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特許7432431隠蔽剤、並びに金属材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】隠蔽剤、並びに金属材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240208BHJP
   C25D 13/20 20060101ALI20240208BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240208BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240208BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20240208BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C25D13/20 C
C25D13/20 A
B05D3/10 P
B05D7/14 L
B05D5/06 Z
B05D7/24 303E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020073451
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021169653
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深浦 裕之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】福士 英一
(72)【発明者】
【氏名】細野 宏
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 希美
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214137(JP,A)
【文献】特開平04-323400(JP,A)
【文献】特開2017-145471(JP,A)
【文献】特開2010-100910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
C25D 13/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽する方法であって、
電着塗装前に、傷跡を有する金属材料にチオール基を有する化合物を接触させる接触工程、を含む、金属材料の傷跡を隠蔽する方法。
【請求項2】
前記チオール基を有する化合物は、さらにカルボキシル基を有する、請求項1に記載の金属材料の傷跡を隠蔽する方法。
【請求項3】
前記接触工程は、前処理剤による前処理工程、脱脂剤による脱脂工程、化成処理剤による化成処理工程、及び水による水洗工程、からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の金属材料の傷跡を隠蔽する方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法における前記接触工程を経た金属材料に電着塗装を行う工程、を含む塗膜を有する金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽するための隠蔽剤に関する。また、当該隠蔽剤を用いて金属材料の傷跡を隠蔽した金属材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体に用いられる鋼板などの金属材料は耐食性が要求されることから、脱脂した金属材料に対し、化成処理を行った後電着塗装を行うといった処理が広く行われている。例えば特許文献1には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を有する金属基材と、鉄鋼板及びアルミニウム鋼板の少なくとも1種を有する金属基材とに対し、アルカリ脱脂工程、水洗工程、化成処理工程、水洗工程、及びカチオン電着塗装工程をこの順に行って自動車部品とする自動車部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-100599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車車体に用いられる金属材料はプレス加工により成型され、プレス成型された金属材料に化成処理及び電着塗装が行われる。プレス加工の際に金属材料表面に傷が生じた場合には、塗装後の金属材料表面に凹凸が生じてしまうことがあった。そのため、傷跡を消すための作業を別途行わなければならないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、金属材料表面に存在する傷跡を隠蔽するための隠蔽剤、並びに該隠蔽剤を用いて金属材料の傷跡を隠蔽した金属材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、チオール基を有する化合物が自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽するための隠蔽剤として有用であることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のものを含む。
【0007】
(1)自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽するための隠蔽剤であって、チオール基を有する化合物を含有する隠蔽剤。
(2)前記チオール基を有する化合物は、さらにカルボキシル基を有する上記(1)に記載の隠蔽剤。
(3)上記(1)又は(2)に記載の隠蔽剤を金属材料の表面又は表面上に接触させる接触工程と、
