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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】プリント基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240208BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H05K1/02 K
H05K3/28 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020018038
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021125560
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木谷 健治
(72)【発明者】
【氏名】金山 知樹
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-11191(JP,A)
【文献】実開昭51-47864(JP,U)
【文献】特開平9-92939(JP,A)
【文献】米国特許第5099219(US,A)
【文献】独国実用新案第202015101661(DE,U1)
【文献】米国特許第2895031(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/046
H05K 1/02
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するフィルム状の熱可塑性のベース基材と、
前記ベース基材の主面に設けられた金属箔層で形成されたパターンヒューズと、
前記パターンヒューズの少なくとも一部を前記ベース基材の反対の側から覆う熱可塑性のカバー部材と、
前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と重なる領域に設けられ、前記パターンヒューズを前記カバー部材の側から覆う第一の耐熱保護フィルムと、
を備え、
前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と前記カバー部材とが熱可塑性の接着剤層を介して接合されており、
前記第一の耐熱保護フィルムの融点又は熱分解温度が前記カバー部材及び前記ベース基材の融点よりも高く、
前記パターンヒューズが発熱して前記パターンヒューズの前記少なくとも一部が溶断する際に、前記カバー部材、前記接着剤層及び前記ベース基材が溶融し、前記第一の耐熱保護フィルムと前記パターンヒューズとの間に一続きの空間が形成されるプリント基板。
【請求項2】
前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と重なる領域に設けられ、前記ベース基材の側から前記パターンヒューズを覆う第二の耐熱保護フィルムを更に備え、
前記第二の耐熱保護フィルムの融点又は熱分解温度が前記カバー部材及び前記ベース基材の融点よりも高く、
前記パターンヒューズが発熱して前記パターンヒューズの前記少なくとも一部が溶断する際に、前記一続きの空間が前記第一の耐熱保護フィルムと前記第二の耐熱保護フィルムとの間に形成される請求項1に記載のプリント基板。
【請求項3】
前記ベース基材と前記第二の耐熱保護フィルムとが、熱可塑性の第二耐熱保護フィルム用接着剤で接合されている、請求項に記載のプリント基板。
【請求項4】
前記第二耐熱保護フィルム用接着剤は、前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と重なる領域に開口している開口孔を有する、請求項に記載のプリント基板。
【請求項5】
前記カバー部材と前記第一の耐熱保護フィルムとが、熱可塑性の第一耐熱保護フィルム用接着剤で接合されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のプリント基板。
【請求項6】
前記第一耐熱保護フィルム用接着剤は、前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と重なる領域に開口している開口孔を有する、請求項に記載のプリント基板。
【請求項7】
