(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】車両固定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01M17/007 C
(21)【出願番号】P 2020177284
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2022-10-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】須和 祐太
(72)【発明者】
【氏名】西宮 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳司
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-145226(JP,A)
【文献】特開2011-033517(JP,A)
【文献】特開2018-179641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面上に配置される車両を固定する車両固定装置であって、
前記床面上に設けられ、前記車両を固定する2n(n≧1)個の車両把持機構を含み、
前記2n個の車両把持機構はそれぞれ前記車両のアンダボディの下方に配置され、
前記2n個の車両把持機構は、n個の一方車両把持機構とn個の他方車両把持機構に分類され、
前記n個の一方車両把持機構はそれぞれ、前記車両の一方側面におけるロッカーの下方端部を挟み込んで把持するクランプ部を有し、
前記n個の他方車両把持機構はそれぞれ、前記車両の一方側面に対向する他方側面におけるロッカーの下方端部を挟み込んで把持するクランプ部を有し、
前記2n個の車両把持機構それぞれの前記クランプ部は、
把持用空間を挟んで互いに対向する一対の弾性板材と、
前記一対の弾性板材間を固定する固定部材とを含み、
前記把持用空間内に位置する前記ロッカーの下方端部は、前記一対の弾性板材によって挟み込む態様で把持され、前記固定部材によって前記把持用空間を狭める方向に押圧力が付与され
、
前記2n個の車両把持機構は、それぞれ
前記クランプ部と、
一方端及び他方端を有し、一方端側にアーム軸部を有し、他方端側が前記クランプ部に連結されるアーム部と、
前記アーム軸部を回転軸として、前記アーム部を回転可能に支持するベース部とを含み、
前記アーム軸部は、
鉄管と、
前記鉄管の内周面に沿って、前記鉄管内に装着されるゴムブッシュとを備え、前記ゴムブッシュは、中央にピン挿入空間を有し、
前記ベース部は、前記ピン挿入空間に挿入されるアーム固定用ピンを有し、
前記アーム固定用ピンは、前記アーム軸部の回転中心となり、
前記2n個の車両把持機構は、それぞれ
前記床面の一部となり、溝状の表面を有する基台と、
前記基台の表面上に設けられるスペーサとをさらに含み、
前記スペーサ上に前記ベース部が設けられ、
前記2n個の車両把持機構は、それぞれ
前記ベース部の中央部を跨がって設けられ、両端が前記基台に固定される押さえ板をさらに含む、
車両固定装置。
【請求項2】
請求項
1記載の車両固定装置であって、
前記アーム部は、
他方端側で前記クランプ部を連結するクランプ固定用ピンをさらに含み、前記クランプ固定用ピンは、前記クランプ固定用ピンを回転軸とした前記クランプ部の回転動作が可能になるように設けられる、
車両固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、床面上に配置される車両を固定する車両固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャーシダイナモメータは、従来、車両(自動車)の走行に関する試験を行う際に用いられており、主要構成要素としてローラ装置を含んでいる。また、シャーシダイナモメータは、当該試験を行う際に、ローラ装置上に配置した車両を固定する車両固定装置をさらに有している。
【0003】
特許文献1では、車両に対する試験の際に、車両の前後方向から車両固縛ロープを用いて、ローラ装置上に配置された車両を固定するロープ固縛構造の車両固定装置が開示されている。
【0004】
