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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/00 20060101AFI20240208BHJP
   F16J 15/3296 20160101ALI20240208BHJP
   G01M 3/40 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F16J15/00 E
F16J15/3296
G01M3/40 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020037676
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139751
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】中村 学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅也
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0026710(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0167614(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0015840(US,A1)
【文献】国際公開第2016/143088(WO,A1)
【文献】特開昭62-298737(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109115431(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46-15/53
G01M 3/00-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持するハウジングと、
前記回転軸と前記ハウジングとの隙間に配置されるオイルシールと、
前記回転軸の軸心に平行な軸方向において前記オイルシールの外側に配置されるオイル漏れ検出装置と、
を備え、
前記オイル漏れ検出装置は、
前記ハウジングに取り付けられ、N極とS極とが対向する一対の永久磁石と、
前記回転軸に取り付けられる複数の整流子と、
前記回転軸の軸心を中心とする径方向における前記一対の永久磁石の内側において前記回転軸に巻き回され、前記複数の整流子と電気的に接続されるコイルと、
前記ハウジングに取り付けられ、前記複数の整流子それぞれと接触可能な一対のブラシと、
前記一対のブラシと前記ハウジングとの間に流れる誘導電流を検出する電流センサと、
を有する、
動力伝達装置。
【請求項2】
前記一対のブラシは、前記ハウジングに接続された第1ブラシと、前記ハウジングから離れた第2ブラシとを含み、
前記第2ブラシは、ブラシ本体と、前記ブラシ本体から前記ハウジングに向かって延びる端子部とを有する、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1ブラシは、前記回転軸よりも上方に配置され、
前記第2ブラシは、前記回転軸よりも下方に配置される、
請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記電流センサは、前記ハウジング外に配置されるセンサ本体と、前記センサ本体から前記隙間まで延びる端子部とを有する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記電流センサは、前記誘導電流によって起動する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記電流センサは、前記誘導電流を検出したことをコントローラに対して無線で通知する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記一対のブラシは、絶縁性の吸油材を介して前記ハウジングに取り付けられる、
請求項1乃至6のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記オイル漏れ検出装置は、前記軸心を中心とする周方向における前記複数の整流子の隙間に配置されるダミー整流子を有する、
