(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】銅-銀複合材料
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240208BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240208BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20240208BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20240208BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240208BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20240208BHJP
C22F 1/00 20060101ALI20240208BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20240208BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20240208BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240208BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F1/0545
B22F5/00 Z
B22F9/00 A
C22C1/04 A
C22F1/00 692A
C22F1/08 C
H01B1/02 A
H01B13/00 Z
C22C9/00
C22F1/00 621
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 660A
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
(21)【出願番号】P 2021503852
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2019069990
(87)【国際公開番号】W WO2020020986
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514255523
【氏名又は名称】サントレ ナティオナル ド ラ ルシェルシェ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】518454704
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ トゥールーズ トロワ - ポール サバティエ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】レクートゥリア,フロランス
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】メズギッシュ,ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ロンジョン,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】タルデュー,シモン
(72)【発明者】
【氏名】フェレラ,ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァリエ,ジョフロア
(72)【発明者】
【氏名】エストゥルネ,クロード
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-065260(JP,A)
【文献】特開2010-065265(JP,A)
【文献】韓国登録特許第2302548(KR,B1)
【文献】特表2017-523306(JP,A)
【文献】特開2013-110174(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0140846(US,A1)
【文献】特開2015-129327(JP,A)
【文献】特表2014-507553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C22C 1/04-1/059
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と銀を含む材料であって、
固体複合材料であり、且つ、前記材料の全体積に対して
5体積%未満の体積量の銀を含
み、
前記銅は粒状体であり、前記銀は粒状体であり、前記銅及び前記銀の前記粒状体の少なくとも一つの寸法が50~500nmであることを特徴とする材料。
【請求項2】
銅及び銀が、その寸法の少なくとも1つが500nm以下の粒状体であることを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
少なくとも80%IACSの伝導率を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
少なくとも1GPaの引張強度を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記材料の全体積に対して、最大で1.5体積%の銀を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
銅及び銀が、前記材料の全体積に対して、少なくとも99.9体積%を示すことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
