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特許7432518マルチプルレイヤシステム、製造方法およびマルチプルレイヤシステム上に形成されるSAWデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】マルチプルレイヤシステム、製造方法およびマルチプルレイヤシステム上に形成されるSAWデバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240208BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20240208BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
H03H3/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020546397
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2019052623
(87)【国際公開番号】W WO2019170334
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】102018105290.1
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】523171814
【氏名又は名称】アールエフ360・シンガポール・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キハラ、ヨシカズ
(72)【発明者】
【氏名】ポラード、トーマス
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-156215(JP,A)
【文献】特開2002-198775(JP,A)
【文献】特表2016-502363(JP,A)
【文献】特開2011-176546(JP,A)
【文献】米国特許第05498920(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0296529(US,A1)
【文献】特開2009-010926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レイヤシステムであって、
第1の表面を有する単結晶サファイア基板と、
前記第1の表面上にエピタキシャル成長された、AlNを備え、且つ前記第1の表面から離れて面する第2の表面を有する、結晶圧電レイヤと、
を備え、
前記第1の表面は、サファイアの結晶学的R面であり、
前記単結晶サファイア基板と前記結晶圧電レイヤとの間の前記エピタキシャル関係は、
前記結晶圧電レイヤの(11-20)面(x-cut)は、サファイアの(1-102)面(R面)と平行であること、
前記結晶圧電レイヤの面内[1-100]方向は、サファイアの[-1-120]方向と平行であること、かつ、
前記結晶圧電レイヤの面内[000-1]方向(結晶学的c軸)は、サファイアの[1-10-1]方向と平行であること、
である、
レイヤシステム。
【請求項2】
前記結晶圧電レイヤは、ドーパントでドープされたAlNを備え、前記ドーパントは、AINの圧電結合を改善する、請求項1に記載のレイヤシステム。
【請求項3】
前記結晶圧電レイヤはAlScNを備え、前記結晶圧電レイヤに含まれるドーパントScの量は5~45%である、請求項1に記載のレイヤシステム。
【請求項4】
前記結晶圧電レイヤは、ScでドープされたAlNを備えるAIScNレイヤと、純粋なAlNのシードレイヤとを備え、前記純粋なAlNのシードレイヤが、前記単結晶サファイア基板と前記AlScNレイヤとの間に配置される、請求項1のうちの一項に記載のレイヤシステム。
【請求項5】
前記第2の表面上に堆積されるSiOのレイヤをさらに備える、請求項1に記載のレイヤシステム。
【請求項6】
請求項1~請求項5のうちの一項に記載の前記レイヤシステムを備え、前記第2の表面の上に配置されたインターデジタル電極構造を有する、SAWデバイス。
【請求項7】
前記インターデジタル電極構造は、所与の波長λを有する前記結晶圧電レイヤにおいてSAWを励起するように適合され、前記結晶圧電レイヤの厚みdは、0.3λ≦d≦3λの関係に従って選択される、請求項6に記載のSAWデバイス。
【請求項8】