請求項1乃至7のいずれかに記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両では、動力伝達装置のハウジングと回転軸との隙間からハウジング内のオイルが外部に漏れないようシールが設けられている。動力伝達装置とは、例えば、トランスミッション又はアクスルである。回転軸とは、例えば、ハウジングによって回転可能に支持される出力軸又は入力軸である。
【0003】
特許文献1では、ハウジングに取り付けられた複数の固定側環状体と出力軸に取り付けられた複数の回転側環状体とが交互に入り込むことによって構成されるラビリンス構造を有するシールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭63-128320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハウジングと回転軸との隙間からのオイル漏れを完全に防止することは困難であるため、迅速にオイル漏れの発生を検出することが重要である。
【0006】
本開示は、迅速にオイル漏れの発生を検出可能な動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る動力伝達装置は、回転軸と、回転軸を回転可能に支持するハウジングと、回転軸とハウジングとの隙間に配置されるオイルシールと、回転軸の軸心に平行な軸方向においてオイルシールの外側に配置されるオイル漏れ検出装置とを備える。オイル漏れ検出装置は、N極とS極とが対向する一対の永久磁石と、複数の整流子と、コイルと、一対のブラシと、電流センサとを有する。一対の永久磁石は、ハウジングに取り付けられる。複数の整流子は、回転軸に取り付けられる。コイルは、回転軸の軸心を中心とする径方向における一対の永久磁石の内側において回転軸に巻き回され、複数の整流子と電気的に接続される。一対のブラシは、ハウジングに取り付けられ、複数の整流子それぞれと接触可能である。電流センサは、一対のブラシとハウジングとの間に流れる誘導電流を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、迅速にオイル漏れの発生を検出可能な動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るホイールローダの側面図
図2】実施形態に係るトランスミッションの断面図
図3図2の部分拡大図
図4図3の部分拡大図
図5図4のA-A断面図
図6図4のB-B断面図
図7】オイル漏れが生じた状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ホイールローダ1の構成)
図1は、本実施形態に係るホイールローダ1の側面図である。図1では、ホイールローダ1の動力伝達系統が模式的に示されている。以下の説明において、「前」「後」とは、運転席に着座したオペレータから見た「前」「後」と同じである。
【0011】
ホイールローダ1は、車体2、バケット3、作業機駆動機構4及びキャブ5を備える。車体2は、前部車体と後部車体とを有する。車体2の前方には、油圧式の作業機駆動機構4を介して、掘削及び積込に用いられるバケット3が取り付けられる。作業機駆動機構4は、ブーム、ベルクランク、連結リンク、バケットシリンダ、ブームシリンダなどによって構成される。
【0012】
車体2には、オペレータが乗り込む箱状のキャブ5が配置される。車体2の後端部には、エンジンルーム6が設けられる。エンジンルーム6には、動力源であるエンジン7が収容される。本実施形態において、エンジン7のクランクシャフト(不図示)は前後方向に沿って配置されている。
【0013】
エンジン7の動力は、プロペラシャフト8を介してトランスミッション9に伝達される。トランスミッション9から出力される動力の一部は、出力軸10を介してリアドライブシャフト11に伝達される。リアドライブシャフト11に伝達された動力は、リアアクスル12を介して後輪に伝達される。トランスミッション9から出力される動力の一部は、出力軸10を介してフロントドライブシャフト14に伝達される。フロントドライブシャフト14に伝達された動力は、フロントアクスル15を介して前輪に伝達される。
【0014】
本実施形態において、トランスミッション9、出力軸10、リアドライブシャフト11、リアアクスル12、フロントドライブシャフト14及びフロントアクスル15は、本実施形態に係る「動力伝達装置」を構成する。
【0015】
(トランスミッション9の構成)
図2は、本実施形態に係るトランスミッション9の全体構成を示す断面図である。図3は、図2の部分拡大図である。
【0016】
トランスミッション9は、ハウジング20、入力軸21、トルクコンバータ22、第1中間軸23、第2中間軸24、第3中間軸25及び出力軸10を備える。入力軸21、トルクコンバータ22、第1中間軸23、第2中間軸24、第3中間軸25及び出力軸10は、エンジン7からの動力を伝達する。