銅及び銀が、繊維形状を有する粒状体であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
請求項7に記載の材料であって、
銅粒子が以下の粒子であり:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(L
Cu)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(D
Cu1)と(D
Cu2)が、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(D
Cu1,D
Cu2)が、前記長さ(L
Cu)よりも短く、50nm~400nmの範囲である;そして、
- 前記長さ(L
Cu)と、2つの直交寸法(D
Cu1)及び(D
Cu2)のそれぞれとの間の2つの比(F
Cu1)及び(F
Cu2)が形状係数と呼ばれ、前記形状係数(F
Cu1,F
Cu2)が75以上である;且つ、
銀粒子が以下の粒子である:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(L
Ag)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(D
Ag1)と(D
Ag2)が、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(D
Ag1,D
Ag2)が、前記長さ(L
Ag)よりも短く、50nm~400nmの範囲である;そして、
- 前記長さ(L
Ag)と、2つの直交寸法(D
Ag1)及び(D
Ag2)のそれぞれとの間の2つの比(F
Ag1)及び(F
Ag2)が形状係数と呼ばれ、前記形状係数(F
Ag1,F
Ag2)が75以上である;
ことを特徴とする材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の固体複合材料を調製するためのプロセスであって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とするプロセス:
i)マイクロメートルサイズの銅粒子とマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子を非溶媒媒体に分散させる工程;
ii)前記銅粒子及び銀粒子を含む複合粉体を形成するための乾燥工程であって、前記粉体が前記粉体の全体積に対して5体積%未満の量の銀粒子を含む、乾燥工程;
iii)複合固体塊を得るために、最高
600℃の温度でフラッシュ焼結する工程;及び、
iv)工程iii)からの複合固体塊を成形するための少なくとも1つの冷延伸工程。
【請求項10】
工程i)の非溶媒媒体が、アルコール類、水、ケトン類、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
マイクロメートルサイズの銅粒子が、その寸法の少なくとも1つが0.5~20μmの範囲であることを特徴とする請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセスであって、
マイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子が以下の糸状粒子であり:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(L’
Ag)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(D’
Ag1)と(D’
Ag2)が、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(D’
Ag1,D’
Ag2)が、前記長さ(L’
Ag)よりも短い;そして、
- 前記長さ(L’
Ag1)と、2つの直交寸法(D’
Ag1)及び(D’
Ag2)のそれぞれとの間の2つの比(F’
Ag1)及び(F’
Ag2)が、形状係数と呼ばれる;且つ、
以下の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる:
- 糸状粒子の2つの直交寸法(D’
Ag1,D’
Ag2)が、50nm~400nmの範囲である;
- 長さ(L’
Ag)が、1μm~150μmの範囲である;
- 形状係数(F’
Ag1,F’
Ag2)が、75以上である;
ことを特徴とするプロセス。
【請求項13】
工程iii)が、375℃~525℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする請求項9~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
工程iii)の最後に得られた複合固体塊が、85~97%の範囲の相対密度を有することを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
二水素の存在下で、工程ii)からの乾燥した複合粉体を還元する工程ii’)をさらに含むことを特徴とする請求項9~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の固体複合材料の電気導体としての、連続磁場磁石又はパルス磁場磁石の導体としての、強磁場設備の分野又は工業用電磁成形の分野における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅と、当該材料の全体積に対して約5体積%未満の体積量の銀を含む固体複合材料、前記材料の製造プロセス、及び様々な用途における前記材料の使用に関する。
【0002】
