(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】チャネル型電子増倍体およびイオン検出器
(51)【国際特許分類】
H01J 43/24 20060101AFI20240208BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H01J43/24
H01J49/02 500
(21)【出願番号】P 2020121645
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-178267(JP,U)
【文献】特開平03-053443(JP,A)
【文献】特表2007-520048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/24
H01J 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子が到達する入力端面と、前記入力端面に対向する出力端面と、前記入力端面と前記出力端面とを連絡する少なくとも1本のチャネルと、を有するチャネル本体であって、前記チャネルの内壁面上に第1抵抗層およ
び電子放出層が形成されているチャネル本体と、
前記入力端面と前記チャネルの内壁面の一部を連続的に覆うように設けられた入力側導電層と、
少なくとも一部が前記チャネルの開口端に位置するように前記出力端面上に設けられた出力側導電層と、
前記入力端面に対して前記出力端面の反対側に配置された電極であって、前記入力端面に向かう前記荷電粒子を通過させるための少なくとも1つの開口を有する電極と、
を備え、
前記チャネルは、前記入力端面に一致した開口端を有するとともに前記入力端面から前記出力端面に向かって断面積が減少するよう内壁面が成形されたテーパー開口部を含み、
前記テーパー開口部の、前記入力端面に一致した開口端を含む入力側領域において、前記入力側導電層は、前記テーパー開口部内に電圧降下を生じさせるよう、前記テーパー開口部の前記内壁面と前記電子放出層の一部との間に位置した状態で、前記電極と同電位に設定される、
チャネル型電子増倍体。
【請求項2】
前記テーパー開口部の
前記入力側領域において、
前記入力側導電
層は、前記テーパー開口部の
前記内壁
面上に直接設けられている、
請求項1に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項3】
前記テーパー開口部の
前記入力側領域において、
前記第1抵抗層は、前記テーパー開口部の
前記内壁
面上に直接設けられ、
前
記電子放出層は、前記第1抵抗層上に直接設けられ
た第1電子放出層を含み、
前記入力側導電
層は、前記第1電子放出層上に直接設けられている、
請求項1に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項4】
前記テーパー開口部の
前記入力側領域において、
前記入力側導電層上に第2抵抗層が直接設けられ、
前記電子放出層は、前記第2抵抗層上
に直接設けられ
た第2電子放出層を含む、
請求項3に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項5】
前記第2電子放出層は、高ガンマ材からなる、
請求項4に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項6】
前記第2電子放出層は、フッ化マグネシウムからなる、
請求項5に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項7】
前記入力端面から前記出力端面に向かって伸びる前記チャネル本体の中心軸に沿って定義される長さとして、前記テーパー開口部内に位置する前記入力側導電層の
前記一部の長さは、前記テーパー開口部のテーパー長の1/2以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項8】
前記電極は、前記入力側導電層に接触している、
請求項1~7のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項9】
前記電極は、ばね材からなる、
請求項8に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項10】
前記電極は、前記入力端面に対して前記出力端面の反対側の空間内であって、前記入力側導電層から所定距離だけ離れた位置に配置されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項11】
前記電極は、メッシュ構造を有する、
請求項1~10のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体と、
前記チャネル型電子増倍体の前記出力端面から放出される電子を捕捉するためのアノードと、
を備えたイオン検出器。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載のチャネル型電子増倍体と、
前記チャネル型電子増倍体が配置された空間に向けて前記荷電粒子を通過させるためのアパーチャー部材と、
前記アパーチャー部材を通過した前記荷電粒子のうち前記チャネル型電子増倍体の前記入力端面を除いた空間へ向かう荷電粒子を遮蔽するためのファラデーカップと、
前記チャネル型電子増倍体の前記出力端面から放出される電子を捕捉するためのアノードと、
