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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 517
H01G4/30 201M
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 311Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020032929
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136375
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201134(JP,A)
【文献】特開2019-212716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造を備え、
前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージンに添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量部に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さく、
(前記容量部の最大配合量の希土類元素のイオン半径):(前記サイドマージンの最大配合量の希土類元素のイオン半径)は、「1」:「0.987以下」であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
(前記容量部の最大配合量の希土類元素のイオン半径):(前記サイドマージンの最大配合量の希土類元素のイオン半径)は、「1」:「0.96以下」であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記サイドマージンにおいて、最大配合量の希土類元素の存在量を、Bサイト元素の存在量との比で0.001以上、0.05以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記サイドマージンにおける最大配合量の希土類元素は、Er、YbまたはLuであり、前記容量部における最大配合量の希土類元素は、DyまたはHoであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記サイドマージンにおける最大配合量の希土類元素は、Tb、Dy、Ho、Y、Er、YbまたはLuであり、前記容量部における最大配合量の希土類元素は、Euであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記積層構造の積層方向の上面および下面の少なくとも一方に設けられたカバー層を備え、
前記カバー層に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、前記容量部に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記容量部の最大配合量の希土類元素は、前記容量部の内側での濃度が高く、前記容量部と前記サイドマージンとの境界付近では前記容量部から前記サイドマージンに向かって濃度が徐々に低下し、前記サイドマージンの外側に向かって濃度がさらに低下し、
前記サイドマージンの最大配合量の希土類元素は、前記サイドマージンの内側での濃度が高く、前記サイドマージンと前記容量部との境界付近では前記サイドマージンから前記容量部に向かって濃度が徐々に低下し、前記容量部の内側に向かって濃度がさらに低下することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記サイドマージンにおける最大配合量の希土類元素はYであり、前記容量部における最大配合量の希土類元素はDyであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
セラミックを主成分とする粒子を有するシートと金属導電ペーストのパターンとが、前記金属導電ペーストが対向する2端面に露出するように交互に積層された積層部分と、前記積層部分の側面に配置されたサイドマージン領域と、を含むセラミック積層体を準備する工程と、
前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、
前記サイドマージン領域に含まれる希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、前記積層部分に含まれる希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さく、
(前記積層部分の最大配合量の希土類元素のイオン半径):(前記サイドマージン領域の最大配合量の希土類元素のイオン半径)は、「1」:「0.987以下」であることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品は、例えば、内部電極層が誘電体層を挟んで積層された容量部と、内部電極層の側部を保護するサイドマージンと、を有する(例えば、特許文献1参照)。例えば、同じ希土類元素を容量部およびサイドマージンに添加することで、焼成における材料元素の分布ムラを無くし希土類元素添加による信頼性向上効果を得る技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-209539号公報
