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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】新規小分子活性化RNA
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240208BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/87 Z
A61K31/713
A61K31/7105
A61K48/00
A61K9/127
A61K47/30
A61K47/42
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P13/10
A61P13/08
A61P1/16
A61P1/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020555224
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 CN2019082149
(87)【国際公開番号】W WO2019196887
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】201810317366.X
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520387298
【氏名又は名称】ラクティゲン セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】リ ロンチョン
(72)【発明者】
【氏名】カン ムーリン
(72)【発明者】
【氏名】プレイス ロバート エフ
(72)【発明者】
【氏名】ウー ジエンチャン
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/145608(WO,A1)
【文献】特表2013-532973(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170349(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
17~30ヌクレオチドを含む第1オリゴヌクレオチド鎖及び17~30ヌクレオチドを含む第2オリゴヌクレオチド鎖で構成されている小分子活性化RNAであって、
a)前記第1オリゴヌクレオチド鎖のうち長さが少なくとも15ヌクレオチドの配列が前記第2オリゴヌクレオチド鎖に対して相補的であり、
b)前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖は、標的遺伝子プロモーターにおける長さが15~30ヌクレオチドである連続的フラグメントのいずれかと100%相同性又は相補性を有し、標的遺伝子は、
i.配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号97、配列番号98、および配列番号99からなる群から選択されるp21プロモーター配列中の標的配列;
ii.配列番号564または配列番号566によって標的とされるKLF4プロモーターの領域;
iii.VEGFAプロモーター;および
iv.配列番号568によって標的とされるNKX3-1プロモーターの領域
からなる群から選択され、
c)前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成される二本鎖体の一方の末端が平滑末端であり、
d)他方の末端が第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に1~4ヌクレオチドの突出を有し、
前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の5’末端が、二本鎖体の平滑末端に存在し、
前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の5’末端から1番目~3番目のヌクレオチドが、他方の鎖における対応する位置にあるヌクレオチドとミスペアになっている、小分子活性化RNA。
【請求項2】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された二本鎖体の一方の末端は平滑末端であり、他方の末端が前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は前記第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に2又は3ヌクレオチドの突出を有する、請求項1に記載の小分子活性化RNA。
【請求項3】
前記ヌクレオチドの突出が、チミン、ウラシル又は天然ヌクレオチドから選択される、請求項1又は2に記載の小分子活性化RNA。
【請求項4】
前記突出が、dTdTdT、dTdT、UUU、UU又は連続する2個又は3個の天然ヌクレオチドである、請求項3に記載の小分子活性化RNA。
【請求項5】
前記ミスペアになっている塩基がシトシンである、請求項に記載の小分子活性化RNA。
【請求項6】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された、突出を含まない二本鎖体の長さが、17~24ヌクレオチドである、請求項1~のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA。
【請求項7】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された、突出を含まない二本鎖体の長さが、18~20ヌクレオチドである、請求項に記載の小分子活性化RNA。
【請求項8】
小分子活性化RNAの前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖が、配列番号157及び配列番号158、配列番号159及び配列番号160、配列番号161及び配列番号162、配列番号163及び配列番号164、配列番号165及び配列番号166、配列番号167及び配列番号168、配列番号169及び配列番号170、配列番号171及び配列番号172、配列番号173及び配列番号174、配列番号175及び配列番号176、配列番号177及び配列番号178、配列番号179及び配列番号180、配列番号181及び配列番号182、配列番号183及び配列番号184、配列番号185及び配列番号186、配列番号187及び配列番号188、配列番号189及び配列番号190、配列番号191及び配列番号192、配列番号193及び配列番号194、配列番号195及び配列番号196、配列番号197及び配列番号198、配列番号199及び配列番号200、配列番号201及び配列番号202、配列番号203及び配列番号204、配列番号205及び配列番号206、配列番号207及び配列番号208、配列番号209及び配列番号210、配列番号211及び配列番号212、配列番号213及び配列番号214、配列番号215及び配列番号216、配列番号217及び配列番号218、配列番号219及び配列番号220、配列番号221及び配列番号222、配列番号223及び配列番号224、配列番号225及び配列番号226、配列番号227及び配列番号228、配列番号229及び配列番号230、配列番号231及び配列番号232、配列番号233及び配列番号234、配列番号235及び配列番号236、配列番号237及び配列番号238、配列番号239及び配列番号240、配列番号241及び配列番号242、配列番号243及び配列番号244、配列番号245、配列番号246、配列番号247及び配列番号248、配列番号249及び配列番号250、配列番号251及び配列番号252、配列番号253及び配列番号254、配列番号255及び配列番号256、配列番号257及び配列番号258、配列番号319及び配列番号320、配列番号321及び配列番号322、配列番号323及び配列番号324、配列番号325及び配列番号326、配列番号327及び配列番号328、配列番号329及び配列番号330、配列番号331及び配列番号332、配列番号333及び配列番号334、配列番号335及び配列番号336、配列番号337及び配列番号338、配列番号339及び配列番号340、配列番号341及び配列番号342、配列番号343及び配列番号344、配列番号345及び配列番号346、配列番号347及び配列番号348、配列番号349及び配列番号350、配列番号351及び配列番号352、配列番号353及び配列番号354、配列番号355及び配列番号356、配列番号357及び配列番号358、配列番号359及び配列番号360、配列番号361及び配列番号362、配列番号363及び配列番号364、配列番号365及び配列番号366、配列番号367及び配列番号368、配列番号369及び配列番号370、配列番号371及び配列番号372、配列番号373及び配列番号374、配列番号375及び配列番号376、配列番号377及び配列番号378、配列番号379及び配列番号380、配列番号381及び配列番号382、配列番号383及び配列番号384、配列番号385及び配列番号386、配列番号387及び配列番号388、配列番号389及び配列番号390、配列番号391及び配列番号392、配列番号393及び配列番号394、配列番号395及び配列番号396、配列番号397及び配列番号398、配列番号399及び配列番号400、配列番号401及び配列番号402、配列番号403及び配列番号404、配列番号405及び配列番号406、配列番号407及び配列番号408、配列番号409及び配列番号410、配列番号411及び配列番号412、配列番号413及び配列番号414、配列番号415及び配列番号416、配列番号417及び配列番号418、配列番号419及び配列番号420、配列番号421及び配列番号422、配列番号423及び配列番号424、配列番号425及び配列番号426、配列番号427及び配列番号428、配列番号429及び配列番号430、配列番号431及び配列番号432、配列番号433及び配列番号434、配列番号435及び配列番号436、配列番号437及び配列番号438、配列番号439及び配列番号440、配列番号441及び配列番号442、配列番号443及び配列番号444、配列番号445及び配列番号446、配列番号447及び配列番号448、配列番号449及び配列番号450、配列番号451及び配列番号452、配列番号453及び配列番号454、配列番号455及び配列番号456、配列番号457及び配列番号458、配列番号459及び配列番号460、配列番号461及び配列番号462、配列番号463及び配列番号464、配列番号465及び配列番号466、配列番号467及び配列番号468、配列番号469及び配列番号470、配列番号471及び配列番号472、配列番号473及び配列番号474、配列番号475及び配列番号476、配列番号477及び配列番号478、配列番号479及び配列番号480、配列番号481及び配列番号482、配列番号483及び配列番号484、配列番号485及び配列番号486、配列番号487及び配列番号488、配列番号489及び配列番号490、配列番号491及び配列番号492、配列番号493及び配列番号494、配列番号495及び配列番号496、配列番号497及び配列番号498、配列番号499及び配列番号500、配列番号501及び配列番号502、配列番号503及び配列番号504、配列番号505及び配列番号506、配列番号507及び配列番号508、配列番号509及び配列番号510、配列番号511及び配列番号512、配列番号513及び配列番号514、配列番号515及び配列番号516、配列番号517及び配列番号518、配列番号519及び配列番号520、配列番号521及び配列番号522、配列番号523及び配列番号524、配列番号525及び配列番号526、配列番号527及び配列番号528、配列番号529及び配列番号530、配列番号531及び配列番号532、配列番号533及び配列番号534、配列番号535及び配列番号536、配列番号537及び配列番号538、配列番号539及び配列番号540、配列番号541及び配列番号542、配列番号543及び配列番号544、配列番号545及び配列番号546、配列番号547及び配列番号548、配列番号549及び配列番号550、配列番号551及び配列番号552、配列番号553及び配列番号554、並びに配列番号555及び配列番号556からなる群からそれぞれ選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の小分子活性化RNAの、細胞における標的遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレーションさせるための製剤の製造における使用。
【請求項10】
前記小分子活性化RNAは前記細胞に直接導入される、請求項に記載の使用。
【請求項11】
