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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】乗物用内装材
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20240208BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20240208BHJP
   H05F 3/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B60J5/00 501A
B60R13/02 B
H05F3/02 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020041559
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142814
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219668
【氏名又は名称】東海化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 亮
(72)【発明者】
【氏名】谷口 善昭
(72)【発明者】
【氏名】安住 摩利
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084838(JP,A)
【文献】実開平05-072588(JP,U)
【文献】特開平09-058378(JP,A)
【文献】米国特許第05825605(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00 - 5/14
B60R 13/02
H05F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物本体を構成する金属製の乗物本体側パネルの乗物室内側に取り付けられる乗物用内装材であって、
当該乗物用内装材を構成する主体となる内装材本体と、前記内装材本体に組み付けられて乗員の手が触れる把持面を有する組付部材と、を含んで構成され、
前記組付部材は、導電性エラストマーからなる導電部を有し、
前記導電部は、前記把持面を形成する把持面形成部と、乗物室内外方向に延びるとともに乗物室外側に向かって突出する突出部と、前記把持面形成部と前記突出部とを連結する連結部と、を含んで構成され、前記把持面形成部、前記突出部および前記連結部が前記導電性エラストマーによって一体的に成形されたものとされ、
当該乗物用内装材が前記乗物本体側パネルに取り付けられた場合に、前記突出部は、前記乗物本体側パネルに対して固定されることなく、先端が弾性変形させられた状態で前記乗物本体側パネルの乗物室内側面に接することを特徴とする乗物用内装材。
【請求項2】
前記突出部は、その先端が円筒に切れ込みが入れられた形状とされることで複数の接触片を有するものとされ、前記複数の接触片の各々が弾性変形させられた状態で前記乗物本体側パネルに接するように構成された請求項1に記載の乗物用内装材。
【請求項3】
前記突出部は、その先端が乗物室外側に向かって膨らんだ形状のものとされ、その先端が潰れた状態で前記乗物本体側パネルに接するように構成された請求項1に記載の乗物用内装材。
【請求項4】
前記組付部材は、前記乗物本体側パネルに固定するための固定部を備え、
前記突出部は、前記固定部の近傍に設けられている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項5】
前記導電部は、前記突出部を2つ有するものとされ、
それら2つの前記突出部の各々は、それらを結んだ方向における中間に前記固定部が位置するように設けられている請求項4に記載の乗物用内装材。
【請求項6】
当該乗物用内装材は、車両用ドアを構成するドアパネルの車室内側に取り付けられる車両用ドアトリムであり、
概して板状の前記内装材本体としてのトリムボードと、前記トリムボードに組み付けられることでプルハンドルを形成する前記組付部材としてのプルハンドル部材と、を含んで構成され、