【0017】
ハウジング20は、入力軸21、トルクコンバータ22、第1中間軸23、第2中間軸24、第3中間軸25及び出力軸10を収容する。ハウジング20の内部には、入力軸21、トルクコンバータ22、第1中間軸23、第2中間軸24、第3中間軸25及び出力軸10を収容するための内部空間20Rが形成されている。内部空間20Rには、潤滑用のオイルが封入される。ハウジング20は、金属などの導電性材料によって構成される。ハウジング20は、本実施形態に係る「ハウジング」の一例である。出力軸10は、本実施形態に係る「回転軸」の一例である。
【0018】
入力軸21には、トルクコンバータ22を介してエンジン7からの動力が入力される。第1中間軸23には、Fクラッチ27と第1クラッチ28とが設けられる。第2中間軸24には、Rクラッチ29と第2クラッチ30とが設けられる。第3中間軸25には、第3クラッチ31と第4クラッチ32とが設けられる。第3中間軸25の前端部には、トランスファシャフト33が連結されている。トランスファシャフト33には、トランスファギア33gが設けられる。
【0019】
出力軸10には、トランスファシャフト33から動力が伝達される。出力軸10には、トランスファギア33gに噛み合う出力ギア10gとパーキングブレーキ34とが設けられる。
【0020】
出力軸10は前後方向に沿って配置される。出力軸10の後端部は、ハウジング20から後方に突出する。出力軸10の前端部は、ハウジング20から前方に突出する。図3に示すように、出力軸10は、ハウジング20に支持される。出力軸10は、軸心AXを中心として回転可能である。
【0021】
図3に示すように、出力軸10は、リヤカップリング部10a及びフロントカップリング部10bを有する。リヤカップリング部10aは、リアドライブシャフト11の前端部に接続される。フロントカップリング部10bは、フロントドライブシャフト14の後端部に接続される。
【0022】
図3に示すように、ハウジング20は、ハウジング本体20a、後方突出部20b及び前方突出部20c(「突出部」の一例)を有する。ハウジング本体20aは、出力軸10の軸方向中央部を収容する。軸方向とは、出力軸10の軸心AXに平行な方向である。後方突出部20bは、ハウジング本体20aから後方に突出する。後方突出部20bは、軸心AXを中心とした環状に形成される。前方突出部20cは、ハウジング本体20aから前方に突出する。前方突出部20cは、軸心AXを中心とした環状に形成される。
【0023】
出力軸10のリヤカップリング部10aとハウジング20の後方突出部20bとの隙間には、後方オイルシール35及び後方ダストシール36が配置される。
【0024】
後方オイルシール35は、ハウジング20内のオイルを封止する。後方オイルシール35は、回転軸10のうちリヤカップリング部10aの表面10Tとハウジング20のうち後方突出部20bの表面20Tとに接触する。後方オイルシール35は、ハウジング20の表面20Tに固定されている。後方オイルシール35は、回転軸10の表面10Tに固定されていてもよい。後方オイルシール35は、ハウジング20の軸方向外側に配置される。後方オイルシール35は、軸心AXを中心とした環状に形成される。後方オイルシール35には、周知のオイルシールを用いることができる。
【0025】
本実施形態において、軸方向外側とは、軸方向においてハウジング20の内部空間20Rを基準として後方突出部20b側又は前方突出部20c側を意味する。また、本実施形態において、軸方向内側とは、軸方向において後方突出部20b又は前方突出部20cを基準としてハウジング20の内部空間20R側を意味する。
【0026】
後方ダストシール36は、出力軸10とハウジング20の後方突出部20bとの隙間に外部から侵入した異物が後方オイルシール35側に侵入することを抑制する。後方ダストシール36は、出力軸10のリヤカップリング部10aの表面10Tとハウジング20のうち後方突出部20bの表面20Tとに接触する。後方ダストシール36は、後方オイルシール35の軸方向外側に配置される。後方ダストシール36は、軸心AXを中心とした環状に形成される。後方ダストシール36には、周知のダストシールを用いることができる。
【0027】
出力軸10には、後方ダストシール36の軸方向外側を覆う環状のシールカバー37が取り付けられる。シールカバー37は、出力軸10とハウジング20の後方突出部20bとの隙間に土砂や泥水など(以下、「異物」と総称する。)が侵入することを抑制する。
【0028】
出力軸10のフロントカップリング部10bとハウジング20の前方突出部20cとの隙間には、前方オイルシール38及びオイル漏れ検出装置39が配置される。
