(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電子燃料噴射式ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02M 61/18 20060101AFI20240208BHJP
F02B 19/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F02M61/18 320Z
F02B19/16 K
F02M61/18 330Z
(21)【出願番号】P 2020206210
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】長井 順太郎
(72)【発明者】
【氏名】松延 新吾
(72)【発明者】
【氏名】金子 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-047114(JP,A)
【文献】特開2017-002876(JP,A)
【文献】特開2012-246897(JP,A)
【文献】実開昭58-162280(JP,U)
【文献】特開平11-093805(JP,A)
【文献】特開2020-106019(JP,A)
【文献】実開昭56-094819(JP,U)
【文献】特開2000-054841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/00~61/20
F02B 19/00~19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数または一部本数が連通口(5)を通過するようにし、
インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出している、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項2】
渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
各燃料インジェクタ(7)の複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数または全本数が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにし、
インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出し、
インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)と平行な向きに見て、相互に直交する前後方向と横方向の各寸法とをそれぞれ1.5倍ずつ拡大した渦室側開口(5a)と相似形仮想線(5c)を想定し、この相似形仮想線(5c)と渦室側開口(5a)との間の渦室内周面が、燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)が突き当たる渦室側開口(5a)の周縁部(5b)とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき2~6個設けられている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)の拡開角度(α)は、4°~7°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項5】
渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
各燃料インジェクタ(7)の複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数または全本数が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにし、
インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出し、
インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)の拡開角度(α)は、4°~7°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項6】
請求項5に記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき2~6個設けられている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
各燃料噴射孔(9)のテーパ角度(β)は、12°~18°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、1°~3°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項9】
渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
各燃料インジェクタ(7)の複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数または全本数が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにし、
インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出し、
インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、1°~3°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項10】
請求項9に記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき2~6個設けられている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を備えている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項12】
請求項11に記載された電子燃料噴射式ディーゼルエンジンにおいて、