前記プルハンドル部材は、非導電性樹脂からなる基材に前記導電部が積層して成形されたものである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、乗物用内装材として、車両用内装材が、より詳しく言えば、車両用ドアの車室内側に取り付けられるドアトリムが記載されている。下記特許文献1に記載されたドアトリムは、ポケット部材の内面に低導電性シートが取り付けられている。そして、乗員が、手をポケット部材の内部に挿入して低導電性シート部材に触れると、乗員に帯電している静電気は、低導電性シート部材に徐々に移動し、その後、高導電性シート部材およびブラケットを介してドアインナパネルに移動して放電されるように構成されている。また、ブラケットは、突片がドアインナパネルに電気的に接続された構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平5-72588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のドアトリムは、静電気をポケット部材からドアインナパネルに逃がす際に、複数の部材を介している。したがって、このドアトリムは、ポケット部材を構成する部品とは別に、低導電性シートや高導電性シート部材に係る部品が必要とされ、既存の構成に比べて、部品点数が増加するとともに、製造工数が増加するという問題がある。
【0005】
本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、部品点数および製造工数を増加させることのない単純な構成で、乗員に帯電した静電気を除電可能な乗物用内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の乗物用内装材は、
乗物本体を構成する金属製の乗物本体側パネルの乗物室内側に取り付けられる乗物用内装材であって、
当該乗物用内装材を構成する主体となる内装材本体と、前記内装材本体に組み付けられて乗員の手が触れる把持面を有する組付部材と、を含んで構成され、
前記組付部材は、導電性エラストマーからなる導電部を有し、
前記導電部は、前記把持面を形成する把持面形成部と、乗物室内外方向に延びるとともに乗物室外側に向かって突出する突出部と、前記把持面形成部と前記突出部とを連結する連結部と、を含んで構成され、
当該乗物用内装材が前記乗物本体側パネルに取り付けられた場合に、前記突出部の先端が弾性変形させられた状態で前記乗物本体側パネルの乗物室内側面に接することを特徴とする。
【0007】
この構成の乗物用内装材は、導電性エラストマーによって、把持面とそこから連続する突出部が成形されており、その突出部の先端部が乗物本体側パネルに接する状態で取り付けられることになる。そして、エラストマーによって成形された突出部は、弾性変形可能であり、先端が弾性変形した状態で乗物本体側パネルに接する。つまり、この構成の乗物用内装材は、乗員が組付部材を把持した場合に、乗物用内装材の一部において、ねじれや変形等が生じても、突出部の先端が乗物本体側パネルから離間するような事態を回避することができ、乗員に帯電した静電気を確実に乗物本体側パネルに逃がすことが可能である。また、この構成の乗物用内装材は、導電させるために乗物本体側パネルに対して連結する部品が必要なく、導電させるために乗物本体側パネルと連結させる作業も必要ない。したがって、この構成の乗物用内装材は、部品点数および製造工数を増加させることのない単純な構成で、乗員に帯電した静電気を除電可能なものとなる。
【0008】
この構成の乗物用内装材における導電部は、例えば、その電気抵抗率が、乗物本体側パネルより大きく、当該乗物用内装材の主体となる本体部より小さい構成のものとすることができる。つまり、導電部は、静電気が帯電した乗員が触れた際に乗員に痛みや衝撃を与えることなく除電可能な程度の電気抵抗値に設定された低導電性のものとすることができる。
【0009】
上記の構成において、前記突出部は、その先端が円筒に切れ込みが入れられた形状とされることで複数の接触片を有するものとされ、前記複数の接触片の各々が弾性変形させられた状態で前記乗物本体側パネルに接するように構成することができる。
【0010】
この構成の乗物用内装材は、突出部の先端の形状に限定を加えた構成のものであり、突出部の先端を構成する各接触片が、それぞれ独立して比較的自由に変形可能とされている。したがって、この構成の乗物用内装材によれば、複数の接触片の全てが乗物本体側パネルから離間してしまうような事態が回避されることで、導電部が乗物本体側パネルから離間するような事態をより確実に回避することができる。
