(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】介助装置
(51)【国際特許分類】
E04F 11/18 20060101AFI20240208BHJP
A47K 17/00 20060101ALI20240208BHJP
A47K 17/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E04F11/18
A47K17/00
A47K17/02 A
(21)【出願番号】P 2020039286
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000110479
【氏名又は名称】ナカ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 憲昌
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浅川 友紀
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102536(JP,A)
【文献】実開昭51-044155(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00 - 11/18
A47K 13/00 - 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定面に取り付けられる取付部と、
前記取付部に装着されて回動可能に支持された手摺部と、
前記手摺部を前記固定面に対して所定の角度位置でロックするロック機構を備えた介助装置であって、
前記取付部は、
前記固定面に固着される取付ベースと、
前記取付ベースに固定される台座部と、
前記台座部を回動可能に覆って前記手摺部が接続される回動部と、を有するとともに、
前記ロック機構は、
前記台座部において前記所定の角度位置に対応する複数の固定凹部を備えたロック部と、
前記手摺部の長手方向に沿って延設されるとともに前記取付部側の端部である近位端が前記ロック部における前記複数の固定凹部のいずれかに係脱可能なラッチ部と、
を有する
とともに、
前記取付部は、前記取付ベースに対し垂直に固定される貫通棒をさらに備え、
前記台座部は前記貫通棒が貫通する貫通孔を有し前記貫通棒が該貫通孔に貫通した状態で前記取付ベースに固定され、
前記回動部は前記貫通棒が貫通し前記台座部の貫通孔と一致する貫通孔を有する、介助装置。
【請求項2】
前記ロック部は前記台座部とは別体に構成されたものであって、前記貫通棒が貫通し前記台座部の貫通孔と一致する貫通孔を有し前記貫通棒が該ロック部の貫通孔に貫通した状態で前記台座部に固定される、請求項
1に記載の介助装置。
【請求項3】
固定面に取り付けられる取付部と、
前記取付部に装着されて回動可能に支持された手摺部と、
前記手摺部を前記固定面に対して所定の角度位置でロックするロック機構を備えた介助装置であって、
前記取付部は、
前記固定面に固着される取付ベースと、
前記取付ベースに固定される台座部と、
前記台座部を回動可能に覆って前記手摺部が接続される回動部と、を有するとともに、
前記ロック機構は、
前記台座部において前記所定の角度位置に対応する複数の固定凹部を備えたロック部と、
前記手摺部の長手方向に沿って延設されるとともに前記取付部側の端部である近位端が前記ロック部における前記複数の固定凹部のいずれかに係脱可能なラッチ部と、
を有するとともに、
前記台座部の外周には段差が形成され、
前記段差において、前記回動部が摺動しつつ回動する、介助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面のような固定面に対し回動可能で所定の角度位置でロック可能な介助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ又は浴室のような施設において、高齢者若しくは身体障碍者の行動の補助を行うための手摺のような介助設備が壁面等の固定面に設けられていることがある。このような介助設備は壁面に固定され一定の位置を占めていることが多いが、施設の使用前後及び使用中によって介助設備の適切な位置が異なることを考慮して、固定面に対して移動可能な介助装置が種々提供されている。
【0003】