前記細胞が哺乳動物の細胞である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記細胞が人体に存在する、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記人体が、標的遺伝子の発現の欠陥及び/又は不足による疾病を患っており、
前記小分子活性化分子が、疾病を治療できるように有効量で投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記小分子活性化RNAは、p21遺伝子の発現を少なくとも10%活性化又はアップレギュレーションさせる、請求項1~のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA。
【請求項15】
請求項1~および14のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項16】
前記薬学的に許容される担体が、リポソーム、高分子ポリマー又はポリペプチドである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1~および14のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA又は請求項15又は16に記載の組成物の、標的遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレーションさせる製剤の製造における使用。
【請求項18】
請求項1~および14のいずれか1項に記載の小分子活性化RNA又は請求項15又は16に記載の組成物の腫瘍又は良性増殖性病変を治療するための製剤の製造における使用であって前記腫瘍が膀胱癌、前立腺癌、肝臓癌、結腸直腸癌である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学の分野に関し、具体的には、標的遺伝子プロモーター配列を利用する二本鎖小分子RNAによる遺伝子発現のアップレギュレートに関する。
【背景技術】
【0002】
二本鎖小核酸分子は、化学合成されたオリゴリボヌクレオチド(例えば、小分子活性化RNA(saRNA))と天然に存在するオリゴリボヌクレオチド(例えば、マイクロリボヌクレオチド(miRNA))とを含み、タンパク質コード遺伝子の調節配列(例えば、プロモーター配列)を配列特異的にターゲッティングすることにより、転写及びエピジェネリックレベルで遺伝子の発現レベルをアップレギュレート可能であることが証明され、このような現象は、RNAの活性化と言われている(RNAa)(Li,Okino et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103:17337-17342; Janowski,Younger et al.(2007) Nat Chem Biol 3:166-173; Place,Li et al.(2008) Proc Natl Acad Sci USA 105:1608-1613; Huang,Place et al.(2012) Nucleic Acids Res 40:1695-1707; Li (2017) Adv Exp Med Biol 983:1-20)。研究によれば、RNAの活性化は、カエノラブディティス・エレガンスからヒトへの進化的保存の内因性分子メカニズムである(Huang,Qin et al.(2010) PloS One 5:e8848; Seth,Shirayama et al.(2013) Dev Cell 27:656-663;Turner,Jiao et al.(2014) Cell Cycle 13:772-781)。
【0003】
どのようにヒト細胞の内因性遺伝子又はタンパク質の発現を安全かつ選択的に増強するかは、依然として遺伝子治療の分野の大きな課題である。従来のウィルス型遺伝子治療システムは、その固有の欠陥を有しており、宿主ゲノムを変化させたり、免疫反応を起こせたりするなどの副作用がある。RNA活性化は、ゲノムを変化せずに内因性遺伝子の発現を活性化させることができるという利点を有し、一種の代表的な内因性遺伝子の発現を活性化させる新しい策略であり、疾病治療において巨大な応用価値を有する。
【0004】
p21WAF1/CIP1(CDKN1Aとも言われ、以下、p21という)遺伝子は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤であり、重要な腫瘍抑制遺伝子である(Harper,Adami et al.(1993)Cell 75:805-816;Fang,Igarashi et al. (1999) Oncogene 18:2789-2797)。研究によれば、異所性ベクターによるp21の過剰発現又は内因性p21の活性化による転写は、腫瘍細胞や体内腫瘍の成長を効率よく抑制できる(Harper,Adami et al. (1993) Cell 75:805-816; Eastham,Hall et al. (1995) Cancer Res 55:5151-5155; Wu,Bellas et al. (1998) J Exp Med 187:1671-1679; Harrington,Spitzweg et al. (2001) J Urol 166:1220-1233)。そのため、p21遺伝子を標的として活性化させる方法は、例えば癌などの多くの疾病の治療に幅広く応用される可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、細胞内に遺伝子発現を標的として増加させることができるオリゴヌクレオチド分子及びその方法を提供する。この方法は、標的遺伝子プロモーター配列を標的とするオリゴヌクレオチド分子を細胞に導入することによって、目標遺伝子の発現を効果的に増加させ、効果的な生物学的作用を生成することができるものである。本発明に記載のオリゴヌクレオチドは、構造的に最適化された二本鎖リボヌクレオチド分子であり、このような分子は、小分子活性化RNA(saRNA)とも呼ばれる。
【0006】
本発明は、17~30ヌクレオチドを含む第1オリゴヌクレオチド鎖及び17~30ヌクレオチドを含む第2オリゴヌクレオチド鎖で構成され、前記第1オリゴヌクレオチド鎖のうち長さが少なくとも15ヌクレオチドの配列と前記第2オリゴヌクレオチド鎖とは相補的塩基対を形成し、前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖は、標的遺伝子プロモーターにおける長さが15~30ヌクレオチドである連続的フラグメントのいずれと75%以上、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、100%の配列相同性又は相補性を有し、第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成される二本鎖体は、その一端が平滑末端である(すなわち、突出構造ではない)とともに、他端が第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に1~4ヌクレオチドの突出、例えば1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチドの突出を形成可能である小分子活性化RNAを提供する。1つの具体的な実施例では、上記小分子活性化RNAにおける第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された二本鎖体は、その一端が平滑末端であるとともに、他端が第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に2~3ヌクレオチドの突出を形成可能である。
【0007】
上記小分子活性化RNAは、その突出のヌクレオチドが、T(チミン)、U(ウラシル)又は天然ヌクレオチド突出から選択され、例えば、突出がdTdTdT、dTdT、UUU、UU又は連続する2又は3個の天然ヌクレオチド(例えば、A、T、G、C)であってもよい。本発明に記載の天然ヌクレオチド突出とは、第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に突出しているヌクレオチドが、それと対応する標的配列のヌクレオチドと同一又は相補的なものであることを意味する。
【0008】
上記小分子活性化RNAでは、前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖の5’末端が、二本鎖体の平滑末端に存在し、前記第1オリゴヌクレオチド鎖又は第2オリゴヌクレオチド鎖のうちの一方の鎖における5’末端からの1番目~3番目のヌクレオチドと、他方の鎖における対応する位置にあるヌクレオチドとは、1~3個の塩基がミスマッチした。好ましくは、ミスマッチは、シトシンミスマッチである。本明細書に記載のシトシンミスマッチは、少なくとも2種類の方式があり、そのうちの1種の方式として、1本の鎖におけるヌクレオチド自体がシトシンヌクレオチド(C)であるが、2番目の鎖を合成する際には、シトシンとWatson-Crickによって対合するグアニンヌクレオチド(G)を、例えばアデニンヌクレオチド(A)、チミンヌクレオチド(T)又はウラシルヌクレオチド(U)などの非グアニンヌクレオチドに置き換えることである。他種の方式として、1本の鎖におけるヌクレオチド自体が例えばアデニンヌクレオチド(A)、ウラシルヌクレオチド(U)又はチミンヌクレオチド(T)などの非グアニンヌクレオチドであるが、他本の鎖においてもともとA、U又はTとWatson-Crickによって対合するヌクレオチドをチミンヌクレオチド(C)に置き換えることである。
【0009】
本発明が提供する小分子活性化RNAでは、第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された二本鎖体のうち、突出を含まない長さが17~24ヌクレオチド、例えば17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチドである。好ましくは、第1オリゴヌクレオチド鎖及び第2オリゴヌクレオチド鎖で形成された二本鎖体のうち、突出を含まない長さが18~20ヌクレオチドである。
【0010】
本発明は、上記の小分子活性化RNAの、細胞における標的遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレーションさせるための製剤、例えば薬物の製造における使用をさらに提供する。前記小分子活性化RNAは、前記細胞に直接導入されてもよい。前記細胞が哺乳動物の細胞であり、好ましくはヒト細胞である。前記細胞が人体に存在してもよいし、例えば分離した細胞株、細胞系統又は初代細胞などの生体外のものであってもよい。
また、前記人体は、標的遺伝子の発現の欠陥及び/又は不足による疾病を患っており、前記小分子活性化核酸分子が、疾病を治療できるように有効量で投与される。
【0011】
ある1種の場合では、前記小分子活性化RNAの標的遺伝子は、ヒトp21遺伝子である。ほかの場合では、遺伝子発現の欠陥又は不足によって疾病を起こす他の原因遺伝子、例えばKLF4遺伝子、NKX3-1遺伝子、VEGFA遺伝子であってもよい。
【0012】
標的遺伝子がp21遺伝子又はほかの遺伝子であると、前記小分子活性化RNAは、標的遺伝子の発現を少なくとも10%、例えば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上活性化又はアップレギュレーションさせることができる。
【0013】
本発明は、上記の小分子活性化RNA及び薬学的に許容される担体を含む組成物をさらに提供する。そのうち、薬学的に許容される担体が、リポソーム、高分子ポリマー又はポリペプチドである。
【0014】
本発明は、上記の小分子活性化RNA又は組成物の、標的遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレーションさせる製剤の製造における使用をさらに提供する。また、好ましくは、抗腫瘍又は良性増殖性病変の製剤の製造における使用、より好ましくは、前記腫瘍が膀胱癌、前立腺癌、肝臓癌、結腸直腸癌である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、p21遺伝子プロモーター配列の、転写開始部位(TSS)上流-1000bpからTSS下流3bpまでを示すものである。TSSは、湾曲した矢印で示される。
図2図2は、p21遺伝子プロモーターにおける小分子活性化RNAのホットスポット領域の選別を示すものである。図1に示すp21プロモーター配列に対して、439個の小分子活性化RNAを設計して化学合成して、PC3ヒト前立腺癌細胞に1個ずつトランスフェクションした。72時間後、QuantiGene 2.0方法でp21遺伝子mRNAレベルを分析した。そのうち、(A)は、439個のsaRNA(X軸)のそれぞれによる対照処理に対するp21 mRNAレベルの倍数変化(Y軸)を示すものである。X軸における小分子活性化RNAは、p21遺伝子の転写開始部位(TSS)に対する位置(最上流のRAG-898から最下流のRAG1-177)に従ってソートする。図中に、8個のホットスポット(hotspot)領域(薄い灰色の長方形枠)を示した。(B)は、(A)のデータを小分子活性化RNAの誘導によるp21 mRNAの発現の倍数変化の大きさに従って低いものから高いものまでソートするものである。(A)及び(B)における破線は、2倍誘導の位置を示す。