【0011】
また、上記の構成において、前記突出部は、その先端が乗物室外側に向かって膨らんだ形状のものとされ、その先端が潰れた状態で前記乗物本体側パネルに接するように構成することができる。
【0012】
この構成の乗物用内装材は、突出部の先端の形状に上記のものとは別の限定を加えた構成のものであり、突出部の先端が、例えば、袋状あるいは筒状とされている。この構成の乗物用内装材によれば、乗物室内外方向に容易に変形することができるため、乗物本体側パネルから離間してしまうような事態が回避され、突出部が乗物本体側パネルから離間するような事態をより確実に回避することができる。
【0013】
また、上記構成において、前記組付部材は、前記乗物本体側パネルに固定するための固定部を備え、前記突出部は、前記固定部の近傍に設けられている構成とすることができる。
【0014】
この構成の乗物用内装材は、導電部における突出部を設ける箇所に限定が加えられており、自身が乗物本体側パネルに対して固定される箇所の近傍に、突出部が接するように構成される。この構成の乗物用内装材によれば、乗員が組付部材を把持した場合に、乗物用内装材の一部においてねじれや変形等が生じても、突出部の先端が乗物本体側パネルから離間するような事態をより確実に回避することができる。
【0015】
また、上記構成において、前記導電部は、前記突出部を2つ有するものとされ、それら2つの前記突出部の各々は、それらを結んだ方向における中間に前記固定部が位置するように設けられている構成とすることができる。
【0016】
この構成の乗物用内装材は、導電部が有する2つの突出部は、それらの一方が固定部に対して特定方向(2つの突出部結んだ方向)における一方側に位置し、他方が特定方向における他方側に位置するように構成される。具体的には、例えば、2つの突出部の一方が固定部より上方側に位置するとともに、他方が固定部より下方側に位置するような構成とすることができる。つまり、この構成の乗物用内装材は、組付部材において、固定部を中心として特定方向を含む方向への変動が生じた場合に、2つの突出部のいずれかが、乗物本体側パネルに確実に接することになる。したがって、この構成の乗物用内装材によれば、導電部が乗物本体側パネルから離間するような事態をより確実に回避することができ、乗員に帯電した静電気を確実に乗物本体側パネルに逃がすことができる。
【0017】
なお、この構成の乗物用内装材において、2つの突出部と固定部とは、2つの突出部が固定部を挟んで反対側に位置するような位置関係(2つの突出部と固定部とが直線状に並ぶような位置関係)にある場合に限定されない。つまり、固定部が、2つの突出部を結んだ方向に対してそれに直交する方向にずれた位置に存在するように、2つの突出部の各々が設けられていてもよい。換言すれば、2つの突出部の各々が、それらを結んだ方向からの視点において固定部に重畳しないように、設けられていてもよい。
【0018】
また、上記構成において、当該乗物用内装材は、車両用ドアを構成するドアパネルの車室内側に取り付けられる車両用ドアトリムであり、概して板状の前記内装材本体としてのトリムボードと、前記トリムボードに組み付けられることでプルハンドルを形成する前記組付部材としてのプルハンドル部材と、を含んで構成され、前記プルハンドル部材は、非導電性樹脂からなる基材に前記導電部が積層して成形されたものである構成とすることができる。
【0019】
この構成の乗物用内装材は、車両用ドアトリムに限定され、ドアトリムに設けられたプルハンドルから静電気を逃がすように構成されたものである。この構成の車両用ドアトリムは、プルハンドル部材が基材と導電部とが一体的に成形されているため、トリムボードに対して単一のプルハンドル部材を組み付け、当該車両用ドアトリムをドアパネルに対して取り付けるだけで、静電気の導通経路が確保されるため、除電対策のための作業工程が必要ない。また、プルハンドル部材における静電気を導通させるのに必要な部分のみが、導電性エラストマーによって成形されるため、プルハンドル部材全体を導電性樹脂で成形した場合に比較して、除電の機能を搭載するのに必要なコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、部品点数および製造工数を増加させることのない単純な構成で、乗員に帯電した静電気を除電可能な乗物用内装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施例である車両用ドアトリムを含んで構成される車両用ドアの斜視図
