(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】超音波診断装置、信号処理装置および信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2020066134
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 惇
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158917(JP,A)
【文献】特開2010-082230(JP,A)
【文献】国際公開第2017/068892(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110756(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0328364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子から信号を受け取って受信ビームフォーミングを行うことにより、撮像領域に設定された複数の受信走査線についてそれぞれ受信信号を生成する受信ビームフォーマと、前記受信信号を処理する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
複数の前記受信信号を前記受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部と、
前記代表値算出部が算出した複数の前記ROIについての前記代表値の分布が、予め定めた条件に適合しているかを判定する代表値適合性判定部
とを備え、
前記代表値適合性判定部は、前記条件に適合していない代表値を前記処理後信号値として採用しないことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置であって、前記代表値適合性判定部は、前記複数のROIの前記代表値の信号強度の分布が、音波伝播方向にそって徐々に減少している場合、前記条件に適合すると判定することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
超音波探触子から信号を受け取って受信ビームフォーミングを行うことにより、撮像領域に設定された複数の受信走査線についてそれぞれ受信信号を生成する受信ビームフォーマと、前記受信信号を処理する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
複数の前記受信信号を前記受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部と、
前記処理後信号値を用いて、Bモード像を生成する画像生成部
とを有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
超音波探触子から信号を受け取って受信ビームフォーミングを行うことにより、撮像領域に設定された複数の受信走査線についてそれぞれ受信信号を生成する受信ビームフォーマと、前記受信信号を処理する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
複数の前記受信信号を前記受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部と、
前記処理後信号値を用いて、Bモード像の輝度値を最適化する画像生成部
とを有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
超音波探触子から信号を受け取って受信ビームフォーミングを行うことにより、撮像領域に設定された複数の受信走査線についてそれぞれ受信信号を生成する受信ビームフォーマと、前記受信信号を処理する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
複数の前記受信信号を前記受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部と、
前記2次元信号空間において、複数の前記ROIの前記代表値を用いて、前記ROIとROIの間の前記2次元信号空間の信号値を補間により求める補間部
とを有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
受信ビームフォーミング後の受信信号を受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部と
、
前記代表値算出部が算出した複数の前記ROIについての前記代表値の分布が、予め定めた条件に適合しているかを判定する代表値適合性判定部とを備え、
前記代表値適合性判定部は、前記条件に適合していない代表値を前記処理後信号値として採用しないことを特徴とする信号処理装置。