前記ベース基材及び前記カバー部材は、同種の材料である、請求項1からのいずれか一項に記載のプリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に配線を形成し、この配線に電子部品が接続されて構成される回路がある。このような回路に使用される基板には、電子部に異常が生じたとき、この異常が他の電子部品や回路に波及することを防ぐためヒューズが形成されるものがある。
このようなヒューズのうち、薄膜の金属層により配線を形成するプリント基板にあっては、配線とヒューズとを同時に形成するものがある。配線の形成工程で形成されるパターンヒューズは、電子部品としてのヒューズのようにプリント基板に実装する工程が不要であるうえ、製造コストを抑える観点からも有利である。
【0003】
プリント基板のヒューズユニットは、特許文献1に記載されている。パターンヒューズは、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2には、ランドにおいて半田付けを行って配線と電子部品を電気的に接続することが記載されている。特許文献2に記載の発明は、パターンヒューズを完全に覆い被せる形状のパターン印刷を形成する。パターン印刷にはプリント基板の色よりも明るい色が印刷されており、パターンヒューズの溶断によりパターン印刷の一部が剥がれ、溶断時の焼け跡がパターン印刷に焼損痕の様に表れる。特許文献2は、パターン印刷と焼損痕とのコントラストの違いからひと目でパターンヒューズの溶断を判断するための発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-113438号公報
【文献】特開2007-311467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現在、可撓性を有するフィルム状のベース基材に銅箔を形成し、これを配線に加工して基板とするフレキシブル基板(FPC:Flexible Printed Circuits)が様々な分野で使用されている。フレキシブル基板にパターンヒューズを形成すると、パターンヒューズ及び配線上には配線を保護するため等の目的でさらにカバーフィルムや補強フィルムが形成される。
【0006】
パターンヒューズは、予め設定されている溶断電流、溶断時間で配線より先に溶断するようにパターン幅や厚さが設計されている。このとき、溶断電流より低い電流が溶断時間よりも長い時間流れ続けてもヒューズが溶断する場合がある。このとき、溶断までに比較的時間がかかるので、この間に発生した熱によってカバーフィルムの上層の補強フィルムが損なわれ、ヒューズが露出して異物や結露と接触し、ショートする可能性がある。また、溶断電流以下であっても比較的高い電流が溶断時間より長い時間流れた場合には、パターンヒューズが溶断するまでの長い時間高熱を受けることによって補強フィルム等に発火の可能性が生じる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、溶断電流以下の電流が溶断時間以上の間流れる場合にも発火やショートすることがなく、適切に機能する信頼性の高いプリント基板に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプリント基板は、可撓性を有するフィルム状の熱可塑性のベース基材と、前記ベース基材の主面に設けられた金属箔層で形成されたパターンヒューズと、前記パターンヒューズの少なくとも一部を前記ベース基材の反対の側から覆う熱可塑性のカバー部材と、前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と重なる領域に設けられ、前記パターンヒューズを前記カバー部材の側から覆う第一の耐熱保護フィルムと、を備え、前記パターンヒューズの前記少なくとも一部と前記カバー部材とが熱可塑性の接着剤層を介して接合されており、前記第一の耐熱保護フィルムの融点又は熱分解温度が前記カバー部材及び前記ベース基材の融点よりも高く、前記パターンヒューズが発熱して前記パターンヒューズの前記少なくとも一部が溶断する際に、前記カバー部材、前記接着剤層及び前記ベース基材が溶融し、前記第一の耐熱保護フィルムと前記パターンヒューズとの間に一続きの空間が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶断電流以下の電流が溶断時間以上の間流れている場合にも発火やショートすることがなく、適切に機能する信頼性の高いプリント基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】パターンヒューズの溶断特性を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態のパターンヒューズを含む配線の上面図である。