前記第1の表面は、前記R面に対して0.5°~6°の角度δで傾斜している、請求項6に記載のSAWデバイス。
【請求項9】
前記インターデジタル電極構造は、表面法線の周りに0°~90°の回転角の面内配向を有する、請求項6に記載のSAWデバイス。
【請求項10】
前記インターデジタル電極構造は、Cuおよび/またはAlを備える、請求項6に記載のSAWデバイス。
【請求項11】
パッシベーションレイヤ、SiNのトリミングレイヤおよび温度補償レイヤのグループから選択されるさらなる機能レイヤを備える、請求項6に記載のSAWデバイス。
【請求項12】
レイヤシステムを製造するための製造方法であって、前記レイヤシステムは、前記レイヤに平行なc軸を有するAlNレイヤを備え、前記製造方法は、
A)結晶学的R面である第1の表面を有するサファイア基板を提供するステップと、
B)前記第1の表面上に純粋なAlNのシードレイヤを堆積するステップと、
C)有機金属CVD(MOCVD)、プラズマCVD(PECVD)、分子線エピタキシー(MBE)、原子レイヤ堆積(ALD)、ゾルゲル堆積、高温スパッタリング、およびパルスレーザ堆積PLDから選択される堆積技法を使用することによって、前記シードレイヤ上に、AlScNを備える圧電レイヤをエピタキシャル成長させるステップと、
を備え、
前記サファイア基板と前記圧電レイヤとの間の前記エピタキシャル関係は、
前記圧電レイヤの(11-20)面(x-cut)は、サファイアの(1-102)面(R面)と平行であること、
前記圧電レイヤの面内[1-100]方向は、サファイアの[-1-120]方向と平行であること、かつ、
前記圧電レイヤの面内[000-1]方向(結晶学的c軸)は、サファイアの[1-10-1]方向と平行であること、
である、
製造方法。
【請求項13】
D)前記圧電レイヤの上にインターデジタル電極を備える電極構造を形成するステップを備え、前記インターデジタル電極は、中間周波数を有するSAW波を生成するように適合され、
ステップC)は、前記エピタキシャル成長プロセスにおいて、前記エピタキシャル圧電レイヤの厚みdを0.3λ≦d≦3λの値に制御することを備え、ここで、λは、前記中間周波数における前記SAWの波長に一致する、
請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い圧電膜を備えるレイヤシステム、製造方法、および圧電レイヤを有するレイヤシステム上に形成されるSAWデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、500MHz~3GHz領域におけるRFフィルタを実現するためのタンタル酸リチウムLTウェハに基づく標準的なSAW技術は、移動電話システムの増え続ける性能要件を満たすために、BAWまたは温度補償SAWのような高度なマイクロ音響技術にますます取って代わられている。
【0003】
WCDMA(登録商標)およびLTE(登録商標)ベースの携帯電話は、キャリアアグリゲーション、ダイバーシティアンテナおよびMIMO概念または新しい変調方式のような高度なRF概念をサポートするために、最低損失RFフィルタ、デュプレクサおよびマルチプレクサを必要とする。新しい5G規格では、マイクロ音響デバイスの要件は、最も低い損失、温度にわたる(over)温度ドリフトの低減、より高い線形性および耐電力性、3GHzと6GHzの間の新しい周波数帯域、およびより大きいフィルタ帯域幅のようないくつかの重要な特性に関してさらに増加する。加えて、マイクロ音響デバイスのコスト、サイズおよび高さを低減することに対する継続的な要求がある。
【0004】
今日、基本的に2つのマイクロ音響技術(SAWおよびBAW)が、携帯電話用途のための高性能共振器、フィルタ、デュプレクサおよびマルチプレクサを実現するために使用される。SAW技術は、主に、タンタル酸リチウムLTまたはニオブ酸リチウムLNのような単一ウェハ材料を圧電基板として利用しており、圧電基板上には、表面音響波を励起するために適切なメタルベースの電極構造(例えば、インターデジタル(interdigital)トランスデューサ)が実現される。例えば窒化ケイ素(silicon nitride)から成るパッシベーション(passivation)レイヤ、例えばアモルファス酸化ケイ素から成る温度補償レイヤ(temperature compensation layer)、または厚メタル相互接続(thick metal interconnects)のような追加の機能レイヤが、デバイス性能をさらに改善するために使用される。