【文献】特開2017-011172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、積層密度が高まっている昨今のセラミック電子部品では、焼結の進行が容量部で早く、サイドマージンで遅くなる現象が生じる。例えば、脱バインダ過程が容量部で遅れることにより、容量部の焼成中の雰囲気がサイドマージンよりも還元側に振れやすくなるからである。サイドマージンで焼結の進行が遅れると、サイドマージンの緻密化が進まず、寿命特性、高温耐湿特性などの信頼性が悪化するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造を備え、前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージンに添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量部に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、(前記容量部の最大配合量の希土類元素のイオン半径):(前記サイドマージンの最大配合量の希土類元素のイオン半径)は、「1」:「0.999以下」としてもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品の前記サイドマージンにおいて、最大配合量の希土類元素の存在量を、Bサイト元素の存在量との比で0.001以上、0.05以下としてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記サイドマージンにおける最大配合量の希土類元素は、Er、YbまたはLuであり、前記容量部における最大配合量の希土類元素は、DyまたはHoであってもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記サイドマージンにおける最大配合量の希土類元素は、Tb、Dy、Ho、Y、Er、YbまたはLuであり、前記容量部における最大配合量の希土類元素は、Euであってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムとしてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記積層構造の積層方向の上面および下面の少なくとも一方に設けられたカバー層を備え、前記カバー層に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、前記容量部に添加された希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さくてもよい。
【0013】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミックを主成分とする粒子を有するシートと金属導電ペーストのパターンとが、前記金属導電ペーストが対向する2端面に露出するように交互に積層された積層部分と、前記積層部分の側面に配置されたサイドマージン領域と、を含むセラミック積層体を準備する工程と、前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、前記サイドマージン領域に含まれる希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径は、前記積層部分に含まれる希土類元素のうち最大配合量の希土類元素のイオン半径よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)はエンドマージンの断面の拡大図である。
図5】容量部およびサイドマージンにおける希土類元素濃度を提示する図である。
図6】容量部およびサイドマージンにおける希土類元素濃度を提示する図である。
図7】容量部およびサイドマージンにおける希土類元素濃度を提示する図である。
図8】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図9】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図10】積層工程を例示する図である。
図11】積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0017】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0018】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0019】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0020】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12の平均厚みは、例えば、1μm以下である。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11の平均厚みは、例えば、1μm以下である。
【0021】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0022】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0023】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0024】
図4(a)は、サイドマージン16の断面の拡大図である。サイドマージン16は、誘電体層11と逆パターン層17とが、容量部14における誘電体層11と内部電極層12との積層方向において交互に積層された構造を有する。容量部14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量部14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0025】
図4(b)は、エンドマージン15の断面の拡大図である。サイドマージン16との比較において、エンドマージン15では、積層される複数の内部電極層12のうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12が延在する。また、内部電極層12がエンドマージン15の端面まで延在する層では、逆パターン層17が積層されていない。容量部14の各誘電体層11とエンドマージン15の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量部14とエンドマージン15との段差が抑制される。
【0026】