また、ロープ固縛構造に代わる車両固定装置として、例えば、特許文献2や特許文献3に専用の車両固定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-203869号公報
【文献】特開2011-33517号公報
【文献】特開2010-60554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロープ固縛構造を採用した従来の車両固定装置では、車両固縛ロープを車両に連結する際、バンパ等を取り外す必要があった。一般的にバンパには外界センサが搭載されているため、外界センサを利用した車両の走行試験を困難にしていた。なお、外界センサとしては、コーナーセンサ等に利用されるレーダや、ライダー(LiDAR)等が考えられる。
【0007】
ここで、ロープ固縛構造により車両を固定した後、車両の操作に関するセンシング情報や外界センサからの検出情報を利用して、画像シミュレータやターゲットシミュレータを利用した車両シミュレーションを行う場合を考える。
【0008】
この場合、ロープ固縛構造を採用した従来の車両固定装置では、車両固定用ポール、車両固縛ロープ等が、外界センサの検出範囲に存在してしまう。すなわち、車両固定装置の構成要素(車両固定用ポール、車両固縛ロープ等)の存在が車両に搭載される外界センサのセンシング機能を妨げてしまう。
【0009】
このため、従来の車両固定装置によって車両を固定して車両シミュレーションを実行する場合、精度良く車両シミュレーションを行うことができないという問題点があった。
【0010】
また、特許文献2や特許文献3で開示された車両固定装置も構成要素の存在が車両に搭載される外界センサのセンシング機能を妨げてしまう問題を改善できていない。
【0011】
本開示は上記問題点を解決するためになされたもので、車両に搭載される外界センサのセンシング機能を妨げることなく、車両を固定する車両固定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る車両固定装置は、床面上に配置される車両を固定する車両固定装置であって、前記床面上に設けられ、前記車両を固定する2n(n≧1)個の車両把持機構を含み、前記2n個の車両把持機構はそれぞれ前記車両のアンダボディの下方に配置され、前記2n個の車両把持機構は、n個の一方車両把持機構とn個の他方車両把持機構に分類され、前記n個の一方車両把持機構はそれぞれ、前記車両の一方側面におけるロッカーの下方端部を挟み込んで把持するクランプ部を有し、前記n個の他方車両把持機構はそれぞれ、前記車両の一方側面に対向する他方側面におけるロッカーの下方端部を挟み込んで把持するクランプ部を有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の車両固定装置における2n個の車両把持機構はそれぞれ車両のアンダボディの下方に配置されるため、2n個の車両把持機構の存在が車両に搭載される外界センサのセンシング機能を妨げることはない。
【0014】
さらに、本開示の車両固定装置は、n個の一方車両把持機構それぞれのクランプ部、及びn個の他方車両把持機構それぞれのクランプ部によって、車両の両側面のロッカーの下方端部を互いにバランス良く把持することができる。
【0015】
その結果、本開示の車両固定装置は、2n個の車両把持機構の把持動作によって、車両を安定性良く固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施の形態である車両固定装置を含むシャーシダイナモメータを模式的に示す斜視図である。
【
図2】実施の形態の複数の車両把持機構の配置構成を模式的に示す説明図(車両固定前)である。
【
図3】実施の形態の複数の車両把持機構の配置構成を模式的に示す説明図(車両固定後)である。
【
図4】実施の形態の車両把持機構の詳細構造(平面構造)を示す説明図である。
【
図5】実施の形態の車両把持機構の詳細構造(断面構造)を示す説明図である。
【
図6】車両把持機構の全体構造を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図4~
図6示したアーム部におけるアーム軸部の断面構造を示す説明図である。
【
図8】
図4~
図6で示したクランプ部及びその周辺構造(平面構造)の詳細を示す説明図である。
【
図9】
図4~
図6で示したクランプ部及びその周辺構造(断面構造)の詳細を示す説明図である。