図3図2に示すプリント基板を図2中の一点鎖線で切断し、断面を見た縦断面図である。
図4】変形例1のプリント基板を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態は、本発明の技術思想や構成を例示するものであり、その具体的な形状や寸法を限定するものではない。このため、本実施形態で示す図面は、本実施形態の構成の縦横比や厚さの比率を必ずしも正確に示すものではない。
[溶断特性]
本発明の実施形態の具体的な説明に先立って、本発明者らが注目する溶断特性について説明する。
図1は、パターンヒューズの溶断特性を説明するための図であって、縦軸にパターンヒューズに流れる電流を示し、横軸に電流が流れた時間を示している。図1中の溶断特性を示す曲線Cmは、縦軸に示す電流と、この電流が流れた場合にパターンヒューズが溶融して電気伝導を無くすまでの時間との対応を示している。図1中に示す定格電流Icは、パターンヒューズを備える機器の定格電流である。
【0011】
図1に溶断特性を示すパターンヒューズは、溶断電流Imが流れた場合、溶断時間tmで溶断するように厚さや幅等が設計されている。パターンヒューズは、溶断電流Imより低い電流が流れると、溶断時間tmより長い時間で溶断する。
また、パターンヒューズにあっては、露出を防ぐために例えばポリイミド(PolyImide:PI)系の樹脂等の高耐熱性樹脂製の耐熱保護フィルムを備えるものがある。このようなパターンヒューズにおいて、例えば図1中の曲線Cm上の点Pに対応する電流Ipが時間tp流れると、耐熱保護フィルムが破損する可能性がある。図1中に示す点Pは、耐熱保護フィルムの破損が起こり得るポイントを示しており、耐熱保護フィルムは電流Ipが時間tp流れた場合に破損し得る。図1に示す高電流は耐熱保護フィルムの破損が起こり得る電流であり、低電流は高電流より低く、定格電流より高い範囲にある電流である。
【0012】
パターンヒューズは、耐熱保護フィルムの破損によって外気に接触して発火することがある。発火した耐熱保護フィルムは、一部が炭化してパターンヒューズ上に落下し、溶断後のパターンヒューズを導通させる可能性がある。
本発明者らは、上記現象に着目し、高電流においても予め設定された電流及び時間で設計通りに溶断するパターンヒューズを構成するものである。
【0013】
図2は、本実施形態のプリント基板1の一部の上面図である。図3は、図2に示すプリント基板1を図2中の一点鎖線で切断し、断面を矢線A、Aの方向に見た縦断面図である。プリント基板1は、可撓性を有するフィルム状の熱可塑性のベース基材10と、ベース基材10の主面に設けられた金属箔層で形成されたパターンヒューズ12と、を備えている。
さらに、プリント基板1は、パターンヒューズ12の少なくとも一部をベース基材10の反対の側から覆うカバー部材13と、を備えている。このようなプリント基板1は、パターンヒューズ12を熱可塑性の樹脂であるベース基材10とカバー部材13とによって上下で覆う構成となっている。
ここで、熱可塑性とは、加熱することによって軟化し、冷却することによって再度硬化する性質をいう。
【0014】
また、プリント基板1は、パターンヒューズ12の少なくとも一部と重なる領域に設けられ、パターンヒューズ12をカバー部材13の側から覆う第一の耐熱保護フィルムである耐熱保護フィルム141を備えている。さらに、本実施形態のプリント基板1では、パターンヒューズ12の少なくとも一部と重なる領域に設けられ、ベース基材10の側からパターンヒューズ12を覆う第二の耐熱保護フィルムである耐熱保護フィルム142を備えている。
【0015】
本実施形態では、耐熱保護フィルム142をプリント基板1の最下層とし、耐熱保護フィルム141を最上層とする。このような上下方向は、本実施形態を説明するために定めるものであり、重力方向に従うものではない。また、本実施形態のプリント基板1では、カバー部材13と耐熱保護フィルム141とが、熱可塑性の第一耐熱保護用接着剤である接着剤層Laaで接合されている。パターンヒューズ12とカバー部材13とは、接着剤層Labで接合されている。