そのような技術として、下記特許文献1及び特許文献2に開示のものが挙げられる。特許文献1及び特許文献2記載の先行技術では、トイレの壁面に設置され、水平方向に回動可能で適宜の位置でロック可能な手摺が開示されている。これら特許文献1及び特許文献2に記載の先行技術では、回動軸を中心として手摺が回動する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-22058号公報
【文献】特開2018-102536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回動軸を中心として手摺が回動する構成においては、手摺が回動軸と接合する部分の遊びに起因して手摺にガタツキが生ずることがある。このガタツキを抑えるためには、手摺の軸との接合部分の加工精度を高める必要がある。しかし、そのために製造コストが嵩むことになり、また、加工精度を高めることで遊びが少なくなりかえって円滑な回動が阻害されるおそれもある。
【0006】
本件発明は、上記各特許文献記載の技術を踏まえ、手摺部を備えた介助装置において、手摺部が回動軸と接合する部分の加工精度をあまり厳密にすることなしにガタツキを抑えた円滑な回動を実現する構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の態様は、固定面に取り付けられる取付部と、前記取付部に装着されて回動可能に支持された手摺部と、前記手摺部を前記固定面に対して所定の角度位置でロックするロック機構を備えた介助装置であって、前記取付部は、前記固定面に固着される取付ベースと、前記取付ベースに固定される台座部と、前記台座部を回動可能に覆って前記手摺部が接続される回動部と、を有するとともに、前記ロック機構は、前記台座部において前記所定の角度位置に対応する複数の固定凹部を備えたロック部と、前記手摺部の長手方向に沿って延設されるとともに前記取付部側の端部である近位端が前記ロック部における前記複数の固定凹部のいずれかに係脱可能なラッチ部と、を有する。
【0008】
本願において「固定面」とは、取付部が取り付けられて、手摺部の回動の基準となる面をいい、多くの場合は壁面であるが、床面又は天井面であることもある。また、本願において、介助装置における各部材の位置関係について「近位」及び「遠位」という用語を用いるが、「近位」は固定面に取り付けられている取付部に近い位置をいい、「遠位」は遠い位置をいう。
【0009】
本態様の介助装置では、取付部に固定される台座部を回動部が覆った状態で設置される構造を有している。ここで、回動部が台座部を覆うとは、台座部の回動方向に沿った面(すなわち、取付ベースに垂直な面)を覆うのみならず、その面に垂直な面(すなわち、取付ベースに平行な面)をも覆うことを意味する。そしてこの回動部が覆う台座部が全体として手摺部の回動軸として機能する。よって、たとえば、回動中心が棒状の軸であった場合と比べて軸径が大きいため、軸と回動部とが接する部分の精度があまり厳密でなくても軸と回動部との遊びに起因する手摺部20のガタツキを抑えることができる。また、回動部が台座部を覆う構造となっていることから、台座部の回動方向に沿った面のみを覆う場合に比べ、台座部に対する回動部の安定性が向上する。
【0010】
本願の第2の態様は、第1の態様の構成に加え、前記取付部は、前記取付ベースに対し垂直に固定される貫通棒をさらに備え、前記台座部は前記貫通棒が貫通する貫通孔を有し前記貫通棒が該貫通孔に貫通した状態で前記取付ベースに固定され、前記回動部は前記貫通棒が貫通し前記台座部の貫通孔と一致する貫通孔を有する。
【0011】
本態様では、台座部が有する貫通孔と、回動部が有する貫通孔とを一致させて貫通棒がこれらの孔を貫通した状態で、回動部は台座部に設置される。ここで、この貫通棒は、台座部と回動部との位置関係を安定させるために設けられるものであって、手摺部の回動における軸としての役割を果たすものではない。したがって、貫通棒と貫通孔との間に隙間があったとしても、手摺部の回動のガタツキには影響を与えない。
【0012】
なお、ロック部は台座部と一体に構成されていてもよいが、台座部の成形の際にロック部の有する固定凹部を有するように加工する必要がある。たとえば台座部を形成するための金型の構造がその分複雑化する。また、ロック部の形状を変更する場合には、台座部も含めて金型の構造そのものを変更する必要がある。
【0013】