本発明は、これには限定されないが、典型的には、マイクロエレクトロニクス、工業用電磁成形、電力及び/又は通信ケーブル用の導体、及びパルス磁石用の導体の分野に適用される。より具体的には、本発明は、特に引張強度に関して良好な機械的特性と、良好な電気的特性(特に電気伝導特性)の両方を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
純銅は優れた電気伝導率(100%IACS又は国際軟銅規格)を有するが、引張強度が低く、特に約200~400MPaである。従って、ナノ結晶又はナノ粒子の形状の純銅の粒子、又は銅合金から形成された粒子を含む、機械的に強化された銅導体が提案されてきた。例えば、Sakaiら(非特許文献1)は、24重量%の銀を含み、約1.5GPaの最適化された引張強度を有する銅-銀合金を記載している。しかしながら、その電気伝導率は約65%IACSである。この伝導率は、温度がその後急激に上昇するパルス磁石及び/又は高電圧電源ケーブルでの該合金の使用を不可とする。該合金は、銅と銀を含む混合物の溶融、金型での該混合物の鋳造、その後の熱処理工程(特に330~430℃)と交互に行う冷延伸工程を含むプロセスによって得られる。このプロセスは、多くの熱処理工程を必要とするため、エネルギー多消費であり、及び/又は高価である。
【0004】
銅-銀複合材料の製造など、他の解決策が提案されてきた。特に、特許文献1は、24重量%の銀を含み、約970MPaの許容可能な引張強度を有する銅-銀複合材料を記載する。しかしながら、ここでもその電気伝導率は全く普通である(約72%IACS)。該複合材料は、銀棒を銅管に挿入する工程、真空電子ビーム溶接の工程、500~700℃での熱処理工程、押し出し工程、それに続く複合モノフィラメントを形成するための延伸、アニーリング、及び成形のいくつかの工程を含むプロセスによって得られる。いくつかの複合モノフィラメント(例えば、630モノフィラメント)が前述のプロセスで形成され、次に前述のプロセスを繰り返すために銅管に挿入される。このプロセスは、多くの熱処理及び成形工程を必要とするため、非常に長く、エネルギー多消費であり、及び/又は高価である。
【0005】
すなわち従来技術の材料は、電気伝導率を犠牲にして機械的特性を改善している。具体的には、従来技術の方法は、粒界などの内部欠陥、又は積層欠陥をもたらし、これは、得られる材料の電気伝導率の低下につながる。さらに、プロセスはしばしば長く、及び/又は高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Acta Materialia,1997,45,3,1017-1023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、先行技術の欠点の全て又はいくつかを克服することであり、特に引張強度に関して良好な機械的特性を保証しながら、特に電気伝導率に関して改善された電気特性を有する銅及び銀ベースの複合材料を特に提供することである。前記材料は、特に電力及び/又は通信ケーブルの導電性要素としてのケーブルの分野、パルス磁石の分野、強磁場設備の分野、及び/又は工業用電磁成形の分野における使用に適した性能レベルを有することが可能である。本発明の別の目的は、その材料を調製するための簡単で経済的なプロセスを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に従った複合粉体と本発明に従っていない複合粉体を比較するSEM画像である。
【
図2】本発明に従ったワイヤ形状の複合材料と本発明に従っていないワイヤ形状の複合材料の抵抗率を直径の関数として示すグラフである。
【
図3】本発明に従ったワイヤ形状の複合材料と本発明に従っていないワイヤ形状の複合材料の引張強度を直径の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従って本発明の第1の対象は、銅と銀を含む材料であって、固体複合材料であり、前記材料の全体積に対して約5体積%未満の体積量の銀を含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の材料は、特に引張強度に関して良好な機械的特性を保証しながら、特に電気伝導率に関して改善された電気的特性を有する。特にそれは少なくとも約900MPaの引張強度を保証しながら、約75%IACS以上の伝導率を有することができる。
【0012】
本発明の複合材料において、好ましくは銅及び銀は、その寸法の少なくとも1つがサブミクロンサイズ(すなわち、1μm未満)の粒状体である。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、銅(別個に銀)は、その寸法の少なくとも1つが約700nm以下、好ましくは約500nm以下、より好ましくは約50nm~400nmの範囲、さらにより好ましくは約100nm~300nmの範囲の粒状体である。
【0014】
この粒径により、良好な電気的特性と良好な機械的特性を保証することが可能となる。
【0015】
本発明に従った銅(別個に銀)の数個の粒子を考慮すると、「寸法」という用語は、所定の集団の粒子の集合の数平均寸法を意味し、この寸法は、当業者に周知の方法によって従来法で測定される。
【0016】
本発明に従った粒子の寸法は、例えば、顕微鏡、特に走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定することができる。
【0017】
本発明の材料は複合材料である。本発明において「複合材料」という表現は、少なくとも1つの純銅相と少なくとも1つの純銀相を含む材料を意味する。換言すると、前記材料は、少なくとも銅粒子と銀粒子の集合体であり、前記銅粒子と前記銀粒子は相互に可溶性ではない。銅-銀複合材料は、例えば融合又は機械的融合によって銅が銀と結合している銅-銀合金とは異なることに留意すべきである。特に、銅-銀合金は、銅-銀固溶体の形で、一方が銅に富み、他方が銀に富む二相の共晶構造からなる。本発明の複合材料は、銅と銀の相互溶解領域を含まない。本発明の複合材料中に銅と銀の相互溶解領域が存在しないことは、特にエネルギー分散分析(EDX)によって説明することができる。