【
図10】
図4~
図6で示したクランプ部の把持動作を模式的に示す説明図である。
【
図11】本開示の車両固定装置による車両の固定方法を示すフローチャートである。
【
図12】本開示の車両固定装置によって固定される車両の外観構成を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施の形態>
図1は本開示の実施の形態である車両固定装置を含むシャーシダイナモメータの構成を模式的に示す斜視図である。
図1は車両固定装置による車両60の固定前の構造を示している。
図1にXYZ直交座標系を示している。
図1に示すように、本実施の形態の車両固定装置100は4個の車両把持機構3を含んで構成される。
【0018】
図1に示すように、床面10に設けられた4つのローラ用開口部15に対応して4つのローラ装置2が設けられる。4つのローラ装置2はそれぞれローラ対20、ローラ旋回機構21及びローラ支持機構22を有している。
【0019】
ローラ旋回機構21は、ローラ対20における2つのローラが回転動作可能になるように、ローラ対20を支持している。ローラ支持機構22はローラ旋回機構21がローラ旋回方向R2に沿って旋回動作可能に支持している。
【0020】
また、後方(-Y方向)側のローラ装置2はさらに移動用レール23及び支持基台24を有している。移動用レール23は支持基台24上に設けられ、Y方向に延在している。支持基台24はローラ支持機構22が移動用レール23に沿ってY方向に移動可能に、ローラ支持機構22及びローラ支持機構22上のローラ対20を支持する。
【0021】
4つのローラ装置2それぞれにおいて、対応するローラ用開口部15からローラ対20の頂部が部分的に床面10上に露出している。また、4組のローラ対20は車両60の前輪及び後輪に対応する位置に配置されている。車両固定装置による車両の固定時において、ローラ対20を構成する2つのローラ上にタイヤ62が載置される。
【0022】
なお、各ローラ装置2のうち、ローラ対20の一部(床面10から露出した頂部)を除く、ローラ旋回機構21、ローラ支持機構22、移動用レール23及び支持基台24は、全て床面10下に配置される。
【0023】
実施の形態の車両固定装置100は、総計4個の車両把持機構3を含んで構成される。床面10上において、前方の2つのローラ装置2と後方の2つのローラ装置2との間に、4個の車両把持機構3が設置されている。
【0024】
4つの車両把持機構3はそれぞれ床面10上に設けられ、車両60を固定する。なお、
図1では車両把持機構3を模式的に示しており、車両把持機構3の実際の構造とは異なっている。
【0025】
図2及び
図3は4個の車両把持機構の配置構成を模式的に示す説明図である。
図2は車両60の固定前の平面構造を示し、
図3は車両60の固定後の平面構造を示している。なお、
図2及び
図3それぞれにXYZ直交座標系を示している。
【0026】
図2に示すように、4つの車両把持機構3は4つのローラ装置2に対応して配置される。
図2及び
図3において、4つの車両把持機構3は、その配置箇所によって、車両把持機構3FL、車両把持機構3FR、車両把持機構3BL及び車両把持機構3BRに分類表記されている。
【0027】
2つの車両把持機構3FL及び3BLは車両60の左側(-X側;一方側面側)に対応して設けられる一方車両把持機構に分類され、2つの車両把持機構3FR及び3BRは車両60の右側(+X側;他方側面側)に対応して設けられる他方車両把持機構に分類される。すなわち、4(=2n(n=2))個の車両把持機構3は、2個(n個)の一方車両把持機構と2個(n個)の他方車両把持機構に分類される。
【0028】
図2に示すように、前方(+Y方向)かつ左(-X側)のローラ装置2の後方(-Y方向)に近接して車両把持機構3FLが配置され、前方かつ右(+X側)のローラ装置2の後方に近接して車両把持機構3FRが配置される。さらに、後方かつ左のローラ装置2の前方に近接して車両把持機構3BLが配置され、後方かつ右のローラ装置2の前方に近接して車両把持機構3BRが配置される。
【0029】
図2及び
図3に示すように、各車両把持機構3は構成要素として基台となる波状板30を含んでいる。波状板30上に車両把持機構3の後述する車両把持構造体が位置決め配置される。波状板30はピットカバーとして機能し、床面10の一部を構成する。