【請求項7】
コンピュータを
受信ビームフォーミング後の受信信号を受信走査線の順に並べ、形成された2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定手段と、
前記ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値を前記ROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出手段と
、
前記代表値算出手段が算出した複数の前記ROIについての前記代表値の分布が、予め定めた条件に適合しているかを判定する代表値適合性判定手段として機能させる信号処理プログラム
であって、
前記代表値適合性判定手段は、前記条件に適合していない代表値を前記処理後信号値として採用しない
ことを特徴とする信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に係り、被検体内の音響減衰特性の計測手法に関わる。
【背景技術】
【0002】
超音波やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、X線CT(Computed Tomography)装置に代表される医療用の画像表示装置は、目視できない生体内の情報を数値または画像の形態で提示する装置として広く利用されている。中でも超音波を利用して画像を表示する超音波撮像装置は、他の装置と比較して高い時間分解能を備えており、例えば拍動下の心臓を滲みなく画像化できる性能を持つ。
【0003】
超音波診断装置は、検査対象に向けて超音波を送信し、散乱体からの反射信号(以下受信RF(Radio Frequency)信号と呼ぶ)を受信して画像を構成する。基本的には送受信に要する時間と音速から散乱体までの距離を計測し、超音波エネルギーの強度に基づく輝度の空間分布を構成することで超音波画像(以下、B像)が生成される。
【0004】
また、超音波診断装置は、受信信号を用いて、血流速度や、組織の硬さや、減衰特性等の音響的特性を定量計測することにより、疾患の診断をする技術の開発も提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、生体組織の減衰特性を求める手法が開示されている。特許文献1では、まず、探触子から対象物に対して、焦点距離の異なる第1及び第2の集束させた超音波ビームを送信し、対象物の所定の計測点についての第1および第2の超音波ビームによる受信信号をそれぞれ得る。次に、減衰特性算出部は、所定の計測点について得た、第1の超音波ビームによる受信信号と第2の超音波ビームによる受信信号の超音波エネルギーの深度方向の変化を用いて対象物の減衰特性を求めている。
【0006】
また、特許文献2には、超音波画像に含まれる各種のノイズやスペックルを低減し、被検体組織に関する情報を強調するために、画像のフィルタリング処理を行う技術であって、筋組織構造のように、局所領域でみた場合に組織構造が特定の方向へ揃っているときには、その構造をはっきりとさせるようにフィルタのパラメータを調整する方法が提案されている。すなわち、超音波画像における局所領域のエッジの方向と、前記局所領域におけるエッジの大きさと、局所領域におけるエッジの方向一様性を算出し、フィルタのパラメータを設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6457107号公報
【文献】特開2012-75882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体組織の音響特性の1つとして、組織内部を伝播する音響エネルギーの減衰特性がある。減衰特性とは、超音波が媒質中を伝播する際、超音波エネルギーがその伝播距離に応じて、吸収、散乱の現象により減衰する特性である。肝疾患の1つである脂肪肝は、正常肝と比較して音響エネルギーの減衰が大きくなることが知られている。そこで、減衰率を計測することにより、疾患の診断に役立てることが期待されている。
【0009】
超音波の信号強度は、伝搬距離が大きくなるにつれ滑らかに減少するが、実際にはランダムな信号強度の変化(スペックル)が含まれている。減衰率の算出は、距離当たりの信号強度の低下率から算出するため、このスペックルが、計測値のバラつきを引き起こし、減衰率の算出精度を低下させるという問題がある。
【0010】
また、超音波診断装置には、深度に応じて受信信号にゲインをかけるTime Gain Control (TGC)機能が実装されており、超音波エネルギーの強度分布を輝度分布として表すB像の輝度が、浅部から深部まで一様になるように調整する。しかし、実際の受信RF信号の深度方向の減衰は、深度に応じていない場合がある。例えば、送信超音波が集束されて照射される場合、受信RF信号は送信超音波の焦点付近で強度が大きくなる。