【0018】
本発明の材料は固体である。換言すると、固体塊の形状をしているか、又は、粉体の形状もしくは粉末の形状の材料とは異なる。
【0019】
本発明の材料は、特に20℃で、好ましくは少なくとも約80%IACS、より好ましくは少なくとも約85%IACS、さらにより好ましくは少なくとも約90%IACSの伝導率を有する。
【0020】
本発明の材料は、特に20℃で、好ましくは最大で約2.15μΩ.cm、より好ましくは最大で約2.03μΩ.cm、さらにより好ましくは最大で約1.91μΩ.cmの電気抵抗率を有する。
【0021】
本発明の材料は、特に-196℃で、好ましくは最大で約0.70μΩ.cm、より好ましくは最大で約0.60μΩ.cm、さらにより好ましくは最大で約0.50μΩ.cmの電気抵抗率を有する。
【0022】
好ましくは、電気抵抗率は、TEKTRONIX社がKEITHLEY 2450 Sourcemeterの商品名で販売する装置を用いて測定される。
【0023】
本発明の材料は、特に-196℃で、好ましくは少なくとも900MPa、好ましくは少なくとも1GPa、好ましくは少なくとも約1.05GPa、より好ましくは少なくとも約1.1GPa、さらにより好ましくは少なくとも約1.2GPaの引張強度を有する。
【0024】
好ましくは、引張強度は、INSTRON社がINSTRON 1195の商品名で販売する装置を用いて測定される。
【0025】
本発明の材料は、特に周囲温度(すなわち18~25℃)で、好ましくは少なくとも約0.5%の破断伸びを有する。
【0026】
破断伸びは、好ましくは、DOERLER Mesures社がEpsilon 3442エクステンソメーターの商品名で販売する装置を用いて測定される。
【0027】
当該材料は、前記材料の全体積に対して、体積比で約5%未満の割合で銀を含む。前記材料中の銀の割合が低いため、銀粒子が銅粒子中に均一に分散している均質な材料を保証することが可能となる。実際、5体積%以上では、材料中の銀の分散が不均質となり(例えば、集塊群の存在)、その機械的特性の弱化につながる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、当該材料は、前記材料の全体積に対して、最大で約2体積%の銀、優先的には最大で約1.5体積%の銀、さらにより優先的には最大で約1体積%の銀を含む。
【0029】
本発明の材料は、通常、前記材料の全体積に対して少なくとも約0.1体積%、好ましくは少なくとも約0.5体積%の銀を含む。
【0030】
本発明の材料は、前記材料の全体積に対して、少なくとも約98体積%、好ましくは少なくとも約99体積%の銅を含むことができる。
【0031】
本発明の材料は、前記材料の全体積に対して、最大で約99.9体積%、好ましくは最大で約99.5体積%の銅を含むことができる。
【0032】
1つの特定の実施形態では、当該材料は、前記材料の全体積に対して、最大で約0.5体積%の不可避的不純物、好ましくは最大で0.3体積%の不可避的不純物、より好ましくは最大で約0.1体積%の不可避的不純物を含む。
【0033】
不可避的不純物は、元素Al、C、Fe、Ni、Pb、Si、Sn、Zn、Se、及びそれらの混合物から選択されうる。
【0034】
1つの特定の実施形態では、当該材料は、O、S、P、Se、及びそれらの混合物から選択される他の不純物を、最大で約0.5体積%、好ましくは最大で約0.1体積%含む。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、当該材料は、銅、銀、及び任意に不可避的不純物及び/又は本発明で定義される他の不純物のみを含む。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、当該材料は本質的に銅及び銀を含む。換言すると、銅及び銀は、前記材料の全体積に対して、少なくとも約99.9体積%、より好ましくは約100体積%を示す。
【0037】
銅及び/又は銀は、繊維形状を有する粒状体であってもよい。
【0038】
本発明の材料は、好ましくは異方性を有する。換言すると、好ましい方向に沿って伸長した銅(別個に銀)粒子(繊維形状粒子ともいう)からなる。
【0039】
繊維形状を有する銅粒子は、例えば以下の粒子である:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(LCu)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(DCu1)と(DCu2)は、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(DCu1,DCu2)は、前記長さ(LCu)よりも短く、700nm以下、好ましくは約500nm以下、より好ましくは約50nm~400nm、さらにより好ましくは約100nm~300nmの範囲である;そして、
- 前記長さ(LCu)と、2つの直交寸法(DCu1)及び(DCu2)のそれぞれとの間の2つの比(FCu1)及び(FCu2)は、形状係数と呼ばれ、前記形状係数(FCu1,FCu2)は、50よりも大きく、好ましくは約75以上であり、より好ましくは約100~400、さらにより好ましくは約100~300の範囲である。
【0040】
1つの特定の実施形態によれば、繊維形状を有する粒子の2つの直交寸法(DCu1,DCu2)は、同等又は類似している。次に「棒形状」又は「ワイヤ形状」を参照する。
【0041】