図2】車両用ドアトリムを車体パネルから取り外した状態を示す斜視図
図3図1に示した車両用ドアのプルハンドル部分における断面図(後方からの視点における断面図)
図4】組付部材としてのプルハンドル部材を車室外側からの視点において示す図
図5】プルハンドル部材を上方からの視点において示す図
図6】プルハンドル部材を斜め前方からの視点において示す斜視図
図7】プルハンドル部材が車体パネルに当接する箇所における断面図(後方からの視点における断面図)
図8】プルハンドル部材を車体パネルに固定する前の状態を示す断面図
図9】プルハンドル部材を車体パネルに取り付けた状態を示す断面図
図10】第1実施例の変形例であるドアトリムが備えるプルハンドル部材を車室外側からの視点において示す図
図11】第1実施例の別の変形例のドアトリムが備えるプルハンドル部材を車室外側からの視点において示す図
図12】第2実施例のドアトリムおいてプルハンドル部材が車体パネルに当接する箇所における断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0023】
本発明の第1実施例である乗物用内装材は、車両用内装材であり、詳しく言えば、車両用ドアトリム10である。本ドアトリム10は、図1および図2に示すように、車両用ドア11を構成するものであり、車体パネル(乗物本体側パネル)12の車室(乗物室)内側に取り付けられる。詳しく言えば、車体パネル12は、図2に示すように、それぞれパネル状をなすドアアウタパネル13とドアインナパネル14とを備えている。ドアアウタパネル13およびドアインナパネル14は、鉄やアルミニウムなどの金属製のパネルをプレス加工することで形成され、ドアアウタパネル13の車室外側の面と、ドアインナパネル14の車室内側面14Aとには、塗装が施されている。ちなみに、車体パネル12には、ドアインナパネル14とドアアウタパネル13との間に、ウインドウガラス15を昇降するための昇降機構や車両用ドア11をロックするためのロック機構などの各種部品が配されている。
【0024】
本ドアトリム10は、図2に示すように、複数のボード部材を互いに組み付けて構成された内装材本体としての概して板状のトリムボード20を主体として構成されている。トリムボード20は、例えばポリプロピレン等の合成樹脂材料など電気絶縁性を有する合成樹脂材料によって構成されている。また、ドアトリム10は、トリムボード20が車室内側に膨出するようにして形成されたアームレスト21、インサイドハンドル22、プルハンドル23、スピーカ24Aを覆うスピーカグリル24、ドアポケット25等の各種機能部品を備えている。
【0025】
なお、プルハンドル23は、アームレスト21の前方側に設けられている。具体的には、トリムボード20におけるアームレスト21の肘掛け面21Aを形成する箇所の前方には、上方に向けて開口する開口部21Bが形成されており、その開口部21B内にプルハンドルボックス30が収容される形で組み付けられることで、プルハンドル23が形成される。なお、プルハンドルボックス30は、図3に示すように、上方および車室外側に向かって開口する形状のプルハンドル部材31と、そのプルハンドル部材31の車室外側の開口を塞ぐように配されるカバー部材32とからなり、上方に開口するボックス状をなしている。
【0026】
プルハンドル部材31は、図4および図5に示すように、ボックス形状をなしプルハンドル23の把持部として機能する本体部33と、その本体部33における車室外側の外縁から外側に向かって張り出して形成された取付片34と、を有する。本体部33は、底面33Aを除くボックス形状の内側を向く面が、乗員の手が触れるプルハンドル23の把持面33Bを構成する。また、取付片34には、図4に示すように、トリムボード20に組み付けるための締結具を挿通させる複数の挿通孔35(本実施形態においては、4つ)が形成されている。つまり、このプルハンドル部材31が、内装材本体としてのトリムボード20に組み付けられる組付部材として機能するものとなっている。また、プルハンドル部材31は、ドア11の開閉操作の際に把持される箇所であり、特にドア11を閉じる際に車体パネル12から離間する方向の力が作用することになるため、車体パネル12にも直接固定される。具体的には、プルハンドル部材31には、ドアインナパネル14に対して固定するための2つの固定部36,37が設けられている。