図3図3は、ホットスポット領域1~8におけるp21遺伝子に対する小分子活性化RNAの活性化作用を示すものである。
図4図4は、QuantiGene 2.0の実験結果を検証するためにRT-qPCR法によってp21遺伝子のmRNAレベルを分析することを示すものである。そのうち、(A)は、439個の小分子活性化RNAをそれらのp21 mRNA発現の誘導活性にしたがって4つの群(bin)に分け、毎群から5個の小分子活性化RNAをランダムに選択して、それぞれ10 nMの濃度でPC3細胞にトランスフェクションした。72時間後、mRNAを抽出して逆転写した後、RT-qPCR法を用いてp21遺伝子のmRNAレベルを分析したことを示すものである。(B)は、QuantiGene 2.0(X軸)及びRT-qPCR(Y軸)方法によって、小分子活性化RNAで誘導されたp21遺伝子のmRNA相対レベルの相関性を検出することを示すものである。
図5図5は、小分子活性化RNAによるp21 mRNA発現の誘導作用及びKU-7-Luc2-GFP細胞の増殖の抑制作用を示すものである。図示された3個の小分子活性化RNAは、それぞれ10nMでKU-7-Luc2-GFP細胞を72時間トランスフェクションした。そのうち、(A)は、RT-qPCRによるp21遺伝子のmRNA発現レベルの分析を示すものである。(B)は、CCK-8方法による細胞活力の評価を示すものである。saRNA処理群の細胞活力は、対照処理群(Mock)の細胞活力に対する百分率で示される。(C)は、トランスフェクション終了時の代表的な細胞画像(100×)を示すものである。
図6図6は、小分子活性化RNAによるp21 mRNAの発現の誘導作用及びHCT116細胞の増殖の抑制作用を示すものである。図示された3個の小分子活性化RNAは、それぞれ10nMでHCT116細胞を72時間トランスフェクションした。(A)は、RT-qPCRによるp21遺伝子のmRNA発現レベルの分析を示すものである。(B)は、CCK-8方法による細胞活力の評価を示し、saRNA処理群の細胞活力は、対照処理群(Mock)の細胞活力に対する百分率で示される。(C)は、トランスフェクション終了時の代表的な細胞画像(100×)を示すものである。
図7図7は、小分子活性化RNAによるp21 mRNAの発現の誘導作用及びHepG2細胞の増殖の抑制作用を示すものである。図示された3個の小分子活性化RNAは、それぞれ10 nMでHepG2細胞を72時間トランスフェクションした。(A)は、RT-qPCRによるp21遺伝子のmRNA発現レベルの分析を示すものである。(B)は、CCK-8方法による細胞活力の評価を示し、saRNA処理群の細胞活力は、対照処理群(Mock)の細胞活力に対する百分率で示される。(C)は、トランスフェクション終了時の代表的な細胞画像(100×)を示すものである。
図8図8は、p21プロモーター領域及びそのうちの小分子活性化RNAの標的とする部分の配列を示す図である。転写開始部位(TSS)-332~-292に対するp21プロモーターの40bp領域を標的配列として、この領域を標的とする一連の小分子活性化RNAを設計し、図中には標的配列に対応する相同性の小分子活性化RNA配列を示した。このプロモーター領域は、単一ヌクレオチドがシフトして形成された17個のオーバーラップした標的部位を含み、それらの間が1つのポリヌクレオチド繰り返し配列(下線付き)のみによって仕切られている。
図9図9は、p21プロモーターを標的とする小分子活性化RNAの遺伝子誘導活性を示す図である。前記各小分子活性化RNAは、それぞれ10nMでKU-7-Luc2-GFP細胞を72時間トランスフェクションした。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、p21の相対発現レベル(平均値±標準偏差)を決定した。統計学的有意差は、一元配置分散分析及びTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、***P<0.001となる)。
図10図10は、Rag1-0~Rag1-20の二本鎖体の小分子活性化RNA配列及びシーケンスアラインメントの二本鎖構造を示す図である。ミスマッチ塩基は、コロンで標識される。粗体は、Rag1-0を基とするヌクレオチドの変化を表す。
図11図11は、Rag1変異体(Rag1-0~Rag1-20)がヒト癌細胞株においてp21の発現を誘導する活性を示すものである。(A)~(C)はそれぞれKU-7-Luc2-GFP、PC3及びBel-7402細胞をそれぞれ前記各小分子活性化RNAによって10nMで72時間トランスフェクションしたことを示すものである。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的saRNA(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、p21の相対発現レベル(平均値±標準偏差)を決定した。統計学的有意差は、一元配置分散分析及びTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、***P<0.001となる)。
図12図12は、小分子活性化RNA(Rag1-0~Rag1-20)によるヒト癌細胞株の増殖の抑制作用を示す図である。(A)~(C)はそれぞれKU-7-Luc2-GFP、PC3、Bel-7402細胞をそれぞれ前記各小分子活性化RNAによって10 nMで72時間トランスフェクションしたことを示す。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。CCK-8方法を用いて細胞活力を定量的に検出する。統計学的有意差は、一元配置分散分析とTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、*P<0.5;**P<0.01;***P<0.001となる)。
図13図13は、Rag1-21~Rag1-44の二本鎖体のシーケンスアラインメントを示す図である。ミスマッチ塩基は、コロンで標識され、粗体は、ヌクレオチド又は構造の変化を表す。
図14図14は、小分子活性化RNA(Rag1-21~Rag1-28)がヒト癌細胞株においてp21発現を誘導する活性を示す図である。(A)~(E)はそれぞれKu-7-Luc2-GFP、UM-UC-3、T24、J82、Bel-7402細胞をそれぞれ前記各二本鎖体によって10nMで72時間トランスフェクションしたことを示すものである。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、p21の相対発現レベル(平均値±標準偏差)を決定した。統計学的有意差は、一元配置分散分析とTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、*P<0.5;**P<0.01;***P<0.001となる)。
図15図15は、小分子活性化RNA(Rag1-21~Rag1-28)によるヒト癌細胞株の増殖の抑制作用を示す図である。(A)~(E)はそれぞれKU-7-Luc2-GFP、UM-UC-3、T24、J82、及びBel-7402細胞をそれぞれ前記各小分子活性化RNAによって10nMで72時間トランスフェクションしたことを示すものである。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。CCK-8方法を用いて細胞活力を定量的に検出する。統計学的有意差は、一元配置分散分析とTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、*P<0.5;**P<0.01;***P<0.001となる)。
図16図16は、小分子活性化RNA(Rag1-29~Rag1-44)がヒト癌細胞株においてp21発現を誘導する活性を示す図である。(A)~(E)はそれぞれKU-7-Luc2-GFP、UM-UC-3、T24、J82及びPC3細胞をそれぞれ前記各二本鎖体によって10nMで72時間トランスフェクションしたことを示すものである。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、p21の相対発現レベル(平均値±標準偏差)を決定した。統計学的有意差は、一元配置分散分析とTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、*P<0.5;**P<0.01;***P<0.001となる)。
図17図17は、小分子活性化RNA(Rag1-29~Rag1-44)によるヒト癌細胞株の増殖の抑制作用を示す図である。(A)~(E)はそれぞれKU-7-Luc2-GFP、UM-UC-3、T24、J82及びPC3細胞をそれぞれ前記各二本鎖体によって10nMで72時間トランスフェクションしたことを示すものである。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照とする。非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。CCK-8方法を用いて細胞活力を定量的に検出する。統計学的有意差は、一元配置分散分析とTukey’s多重比較検証により決定される(ブランク対照に対して、*P<0.5;**P<0.01;***P<0.001となる)。
図18図18は、p21遺伝子saRNA二本鎖体のシーケンスアラインメントを示す図である。ミスマッチ塩基は、コロンで標識され、粗体は、ヌクレオチド又は構造の変化を表す。
図19図19は、p21プロモーターを標的とする小分子活性化RNAの遺伝子誘導活性を示す図である。前記各小分子活性化RNAは、それぞれ10nMでKU-7-Luc2-GFP細胞を72時間トランスフェクションした。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照(Mock)とし、非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、p21遺伝子のmRNAの相対発現レベルを決定した(2回の実験の平均値±標準偏差)。
図20図20は、KLF4、NKX3-1及びVEGFA遺伝子saRNA二本鎖体のシーケンスアラインメントを示す図である。ミスマッチ塩基は、コロンで標識され、粗体は、ヌクレオチド又は構造の変化を表す。
図21図21は、KLF4プロモーターを標的とする小分子活性化RNAの遺伝子誘導活性を示す図である。前記各小分子活性化RNAは、それぞれPC3(A)、KU-7-Luc2-GFP(B)及びBel-7402(C)細胞を10nMで72時間トランスフェクションした。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照(Mock)とし、非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、KLF4 mRNAの相対発現レベルを決定した(少なくとも2回の実験の平均値±標準偏差)。
図22図22は、NKX3-1プロモーターを標的とする小分子活性化RNAの遺伝子誘導活性を示す図である。前記各小分子活性化RNAは、それぞれPC3(A)とBel-7402(B)細胞を10nMで72時間トランスフェクションした。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照(Mock)とし、非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、NKX3-1 mRNAの相対発現レベルを決定した(少なくとも2回の実験の平均値±標準偏差)。
図23図23は、VEGFAプロモーターを標的とする小分子活性化RNAの遺伝子誘導活性を示す図である。前記各小分子活性化RNAは、それぞれ図示した濃度でHeLa(A)、COS-1(B)及びARPE-19(C)細胞を72時間トランスフェクションした。オリゴヌクレオチドを含まないトランスフェクションサンプルをブランク対照(Mock)とし、非特異的二本鎖体(dsCon)トランスフェクションサンプルを陰性対照とする。RT-qPCRにより、GAPDHの発現レベルを内部参照として、VEGFA mRNAの相対発現レベルを決定した(少なくとも2回の実験の平均値±標準偏差)。
図24図24は、p21 saRNA Rag1-40による腫瘍成長の抑制を示す図である。図示した小分子活性化RNAは、1mg/kgの用量で腫瘍内注射され、投与期間の移植癌の体積変化を記録した。矢印は、投与時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、具体的な説明によって本発明をさらに説明する。
