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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】開閉体装置の防火構造
(51)【国際特許分類】
   E06B 5/16 20060101AFI20240208BHJP
   E05F 15/643 20150101ALI20240208BHJP
【FI】
E06B5/16
E05F15/643
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020210506
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097110
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000239714
【氏名又は名称】文化シヤッター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 弘幸
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/014193(WO,A1)
【文献】特開2016-223067(JP,A)
【文献】特開2016-11561(JP,A)
【文献】特開2010-106434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/16
E05F 15/00-15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の壁体に開口する開口部の上縁に沿って設けられ、少なくとも室外側の外板部が壁体室外面より室外側へ突出するケースと、
前記ケース内における前記外板部の外板部背面に対向する外側面から室内側の内側面までが所定の厚みを有し、前記内側面が前記壁体室外面よりも室内側に位置する不燃材と、
前記不燃材を挟んで前記外板部と反対側の前記ケース内に、前記外板部に沿って垂直に設けられるベース板と、
前記不燃材と反対側の前記ベース板の室内側ベース面に固定され、前記開口部を開閉するドアを開閉駆動するための駆動機構部と、
を具備することを特徴とする開閉体装置の防火構造。
【請求項2】
前記不燃材が、箱体に収容され、前記外板部背面に沿って前記ケース内に配置されることを特徴とする請求項1記載の開閉体装置の防火構造。
【請求項3】
前記箱体は、垂直な本体板と該本体板の上下端から水平に平行となり前記不燃材の厚みと同等の長さで突出する枠片とでコ字状に形成される一方の収容体と、該一方の収容体と同形状に形成され上下に枠片を有する他方の収容体とで構成され、前記一方の収容体の上下枠片のそれぞれ外側面に前記他方の収容体の上下枠片をそれぞれ重ねて前記一方の収容体と前記他方の収容体とで角筒状空間を形成し、該角筒状空間内に前記不燃材が収容されることを特徴とする請求項2記載の開閉体装置の防火構造。
【請求項4】
前記不燃材の内側面に対して前記ベース板が室内側に離間して配置されることにより前記不燃材と前記ベース板との間に空間部が形成されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の開閉体装置の防火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉体装置の防火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上吊りの引戸や折戸などのドアは、開閉装置となる駆動機構部を備えることで、ドアを自動で開閉する所謂自動ドア装置を構成するが、この駆動機構部は建物開口部の上縁に沿って設けられ、ドアの上端に連結され構成される(例えば特許文献1参照)。ドアは、種々の素材で構成されるが、店舗の出入口となるドアではガラスで構成されていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-11561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防火区画に自動ドア装置を設置する場合、自動ドア装置は防火設備とされなければならない。しかしながら、自動ドア装置は、上述したように、殆どの構造においてドアにガラスが構成される。ガラスにて構成されたドアを具備した開閉体構造となると、国交省が認めた防火設備としての仕様から外れてしまうため、そのような構成(構造)は、個別に認定を取得しなければならない。より具体的には、例えば1時間、自動ドア装置を炎に晒して加熱面から非加熱面に対して炎が出てはならない。
