(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】塗布軌跡予測装置および塗布軌跡予測方法、ならびに塗布軌跡学習装置および塗布軌跡学習方法
(51)【国際特許分類】
A43D 25/18 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A43D25/18
(21)【出願番号】P 2020066209
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(73)【特許権者】
【識別番号】516292030
【氏名又は名称】株式会社クロスコンパス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】平中 慶子
(72)【発明者】
【氏名】リセラン コランタン
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/037932(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43D 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して生成された予測モデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記予測モデルにもとづいて、入力された履物構成部品の外郭画像から塗布軌跡情報を予測して出力する予測部とを有し、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡予測装置。
【請求項2】
前記塗布軌跡情報は、前記履物構成部品の外郭画像に対して設定された2次元座標系において塗布領域を表す画素の集合体であるラスタ形式、前記2次元座標系において塗布軌跡を表す線の集合体であるベクタ形式、および前記2次元座標系において塗布領域を表す点群の集合であるポイントクラウド形式のいずれかで与えられる請求項1に記載の塗布軌跡予測装置。
【請求項3】
前記塗布軌跡情報を前記履物構成部品の外郭画像に対して設定された2次元座標系における塗布軌跡上の各点を示す2次元座標データに変換し、塗布軌跡上の各点における前記履物構成部品の塗布面の高さデータを付加して、塗布軌跡上の各点の3次元座標データを生成する変換部をさらに含む請求項1または2に記載の塗布軌跡予測装置。
【請求項4】
履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して予測モデルを生成する学習部と、
前記予測モデルを記憶する学習済みモデル記憶部とを含み、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡学習装置。
【請求項5】
前記塗布軌跡情報は、前記履物構成部品の外郭画像に対して設定された2次元座標系において塗布領域を表す画素の集合体であるラスタ形式、前記2次元座標系において塗布軌跡を表す線の集合体であるベクタ形式、および前記2次元座標系において塗布領域を表す点群の集合であるポイントクラウド形式のいずれかで与えられる請求項4に記載の塗布軌跡学習装置。
【請求項6】
コンピュータが、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して生成された予測モデルにもとづいて、入力された履物構成部品の外郭画像から塗布軌跡情報を予測して出力し、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡予測方法。
【請求項7】
コンピュータが、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して予測モデルを生成し、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡学習方法。
【請求項8】
コンピュータに、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して生成された予測モデルにもとづいて、入力された履物構成部品の外郭画像から塗布軌跡情報を予測して出力させ、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡予測プログラム。
【請求項9】
コンピュータに、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して予測モデルを生成させ、
前記外郭画像は前記履物構成部品の塗布面に対向する方向から履物構成部品を撮影して得られるエッジ画像であり、
前記エッジ画像は、前記
塗布面から外側にはみ出ている部分を有する塗布軌跡学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗布軌跡を予測する技術および塗布軌跡を学習する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の生産コストを低減させ、品質を安定させるために製造工程に各種の産業用ロボットが用いられている。ロボットによる自動生産では、ロボットの動作プログラムを作成すること(「ティーチング」と呼ばれる)が必要である。