【0011】
また、実際の受信RF信号の減衰は、深度方向だけでなく、深度方向と方位方向に2次元的に発生する。例えば、肝疾患の診断を想定した場合、肝実質と皮下組織やのう胞、横隔膜では音速、密度、減衰率が異なるため、構造物の境界で超音波が反射、屈折、散乱を起こし、深度方向と方位方向の音圧プロファイルに対して2次元的に影響を与える。
【0012】
そのため、深度方向のみのTGC機能では、深度方向のB像の輝度分布を一様にすることはできず、依然B像上で生体組織の形態が視認しにくくなり、診断が困難となる場合がある。
【0013】
本発明の目的は、超音波の減衰率を方向にかかわらず精度よく算出可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の超音波診断装置は、超音波探触子から信号を受け取って受信ビームフォーミングを行うことにより、撮像領域に設定された複数の受信走査線についてそれぞれ受信信号を生成する受信ビームフォーマと、受信信号を処理する信号処理部とを有する。信号処理部は、複数の受信信号を受信走査線の順に並べた2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する2次元ROI設定部と、ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値をROI内に設定した代表点の処理後信号値とする代表値算出部とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波診断装置によれば、2次元のROIを複数設定し、それぞれの代表値を処理後信号値とするため、超音波の減衰率を方向にかかわらず精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態1の超音波診断装置のブロック図。
【
図2】実施形態1の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【
図3】実施形態1において検査対象へ送受信を示す説明図。
【
図4】実施形態1の受信RF信号を並べた2次元信号空間と設定されるROIを示す説明図。
【
図5】実施形態1の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【
図6】実施形態1においてROI適合性を判断する処理を示す説明図。
【
図7】実施形態1の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【
図8】実施形態1において受信RF信号の2次元信号空間における有効ROIと無効ROIを示す説明図。
【
図9】実施形態1において受信RF信号の2次元信号空間における有効領域(有効RO)Iと無効領域(無効ROI)の分布を示す説明図。
【
図10】実施形態1の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【
図11】実施形態1において代表値適合性判定部の処理を示す説明図。
【
図12】実施形態2の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【
図14】実施形態3の超音波診断装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に従い説明する。
【0018】
<<実施形態1>>
<超音波診断装置の全体構成>
図1に実施形態の超音波診断装置1の一構成例のブロック図を示す。本実施形態の超音波送受信装置1は、送受信制御部20と、信号処理部30を備えている。また、送受信制御部20には、探触子10が接続されている。信号処理部30には、外部入力デバイス13と、表示部16が接続されている。
【0019】
送受信制御部20は、送信ビームフォーマ21と受信ビームフォーマ22とを備えている。送信ビームフォーマ21は、送信信号を生成し、探触子10を構成する配列された振動子に出力する。探触子10の複数の振動子は、送信信号を超音波に変換し、検査対象100に向かって送信する。検査対象100において反射や散乱された超音波のうち探触子10に到達した超音波は、探触子10の各振動子によって電気信号に変換される。受信ビームフォーマ22は、各振動子の電気信号を受け取って、撮像領域に設定した受信走査線上の複数の点について焦点を合わせるように遅延させて加算(整相加算)することにより、受信信号(以下、受信RF信号と称する)を生成(受信ビームフォーミング)する。
【0020】
信号処理部30は、2次元ROI設定部31と、ROI適合性分析部32と、代表値算出部33と、代表値適合性判定部34と、補間部35と、画像生成部36と、減衰率算出部37とを備えて構成される。
【0021】
2次元ROI設定部31は、複数の受信RF信号を受信走査線の順に並べた2次元信号空間を形成し、2次元信号空間に2次元のROIを複数設定する。
