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特許7432590選択的CDK9阻害剤としての酒石酸塩及びその結晶形
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】選択的CDK9阻害剤としての酒石酸塩及びその結晶形
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/04 20060101AFI20240208BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C07D417/04 CSP
A61K31/506
A61P43/00 111
A61P35/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021520263
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 CN2019088991
(87)【国際公開番号】W WO2019242471
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】201810637484.9
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520503555
【氏名又は名称】チャンヂョウ チエンホン バイオ-ファーマ カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHANGZHOU QIANHONG BIO-PHARMA CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】No. 518 Yunhe Road, New District, ChangZhou, Jiangsu 213000, China
(73)【特許権者】
【識別番号】520503566
【氏名又は名称】チャンヂョウ ル サン ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHANGZHOU LE SUN PHARMACEUTICALS LTD
【住所又は居所原語表記】No. 518 Yunhe Road,New District,ChangZhou,Jiangsu 213000,China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シュードン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,リグン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ジンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,ウェンジアン
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/156780(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107118207(CN,A)
【文献】C.G.WERMUTH編,最新 創薬化学 下巻,p.347-365,株式会社 テクノミック,1999年
【文献】小嶌隆史,医薬品開発における結晶性選択の効率化を目指して,薬剤学,2008年09月01日,Vol.68, No.5,p.344-349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II:
【化1】

により表されるとおりの構造を有する、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶であって、2θ値が7.3、9.6、11.0、15.3、18.1、18.9、23.8、24.5、26.2、26.7、及び27.1の位置に出るピークを持つX線粉末回折パターン、ラマンシフト値が1613cm-1、1597cm-1、1571cm-1、1543cm-1、1389cm-1、827cm-1、及び543cm-1の位置に出るピークを持つラマンスペクトル、ならびに238.6℃に鋭い吸熱ピークを持つDSCサーモグラムを有することを特徴とする、前記酒石酸塩のA型結晶。
【請求項2】
請求項1に記載の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及び1種または複数の薬学上許容される賦形剤を含む、医薬配合物。
【請求項3】
請求項1に記載の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶の調製法であって、以下の工程:
(1)3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド遊離塩基に、前記遊離塩基の4~8倍の量でジメチルスルホキシドを加え、完全に溶解するまで加熱し、前記液体が熱いまま濾過して、第一混合物を得ること;
(2)前記第一混合物に、ある一定量の酒石酸及び水を加え、60±2℃に加熱し、温度を一定に保ち、反応させて、第二混合物を得ること;ならびに
(3)前記第二混合物に、ある一定量のアルコールを加え、温度を保ったまま反応させ、系の温度を25±5℃に下げて、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶を得ること、を含む、前記方法。
【請求項4】
前記アルコールは、エタノールである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第二混合物は、酒石酸と3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミドを、モル比1.1~1.3:1で混合することにより得られる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
