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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3268 20160101AFI20240208BHJP
   F16J 15/3276 20160101ALI20240208BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240208BHJP
【FI】
F16J15/3268
F16J15/3276
F16J15/3232 201
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020003526
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021110408
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 恵介
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089999(JP,A)
【文献】特開2010-230150(JP,A)
【文献】特開2013-133882(JP,A)
【文献】特開2017-219176(JP,A)
【文献】特開2014-173677(JP,A)
【文献】実開平2-25772(JP,U)
【文献】特開2018-100733(JP,A)
【文献】特開2020-133706(JP,A)
【文献】米国特許第5509667(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/32-15/3296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング及び回転軸の間に取設され、
前記ハウジングに装着される、金属環及び前記金属環の少なくとも一部の表面にゴム状弾性体を被着して形成されたシール本体を備えるシール部材と、
前記回転軸外周面に嵌合される回転スリンガと
を具備する密封装置であって、
前記シール部材は、
前記ハウジングのハウジング内周面と相対する前記回転スリンガの摺動面と摺動し、密封対象の密封流体を封止するシールリップと、
前記シールリップより大気側の位置に設けられ、前記摺動面とダストリップ先端が摺動し、前記大気側から侵入したダストの前記密封流体側への侵入を抑止するダストリップと、
前記ハウジング内周面と当接した当接部の前記大気側の一端から前記回転軸の外周方向に向かって屈曲して延設され、前記ハウジング内周面と直交する前記ハウジングのハウジング端面と前記回転軸の外周方向において前記回転軸から最も離間した位置にあるリップ先端が密接し、前記ハウジング端面との間で外部から隔離された隙間を形成するシールフランジ部と
を更に有する密封装置。
【請求項2】
前記シールフランジ部は、
前記ハウジング端面と密接する端面密接部と、
前記端面密接部の一端から前記ハウジング端面から離間する方向に向かって斜めに屈曲し延設された斜め屈曲部と、
前記斜め屈曲部の一端から前記ハウジング端面と平行に沿うように屈曲し延設され、前記ハウジング端面との間に隙間を形成するフランジ部先端部と、
前記フランジ部先端部から前記ハウジング端面に近接する斜め方向に向かって延設され、前記リップ先端が前記ハウジング端面と密接する前記シール本体のみで形成されるフランジ部ダストリップと
を備える請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記フランジ部ダストリップは、
ゴム状弾性体で形成され、
前記リップ先端が前記ハウジング端面と密接することで弾性変形する請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記シール部材は、
前記ダストリップ及び前記シールフランジ部の間に設けられ、
前記回転スリンガの前記摺動面に直交した直交接触面とサイドリップ先端が摺動するサイドリップを更に有する請求項1~3のいずれか一項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。更に詳しくは、建設機器や農業機器等に主として使用され、機器内部への泥水等の侵入を防止可能な密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の輸送機器におけるエンジンなどの機械部品、或いは建設機器や農業機器等のその他種々の産業技術分野における機械部品において、回転軸での潤滑油の漏れを防止するための密封装置(オイルシール)が用いられている。