前記接触工程後の金属材料に電着塗装を行う塗装工程とを含む、金属材料の製造方法。(4)前記接触工程の際、前又は後であって且つ塗装工程の前に、化成処理を行う化成処理工程を含む、上記(3)に記載の金属材料の製造方法。
(5)上記(1)又は(2)に記載の隠蔽剤を金属材料の表面又は表面上に接触させた後、前記隠蔽剤を接触させた金属材料に電着塗装を行うことにより得られる、金属材料。
(6)前記隠蔽剤を接触させる際、前又は後であって且つ塗装工程の前に、化成処理を行うことにより得られる、上記(5)に記載の金属材料。
(7)自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽する方法であって、傷跡を有する金
属材料にチオール基を有する化合物を接触させる接触工程、を含む、金属材料の傷跡を隠蔽する方法。
(8)前記チオール基を有する化合物は、さらにカルボキシル基を有する上記(7)に記載の金属材料の傷跡を隠蔽する方法。
(9)金属材料の傷跡を隠蔽するための、チオール基を有する化合物の使用。
(10)前記チオール基を有する化合物は、さらにカルボキシル基を有する上記(9)に記載の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、金属材料表面に存在する傷跡を隠蔽するための隠蔽剤、並びに該隠蔽剤を用いて金属材料の傷跡を隠蔽した金属材料及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<隠蔽剤>
本発明の一実施形態は、自動車車体に用いられる金属材料の傷跡を隠蔽するための隠蔽剤であって、チオール基を有する化合物を含有する隠蔽剤である。
チオール基を有する化合物としては、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、1,4-ブタンチオール、1-ペンタンチオール、1-ヘキサンチオール、シクロヘキサンチオール、1-ヘプタンチオール、1-オクタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、2-メルカプトエタノール、ヘキシルメルカプタン、チオグリコール酸、メチルチオグリコート、システイン、などが挙げられる。これらのうち、カルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。
【0010】
隠蔽剤は、典型的には隠蔽剤を含有する組成物中に傷跡を有する金属材料(以下、単に「金属材料」と称する。)を浸漬すること、隠蔽剤を含有する組成物を金属材料に塗布すること、等の方法で使用される。組成物中における隠蔽剤の含有量は特に限定されないが、5ppm以上であってよく、10ppm以上であってよく、50ppm以上であってよく、また5000ppm以下であってよく、2000ppm以下であってよく、1000ppm以下であってよい。
【0011】
隠蔽剤の具体的な使用形態としては、電着塗装の前に行われる前処理に使用され得る前処理剤に隠蔽剤を含有させることで、電着塗装の前に金属材料に隠蔽剤を接触できれば特に限定されない。例えば、金属材料表面の脱脂処理を行う脱脂剤中に本実施形態の隠蔽剤を含有してもよく、金属材料表面の水洗処理を行う純水中に本実施形態の隠蔽剤を含有してもよく、金属材料表面の化成処理を行う化成処理剤中に本実施形態の隠蔽剤を含有してもよく、隠蔽剤を含む隠蔽用組成物を調製して金属表面の隠蔽剤処理を別途行ってもよい。
【0012】
金属材料表面の脱脂処理を行う脱脂剤中に本実施形態の隠蔽剤を含有する場合、市販の脱脂剤中に本実施形態の隠蔽剤を必要量添加すればよい。この場合、脱脂性能を向上させる目的で、アルカリビルダー及び/又は界面活性剤を更に含有させてもよい。アルカリビルダー及び界面活性剤は、既知のものをそれぞれ1種又は2種以上用いてもよい。
また、金属材料表面の化成処理を行う化成処理剤中に本実施形態の隠蔽剤を含有する場合、市販の化成処理剤中に本実施形態の隠蔽剤を必要量添加すればよい。
【0013】
<金属材料の製造方法>
本発明の別の実施形態は、上記隠蔽剤を金属材料の表面又は表面上に接触させる接触工程と、前記接触工程後の金属材料に電着塗装を行う塗装工程と、を含む、金属材料の製造
方法である。本実施形態では、前記接触工程の際、前又は後であって且つ塗装工程の前に、化成処理を行う化成処理工程を含んでいてもよい。
【0014】
隠蔽剤と接触させる金属材料は、自動車車体に用いられ得る金属材料であれば特に限定されない。典型的には冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板などの圧延鋼板及びそのめっき材料、例えば、亜鉛めっき材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき等)、亜鉛合金めっき材(例えば、合金化溶融亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき、電気亜鉛合金めっき等)、アルミめっき材等、及びアルミニウム材又はアルミニウム合金材(例えば、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等)などが使用される。
【0015】
接触工程において、隠蔽剤と金属材料とを接触させる方法は特段限定されず、隠蔽剤を添加した脱脂剤と金属材料とを接触させる方法であってよく、隠蔽剤を添加した水洗用の純水と金属材料とを接触させる方法であってよく、隠蔽剤を添加した化成処理剤と金属材料とを接触させる方法であってよく、隠蔽剤を含む隠蔽用組成物を別途調製して該組成物と金属材料とを接触させる方法であってよい。なお、上記脱脂剤や化成処理剤としては、公知のものを使用することができる。
接触させる手段は特に限定されず、例えば、スプレー法、浸漬法、ロールコート法、バーコート法、カーテンコート法、スピンコート法、又はこれらの組み合わせ等を用いることができる。
【0016】
