(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】分析目的のための多価単一または二重特異性組換え抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240208BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240208BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
G01N33/531 A
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2020516476
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2018075464
(87)【国際公開番号】W WO2019057816
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-05-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-29
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】クバレック,パベル
(72)【発明者】
【氏名】エールシュレーゲル,トビアス
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/060144(WO,A1)
【文献】特表2014-533249(JP,A)
【文献】国際公開第2016/110468(WO,A1)
【文献】Trends in Pharmacological Sciences,2012年,Vol.33, No.9,p.474-481
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料における抗原検出のためのアッセイにおける、キメラ多価組換え抗体の使用であって、該抗体が、
単一特異性であり、かつp個の軽鎖ポリペプチドFab
L、および2つの重鎖ポリペプチドの二量体を含み、ここで、各重鎖ポリペプチドが式I
N末端 [Fab
H-L-]
nFab
H-L-dd(Fc
H)[-L-Fab
H]
m C末端 (式I)
の構造を有し、
ここで
(a)pは6であり、
pの値は(2+2
*(n+m))に等しく、そして
mおよびnは各々、1の整数であり;
(b)“-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;
(c)各Lは随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列であり;
(d)各dd(Fc
H)は、非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖の重鎖二量体化領域であり;
(e)二量体において、2つのdd(Fc
H)は、物理的に近接して互いに整列され;
(f)各Fab
Hは、A
HおよびB
Hより独立に選択され、ここでA
HおよびB
Hは異なり、そしてA
HおよびB
Hは
N末端 [VH-CH1]
H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]
H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]
H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]
H C末端 (式V)
式中、
VHは免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、
VLは免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、
CH1は免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そして
CLは免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである
からなる群より独立に選択され;
(g)各Fab
Lは、A
LおよびB
Lより独立に選択され、ここでA
LおよびB
Lは異なり、そしてA
LおよびB
Lは
N末端 [VH-CH1]
L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]
L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]
L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]
L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択され;
(h)抗体の各抗原結合部位Fab
H:Fab
Lは、整列した対であり、整列は「:」によって示され、ここで整列した対は各々、A
H:A
LおよびB
H:B
Lからなる群より独立に選択され、ここでA
H:A
LおよびB
H:B
Lは
[VL-CH1]
H:[VH-CL]
L、
[VL-CL]
H:[VH-CH1]
L、
[VH-CH1]
H:[VL-CL]
L、および
[VH-CL]
H:[VL-CH1]
L
からなる群より独立に選択され、そして整列した対各々において、それぞれのCLおよびCH1はジスルフィド結合を通じて共有連結されている
前記使用。
【請求項2】
A
H:A
Lの抗原結合部位が、抗原結合部位B
H:B
Lと同じエピトープに結合可能である、請求項
1記載の使用。
【請求項3】
抗原結合部位が同一であるかまたは異なる、請求項
2記載の使用。
【請求項4】
抗原結合部位が、単一の分子中または異なる分子中に含まれるエピトープに特異的に結合可能である、請求項
3記載の使用。
【請求項5】
アッセイがサンドイッチアッセイである、請求項1~
4のいずれか記載の使用。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかで定義されたキメラ多価組換え抗体を含む、生物学的試料における抗原を検出するための部分のキット。
【請求項7】
検出可能標識をさらに含む、請求項
6記載のキット。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれかで定義されたキメラ多価組換え抗体を抗原と接触させ、それによって抗原およびキメラ多価組換え抗体の複合体が形成され、その後、形成された複合体を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む、生物学的試料における抗原を検出するための方法。
【請求項9】
(a)請求項1~
4のいずれかで定義されたキメラ多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、
(b)工程(a)の試料およびキメラ多価組換え抗体をインキュベーションし
、インキュベーション中にキメラ多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能である
抗原が存在するならば、抗原およびキメラ多価組換え抗体の複合体が形成され、
(c)工程(b)で形成された複合体を検出し、
それによって抗原を検出する工程
を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
(a)請求項1~
4のいずれかで定義されたキメラ多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、
(b)工程(a)の試料およびキメラ多価組換え抗体をインキュベーションし
、インキュベーション中にキメラ多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能である
抗原が存在するならば、抗原およびキメラ多価組換え抗体の複合体が形成され、
(c)工程(b)で形成された複合体を固定し、そして
(d)固定された複合体を検出し、
それによって抗原を検出する工程
を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項11】
(a)請求項1~
4のいずれかで定義された
キメラ多価組換え抗体を検出可能標識で標識した標識キメラ多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、
(b)工程(a)の試料および標識キメラ多価組換え抗体をインキュベーションし
、インキュベーション中に標識キメラ多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能である
抗原が存在するならば、抗原および標識キメラ多価組換え抗体の複合体が形成され、
(c)工程(b)で形成された複合体を固定し、そして
(d)固定された標識を検出し、
それによって抗原を検出する工程
を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項12】
(a)請求項1~
4のいずれかで定義された
キメラ多価組換え抗体を検出可能標識で標識した標識キメラ多価組換え抗体を、その表面上に抗原を含有すると推測される固相に添加し、
(b)工程(a)の固相および標識キメラ多価組換え抗体をインキュベーションし
、インキュベーション中に標識キメラ多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能である
抗原が存在するならば、抗原および標識キメラ多価組換え抗体の複合体が形成され、その後、
(c)固相を洗浄し、それによって複合体化していない標識キメラ多価組換え抗体を取り除き、その後、
(d)固相上の標識を検出し、
それによって抗原を検出する工程
を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項13】
固相が抗原を捕捉可能であり、そして工程(a)の前に、抗原を含有すると推測される液体試料と固相を接触させる工程を実行し
、固相によって捕捉されるようにアクセス可能である
抗原が存在するならば、抗原が固相によって捕捉される、請求項
12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イムノアッセイにおいて特に有用である新規分析物特異的多価組換え抗体に関する。特に、六価、八価および十価抗体、その構築、産生、特徴づけおよびターゲット抗原検出アッセイにおける使用を開示する。
【発明の概要】
【0002】
イムノアッセイは、典型的には特異的検出剤として抗体を使用する、溶液中の巨大分子または小分子の存在または濃度を測定する生化学試験である。イムノアッセイにおいて検出される分子は、「分析物」または「ターゲット分析物」と称され、そして多くの場合、タンパク質であるが、アッセイにおいて用いられる単数または複数の抗体が分析物の特異的検出を容易にすることが可能である限り、異なるサイズおよびタイプの他の種類の分子であってもよい。臨床診断法において、イムノアッセイは、しばしば、血清、血漿または尿などの生物学的液体において、分析物を検出する。より一般的には、本開示の目的のために理解されるように、試料が液体試料であるかまたは液体試料になるようにプロセシングされうる限り、そして検出しようとする分析物が、試料の液相の一部である水溶液中に溶解された物質として存在する限り、イムノアッセイは、定性的にまたは定量的に、任意の種類の試料において分析物を検出する。
【0003】
当該技術分野に知られるイムノアッセイは、多くの異なる形式および変形で提供される。イムノアッセイは、多数の工程で実行可能であり、アッセイの異なる時点で試薬が添加され、そして洗い流されるかまたは分離される。多工程アッセイは、しばしば、分離イムノアッセイまたは不均一イムノアッセイと称される。いくつかのイムノアッセイは、単純に、試薬および試料を混合し、そして物理的測定を行うことによって実行されうる。こうしたアッセイは、均一イムノアッセイ、またはそれより頻度は落ちるが非分離イムノアッセイと称される。
【0004】
イムノアッセイは、試料において、他の分子の複雑な混合物の中で、分析物が非常に少量のものとして存在する場合であっても、分析物を認識し、そして特異的に該分析物に結合する抗体の能力に依存する。抗体によって認識される特定の分子構造は、「抗原」と称され、そして抗体が結合する抗原上の特定の領域は、「エピトープ」と称される。
【0005】
抗体の分析物への特異的結合に加えて、すべてのイムノアッセイの別の重要な特徴は、結合に反応して、測定可能なシグナルを生じる手段である。しばしば、抗体は検出可能標識とカップリングする。多数の標識が現代のイムノアッセイには存在し、そしてこれらは異なる手段を通じて検出を可能にする。多くの標識は、放射線を放出するか、溶液において色変化を生じるか、光をあてると蛍光を発するか、または光を放出するように誘導されうるため、検出可能である。
【0006】
抗体を用いた不均一イムノアッセイの典型的な態様は、いわゆる「サンドイッチ」形式を含み、ここで、分析物の2つ(第一および第二)の別個の非重複抗原が、それぞれ、第一および第二の抗体によって結合される。すなわち、第一および第二の抗原への結合によって、第一および第二の抗体は、分析物とサンドイッチを形成する。第一の抗体は、検出可能標識とカップリングし;第二の抗体は、固定されるかまたは固定されることが可能であり、それによって試薬の添加および除去、ならびに洗浄工程を可能にする。不均一サンドイッチイムノアッセイは、(a)分析物を含有する試料と第一および第二の抗体を接触させ、ここで続いて、分析物は第一および第二の抗体と結合するようになり(これらの抗体でサンドイッチされ)、ここで第二の抗体は固定されるかまたは固定されるようになり、その後、(b)サンドイッチの一部である固定された標識の量を検出する、一般的な工程を含む。検出された標識の量は、サンドイッチされた分析物の量に対応し、そしてしたがって、試料中の分析物の量に対応する。
【0007】
イムノアッセイのため、生の材料を調製する技術分野において、抗体オリゴマーまたはポリマーが当該技術分野に知られ;これらはしばしば、抗体の抗原結合特性を増進させるために用いられる。EP0955546A1は、色素で標識されている、化学的に重合された抗体コンジュゲートを報告する。抗体重合産物は、より多数の機能的抗原結合部位によって特徴づけられ、すなわちこれらは「多価」結合剤である。イムノアッセイにおいて用いられる際、多価結合剤は、抗原結合感受性の改善を生じると報告されている。検出可能標識に結合された重合抗体は、診断目的のための抗原-結合反応における使用に関して記載されている。
【0008】
EP175560A2は、検出可能標識として酵素を用い、あらかじめ重合された酵素を、抗体またはその断片、例えばFab、Fab’またはF(ab’)2断片に共有カップリングさせることによって、ポリマー性酵素/抗体コンジュゲートを作製するためのプロセスを報告する。該文書は、(a)コンジュゲートと分析物の複合体を形成し、(b)複合体を分離し、(c)複合体における酵素活性を検出し、そして(d)検出された酵素活性を、試料中の分析物の量に関連させる工程を含む、液体試料中の分析物の決定のためのイムノアッセイをさらに開示する。該文書はさらに、一方で、抗体またはその断片の化学量論に関して、コンジュゲートの産生の最適化に言及し、そして他方であらかじめ重合された酵素に言及する。化学量論は、開示するようなイムノアッセイにおいて、検出感度およびバックグラウンド活性に影響を有すると報告されている。
【0009】
US20030143638A1は、抗原-抗体反応の反応性を調節するための方法を報告する。この方法は、(a)異なる度合いの重合を有する複数の抗体ポリマーを得て;(b)複数の抗体ポリマーをキャリアーに結合させ、それによって抗体/キャリアー複合体セットを得て;そして(c)望ましい反応度で抗原と反応する抗体/キャリアー複合体を、抗体/キャリアー複合体セットから選択する工程を含む。
【0010】
ターゲット抗原に結合する抗体の各アームは、抗原結合(=Fab)断片と称される。Fabは「抗原結合断片(fragment antigen-binding)」を示し;これは、重鎖(FabH)および軽鎖(FabL)の各々の1つの定常および1つの可変ドメインで構成される、抗原に結合する抗体上の領域である。したがって、Fab断片は、2つの整列ポリペプチド、重鎖の第一の断片(FabH)、および重鎖と整列し、そしてジスルフィド架橋を介して連結されている非断片化軽鎖(FabL)を含む。抗体のテール領域は、通常、結晶化可能断片(fragment crystalizable)(=Fc)領域と称され、そしてIgG、IgAおよびIgD抗体アイソタイプにおいては、同一であり、そして互いに整列されており、そして1つまたはそれより多いジスルフィド架橋で連結されている、重鎖の2つのさらなる断片(各々が、FcHと称される)を含む。IgG、IgAまたはIgDアイソタイプの免疫グロブリンのタンパク質分解的プロセシングを用いて、抗体を人工的に切断して、FcおよびFab断片を生成することも可能であり、これらを分離し、そして単離することも可能である。酵素パパインを用いて、単一の免疫グロブリンを2つのFab断片および1つのFc断片に切断することも可能である。酵素ペプシンは、ヒンジ領域の下で切断し、それによって、F(ab’)2断片およびpFc’断片を生じる。同様に、酵素IdeSは、IgGのヒンジ領域で特異的に切断する。
【0011】
ターゲット分析物を含む試料が、全血、血清または血漿である場合、Fc部分を含まない抗原結合抗体断片(例えばペプシンまたはパパインでのタンパク質分解的プロセシング後、単離型で得られる)が特に好ましい。こうした試料中に含有される構成要素が、慣用的な抗体のFc部分に非特異的に結合可能であることが知られる。Fc部分と試料構成要素の非特異的相互作用は、イムノアッセイのバックグラウンドシグナルを増加させうる。増加したバックグラウンドシグナルは、シグナル対ノイズ比が減少するため、アッセイ性能に負の影響を有する。
【0012】
先行技術の特定の態様は、Fc部分の除去後、抗原結合抗体断片を化学的に架橋し、それによって断片のポリマーを形成する工程を伴う。こうした重合抗原結合抗体断片は、現在、ターゲット抗原に対する高い感受性および低いバックグラウンドシグナルを必要とする、多くのイムノアッセイにおいて好ましい。架橋工程は、増進した結合特性を持つ、多価分析物特異的結合剤を生成する意図で実行される。多くの商業的に入手可能なイムノアッセイに関して、Fc部分を含まず、そして標識に結合した抗体由来多価分析物特異的結合剤が、当該技術分野に知られる好ましい検出剤である。特定の場合、化学的に架橋された(すなわち重合された)抗体断片は、イムノアッセイのシグナル対ノイズ比が、この手段によって改善されうる点で、なおFc部分を含むその天然存在型の抗体よりも好適である。
【0013】
天然存在非断片化抗体は、ジスルフィド結合によってともに連結された2つの重鎖、および2つの軽鎖を含む。単一の軽鎖は各々、ジスルフィド結合によって重鎖の1つに連結される。免疫グロブリン重鎖内の各FabH部分は、N末端に可変ドメイン(VH)、その後、いくつかの定常ドメイン(抗体クラスに応じて、3つまたは4つの定常ドメイン、CH1、CH2、CH3およびCH4)を有する。各FabL軽鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)および他方の端(C末端)に定常ドメイン(CL)を有する;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)と整列され、そして軽鎖可変ドメイン(VL)は、重鎖の可変ドメイン(VH)と整列される。特定のアミノ酸残基は、物理化学的相互作用によって整列を仲介する、軽鎖および重鎖ドメインの間の界面を形成すると考えられる。