【0005】
ところが、自動ドア装置では、駆動機構部の構成に、多くの樹脂材料が使われており、このような樹脂材料は、引火温度まで熱せられると可燃性のガスが発生してしまう。この場合、その可燃性のガスに引火することにより、駆動機構部の構成される部分を介し、非加熱面より炎が出てしまう場合がある。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、ガラスを備えた自動ドア装置などの構造において、炎に晒されても非加熱面側への炎の漏れを抑制でき、防火設備として設置可能な開閉体装置の防火構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の開閉体装置の防火構造は、建物の壁体15に開口する開口部11の上縁29に沿って設けられ、少なくとも室外側の外板部31が壁体室外面33より室外側へ突出するケース19と、
前記ケース19内における前記外板部31の外板部背面53に対向する外側面55から室内側の内側面57までが所定の厚みを有し、前記内側面57が前記壁体室外面33よりも室内側に位置する不燃材21と、
前記不燃材21を挟んで前記外板部31と反対側の前記ケース19内に、前記外板部31に沿って垂直に設けられるベース板23と、
前記不燃材21と反対側の前記ベース板23の室内側ベース面79に固定され、前記開口部11を開閉するドア27を開閉駆動するための駆動機構部25と、
を具備することを特徴とする。
【0008】
この開閉体装置の防火構造では、ケース19が、開口部11の上縁29に沿って、開口部11の開口間口に渡り延在して設けられる。ケース19は、少なくとも室外側の外板部31が、壁体室外面33より室外側へ突出する。ケース19内には、不燃材21が収容される。不燃材21は、ケース19内における外板部31の外板部背面53に対向する外側面55から室内側の内側面57までが、所定の厚みtを有する。
不燃材21の外側面55は、外板部背面53に当接する。外板部31は、上述のように壁体室外面33より室外側へ突出しているので、不燃材21の外側面55も壁体室外面33より室外側へ突出して配置される。一方、不燃材21の内側面57は、壁体室外面33よりも室内側に位置する。すなわち、不燃材21は、外板部背面53から壁体15の厚み内に位置する厚みを有する。これにより、不燃材21は、ケース19の突出長さに関わらず、壁体室外面33にかぶる位置で壁厚内に入り込んで配置されている。
この開閉体装置の防火構造では、室外側が火元となった場合、壁体室外面33よりも突出するケース19の外側面55が炎に晒されることになる。このとき、ケース19内に設けられている不燃材21は、壁体室外面33よりも室内側に入り込んでいるので、壁体15にかぶる範囲が、火炎に晒されずに済む。これにより、不燃材21の内側面57からケース19内へ伝わる火炎による熱を、不燃材21の内側面57が壁体室外面33よりも外側となる位置、或いは不燃材21の内側面57が壁体室外面33と同じ位置、例えばほぼ面一である構造に比べ、より効果的に抑制することができる。
このように、開閉体装置の防火構造では、ケース19内に収容する不燃材21を壁体15がかぶる(重なる)ように設けたので、火炎によりケース19内に伝わる熱を抑制でき、駆動機構部25に用いられている樹脂材料やケース19内のその他の樹脂材料が引火することを所定の時間抑制することができる。その結果、開閉体装置(自動ドア装置)13を、防火区画に設置することを実現可能とすることができる。
【0009】
本発明の請求項2記載の開閉体装置の防火構造は、請求項1記載の開閉体装置の防火構造であって、
前記不燃材21が、箱体59に収容され、前記外板部背面53に沿って前記ケース19内に配置されることを特徴とする。
【0010】
この開閉体装置の防火構造では、垂直な本体板61と、この本体板61の上下端から水平に平行となって突出する枠片63とにより断面コ字状に形成される箱体59に不燃材21が収容される。箱体59に収容される不燃材21は、外板部背面53に沿って、ケース19内に配置される。
鋼板よりなるケース19及び箱体59を外殻として、その収容空間に保持される不燃材21は、外部からの衝撃によっても位置ずれすることなく、所定位置に確実に保持される。これにより、高い断熱性能を維持し続けることができる。
また、不燃材21を箱体59に収容した状態とすることで、剛性を備えた部材とすることができ、可搬性やケース19への固定など取り扱いが容易となる。
【0011】
本発明の請求項3記載の開閉体装置の防火構造は、請求項2記載の開閉体装置の防火構造であって、
