.04質量%以上0.2質量%以下
Mgは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Mgは、固溶硬化作用を有し、圧延加工時に加工硬化性を高めるとともに、SiやCuと共存することで分散硬化作用及び析出硬化作用を発揮して、引張強度を向上させる。
このMgの含有量が0.04質量%未満であると、十分な引張強度が得られず、また原料として利用できるアルミニウムスクラップ材の比率が低下し、0.2質量%を超えると分散硬化作用及び析出硬化作用により引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0028】
「Zn」0.2質量%以上0.6質量%以下
Znは、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度向上に寄与する。具体的には、Znは、Mg、Si、Cuの析出物を微細化することにより、引張強度を向上させる。
このZnの含有量が0.2質量%未満であると、微細化の効果が十分に得られないことから、キャップ材に加工する際に成形不良を起こす可能性があり、また原料として利用できるアルミニウムスクラップ材の比率が低下する。一方、Znの含有量が0.6質量%を超えると引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0029】
「Cr」0.05質量%未満
Crは、熱交換器用アルミニウムスクラップ材に含有されている可能性のある物質である。このCrの含有量が0.05質量%以上であると、引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0030】
「Ti」0.1質量%未満
Tiは、熱交換器用アルミニウムスクラップ材に含有されている可能性が高い物質である。このTiの含有量が0.1質量%以上であると、キャップ材用アルミニウム合金板の表面に肌荒れが生じる。
【0031】
「Zr」0.06質量%未満
Zrは、熱交換器用アルミニウムスクラップ材に含有されている可能性のある物質である。このZrの含有量が0.06質量%以上であると、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度が高くなりすぎて、加工性が低下する。
【0032】
なお、上述したCr、Ti、Zrのそれぞれは、熱交換器用スクラップに含まれる不可逆的元素であるが、上述した各上限値を超えると粗大な金属間化合物を形成し、プレス、打ち抜き成形をする際に金型摩耗の原因となるため好ましくない。つまり、キャップ材用アルミニウム合金板には、Cr、Ti及びZrは含まれない方がよい。
【0033】
このような組成のキャップ材用アルミニウム合金板は、厚さ0.20mm以上0.26mm以下とされ、引張強度が150MPa以上250MPa以下、耐力が140MPa以上240MPa以下、かつ、耳率が6%以下である。
引張強度が150MPa未満、又は耐力が140MPa未満であると、キャップ材の耐圧強度が不足し、引張強度が250MPaを超える、又は耐力が240MPaを超えると、加工性が低下して成形不良を生じるおそれがある。また、キャップ材に加工したときの耳率が6%未満であるので、キャップ材のトリム欠けや、キャップ材への印刷時の歪みを抑制できる。
【0034】
「耳率」とは、円筒部の側面(先端部)に形成される山の高さの平均値及び谷の高さの平均値から、下記の式により導き出される値である。
(式)耳率(%)=(山高さの平均値-谷高さの平均値)/谷高さの平均値×100
【0035】
[キャップ材用アルミニウム合金板の製造方法]
キャップ材用アルミニウム合金板は、以下の手順にて製造される。まず、60質量%以上のアルミニウムスクラップ材を含んだ上記組成範囲のアルミニウム合金に対して、溶解鋳造処理、均質化処理、熱間圧延処理、完全軟化焼鈍処理、冷間圧延処理、中間焼鈍処理、最終冷延処理及び最終焼鈍処理をこの順で施すことにより製造する。以下、具体的に説明する。