【0030】
図3に示すように、車両60は両側にロッカー61を有している。ロッカー61は、車両60の車体裾(ドア下)に存在する車体の外枠部分であり、板状を呈しており、「サイドシル」とも呼ばれる。
【0031】
図3において、2つのロッカー61に関し、左側のロッカー61はロッカー61Lに、右側のロッカー61はロッカー61Rに、それぞれ分類表記されている。
【0032】
図3に示すように、ロッカー61Lの前方の下方端部が車両把持機構3FLによって把持され、ロッカー61Lの後方の下方端部が車両把持機構3BLによって把持される。同様に、ロッカー61Rの前方の下方端部が車両把持機構3FRによって把持され、ロッカー61Lの後方の下方端部が車両把持機構3BRによって把持される。
【0033】
図4及び
図5は車両把持機構3の詳細構造を示す説明図である。
図6は車両把持機構3の全体構造を模式的に示す斜視図である。なお、
図6は車両把持機構3を模式的に示しており、各構成要素の形状及び配置位置は正確ではない。したがって、
図6で示す各構成要素の形状及び配置位置は
図4及び
図5とは必ずしも一致しない。
【0034】
図4は車両把持機構3の平面構造を示し、
図5は
図4のA-A断面構造を示している。なお、
図4~
図6それぞれにXYZ直交座標系を示している。また、XYZ直交座標系は車両把持機構3FLを対象として示している。なお。4つの車両把持機構3それぞれの内部構造は同一である。
【0035】
これらの図に示すように、車両把持機構3は、波状板30、ベース部32、アーム部33、クランプ部34、押さえ板35及びスペーサ36を主要構成要素として含んでいる。以下、本明細書において、車両把持機構3において、波状板30、押さえ板35及びスペーサ36を除き、ベース部32、アーム部33及びクランプ部34が連結された基本構造体を「車両把持構造体」と呼ぶ。
【0036】
波状板30は把持本体構造を配置するため基台として機能し、
図5に示すように、表面30aは溝状に加工されている。また、後に詳述する押さえ板35は、車両把持構造体を安定固定するための部材であり、スペーサ36はベース部32の高さを調整する部材である。
【0037】
図6に示すように、波状板30の-Y方向側の開口部形成領域30tにX方向に沿って複数のねじ止め用開口部41が設けられる。複数のねじ止め用開口部41のうち一のねじ止め用開口部41にボルト46の一端(-Y方向側)がねじ止めされる。
【0038】
同様に、波状板30の+Y方向側の開口部形成領域30sにX方向に沿って複数のねじ止め用開口部42(
図4参照)が設けられる。複数のねじ止め用開口部42のうち一のねじ止め用開口部42にボルト46の他端(+Y方向側)がねじ止めされる。なお、2つのボルト46は
図5に示すように、波状板30の一部に埋め込まれるようにしても良い。
【0039】
図6に示すように、開口部形成領域30t及び30sはそれぞれ波状板30の表面30aから所定の高さh30を有するように設けられる。
【0040】
ベース部32は、波状板30内おいて、
図4の破線で示すベース設置領域30r内に配置することができる。
【0041】
アーム部33は部分アーム33A及び33Bが他方端側のアーム連結領域33cで連結されて一体的に構成される。部分アーム33Aは平面視して略L字状を呈しており、部分アーム33Bは棒状を呈している。部分アーム33A及び33Bはそれぞれ一方端側(-Y方向側)にアーム軸部33gを有している。
【0042】
ベース部32は平板状に構成された底面板32Bと、底面板32Bの上面上に立設された4つの側面板32Sとを含んで構成される。4つの側面板32Sにおいて、+X方向側の一対の側面板32Sは部分アーム33A用に設けられ、-X方向側の一対の側面板32Sは部分アーム33B用に設けられる。
【0043】
部分アーム33Aのアーム軸部33gは、アーム軸部33gを回転軸とした回転動作可能に、ベース部32に連結される。同様に、部分アーム33Bのアーム軸部33gは、アーム軸部33gを回転軸とした回転動作可能に、ベース部32に連結される。この際、部分アーム33Aのアーム軸部33gの回転中心にはアーム固定用ピン43Aが設けられ、部分アーム33Bのアーム軸部33gの回転中心にはアーム固定用ピン43Bが設けられる。
【0044】