前記箱体59は、垂直な本体板61と該本体板61の上下端から水平に平行となり前記不燃材21の厚みと同等の長さで突出する枠片63とでコ字状に形成される一方の収容体60Aと、該一方の収容体60Aと同形状に形成され上下に枠片63を有する他方の収容体60Bとで構成され、前記一方の収容体60Aの上下枠片63のそれぞれ外側面に前記他方の収容体60Bの上下枠片63をそれぞれ重ねて前記一方の収容体60Aと前記他方の収容体60Bとで角筒状空間64を形成し、該角筒状空間64内に前記不燃材21が収容されることを特徴とする。
【0012】
この開閉体装置の防火構造では、それぞれコ字状に形成される一方の収容体60Aと他方の収容体60Bとで箱体59が構成され、この箱体59の角筒状空間64内に不燃材21が収容される。不燃材21は、本体板61に前後が挟まれ、上下を各枠片64にて覆われる。箱体59に収容される不燃材21は、外板部背面53に沿って、ケース19内に配置される。
不燃材21は箱体59に収容された状態となり、剛性を備えた部材とすることができ、可搬性やケース19への固定など取り扱いがより容易となる。
【0013】
本発明の請求項4記載の開閉体装置の防火構造は、請求項1~3のいずれか1つに記載の開閉体装置の防火構造であって、
前記不燃材21の内側面57に対して前記ベース板23が室内側に離間して配置されることにより前記不燃材21と前記ベース板23との間に空間部51が形成されることを特徴とする。
【0014】
この開閉体装置の防火構造では、不燃材21の内側面57と駆動機構部25の取り付けられているベース板23との間、或いは、不燃材21を収容した箱体59と駆動機構部25の取り付けられているベース板23との間に、空間部51が形成される。駆動機構部25は、ベース板23を挟んで空間部51の反対側、すなわち、室内側に配置される。
この開閉体装置の防火構造では、空間部51を介在させることにより、不燃材21から、或いは箱体59からの熱が直接、ベース板23へ熱伝導により伝わらなくなる。不燃材21とベース板23との間に空間部51を介在させた場合、不燃材21側からベース板23へは、熱伝達により熱が伝わる。熱伝達では、熱伝導と、熱対流と、熱輻射の3形式が混ざり合って熱が移動する。空間部51を介した熱伝達の場合、不燃材21とベース板23とが直接或いは間接的に金属部材等を伝わる熱伝導に比べ、熱の移動量を格段に小さくできる。すなわち空間部51が空気層となり断熱の効果を得られる。これにより、ベース板23に取り付けられる駆動機構部25の温度上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る請求項1記載の開閉体装置の防火構造によれば、火災等の際の炎に晒されることがあっても、駆動機構部側への熱の伝達が不燃材によって抑制され、駆動機構部を構成する樹脂材料に対し引火温度までの上昇を抑制して延焼を防ぐことが可能となる。これにより、防火区画における防火設備として、配置構成させることが可能となる。
【0016】
本発明に係る請求項2記載の開閉体装置の防火構造によれば、不燃材に剛性を持たせることが可能となり、取り扱いを容易なものとするとともに、この不燃材を所定位置に確実に保持でき、高い断熱性能を維持し続けることができる。
【0017】
本発明に係る請求項3記載の開閉体装置の防火構造によれば、不燃材の外側を箱体にて覆うことで剛性を持たせることが可能となり、運搬や保管など取り扱いをより容易なものとするとともに、この不燃材をケース内の所定位置に確実に保持でき、高い断熱性能を維持し続けることができる。
【0018】
本発明に係る請求項4記載の開閉体装置の防火構造によれば、空間部を介在させる構成としたことで、駆動機構部に用いられている樹脂材料を引火温度までより昇温しにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る開閉体装置の防火構造を備える開閉体装置の正面図である。
図2図1に示した開閉体装置の側断面図である。
図3図2の要部拡大図である。
図4図3の分解側断面図である。
図5】箱体の変形例を示す分解側斜視図を(a)にケース組込み時の斜視図を(b)に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る開閉体装置の防火構造を備える開閉体装置の正面図である。