【0016】
また、ベース基材10と耐熱保護フィルム142とは、熱可塑性の第二耐熱保護用接着剤である接着剤層Ladで接合されている。本実施形態では、接着剤層Laa、Ladばかりでなく、接着剤層Labにも熱可塑性のものを用いている。このようにすれば、パターンヒューズ12が発熱して溶断する際に、耐熱保護フィルム141、142間の部材がパターンヒューズ12を除いて溶融し、パターンヒューズ12と耐熱保護フィルム141または耐熱保護フィルム142間に一続きの空間が形成される。
また、本実施形態では、耐熱保護フィルム142の下面にさらに接着剤層を設け、他の基材に貼り合せて多層のプリント基板を構成するものであってもよい。
以下、図2図3に示す各部材について説明する。
【0017】
(ベース基材)
ベース基材10は、表裏が主面になっている比較的薄いフィルム状の基材である。ベース基材10は、熱可塑性樹脂層を含有し、全体が熱可塑性を示すものであればよい。また、ベース基材10は、熱可塑性の樹脂製であって、本実施形態ではポリエチレンナフタレート(PolyEthylene Naphthalate :PEN)系樹脂を材料としている。ただし、ベース基材10材料は、PEN系樹脂に限定されるものでなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PpolyEthylene Terephthalate :PET)、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer :LCP)、フッ素系樹脂(PolyTetraFluoroEthylene :PTFE)、あるいはそれらを含有する樹脂を用いることが考えられる。PET系樹脂は、80℃でガラス転移し、264℃で溶融し、流動化する。特にPEN系樹脂は、このようなPET系樹脂より耐熱性が優れている。
【0018】
(パターンヒューズ)
パターンヒューズ12は、銅箔を加工して形成されている。パターンヒューズ12は、パターンヒューズ12と接続するプリント配線11の間に形成されていて、プリント配線11よりも細幅の細幅部121、設計上溶断することが予定されている溶断部122を有している。パターンヒューズ12の溶断部122は、プリント配線11よりもパターン幅が細い、あるいはパターンの厚さが薄く、予め設定されている以上の電流が予め設定されている時間以上流れて溶断する。また、本実施形態は、溶断部122をミアンダ形状にすることより長さを確保し、電気抵抗を高めている。パターンヒューズ12は、エッチングにより除かれた部分が空隙になっている。このような空隙の少なくとも一部には接着剤層Labが入り込んでいる。
【0019】
ただし、本実施形態は、溶断部122をミアンダ形状に限定するものではなく、プリント配線11よりも充分に高抵抗であって所定の溶断電流以上の電流が流れた場合に所定の溶断時間以下の時間で溶断するものであればどのような形状であってもよい。ただし、単にプリント配線11を細くしたパターンを溶断部122として機能させることは不適当であり、溶断部122は確実に所定の条件で溶断するようにプリント配線11及び細幅部121からの距離や折り返しの間隔が定められている。
プリント配線11及びパターンヒューズ12は、例えば、ベース基材10の一方の主面に銅箔を貼り付けた所謂銅貼り基板の上にレジスト材料を塗布し、露光してプリント配線11及びパターンヒューズ12に一致するレジストパターンを作成した後にエッチング液に浸漬することにより形成できる。また、パターンヒューズ12及びプリント配線11は、導電性のペーストをインクにしてベース基材10上に印刷することによっても形成できる。
【0020】
(カバー部材)
カバー部材13は、パターンヒューズの少なくとも一部をベース基材の反対の側から覆っている。本実施形態では、カバー部材13をベース基材10と同様に熱可塑性樹脂を含有するように構成していて、熱可塑性樹脂層単体であってもよいし、熱可塑性樹脂以外の樹脂を含む層であってもよい。なお、本実施形態では、カバー部材13をベース基材10と同種の材料であるPEN系樹脂としている。ここでいう同種の材料とは、単に熱可塑性樹脂材料というだけでは足りず、例えばPEN系樹脂やPET系樹脂といった樹脂の種類をいう。また、同種の材料とは、同じ種類の熱可塑性樹脂を同じ比率で混合した材料であってもよい。