増殖性障害により引き起こされる疾患または症状の治療用医薬の調製における、請求項1に記載の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶の使用。
【請求項7】
前記増殖性障害により引き起こされる疾患または症状は、がんである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記がんは、白血病である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記白血病が、急性骨髄性白血病である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
タンパク質キナーゼの阻害用医薬の調製における、請求項1に記載の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬化学技術の分野に関し、詳細には、塩形態の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド及びその安定な結晶形に関し、これらは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、例えばCDK9の選択的阻害剤であり、細胞増殖性障害、例えばがんなどの治療に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
がんなどの増殖性障害の特徴は、制御不能かつ不規則な細胞増殖である。タンパク質キナーゼのファミリーは、この態様において広範囲にわたる研究の対象として重要な酵素の一種となっている。タンパク質キナーゼのファミリーは、ヒトゲノムの中で最も大きなファミリーの1つである。大部分のキナーゼは、250~300のアミノ酸残基からなる触媒ドメインを有し、そこに保存コア構造を持つ。このドメインは、ATP結合ポケットを有し、ATPの末端リン酸基は、共有結合で、その巨大分子基質へと移される。タンパク質キナーゼは、それらのリン酸化基質によって分類することができ、例えば、タンパク質-セリン/トレオニン、及びタンパク質-チロシンなどである。
【0003】
タンパク質キナーゼは、ヌクレオシド三リン酸からシグナル伝達経路に関与するタンパク質受容体へのリン酸基転移を引き起こすことにより、細胞内シグナル伝達に介在する。これらのリン酸化事象は、様々な細胞外刺激及び他の刺激に対する反応が引き金となって起こり、標的タンパク質の生体機能を調節または制御することができる分子スイッチとして作用する。細胞外刺激は、細胞増殖、遊走、分化、ホルモン分泌、転写因子の活性化、筋肉収縮、糖代謝、タンパク質合成制御、及び細胞周期調節に関連する1つまたは複数の分子反応に影響を及ぼすことができる。
【0004】
様々な疾患が、タンパク質キナーゼ介在型事象により引き起こされる異常な細胞反応と関連している。こうした疾患として、アレルギー及び喘息、アルツハイマー病、自己免疫疾患、骨疾患、がん、循環器疾患、炎症性疾患、ホルモン関連疾患、代謝疾患、神経疾患、ならびに神経変性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。このため、治療薬として有効に作用するタンパク質キナーゼ阻害剤を見つけるための莫大な努力が、製薬化学の分野でなされてきた。
【0005】
ATP結合と拮抗することによりタンパク質キナーゼ機能を阻害することができる分子は、先行技術において多数知られている。CDKは、様々なサイクリンサブユニットに関連したセリン/トレオニンタンパク質キナーゼであり、細胞周期過程及び転写サイクルの調節において重要な役割を担っている。10種の異なるCDK(CDK1~9及び11)が、真核生物細胞の様々な重要な調節経路に関与しており、関与するものとして、細胞周期制御、アポトーシス、ニューロン生理機能、分化、及び転写が挙げられる。
【0006】
CDKは、それらの機能を反映して2つの主要な群に分類することができる。細胞周期レギュレーターCDKは、主にCDK1、CDK2、CDK3、CDK4、及びCDK6からなり、これらは、各自のサイクリンパートナー(サイクリンA、B、D1、D2、D3、E、及びFを含む)と一緒になって細胞周期の促進を制御するように作用する。転写レギュレーターCDKは、CDK7、CDK8、CDK9、及びCDK11を含み、これらは、サイクリンC、H、K、L1、L2、T1、及びT2と一緒になって作用し、転写調節において役割を果たす傾向にある。CDKは、細胞増殖性障害、詳細には、がんに関与するとされてきた。細胞増殖は、細胞分裂サイクルの結果であるが、このサイクルは直接または間接的に制御不能になり、CDKは、サイクルの複数の段階においてその調節に重要な役割を果たす。したがって、CDK及びそれに関連するサイクリンの阻害剤は、がん治療の有用な標的である。CDKは、アポトーシス及びT細胞発達においても役割を担っており、その理由は主に転写調節におけるCDKの機能による。例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)で最近使用されるようになったCDK阻害剤フラボピリドールにより、特定の臨床活性が得られている。CLLの特徴は、抗アポトーシス性タンパク質の発現増加を通じたアポトーシスに対する細胞耐性である。CDK9レベルでの転写阻害(mRNA延長に必要である)は、CLL細胞のアポトーシスを選択的に復元する。しかしながら、明確に定義されたキナーゼ選択性及び細胞特異性、抗CLL有効性、ならびに他のCDK介在型障害と拮抗する有効性を持つ、薬理学的かつ薬学的により良好なCDK阻害剤が依然として必要とされている。