そこで、本願の第3の態様は、第2の態様の構成に加え、前記ロック部は前記台座部とは別体に構成されたものであって、前記貫通棒が貫通し前記台座部の貫通孔と一致する貫通孔を有し前記貫通棒が該ロック部の貫通孔に貫通した状態で前記台座部に固定される。このように構成することで、台座部そのものの形状を簡素化することができる。また、ロック部を台座部とは異なる材質で形成することも可能となる。たとえば、台座部を合成樹脂で形成するような場合であっても、ラッチ部との係脱が頻繁に行われるため材質に強度が求められるロック部を金属製の部品として形成することも可能となる。また、台座部を共通として種々の形状のロック部を装着することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のように構成されているので、手摺部を備えた介助装置において、手摺部が回動軸と接合する部分の加工精度をあまり厳密にすることなしにガタツキを抑えた回動を実現する構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の介助装置の取付状態を示す斜視図である。
【
図6】
図5において取付部を拡大して示した側面断面図である。
【
図7】取付部を
図3のVII-VII断面で示す。破線は回動部の天面部分を示す。
【
図8】
図7に示す位置から回動した状態を示す断面図である。
【
図9】手摺部の先端部分を
図3のIX-IX断面で示す。
【
図10】手摺部の先端部分を
図9のX-X断面で示す。
【
図11】ラッチ部とロック部との係合状態を
図6のXI-XI断面で示す。
【
図12】
図9に示す状態から操作部を傾動させた状態を示す断面図である。
【
図14】手摺部が固定面に対して角度90°から0°まで回動する状態を示す平面図である。
【
図15】手摺部が固定面に対して角度0°の状態におけるラッチ部とロック部との係合状態を示す平面断面図である。
【
図16】手摺部が固定面に対して角度0°から90°まで回動する状態を示す平面図である。
【
図17】第2実施形態の介助装置において手摺部の先端部分を側面図で示す。
【
図18】手摺部の先端部分を
図17のXVIII-XVIII断面で示す。
【
図20】
図18に示す状態から操作部を傾動させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、各図面に表示されている同じ符号は、下記の説明にて特に記述がない場合でも同じ構成を指す。また、各部位の材質についてはあくまで例示であって、記載された材質には限定されずそれとは異なる材質で各部位を形成することは差し支えない。
【0017】
(1)第1実施形態
図1は、第1実施形態の介助装置1の取付状態を示す斜視図であり、
図2はその平面図であり、
図3はその側面図である。介助装置1は、固定面2である壁面に取り付けられた取付部10に、手摺部20が装着されることで、手摺部20が取付部10によって回動可能に支持されている。手摺部20の遠位端には操作部50が軸支されている。なお、
図1~
図3は、手摺部20が固定面2に対し90°の角度位置でロックされている状態を示している。
【0018】
図4は、本実施形態の介助装置1の各部位を組図で示したものである。介助装置1は、固定面2に取り付けられた取付部10の一部である回動部13に手摺部20が装着された構成となっている。また、取付部10の中に組み込まれたロック部30、手摺部20の内部を貫通しロック部30と係合するラッチ部40、ラッチ部40とロック部30との係合を解除する操作部50及び操作部50とラッチ部40とを連結する変換部60によって、手摺部20の取付部10に対する回動を所定の角度位置でロックするロック機構が構成されている。この
図4に併せ、
図2のV-V断面図である
図5と、
図5において取付部10を拡大指定示した側面断面図である
図6とを参照しつつ、介助装置1の各部位について説明する。
【0019】
取付部10は、固定面2に固着される取付ベース11と、取付ベースに固定される台座部12と、台座部12を回動可能に覆って手摺部20が接続される回動部13と、を有する。
【0020】
取付ベース11は、固定板11Aと、台座受け11Bとで構成される。
【0021】
固定板11Aは、スチール製のL字板であって、図示しないオールアンカーで固定面2に固定される垂直板11A1とこの垂直板11A1に対し水平方向に延設される水平板11A2とで構成される。水平板11A2のほぼ中央には円形の貫通孔11A3が設けられている。さらに、その垂直板11A1寄りの位置には2つのピン通し孔11A4が設けられているが、これについては後述する。
【0022】