本実施形態に係る開閉体装置の防火構造は、火災などによる屋外からの火炎を最小限に食い止めて屋内側への延焼を防止し、屋外からのもらい火を遮り、外部からの延焼を防止するための「防火設備」への適用を目的とするものである。すなわち、開閉体装置の防火構造は、延焼の防止を目的として外壁の延焼のおそれのある部分及び防火区画の開口部11に設けられる。さらに、開閉体装置の防火構造は、両面から火炎を遮断することができ、耐火建築物内の防火区画に設けられる「特定防火設備」としての適用も目的とする。本実施形態において、開閉体装置は、自動ドア装置13を一例として説明する。
なお、本発明において、「室外(屋外)」とは、延焼を防ぎたい「室内(屋内)」の外、すなわち火元側についてを室外または屋外と称し、火元側であるこの室外からの炎を、延焼を防ぎたい室内へ伝わらないようにするもので、建物の壁面開口部11に防火設備として設置される自動ドア装置13である。
【0021】
自動ドア装置13は、建物の壁体15に開口して防火区画となる開口部11に取り付けられる。開口部11には、左右の垂直な縁部に縦枠17が設けられる。この縦枠17は、壁体15の厚みより大きく、ケース19の厚みとほぼ同じ厚みとなる(図2参照)。
【0022】
本実施形態に係る開閉体装置の防火構造は、ケース19と、不燃材21と、ベース板23と、駆動機構部25と、ドア27とを主要な構成として有する。
【0023】
図2は、図1に示した開閉体装置の側断面図である。
ケース19は、開口部11の上縁29に沿って設けられる。ケース19は、少なくとも室外側の外板部31が壁体室外面33より室外側へ突出する。また、ケース19は、室内側の内板部35が壁体室内面37より室内側へ突出する。なお、本実施形態において、室内側へ突出する内板部35は、後述する点検蓋39となる。
【0024】
ケース19内には、駆動機構部25が設けられる。駆動機構部25は、左右一対など開口部11を閉塞するドア27を引戸としてスライドさせ開閉駆動する。ドア27は、金属製の戸枠41を除くほぼ全てがガラスにより形成される。ケース19の下面には、レール部43が開口部11の間口方向に渡って設けられる。それぞれのドア27は、上吊りされて床面から浮上し、上部の戸枠41を介してレール部43に沿って移動自在となる。上部の戸枠41には、駆動機構部25からの開閉動力を伝える連結杆45が接続される。
【0025】
ケース19は、天板部47が、開口部11における上縁29の下端面と接する。開口部11よりも上方の壁体内には、不図示の建物躯体につながる構造材(図示略)が位置する。ケース19は、アングル材や連結プレート49等の所定の強度を有する鋼材が建物躯体側の構造材に溶接等により固定されて開口部11の上縁29に沿って支持される。
【0026】
図3は、図2の要部拡大図である。
ケース19内には、不燃材21が収容される。不燃材21は、ケース19の長手方向(図1の左右方向)及び高さ方向いっぱいに端から端まで充填状態で配置される。本実施形態において、ケース19の長手方向の寸法は、開口部11の間口幅とほぼ等しく、例えば3300mm程度である。ケース19内において、駆動機構部25は、不燃材21と空間部51を隔てて配置されている。不燃材21は、不燃性、耐火性、断熱性等を有する所謂不燃材料であって、例えばロックウールを好適に用いることができる。また、この不燃材21としては、グラスウールやケイ酸カルシウム板、石膏ボードなどとしてもよく、さらには、これら素材を組み合わせたものとしてもよい。本実施形態でのロックウールは、厚み10~80mm、標準密度80~200kg/m3 のものを用いることができる。より好ましくは厚み35mm、標準密度150kg/m3 とすることができる。ロックウールは、矩形板状に成形したものが使用される。この不燃材21としては、例えばニチアス株式会社製のMG製品を用いることができる。MG製品では例えば製品名「MGボード」(登録商標)、熱伝導率0.043W/m・k以下を好適に用いることができる。
【0027】
不燃材21は、ケース19内における外板部31の外板部背面53に対向する外側面55から室内側の内側面57までが、所定の厚みt(図4参照)を有する。本実施形態では、所定の厚みtは、35mmとなる。不燃材21は、ケース19内において、内側面57が壁体室外面33よりも室内側に位置する。
【0028】
不燃材21は、ケース19の外板部背面53に対向して配置される断面コ字状の箱体59に収容されてケース19内の外板部背面53に沿って配置される。外板部背面53に対向して配置される箱体59は、垂直な本体板61と、この本体板61の上下端から水平に平行となって突出する枠片63とにより断面コ字状に形成される。不燃材21は、外板部背面53と本体板61とにより厚み方向が挟まれる。挟まれた不燃材21は、上下端面が枠片63により覆われる。つまり、不燃材21は、ケース19と箱体59とにより画成されるほぼ閉塞された収容空間に保持される。