【0005】
より進歩したSAWデバイスは、キャリアウェハ上に接合された薄い圧電単結晶レイヤ(piezoelectric single crystal layer)を使用している。これらのデバイス内では、圧電レイヤ内のエネルギー閉じ込めが、導波効果(wave-guiding effect)によって実現されることができ、全体として損失がさらに低減される。レイヤシステムを適切に選択することによって、例えば、熱放散(heat dissipation)および耐電力性(power durability)を改善するために良好な熱伝導性を有する高抵抗率(high resistivity)シリコンウェハを使用することによって、または上述のような追加のレイヤを導入することによって、マイクロ音響デバイスの追加の特性が向上され得る。薄い圧電単結晶レイヤは、典型的には、周知のウェハ接合方法によって単結晶ウェハをキャリア基板上に接合し、次いでウェハ研削(grinding)および研磨(polishing)方法によって圧電ウェハを典型的には1/4波長の半分からマイクロ音響波の波長までの範囲の必要とされるレイヤ厚に薄くすることによって実現される。
【0006】
レイヤ厚に関して非常に均一な圧電レイヤを達成するには、高度な薄化方法(thinning methods)が必要である。典型的には、圧電レイヤの配向(orientation)(結晶学的配向(crystallographic orientation))は、最良のデバイス性能を達成するために、有限要素シミュレーション(FEM)のような高度なシミュレーションおよびモデリング方法に基づいて慎重に選択される。圧電ウェハ材料は、典型的には、単結晶成長法によって溶融物から成長されるので、多種多様な可能な結晶配向が利用可能である。主な欠点は、200mmおよび300mmウェハのような大径ウェハソリューションが利用できないことであり、その理由は、例えば、このような大径を有するタンタル酸リチウムウェハは、今日、生産量において利用できないからである。
【0007】
薄い圧電レイヤを実現するための異なる方法は、スパッタリング、パルスレーザ堆積(PLD:pulsed laser deposition)、有機金属CVD(MOCVD:metal-organic CVD)およびプラズマCVD(PECVD:plasma-enhanced CVD)を含む化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)、分子線エピタキシー(MBE:molecular beam epitaxy)、原子レイヤ堆積(ALD:atomic layer deposition)またはゾルゲル堆積(sol-gel deposition)のような周知の薄膜堆積法によるこのようなレイヤの堆積である。これらの技術を用いて、BAWデバイス用の圧電レイヤ(典型的には、窒化アルミニウム(aluminum nitride)AlNまたはスカンジウムドープ窒化アルミニウム(scandium doped aluminum nitride)AlScN)を、高抵抗率シリコンのような適切なウェハ基板上に成長させることが可能である。典型的には、BAWデバイス用のAlNベースの圧電膜は、今日、高度に配向されているが多結晶の薄膜が基板表面に垂直な結晶学的c軸の配向で実現されるスパッタリング法によって成長される。これらの高配向多結晶圧電レイヤは、AlNベースの圧電レイヤの結晶学的c軸に沿った縦波(longitudinal waves)の伝搬を非常に良くサポートする。この設計および構造により、低損失BAW共振器およびデバイスを実現することができる。それにもかかわらず、AlNベースの圧電レイヤのエピタキシャル成長は、典型的に使用される低温スパッタ法では達成できないので、AlNベースの微結晶(crystallites)の面内配向(in-plane orientation)は、実際の単結晶またはエピタキシャルレイヤと比較してより顕著ではない。
【0008】
典型的には、薄膜堆積法による薄膜圧電レイヤの実現は、単結晶ウェハを用いた接合および薄化手法と比較して、非常に良好な厚さ制御、良好なレイヤ接着、低コストプロセス、低い材料消費、ウェハラインへの完全な統合、大直径ウェハ上のレイヤの実現、および化学レイヤ組成の容易な変更のような著しい利点を有する。
【0009】