【0017】
なお、特に断らない限り、本明細書において用いられる全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における一般的な技術者が通常理解できる意味と同じ意味を有する。
本願において、単数形となる「1個(a)」、「この(this)」は、特に明記しない限り、その複数形も含む。
定義
【0018】
本明細書で使用される「相補」という用語は、2本のオリゴヌクレオチド鎖が互いに塩基対を形成する能力を意味する。塩基対は、通常、逆方向に平行となるオリゴヌクレオチド鎖におけるヌクレオチドユニット同士の水素結合により形成される。相補的オリゴヌクレオチド鎖は、Watson-Crick方式で塩基対合してもよく(例えば、A-T、A-U、C-G)、又は、二本鎖体の形成を許可するいずれの方式(例えば、Hoogsteen型又は逆Hoogsteen型塩基対合)で塩基対合してもよい。「100%対合」とは、100%の相補性を有し、すなわち、二本鎖のヌクレオチドユニットが全て水素結合で互いに接合していることを意味する。
【0019】
完全相補性又は100%相補性は、二本鎖オリゴヌクレオチド分子の二本鎖領域における第1オリゴヌクレオチド鎖からの各ヌクレオチドユニットが第2オリゴヌクレオチド鎖と「ミスマッチ」無しに水素結合を形成できることを意味する。不完全相補とは、二本鎖のヌクレオチドユニットが全て水素結合で互いに接合することができないことを意味する。例えば、二本鎖領域の長さが20ヌクレオチドである2本のオリゴヌクレオチド鎖に対しては、各鎖における2つの塩基対のみが互いに水素結合で接合することが可能であると、オリゴヌクレオチド鎖は10%の相補性を有する。同じ実施例では、各鎖における18個の塩基対が互いに水素結合で接合することが可能であると、オリゴヌクレオチド鎖は90%の相補性を有する。基本的相補性とは、約79%、約80%、約85%、約90%、約95%以上の相補性を意味する。
【0020】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語とは、ヌクレオチドのポリマーをいい、DNA、RNA又はDNA/RNAハイブリッドの一本鎖又は二本鎖分子、規則的や不規則的に交互するデオキシリボヌクレオチド部分及びリボヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド鎖、ならびにこれらの種類のオリゴヌクレオチドの修飾及び天然又は非天然に存在する骨格を含むが、これらに限定されるものではない。本発明に記載の標的遺伝子転写を活性化させるためのオリゴヌクレオチドは、小分子活性化RNAである。
【0021】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、2個以上の修飾され又は修飾されていないリボヌクレオチド及び/又はその類似体を含むオリゴヌクレオチドを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド鎖」及び「オリゴヌクレオチド配列」という用語は、互いに置き換えることが可能であり、30個以下の塩基を有する短鎖のヌクレオチドの総称である(デオキシリボ核酸DNA又はリボ核酸RNAを含む)。本発明において、オリゴヌクレオチド鎖の長さは、17~30ヌクレオチドのいずれかの長さであってもよい。
【0023】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、1本のポリペプチド鎖のコード又は1本の機能性RNAの転写に必要な全てのヌクレオチド配列を意味する。「遺伝子」は、宿主細胞に対して内因性、あるいは完全又は部分的に組換えられた遺伝子であってもよい(例えば、コーディングプロモーターを導入した外因性オリゴヌクレオチド及びコード配列、又は内因性コード配列に隣接する異種プロモーターを宿主細胞に導入したもの)。例えば、「遺伝子」は、エクソン及びイントロンで構成される核酸配列を含む。タンパク質をコードする配列は、例えば、開始コドンと終止コドンとの間のオープンリーディングフレームにおけるエクソンに含まれる配列であり、本発明では、「遺伝子」は、他の遺伝子がコード配列又は非コード配列を含むか否かを問わず、例えばプロモーター、エンハンサー等のような遺伝子制御配列及び本分野で知られている他の遺伝子の転写、発現又は活性を制御する他の全ての配列を含むことができる。1つの場合、例えば、「遺伝子」は、例えばプロモーターやエンハンサー等の制御配列を含む機能性核酸の説明に用いることができる。組換え遺伝子の発現は、一種又は多種の異種制御配列により制御することができる。
【0024】
本明細書で用いられる「標的遺伝子」は、生体内に天然に存在する核酸配列、組換え遺伝子、ウイルス又は細菌配列、染色体又は染色体外及び/又は細胞及び/又はその染色質を一時的又は安定的にトランスフェクション又は混入したものである。標的遺伝子は、タンパク質コード遺伝子であってもよいし、非タンパク質コード遺伝子であってもよい(例えば、マイクロRNA遺伝子、長鎖非コードRNA遺伝子)。標的遺伝子は、通常、プロモーター配列を含み、プロモーター配列と同一性(相同性とも言われる)を有する小分子活性化RNAを設計することにより、標的遺伝子に対するアップレギュレートを実現することができ、標的遺伝子の発現のアップレギュレーションとして表現される。「標的遺伝子プロモーター配列」とは、標的遺伝子の非コード配列を意味し、本発明において「標的遺伝子プロモーター配列と相補する」における標的遺伝子プロモーター配列とは、当該配列のコード鎖(非鋳型鎖とも言われる)、すなわち、当該遺伝子コード配列と同一の核酸配列である。「標的配列」は、標的遺伝子プロモーター配列のうち小分子活性化RNAのセンスオリゴヌクレオチド鎖又はアンチセンスオリゴヌクレオチドと相同又は相補的な配列フラグメントを意味する。
【0025】
本明細書において、「第1オリゴヌクレオチド鎖」は、センス鎖であってもよく、アンチセンス鎖であってもよい。小分子活性化RNAのセンス鎖は、小分子活性化RNAの二本鎖体のうち標的遺伝子のプロモーターDNA配列のコード鎖と同一性を有する核酸鎖を意味し、アンチセンス鎖は、小分子活性化RNAの二本鎖体のうちセンス鎖と相補的な核酸鎖を意味する。
【0026】
本明細書に使用される「第2オリゴヌクレオチド鎖」は、センス鎖又はアンチセンス鎖であってもよい。第1オリゴヌクレオチド鎖がセンス鎖である場合、第2オリゴヌクレオチド鎖はアンチセンス鎖である。一方、第1オリゴヌクレオチド鎖がアンチセンス鎖である場合、第2オリゴヌクレオチド鎖はセンス鎖である。
【0027】
本明細書で使用される「コード鎖」は、標的遺伝子における転写が不可能な1本のDNA鎖を指し、該鎖のヌクレオチド配列は、転写により生成されたRNAの配列と一致する(RNAではUでDNAにおけるTを置換した)。本発明に記載の標的遺伝子プロモーターの二本鎖DNA配列のコード鎖は、標的遺伝子DNAコード鎖と同一のDNA鎖に存在するプロモーター配列を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「鋳型鎖」とは、標的遺伝子の二本鎖DNAのうちコード鎖に相補的な他本の鎖であって、鋳型としてRNAに転写可能な鎖を意味し、当該鎖は、転写したRNA塩基と相補的なものである(A-U,G-C)。転写過程において、RNAポリメラーゼは、鋳型鎖に結合し、鋳型鎖の3’->5’方向に沿って移動し、5’->3’方向に従ってRNAの合成を触媒する。本発明に記載の標的遺伝子プロモーターの二本鎖DNA配列の鋳型鎖は、標的遺伝子DNA鋳型鎖と同一のDNA鎖に存在するプロモーター配列を意味する。
【0029】
本明細書で使用される「プロモーター」という用語は、タンパク質をコードしない核酸配列を意味し、タンパク質コード又はRNAコード核酸配列と位置的に関連付けることによりそれらの転写に対して調節作用を果たす。通常、真核プロモーターは、100~5,000個の塩基対を含むが、この長さの範囲は、本明細書で使用される「プロモーター」を限定する趣旨ではない。プロモータ配列は、一般的にタンパク質コード又はRNAコード配列の5’末端に位置するが、エキソン及びイントロン配列にも存在する。
【0030】
本明細書で使用される「転写開始部位」という用語は、遺伝子の鋳型鎖に転写開始を標識するためのヌクレオチドを意味する。転写開始部位は、プロモータ領域の鋳型鎖に出現することができる。1つの遺伝子は、1つ以上の転写開始部位を有することができる。
【0031】
本明細書で使用される「同一性」又は「相同性」という用語は、小分子活性化RNAのうちの1本のオリゴヌクレオチド鎖(センス鎖又はアンチセンス鎖)が標的遺伝子のプロモータ配列のある領域のコード鎖又は鋳型鎖と少なくとも80%の類似性を有することを意味する。
【0032】
本明細書で使用される「突出」、「overhang」、「垂下」は、互いに置き換えることができ、オリゴヌクレオチド鎖の末端(5’又は3’)における塩基対合しないヌクレオチドであり、二本鎖オリゴヌクレオチドのうちの1本の鎖からはみ出した他の鎖で産生されるものである。二本鎖体の3’及び/又は5’末端からはみ出した一本鎖領域は、「突出」と称される。標的配列において3’又は5’方向に向かって延伸した突出は、「天然突出」と称される。
【0033】
本明細書で使用される「天然突出」、「天然ヌクレオチド突出」は、互いに置き換えることが可能であり、小分子活性化RNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖における5’末端又は3’末端で標的配列に由来する突出を意味する。
【0034】
本明細書で使用される「遺伝子活性化」又は「活性化遺伝子」は、互いに置き換えることが可能であり、遺伝子転写レベル、mRNAレベル、タンパク質レベル、酵素活性、メチル化状態、染色質状態又は形態、翻訳レベル、又はそれらの細胞又は生物システムにおける活性又は状態を測定することにより、ある核酸の転写、翻訳又は発現、あるいは活性の増加を測定することを意味する。これらの活動又は状態は、直接的又は間接的に測定することができる。また、「遺伝子活性化」、「活性化遺伝子」は、このような活性化のメカニズムによらず、核酸配列に相関する活性が増加したことを意味し、例えば、調節配列として調節作用を発揮したり、RNAに転写されたり、タンパク質に翻訳されてタンパク質の発現を増加したりする。
【0035】
本明細書で使用される「小分子活性化RNA」と「saRNA」は、互いに置き換えることが可能であり、遺伝子発現を促進できるリボ核酸分子であり、標的遺伝子の非コード核酸配列(例えばプロモーター、エンハンサー等)と配列同一性を有するリボヌクレオチド配列を含む核酸鎖とこの鎖と相補的なヌクレオチド配列を含む核酸鎖とを組み合わせることにより、二本鎖体を形成することができる。小分子活性化RNAは、合成され又はベクターで発現されるとともに二本鎖領域のヘアピン構造を形成できる一本鎖RNA分子で構成されてもよい。そのうち、第1領域は、遺伝子のプロモーター標的配列と配列同一性を有するリボヌクレオチド配列を含み、第2領域に含まれるリボヌクレオチド配列は、第1領域と相補的なものである。小分子活性化RNA分子の二本鎖体領域の長さは、通常は約10個~約50個の塩基対、約12個~約48個の塩基対、約14個~約46個の塩基対、約16個~約44個の塩基対、約18個~約42個の塩基対、約20個~約40個の塩基対、約22個及び約38個の塩基対、約24個及び約36個の塩基対、約26個及び約34個の塩基対、約28個及び約32個の塩基対であり、通常、約10個、約15個、約20個、約25個、約30個、約35個、約40個、約45個、約50個の塩基対である。また、「saRNA」及び「小分子活性化RNA」には、リボヌクレオチド部分以外の核酸も含まれ、修飾されたヌクレオチド又はその類似物が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本明細書で使用される「ホットスポット」は、機能を有する遺伝子プロモーター領域を意味する。ホットスポット領域では、ホットスポット領域配列を標的とする機能性小分子活性化RNAの凝集が現われ、これらのホットスポット領域内に少なくとも10個の小分子活性化RNAを発生することができ、そのうち、少なくとも60%の小分子活性化RNAは、遺伝子mRNA発現が1.5倍以上になるまで誘導することができる。
【0037】
本明細書において、「合成」とは、オリゴヌクレオチドの合成方式を意味し、例えば化学合成、生体外転写、ベクター表現などのRNAを合成可能な任意の方式が含まれる。
【0038】
本明細書において、「p21」は、p21WAF1/CIP1遺伝子を意味し、CDKN1A遺伝子とも呼ばれ、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤であり、一種の重要な腫瘍抑制遺伝子でもある。p21を過剰発現し、又は内因性p21の転写を活性化することにより、腫瘍細胞及び生体内腫瘍の成長を効果的に抑制することができる。