【0029】
不燃材21を挟んで外板部31と反対側のケース19内には、外板部31に沿ってベース板23が垂直に設けられる。
【0030】
開閉体装置の防火構造は、箱体59に対してベース板23が室内側に離間して配置されることにより箱体59とベース板23との間に空間部51が形成される。
【0031】
ケース19の内部には、上縁29に沿って延在しケース19を建物躯体に支持する少なくとも一つの上部アングル材65が設けられる。本実施形態において、上部アングル材65は、室外側の上部アングル材65と、室内側の上部アングル材67との2本と、室外側の下部アングル材69の合計3本のアングル材が設けられる。
【0032】
それぞれのアングル材は、延在方向に直交する断面形状が水平片部71と垂直片部73とが直交するL形(山形)に形成される。3本のアングル材のうち、室外側の上部アングル材65は、水平片部71が室内側に向けて延出するとともに垂直片部73が垂下する。室内側の上部アングル材67は、水平片部71が室外側に向けて延出するとともに垂直片部73が垂下する。下部アングル材69は、水平片部71が室内側に向けて延出するとともに垂直片部73が起立する。
【0033】
ベース板23は、上端縁が室外側の上部アングル材65における水平片部71に固定され、下端縁が下部アングル材69の水平片部71に固定される。不燃材21を収容する箱体59は、上下の縁部が、上部アングル材65と下部アングル材69とに沿って配置される。室外側の上部アングル材65と、下部アングル材69とは、それぞれの垂直片部73が連結プレート49により溶接固定される。また、室外側の上部アングル材65と、室内側の上部アングル材67とは、それぞれの水平片部71が連結プレート49により溶接固定される。
【0034】
不燃材21を収容する箱体59は、ケース19内にて溶接固定される。この溶接固定は、箱体59の上縁における出隅部分と、ケース19の天板部47の下面とで形成される内隅部に、ケース19の長手方向に沿って例えば200mmピッチで点状に溶接されて、溶接固定部77とされる。この溶接固定部77は、壁体室外面33よりも室内側となる壁厚内に配置される。なお、図3においては、溶接固定部77が膨出形状とされ図示されているが、上部アングル材65の出隅部75(図4参照)と箱体59の上縁の隅部分とは近接し、配置される。ここで、上部アングル材65には、上記所定ピッチ(200mm)毎に上部アングル材65の角部分を貫通する切欠穴(図示せず)が設けられ、その切欠穴の箇所にて溶接を行って溶接固定部77とし、上部アングル材65との干渉を防いでいる。なお、この切欠穴の形状は、溶接方法に応じて選択され、点溶接であれば角穴形状の切欠穴とし、線溶接(連続溶接)であれば上部アングル材65の角部分に沿うスリット状の長い切欠穴とされる。
【0035】
ドア27を開閉駆動するための駆動機構部25は、不燃材21と反対側のベース板23の室内側ベース面79に固定される。ベース板23の室内側ベース面79には、開口部11の間口に渡って延在するレール部43が固定される。このレール部43には、移動体がローラ81を介して支持される。移動体は、ローラ81がレール部43を転動することにより、レール部43に沿って往復移動自在となる。移動体には、レール部43を跨いで垂下する支持部材83が固定される。支持部材83は、連結杆45を介してドア27の上部に接続され、これによりドア27が吊り下げ状態となる。
【0036】
ベース板23の室内側ベース面79には、移動体の上側となる位置に、モータ85が固定される。モータ85は、出力軸が室内側ベース面79に垂直方向に突出する。モータ85の出力軸にはプーリ87が固定される。プーリ87には、移動体に固定される牽引ベルトが張架される。駆動機構部25は、モータ85が正逆回転されることにより、牽引ベルトを介して移動体がレール部43に沿って移動され、移動体に接続され吊下されたドア27が、開口部11を水平方向にスライド移動し、開閉となる。
【0037】
本実施形態に係る自動ドア装置13における駆動機構部25は、種々の素材が用いられるが、樹脂部品が多く使用されている。駆動機構部25に使用され得る樹脂材料としては、ポリスチレン、ポリウレタンやポリウレタンフォーム、ポリエチレン、エチルセルロース、ナイロン、スチレン・アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン・メチルメタアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。