したがって、上述の単結晶手法と比較した薄膜手法と、BAW設計と比較したSAW設計の柔軟性との両方から利益を得るために、SAWデバイスの実現のためにそのようなAlNベースの薄膜を利用して、いくつかの手法(approaches)が行われてきた。SAWは、リソグラフィ法によって優れた均一性(uniformity)でパターニングされ、1つのプロセスステップですべてが異なる周波数を有する複数の共振器の実現を可能にする。BAW技術では、圧電レイヤの厚さが主要な周波数規定特徴(frequency defining feature)である。トリミング方法は、高い周波数均一性を実現することを可能にする。1つのウェハ上に異なる周波数を有する共振器を実現するには、後続のレイヤの堆積およびパターニングのような複数のプロセスステップが必要である。
【0010】
薄膜堆積法によって成長させたAlNベースの圧電レイヤとSAW設計原理とを組み合わせる場合の主な制限は、AlNベースのレイヤの配向である。低温スパッタリングを使用する場合、結晶学的c軸は常に、基板表面に対してほぼ垂直に配向されるので、主圧電結合も基板表面に対して垂直であるが、基板表面上に横方向に伝搬する(laterally propagating)表面音響波は、十分に大きいフィルタ帯域幅を達成するために、表面法線(surface normal)に対して著しく傾斜したc軸を必要とする。
【0011】
また、特別な電極構成は、AlNベースのレイヤの結晶学的c軸が基板表面に対して垂直であるが、横伝搬方向を有する表面音響波またはラム波/プレートモードを励起するのに役立つことができる。それにもかかわらず、例えばScドーピングの有意なレベルを有するAlNレイヤを利用する場合であっても、この設計を用いて5%を超えるマイクロ音響共振器(micro-acoustic resonators)に関する有効結合係数(effective coupling coefficient)を達成することはほとんど不可能であり、最終的には、SAW構造とAlNベースの薄い圧電膜との組み合わせを、小さいフィルタ帯域幅しか必要とされないいくつかの用途に限定する。
【0012】
したがって、結晶学的c軸が基板表面の法線(normal)に対して著しく傾斜している、薄膜堆積法によって成長させたAlNベースの圧電薄膜を示すレイヤシステムを実現することが有益であろう。
【0013】
この目的および他の目的は、請求項1に記載のレイヤシステムによって達成される。レイヤシステムの上に形成されるSAWデバイスならびに製造方法は、さらなる請求項によって与えられる。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、基板表面にほぼ平行なc軸を有するAlNベースの圧電レイヤを有するレイヤシステムを実現する異なる手法を提供する。
【0015】
第1の表面として(ブラベーミラー表記法(Bravais Miller notation)では(1-102)面として割り当てられる)サファイアの結晶学的R面を有する単結晶サファイア基板を使用することが提案される。この第1の表面上に、AlNを含む結晶圧電レイヤを、エピタキシャル法則に従って、エピタキシャル成長させることができ、ここで、エピタキシャル法則とは、AlNベースのレイヤの(11-20)面がサファイアの(1-102)面に平行であり、AlNベースのレイヤの面内[1-100]方向がサファイアの[-1-120]方向に平行であり、AlNベースのレイヤの面内[000-1]方向(結晶学的c軸)がサファイアの[1-10-1]方向に平行であり、である。このAlNベースのレイヤのエピタキシャル成長は、結晶学的c軸が基板表面に対してほぼ平行な好ましい配向をもたらす。その結果、結晶圧電レイヤの表面である第2の表面は(11-20)面となる。
【0016】
新規なレイヤシステムでは、c軸に平行な、したがってレイヤ平面に平行な高い結合を得ることができる。その結果、圧電レイヤは、高い結合係数を達成するSAWデバイスをその上に形成するように適合される。レイヤは、エピタキシャル成長を達成するために制御可能な一般的に使用されるレイヤ成長技術によって形成されることができる。
【0017】
熱伝導性が高く、電気伝導性が低く、RF損失が低いサファイアは、高音速と組み合わせて、マイクロ音響RFデバイスを実現するのに理想的な基板材料であり、第1の表面としてR面を有するウェハ形態で利用可能である。さらに、このようなサファイアウェハは、メルト-ドローン・インゴット(a melt-drawn ingot)から切り取られる(cut)LTまたはLNからの(out of LT or LN)単結晶圧電ウェハ(monocrystalline piezo wafer)よりも大きいウェハ直径で利用可能(available)である。しかしながら、R面サファイアが利用可能であり、例えば光電子用途のためのレイヤを成長させるための基板としての元の用途にもかかわらず、R面サファイアは、マイクロ音響デバイスのための基板としてほとんど使用されていない。