【0014】
定常ドメインは、そのターゲット抗原への抗体の結合に直接は関与しないが、in vivoの多様なエフェクター機能に関与する。軽鎖および重鎖の各対の可変ドメインは、エピトープへの抗体の結合に直接関与する。天然存在軽鎖(VL)および重鎖(VH)の可変ドメインは、同じ一般構造を有し;各々は、4つのフレームワーク領域(FR)を含み、その配列はいくぶん保存されており、3つの相補性決定領域(CDR)によって連結される。各鎖中のCDRは、FRによって近接して保持され;エピトープ結合部位は抗体のそれぞれのFab部分で整列された軽鎖および重鎖の組み合わせたCDRによって形成される。
【0015】
多様な組換え多重特異性抗体形式、例えばIgG抗体形式および一本鎖ドメインの融合による、例えば四価二重特異性抗体が最近開発されている(例えば、Coloma, M.J.ら, Nature Biotech. 15(1997) 159-163; WO 2001/077342;およびMorrison, S.L., Nature Biotech. 25(2007) 1233-1234)。また、抗体コア構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)がもはや保持されていない、いくつかの他の新規形式も開発されており;例えばディアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、ミニボディおよびいくつかの一本鎖形式(scFv、ビス-scFv)がある。これらのいくつかは、2つまたはそれより多い抗原に結合可能である(Holliger, P.ら, Nature Biotech. 23(2005) 1126-1136; Fischer, N.およびLeger, O., Pathobiology 74(2007) 3-14; Shen, J.ら, J. Immunol. Methods 318(2007) 65-74; Wu, C.ら, Nature Biotech. 25(2007) 1290-1297)。こうした形式は、抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)をさらなる結合タンパク質(例えばscFv)に融合させるか、あるいは例えば2つの断片またはscFvを融合させるか、いずれかのために、リンカーを用いる(Fischer, N.およびLeger, O., Pathobiology 74(2007) 3-14)。
【0016】
WO 2001/077342は、異なる操作抗体を開示する。4つの抗原結合部位を含む、IgGクラスの特定の操作抗体が開示される。特に、各重鎖のN末端CH1-VH部分は、さらなるCH1-VH部分で伸長される。したがって、完全に組み立てられた抗体において、各重鎖のN末端部分は整列され、そして1つではなく2つの対応する軽鎖と連結される。こうした四価抗体の各アームは、したがって、第一および第二の抗原結合部位を含み、2つの部位はタンデムに配置される。該文書は、こうした操作抗体は、診断アッセイにおいて、例えば特定の細胞、組織または血清において、関心対象の抗原を検出する際に有用でありうると言及する。
【0017】
操作抗体のトピックに関するさらなる概説は、Chiu M.L. & Gillilang G.L. Curr Opin Struct Biol 38(2016) 163-173およびTiller K.L. & Tessier P.M. Annu Rev Biomed Eng 17(2015) 191-216に提供された。いくつかの異なる多価抗体構築が、Deyev S.M. & Lebedenko E.N.(BioEssays 30(2008) 904-918)によって論じられた。
【0018】
六価操作抗体が、Blanco-Toribio A.ら(mAbs 5(2013) 70-79)に開示されている。二重特異性十価抗体が、Stone E.ら(J Immunol Methods 318(2007) 88-94)によって報告された。上記は、当該技術分野における、減少したバックグラウンドシグナルを有するイムノアッセイの原材料としての修飾免疫グロブリンを提供したいという願望を例示する。さらに、検出しようとするターゲット分析物に関するアッセイの高い感度を可能にする免疫グロブリンが望ましい。
【0019】
全抗体または抗体断片を化学的に連結するかまたは架橋する(重合させる)ことによる多価抗原結合巨大分子の生成は、これらの技術的目的に取り組むため、すでに実施されているアプローチである。しかし、化学的連結の形成は、いくつかの側面において、化学量論的プロセスである。まず、化学的架橋は部位特異的ではない(または限定された度合いでしか部位特異的でない)。すなわち、原則として、架橋反応において反応しうる、いくつかのアクセス可能なアミノ酸側鎖が、ポリペプチド中に常にある。そして考慮しようとする各側鎖に関して、反応に関与するかどうかの可能性は異なる。化学反応は、定量的または非定量的でありうる。さらに、原則として、抗体または抗体断片上の化学反応は、単一の産物を導かず、ある範囲の異なる産物を生じる。第一および第二のポリペプチドのどの特定のアミノ酸側鎖が架橋されるかについては、予測は不可能でありうると暗示される。
【0020】
また、典型的には、連結されて多価抗原結合巨大分子を形成するポリペプチドの平均の数に関する分布がある。化学的架橋反応は、連結されている抗体または抗体断片の数を反映する、産物の分子量の分布を導く。しかし、通常、イムノアッセイにおける多価抗原結合巨大分子として、産物の一部のみが実際に利用され、そして技術的に適している。したがって、十分に標準化され、そして再現可能なアッセイを用意するためには、産物の望ましい下位分画が、さらなる使用のために同定され、分離され、精製され、そして特徴づけられる必要がある。
【0021】
したがって、当該技術分野において、イムノアッセイにおいて検出試薬として使用するために適した多価抗原結合巨大分子の改善された提供に関する必要性がある。こうした巨大分子は、生化学的に安定であり、そして構築プロセスにおいて好適であるように設計されていることが望ましい。さらに、形質転換宿主細胞において発現可能であり、優れた品質の所望の産物の発現および産生に関して成功率が高い、多価抗原結合巨大分子のための組換え構築物が望ましい。本開示の基礎は、本明細書に報告するような多価組換え抗体が、安定に形質転換された細胞において、多量に、組換え的に好適に産生可能であるという驚くべき知見である。組換え的に発現される慣用的な免疫グロブリンと匹敵する発現レベルが観察されてきている。本明細書に報告する多価組換え抗体は、分析物を検出するための診断アッセイにおいて用いた際、非常に好適である。この点において、報告される組換え抗体は、特に慣用的免疫グロブリンと比較した際、イムノアッセイのシグナル対ノイズ比を改善する。
【0022】
発明のサマリー
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第一の側面として、本開示は、多価組換え抗体であって、該抗体が、p個の軽鎖ポリペプチドFabL、および2つの重鎖ポリペプチドの二量体を含み、ここで、各重鎖ポリペプチドが式I
N末端 [FabH-L-]nFabH-L-dd(FcH)[-L-FabH]m C末端 (式I)
の構造を有し、
ここで
(a)pは6、8、および10からなる群より選択される値であり、
mおよびnは各々、1~3の整数から独立に選択され、そして
mおよびnは各々、pの値が(2+2*(n+m))に等しいように選択され;
(b)”-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;
(c)各Lは随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列であり;
(d)各dd(FcH)は、非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖の重鎖二量体化領域であり;
(e)二量体において、2つのdd(FcH)は、物理的に近接して互いに整列され;
(f)各FabHは、AHおよびBHより独立に選択され、ここでAHおよびBHは異なり、そしてAHおよびBHは
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
式中、
VHはN末端免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、
VLはN末端免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、
CH1はC末端免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そして
CLはC末端免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである
からなる群より独立に選択され;
(g)各FabLは、ALおよびBLより独立に選択され、ここでALおよびBLは異なり、そしてALおよびBLは
N末端 [VH-CH1]L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択され;
(h)抗体の各抗原結合部位FabH:FabLは、整列した対(整列は「:」によって示される)であり、ここで整列した対は各々、AH:ALおよびBH:BLからなる群より独立に選択され、ここでAH:ALおよびBH:BLは
[VL-CH1]H:[VH-CL]L、
[VL-CL]H:[VH-CH1]L、
[VH-CH1]H:[VL-CL]L、および
[VH-CL]H:[VL-CH1]L
からなる群より独立に選択され、そして整列した対各々において、それぞれのCLおよびCH1はジスルフィド結合を通じて共有連結されている
前記多価組換え抗体を提供する。
【0023】
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第二の側面として、本開示は、抗原検出のためのアッセイにおける、本明細書に開示するような多価抗体の使用を提供する。本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第三の側面として、本開示は、本開示の第一の側面に開示するような、キメラまたは非キメラ多価組換え抗体を含むキットを提供する。
【0024】
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第四の側面として、本開示は、本開示の第一の側面に開示するような多価組換え抗体を抗原と接触させ、それによって、抗原および多価組換え抗体の複合体を形成し、その後、形成された複合体を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む、抗原を検出するための方法を提供する。特定の態様において、該方法は、(a)本開示記載の多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、(b)工程(a)の試料および多価組換え抗体をインキュベーションし、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能であるならば、抗原および多価組換え抗体の複合体が形成され、(c)工程(b)で形成された複合体を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1-1】Aは、互いに化学的に連結された抗体断片のオリゴマーを示す。Bは、F(ab’)2断片を用いてオリゴマーを生成する例示的な架橋実験の結果を示すSECクロマトグラフを示す。さらなる詳細に関しては、実施例2を参照されたい。
【
図1-2】Aは、互いに化学的に連結された抗体断片のオリゴマーを示す。Bは、F(ab’)2断片を用いてオリゴマーを生成する例示的な架橋実験の結果を示すSECクロマトグラフを示す。さらなる詳細に関しては、実施例2を参照されたい。
【
図2】Aは、互いに化学的に連結された抗体断片のオリゴマーを示す。Bは、IgGアイソタイプの二価モノクローナル抗体を示す。Cは、4つの抗原結合部位を持つ多価抗体を示す。Dは、6つの抗原結合部位を持つ多価抗体を示す。Eは、8つの抗原結合部位を持つ多価抗体を示す。Fは、12の抗原結合部位を持つ多価抗体を示す。
【
図3-1】Aは、多価抗体の重鎖のための例示的な発現ベクターのマップを示す。
【
図3-2】Bは、軽鎖のための例示的な発現ベクターのマップを示す。さらなる詳細に関しては、実施例3を参照されたい。
【
図4-1】SECクロマトグラム。さらなる詳細に関しては、実施例4および5を参照されたい。
【
図4-2】SECクロマトグラム。さらなる詳細に関しては、実施例4および5を参照されたい。
【
図5】SECクロマトグラム。さらなる詳細に関しては、実施例5を参照されたい。
【
図6】PAGE電気泳動図。さらなる詳細に関しては、実施例5を参照されたい。
【
図7】標識抗体の規準化シグナル対ノイズ値。さらなる詳細に関しては、実施例9を参照されたい。
【
図8】標準および実施例11に開示するようなTN-T多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図9-1】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体、単一特異性2E7に関するSECクロマトグラム。
【
図9-2】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体、単一特異性2E7に関するSECクロマトグラム。
【
図10-1】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体、単一特異性6D9に関するSECクロマトグラム。
【
図10-2】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体、単一特異性6D9に関するSECクロマトグラム。
【
図11-1】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム、A、サイズマーカー、B、単一特異性6D9、C、二重特異性6D9/2E7。
【
図11-2】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム、A、サイズマーカー、B、単一特異性6D9、C、二重特異性6D9/2E7。
【
図12】ルテニウム標識抗体によって生じる電気化学発光シグナルカウント。さらなる詳細に関しては、実施例8を参照されたい。
【
図13】標準、および実施例11に開示するようなTN-T多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図14-1】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図14-2】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図14-3】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図14-4】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【
図14-5】標準、および実施例12に開示するようなHIV p24抗原に対する多価抗体に関するSECクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0026】
用語「a」、「an」および「the」には、一般的に、文脈が明らかに別に示さない限り、複数の参照対象が含まれる。
用語「抗体」は、本明細書において、もっとも広い意味で用いられ、そして限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片から知られる構造を含む、多様な抗体構造を含む。
【0027】
用語「抗体特異性」は、抗体による抗原の特定のエピトープの選択的認識を指す。天然抗体は、例えば、単一特異性である。用語「単一特異性抗体」は、本明細書において、各々、同じ抗原の同じエピトープに結合する、1つまたはそれより多い結合部位を有する抗体を示す。したがって、「単一特異性」抗体は、単一のエピトープに結合する抗体である。限定されない例として、モノクローナル抗体は単一特異性である。より一般的な用語において、単一のエピトープのみに結合可能である抗体は、単一特異性であると理解される。本開示、ならびに本明細書に報告するすべての側面および態様の目的のため、単一のエピトープに関して、1つより多い結合部位が存在してもよいかまたは見出されてもよいことが理解され、ここで結合部位はエピトープに特異的である。したがって、用語「単一特異性」は、これらが、同じエピトープに対する特異性によって一般的に定義可能である限り、異なる結合部位を含む。これに関連して、単一特異性抗体は、エピトープ結合のそれぞれの動力学が異なる結合部位を含んでもよい。
【0028】
「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」、「五重特異性」、「六重特異性」等の抗体はまた、「多重特異性」抗体とも称され、2つまたはそれより多い異なるエピトープ(例えば、2つ、3つ、4つまたはそれより多い異なるエピトープ)に結合する。エピトープは、同一であってもまたは非同一であってもよく、そしてこれらは、同じまたは異なる抗原上にあってもよい。多重特異性抗体の例は、2つの異なるエピトープに結合する「二重特異性抗体」である。一般的に、抗体が1つの単一特異性より多い特異性を所持する場合、認識されるエピトープは、単一抗原または1より多い抗原と関連してもよい。
【0029】
用語「価」は、本明細書において、抗体分子における特定の数の結合部位の存在を示す。例えば免疫グロブリンのIgGクラスの天然抗体は、2つの結合部位を有し、そしてしたがって二価である。こうしたものとして、用語「三価」は抗体分子における3つの結合部位の存在を示し、「四価」は4つの結合部位を示し、「六価」は6つの結合部位を示し、以下同様である。
【0030】
「保存的置換」は、アミノ酸および核酸配列両方に適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に置換される」は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指すか、あるいは核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、多数の機能的に同一である核酸は、任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、コドンによってアラニンが特定されるすべての位で、コードされるポリペプチドを改変することなく、コドンを任意の対応するコドンに改変してもよい。こうした核酸変異は「サイレント変異」であり、これは、保存的修飾変異の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書のすべての核酸配列は、核酸のすべてのありうるサイレント変異もまた記載する。一般的な当業者は、核酸中の各コドン(通常、メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常、トリプトファンに関する唯一のコドンであるTGGを除く)を修飾して、機能的に同一の分子を生じることも可能である。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載する配列各々に潜在する。