容量部14およびサイドマージン16は、粉末材料を焼結させることによって得ることができる。積層セラミックコンデンサ100の信頼性向上のために希土類元素を添加する際に、容量部14およびサイドマージン16に同一の希土類元素を添加することで、焼成における材料元素の分布ムラを抑制して希土類元素添加による信頼性向上効果を最大化することが考えられる。しかしながら、積層密度が高まっている積層セラミックコンデンサ100では、焼結の進行が容量部14で早く、サイドマージン16で遅くなる現象が生じる。例えば、脱バインダ過程が容量部で遅れることにより、容量部14の焼成中の雰囲気がサイドマージン16よりも還元側に振れやすくなるからである。サイドマージン16で焼結の進行が遅れると、サイドマージン16の緻密化が進まず、寿命特性、高温耐湿特性などの信頼性が悪化するおそれがある。
【0027】
そこで、サイドマージン16に、焼結助剤として作用するSi(ケイ素)やガラス成分を添加する手法が考えられる。焼結助剤は、サイドマージン16の焼結緻密化を促進する作用を有している。しかしながら、この手法では、容量部14の組成とサイドマージン16の組成との差異によって焼成中に拡散が生じる。焼結助剤として作用するSiやガラス成分は容量部14へ拡散すると過剰な粒成長や誘電率の低下を引き起こすおそれがある。この場合、積層セラミックコンデンサ100の電気特性が悪化するおそれがある。
【0028】
そこで、希土類元素を添加することが考えられる。希土類元素は、積層セラミックコンデンサ100の信頼性確保のために添加される添加元素である。また、希土類元素は、積層セラミックコンデンサ100の信頼性を向上させる一方で、緻密化完了温度を上昇させて緻密化を遅らせる効果を有する。以下、希土類元素添加の作用について検討する。
【0029】
まず、図5は、容量部14およびサイドマージン16に、同一の希土類元素を均一濃度となるように添加する場合を例示する図である。図5において、横軸は、積層チップ10の側面(外郭)からの距離を表している。すなわち、図5の横軸は、サイドマージン16の表面から容量部14に向かう方向の距離を表している。サイドマージン16と容量部14との境界は、「30μm」辺りである。図5の縦軸は、希土類元素の濃度を表しており、容量部14およびサイドマージン16における希土類元素の最大濃度を100%とした場合の数値を表している。図5の例では、容量部14およびサイドマージン16における希土類元素濃度が均一であるため、いずれの位置においても希土類元素濃度は100%となっている。このような構造では、上述したように容量部14の焼成中の雰囲気がサイドマージン16よりも還元側に振れた場合にサイドマージン16の緻密化が遅れてしまい、信頼性が悪化する。
【0030】
そこで、図6で例示するように、容量部14では希土類元素の添加量を多くし、サイドマージン16では希土類元素の添加量を少なくすることが考えられる。図6の例では、容量部14では希土類元素の添加量が多く、容量部14とサイドマージン16との境界付近では容量部14からサイドマージン16に向かって希土類元素の添加量が徐々に低下し、サイドマージン16の外側に向かって希土類元素の添加量がさらに低下する。この構造では、サイドマージン16における緻密化の遅れは抑制されるものの、サイドマージン16における希土類元素が不足するために信頼性が悪化してしまう。
【0031】
そこで、本実施形態においては、添加する希土類元素のイオン半径を規定する。希土類元素のイオン半径が小さいと、相対的にイオン半径が小さいBサイトに固溶する比率が高くなる。希土類元素のイオン半径が大きいと、相対的にイオン半径が大きいAサイトに固溶する比率が高くなる。ペロブスカイト構造のABOにおいて、結晶構造に起因して、Aサイトの拡散速度は、Bサイトの拡散速度よりも高くなる。したがって、イオン半径の小さい希土類元素を添加すると、焼結が促進されるようになる。
【0032】
容量部14に添加された希土類元素のうち最大配合量のものを、容量部14における第1希土類元素と称する。すなわち、容量部14に一種類の希土類元素が添加されていれば、当該希土類元素が容量部14における第1希土類元素である。容量部14に複数種類の希土類元素が添加されていれば、最大添加量の希土類元素が容量部14における第1希土類元素である。
【0033】
次に、サイドマージン16に添加された希土類元素のうち最大配合量のものを、サイドマージン16における第1希土類元素と称する。すなわち、サイドマージン16に一種類の希土類元素が添加されていれば、当該希土類元素がサイドマージン16における第1希土類元素である。サイドマージン16に複数種類の希土類元素が添加されていれば、最大添加量の希土類元素がサイドマージン16における第1希土類元素である。
【0034】
本実施形態においては、サイドマージン16の第1希土類元素の3価イオン半径を、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径よりも小さくする。例えば、図7で例示するように、容量部14の第1希土類元素は、容量部14での濃度が高く、容量部14とサイドマージン16との境界付近では容量部14からサイドマージン16に向かって濃度が徐々に低下し、サイドマージン16の外側に向かって濃度がさらに低下する。また、サイドマージン16の第1希土類元素は、サイドマージン16での濃度が高く、サイドマージン16と容量部14との境界付近ではサイドマージン16から容量部14に向かって濃度が徐々に低下し、容量部14の内側に向かって濃度がさらに低下する。これにより、サイドマージン16の焼結が促進され、容量部14の焼結進行度とサイドマージン16の焼結進行度との差が抑制され、希土類添加による信頼性向上効果を高めることができる。
【0035】
希土類元素として、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Y(イットリウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Sc(スカンジウム)などを用いることができる。表1は、各希土類元素の3価6配位のイオン半径を示す。表1の出典は、「R.D.Shannon,Acta Crystallogr.,A32,751(1976)」である。
【表1】
【0036】