【0027】
第1固定部36は、図3に示すように、本体部33の底面33A側に設けられており、締結具38によって締結される挿通孔39が形成された被締結部である。その第1固定部36は、ドアインナパネル14の車室内側面に締結具40によって締結された概してL字形状のブラケット41に、カバー部材32とともに固定されることで、ドアインナパネル14に対して固定される。また、第2固定部37は、取付片34のうち車両前方側に向かって張り出した部分(前方張出部)34Aに形成されている。その第2固定部37は、図6に示すように、上側が車室外側に向かって傾倒した傾斜形状とされるとともに、締結具を挿通させる挿通孔37Aを有している。そして、ドアインナパネル14に形成された締結孔42を利用して、第2固定部37は、図示を省略する締結具によって締結される。
【0028】
プルハンドル部材31は、例えばポリプロピレン等の合成樹脂材料など電気絶縁性を有する合成樹脂材料(非導電性樹脂)からなる基材50に、導電性エラストマーからなる導電部51が積層して成形されたものとなっている。導電部51は、図4から図6にハッチングを付して示した部分であり、上述した把持面33Bの全体を形成する把持面形成部52と、取付片34の前方張出部34Aに形成された2つの突出部53,54と、それら把持面形成部52と突出部53,54を連結する連結部55と、を含んで構成される。なお、導電部51は、例えば、金属や炭素を微粒子にして熱可塑性エラストマー等に混合して導電性を付与したものからなる。また、導電部51は、電気抵抗率が、金属製のドアインナパネル14より大きく、トリムボード20やプルハンドル部材31を構成する基材50より小さい構成となっている。さらに言えば、導電部51は、低導電性のものであり、車体パネル12に接続された導電路(ボディアース)と乗員(人体)との間に介在して、静電気が帯電した乗員が触れた際に乗員に痛みや衝撃を与えることなく除電可能な程度の電気抵抗値に設定されている。
【0029】
2つの突出部53,54は、第2固定部37の近傍に隣接して設けられており、概して車室内外方向(乗物室内外方向)に延びるとともに、車室外側に向かって突出するように、詳しく言えば、図7に示すように、車室外側かつ上方に向かって突出して形成されている。また、図5に示すように、それら2つの突出部53,54は、第2固定部37における車室外側の端部より、さらに車室外側にまで延び出している。また、各突出部53,54は、図4から図6に示すように、先端部(車室外側の端部)が、円筒に十字の切れ込みが入れられた形状、換言すれば、周方向に4等分された形状とされて、4つの接触片53A,54Aを有するものとなっている。
【0030】
プルハンドル部材31が、上記のような形状とされていることで、トリムボード20に組み付けられて、本ドアトリム10が車体パネル12に取り付けられた場合には、図7から図9に示すように、2つの突出部53,54の先端部がドアインナパネル14の車室内側面(乗物室内側面)14Aに接することになる。本ドアトリム10は、乗員が把持面33Bを触れるだけで、つまり、乗員がプルハンドル23を把持するという降車時に通常行う動作で、プルハンドル部材31の導電部51からドアインナパネル14に、乗員に帯電した静電気を逃がすことが可能となっている。
【0031】
ここで、車両用シートに着座していた乗員が降車する場合を考える。その場合には、乗員が車両用シートから離れる時に、剥離帯電により乗員に静電気が帯電する。本発明の発明者は鋭意検討した結果、乗員が車両用シートから離れるタイミング、つまり、剥離帯電が生じるタイミングは、乗員がインサイドハンドル22を操作して、ドアロックを解除した後であり、プルハンドル23を把持する前あるいは把持している最中である場合が多いことをつきとめた。したがって、乗員がプルハンドル23を把持することにより除電することで、降車時に、乗員と車体パネル12等の金属部品との間において静電気の放電を抑制することができるのである。また、本ドアトリム10が取り付けられる車体パネル12、詳しく言えばドアインナパネル14の車室内側面に塗装が施されており、従来、その塗装が施されている箇所においては、電気的な接続が不十分であると考えられていた。そのため、塗装が施されていない箇所、詳しく言えば、ドアトリムと車体パネルとの間を固定する締結具(ボルト)等を挿入するために、車体パネルに形成された孔の内周面等を経由して、車体パネルに流れるように静電気の導通経路を確保していた。しかしながら、本発明の発明者は鋭意検討した結果、車体パネル12の塗装が施された箇所であっても、静電気のような大きな電圧の電気が導通することをつきとめ、本発明のドアトリム10を開発するに至っている。