【0039】
材料及び方法
細胞培養及びトランスフェクション
【0040】
細胞株RT4、KU-7、T24及びHT-1197は改良されたMcCoy’s 5A培地(Gibco)に、J82、TCCSUP及びUM-UC-3細胞株はMEM培地(Gibco)に、5637、PC3及びBel-7402はRPMI1640培地(Gibco)にそれぞれ培養された。全ての培地は、10%の子ウシ血清(Sigma-Aldrich)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を含有する。細胞を5% CO2、37℃の条件下で培養した。メーカーの説明に従い、RNAiMax(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて10 nM(特に断らない限り)濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクションし、全ての小分子活性化RNAの配列を表1に示す。
【0041】
表1 鎖配列及び二本鎖体の組成
【表1】
【0042】
RNA分離及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
細胞を2-3×105個の細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種し、オリゴヌクレオチド二本鎖体をリバーストランスフェクションした。RNeasy Plus Miniキット(Qiagen)を用いて、その説明書に従って細胞総RNAを抽出した。gDNA Eraser(Takara,Shlga,Japan)を含むPrimeScript RTキットを用いてRNA(1μg)をcDNAに逆転写した。qPCRは、ABI 7500 Fast Real-time PCR System(Applied Biosystems)及びSYBR Premix Ex Taq II(Takara,Shlga,Japan)試薬を用い、95℃で3秒間、60℃で30秒間である反応条件で40サイクル増幅した。GAPDHを内部参照とする。全てのプライマー配列を表2に示す。
【0043】
表2.qRT-PCR分析のプライマー配列
【表2】
【0044】
細胞増殖測定
細胞を2-4×103個の細胞/ウェルで96ウェルプレートに敷き、一晩培養して、オリゴヌクレオチド二本鎖体をトランスフェクションした。3日間トランスフェクションした後、CCK-8(Dojindo)を用い、その説明書に従って細胞増殖の検出を行った。実験手順を簡単に説明すると、10μL CCK8溶液を各ウェルに入れ、37℃で1時間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーを用いて450nm箇所での吸光度を測定した。
【0045】
QuantiGene 2.0分析
細胞を96ウェルプレートに敷いてオリゴヌクレオチド二本鎖体をトランスフェクションし、72時間トランスフェクションした後、QuantiGene 2.0キット(AffyMetrix)を用いて目標遺伝子mRNAレベルを定量的に検出した。QuantiGene 2.0キットは、交雑技術に基づく方法であり、遺伝子特異的プローブを用いてmRNAレベルを直接定量するものである。実験手順を簡単に説明すると、分解液を添加してトランスフェクション後の細胞を分解させ、細胞分解物をCDKN1A(p21)及びHPRT1(ハウスキーピング遺伝子)プローブを内包する捕捉ウェルプレートに入れ、55℃で一晩交雑した。交雑信号を増強するために、100 μL相当の緩衝液(QuantiGene 2.0キットから提供)に2.0 PReAMP、2.0 AMP及び2.0 Lable Probeと順番に交雑した。全ての交雑はいずれも50~55℃で1時間振盪する。最後に、洗浄した後、2.0 Substrateを加えて室温で5分間インキュベートした。その後、Infinite 200 PROプレートリーダー(Tecan、スイス)を用いて光信号を検出した。
【0046】
統計分析
結果は、平均値±標準偏差として表される。GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software)を用いて一元配置分散分析を行い、その後Tukey’s t検定を行って統計分析を行った。統計学的有意性の基準は、*P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001と設定した。
【実施例
【0047】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。また、実施例は単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲又は内容を何ら制限するものではないと解釈されるべきである。
説明の便宜上、以下の式を用いて、小分子活性化RNA(以下、単に「saRNA」という)の構造を説明する。
オリゴヌクレオチド一本鎖についての説明:
[5OHn] + Nn + [3OHn](式1)
【0048】
5OHn又は3OHnは、それぞれ5’又は3’末端突出(overhang)であり、天然ヌクレオチド(natural overhang,NO)、デオキシチミジル酸(T)又はウラシルヌクレオチド(U)突出等とすることができ、nは突出したヌクレオチドの個数である。Nnは、他本のオリゴヌクレオチド鎖が二本鎖構造を形成可能な領域であり、ここで、NはS(センス鎖)又はAS(アンチセンス鎖)とすることができ、nは他本の相補鎖と二本鎖構造を形成するヌクレオチドの長さである(突出を含まない)。例えば、5NO1+AS19+3T2は、他本の相補鎖と長さが19ヌクレオチドの二本鎖領域を形成できるアンチセンス鎖であることを表し、その5’末端に1つの天然ヌクレオチド突出があり、3’末端に2つのデオキシチミジル酸突出があり、全長が22個(すなわち、1+19+2)のヌクレオチドである。角括弧は、オプションを示す。

二本鎖オリゴヌクレオチドについての説明:
[B5]+[B3]+[MM(N'nZ: X,Y)]+[OHN5'] (式2)
【0049】
B5及びB3は、それぞれ二本鎖体、すなわちセンス鎖に対して5’末端が平滑末端(5’-blunt)、又は3’末端が平滑末端(3’-blunt)であることを示す。また、MMは、二本鎖同士のミスマッチであり、(N’nZ:X,Y)におけるN’は、二本鎖体の5’又は3’末端からカウントし、nは、二本鎖体におけるミスマッチしたヌクレオチドのカウント位置を表し、Xは、突然変異前に標的配列と一致し又は相補的なヌクレオチドであり、Yは、突然変異後のヌクレオチドであり、Zは、突然変異したヌクレオチドが存在する鎖であり、センスはSであり、アンチセンスはASである。例えば、「3’1S:A,C」は、二本鎖体の3’末端からの1位に対応するセンス鎖の「A」(アデニンヌクレオチド)が「C」(シトシンヌクレオチド)に突然変異したことを表し、OHN5'は、一般的でない5’突出を表し、Nは、S(センス鎖)又はAS(アンチセンス鎖)である。例えば、OHAS5'は、AS鎖に5’突出が存在していることを示す。対称的な3’突出を含む二本鎖体は、一般的な構造とみなされるので、別途説明しない。角括弧は、オプションを示す。
【0050】
実施例1:p21遺伝子プロモーター領域を標的とする機能性小分子活性化RNAの選別
p21遺伝子の発現を活性化できる機能性小分子活性化RNAを選別するために、p21遺伝子の1kbプロモーター配列のコード鎖をUCSC Genomeデータベースから検索して得た(図1)。転写開始部位(TSS)の上流の-1kb箇所からサイズが19bpの標的部位を選定し、1bpずつ移動するようにTSS部位へ移動して、合計982個の標的配列を得た。標的配列に対して、GC含有量が65%超え又は35%未満であり、かつ、5個以上の連続する同一のヌクレオチドを含む標的配列を排除するようにフィルタ処理を行った。フィルタリング後、残りの439個の標的配列は候補として選別プロセスに入る。サイズが19ヌクレオチドの候補標的配列に基づいて、それと配列同一性を有するサイズが19ヌクレオチドのRNA配列を化学合成し、その3’末端にdTdTを加えてセンス鎖を得た。構造式は、S19+[3T2]である。これと同時に、同一の標的配列と逆相補的なサイズが19ヌクレオチドのRNA配列を合成し、その3’末端にdTdTを加えてアンチセンス鎖を得た。構造式は、AS19+[3T2]である。センス鎖とアンチセンス鎖を同じモル数で混合してアニール処理し、二本鎖saRNAを得た。
【0051】
前記二本鎖saRNAを10nMの最終濃度でKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、72時間後、QuantiGene 2.0キットを用いてp21遺伝子mRNAレベルを検出した。ブランク対照処理されたp21 mRNAレベルに対する各saRNAの倍数変化を算出して図2に示す。該研究において、全てのsaRNAによるp21遺伝子mRNAの倍数変化は、0.66(抑制)から8.12(誘導)までの範囲を含む(図2(B))。そのうち、361個(82.2%)のsaRNAは、p21の発現を1.01~8.12倍誘導し、74個(16.9%)のsaRNAは、抑制作用(0.99~0.66倍)を示し、4個(0.9%)のsaRNAは、p21遺伝子mRNAレベルに対して影響を与えない(1.0倍)。
【0052】
選別された439個のsaRNAのうち、132個(30.1%)は、p21 mRNAを少なくとも2倍誘導することができ、229個(52.4%)のsaRNAは、p21 mRNAを少なくとも1.5倍誘導することができる。これらの機能を有するsaRNAは、p21プロモーター領域全体にわたって分散される。しかし、8個の遊離した領域には、機能性小分子活性化RNAの凝集が見られ、これらの領域は「ホットスポット」と呼ばれる。ホットスポット領域の定義は、1つの領域内に少なくとも10個の小分子活性化RNAが含まれ、そのうち、少なくとも60%の小分子活性化RNAは、p21 mRNA発現を1.5倍以上に達するように誘導することができる(図2(A)及び図3)。ホットスポット1~8の標的配列及び対応する小分子活性化RNA配列をそれぞれ表3及び表4に示す。
【0053】
表3 p21プロモーターのホットスポット領域の標的配列
【表3】
【0054】
表4 p21プロモーターのホットスポット領域にある機能性小分子活性化RNA
【表4】
【0055】
これらのホットスポットでは、ホットスポット領域1と対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-893bp~-801bpであり、その配列が、配列番号93に示すものであり、この領域には44個の機能を有するsaRNAが確認され(表4及び図3(A))、それぞれは、RAG-834、RAG-845、RAG-892、RAG-846、RAG-821、RAG-884、RAG-864、RAG-843、RAG-854、RAG-844、RAG-887、RAG-838、RAG-858、RAG-835、RAG-876、RAG-870、RAG-853、RAG-881、RAG-828、RAG-872、RAG-841、RAG-831、RAG-829、RAG-820、RAG-822、RAG-868、RAG-849、RAG-862、RAG-865、RAG-893、RAG-848、RAG-824、RAG-866、RAG-840、RAG-875、RAG-880、RAG-871、RAG-888、RAG-885、RAG-894、RAG-833、RAG-825、RAG-889、RAG-823である。
【0056】
ホットスポット領域2(表4、図3(B))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-717~-632bpであり、その配列が、配列番号94に示すものであり、この領域には31個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-693、RAG-692、RAG-688、RAG-696、RAG-694、RAG-687、RAG-691、RAG-690、RAG-689、RAG-682、RAG-686、RAG-662、RAG-695、RAG-654、RAG-658、RAG-685、RAG-704、RAG-714、RAG-705、RAG-661、RAG-656、RAG-698、RAG-697、RAG-657、RAG-715、RAG-652、RAG-651、RAG-650、RAG-716、RAG-717、RAG-711である。
【0057】
ホットスポット3(表4、図3(C))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-585bp~-551bpであり、その配列が、配列番号95に示すものであり、この領域には、9個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-580、RAG-577、RAG-569、RAG-576、RAG-570、RAG-574、RAG-585、RAG-579、RAG-584である。