【0031】
アミノ酸配列に関して、一般の当業者は、アミノ酸配列中の単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を改変する、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列における個々の置換は、その改変が化学的に類似のアミノ酸でのアミノ酸の置換を生じるならば、「保存的置換」であることを認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、一般の当業者に知られる。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、一般の当業者に知られる。以下の8つの群は、各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有する。
【0032】
用語「保存的アミノ酸置換」は、置換されたアミノ酸が、参照配列中の対応するアミノ酸と類似の構造的または化学的特性を有する、すべての置換を指す。例えば、保存的アミノ酸置換は、1つの脂肪族または疎水性アミノ酸、例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、またはトリプトファンの別のものでの置換;1つのヒドロキシルを含有するアミノ酸、例えばセリンおよびスレオニンの別のものでの置換;1つの酸性残基、例えばグルタミン酸またはアスパラギン酸の別のものでの置換;1つのアミドを含有する残基、例えばアスパラギンおよびグルタミンの別のものでの置換;1つの芳香族残基、例えばフェニルアラニンおよびチロシンの別のものでの置換;1つの塩基性残基、例えばリジン、アルギニンおよびヒスチジンの別のものでの置換;ならびに1つの小分子アミノ酸、例えばアラニン、セリン、スレオニン、およびグリシンの別のものでの置換を伴う。
【0033】
本明細書において、アミノ酸配列に関する「欠失」および「付加」は、アミノ末端、カルボキシ末端、アミノ酸配列内部またはその組み合わせでの、1つまたはそれより多いアミノ酸の欠失または付加を指し、例えば付加は、本出願の抗体対象の1つに対してであってもよい。
【0034】
本明細書において、「相同配列」は、対応する参照配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%相同であるアミノ酸配列を有する。少なくとも90%同一である配列は、参照配列の10アミノ酸あたり、1より多い改変、すなわち欠失、付加または置換の任意の組み合わせを持たない。相同性パーセントは、例えばDNA STARTMプログラムのMEGALIGNTMプロジェクトを用いて、変異体のアミノ酸配列を参照配列と比較することによって決定される。
【0035】
用語「同一」またはパーセント「同一性」は、2つまたはそれより多い核酸またはポリペプチド配列の背景において、同じである2つまたはそれより多い配列または下位配列を指す。配列は、以下の配列比較アルゴリズム(または一般の当業者が利用可能な他のアルゴリズム)の1つを用いて測定した際、または手動の整列および視覚的検査によって、比較ウィンドウまたは指定する領域に渡って比較し、そして最大対応のために整列させた際、同じである、ある割合のアミノ酸残基またはヌクレオチド(すなわち特定する領域に渡る、約60%同一性、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、または約95%同一性)を有するならば、「実質的に同一」である。この定義はまた、試験配列の相補体も指す。長さ少なくとも約50アミノ酸またはヌクレオチドである領域に渡って、あるいは長さ75~100アミノ酸またはヌクレオチドである領域に渡って、あるいは明記されない場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの全配列に渡って、同一性が存在してもよい。本開示のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ヒト以外の種由来の相同体を含めて、本開示のポリヌクレオチド配列またはその断片を有する標識プローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、ライブラリーをスクリーニングし、そして前記ポリヌクレオチド配列を含有する全長cDNAおよびゲノムクローンを単離する工程を含むプロセスによって得られうる。こうしたハイブリダイゼーション技術は、当業者に周知である。
【0036】
配列比較のため、典型的には1つの配列が参照配列として働き、これに対して試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いて、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば下位配列コーディネートを指定し、そして配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータを用いてもよいし、または別のパラメータを指定してもよい。配列比較アルゴリズムは次いで、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に比較して試験配列に関する配列同一性パーセントを計算する。
【0037】
「抗体断片」は、全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、ディアボディ、一本鎖抗体分子、および抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。scFv抗体は、例えば、Huston, J.S., Methods in Enzymol. 203(1991) 46-88に記載される。さらに、抗体断片は、VHドメインの特性、すなわちVLドメインとともに組立て可能であるVHドメインの特性、またはIGF-1に結合するVLドメインの特性、すなわちVHドメインとともに機能的な抗原結合部位に組立て可能であるVLドメインの特性を有し、そしてそれによって本発明記載の抗体の特性を提供する、一本鎖ポリペプチドを含む。
【0038】
用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、本明細書において、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。
用語「特異的結合剤」は、関心対象の分析物に特異的に結合するかまたは該分析物によって特異的に結合されることが可能である剤を用いることを示すよう用いられる。イムノアッセイのための多くの異なるアッセイセットアップが当該技術分野に知られる。特定のアッセイセットアップに応じて、多様なビオチン化特異的結合剤を用いてもよい。1つの態様において、ビオチン化特異的結合剤は、ビオチン化分析物特異的結合剤、固相に結合したビオチン化分析物、および固相に結合したビオチン化抗原からなる群より選択される。
【0039】
用語「分析物特異的結合剤」は、関心対象の分析物に特異的に結合する分子を指す。本開示の意味における分析物特異的結合剤は、典型的には、分析物(他の用語は関心対象の分析物;ターゲット分子)に結合可能な結合分子または捕捉分子を含む。1つの態様において、分析物特異的結合剤は、その対応するターゲット分子、すなわち分析物に対して、少なくとも107l/molのアフィニティを有する。他の態様における分析物特異的結合剤は、そのターゲット分子に対して、108l/mol、またはさらに109l/molのアフィニティを有する。当業者が理解するであろうように、用語、特異的は、試料中に存在する他の生体分子が、分析物に特異的な結合剤に、有意には結合しないことを示すために用いられる。いくつかの態様において、ターゲット分子以外の生体分子への結合レベルは、ターゲット分子のアフィニティのわずか10%、より好ましくはわずか5%、またはそれ未満である結合アフィニティを生じる。1つの態様において、分析物以外の他の分子への測定可能な結合アフィニティはない。1つの態様において、分析物特異的結合剤は、アフィニティに関して、ならびに特異性に関して、上記の最低限の基準の両方を満たすであろう。
【0040】
用語「分析物特異的結合」は、抗体の背景において用いた際、分析物上のターゲットエピトープと抗体の免疫特異的相互作用、すなわち分析物上のエピトープへの抗体の結合を指す。分析物上のエピトープを通じた抗体の分析物特異的結合の概念は、当業者には完全に明確である。
【0041】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、天然存在アミノ酸ポリマー、ならびに1つまたはそれより多いアミノ酸残基が非天然コードアミノ酸であるアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書において、該用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結されているアミノ酸鎖を含む。ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質は、標準的配列表記法を用いて記述され、N末端を左に、そしてカルボキシ末端を右に置く。標準的一文字表記法は、以下のように用いられている:A-アラニン、C-システイン、D-アスパラギン酸、E-グルタミン酸、F-フェニルアラニン、G-グリシン、H-ヒスチジン、S-イソロイシン、K-リジン、L-ロイシン、M-メチオニン、N-アスパラギン、P-プロリン、Q-グルタミン、R-アルギニン、S-セリン、T-スレオニン、V-バリン、W-トリプトファン、Y-チロシン。用語「ペプチド」は、本明細書において、最大5アミノ酸の長さを有するアミノ酸のポリマーを指す。用語「ポリペプチド」は、本明細書において、6またはそれより多いアミノ酸の長さを有するアミノ酸のポリマーを指す。用語「タンパク質」は、ポリペプチド鎖、あるいはさらなる修飾、例えばグリコシル化、リン酸化、アセチル化または他の翻訳後修飾を含むポリペプチド鎖のいずれかを示す。
【0042】
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、損なわれていない(intact)抗体の部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;一本鎖抗体分子;scFv、sc(Fv)2;ディアボディ;および抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0043】
抗体のパパイン消化は、各々、単一の抗原結合部位を含む「Fab」断片と称される2つの同一の抗原結合断片、および残りの「Fc」断片を生じ、Fcの名称は容易に結晶化するその能力を反映する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、そしてなお抗原を架橋することが可能である、F(ab’)2断片を生じる。
【0044】
Fab断片は、重鎖および軽鎖可変ドメインを含有し、そしてまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つまたはそれより多いシステインを含む、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端のいくつかの残基が付加されている点で、Fab断片とは異なる。Fab’-SHは、本明細書において、定常ドメインのシステイン残基(単数または複数)が未結合チオール基を所持するFab’に関する名称である。F(ab’)2抗体断片は、元来、その間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られる。
【0045】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体、すなわち、ありうる突然変異、例えば少量で存在しうる天然存在突然変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である抗体を指す。したがって、修飾語「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではない、抗体の特性を示す。特定の態様において、こうしたモノクローナル抗体には、典型的には、ターゲットに結合するポリペプチド配列を含む抗体が含まれ、ここで、ターゲット結合ポリペプチド配列は、多数のポリペプチド配列からの単一のターゲット結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られた。例えば、選択プロセスは、複数のクローン、例えばハイブリドーマクローン、ファージクローン、または組換えDNAクローンのプールなどからの、ユニークなクローンの選択であってもよい。選択したターゲット結合配列が、例えばターゲットに対するアフィニティを改善するため、ターゲット結合配列をヒト化するため、細胞培養におけるその産生を改善するため、in vivoでの免疫原性を減少させるため、多重特異性抗体を生成するため等で、さらに改変されていてもよく、そして改変されたターゲット結合配列を含む抗体もまた、本発明のモノクローナル抗体であることが理解されなければならない。典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられる異なる抗体を含む、ポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一決定基に対して向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていない点で好適である。
【0046】
修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に相同な集団から得られるような抗体の性質を示し、そして任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするとは解釈されないものとする。例えば、本発明にしたがって用いようとするモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(例えば、KohlerおよびMilstein., Nature, 256:495-97(1975); Hongoら, Hybridoma, 14(3): 253-260(1995), Harlowら, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版 1988); Haemmerlingら, :Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas中 563-681(Elsevier, N.Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clacksonら, Nature, 352: 624-628(1991); Marksら, J. Mol. Biol. 222: 581-597(1992); Sidhuら, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310(2004); Leeら, J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093(2004); Fellouse, PNAS USA 101(34): 12467-12472(2004);およびLeeら, J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)を参照されたい)、およびヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の部分またはすべてを有する動物において、ヒトまたはヒト様抗体を産生するための技術(例えば、WO 1998/24893; WO 1996/34096; WO 1996/33735; WO 1991/10741; Jakobovitsら, PNAS USA 90: 2551(1993); Jakobovitsら, Nature 362: 255-258(1993); Bruggemannら, Year in Immunol. 7:33(1993);米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;および第5,661,016号; Marksら, Bio/Technology 10: 779-783(1992); Lonbergら, Nature 368: 856-859(1994); Morrison, Nature 368: 812-813(1994); Fishwildら, Nature Biotechnol. 14: 845-851(1996); Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826(1996);ならびにLonbergおよびHuszar, Intern. Rev. Immunol.13: 65-93(1995)を参照されたい)を含む多様な技術によって作製可能である。
【0047】
本明細書のモノクローナル抗体には、特に、「キメラ」抗体が含まれ、ここで、該抗体において、重鎖および/または軽鎖の部分は、特定の種由来の、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に同一であるかまたは相同である一方、鎖(単数または複数)の残りは、別の種由来の、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に同一であるかまたは相同である抗体、ならびにこれらが望ましい生物学的活性を示す限り、こうした抗体の断片である(例えば、米国特許第4,816,567号、およびMorrisonら, PNAS USA 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が、例えば関心対象の抗原でマカクザル(macaque monkeys)を免疫することによって産生された抗体に由来する、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれる。
【0048】
用語「超可変領域」、「HVR」、または「HV」は、本明細書で用いた際、配列において超可変性であり、そして/または構造的に定義されるループを形成する、抗体可変ドメインの領域を指す。一般的に、抗体は、6つのHVR;VH中の3つ(H1、H2、H3)、およびVL中の3つ(L1、L2、L3)を含む。天然抗体において、H3およびL3は、6つのHVRの最大の多様性を示し、そして特にH3は、抗体に対する細かい特異性を与える際に、ユニークな役割を果たすと考えられている。例えば、Xuら Immunity 13:37-45(2000); JohnsonおよびWu Methods in Molecular Biology中 248:1-25(Lo監修, Human Press, Totowa, NJ, 2003)を参照されたい。実際、重鎖のみからなる天然存在ラクダ類(camelid)抗体は、軽鎖の非存在下で、機能性であり、そして安定である。例えば、Hamers-Castermanら, Nature 363:446-448(1993)およびSheriffら, Nature Struct. Biol. 3:733-736(1996)を参照されたい。
【0049】