別の特定の実施形態によれば、繊維形状を有する粒子は、本発明による粒子の2つの直交寸法(DCu1,DCu2)がその幅(lCu)(第1の直交寸法)及びその厚さ(ECu)(第2の直交寸法)であり、特に幅(lCu)が厚さ(ECu)よりもはるかに大きい「テープ」であってもよい。
【0042】
銅(別個に銀)粒子の長さ(LCu)は、マイクロメートルサイズ(すなわち、1mm未満)、好ましくは約500μm以下、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約1~150μmの範囲、さらにより好ましくは約10~70μmの範囲であってもよい。
【0043】
繊維形状を有する銀粒子は、例えば以下の粒子である:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(LAg)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(DAg1)と(DAg2)は、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(DAg1,DAg2)は、前記長さ(LAg)よりも短く、700nm以下、好ましくは約500nm以下、より好ましくは約50nm~400nm、さらにより好ましくは約100nm~300nmの範囲である;そして、
- 前記長さ(LAg)と、2つの直交寸法(DAg1)及び(DAg2)のそれぞれとの間の2つの比(FAg1)及び(FAg2)は、形状係数と呼ばれ、前記形状係数(FAg1,FAg2)は、50よりも大きく、好ましくは約75以上であり、より好ましくは約100~400、さらにより好ましくは約100~300の範囲である。
【0044】
1つの特定の実施形態によれば、繊維形状を有する粒子の2つの直交寸法(DAg1,DAg2)は、同等又は類似している。次に「棒形状」又は「ワイヤ形状」を参照する。
【0045】
別の特定の実施形態によれば、繊維形状を有する粒子は、本発明による粒子の2つの直交寸法(DAg1,DAg2)がその幅(lAg)(第1の直交寸法)及びその厚さ(EAg)(第2の直交寸法)であり、特に幅(lAg)が厚さ(EAg)よりもはるかに大きい「テープ」であってもよい。
【0046】
銀粒子の長さ(LAg)は、マイクロメートルサイズ(すなわち、1mm未満)、好ましくは約500μm以下、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約1~150μmの範囲、さらにより好ましくは約10~70μmの範囲であってもよい。
【0047】
本発明の材料は、好ましくは少なくとも約99%、さらに好ましくは少なくとも約99.5%の相対密度を有する。
【0048】
本発明において、相対密度は、20℃でアルキメデス法によって決定され、参照体は4℃の純水である。
【0049】
本発明の材料は、特に約0.1~4mm、好ましくは約0.2~1mm、より好ましくは約0.25~0.8mmの範囲の直径を有するワイヤ形状であってもよい。
【0050】
本発明の第2の対象は、本発明の第1の対象に従った固体複合材料を調製するためのプロセスであって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする:
i)マイクロメートルサイズの銅粒子とマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子を非溶媒媒体に分散させる工程;
ii)前記銅粒子及び銀粒子を含む複合粉体を形成するための乾燥工程であって、前記粉体が前記粉体の全体積に対して約5体積%未満の量の銀粒子を含む、乾燥工程;
iii)複合固体塊を得るために、最高約600℃の温度でフラッシュ焼結する工程;及び、
iv)工程iii)からの複合固体塊を成形するための少なくとも1つの冷延伸工程。
【0051】
このように、本発明のプロセスは簡単であり、少ない工程で、特に電気伝導率の点で改善された電気的特性を有するとともに、特に引張強度の点で良好な機械的特性を保証する、本発明の第1の対象に従った複合材料を得ることが可能である。さらに、従来技術のプロセスで行われていた繰り返しのアニーリング及び/又は熱処理の工程を回避し、銅と銀の拡散及び/又は融合の現象を回避する。最後に、このプロセスは、工業規模に容易に移行することができる。
【0052】
工程i)
工程i)により、金属の拡散現象を回避しつつ、銅と銀の均質な混合物を形成することが可能となる。
【0053】
工程i)は、マイクロメートルサイズの銅粒子の粉体と、マイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子の粉体を、前記非溶媒媒体中に分散させることによって実施することができる。
【0054】
非溶媒媒体は、銅粒子や銀粒子を溶解しない液体である。特に、懸濁液を形成することを可能にする。
【0055】
非溶媒媒体は、アルコール類、水、アセトンなどのケトン類、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0056】
アルコール類の例としては、エタノールを挙げることができる。
【0057】
特に、工程i)は、以下のサブステップに従って実施することができる:
i-a)任意に、マイクロメートルサイズの銅粒子の粉体を非溶媒媒体S1に分散させる;
i-b)マイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子の粉体を非溶媒媒体S2に分散させる;及び、
i-c)マイクロメートルサイズの銅粒子の粉体又はサブステップi-a)で得られたマイクロメートルサイズの銅粒子の粉体の分散液を、サブステップi-b)で得られたマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子の粉体の分散液と、特に撹拌しながら混合する。
【0058】