【0058】
ホットスポット4(表4、図3(D))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-554bp~-505bpであり、その配列が、配列番号96に示すものであり、この領域には、17個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-524、RAG-553、RAG-537、RAG-526、RAG-554、RAG-523、RAG-534、RAG-543、RAG-525、RAG-535、RAG-546、RAG-545、RAG-542、RAG-531、RAG-522、RAG-529、RAG-552である。
【0059】
ホットスポット5(表4、図3(E))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-514bp~-485bpであり、その配列が、配列番号97に示すものであり、この領域には、9個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-503、RAG-504、RAG-505、RAG-506、RAG-507、RAG-508、RAG-509、RAG-510、RAG-511、RAG-512、RAG-513、RAG-514である。
【0060】
ホットスポット6(表4、図3(F))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-442bp~-405bpであり、その配列が、配列番号98に示すものであり、この領域には、12個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-427、RAG-430、RAG-431、RAG-423、RAG-425、RAG-433、RAG-435、RAG-434、RAG-439、RAG-426、RAG-428、RAG-442である。
【0061】
ホットスポット7(表4、図3(G))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-352bp~-313bpであり、その配列が、配列番号99に示すものであり、この領域には、13個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-335、RAG-351、RAG-352、RAG-331、RAG-344、RAG-342、RAG-341、RAG-333、RAG-345、RAG-346、RAG-336、RAG-332、RAG-343である。
【0062】
ホットスポット8(表4、図3(H))に対応する標的配列は、p21プロモーター配列の-325bp~-260bpであり、その配列が、配列番号100に示すものであり、この領域には、18個の機能を有するsaRNAが確認され、それぞれは、RAG-294、RAG-285、RAG-286、RAG-292、RAG-291、RAG-284、RAG-279、RAG-280、RAG-325、RAG-293、RAG-322、RAG-321、RAG-281、RAG-289、RAG-278、RAG-283、RAG-282、RAG-295である。
【0063】
QuantiGene 2.0の検出結果を検証するために、439個の小分子活性化RNAを、そのp21 mRNA発現の活性化活性に基づいて4つの群(bin)に分け、各群から5つのsaRNAをランダムに選び、それぞれをKu-7-luc2-GFP細胞に10 nMの濃度でトランスフェクションした。72時間後、mRNAを抽出して逆転写した後、RT-qPCR法を用いてp21遺伝子のmRNAレベルを分析した。2種類の方法で得られたp21遺伝子のmRNAの発現レベルは、顕著な相関性を示す(R2=0.82)(図4)。QuantiGene 2.0法で得られた全ての機能性saRNAは、いずれもRT-qPCR方法により真の機能性saRNAであると検証され、そのうちのいくつかの機能性saRNAは、RT-qPCR分析においてより強いp21 mRNAの誘導能力を示す(表5)。
表5. QuantiGene 2.0方法に対する検証
【表5】
【0064】
以上のように、上記データからは、p21プロモーター領域における多数の特定部位は、saRNA標的配列としてp21発現を誘導することができ、そのうちの一部の領域はより高い感受性を持ち、それと対応するsaRNAがp21発現を活性化させる可能性がより大きいことが示された。
【0065】
実施例2:saRNAによるp21遺伝子mRNAの発現の誘導及び癌細胞の増殖の抑制
saRNAによるp21遺伝子mRNA発現の誘導作用及び癌細胞増殖の抑制作用をさらに評価するために、QuantiGene 2.0によって選別したsaRNA(RAG1-431、RAG1-553、RAG1-688)をがん細胞株Ku-7-luc2-GFP(膀胱癌)、HCT116(結腸癌)及びHepG2(肝細胞癌)にトランスフェクションした。その結果、上記の全ての細胞株において、saRNAは、いずれもp21遺伝子のmRNA発現レベルを少なくとも2倍に誘導するとともに細胞増殖を抑制することができ、saRNAを介するp21の誘導による効果が示された。具体的には、RAG-431、RAG-553、RAG-688をそれぞれKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、それぞれがp21 mRNA発現を14.0倍、36.9倍、31.9倍誘導し、ブランク処理に対する活着率が71.7%、60.7%、67.4%であった(図5)。RAG-431、RAG-553、RAG-688をそれぞれHCT116細胞にトランスフェクションし、それぞれがp21 mRNA発現を2.3倍、3.5倍及び2.4倍誘導し、ブランク処理に対する活着率が45.3%、22.5%、38.5%であった(図6)。RAG-431、RAG-553、RAG-688をそれぞれHepG2細胞にトランスフェクションし、それぞれがp21 mRNA発現を2.2倍、3.3倍、及び2.0倍を誘導し、相対ブランク処理による生存率が76.7%、64.9%、79.9%であった(図7)。
【0066】
実施例3:ホットスポット領域のsaRNAの更なる選別及び最適化
p21発現を活性化させたオリゴヌクレオチドを選別及び検証するために、ホットスポット7(それと対応する標的配列がp21プロモーター配列の-352bp~-313bp)を更なる選別対象とし、p21プロモーターの転写開始部位(TSS)-332から-292までの40bp領域を標的配列として、この領域を標的とする一連のオリゴヌクレオチド二本鎖体を合成した(各鎖の長さが21ヌクレオチドである)。該プロモーター領域は、単一のヌクレオチドがシフトして形成された17個の重なり合う標的部位を含み、それらの間の一部のポリアデノシン繰り返し配列が排除される(図8)。各二本鎖体は、p21プロモーターにおける相同配列と同様な19ヌクレオチドの配列を有し、2本の鎖にダブルdT突出末端を有し、この二本鎖RNAは、p21転写開始部位に対する標的位置に基づいて、P21-297、P21-298、P21-299、P21-325等と名前付けられた。全ての二本鎖配列を表1に示す。各二本鎖体をKu-7-luc2-GFP(膀胱尿道上皮癌)細胞にトランスフェクションし、72時間後にp21遺伝子mRNA発現レベルを検出した。図9に示すように、複数の二本鎖体(P21-321、P21-322、P21-331)は、p21の強活性化剤であり、その発現レベルを約4~6倍向上させたが、他の二本鎖体はp21発現を顕著にアップレギュレーションしなかった。このデータから、saRNAによる遺伝子の活性化程度は、標的部位及び/又はその配列に依存し、標的部位に微細な変化(例えば、モノヌクレオチドのシフト)が発生すると機能性のsaRNAが完全に不活性となる可能性があることが分かった。
【0067】
実施例4:3’末端が天然又は2個のウラシルヌクレオチド突出(overhang)の構造となる二本鎖saRNA
また、特定の標的配列に対して、saRNA構造を最適化することによっても、より良好な活性化効果が生じることができる。具体的なデータは、以下のとおりである。
【0068】
P21-322(以下、「Rag1-0」という)を選択して、改善された薬物属性を有する新規な配列をさらに開発するために用いられる。まず、saRNA二本鎖体の突出の組成の変化をテストし、そのうち、各鎖におけるダブルdTヌクレオチド突出を、天然ヌクレオチド突出(すなわち、標的遺伝子プロモーター配列に由来するもの)又は2つのウラシルヌクレオチドに置き換え、新たなsaRNA変異体(それぞれを「Rag1-1」及び「Rag1-2」という)を2つ得た(図10)。各二本鎖saRNAをそれぞれKu-7-luc2-GFP、PC3(前立腺癌)及びBel-7402(肝細胞癌)細胞を含む3種類の異なる細胞株にトランスフェクションした。72時間後にp21遺伝子mRNAの発現レベルを評価した。図11(A)-(C)に示すように、Ku-7-luc2-GFP細胞において、Rag1-0と比べて、Rag1-1及びRag1-2によるp21の誘導がやや増加した。PC3及びBel-7402細胞において、Rag1-0と比べて、Rag1-2によるp21発現の誘導作用がより強くなった。CCK-8法によって測定した細胞活力のデータからは、Rag1-0と比べて、Rag1-1及びRag1-2はいずれもBel-7402細胞の増殖に対する抑制作用を改善したことが分かった(図12)。このデータからは、天然ヌクレオチド突出(すなわち、標的遺伝子プロモーター配列に由来する)又は2つのウラシルヌクレオチドなどの異なるヌクレオチド突出構造を有する場合、機能的にはRAG1-0と比べて劣らなく、そして、ある種類の腫瘍に対して、Rag1-0よりもp21発現に対する誘導及び細胞増殖に対する抑制の点で改善効果がある可能性もあることが分かった。これからも、ある種類のがんに対して、天然ヌクレオチド突出又は2つのウラシルヌクレオチド突出の構造によって、saRNAによる遺伝子誘導及び成長抑制の活性を改善することができることを証明した。天然突出末端を含む二本鎖体は、標的配列と100%相補的なものであり、その配列の全長がその標的部位に由来する(ダブルdT及びウラシル突出と異なる)。このような設計によって、非天然又はミスマッチした突出を含むsaRNAよりも良い標的特異性及び相補性を提供することができる。
【0069】
実施例5:二本鎖saRNAの長さによるp21に対する誘導活性への影響
本出願人は、二本鎖体の長さがp21に対する誘導活性に影響を及ぼすか否かを確定するために、Rag1-0二本鎖体の(センス鎖に対する)3’末端に相同配列の1つのヌクレオチドを1つずつ増加する方式で5つの新たな二本鎖体を設計合成し、それぞれをRag1-3、Rag1-4、Rag1-5、Rag1-6及びRag1-7と名前付け、それらの長さがそれぞれ22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチドである。これらの二本鎖体は、ダブルdT突出を保留する(図10)。図示したように、図11(A)-(C)では、長さが22ヌクレオチドであるRag1-3は、Rag1-0と比べて、Ku-7-luc2-GFP細胞において遺伝子発現の誘導と細胞増殖の抑制とがより良好となった(図12)。二本鎖体の活性は、長さが22個より多いヌクレオチドであるとなくなり、これは、21~22ヌクレオチドを有する二本鎖体の長さは、遺伝子の誘導に対してより好適であることを意味する。
【0070】
さらに、出願人は、P21-323(「Rag1-8」ともいう)から、天然ヌクレオチド突出構造を有する変異体(Rag1-9)と、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド又は26ヌクレオチドまで延伸した変異体(それぞれがRag1-10、Rag1-11、Rag1-12、Rag1-13、Rag1-14ともいわれ、それらの突出構造が依然としてダブルdTである)を合成した(図10)。その結果、天然突出構造を有するとともに21ヌクレオチドを有するRag1-9は、遺伝子誘導の活性を顕著に改善しなく、長さが22ヌクレオチドを有するRag1-10は、全ての細胞株において他の二本鎖体よりも良くなり、強いp21活性化剤であることが示された(図11(A)-(C))。また、長さが23ヌクレオチドであるRag1-11の、Ku-7-luc2-GFP及びPC3細胞における誘導作用はRag1-10にほぼ同じであるが、Bel-7402細胞においてp21遺伝子発現を顕著に誘導しなかった(図11(A)-(C))。したがって、saRNA配列の長さを長くすることにより、活性のないsaRNAを強い遺伝子活性化剤に変換することができる。
【0071】
実施例6:ミスマッチを含有する二本鎖saRNA
