IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許7432360バルーンカテーテルの製造方法および金型
<>
  • 特許-バルーンカテーテルの製造方法および金型 図1
  • 特許-バルーンカテーテルの製造方法および金型 図2
  • 特許-バルーンカテーテルの製造方法および金型 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルの製造方法および金型
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20240208BHJP
【FI】
A61M25/10 502
A61M25/10 500
A61M25/10 510
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019237196
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104223
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 陽二郎
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 真弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 良紀
(72)【発明者】
【氏名】杖田 昌人
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/060466(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0160756(US,A1)
【文献】特開2012-187147(JP,A)
【文献】特開平05-293174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠近方向に延在しているシャフトと、前記シャフトの遠位側に設けられ、外側面に突出部が設けられているバルーンと、を有するバルーンカテーテルの製造方法であって、
外側面に突出部を有している筒状のパリソンを準備する工程と、
前記パリソンを内挿する金型本体と、前記金型本体に設けられ、前記パリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有する金型を準備する工程と、
前記可動部の内方部に前記突出部を配置する工程と、
前記パリソンの内部を加圧し、前記パリソンを拡張させる工程と、を含み、
前記可動部の内方部に前記突出部を配置する工程の後において、前記突出部は、前記可動部の内方部に当接することによって前記可動部の内方部の入り口を塞いでいる基端領域と、該基端領域よりも前記パリソンの径方向の外方であって前記可動部の内方部と離隔している先端領域と、を有しているバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項2】
前記パリソンの拡張終了時、前記可動部は、前記パリソンの遠近方向に垂直な断面において前記突出部の根元を通る直線よりも外方に位置している請求項1に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項3】
前記パリソンの内部を加圧し、前記パリソンを拡張させる工程の後に、前記可動部の位置を保持する工程を有している請求項1または2に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項4】
前記可動部の内方部に前記突出部を配置する工程の後に、前記可動部が前記突出部を前記金型の内方に向かって押圧する工程を有している請求項1~3のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項5】
前記パリソンの内部を加圧し、前記パリソンを拡張させる工程において、前記可動部を加熱する工程を有している請求項1~のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項6】
前記パリソンの内部を加圧し、前記パリソンを拡張させる工程の後に、前記可動部を冷却する工程を有している請求項1~のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項7】
前記可動部の内方部に前記突出部を配置する工程の後に、前記突出部にコーティングを施す工程を有している請求項1~のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項8】
外側面に突出部を有している筒状のパリソンが内挿される中空の金型であって、
金型本体と、
内挿されている前記パリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有しており、
前記可動部の内方部に前記突出部が配置され、
前記可動部の内方部に前記突出部が配置された際に、前記突出部は、前記可動部の内方部に当接することによって前記可動部の内方部の入り口を塞いでいる基端領域と、該基端領域よりも前記パリソンの径方向の外方であって前記可動部の内方部と離隔している先端領域と、を有していることを特徴とする金型。
【請求項9】
記可動部の可動域において、前記可動部を最外方に配置した際に、前記可動部は、前記パリソンの遠近方向に垂直な断面において前記突出部の根元を通る直線よりも外方に位置している請求項に記載の金型。
【請求項10】
前記可動部の位置を保持する保持機構を有している請求項8または9に記載の金型。
【請求項11】
前記可動部を前記金型本体の内方に向かって押圧する押圧機構を有している請求項8~10のいずれか一項に記載の金型。
【請求項12】
前記金型本体の径方向における前記可動部の外方に、可動機構が配置されており、
前記可動機構は、バネが配置されている請求項8~11のいずれか一項に記載の金型。
【請求項13】
前記金型本体の径方向における前記可動部の外方に、可動機構が配置されており、
前記可動機構は、流体を有している請求項8~11のいずれか一項に記載の金型。
【請求項14】
前記可動部は、溝部を有しており、
前記溝部の溝の深さは、前記突出部の高さよりも小さい請求項8~13のいずれか一項に記載の金型。
【請求項15】
前記可動部の内方部の表面平均粗さRzは、前記金型本体の内表面の表面平均粗さRzよりも大きい請求項8~14のいずれか一項に記載の金型。
【請求項16】
前記可動部の内方部の表面平均粗さRzは、前記金型本体の内表面の表面平均粗さRzよりも小さい請求項8~14のいずれか一項に記載の金型。
【請求項17】
前記可動部は、溝部を有しており、
前記金型本体の軸方向において、前記溝部は、溝の深さが異なっている部分を有している請求項8~16のいずれか一項に記載の金型。
【請求項18】
前記可動部は、溝部を有しており、
前記金型本体の軸方向において、前記溝部は、途切れ部を有している請求項8~17のいずれか一項に記載の金型。
【請求項19】
前記金型本体の軸方向において、前記可動部は、複数存在している請求項8~18のいずれか一項に記載の金型。
【請求項20】
前記金型本体の軸方向において、前記金型本体は、直管部と、前記直管部の両側にテーパー部と、を有しており、
前記直管部は、前記可動部が配置されており、