【0029】
前方オイルシール38は、ハウジング20内のオイルを封止する。前方オイルシール38は、回転軸10のうちフロントカップリング部10bの表面10Sとハウジング20のうち前方突出部20cの表面20Sとに接触する。前方オイルシール38は、ハウジング20の表面20Sに固定されている。前方オイルシール38は、回転軸10の表面10Sに固定されていてもよい。前方オイルシール38は、ハウジング20の軸方向外側に配置される。前方オイルシール38は、軸心AXを中心とした環状に形成される。前方オイルシール38には、周知のオイルシールを用いることができる。
【0030】
オイル漏れ検出装置39は、前方オイルシール38からのオイル漏れを検出する。オイル漏れ検出装置39は、前方オイルシール38の軸方向外側に配置される。オイル漏れ検出装置39の構成については後述する。
【0031】
出力軸10には、オイル漏れ検出装置39の軸方向外側を覆う環状のシールカバー40が取り付けられる。シールカバー40は、出力軸10とハウジング20の前方突出部20cとの隙間に異物が侵入することを抑制する。
【0032】
(オイル漏れ検出装置39)
図4は、図3の部分拡大図である。図4では、前方オイルシール38及びオイル漏れ検出装置39が主に図示されている。図5は、図4のA-A断面図である。図6は、図4のB-B断面図である。図7は、図4に対応しており、前方オイルシール38からオイル漏れが生じている状態を示す模式図である。
【0033】
オイル漏れ検出装置39は、一対の永久磁石51,52、複数の整流子53,54、コイル55、一対のブラシ56,57、吸油材58、ダミー整流子59,60、電流センサ61及びコントローラ62を有する。
【0034】
一対の永久磁石51,52は、ハウジング20のうち前方突出部20cの表面20Sに取り付けられる。一対の永久磁石51,52は、N極とS極とが対向するように配置される。具体的には、一対の永久磁石51,52は、出力軸10を挟んで対向するN極磁石51とS極磁石52とを含む。N極磁石51とS極磁石52は、軸心AXを中心とする周方向において互いに離れている。
【0035】
本実施形態において、一対の永久磁石51,52は、複数の整流子53,54の軸方向内側に配置されているが、複数の整流子53,54の軸方向外側に配置されていてもよい。
【0036】
複数の整流子53,54は、回転軸10の表面10Sに取り付けられる。複数の整流子53,54は、出力軸10を挟んで対向する。複数の整流子53,54は、軸心AXを中心とする周方向において互いに離れている。複数の整流子53,54は、回転軸10とともに軸心AXを中心として回転する。回転する複数の整流子53,54は、一対のブラシ56,57と周期的に接触する。
【0037】
コイル55は、複数の整流子53,54と電気的に接続される。本実施形態では、コイル55の両端が、複数の整流子53,54それぞれに接続されている。コイル55は、軸心AXを中心とする径方向において、一対の永久磁石51,52の内側に配置される。コイル55は、一対の永久磁石51,52の内側において、回転軸10に巻き回される。コイル55の巻き回数は、1回以上であればよい。
【0038】
コイル55は、一対の永久磁石51,52の間において、回転軸10とともに軸心AXを中心として回転する。回転するコイル55には、電磁誘導によって誘導電圧が発生する。ただし、コイル55が回転していれば常に誘導電圧は発生するが、後述するようにオイル漏れが生じない限り誘導電流が流れるループ回路は形成されない。
【0039】
本実施形態では、一対の永久磁石51,52が複数の整流子53,54の軸方向内側に配置されているため、コイル55も複数の整流子53,54の軸方向内側に配置されている。ただし、一対の永久磁石51,52が複数の整流子53,54の軸方向外側に配置される場合には、コイル55も複数の整流子53,54の軸方向外側に配置される。
【0040】
一対のブラシ56,57は、ハウジング20の表面20Sに取り付けられる。一対のブラシ56,57は、出力軸10を挟んで対向する。一対のブラシ56,57は、軸心AXを中心とする周方向において互いに離れている。一対のブラシ56,57は、ハウジング20に接続された第1ブラシ56と、ハウジング20から離れた第2ブラシ57とを含む。第1ブラシ56は、回転軸10よりも上方に配置される。第2ブラシ57は、回転軸10よりも下方に配置される。第1ブラシ56は、軸心AXよりも上方に配置される。第2ブラシ57は、軸心AXよりも下方に配置される。一対のブラシ56,57は、回転する複数の整流子53,54と周期的に接触する。
【0041】