ピン角(9f)はRが0.1mm以下の先鋭形状の開口縁である、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子燃料噴射式ディーゼルエンジンに関し、詳しくは、燃料インジェクタの燃料噴射孔の出口での煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える電子燃料噴射式ディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子燃料噴射式ディーゼルエンジンとして、渦室と、渦室に向けられた燃料インジェクタと、渦室から導出された連通口と、連通口を介して渦室と連通する主燃焼室を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-67065号公報(
図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題点》 煤で燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
特許文献1のエンジンでは、燃料インジェクタの燃料噴射孔が単一径の円筒形状である場合、燃料噴射孔の出口で堆積した少量の煤の堆積物で燃料噴射が邪魔され、煤で燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、燃料インジェクタの燃料噴射孔の出口での煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える電子燃料噴射式ディーゼルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の構成は、次の通りである。
図1(A)に例示するように、渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
図1(B),2(B),3(B)に例示するように、渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
図2(A),3(A)に例示するように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、
図1(B),2(B),3(B)に例示するように、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
図2(C),3(C)に例示するように、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
図2(B),3(B)に例示するように、複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図2(C),3(C)に例示するように、複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数または一部本数が連通口(5)を
通過するようにし、
図1(A)(B)に例示するように、インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出している、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【0007】
(請求項2
,5,9に係る発明に共通する発明の構成)
請求項2
,5,9に係る発明に共通する発明の構成は、次の通りである。
図1(A)に例示するように、渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備え、
図3(B)に例示するように、渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備え、
図3(A)に例示するように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされ、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備え、
図3(C)に例示するように、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
図3(B)に例示するように、複数個の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図3(A)(B)に例示するように、インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置され、
図3(C)に例示するように、各燃料インジェクタ(7)の複数個の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数または全本数が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにし、
図1(A)に例示するように、燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出している。
(請求項2に係る発明に固有の発明の構成)
図3(C)に例示するように、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)と平行な向きに見て、相互に直交する前後方向と横方向の各寸法とをそれぞれ1.5倍ずつ拡大した渦室側開口(5a)と相似形仮想線(5c)を想定し、この相似形仮想線(5c)と渦室側開口(5a)との間の渦室内周面が、燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)が突き当たる渦室側開口(5a)の周縁部(5b)とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
(請求項5に係る発明に固有の発明の構成)
図3(A)に例示するように、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)の拡開角度(α)は、4°~7°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
(請求項9に係る発明に固有の発明の構成)
図3(A)に例示するように、インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、1°~3°とされている、ことを特徴とする電子燃料噴射式ディーゼルエンジン。
【発明の効果】
【0008】
請求項1,2
,5,9に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果1》 煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える。
このエンジンでは、
図2(A),3(A)に例示するように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状であるため、燃料噴射孔(9)の出口で煤が堆積しても、燃料噴射が邪魔され難く、燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える。