前記テーパー部は、前記可動部が配置されていない請求項8~19のいずれか一項に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突出部が設けられているバルーンを有するバルーンカテーテルの製造方法、および突出部が設けられているバルーンを有するバルーンカテーテルの製造に用いる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
体内で血液が循環するための流路である血管に狭窄が生じ、血液の循環が滞ることにより、様々な疾患が発生することが知られている。特に心臓に血液を供給する冠状動脈に狭窄が生じると、狭心症、心筋梗塞等の重篤な疾病をもたらすおそれがある。このような血管の狭窄部を治療する方法として、PTA、PTCAといった血管形成術等の、バルーンカテーテルを用いて狭窄部を拡張させる手技がある。血管形成術は、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であり、広く行われている。
【0003】
血管内壁には、石灰化等により硬化した狭窄部が形成される場合がある。このような石灰化病変においては、一般的なバルーンカテーテルでは硬化した狭窄部を拡張させにくい。また、ステントと称される留置拡張器具を血管の狭窄部に留置することによって狭窄部を拡張させる方法も用いられているが、この治療後に血管の新生内膜が過剰に増殖して再び血管の狭窄が発生してしまう、ISR(In-Stent-Restenosis)病変が起こる場合がある。ISR病変においては、新生内膜が柔らかく、また表面が滑りやすいため、一般的なバルーンカテーテルではバルーンの拡張時にバルーンの位置が病変部からずれてしまい、血管を傷つけてしまうことがある。
【0004】
これらのような石灰化病変やISR病変であっても狭窄部を拡張できるバルーンカテーテルとして、バルーンがスコアリングエレメントを有しているバルーンカテーテルがある(例えば、特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-506140号公報
【文献】特開2015-104671号公報
【文献】特開2015-163219号公報
【文献】特開2016-221313号公報
【文献】特表2007-518448号公報
【文献】特表2005-518842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、特許文献1~6のようなスコアリングエレメントを備えているバルーンを製造するには、突出部を有しているパリソンを用い、突出部を挿入する溝を有している金型を準備し、この金型の内部にパリソンを配置してブロー成形を行う。バルーンの形状と同じ形状の内腔を有する金型を用いて一度のブロー成形にてパリソンを拡張する、所謂、1段成形によってバルーンを製造しようとすると、拡張前のパリソンの外径に対して内径がかなり大きい金型を使用する必要があり、パリソンの外径と金型の内径の大きさの差が大きいことが要因となって、パリソンが拡張するに伴って突出部の位置がパリソンの径方向や周方向において変化するために突出部と金型の溝との位相がずれやすくなる。そのため、パリソンの拡張時に、突出部が金型の内表面の溝以外の部分に押し付けられることによるバルーンの突出部の潰れや変形、金型の溝以外の部分に突出部が押し付けられた状態でパリソンの拡張を行うことによる突出部付近のバルーンの膜厚の薄肉化等、バルーンの成形不良が生じて歩留まりが低下する。そのため、バルーンの外径が段階的に大きくなっている内腔形状を有する複数の金型を用いて多段的にパリソンを拡張し、バルーンを成形する必要があった。しかし、内腔形状が異なる複数の金型を用意する必要があることや、複数の金型を用いて段階的にパリソンを拡張することによって成形工程が増加することにより、バルーンの成形時間が長くかかり、また、成形のコストも高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パリソンの拡張の前後でパリソンの突出部の位相ずれが起こりにくく、1段成形が可能であるバルーンカテーテルの製造方法、およびバルーンカテーテルの製造に用いる金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決することができたバルーンカテーテルの製造方法は、遠近方向に延在しているシャフトと、シャフトの遠位側に設けられ、外側面に突出部が設けられているバルーンと、を有するバルーンカテーテルの製造方法であって、外側面に突出部を有している筒状のパリソンを準備する工程と、パリソンを内挿する金型本体と、金型本体に設けられ、パリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有する金型を準備する工程と、可動部の内方部に突出部を配置する工程と、パリソンの内部を加圧し、パリソンを拡張させる工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法において、パリソンの拡張終了時、可動部は、パリソンの遠近方向に垂直な断面において突出部の根元を通る直線よりも外方に位置していることが好ましい。
【0010】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法において、パリソンの内部を加圧し、パリソンを拡張させる工程の後に、可動部の位置を保持する工程を有していることが好ましい。
【0011】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法は、可動部の内方部に突出部を配置する工程の後において、突出部は、可動部の内方部に当接することによって可動部の内方部の入り口を塞いでいる基端領域と、該基端領域よりもパリソンの径方向の外方であって可動部の内方部と離隔している先端領域と、を有していることが好ましい。
【0012】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法において、可動部の内方部に突出部を配置する工程の後に、可動部が突出部を前記金型の内方に向かって押圧する工程を有していることが好ましい。
【0013】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法は、パリソンの内部を加圧し、パリソンを拡張させる工程において、可動部を加熱する工程を有していることが好ましい。
【0014】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法において、パリソンの内部を加圧し、パリソンを拡張させる工程の後に、可動部を冷却する工程を有していることが好ましい。
【0015】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法において、可動部の内方部に突出部を配置する工程の後に、突出部にコーティングを施す工程を有していることが好ましい。
【0016】
前記課題を解決することができた金型は、外側面に突出部を有している筒状のパリソンが内挿される中空の金型であって、金型本体と、内挿されているパリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有していることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の金型において、可動部は可動部の内方部に突出部が配置され、可動部の可動域において、可動部を最外方に配置した際に、可動部は、パリソンの遠近方向に垂直な断面において突出部の根元を通る直線よりも外方に位置していることが好ましい。