【0021】
カバー部材13とベース基材10とを同種の材料とすることにより、本実施形態は、パターンヒューズ12が発熱した熱がパターンヒューズ12の周囲に均一に伝わってパターンヒューズ12の周囲の樹脂が均等に溶融する。
「パターンヒューズの少なくとも一部」とは、細幅部121及び溶断部122の全部であってもよいし、一部であってもよい。「パターンヒューズをベース基材の反対の側から覆う」とは、パターンヒューズ12と耐熱保護フィルム141との間でカバー部材13がパターンヒューズ12を覆うものであれば、パターンヒューズ12に隣接して直接覆うものであってもよいし、他の部材を介して間接的に覆うものであってもよい。
【0022】
(耐熱保護フィルム)
耐熱保護フィルム141は、パターンヒューズ12の少なくとも一部と重なる領域に設けられ、パターンヒューズ12をカバー部材13の側から覆う第一高耐熱部材として機能する。ここで、「少なくとも一部」は、パターンヒューズ12の一部または全てをいう。また、「重なる」は、直接接するように重なるものであってもよいし、間に他の部材を挟んで間接的に重なるものであってもよい。「パターンヒューズをカバー部材の側から覆う」とは、カバー部材13を挟んでパターンヒューズ12を覆うことをいう。
【0023】
耐熱保護フィルム142は、パターンヒューズ12の少なくとも一部と重なる領域に設けられ、ベース基材10の側からパターンヒューズ12を覆う第二の耐熱保護フィルムとして機能する。「ベース基材の側から覆う」とは、ベース基材10を挟んでパターンヒューズ12を覆うことをいう。このような本実施形態のプリント基板1は、熱可塑性樹脂のベース基材10及びカバー部材13で覆われたパターンヒューズ12をさらに耐熱保護フィルム141、142で上下方向から覆うものになる。
耐熱保護フィルム141、142としては、耐熱軟化性に優れ、その融点がカバー部材13及びベース基材10より高い、あるいは融点が存在しない材料である場合には熱分解温度がカバー部材13及びベース基材10の融点より高い部材が用いられる。
【0024】
本実施形態の耐熱保護フィルム141、142には、PI系樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、フッ素系樹脂を用いることができる。PI系樹脂は、高分子中で最高レベルの高い熱的、機械的、化学的性質を持つ。PI系樹脂には融点がなく、略500℃で熱分解する。また、PI系樹脂は、電子回路の絶縁材料とした場合に金属配線との熱膨張によるひずみが生じ難く、高い精度で配線加工が可能である。エポキシ系樹脂は、高分子内に残存させたエポキシ基で架橋ネットワーク化させることで硬化させることが可能な熱硬化性樹脂の総称である。エポキシ系樹脂は、略250℃から350℃で熱分解する。
例えば、カバー部材13にPEN系樹脂を、耐熱保護フィルム141、142にPI系樹脂を用いた場合、カバー部材13が略280℃で溶融し、耐熱保護フィルム141、142は溶融しないまま略480℃から500℃で熱分解する。このようなカバー部材13及び耐熱保護フィルム141、142は、上記条件を満たしている。
【0025】
本実施形態のプリント基板1は、ベース基材10上に銅箔を積層して形成された銅貼り基板を用い、銅箔をエッチングしてパターンヒューズ12及びプリント配線11を形成する。パターンヒューズ12及びプリント配線11の上層には接着剤層Labを介してカバー部材13が設けられている。カバー部材13の上層には接着剤層Laaを介して耐熱保護フィルム141が設けられている。カバー部材13は接着剤層Labによってパターンヒューズ12と接着され、ベース基材10と耐熱保護フィルム142とは接着剤層Ladによって接着されている。接着剤層Laa、Lab、Ladとしては、例えば、エポキシ系樹脂系、アクリル系樹脂系、PI系樹脂を材料とする接着剤やプリプレグが使用される。
【0026】
次に、以上説明したプリント基板1においてパターンヒューズ12が溶断する状態を説明する。パターンヒューズ12は、図1に示す溶断電流が流れると発熱する。予め高抵抗、溶断容易に設計されているパターンヒューズ12では、プリント配線11よりも先に溶断して溶断個所の前後が切り離される。