台座受け11Bは、垂直板11A1に直接ネジ止めされて固定されるスチール製のL字板であって、垂直板11A1と接する垂直板11B1とこの垂直板11B1に対し水平方向に延設される水平板11B2とで構成される。水平板11B2のほぼ中央には、前記した固定板11Aの貫通孔11A3と平面視で一致する位置に同径の貫通孔11B3が設けられている。台座受け11Bは、固定ネジ11B4(
図6参照)によって固定板11Aに取り付けられる。
【0023】
台座部12はダイカスト製で、固定ネジ12E(
図6参照)によって台座受け11Bに取り付けられる。台座部12は、径の異なる大小2つの同心単円筒が、小径の方の円筒が上になるように重なった形状を呈する。大径円筒において小径円筒との周囲は段差12Bとなっており、この部分で後述する回動部13が摺動しつつ回動するが、その回動部13の摺動における摩擦力低減及び緩衝を図る目的で、段差12Bは、下方に側面が延設された環状を呈する、合成樹脂製の環状スペーサ15で被覆される。
【0024】
台座部12の小径円筒の上面からは外側方への複数の突出部分を有する短円筒形状のロック部受け12Cが突設されている。ロック部受け12Cの中心には、台座部12の全体を貫通し前記した台座受け11Bの貫通孔11B3と同径の貫通孔12Aが設けられ、その両側にある突出部分にはそれぞれネジ孔12Dが設けられている。このロック部受け12Cの上に、ロック部30が設置される。
【0025】
ロック部30は、略円形の鋼板を複数枚重ね合わせて形成され、固定面2と反対側の側面には複数箇所の切り欠きである固定凹部31が形成されている。また、ロック部30の中心には、前記した台座部12の貫通孔12Aと同径の貫通孔32が設けられ、その左右にはそれぞれ、前記した台座部12のネジ孔12Dと平面視で一致するネジ孔33が設けられている。ロック部30は、2つのネジ孔33をそれぞれ台座部12のネジ孔12Dと一致させた状態で台座受け11Bの上に載置され、固定ネジ34(
図6参照)により台座部12に固定される。
【0026】
回動部13は、ダイカスト製の略円筒形状を呈し、側面からは断面長円形の略円筒形状である取付口13Eが突設される。この取付口13Eには後述する手摺部20が装着される。回動部13の上底部分の上下方向は側面部分より肉厚となっているが(
図6参照)、この上底部分には肉厚を均一化するための溝状の貫通部が複数設けられていて、そのうちの、中心角約110°の円弧状を呈する2つが、手摺部20の回動範囲を規制する規制溝13Cとなっているが、詳しくは後述する。回動部13の中心には、前記したロック部30の貫通孔32より大径な中心孔13Aが設けられている。中心孔13Aは、回動部13を貫通する孔である。
【0027】
回動部13上面の中心部分には平面視で円形盤状を呈する盤状スペーサ17が装着される。盤状スペーサ17の下面からは、合成樹脂製で略短円柱形状の嵌入部17B(
図6参照)が突設されている。盤状スペーサ17の中心には、前記したロック部30の貫通孔32と同径の貫通孔17Aが設けられている。嵌入部17Bが中心孔13Aに嵌入することで、盤状スペーサ17は回動部13に固定される(
図6参照)。盤状スペーサ17が固定された回動部13は、台座部12の側面及び上面を覆うように装着された状態で、台座受け11Bの水平板11B2と固定板11Aの水平板11A2との間に挟まれている(
図6参照)。
【0028】
この状態で、固定板11Aの貫通孔11A3、盤状スペーサ17の貫通孔17A、ロック部30の貫通孔32、台座部12の貫通孔12A及び台座受け11Bの貫通孔11B3は平面視で一致する。この平面視で一致した各貫通孔に、鋼鉄製で円柱形状の貫通棒14が挿通され、上側は介装板14Bを介して固定板11Aの水平板11A2に固定ネジ14Aで固定され、下側もまた介装板14Bを介して台座受け11Bの水平板11B2に固定ネジ14Aで固定される(
図6参照)。固定板11Aの水平板11A2に固定された固定ネジ14Aの頭は、上面側が閉塞した短円筒形状の上カバー16Aで被覆される(
図3及び
図6参照)。また、ポリプロピレン樹脂の射出成形で形成された下カバー16Bが、台座受け11Bの水平板11B2の下面と、固定板11Aの垂直板11A1との間の空間を覆うように装着される(
図3及び
図6参照)。下カバー16Bもまたネジ隠し等の化粧目的で設けられている。
【0029】