【0018】
基板表面に平行な、さらに改善された高い圧電結合を有するレイヤシステムは、Scのような適切なドーパントでドープされたAlNベースの圧電レイヤを備える。Scのようなドーパントは、AlNの圧電結合を改善し、圧電レイヤの圧電応答を増大させるために使用されることができる。
【0019】
AlScNも、高温スパッタリング、PLD、MOCVD、ALDまたはMBEのような適切な堆積方法によって、新たに提案されたR面サファイア上にエピタキシャル成長させられることができる。
【0020】
レイヤシステムの使用に応じて、異なる量のドーピングが使用されることができる。したがって、一実施形態によれば、圧電レイヤはAlScNを備え、ここで、圧電レイヤに含まれるScの量は5~45at%である。しかしながら、圧電結合を改善する任意のドーパントも有利であり得る。
【0021】
好ましい実施形態では、レイヤシステムは、AlNレイヤの(11-20)面がサファイアの(1-102)面に平行であり、AlNレイヤの面内[1-100]方向がサファイアの[-1-120]方向に平行であり、AlNレイヤの面内[000-1]方向(結晶学的c軸)がサファイアの[1-10-1]方向に平行である、圧電AlNレイヤの結晶学的配向を備える。
【0022】
好ましい実施形態では、圧電レイヤは、ScでドープされたAlNを備え、エピタキシャル純アンドープAlNのシードレイヤ上に配置される。したがって、シードレイヤは、基板と圧電AlScNレイヤとの間に配置される。このAlNシードレイヤはまた、例えばScドープAlNにおける音速と比較して、AlNにおけるより大きい音速に起因して導波効果(wave guiding effect)を生成するのに役立つ。導波(wave guiding)圧電レイヤは、より低い損失で、したがってより高い効率でSAWの伝搬を可能にする。導波レイヤシステムにおいてスプリアスモード(spurious mode)の発生も抑制される。
【0023】
また、圧電レイヤのc極軸の成長方向を明確に規定するために、R面サファイア表面の0.5~6度の範囲のわずかな傾斜が必要である可能性がある。
【0024】
レイヤシステムは、第2の表面上に堆積されたSiOの温度補償レイヤ(temperature compensating layer)および/またはパッシベーションレイヤ(passivation layer)をさらに備え得る。
【0025】
エピタキシャル成長されたAlNベースのレイヤシステムを上部に有するこのウェハを使用して、AlNベースのレイヤシステムの表面上に、インターデジタルトランスデューサのような音響波を励起するための電極構造が実現されることができ、ここで結晶配向に対するこれらの構造の配向は、使用可能な波のタイプ、圧電結合、スプリアスモードの非発生、周波数の温度係数、損失メカニズム、および他の重要なパラメータに関する最適な性能が達成されるように選択されることができる。所与のレイヤシステムの変形は、レイヤシステムの表面法線の周りのIDT配向の回転によって可能である。インターデジタルトランスデューサIDTは、表面法線の周りに0°~90°の回転角を有する任意の面内配向を有し得る。
【0026】
互いにかみ合う電極構造(interdigitated electrode structure)のピッチおよび伝搬方向に沿った音速は、そのように励起可能なSAWの周波数および波長を規定する。そして、ドープAlNレイヤの好ましい厚さは、典型的には、表面音響波SAWの波長λの0.3~3.0倍の範囲に設定されることができる。
【0027】
一実施形態によれば、インターデジタル電極構造は、Cuおよび/またはAlを備える。
【0028】
パッシベーションレイヤ、SiNのトリミングレイヤおよび温度補償レイヤのグループから選択されるさらなる機能レイヤを、レイヤシステムのレイヤシーケンス(layer sequence)に、好ましくは圧電レイヤの上に組み込み得る。
【0029】