なお、容量部14の焼結進行度とサイドマージン16の焼結進行度との差をより抑制する観点から、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径と、サイドマージン16の第1希土類元素の3価イオン半径との差が大きい方が好ましい。例えば、(容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径):(サイドマージン16の第1希土類元素の3価イオン半径)を、「1」:「0.999以下」とすることが好ましく、「1」:「0.993以下」とすることがより好ましい。
【0037】
なお、サイドマージン16における希土類元素の添加量が多すぎると、サイドマージン16の緻密化が阻害され、耐湿特性が悪化するといった不具合が生じるおそれがある。そこで、サイドマージン16における第1希土類元素の添加量に上限を設けることが好ましい。例えば、サイドマージン16において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素(例えば、チタン酸バリウムの場合にはTi)の存在量との比で0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましく、0.015以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
一方、サイドマージン16における希土類元素添加による信頼性向上効果を高める観点から、サイドマージン16における第1希土類元素の添加量に下限を設けることが好ましい。例えば、サイドマージン16において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素の存在量との比で0.001以上とすることが好ましく、0.005以上とすることがより好ましく、0.0095以上とすることがさらに好ましい。
【0039】
なお、サイドマージン16全体における第1希土類元素濃度は、容量部14全体における第1希土類元素濃度に近いことが好ましい。例えば、本実施形態においては、サイドマージン16全体における第1希土類元素濃度と、容量部14全体における第1希土類元素濃度との比は、0.5:1.0~1.0:0.5の範囲にあることが好ましく、0.8:1.0~1.0:0.8の範囲にあることがより好ましく、0.95:1.0~1.0:0.95の範囲にあることがさらに好ましい。
【0040】
容量部14における第1希土類元素の添加量が多すぎると、誘電率が低下するおそれがある。そこで、容量部14における第1希土類元素の添加量に上限を設けることが好ましい。例えば、容量部14において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素の存在量との比で、0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましく、0.015以下とすることがさらに好ましい。一方、容量部14における第1希土類元素の添加量が少なすぎると、寿命特性向上の効果が十分に得られないおそれがある。そこで、容量部14における第1希土類元素の添加量に下限を設けることが好ましい。例えば、容量部14において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素の存在量との比で0.001以上とすることが好ましく、0.005以上とすることがより好ましく、0.0095以上とすることがさらに好ましい。
【0041】
容量部14およびサイドマージン16における主成分セラミックがチタン酸バリウムである場合、容量部14における第1希土類元素はDy,Hoなどが好ましく、サイドマージン16における第1希土類元素はEr,Yb,Luなどが好ましい。または、容量部14における第1希土類元素はEuであってもよく、サイドマージン16における第1希土類元素はTb,Dy,Ho,Y,Er,YbまたはLuであってもよい。この場合、サイドマージン16の焼結性が向上し、焼成温度を高めずにサイドマージン16を緻密化できるため、サイドマージン16についてグレインサイズが小さく緻密な構造が得られる。この構造では、粒界が多く、サイドマージン16の抵抗値を高く保つことができる。また外部から水蒸気が侵入することを防ぐことができる。
【0042】
なお、カバー層13と容量部14との関係において、脱バインダ過程が容量部14で遅れるおそれがある。この場合、容量部14の焼成中の雰囲気がカバー層13よりも還元側に振れやすく、そのため焼結の進行が容量部14で早く、カバー層13で遅くなる現象が生じる。このような焼結状態となると、カバー層13の焼結緻密化が進まず、寿命特性、高温耐湿特性などの信頼性の悪化が生じるおそれがある。
【0043】
そこで、カバー層13に添加された希土類元素のうち最大配合量のもの(カバー層13における第1希土類元素)の3価イオン半径を、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径よりも小さくすることが好ましい。この場合、カバー層13の焼結が促進され、容量部14の焼結進行度とカバー層13の焼結進行度との差が抑制され、希土類添加による信頼性向上効果を高めることができる。
【0044】
なお、容量部14の焼結進行度とカバー層13の焼結進行度との差をより抑制する観点から、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径と、カバー層13の第1希土類元素の3価イオン半径との差が大きい方が好ましい。例えば、(容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径):(カバー層13の第1希土類元素の3価イオン半径)を、「1」:「0.999以下」とすることが好ましく、「1」:「0.993以下」とすることがより好ましい。
【0045】
なお、カバー層13における希土類元素の添加量が多すぎると、カバー層13の緻密化が阻害され、耐湿特性が悪化するといった不具合が生じるおそれがある。そこで、カバー層13における第1希土類元素の添加量に上限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素(例えば、チタン酸バリウムの場合にはTi)の存在量との比で0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましく、0.015以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