手摺部20は、鋼板製で断面長円形の長尺材である手摺本体21と、手摺本体21の上面を被覆するポリウレタン製のクッション22と、手摺本体21の遠位端に装着される合成樹脂製の遠位キャップ23と、手摺本体21の近位端に装着される合成樹脂製の近位キャップ24とで構成される。遠位キャップ23は上半部23A及び下半部23Bの2部材により構成される。上半部23Aの上面は円形に陥凹し、ここに円形で合成樹脂製の回転板23C(
図4及び
図5参照)が遊嵌されている。遠位キャップ23の遠位縁は遠位方向に突出した円弧状に形成されている。手摺本体21の遠位端下面側には軸通し孔21A(
図4参照)が設けられている。
【0030】
操作部50は、遠位キャップ23の遠位端側から突出した平面視略長方形状を呈する遠位部52と、遠位キャップ23の下面側に位置する近位部53と、この近位部53のほぼ中心から上方に突出し中心に四角孔51A(
図9参照)が設けられている略円筒形状で、前記した軸通し孔21Aを貫通する傾動軸51と、この傾動軸51の四角孔51Aに挿入される四角柱状の連結部54とで構成される(
図5参照)。遠位部52の近位縁は、前記した遠位キャップ23の円弧状の遠位縁に対応して陥凹した円弧状に形成されている。連結部54は、操作部50と、後述する変換部60の揺動板61とを連結する部材である(
図5参照)。連結部54の上端側は遠位キャップ23の回転板23Cと、及び、下端側は操作部50の近位部53と、それぞれ固定ネジ54Aで固定されている。回転板23Cは、後述する操作部50の傾動に伴い、回転板23Cが遊嵌されている上半部23Aの上面にて回転する。
【0031】
ラッチ部40は、手摺本体21の内部に延在するともに近位キャップ24の遠位端面のシャフト通し孔24A(
図4参照)を貫通する鋼鉄製のシャフト41と、シャフト41の近位端に接続される断面四角棒状で鋼鉄製の嵌合棒42と、シャフト41と嵌合棒42との連結を補強する合成樹脂製の補強継手43と、シャフト41の近位端側に外挿され、嵌合棒42と近位キャップ24との間に改装されるスプリング44とで構成される。シャフト41の遠位端は、変換部60の一部である牽引部62の近位端と、遠位方向には牽引されるものの近位方向へはフリーな状態で接続される(
図5参照)。
【0032】
手摺部20は、操作部50と、ラッチ部40と、ラッチ部40と操作部50とを連結する変換部60(詳細は後述する)とを装着した状態で、回動部13の取付口13Eに接続される。この状態で、回動部13が台座部12の段差12Bの上に装着された環状スペーサ15の上を摺動しつつ台座部12に対して回動する際に、その回動に連動して手摺部20も回動する。
【0033】
この回動の方向の規制について、
図3のVII-VII断面である
図7及び
図8を使用して説明する。なお、
図7及び
図8では、固定板11Aの水平板11A2を透して、回動部13の天面13Bに形成される、規制溝13Cを含む溝状の貫通部を破線で示す。
図7は、手摺部20が固定面2に対して90°の角度位置にある状態を示す。手摺部20は回動方向を規制しない状態では、左右いずれの回動方向にも回動可能である。しかし、回動部13が台座部12を回動可能に覆っている状態で、固定板11Aのピン通し孔11A4(
図4参照)のいずれかに規制ピン13D(
図6参照)を挿入すると、規制ピン13Dが挿入された方の規制溝13Cの端から端までの範囲内でしか回動部13は回動できなくなる。
【0034】
したがって、固定面2に向かって左側(以下、左右方向に言及するときは特に断らない限り固定面2に向かった視点での左右方向とする。)のピン通し孔11A4に規制ピン13Dを挿入すると、
図7に示すように、規制ピン13Dは左側の規制溝13Cの中に入っている。この状態では、回動部13は右側への回動は規制溝13Cにより阻止され、
図8に示すような左側への回動のみが可能となっている。もちろん、右側のピン通し孔11A4に規制ピン13Dを挿入した時へは、90°の角度位置から右側への回動のみが可能となる。この状態で、規制ピン13Dが規制溝13Cの、
図7の状態における遠位端に当接するため、これ以上の固定面2側への回動が規制される。以下、
図8の状態を、固定面2に対して0°の角度位置とする。これにより、左右方向いずれの勝手違いにも対応が可能となっている。
【0035】