【0038】
室内側の上部アングル材67における垂直片部73には、蝶番89を介して点検蓋39の上端が回転自在に連結される。点検蓋39は、蝶番89を中心に、図3の反時計回りに回転することにより、ケース19内を開放し、駆動機構部25へのアクセスを可能とする。なお、点検蓋39は、着脱自在に上部アングル材67に支持されてもよい。
【0039】
図4は、図3の分解側断面図である。
自動ドア装置13は、組立方法の一例として、連結プレート49により一体に固定された上部アングル材65、上部アングル材67および下部アングル材69に、駆動機構部25の取り付けられたベース板23を固定することにより、駆動ユニットとして予め組み立てることができる。
【0040】
また、不燃材21を箱体59に収容した状態として、この箱体59をケース19内に収容し固定する。不燃材21が箱体59によって板状となることで容易に組み込み可能となる。ケース19内では、不燃材21が外板部31と箱体59の本体板61とに挟まれるとともに、上下の枠片63とで囲まれ、この不燃材21は、ケース19の外板部31に沿って配置される。
これにより、取り扱いにくい不燃材21を、ケース19内の所定位置に高精度に、しかも極めて容易にセットすることができる。
【0041】
そして、上記駆動ユニットを覆うように、不燃材21及び箱体59が組み込まれたケース19を被せ、ケース19を外殻となるよう固定する。
【0042】
このようにして組み立てられた自動ドア装置13は、壁体15や開口部11に対して位置だしがなされた後、壁体内に設けられる構造材に溶接により固定される。
その後、移動体にはドア27が吊下状態で連結される。
【0043】
次に、上記した構成の作用を説明する。
【0044】
本実施形態に係る開閉体装置の防火構造では、壁体15に設けられた開口部11が、ドア27により開閉される。ドア27は、駆動機構部25により開閉駆動される。駆動機構部25は、ケース19の内方に配置される。ケース19は、開口部11の上縁29に沿って、開口部11の開口間口に渡り延在して設けられる。ケース19は、延在方向に直交する断面において、天板部47が、開口部11における上縁29の下端面と接する。
【0045】
ケース19は、室外側の外板部31が、壁体室外面33より室外側へ突出する。また、ケース19は、室内側の内板部35が、壁体室内面37より室内側へ突出する。つまり、ケース19は、天板部47が、壁体15の厚みより大きく、その室外側に突出した端から外板部31が垂下し、室内側に突出した端から内板部35が垂下する。なお、外板部31は、折り曲げ加工により天板部47と一体に形成されるが、内板部35は、天板部47に対して着脱自在若しくは蝶番89を介して開閉自在に取り付けられてもよい。
【0046】
ケース19内には、不燃材21が収容される。不燃材21は、成形されたロックウール等を用いることにより、垂直な板状となる。不燃材21は、ケース19内における外板部31の外板部背面53に対向する外側面55から室内側の内側面57までが、所定の厚みtを有する。
【0047】
不燃材21の外側面55は、外板部背面53に当接する。外板部31は、上述のように壁体室外面33より室外側へ突出しているので、不燃材21の外側面55も壁体室外面33より室外側へ突出して配置される。一方、不燃材21の内側面57は、壁体室外面33よりも室内側に位置する。すなわち、不燃材21は、外板部背面53から壁体15の厚み内に位置する厚みtを有する。これにより、不燃材21は、ケース19の突出長さに関わらず、壁体室外面33にかぶる位置で壁厚内に入り込んで配置される。
【0048】
この開閉体装置の防火構造では、室外側が火元となった場合、壁体室外面33よりも突出するケース19の外側面55が炎に晒されることになる。このとき、ケース19内に設けられている不燃材21は、壁体室外面33よりも室内側に入り込んでいるので、壁体15にかぶる範囲が、火炎に晒されずに済む。これにより、不燃材21の内側面57からケース19内へ伝わる火炎による熱を、不燃材21の内側面57が壁体室外面33と同じ位置(例えばほぼ面一)である構造に比べ、より効果的に抑制することができる。
【0049】
このように、開閉体装置の防火構造では、ケース19内に収容する不燃材21を壁体15の壁体室外面33がかぶる(重なる)ように設けたので、火炎によりケース19内に伝わる熱を抑制でき、駆動機構部25に用いられている樹脂材料が引火することを所定の時間抑制することができる。その結果、自動ドア装置13を、防火区画に取り付けることを実現可能とすることができる。
【0050】