一方、カバー層13における希土類元素添加による信頼性向上効果を高める観点から、カバー層13における第1希土類元素の添加量に下限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13において、第1希土類元素の存在量をBサイト元素の存在量との比で0.001以上とすることが好ましく、0.005以上とすることがより好ましく、0.0095以上とすることがさらに好ましい。
【0047】
なお、カバー層13全体における第1希土類元素濃度と、容量部14全体における第1希土類元素濃度との比は、0.5:1.0~1.0:0.5の範囲にあることが好ましく、0.8:1.0~1.0:0.8の範囲にあることがより好ましく、0.95:1.0~1.0:0.95の範囲にあることがさらに好ましい。
【0048】
容量部14およびカバー層13における主成分セラミックがチタン酸バリウムである場合、容量部14における第1希土類元素はDy,Hoなどが好ましく、カバー層13における第1希土類元素はEr,Yb,Luなどが好ましい。または、容量部14における第1希土類元素はEuであってもよく、カバー層13における第1希土類元素はTb,Dy,Ho,Y,Er,YbまたはLuであってもよい。この場合、カバー層13の焼結性が向上し、焼成温度を高めずにカバー層13を緻密化できるため、カバー層13についてグレインサイズが小さく緻密な構造が得られる。この構造では、粒界が多く、カバー層13の抵抗値を高く保つことができる。また外部から水蒸気が侵入することを防ぐことができる。
【0049】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図8は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0050】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体材料は、誘電体層11の主成分セラミックを含む。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0051】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr(ジルコニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0052】
次に、エンドマージン15およびサイドマージン16を形成するためのマージン材料を用意する。マージン材料は、エンドマージン15およびサイドマージン16の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO粉を作製する。BaTiO粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0053】
次に、カバー層13を形成するためのカバー材料を用意する。カバー材料は、カバー層13の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO粉を作製する。BaTiO粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、カバー材料として、上述したマージン材料を用いてもよい。
【0054】
(積層工程)
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0055】
次に、図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の第1パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0056】
次に、原料粉末作製工程で得られたマージン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層17用のマージンペーストを得る。図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域にマージンペーストを印刷することで第2パターン53を配置し、第1パターン52との段差を埋める。
【0057】
その後、図9(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を積層していく。例えば、誘電体グリーンシート51の積層数を100~500層とする。
【0058】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み10μm以下の帯状のカバーシート54を塗工して乾燥させる。図10で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に外部電極20a,20bとなる金属導電ペーストを、カットした積層体の両側面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート54を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0059】
図9(a)~図10の手法では、誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52に対応する部分と、第1パターン52と、が積層された領域が、BaTiO粒子を主成分セラミックとするシートと金属導電ペーストのパターンとが交互に積層された積層部分に相当する。誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52よりも外側にはみ出した部分と、第2パターン53と、が積層された領域が、積層部分の側面に配置されたサイドマージン領域に相当する。
【0060】
サイドマージン領域は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、図11で例示するように、誘電体グリーンシート51と、当該誘電体グリーンシート51と同じ幅の第1パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、サイドマージンペーストで形成したシートを貼り付ける、またはサイドマージンペーストを塗布することで、サイドマージン領域を形成してもよい。サイドマージンペーストには、マージンペーストを用いることができる。サイドマージンペーストのうち、誘電体グリーンシート51と第1パターン52とが積層された積層部分の側面に形成された部分が、サイドマージン領域に相当する。