《効果2》 渦室(2)内で煤が発生し難い。
図1(B),2(B),3(B)に例示するように、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)の1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備えているため、
図2(B),3(B)に示す噴射燃料(13)が渦室(2)内に広く分散し、圧縮空気と噴射燃料(13)の混合が良好になり、渦室(2)内で煤が発生し難い。
《効果3》 渦室(2)内で煤が発生し難い。
図2(C)又は3(C)に示すように、このエンジンでは、多くの噴射燃料(13)が連通口(5)を介して主燃焼室(4)に噴射されるため、渦室(2)での過剰な予混合燃焼が防止され、渦室(2)で煤が発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る電子燃料噴射式ディーゼルエンジンを説明する図で、
図1(A)は渦室とその周辺部分の立断面図、
図1(B)は
図1(A)のB方向矢視拡大図、
図1(C)は
図1(A)のC方向矢視拡大図、
図1(D)は
図1(A)のD方向矢視拡大図である。
【
図2】
図1のエンジンに用いる燃料インジェクタの燃料噴射孔の基本例を説明する図で、
図2(A)は
図1(A)のIIA-IIA線断面図、
図2(B)は
図1(B)相当図、
図2(C)は
図1(C)相当図である。
【
図3】
図1のエンジンに用いる燃料インジェクタの燃料噴射孔の変形例を説明する図で、
図3(A)は
図2(A)相当図、
図3(B)は
図2(B)相当図、
図3(C)は
図3(C)相当図である。
【
図4】燃料インジェクタの燃料噴射孔の第1比較例を説明する
図2(A)相当図である。
【
図5】燃料インジェクタの燃料噴射孔の第2比較例を説明する
図2(A)相当図である。
【
図6】燃料インジェクタの燃料噴射孔の第3比較例を説明する図で、
図6(A)は
図2(A)相当図、
図6(B)は
図2(B)相当図、
図6(C)は
図2(C)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1から
図3は本発明の実施形態に係る電子燃料噴射式ディーゼルエンジンを説明する図で、
図1は実施形態、
図2は実施形態で用いる燃料噴射孔の基本例、
図3は実施形態で用いる燃料噴射孔の変形例である。
また、
図4~6は、本発明の実施形態で用いる燃料噴射孔の基本例や変形例と比較する燃料噴射孔の比較例を説明する図で、
図4は第1比較例、
図5は第2比較例、
図6は第3比較例である。
【0011】
図1に示す本発明の実施形態では、立形直列多気筒の電子燃料噴射式ディーゼルエンジンが用いられている。
図1(A)に示すように、このエンジンは、シリンダ(3)と、シリンダ(3)の上部に組み付けられたシリンダヘッド(1)と、シリンダ(3)に内嵌されたピストン(14)を備えている。
【0012】
図1(A)に示すように、このエンジンは、渦室(2)と、渦室(2)に向けられた燃料インジェクタ(7)と、渦室(2)から導出された連通口(5)と、連通口(5)を介して渦室(2)と連通する主燃焼室(4)を備えている。
このエンジンは、4サイクルエンジンで、このエンジンでは、圧縮行程の上死点付近で主燃焼室(4)から連通口(5)を介して渦室(2)に圧縮空気が押し込まれ、渦室(2)で発生した圧縮空気の旋回流(2a)に燃料インジェクタ(7)から
図2(A)に示す噴射燃料(13)が噴射され、渦室(2)での燃焼で発生した燃焼ガスが
図1(A)に示す連通口(5)から主燃焼室(4)に噴出し、燃焼ガス中に含まれる未燃燃料が主燃焼室(4)内の空気と混合されて燃焼する。
燃料インジェクタ(7)は、電子制御され、所定のタイミングで所定量の噴射燃料(13)が噴射される。
【0013】
図1(A)に示すように、ピストン(14)にはピストンリング(14a)が外嵌され、シリンダ中心軸線(3a)側を前側、シリンダ周壁(3b)側を後側として、ピストン(14)の上面に、前側に近づくにつれて次第に浅くなるガス案内溝(14b)を備えている。
渦室(2)は、球形で、シリンダヘッド(1)内に形成されている。
連通口(5)は、シリンダヘッド(1)に内嵌された口金(15)に形成され、主燃焼室(4)から後斜め上向きで渦室(2)に向けられている。連通口(5)の主燃焼室(4)側の開口(5d)はガス案内溝(14b)の後端部(14c)の真上に配置されている。
主燃焼室(4)は、シリンダ(3)内でシリンダヘッド(1)とピストン(14)で上下から挟まれた空間で形成されている。
シリンダ(3)とシリンダヘッド(1)及び口金(15)の間にはガスケット(16)が挟み付けられている。
【0014】
図1(A)に示すように、シリンダヘッド(1)には、その上面(1a)から後斜め上向きにインジェクタ挿通スリーブ(10)が突出され、インジェクタ挿通スリーブ(10)とシリンダヘッド(1)内に亘り、インジェクタ挿通スリーブ(10)の突出端部(10a)から渦室(2)に至るインジェクタ挿通孔(6)が形成されている。
図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)は、径大のインジェクタ本体部(7c)と、インジェクタ本体部(7c)から渦室(2)に向けて突出する径小のノズル部(7d)と、インジェクタ本体部(7c)とノズル部(7d)の段差部分に形成された押圧部(7e)を備えている。
燃料インジェクタ(7)は、インジェクタ挿通孔(6)内に挿入され、インジェクタ先端面(8)が渦室(2)に臨んでいる。
燃料インジェクタ(7)は、押圧力(11)で挿入方向に押圧され、燃料インジェクタ(7)にかかる押圧力(11)が押圧部(7e)とスペーサ(12)を介してインジェクタ挿通スリーブ(10)の突出端部(10a)で受け止められている。
ノズル部(7d)にはガスシール(7f)が外嵌され、このガスシール(7f)によりインジェクタ挿通孔(6)内でノズル部(7d)の周囲が密封され、渦室(2)で発生した燃焼ガスがインジェクタ挿通孔(6)を経て外側に漏れないようにしている。
インジェクタ本体部(7c)には電磁コイル等の電子式動弁機構が内蔵され、ノズル部(7d)には電子式動弁機構で駆動される弁体が収容されている。
【0015】
図1(B)に示すように、燃料インジェクタ(7)は、渦室(2)に臨むインジェクタ先端面(8)に燃料噴射孔(9)を備えている。
図2(A),3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされている。