ここで、回動部13は、貫通棒14よりも径の大きい台座部12を覆った状態でこの台座部12の側面の周囲を回るようにして回動する。この貫通棒14は、台座部12と回動部13との位置関係を安定させるために設けられるものであって、手摺部20の回動における軸としての役割を果たすものではない。したがって、貫通棒14と中心孔13Aとの間に隙間があったとしても、手摺部20の回動のガタツキには影響を与えない。その代わりに、台座部12が全体として手摺部20の回動軸として機能する。よって、仮に貫通棒14を回動軸とした場合に比べ、台座部12と回動部13とが接する部分の加工精度をさほど厳密にしなくても、回動軸の周囲の遊びに起因する手摺部20のガタツキを抑えることができる。また、回動部13が台座部12の側面のみならず上面をも覆っているため、台座部12に対して回動部13が安定して装着される。
【0036】
図9は、手摺部20の先端部分を
図3のIX-IX断面で示したもので、
図10は
図9のX-X断面である。なお、
図9及び
図10は、操作部50が操作されていない中立位置にある状態を示す。
【0037】
変換部60は、操作部50とシャフト41の遠位端とを連結する牽引部62と、操作部50に連結部54を介して連結される揺動板61とで構成される。牽引部62は、略長方形の鋼板の両側縁及び近位縁を下面側に折り返した形状であり、
図10に示すように、近位縁の折返しを貫通してシャフト41の遠位端が連結される。なお、牽引部62の近位縁の折返しと、遠位キャップ23の下半部23Bの遠位縁(
図5参照)との間には、スプリングで構成される付勢手段80が介装される。また、牽引部62の両側縁の折返しには、長手方向に沿った溝状のスライド溝63が形成されている。付勢手段80は、ラッチ部40と操作部50とを互いに遠ざけるように常に付勢している。
【0038】
揺動板61は、平面視で円形部分の中心に連結部54が貫通しているとともに、その円形部分の一側が略半月状に膨出した形状を呈する。この半月状に膨出した形状において両側に突出した部分が係止片64である。この係止片64の各々は、中立位置において、スライド溝63の遠位縁に当接し(
図10参照)、この状態で付勢手段80による付勢力によって操作部50が操作されてないときにはこの中立位置が保たれている。
【0039】
図11は、手摺部20が90°の角度位置にあるときのラッチ部40とロック部30との係合状態を、
図6のXI-XI断面で示したものである。ロック部30は前記したように平面視略円形であり、中心の貫通孔32には貫通棒14が貫通している。また、嵌合棒42の左右にある一対のネジ孔33にはそれぞれ固定ネジ34が螺入されていることで、ロック部30は台座部12(
図6参照)に対して固定され動かないようとなっている。
【0040】
ロック部30の円周において遠位側に位置するほぼ半周部分には、5箇所に矩形の切り欠きとしての固定凹部31が形成されている。これら5箇所の固定凹部31のうち、固定面2から最も遠い位置にあるものが角度位置90°に対応し、最も近い位置にあるものが角度位置0°に対応し、これらの間の位置にあるものが角度位置50°に対応する。これにより、手摺部20は、それぞれの固定凹部31にラッチ部40の嵌合棒42を嵌入させることで、固定面2に対して角度位置0°、50°及び90°でロック可能となっている。なお、嵌合棒42は、スプリング44の付勢力により常に近位方向へ付勢されているため、操作部50が
図9に示す中立位置にあるときには、固定凹部31に嵌入した状態を保ち、ロック状態が維持される。
【0041】
5箇所の固定凹部31のうち、50°及び90°の角度位置に対応する3箇所では、側縁31Aは円周に対してほぼ直角、正確には円周方向に僅かに開いた角度をなしている。一方、0°の角度位置に対応する2箇所では、回動方向(すなわち、0°の角度位置から回動して行く方向)の側縁31Aが他の側縁31Aよりも大きく傾斜した傾斜側縁31Bとなっている。この傾斜側縁31Bの意義については後述する。
【0042】
図9に示す中立位置から、操作部50を傾動させた状態を、
図9と対応する
図12及び
図10と対応する
図13(
図12のXIII-XIII断面図)に示すように、操作部50の遠位部52を図中に示す時計回りの方向に傾動させると、揺動板61も時計回りに回転する。このとき、右側の係止片64が、右側のスライド溝63の遠位縁を遠位方向へ押圧することで、牽引部62全体が遠位方向へ牽引される。これに伴い、シャフト41も遠位方向へ牽引される。このとき、遠位キャップ23は操作部50の傾動では動かないので、スプリング44は牽引部62と遠位キャップ23との間で圧縮される。
【0043】
そして、
図11において、90°の角度位置の固定凹部31に嵌入している嵌合棒42は、遠位方向へ離脱する方向へ移動させられ、嵌合棒42と固定凹部31との係合は解除される。これによって、手摺部20は、