出願人は、Rag1-0の変異体を設計合成した。具体的には、アンチセンスオリゴヌクレオチド鎖の5’末端の1位のヌクレオシドに対応するセンスオリゴヌクレオチド鎖におけるアデノシンを、アンチセンスオリゴヌクレオチド鎖を変化せずにウラシル又はシトシンに突然変異させることにより、それぞれ二本鎖saRNAの3’末端に1個の塩基のミスマッチがあるsaRNA変異体Rag1-15及びRag1-16を得た。また、アンチセンス鎖の5’末端の1位及び2位のヌクレオシドに対応するセンス鎖におけるヌクレオシドをアデノシン及びウラシルに突然変異させることにより、二本鎖の3’末端に2個の塩基のミスマッチを含むsaRNA変異体Rag1-17を得た(図10)。これらのsaRNAをKu-7-luc2-GFP、PC3又はBel-7402細胞にトランスフェクションし、3種類のsaRNA変異体のそれぞれによるp21発現の誘導は少なくともRag1-0とほぼ同じであり、又はそれよりも良くなるが、シトシンミスマッチを含むRag1-16二本鎖体は、全ての3種類の細胞株のいずれにおいても強活性化剤である(図11(A)-(C))。
【0072】
実施例7:非対称構造となる二本鎖saRNA
本発明者らは、非対称構造となる二本鎖体を合成し、Rag1-18(センス鎖の3’末端に突出がなく、3’平滑末端となる二本鎖体)、Rag1-20(センス鎖における5’末端の1位のヌクレオシドを除去することによりアンチセンス鎖における3’末端に3個のヌクレオチド突出を発生させた)、及びRag1-19(Rag1-18とRag1-20の2種類の構造修飾の組み合わせを含み、すなわち、センス鎖における5’末端の1位のヌクレオシドと3’末端のダブルdT突出が除去され、5’末端に3個のヌクレオシド突出を有するとともに3’末端が平滑末端である非対称二本鎖構造が形成された)(図10)。図11(A)-(C)に示すように、Rag1-18は、全ての3種類の細胞株のいずれにおいてp21を活性化させることができなかったが、Rag1-20は、全ての3種類の細胞株のいずれにおいてもp21への誘導能力がRag1-0とほぼ同じである。Rag1-18と比べて、Rag1-19における2種類の構造修飾の組み合わせは、その遺伝子誘導活性を回復した。この2種類の構造の最適化は、いずれもsaRNAの遺伝子誘導活性を保留するとともにセンス鎖のオフターゲット効果を減少させることができ、そして、少ない核酸を用いてオリゴヌクレオチドを合成するので、コストを節約できるという利点もある。
【0073】
実施例8:構造特徴の組み合わせの最適化
1.図13に示すように、Rag1-21、Rag1-22、Rag1-23及びRag1-24は、Rag1-10の誘導体である。
(1)Rag1-21は、2つのウラシル突出を含み、その構造式として、センス鎖が(S20+3U2)、アンチセンス鎖が(AS20+3U2)となる。
【0074】
(2)Rag1-22は、2つの天然ヌクレオチド突出を含み、その構造式として、センス鎖が(S20+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS20+3NO2)となる。
【0075】
(3)Rag1-23は,Rag1-21の変異体であり、その二本鎖体の3’末端の1位の塩基がミスマッチし、このミスマッチは、センス鎖におけるアデノシンをシトシンに突然変異させて形成されたものである。その構造式として、センス鎖が(S20+3U2)、アンチセンス鎖が(AS20+3U2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0076】
(4)Rag1-24は、Rag1-23の変異体であり、そのうち、センス鎖の5’末端の1位のヌクレオチドが欠失しているので、アンチセンス鎖の突出長を延長させた。その構造式として、センス鎖が(S19+3U2)、アンチセンス鎖が(AS20+3U2NO2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0077】
2.Rag1-25及びRag1-26は、Rag1-16の変異体であり、そのうち、センス鎖及びアンチセンス鎖の突出がそれぞれ2つのウラシルヌクレオチド又は天然突出で置換され、センス鎖が3’シトシンのミスマッチを含む。
【0078】
(1)Rag1-25の構造式として、センス鎖が(S19+3U2)、アンチセンス鎖が(AS19+3U2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0079】
(2)Rag1-26の構造式として、センス鎖が(S19+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0080】
3.Rag1-27及びRag1-28は、Rag1-20の変異体であり、両者のセンス鎖に3’シトシンミスマッチを含むとともに5’末端が欠失しているので、アンチセンス鎖の突出長さを延長させ、センス鎖及びアンチセンス鎖のそれぞれが20及び21ヌクレオチドである。
【0081】
(1)Rag1-27の突出は、2つのウラシルヌクレオチドである。その構造式として、センス鎖が(S18+3U2)、アンチセンス鎖が(AS19+3U2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0082】
(2)Rag1-28の突出は、2つの天然ヌクレオチド突出である。その構造式として、センス鎖が(S18+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0083】
これらのsaRNA変異体(Rag1-21~Rag1-28)をKu-7-luc2-GFP、UM-UC-3(膀胱移行細胞癌)、T24(膀胱癌)、J82(膀胱移行細胞癌)又はBel-7402細胞株にトランスフェクションし、72時間後に遺伝子発現を評価した。図14(A)~(E)に示すように、全ての二本鎖体はいずれも異なる程度でp21発現を誘導することができ、そのうち、Rag1-21、Rag1-23及びRag1-26が他の変異体よりも優れている。同時に、トランスフェクションされた細胞の細胞増殖能をCCK-8検出法で分析したところ、各saRNA変異体はいずれも全ての細胞に対して異なる成長抑制作用を有することがわかった。そのうち、Rag1-26がKu-7-luc2-GFP、UM-UC-3及びT24細胞において最も優れている(図15(A)-(E))。これらのデータから、センス鎖の3’末端におけるシトシンミスマッチ及び天然突出構造の利点を示した。
【0084】
3.本発明者は、Rag1-26に基づいて新たなRag1-29~Rag1-44の変異体(表1、図13)を設計し、これらの変異体は、以下の配列及び構造変化の異なる組み合わせを含む。
一本鎖の長さの変化:
長さ17~22ヌクレオチドのセンス鎖;
長さ20~22ヌクレオチドのアンチセンス鎖;
二本鎖体の構造の変化:
二本鎖体5’平滑末端;
二本鎖体3’平滑末端;
二本鎖体ミスマッチ;
突出特徴の変化:
アンチセンス鎖の3’末端における1~3ヌクレオチドの突出;
アンチセンス鎖の5’末端における1~2ヌクレオチドの突出;
センス鎖の3’末端における2ヌクレオチド(天然ヌクレオチド又はウラシルヌクレオチド)の突出。
【0085】
(1)Rag1-29は、アンチセンス鎖における突出を除去することにより二本鎖体の5’平滑末端に非対称構造を実現することにより、アンチセンス鎖における突出(overhang)がp21遺伝子の誘導に必要なものであるか否かを確定するものであり、その構造式として、センス鎖が(S20+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS20)、二本鎖体が(B5+MM(3'1S:A,C))となる。
【0086】
(2)Rag1-30は、3’末端に2つのウラシルヌクレオチド突出を有しつつ裁断されたセンス鎖であり、そのうち、5’末端のヌクレオチドが除去されるので、アンチセンス鎖に天然ヌクレオチドからなる3ヌクレオチド突出を発生させた。その構造式として、センス鎖が(S18+3U2)、アンチセンス鎖が(AS18+3NO3)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0087】
(3)Rag1-31は、Rag1-30と類似するが、センス鎖における突出を除去することで平滑末端の非対称構造を形成した。その構造式として、センス鎖が(S18)、アンチセンス鎖が(AS18+3NO3)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0088】
(4)Rag1-32は、Rag1-29と類似するが、アンチセンス鎖の3’末端において天然突出を2つのウラシルヌクレオチド突出に置換させたものである。その構造式として、センス鎖が(S20+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS20+3NO2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0089】
(5)Rag1-33は、Rag1-32と類似するが、センス鎖において、ミスマッチしたシトシンヌクレオチドをアグアニル酸に置き換えてゆらぎ(wobble)塩基対合による活性への影響をテストするものである。その構造式として、センス鎖が(S20+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS20+3NO2)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0090】
(6)Rag1-34は、Rag1-32と類似するが、センス鎖における5’末端のヌクレオチドが欠失したものである。その構造式として、センス鎖が(S19+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO3)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,C))となる。
【0091】
(7)Rag1-35は、Rag1-32の平滑末端の誘導体であり、そのうち、センス鎖における突出が除去された。その構造式として、センス鎖が(S20)、アンチセンス鎖が(AS20+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))となる。
【0092】
(8)Rag1-36は、Rag1-35と類似し、センス鎖の5’末端における1個のヌクレオチドを削除して平滑末端非対称構造を形成したものである。その構造式として、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO3)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))となる。
【0093】
(9)Rag1-37は、Rag1-36と類似し、ミスマッチしたシトシンヌクレオチドがセンス鎖から欠失し、アンチセンス鎖の5’末端にモノヌクレオチドの突出末端を発生させたものである。その構造式として、センス鎖が(S18)、アンチセンス鎖が(5NO1+AS18+3NO3)、二本鎖体が(OHAS5')となる。
【0094】
(10)Rag1-38は、Rag1-27の一般的でない誘導体であり、アンチセンス鎖の5’末端に、センス鎖の3’突出とマッチングするためにジヌクレオチドを含むミスマッチが延伸するとともに、アンチセンス鎖にモノヌクレオチドの3’突出が存在する。その構造式として、センス鎖が(S18+3U2)、アンチセンス鎖が(5U2+AS18+3NO1)、二本鎖体が(OHAS5'+MM(3'1S:A,C))となる。
【0095】
(11)Rag1-39は、Rag1-33の誘導体であり、そのうち、アンチセンス鎖におけるミスマッチしたシトシンがグアノシンで置換され、二本鎖体の長さが1個の塩基対分短くなった。その構造式として、センス鎖が(S18+3NO2)、アンチセンス鎖が(AS18+3NO3)、二本鎖体が(MM(3'1S:A,G))となる。
【0096】
(12)Rag1-40は、Rag1-26の誘導体であり、センス鎖における突出を除去することにより、平滑末端が非対称にさせた。その構造式として、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))となる。
【0097】
(13)Rag1-41は、Rag1-40と類似し、そのうち、センス鎖におけるミスマッチしたシトシンがグアノシンで置換された。その構造式として、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,G))となる。
【0098】
(14)Rag1-42もRag1-40と類似し、ミスマッチしたヌクレオチドのみがセンス鎖から欠失することにより、アンチセンス鎖の5’末端にモノヌクレオチドの突出末端を発生させたものである。その構造式として、センス鎖が(S18)、アンチセンス鎖が(5NO1+AS18+3NO2)、二本鎖体が(OHAS5')となる。
【0099】