本実施形態において、一対のブラシ56,57は、吸油材58に支持される。従って、一対のブラシ56,57は、吸油材58を介してハウジング20の表面20Sに取り付けられる。
【0042】
本実施形態において、第1ブラシ56は、ブラシ本体a1と、導体a2とを有する。ブラシ本体a1は、吸油材58に取り付けられる。導体a2は、ブラシ本体a1とハウジング20とに接続される。導体a2は、電気伝導性材料によって構成される。導体a2は、ブラシ本体a1とハウジング20とを電気的に接続する。
【0043】
本実施形態において、第2ブラシ57は、ブラシ本体a3と、端子部a4とを有する。ブラシ本体a3は、吸油材58に取り付けられる。端子部a4は、ブラシ本体a3からハウジング20の表面20Sに向かって延びる。端子部a4の先端は、ハウジング20の表面20Sに近接することが好ましい。端子部a4の先端は、後述する電流センサ61の端子部b2の先端に近接することが好ましい。
【0044】
吸油材58は、ハウジング20の表面20Sに取り付けられる。吸油材58は、ハウジング20の表面20Sと複数の整流子53,54との間の隙間に配置される。吸油材58は、前方オイルシール38から漏れたオイルを吸収する。吸油材58は、吸油性かつ絶縁性の材料によって構成される。このような材料としては、例えばフェルト(不織布)が好適である。
【0045】
本実施形態において、吸油材58は、一対のブラシ56,57の支持部材として機能する。また、吸油材58は、ダストシールとしても機能する。具体的には、吸油材58は、出力軸10のリヤカップリング部10aとハウジング20の前方突出部20cとの隙間に外部から侵入した異物が前方オイルシール38側に侵入することを抑制する。
【0046】
ダミー整流子59,60は、軸心AXを中心とする周方向における複数の整流子53,54の隙間に配置される。ダミー整流子59,60は、オイル漏れ検出装置39の軸方向内側に異物が侵入することを抑制する。ダミー整流子59,60は、出力軸10を挟んで対向する。ダミー整流子59,60は、軸心AXを中心とする周方向において互いに離れている。ダミー整流子59,60は、絶縁性の材料によって構成される。このような材料としては、例えばゴムやフェルトなどを用いることができる。ダミー整流子59,60をフェルトによって構成する場合、ダミー整流子59,60は吸油材58と一体であってもよい。
【0047】
電流センサ61は、一対のブラシ56,57とハウジング20の前方突出部20cとの間に流れる誘導電流を次のように検出する。まず、図7に示すように、前方オイルシール38からオイル漏れが生じて第2ブラシ57とハウジング20との間にオイルが介在するようになると、第2ブラシ57とハウジング20とがオイルを介して電気的に接続される。その結果、複数の整流子53,54、コイル55、一対のブラシ56,57及びハウジング20によってループ回路が形成され、コイル55に発生する誘導電圧に起因する誘導電流がループ回路を流れる。電流センサ61は、このループ回路を流れる誘導電流によって起動し、誘導電流が流れていることを検出する。電流センサ61は、誘導電流を検出したことをコントローラ62に対して無線で通知する。
【0048】
本実施形態において、電流センサ61は、センサ本体b1と、端子部b2とを有する。センサ本体b1は、ハウジング20外に配置される。端子部b2は、ハウジング20に挿通されており、センサ本体b1から出力軸10とハウジング20との隙間まで延びる。端子部b2の先端は、ハウジング20の表面20Sに近接することが好ましい。端子部b2の先端は、第2ブラシ57の端子部a4の先端に近接することが好ましい。
【0049】
コントローラ62は、例えばキャブ5に配置される。コントローラ62は、誘導電流が検出されたことを示す通知を電流センサ61から受信すると、作業者に対して警告(警告音、警告表示など)を発する。
【0050】
(特徴)
(1)トランスミッション9は、出力軸10、ハウジング20、前方オイルシール38及びオイル漏れ検出装置39を備える。ハウジング20は、出力軸10を回転可能に支持する。前方オイルシール38は、出力軸10とハウジング20との隙間に配置される。オイル漏れ検出装置39は、前方オイルシール38の軸方向外側に配置される。オイル漏れ検出装置39は、一対の永久磁石51,52、複数の整流子53,54、コイル55、一対のブラシ56,57及び電流センサ61を有する。一対の永久磁石51,52では、N極とS極とが対向する。複数の整流子53,54は、出力軸10に取り付けられる。コイル55は、出力軸10の径方向における一対の永久磁石51,52の内側において出力軸10に巻き回される。コイル55は、複数の整流子53,54と電気的に接続される。一対のブラシ56,57は、ハウジング20に取り付けられ、複数の整流子53,54それぞれと接触可能である。電流センサ61は、一対のブラシ56,57とハウジング20との間に流れる誘導電流を検出する。