を備えたイオン検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネル型電子増倍体および該チャネル型電子増倍体を含むイオン検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置等に適用可能な検出デバイスとして、例えば特許文献1および特許文献2に開示されたようなチャネル型電子増倍体(Channel Electron Multiplier、以下、「CEMと記す」)、該CEMの入力端面側に設けられた入力側電極(以下、「IN電極」と記す)、該CEMの出力端面側に設けられた出力側電極(以下、「OUT電極」)、該CEMの出力端面から放出された電子を捕捉するアノードと、を有するイオン検出器が知られている。また、上述のCEMは、チャネル内壁面上に抵抗層、電子放出面が順次積層された連続型(チャンネル型)のダイノード構造を有する。特に、上記特許文献1および特許文献2には、外部電極によりイオン検出器に導かれる荷電粒子(イオン)が到達するチャネル開口の面積を稼ぐため、イオンの進行方向に沿ってその断面積が徐々に小さくなるように内壁面がテーパー加工された開口部(以下、「テーパー開口部」と記す)が、チャネルの入力側端部に設けられている。
【0003】
なお、特許文献3には、上述の外部電極としてグランド電位(GND)に設定されたメッシュ電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭52-26150号公報
【文献】特開平3-53443号公報
【文献】特開2011-181336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、上述の従来技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。
【0006】
すなわち、近年、カウンティング計測用の質量分析装置では、検出効率の向上が重要な要求となってきており、上述のような従来技術により得られる検出感度ではこのような要求を満たすことができなかった。
【0007】
特に、CEMにおいて、チャネル開口の面積(検出可能エリア)を稼ぐためにはチャネルの入力側端部に特殊形状の開口部(断面積が入力側から出力側に向かって徐々に小さくなるテーパー開口部)を設けることが有効である。しかしながら、外部電場に対してテーパー開口部が静電場的にむき出しであれば該外部電場の染み込みにより該テーパー開口部内の静電場の乱れが引き起こされる。この場合、テーパー開口部内で発生した電子(二次電子)をチャンネルの出力側に引き込む効率が低下し、結果、検出感度の低下が引き起こされる。加えて、CEMは抵抗膜を用いた連続型(チャンネル型)のダイノード構造を有するため、該テーパー開口部内でも電圧降下が起きている。このような状況において、テーパー開口部のうち入力側にイオンが到達する場合、増倍に寄与可能な電圧を最大限利用できるが(高感度検出)、テーパー開口部の出力側にイオンが到達する場合には、増倍に寄与可能な電圧をロスしてしまう(低感度検出)。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、従来よりも高感度なイオン検出を可能にするための構造を備えたCEM、および該CEMを含むイオン検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係るCEM(チャネル型電子増倍体)は、上述の課題を解決するため、チャネル本体と、入力側導電層と、出力側導電層と、電極と、を備える。チャネル本体は、荷電粒子(イオン)が到達する入力端面と、該入力端面に対向する出力端面と、該入力端面と該出力端面とを連絡する少なくとも1本のチャネルと、を有する。また、チャネルの内壁面上には、第1抵抗層および第1電子放出層が形成されている。入力側導電層は、入力端面とチャネルの内壁面の一部を連続的に覆うように設けられている。出力側導電層は、少なくとも一部がチャネルの開口端に位置するように出力端面上に設けられている。電極は、入力端面に対して出力端面の反対側に配置され、該入力端面に向かう荷電粒子を通過させるための少なくとも1つの開口を有する。特に、チャネルは、入力端面に一致した開口端を有するとともに該入力端面から出力端面に向かって断面積が減少するように内壁面が成形されたテーパー開口部を含む。また、入力側導電層と電極が同電位に設定される。本明細書において、テーパー開口部等の「断面積」は、入力端面から出力端面に向かって延びるチャネル本体の中心軸に対して直交する平面上で定義される。
【0010】
本実施形態に係るイオン検出器は、少なくとも上述のような構造を有するチャネル型電子増倍体(本実施形態に係るチャネル型電子増倍体)を含む。
【0011】
なお、本発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、本発明を限定するものと考えるべきではない。
【0012】
また、本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、本発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0013】
本実施形態によれば、チャネルの入力側に設けられたテーパー開口部内に入力端面に設置される入力側導電層の一部(入れ込み電極)を配置することにより、IN電極(入力側電極)とOUT電極(出力側電極)との間の電圧差で定義されるCEM電圧のロスが低減可能になる(ゲインの向上)。また、入力側導電層と同電位に設定された、1以上の開口を有する電極をテーパー開口部の開口端側に配置することにより、該テーパー開口部内における十分な有効エリアの確保(外部電場の影響を回避)が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】CEMの主要部を含むシミュレーション・モデルの構造を説明するための図である。
【
図2】本実施形態に係るイオン検出器の第1構造を説明するための断面図である。
【