また、この開閉体装置の防火構造では、不燃材21が、外板部背面53と本体板61とにより厚みt方向で挟まれる。挟まれた不燃材21は、上下端面が枠片63により覆われる。つまり、不燃材21は、ケース19と箱体59とにより画成されるほぼ閉塞された収容空間に保持される。
【0051】
鋼板よりなるケース19及び箱体59を外殻として、その収容空間に保持される不燃材21は、外部からの衝撃によっても位置ずれすることなく、所定位置に確実に保持可能となる。これにより、隙間が生じにくくなり、高い断熱性能を維持し続けることができる。
【0052】
外板部31は、ケース19の一部分として折り曲げ加工される。ケース19は、外板部31が垂直となって配置されると、天板部47と底板部91(図4参照)とが室内側へ向かって水平方向に延出し、室内側が開放する断面逆コ字状となる。一方、箱体59は、本体板61が垂直となる配置で、上下の枠片63が室外側へ突出し、室外側が開放する断面コ字状となる。つまり、ケース19は、外板部31を含む折り曲げ部分においては、箱体59の枠片63を外側から包囲してかぶさることになる。このため、不燃材21を収容した箱体59は、開口側が、外板部31を含む折り曲げ部分により確実に覆われるので、室外側からの水の浸入を防ぐことができる。これにより、経時的に雨水が不燃材21に浸透し、不燃材21の変形、例えば含水による重量増大で不燃材21が低背化して空隙が生じる等による断熱性能の低下を抑制できる。なお、空隙が生じた場合には、輻射や対流が生じ、不燃材充填構造よりも断熱性能は低下すると考えられる。
【0053】
さらに、この開閉体装置の防火構造では、不燃材21の組み付け時、箱体59を上向きに開口させ、上方より不燃材21を箱体59に入れた後、上方よりケース19をかぶせる手順で組付けを行うことができる。これにより、不燃材21の取り扱いを容易にし、不燃材21をケース19内に組み付けやすくすることができる。その結果、不燃材21を所定位置に確実に保持でき、高い断熱性能を維持し続けることができる。
なお、箱体59は、上記した本体板61と上下の枠片63とでコ字状に形成される構成を、向かい合わせで配置し、上下の枠片63同士を連結し、対向する両本体板61の間に不燃材21を収容させる構成としてもよく、例えば図5(a)に示すように、箱体59の構造を、垂直な本体板61と、この本体板61の上下端から水平に平行となり不燃材21の厚みtと同等の長さで突出する枠片63とでコ字状に形成される一方の収容体60Aと、この一方の収容体60Aと同形状に形成され上下に枠片63を有する他方の収容体60Bとで構成して、一方の収容体60Aの上下枠片63のそれぞれ外側面に他方の収容体60Bの上下枠片63をそれぞれ重ねるように向かいあわせ、不燃材21を挟み、一方の収容体60Aと他方の収容体60Bとで角筒状空間64を形成して、この角筒状空間64内に不燃材21を収容させる構成としてもよい。このような構成とすることで、不燃材21は、本体板61に前後が挟まれ、上下を各枠片64にて覆われる。箱体59に収容された不燃材21は、図5(b)に示すように、外板部背面53に沿って、ケース19内に配置される。この構成であれば、不燃材21を四方から覆う矩形管状の箱体59を構成でき、剛性をさらに向上させ、可搬性やケース19への組込みなど取り扱いをより容易なものとすることが可能となる。
【0054】
この開閉体装置の防火構造では、不燃材21を収容した箱体59と、駆動機構部25の取り付けられているベース板23との間に、空間部51が形成される。駆動機構部25は、ベース板23を挟んで空間部51の反対側、すなわち、室内側に配置される。
【0055】
この開閉体装置の防火構造では、空間部51を介在させることにより、箱体59側からの熱が直接、ベース板23へ熱伝導により伝わらなくなる。箱体59とベース板23との間に空間部51を介在させた場合、箱体59からベース板23へは、熱伝達(heat transfer)により熱が伝わる。熱伝達では、熱伝導(heat conduction)と、熱対流(heat convection)と、熱輻射(heat radiation)の3形式が混ざり合って熱が移動する。空間部51を介した熱伝達の場合、箱体59とベース板23とが直接的に接続されて伝わる熱伝導に比べ、熱の移動量を格段に小さくできる。すなわち、空間部51が空気層となり断熱層となる。これにより、ベース板23に取り付けられる駆動機構部25の温度上昇を抑制することができる。その結果、駆動機構部25に用いられている樹脂材料を引火温度まで昇温しにくくできる。
【0056】