以下に、特定の実施形態および添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。図面は概略的なものにすぎず、縮尺通りに描かれていない。よりよく理解するために、いくつかの詳細は拡大して示され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、サファイア基本結晶内のR面の位置を概略的に示す。
図2図2は、第1の実施形態による、サファイアR面基板と、その上に配置されたAlScNレイヤと、SAWデバイスに関する電極構造とを備えるレイヤシステムの概略断面図を示す。
図3図3は、第2の実施形態による電極構造を有する同様のレイヤシステムを示す。
図4図4は、第1の実施形態によるレイヤシステムおよび電極構造を有するウェハの概略上面図を示す。
図5図5は、第2の実施形態によるレイヤシステムおよび電極構造を有するウェハの概略上面図を示す。
図6A図6Aは、AlScN中のScの異なる量で第1の実施形態のレイヤシステム上に構築されたSAW共振器のアドミタンス(admittance)を示す。
図6B図6Bは、AlScN中のScの異なる量で第1の実施形態のレイヤシステム上に構築されたSAW共振器のアドミタンスを示す。
図7A図7Aは、AlScN中のScの異なる量で第2の実施形態のレイヤシステム上に構築されたSAW共振器のアドミタンスを示す。
図7B図7Bは、AlScN中のScの異なる量で第2の実施形態のレイヤシステム上に構築されたSAW共振器のアドミタンスを示す。
【詳細な説明】
【0031】
図1は、サファイア結晶内のR面の位置を概略的に示す。
【0032】
40モル%のSc含有量を有するAlScNレイヤが、このR面サファイアウェハ上に直接的にエピタキシャル成長させられ得る。この場合、AlScNレイヤの[11-20]方向は基板表面の法線(x-cut AlScN)である。有利な実施形態によれば、例えば純粋でドープされていないAlNでできているシードレイヤシステムが、サファイア基板上にボトムレイヤとして成長させられることができる。このようなAlNレイヤは、エピタキシャル成長をサポートし得る。シードレイヤの厚さは、30nmと薄くすることができるが、必要に応じて適合させることができる。
【0033】
シードレイヤ上へのAlScNレイヤのエピタキシャル成長のために、堆積技術は、有機金属CVD(MOCVD)、プラズマCVD(PECVD)、分子線エピタキシー(MBE)、原子レイヤ堆積(ALD)、ゾルゲル堆積、高温スパッタリングおよびパルスレーザ堆積PLDから選択される。
【0034】
さらに、この材料内の音速がAlScN内の速度と異なるという事実により、例えばレイヤシステムの導波効果のような音響特性(acoustical properties)の改善が達成される。成長したAlScNレイヤのc軸は、サファイア基板の第1の表面に平行に配向している。
【0035】
AlScNレイヤの上に、例えばAlまたはCuベースの電極を利用するインターデジタルトランスデューサが、AlScNの結晶軸(crystallographic axes)に対して特定の配向で実現される。
【0036】
図2は、第1の実施形態による、AlNの薄いシードレイヤと、薄いAlScNレイヤと、AlおよびAlScNの両方の結晶軸(crystallographic axes)に対して第1の可能な配向を有する電極構造IDTとを有する原理レイヤスタック(the principle layer stack)を示す。この実施形態では、図2の電極構造IDTによって達成されるSAWデバイスは、せん断特性(shear character)を有する主音響波を励起する。伝搬方向は、AlScNの結晶学的[1-100]方向である。圧電AlScNレイヤの厚さは、電極構造のピッチによって設定される中間周波数に応じて、波長λの0.5~1.5倍の範囲内になるように選択される。より厚い厚さも可能であるが、必要ではない。異なるレイヤの厚さ比は、最大の導波効果が達成されることができるように変更されることができる。
【0037】
図3は、同じレイヤスタックを示すが、第2の実施形態による、AlおよびAlScNの両方の結晶軸に対して第2の可能な配向を有する電極構造IDTを備える。実際には、IDTは、図2のIDTの配向に対して表面法線の周りを90°回転される。図3のこの実施形態では、SAWデバイスは、レイリー特性を有する主音響波を励起する。伝搬方向は、AlScNの結晶学的[0001]方向である。
【0038】
パッシベーションレイヤ、温度補償レイヤ、または周波数トリミングレイヤのような追加の機能レイヤが、SAW電極構造の上に適用されることができる。
【0039】