【0018】
本発明の金型において、可動部の位置を保持する保持機構を有していることが好ましい。
【0019】
本発明の金型において、可動部を金型本体の内方に向かって押圧する押圧機構を有していることが好ましい。
【0020】
本発明の金型において、金型本体の径方向における前記可動部の外方に、可動機構が配置されており、可動機構は、バネが配置されていることが好ましい。
【0021】
本発明の金型において、金型本体の径方向における可動部の外方に、可動機構が配置されており、可動機構は、流体を有していることが好ましい。
【0022】
本発明の金型において、可動部は、溝部を有しており、溝部の溝の深さは、突出部の高さよりも小さいことが好ましい。
【0023】
本発明の金型において、可動部の内方部の表面平均粗さRzは、金型本体の内表面の表面平均粗さRzよりも大きいことが好ましい。
【0024】
本発明の金型において、可動部の内方部の表面平均粗さRzは、金型本体の内表面の表面平均粗さRzよりも小さいことが好ましい。
【0025】
本発明の金型において、可動部は、溝部を有しており、金型本体の軸方向において、溝部は、溝の深さが異なっている部分を有していることが好ましい。
【0026】
本発明の金型において、可動部は、溝部を有しており、金型本体の軸方向において、溝部は、途切れ部を有していることが好ましい。
【0027】
本発明の金型は、金型本体の軸方向において、可動部は、複数存在していることが好ましい。
【0028】
本発明の金型は、金型本体の軸方向において、金型本体は、直管部と、直管部の両側にテーパー部と、を有しており、直管部は、可動部が配置されており、テーパー部は、前記可動部が配置されていないことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のバルーンカテーテルの製造方法および金型によれば、パリソンの径方向に移動可能である可動部を有する金型を用い、可動部の内方部にパリソンの突出部を配置することにより、パリソンの拡張の前後でパリソンの突出部の位相ずれが起こりにくく、バルーンの1段成形が可能であって、バルーンカテーテルの製造効率を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態における、可動部の内方部に突出部を配置する工程での金型の遠近方向に垂直な断面図を表す。
図2】本発明の実施の形態における、パリソンの拡張終了時での金型の遠近方向に垂直な断面図を表す。
図3】本発明の他の実施の形態における、可動部の内方部に突出部を配置する工程の後での金型の遠近方向に垂直な断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0032】
図1は本発明の実施の形態における可動部の内方部に突出部を配置する工程での金型の遠近方向に垂直な断面図を表し、図2はパリソンの拡張終了時での金型の遠近方向に垂直な断面図を表す。本発明のバルーンカテーテルの製造方法は、遠近方向に延在しているシャフトと、シャフトの遠位側に設けられ、外側面に突出部50が設けられているバルーン100と、を有するバルーンカテーテルの製造方法であって、外側面に突出部50を有している筒状のパリソン10を準備する工程と、パリソン10を内挿する金型本体2と、金型本体2に設けられ、パリソン10の径方向に移動可能である可動部3と、を有する金型1を準備する工程と、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程と、パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程と、を含む。
【0033】
本発明において、遠位側とはバルーン100の延在方向に対して処置対象者側の方向を指し、近位側とは遠位側の反対側、すなわちバルーン100の延在方向に対して使用者、つまり術者の手元側の方向を指す。また、バルーン100の近位側から遠位側への方向を遠近方向と称する。
【0034】
バルーンカテーテルは、シャフトを通じてバルーン100の内部に流体が供給されるように構成され、インデフレーター(バルーン用加圧器)を用いてバルーン100の拡張および収縮を制御することができる。流体は、ポンプ等によって加圧した圧力流体であってもよい。
【0035】
シャフトは、遠近方向に延在しており、内部に流体の流路が設けられている。また、シャフトは、内部にガイドワイヤの挿通路を有していることが好ましい。シャフトが内部に流体の流路およびガイドワイヤの挿通路を有する構成とするには、例えば、シャフトが外側チューブと内側チューブとを有しており、内側チューブがガイドワイヤの挿通路として機能し、内側チューブと外側チューブの間の空間が流体の流路として機能することが挙げられる。シャフトが外側チューブと内側チューブとを有している場合、内側チューブが外側チューブの遠位端から延出してバルーン100を遠近方向に貫通し、バルーン100の遠位側が内側チューブに接合され、バルーン100の近位側が外側チューブと接合されることが好ましい。
【0036】
本発明は、シャフトの遠位側から近位側にわたってワイヤを挿通する、所謂オーバーザワイヤ型のバルーンカテーテルと、シャフトの遠位側から近位側に至る途中までワイヤを挿通する、所謂ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテルのいずれにも適用することができる。図示していないが、バルーンカテーテルがオーバーザワイヤ型である場合、シャフトに流体を送り込むために、シャフトの近位側にハブを有していてもよい。ハブは、バルーン100の内部に供給される流体の流路と連通した流体注入部を有することが好ましい。バルーンカテーテルが流体注入部を有するハブを有していることにより、バルーン100の内部に流体を供給してバルーン100を拡張および収縮させる操作が容易となる。また、バルーンカテーテルがオーバーザワイヤ型である場合には、ガイドワイヤの挿通路と連通したガイドワイヤ挿入部を有することが好ましい。オーバーザワイヤ型のバルーンカテーテルがガイドワイヤ挿入部を備えるハブを有していることにより、ガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテルを処置対象部位へ送り込む操作が行いやすくなる。
【0037】
シャフトとハブとの接合は、例えば、接着剤による接着、溶着等が挙げられる。中でも、シャフトとハブは、接着によって接合されていることが好ましい。シャフトとハブとが接着されていることにより、例えば、シャフトは柔軟性の高い材料から構成され、ハブは剛性の高い材料から構成されている等、シャフトを構成する材料とハブを構成する材料とが異なっている場合であっても、シャフトとハブとの接合強度を高めてバルーンカテーテルの耐久性を高めることが可能となる。
【0038】
シャフトを構成する材料は、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、シャフトを構成する材料は、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、およびフッ素系樹脂の少なくとも1つであることが好ましい。シャフトを構成する材料がポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、およびフッ素系樹脂の少なくとも1つであることにより、シャフトの表面の滑り性を高め、バルーンカテーテルの血管への挿通性を向上させることができる。