図3】本実施形態に係るイオン検出器の第2構造を説明するための断面図である。
【
図4】本実施形態に係るCEMにおけるチャネル本体の構造の一例を説明するための組み立て工程図である。
【
図5】本実施形態に係るCEMにおけるチャネル本体の外観と種々の変形例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係るCEMにおけるチャネル本体のうちテーパー開口部近傍の断面構造を示す図である。
【
図7】本実施形態に係るCEMに適用可能なIN電極近傍の種々の断面構造を示す図である。
【
図8】
図3に示されたイオン検出器に適用された種々のCEM構造について、検出効率改善率および感度改善率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(a)および
図1(b)は、上述の「発明が解決しようとする課題」の欄に示された発明者らの結論を得た、従来技術の検討用に用意されたCEM(チャネル型電子増倍体)の主要部を含むシミュレーション・モデルの構造を示す図である。具体的に実施されたシミュレーションでは、CEMの検出効率および感度を向上させるためのファクターとして、「入力側開口部付近の外部電位」、「入力側開口部を覆う金属メッシュ(電極)の有無」、および「入力側開口部内に設置される入れ込み電極部分(入力側導電層の一部)の有無」の3ファクターについて静電場解析が行われた。なお、
図1(a)は、シミュレーション・モデル(基本モデル)1の斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)中に示されたI-I線に沿ったシミュレーション・モデル1の断面図である。
【0016】
図1(a)および
図1(b)に示されたように、シミュレーション・モデル1は、例えばセラミック材料からなるモデル本体2を備える。モデル本体2には、CEMの主要部としてチャネル20が設けられている。このチャネル20は、イオンが到達する入力端と、該入力端に対向するとともに、イオンの入力に応答して増倍された電子が最終的に放出される出力端を有する。また、チャネル20の内壁面上には、抵抗層、電子放出層が順に積層されている。なお、抵抗層および電子放出層は、例えば原子堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等により形成される。さらに、チャネル20は、入力端に位置するテーパー開口部20cと、該テーパー開口部20cと出力端との間にそれぞれ設けられた第1および第2経路20a、20bと、により構成されている。テーパー開口部20cは、入力端に一致した開口端を有するとともに、該入力端から出力端に向かって断面積が小さくなるよう内壁面が成形された構造を有する。第1および第2経路20a、20bは、テーパー開口部20cの出力口と、チャネル20の出力端とを連絡する2本の経路であって、それぞれの入力口が共にテーパー開口部20cの出力口に接続されている。また、チャネル20の入力端(テーパー開口部20cの開口端に一致)には、所定の電位に設定するためのIN電極に接続される入力側導電層21aが設けられ、チャネル20の出力端(第1および第2経路20a、20bそれぞれの出力端に一致)には、OUT電極と接続される出力側導電層21bが設けられている。さらに、モデル本体2内には、イオンをチャネル20のテーパー開口部20cに導くための外部電極30が設けられている。なお、
図1(b)に示された例において、領域40は、テーパー開口部20cの内壁面のうち入力側導電層21aの一部が配置可能な領域である。
【0017】
このシミュレーション・モデル1において、外部電極30の電位はグランド電位(GND)に設定され、入力側導電層21aの電位は-2000Vに設定され、出力側導電層21bの電位は-100Vに設定される。外部電極30とチャネル20の入力端(テーパー開口部20cの開口端)までの距離は2mm、テーパー開口部20cの開口端から該テーパー開口部20cの出力口までの距離(以下、「テーパー長」と記す)は6mmである。テーパー開口部20cの開口端の面積(CEMの有効エリア)は8mm×7.2mmである。また、テーパー角θは64°である。
【0018】
上述のような構造を有するシミュレーション・モデル1から変形された第1~第3CEM構造について静電場解析が行われた。なお、第1CEM構造では、テーパー開口部20cの開口端にメッシュ電極は配置されていない。また、領域40には、入力側導電層21aの一部(入れ込み電極)も配置されていない。第2CEM構造では、テーパー開口部20cの開口端にメッシュ電極は配置されていない。しかしながら、領域40には、テーパー開口部20cの内壁と抵抗層との間に入力側導電層21aの一部(入れ込み電極)が配置されている。第3CEM構造では、テーパー開口部20cの開口端にメッシュ電極が配置されている。しかしながら、領域40には、入力側導電層21aの一部(入れ込み電極)は配置されていない。
【0019】
外部電極30が除去された環境下において、第1CEM構造では、静電場解析により、テーパー開口部20c内でも電圧降下していることが確認できた。この場合、テーパー開口部20cの出力口側にイオンが到達すると、数百Vの電圧ロスの発生が予想される。すなわち、チャネル20の入力端から出力端までの電位差(以下、「CEM電圧」と記す)のうち電子増倍に利用できる電位差が得られないため、設計値通りのゲインが得られなくなる。これに対し、外部電極30が除去された環境下において、第2CEM構造では、テーパー開口部20c内での電圧ロスが軽減されるため、高ゲインが期待できる。
【0020】