いくつかのHVR描写が本明細書に用いられ、そして含まれる。Kabat相補性決定領域(CDR)であるHVRは、配列可変性に基づき、そして最も一般的に用いられる(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991))。Chothiaは、代わりに、構造ループの位置を指す(ChothiaおよびLesk J. Mol. Biol. 196:901-917(1987))。AbM HVRは、Kabat CDRおよびChothia構造ループの間の妥協に相当し、そしてOxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアに用いられている。「接触」HVRは、入手可能な複合体結晶構造の分析に基づく。これらのHVR各々由来の残基を以下に示す。
【0050】
【0051】
HVRは、以下のような「伸長HVR」を含んでもよい:VLにおける、24~36または24~34(L1)、46~56または50~56(L2)、および89~97または89~96(L3)、およびVHにおける26~35(H1)、50~65または49~65(H2)、および93~102、94~102、または95~102(H3)。これらの伸長HVRの定義各々に関して、可変ドメイン残基は、Kabatら、上記にしたがって番号付けされる。
【0052】
表現「Kabatにおけるような可変ドメイン残基番号付け」または「Kabatにおけるようなアミノ酸位番号付け」およびその変形は、Kabatら、上記における抗体の編集の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに関して用いられる番号付け系を指す。この番号付け系を用いて、実際の直鎖アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはHVRの短縮またはこれらへの挿入に対応して、より少ないまたはさらなるアミノ酸を含有してもよい。例えば、重鎖可変ドメインには、H2の残基52の後に、単一アミノ酸挿入物(Kabatにしたがって残基52a)、および重鎖FR残基82の後に、挿入残基(例えば、Kabatにしたがって、残基82a、82b、および82c)が含まれてもよい。残基のKabat番号付けは、「標準」Kabat番号付け配列と抗体の配列の相同領域での整列によって、所定の抗体に関して決定可能である。
【0053】
用語「実験動物」は、非ヒト動物を示す。1つの態様において、実験動物は、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ラクダ、ラマ、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、サメおよび爬虫類より選択される。1つの態様において、実験動物はウサギである。
【0054】
エピトープは、抗体の結合部位によって結合される抗原の領域である。用語「エピトープ」には、抗体に特異的に結合可能な任意の決定基が含まれる。特定の態様において、エピトープ決定基には、分子の化学的に活性である表面群、例えばアミノ酸、グリカン側鎖、ホスホリル、またはスルホニルが含まれ、そして特定の態様において、こうした決定基は、特定の三次元構造特性、および/または特定の電荷特性を有してもよい。
【0055】
本明細書において、用語「結合」および「特異的結合」は、in vitroアッセイにおける、特に精製抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(BIAcore、GE-Healthcare、スウェーデン・ウプサラ)における、抗原のエピトープへの抗体の結合を指す。特定の態様において、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物において、そのターゲット抗原を優先的に認識するならば、抗原に特異的に結合すると言われる。
【0056】
抗原への抗体の結合のアフィニティは、用語ka(抗体/抗原複合体由来の抗体の会合に関する速度定数)、kd(解離速度定数)、およびKD(kd/ka)によって定義される。1つの態様において、結合または特異的に結合することは、10-7mol/lまたはそれ未満、1つの態様において、10-7M~10-13mol/lの結合アフィニティ(KD)を意味する。したがって、本明細書に開示するすべての側面および態様において、多重特異性抗体は、10-7mol/lまたはそれ未満の結合アフィニティ(KD)、例えば10-7~10-13mol/lの結合アフィニティ(KD)で、特異的である各ターゲット抗原に特異的に結合する。1つの態様において、10-8~10-13mol/lの結合アフィニティ(KD)である。これに関連して、ターゲット抗原は、単一の分子であってもまたは異なる分子であってもよい。特定の態様において、ターゲット抗原は、2つまたはそれより多い異なる分子によって形成された複合体であり、ここで、多重特異性抗体は、10-7mol/lまたはそれ未満の結合アフィニティ(KD)で、複合体に特異的に結合する。
【0057】
用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、本明細書において、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。本明細書に開示するすべての側面および態様にしたがった組換え抗体は、用語「モノクローナル抗体」によって含まれると理解される。
【0058】
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の部分が特定の供給源または種に由来する一方、重鎖および/または軽鎖の残りが異なる供給源または種に由来する抗体を指す。特定の態様において、本明細書に開示するすべての側面および態様にしたがった組換え抗体は、第一の種に由来するFabH:FabL部分、および第二の種のFcH部分を含有してもよい。別の特定の態様において、組換え抗体は、異なる供給源または種由来の異なるFabH:FabL部分を含む、複数の特異性を含む。
【0059】
用語「結合部位」または「抗原結合部位」は、本明細書において、リガンド(例えば抗原またはその抗原断片)が実際に結合し、そして抗体に由来する、抗体分子の領域(単数または複数)を示す。抗原結合部位には、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および/または抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、またはVH/VLの対が含まれる。
【0060】
所望の抗原に特異的に結合する抗原結合部位は、a)それぞれのターゲット抗原に特異的に結合する既知の抗体に由来しても、あるいはb)とりわけ、ターゲット抗原もしくはその断片として抗原タンパク質もしくはタンパク質をコードする核酸のいずれかを用いたデノボ(de novo)免疫法によって、またはファージディスプレイによって得られた新規抗体または抗体断片に由来してもよい。
【0061】
本明細書のすべての側面および態様に開示するような組換え抗体を含む抗体の抗原結合部位は、抗原のエピトープに関する結合部位のアフィニティに多様な度合いで寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含有してもよい。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)および3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)がある。CDRおよびフレームワーク領域(FR)の度合いは、領域が配列間の可変性にしたがって定義されているアミノ酸配列の編集データベースへの比較によって決定される。本発明の範囲内にやはり含まれるのは、より少ないCDRで構成される機能性抗原結合部位(すなわち、その結合特異性が、3つ、4つまたは5つのCDRによって決定される)である。例えば、6つのCDRの完全なセットより少ないCDRでも、結合には十分である可能性もある。いくつかの場合、VHまたはVLドメインで十分でありうる。
【0062】
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」を、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と称される、2つの別個のタイプの一方に割り当ててもよい。野生型軽鎖は、典型的には、通常、抗原への結合に重要な1つの可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)の2つの免疫グロブリンドメインを含有する。
【0063】
抗体のクラスまたはアイソタイプを定義する、いくつかの異なるタイプの「重鎖」が存在する。野生型重鎖は、通常、抗原に結合するために重要である1つの可変ドメイン(VH)およびいくつかの定常ドメイン(CH1、CH2、CD3等)を含む、一連の免疫グロブリンドメインを含有する。
【0064】
用語「Fcドメイン」は、本明細書において、定常領域の少なくとも部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義する。例えば、天然抗体において、Fcドメインは、IgG、IgAおよびIgDアイソタイプにおいては、抗体の2つの重鎖の第二および第三の定常ドメインに由来する2つの同一のタンパク質断片で構成され;IgMおよびIgE Fcドメインは、各ポリペプチド鎖において、3つの重鎖定常ドメイン(CHドメイン2~4)を含有する。「Fcドメインを含まない」は、本明細書において、本発明の二重特異性抗体が、CH2、CH3およびCH4ドメインを含まない;すなわち定常重鎖が、1つまたはそれより多いCH1ドメインのみからなることを意味する。
【0065】
本明細書において、「可変ドメイン」または「可変領域」は、抗原への抗体の結合に直接関与する軽鎖および重鎖の対の各々を示す。軽鎖可変ドメインは「VL」と略され、そして軽鎖可変ドメインは「VH」と略される。ヒト軽鎖および重鎖可変ドメインは、同じ一般構造を有する。各可変ドメインは、4つのフレームワーク(FR)を含み、その配列は広く保存されている。FRは、3つの「超可変領域」(または「相補性決定領域」、CDR)によって連結される。各鎖上のCDRは、こうしたフレームワークアミノ酸によって分離される。したがって、抗体の軽鎖および重鎖は、NからC末端方向に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。FRはβシートコンホメーションを取り、そしてCDRは、βシート構造を連結するループを形成しうる。各鎖中のCDRは、FRによってその三次元構造に保持され、そして他の鎖由来のCDRとともに、「抗原結合部位」を形成する。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)の標準的な定義にしたがって決定される。
【0066】
用語「定常ドメイン」または「定常領域」は、本出願内で用いた際、可変領域以外の抗体のドメインの全体を示す。定常領域は、抗原結合に直接関与はしないが、多様なエフェクター機能を示す。
【0067】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体はクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに分けられ、そしてこれらのいくつかは、サブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けられうる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常領域は、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと称される。5つの抗体クラスすべてで見られうる軽鎖定常領域(CL)は、κ(カッパ)およびλ(ラムダ)と称される。「定常ドメイン」は、本明細書において、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域、および/または定常軽鎖カッパまたはラムダ領域に由来する、ヒト起源由来である。こうした定常ドメインおよび領域は、当該技術分野において周知であり、そして例えば、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)に記載される。
【0068】
用語「三次構造」は、本明細書において、本発明記載の抗体の幾何学的形状を指す。三次構造は、抗体ドメインを含むポリペプチド鎖主鎖を含み、一方、アミノ酸側鎖はいくつかの方法で相互作用し、そして結合する。
【0069】
本発明記載の多価抗体は、組換え手段によって産生される。抗体の組換え産生法は、当該技術分野に広く知られ、そして原核および真核細胞におけるタンパク質発現、それに続く抗体の単離、および通常、薬学的に許容されうる純度までの精製を含む。宿主細胞における抗体の発現のため、本明細書に記載するようなそれぞれの軽鎖および重鎖をコードする核酸を、標準法によって、発現ベクター内に挿入する。CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌(E. coli)細胞のような適切な原核または真核宿主細胞中で発現を行い、そして細胞(上清または溶解後の細胞)から抗体を回収する。抗体の組換え産生のための一般的な方法は、当該技術分野に周知であり、そして例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17(1999) 183-202; Geisse, S.ら, Protein Expr. Purif. 8(1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16(2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48(1998) 870-880の概説記事に記載される。
【0070】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、本明細書において交換可能に用いられ、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、そしてDNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドまたは塩基、および/またはその類似体、あるいはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によって、ポリマー内に取り込まれうる任意の基質であってもよい。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびその類似体を含んでもよい。ヌクレオチド配列は、非ヌクレオチド構成要素によって中断されてもよい。ポリヌクレオチドは、合成後に行われる修飾(単数または複数)、例えば標識へのコンジュゲート化を含んでもよい。他のタイプの修飾には、例えば、「キャップ」、1つまたはそれより多くの天然存在ヌクレオチドの類似体での置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばリン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)での、および荷電連結(例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)での修飾、ペンダント部分を含有するもの、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリL-リジン等)での修飾、挿入剤(例えばアクリジン、ソラレン等)での修飾、キレーター(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属等)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾連結(例えばアルファアノマー核酸等)での修飾、ならびにポリヌクレオチド(単数または複数)の非修飾型での修飾が含まれる。さらに、通常、糖に存在するヒドロキシル基を、例えばホスホン酸基、リン酸基によって置換するか、標準的保護基によって保護するか、または活性化してさらなるヌクレオチドへのさらなる連結を調整するか、あるいは固相または半固相支持体にコンジュゲート化してもよい。5’および3’末端OHをリン酸化するか、あるいは1~20炭素原子のアミンまたは有機キャッピング部分で置換してもよい。他のヒドロキシルもまた、標準保護基に誘導体化してもよい。ポリヌクレオチドはまた、当該技術分野に一般的に知られるリボースまたはデオキシリボース糖の類似型を含有してもよく、これには例えば、2’-O-メチル-、2’-O-アリル-、2’-フルオロ-または2’-アジド-リボース、炭素環糖類似体、α-アノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロースまたはリキソース、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環類似体、および塩基性ヌクレオシド類似体、例えばメチルリボシドが含まれる。1つまたはそれより多いホスホジエステル連結を代替連結基によって置換してもよい。これらの代替連結基には、限定されるわけではないが、リン酸基がP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO、またはCH2(「ホルムアセタール」)によって置換されている態様が含まれ、式中、RまたはR’は、独立に、H、あるいは随意にエーテル(-O-)連結を含有する置換または非置換アルキル(1~20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルジルである。ポリヌクレオチドのすべての連結が同一である必要はない。先行する説明は、RNAおよびDNAを含む、本明細書に言及するすべてのポリヌクレオチドに当てはまる。
【0071】
「単離」核酸は、天然環境の構成要素から分離されている核酸分子を指す。単離核酸には、通常、該核酸分子を含有するが、該核酸分子が染色体外に存在するか、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する、細胞中に含有される核酸分子が含まれる。
【0072】
用語「ベクター」は、本明細書において、連結されている別の核酸を増やすことが可能な核酸分子を指す。該用語には、自己複製核酸構造としてのベクター、ならびに導入されている宿主細胞のゲノム内に取り込まれているベクターが含まれる。該用語には、主に、細胞内へのDNAまたはRNAの挿入(例えば染色体組込み)のために機能するベクター、主にDNAまたはRNAの複製のために機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターが含まれる。やはり含まれるのは、記載するような機能の1より多くを提供するベクターである。
【0073】
「発現ベクター」は、機能可能であるように連結された核酸の発現を指示することが可能なベクターである。発現ベクターを適切な宿主細胞内に導入した際、これは転写され、そしてポリペプチドに翻訳されることも可能である。本発明記載の方法において、宿主細胞を形質転換する際、「発現ベクター」を用い;それによって、用語「ベクター」は、本明細書記載の宿主細胞の形質転換と関連して、「発現ベクター」を意味する。「発現系」は、通常、機能して所望の発現産物を生じることも可能である発現ベクターで構成される、適切な宿主細胞を指す。
【0074】