非溶媒媒体S1及びS2は、非溶媒媒体Sについて上述したものと同じ定義とすることができる。
【0059】
好ましくは、非溶媒媒体S1及びS2は同一である。
【0060】
非溶媒媒体S1及びS2は、好ましくは、相互に可溶性である。
【0061】
サブステップi-a)は、機械的な撹拌、磁気的な撹拌、又は超音波の撹拌下で実施することができる。
【0062】
サブステップi-b)は、特にマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子の変質を避けるために、機械的な撹拌又は磁気的な撹拌下で実施することができる。
【0063】
サブステップi-c)は、機械的な撹拌、磁気的な撹拌、又は超音波の撹拌下で実施することができる。
【0064】
マイクロメートルサイズの銅粒子は、その寸法の少なくとも1つが約0.5~20μm、好ましくは約0.5~10μm、好ましくは約0.5~4μm、より好ましくは約0.5~1.5μmの範囲であってもよい。
【0065】
マイクロメートルサイズの銅粒子は、好ましくは球状のマイクロメートルサイズの粒子である。
【0066】
銀粒子は、その寸法の少なくとも1つが約0.1~150μm、好ましくは約0.5~70μmの範囲であってもよい。
【0067】
マイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子は、球状又は糸状であってもよい。
【0068】
球状のマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子は、約0.5~20μm、好ましくは約0.5~10μm、好ましくは約0.5~4μm、より好ましくは約0.5~1.5μmの範囲の直径を有することができる。
【0069】
本発明の一実施形態によれば、マイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子は糸状である。
【0070】
特にそれらは以下の通りである:
- 伸長の主方向に沿って延びる長さ(L’Ag)を有する;
- 直交寸法と呼ばれる2つの寸法(D’Ag1)と(D’Ag2)は、互いに直交する2つの横方向に沿って延び、前記伸長の主方向に直交し、前記直交寸法(D’Ag1,D’Ag2)は、前記長さ(L’Ag)よりも短く、700nm以下、好ましくは約500nm以下である;そして、
- 前記長さ(L’Ag1)と、2つの直交寸法(D’Ag1)及び(D’Ag2)のそれぞれとの間の2つの比(F’Ag1)及び(F’Ag2)は、形状係数と呼ばれ、前記形状係数(F’Ag1,F’Ag2)は、好ましくは50よりも大きい。
【0071】
好ましい一実施形態によれば、糸状粒子の2つの直交寸法(D’Ag1,D’Ag2)は、同等又は類似しており、その横方向の断面の直径(D’Ag)を表す。次に「棒形状」又は「ワイヤ形状」を参照する。
【0072】
別の好ましい実施形態によれば、糸状粒子は、本発明による粒子の2つの直交寸法がその幅(l’Ag)(第1の直交寸法)及びその厚さ(E’Ag)(第2の直交寸法)であり、特に幅(l’Ag)が厚さ(E’Ag)よりもはるかに大きい「テープ」である。
【0073】
有利には、本発明による糸状のマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズの銀粒子は、以下の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる:
- 糸状粒子の2つの直交寸法(D’Ag1,D’Ag2)が、約50nm~400nm、好ましくは約100nm~300nmの範囲である;
- 長さ(L’Ag)が、約1μm~150μm、好ましくは約10μm~70μmの範囲である;
- 形状係数(F’Ag1,F’Ag2)が、約75以上であり、好ましくは約100~400、より好ましくは約100~300、さらにより好ましくは200のオーダーである。
【0074】
工程ii)
工程ii)では、非溶媒媒体を蒸発させることができる。
【0075】
これは、ロータリーエバポレーターを用いて、特に真空下で行うことができる。
【0076】
乾燥温度は、好ましくは約70~100℃の範囲であり、より好ましくは80℃のオーダーである。
【0077】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、複合粉体は、前記粉体の全体積に対して、最大で約2体積%の銀粒子、優先的には最大で約1.5体積%の銀粒子、さらにより優先的には最大で約1体積%の銀粒子を含む。
【0078】
工程ii’)
プロセスは、二水素の存在下で、工程ii)からの乾燥した複合粉体を還元する工程ii’)をさらに含むことができる。この工程ii’)により、銅粒子の表面に形成される可能性のある酸化銅層を除去することが可能になりうる。
【0079】
工程ii’)は、約100~300℃、好ましくは約110~240℃、より好ましくは約120~160℃の温度T1で実施することができる。
【0080】
工程ii’)は、約1℃/分~5℃/分、より好ましくは約2℃/分~3℃/分の範囲の速度で、粉体を周囲温度から本発明で定義される温度T1まで加熱することによって実施することができる。
【0081】
工程iii)
本発明において、「フラッシュ焼結」という表現は、電流の使用に基づいて一軸圧力下で焼結することを意味する。フラッシュ焼結は、「放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)」又はSPSという用語でも周知である。
【0082】
工程iii)は、銅及び/又は銀の拡散及び/又は融合の現象を回避しながら、前の工程ii)又はii’)で得られた粉体を固めることを可能にする。
【0083】