また、外部電極30が配置された環境下において、第1CEM構造では、外部電場によりテーパー開口部20c内の静電場が影響を受けるため(静電場解析の結果、テーパー開口部20c内部への外部電場の侵入を確認)、デッドエリア(テーパー開口部20c内で発生した電子を第1および第2経路20a、20b内に引き込めないエリア)が拡大する一方、有効エリアが縮小してしまう(開口端の面積に対して1/4程度)。これに対し、外部電極30が配置された環境下において、第3CEM構造では、テーパー開口部20cの開口端にメッシュ電極が配置されている。この場合、静電場解析により、外部電場の影響が排除されていることが確認できた(テーパー開口部20c全体が有効エリアとして利用可能)。すなわち、第3CEM構造の場合、第1CEM構造の4倍の検出効率が得られることが期待できる。
【0021】
以上の考察の結果、テーパー開口部での電圧ロスの抑制(高ゲイン化)および外部電場の遮蔽(有効エリアの確保)の組み合わせが、イオン検出器における更なる高感度検出の実現に効果的であることが確認できた。
【0022】
[本願発明の実施形態の説明]
【0023】
以下、本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0024】
(1)本実施形態に係るCEM(チャネル型電子増倍体)は、その一態様として、チャネル本体と、入力側導電層と、出力側導電層と、電極と、を備える。チャネル本体は、荷電粒子(イオン)が到達する入力端面と、該入力端面に対向する出力端面と、該入力端面と該出力端面とを連絡する少なくとも1本のチャネルと、を有する。また、チャネルの内壁面上には、第1抵抗層および第1電子放出層が形成されている。入力側導電層は、入力端面とチャネルの内壁面の一部を連続的に覆うように設けられている。出力側導電層は、少なくとも一部がチャネルの開口端に位置するように出力端面上に設けられている。電極は、入力端面に対して出力端面の反対側に配置され、該入力端面に向かうイオンを通過させるための少なくとも1つの開口を有する。特に、チャネルは、入力端面に一致した開口端を有するとともに該入力端面から出力端面に向かって断面積が減少する形状に成形されたテーパー開口部を含む。また、入力側導電層と電極が同電位に設定される。
【0025】
上述のように、本実施形態に係るCEMでは、入力端面上に設けられる入力側導電層(IN電極を介してチャネル入力端の電位を設定するための導電体)の一部を入れ込み電極としてテーパー開口部内に配置されており、これによりCEM電圧のロスが効果的に抑制可能になる。また、テーパー開口部の開口端には、イオンを通過させるための開口を有するとともに入力側導電層と同電位に設定される電極が配置される。これにより、テーパー開口部内の静電場に対する外部電場の影響が遮蔽され、該テーパー開口部内における十分な有効エリアが確保され得る。
【0026】
(2) 本実施形態の一態様として、テーパー開口部のうち、少なくとも、入力端面に一致した開口端を含む入力側領域において、入力側導電層の一部は、テーパー開口部の内壁上に直接設けられているのが好ましい。
【0027】
(3) また、本実施形態の一態様として、テーパー開口部のうち、少なくとも、入力端面に一致した開口端を含む入力側領域において、第1抵抗層がテーパー開口部の内壁上に直接設けられ、第1電子放出層が第1抵抗層上に直接設けられ、入力側導電層の一部が第1電子放出層上に直接設けられてもよい。このような断面構成において、さらに、本実施形態の一態様として、テーパー開口部のうち、少なくとも、入力端面に一致した開口端を含む入力側領域において、入力側導電層上には第2抵抗層が直接設けられ、第2抵抗層上には第2電子放出層が直接設けられる。なお、本実施形態の一態様として、第2電子放出層は、高ガンマ材からなるのが好ましい。具体的には、本実施形態の一態様として、第2電子放出層は、フッ化マグネシウムからなるのが好ましい。なお、第1電子放出層上に入力側導電層の一部を直接設ける構成では、第1抵抗層および第1電子放出層のパターンニング等が不要となるため、当該CEMの製造が容易になる。
【0028】
(4) 本実施形態の一態様として、入力端面から出力端面に向かって伸びるチャネル本体の中心軸に沿って定義される長さとして、テーパー開口部内に位置する入力側導電層の一部の長さ(以下、「入れ込み量」と記す)は、テーパー開口部のテーパー長の1/2以下であるのが好ましい。入力側導電層の入れ込み量がテーパー長の1/2を越えると、検出効率自体が低下するためである。
【0029】
(5) 本実施形態の一態様として、電極は、入力側導電層に接触していてもよい。この場合、本実施形態の一態様として、電極は、ばね材からなるのが好ましい。一方、本実施形態の一態様として、電極は、入力端面に対して出力端面の反対側の空間内であって、入力側導電層から所定距離だけ離れた位置に配置されてもよい。係る電極は、入力側導電層と同電位に設定されるため、該電極の設置位置に依存することなくテーパー開口部内の静電場の乱れ(外部電場による影響)が回避され得る。
【0030】
(6) 本実施形態の一態様として、電極は、メッシュ構造を有するのが好ましい。特に、本実施形態に適用されるメッシュ電極の開口率(メッシュが形成された有効領域における開口の占有率)は50%~95%であるのが好ましい。また、メッシュ電極の開口率は、部分的に変動してもよい(例えばメッシュの中心付近と周辺で開口率が異なる構成)。
【0031】
(7) 本実施形態に係るイオン検出器は、その一態様として、上述のような構造を備えたCEM(本実施形態に係るCEM)と、該CEMの出力端面から放出される電子を捕捉するアノードと、を少なくとも備える。
【0032】