【0003】
特に、建設現場等で使用される建設機器や農地等で使用されるトラクターや耕運機等の農業機器の場合、塵埃や水の他に、泥や土、砂などの異物(以下、「ダスト」と総称する。)が多く存在する過酷な環境での使用が想定される。そのため、これらの機器において、泥水等を含むダストの侵入を防止し、長期間に亘って安定的に密封性を維持するための対策を講じられた密封装置が特に求められている。
【0004】
農業機器等に使用される密封装置の一例について説明すると、例えば、図5に示されるように、密封装置100は、ハウジング101及び回転軸102の間に取設され、ハウジング101に固定される、金属環103及び当該金属環103の少なくとも一部の表面にゴム状弾性体を被着して形成されたシール本体104を備えるシール部材105と、シール部材105と相対し、回転軸102の外周面102aに嵌合される回転スリンガ106とを具備して主に構成されている。
【0005】
シール本体104は、回転軸102に嵌合された回転スリンガ106と摺動し、密封対象の密封流体107(例えば、潤滑油等)を封止するシールリップ108と、大気109側から侵入した異物等のダスト110の密封流体107側への侵入を防止する複数のダストリップ111a,111b及びサイドリップ112等を備えている。これにより、密封流体107の漏洩を防ぎ、かつ、大気109側から密封流体107側に泥水等を含むダスト110が侵入することを防ぐことができる。
【0006】
更に、上記密封装置100は、ハウジング101のハウジング内周面101aに密接したシール部材105(シール本体104)の当接部105aの大気109側の一端から外周方向(図5における紙面左方向に相当)に屈曲し、ハウジング101のハウジング端面101bと密接するシールフランジ部113を具備している。なお、シールフランジ部113は、上述した金属環103及びシール本体104の一部によって構成されている。ハウジング端面101b及びシールフランジ部113が隙間なく密着することで、泥水等のダスト110の侵入を更に確実に防ぐことができる。
【0007】
一方、トラクター等の農機具の車軸に用いられる密封装置及びシール部材が既に提案されている(特許文献2参照)。これによると、環状の主リップ及び環状板部に接触した環状のサイドリップを有するシール部材を具備する農機具の車軸用密封装置であり、サイドリップが環状板部側から拡径した円錐環形状の円錐筒部と、環状板部に接触したリップ部とを有して構成され、円錐筒部から弾性的に湾曲された状態で径方向外方向に延びる円環形状の円環部とを含み、リップ部は円環部における環状板部と対向する側の面の少なくとも外周縁を含み、円環部における環状板部と対向する側の面のうちリップ部より径方向内側の部分は、環状板部との間に隙間を有するものが開示されている(特許文献1の請求項1等参照)。
【0008】
上記構成を備えた農機具の車軸用密封装置によって、サイドリップの締め代が大きい場合でもサイドリップとスリーブとの間に泥水等が入り込みにくくなるため、サイドリップの摩耗が促進されない。また、スリーブに対する接触面圧を長期間に亘って維持することができ、泥水等に曝される環境下であっても密封性を維持することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-219176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の密封装置は、下記に掲げる問題点を生じることがあった。すなわち、図5に示すように、泥水等のダストの侵入を防止するために、ハウジングのハウジング端面に対し、シール部材の当接部の一端から直交方向に屈曲して延設されたシールフランジ部全体が密着して形成されていた。
【0011】
そのため、ハウジングからシール部材を取り外す作業を行う場合、ハウジング端面及びシールフランジ部の間に、先端が尖鋭平形状のマイナスドライバー等の工具を挿し込み、ハウジング及びシールフランジの密着状態をこじ開ける作業が必要となった。したがって、シール部材の取り外し作業に過大な労力が必要となり、これらの作業のために多くの時間を要することがあった。
