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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】皮膜を有する基材
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/20 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
C23C22/20
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019230207
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098873
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本マグネシウム協会第19回表面処理分科会例会、マグネシウム合金の表面処理の技術動向 開催日 平成30年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597161609
【氏名又は名称】ミリオン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 遼
(72)【発明者】
【氏名】登坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小林 直行
(72)【発明者】
【氏名】原田 信博
(72)【発明者】
【氏名】難波 信次
(72)【発明者】
【氏名】海野 真一
(72)【発明者】
【氏名】七山谷 淳
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-171776(JP,A)
【文献】特開平08-176842(JP,A)
【文献】特開2009-114504(JP,A)
【文献】特開2010-084203(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105755455(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上にアルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む皮膜を有し、
前記皮膜におけるカルシウムの含有率は0.5原子%以下であり、アルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)が0.0以上0.90以下の範囲内である、皮膜を有する基材。
【請求項2】
前記皮膜がマンガンを0.3原子%以上3.0原子%以下の範囲内で含む、請求項1記載の皮膜を有する基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上にアルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む皮膜を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性が劣ることで知られているマグネシウム合金部材には、従来、化成処理による化成皮膜を設けて、耐食性を付与することが行われている。
例えば特許文献1には、リン酸イオンとフッ化物イオンとを含有するマグネシウム合金用黒色化成処理液が開示されており、当該マグネシウム合金用黒色化成処理液を用いることにより、裸耐食性、塗装密着性、塗装耐食性に優れ、均一に黒色の化成皮膜をマグネシウム合金の表面に形成することができる、と記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、マグネシウム合金材の表面皮膜中のAl原子数/(Mg原子数+Al原子数)を0.15以上とすることで表面導電性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-84203号公報
【文献】特開2003-27255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム合金材を適用する場面によっては、光反射を伴うムラのある外観が問題になる場合がある。例えばカメラ鏡筒やヘッドアップディスプレイなどの光学部材では、黒色化成皮膜であっても色ムラがあることや光反射があることで、ゴースト現象が発生する場合や、画像の質の劣化を引き起こす場合など、があった。
本発明は、色ムラがなく、光反射が抑えられた良好な外観を呈し、且つ耐食性に優れた皮膜を有する基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究をすすめ、表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上にアルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む化成皮膜を形成し、化成皮膜中のカルシウム量、アルミニウム量、及びマグネシウム量を特定の範囲内とすることで、色ムラがなく、光反射が抑えられた良好な外観を呈し、且つ耐食性に優れた皮膜を有する基材を提供できることを見出した。
【0007】
本発明は、表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上にアルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む皮膜を有し、前記皮膜におけるカルシウムの含有率は0.5原子%以下であり、アルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)が0.30以上0.90以下の範囲内である、皮膜を有する基材である。
また、前記皮膜は、マンガンを0.3原子%以上3.0原子%以下の範囲内で含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、色ムラがなく、光反射が抑えられた良好な外観を呈し、且つ耐食性に優れた皮膜を有する基材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪皮膜を有する基材≫
本発明の一実施形態は、皮膜を有する基材である。本実施形態の皮膜を有する基材は、表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上にアルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む皮膜を有し、前記皮膜におけるカルシウムの含有率が0.5原子%以下であり、アルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)が0.30以上0.90以下の範囲内である。上記基材における皮膜は、色ムラがなく、光反射が抑えられた良好な外観を有し、且つ耐食性に優れる。