(8) また、本実施形態に係るイオン検出器は、その一態様として、上述のような構造を備えたCEMと、アパーチャー部材と、ファラデーカップと、アノードと、を備えてもよい。アパーチャー部材は、CEMが配置された空間(当該イオン検出器の筐体により定義される空間)に向けてイオンを通過させる。したがって、アパーチャー部材は、当該イオン検出器の筐体の一部を構成する。また、ファラデーカップは、アパーチャー部材を通過したイオンのうちCEMの入力端面を除いた空間へ向かうイオンを遮蔽するよう機能する。アノードは、CEMの出力端面から放出される電子を捕捉する電極である。
【0033】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0034】
[本願発明の実施形態の詳細]
【0035】
本願発明に係るチャネル型電子増倍体およびイオン検出器の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0036】
図2は、本実施形態に係るイオン検出器の第1構造を説明するための断面図である。なお、
図2には、
図1(b)に示された断面に相当する断面での構造が示されている。第1構造を有するイオン検出器100Aは、CEM(チャネル型電子増倍体)と、アノード400と、を含む。CEM200は、イオン(荷電粒子)を当該CEM200に導くための外部電極300(イオンを通過させるための開口を有する)に対面するよう配置された入力端面210aと、該入力端面210aに対して外部電極300の反対側に位置する出力端面210bを有する。また、CEM200は、チャネル本体210と、該チャネル本体210のうちイオンが到達する側(入力端面210a側)に設けられた入力側電極(以下、「IN電極」と記す)150と、該チャネル本体210のうちIN電極150とは反対側(出力端面210b側)に設けられた出力側電極(以下、「OUT電極」と記す)160と、により構成される。アノード400は、チャネル本体210の出力端側に配置される。なお、イオン検出器100Aが質量分析装置において用いられる場合、外部電極300は四重極やイオントラップなどの質量分離部のイオン検出器に近接する電極、それら質量分離部とイオン検出器100Aの間に外部ノイズを遮蔽するために設けられたアパーチャー、質量分離部より荷電粒子をイオン検出器へ導くレンズ等である。
【0037】
チャネル本体210には、テーパー開口部230を含むチャネル220が作りこまれている。テーパー開口部230の開口端は、チャネル本体210の入力端面210aに一致しており、テーパー開口部230の出力口は、チャネル本体210内に位置するとともに該チャネル本体210の出力端面210bに連絡している。
【0038】
また、入力端面210aを含むチャネル本体210の一方の端部にはIN電極150が取り付けられ、出力端面210bを含むチャネル本体210の他方の端部にはOUT電極160が取り付けられている。
【0039】
IN電極150は、金属フランジ151、金属キャップ152、メッシュ電極153(1以上の開口を有する電極)、金属スペーサ154、およびIN電極150自体をチャネル本体210に固定するための金属リング(
図5中に示された一対の金属部材155a、155bで構成)により構成されている。金属フランジ151は、チャネル本体210の側面に設けられた溝のうち入力端面210aに近い溝(
図5に示された溝251)に取り付けされた金属リング(一対の金属部材155a、155bにより構成)に一端が溶接され、他端が外部電極300に向かって延びている。金属キャップ152は、チャネル本体210のうち入力端面210aを含む先端部分を収納可能な形状を有するとともに金属フランジ151内に収納された金属スペーサ154に一端が溶接されている。これにより、チャネル本体210の入力端面210aは金属キャップ152に接触した状態で該金属キャップ152に覆われる。また、金属スペーサ154も金属フランジ151の内壁に接触した状態で固定されているため、金属フランジ151と金属キャップ152が電気的に接続された状態になる。金属キャップ152は、チャネル220のテーパー開口部230の開口端を露出させるための開口が設けられており、この開口には、テーパー開口部230に向かうイオンを通過させるための1またはそれ以上の開口を有する金属部材(電極)が設置されている。外部電極300の存在による、テーパー開口部230内の静電場への影響を低減するためである。なお、
図2の例では、係る金属部材(電極)は、金属キャップ152の開口端に溶接された、ばね材からなるメッシュ電極153であり、その開口率は50%~95%であるのが好ましい。また、メッシュ電極153は、面積の異なる複数種類の開口を有してもよい。この場合、例えば、メッシュの中心付近での開口率を周辺領域の開口率よりも高くする構造のメッシュ電極153も適用可能である。
【0040】
また、IN電極150には、金属キャップ152とチャネル本体210の入力端面210aとを電気的に接続するための入力側導電層510が含まれる。この入力側導電層510(IN電極150の一部を構成)は、入力端面210a上、および、テーパー開口部230の内壁上に設けられている。特に、入力側導電層510の一部(以下「入れ込み電極」と記す)は、入力端面210aからテーパー開口部230の出力口に向かって該テーパー開口部230の内壁面上に連続的に延びている。なお、
図2を含む複数の図に示された例では、テーパー開口部230内に入れ込み電極(入力側導電層510の一部)のみが示されているが、テーパー開口部230の内壁面上には、
図6(a)または
図6(b)に示された具体的な積層構造(導電層、電子放出層、および抵抗層により構成)が設けられている。
【0041】
メッシュ電極153は、上述のようにばね材からなる電極である。金属キャップ152の一端が金属フランジ151に収納された金属スペーサ154に溶接されることにより、該金属キャップ152の開口に溶接されたメッシュ電極153がチャネル本体210の入力端面210aに押し付けられる(メッシュ電極153と入力側導電層510の一部を構成する入れ込み電極部分が同電位となる)。特に、メッシュ電極153はばね材料からなり、メッシュ電極153の復元力により、該メッシュ電極153と入力側導電層510が密着する(安定した接触状態が維持され得る)。