提案されたレイヤシステムを有するこのようなマイクロ音響デバイスの利点は、SAWデバイスの設計の柔軟性に関連する利点と、BAWデバイスの容易な製造の利点との組み合わせにある。SAWデバイスでは、平面構造を規定する主周波数は、優れた均一性を有するリソグラフィ法によってパターン化され、1つのプロセスステップですべてが異なる周波数を有する複数の共振器の実現を可能にする。BAW技術によって提供される利点は、可能な薄膜処理によるものである。これらは、例えば、非常に良好な厚さ制御、良好なレイヤ接着、低コストプロセス、低い材料消費、ウェハラインへの完全な統合、大直径ウェハ上のレイヤの実現、および化学レイヤ組成の容易な変更である。単結晶圧電ウェハを接合し、薄くすることによって薄膜SAWデバイスを製造するための以前のプロセスと比較して、薄膜技術の利点は、新しいレイヤシステムおよびその上に製造されるSAWデバイスを「古い」技術よりも優れたものにする。
【0040】
サファイアウェハの使用に関連する追加の利点は、高抵抗率Siウェハを使用するときに典型的に必要な複雑なトラップリッチレイヤ技術を必要としないRF損失の低減である。また、マイクロ音響デバイスの耐電力性を向上させる優れた熱伝導性を重視されなければならない。さらに、レイヤシステムにおける高い音速は、マイクロ音響レイヤの導波をサポートする。AlNベースの材料系で達成可能な比較的高い音速は、使用されるフォトリソグラフィ(photolithography)技術に関して緩和された要件を有する高周波表面音響波デバイスの実現も可能にする。
【0041】
図4および図5は、AlScNレイヤの結晶軸に対するSAW電極構造IDTの2つの例示的な配向の上面図を示す。
【0042】
図4では、AlScNレイヤのc軸[000-1]は、表面法線に対して90°傾斜しており、電極構造IDTの配向は、[1-100]方向に沿った主SAW伝搬を可能にする。
【0043】
図5では、AlScNレイヤのc軸[000-1]は、表面法線に対して90だけ傾斜しており、電極構造IDT方向の配向は、結晶学的c軸([000-1]方向)に沿った主SAW伝搬方向を可能にする。この第2の実施形態では、電極構造IDTは、図4に示す電極構造IDTと比較して90°回転されている。
【0044】
図6A図6Bは、図4に示す構成によるSAW共振器のアドミタンス曲線を示す。シミュレーションのために、それぞれ7%のSc含有量(図6A)および37.5%のSc含有量(図6B)を有するAlScN圧電レイヤに関する公表された材料特性を使用した。AlScNのレイヤ厚は、約1200nm/3700nm(低Sc含有量に対する第1の値、高Sc含有量に対する第2の値)である。電極構造IDTは、高さ約100nmのCu電極によって具現化される。電極構造のトランスデューサのそれぞれのピッチは、両方の場合において、0.8μmに設定される。aがフィンガー幅であり、pが隣接する電極フィンガーの中心間距離であるメタライゼーション比(metallization ratio)a/pは、約0.45に設定される。
【0045】
SAWの伝搬方向は、AlScNの[-1100]方向に平行である。この構成により、せん断水平SAWモード(a shear horizontal SAW mode)が励起されることができる。
【0046】
図7Aおよび図7Bは、図5に示す構成によるSAW共振器のアドミタンス曲線を示す。再び、シミュレーションのために、それぞれ7%のSc含有量(図7A)および37.5%のSc含有量(図7B)を有するAlScN圧電レイヤについての同じ公表された材料特性を使用した。AlScNのレイヤ厚は、約1000nm/800nm(低Sc含有量に対する第1の値、高Sc含有量に対する第2の値)である。電極構造IDTは、高さ約150nmのCu電極によって具現化される。電極構造のトランスデューサのそれぞれのピッチは、両方の場合において、0.8μmに設定される。aがフィンガー幅であり、pが隣接する電極フィンガーの中心間距離であるメタライゼーション比a/pは、約0.5/0.4(低Sc含有量に対する第1の値、高Sc含有量に対する第2の値)に設定される。SAWの伝搬方向は、結晶学的c軸([000-1]方向)に平行である。この構成により、純粋なレイリーモードのSAW(pure Rayleigh mode SAW)が励起されることができる。より小さい圧電結合は、(図7Aの実施形態に関して、図7Bにおける37.5%のより高いSc含有量と比較した場合、7%のScで設定されるように)AlScNレイヤのSc含有量を減少させることによって達成されることができる。