アーム固定用ピン43Aは、アーム軸部33gの後述するピン挿入空間333を貫通して、+X方向側の一対の側面板32S間に取り付けられる。同様に、アーム固定用ピン43Bは、アーム軸部33gのピン挿入空間333を貫通して、-X方向側の一対の側面板32S間に取り付けられる。
【0045】
したがって、ベース部32は、部分アーム33Aの一方端部側(-Y方向側)を回転可能に支持し、かつ、部分アーム33Bの一方端部側を回転可能に支持する。
【0046】
図7は部分アーム33A及び33Bそれぞれのアーム軸部33gの断面構造を示す説明図である。
【0047】
図7に示すように、各アーム軸部33gにおいて、鉄管331の内周面に沿って中央にピン挿入空間333を有するゴムブッシュ332が装着されている。
【0048】
前述したように、部分ベース部32Aのアーム軸部33gのピン挿入空間333内にアーム固定用ピン43Aが挿入されることにより、ベース部32と部分アーム33Aとが連結される。同様に、部分ベース部32Bのアーム軸部33gのピン挿入空間333内にアーム固定用ピン43Bが挿入されることにより、ベース部32と部分アーム33Bとが連結される。
【0049】
このように、ベース部32は、部分アーム33A及び33Bそれぞれのアーム軸部33gを回転軸として、アーム部33を回転可能に支持する。
【0050】
一方、
図4に示すように、部分アーム33Aと部分アーム33Bとはアーム連結領域33cで溶接により連結され一体化されている。
【0051】
押さえ板35は、ベース部32を波状板30上に安定して固定するため、ベース部32の中央部上を跨がってY方向に延びて設けられる。この際、押さえ板35の一端が開口部形成領域30t上に配置され、他端が開口部形成領域30s上に配置される。
【0052】
そして、押さえ板35の一端を貫通し、かつ、開口部形成領域30tにおける一のねじ止め用開口部41を貫通するように、一方のボルト46を装着する。さらに、押さえ板35の他端を貫通し、かつ、開口部形成領域30sにおける一のねじ止め用開口部42を貫通するように、他方のボルト46を装着する。なお、
図5では、開口部形成領域30t及び30sの図示を省略している。
【0053】
その結果、一方及び他方のボルト46を、開口部形成領域30t及び30sに装着することにより、押さえ板35を波状板30に固定することができる。
【0054】
このように、押さえ板35を波状板30上に固定して設けることにより、ベース部32を含む車両把持構造体は波状板30によって固定される。
【0055】
この際、開口部形成領域30t及び30sの形成高さh30を、ベース部32の底面板32Bの上面の形成高さと同程度に設定して、押さえ板35の底面と底面板32Bの上面とを互いに接触させることにより、押さえ板35によって車両把持構造体をより安定性良く、波状板30上に固定することができる。
【0056】
部分アーム33Aの先端領域と部分アーム33Bの先端領域とが連結される、他方端側のアーム連結領域33cにおいて、ロックピンとなるクランプ固定用ピン45を用いてクランプ部34とアーム部33とが連結される。
【0057】
図8及び
図9はクランプ部34及びその周辺構造の詳細を示す説明図である。
図8は
図4の拡大図に相当し、
図9は
図5の拡大図に相当する。
【0058】
図8及び
図9に示すように、クランプ部34は、互いに一体化したクランプ本体部34mと連結部34eとを含んでいる、クランプ本体部34mの中央領域の下方に連結部34eが設けられる。
【0059】
図8に示すように、クランプ部34のクランプ本体部34mは、把持用空間53を挟んで互いに対向する一対の弾性板材52A及び52Bと、把持用空間53、弾性板材52A及び52Bを挟んで互いに対向する一対の鉄製板材51A及び51Bとを有している。
【0060】
クランプ本体部34mにおいて、鉄製板材51Aと弾性板材52Aとは互いのYZ平面が密着する態様で連結され、鉄製板材51Bと弾性板材52Bとは互いのYZ平面が密着する態様で連結される。弾性板材52A及び52Bそれぞれの構成材料は、弾性力を有し比較的柔らかく摩擦係数が比較的高い特性を有することが望ましい。
【0061】
クランプ本体部34mの下方(-Z方向)において、X方向に沿ってクランプ本体部34mを貫通し、弾性板材52A及び52B間を締め付けて固定する2つのボルト44が取り付けられる。2つのボルト44は、把持用空間53を狭める方向に押圧力が付与される固定部材として機能する。