【0012】
更に、マイナスドライバー等の工具で無理矢理こじ開けられるため、シール部材の取り外しの際にマイナスドライバー等によって、ハウジング端面を傷付けてしまう可能性があった。これにより、新しいシール部材を装着してもハウジング端面とシールフランジ部との間にわずかな隙間が生じ、当該隙間から泥水等が侵入するおそれがあった。
【0013】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、農業機器等の厳しい使用環境においても泥水等の異物を含むダストの侵入を確実に防止しつつ、安定した封止性を備えるとともに、シール部材の取り外し作業や交換作業おいて、ハウジングから当該シール部材を容易に取り外すことが可能な優れた作業性を有する密封装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、上記課題を解決した密封装置が下記において提供される。
【0015】
[1] ハウジング及び回転軸の間に取設され、前記ハウジングに装着される、金属環及び前記金属環の少なくとも一部の表面にゴム状弾性体を被着して形成されたシール本体を備えるシール部材と、前記回転軸外周面に嵌合される回転スリンガとを具備する密封装置であって、前記シール部材は、前記ハウジングのハウジング内周面と相対する前記回転スリンガの摺動面と摺動し、密封対象の密封流体を封止するシールリップと、前記シールリップより大気側の位置に設けられ、前記摺動面とダストリップ先端が摺動し、前記大気側から侵入したダストの前記密封流体側への侵入を抑止するダストリップと、前記ハウジング内周面と当接した当接部の前記大気側の一端から前記回転軸の外周方向に向かって屈曲して延設され、前記ハウジング内周面と直交する前記ハウジングのハウジング端面と前記回転軸の外周方向において前記回転軸から最も離間した位置にあるリップ先端が密接し、前記ハウジング端面との間で外部から隔離された隙間を形成するシールフランジ部とを更に有する密封装置。
【0016】
[2] 前記シールフランジ部は、前記ハウジング端面と密接する端面密接部と、前記端面密接部の一端から前記ハウジング端面から離間する方向に向かって斜めに屈曲し延設された斜め屈曲部と、前記斜め屈曲部の一端から前記ハウジング端面と平行に沿うように屈曲し延設され、前記ハウジング端面との間に隙間を形成するフランジ部先端部と、前記フランジ部先端部から前記ハウジング端面に近接する斜め方向に向かって延設され、前記リップ先端が前記ハウジング端面と密接する前記シール本体のみで形成されるフランジ部ダストリップとを備える前記[1]に記載の密封装置。
【0017】
[3] 前記フランジ部ダストリップは、ゴム状弾性体で形成され、前記リップ先端が前記ハウジング端面と密接することで弾性変形する前記[2]に記載の密封装置。
【0018】
[4] 前記シール部材は、前記ダストリップ及び前記シールフランジ部の間に設けられ、前記回転スリンガの前記摺動面に直交した直交接触面とサイドリップ先端が摺動するサイドリップを更に有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の密封装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の密封装置によれば、ハウジング端面及びシールフランジ部の間に所定の隙間(空間)が形成される。換言すれば、ハウジング端面とシールフランジ部のフランジ部先端部との間に段差が設けられることになる。
【0020】
これにより、シール部材やハウジング端面を傷つけることなく、ハウジングからシール部材を容易に取り外すことが可能となり、シール部材の取り外し作業や交換作業の作業性を向上させることができる。
【0021】
更に、ハウジング端面及びシールフランジ部によって形成された隙間に泥水等が侵入しようとしても、ハウジング端面にリップ先端が密接するフランジ部ダストリップによって、当該隙間への泥水等のダストの侵入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の密封装置の概略構成を示す要部拡大断面図である。
図2】密封装置のシールフランジ部の近傍を示す要部拡大断面図である
図3】ハウジングに装着した状態のシールフランジ部の近傍を示す要部拡大断面図である。
図4】取り外し用治具によるシール部材の取り外しの一例を模式的に示す説明図である。