【0039】
バルーン100は、シャフトの遠位側に設けられている。バルーン100とシャフトとの接合は、例えば、接着剤による接着、溶着、バルーン100とシャフトとが重なっている箇所にリング状部材を取り付けてかしめること等が挙げられる。中でも、バルーン100とシャフトは、溶着によって接合されていることが好ましい。バルーン100とシャフトとが溶着されていることにより、バルーン100とシャフトの接合強度を高めることができ、バルーン100を繰り返し拡張および収縮させてもバルーン100とシャフトとの接合が外れにくくなる。
【0040】
バルーン100は、直管部、直管部の近位側に接続される近位側テーパー部、および直管部の遠位側に接続される遠位側テーパー部を有することが好ましい。近位側テーパー部および遠位側テーパー部は、直管部から離れるにつれて縮径するように形成されていることが好ましい。バルーン100が直管部を有していることにより、直管部が狭窄部と十分に接触して狭窄部の拡張が行いやすくなる。さらに、バルーン100が直管部から離れるにつれて外径が小さくなる近位側テーパー部および遠位側テーパー部を有していることにより、バルーン100を収縮させてシャフトに巻き付けた際に、バルーン100の遠位端部および近位端部の外径を小さくして、シャフトとバルーン100との段差を小さくすることができるため、バルーン100を遠近方向に挿通させやすくなる。なお、本発明においては、膨張可能な部分をバルーン100と見なす。
【0041】
バルーン100を構成する材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等のポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアミドエラストマー、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ラテックスゴム等の天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。バルーン100を構成する材料は、中でも、ポリアミド系樹脂であることが好ましく、ナイロン12であることがより好ましい。バルーン100を構成する材料がポリアミド系樹脂であることにより、バルーン100の柔軟性を高めることが可能となる。
【0042】
バルーン100の外径は、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましい。バルーン100の外径の下限値を上記の範囲に設定することにより、血管内の狭窄部を十分に拡張することができる。また、バルーン100の外径は、35mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、25mm以下であることがさらに好ましい。バルーン100の外径の上限値を上記の範囲に設定することにより、バルーン100の外径が大きくなることを防止することができる。
【0043】
バルーン100の遠近方向の長さは、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、15mm以上であることがさらに好ましい。バルーン100の遠近方向の長さの下限値を上記の範囲に設定することにより、一度に拡張できる狭窄部の面積を大きくして手技にかかる時間を短縮することが可能となる。また、バルーン100の遠近方向の長さは、300mm以下であることが好ましく、200mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることがさらに好ましい。バルーン100の遠近方向の長さの上限値を上記の範囲に設定することにより、狭窄部の拡張のためにバルーン100の内部に送り込む流体の量を減らし、バルーン100を十分に拡張させるために必要な時間を短くすることができる。
【0044】
バルーン100の厚みは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。バルーン100の厚みの下限値を上記の範囲に設定することにより、バルーン100の強度を高めることができ、狭窄部を十分に拡張することができる。また、バルーン100の厚みの上限値は、バルーンカテーテルの用途に応じて設定することができ、例えば、100μm以下、90μm以下、80μm以下とすることができる。
【0045】
図2に示すように、バルーン100は、外側面に突出部50が設けられている。バルーン100が外側面に突出部50を有していることにより、突出部50が石灰化して硬化した病変部に亀裂を入れることができ、石灰化病変であってもバルーン100が十分に病変部を拡張することができる。また、ISR病変においてバルーン100を拡張することにより、柔らかく、表面が滑りやすい新生内膜に突出部50が引っ掛かりやすく、ISR病変の拡張時にバルーン100の位置ずれが起こりにくい。
【0046】
突出部50の数は、1つであってもよいが、複数であることが好ましい。つまり、バルーン100の外側面に複数の突出部50が設けられていることが好ましい。突出部50の数が複数であることにより、石灰化によって硬化した病変部に亀裂を入れやすくなり、また、ISR病変に対してバルーン100の位置ずれを起こりにくくすることができる。
【0047】
突出部50は、遠近方向に延在している。突出部50の遠近方向の長さは、バルーン100の遠近方向の長さよりも短いことが好ましい。突出部50の遠近方向の長さがバルーン100の遠近方向の長さよりも短いことにより、バルーン100の遠近方向の一部に突出部50が設けられていない箇所があるためバルーン100が曲がりやすくなり、湾曲した血管等でのバルーンカテーテルの挿通性を高めることができる。
【0048】
突出部50を構成する材料は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ-(4-メチルペンテン-1)等のポリメチルペンテン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアミドエラストマー、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タンタル、コバルト合金等の金属等の合成樹脂が挙げられる。これらの材料は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
突出部50は、バルーン100と同一材料から構成されていることが好ましい。突出部50を構成する材料がバルーン100を構成する材料と同一であることにより、バルーン100と突出部50との接合強度を高めることが可能となる。
【0050】
また、バルーン100と突出部50は、一体成形品であることが好ましい。バルーン100と突出部50とが一体成形品であることにより、バルーン100に突出部50を接合する工程が不要となるため、バルーン100の成形にかかる時間を短縮して製造効率を高めることができる。
【0051】
バルーンカテーテルの製造方法は、外側面に突出部50を有している筒状のパリソン10を準備する工程を含んでいる。パリソン10は、合成樹脂から構成されている筒状物であって、パリソン10の内部を加圧して拡張させることによってバルーン100を形成することができる。
【0052】