【0036】
[溶解鋳造]
60質量%以上のアルミニウムスクラップ材を含んだSi:0.9質量%以上1.6質量%以下、Fe:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.15質量%以上0.5質量%以下、Mn:0.6質量%以上1.1質量%以下、Mg:0.04質量%以上0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以上0.6質量%以下、Cr:0.05質量%未満、Ti:0.1質量%未満、Zr:0.06質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を溶解してアルミニウム合金溶湯を生成する。そして、アルミニウム合金溶湯を半連続鋳造法(DC鋳造)により鋳造する。
なお、鋳造法については、半連続鋳造法に限らず、連続鋳造法等、その他の常法を用いてもよい。
【0037】
[均質化処理]
半連続鋳造法により得られた鋳塊に対して、偏析など不均質な組織を除去する事を目的に均質化処理を実施する。高温の均質化処理により、鋳造時にマトリクスに過飽和に固溶した添加元素が金属間化合物として析出する。析出する金属間化合物のサイズや分散量は均質化処理の温度、時間に影響を及ぼされるため、添加元素の種類に応じた熱処理条件を選択する必要がある。
例えば、熱交換器用アルミニウムスクラップ材を含んだアルミニウム合金が上記組成とされていることから、得られた鋳塊について均質化処理を500℃以上溶融点以下の温度で2~10時間行う。
【0038】
[熱間圧延]
均質化処理がなされた鋳塊に対して熱間圧延を実施する。この熱間圧延は、500℃前後の高温で開始される。この熱間圧延により鋳塊が厚さ2.0mm以上3.6mm以下の第1板材が形成される。
なお、第1板材の厚さが2.0mm未満であると、均一な厚みで圧延できなくなり、3.6mmを超えると生産性が低下する。
【0039】
[完全軟化焼鈍]
ここで、本実施形態の第1板材(アルミニウム合金)は、Si成分が多く、再結晶化されにくい材料となっているため、熱間圧延処理後の組織も圧延集合組織が支配的となり、最終板の耳率が高くなる。このため、本実施形態では、熱間圧延処理後の第1板材に完全軟化焼鈍を実施する。この完全軟化焼鈍処理を実施することにより、熱間圧延処理された第1板材は完全再結晶化され、ランダム方位の組織が形成され低耳化に寄与する。このため、次に述べる冷間圧延の前処理として好ましい。完全軟化焼鈍処理は、例えば、バッチ焼鈍炉を用いて300℃以上溶融点未満の温度で1時間以上6時間以下保持する、または、連続焼鈍炉を用いて400℃以上550℃以下の温度で5秒以上60秒以下保持する処理を行うことにより実施する。
なお、バッチ焼鈍炉を用いたバッチ焼鈍処理において、焼鈍温度が300℃未満、若しくは、連続焼鈍炉を用いた連続焼鈍処理において、連続焼鈍温度が400℃未満では再結晶化が不十分となり、耳率が高くなる。
【0040】
なお、本実施形態では、熱間圧延後の第1板材に完全軟化焼鈍を施すこととしたが、これに限らず、完全軟化焼鈍を行なう前に、熱間圧延後の第1板材に本発明の第2冷間圧延に相当する冷間圧延(例えば圧下率10%以上40%以下、1パス)を加えてもよい。この場合、軽度の冷間圧延により導入された歪が駆動力となって再結晶化を促進させることができる。この第2冷間圧延の圧下率は、後述する冷間圧延(第1冷間圧延)の圧下率よりも小さく設定され、第2冷間圧延の圧下率が10%未満であると、上記駆動力としては不十分となる可能性があり、40%を超えると圧延集合組織が過度に発達し、再結晶化後もランダム方位の組織が得られなくなり、耳率が高くなる可能性がある。
【0041】
[冷間圧延(第1冷間圧延)]
完全軟化焼鈍処理後の第1板材に対して、冷間圧延を実施する。この冷間圧延の方法は、特に限定されないが、例えば、圧延機に第1板材を通過させることにより実施できる。