図1(A)に示すように、インジェクタ先端面(8)の一部が渦室(2)内に突出している。
このエンジンでは、インジェクタ先端面(8)の全部が渦室(2)内に突出していてもよい。
【0016】
このエンジンでは、
図2(A),3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状であるため、燃料噴射孔(9)の出口で煤が堆積しても、燃料噴射が邪魔され難く、燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える。
【0017】
また、このエンジンでは、
図1(A)に示すように、インジェクタ先端面(8)の一部または全部が渦室(2)内に突出しているため、
図2(A),3(A)に示す燃料噴射孔(9)の出口付近の燃焼ガスが
図1(A)に示す旋回流(2a)で吹き流され易く、燃焼ガス中の煤が燃料噴射孔(9)の出口で成長し難い。
【0018】
図1(A)(B)に示すように、インジェクタ先端面(8)は、燃料噴射孔(9)をあけた最先端突出面(8a)と、その周囲に設けられた平坦な渦流ガイド面(8b)を備えている。
図1(A)に示すように、渦流ガイド面(8b)の一部は、渦室(2)内に突出している。
このエンジンでは、渦流ガイド面(8b)の全部が、渦室(2)内に突出していてもよい。
【0019】
図1(A)に示すように、このエンジンでは、渦流ガイド面(8b)の少なくとも一部が、渦室(2)内に突出しているため、渦室(2)内を旋回する旋回流(2a)が渦流ガイド面(8b)で案内され、旋回流(2a)が渦室(2)内をスムーズに旋回し、圧縮空気と噴射燃料(13)の混合が良好になり、渦室(2)内で煤が発生し難い。
インジェクタ先端面(8)の最先端突出面(8a)は、突球面状に形成されている。
【0020】
図1(B),2(B),3(B)に示すように、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備えている。
このため、
図2(B),3(B)に示す噴射燃料(13)が渦室(2)内に広く分散し、圧縮空気と噴射燃料(13)の混合が良好になり、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0021】
図1(B),2(B),3(B)に示すように、燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき6個設けられている。
このエンジンでは、燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき2~6個設けるのが望ましい。
【0022】
図1(B)に示す燃料噴射孔(9)の基本例では、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積をA平方mmとし、1気筒分の排気量をC立方mmとして、前者の値Aを後者の値Cで除したA/Cの値が0.75×10
-6となるようにした。具体的には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積Aを0.224平方mm、1気筒分の排気量Cを299000立方mmとした。
このエンジンでは、A/Cの値が0.5×10
-6~1.0×10
-6となるようにするのが望ましい。
【0023】
A/Cの値が0.5×10-6未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aが不足し、必要な出力が得られないことがある。A/Cの値が1.0×10-6を越える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aが過大になり、燃料噴射速度が遅く、渦室(2)内で噴射燃料(13)の油滴が微細化せず、圧縮空気と噴射燃料の混合が不良になり、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。
これに対し、A/Cの値が0.5×10-6~1.0×10-6の場合には、必要な出力が得られると共に、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0024】
図1(B)に示す燃料噴射孔(9)の基本例では、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の出口開口(9b)6個の総開口面積をB平方mmとし、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積をA平方mmとして、前者の値Bを後者の値Aで除したB/Aの値が1.26となるようにした。具体的には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積Aを上記のように、0.224平方mm、燃料噴射孔(9)の出口開口(9b)6個の総開口面積Bを0.282平方mmとした。
このエンジンでは、B/Aの値が1.08~1.44となるようにするのが望ましい。
【0025】
B/Aの値が1.08未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aに対して出口開口(9b)の総開口面積Bが小さ過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で堆積した少量の煤で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
B/Aの値が1.44を超える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aに対して出口開口(9b)の総開口面積Bが大き過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速く、多量の煤の堆積物で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
これに対し、B/Aの値が1.08~1.44である場合には、少量の煤の堆積物では燃料噴射が邪魔されないうえ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅く、燃料噴射制御の精度が低下し難い。
【0026】