パリソン10を準備する工程において、パリソン10を射出成形によって作成してもよいが、押出成形にて作成することが好ましい。つまり、外側面に突出部50を有している筒状のパリソン10を押出成形にて準備する工程を有していることが好ましい。パリソン10を押出成形にて作成することにより、外側面に突出部50を有する筒状体であるパリソン10の成形の効率を高め、バルーン100の製造効率を向上させることが可能となる。
【0053】
バルーンカテーテルの製造方法は、パリソン10を内挿する金型本体2と、金型本体2に設けられ、パリソン10の径方向に移動可能である可動部3と、を有する金型1を準備する工程を含んでいる。金型本体2は、内部に空間を有しており、この内部空間にパリソン10を配置することができる。
【0054】
バルーンカテーテルの製造方法は、図1に示すように、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程と、図2に示すように、パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程と、を含んでいる。従来の製造方法では、パリソンが拡張するにつれて突出部の位置がパリソンの径方向や周方向において変化し、突出部を内部に配置する金型の溝の位置と突出部の位置とがずれてしまうことがあり、突出部が金型の内表面に押し付けられ、バルーンの突出部が潰れることや変形すること、突出部付近のバルーンの膜厚が薄くなること等の成形不良が発生することがあった。本発明の製造方法では、金型1が可動部3を有し、可動部3の内方部にパリソン10の突出部50を配置する工程を含んでいることにより、パリソン10を拡張させてバルーン100を成形する際に、突出部50がパリソン10の径方向に移動可能である可動部3に配置されているため、パリソン10の拡張時、パリソン10の径方向への突出部50の移動に伴って可動部3もパリソン10の径方向へ移動し、また、パリソン10の周方向への突出部50の移動を可動部3の内方部が抑制するため、突出部50が金型1内にて位相ずれを起こしにくくなる。そのため、突出部50を有するバルーン100を1つの金型1にて成形することが可能となる。
【0055】
パリソン10の内部を加圧する方法としては、例えば、空気、窒素ガス等の気体や、純水、生理食塩水等の液体といった流体をパリソン10の内部に供給すること等が挙げられる。流体を加圧するには、例えば、ポンプ等を用いることができる。パリソン10の内部を加圧する方法は、中でも、圧縮した気体を用いることが好ましい。つまり、パリソン10を用いたブロー成形によってバルーン100を製造することが好ましい。パリソン10に圧縮した気体を送り込んで内部を加圧してバルーン100を製造することにより、バルーン100の製造効率を高めることができる。
【0056】
パリソン10を拡張させる工程は、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程と同時に行ってもよいが、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後に行うことが好ましい。可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後に、パリソン10を拡張させる工程を行うことにより、パリソン10の内部を加圧する際に突出部50が金型1の可動部3の内方部から外れにくくすることができる。
【0057】
図2に示すように、パリソン10の拡張終了時、可動部3は、パリソン10の遠近方向に垂直な断面において突出部50の根元を通る直線L1よりも外方に位置していることが好ましい。パリソン10の拡張の終了時に可動部3が直線L1よりも外方に位置していることにより、可動部3が突出部50の根元部分に食い込みにくく、バルーン100が変形することや、このバルーン100の変形に伴って突出部50の根元部分の厚みが薄くなることを防止し、突出部50の根元部分のバルーン100の膜厚を十分に確保することができる。その結果、バルーン100の耐圧性能を高めることができる。また、バルーン100の膜厚が他の部分よりも薄い部分はバルーン100の拡張時に他の部分よりも伸びやすいためバルーン100が想定よりも大きく拡張することがあり、バルーン100の使用時にバルーン100の外径を調整しにくくなってしまう。パリソン10の拡張の終了時に可動部3が直線L1よりも外方に位置していることによって、突出部50の根元部分のバルーン100の膜厚を十分に確保することができ、バルーン100の全体が均一に拡張しやすくなる。
【0058】
パリソン10の拡張終了時、パリソン10の遠近方向に垂直な断面において、可動部3と、突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚と同じであるか、バルーン100の膜厚よりも小さいことが好ましい。パリソン10の拡張終了時における可動部3と、突出部50の根元を通る直線L1との最短距離がバルーン100の膜厚に対して同等以下とすることにより、成形したバルーン100の突出部50の根元部分に可動部3が食い込みにくく、また、パリソン10の拡張時に突出部50の根元部分が外方に伸びすぎることを防止し、突出部50の根元部分の膜厚を十分なものとして、バルーン100の製造の不良率を低減させ、バルーン100の製造効率を高めることができる。
【0059】
パリソン10の拡張終了時、パリソン10の遠近方向に垂直な断面において、可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚の1倍以下であることが好ましく、0.95倍以下であることがより好ましく、0.9倍以下であることがさらに好ましい。可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離と、バルーン100の膜厚との比率の上限値を上記の範囲に設定することにより、パリソン10の拡張時に突出部50の根元部分がパリソン10の径方向の外方に伸びすぎることを防ぎ、成形したバルーン100の突出部50の根元部分の膜厚を十分なものとして、バルーン100の耐久性を高めることができる。また、パリソン10の拡張終了時、パリソン10の遠近方向に垂直な断面において、可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚の0.5倍以上であることが好ましく、0.55倍以上であることがより好ましく、0.6倍以上であることがさらに好ましい。可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離と、バルーン100の膜厚との比率の下限値を上記の範囲に設定することにより、可動部3と突出部50の根元部分との間に十分な距離をとることが可能となってバルーン100の突出部50の根元部分の膜厚を確保できる。その結果、突出部50の根元部分の変形が小さく、十分な耐圧性能を有するバルーン100を製造することが可能となる。
【0060】
パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程の後に、可動部3の位置を保持する工程を有していることが好ましい。パリソン10の内部を加圧した際に、パリソン10の拡張に伴って突出部50が可動部3をパリソン10の径方向の外方に向かって押し、移動させる。パリソン10の拡張が終了した時点にて、可動部3の位置を保持することにより、可動部3がパリソン10の径方向の内方に移動することを防止して、成形後のバルーン100の突出部50等に可動部3が意図せず接触し、バルーン100に傷が入ることや突出部50が変形すること等を防ぐことができる。