【0042】
[中間焼鈍]
冷間圧延後の板材に対して、中間焼鈍を実施する。この中間焼鈍は、冷間圧延により生じた圧延集合組織の再結晶化による低耳化及び固溶硬化による強度調整を目的として実施され、その温度は、400℃以上550℃以下とされ、保持時間は5秒以上30秒以下とされる。本実施形態では、完全軟化焼鈍及び中間焼鈍の2回に分けて圧延集合組織を再結晶化することにより、ランダム方位の組織を確実に形成することで、低耳化に寄与している。
なお、中間焼鈍の温度が400℃未満である又は保持時間が5秒未満である場合、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度が不足する。一方、中間焼鈍の温度が550℃を超えている又は保持時間が30秒を超えている場合、キャップ材用アルミニウム合金板の生産性が低下する。
【0043】
[最終冷延]
中間焼鈍処理後の板材に対して、最終冷延を実施する。この最終冷延では、最終冷延率が30%以上70%以下とされており、圧延して厚さ0.20mm以上0.26mm以下の第2板材とする。また、最終冷延処理の温度は、100℃~160℃に設定されている。
なお、最終冷延率が30%未満であると、引張強度が低くなり、70%を超えていると、引張強度が高くなりすぎる他、耳率が6%を超えるおそれがある。また、第2板材(キャップ材用アルミニウム合金板の最終の厚さ)が0.20mm未満であるとキャップ材としての耐圧性能が十分に保てなくなり、0.26mmを超えると適正な荷重で巻締ができなくなる。
【0044】
[最終焼鈍]
そして、第2板材に180℃以上260℃以下で3時間以上5時間以下の最終焼鈍を施す。この最終焼鈍は、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度を150MPa以上250MPa以下とするために実施される。
なお、最終焼鈍温度が180℃未満であると、加工性が低下し、260℃を超えていると、引張強度が低下する。また、最終焼鈍の上記温度での保持時間が3時間未満であると加工性が低下し、5時間を超えるとキャップ材用アルミニウム合金板の生産性が低下する。
【0045】
この最終焼鈍処理後の第2板材が本実施形態のキャップ材用アルミニウム合金板となる。そして、このような製造方法により製造されたキャップ材用アルミニウム合金板は、板厚が0.20mm以上0.26mm以下、引張強度が150MPa以上250MPa以下、耐力が140MPa以上240MPa以下、かつ、耳率が6%以下となる。また、アルミニウムスクラップ材を60質量%以上含んだアルミニウム合金からキャップ材用アルミニウム合金板を製造できるので、環境負荷を低減できる。
【0046】
本実施形態では、板厚が0.20mm以上0.26mm以下に設定されているので、十分な耐圧性能を有するとともに、適正な荷重でキャップ材の巻締が可能となる。なお、板厚が0.20mm未満であるとキャップ材として十分な耐圧性能が保てなくなり、0.26mmを超えると適正な荷重で巻締ができなくなる。また、キャップ材用アルミニウム合金板の引張強度が150MPa以上250MPa以下に設定されているので、キャップ材の耐圧強度を高めることができる。なお、引張強度が150MPa未満であると、キャップ材の耐圧強度が低くなり必要な機械的特性を得られず、引張強度が250MPaを超えると、ボトル缶にキャップ材を被せてねじ加工する際に必要な成形荷重が増大する。さらに、耐力が140MPa以上240MPa以下に設定されているので、十分な耐圧強度を有するとともに、加工性に優れる。なお、引張強度と同様に、耐力が140MPa未満であると耐圧強度が不足し、240MPaを超えると加工性が低下し、成形不良を生じるおそれがある。また、キャップ材用アルミニウム合金板の耳率が6%未満であるので、キャップ材のトリム欠けや、キャップ材への印刷時の歪みを抑制でき、加工性を向上できる。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0048】