【0051】
従って、電流センサ61は、前方オイルシール38からオイル漏れが生じて第2ブラシ57とハウジング20とがオイルを介して電気的に接続されると、複数の整流子53,54、コイル55、一対のブラシ56,57及びハウジング20によって形成されるループ回路を流れる誘導電流を検出する。よって、迅速にオイル漏れの発生を検出することができる。
【0052】
(2)一対のブラシ56,57は、ハウジング20と接続された第1ブラシ56と、ハウジング20から離れた第2ブラシ57とを含む。第2ブラシ57は、ブラシ本体a3と、ブラシ本体a3からハウジング20に向かって延びる端子部a4とを有する。よって、ハウジング20の表面20Sを伝って漏れてくるオイルに第2ブラシ57を接触させることでループ回路を速やかに形成することができる。
【0053】
(3)第1ブラシ56は、出力軸1よりも上方に配置され、第2ブラシ57は、出力軸1よりも下方に配置される。よって、ハウジング20の表面20Sのうち下部を伝って漏れてくるオイルに第2ブラシ57を速やかに接触させることできる。
【0054】
(4)電流センサ61は、ハウジング20外に配置されるセンサ本体b1と、センサ本体b1からハウジング20内まで延びる端子部b2とを有する。よって、ハウジング20の表面20Sを伝って漏れてくるオイルに電流センサ61を速やかに接触させることができる。
【0055】
(5)電流センサ61は、一対のブラシと前記ハウジングとの間に流れる誘導電流誘導電流によって起動する。よって、電流センサ61用の電源を必要としないため、オイル漏れ検出装置39の構成をより簡素化できる。
【0056】
(6)電流センサ61は、誘導電流を検出したことをコントローラ62に対して無線で通知する。よって、電流センサ61とコントローラ62とを有線で接続する場合に比べて、オイル漏れ検出装置39の構成をより簡素化できる。
【0057】
(6)一対のブラシ56,57は、絶縁性の吸油材58を介してハウジング20に取り付けられる。よって、オイル漏れを遅延させるとともに、複数の整流子53,54とハウジング20との隙間を介して外部から異物が侵入することを抑制できる。
【0058】
(7)オイル漏れ検出装置39は、軸心AXを中心とする周方向における複数の整流子53,54の隙間に配置されるダミー整流子59,60を有する。よって、複数の整流子53,54の隙間を介して外部から異物が侵入することを抑制できる。
【0059】
(実施形態の変形例)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0060】
[変形例1]
上記実施形態では、本開示に係るオイルシール及びオイル漏れ検出装置を、出力軸10とトランスミッション9のハウジング20との隙間に適用することとしたが、これに限られない。本開示に係るオイルシール及びオイル漏れ検出装置は、入力軸21とトランスミッション9のハウジング20との隙間、リアドライブシャフト11とリアアクスル12のハウジングとの隙間、フロントドライブシャフト14とフロントアクスル15のハウジングとの隙間などにも適用可能である。
【0061】
[変形例2]
上記実施形態において、第2ブラシ57は、ブラシ本体a3と端子部a4とを有することとしたが、端子部a4を有していなくてもよい。
【0062】
[変形例3]
上記実施形態において、電流センサ61は、センサ本体b1と端子部b2とを有することとしたが、端子部b2を有していなくてもよい。この場合であっても、電流センサ61は、ハウジング20自体を流れる電流を検出することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ホイールローダ
9 トランスミッション
10 出力軸
11 リアドライブシャフト
12 リアアクスル
14 フロントドライブシャフト
15 フロントアクスル
20 ハウジング
20a ハウジング本体
20b 後方突出部
35 後方オイルシール
36 後方ダストシール
37 シールカバー
38 前方オイルシール
39 オイル漏れ検出装置
40 シールカバー
51,52 一対の永久磁石
53,54 複数の整流子
55 コイル
56,57 一対のブラシ
56 第1ブラシ
a1 ブラシ本体
a2 導体
57 第2ブラシ
a3 ブラシ本体
a4 端子部
58 吸油材
59,60 ダミー整流子
61 電流センサ
62 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7