【0047】
実施形態の数が限られているため、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。レイヤシステムは、他の電極構造、異なるレイヤ厚、および特別な目的に役立ち得る追加のレイヤとの組み合わせを有する他のデバイスを実現するために使用され得る。そのような変形の実現および効果は、当技術分野からそれ自体知られている。本発明の全範囲は、特許請求の範囲によって与えられる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]レイヤシステムであって、
第1の表面を有する単結晶サファイア基板と、
前記第1の表面上にエピタキシャル成長された、AlNを備え、且つ前記第1の表面から離れて面する第2の表面を有する、結晶圧電レイヤと、
を備え、
前記第1の表面は、サファイアの結晶学的R面であり、
前記サファイア基板と前記圧電レイヤとの間の前記エピタキシャル関係は、
前記圧電レイヤの(11-20)面(x-cut)は、サファイアの(1-102)面(R面)と平行であること、
前記圧電レイヤの面内[1-100]方向は、サファイアの[-1-120]方向と平行であること、
前記圧電レイヤの面内[000-1]方向(結晶学的c軸)は、サファイアの[1-10-1]方向と平行であること、
である、
レイヤシステム。
[C2]前記圧電レイヤは、前記圧電結合を改善するドーパントでドープされたAlNを備える、[C1]請求項1に記載のレイヤシステム。
[C3]前記圧電レイヤはAlScNを備え、前記圧電レイヤに含まれるドーパントScの量は5~45%である、[C1]~[C2]に記載のレイヤシステム。
[C4]前記圧電レイヤは、ScでドープされたAlNを備え、純粋なAlNのシードレイヤが、前記基板と前記圧電AlScNレイヤとの間に配置される、[C1]~[C3]のうちの一項に記載のレイヤシステム。
[C5]前記第2の表面上に堆積されるSiO のレイヤを備える、[C1]~[C4]のうちの一項に記載のレイヤシステム。
[C6][C1]~[C5]のうちの一項に記載の前記レイヤシステムを備え、前記第2の表面の上に配置されたインターデジタル電極構造を有する、SAWデバイス。
[C7]前記インターデジタル電極構造は、所与の波長λを有する前記圧電レイヤにおいてSAWを励起するように適合され、前記圧電レイヤの厚みd は、0.3λ≦d ≦3λの関係に従って選択される、[C1]~[C6]のうちの一項に記載のSAWデバイス。
[C8]前記第1の表面は、前記R面に対して0.5°~6°の角度δで傾斜している、[C1]~[C7]のうちの一項に記載のSAWデバイス。
[C9]前記インターデジタル電極構造は、前記表面法線の周りに0°~90°の回転角の面内配向を有する、[C1]~[C8]のうちの一項に記載のSAWデバイス。
[C10]前記インターデジタル電極構造は、Cuおよび/またはAlを備える、[C1]~[C9]のうちの一項に記載のSAWデバイス。
[C11]パッシベーションレイヤ、SiNのトリミングレイヤおよび温度補償レイヤのグループから選択されるさらなる機能レイヤを備える、[C1]~[C10]のうちの一項に記載のSAWデバイス。
[C12]レイヤシステムを製造する方法であって、前記レイヤシステムは、前記レイヤに平行なc軸を有するAlNレイヤを備え、前記方法は、
A)結晶学的R面である平面第1の表面を有するサファイア基板を提供するステップと、
B)前記第1の表面上に純粋なAlNのシードレイヤを堆積するステップと、
C)有機金属CVD(MOCVD)、プラズマCVD(PECVD)、分子線エピタキシー(MBE)、原子レイヤ堆積(ALD)、ゾルゲル堆積、高温スパッタリング、およびパルスレーザ堆積PLDから選択される堆積技法を使用することによって、前記シードレイヤ上に、AlScNを備える圧電レイヤをエピタキシャル成長させるステップと、
を備える、方法。
[C13]D)前記圧電レイヤの上にインターデジタル電極を備える電極構造を形成するステップを備え、前記インターデジタル電極は、中間周波数を有するSAW波を生成するように適合され、
ステップC)は、前記エピタキシャル成長プロセスにおいて、前記エピタキシャル圧電レイヤの前記厚みd を0.3λ≦d ≦3λの値に制御することを備え、ここで、λは、前記中間周波数における前記SAWの前記波長に一致する、
[C12]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B