図14に示すように、0°の角度位置に向かって回動可能となる。すなわち、変換部60は、操作部50の中立位置からの傾動運動を、ラッチ部40が取付部10から離間する方向である遠位方向への直線運動へ変換する。ここで、この操作部50の傾動は、回動方向又はその反対方向のどちらの方向でもよいが、回動させようとする方向と一致する方向に傾動させることで、ワンアクションで回動させることが可能である。なお、使用者の身体の状態によっては、手摺部20を回動させようとする方向とは反対方向にしか操作部50を傾動させられないこともあり得るが、そのような場合でも操作部50を傾動させることができれば、介助なしでも手摺部20を回動させることは可能である。また、介助者も使用者を介助しながら操作することが容易である。
【0044】
図14に示す90°の角度位置からの回動開始直後に、操作部50への傾動操作を解除すると、付勢手段80の付勢力により操作部50は中立位置に復帰する。このとき、牽引部62が付勢手段80により近位方向へ付勢されてもシャフト41の遠位端は連結部位でフリーであり、また、嵌合棒42は回動中はロック部30の円周に沿って摺動しているため、シャフト41は操作部50が傾動操作を受けた状態の位置を維持する。そして、その次の角度位置、すなわち50°の角度位置に対応する固定凹部31に至ったところで、スプリング44の付勢力により嵌合棒42がこの固定凹部31に嵌入し、この角度位置でロックされる。
【0045】
一方、
図14に示す90°の角度位置からの回動開始から、操作部50の傾動状態を維持し続けると、ラッチ部40は遠位方向へ牽引された状態を維持し続けるので、その次の角度位置でもロックされることなく、0°の角度位置まで一挙に傾動させることも可能である。
【0046】
次に、0°の角度位置からの手摺部20の回動を説明する。
図15は、手摺部が固定面に対して角度位置0°の状態におけるラッチ部40とロック部30との係合状態を
図11と同様の断面図で示す。角度位置0°の状態では、ラッチ部40の嵌合棒42は、最も端にある固定凹部31に嵌入している。このとき、この角度位置0°の固定凹部31の、回動方向側(すなわち、右側)の側縁31Aは他の角度位置の側縁31Aより大きく傾斜した傾斜側縁31Bとなっている。よって、嵌合棒42は、他の角度位置の側縁31Aよりも容易にこの傾斜側縁31Bを乗り越えることができる。
【0047】
すなわち、手摺部20が0°の角度位置にあるときは、操作部50を傾動させなくとも、手摺部20を反時計回りの方向へ押圧するだけで、嵌合棒42は傾斜側縁31Bを乗り越え、固定凹部31から脱出することができる。これにより、
図16に示すように、手摺部20は0°の角度位置から90°の角度位置に向かって回動することが可能となる。ただし、このまま回動させると、50°の角度位置で一旦嵌合棒42は固定凹部31に嵌入し、手摺部20がロックされてしまうので、ここからさらに90°の角度位置まで回動させようとすると、操作部50を傾動させる必要がある。
【0048】
ここで、角度位置0°の固定凹部31も、他の角度位置の固定凹部31と同じ形状に形成してもよい。この場合、角度位置0°から手摺部20を回動させる場合も他の角度位置と同様に操作部50を傾動させる必要がある。
【0049】
本実施形態においては、共通の形状の台座部12に、様々な形状のロック部30を装着することができる。また、ロック部30における固定凹部31の位置を変更することで、上記した0°、50°及び90°以外の角度位置にも手摺部20を固定できるようにすることもできる。なお、ロック部30は台座部12と一体に成形してもよい。
【0050】
(2)第2実施形態
第2実施形態の介助装置1は、操作部50及び変換部60の構造並びに手摺部20のうち遠位キャップ23の構造が第1実施形態とは異なるが、その余の構造は第1実施形態とほぼ同一である。よって、以下では第1実施形態と異なる点のみを説明する。
【0051】
図17は、第2実施形態の介助装置1において、手摺部20の遠位端部分を側面図で示す。手摺部20は、第1実施形態と同様に、長尺材である手摺本体21と、手摺本体21の上面を被覆するクッション22とを有し、手摺本体21の遠位端には遠位キャップ23が装着され、その先端からは操作部50が遠位方法へ突出している。なお、図示はしないが、手摺本体21の近位端には第1実施形態と同様、近位キャップ24が装着されている。
【0052】
図18は、手摺部20の先端部分を
図17のXVIII-XVIII断面で示したもので、
図19は