本明細書において、「発現」は、核酸がmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNA(転写物とも称される)が続いて、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは、集合的に遺伝子産物と称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現には、mRNAのスプライシングが含まれてもよい。
【0075】
用語「形質転換」は、本明細書において、宿主細胞内へのベクター/核酸のトランスファーのプロセスを指す。手強い細胞壁バリアを持たない細胞を宿主細胞として用いる場合、例えば、GrahamおよびVan der Eh, Virology 52(1978) 546ffによって記載されるようなリン酸カルシウム沈殿法によって、トランスフェクションを行う。しかし、核注入によって、またはプロトプラスト融合によってなどで、細胞内にDNAを導入するための他の方法もまた用いてもよい。原核細胞または実質的な細胞壁構築を含有する細胞を用いる場合、例えばトランスフェクションの1つの方法は、Cohen, F.N,ら, PNAS 69(1972) 7110、以下参照に記載されるような塩化カルシウムを用いたカルシウム処理である。
【0076】
用語「宿主細胞」は、本出願で用いた際、本発明記載の抗体を生成するように操作可能である、任意の種類の細胞系を示す。
本明細書において、表現「細胞」、「細胞株」および「細胞培養」は、交換可能に用いられ、そしてすべてのこうした呼称には子孫が含まれる。したがって、単語「形質転換体」および「形質転換細胞」には、初代対象細胞、およびトランスファーの回数に関わらず、そこから由来する培養が含まれる。すべての子孫は、計画的なまたは偶発的な突然変異によって、DNA内容物が正確に同一ではない可能性もあることもまた理解される。元来形質転換された細胞において、スクリーニングされるような同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫が含まれる。別個の呼称を意図する場合、これは文脈から明らかであろう。
【0077】
NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M.ら, Cytotechnology 32(2000) 109-123; Barnes, L.M.ら, Biotech. Bioeng. 73(2001) 261-270によって記載される。一過性発現は、例えば、Durocher, Y.ら, Nucl. Acids. Res. 30(2002) E9によって記載される。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989) 3833-3837; Carter, P.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992) 4285-4289;およびNorderhaug, L.ら, J. Immunol. Methods 204(1997) 77-87に記載される。好ましい一過性発現系(HEK 293)は、Schlaeger, E.-J.およびChristensen, K.によって、Cytotechnology 30(1999) 71-83に、そしてSchlaeger, E.-J., J. Immunol. Methods 194(1996) 191-199に記載される。
【0078】
宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖C末端からの、1つまたはそれより多く、特に1つまたは2つのアミノ酸の翻訳後切断を経ることも可能である。したがって、全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞により産生される抗体には、全長重鎖が含まれてもよいし、または全長重鎖の切断された変異体(本明細書において、切断変異体重鎖とも称される)が含まれてもよい。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)およびリジン(K447、Kabat EU指標にしたがった番号付け)である場合に当てはまりうる。
【0079】
したがって、別に示さない限り、CH3ドメインを含む重鎖のアミノ酸配列を、C末端グリシン-リジン・ジペプチドを含まずに、本明細書に示す。
本発明の組成物、例えば本明細書記載の薬学的組成物は、本発明の抗体集団を含む。抗体集団は、全長重鎖を有する抗体、および切断された変異体重鎖を有する抗体を含む。1つの態様において、抗体集団は、全長重鎖を有する抗体、および切断された変異体重鎖を有する抗体の混合物からなり、ここで、抗体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%は、切断された変異体重鎖を有する。
【0080】
アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィ、アガロースゲル電気泳動、および当該技術分野に周知の他の技術を含む標準的技術によって、細胞構成要素または他の混入物質、例えば他の細胞核酸またはタンパク質を除去するため、抗体の精製(宿主細胞培養からの抗体の回収)を行う。Ausubel, F.ら監修 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York(1987)を参照されたい。タンパク質精製のための異なる方法、例えば微生物タンパク質を用いたアフィニティクロマトグラフィ(例えばプロテインAまたはプロテインGアフィニティクロマトグラフィ)、イオン交換クロマトグラフィ(例えば陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合様式交換)、チオ親和性吸着(例えばベータ-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いるもの)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィ(例えばフェニル-セファロース、アザ-アレノ親和性樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を用いるもの)、金属キレートアフィニティクロマトグラフィ(例えばNi(II)およびCu(II)アフィニティ材料を用いるもの)、サイズ排除クロマトグラフィ、および電気泳動法(例えばゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)が、よく確立されており、そして広く用いられる(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75(1998) 93-102)。
【0081】
「イムノコンジュゲート」は、限定されるわけではないが、検出可能標識を含む、1つまたはそれより多い異種分子(単数または複数)にコンジュゲート化された抗体である。
免疫グロブリンは、ターゲット抗原に特異的に結合する糖タンパク質である。二価および単一特異性免疫グロブリン、例えばIgGの天然存在型は、その基本的単位として四鎖構造を有する。これらは、鎖間ジスルフィド結合によって、そして非共有相互作用によってともに保持される、2つの同一の軽鎖(L)および2つの同一の重鎖(H)で構成される。IgMクラス免疫グロブリンは、重鎖および軽鎖の数に関しては例外に相当し、そして以下では考慮されない。軽鎖は2つのドメイン、可変および定常ドメインによって形成される一方、1つの可変ドメインおよび3つの定常ドメインが重鎖を形成する。免疫グロブリン配列は、通常、トポロジー的に同等の残基に同じ番号を割り当てることを目的とした一般的なスキーム(Kabat-Chothia)にしたがって番号付けされる(Al-Lazikani Bら J. Mol. Biol. 273(1997) 927-948)。これは一貫した方式で抗体の残基を順序付けそして番号付けるための広く採用される標準である。
【0082】
本明細書に報告するような組換え抗体のモジュラー設計に関連する説明において、要素(単数または複数)としての1つまたはそれより多い免疫グロブリンドメイン(単数または複数)または領域(単数または複数)に言及することも可能である。この背景において、単一要素は、「CH1」、「CH2」、「CH3」、「CL」、「VH」、「VL」、「<ヒンジ>」および「L」からなる群より選択される。これらの単一要素の各々はまた、本開示の組換え抗体対象の構造の説明において、重鎖または軽鎖の「コア要素」とも称されうる。それぞれ、式II~Xに提示するように、いくつかのコア要素を、コア要素の組み合わせから生じるより高次の要素、例えば(限定されるわけではないが)「FcH」、「FabH」および「FabL」になるように組み合わせてもよい。
【0083】
N末端 [VH-CH1]H C末端 (より高次の要素FabH;式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (より高次の要素FabH;式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (より高次の要素FabH;式IV)、
N末端 [VL-CH1]H C末端 (より高次の要素FabH;式V)、
N末端 [VH-CH1]L C末端 (より高次の要素FabL;式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (より高次の要素FabL;式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (より高次の要素FabL;式VIII)、
N末端 [VL-CH1]L C末端 (より高次の要素FabL;式IX)、および
N末端 <ヒンジ>-CH2-CH3 C末端 (より高次の要素FcH;式X)。
【0084】
当業者は、組換え技術が、例えば上に示すような、しかしVL-VLHまたはVH-CH1Lに限定されない、異なる非天然存在FabHおよびFabL要素の構築を可能にすることを認識する。結合アームにおけるCL-CH1置換を含む抗体は、いわゆるCrossMabを例示する。CrossMabは、WO 2009/080253およびSchaefer, W.ら, PNAS, 108(2011) 11187-11191に詳細に記載される。
【0085】
一般的に、別に明確に示さない限り、要素の各群の配向は、常に、左側のN末端から右側のC末端である。コア要素および/またはより高次の要素を含むポリペプチド鎖のすべての提示において、「-」は、ポリペプチド鎖内の共有結合である。説明において、サブセットの要素および/またはその特徴の特異的な説明の目的のため、重鎖の要素のサブセットは、切り離された項目(場合によって、X=[-L-FabH]またはY=[FabH-L-]によって例示される)として提示されうることがさらに理解される。別に示されない限り、本明細書に論じる重鎖の任意のサブセットは、完全な連続重鎖ポリペプチドの共有結合した不可欠の(integral)部分と見なされる。同様に、軽鎖は常に、式VI~IXなどの要素のセットとして称され、これはすなわち、別に示されない限り、それぞれのポリペプチド鎖中にさらなる要素が存在しないことを意味する。
【0086】
組換え免疫グロブリンの構築をよく知る当業者は、コア要素「CH1」、「CH2」、「CH3」、「CL」、「VH」、「VL」、「<ヒンジ>」および「L」各々が機能的実体を反映し、その機能性はそれぞれの要素のアミノ酸配列の重要でない改変によっては変化しないことを認識する。例えば、1つまたはそれより多い中立のアミノ酸交換あるいはアミノ酸の重要でない付加または重要でない欠失、特にコア要素の任意の1つに対する1~20アミノ酸の末端付加があってもよいが、但し、前記変異の存在にも関わらず、本明細書に提供するような第一の側面にしたがって機能的免疫グロブリンが形成され、すなわち重鎖および軽鎖の整列が負に影響を受けず、そして抗原結合部位の機能性が損なわれないことが条件である。すなわち、中立のアミノ酸交換あるいは重要でない付加または重要でない欠失の存在下で、2つの重鎖の整列および共有連結は乱されないままであり、そしてFabH:FabLの整列および共有連結は乱されないままであり、そして抗原結合の特異性および感度は不変である。これに関連して、用語「乱されない」および「不変」は、前記の変異のいずれも持たない、対応する免疫グロブリンに比較して、単一のそれぞれの特性各々の、95%~100%の範囲内にあることを意味する。
【0087】
本開示の背景において、「慣用的Igアイソタイプ」の基本的構築は、IgG、IgAおよびIgDからなる群より選択されるアイソタイプの天然存在単一特異性および二価抗体の構築によって代表され、ここで、抗体は、式XI
N末端 FabH-FcH C末端 (式XI)
の免疫グロブリン重鎖の2つのポリペプチドおよび2つの免疫グロブリン軽鎖FabLを含み、式中、「-」はポリペプチド鎖内の共有結合であり;FcHは、N末端ヒンジドメイン(=<ヒンジ>)、その後、重鎖定常ドメイン2(=CH2)およびC末端重鎖定常ドメイン3(=CH3)を含む免疫グロブリン重鎖部分であり;各FabHは、N末端重鎖可変ドメイン(=VH)およびC末端重鎖定常ドメイン1(=CH1)を含むVH-CH1免疫グロブリン重鎖部分であり;各Fabは、N末端軽鎖可変ドメイン(=VL)およびC末端軽鎖定常ドメイン(=CL)を含むVL-CL免疫グロブリン軽鎖であり;抗体において、2つの重鎖のそれぞれのヒンジドメイン、CH2およびCH3は、互いに整列されており、そして2つの重鎖のそれぞれのヒンジドメインは、1つまたはそれより多いジスルフィド結合を通じて、互いに共有連結されており;抗体の各抗原結合部位FabH:FabLは、VH-CH1免疫グロブリン重鎖部分およびVL-CL免疫グロブリン軽鎖の整列対であり、各対において、それぞれのCLおよびCH1、ならびにVLおよびVHは互いに整列し、そして各対において、それぞれのVL-CLおよびVH-CH1は、ジスルフィド結合を通じて共有連結されている。
【0088】
当業者に知られる慣用的Igアイソタイプの単一特異性および二価抗体の組換え的に操作された例および確立された変異体には、
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
からなる群より選択されるFabHを含むものが含まれ、式中、VHは免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、VLは免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、CH1は免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そしてCLは免疫グロブリン軽鎖定常ドメインであり;
そして各FabLは
N末端 [VH-CH1]L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択され、抗体の抗原結合部位FabH:FabLは整列した対であり、整列は「:」によって示され、整列した対は
[VL-CH1]H:[VH-CL]L、
[VL-CL]H:[VH-CH1]L、
[VH-CH1]H:[VL-CL]L、および
[VH-CL]H:[VL-CH1]L
からなる群より独立に選択され、そして整列した対において、それぞれのCLおよびCH1はジスルフィド結合を通じて共有連結される。
【0089】
複雑な混合物において、ターゲットとしての分析物を検出するための分析物特異的抗体の使用に関する特定の技術的利点は、さらなる分析物特異的FabH:FabL単位を付加する/追加することによって、慣用的な基本的構築を実験的に拡張する際に見られた。驚くべきことに、Fc部分で、さらなるFabH:FabL抗原結合部位を追加することによる抗体の拡張は、組換え抗体の結合特性に関して、さらなる利点を提供することが見出された。さらに、さらなるFabH:FabL抗原結合部位を追加することによる抗体の各アームの拡張はまた、結合特性も改善した。1つの結果として、慣用的なIgG分子に比較して、単一の多価組換え抗体は、非抗原結合領域の表面に対する抗原結合領域の表面の比に関するより高い値によって特徴づけられる。本明細書に開示するような抗体を、例えば抗原を検出するためのサンドイッチイムノアッセイにおいて、捕捉および/または検出剤として用いる際、改善されたシグナル対ノイズ比で、特定の利点が観察されてきている。
【0090】
したがって、本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第一の側面として、本開示は、キメラまたは非キメラ多価組換え抗体であって、該抗体が、p個の軽鎖ポリペプチドFabL、および2つの重鎖ポリペプチドの二量体を含み、ここで、各重鎖ポリペプチドが式I
N末端 [FabH-L-]nFabH-L-dd(FcH)[-L-FabH]m C末端 (式I)
の構造を有し、
ここで
(i)pは6、8、および10からなる群より選択される値であり、
mおよびnは各々、1~3の整数より独立に選択され、そして
mおよびnは各々、pの値が(2+2*(n+m))であるように選択され;
(j)”-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;
(k)各Lは随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列であり;
(l)各dd(FcH)は、非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖の重鎖二量体化領域であり;
(m)二量体において、2つのdd(FcH)は、物理的に近接して互いに整列され;
(n)各FabHは、AHおよびBHより独立に選択され、ここでAHおよびBHは異なり、そしてAHおよびBHは
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
式中、
VHはN末端免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、
VLはN末端免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、
CH1はC末端免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そして
CLはC末端免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである
からなる群より独立に選択され;
(о)各FabLは、ALおよびBLより独立に選択され、ここでALおよびBLは異なり、そしてALおよびBLは
N末端 [VH-CH1]L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択され;
(p)抗体の各抗原結合部位FabH:FabLは、整列した対(整列は「:」によって示される)であり、ここで整列した対は各々、AH:ALおよびBH:BLからなる群より独立に選択され、ここでAH:ALおよびBH:BLは
[VL-CH1]H:[VH-CL]L、
[VL-CL]H:[VH-CH1]L、
[VH-CH1]H:[VL-CL]L、および
[VH-CL]H:[VL-CH1]L
からなる群より独立に選択され、そして整列した対各々において、それぞれのCLおよびCH1はジスルフィド結合を通じて共有連結されている
前記多価組換え抗体を提供する。
【0091】