【0032】
以上のように、本ドアトリム10は、車体パネル12に対して取り付けられるだけで、プルハンドル部材31の導電部51に形成された突出部53,54が車体パネル12に接し、その突出部53,54から車体パネル12に、乗員に帯電した静電気を逃すことが可能となる。本ドアトリム10は、導電させるために車体パネル12に対して連結する部品が必要なく、導電させるために車体パネル12と連結させる作業も必要ない。したがって、本ドアトリム10は、部品点数および製造工数を増加させることのない単純な構成で、乗員に帯電した静電気を除電可能なものとなる。
【0033】
また、導電部51はエラストマーからなるため、各突出部53,54が弾性変形可能であり、各突出部53,54の先端部、つまり、4つの接触片53A,54Aが、弾性変形させられた状態でドアインナパネル14の車室内側面14Aに接することになる。つまり、本ドアトリム10によれば、乗員がプルハンドル23を把持した場合に、本ドアトリム10の一部において、ねじれや変形等が生じても、突出部53,54の先端がドアインナパネル14から離間するような事態を回避することができ、乗員に帯電した静電気を確実にドアインナパネル14に逃がすことが可能である。さらに、突出部53,54は、その先端が複数の接触片53A,54Aを有するものとされ、各接触片53A,54Aが弾性変形させられた状態で、ドアインナパネル14の車室内側面14Aに接している。そのような構成により、各接触片53A,54Aがそれぞれ独立して比較的自由に変形可能とされており、複数の接触片53A,54Aの全てがドアインナパネル14から離間してしまうような事態が回避されることで、導電部51が車体パネル12から離間するような事態をより確実に回避することができる。
【0034】
さらに言えば、各突出部53,54は、プルハンドル部材31をドアインナパネル14に固定する固定部としての第2固定部37の近傍に設けられているため、第2固定部37がドアインナパネル14から離間することがなく、乗員がプルハンドル23を把持した場合に、本ドアトリム10の一部においてねじれや変形等が生じても、突出部53,54の先端がドアインナパネル14から離間するような事態をより確実に回避することができる。ちなみに、第2固定部37を導電性エラストマーで成形すると、プルハンドル部材31と車体パネル12とを容易に導電させることが可能であるが、固定部としての強度が不足するため、そのような構成とすることは困難である。また、プルハンドル部材全体を、導電性の樹脂(例えば、金属や炭素を微粒子にして合成樹脂材料に混合して導電性を付与したもの)で成形すれば、プルハンドル部材31と車体パネル12とを容易に導電させるとともに、固定部としての強度を確保することができるが、コスト増加や把持面における触感の悪さが問題となる。それに対し、本ドアトリム10は、必要最小限の部分だけを導電性エラストマーによって成形するため、導電性の樹脂材料を用いることによるコスト増加を抑えるとともに把持面を良好な触感としつつ、乗員に帯電した静電気を車体パネル12に確実に逃がすことが可能なものとなっているのである。さらに、本ドアトリム10において、プルハンドル部材31は、非導電性樹脂からなる基材50に導電性エラストマーからなる導電部51が積層して成形されたもの、つまり、一体的に成形された単一の部材となっている。それにより、本ドアトリム10は、トリムボード20に対して単一のプルハンドル部材31を組み付け、本ドアトリム10を車体パネル12に対して取り付けるだけで、静電気の導通経路が確保されるため、除電対策のための作業工程が必要ないのである。
【0035】