【0042】
一方、OUT電極160は、金属フランジ161、金属キャップ162、アノード400を収納する金属容器(中空部材163aおよびステム部163bにより構成)、金属スペーサ164、およびOUT電極160自体をチャネル本体210に固定するための金属リング(
図5中に示された一対の金属部材165a、165bで構成)により構成されている。
【0043】
金属フランジ161は、チャネル本体210の側面に設けられた溝のうち出力端面210bに近い溝(
図5に示された溝252)に取り付けされた金属リング(
図5中の一対の金属部材165a、165bで構成)に一端が溶接されている。金属キャップ162は、チャネル本体210のうち出力端面210bを含む先端部分を収納可能な形状を有するとともに金属フランジ161に接触した状態で固定された金属スペーサ164に一端が溶接されている。また、金属キャップ162は、出力端面210b上に位置するチャネル220の出力口を露出させるための開口が設けられている。さらに、金属キャップ162は、その一端が、出力端面210bを含むチャネル本体210の先端部分を収納した状態で金属フランジ161に固定された金属スペーサ164に溶接されている。これにより、出力側導電層520と金属キャップ162が密着する(出力側導電層520と金属キャップ162が同電位に設定される)。
【0044】
OUT電極160の金属フランジ161には、アノード400の収納空間を定義するボックスが溶接されている。このボックスは、中空部材163aとステム部163bにより構成されている。中空部材163aの一端は、金属フランジ161に直接溶接され、他端にはステム部163bが固定されている。ステム部163bは、絶縁材料132を介してリードピン131を保持しており、中空部材163a内に伸びたリードピン131の一端にアノード400が溶接されている。
【0045】
図3は、本実施形態に係るイオン検出器の第2構造を説明するための断面図である。なお、
図3も、
図1(b)に示された断面に相当する断面での構造が示されている。第2構造を有するイオン検出器100Bは、アパーチャー部材110と、ファラデーカップ120と、CEM200と、アノード400と、を含む。アパーチャー部材110は、当該イオン検出器100Bの容器の一部を構成し、容器外部から容器内部へイオンを通過させるための開口を有する。ファラデーカップ120は、アパーチャー部材110を介して取り込まれたイオンが当該イオン検出器100Bの外に移動するのを阻止するように機能する。CEM200は、ファラデーカップ120とアノード400との間の空間に配置され、
図2の例と同様に、IN電極150、チャネル本体210、OUT電極160に構成されている。より具体的には、CEM200は、IN電極150の一部を構成する金属製のメッシュ電極153、チャネル本体210の入力端面210a上およびテーパー開口部230の内壁面上に設けられている入力側導電層510(IN電極150の一部を構成)、および、チャネル220の出力端(開口端)に接触した状態でチャネル本体210の出力端面210b上設けられた出力側導電層520(OUT電極160の一部を構成)を含む。
【0046】
なお、ファラデーカップ120、CEM200、およびアノード400は、当該イオン検出器100Bの容器(アパーチャー部材110を含む)内に収納される。
【0047】
図4は、本実施形態に係るCEM(
図2および
図3に示されたCEM200)におけるチャネル本体210の構造の一例を説明するための組み立て工程図である。
【0048】
図4に示されたように、チャネル本体210は、例えばセラミック材料からなり、n(1以上の整数)枚の平行平板212
1~212
nと、一対の補助部材210A、210Bで構成されている。平行平板212
1~212
nと補助部材210A、210Bが、それぞれプレスおよび焼結されることで一体化している。なお、プレスおよび焼結後、破線で示された切り出し線250に沿って平行平板212
1~212
nそれぞれの不要な周辺部分が除去される。また、平行平板212
1~212
nそれぞれには、テーパー開口部230を含むチャネル220のパターンが設けられている。このパターンは、一方の主面から他方の主面に向かって各平行平板を貫通する孔の断面形状により定義される。
【0049】
図5(a)~
図5(e)は、CEM200におけるチャネル本体210の外観と種々の変形例を示す図である。特に、
図5(a)には、上述の
図4に示された組み立て工程を経て得られたチャネル本体210を含むCEM200の主要部が示されている。
【0050】
平行平板212
1~212
nと補助部材210A、210Bが一体化されたチャネル本体210の側面のうち、テーパー開口部230の開口端が位置する入力端面210aの近傍にはIN電極150を固定するための溝251が設けられている。一方、チャネル本体210の側面のうち、出力端面210bの近傍にはOUT電極160を固定するための溝252が設けられている。ここで、溝251には、IN電極150をチャネル本体210に固定するための金属リングが嵌め込まれており、
図5(a)の例では、金属リングは、一対の金属部材155a、155bで構成されている。また、溝252には、OUT電極160をチャネル本体210に固定するための金属リングが嵌め込まれており、
図5(a)の例では、金属リングは一対の金属部材165a、165bで構成されている。
【0051】
なお、チャネル本体210内には複数のチャネルが設けられてもよい。
図5(b)~
図5(e)は、上述の