【0061】
なお、図9(a)~図11のいずれの手法であっても、サイドマージン16の第1希土類元素の3価イオン半径が、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径よりも小さくなるように、原料粉末作製工程において添加元素の添加量を調整しておく。また、カバー層13の第1希土類元素の3価イオン半径が、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径よりも小さくなるように、原料粉末作製工程において添加元素の添加量を調整しておくことが好ましい。
【0062】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となるNiペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0063】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0064】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0065】
本実施形態に係る製造方法によれば、サイドマージン16の焼結が促進され、容量部14の焼結進行度とサイドマージン16の焼結進行度との差が抑制され、希土類添加による信頼性向上効果を高めることができる。また、カバー層13の焼結が促進され、容量部14の焼結進行度とカバー層13の焼結進行度との差が抑制され、希土類添加による信頼性向上効果を高めることができる。
【0066】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0067】
まず、イオン半径の相違による焼結緻密化温度の相違について確認した。
【0068】
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してマージン材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0069】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの第1パターン52を印刷した。第1パターン52の位置が交互にずれるように、第1パターン52が印刷された誘電体グリーンシート51を500枚重ねた。カバー材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてカバーシート54を作製した。その後、重ねた誘電体グリーンシート51の上下に、カバーシート54を積層して熱圧着し、積層体を作成した。
【0070】
カバーシート54と誘電体グリーンシート51と第1パターン52とが同じ幅となるように、積層体をカットした。その後、マージン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練してサイドマージンペーストを作製し、カット後の積層体の側面に、ペーストで形成したシートを貼り付けた。その後、1200℃の還元雰囲気で焼成を行うことでチップを作製した。
【0071】
添加物として添加する希土類の種類ごとに、同様の工程を繰り返してチップを作製した。各チップのサイドマージン16の中央部の残留ポアの量をSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)で定量化した。SEMはチップ中央部を断面研磨したチップで観察し、画像処理ソフトImageJを用いてサイドマージン16の面積とそこに残留しているポアを数値化した。サイドマージン16の面積に対する、ポア面積を残留ポア率として、各希土類間の比較数値として用いた。
【0072】
このサイドマージン16の中央部の残留ポア率の数値が低いほうがより緻密化が進んだと判断した。緻密化温度の判断基準については、同一焼成温度において緻密化が進んでいれば焼結温度が低下したと判断し、同一焼成温度において緻密化が遅れていれば焼結温度が上昇したと判断した。
【0073】
結果を表2、表3、表4および表5に示す。表2では、Hoを添加した場合の焼結緻密化温度を基準として、焼結緻密化温度が高いか低いかを確認した。表2に示すように、Hoよりもイオン半径の大きい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が高くなっていることがわかる。一方、Hoよりもイオン半径の小さい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が低くなっていることがわかる。また、表2では、Hoのイオン半径に対する、各希土類元素のイオン半径の比も合わせて記載してある。
【表2】
【0074】
表3では、Dyを添加した場合の焼結緻密化温度を基準として、焼結緻密化温度が高いか低いかを確認した。表3に示すように、Dyよりもイオン半径の大きい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が高くなっていることがわかる。一方、Dyよりもイオン半径の小さい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が低くなっていることがわかる。また、表3では、Dyのイオン半径に対する、各希土類元素のイオン半径も比も合わせて記載してある。
【表3】
【表4】
【表5】
【0075】
表4では、Euを添加した場合の焼結緻密化温度を基準として、焼結緻密化温度が高いか低いかを確認した。表4に示すように、Euよりもイオン半径の大きい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が高くなっていることがわかる、一方、Euよりもイオン半径の小さい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が低くなっていることがわかる。また、表4では、Euのイオン半径に対する、各希土類元素のイオン半径も比も合わせて記載してある。
【0076】