【0061】
可動部3の位置を保持する工程の後に、パリソン10を拡張させて成形したバルーン100を金型1から取り出す工程を行うことが好ましい。バルーン100を金型1から取り出す前に可動部3の位置を保持する工程を行うことにより、バルーン100の突出部50が可動部3に引っ掛かりにくく、成形後のバルーン100を金型1から取り出しやすくなる。
【0062】
図3は本発明の他の実施の形態における、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後での金型1の遠近方向に垂直な断面図を表す。可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後において、突出部50は、可動部3の内方部に当接することによって可動部3の内方部の入り口を塞いでいる基端領域51と、該基端領域51よりもパリソン10の径方向の外方であって可動部3の内方部と離隔している先端領域52と、を有していることが好ましい。突出部50が基端領域51と先端領域52とを有していることにより、基端領域51は可動部3の内方部と接しているために突出部50が可動部3から位置ずれしにくく、先端領域52は可動部3の内方部と接していないために突出部50の先端部分が押し潰されにくい。そのため、成形前のパリソン10の突出部50の先端形状を保護した状態にてバルーン100の成形を行うことが可能となる。
【0063】
基端領域51は、可動部3の内方部に接していた部分であることより、基端領域51の表面に可動部3の内方部の表面の形状が転写されている。一方、先端領域52は、可動部3の内方部と離隔しており、接していない部分であることより、先端領域52の表面に可動部3の内方部の表面の形状が転写されない。そのため、成形後のバルーン100において、マイクロスコープを用いてバルーン100の遠近方向に垂直な断面を観察することにより、基端領域51や先端領域52、基端領域51と先端領域52の境界を確認することができる。
【0064】
また、可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後に、可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程を有していることも好ましい。可動部3が突出部50を金型1の内方へ押圧する工程を有していることにより、バルーン100の成形において突出部50を可動部3に押し付けて突出部50に外方から圧力を加えることができ、突出部50の硬度を高めることが可能となる。その結果、石灰化した病変等に対する拡張力の高いバルーンカテーテルとすることができる。
【0065】
可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程は、パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程と同時に行うことが好ましい。つまり、パリソン10の内部を加圧してパリソン10を拡張させる際に、パリソン10が径方向の外方に拡がろうとする力を利用して、突出部50を可動部3に押し付けて金型1の内方に向かって押圧することが好ましい。可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程と、パリソン10の内部を加圧しパリソン10を拡張させる工程とを同時に行うことにより、バルーン100の成形時間を短縮することができ、生産効率が高まる。
【0066】
パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程において、可動部3を加熱する工程を有していることが好ましい。パリソン10の内部を加圧してパリソン10を拡張させる工程において可動部3を加熱することにより、パリソン10の突出部50に熱を加えて軟化させ、可動部3の内側面に接触させて突出部50の形状を可動部3の内側面の形状に近い形とすることができるため、突出部50を病変部に適した形状とすることが可能となる。
【0067】
可動部3を加熱する工程において、可動部3の温度は、金型本体2の温度よりも高いことが好ましい。可動部3の温度が金型本体2の温度よりも高いことにより、バルーン100の膜部と接する金型本体2よりも、バルーン100の膜部よりも厚い突出部50と接する可動部3の温度を高くすることができ、突出部50の加熱を効率的に行うことができる。
【0068】
可動部3を加熱する工程は、可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程と同時に行うことが好ましい。可動部3を加熱する工程と、可動部3が突出部50を押圧する工程とを同時に行うことにより、突出部50を加熱して軟化させながら可動部3の内側面に押し付けるため、突出部50の形状を可動部3の内側面の形状に合わせて成形しやすくなる。
【0069】
パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程において、可動部3の温度が金型本体2の温度よりも低いことも好ましい。可動部3の温度が金型本体2の温度よりも低いことにより、突出部50を可動部3に押し付けて外方から圧力を加え、突出部50の硬度をより高めることができる。
【0070】
パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程の後に、可動部3を冷却する工程を有していることが好ましい。パリソン10の内部を加圧してパリソン10を拡張させる工程の後に可動部3を冷却することにより、突出部50の硬度が高まり、石灰化病変を切開しやすいバルーンカテーテルとすることができる。
【0071】
可動部3を冷却する工程は、可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程および可動部3を加熱する工程の後に行うことが好ましい。可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程と可動部3を加熱する工程とを行った後に、可動部3を冷却することにより、加熱して軟化させた突出部50を可動部3の内側面に押し付けて成形した後に、冷却された可動部3によって成形後の突出部50をすぐに冷却して固化することが可能となる。
【0072】
可動部3の内方部に突出部50を配置する工程の後に、突出部50にコーティングを施す工程を有していることが好ましい。突出部50にコーティングを施すことによって、突出部50の摺動性を高めることや硬度を上げること等が可能となる。
【0073】
突出部50に施すコーティングとしては、例えば、親水性コーティング、ダイヤモンドの粒子を付着させるダイヤモンドコーティング等が挙げられる。突出部50に親水性コーティングを施した場合、バルーン100の突出部50の滑り性が向上し、狭窄した病変部への通過性の高いバルーンカテーテルとすることができる。また、突出部50にダイヤモンドコーティングを施した場合、バルーン100の突出部50の硬度が増し、石灰化した病変部を削りやすくなって、石灰化病変であってもバルーンカテーテルの拡張力を高めることができる。
【0074】