上記化成処理は、化成皮膜を形成する処理であれば特段限定されず、例えば、ジルコニウム化成処理、チタニウム化成処理、ハフニウム化成処理、リン酸塩化成処理、クロメート化成処理、等が挙げられる。化成処理は、化成処理剤を金属材料の表面又は表面上に接触させることにより行われる。化成処理剤としては、例えば、公知の、ジルコニウム化成処理剤、チタニウム化成処理剤、ハフニウム化成処理剤、リン酸塩化成処理剤、クロメート化成処理剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化成処理剤の接触は、公知の方法、例えば、浸漬処理法、スプレー処理法、流しかけ処理法、又はこれらの組み合わせ等の処理法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。各種化成処理工程における化成処理剤の温度又は接触時間は、化成処理工程の種類、化成処理剤の濃度等に応じて、適宜設定できる。
【0017】
塗装工程は電着塗装により行われる。電着塗装は公知の方法を適用することができ、例えば、カチオン電着塗装を用いる場合、塗料の温度を所定の温度に保持し、塗料を攪拌した状態で、整流器を用いて化成皮膜を有する金属材料に電圧を陰極方向に印加することにより行われる。このようにカチオン電着塗装を行った上記金属材料に対して、水洗及び焼き付けを実施することにより金属材料の表面上に塗膜を形成させることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。例えば、170℃で20分間行われる。
【0018】
また、本発明の更に別の実施形態は、上記隠蔽剤を金属材料の表面又は表面上に接触させた後、金属材料に電着塗装を行うことにより得られる、金属材料である。本実施形態では、前記隠蔽剤を金属材料の表面又は表面上に接触させる際、前又は後であって電着塗装前に化成処理を行ってもよい。
【実施例
【0019】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により、その範囲が限定されるものではない。
【0020】
<実施例1~17>
(隠蔽剤の調製)
表1に示す化合物を、表1に示す濃度となるように純水中に添加し、実施例1~17の隠蔽剤を調製した。
【0021】
(塗装金属材料の調製)
JIS G3302:2012で規定された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を縦70mm×横150mmのサイズに切断したものを試験片として準備した。試験片との接触面を一般的な研磨紙で覆った重しを試験片上に乗せ、重しを水平に動かすことで試験片表面を研いだ。
表面を研いだ試験片を、アルカリ脱脂剤[商品名:ファインクリーナーE2093(日本パーカライジング株式会社製)の、A剤を13g/L、B剤を11g/Lとそれぞれなるように水に混合した水溶液]に、45℃で2分間浸漬し、試験片の表面上の油分や汚れを取り除いた。その後、金属材料の表面を水洗した。
【0022】
次に、実施例1~17の隠蔽剤に試験片を室温で120秒間浸漬させ、その後30秒間スプレー水洗した。
次いで試験片を、ジルコニウム化成処理液[パルシード1500(日本パーカライジング株式会社製)を50g/Lとなるように水に混合した水溶液]に40℃で120秒間浸漬し、ジルコニウム化成皮膜を有する試験片を得た。
【0023】
次いで、試験片を純水で水洗した後、カチオン電着塗料(GT-100、関西ペイント社製)を用いて、試験片を陰極として180秒間定電圧陰極電解することで試験片の全表面に塗膜成分を析出させた。その後、純水で水洗し、170℃(PMT:焼付け時の金属材料の最高温度)で20分間焼き付けることで塗装金属材料を作製した。なお、塗装金属材料の塗膜厚は15~17μmとなるように調整した。
【0024】
(研ぎ跡の評価)
得られた塗装金属材料の表面を、以下の基準で評価し、評価結果を表1に示した。なお、評価A以上を実用可能な範囲とした。
<<評価基準>>
S:見る角度によって微かに砥ぎ跡が確認できた
A:見る角度によって砥ぎ跡が一部確認できた
B:砥ぎ跡がはっきり確認できた
【0025】
【表1】
【0026】
<実施例18~20(脱脂剤としての使用)>
実施例1で用いたエチルメルカプタン、実施例3で用いた2-プロパンチオール、又は実施例13で用いたチオグリコール酸をそれぞれ、1000ppm、100ppm、50ppmの濃度となるようにアルカリ脱脂剤[商品名:ファインクリーナーE2093(日本パーカライジング株式会社製)の、A剤を13g/L、B剤を11g/Lとそれぞれなるように水に混合した水溶液]に添加してアルカリ脱脂剤とした(実施例18~20)。そして隠蔽剤を用いないこと以外は実施例1~17と同様の手法で塗装金属材料を作製し、研ぎ跡評価を行った。実施例18の評価はA、実施例19の評価はA、実施例20の評価はSであった。
【0027】
<実施例21~23(化成処理剤としての使用)>
実施例1で用いたエチルメルカプタン、実施例3で用いた2-プロパンチオール、又は実施例13で用いたチオグリコール酸をそれぞれ、1000ppm、100ppm、50ppmの濃度となるようにジルコニウム化成処理剤[パルシード1500(日本パーカライジング株式会社製)を50g/Lとなるように水に混合した水溶液]に添加して化成処理剤とした(実施例21~23)。そして隠蔽剤を用いないこと以外は実施例1~17と同様の手法で塗装金属材料を作製し、研ぎ跡評価を行った。実施例21の評価はA、実施例22の評価はA、実施例23の評価はSであった。
【0028】
<実施例24~26(水洗用水としての使用)>
実施例1で用いたエチルメルカプタン、実施例3で用いた2-プロパンチオール、又は実施例13で用いたチオグリコール酸をそれぞれ、1000ppm、100ppm、50
ppmの濃度となるように化成処理後の水洗用の純水に添加して水洗用水とした(実施例24~26)。そして隠蔽剤を用いないこと以外は実施例1~17と同様の手法で塗装金属材料を作製し、研ぎ跡評価を行った。実施例24の評価はA、実施例25の評価はA、実施例26の評価はSであった。