また、この開閉体装置の防火構造では、ケース19内に、開口部11の上縁29に沿って延在する少なくとも一つのL形の上部アングル材65(山形鋼材)が設けられる。この上部アングル材65は、ケース19を建物躯体に支持する構造材の一つとなる。上部アングル材65は、水平片部71が室内側に向けて延出するとともに垂直片部73が垂下する。従って、上部アングル材65の出隅部75は、水平片部71の室外側かつ垂直片部73の上端側に位置する。
【0057】
この上部アングル材65の水平片部71には、垂直なベース板23の少なくとも上端縁が固定される。上部アングル材65の出隅部75は、不燃材21を収容する箱体59と近接配置される。そして、この箱体59と出隅部75との固定部分は、壁体室外面33よりも室内側となる壁厚内に配置されることになる。
【0058】
この開閉体装置の防火構造では、箱体59とケース19との溶接固定部77が、壁体室外面33よりも室外側に入り込んでおり、上部アングル材65がこの位置となるので、外からの熱が直接的に上部アングル材65に伝わりにくくなる。これにより、ケース19内の構造材である上部アングル材65が壁体室外面33と同じ位置(例えばほぼ面一)である構造に比べ、より効果的にケース19内への熱の移動を抑制することができる。その結果、上部アングル材65を介して固定されるベース板23への熱の移動が抑制され、駆動機構部25に用いられている樹脂材料を引火温度まで昇温しにくくできる。
【0059】
従って、本実施形態に係る開閉体装置の防火構造によれば、所定時間、自動ドア装置13が炎に晒されても駆動機構部25の樹脂材料が引火温度まで上昇することを抑制できる。
【0060】
[遮炎性能試験]
従来構造と実施形態に係る構造に対して行った遮炎性能試験について説明する。
1.試験体取り付け
ケースの外板部を加熱面側として試験体を壁炉前面に設置した。
2.加熱方法・試験時間
加熱温度がISOに規定されている標準加熱温度曲線となるよう、特定防火設備の試験時間である60分間の加熱を行った。
すなわち、壁炉前面に設置した試験体を炉内から1時間燃やし続けて最終的に945℃とした。
3.判定方法
加熱時間中、以下の基準を満足するか否かを確認した。
(1)非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がないこと。
(2)非加熱側へ10秒を超えて継続する発炎がないこと。
(3)火炎が通る亀裂等の損傷および隙間を生じないこと。
【0061】
[実施形態に係る構造]
図2に示す構造とした。すなわち、不燃材21をケース19と箱体59とで収容し、空間部51を隔てて垂直に配置したベース板23に駆動機構部25を設けた。不燃材21は、壁体室外面33にかぶる位置で壁厚内に入り込んで配置した。
【0062】
[従来構造]
図2に示す構造において、駆動機構部を設けたベース板を壁体室外面とほぼ同じ位置で垂直に配置し、外板部とベース板との間は、不燃材を充填せずに空間部のままとした。
【0063】
[従来構造の試験結果]
ケース内の駆動機構部が火元となり、ケースとドアの隙間から火の漏れることが確認された。
【0064】
[実施形態に係る構造の試験結果]
従来構造と同じ1時間燃やした試験においても非加熱側に火炎の噴出、発炎が確認されなかった。
【0065】
[考察]
従来構造では、外板部とベース板との間に不燃材が充填されず、かつベース板の位置が壁体室外面とほぼ同じであったため、空間部における熱伝達により、室内側ベース面が、駆動機構部を構成する樹脂、例えばポリスチレンの引火温度370℃以上となったことが予想される。その結果、可燃性のガスが発生し、主にポリスチレン等の樹脂材料が発火したものと推測される。
【0066】
一方、本実施形態に係る構造では、不燃材21をケース19と箱体59とで収容し、空間部51を隔ててベース板23を配置し、かつ不燃材21は、壁体室外面33にかぶる位置で壁厚内に入り込んで配置したため、いわゆる「かぶり」の効果が得られ、防火の効果が出たものと思われる。
なお、本実施形態に係る構造において、熱抵抗に基づく加熱面の裏面温度を計算した結果、空間部51を設けない場合であっても、加熱面の温度945℃、ロックウールの厚み35mm、密度150kg/m3 、熱伝導率を0.33W/m・kとしたとき、ベース板の裏面温度は、327.8℃となり、ポリスチレンの引火温度370℃以下となる。
【符号の説明】
【0067】
11…開口部
13…開閉体装置(自動ドア装置)
15…壁体
19…ケース
21…不燃材
23…ベース板
25…駆動機構部
27…ドア
29…上縁
31…外板部
33…壁体室外面
51…空間部
53…外板部背面
55…外側面
57…内側面
59…箱体
図1
図2
図3
図4
図5