図5】従来の農機具等に使用される密封装置の一例の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の密封装置の実施の形態について詳述する。なお、本発明の実施形態の密封装置は、以下に示すものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0024】
本発明の一実施形態の密封装置1は、図1図4に示すように、ハウジング2及び回転軸3の間に取設され、大気4及び潤滑油(本発明における密封流体に相当)の貯留された油槽5との間をシール(封止)するものである。
【0025】
ここで、図1は本実施形態の密封装置1の概略構成を示す、回転軸3の軸線方向Xに沿って切断し、一部を拡大して示す要部拡大断面図であり、図2は密封装置1のシールフランジ部6の近傍を示す要部拡大断面図であり、図3はハウジング2に装着した状態のシールフランジ部6の近傍を示す要部拡大断面図であり、図4は取り外し用治具7によるシール部材8の取り外しの一例を模式的に示す説明図である。なお、図1には、本実施形態の密封装置1を具体的に説明するために、当該密封装置1にかかる構成とともに、ハウジング2及び回転軸3の構成の一部についてそれぞれ併せて図示している。また、図3及び図4には、ハウジング2の構成の一部についてそれぞれ併せて図示している。
【0026】
本実施形態の密封装置1は、図1に主として示すように、ハウジング2及び回転軸3の間に取設され、金属環9及び当該金属環9の少なくとも一部の表面9aにゴム状弾性体を被着して形成されたシール本体10を備えるシール部材8と、回転軸3の外周面3aに嵌合される回転スリンガ11とを主に具備して構成されている。
【0027】
シール部材8の一部として構成される金属環9は、略円環状の構造を呈するものである。金属環9を構成する材料は、特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)等の周知の金属製材料を用いることが可能であり、かかる金属製材料をプレス加工や鍛造等の周知の金属加工を行うことで、所望の形状に成形することができる。
【0028】
一方、金属環9の少なくとも一部の表面9aに被着して形成されるシール本体10は、応力に対して弾性変形可能なゴム状弾性体として種々の材料を用いることができ、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、及びフッ素ゴム(FKM)等の周知の合成ゴムを用いることができる。
【0029】
シール本体10は、例えば、成形型を用いて架橋(加硫)成形によって成形することができる。この架橋成形の際に、金属環9を成形型の中に配置することで、シール本体10が架橋(加硫)接着により金属環9に接着され、金属環9及びシール本体10を一体的に成形することができる。これにより、本実施形態の密封装置1におけるシール部材8が形成される。
【0030】
一方、回転スリンガ11は、図1に示すように、回転軸3の外周面3aに嵌合されるものであり、略円環状を呈し、シール本体10のシールリップ12やダストリップ15a,15b、及びサイドリップ23(それぞれ詳細は後述する)と摺動する断面略L字形状のものである。なお、密封装置1において、回転スリンガ11にかかる構成は周知のものであるため、ここでは詳細な説明は省略する。シール部材8及び回転スリンガ11にかかる構成を備えることで、大気4側及び油槽5側の間を安定してシールすることができる。
【0031】
本実施形態の密封装置1において、シール部材8を構成するシール本体10は、ハウジング2のハウジング内周面2aと相対するように配された回転スリンガ11の摺動面11aに向かって突出し、当該摺動面11aと摺動することで、油槽5に貯留された密封対象となる潤滑油を封止するためのシールリップ12と、シールリップ12よりも大気4側の位置(図1における紙面下方向に相当)に設けられ、摺動面11aとそれぞれのダストリップ先端13a,13bが摺動し、大気4側から侵入しようとするダスト14(図3参照)の油槽5側(密封流体側)への侵入を防止する一対のダストリップ15a,15bとを更に有している。
【0032】
本実施形態の密封装置1において、シールリップ12及びダストリップ15a,15bにかかる構成は、シール本体10の一部構成として一体的に形成されている。すなわち、シール本体10の架橋(加硫)成形と同時にプレス加工により構成することができる。したがって、シールリップ12及びダストリップ15a,15bは、それぞれ同一のゴム状弾性体によって形成され、応力に対して自在に弾性変形することができる。
