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特許7432413塩化ビニル系樹脂組成物およびその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240208BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20240208BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/013
C08K3/10
C08K5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020048832
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147503
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】本荘 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-095922(JP,A)
【文献】特開平02-041371(JP,A)
【文献】特開2010-077198(JP,A)
【文献】特開2008-156540(JP,A)
【文献】特開2012-76933(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170427(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09K 23/00-23/56
C09D 1/00-10/00;101/00-201/10
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22,106
C01G 49/00-49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂粉末と、磁性材料および誘電性材料から選ばれる一種以上を有する充填材と、可塑剤と、非石けん系分散剤と、水とを有し、
該磁性材料は、鉄、ステンレス鋼、フェライト、鉄-ニッケル合金、鉄-シリコン-アルミニウム合金、およびケイ素鉄合金から選ばれる一種以上であり、
該誘電性材料は、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ビスマス、ニオブ酸カリウム、およびニオブ酸カリウムナトリウムから選ばれる一種以上であり、
該非石けん系分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤およびナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤を有するアニオン性分散剤と、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル系分散剤を有する非イオン性分散剤と、多糖類と、から選ばれる一種以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記非石けん系分散剤は、質量平均分子量が15,000以上である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂粉末の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下である請求項1または請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物を固化してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂に充填材を配合した塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、絶縁性、難燃性、耐久性などの優れた特性を有しており、電線やケーブルの被覆材、建築資材、自動車部品などの種々の製品に用いられている。例えば、布などの基材に塩化ビニル樹脂製のシート材を貼り合わせると、塩化ビニル樹脂の特性を活かした所望の機能を有する積層シートを得ることができる。また、塩化ビニル樹脂に充填材を配合して、さらなる機能の向上を図ることができる。
【0003】
例えば特許文献1には、カーテンなどの裏打ち材を形成する材料として、塩化ビニルポリマーラテックスと、遮光性を有する二酸化チタンからなる充填材と、酸化アンチモンおよびホスフェートエステルからなる遅炎剤と、可塑剤と、ステアリン酸塩などの界面活性剤と、水とを有するフォーム化ラテックスが記載されている。特許文献2には、シーリング材として用いられる塩化ビニル系プラスチゾル組成物として、塩化ビニル系樹脂と、酸化カルシウム粉末などの充填材と、可塑剤とを有する組成物が記載されている。特許文献3には、電磁波吸収材として用いられる樹脂組成物として、六方晶フェライトと樹脂とを有する組成物が記載されており、樹脂の一例として塩化ビニル樹脂が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭49-26998号公報
【文献】特開平6-16891号公報
【文献】特開2010-77198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩化ビニル樹脂に配合する充填材には、付与したい機能に応じて種々の材料が知られている。例えば、フェライトなどの磁性材料を配合すると、電気製品や電子機器などから発生する電磁波ノイズを吸収する機能を付与することができる。このため、塩化ビニル樹脂に磁性材料を配合した材料は、電磁波吸収材として有用である。この場合、塩化ビニル樹脂に磁性材料を配合した材料を、フェライトコアのような部品形状に成形してもよいが、シート状またはフィルム状に成形したり、部品などの構造物の表面を被覆したり隙間に充填するように成形することができれば、微細な構造にも適用することができ、材料の用途が広がる。
【0006】