突出部50にコーティングを施す工程は、可動部3が突出部50を金型1の内方に向かって押圧する工程の後に行うことが好ましい。可動部3が金型1の内方に向かって突出部50を押圧した後に突出部50へコーティングを施すことにより、コーティングを施した後の突出部50と可動部3とが接触しにくく、コーティングが突出部50から剥離しにくくなる。
【0075】
また、突出部50にコーティングを施す工程は、パリソン10の内部を加圧し、パリソン10を拡張させる工程の後に行うことが好ましい。パリソン10を拡張させた後に突出部50へコーティングを施すことにより、パリソン10の拡張時におけるパリソン10の形状の変化による影響を突出部50に施されたコーティングが受けにくく、コーティングが突出部50から剥離しにくくなる。
【0076】
次に、本発明の金型1について説明する。なお、金型1の説明において、上記のバルーンカテーテルの製造方法の説明と重複する部分は説明を省略する。
【0077】
図1および図2に示すように、本発明の金型1は、外側面に突出部50を有している筒状のパリソン10が内挿される中空の金型1であって、金型本体2と、内挿されているパリソン10の径方向に移動可能である可動部3と、を有していることを特徴とする。
【0078】
金型1は中空であり、金型1が有している内部の空間に、外側面に突出部50を有している筒状のパリソン10が配置される。金型1の内部にパリソン10を配置して、パリソン10を拡張させることにより、バルーンカテーテルを成形することができる。
【0079】
金型1は、金型本体2と可動部3とを有している。可動部3は、金型本体2に設けられ、金型1に内挿されている筒状のパリソン10の径方向に移動することが可能である。金型1が金型本体2と、金型本体2とは別部品である可動部3と、を有していることにより、可動部3を金型本体2とは別の一部品として加工し、作製することができるため、例えば、可動部3の内方部の加工に適した切削方向から可動部3を切削して作製することができ、突出部50を目的に応じた所望の形状とすることが容易となる。
【0080】
可動部3は、可動部3の内方部に突出部50が配置されることが好ましい。可動部3がパリソン10の径方向に移動可能であって、可動部3の内方部に突出部50が配置されることにより、金型1内にてパリソン10の内部を加圧する際に、パリソン10の拡張に合わせて可動部3がパリソン10の径方向に移動する。そのため、パリソン10の拡張の前後で突出部50の位相ずれが起こりにくく、バルーン100を1つの金型1にて成形することができ、バルーンカテーテルの製造効率を高めることができる。
【0081】
図2に示すように、可動部3の可動域において、可動部3を最外方に配置した際に、可動部3はパリソン10の遠近方向に垂直な断面において突出部50の根元を通る直線L1よりも外方に位置していることが好ましい。突出部50の根元を通る直線L1よりも外方に可動部3が位置していることにより、パリソン10の拡張が完了した際に可動部3が突出部50の根元部分に食い込みにくく、バルーン100が変形することや、このバルーン100の変形に伴って突出部50の根元部分の厚みが薄くなることを防止できるため、突出部50の根元部分におけるバルーン100の膜厚を確保することができ、バルーン100の耐圧性能を高めることが可能となる。
【0082】
可動部3の可動域において、可動部3を最外方に配置した際に、パリソン10の遠近方向に垂直な断面における可動部3と、突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚と同じであるか、バルーン100の膜厚よりも小さいことが好ましい。可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離がバルーン100の膜厚に対して同等以下とすることにより、突出部50の根元部分に可動部3が食い込むことやパリソン10の拡張の際に突出部50の根元部分が外方に伸びすぎることを防ぎ、突出部50の根元部分においてバルーン100の膜厚を十分に確保することができるため、突出部50の根元部分でのバルーン100の膜厚が不足していることによる不良率を低減することができ、バルーン100の製造効率を高めることができる。
【0083】
可動部3の可動域において、可動部3を最外方に配置した際に、パリソン10の遠近方向に垂直な断面における可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚の1倍以下であることが好ましく、0.95倍以下であることがより好ましく、0.9倍以下であることがさらに好ましい。可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離と、バルーン100の膜厚との比率の上限値を上記の範囲に設定することにより、パリソン10の拡張時に突出部50の根元部分がパリソン10の径方向の外方に伸びすぎることを防ぎ、成形したバルーン100の突出部50の根元部分の膜厚を十分なものとして、バルーン100の耐久性を高めることができる。また、可動部3の可動域において、可動部3を最外方に配置した際に、パリソン10の遠近方向に垂直な断面における可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離は、バルーン100の膜厚の0.5倍以上であることが好ましく、0.55倍以上であることがより好ましく、0.6倍以上であることがさらに好ましい。可動部3と突出部50の根元を通る直線L1との最短距離と、バルーン100の膜厚との比率の下限値を上記の範囲に設定することにより、パリソン10の拡張時に可動部3と突出部50の根元部分との間に十分な距離をとることができ、バルーン100の突出部50の根元部分の膜厚を確保できる。そのため、バルーンカテーテルの使用時に突出部50の根元部分の変形が小さい、十分な耐圧性能を有するバルーン100を製造することが可能となる。
【0084】
図示していないが、金型1は、可動部3の位置を保持する保持機構を有していることが好ましい。金型1が保持機構を有していることにより、例えば、可動部3の可動域において可動部3を最外方に配置した状態にて可動部3の位置を保持することにより、可動部3がパリソン10の径方向の内方に移動することを防ぎ、成形後のバルーン100に可動部3が接触する等してバルーン100を傷付けることを防止することができる。可動部3の位置を保持する保持機構としては、例えば、可動部3をネジ、ピン等の部品によって固定するもの等が挙げられる。
【0085】
また、図示していないが、金型1は、可動部3を金型本体2の内方に向かって押圧する押圧機構を有していることが好ましい。金型1が押圧機構を有していることにより、バルーン100の成形時に、パリソン10と可動部3が接触する部分に外方から圧力を加えることができ、例えば、突出部50を押圧しながら成形を行って突出部50の硬度を高めて石灰化した病変部への拡張力の高いバルーンカテーテルを製造することができる。
【0086】
図1に示すように、金型1は、金型本体2の径方向における可動部3の外方に、可動機構4が配置されており、可動機構4は、バネ4aが配置されていることが好ましい。可動機構4は、可動部3をパリソン10の径方向に移動させるための機構である。バネ4aが配置されている可動機構4を金型1が有していることにより、パリソン10の拡張によって突出部50が可動部3に接触して可動部3がパリソン10の径方向外方に押された際に、可動部3がバネ4aの収縮によってパリソン10の径方向外方へ滑らかに移動することができる。また、バネ4aの反発力によって可動部3が突出部50を押圧するため、突出部50に圧力を加えながらバルーン100の成形を行うことができ、突出部50の硬度が高まりやすくなる。