【0033】
なお、本発明の密封装置において、シールリップ及びダストリップ等は上記に限定されるものではなく、例えば、シール本体とシールリップやダストリップをそれぞれ別構成として成形加工した後に、その後に架橋(加硫)接着等の周知の接合技術を用い、接続したものであっても構わない。この場合、シールリップやダストリップをそれぞれ同一種類・材質のゴム状弾性体を用いて形成するものであっても、或いは違いに異なる種類・材質のゴム状弾性体を用いるものであっても構わない。
【0034】
本実施形態の密封装置1におけるシールリップ12は、図1に示されるように、回転スリンガ11の摺動面11aに向かってシールリップ先端12aの平面部分が摺動するように、回転軸3及び回転スリンガ11に向かって一部が突出し、断面略台形状を呈するように構成されている。そして、シールリップ先端12aの平面部分が摺動面11aと摺動することで、大気4側及び油槽5側の間を封止することができる。その結果、油槽5に貯留された潤滑油(密封流体)が大気4側に漏出することがない。
【0035】
更に、シール部材8は、シールリップ12に近接する位置に設けられた金属製のコイルバネ16を備えている。かかる構成を備えることで、回転スリンガ11の摺動面11aに相対するシールリップ先端12aを、摺動面11aに向かって押し付けることができる。
【0036】
その結果、シールリップ12のシールリップ先端12aにかかる緊迫力を安定して維持することができ、シールリップ12及び回転スリンガ11の間の摺動を可能としている。これにより大気4及び油槽5の間を確実に封止し、大気4側へ油槽5に貯留された潤滑油が漏出する不具合を回避することができるとともに、回転軸3を所定の回転速度で安定して回転させることが可能となる。
【0037】
更に、本実施形態の密封装置1は、上記シールリップ12にかかる構成よりも大気4側の位置に設けられ、回転スリンガ11の摺動面11aと摺動するダストリップ先端13a,13bをそれぞれ一端側に有して形成された一対のダストリップ15a,15bを備えている。これにより、泥水等を含むダスト14(図3参照)が油槽5側へ侵入しようとしても、シールリップ12の手前に設けられたダストリップ15a,15bによってシールリップ12への到達を確実に規制することができる。特に、一対のダストリップ15a,15bが並んで形成されていることにより、泥水等を含むダスト14の油槽5側への侵入をより確実に防ぐことができる。
【0038】
ダストリップ15a,15bは、大気4側及び回転軸3側に向かう斜め方向(図1における紙面右下方向に相当)に突出するように形成されている。これにより、大気4側から回転軸3の軸線方向Xに沿って油槽5側へ移動(図1における紙面下方向から紙面上方向の移動に相当)しようとするダスト14は、回転スリンガ11の摺動面11aとダストリップ先端13a、13bがそれぞれ摺動するため、ダストリップ15a,15bによってダスト14の移動が規制される。
【0039】
特に、一対のダストリップ15a,15bが併設されているため、仮に、大気4側に近いダストリップ15b(図1における紙面下側に相当)を通過しても、油槽5側に近いダストリップ15aによってダスト14の侵入を防ぐことができる。したがって、大気4側から侵入したダスト14がシールリップ12の近傍まで到達することはほとんどない。
【0040】
加えて、本実施形態の密封装置1のシール部材8は、ハウジング2のハウジング内周面2aと当接した当接部17の大気4側の一端から回転軸3の外周方向(図1図4における紙面左方向に相当)に向かって屈曲して延設され、ハウジング内周面2aと直交するハウジング端面2bと少なくとも一部が密接するシールフランジ部6を更に有している。
【0041】
シールフランジ部6について更に詳述すると、当該シールフランジ部6は、ハウジング端面2bと密接する端面密接部18と、端面密接部18の一端からハウジング端面2bから離間する方向に向かって斜めに屈曲し延設された斜め屈曲部19と、斜め屈曲部19の一端からハウジング端面2bと沿うようにして屈曲し延設され、ハウジング端面2bとの間に隙間20を形成可能なフランジ部先端部21と、フランジ部先端部21からハウジング端面2bに近接する斜め方向に向かって延設され、リップ先端22aがハウジング端面2bと密接するフランジ部ダストリップ22とを備えている。