成形時の形状自由度を高めるためには、塩化ビニル樹脂に充填材を配合した材料を塗料化することが望ましい。しかし、従来より塩化ビニル樹脂を軟化するために使用される可塑剤を用いるだけでは、粘度が高くなり塗料化することは難しい。可塑剤の添加量を増やすことにより低粘度化することも可能であるが、ブリードアウトや成形後の物性などを考慮して、添加量が制約される場合がある。仮に塗料化できたとしても、機械的物性が低下するため、薄膜成形品の強度は期待できない。また、可塑剤がブリードアウトして、接触する他の部品に移行するおそれもある。温度を上げて塗料化することも考えられるが、温度を上げすぎると塗料が途中で固化するおそれがある。また、有機溶剤を添加して希釈すれば、粘度の上昇を抑制することができるが、環境への負荷が大きくなり、揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制の要求に反することになる。他方、有機溶剤を用いずに、水を分散媒にして塗料化しようとすると、疎水性を有する塩化ビニル樹脂粉末や磁性材料などの充填材は水に分散しにくいため、凝集したり沈殿したりしてしまう。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、充填材を有し水を分散媒とする塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを課題とする。また、当該塩化ビニル系樹脂組成物を用いて用途に応じた機能を有する成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂粉末と、充填材と、可塑剤と、非石けん系分散剤と、水とを有することを特徴とする。また、本発明の成形体は、当該塩化ビニル系樹脂組成物を固化してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物においては、分散媒(構成成分を溶解または分散させる媒体)として水を用いる。すなわち、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、水に塩化ビニル系樹脂粉末、充填材、可塑剤、非石けん系分散剤などが分散または溶解した組成物である。有機溶剤を使用しないため、環境への負荷が小さく、VOC排出抑制の要求にも沿う。また、塩化ビニル系樹脂粉末に加えて、充填材として、水に分散しにくい誘電性材料、磁性材料などの粉末を含む場合でも、非石けん系分散剤を用いることにより、粉末の凝集、沈殿が抑制され、分散性の問題を解消することができる。さらに、粘度も上昇しにくいため、取り扱いやすい。例えば、バーコーター、ロールコーター、ディスペンサーなどを用いて塗布することができ、薄いシート状やフィルム状に成形することが容易である。このように、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物によると、充填材による機能性と加工性との両立を実現することができる。
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、所望の充填材を有し塗料化されている。したがって、シート状またはフィルム状に成形したり、部品などの構造物の表面を被覆したり隙間に充填するように成形することが容易である。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、成形時の形状自由度が高いため、微細な構造にも適用することができ、充填材の機能に応じた幅広い用途に用いることができる。
【0011】
ちなみに、特許文献1に記載されているフォーム化ラテックスにおいては、塩化ビニル樹脂は粉末ではなくラテックスであり、非石けん系分散剤は配合されていない。ステアリン酸カリウムなどの石けん系の界面活性剤は、金属などのイオン成分の影響により溶解度が小さいため分散安定化作用は弱く、充填材として誘電性材料、磁性材料などの粉末を配合した場合に、凝集および沈殿を抑制することは難しい。特許文献2に記載されている塩化ビニル系プラスチゾル組成物、特許文献3に記載されている樹脂組成物においては、いずれも水を分散媒としておらず、非石けん系分散剤も配合されてない。
【0012】
本発明の成形体は、上述した本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を固化して形成される。本発明の成形体は、シート状、フィルム状、種々の部品形状でもよく、布、不織布などの基材に積層されたり含浸したりする形態や、構造物の表面を被覆したり隙間を埋めるように充填されたりする形態など、他の部材と複合化されていてもよい。本発明の成形体は、形状や充填材の種類などを適宜選択することにより、様々な用途や形態で使用することができる。例えば、充填材として磁性材料、誘電性材料を用いれば電磁波吸収材として有用であり、充填材として熱伝導性材料を用いれば放熱部材として有用であり、充填材として導電性材料を用いれば導電部材として有用である。本発明の成形体を積層するなどして、複数の機能を組み合わせることもできる。本発明の成形体によると、ある種の電気回路を形成したり、その一部を構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物および成形体の実施の形態について説明する。なお、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物および成形体は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0014】
<塩化ビニル系樹脂組成物>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂粉末と、充填材と、可塑剤と、非石けん系分散剤と、水とを有する。
【0015】
[塩化ビニル系樹脂粉末]
塩化ビニル系樹脂粉末は、粉末状の塩化ビニル系樹脂であり、塩化ビニル系樹脂には、塩化ビニル単独重合体の他、塩化ビニルモノマーと他のモノマーとの共重合体、およびポリエチレンなどのポリマーの塩素化物が含まれる。塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、スチレンなどが挙げられる。他のモノマーは一種類でも二種類以上でもよい。なかでも、電気絶縁性、低吸水性、耐熱性の観点から、塩化ビニル単独重合体が望ましく、共重合体においては、塩化ビニルモノマーが50質量%以上含有されていることが望ましい。
【0016】
塩化ビニル系樹脂のK値は、塩化ビニル系樹脂組成物から製造される成形体の耐久性、耐熱性などに影響する場合がある。このため、成形体の用途に応じて、好適なK値の塩化ビニル系樹脂を選択すればよい。例えば、成形体に応力がそれほど加わらない用途の場合には、K値が50~80の塩化ビニル系樹脂を選択すればよい。K値の算出方法は、JIS K7367-2:1999に規定されている。
【0017】
塩化ビニル系樹脂粉末の粒子形状は、球状でも粉砕後の不定形状でもよく、特に限定されない。塩化ビニル系樹脂粉末の粒子径は、特に限定されない。例えば、組成物の粘度、分散性を考慮すると、塩化ビニル系樹脂粉末の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下であることが望ましい。平均粒子径としては、レーザ回折散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」)により測定されたメジアン径d50を採用する。粒子径分布の測定試料には、測定対象の粉末をアセトンに分散した分散液を用いる。
【0018】
[充填材]