【0062】
図10は
図4及び
図5で示したクランプ部34の把持動作を模式的に示す説明図である。なお、
図10は模式的に示した図であり、クランプ本体部34m、鉄製板材51A及び51B、弾性板材52A及び52B、把持用空間53等の構成要素の形状及び配置位置は正確ではない。また、
図10では、クランプ連結部34eの図示が省略されている。
【0063】
図10に示すように、クランプ本体部34m上に鉄製板材51Aが立設され、クランプ補助部34n(
図4~
図6では図示せず)の側面に沿って鉄製板材51Bの一部が埋め込まれている。そして、ボルト44によって、クランプ本体部34m,クランプ補助部34n間を締め付けている。
【0064】
このように、ボルト44によって、クランプ本体部34m,クランプ補助部34n間を締め付けることにより、クランプ本体部34m及びクランプ補助部34nを介して弾性板材52A及び52B間を締め付けることができる。
【0065】
なお、
図10では、ボルト44によって、クランプ本体部34m,クランプ補助部34n間を締め付けたが、ボルト44によって、弾性板材52A及び52B間を直接締め付けるようにしても良い。
【0066】
図8及び
図9に示すように、クランプ部34の連結部34eはクランプ固定用ピン45によってアーム部33に固定される。具体的には、アーム連結領域33c側からクランプ連結部34eを貫通させてクランプ固定用ピン45を取り付ける。この際、クランプ部34はクランプ固定用ピン45を回転軸として回転動作可能になるように、クランプ固定用ピン45は取り付けされる。
【0067】
このように、アーム部33は、クランプ部34がロックピンであるクランプ固定用ピン45を回転軸として回転動作可能になるように、クランプ部34に連結される。
【0068】
図5に戻って、ベース部32の下方にスペーサ36が設けられる。スペーサ36はベース部32の高さ調整用に用いられる。
【0069】
スペーサ36の上部はベース部32と嵌合するための凸形状を有し、ベース部32の下部はスペーサ36と嵌合するための凹形状を有している。さらに、スペーサ36の下部は波状板30の溝状部分に固定可能な凹形状を有している。したがって、波状板30の表面30a上にスペーサ36及びベース部32を安定して固定することができる。
【0070】
また、ベース部32の下方にスペーサ36を配置することにより、ベース部32の波状板30上における高さ調整を安定性良く行うことができる。なお、スペーサ36として、高さの異なる複数のスペーサ36を予め準備しておくことが望ましい。この場合、複数のスペーサ36のうち一のスペーサを選択的に用いることにより、複数種のベース部32の高さ調整が行える。
【0071】
さらに、必要に応じて、アーム部33として、部分アーム33A及び33BそれぞれのY方向の長さが異なる複数種のアーム部33を予め準備することが望ましい。Y方向の長さがより長い長尺の部分アーム33A及び33Bを用いることにより、車両60のホイールベースに適した車両把持機構3を比較的簡単に得ることができる。
【0072】
図11は本実施の形態の車両固定装置100を用いた車両60の固定方法の処理手順を示すフローチャートである。
図12は、車両固定装置100よって固定される車両60の外観構成を模式的に示す側面図である。以下、これらの図を参照して、車両60の固定手順を説明する。
【0073】
なお、ステップS1以前の準備状態は、4つのローラ装置2に対応して、床面10上に4つの波状板30のみが配置された状態である。正確には、4つの波状板30はピットカバーとして機能しており、床面10の一部を構成している。
【0074】
まず、ステップS1において、4つのローラ装置2のローラ対20上に4つのタイヤ62が位置するように車両60を配置する。
【0075】
次に、ステップS2において、車両把持機構3のうち、ベース部32、アーム部33及びクランプ部34が互いに連結された車両把持構造体を組み立てる。
【0076】
したがって、車両把持構造体では、アーム部33は部分アーム33A及び33Bが回転動作可能にベース部32に連結され、クランプ部34は回転動作可能にアーム部33に連結されている。
【0077】