図5(a)に示されたチャネル本体210の入力端面210aを見たときの正面図であって、入力端面210a上における種々のチャネル配置パターンを示している。
図5(b)は、
図5(a)に示されたようにチャネル本体210内に1本のチャネルが設けられた配置パターンが示されており、入力端面210a上には、1本のチャネル220のテーパー開口部230が配置されている。
図5(b)の例では、テーパー開口部230の開口端形状は矩形であるが、その形状の選択には特に技術的制限はない(形状選択は任意)。また、
図5(c)は、チャネル本体210内に2本のチャネルが設けられた配置パターンが示されており、入力端面210a上には、それぞれが正方形状の開口端を有するテーパー開口部231a、231bが配置されている。
図5(d)も、チャネル本体210内に2本のチャネルが設けられた配置パターンが示されているが、入力端面210a上には、それぞれが長方形状の開口端を有するテーパー開口部232a、232bが配置されている。さらに、
図5(e)には、チャネル本体210内に3本のチャネルが設けられた配置パターンが示されており、入力端面210a上には、それぞれが長方形状の開口端を有するテーパー開口部233a、233b、233cが配置されている。
【0052】
図6(a)および
図6(b)は、本実施形態に係るCEMにおけるチャネル本体210のうちテーパー開口部230近傍の断面構造を示す図である。なお、
図6(a)および
図6(b)には、
図1(b)に示された断面に相当する断面での構造が示されている。
【0053】
本実施形態に係るCEM200に適用可能な第1積層構造は、
図6(a)に示されたように、入れ込み電極(入力側導電層510の一部)が、入力端面210aからテーパー開口部230の出力口に向かって、該テーパー開口部230の内壁上に直接設けられている。入れ込み電極の上には第1抵抗層610が設けられている。この第1抵抗層610は、入れ込み電極の先端から、出力端面210b上に位置するチャネル220の出力口までの、該チャネル220の内壁面上にも直接設けられている。さらに、第1抵抗層610の上には、該第1抵抗層610全体を覆うように第1電子放出層620が設けられている。
【0054】
一方、本実施形態に係るCEM200に適用可能な第2積層構造は、
図6(b)に示されたように、入力端面210aから出力端面210bまでのチャネル220の内壁上には第1抵抗層610が直接設けられている。さらに、第1抵抗層610の上には、該第1抵抗層610全体を覆うように第1電子放出層620が設けられている。入れ込み電極(入力側導電層510の一部)は、入力端面210aからテーパー開口部230の出力口に向かって、第1電子放出層620上に直接設けられている。入れ込み電極の上には、第2抵抗層710が設けられ、さらに、第2抵抗層710の上には第2電子放出層720が設けられている。ここで、第2電子放出層720は、例えばMgF
2(フッ化マグネシウム)のような高ガンマ材(高ガンマとは、所定の電圧で加速されたイオンが入射したときの値(「放出二次電子数/入射イオン数」で算出)が高いことを意味する)からなるのが好ましい。
図6(b)の例では、第1抵抗層610がチャネル220の内壁面全体を直接覆う構造になっている。そのため、チャネル220の内壁面上に設けられる層(導電層と抵抗層)のパターンニングが不要となる。結果、
図6(b)に示された積層構造は、
図6(a)に示された積層構造よりも製造が容易になる。
【0055】
図6(a)および
図6(b)のいずれの例においても、入れ込み電極の入れ込み量(テーパー長と同様に、出力口を通過するテーパー開口部230の中心軸に沿って定義される長さ)は、テーパー長の1/2以下であるのが好ましい。なお、テーパー長は、
図1(b)に示されたように、テーパー開口部の開口端(チャネル本体210の入力端面210aに一致)からテーパー開口部の出力口までの距離で定義される。
【0056】
図7(a)~
図7(c)は、本実施形態に係るCEMに適用可能なIN電極近傍の種々の断面構造を示す図である。なお、なお、
図7(a)~
図7(c)には、
図1(b)に示された断面に相当する断面での構造が示されている。また、
図7(a)の例では、実質的に
図2に示されたIN電極150近傍の構造を詳述するため、組立工程図が示されている。
【0057】
図7(a)には、IN電極150を構成する金属フランジ151に金属キャップ152を溶接する前後の状態が示されている。すなわち、入力端面210aを含むチャネル本体210の先端部(溝251が設けられた位置)において、一対の金属部材155a、155bで構成された金属リングに金属フランジ151の一端が溶接されることにより、該金属フランジ151がチャネル本体210に固定される。このとき、金属フランジ151内には金属スペーサ154が固定されている(導通状態)。チャネル本体210の入力端面210aおよびテーパー開口部230の内壁面(入力端面210aからテーパー開口部230の内壁中央付近まで)には入力側導電層510が設けられており、テーパー開口部230の内壁上に位置する入力側導電層510の一部が入れ込み電極として機能する。
【0058】
金属キャップ152には、テーパー開口部230を露出させるための開口が設けられており、メッシュ電極153はばね材からなり、テーパー開口部230の出力口に向かって突出するよう湾曲させた状態で、金属キャップ152の開口端に溶接されている。ここで、メッシュ電極153の開口率は50%~95%であるのが好ましい。また、メッシュ電極153は、面積の異なる複数種類の開口を有してもよい。例えば、メッシュの中心付近での開口率を周辺領域の開口率よりも高くする構造のメッシュ電極153も適用可能である。さらに、このように湾曲したメッシュ電極153が取り付けられた金属キャップ152の一端が、金属フランジ151内に固定された金属スペーサ154に溶接される。このとき、金属キャップ152により入力端面210a上に設けられた入力側導電層510に押し当てられる。これによりメッシュ電極153は変形し、該メッシュ電極153の復元力によりメッシュ電極153と入力側導電層510とが密着する。