この工程iii)は、好ましくは、最高で約550℃、優先的には約375℃~525℃の範囲、さらにより優先的には約390℃~450℃の範囲の温度T2で実施される。これらの温度は、後続の工程で冷延伸することができるように十分な残留空隙率を有する複合固体塊を得ることを可能にする(例えば、破損及び/又はクラック及び/又は破裂なしに)。
【0084】
本発明の好ましい一実施形態によれば、焼結は、粉体を加熱することによって行われる:
- 周囲温度から350℃まで、約20℃/分~30℃/分の範囲の速度で加熱する;及び、
- 350℃から温度T2まで、約40℃/分~60℃/分の範囲の速度で加熱する。
【0085】
焼成は、好ましくは、低真空もしくは高真空、又はアルゴンもしくは窒素雰囲気下で行う。
【0086】
工程II)又はii’)で得られた複合粉体にかける圧力は、好ましくは20~100MPa、さらにより優先的には25~35MPaである。
【0087】
焼成時間は温度によって異なる。この時間は、通常、約20分~30分の範囲である。
【0088】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、焼結は、高真空下で、約25~50MPaの圧力で、400~500℃の最高温度で、3~10分の時間を維持して行われる。熱処理の全持続時間は、この場合、1時間30分未満である。
【0089】
パルス電流の強度は、約10~250Aの範囲であってもよい。各電流パルスの持続時間は、数ミリ秒のオーダーである。この持続時間は、好ましくは約2~4msの範囲である。
【0090】
特に、工程iii)の最後に得られた複合固体塊は、約85~97%、好ましくは約90~95%、より好ましくは約92~96%の範囲の相対密度を有する。実際、これらの密度範囲は、クラックや破面の形成を回避しながら、次の延伸工程を行うことができるように適合されている。
【0091】
工程iii)の最後に、複合材料は、特にその直径よりも大きい高さ又は長さを有する円筒又は棒の形状であってもよい。これにより、工程iv)の実施を有利にすることができる。
【0092】
本発明の特定の一実施形態によれば、円筒又は棒は、約5~80mm、好ましくは約5~40mmの範囲の直径を有する。
【0093】
工程iii)により、銅粒子のマイクロメートルサイズと銀粒子のマイクロメートルサイズ又はサブマイクロメートルサイズを保持し、金属粒子の成長を回避することが可能となる。
【0094】
工程iii)で得られた複合固体塊は、好ましくは等方性である。換言すると、銅(別個に銀)粒子がそれ自身の巨視的な幾何学的形状に対して優先的に配向していない。
【0095】
工程iv)
冷延伸工程iv)は、好ましくは最高で約40℃、好ましくは最高で約35℃、特に好ましくは約-196℃~30℃の範囲の温度で、より特に好ましくは周囲温度で行われる。
【0096】
周囲温度は、約18~25℃の範囲の温度に相当する。
【0097】
このプロセスは、いくつかの工程iv)、特に約20~80の工程iv)、特に約40の工程iv)を含むことができる。
【0098】
好ましい一実施形態では、延伸工程iv)により、特に約0.1~4mm、好ましくは約0.2~1mm、より好ましくは約0.25~0.8mmの範囲の直径を有するワイヤ形状の複合材料を得ることが可能となる。
【0099】
好ましい一実施形態では、延伸工程iv)により、約0.1~1000m、好ましくは約0.2~50mの範囲の長さを有するワイヤ形状の複合材料を得ることが可能となる。
【0100】
工程iv)の間、破裂及び/又はクラック及び/又は破損の現象が大幅に減少するか、回避される。
【0101】
プロセスは、工程iii)とiv)の間に、特に約4℃/分~7℃/分の範囲の冷却速度で複合固体塊を冷却する工程をさらに含むことができる。
【0102】
第2の対象に従ったプロセスにより、第1の対象に従った材料が得られる。
【0103】
また本発明は、本発明の第2の対象に定義されたプロセスに従って得ることができる、本発明の第1の対象に定義された固体複合材料に関する。
【0104】
本発明の第3の対象は、本発明の第1の対象に従った固体複合材料、又は本発明の第2の対象に従ったプロセスに従って得られた固体複合材料の、(特に電力ケーブル及び/又は通信ケーブル用の)電気導体としての、連続磁場磁石又はパルス磁場磁石の導体としての、強磁場設備の分野又は工業用電磁成形の分野における使用である。
【0105】
この固体複合材料は、電気伝導性と引張強度をうまく両立しており、特に導電体として、高電圧ケーブルもしくは架空送電線、又はモーター、交流発電機、変圧器もしくはコネクタに使用することができる。
【0106】
さらに、その優れた電気的及び機械的特性により、その性能レベルを向上又は維持しながら、その直径を小さくすることができ、その結果、前記固体複合材料で形成された導線の重量を減らすことができる。これにより、航空、宇宙及び防衛分野;特にドローン、航空機、ミサイル、ランチャー、衛星、探査機もしくは宇宙船;又は陸上輸送、特に鉄道のカテナリーシステムにおける使用を想定することができる。
【0107】
本発明の第1の対象に従った固体複合材料は、強磁場の設備、特に100テスラを超える非破壊パルス磁場でも使用することができる。特にこの材料の低い電気抵抗率は、一定の電力で、パルス磁場のパルスの持続時間を増加させ、連続磁石への電力供給に必要な電力を減少させることにつながる可能性がある。
【0108】
最後に、本発明の第1の対象に従った固体複合材料で製造したワイヤの統合を介して、パルス磁石などの電磁成形ツールの寿命を延ばすことが可能になりうる。具体的には、この分野の導電性ワイヤは、通常、その弾性限界を大きく超えて機械的にストレスを受けている。
【0109】
従って、本発明の第1の対象に従った固体複合材料で製造したワイヤは、電磁成形磁石のプロトタイプに組み込むことができる。
【0110】