【0042】
ここで、シールフランジ部6は、前述したシール部材8の一部として構成され、金属環9とシール本体10とが互いに積層した状態で主に形成されている。そして、金属環9側が主にハウジング2及びハウジング端面2bと相対し、一方、ゴム状弾性体で形成されたシール本体10側が大気4と主に相対している。
【0043】
したがって、端面密接部18は、金属環9の一部がハウジング端面2bと直に密接している。一方、端面密接部18から延設された斜め屈曲部19及び斜め屈曲部19から延設されたフランジ部先端部21は、ハウジング端面2bと金属環9とが直に接することはなく、互いに離間するように形成されている。その結果、図3及び図4等に示すように、ハウジング端面2bと斜め屈曲部19及びフランジ部先端部21との間には、所望形状の隙間20が形成されている。すなわち、ハウジング端面2bとフランジ部先端部21の金属環9との間には所望の段差が形成されていることになる。
【0044】
更に、シールフランジ部6は、その他の構成としてフランジ部先端部21から延設されたフランジ部ダストリップ22にかかる構成を備えている。フランジ部ダストリップ22は、シール部材8を構成するシール本体10の一部として、前述のシールリップ12やダストリップ15a,15b等と同様に、ゴム状弾性体によって上記シールリップ12等と同じプレス加工によって一体的に形成されている。したがって、フランジ部ダストリップ22自体も応力に対して弾性変形可能に形成されている。
【0045】
フランジ部ダストリップ22は、フランジ部先端部21との接続箇所を基点とし、フランジ部ダストリップ22のリップ先端22aが変形方向A(図2における矢印参照)に沿って弾性変形可能なものである。これにより、シール部材8がハウジング2に装着されると、回転軸3の外周方向側に向かってリップ先端22aが僅かに押し付けられ、変形した状態となる(図3参照)。
【0046】
この場合、弾性変形したフランジ部ダストリップ22には、弾性変形した状態(図3参照)から弾性変形を受けない元の状態(図2参照)に復帰しようとする復元力が作用する。すなわち、リップ先端22aがハウジング端面2bを押し付ける力が働く。その結果、ハウジング端面2bにフランジ部ダストリップ22のリップ先端22aが密接した状態となる。
【0047】
これにより、ハウジング端面2bとフランジ部ダストリップ22のリップ先端22aとが隙間なく密接し、ダスト14がハウジング端面2b及びリップ先端22aの密接した密接位置B及びリップ先端22a(図3における矢印参照)から侵入することが規制される。すなわち、ハウジング端面2b、フランジ部ダストリップ22、シールフランジ部6の斜め屈曲部19及びフランジ部先端部21によって囲まれた空間である隙間20に泥水等を含むダスト14が容易に侵入することができなくなる。その結果、密封装置1における封止性を維持することができる。
【0048】
更に、本実施形態の密封装置1は、シール部材8をハウジング2から取り外す作業を行う場合、例えば、図4に示すように、先端が曲折された略L字形状の取り外し用治具7を用い、ハウジング端面2b及びシール部材8の密接した密接位置Bに当該取り外し用治具7の挿入部7aを挿し込み、隙間20に挿入部7aを到達させることでシール部材8を引っ掛け、取り外し作業を容易に行うことができる。
【0049】
すなわち、既に説明した従来の密封装置100(図5参照)のように、シールフランジ部113の全体がハウジング101のハウジング端面101bと密接しているものと比べ、シールフランジ部6の一部の端面密接部18と、端面密接部18から離間したフランジ部ダストリップ22のリップ先端22aとの密接位置Bとでハウジング端面2bと密接するため、取り外し用治具7の挿入部7aを無理なく挿し込むことが可能となる。なお、フランジ部ダストリップ22は、前述のようにゴム状弾性体によって形成されるため、応力に対して弾性変形が容易に可能であり、取り外し用治具7の挿し込み操作は従来と比較して比較的小さな力で容易に行うことができる。
【0050】
これにより、シール部材8の取り外しにかかる作業性を大幅に短縮することができる。更に、無理な力をかけることなくシール部材8を取り外すことが可能となるため、従来のようにこじ開けによるシール部材8の変形やハウジング端面2bの傷付きを必要最小限に抑えることができる。その結果、ハウジング端面2bの傷付きによる封止性の低下等のおそれが小さくなり、長期間に亘って安定した封止性を維持することができる。