【0010】
皮膜を有する基材は、表層にマグネシウム合金を含む基材の表面又は表面上に皮膜を有する。基材の表層に存在するマグネシウム合金の表面又は表面上に皮膜が設けられていればよく、該マグネシウム合金の表面又は表面上の一部に皮膜が設けられていても、該マグネシウム合金の表面又は表面上の全部に皮膜が設けられていてもよい。
【0011】
<基材>
基材は、その表層にマグネシウム合金を含む基材であればよく、基材全体がマグネシウム合金からなる形態であってもよく、コア金属をマグネシウム合金のシェルで覆うコアシェル形態であってもよい。
基材の形状は特に限定されるものではなく、板状であってよく、棒状であってよく、帯状であってよく、管状であってよく、柱状であってよく、中空状であってよい。また、必要に応じ、切削、研削、ブラスト、研磨、穴あけ等の加工がされていてもよい。
基材の製造方法は特に限定されず、鋳造により製造されてもよく、ダイカストにより製造されてもよいが、ダイカストにより製造された基材であることが好ましい。
【0012】
基材の表層に含まれるマグネシウム合金は、マグネシウムを含む合金であれば特に限定されず、マグネシウムが主成分であること、すなわち合金中にマグネシウムを50質量%以上含むことが好ましい。マグネシウムとともに合金を構成するその他金属成分としては、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、マンガン、ケイ素、銅、ニッケル、鉄等が挙げられる。マグネシウム合金を構成するその他金属成分の含有量は特段限定されないが、アルミニウムを含む場合には1.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、5.0質量%以上であってよく、7.0質量%以上であってよく、9.0質量%以上含むことが好ましい。上限は特に限定されず、通常15質量%以下である。また亜鉛を含む場合には0.5質量%以上含むことが好ましく、15質量%以下含むことが好ましい。
マグネシウム合金の具体例としては、AZ92、AZ91、AZ80、AZ63、AZ61、AZ31、AM100、AM60、AM50、AM20、AS41、AS21、AE42などが挙げられる。
【0013】
<皮膜>
皮膜は、アルミニウム原子、マグネシウム原子及びりん原子を含む。
皮膜中に含まれるアルミニウム原子及びマグネシウム原子は、アルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)が0.30以上0.90以下の範囲内であり、下限が0.35以上であってよく、0.40以上であってよい。また上限は0.85以下であってよく、0.80以下であってよい。
皮膜中のAl及びMgの総含有率の下限値は、5%であってもよく、10%であってもよく、15%であってもよい。また、該含有率の上限値は、50%であってもよく、45%であってもよく、40%であってもよく、35%であってもよく、30%であってもよく、25%であってもよく、20%であってもよい。
【0014】
皮膜中に含まれるりん原子の含有率は特に限定されないが、5原子%以上15原子%以
下の範囲内であることが好ましく、7原子%以上10原子%以下の範囲内であることがより好ましい。
皮膜中にはカルシウムが含まれてもよいが、カルシウムの含有率は0.5原子%以下であり、0.1原子%以下であることが好ましく、カルシウムが含まれないことがより好ましい。
皮膜中にはマンガンが含まれてもよく、マンガンが含まれる場合その含有率は特に限定されないが、0.3原子%以上3.0原子%以下の範囲内であることが好ましく、0.5原子%以上2.5原子%以下の範囲内であることがより好ましい。
なお、皮膜中の元素分析は、皮膜を有する基材の断面を作製し、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光分析によって実施できる。元素分析の結果から、上記皮膜中に含まれる原子の含有率を算出できる。
【0015】
皮膜中におけるアルミニウム原子、マグネシウム原子、リン原子等の形態は特に限定されず、塩の形態であってよく、酸化物の形態であってよく、金属錯体の形態であってもよい。
また、基材と皮膜との間に、マグネシウム合金に含まれる元素の、酸化物又は水酸化物の皮膜を有してもよく、有さなくてもよい。
【0016】
<皮膜を有する基材の製造方法>
基材の表面又は表面上に皮膜を形成する方法は特に限定されないが、基材と化成処理剤とを接触させることで、皮膜を基材の表面又は表面上に形成することができる。化成処理剤は、基材の表面又は表面上に所望の皮膜を形成できるものであれば特に限定されず、例えばミリオン化学株式会社製のグランダーMC-5000建浴剤を用い、常法に従って基材と接触させることで、本実施形態の皮膜を有する基材を得ることができる。なお、上記、アルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)は、上記化成処理剤と基材とを接触させる時間を調整すること、基材と接触させる上記化成処理剤の濃度を調整すること、などにより所望の範囲内とすることができる。
【0017】
<皮膜を有する基材の物性>
本実施形態の皮膜を有する基材は、光反射が抑えられた基材である。具体的には、以下の分光反射率測定において、測定波長300~1000nmの全領域で分光反射率が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
分光反射率測定は、株式会社島津製作所製紫外可視赤外分光光度計SolidSpec-3700DUVを用いて実施できる。入射光は8°とし、拡散反射率と正反射率を加算して測定することができる。
【0018】
<用途>
本実施形態の皮膜を有する基材は、カメラ鏡筒やヘッドアップディスプレイなどの光学部材に好ましく適用できるが、これらの用途に限られるわけではなく、その他マグネシウム合金を用いる用途に適用してもよい。
【実施例
【0019】
以下、本発明を具体的な実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0020】
基材として、矩形のAZ61D材(7.5cm×10cm×0.2cm)を用いた。基材に対し、アルカリ脱脂[グランダファイナーMG-15SX ミリオン化学株式会社製:150g/L、及びグランダファイナー添加剤F21:5g/L、70℃、浸漬時間5分]ののち、酸洗[グランダファイナーMG-104SX ミリオン化学株式会社製、28g/L、60℃、浸漬時間1分]を実施した。なお、アルカリ脱脂及び酸洗のそれぞれ
の工程後に水洗を実施した。その後、表1に示す化成処理剤に基材を300秒間浸漬し、80℃で10分乾燥させて皮膜を有する基材を得た。なお、基材を浸漬した際の化成処理剤の温度は90℃であった。また、表中のグランダー名の化成処理剤は、ミリオン化学株式会社製である。