実施例1~6及び比較例1~3のキャップ材用アルミニウム合金を以下に示す方法で製造し、得られた各試料の引張強度及び耳率を測定した。以下に詳しく説明する。
実施例1~6及び比較例1~3の原料となるアルミニウム合金は、熱交換器用アルミニウムスクラップ材の配合比率を異ならせた。具体的には、実施例1、4~6及び比較例2については、100%の熱交換器用アルミニウムスクラップ材からなるアルミニウム合金を用い、実施例2及び比較例3については、80%の熱交換器用アルミニウムスクラップ材を含むアルミニウム合金を用い、実施例3については、60%の熱交換器用アルミニウムスクラップ材を含むアルミニウム合金を用い、比較例1については、40%の熱交換器用アルミニウムスクラップ材を含むアルミニウム合金を用いた。これら各アルミニウム合金の組成は、表1に示すとおりである。
【0049】
これら実施例1~6及び比較例1~3のアルミニウム合金を溶解しアルミニウム合金溶湯を生成し、半連続鋳造により鋳造した。半連続鋳造法により得られた鋳塊に対して、565℃で5時間の均質化処理を施し、熱間圧延を施すことにより厚さ2.2~3.2mmの第1板材を形成した。実施例1~4及び比較例1、2においては、この第1板材を360℃で4時間の完全軟化焼鈍を施し、冷間圧延(第1冷間圧延)を実施した。また、実施例5、6においては、熱間圧延後に表2に示す圧下率で軽度の冷間圧延(第2冷間圧延)を施した後に完全軟化焼鈍を施し、冷間圧延(第1冷間圧延)を実施した。一方、比較例3においては、第1板材に完全軟化焼鈍を施すことなく、冷間圧延(第1冷間圧延)を実施した。そして、冷間圧延後の板材に対して中間焼鈍を実施した。この中間焼鈍の温度は、表2にCAL温度として示すとおりであり、保持時間は20秒とした。そして、中間焼鈍後の板材を120℃、表2に示す最終冷延率で最終冷延し、厚さ0.230mmの第2板材を形成した。この第2板材に表1に示す温度で4時間の最終焼鈍を施して、各試料とした。
【0050】
(引張強度及び耐力の測定)
引張強度及び耐力の評価については、JIS Z2241に準ずる方法により測定した。具体的には、得られた各試料から圧延方向と平行にサンプルを切り出してJIS5号の試験片を作成し、常温で引張試験を実施し、引張強度及び耐力(MPa)を測定した。
【0051】
(耳率の測定)
得られた試料ごとに常法にて塗装印刷を施し、エリクセン試験機を用いて円筒深絞り試験を実施した。加工条件は、ポンチ径を33mm(平頭ポンチ)、ダイ内径を33.7mm、絞り比を1.75、ポンチとダイとのクリアランスを0.35mm、しわ抑え圧を5kNとした。これら各キャップ材の側壁高さ(円筒部の高さ)を圧延方向に対する角度2°ごとに全周にわたってデジタルマイクロメータで測定し、次式により耳率を算出した。
(式)耳率(%)=(山高さの平均値-谷高さの平均値)/谷高さの平均値×100
以上説明した測定結果は、表2に示す通りである。
【0052】
【0053】
【0054】
表1及び表2から、実施例1~6は、熱交換器用アルミニウムスクラップ材が60%以上含まれたアルミニウム合金を原料としており、第1板材に完全軟化焼鈍を施しているとともに、この中間焼鈍の温度が400℃以上550℃以下、最終冷延率が30%以上70%以下、最終焼鈍の温度が180℃以上260℃以下であったため、引張強度を150MPa以上250MPa以下、耐力を140MPa以上240MPa以下、かつ、耳率を6%以下にできた。
一方、比較例1は、原料となるアルミニウム合金に熱交換器用アルミニウムスクラップ材が40%しか含まれていないことから、必須元素であるSi、Fe、Cu、Mn、Znの含有量がいずれも少ないため、引張強度が144MPaと低かった。また、比較例2は、最終冷延率が80%と高かったため、引張強度が高くなりすぎた他、耳率も6%を超えた。さらに、比較例3は、第1板材に完全軟化焼鈍を施すことなく、冷間圧延を実施したため、耳率が7.3%と高かった。