【0022】
代表値算出部33は、ROI内の信号を用いて代表値を求め、求めた代表値をROI内に設定した代表点の処理後信号値とする。
【0023】
このように、2次元のROIを受信RF信号の2次元信号空間に複数設定し、それぞれの代表値を求め、ROIの代表値の処理後信号値とするためROI内の受信信号に含まれるスペックルを2次元空間において低減することができる。これにより、超音波の減衰率を方向にかかわらず精度よく算出することができる。
【0024】
上記2次元ROI設定部31は、複数のROIを、2次元信号空間の受信走査線に沿った方向および受信走査線の配列方向の少なくとも一方について、互いにずれた位置に設定することが望ましい。
【0025】
このとき、2次元ROI設定部31は、設定するROIのサイズや形状を、受信RF信号に基づいて適応的に変更してもよい。
【0026】
ROI適合性分析部32は、ROI内の信号強度の分布が、予め定めた信号強度分布に適合しているか否かを判定し、適合しているROIを有効ROIとし、適合していないROIを無効ROIとする。
【0027】
代表値適合性判定部34は、代表値算出部33が算出した複数のROIについての代表値の分布が、予め定めた条件に適合しているかを判定する。代表値適合性判定部34は、条件に適合していない代表値を処理後信号値として採用しない。例えば、代表値適合性判定部34は、複数のROIの代表値の信号強度の分布が、音波伝播方向にそって徐々に減少している場合、条件に適合すると判定する。
【0028】
補間部35は、2次元信号空間において、複数のROIの代表値を用いて、ROIとROIの間の2次元信号空間の信号値を補間により求める。
【0029】
画像生成部36は、処理後信号を用いて、Bモード像を生成する。画像生成部36は、処理後信号を用いて、Bモード像の輝度値を最適化する構成としてもよい。
【0030】
減衰率算出部37は、処理後信号を用いて、深さ方向の減衰率を求める。
【0031】
信号処理部30は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリとを備えたコンピュータ等によって構成され、CPUが、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、上述した2次元ROI設定部31と、ROI適合性分析部32と、代表値算出部33と、代表値適合性判定部34と、補間部35と、画像生成部36と、減衰率算出部37の機能をソフトウエアにより実現する。なお、信号処理部30は、その一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて信号処理部7を構成し、信号処理部7の各部の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0032】
図2に実施形態の超音波診断装置の一構成例のフローチャートを示す。全体の動作を、このフローチャートに沿って説明する。
【0033】
まず、探触子10から
図3のよういに超音波を送受信する。具体的には、送信ビームフォーマ21によって生成された送信信号が探触子10に出力され、探触子10から、超音波のビームである送信超音波301が送信され、検査対象100内部の散乱体303から散乱してきた反射超音波302を探触子10が受信する。受信ビームフォーマ22は、探触子10からの信号を整相加算することにより、設定した受信走査線に沿った受信RF信号を生成する。受信RF信号は、整相加算処理後、さらに常用対数で圧縮したものである。
【0034】
なお、受信RF信号には、スペックルと呼ばれるランダムな信号の強度変化が含まれている。これは、媒質内の散乱体303から散乱された超音波がランダムに干渉しあうことで発生するもので、媒質の音響特性や、媒質内の散乱体の形状および密度によって変化する。また、検査対象の媒質は減衰があることを想定している。従って、この媒質内部を超音波が伝播すると、伝播距離に応じて、超音波エネルギーが減少する。
【0035】
ステップ201では、2次元ROI設定部31には、受信走査線に沿った受信RF信号が受信ビームフォーマ22から入力される。
【0036】
2次元ROI設定部31は、複数の受信RF信号を受信走査線の順に横軸(方位)方向(探触子の振動子の並び方向)に並べることにより、2次元信号空間を形成する。したがって、この2次元信号空間は、横軸が方位方向、すなわち探触子10の振動子の並び方向、縦軸が深さ方向にあたる時間となっている。
【0037】
次に、ステップ202では、送信した超音波の音圧プロファイルを用いて受信信号を補正し、補正後信号を得る。これにより、送信した超音波の音圧の強弱に起因する受信RF信号の信号強度の分布を補正する。音圧プロファイルは、均質なファントムもしくはシミュレーションによって予め計測や算出を行い、超音波診断装置内のメモリに保存したものを使用する。補正方法としては、受信RF信号をM(i,t),音圧プロファイルをR(i,t)、補正後の信号をC(i,t)として、