【0003】
たとえば、靴のアッパとソールを貼り合わせるために、アッパとソールの貼り合わせ領域にロボットアームを移動させて接着剤を塗布する。マスタサイズの靴のアッパとソールに対してロボットアームの塗布軌跡を指定する動作プログラムをあらかじめ作成しておき、実際の靴のサイズに合わせてマスタの軌跡をスケーリングして用いる自動グレーディングシステムがある。
【0004】
例として、靴のソールの上面だけでなく、靴のアッパ等の靴構成部品の底面に接着剤を塗布する場合において、アッパ等の靴構成部品の底面に接着剤を塗布する際の手間を削減するために、認識した靴の底面の外郭に基づいて、靴の底面に接着剤を塗布する際の塗布軌跡を設定し、接着剤の塗布を行う接着剤塗布部を設定された塗布軌跡に沿って移動機構を移動させるように制御することにより、靴のアッパ等の靴構成部品の底面に接着剤を塗布する際の手間を軽減することが可能な、靴用接着剤塗布システム、 塗布軌跡生成装置、及び靴製造方法に関する技術が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、レーザスキャナを備えたスキャンユニットにより靴ソールを撮像して3次元スキャン画像を生成し、3次元スキャンの結果を記憶された設計データと比較し、靴ソールが不良品であるかどうかのチェックをするために、靴ソールの品質についての判定を提供することにより、靴ソールを自動的に製造するための方法及び装置に関する技術が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/037932号
【文献】特表2019―516593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般にロボットのティーチングには時間と手間がかかり、ロボット生産の拡大の障壁となっている。特にアッパとソールとを有する靴、ブーツ、サンダル及びスリッパ等の履物の構成部品への接着剤塗布を、ロボットアームを用いて実行するためには、履物のサイズ毎に左右それぞれのティーチングが必要となり、作業時間が増大する。それに加えて、履物のサイズ毎に動作プログラムを作成したとしても、同サイズの履物であっても実際の構成部品には成型誤差や経時的な変形などが生じるため、1つの動作プログラムだけでは局所的に寸法が異なる履物の構成部品に対応することができない。
【0008】
上記の自動グレーディングシステムでは、履物の構成をアッパとソールに限定した場合、ある1つのサイズのアッパとソールの片足の動作プログラムをマスタとして手動作成すれば、マスタのスケールを履物のパーツの寸法に合わせて拡大/縮小し、その他のサイズ用のプログラムを自動作成し、各サイズの動作プログラムを反転することにより、両足の動作プログラムを完成させることができる。これによりティーチング時間を短縮することができる。しかしながら、自動グレーディングシステムは、履物の構成部品の寸法ばらつきに対応することができない。また、マスタ作成が作業者のスキルに依存するため、品質の安定化が難しい。さらに、マスタのスケールの拡大/縮小により動作精度が変化するという問題がある。
【0009】
上記の3Dスキャニングシステムでは、履物のパーツの三次元形状にレーザ光を照射することによって計測し特徴点を抽出し、抽出された特徴点を基準に一定条件下でのロボットの動作プログラムを自動作成する。三次元計測から動作プログラム作成までの一連のプロセスは塗布対象パーツ毎に実行されるため、マスタという概念が無く、個々の履物のパーツに対して個別にティーチングが可能である。しかしながら、3Dスキャニングシステムでは、塗布精度と三次元計測時間に正の相関があり、塗布精度を高めるためにはかなりの計測時間をかける必要がある。また、3Dスキャニング装置は比較的高価である。さらに、履物のアッパなど不定形で特徴点がないパーツには対応することができない。
【0010】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗布軌跡を予測する技術および塗布軌跡を学習する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の塗布軌跡予測装置は、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して生成された予測モデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、前記予測モデルにもとづいて、入力された履物構成部品の外郭画像から塗布軌跡情報を予測して出力する予測部とを含む。
【0012】