【0087】
可動機構4がバネ4aを有している場合、図1に示すように、可動機構4は筒状部材4bを有しており、筒状部材4bの内腔にバネ4aが配置されていることが好ましい。筒状部材4bの内腔にバネ4aが配置されていることにより、バネ4aの位置ずれを筒状部材4bが防止し、バネ4aが収縮する際に可動部3の位置もずれにくくなり、可動部3の内方部から突出部50を外れにくくすることが可能となる。
【0088】
また、可動機構4は、流体を有していることも好ましい。つまり、金型1は、金型本体2の径方向における可動部3の外方に、可動機構4が配置されており、可動機構4は、流体が配置されていることが好ましい。流体としては、例えば、空気、水、油等が挙げられ、圧縮されていてもよい。可動機構4が流体を有していることにより、可動部3をパリソン10の径方向外方および径方向内方に移動させる速度を調節しやすく、また、可動部3の移動を円滑に行うことができる。なお、可動機構4において流体の圧力を高めることにより、可動部3が突出部50を押圧してバルーン100の成形時に突出部50へ圧力を加えることができ、突出部50の硬度を高めることも可能である。
【0089】
図1に示すように、可動部3は、溝部20を有しており、溝部20の深さd1は、突出部50の高さH1よりも小さいことが好ましい。可動部3の溝部20の深さd1が突出部50の高さH1よりも小さいことにより、突出部50を可動部3の内方部に配置した際に可動部3が突出部50の根元部分に干渉しにくくなる。その結果、バルーン100の膜厚が薄くなってしまいやすい突出部50の根元部分の膜厚を十分に確保することができ、バルーン100の耐圧性能を高めることが可能である。
【0090】
溝部20の深さd1は、突出部50の高さH1の90%以下であることが好ましく、突出部50の高さH1の85%以下であることがより好ましく、80%以下であることがさらに好ましい。溝部20の深さd1と、突出部50の高さH1との比率の上限値を上記の範囲に設定することにより、可動部3の溝部20が突出部50を十分に保持しながら、突出部50の根元部分に可動部3が干渉しにくくなり、突出部50の根元部分のバルーン100の膜厚を十分なものとすることができる。また、溝部20の深さd1は、突出部50の高さH1の30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。溝部20の深さd1と、突出部50の高さH1との比率の下限値を上記の範囲に設定することにより、可動部3の内方部に突出部50を配置しやすく、パリソン10の拡張時に突出部50の位相ずれが起こりにくくなる。
【0091】
可動部3の内方部の表面平均粗さRzは、金型本体2の内表面の表面平均粗さRzよりも大きいことが好ましい。可動部3の内方部の表面平均粗さRzが金型本体2の内表面の表面平均粗さRzよりも大きいことにより、可動部3の内方部の表面に接する突出部50の表面をバルーン100の他の部分の表面よりも粗くすることができる。そのため、突出部50の表面の摩擦力が高く、突出部50が病変部から滑りにくいバルーンカテーテルを製造することができる。
【0092】
可動部3の内方部の表面平均粗さRzは、金型本体2の内表面の表面平均粗さRzよりも小さいことも好ましい。可動部3の内方部の表面平均粗さRzが金型本体2の内表面の表面平均粗さRzよりも小さいことにより、バルーン100の他の部分の外表面と比較して、突出部50の外表面を平滑化することができ、血管等の生体内管腔への挿入性を向上させたバルーンカテーテルとすることが可能である。
【0093】
可動部3は溝部20を有しており、金型本体2の軸方向において、溝部20は、溝の深さが異なっている部分を有していることが好ましい。つまり、溝部20は、パリソン10の軸方向において深さが一定ではない構成であることが好ましい。可動部3が、溝の深さが異なっている部分を備えている溝部20を有していることにより、溝部20の深さに合わせて突出部50の高さを変化させることができる。突出部50が高さの異なる部分を有する構成であることによって病変部に突出部50が食い込みやすくなるため、病変部から外れにくく、また、石灰化病変に亀裂を入れやすいバルーンカテーテルとなる。
【0094】
可動部3は溝部20を有しており、金型本体2の軸方向において、溝部20は、途切れ部を有していることが好ましい。溝部20が途切れ部を有していることにより、途切れ部に位置している突出部50が押し潰されて高さが低くなるか、突出部50が部分的になくなる。そのため、金型本体2の軸方向において、高さが異なる突出部50や複数の突出部50を有する構成のバルーン100を製造することが可能となる。
【0095】
金型本体2の軸方向において、可動部3は、複数存在していることが好ましい。つまり、金型1は、金型本体2の軸方向において、複数の可動部3を有していることが好ましい。金型本体2の軸方向に可動部3が複数あることにより、金型1において可動部3が存在していない部分ではパリソン10の突出部50が成形時に押し潰され、金型本体2の軸方向において複数の突出部50を備えたバルーン100を製造することができる。
【0096】
図示していないが、金型本体2の軸方向において、金型本体2は、直管部と、直管部の両側にテーパー部と、を有しており、直管部は可動部3が配置されており、テーパー部は可動部3が配置されていないことが好ましい。金型本体2が直管部とテーパー部とを有していることにより、遠近方向において両端部がテーパーとなっているバルーン100を製造することができる。さらに、金型本体2の直管部が可動部3を有しており、テーパー部が可動部3を有していないことにより、バルーン100の直管部には突出部50を備えていながらバルーン100のテーパー部には突出部50を備えていない構成となり、挿通性が高く、かつ病変部の拡張力の高いバルーン100とすることが可能となる。
【0097】
以上のように、バルーンカテーテルの製造方法は、遠近方向に延在しているシャフトと、シャフトの遠位側に設けられ、外側面に突出部が設けられているバルーンと、を有するバルーンカテーテルの製造方法であって、外側面に突出部を有している筒状のパリソンを準備する工程と、パリソンを内挿する金型本体と、金型本体に設けられ、パリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有する金型を準備する工程と、可動部の内方部に突出部を配置する工程と、パリソンの内部を加圧し、パリソンを拡張させる工程と、を含む。また、金型は、外側面に突出部を有している筒状のパリソンが内挿される中空の金型であって、金型本体と、内挿されているパリソンの径方向に移動可能である可動部と、を有しており、可動部は、可動部の内方部に突出部が配置される。パリソンの径方向に移動可能である可動部を有する金型を用い、可動部の内方部にパリソンの突出部を配置することにより、パリソンの拡張の前後でパリソンの突出部の位相ずれが起こりにくく、バルーンの1段成形が可能であって、バルーンカテーテルの製造効率を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1:金型
2:金型本体
3:可動部
4:可動機構
4a:バネ
4b:筒状部材
10:パリソン
20:溝部
50:突出部
51:基端領域
52:先端領域
100:バルーン
L1:可動部と突出部の根元を通る直線
d1:溝部の深さ
H1:突出部の高さ
図1
図2
図3