【数1】
と表される。なお、iは探触子の振動子の番号、tは時間を示す。
【0038】
次に、ステップ203では、2次元ROI設定部31は、設定する複数のROIの仕様及び位置を決定する。ここでは、2次元ROI設定部31は、複数のROIを、2次元信号空間の受信走査線に沿った方向および受信走査線の配列方向の少なくとも一方について、互いにずれた位置に設定する。また、2次元ROI設定部31は、設定するROIのサイズや形状を、受信RF信号に基づいて適応的に変更する。
【0039】
図4を用いて、ROI仕様と、位置の設定方法の例を説明する。ROI401は、受信RF信号中に深さ方向のサイズがサンプル数h、方位方向のサイズがサンプル数wのサイズであり、その代表点(例えば中心)を(xn,zn)の位置にくるように設定されたROIである。ROI402は、ROI401とサイズは同じであるが、中心位置を深さ方向にサンプル数dh、方位方向にサンプル数dwだけ異なる位置に設定したものである。よって、ROI401の代表点(xn,zn)に対し、ROI402を代表点の位置は(xn+dw,zn+dhs)となる。
【0040】
2次元ROI設定部31によるROI401,402の深さ方向のサイズ(サンプル数h)と方位方向のサイズ(サンプル数w)の決定方法、ならびに、ROI401とROI402の位置ずれ量(深さ方向のサンプル数dh、方位方向のサンプル数dws)の決定方法の一例を
図5を用いて説明する。
【0041】
2次元ROI設定部31は、
図5のステップ501において、ステップ201において、受信RF信号を並べて形成した2次元信号空間を受け取る。次に,ステップ502において2次元フーリエ変換し,受信RF信号の空間周波数の分布を求め,2次元ROI設定部31は,この空間周波数分布に基づき,スペックルの方位方向,深さ方向のサイズの分布を求める。
【0042】
次にステップ503にて、2次元ROI設定部31は、スペックルの空間的なサイズ分布に基づき、ROIのサイズを決定する。具体的な決定方法としては、例えば、ROIの深さ方向のサンプル数h、方位方向のサンプル数w及び深さ方向の移動サンプル数dh、方位方向の移動サンプル数dwを、スペックルの空間サイズの平均の任意倍にする。
【0043】
次に、
図2のステップ204では、ROI適合性分析部32は、2次元ROI設定部31が設定したROIが、ステップ205以降の処理に使用するかどうか、適合性を判断する。適合性の判断の方法の模式図を
図6に示す。まず、ROI適合性分析部32は、2次元ROI設定部31が設定したROIがROI601、ROI602である場合、それぞれROI内の各点の受信RF信号の信号強度(輝度)分布603、信号強度(輝度)分布604を算出する。そして、ROI適合性分析部32は、各々の信号強度分布と、理想データ605との違いを定量化する。なお、理想データは、予め均質ファントムやシミュレーションなどで算出し、超音波診断装置のメモリに保存したものを使用する。
【0044】
図6において、ROI601の信号強度(輝度)分布603は、理想分布605と非常に似ている。一方、構造物606の含まれているROI602の信号強度(輝度)分布604は、理想分布605から乖離している。ROI適合性分析部32は、このような理想分布607からの乖離度から、ROIの適合性の有無を判定する。
【0045】
ROI適合性分析部32によって、適合性があると判断されたROIに関しては、次のステップ205にて、代表値算出部33が代表値の算出を行う。
【0046】
図7のフローを用いて、上記ステップ204、205のROI適合性分析部32による乖離度の算出と、代表値算出部33による代表値の算出の処理フローを具体的に説明する。
【0047】
図7のステップ701において、2次元ROI設定部31は、
図4で示したようにひとつ前に設定したROIの位置に基づいて、ROIの設定位置を決定し、設定する。
【0048】
ステップ702は、ROI適合性分析部32は、ROI中の信号強度(輝度)ヒストグラムRmeasuredを算出する。
【0049】
ステップ703は、ROI適合性分析部32は、ROI中の信号強度(輝度
ヒストグラムRmeasuredと理想の輝度ヒストグラムRmodelとの乖離度Sを、
【数2】
として算出する。
【0050】
ステップ704にて、ROI適合性分析部32は、予め設定した閾値と、式(2)で算出した乖離度Sの比較によって適合性を判定する。すなわち、ROI適合性分析部32は、予め設定した閾値よりも乖離度Sが小さい場合、適合性があると判定する。
【0051】