本発明の別の態様は、塗布軌跡学習装置である。この装置は、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して予測モデルを生成する学習部と、前記予測モデルを記憶する学習済みモデル記憶部とを含む。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、塗布軌跡予測方法である。この方法は、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して生成された予測モデルにもとづいて、入力された履物構成部品の外郭画像から塗布軌跡情報を予測して出力する。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、塗布軌跡学習方法である。この方法は、履物構成部品の外郭画像と前記履物構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報とを教師データとして用いて前記外郭画像と前記塗布軌跡情報の間の相関関係を機械学習して予測モデルを生成する。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塗布軌跡を学習し、予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係る塗布軌跡学習装置の構成図である。
【
図2】本実施の形態に係る塗布軌跡予測装置の構成図である。
【
図3】
図3(a)は、履物の斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)の履物を、アッパの塗布面に対向する方向から見た場合の底面図である。
【
図4】
図4(a)は、教師データとして用いられる外郭画像を示す図であり、
図4(b)は、
図3(b)の塗布領域における塗布軌跡を示す図である。
【
図5】
図1の学習部および
図2の予測部が予測モデルとして用いるニューラルネットワークを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施例においては、実施形態として履物の一種であるスポーツシューズ等の靴を例として説明したが、履物は例えば、靴、ブーツ、サンダル又はスリッパ等、少なくともアッパとソールを含むものであればよく、靴のみに限定されるものではない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る塗布軌跡学習装置100の構成図である。塗布軌跡学習装置100は、学習部10、教師データ記憶部20、および学習済みモデル記憶部30を含む。同図は機能に着目したブロック図を描いており、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。
【0020】
教師データ記憶部20は、靴構成部品の外郭画像22と靴構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報24の対を教師データとして記憶する。
【0021】
ここで、例えば、塗布軌跡情報24は、塗り斑がなく、靴構成部品からのはみだしがなく、また、塗布される領域を最低限網羅するような効率の良い軌跡であることが望ましい。
【0022】
具体的には、塗布軌跡情報24として、一筆描きによる塗布軌跡情報とすることが考えられる。
【0023】
学習部10は、一定の相関関係が存在する外郭画像22と塗布軌跡情報24と教師データとして機械学習して予測モデルを生成する。機械学習の一例として、多層ニューラルネットワークモデルを用いて、入力データに外郭画像22を与え、出力データと塗布軌跡情報24の誤差が最小になるように深層学習により、各層のニューラルネットワークを結合する重みを学習する。
【0024】
学習済みモデル記憶部30は、学習部10により生成された学習済みの予測モデルを記憶する。学習済みモデル記憶部30に記憶された予測モデルは、後述の塗布軌跡予測装置200において未知の外郭画像から塗布軌跡情報を推定する予測モデルとして利用される。
【0025】
図2は、本実施の形態に係る塗布軌跡予測装置200の構成図である。塗布軌跡予測装置200は、学習済みモデル記憶部30、入力部40、予測部50、出力部60、変換部70、および動作プログラムデータ記憶部80を含む。同図は機能に着目したブロック図を描いており、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。
【0026】
学習済みモデル記憶部30は、塗布軌跡学習装置100により生成された予測モデルを記憶する。この予測モデルは、靴構成部品の外郭画像22と靴構成部品における接着剤を塗布するべき一つまたは複数の軌跡を表す塗布軌跡情報24の対を教師データとして用いて外郭画像22と塗布軌跡情報24の間の相関関係を機械学習して生成されたものであり、一例として、学習済みの多層ニューラルネットワークモデルである。
【0027】
入力部40は、未知の靴の構成部品の外郭画像42を取得して、予測部50に入力データとして与える。
【0028】
予測部50は、学習済みモデル記憶部30に記憶された予測モデルにもとづいて、入力された靴構成部品の外郭画像42から塗布軌跡情報62を予測して出力部60に与える。具体的には、学習済みの多層ニューラルネットワークモデルの入力データに外郭画像42を与え、出力データとして塗布軌跡情報62を取得する。
【0029】
ここで、例えば、塗布軌跡情報62は、塗布軌跡情報24と同様、塗り斑がなく、靴構成部品からのはみだしがなく、また、塗布される領域を最低限網羅するような効率の良い軌跡であることが望ましい。
【0030】
具体的には、塗布軌跡情報62として、塗布軌跡情報24と同様、一筆描きによる塗布軌跡情報とすることが考えられる。
【0031】
出力部60は、予測部50により予測された塗布軌跡情報62を変換部70に与える。