充填材は、成形体の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、磁性材料、誘電性材料を配合すると、電磁波ノイズを吸収、遮蔽する機能を付与することができる。磁性材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、ステンレス鋼、マグネタイト、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどの強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAsの他、Fe、Si、Alを含む組成物などの反強磁性体、およびこれらを用いた合金類の粒子が挙げられる。誘電性材料としては、比誘電率が比較的大きい材料が望ましく、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスバリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ビスマスランタン(BLT)、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SBT)などが挙げられる。また、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維などの炭素材料、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素などの導電率や熱伝導率が大きい材料を配合すると、導電性や熱伝導性を高めることができる。また、タングステン、ジルコニアなどの比重の大きい材料、ガラス繊維、セラミック繊維などを配合または併用すると、防音機能を付与することができる。充填材の形状、大きさ、配合量などは、特に限定されない。充填材を配合することにより得られる効果、分散性などを考慮して適宜選択、調整すればよい。
【0019】
[可塑剤]
可塑材としては、通常、塩化ビニル系樹脂と共に用いられる公知のものから選択すればよい。例えば、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP、DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)などのフタル酸エステル、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート(DOA)などのアジピン酸エステル、トリクレジルホスフェート(TCP)などのリン酸エステル、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートなどのトリメリット酸エステル、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート(DOS)などが挙げられる。可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂組成物の粘度、成形体の用途などに応じて適宜調整すればよい。可塑剤の配合量を多くすると、塩化ビニル系樹脂組成物の粘度は低くなり成形体は軟らかくなる。例えば、可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂の100質量部に対して10質量部以上120質量部以下にするとよい。
【0020】
[非石けん系分散剤]
非石けん系分散剤は、主に充填材の粒子をばらばらにほぐし、凝集を抑制して安定化させる役割を果たす。非石けん系分散剤に、アルカリ金属、アルカリ土類金属などのイオン化しやすい金属が含まれていない場合には、塩化ビニル系樹脂からの脱塩素を助長しにくく、周辺から発せられる熱などに対しても安定になるため、成形体の耐熱性向上が期待できる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属などのイオン成分が移行しないため、それによる周辺樹脂部品のクラック発生などの劣化を抑制することができる。非石けん系分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系などの高分子系のアニオン性分散剤、ポリエチレングリコールなどの高分子系の非イオン性分散剤、ポリエーテル系などの低分子系の非イオン性分散剤、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、カラギナン、セルロースナノファイバーなどの多糖類が挙げられる。なかでも塩化ビニル系樹脂および水との相溶性が良好であるという観点から、高分子系のアニオン性分散剤、低分子系の非イオン性分散剤、多糖類が好適である。
【0021】
分子鎖による絡み合いを多くして分散安定化作用を高めるという観点から、非石けん系分散剤の質量平均分子量は15,000以上であることが望ましい。20,000以上であるとより好適である。非石けん系分散剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂組成物の粘度、充填材の種類、配合量などに応じて適宜調整すればよい。例えば、非石けん系分散剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂の100質量部に対して1質量部以上10質量部以下にするとよい。
【0022】
[他の成分]
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の分散媒は水である。水には、純水、水道水などが含まれる。水の配合量は、塩化ビニル系樹脂組成物の加工性を考慮して、適宜調整すればよい。すなわち、成形体を製造する方法に応じて適切な粘度になるよう、水の配合量を調整するとよい。例えば、基材などに塗布する場合には、塩化ビニル系樹脂組成物の粘度を1Pa・s以上40Pa・s以下に調整するとよい。3Pa・s以上25Pa・s以下がより好適である。
【0023】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、上述した成分以外に、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤などを有してもよい。例えば、安定剤は、加工時に塩化ビニル系樹脂から塩化水素が脱離するのを抑制し、成形体の耐熱性などの特性を向上させる役割を果たす。安定剤としては、鉛系、バリウム-亜鉛系、カルシウム-亜鉛系、錫系などが挙げられる。
【0024】
<塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、水に塩化ビニル系樹脂粉末、充填材、可塑剤、非石けん系分散剤、その他必要に応じて添加剤を配合し、撹拌して調製すればよい。なお、充填材が水に分散しにくい場合には、非石けん系分散剤を添加してから充填材を添加するとよい。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。自転公転撹拌装置や、メディア型撹拌装置を用いてもよい。
【0025】
<成形体>