【0051】
更に、本実施形態の密封装置1は、その他構成として、例えば、図1に示すように、ダストリップ15a,15b及び上記シールフランジ部6の間に設けられ、回転スリンガ11の摺動面11aに直交した直交接触面11bとサイドリップ先端23aが摺動するサイドリップ23を有している。ここで、サイドリップ23は、既に説明したダストリップ15a,15bと略同一の構成であり、またダストリップ15a,15bと同じくゴム状弾性体によって一体的に形成することができる。更に、サイドリップ自体は周知の構成であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0052】
サイドリップ23を備えることで、大気4側から侵入したダスト14が一対のダストリップ15a,15bに到達する前に、より大気4側の位置でダスト14の移動を規制することができる。換言すれば、回転スリンガ11の摺動面11aに直交した直交接触面11bとサイドリップ先端23aとが摺動自在に接触することで、回転軸3の軸線方向Xに直交する方向に沿った大気4側からのダスト14の移動、換言すれば、回転軸3の外周方向から軸芯方向へのダスト14の移動(図1における紙面左方向から紙面右方向に相当)を規制することができる。これにより、更にシールリップ12にダスト14が到達することを防ぐことができる。すなわち、泥水等のダスト14の油槽5側への侵入をより確実に防ぐことができる。
【0053】
上記示した通り、本実施形態の密封装置1は、ハウジング端面2bと少なくとも一部が密接し、かつ、ハウジング端面2bとの間に隙間20を形成可能なシールフランジ部6にかかる特徴的な構成を備えることにより、シール部材8の取り外しにかかる作業性を良好なものとすることができる。その結果、従来のシール部材105(図5参照)と比較し、取り外し作業の作業性の効率化、及びハウジング端面2bの傷付きの抑制等の優れた作用効果を奏することができる。
【0054】
一方、ハウジング端面2bとの間に隙間20を形成したとしても、シールフランジ部6に設けられたフランジ部ダストリップ22にかかる構成を備えることで、隙間20への泥水等のダスト14の侵入を防ぐことができる。これにより、ハウジング端面2b及びシール部材8の間からダスト14が油槽5側に移動することを規制することができる。
【0055】
更に、本実施形態の密封装置1によれば、シール部材8が、一対のダストリップ15a,15b、及び必要に応じてサイドリップ23を備えることで、従来の密封装置100と同様に、シールリップ12に到達する前にダスト14の移動を確実に規制することができる。すなわち、密封装置1における本来の機能である高いシール性(封止性)を安定的に維持することができるとともに、取り外し作業等の作業性を向上させたものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の密封装置は、種々の産業技術分野における機械部品、特に、建設機器や農業機器等の泥水等のダストが多く存在する過酷な使用環境においても、高い封止性を発揮可能な機械部品の密封装置として使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,100:密封装置
2,101:ハウジング
2a,101a:ハウジング内周面
2b,101b:ハウジング端面
3,102:回転軸
3a,102a:外周面
4,109:大気
5:油槽(密封流体)
6,113:シールフランジ部
7:取り外し用治具
7a:挿入部
8,105:シール部材
9,103:金属環
9a:表面
10,104:シール本体
11,106:回転スリンガ
11a:摺動面
11b:直交接触面
12,108:シールリップ
12a:シールリップ先端
13a:ダストリップ先端
13b:ダストリップ先端
14,110:ダスト
15a,15b,111a,111b:ダストリップ
15b:ダストリップ
16:コイルバネ
17,105a:当接部
18:端面密接部
19:斜め屈曲部
20:隙間
21:フランジ部先端部
22:フランジ部ダストリップ
22a:リップ先端
23,112:サイドリップ
23a:サイドリップ先端
107:密封流体
A:変形方向
B:密接位置
X:軸線方向
図1
図2
図3
図4
図5