本明細書に開示するような組換え抗体は、免疫グロブリンクラスIgA、IgD、IgEまたはIgGの1つの慣用的抗体のような二価ではなく、多価である。本明細書に開示するような組換え多価抗体において、軽鎖は、天然存在免疫グロブリンの軽鎖と類似であるかまたは同一である。重要なことに、各重鎖中に複数のFabH要素を提供することによって、多価抗原結合を達成するのは、組換え免疫グロブリン重鎖の設計である。本明細書のすべての側面および態様に報告するような新規組換え抗体は、単一抗体分子における4つまたはそれより多い抗原結合部位(=Fab=FabH:FabL)を組み合わせるモジュラー設計によって特徴づけられる。より具体的には、本明細書に提示するのは、上記式I中に提示するpの値によって示される抗原結合部位の数を有する組換え多価抗体であり、ここで、pは、6、8、および10、ならびに随意に12からなる群より選択されることも可能な整数である。すなわち、単一の重鎖において、含まれるFabH要素の数はp/2、すなわち、3、4、5、および随意に6からなる群より選択される整数である。
【0092】
mおよびnの値は独立に選択され、そしてmおよびnは各々、pの値が(2+2*(n+m))に等しいように選択される。1つの態様において、mの値は、0、1、2、3、および4からなる整数の群より選択される。より具体的には、mは、1、2、3、および4からなる整数の群より選択される。さらにより具体的には、mは、1、2、および3からなる整数の群より選択される。別の態様において、nの値は、0、1、2、3、および4からなる整数の群より選択される。より具体的には、nは、1、2、3、および4からなる整数の群より選択される。さらにより具体的には、nは、1、2、および3からなる整数の群より選択される。
【0093】
例えば、pが6である態様において、mおよびnはどちらも1である。pが8である態様において、nが1でありそしてmが2であるか、またはnが2でありそしてmが2であるかいずれかである。pが10である態様において、それぞれ、nは1、2、または3であり、そしてmは3、2または1である。pが12である態様において、それぞれ、nは1、2、3、または4であり、そしてmは4、3、2または1である。
【0094】
本明細書に開示するすべての側面および態様に関連するような組換え抗体は、本明細書に開示するようなモジュラー設計にしたがって、免疫グロブリンドメイン、免疫グロブリン要素および免疫グロブリン領域を含み、そして1つの態様において、排他的にこれらからなる。
【0095】
本明細書に開示するすべての側面および態様に関連するような組換え抗体は、式Iの2つの整列重鎖を含む。各重鎖は、N末端で始まる順に提示され、そしてそこから重鎖のC末端に向かいそして該C末端まで要素を列挙する、構造要素で構成される。
【0096】
1つの態様において、本明細書に開示するすべての側面および態様に関連するような組換え抗体は、キメラであり、そして異なる種由来の起源の要素を含む。別の態様において、本明細書に開示するすべての側面および態様に関連するような組換え抗体は、同じ種に由来する要素を含有する、非キメラ抗体である。
【0097】
本明細書のすべての側面および態様に提供するような組換え抗体は、当該技術分野に知られる免疫グロブリン重鎖のFcH定常ドメインの構造要素を組み合わせるモジュラー設計によって特徴づけられる。天然(すなわち非操作)型の免疫グロブリン分子において、重鎖FcHポリペプチドは、コア要素として定常ドメインCH2およびCH3で構成される。CH2ドメインのN末端に追加されるのは、重鎖架橋のためにシステイン-SH基を提供する<ヒンジ>ドメインである。組換え抗体の特定の態様において、FcH部分は、式Xにしたがったドメイン配置、IgG、IgAおよびIgDからなる群より選択されるクラスの免疫グロブリンの<ヒンジ>-CH2-CH3を含む。より特定の態様において、FcH部分は、ヒト、マウス、ラット、ヒツジ、およびウサギからなる群より選択される哺乳動物種に起源を有するアミノ酸配列によって代表される。
【0098】
より一般的な方式で、FcHのより高次の要素は、本明細書において、dd(FcH)と称される、非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖の重鎖二量体化ドメインの態様である。非常に重要であるのは、dd(FcH)が、本明細書に開示するような多価組換え抗体の一部である、2つの重鎖ポリペプチドの整列および連結を容易にすることである。これに関連する連結は、例えば、dd(FcH)が、IgG分子の対形成した重鎖におけるように、CH3/CH3複合体を形成可能である、単一のCH3要素を含む態様において、完全に物理的な力によるものであることも可能である。dd(FcH)の1つの態様は、CH3、<ヒンジ>-CH3、および<ヒンジ>-CH2-CH3からなる群より選択される1つまたはそれより多い要素を含むドメインである。dd(FcH)の別の態様は、CH3、<ヒンジ>-CH3、および<ヒンジ>-CH2-CH3からなる群より選択される1つの要素からなるドメインである。ヒンジ領域が存在する限り、2つの重鎖の連結は、物理的な力によるのみではなく、本明細書に開示するような多価組換え抗体の第一および第二の重鎖におけるヒンジ領域のシステイン残基間のジスルフィド架橋にもよる。
【0099】
随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列である、リンカーアミノ酸配列Lによって、重鎖のFcH部分をN末端で伸長してもよい。
一般的に、本開示の背景において、そして本明細書のすべての側面および態様に関連して、「L」によって示される「リンカーアミノ酸配列」は、複数のドメイン、特に複数の異なるドメインを含むポリペプチドの2つのドメインを連結する、1~60アミノ酸残基を含むペプチド配列である。本明細書に開示する組換え抗体の重鎖において、リンカーアミノ酸配列は、式Iに提示するような異なる位置の随意の要素と意図される。
【0100】
リンカーアミノ酸配列は、典型的にはグリシンおよびセリンのような柔軟な残基で構成され、したがって、ポリペプチドの隣接するドメインは、互いに対して自由に動くことが可能である。2つの隣接ドメインが互いに立体的に干渉しないことを確実にすることが必要である場合、より長い配列が特に有用でありうる。特定の態様において、リンカーアミノ酸配列は、グリシンおよびセリン残基を含み、より具体的にはこれらからなる。アミノ酸、グリシンおよびセリンは双性イオン性であり、そして親水性である。これらの特性によって、これらは反復リンカー配列用に頻繁に選択される。したがって、さらにより特定の態様において、本明細書に開示するようなすべての側面および態様に関連する組換え抗体の重鎖中の各リンカーアミノ酸配列は、式XII
N末端 (GuSq)r C末端 (式XII)
式中、uは1~10より選択される整数であり、qは1~5の整数であり、そしてrは1~10の整数である
からなる群より選択される、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列を含む。さらにより特定の態様において、各リンカーアミノ酸配列は、式XIIの独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列を含み、式中、uは3または4であり、qは1であり、そしてrは3、4、5、および6からなる群より選択される。非常に特異的なリンカーアミノ酸配列は、アミノ酸配列GGGSGGGSGGGSGGGS(配列番号1)を含み、さらにより具体的には、該配列からなる。当業者は、この背景において、別のグリシンおよびセリン含有反復配列もまた、同じ技術的目的のために適切に働くことを認識する。さらに別の特定の態様において、選択されるリンカーアミノ酸配列は、(GSAT)1、(GSAT)2、(GSAT)3または(GSAT)4である。さらに別の特定の態様において、選択されるリンカーアミノ酸配列は、(SEG)1、(SEG)2、(SEG)3または(SEG)4である。
【0101】
異なる特異的態様において、選択されるリンカーアミノ酸配列は、(EAAAR)1、(EAAAR)2、(EAAAR)3、(EAAAR)4または(EAAAR)5である(Merutka Gら Biochem. 30(1991) 4245-4248; Sommese RFら Protein Sci. 19(2010) 2001-2005; Yan Wら Biochem. 46(2007) 8517-8524)。当業者は、この背景において、EAAR要素が、いずれかの端で付着する2つのドメインがより近づくことを防ぐ、より強固なリンカーの例であることを認識する。
【0102】
随意に、リンカーLを通じて、FcH部分をN末端に伸長して、CH1ドメインをヒンジドメイン(<ヒンジ>)に連結する。しかし、1つの態様において、式Iの重鎖は、IgG、IgAおよびIgDからなる群より選択されるアイソタイプの免疫グロブリン由来の連続CH1-<ヒンジ>-CH2-CH3部分を含有する。より具体的な態様において、CH1ドメインおよび<ヒンジ>-CH2-CH3部分は、ヒト、マウス、ラット、ヒツジ、およびウサギからなる群より選択される哺乳動物種に起源を有するアミノ酸配列によって代表される。例示的なCH1および<ヒンジ>-CH2-CH3部分には、表Aに示すそれぞれのアミノ酸配列が含まれる。
【0103】
表A
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
アイソタイプおよびアイソタイプ内のサブクラス間のアミノ酸相違にもかかわらず、免疫グロブリン重鎖内の各CH領域は、鎖内ジスルフィド結合によってともに連結される、三鎖-四鎖ベータシートからなる一定の構造にフォールディングされる(Schroeder H.W. & Cavacini L. J Allergy Clin Immunol. (2010) 125: S41-S52)。
【0109】
本明細書に提示するモジュラー構築はまた、本明細書のすべての側面および態様に提供するような組換え抗体の重鎖内で、1つまたはそれより多いCH1要素がCL要素によって置換されてもよいこともまた意図する。例示的なCL要素には、表Bに示すそれぞれのアミノ酸配列が含まれる。免疫グロブリン軽鎖は、その血清学的および配列特性にしたがって、カッパまたはラムダと分類される。表は、CLカッパドメインのアミノ酸を示すが、CLラムダドメインは、FabHの重鎖部分を構築する一定の要素の選択からは排除されないことが理解される。
【0110】
表B
【0111】
【0112】
当業者は、CH領域に相当するアミノ酸配列の重要でない改変は可能であり、そしてこれらのドメインの構造的特徴に干渉しないであろうという事実に気づく。
可変ドメインは、抗原特異性を決定する。各鎖(重鎖および軽鎖)由来の3つの領域中の可変ドメイン残基の多様性の大部分は、超可変領域またはCDRと称される。これらは、これらが属する鎖、およびこれらが配列中に現れる順序にしたがって命名される(L1、L2、L3、H1、H2およびH3)。可変領域中のCDRの間の領域は、フレームワーク領域(FW)と称される。
【0113】
C末端で、本明細書に提示するすべての側面および態様の組換え抗体のFcH部分を、さらなるFabH部分の一部である可変ドメインによって伸長してもよい。FabH部分のCH3要素および隣接可変ドメインの間に、随意に、リンカーアミノ酸配列Lが位置する。リンカーアミノ酸配列に関する特定の詳細および態様は上記に示している。
【0114】
組換え抗体の重鎖内で、各CH1またはCL要素をVHまたはVL要素と組み合わせて、それによってFabHの重鎖部分を形成する。所望の抗原に向けられた、あらかじめ存在する分子的に特徴づけされたモノクローナル抗体から、VHおよびVL要素を選択する。この背景において、「分子的に特徴づけされた」は、抗体操作の本質的な基礎として、選択されるあらかじめ存在するモノクローナル抗体のVHおよびVLドメインのアミノ酸配列が決定されていることを意味する。したがって、すべての側面および態様において、FabH要素は、
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
からなる群より選択される。
【0115】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の特定の態様において、2つの重鎖は同一であるかまたは非同一である。2つの非同一重鎖の例は、抗体の細胞内組み立て中、2つの重鎖の対形成および整列を導く、ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)立体配置である。別の態様において、1つの重鎖は、そのCまたはN末端にタグを伴っている。より具体的な態様において、タグは、当該技術分野に知られるヒスチジンタグなどのアフィニティタグである。別の態様において、タグはC末端に付着し、そして正荷電アミノ酸を含む。他の特定の態様において、2つの重鎖は同一である。
【0116】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の特定の態様において、多価抗体は単一特異性であり、そして抗原結合部位は同一であるかまたは異なる。
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の特定の態様において、多価抗体は単一特異性であり、そしてすべての抗原結合部位は、1つの単一の起源単一特異性モノクローナル抗体に由来し、そして起源モノクローナル抗体の抗原結合部位FabH:FabLに相当する。したがって、多価組換え抗体は、AH:ALまたはBH:BLのいずれかを含む。
【0117】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の別の特定の態様において、多価抗体は単一特異性であり、そしてAH:ALの抗原結合部位は第一のエピトープに結合可能であり、そして抗原結合部位BH:BLは第二のエピトープに結合可能であり、第一および第二のエピトープは同一である。この態様において、2つの抗原結合部位の構造組成は異なり、そしてこれらは各々が同じエピトープに結合するが、そのそれぞれの結合ポケットが異なる、2つの異なる起源の単一特異性モノクローナル抗体に由来する。さらに別の特定の態様において、抗体は単一特異性であり、そして抗原結合部位は同一であるかまたは異なり、そして抗原結合部位は、単一分子または異なる分子に含まれるエピトープに特異的に結合可能である。
【0118】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の別の特定の態様において、多価抗体は二重特異性であり、すなわち該抗体はAH:ALおよびBH:BLを含有し、そして第一の抗原結合部位は、第一のエピトープに特異的に結合可能であり、そして第二の抗原結合部位は、異なる第二のエピトープに特異的に結合可能であり、第一のエピトープおよび第二のエピトープは単一の分子中に含まれる。
【0119】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の別の特定の態様において、多価抗体は二重特異性であり、すなわち該抗体はAH:ALおよびBH:BLを含有し、そして第一の抗原結合部位は、第一のエピトープに特異的に結合可能であり、そして第二の抗原結合部位は、異なる第二のエピトープに特異的に結合可能であり、第一のエピトープは第一の分子中に含まれ、そして第二のエピトープは第二の分子中に含まれる。特定の態様において、第一および第二の分子は同一であるかまたは非同一である。別の特定の態様において、2つの分子は凝集体または複合体中に含まれる。
【0120】
本明細書に開示する多価組換え抗体のすべての側面の別の特定の態様において、多価抗体は検出可能な標識にカップリングしている。原則として、イムノアッセイを設計する当業者に知られるすべての標識が可能である。特に、検出可能標識は、基質の反応を触媒可能な酵素であり、ここで反応する基質は水溶性であるかあるいは水不溶性の色素または着色剤である。あるいは、酵素は基質の反応を触媒し、ここで基質の反応は光子放出を生じる。好ましい態様において、標識は化学発光剤であり、より具体的には、多価組換え抗体に共有連結されることが可能な電気化学発光化合物である。特定の電気化学発光化合物は、例えばStaffilani M.ら Inorg. Chem. 42(2003) 7789-7798に記載されるようなルテニウム含有(ルテニウム錯体)化合物、および当該技術分野に知られる他のルテニウムまたはイリジウム含有(ルテニウムまたはイリジウム錯体)化合物である。
【0121】
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第二の側面として、本開示は、抗原検出のためのアッセイにおける多価抗体の使用であって、抗体がキメラまたは非キメラ多価組換え抗体であって、該抗体が、p個の軽鎖ポリペプチドFabL、および2つの重鎖ポリペプチドの二量体を含み、ここで、各重鎖ポリペプチドが式I
N末端 [FabH-L-]nFabH-L-dd(FcH)[-L-FabH]m C末端 (式I)
の構造を有し、
ここで
(q)pは6、8、および10からなる群より選択される値であり、
mおよびnは各々、1~3の整数より独立に選択され、そして
mおよびnは各々、pの値が(2+2*(n+m))に等しいように選択され;
(r)”-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;
(s)各Lは随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列であり;
(t)各dd(FcH)は、非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖の重鎖二量体化領域であり;
(u)二量体において、2つのdd(FcH)は、物理的に近接して互いに整列され;
(v)各FabHは、AHおよびBHより独立に選択され、ここでAHおよびBHは異なり、そしてAHおよびBHは
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
式中、
VHはN末端免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、
VLはN末端免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、
CH1はC末端免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そして
CLはC末端免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである
からなる群より独立に選択され;
(w)各FabLは、ALおよびBLより独立に選択され、ここでALおよびBLは異なり、そしてALおよびBLは
N末端 [VH-CH1]L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択され;
(x)抗体の各抗原結合部位FabH:FabLは、整列した対(整列は「:」によって示される)であり、ここで整列した対は各々、AH:ALおよびBH:BLからなる群より独立に選択され、ここでAH:ALおよびBH:BLは
[VL-CH1]H:[VH-CL]L、
[VL-CL]H:[VH-CH1]L、
[VH-CH1]H:[VL-CL]L、および
[VH-CL]H:[VL-CH1]L
からなる群より独立に選択され、そして整列した対各々において、それぞれのCLおよびCH1はジスルフィド結合を通じて共有連結されている
前記使用を提供する。
【0122】
本明細書に開示するような使用の特定の態様において、アッセイは、抗原が第一の捕捉抗体および第二の検出剤抗体によって結合される、サンドイッチアッセイである。本明細書に開示するようなすべての他の側面および態様にしたがった使用の特定の態様において、多価抗体は捕捉抗体である。本明細書に開示するようなすべての他の側面および態様にしたがった使用の別の特定の態様において、多価抗体は標識検出剤抗体である。