上記の動作において、溶断電流より低いものの、PI系樹脂である耐熱保護フィルム141、142が破損し得る高電流がパターンヒューズ12に流れる場合、パターンヒューズ12は溶断電流が流れた場合以上の時間をかけて溶断する。この時間内にカバー部材13及びベース基材10は溶融し、耐熱保護フィルム141、142とパターンヒューズ12との間で液化する。一方、カバー部材13及びベース基材10よりも熱分解温度が高い耐熱保護フィルム141、142は、カバー部材13及びベース基材10の溶融後も溶融、熱分解することなくパターンヒューズ12をカバーする。液化したカバー部材13及びベース基材10は、パターンヒューズ12の上層から移動して、パターンヒューズ12と耐熱保護フィルム141、142との間に空間が形成される。この空間の内部には空気層が形成され、空気層は、発熱したパターンヒューズ12と耐熱保護フィルム141、142との間で断熱部材として機能する。このことにより、耐熱保護フィルム141、142は、高電流が流れている間も破損し難くなってパターンヒューズ12が外部に露出することを防ぐことができる。
【0027】
本発明者らは、溶断中及び溶断後のパターンヒューズ12を、耐熱保護フィルム141の上から観察した。高電流が流れている場合、耐熱保護フィルム141が膨張することが視認される。このとき、カバー部材13及びベース基材10は溶融していると考えられるが、耐熱保護フィルム141の溶融や破損は認められなかった。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のプリント基板1は、可撓性を有するフィルム状の熱可塑性のベース基材10と、ベース基材10の主面に設けられた金属箔層で形成されたパターンヒューズ12と、パターンヒューズ12の少なくとも一部をベース基材10の反対の側から覆うカバー部材13と、を備えている。さらに、プリント基板1は、パターンヒューズ12の少なくとも一部と重なる領域に設けられ、パターンヒューズ12をカバー部材13の側から覆う耐熱保護フィルム141と、を備えている。
【0029】
このため、本実施形態は、カバー部材13を介することによって耐熱保護フィルム141をパターンヒューズ12に対して間隔を開けて配置することができる。そして、パターンヒューズ12が発熱してカバー部材13が溶融した場合、パターンヒューズ12と耐熱保護フィルム141との間に空隙を形成することができる。空隙が形成されることによってパターンヒューズ12の熱が耐熱保護フィルム141に伝わり難くなり、耐熱保護フィルム141が損なわれることを防いでパターンヒューズ12の露出を防ぐことができる。パターンヒューズ12の露出を防ぐことにより、本実施形態は、パターンヒューズ12が外気に触れて発火することを防ぐことができる。
以上のことにより、本実施形態のプリント基板1は、溶断電流以下の電流が溶断時間以上の間流れている場合にも発火やショートすることがなく、適切に機能する信頼性の高いプリント基板を提供することができる。
【0030】
また、このような本実施形態は、パターンヒューズ12の発生した熱が耐熱保護フィルム141によって外部に放出することを防ぐので、パターンヒューズ12に流れる電流と溶断にかかる時間との関係を安定させることができる。このため、本実施形態は、パターンヒューズ12の設計精度を高めることができる。
さらに、本実施形態は、ベース基材10の下側にも耐熱保護フィルム142を設けている。このため、パターンヒューズ12が下方から露出して発火することを防ぐとともに、パターンヒューズ12で発生した熱が下方から放熱することを防ぎ、パターンヒューズ12の設計精度をいっそうに高めることができる。
【0031】
(変形例1)
次に、以上説明した実施形態の変形例1を説明する。
図4は、変形例1のプリント基板5を説明するための断面図である。プリント基板5は、耐熱保護フィルム141用の接着剤層Laaが、パターンヒューズ12の一部と重なる領域に開口している開口孔23を有している。開口孔23は、接着剤層Laaの内部に形成された空隙である。このような構成は、接着剤が開口孔23上に塗布されることを防ぐレジストの上から接着剤を塗布して接着剤層Laaを形成することによって実現することができる。
このようなプリント基板5では、パターンヒューズ12の発熱によって細幅部121上にプリント基板1よりも短時間のうちに大きな空隙が形成され、高い断熱効果を得ることができる。このような変形例1のプリント基板5は、パターンヒューズ12が発生した熱が耐熱保護フィルム141を損なうことを防ぐ効果をより高めることができる。