図18のXIX-XIX断面である。
図18及び
図19は、操作部50が操作されていない中立位置にある状態を示す。
【0053】
変換部60は、操作部50とシャフト41の遠位端とを連結する略平板状の牽引部62とで構成される。操作部50と牽引部62とは傾動軸51で連結される。シャフト41の遠位端は下方へ屈曲し、この屈曲した部分が牽引部62近位端付近に形成された孔に遠位方向には牽引されるものの近位方向へはフリーな状態で係合することで、シャフト41は牽引部62に連結される。
【0054】
遠位キャップ23の厚さ方向の中間部分には牽引部62の遠位端側の部分が挿入されている。遠位キャップ23は
図17のXVIII-XVIII断面で示す
図20の平面視では牽引部62の両側に位置し、その遠位端は遠位方向へ向かうにつれて間隔を漸増させた傾斜縁71となっている。両側の傾斜縁71はそれぞれ操作部50の回動方向を誘導する一対の誘導部70として機能する。誘導部70の遠位端はアールが形成されて側方へ湾曲した接触縁72となっている。
【0055】
なお、牽引部62のほぼ中央には長方形状の介装孔62Aが形成され、ここにスプリングで構成される付勢手段80が挿入され、介装孔62Aの近位縁と遠位キャップ23の近位端近傍との間に付勢手段80が介装される(
図19参照)。付勢手段80は、ラッチ部40と操作部50とを互いに遠ざけるように常に付勢しているため、操作部50が操作されてないときには中立位置が保たれている。この状態では、たとえば
図11に示すように、ラッチ部40の嵌合棒42はロック部の固定凹部31に嵌入した状態を保ち、手摺部20はロックされた状態となっている。
【0056】
図18に示す状態から、
図20に示すように操作部50を時計回りの方向へ押圧すると、操作部50は傾斜縁71に沿って左へ傾動する。そしてさらに押圧を続けると、操作部50は接触縁72に乗り上げ、接触部位が支点αとなり、操作部50が押圧されている側が力点βとなることで、作用点γとしての傾動軸51を遠位方向に移動させる。それに伴い、牽引部62も付勢手段80を圧縮させながら遠位方向へ移動し、牽引部62とシャフト41との連結部位もまた遠位方向へ移動することで、
図20のXXI-XXI断面図である
図21に示すように、シャフト41が遠位方向へ移動する。これにより、たとえば
図9に示す嵌合棒42と固定凹部31との係合が解かれてロック状態は解除され、手摺部20は回動可能となる。
【0057】
なお、手摺部20の回動方向は上記した実施形態のように水平方向には限られず、取付部10の固定面2への取付角度によって垂直方向又は水平方向から垂直方向までの任意の方向に手摺部20を回動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、トイレ又は浴室のような施設において、高齢者若しくは身体障碍者など、健常者では支障のない行動が困難となっている使用者が自ら、又は、その介助者が利用しやすい手摺等の介助装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 介助装置 2 固定面 10 取付部 11 取付ベース 11A 固定板 11A1 垂直板 11A2 水平板 11A3 貫通孔 11A4 ピン通し孔 11B 台座受け 11B1 垂直板 11B2 水平板 11B3 貫通孔 11B4 固定ネジ 12 台座部 12A 貫通孔 12B 段差 12C ロック部受け 12D ネジ孔 12E 固定ネジ 13 回動部 13A 中心孔 13B 天面 13C 規制溝 13D 規制ピン 13E 取付口 14 貫通棒 14A 固定ネジ 14B 介装板 15 環状スペーサ 16A 上カバー 16B 下カバー 17 盤状スペーサ 17A 貫通孔 17B 嵌入部 20 手摺部 21 手摺本体 21A 軸通し孔 22 クッション 23 遠位キャップ 23A 上半部 23B 下半部 23C 回転板 24 近位キャップ 24A シャフト通し孔 30 ロック部 31 固定凹部 31A 側縁 31B 傾斜側縁 32 貫通孔 33 ネジ孔 34固定ネジ 40 ラッチ部 41 シャフト 42 嵌合棒 43 補強継手 44 スプリング 50 操作部 51 傾動軸 51A 四角孔 52 遠位部 53 近位部 54 連結部 54A 固定ネジ 60 変換部 61 揺動板 62 牽引部 62A 介装孔 63 スライド溝 64 係止片 70 誘導部 71 傾斜縁 72 接触縁 80 付勢手段 α 支点 β 力点 γ 作用点