ステップ705において、ROI適合性分析部32は、適合性があると判定したROIに対しては、有効ROIとしてROIの代表点(xn,zn)の値μをROI中の値から算出する。代表点の値としては、ROI中の平均値や、中央値、最大値、最小値といった値を用いる。なお、本実施形態では、最初の代表点の位置をROIの中央の点としているが、中央の点に限られず重心やいずれかの辺の中点や四隅の点の予め定めた位置の点としてもよい。
【0052】
また、ROI適合性分析部32は、適合性がないと判断したROIに関しては、無効ROIとしてステップ706において代表点の値を定数τと設定する。なお、τは、0など、受信RF信号上に現れない定数を決定する。
【0053】
ステップ207において、ROI適合性分析部32は、算出した代表値をメモリ(付図示)に保存する。
【0054】
最後に、ステップ208(ステップ707)にて、ROI適合性分析部32は、全ての領域の分析が完了するまで上記処理を繰り返す。
【0055】
図8は、
図7のステップ701から707の処理途中の様子を示した図である。受信RF信号の2次元信号空間805中に、適合すると判定された有効ROI803と、適合しないと判定された無効ROI804が位置することがわかる。各々のROIに対して、代表点802が設定されている。
【0056】
図9は、
図7のステップ701から707の処理を完了した際の様子を示した図である。処理が完了すると、無効ROIの代表点の集合体である無効領域の903と、有効ROIの代表点の集合体である有効領域904が受信RF信号805中に分布する形になる。
【0057】
つぎに、代表値適合性判定部34は、代表値算出部33が算出した複数のROIについての代表値の分布が、予め定めた条件に適合しているかを判定する。
【0058】
まず、
図2のステップ208において、代表値適合性判定部34は代表値の選出を行う。
図10は、代表値の選出のフローチャートである。
【0059】
まず、ステップ1001で、代表値適合性判定部34は、代表点間を線分で結び、ステップ1002で、
図11に示した、3点に囲まれた領域1102を作成する。
【0060】
次に、ステップ1003にて、代表値適合性判定部34は、その3点に囲まれた領域1102内に、
図9に示した無効領域(無効ROI)903が含まれていないか判定する。
【0061】
最後に、ステップ1004にて、代表値適合性判定部34は、3点の代表点の値を用い、3点に囲まれた領域中を通過する超音波ビーム方向の代表値の勾配を算出する。
【0062】
ステップ1004の代表値適合性判定部34の操作を図示したものが
図11である。
図11にて、代表値適合性判定部34は、k1,k2,k3の3点に囲まれた領域1102の内部を通過するビームベクトル1101を設定し、そのビームベクトル1101の方向の代表値の勾配を算出する。
【0063】
次に、ステップ1005にて、代表値適合性判定部34は、ビームベクトル1101の方向の勾配が負であれば、代表値を適正として選出する。
【0064】
ここで、代表値適合性判定部34が、ビームベクトル1101の方向の勾配が負であったときに適正として選出する理由としては、検査対象100を伝搬するにつれ超音波は減衰するものであると想定しており、超音波のビーム方向、つまり音波の伝播方向に沿って必ずエネルギーが減少する、すなわち代表値の勾配は負となる。
【0065】
ただし、ROI適合性分析部32によって、そもそも輝度分布が適正でないと判断されている無効領域(無効ROI)は必ずしもエネルギーが減少するとは限らないため、ステップ1003にて予め除去している。
【0066】
図2、ステップ209では、ステップ208で選出された代表点間に対し2次元の補間処理を行う。これにより、代表点の分布をより滑らかにすることができ,画像生成部36で生成される画像をより滑らかにすることができる。また,複数のROIを間隔をあけて配置した場合であっても、ROI間の信号値を算出することができるため、処理速度を向上させることができる。なお、補間方法は、2次元の線形補間、2次元のスプライン補間、2次元のBスプライン補間方法等の公知の方法を用いる。
【0067】
以上により、2次元空間で深度方向および方位方向にスペックルを除去した信号(代表値および補間処理値)を生成することができる。
【0068】
最後に、
図2のステップ210にて、補間部35は、画像の生成を行う。画像の生成方法に関しては、実施形態2、実施形態3で述べる。
【0069】
<<実施形態2>>
図12は、
図2のステップ210での、画像生成部36によるB像の画像の生成処理のフローチャートの例を示したものである。
【0070】
まず、ステップ1201で、画像生成部36には、
図2のステップ209から出力された補間処理後の信号が入力される。
【0071】
次に、ステップ1202にて、画像生成部36は、音圧プロファイルを読み込む。なお、この音圧プロファイルは、
図2のステップ202の音圧プロファイル補正で用いたものと同じものである。