本発明の成形体は、上述した本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の固化物である。例えば、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物が、シート状、フィルム状、種々の部品形状に成形された形態が挙げられる。あるいは、基材の表面に積層されたり、基材の内部に含浸されて、基材と複合化された形態でもよい。あるいは、トロイダルコイルなどの構造物の表面を被覆していたり、構造物の隙間を埋めるように充填された形態でもよい。
【0026】
基材の材質としては、布、不織布、樹脂が挙げられる。基材は、一層でもよいが、これらから選ばれる複数の層が積層された積層体でもよい。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を基材の表面に成形する場合、成形体と基材との接着性を向上させるという観点から、基材にコロナ処理などの表面処理を施しておくとよい。
【0027】
本発明の成形体を製造するには、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を、バーコーター、ロールコーター、ディスペンサーなどの塗工機やスプレーなどを使用して塗布すればよい。あるいは、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物が収容された浸漬槽に、基材、構造物などを浸漬してもよい。この場合、基材が多孔質な材料からなる場合には、塩化ビニル系樹脂組成物の一部を基材の内部に含浸させることができる。あるいは、注入機などを用いて、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を構造物の隙間に充填してもよい。
【0028】
本発明の成形体を製造するには、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物から水を蒸発させて固化させればよい。固化方法は、特に限定されないが、例えば加熱したり、赤外線(IR)、紫外線(UV)などの電磁波を照射すればよい。電磁波を照射すると、固化を比較的短時間で完了させることができる。電磁波を照射する場合、塩化ビニル系樹脂組成物に紫外線吸収剤、カーボンなどの光吸収剤を配合しておくと、電磁波の吸収効率が高くなり、固化時間の短縮により効果的である。
【実施例
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0030】
<塩化ビニル系樹脂組成物の製造>
[実施例1]
水27質量部に、塩化ビニル系樹脂粉末(塩化ビニル単独重合体、K値77、平均粒子径1~2μm)100質量部と、充填材としてのフェライト粉末26質量部と、可塑剤としてのDOS60質量部と、非石けん系分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウム塩(高分子系アニオン性分散剤、サンノプコ(株)製「SNディスパーサント5027」)3.5質量部と、カルシウム-亜鉛系(Ca-Zn系)安定剤5質量部とを添加して撹拌し、塩化ビニル系樹脂組成物を製造した。以下これを、「実施例1の組成物」と称す。
【0031】
[実施例2]
充填剤の配合量を59質量部に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例2の組成物を製造した。
【0032】
[実施例3]
水を20質量部に変更し、充填材の配合量を59質量部に変更し、可塑剤の配合量を50質量部に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例3の組成物を製造した。
【0033】
[実施例4]
充填材の種類を誘電性材料のチタン酸バリウム粉末に変更し、その配合量を150質量部にした点以外は実施例1と同様にして、実施例4の組成物を製造した。
【0034】
[実施例5]
可塑剤の配合量を50質量部に変更し、非石けん系分散剤を低分子系非イオン性分散剤(サンノプコ(株)製「SNウエット366」)」に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例5の組成物を製造した。以上、実施例1~5の組成物は、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の概念に含まれる。
【0035】
[比較例1]
非石けん系分散剤を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして、比較例1の組成物を製造した。
【0036】
[比較例2]
水の配合量を100質量部に変更し、可塑剤の配合量を50質量部に変更し、非石けん系分散剤に代えて界面活性剤(ポリエーテル変性シリコーンオイル:信越化学工業(株)製「KF-354L」、HLB値16)を100質量部配合した点以外は実施例1と同様にして、比較例2の組成物を製造した。
【0037】
<塩化ビニル系樹脂組成物の評価>
製造した組成物の分散状態および粘度を、次の方法により評価、測定した。表1に、製造した組成物の組成および評価結果を示す。
【0038】
[分散状態]
(1)目視観察
各組成物を透明な容器に入れた状態で側面から目視観察し、分散状態を評価した。そして、二層以上に分離していない場合を分散性良好(表1中、〇印で示す)、二層以上に分離している場合を分散性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0039】
(2)粒度分布測定
各組成物の粒度分布を、レーザ回折散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」)により測定した。
【0040】
[粘度]
各組成物の粘度を、東機産業(株)製のB型粘度計「TVB-10R」を用いて測定した。測定にはH7ローターを使用し、回転速度は50rpmで行った。
【表1】
【0041】
表1に示すように、非石けん系分散剤を配合した実施例1~5の組成物においては、水に分散しにくい磁性材料または誘電性材料の粉末を配合しても、粉末の凝集、沈殿が抑制され、分散性が良好であった。粒度分布は、メジアン径(d50)が1.3~1.6の範囲の正規分布になった。また、組成物の粘度も比較的小さかった。これに対して、非石けん系分散剤を配合しなかった比較例1の組成物においては、水が分離し、実用レベルに塗料化することはできなかった。非石けん系分散剤に代えて界面活性剤を配合した比較例2の組成物についても同様に、水が分離し、実用レベルに塗料化することはできなかった。比較例1、2の組成物については、水が分離したため、粒度分布および粘度を測定することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物から製造された成形体は、用途に応じて充填材を選択することにより、電磁波吸収材、放熱部材、防音材、絶縁材、難燃材などとして用いることができる。成形体の形態も様々であり、各種部品の他、シート材、フィルム材、布などの基材に積層、含浸される複合材、配線、トロイダルコイルなどの構造物の表面を被覆する被覆材、構造物、配線基板などの隙間を埋める充填材などが挙げられる。