【0032】
変換部70は、予測された塗布軌跡情報を2次元座標系における塗布軌跡上の各点を示す2次元座標データに変換し、塗布軌跡上の各点における靴構成部品の塗布面の高さデータを付加して、塗布軌跡上の各点の3次元座標データを生成する。塗布軌跡の3次元座標データをロボットの動作プログラムデータとして動作プログラムデータ記憶部80に記憶する。
【0033】
靴構成部品の一例は、靴のアッパであり、外郭画像はアッパの塗布面に対向する方向、すなわち靴の裏側からアッパを撮影して得られるエッジ画像である。一般に、アッパにおいて接着剤の塗布領域は、靴の裏側からアッパを撮影して得られるエッジ画像の内部領域である。塗布軌跡は、塗布領域に接着剤を塗布するためのロボットアームの移動軌跡であり、一般に、ロボットアームを塗布領域の輪郭と内部を移動させながら接着剤を塗布する。ここで、外郭画像は、少なくともエッジを表すものであればよく、エッジとその内部の領域とを表すものであってもよい。
【0034】
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、
図4(b)を参照しながら、靴のアッパの外郭画像、塗布領域、および塗布軌跡について説明する。
【0035】
図3(a)は、靴の斜視図である。靴は構成部品としてアッパ300とソール310を含む。アッパ300は一般に丸みを帯びて湾曲しており、製造誤差や個体差が現れやすい。ソールはほぼ定形であるのに対して、アッパは成形誤差や変形によって不定形であり、特異点を特定することができない。
【0036】
図3(b)は、
図3(a)の靴を、矢印320に示すようにアッパの塗布面に対向する方向、すなわち靴の裏側から見た場合の底面図である。符号400はアッパの外郭画像である。符号410で示される斜線を付した領域は、アッパの底面であり、接着剤を塗布するべき塗布領域である。アッパ300は丸みを帯びているため、外郭画像400は、塗布領域410から外側にはみ出ている部分があることに留意する。また、塗布領域410は平面ではなく、足の形状に合わせてアーチの部分が湾曲していることにも留意する。すなわちロボットアームが移動すべき塗布領域410は2次元座標だけでなく、高さも含めた3次元座標で規定される。
【0037】
図4(a)は、教師データとして用いられる外郭画像400を示す図である。
図3(a)では、色情報をもつ一般的な画像として示したが、教師データとして用いる外郭画像400は、撮影画像の色情報は無視して、
図4(a)に示すようにアッパを裏側から撮影して得られるエッジとその内部を一色で塗りつぶした画像である。
【0038】
図4(b)は、
図3(b)の塗布領域410における塗布軌跡420を示す図である。塗布軌跡420は、塗布領域410に接着剤を塗布するためにロボットアームを移動させる軌跡を2次元平面に表したものである。ここでは、塗布軌跡420として、塗布領域410の輪郭を一周した後、塗布領域410の内部を直線的に移動する軌跡を例として挙げているが、塗布軌跡は任意である。たとえば、塗布領域410をジグザクに移動する軌跡にしてもよい。
【0039】
塗布軌跡情報は、靴構成部品の設計者等が、所定の靴構成部品の外郭画像のそれぞれに対して設計情報をもとに作成して与えてもよい。また、靴構成部品の熟練加工者等が、所定の靴構成部品の外郭画像のそれぞれに対して経験やノウハウをもとに作成して与えてもよい。
【0040】
塗布軌跡情報は、靴構成部品の外郭画像に対して設定された2次元座標系において塗布領域を表す画素の集合体であるラスタ形式、2次元座標系において塗布軌跡を表す線の集合体であるベクタ形式、または2次元座標系において塗布領域を表す点群の集合であるポイントクラウド形式で与えることができ。
【0041】
図5は、学習部10および予測部50が予測モデルとして用いるニューラルネットワークを説明する図である。
【0042】
ニューラルネットワークは、入力層にあるl個のニューロン、第1中間層にあるm個のニューロン、第2中間層にあるn個のニューロン、出力層にあるo個のニューロンから構成される。
【0043】
第1中間層及び第2中間層は、隠れ層とも呼ばれており、ニューラルネットワークとしては、第1中間層及び第2中間層の他に、さらに1以上の隠れ層を有してもよい。
【0044】
また、入力層と第1中間層との間、第1中間層と第2中間層との間、第2中間層と出力層との間には、層間のニューロンを接続するノードが張られており、それぞれのノードには、重みWijが対応づけられている。
【0045】
ニューラルネットワークは、学習用データセットを用いて、靴構成部品の接着面側の外郭画像と、当該靴構成部品の塗布軌跡情報との相関関係を学習する。
【0046】
学習の方法をより具体的に説明する。学習用データセットのうち、靴構成部品の1つの外郭画像の説明変数である、当該外郭画像の全ての画素のそれぞれについて順番を一意に定めたものと入力層のニューロンのそれぞれとを対応づける。
【0047】
出力層にあるニューロンの値を、一般的なニューラルネットワークの出力値の算出方法で算出する。すなわち、出力側のニューロンの値を、当該ニューロンに接続される入力側のニューロンの値と、出力側のニューロンと入力側のニューロンとを接続するノードに対応づけられた重みWijとの乗算値の数列の和として算出することを、入力層にあるニューロン以外のニューロンに対して行う。