【0072】
次に、ステップ1203にて、画像生成部36は、B像の描画領域全体のゲイン補正を行うための2次元補正ゲインを算出する。2次元補正ゲインG(I,t)は、補間処理後の信号をS(I,t)、音圧プロファイルをP(I,t)とすると、
【数3】
と表される。なおBは、ユーザが設定する所望のB像の輝度である。
【0073】
次に、ステップ1204において、受信RF信号を読み込む。
【0074】
次に、ステップ1205では、ステップ1205で読み込んだ受信RF信号を2次元補正ゲインによって補正し、補正後の信号を作成する。補正後の信号をC(i,t)、受信RF信号をM(i,t)とすると、
【数4】
と表される。
【0075】
ステップ1206では、画像生成部36は、式(4)で作成した補正後の信号C(i,t)を用いてB像を生成することにより、2次元補正ゲインで補正されたB像を得ることができる。画像生成部36は、生成した画像を表示部16に表示する。
【0076】
図13は、実施形態2で作成された補正B像の表示例である。ゲインマップ1302と、補正B像1303が並べて表示されており、ゲインマップ1302中には、
図2のステップ208で選出された代表点1202と、
図2のステップ204で分析された無効領域(無効ROI)1201が示されている。ユーザは、B像単体はもちろんであるが、
図13に示したようにゲインマップと比較することで、補正が適切に行われるか判断することができる。
【0077】
<<実施形態3>>
図14は、
図2のステップ210での、画像生成部36による減衰率マップの画像の生成処理のフローチャートの例を示したものである。減衰率は、単位距離、単位周波数あたりの超音波エネルギーの減衰量である。
【0078】
実施形態3では、まず、ステップ1401で、画像生成部36には、
図2のステップ209から出力された補間処理後の信号が入力される。
【0079】
次に、ステップ1402で、画像生成部36は、補間処理後信号の時間軸に音速の値(生体内で約1540 m/s)をかけることで距離に換算する。
【0080】
次に、ステップ1403で、画像生成部36は、ビーム方向の勾配を算出する。このビーム方向の勾配は、超音波の伝播に伴う超音波エネルギーの減衰量そのものを示している。
【0081】
さらにステップ1404にて、画像生成部36は、ステップ1402で算出したビーム方向の勾配から、減衰率を算出する。減衰率α[dB/MHz/cm]は、ビーム方向の勾配をD[dB/cm]、送信に用いた周波数をf[MHz]とすると、
【数5】
と表される。
【0082】
画像生成部36は、上記処理を、ユーザが外部入力デバイス13を介して予め設定した減衰率マップ表示領域内の全領域に対して行い、減衰率マップを作成する。画像生成部36は、作成した減衰率マップを表示部16に表示する。
【0083】
図15は、減衰率マップの表示部16における表示形態の例である。超音波画像1500上に、減衰率マップ表示領域1503が重畳され減衰率マップが表示されている。この表示形態では、減衰率マップと、代表点1502、無効領域1501をユーザは比較することができる。よって、ユーザは、代表点や無効領域の選出のされ方から、減衰率の計測が適切に行われているか判断することができる。
【0084】
図16は、減衰率マップの表示部16における表示形態のもう1つの例である。超音波画像1600上に、減衰率マップ表示領域1603が重畳されている。減衰率の大きさは、減衰率の表示レンジ1605で定められたカラーバーに対応するカラーによって示されている。この表示形態では、ユーザがB像1602と減衰率マップとの比較から、無効値1604が適切に検出され、減衰率の計測が適切に行われているか判断することができる。
【0085】
上述してきたように、本実施形態1の超音波診断装置によれば、2次元空間で深度方向および方位方向にスペックルを除去した信号(代表値および補間処理値)を生成することができる。よって、この信号を用いて実施形態2のようにB像を生成してもよいし、実施形態3のように減衰率を算出してもよい。
【0086】
B像は、超音波の伝搬による減衰が精度よく補正されているため、高精細な画像となっている。よって、ユーザは、この高精細なB像を見て診断を行うことができる。
【0087】
また。実施形態3のように、減衰率を算出して表示することにより、減衰率が所定値以上に大きい場合は、脂肪肝等の減衰率に特徴が表れる疾患の判定に役立てることができる。
【符号の説明】
【0088】
1:超音波送受信装置、10:探触子、13:外部入力デバイス、16:表示部、20:送受信制御部、21:送信ビームフォーマ、22:受信ビームフォーマ、21:送信ビームフォーマ、30:信号処理部、31:2次元ROI設定部、32:ROI適合性分析部、33:代表値算出部、34:代表値適合性判定部、35:補間部、36:画像生成部、37:減衰率算出部、100:検査対象