【0032】
さらに、変形例1では、空気の他、開口孔23内にカバー部材13よりも熱伝導率が低い部材を充てんするようにしてもよい。このことにより、プリント基板5ではプリント基板1よりもパターンヒューズ12で発生した熱が上方の耐熱保護フィルム141に伝わり難くなり、耐熱保護フィルム141が熱分解し難くなる。このような部材としては、例えば、フェノール系樹脂やフィラーやマイカ等の無機粒子が考えられる。フェノール系樹脂は開口孔23が形成されたカバー部材13から塗布されるものであってもよいし、無機粒子は粉体や粒子としてカバー部材13の材料に混合されて塗布されるものであってもよい。
【0033】
ただし、開口孔23の径と接着剤層Laaの厚さとの比によっては開口孔23に接着剤層Laaを形成する接着剤が入り込み、開口孔23に充填される場合がある。開口孔23に接着剤が入り込むことを許容する場合、接着剤にカバー部材13よりも熱伝導性の低い材料を選択するか、または熱伝導性が低い材料を接着剤に混入することが好ましい。また、開口孔23に接着剤が入り込んで開口孔23を埋めることを許容しない場合、接着剤層Laaの厚さに応じて開口孔23の開口系を充分大きくし、パターンヒューズ12上に接着剤が入らないようにする。
【0034】
さらに、変形例では、図4に示すように、接着剤層Ladもパターンヒューズ12の一部と重なる領域に開口している開口孔24を有している。開口孔24は、開口孔23と同様に、接着剤層Ladの内部に形成された空隙であって、接着剤が開口孔24上に塗布されることを防ぐレジストの上から接着剤を塗布して接着剤層Ladを形成することによって実現することができる。
接着剤層Ladに開口孔24を備えるプリント基板5は、パターンヒューズ12が発生する熱によってベース基材10の溶融後、プリント基板1よりも短時間のうちにパターンヒューズ12の下方に空隙が形成される。空隙には空気またはベース基材10から放出された気体が充てんされ、空隙はパターンヒューズ12が発生した熱が耐熱保護フィルム142に伝わり難くする。
このような変形例のプリント基板5は、パターンヒューズ12の上下において断熱性を高め、耐熱保護フィルム141、142が損なわれることをより確実に防ぐことができる。
【0035】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)可撓性を有するフィルム状の熱可塑性のベース基材と、前記ベース基材の主面に設けられた金属箔層で形成されたパターンヒューズと、前記パターンヒューズの少なくとも一部を前記ベース基材の反対の側から覆うカバー部材と、前記パターンヒューズの少なくとも一部と重なる領域に設けられ、前記パターンヒューズを前記カバー部材の側から覆う第一の耐熱保護フィルムと、を備える、プリント基板。
(2)前記カバー部材は、熱可塑性樹脂を含有する、(1)のプリント基板。
(3)前記カバー部材と前記第一の耐熱保護フィルムとが、熱可塑性の第一耐熱保護フィルム用接着剤で接合されている、(1)または(2)のいずれか一つのプリント基板。
(4)前記第一耐熱保護フィルム用接着剤は、前記パターンヒューズの一部と重なる領域に開口している開口孔を有する、(3)のプリント基板。
(5)前記パターンヒューズの少なくとも一部と重なる領域に設けられ、前記ベース基材の側から前記パターンヒューズを覆う第二の耐熱保護フィルムを備える、(1)から(4)のいずれか一つのプリント基板。
(6)前記ベース基材は熱可塑性樹脂を含有する、(1)から(5)のいずれか一つのプリント基板。
(7)前記ベース基材と前記第二の耐熱保護フィルムとが、熱可塑性の第二耐熱保護フィルム用接着剤で接合されている、(5)または(6)のプリント基板。
(8)前記第二耐熱保護フィルム用接着剤は、前記パターンヒューズの一部と重なる領域に開口している開口孔を有する、(7)のプリント基板。
(9)前記ベース基材及び前記カバー部材は、同種の材料である、(1)から(8)のいずれか一つのプリント基板。
【符号の説明】
【0036】
1、5・・・プリント基板
10・・・ベース基材
11・・・プリント配線
12・・・パターンヒューズ
13・・・カバー部材
23・・・開口孔
121・・・細幅部
122・・・溶断部
141、142・・・耐熱保護フィルム
Laa、Lab、Lad・・・接着剤層
図1
図2
図3
図4