また、2つの突出部53,54は、図4に示すように、それらを結んだ方向である上下方向における中間に第2固定部37が位置するように設けられている。換言すれば、2つの突出部のうちの相対的に上方に位置する突出部である上側突出部53は、第2固定部37より上方に位置し、相対的に下方に位置する突出部である下側突出部54は、第2固定部37より下方に位置している。したがって、本ドアトリム10は、プルハンドル部材31を把持してドア11を開閉する際に、本ドアトリム10の一部におけるねじれや変形によって、第2固定部37を支点として上下方向において回動するような変動(図8に示す白抜き矢印の方向の変動)が生じたとしても、上側突出部53と下側突出部54とのいずれか一方がドアインナパネル14に対して押し付けられることになるため、それら上側突出部53と下側突出部54との両者がドアインナパネル14から離間してしまうような事態を確実に回避することができる。
【0036】
<変形例>
上記第1実施例のドアトリム10において、プルハンドル部材31は、導電部51が2つの突出部53,54を有する構成とされていたが、突出部は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。図10には、変形例のドアトリムが備えるプルハンドル部材70を示している。変形例におけるプルハンドル部材70は、上記第1実施例におけるプルハンドル部材31と同様に、非導電性樹脂からなる基材71に、導電性エラストマーからなる導電部72が積層して成形されたものである。なお、以下の本変形例のドアトリムの説明において、第1実施例のドアトリム10と同じ構成部品や構成要素については、同じ符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0037】
本変形例におけるプルハンドル部材70は、第1実施例におけるプルハンドル部材31とは異なり、導電部72が、突出部を3つ有するものとなっている。詳しく言えば、導電部72において、3つの突出部73,74,75は、第1実施例におけるプルハンドル部材31と同様に、第2固定部37の近傍に設けられおり、把持面形成部52と連結部76によって連結されている。3つの突出部のうちの2つの突出部73,74は、第1実施例におけるプルハンドル部材31と同じ位置に、つまり、第2固定部37の把持面形成部52側(車両前後方向における後方側)で、第2固定部37の上方および下方に、設けられている。それに対して、もう1つの突出部75は、図10に示すように、第2固定部37の車両前方側に設けられている。
【0038】
したがって、本変形例のドアトリムは、プルハンドル部材70を把持してドア11を開閉する際に、ドアトリムの一部におけるねじれや変形によって、第2固定部37を支点として上下方向において回動するような変動が生じたとしても、上側の突出部73、あるいは、下側の突出部74および突出部75が、ドアインナパネル14に対して押し付けられ、第2固定部37を支点として車両前後方向において回動するような変動が生じたとしても、前側の突出部75、あるいは、後側の突出部73および突出部74が、ドアインナパネル14に対して押し付けられることになる。そのため、プルハンドル部材70を把持してドア11を開閉する際にドアトリムの一部におけるねじれや変形が生じたとしても、すべての突出部73,74,75がドアインナパネル14から離間してしまうような事態を確実に回避することができ、乗員に帯電した静電気を車体パネル12に確実に逃がすことができる。
【0039】
また、別の変形例のドアトリムが備えるプルハンドル部材80を、図11に示す。この変形例におけるプルハンドル部材80は、第1実施例におけるプルハンドル部材31と同様に、非導電性樹脂からなる基材81に導電性エラストマーからなる導電部82が積層して成形されたものであり、導電部82が有する突出部も2つである。ただし、変形例におけるプルハンドル部材80は、第1実施例におけるプルハンドル部材80とは、突出部の位置が相違する。具体的に言えば、この変形例におけるプルハンドル部材80では、導電部82が有する2つの突出部の一方である第1突出部83は、第1実施例におけるプルハンドル部材31における上側突出部53と同じ位置に設けられている。つまり、第1突出部83は、第2固定部37に対して、車両後方かつ上方に設けられている。一方、導電部82が有する2つの突出部の一方である第2突出部84は、第2固定部37の挿通孔37Aを挟んで、第1突出部の反対側の位置に設けられている。つまり、第2突出部84は、第2固定部37に対して、車両前方かつ下方に設けられている。
【0040】