【0059】
なお、
図7(a)の例では、メッシュ電極153は、入力側導電層510を介してチャネル本体210の入力端面210aに直接配置されているが、メッシュ電極153は、チャネル本体210の入力端面210aに直接配置されなくともよい。すなわち、
図7(b)の例は、メッシュ電極153が入力端面210aから所定距離だけ離れた位置に設置される点で、
図7(a)の例とは異なる。
図7(b)の例では、開口端にメッシュ電極153が設置された金属プレート156が、金属キャップ152の開口ではなく、金属フランジ151の他端に溶接される。金属フランジ151と金属キャップ152のいずれもIN電極150の一部を構成する金属部材であるため、
図7(a)の例と同様に、メッシュ電極153と入力側導電層510は、同電位に設定される。したがって、テーパー開口部230内の静電場はメッシュ電極153により外部電場の影響を受けにくくなっている。なお、
図7(b)に示されたIN電極150の構造は、メッシュ電極153の配置位置を除いて、
図7(a)に示されたIN電極150の構造と同じである。
【0060】
図7(c)の例では、
図7(a)のメッシュ電極153に替え、イオンを通過させるための開口157aを有するアパーチャー部材157が適用されている。このアパーチャー部材157は、金属キャップ152の開口を覆うように該金属キャップ152に溶接されており、アパーチャー部材157と入力側導電層510は、導電位に設定される。特に、テーパー開口部230に到達するイオンの軌道が制限されている場合(入力されるイオンビームのビーム径がテーパー開口部230の開口径よりも小さい場合)、メッシュ電極153よりもイオン透過率に優れているので、このようなアパーチャー部材157がIN電極150の構造として適用されるのが好ましい。なお、
図7(c)に示されたIN電極150の構造は、メッシュ電極153とアパーチャー部材157の違いを除いて、
図7(a)に示されたIN電極150の構造と同じである。
【0061】
図8(a)および
図8(b)は、
図3に示されたイオン検出器に適用された種々の構造について、検出効率改善率および感度改善率の測定結果を示すグラフである。なお、本明細書において、「検出効率」は、出力電流/(入力イオン電流×CEMゲイン)×100により定義される。また、「感度」は、実質的には当該イオン検出器により得られるゲインを意味する。
【0062】
図8(a)には、いずれも
図3に示されたイオン検出器100Bにおいて、テーパー開口部230内に入れ込み電極(入力側導電層510の一部)が設けられていない構造についての測定結果が示されている。
図8(a)において、グラフG810Aは、メッシュ電極153が除去された基準構造(上述の第1CEM構造に相当)の測定結果であり、グラフG810Bは、メッシュ電極153がテーパー開口部230の開口端に設けられた構造(上述の第3CEM構造に相当)の測定結果である。なお、
図8(a)の縦軸は、グラフG810Aで示された測定結果を基準とした倍率を示している。
【0063】
一方、
図8(b)には、いずれも
図3に示されたイオン検出器100Bにおいて、テーパー開口部230の開口端にメッシュ電極153が設けられた構造についての測定結果が示されている。
図8(b)において、グラフG820Aは、メッシュ電極153のみが配置された基準構造(上述の第3CEM構造に相当)の測定結果であり、グラフG820B~G820Dは、いずれも入力側導電層510に入れ込み電極が設けられた構造(上述の第2CEM構造と第3CEM構造を組み合わせた構造)についての測定結果である。特に、グラフG820Bは、入れ込み電極の入れ込み量がテーパー長の3/4に設定された構造の測定結果であり、グラフG820Cは、入れ込み電極の入れ込み量がテーパー長の1/4に設定された構造の測定結果であり、グラフG820Dは、入れ込み電極の入れ込み量がテーパー長の1/2に設定された構造の測定結果である。なお、
図8(b)の縦軸は、グラフG820A(実質的に
図8(a)のグラフG810Bに一致)で示された測定結果を基準とした倍率を示している。
【0064】
テーパー開口部230内に入れ込み電極が設けられていない構造の場合、
図8(a)から分かるように、メッシュ電極153が適用された構造では、その検出効率が、メッシュ電極153のない構造に対して平均3.1倍改善している。また、メッシュ電極153が適用された構造の場合、
図8(b)に示されたように、入れ込み電極の入れ込み量をテーパー長の1/2に設定された構造では、その感度が、テーパー開口部230内に入れ込み電極が設けられていない構造に対して7.4倍改善している。以上の測定結果から、「入れ込み電極の導入」および「メッシュ電極(1以上の開口を有する電極)の採用」により、これら入れ込み電極およびメッシュ電極が採用されていない従来の構造と比較して、最大で23倍程度の感度向上が可能になる。
【0065】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
100A、100B…イオン検出器、110…アパーチャー部材、120…ファラデーカップ、150…IN電極、153…メッシュ電極、157…アパーチャー部材、160…OUT電極、200…CEM(チャネル型電子増倍体)、210…チャネル本体、220…チャネル、230…テーパー開口部、300…外部電極、400…アノード、510…入力側導電層、520…出力側導電層、610…第1抵抗層、620…第1電子放出層、710…第2抵抗層、720…第2電子放出層。