B/Aの値が1.44を超える場合に、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速くなるのに対し、1.44以下でその成長速度が遅くなる理由は、次のように推定される。すなわち、前者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(13)の周囲に形成される隙間(9)が過大になり、この隙間(9)に煤を含む燃焼ガスが多量に流入し、煤の堆積物が急速に成長するのに対し、後者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(1)の周囲に形成される隙間(9)が適度な大きさになり、煤の堆積物の成長速度と噴射燃料(13)による煤の堆積物の除去速度が拮抗し、燃料噴射孔(9)の出口で成長した煤の堆積物が直ぐに噴射燃料で除去されるためと推定される。
【0027】
図2(C)に示すように、このエンジンでは、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
図2(B)に示すように、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図2(C)に示すように、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数(6本)が連通口(5)を通過するようにしている。
このエンジンでは、渦室側延長線(9d)の全本数(6本)の一部のみが連通口(5)を通過するようにしてもよい。
このエンジンでは、多くの噴射燃料(13)が連通口(5)を介して主燃焼室(4)に噴射されるため、渦室(2)での過剰な燃焼が防止され、渦室(2)で煤が発生し難い。
複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲で、インジェクタ先端面(8)の最先端突出面(8a)の周方向に一定間隔を保持して配置されている。
このエンジンでは、図1(A)(B)に示すように、インジェクタ先端面(8)は、突状の最先端突出面(8a)を備え、複数個の燃料噴射孔(9)が、渦室(2)内で最先端突出面(8a)の周方向に沿って最先端突出面(8a)に配置されている。
また、 図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)を挿通するシリンダヘッド(1)のインジェクタ挿通孔(6)内にガスシール(7f)が収容され、ガスシール(7f)で、燃料インジェクタ(7)の外周面とインジェクタ挿通孔(6)の内周面の相互間が密封され、ガスシール(7f)の渦室(2)側の先端縁(7fa)はインジェクタ挿通孔(6)の渦室(2)側の開口縁(6a)及びインジェクタ先端面(8)の外周縁(8c)よりも燃料インジェクタ(7)の基端側に後退して配置され、インジェクタ先端面(8)は、渦室(2)内に向けて露出している。
【0028】
図3に示す燃料噴射孔(9)の変形例では、
図3(C)に示すように、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)は連通口(5)を通過し、
図3(B)に示すように、各燃料インジェクタ(7)の複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、各インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図3(C)に示すように、各燃料インジェクタ(7)の複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数(5本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにしている。残り本数(1本)は、連通口(5)を貫通している。
このエンジンでは、全本数(6本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにしてもよい。
このエンジンでは、多くの噴射燃料(13)が連通口(5)を介して主燃焼室(4)に噴射されるため、渦室(2)での過剰な燃焼が防止され、渦室(2)で煤が発生し難い。
【0029】
図3(C)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例では、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)と平行な向きに見て、相互に直交する前後方向と横方向の各寸法とをそれぞれ1.5倍ずつ拡大した渦室側開口(5a)と相似形の相似形仮想線(5c)を想定し、この相似形仮想線(5c)と渦室側開口(5a)との間の渦室内周面が、燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)が突き当たる渦室側開口(5a)の周縁部(5b)とされている。
図3に示す燃料噴射孔(9)の変形例では、
図2に示す燃料噴射孔(9)の基本例と同一の要素には、
図2と同一の符号を付しておく。
図3に示す燃料噴射孔(9)の変形例の要素は、特記しない限り、
図2に示す燃料噴射孔(9)の基本例の要素と同一の構造と機能を備える。
【0030】
渦室(2)での煤の発生状況を調べたところ、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数(6本)が連通口(5)を通過する
図2の基本例や、一部本数(5本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たる
図3の変形例は、全本数(6本)が渦室側開口(105a)の周縁部(105b)の外側に突き当たる
図6(C)の第3比較例に比べ、渦室(2)での煤の発生量が少なかった。
図6に示す第3比較例では、
図2に示す基本例や
図3に示す変形例と同一の要素には、
図2,3の符号に100を加算した符号を付しておく。
図4に示す第1比較例や
図5に示す第2比較例でも、同様にしておく。
【0031】
図2(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、4°とされている。
図3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例では、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、7°とされている。
このエンジンでは、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、4°~7°とするのが望ましい。
【0032】
拡開角度(α)が4°未満である場合には、複数の噴射燃料(13)の一部同士が重なり合い易く、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。
拡開角度(α)が7°を越える場合には、噴射燃料(13)の多くが連通口(5)を通過せずに渦室(2)の内面に衝突し、渦室(2)内での過剰な燃焼で煤が発生し易い。