(15)Rag1-43もRag1-40と類似し、二本鎖体の長さが1つの塩基対分短くなったものである。その構造式として、センス鎖が(S18)、アンチセンス鎖が(AS18+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))となる。
【0100】
(16)Rag1-44はRag1-37と類似し、二本鎖体の長さが1つの塩基対分短くなったものである。その構造式として、センス鎖が(S17)、アンチセンス鎖が(5NO1+AS18+3NO3)、二本鎖体が(OHAS5')となる。
【0101】
上記二本鎖体saRNA(Rag1-29~Rag1-44)をそれぞれKu-7-luc2-GFP、UM-UC-3、T24、J82又はPC3細胞株にトランスフェクションし、72時間後に遺伝子発現を評価した。図16(A)~(E)に示すように、Rag1-29及びRag1-38は、全ての細胞株においてp21発現を誘導する能力をほとんど喪失していた。この2つの二本鎖体のアンチセンス鎖に少なくとも2ヌクレオチドの突出末端を有しないため、この特徴はp21遺伝子の誘導活性に対して不可欠なものである。逆に、センス鎖における3’突出末端は全く無くてもよい。これは、Rag1-31、Rag1-35、Rag1-36、Rag1-40、Rag1-41及びRag1-43は、いずれも強い活性を保っているからである。また、二本鎖体の3’末端のヌクレオチドミスマッチの存在は、活性を最大化することに対して重要である。なぜならば、他の強い活性saRNAに比べて、センス鎖の3’末端におけるミスマッチしたヌクレオチドが除去されるので、Rag1-37、Rag1-42及びRag1-44のp21活性化能力が低下したからである。アンチセンス鎖においてシチジンの代わりにグアノシンを用いて、アンチセンス鎖におけるグアノシンとG-Uミスマッチを形成する場合(例えば、Rag1-39及びRag1-41)は、saRNAの活性に対して悪影響をもたらす可能性もあるが、Rag1-33においてこのような悪影響がない。これは、Rag1-33の二本鎖体の二本鎖領域の長さ(20個のヌクレオチドを有するが、Rag1-39及びRag1-40はそれぞれ18個と19個のヌクレオチドを有する)による正影響によりG-Uミスマッチによる悪影響が相殺されるかと推定される。これにもかかわらず、シトシンミスマッチを他のヌクレオチドに含ませることにより遺伝子誘導活性を最適化する好みをさらにサポートする。
【0102】
CCK-8法を用いて各細胞株の細胞活力を検出し(図17(A)-(E))、遺伝子誘導活性(図16(A)-(E))と結合して総合的に分析したところ、二本鎖体Rag1-30、Rag1-32、Rag1-35及びRag1-40はいずれも最大の遺伝子誘導活性とがん細胞増殖に対する強い抑制作用を有することがわかった。ちなみに、Rag1-35及びRag1-40はそれぞれRag1-23及びRag1-26の変異体であるが、いずれも平滑末端の非対称構造、シトシンミスマッチ及び天然クレオチド突出を有するので、後者は二本鎖体のアンチセンス鎖の全長を予期の標的部位と100%相補的なものにしたため、顕著に改善された遺伝子誘導と腫瘍細胞増殖の抑制活性を示していた。
【0103】
Rag1-36二本鎖体は、p21発現の強力な活性化剤であるが、全てのテストした細胞株では一部又は全部の細胞増殖抑制活性が失われていた。これは、全てのテストされた小分子活性化RNA変異体における唯一の遺伝子誘導活性と細胞増殖抑制活性が一致しない二本鎖体である。このような独特の特性は、Rag1-36の配列及び/又は構造特徴に関連する可能性があり、このような特徴は、目標遺伝子の発現の誘導のみが必要であり、細胞成長を過剰に抑制する必要がない場合に用いられる可能性がある。
実施例9:構造特徴の組み合わせの最適化の検証
【0104】
出願人は、p21遺伝子プロモーターを標的とする通常構造saRNA RAG-431-0、RAG-553-0、RAG-688-0及びRAG-693-0及びそれらのそれぞれの3種の変異体を設計合成し、その構造式は以下のとおりである(図18)。
RAG-431-1:センス鎖(S19)、アンチセンス鎖(AS19+3NO2)、二本鎖体(B3+MM(3'1S:U,C)
RAG-431-3:センス鎖(S19+3T2)、アンチセンス鎖(AS19)、二本鎖体(B5+MM(5'1AS:U,C)
RAG-553-1:センス鎖(S19)、アンチセンス鎖(AS19+3NO2)、二本鎖体(B3+MM(3'1S:G,C)
RAG-553-3:センス鎖(S19+3T2)、アンチセンス鎖(AS19)、二本鎖体(B5+MM(5'1AS:U,C)
RAG-688-1:センス鎖(S19)、アンチセンス鎖(AS19+3NO2)、二本鎖体(B3+MM(3'1S:A,C)
RAG-688-3:センス鎖(S19+3T2)、アンチセンス鎖(AS19)、二本鎖体(B5+MM(5'1AS:U,C)
RAG-693-1:センス鎖(S19)、アンチセンス鎖(AS19+3NO2)、二本鎖体(B3+MM(3'1S:U,C)
RAG-693-3:センス鎖(S19+3T2)、アンチセンス鎖(AS19)、二本鎖体(B5+MM(5'1AS:U,C)
【0105】
RAG-431-0及びその変異体をKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、RAG-431-0は、p21の発現を9.37倍誘導し、その変異体であるRAG-431-1及びRAG-431-3はそれぞれp21の発現を18.35倍及び12.26倍誘導した(図19)。
【0106】
RAG-553-0及びその変異体をKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、RAG-553-0はp21の発現を10.62倍誘導し、その変異体であるRAG-553-1及びRAG-553-3はそれぞれp21の発現を15.10倍及び15.61倍誘導した(図19)。
【0107】
RAG-688-0及びその変異体をKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、RAG-688-0はp21の発現を14.03倍誘導し、その変異体であるRAG-688-1及びRAG-688-3はそれぞれp21の発現を18.28倍及び6.36倍誘導した(図19)。
【0108】
RAG-693-0及びその変異体をKu-7-luc2-GFP細胞にトランスフェクションし、RAG-693-0はp21の発現を7.04倍誘導し、その変異体であるRAG-693-1及びRAG-693-3はそれぞれp21の発現を10.54倍及び6.85倍誘導した(図19)。
【0109】
本出願人は、KLF4遺伝子プロモーターを標的とするsaRNA KLF4-0及びその変異体であるKLF4-1をさらに設計合成し、その構造がRag1-40と類似し、構造式として、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))である(図20)。これらのsaRNAをPC3、Ku-7-luc2-GFP及びBel-7402細胞にトランスフェクションし、KLF4-0は、KLF4の発現をそれぞれ2.64倍、1.57倍及び1.31倍誘導したが、KLF4-1変体によるKLF4の発現の誘導活性がいずれもKLF4-0よりも優れ、PC3、Ku-7-luc2-GFP及びBel-7402細胞ではそれぞれ3.42倍、1.77倍及び1.43倍であった(図21(A)-(C))。
【0110】
本出願人は、NKX3-1遺伝子プロモーターを標的とするsaRNA NKX3-1-0及びその変異体であるNKX3-1-1、NKX3-1-2、NKX3-1-3を設計合成し、これらの変異体の構造がRag1-40と類似する。NKX3-1-1の構造式は、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))である。NKX3-1-2の構造式は、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,G))である。NKX3-1-3の構造式は、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,U))である。これらのsaRNAをPC3及びBel-7402細胞にトランスフェクションし、NKX3-1-0は、NKX3-1の発現をそれぞれ2.7倍及び1.67倍誘導し、その変異体であるNKX3-1-1、NKX3-1-2、NKX3-1-3によるNKX3-1の発現の誘導活性はいずれもNKX3-1-0よりも優れる(図22(A)-(B))。
【0111】
本出願人は、VEGFA遺伝子プロモーターを標識とするsaRNA VEGF-0及びその変異体であるVEGF-1をさらに設計合成し、その構造がRag1-40と類似し、構造式として、センス鎖が(S19)、アンチセンス鎖が(AS19+3NO2)、二本鎖体が(B3+MM(3'1S:A,C))である(図20)。これらのsaRNAをHeLa、COS-1又はARPE-19細胞にトランスフェクションし、VEGF-0はVEGFAの発現をそれぞれ1.22倍、1.11倍及び1.51倍誘導した。VEGF-0の変異体であるVEGF-1によるVEGFRの発現の誘導活性はVEGF-0よりも優れる(図23(A)-(C))。
【0112】
上記の分析結果から、saRNAをRag1-40と類似する構造と設計した場合、特定の配列を問わず、遺伝子の活性化の活性という点でいずれも一般的なsaRNAよりも優れている。具体的には、アンチセンス鎖の3’突出は、天然ヌクレオチド突出(例えば、RAG-431-1、RAG-553-1、RAG-688-1、RAG-693-1、NKX3-1-1、NKX3-1-2及びNKX3-1-3)であってもよいし、UU突出(例えばKLF4-1及びVEGF-1)であってもよい。突然変異したヌクレオチドは、C(例えば、RAG-431-1、RAG-431-3、RAG-688-1、RAG-688-3、RAG-693-1、NKX3-1-1、KLF4-1、VEGF-1)、A(RAG-553-1及びRAG-553-3)、G(NKX3-1-2)及びU(例えば、NKX3-1-3)であってもよい。
【0113】
実施例10 p21 saRNA Rag1-40によるマウス体内でのヒト皮下移植腫瘍の成長に対する抑制
saRNA製剤の調製:saRNA送達システムは、in vivo-jetPEI(201-10G,Polyplus-transfection,フランス)を用い、メーカーから提供した調製方法に従って製剤を調製した。その過程を簡単に説明すると、まず、saRNAを10%グルコース溶液に希釈して溶液Aを得た。次に、必要な量のin vivo-jetPEIを10%グルコース溶液に希釈して溶液Bを得た。その後、溶液Aと溶液Bを等体積で混合し(N/P比が8であり、グルコースの最終濃度が5%である)、均一に混合した後、室温で15分間静置する。
【0114】
対数増殖期のヒト肝細胞癌の細胞株HepG2細胞を採取し、計数した後、細胞懸濁液を3.5×107個/mLに調整し、BALB/cヌードマウスの右腋皮下に0.2mL/匹で接種した。腫瘍が約100mm3に成長して、担癌ヌードマウスを7匹/組でVehicle(5%グルコース)群、RAG1-40投与群にランダムに分け、1、4、7日目に、saRNAを1mg・kg-1で腫瘍内注射した。1回目の投与(1日目)から、2日ごとにノギスで腫瘍の長径と短径を測定し、V=(L×W2)/2という式で腫瘍体積を算出した。ここで、Lは腫瘍塊の最長径、Wは腫瘍塊の表面と平行となるとともに長径に垂直となる直径をそれぞれ示す。投与中の腫瘍成長曲線及び解剖後の腫瘍の大きさ及び形態を記録した。
【0115】
図24に示すように、異なる検出時点では、投与群の腫瘍成長が緩慢であり、投与後の7日目から、腫瘍が縮小する傾向にあり、体積は対照であるVehicle群の腫瘍体積よりも著しく小さくなる。投与後の10日目に投与群の腫瘍体積と治療開始時の体積と比べて12.8%増加したが、Vehicle群の腫瘍体積は119.8%増加し、両群の腫瘍体積の変化にきわめて明らかな差異があり(P<0.001)、p21遺伝子発現を活性化できるsaRNAは体内腫瘍の成長に対して顕著な抑制作用を有することを証明した。
【0116】
関連参照
本明細書に引用された各特許文献及び科学文献の全ての開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0117】
等価
本発明は、その基本的な特徴から逸脱することなく他の具体的な形態で実施することができる。したがって、上記の実施例は、例示的なものであって、本発明を限定するものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記の明細書ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3A-D】
図3E-H】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
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