続いて、ステップS3において、車両把持構造体をロッカー61の把持位置に対応して、波状板30上に配置する。すなわち、
図2及び
図3で示す車両把持機構3の配置位置に対応して車両把持構造体を配置する。
【0078】
次に、ステップS4において、ベース部32の下方にスペーサ36を配置して、ベース部32の高さ調整を行う。具体的には、クランプ部34のクランプ本体部34mの弾性板材52A及び52Bによるロッカー61の下方端部の挟み込みが適切に行われる高さになるように、スペーサ36によってベース部32の高さを調整する。
【0079】
次に、ステップS5において、各クランプ部34をロッカー61の下方端部に固定する。具体的には、クランプ部34の把持用空間53にロッカー61の下方端部が位置した状態で、クランプ本体部34mを貫通して、弾性板材52A及び52B間を締め付ける2つのボルト44を取り付ける。固定部材である2つのボルト44による締め付けにより、弾性板材52A及び52B間の把持用空間53が狭くなる押圧力(締付力F1)が働く。
【0080】
その結果、ロッカー61の下方端部は、弾性板材52A及び52Bとの間に生じる摩擦力と、把持用空間53を狭める方向に働く上述した押圧力とより、ロッカー61に悪影響を与えることなく、弾性板材52A及び52Bによってロッカー61の下方端部を挟み込んだ状態で、4つのクランプ部34は車両60のロッカー61に強固に固定される。
【0081】
すなわち、左側のロッカー61Lの前方の下方端部に対し車両把持機構3FL用のクランプ部34が固定され、ロッカー61Lの後方の下方端部に車両把持機構3BL用のクランプ部34が固定される。同様に、右側のロッカー61Rの前方の下方端部に対し車両把持機構3FR用のクランプ部34が固定され、ロッカー61Rの後方の下方端部に車両把持機構3BR用のクランプ部34が固定される。
【0082】
その後、ステップS6において、ベース部32の中央部を跨がって押さえ板35を設け、押さえ板35の両端を2つのボルト46によって波状板30の開口部形成領域30t及び30sにて仮固定する。すなわち、2つのボルト46の装着に少し余裕を持たせている。
【0083】
最後に、ステップS7において、最終確認後、押さえ板35の両端をボルト46によって波状板30の開口部形成領域30t及び30sに本固定する。すなわち、締め付け余裕を持たせることなく、2つのボルト46を開口部形成領域30t及び30sに装着する。なお、最終確認とは、車両把持機構3を構成する全ての部品の取り付け状態が正常であることの確認を意味する。
【0084】
その結果、車両把持構造体が波状板30に本固定され、4個の車両把持機構3が完成する。この際、部分アーム33A及び33Bはそれぞれ、ベース部32が波状板30に固定された状態で、アーム軸部33gを回転軸とした回転動作が可能となっている。したがって、ベース部32は、アーム部33(部分アーム33A及び33B)の一方端部側に存在するアーム軸部33gを回転軸とした回転動作可能にアーム部33を支持している。この際、アーム固定用ピン43Aは部分アーム33Aのアーム軸部33gの回転中心となり、アーム固定用ピン43Bは部分アーム33Bのアーム軸部33gの回転中心となる。
【0085】
このように、ステップS1~S7を実行することにより、ローラ装置2の4つのローラ対20上に4つのタイヤ62が載置された状態で、4個の車両把持機構3によって車両60を固定したシャーシダイナモメータ1を完成することができる。
【0086】
車両固定装置100を構成する4つの車両把持機構3に関し、ロッカー61の下方端部を挟みこむクランプ本体部34mの上部を除く全ては、車両60のアンダボディの下方に存在することになる。
【0087】
このように、本実施の形態の車両固定装置100において、車両60を固定する4つの車両把持機構3の大部分は、車両60のアンダボディの下方に配置される特徴を有している。
【0088】
車両固定装置100は上記特徴を有するため、4個の車両把持機構3が車両60に搭載される外界センサの検出範囲に存在したり、4個の車両把持機構3の存在が車両60に対するシミュレーション実行時の視界認識を妨げたりすることはない。
【0089】
さらに、本実施の形態の車両固定装置100は、2個の一方車両把持機構(車両把持機構3FL及び3BL)それぞれのクランプ部34、及び2個の他方車両把持機構(車両把持機構3FR及び3BR)それぞれのクランプ部34によって、車両60の両側面のロッカー61(61L,61R)の下方端部を互いにバランス良く把持することができる。