【0123】
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第三の側面として、本開示は、本開示の第一の側面に開示するようなキメラまたは非キメラ多価組換え抗体を含むキットを提供する。特定の態様において、キットは、検出可能標識をさらに含む。さらに別の態様において、検出可能標識は、多価組換え抗体に付着する。さらなる態様において、キットは、特異的結合パートナー抗Xでコーティングされた磁気粒子、および多価組換え抗体もまた結合する抗原に結合可能な捕捉剤をさらに含み、捕捉剤はXとコンジュゲート化され、そしてXおよび抗Xは安定な複合体を形成可能である。
【0124】
本明細書に報告するすべての他の側面および態様に関連する第四の側面として、本開示は、抗原を検出するための方法であって、本開示の第一の側面に開示するような多価組換え抗体を抗原と接触させ、それによって抗原および多価組換え抗体の複合体を形成した後、形成された複合体を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む、前記方法を提供する。特定の態様において、該方法は、(a)本開示にしたがった多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、(b)工程(a)の試料および多価組換え抗体をインキュベーションし、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能であるならば、抗原および多価組換え抗体の複合体が形成され、(c)工程(b)で形成された複合体を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む。別の特定の態様において、こうした検出は定性的であり、すなわち液体試料中の抗原の存在または非存在を検出する。別の態様において、検出は定量的であり、すなわち液体試料、さらにより特定の態様において、抗原を含有すると推測される液体試料中の抗原の量を検出する。
【0125】
1つの態様において、液体試料は、水性試料、より具体的には体液、さらにより具体的には、全血、血清、溶血化血液、血漿、血清、尿、滑液、脳脊髄液、涙液、痰、唾液、呼気凝縮液、気管支肺胞洗浄液、精液、膣液、膣潤滑液(lubrication)、母乳、乳房吸引液、羊水、リンパ、腸液、粘液、糞便懸濁物またはその清澄化上清、細胞ホモジネートまたはその清澄化上清、浸出液、汗、腹水、胆汁、胸水、心膜液等からなる群より選択される体液である。
【0126】
本明細書に開示するような第四の側面のさらに別の特定の態様において、抗原を検出するための方法は、(a)本開示にしたがった多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、(b)工程(a)の試料および多価組換え抗体をインキュベーションし、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能であるならば、抗原および多価組換え抗体の複合体が形成され、(c)工程(b)で形成された複合体を固定し、そして(d)固定された複合体を検出し、それによって、定量的または定性的に、抗原を検出する工程を含む。
【0127】
本明細書に開示するような第四の側面のさらに別の特定の態様において、方法は、(a)本開示にしたがった標識多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、(b)工程(a)の試料および標識多価組換え抗体をインキュベーションし、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に標識多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能であるならば、抗原および標識多価組換え抗体の複合体が形成され、(c)工程(b)で形成された複合体を固定し、そして(d)固定された標識を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む。さらなる特定の態様において、この方法は、本開示のキットを用いて好適に実行される。
【0128】
1つの態様において、検出可能標識、例えば限定されるわけではないが、電気化学発光によって検出されることが可能な標識を多価組換え抗体に付着させ、そして該方法は、(a)本開示にしたがった標識多価組換え抗体を、抗原を含有すると推測される液体試料と混合し、(b)工程(a)の試料および標識多価組換え抗体、特異的結合パートナー抗Xでコーティングされた磁気粒子、および多価組換え抗体もまた結合する抗原に結合可能な捕捉剤をインキュベーションし、ここで、捕捉試薬はXとコンジュゲート化され、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に標識多価組換え抗体および捕捉試薬の両方と接触するようにアクセス可能であるならば、コーティングされた磁気粒子、捕捉試薬、抗原および標識多価組換え抗体のサンドイッチ複合体が形成され、(c)工程(b)で形成されたサンドイッチ複合体を固定し、そして(d)固定された標識を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む。さらなる特定の態様において、この方法は、本開示のキットを用いて好適に実行される。
【0129】
さらに別の態様において、方法は、本開示にしたがった標識多価組換え抗体を、表面上に抗原を含有すると推測される固相に添加し、工程(a)の固相および標識多価組換え抗体をインキュベーションし、それによって、抗原が存在し、そしてインキュベーション中に標識多価組換え抗体と接触するようにアクセス可能であるならば、抗原および標識多価組換え抗体の複合体が形成され、その後、固相を洗浄し、それによって複合体化していない標識多価組換え抗体を取り除き、その後、固相上の標識を検出し、それによって抗原を検出する工程を含む。より特異的な態様において、固相は抗原を捕捉可能であり、そして工程(a)の前に、抗原を含有すると推測される液体試料と固相を接触させる工程を実行し、ここで抗原が存在し、そして固相によって捕捉されるようにアクセス可能であるならば、抗原が固相によって捕捉される。
【0130】
以下の実施例および図は、本発明の理解を補助するために提供され、本発明の真の範囲は付随する請求項に示される。示す方法において、本発明の精神から逸脱することなく、修飾を行ってもよいことが理解される。
【実施例】
【0131】
実施例1
一般的な知識、方法および技術
当該技術分野に知られる標準法を用いた。分子クローニング法は、例えば、Sambrook J. ”The condensed protocols from Molecular cloning: A laboratory manual” Cold Spring Harbor Laboratory Press(2006)に提供される。組換え抗体産生技術は、例えば、Ossipow V. & Fischer N.(監修) ”Monoclonal Antibodies”, Methods in Molecular Biology Vol. 1131(2014) Springerに提供される。タンパク質化学技術は、例えば、Hermanson, G. ”Bioconjugate Techniques” 第3版(2013) Academic Pressに提供される。バイオインフォマティクス法は、例えば、Keith J.M.(監修) ”Bioinformatics” Vol. IおよびVol. II、Methods in Molecular Biology Vol. 1525およびVol. 1526(2017) Springer、ならびにMartin, A.C.R. & Allen, J. ”Bioinformatics Tools for Analysis of Antibodies” : Dubel S. & Reichert J.M.(監修) ”Handbook of Therapeutic Antibodies”中 Wiley-VCH(2014)に提供される。イムノアッセイおよび関連法は、例えば、Wild D.(監修) ”The Immunoassay Handbook” 第4版(2013) Elsevierに提供される。電気化学発光標識としてのルテニウム錯体は、例えば、Staffilani M.ら Inorg. Chem. 42(2003) 7789-7798に提供される。典型的には、電気化学発光(ECL)に基づくイムノアッセイの実行に関しては、別に示さない限り、各々標準条件下で用いる、Elecsys 2010分析装置、または後継の系、例えばRoche分析装置(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ・マンハイム)、例えばE170、cobas e 601モジュール、cobas e 602モジュール、cobas e 801モジュール、およびcobas e 411、ならびにこれらの分析装置のために設計されたRoche Elecsysアッセイを用いた。
【0132】
実施例2
イムノアッセイにおいて使用するための特定剤(specifier)を生成するための以前確立されたワークフロー
確立された方法およびプロトコルを用いて、ハイブリドーマ細胞または形質転換哺乳動物宿主細胞を用い、所望の特異性およびターゲット結合特性を持つIgGアイソタイプのモノクローナル抗体を、組換え的に産生し、ここで抗体産生細胞は、抗体を上清内に分泌する。ヒト、ネズミ、ヒツジまたはウサギ起源である、異なる抗体を産生した。各場合で、クロマトグラフィ技術および分画を用いて、上清からそれぞれの抗体を精製した。
【0133】
1つの態様において、精製IgGを酵素切断に供して、Fab断片またはF(ab’)2断片を生じた。F(ab’)2断片を精製し、そしてそれによってFc部分から分離した。精製F(ab’)2断片を化学的に架橋して、異なる分子量を持つオリゴマーの混合物を形成した。
図1Aはこうしたオリゴマーを示し、F(ab’)2が架橋の化学的コンジュゲート化プロセスにおいて組み合わされるランダム性を例示する。クロマトグラフィ分離技術を用いて、混合物を分画し、そして所望のサイズのF(ab’)2オリゴマーを含有する分画をプールした。
【0134】
別の態様において、精製IgGを酵素切断に供して、Fab断片を生成した。Fab断片を精製し、そしてそれによってFc部分から分離した。精製Fab断片を化学的に架橋して、異なる分子量を持つオリゴマーの混合物を形成した。クロマトグラフィ分離技術を用いて、混合物を分画し、そして所望のサイズのFabオリゴマーを含有する分画をプールした。
【0135】
随意に、あらかじめ酵素切断せずに、IgG分子をオリゴマー化した。
図1Bは、F(ab’)2断片を用いて、
図1Aに模式的に示すオリゴマーを生成する例示的架橋実験の結果を示すクロマトグラフを示す。
図1Bにおいて、(a)および(b)と示すピークの間の領域は、異なるサイズのオリゴマーに相当することを認識することが重要である。
【0136】
実際に、これらは分画として収集され、そして分画は別個に試験され、そして標識され、イムノアッセイにおいて用いられることの適切性に関して特徴づけされる。この目的のため、オリゴマーを供するワークフローは、実施例8の多価組換え抗体に関して記載されるワークフローに類似である。すなわち、形成されたオリゴマーの不均一混合物をサイズによって分画し、そして各サイズ分画の試料を、オリゴマーあたり異なる平均標識密度で標識した。続いて、各標識オリゴマー試料に関して、シグナル対ノイズ比を決定し、そして最適な性能の試料(すなわち最高のシグナル対ノイズ比を持つもの)を選択した。選択した試料に対応するオリゴマーサイズ分画を、最適と決定された、それぞれの試料に関して見出された値にしたがった密度で標識した。
【0137】
所望のサイズの精製IgG、F(ab’)2またはFabオリゴマーを、検出可能標識でコンジュゲート化し;典型的にはルテニウムに基づく標識を用いて、検出試薬を生成した。上述のような所望のサイズ範囲の標識オリゴマーをイムノアッセイにおいて用い、ここで、電気化学発光(ECL)によってシグナルを生成することにより、イムノアッセイの検出工程を実行した。
【0138】
実施例3
多価IgG由来抗体の産生のための発現ベクター
図2Eに示すような八価IgG(P8)抗体のための発現構築物を例示する。
図3Aに示すように、リンカー配列(例えば(G
3S)
4)が隣接する複数のVH-CH1配列を、ヒンジ-CH2-CH3コード配列の上流および下流に付加し、それによっていくつかのVH-CH1ドメインをコードする重鎖を生成した。ベクターマップにおいて、重鎖コード配列は2回示され、最初は連続して描かれる矢印として、そして第二は、各々、完全重鎖のモジュラー構築ブロックに相当するいくつかの矢印の複合体としてである。
【0139】
図3Aのベクターを、
図3Bのベクターと同時発現する。この軽鎖発現ベクターは、VLおよび定常ドメイン(カッパまたはラムダ)からなる標準軽鎖を発現する。
したがって、
図3AおよびBは、重鎖および軽鎖ベクターの例を示す。式Iに示すような構築ブロックを、IgG(P8)を発現するために用いたものに関して示すように、追加してもよい。
【0140】
重鎖と、対応する軽鎖に関するベクターを同時発現するために、類似の構築物を作製し、ここで、重鎖のベクターは、式I
N末端 [FabH-L-]nFabH-L-dd(FcH)[-L-FabH]m C末端 (式I)
ここで
(a)mおよびnは各々、1~5の整数より独立に選択され、
mおよびnは各々、(2+2*(n+m))の値が、6、8、10、および12からなる群より選択される値であるように選択され;
(b)”-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;
(c)各Lは随意であり、そして存在する場合、独立に選択される可変リンカーアミノ酸配列、特に、排他的ではないがリンカーアミノ酸配列(G3S)4であり;
(d)FcHは、N末端ヒンジドメインを含む非抗原結合免疫グロブリン領域の重鎖であり;
(e)各FabHは、AHおよびBHより独立に選択され、ここでAHおよびBHは異なり、そしてAHおよびBHは
N末端 [VH-CH1]H C末端 (式II)、
N末端 [VH-CL]H C末端 (式III)、
N末端 [VL-CL]H C末端 (式IV)、および
N末端 [VL-CH1]H C末端 (式V)
式中、
VHはN末端免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、
VLはN末端免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、
CH1はC末端免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1であり、そして
CLはC末端免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである
からなる群より独立に選択される
の異なる構造をコードした。
【0141】
軽鎖に対応する発現のためのベクターは、FabLポリペプチドをコードし、
ここで
(a)”-”はポリペプチド鎖内の共有結合であり;そして
(b)各FabLは、ALおよびBLより独立に選択され、ここでALおよびBLは異なり、そしてALおよびBLは
N末端 [VH-CH1]L C末端 (式VI)、
N末端 [VH-CL]L C末端 (式VII)、
N末端 [VL-CL]L C末端 (式VIII)、および
N末端 [VL-CH1]L C末端 (式IX)
からなる群より独立に選択された。
【0142】
重要なことに、抗体の各抗原結合部位FabH:FabLは、整列した対(整列は「:」によって示される)でなければならなかった。したがって、形質転換宿主細胞において同時発現させようとするFabHおよびFabL配列は、FabHおよびFabL部分が整列した対を形成可能であるように選択され、そして整列した対は各々、AH:ALおよびBH:BLからなる群より独立に選択され、ここでAH:ALおよびBH:BLは
[VL-CH1]H:[VH-CL]L、
[VL-CL]H:[VH-CH1]L、
[VH-CH1]H:[VL-CL]L、および
[VH-CL]H:[VL-CH1]L
からなる群より独立に選択された。
【0143】
上記の変異もまた作製してもよい。例えば重鎖中のFcHのより高次の要素を、CH3要素のみに短縮した。また、FcHとは異なる種に由来する1つまたはそれより多いFabHを、重鎖発現ベクター中で組み合わせて、したがってキメラ重鎖をコードさせた。大部分の場合、軽鎖ポリペプチドの発現のためのベクターは、1つのFabLコード配列を含んだ。しかし、2つの異なる軽鎖発現カセットを含む軽鎖ベクターもまた設計した。
【0144】
実施例4
多価組換え抗TSH抗体の組換え発現および精製
多価単一特異性抗TSH抗体(TSH=ヒト甲状腺刺激ホルモン)を組換え的に産生した。体系的な比較の目的のため、
図2C、D、EおよびFに示され、そしてそれぞれIgG(P4)、IgG(P6)、IgG(P8)およびIgG(P12)と称される多価組換え抗体の異なる設計を用いて、抗TSH結合部位(A
H:A
L)を提供した。
【0145】
組換え発現を、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞において一過性に、あるいはCHO細胞において一過性にまたは非一過性に行った。形質転換細胞は、多価単一特異性抗TSH抗体を血清不含培養上清内に分泌し、該上清から該抗体を単離した。
【0146】
元来の二価抗TSHモノクローナル抗体と同様に、十分な量で、そして培養上清のプロテインAアフィニティクロマトグラフィを用いた精製中に有意な損失を伴わずに、多価抗TSH抗体を産生可能であった。あるいは、イオン交換クロマトグラフィ(IEX)を用い、これに培養上清を供して、多価組換え抗体を精製した。
【0147】
試験したすべての抗体形式で観察される凝集体の割合は、常に、総抗体タンパク質の5%未満であった。凝集体関連ピークは、
図4B、Cにおいて、それぞれの主なピークの左側に、小さい肩として見られうる。
【0148】
表1は、GFC300またはTSK4000ゲル濾過(示すようなクロマトグラフィ精製後)によって観察される発現収量および凝集体量を示す。ゲル濾過の詳細に関してはまた、実施例5も参照されたい。表1に提供するIgG参照は、元来の二価抗TSHモノクローナル抗体に関して得られたデータを反映する(TSH=甲状腺刺激ホルモン)。
【0149】
表1
【0150】
【0151】
実施例5
精製多価組換え抗体の分析論
上述の実施例4におけるように、多価単一特異性抗TSH抗体を産生し、そして精製した。試験したすべての抗体で、プロテインAを用いた精製/単離を行った。単離二価および多価単一特異性抗TSH抗体を分析用サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)に供した。さらに、単離二価および多価単一特異性抗TSH抗体をSDS-PAGEに供した。各場合で、IgG抗TSHモノクローナル抗体を、分析実験における参照と同様に単離し、そして用いた。
【0152】
図6は、サイズマーカータンパク質に比較したPAGEの結果を示す。特に、異なるサイズの重鎖、ならびにバンド強度として可視である異なる量の軽鎖が認識可能である。ゲルはまた、調製物の純度も示す。
【0153】