【0048】
算出された出力層にあるニューロンの値のそれぞれと、学習用データセットのうち、靴構成部品の塗布軌跡情報の目的変数である、例えば、前記靴構成部品の外郭画像に座標の原点を対応付けて塗布軌跡を表した画像のそれぞれについて順番を一意に定めたものとを対応させる。
【0049】
算出された出力層にあるニューロンの値のそれぞれを、前記塗布軌跡情報の目的変数の値における正解データとして評価できる教師データとそれぞれ比較して誤差を求め、求められた誤差が小さくなるように、各ノードに対応づけられた重みWijを調整することを反復する。
【0050】
所定の反復回数を行うことや、誤差が許容値より小さくなること等の所定の条件が満たされた場合に、学習を終了して、そのニューラルネットワークモデルのノードのそれぞれに対応づけられた全ての重みWijを学習済みモデルとして記憶する。
【0051】
なお、ここでは一般的なニューラルネットワークを例示して機械学習を行うことを示したが、これに限らず、畳み込みニューラルネットワーク(CNN(Convolutional Neural Network))等のその他の機械学習技術を用いることもできる。
【0052】
学習部10は、異なる構造を有するモデルや異なる初期値を有するニューロン等の異なる条件を複数用意して、それぞれに対して上述の学習を複数回繰り返し行うことで、複数の学習済みモデル候補を生成する。
【0053】
その後、学習部10は、複数の学習済みモデル候補に対して、学習用データセットと同じ状態変数のデータである、検証用のデータセットを入力し、その出力結果から、検証結果の優れた学習済みモデルを選定する。学習部10は、選定した学習済みモデルを実行ファイル形式のプログラムや前述の重みWijのパラメータセットとして外部に出力することで、実システムへ適用するための学習済みモデルとして学習済みモデル記憶部30に記憶する。
【0054】
なお、上述の検証用のデータセットは、学習に用いた学習用データセットと同じ説明変数と目的変数を有し、靴製造システム等に設けられたデータ取得システム等から入力されたものでもよく、あるいは、他のデータベースやコンピュータ装置等から入力されたものでもよい。
【0055】
また、学習部10が、上述の学習を複数回繰り返すことを行わずに、1つの学習済みモデル候補を生成する構成としてもよく、この場合には、学習済みモデル記憶部30は、この1つの学習済みモデル候補を、そのまま学習済みモデルとして記憶する。
【0056】
学習済みモデル記憶部30は、記憶した1つあるいは複数の学習済みモデルを、靴構成部品の塗布軌跡情報を推定する塗布軌跡予測装置200に出力してもよい。塗布軌跡学習装置100と塗布軌跡予測装置200とを一つのシステムとして構成し、学習済みモデル記憶部30を共有する場合、塗布軌跡学習装置100から塗布軌跡予測装置200への学習済みモデルの伝送は不要である。
【0057】
以上述べたように、本実施の形態の塗布軌跡学習装置100および塗布軌跡予測装置200によれば、靴構成部品の外郭画像から塗布軌跡を学習して予測することができる。ソールのような定形かつ特徴点のある靴のパーツだけでなく、アッパのような不定形かつ特徴点のない靴のパーツの寸法ばらつきにも適応して塗布軌跡を学習し、予測することができる。予測される塗布軌跡からロボットの動作プログラムデータを自動生成するため、ティーチングレスでロボット生産システムを構築することができ、生産にかかる時間を短縮し、品質を向上させることができる。
【0058】
また、本実施の形態の塗布軌跡学習装置100には、同種の靴構成部品の様々なサイズ(寸法)のものの外郭画像が教師データとして入力されることにより、不定形かつ特徴点のない靴のパーツの寸法ばらつきにも適応して塗布軌跡を学習することが可能となる。
【0059】
本実施例においては、実施形態として履物の一種であるスポーツシューズ等の靴を例として説明したが、履物は例えば、靴、ブーツ、サンダル又はスリッパ等、少なくともアッパとソールを含むものであればよく、靴のみに限定されるものではない。
【0060】
また、靴の構成部品としては、さらに、ソールを細分化したものとしてアウターソールとミッドソールとを備えるものであっても良く、本願発明はこの様なアウターソールとミッドソールとを備える場合において、当該アウターソールとミッドソールとの接着に関しても適用することが可能である。
【0061】
また、本実施例では、商品の一例として靴等の履物を取り上げたが、履物以外の商品にも本実施の形態を適用することができる。たとえば食品サンプルに対して本実施の形態の塗布軌跡学習装置100および塗布軌跡予測装置200を適用して、食品サンプルの構成部品の外郭画像から食品サンプルの構成部品に接着剤を塗布する軌跡を表す塗布軌跡情報を学習し、予測してもよい。
【0062】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0063】
10 学習部
20 教師データ記憶部
30 学習済みモデル記憶部
40 入力部
50 予測部
60 出力部
70 変換部
80 動作プログラムデータ記憶部
100 塗布軌跡学習装置
200 塗布軌跡予測装置