【0090】
その結果、本実施の形態の車両固定装置100は、4(=2n)個の車両把持機構3の把持動作によって、車両60をバランス良く固定することができる。
【0091】
4個の車両把持機構3それぞれのクランプ部34によって、把持用空間53内に位置するロッカー61の下方端部は、一対の弾性板材52A及び52Bによって挟み込む態様で把持され、固定部材である2本のボルト44によって把持用空間53を狭める方向に押圧力(締付力F1)が付与される。
【0092】
したがって、本実施の形態の車両固定装置100は、弾性板材52A及び52Bによる摩擦力と、2本のボルト44による押圧力とによって、総計4箇所で車両60のロッカー61の下方端部をクランプ部34により把持して、車両60を安定性良く固定することができる。
【0093】
本実施の形態の車両固定装置100によって車両60を床面10上に固定後、車両60に対し車両シミュレーションを実行する場合を考える。この場合、車両固定装置100によって、車両60をバランス及び安定性良く固定することができる。
【0094】
したがって、本実施の形態の車両固定装置100を含むシャーシダイナモメータ1は、車両固定装置100による車両60の固定後、精度良く車両シミュレーションを実行することができる。
【0095】
この際、クランプ部34はクランプ固定用ピン45を回転軸とした回転動作が可能であり、部分アーム33A及び33Bはアーム固定用ピン43A及び43Bを回転軸とした回転動作が可能である。したがって、上述した3つの回転動作によって、4つの車両把持機構3は車両60の姿勢に追従して安定性良く車両60を固定することができる。
【0096】
具体的には、車両シミュレーションの実行期間における車両60の運転時(特に加減速時)に、車両60の姿勢が上下に傾く動作傾向がある。この際、上述した3つの回転動作によって、車両60の動作傾向に追従することができる。
【0097】
なお、上記効果は、クランプ部34の回転動作、及び、部分アーム33A及び33Bの回転動作のうち、少なくとも一方の回転動作が可能性であれば、少なからず達成することが期待できる。
【0098】
さらに、部分アーム33A及び33Bはそれぞれ一端側にアーム軸部33gを有している。アーム軸部33gは中央にピン挿入空間333を有するゴムブッシュ332を含んで構成される。このゴムブッシュ332により、車両固定装置100による車両60の固定後において、車両60の前後左右に力が働く際、ゴムブッシュ332の復元力によって車両60の姿勢を一定に保つことができる。
【0099】
その結果、本実施の形態の車両固定装置100は、車両60のセッテイング誤差を吸収することができるため、より安定性良く車両を固定することができる。
【0100】
加えて、波状板30の表面30aは溝状に形成されているため、車両60が前に進もうとする力である推力に対して、剪断力で受けることができる。したがって、溝状の表面30aを有する波状板30を床面10の一部として用いることにより、比較的大きな車両60の荷重にも耐えることができる。
【0101】
さらに、スペーサ36によりベース部32の設置高さを調整することにより、クランプ部34によるロッカー61の下方端部が把持動作に適した高さに設定することができる。
【0102】
加えて、押さえ板35により、ベース部32を含む車両把持構造体を基台となる波状板30上に安定性良く固定することができる。
【0103】
(その他)
本実施の形態では、4個(2n;n=2)の車両把持機構3を含む車両固定装置100を示したが、nを“1”や“3”以上にして、車両把持機構3の個数(2n)を増減することは勿論、可能である。
【0104】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 シャーシダイナモメータシステム
2 ローラ装置
3 車両把持機構
10 床面
20 ローラ対
60 車両
61 ロッカー
30 波状板
32 ベース部
33 アーム部
33g アーム軸部
34 クランプ部
35 押さえ板
36 スペーサ
43A,43B アーム固定用ピン
44,46 ボルト
45 クランプ固定用ピン
332 ゴムブッシュ