本発明の第1の対象に従った固体複合材料で製造したワイヤは、電磁成形用の工業用磁石の巻線を可能にしうる。
【実施例】
【0111】
実施例で使用した原材料を以下に示す:
- 銅粉体、0.5~1.5μm、Alfa-Aesar;
- AgNO3、Aldrich;
- エチレングリコール、Aldrich;
- ポリビニルピロリジノンPVP、55000g/mol、Aldrich。
【0112】
特に断りのない限り、これらの原材料は全てメーカーから受け取ったまま使用した。
【0113】
実施例1
本発明に基づく複合材料の調製
銀ナノワイヤは「Sun Y.G.et al.,“Crystalline silver nanowires by soft solution processing”,Nano Letters,2002.2(2):p.165-168」に記載の通り、PVP/AgNO3比が1.53である硝酸銀(AgNO3)、PVP及びエチレングリコールの溶液中の成長プロセスに従って調製した。得られた銀ナノワイヤは、長さが約30~60μmの範囲、直径が約200~300nmの範囲である。
【0114】
0.178gの銀ナノワイヤと9mlのエタノールを含む懸濁液を作製した。
【0115】
銀ナノワイヤの懸濁液を銅粉体15gと混合し、得られた混合物を超音波で均質化し、次いでロータリーエバポレーターを用いて80℃で蒸発乾固した。このようにして、粉体の全体積に対して1体積%の銀を含む複合粉体PC1を得た。
【0116】
銅粒子の表面に形成された銅酸化物を還元するために、この複合粉体を二水素の存在下、160℃で1時間還元した。
【0117】
次いで、得られた粉末を、Syntex社が「Dr Sinter 2080(商標)」の商品名で販売する装置を用いて、SPSにより焼結した。
【0118】
これを行うために、複合材の粉体を、内径8mmの炭化タングステンとコバルト(WC/Co)の合金製で、内側がグラファイトフィルムで保護された金型(die)に入れた。続いて、金型を左右対称のピストンで閉じ、SPS装置のチャンバー内に導入した。焼結は、真空下(チャンバーの残圧<10Pa)で、定義されたパルス状の直流電流を3.2msの周期で14回かけて行い、そのうち12回はパルスをかけ、2回はパルスをかけなかった。温度は、金型の外面に開けた開口部(深さ5mm)に導入した熱電対を用いて制御した。温度は2段階で500℃に到達した(周囲温度から350℃までは、25℃.min-1の傾斜で13分間;次いで、350℃から500℃までは、50℃.min-1の傾斜で3分間)。その後、この温度を5分間維持した。これらの温度傾斜は、定義されたパルス状の直流電流を3.2msの14周期で印加して得られたものであり、そのうち12周期がパルス、2周期がパルスなしである。1分後に25MPaの圧力に到達し、残りの焼結時間維持した。その後、SPSのチャンバー内で金型を冷却した。得られた複合固体塊MSC1は、直径8mm、長さ33mmの円筒状であった。
【0119】
次に、得られた複合固体塊を、炭化タングステン製の金型を用いて周囲温度で延伸した。40パス後、直径0.29mm、長さ25mのワイヤ形状の複合材料FC1が得られた。ワイヤの破断は見られなかった。
【0120】
複合粉体と複合材ワイヤを、JEOL社がJEOL JSM 6700Fの商品名で販売する電界放出銃を用いて、200kVで操作し、走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した。
【0121】
アルキメデス法により、複合固体塊と複合材ワイヤの密度を決定した。
【0122】
複合材ワイヤの電気抵抗率を、ワイヤの加熱を避けるために77K(液体窒素)で4点法を用い、最大電流を100mAとして測定した。
【0123】
長さ170mmの複合材ワイヤについて、引張強度をINSTRON社がINSTRON 1195の商品名で販売する装置を用いて77K(液体窒素)及び293Kで測定した。遭遇した特定の張力を、力センサーを用いて測定した(1000N又は250N;1.6×10-5m.s-1)。
【0124】
比較のために、上述のものと同じプロセス(同一の操作条件)を使用し、約1体積%の銀の体積割合を約10体積%の量に置き換えた。このようにして、工程i)の最後に、粉体の全体積に対して10体積%の銀を含む複合粉体PCAを得た。この複合粉体PCAは本発明の一部ではない。また、本発明の一部ではない複合固体塊MSCA及び複合材ワイヤFCAも得た。
【0125】
複合固体塊MSC1及びMSCAの密度は、約94%(±2%)である。
【0126】
図1は、本発明に従った複合粉体PC
1のSEM画像(
図1a:10μmスケール;及び、
図1b:2μmスケール)と、本発明に従っていない複合粉体PC
AのSEM画像(
図1c:10μmスケール;及び、
図1d:2μmスケール)である。
図1は、銅粉体中の銀ナノワイヤの均一な分散により均質な粉体が得られることを示す。一方、約10体積%の銀の体積量の使用では均質な粉体を得ることはできない。
【0127】
図2は、本発明に従ったワイヤ形状の複合材料FC
1(黒三角の曲線)と、本発明に従っていないワイヤ形状の複合材料FC
A(黒円の曲線)の77Kにおける抵抗率(μΩ.cm)を、それぞれの直径(mm)の関数として示す。
【0128】
図3は、本発明に従ったワイヤ形状の複合材料FC
1(黒三角の曲線)と、本発明に従っていないワイヤ形状の複合材料FC
A(黒円の曲線)の77Kにおける引張強度(MPa)を、それぞれの直径(mm)の関数として示す。
【0129】
本発明に従った複合材ワイヤの77Kでの引張強度は、同等の直径の純銅ワイヤの2倍であり、同時に低い電気抵抗率(0.38~0.50μΩ.cm)も保証されている。これらの電気抵抗値は、同程度の引張強度を有するが20倍の銀を含む従来技術の合金又は複合材で得られた値よりも特に低い。