図4は、TSKゲルQC-PAK GFC 300(東ソー)クロマトグラフィ材料を用いたサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)実験の結果を示す。
図4Aは、較正標準(異なる分子量に関するマーカー)の結果を示し、ここで、6つのピークは、以下のマーカー(左から右へ)に相当する:ベータ-ガラクトシダーゼの二量体、ベータ-ガラクトシダーゼ(465kDa)、ヒツジIgG(150kDa)、ヒツジFab(50kDa)、ミオシン軽鎖(17kDa)、グリシン-チロシン・ジペプチド(233Da)。
【0154】
MAB<TSH>クローン1の多価組換え型に関して、
図4B、C、およびDは、それぞれ、IgG(P4)、IgG(P6)、およびIgG(P8)の結果を示す。
図4BおよびCにおいて、主なピークの左側の小さいピークは、それぞれの組換え多価抗体の少量の凝集体に相当すると解釈された。驚くべきことに、
図4Dには余分なピークが欠けており、凝集体が、TSKゲルQC-PAK GFC300(東ソー)クロマトグラフィ材料を用いたこの調製物には検出可能には存在しなかったことを示す。
【0155】
異なるクロマトグラフィ材料を用いて同じ実験を反復した。
図5は、TSKゲルG4000SWxl(東ソー)クロマトグラフィ材料を用いて得た結果を示す。
図5Aは、同じ標準、ベータ-ガラクトシダーゼの二量体、ベータ-ガラクトシダーゼ(465kDa)、ヒツジIgG(150kDa)、ヒツジFab(50kDa)、ミオシン軽鎖(17kDa)、グリシン-チロシン・ジペプチド(233Da)の結果を示す。ヒツジIgG(150kDa)、ヒツジFab(50kDa)によって生じるピークは、明らかに別個のピークとしては分離されないが、右側にFabに相当する肩を持つ広いピークを生じた。
【0156】
図5Bは、MAB<TSH>クローン1 IgG(P8)の結果を示す。主なピークの左側の肩は、凝集体の存在を示すが、非常に少量である。
要約すると、組換え的に発現された多価単一特異性抗体は、大きな努力を伴わずに、そして高純度で、産生および精製可能であると結論付けられた。
【0157】
実施例6
ターゲット結合動力学の特徴づけ
上述の実施例4におけるように、多価単一特異性抗TSH抗体を産生し、そして精製した。GE Healthcare Biacore 4000装置上、37℃で動力学分析を行った。Biacore CM5シリーズSセンサーを装置に搭載し、そして製造者の指示にしたがって、水力学的にアドレス指定し(addressed)そしてプレコンディショニングした。系の緩衝液は、HBS-EP(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.05%(w/v)P20)であった。試料緩衝液は、1mg/ml CMD(カルボキシメチルデキストラン、Fluka)を補充した系の緩衝液であった。
【0158】
バイオセンサー上で、以下の捕捉系を確立した。製造者の指示にしたがって、NHS/EDC化学を用いて、モノクローナル抗ヒトIgG Fc捕捉抗体を固定した。続いて、1MエタノールアミンpH8.5でセンサーを飽和させた。固定抗体をそれぞれの組換え多価抗体で飽和させた。相互作用測定および参照には、異なる捕捉スポットを用いた。組換え的に産生したTSHターゲット抗原を試料緩衝液中で異なる比に希釈し、そして30μl/分の流速で1分間注入した。反応単位(RU)での組換え抗体捕捉レベル(CL)を監視した。
【0159】
表3は、異なる多価組換え抗体、および比較のためのIgGに関して得た結果を示す。KDは、抗体および抗原の間の平衡解離定数を示し、そしてその値は[nM]で示される。パラメータkоnは、[1/Ms]として示される会合速度を反映し、そしてKoffは、[1/s]として示される解離速度を反映する。パラメータt/2dissは、[分]で示される、抗体に結合する分析物の半減期を示す。多価組換え抗体の所定のモル量によって結合される抗原のモル量の比を、AG/ABとして示す。
【0160】
表3
【0161】
【0162】
「E+05」表示に関しては:当業者の一般的な理解と一致して、105を乗じる。
驚くべきことに、見出されたモル比は、それぞれの抗体の抗原結合部位の量と非常に緊密に相関していた。この結果から、本明細書に記載するような多価組換え抗体は、実際に、その設計にレイアウトされるように多くの機能的抗原結合部位を提供すると結論付けることが可能である。したがって、該設計は、多価ターゲット結合機能(抗原結合部位)を、簡単に、そして再現可能に組み立て、そして実際に分子設計に基づいた予測を反映することを可能にする。これは、これまでに確立された技術を用いて得られる多価オリゴマーと明確に対照的である(実施例2を参照されたい)。
【0163】
実施例7
多価組換え抗体の標識
標識取り込みが増加したルテニウムコンジュゲートを生成した。標識実験において、精製多価組換え抗体を用いた。組換え抗体は
図2C、D、EおよびFに示す通りであり、そしてそれぞれ、IgG(P4)、IgG(P6)、IgG(P8)およびIgG(P12)と称された。標識実験において、標準的NHSエステルカップリング化学を用いて、異なる量のそれぞれの抗体を、標識試薬、tris-ビピリジル-ルテニウムまたはそのスルホン化型(「sBPRu」とも称される)のいずれかと反応させた。これらの条件下で、ルテニウム標識は、抗体主鎖のリジンアミノ酸残基の官能基に共有結合する。
【0164】
抗体あたりのタンパク質結合標識分子の数として、ルテニウム標識の平均取り込みを決定できる。これは、標識抗体の試料において、タンパク質の量およびルテニウム標識の量を別個に決定することによって、定量的に測定可能である。例示的な方法論的アプローチは、測光決定の質量分析である。
【0165】
表4は、sBPRuの取り込み速度に関する、異なる多価組換え抗体およびIgGの比較を示す。
表4
【0166】
【0167】
驚くべきことに、特に、P6およびP8抗体は、特に高い値を示すことが見出された。したがって、P6およびP8は、特に効率的な標識を可能にする。
NHSエステル(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)共役化学を用いた、他の標識での他の標識反応で、類似の結果が観察された。
【0168】
実施例8
ルテニウム標識抗体によって生成される電気化学発光シグナルカウント
上記実施例4におけるように、多価単一特異性抗TSH抗体を産生し、そして精製した。
【0169】
Rocheカタログ番号07028091190の抗TSH Roche Cobas Elecsysアッセイを、記載するような変形で実行した。Cobasアッセイのルテニウム標識検出剤(Ru標識オリゴマー抗体断片)のみを、あらかじめ決定した特定の密度のルテニウム標識の組換え多量体抗体によって置換した。
【0170】
同様に、IgGを参照として用いた。IgGおよびIgG(P8)の例示的な結果を、ブランク較正測定(ターゲット抗原が存在しない、ヌル測定)に関して
図12Aに、そして5μU TSH/mlのターゲット抗原濃度での測定に関して
図12Bに示す。各図において、縦軸は電気化学発光シグナル強度、すなわちElecsys装置によって検出されるルテニウム光カウントを示し;横軸は、抗体あたりの取り込まれたルテニウム標識の平均密度を示す。
【0171】
データは、ブランクを含む実験(TSH抗原が存在しない)において、標識密度増加の関数としてのシグナル増加が、多価構築物IgG(P8)と比較して、IgGに関してより高いことを示す。ブランクで得られたシグナルはまた、「ノイズ」とも称される。
【0172】
TSHターゲットを5μU TSH/mlの濃度で測定した際、同様の知見が観察された。実際に存在する抗原に基づいて測定した値を、「シグナル」と称する。
IgG(P8)およびIgGは同じノイズまたはシグナルを生じることが可能であり、それによって、試験条件下で、IgG(P8)は常に、ほぼ同等の多量の光電気化学発光光カウントを生じるIgGよりも、より高い標識密度を有することが見出された。
【0173】
この知見は、標識IgG(P8)が、IgGとは対照的に、技術的により好ましいシグナル対ノイズ比を生じることが可能であることを示すと解釈された。
表5は、IgGに関して得られる測定値を示し、これは
図12Aのグラフの基礎である。
【0174】
表5
A
【0175】
【0176】
B
【0177】
【0178】
S/N:シグナル対ノイズ比
ルテニウム取り込みは、抗体あたりのRu標識の平均量を示す。
表6は、IgG(P8)に関して得られる測定値を示し、これは
図12Bのグラフの基礎である。
【0179】
表6
A
【0180】
【0181】
B
【0182】
【0183】
C
【0184】
【0185】
D
【0186】
【0187】
S/N:シグナル対ノイズ比
ルテニウム取り込みは、抗体あたりのRu標識の平均量を示す。
実施例9
イムノアッセイにおいて最適シグナル対ノイズ比を得るための組換え抗体あたりの最適標識密度の決定
上記実施例4におけるように、多価単一特異性抗TSH抗体を産生し、そして精製した。
【0188】
最初に、ある量の標準物質TSH抗原(5μU TSH/ml、Rocheカタログ番号07028091190のRoche Cobas Elecsysアッセイによって決定するようなもの、Roche Diagnostics GmbH、ドイツ・マンハイム)を提供した。
図2C、D、EおよびFに示すような、それぞれIgG(P4)、IgG(P6)、IgG(P8)およびIgG(P12)と称される抗TSH多価組換え抗体もまた提供した。参照として、TSH特異的IgGを提供した。重要なことに、各抗体を異なる試料中で提供し、ここで、試料は、それぞれの抗体あたりの平均標識密度に関して異なった。
【0189】
実施例8に記載するような一連の実験において、特定のあらかじめ決定された平均標識密度を持つ各抗体をElecsys実行で用い、そして5μU TSH/mlに対応するシグナルカウントを記録した。続いて、Rocheカタログ番号07028091190の元来の抗TSH Roche Cobas Elecsysアッセイを用いて決定した対応する値に対して、標識抗体に関する測定されたシグナル対ノイズ比各々を規準化した。
【0190】
したがって、結果を例示する
図7A~Fの図各々は、元来の抗TSH Roche Cobas Elecsysアッセイで得た測定値に対応した100%マークで割合を示すスケールを伴う縦軸を含む。この方式で、元来のアッセイの100%参照値に対して規準化された測定値各々は、規準化値を生成したそれぞれの標識抗体の検出能に関する指標を提供する。規準化値が100%より低い場合、所定の標識密度を持つそれぞれの抗体は、技術的により好ましくなく;他方で、100%より高い規準化値は、元来のアッセイの標識オリゴマーを凌ぐより好ましいシグナル対ノイズ比を持つ抗体に相当する。
【0191】
標識抗体を用いた実験において、これらは、化学的に連結された抗体断片の標識オリゴマーを置換する、元来のアッセイにおいて変化した唯一の構成要素であったことを認識することが重要である。
【0192】
図7において、AはIgGで得た結果を示し、BはIgG(P4)で得た結果を示し、CはIgG(P6)で得た結果を示し、DはIgG(P8)で得た結果を示し、そしてEはIgG(P12)で得た結果を示す。
図7Fは、A~Eの重ね合わせ、したがってすべての結果の組み合わせを示す。特に、標識の特定の装填を伴うIgG(P6)およびIgG(P8)が元来のアッセイを凌ぐことが可能であることが明らかになった。したがって、規準化データを用いて決定されるような平均の好ましい標識密度は、望ましいイムノアッセイ、特に診断イムノアッセイで使用するために適した最適の性能の標識コンジュゲートを定義することを可能にした。最高の相対値を導く標識密度のこうした組換え多価抗体を、さらなる実験のために選択した。標識IgGに関して同じものを作製した。
【0193】
これに関連して、実施例2に記載するように、化学的に連結された抗体またはその断片の新規に合成されたバッチ各々に関してもまた、上述するような最適標識密度を同定するプロセスを実行することが注目される。すなわち、オリゴマーサイズおよび標識密度のどの組み合わせが、元来のアッセイと同等の結果を産生可能であるかを見出すため、オリゴマーのサイズ分画をルーチンに異なる密度に標識する。
【0194】
したがって、最適標識密度を決定する選択プロセスは、一般的な方式で、当該技術分野においてすでに確立された標準的実施に相当する。
実施例10
異なる濃度のTSH抗原の検出のための多価抗TSH抗体の評価、および標準的抗体断片オリゴマーとの比較
検出試薬としてルテニウムで標識された化学的に連結されたIgG断片を含む、Rocheカタログ番号07028091190の元来の抗TSH Roche Cobas Elecsysアッセイを用いて、TSH抗原の希釈シリーズを測定し、ここで、TSH抗原の希釈物を含有する各アリコットを、Rocheカタログ番号1173277122(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ・マンハイム)として商業的に入手可能な普遍的希釈剤中で調製した。希釈アリコットによって提供される一連のTSH濃度は、患者集団の少なくとも95%の生理学的濃度範囲に相当するように選択された。
【0195】
続いて、最適標識密度を持つ多価抗TSH抗体(実施例9を参照されたい)によって検出試薬を置換した。表7および8は結果を要約し、ここで、シグナル対ノイズ比を、元来の検出試薬を用いた、すなわちルテニウムで標識された化学的に連結された抗体断片を含む標準アッセイに対してのパーセンテージ値として表にしている。表8のデータに関して、さらなる前洗浄工程を含めた後、測定を行った。すなわち、検出複合体をElecsys装置の測定セル内に進める前に、検出複合体を磁気固定し、そしてさらなる体積の緩衝剤で洗浄し、それによって望ましくない構成要素をより効率的に取り除いた。表7は、前洗浄工程を伴わず、したがって、幾分低いシグナル対ノイズ比を導く測定のデータを提示する。
【0196】
表7
【0197】
【0198】
前洗浄を伴わない測定
表8
【0199】
【0200】
前洗浄を伴う測定
シグナル対ノイズ(s/n)値を計算し、そしてRocheカタログ番号07028091190の現在の商業的TSH Elecsysアッセイに関して規準化した。結果は、多価IgG(P6)およびIgG(P8)由来のコンジュゲートが、高および低TSH濃度で、共有化学架橋抗体断片を含む標準的検出試薬を含む元来のアッセイよりも、160%よりもより優れた値で、シグナル対ノイズに関して最高の結果を示すことを示した。
【0201】
実施例11
抗トロポニンT(TN-T)多価抗体IgG(P8)
八価抗体のための重鎖および軽鎖発現ベクターを構築し、そして抗体を血清不含培養上清内に分泌するHEK293F宿主細胞において一過性に発現させた。プロテインAアフィニティクロマトグラフィを用いて上清から抗体を単離した。精製抗体は、61mg/l上清の収量で産生可能であった。GFC300分析SECによって、精製多価抗TNT抗体が純粋であり、そして少量の凝集のみを示すことが示された。
【0202】
図13BはSEC分析の結果を示し、
図13Aは
図10Aに示すものと同じサイズ標準を提供する。
IgG(P8)ルテニウムコンジュゲートを生成して、元来のRoche Elecsysアッセイの元来の標準的化学架橋Ruコンジュゲート、カタログ番号05092744190(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ・マンハイム)を置換した。4.5~4000ng/mlの範囲のターゲット抗原TN-Tの試験した濃度すべてで、IgG(P8)-Ruコンジュゲートは、Elecsys TN-Tアッセイにおいて、優れた性能を示した。
【0203】
表9のデータは、実施例10におけるデータと類似の方法で得られた。前洗浄工程を含めた。
表9
【0204】
【0205】
前洗浄を伴う測定
実施例12
抗HIV抗原多価抗体
最後に、これらの新規多価抗体形式を、HIV抗原アッセイ、カタログ番号11971611122(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ・マンハイム)で試験した。このアッセイは、2つの別個のルテニル化抗p24抗体断片オリゴマーを用いる。すなわち、第一および第二のオリゴマーは、p24ターゲットタンパク質の第一および第二のエピトープの検出のために特異的である。抗p24モノクローナルIgGクローン(EおよびD)の両方を、IgG(P4)、IgG(P6)およびIgG(P8)形式を構築するために用いた。さらに、クローンE由来の4つの抗原結合部位およびクローンD由来の4つの結合部位を用いてIgG(P8)変異体を生成し、こうして八価および二重特異性抗体を生じた。それぞれ、ヒトおよびマウスCH1およびCカッパ配列を用いることによって、二重特異性特性を生じた。すべての分子をHEK293において発現し、そしてプロテインAクロマトグラフィを通じて精製した。分析SECは、すべての多価抗p24抗体、E、Dおよび二クローン性E/D分子が、高純度で、そしてIgG(P4)、IgG(P6)およびIgG(P8)形式においては、凝集を少量しか含まずに産生可能であることを示した。すべての構築物をHEK293で発現し、プロテインAクロマトグラフィを通じて精製した。すべてのタンパク質を、最適標識取り込み率で、ルテニウムでコンジュゲート化した。
【0206】
図14Aは、
図10Aに示すクロマトグラムと類似のサイズ標準を示し;
図14B、C、およびDは、それぞれ、E特異性に関する、単一特異性抗体P4、P6、およびP8を示す。D特異的構築物に関しては、
図14Eは
図10Aに示すクロマトグラムと類似のサイズ標準を示し、
図14FおよびGは、D特異性に関する、それぞれ単一特異性抗体P4、P6を示す。
【0207】
図14Hは、
図10Aに示すクロマトグラムと類似であるが、異なるSEC材料、すなわちSuperose 6を用いた際のサイズ標準を示す。同じSEC材料を用い、D特異性に関して、単一特異性P8構築物を
図14Jに示すように分析した。
図14Kは、やはりSuperose 6 SECを用いて分析した、4つのE抗原結合部位および4つのD抗原結合部位を有する二重特異性P8構築物を示す。
【0208】
HIV-Agアッセイにおけるこれらのコンジュゲートの評価(
図7)によって、EおよびD IgG(P6)に関して、ルテニウムコンジュゲートは、化学的に重合された抗体断片(ori)、IgG(P4)およびIgG(P8)形式由来のルテニウムコンジュゲートより優れていることが示された。6D7およびE IgG(P6)-Ru由来のS/N比は、元来の試薬を供給したアッセイよりも、31%および86%より高かった。さらに、クローンD由来の4つの結合抗原部位およびクローンE由来の4つを含む、二重特異性多価IgG(P8)試薬を供給されたアッセイは、DおよびE由来のオリゴマー化抗体断片を含有するオリジナルよりも、18%より優れたs/nを示した。
【0209】
表10
【0210】
【0211】
HIV-ag Elecsysアッセイ由来のIgG(P4)、IgG(P6)およびIgG(P8)抗体を最適な標識対タンパク質比で、ルテニウムで標識した。Elecsys-HIV-Agアッセイを、現在の元来のコンジュゲート(化学的に架橋されたオリゴマー)を用いた対応するアッセイと平行して、これらのIgG(P4)、IgG(P6)およびIgG(P8)-ルテニウムコンジュゲートで実行した。HIV-Agアッセイは、2つのルテニル化および重合抗体(EおよびD)からなる。これらの各々を試験し、そして個々に新規多価変異体(AおよびB)と比較するか、または両方をE/D多価二クローン性変異体によって置換した。シグナル対ノイズ(s/n)値を計算し、そして規準化した。
【配列表】