表5では、Laを添加した場合の焼結緻密化温度を基準として、焼結緻密化温度が高いか低いかを確認した。表5に示すように、Laよりもイオン半径の小さい希土類元素を添加した場合には、焼結緻密化温度が低くなっていることがわかる。また、表5では、Laのイオン半径に対する、各希土類元素のイオン半径も比も合わせて記載してある。
【0077】
表2、表3、表4および表5の結果から、イオン半径の小さい希土類元素を添加する場合には焼結緻密化温度が低くなり、イオン半径の大きい希土類元素を添加する場合には焼結緻密化温度が高くなることがわかる。焼結緻密化温度が低くなることは、焼結の進行が促進されることを意味する。焼結緻密化温度が高くなることが、焼結の進行が抑制されることを意味する。
【0078】
続いて、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0079】
(実施例)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してマージン材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0080】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの第1パターン52を印刷した。第1パターン52の位置が交互にずれるように、第1パターン52が印刷された誘電体グリーンシート51を500枚重ねた。カバー材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてカバーシート54を作製した。その後、重ねた誘電体グリーンシート51の上下に、カバーシート54を積層して熱圧着し、積層体を作成した。
【0081】
カバーシート54と誘電体グリーンシート51と第1パターン52とが同じ幅となるように、積層体をカットした。その後、マージン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練してサイドマージンペーストを作製し、カット後の積層体の側面に、ペーストで形成したシートを貼り付けた。その後、焼成を行った。
【0082】
実施例においては、(サイドマージン16における第1希土類元素のイオン半径)/(容量部14における第1希土類元素のイオン半径)が0.96となるように、誘電体材料にはHoを添加し、マージン材料にはYbを添加した。
【0083】
(比較例1)
比較例1では、(サイドマージン16における第1希土類元素のイオン半径)/(容量部14における第1希土類元素のイオン半径)が1となるように、誘電体材料およびマージン材料にHoを添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0084】
(比較例2)
比較例2では、マージン材料に希土類を添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0085】
(相対密度分析)
実施例および比較例1,2のサンプルについて、サイドマージン16の積層方向中央部分の相対密度を、気孔が含まれていない場合を100%と仮定して測定した。測定方法は、チップ中央部を断面研磨した後、SEM観察を行い、視野内のサイドマージン面積とポア面積を測定しその比率を相対密度とした。相対密度は、以下の式で表すことができる。画像処理ソフトとしては、ImageJを用いた。
ポア総面積/サイドマージン面積
【0086】
(寿命特性)
実施例および比較例1,2に対して、温度125℃の環境下で8Vの電圧を印加し、投入個数100個のうちの50%が故障するまでの時間を測定した。上記の条件下で1mA以上の電流が流れた場合に「故障」と判定した。
【0087】
(高温耐湿特性)
実施例および比較例1,2に対して、温度=85℃、相対湿度85%の環境下で4Vを印加した状態で17時間保持し、その後に取り出して絶縁抵抗計で直流抵抗を計測し、1MΩ以下となったサンプルを不良としてカウントした。
【0088】
表6は、各結果を示す。比較例1では、サイドマージン16の積層方向中央部分の相対密度が94.60%と低くなった。これは、容量部14およびサイドマージン16に同一の希土類元素を添加したことで、サイドマージン16の緻密化が遅れたからであると考えられる。また、比較例1では、高温耐湿特性が悪化し、信頼性が低下した。これは、サイドマージン16の緻密化が遅れたからであると考えられる。
【表6】
【0089】
比較例2では、サイドマージン16の積層方向中央部分の相対密度が99.40%と高くなった。これは、サイドマージン16に希土類元素を添加しなかったことで、サイドマージン16の緻密化が遅れなかったからであると考えられる。しかしながら、寿命特性が悪化し、信頼性が低下した。これは、サイドマージン16に、信頼性向上効果をもたらす希土類元素を添加しなかったからであると考えられる。
【0090】
これらに対して、実施例では、サイドマージン16の積層方向の相対密度が98.20%と高くなり、高温耐湿特性が良好となって信頼性が向上した。これは、サイドマージン16における第1希土類元素のイオン半径を容量部14における第1希土類元素のイオン半径よりも小さくしたことで、サイドマージン16の緻密化の遅れが抑制されたからであると考えられる。また、実施例では、寿命特性も良好となって信頼性が向上した。これは、サイドマージン16に、信頼性向上効果をもたらす希土類元素を添加したからであると考えられる。
【0091】
以上の結果から、サイドマージン16の第1希土類元素の3価イオン半径を、容量部14の第1希土類元素の3価イオン半径よりも小さくすることで、サイドマージン16の焼結が促進され、容量部14の焼結進行度とサイドマージン16の焼結進行度との差が抑制され、希土類添加による信頼性向上効果を高めることができることがわかった。
【0092】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量部
15 エンドマージン
16 サイドマージン
17 逆パターン層
20a,20b 外部電極
51 誘電体グリーンシート
52 第1パターン
53 第2パターン
54 カバーシート
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11