【0021】
基材及び化成処理剤に基材を浸漬する時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、基材としてAZ91D材を用いて、基材を180秒間化成処理剤に浸漬した。
【0022】
化成処理剤に基材を浸漬する時間を変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例3の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、基材を300秒間化成処理剤に浸漬した。
【0023】
化成処理剤に基材を浸漬する時間を変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例4の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、基材を420秒間化成処理剤に浸漬した。
【0024】
化成処理剤に基材を浸漬する時間を変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例5の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、基材を540秒間化成処理剤に浸漬した。
【0025】
化成処理剤に基材を浸漬する時間を変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例6の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、基材を720秒間化成処理剤に浸漬した。
【0026】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例7の皮膜を有する基材を製造した。
【0027】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例8の皮膜を有する基材を製造した。
【0028】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例9の皮膜を有する基材を製造した。
【0029】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例10の皮膜を有する基材を製造した。
【0030】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、実施例11の皮膜を有する基材を製造した。
【0031】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、比較例1の皮膜を有する基材を製造した。なお、基材を浸漬した際の化成処理剤の温度は35℃であった。
【0032】
化成処理剤を表1に示すとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、比較例2の皮膜を有する基材を製造した。
【0033】
化成処理剤を表1に示すとおり変更し、乾燥工程を加えたこと以外は実施例2と同様の方法で、比較例3の皮膜を有する基材を製造した。具体的には、比較例3の1の化成処理剤を用いて、基材を180秒間浸漬(化成処理剤の温度は50℃)したのち、水洗を実施した。次に、比較例3の2の化成処理剤を用いて、基材を7200秒間浸漬(化成処理剤の温度は50℃)したのち、水洗を実施した。さらに、比較例3の3の化成処理剤を用いて、基材を45秒間浸漬(成処理剤の温度は23℃)したのち、水洗を実施した。最後に、基材を100℃、85%RHで1200秒間乾燥することで、比較例3の皮膜を有する
基材を製造した。
【0034】
化成処理剤を実施例1のとおり変更した以外は実施例2と同様の方法で、比較例4の皮膜を有する基材を製造した。
【0035】
【表1】
【0036】
得られた実施例1~11及び比較例1~5の皮膜を有する基材に対して、以下の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0037】
[皮膜の元素含有率測定]
実施例・比較例の皮膜を有する基材について、走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光分析によって皮膜の元素分析を実施した。元素分析は、日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM-IT100とオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製エネルギー分散型X線分析装置X-MaxN50を用いて行った。皮膜を有する基材の断面を作製し、走査電子顕微鏡で加速電圧20kVの条件で観察し、皮膜の領域でエネルギー分散型X線分光分析を行った。得られたスペクトルからZAF補正によりアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、及びりん(P)の含有率を求めた。また、得られたアルミニウム、マグネシウムの含有率からアルミニウム原子数/(マグネシウム原子数+アルミニウム原子数)を算出した。
【0038】
[外観観察]
実施例・比較例の皮膜を有する基材について、外観を目視で観察した。色調にムラが見られない場合を〇、ムラがやや見られる場合を△、ムラが顕著に見られる場合を×とした。このうち「〇」以上を合格とした。
【0039】
[明度測定]
実施例・比較例の皮膜を有する基材について、JIS Z 8722:2009に準じて明度を評価した。明度測定は、コニカミノルタ株式会社製色彩色差計CR-400を用いて実施した。観察光源はCとし、白色校正板CR-A43を用いて校正した。測定結果はL表色系で表示し、明度Lで黒色度を評価した。このうちL*値が30以下を合格とした。
【0040】
[分光反射率測定]
実施例・比較例の皮膜を有する基材について、分光反射率を評価した。分光反射率測定は、株式会社島津製作所製紫外可視赤外分光光度計SolidSpec-3700DUVを用いて実施した。入射光は8°とし、拡散反射率と正反射率を加算した。測定波長300~1000nmの全領域で分光反射率が5%以下の場合を〇、分光反射率が5%を超える波長が存在する場合を×とした。このうち「〇」以上を合格とした。
【0041】
[耐食性試験]
実施例・比較例の皮膜を有する基材について、JIS Z 2371:2015に準じて中性塩水噴霧試験を実施した。塩水噴霧時間は96時間とし、塩水噴霧終了後の腐食発生状況を目視で評価した。腐食面積率が5%未満の場合を〇、5%以上10%未満の場合を△、10%以上の場合を×とした。このうち「△」以上を合格とした。
結果を表2に示す。
【0042】
【表2】