これに対し、拡開角度(α)が4°~7°である場合には、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0033】
渦室(2)内での煤の発生状況を調べたところ、拡開角度(α)が4°の基本例(
図2)や7°の変形例(
図3)では、0°の第1比較例(
図4)や1°の第2比較例(
図5)や10°の第3比較例(
図6)に比べ、渦室(2)内での煤の発生が少なかった。
【0034】
図2(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、各燃料噴射孔(9)のテーパ角度(β)は、12°とされている。
図3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例では、各燃料噴射孔(9)のテーパ角度(β)は、18°とされている。
このエンジンでは、テーパ角度(β)は、12°~18°とするのが望ましい。
【0035】
テーパ角度(β)が12°未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)に対して出口開口(9b)が小さ過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で堆積した少量の煤で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
テーパ角度(β)が18°を超える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)に対して出口開口(9b)が大き過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速く、多量の煤の堆積物で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
これに対し、テーパ角度(β)が12°~18°の場合には、少量の煤の堆積物では燃料噴射が邪魔されないうえ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅く、燃料噴射制御の精度が低下し難い。
【0036】
燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度を調べたところ、テーパ角度(β)が12°の基本例(
図2)や18°の変形例(
図3)では、0°の第1比較例(
図4)や1°の第2比較例(
図5)や24°の第3比較例(
図6)に比べ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅かった。
【0037】
図6の第3比較例のように、テーパ角度(β)が18°を超える場合に、燃料噴射孔(109)の出口で煤の堆積物の成長速度が速くなるのに対し、
図2,3の基本例や変形例のように、テーパ角度(β)が18°以下では、その成長速度が遅くなる理由は、次のように推定される。すなわち、前者では燃料噴射孔(109)の出口で噴射燃料(113)の周囲に比較的大きな隙間(109h)が形成され、この大きな隙間(109h)に煤を含む燃焼ガスが多量に流入し、煤の堆積物が急速に成長するのに対し、後者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(13)の周囲の隙間(9h)が適度な大きさになり、煤の堆積物の成長速度と噴射燃料(13)による煤の堆積物の除去速度が拮抗し、燃料噴射孔(9)の出口で成長した煤の堆積物が直ぐに噴射燃料で除去されるためと推定される。
【0038】
図2(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、1°とされている。
図3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例では、インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、3°とされている。
このエンジンでは、挟角(γ)は、1°~3°とするのが望ましい。
【0039】
挟角(γ)が1°未満である場合には、複数の噴射燃料(13)の一部同士が重なり合い易く、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。拡開角度(α)が3°を越える場合には、噴射燃料(13)の多くが連通口(5)を通過せずに渦室(2)の内面に衝突し、渦室(2)内での過剰な燃焼で煤が発生し易い。
これに対し、挟角(γ)が1°~3°である場合には、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0040】
渦室(2)内での煤の発生状況を調べたところ、挟角(γ)が1°の基本例(
図2)や3°の変形例(
図3)では、0°の第1比較例(
図4)や4°の比較例(図示せず)に比べ渦室(2)内での煤の発生量が少なかった。
【0041】
図2(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を備えている。
図3(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例でも、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を備えている。
【0042】
このエンジンでは、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を残すことにより、面取り仕上げが不要になり、燃料インジェクタ(7)の製作が容易になる。
また、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)は渦室(2)に燃料を噴射するため、直噴式のものに比べ、燃料噴射圧が低くて済み、燃料の噴射圧によるピン角(9f)の摩耗が起こり難く、これに起因する燃料噴射精度の低下は起こり難い。
【0043】
上記ピン角(9f)はRが0.1mm以下の先鋭形状の開口縁である。
【符号の説明】
【0044】
(2)…渦室、(4)…主燃焼室、(5)…連通口、(5a)…渦室側開口、(5b)…渦室側開口の周縁部、(7)…燃料インジェクタ、(7a)…インジェクタ中心軸線、(7b)…インジェクタ中心軸線の渦室側延長線、(9)…燃料噴射孔、(9a)…入口開口、(9b)…出口開口、(9c)…噴射孔中心軸線、(9d)…噴射孔中心軸線の渦室側延長線、(9e)…入口開口縁、(9f)…ピン角、(9g)…インジェクタ中心軸線に沿う噴射孔内周面、(α)…拡開角度、(β)…テーパ角度、(γ)…挟角。