したがって、この変形例のドアトリムも、プルハンドル部材80を把持してドア11を開閉する際に、ドアトリムの一部におけるねじれや変形によって、第2固定部37を支点として上下方向において回動するような変動が生じたとしても、相対的に上側の第1突出部83、あるいは、相対的に下側の第2突出部84が、ドアインナパネル14に対して押し付けられ、第2固定部37を支点として車両前後方向において回動するような変動が生じたとしても、相対的に前側の第2突出部84、あるいは、相対的に後側の第2突出部84が、ドアインナパネル14に対して押し付けられることになる。そのため、プルハンドル部材80を把持してドア11を開閉する際にドアトリムの一部におけるねじれや変形が生じたとしても、第1突出部83と第2突出部84の両者がドアインナパネル14から離間してしまうような事態を確実に回避することができ、乗員に帯電した静電気を車体パネル12に確実に逃がすことができる。
【実施例2】
【0041】
本発明の第2実施例の乗物用内装材は、第1実施例の乗物用内装材と同様に、車両用のドアトリムであり、ほぼ同様の構成のものであるが、第1実施例のドアトリム10とは、プルハンドル部材31の形状が相違する。詳しく言えば、第2実施例のドアトリムが備えるプルハンドル部材100は、図示は省略するが、図4から図6に示した第1実施例におけるプルハンドル部材31とほぼ同様の形状のものであるが、導電部101が備える2つの突出部102,103の先端形状のみ相違する。
【0042】
第1実施例におけるプルハンドル部材31においては、導電部51が備える2つの突出部53,54の先端が円筒に切れ込みが入れられた形状とされて複数の接触片53A,54Aを有するものとされていた。それに対して、第2実施例におけるプルハンドル部材100は、導電部101が備える突出部102,103の先端は、車室外側に向かって膨らんだ形状、具体的には、車両前後方向に延びる円筒形状とされている。そして、第2実施例のドアトリムが車体パネル12に取り付けられた場合に、図12に示すように、円筒状の先端が潰れた状態で、ドアインナパネル14の車室内側面14Aに接するようになっている。
【0043】
したがって、第2実施例のドアトリムも、第1実施例のドアトリム10と同様に、突出部102,103の先端が弾性変形させられた状態で、ドアインナパネル14の車室内側面14Aに接しているため、各突出部102,103がそれぞれ独立して比較的自由に変形可能とされており、2つの突出部102,103の両者がドアインナパネル14から離間してしまうような事態が回避されることで、導電部101が車体パネル12から離間するような事態をより確実に回避し、乗員に帯電した静電気を車体パネル12に確実に逃がすことができる。
【0044】
<他の実施形態>
上記2つの実施例においては、把持面を有する組付部材として、上方から乗員が指を入れる形のプルハンドル部材を例示したが、概して上下方向に延びる形でドアトリムに配されるドアグリップを構成する部材に採用することもできる。また、上記2つの実施例では、乗物用内装材として、車両用のドアトリムを例示したが、これに限定されず、本発明の乗物用内装材は、乗員が姿勢を保持するための把持部を備えたクォータートリムや、アシストグリップを備えた天井用内装材等の車両用内装材に採用することも可能である。さらに、車両用に提供されるものに限られず、種々の乗物において提供されるもの、例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物についても、本発明の乗物用内装材を適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…車両用ドアトリム〔乗物用内装材〕、11…車両用ドア、12…車体パネル〔乗物本体側パネル〕、13…ドアアウタパネル、14…ドアインナパネル、14A…車室内側面〔乗物室内側面〕、20…トリムボード〔内装材本体〕、23…プルハンドル、30…プルハンドルボックス、31…プルハンドル部材〔組付部材〕、33…本体部、33B…把持面、37…第2固定部〔固定部〕、37A…挿通孔、50…基材、51…導電部、52…把持面形成部、53…上側突出部、53A…接触片、54…下側突出部、54A…接触片、55…連結部、70…プルハンドル部材、71…基材、72…導電部、73,74,75…突出部、76…連結部、80…プルハンドル部材、81…基材、82…導電部、83…第1突出部、84…第2突出部、100…プルハンドル部材、101…導電部、102…第1突出部、103…第2突出部
図1
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