【0007】
また、多数のウイルスの複製プロセスが、CDK、詳細には、CDK2、CDK7、及びCDK9を必要とする。ヒト免疫不全ウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、及び水痘帯状疱疹ウイルスをはじめとするウイルスの複製を制限するCDK阻害剤が、報告されている。CDK、詳細には、CDK9の阻害は、心肥大をはじめとする循環器疾患の潜在的治療の新規戦略である。心肥大の特徴は、mRNA及びタンパク質合成の全体的な増加である。CDK7及びCDK9は、それらが転写の主要ドライバーであるとおり、心肥大に密接に関連している。したがって、CDK9及びそれに関連するサイクリンの阻害は、循環器疾患の関連薬物標的である。
【0008】
CDKの阻害は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療にも使用できる可能性がある。アルツハイマー病に関連した対らせん状細線維の存在は、CDK5/p25によるタウタンパク質の過剰リン酸化により引き起こされる
【0009】
公開番号第CN103373994A号の中国発明特許(これはそのまま全体が本明細書中参照として援用される)は、CDK9阻害能力を持つある種類の化合物及びその調製法を開示しており、その中で、化合物の薬学上許容される塩が言及されているが、具体的な化合物の塩はまったく調製されておらず、塩の種類及び特性についてのさらなる評価も行われていない。
【0010】
したがって、こうした症状を治療するのに使用可能な新規治療薬を同定する必要が依然として存在する。詳細には、タンパク質キナーゼ(詳細にはCDK)の活性の阻害剤として機能し、かつさらに、1種または複数の有利な薬学的特性を有する他の化合物を同定する必要がある。1種または複数の有利な薬学的特性は、効力/標的活性の上昇(例えば、抗増殖性活性の上昇)、治療有効性の上昇(例えば、ある特定のがん細胞株に対する活性の上昇及び/またはがん細胞に対する選択性の改善)、及び/または生体利用度(例えば、経口生体利用度)の改善などから選択することができる。
【化1】
【発明の概要】
【0011】
本発明は、式IIで表されるとおりの酒石酸塩形の3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミドを提供する:
【化2】
【0012】
酒石酸塩は、A型及びB型を含む1種または複数の結晶多形で存在する場合がある。結晶多形は、それらのX線粉末回折パターン、ラマンスペクトル、またはDSCサーモグラムを通じて識別することができる。
【0013】
本発明の1つの態様は、A型結晶として指定する3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩を提供し、これは、以下のうちの1つまたは複数を特徴とする:2θ値が約9.6、18.9、24.5、及び26.7の位置に出るピークを持ち、2θ値が8.1、10.6、14.9、及び16.1の位置に出るピークを持たないX線粉末回折パターン、ラマンシフト値が約1389cm-1、1503cm-1、1571cm-1、及び1597cm-1の位置に出るピークを持ち、ラマンシフト値が約806cm-1及び1569cm-1の位置に出るピークを持たないラマンスペクトル、または238.6℃に鋭い吸熱ピークを持つDSCサーモグラム。
【0014】
本発明の別の態様は、B型結晶として指定する3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩を提供し、これは、以下のうちの1つまたは複数を特徴とする:2θ値が約8.1、10.6、14.9、及び16.1の位置に出るピークを持つX線粉末回折パターン、ラマンシフト値が約297cm-1、325cm-1、806cm-1、及び1569cm-1の位置に出るピークを持つラマンスペクトル、239.9℃に鋭い吸熱ピークを持つDSCサーモグラム、または1641cm-1及び3355cm-1のシフトにピークを持つ赤外吸収スペクトル。種々の塩形について、X線粉末回折パターンは、CuKα線照射を用いて得ており、DSCサーモグラムは、昇温速度10℃/分を用いて得たものである。
【0015】
本発明は、さらに、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶を調製する方法を提供し、本方法は、以下の工程を特徴とする:
(1)3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミドと、溶媒としてある一定量のジメチルスルホキシドを混合し、加熱して溶解させ、第一混合物を得ること;
(2)第一混合物に、ある一定量の酒石酸及び水を加え、反応させて、第二混合物を得ること;ならびに
(3)第二混合物に、ある一定量の水混和性溶媒を加え、反応させて、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩を得ること、得られるものは、酒石酸塩のA型結晶である。
【0016】
上記の方法において、第二混合物は、酒石酸と3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミドを、モル比1.1~1.3:1で混合することにより得られ、工程(3)の水混和性溶媒はアルコールであり、このアルコールはエタノールである。
【0017】
好ましくは、工程(2)の反応時間は、0.1~3時間である。
【0018】
好ましくは、工程(3)の反応時間は、1~10時間ある。
【0019】
本発明は、さらに、増殖性障害の治療用医薬の調製における、上記3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩及びそのA型結晶の使用を提供し、増殖性障害により引き起こされる症状とは、がんであり、さらにがんは、急性骨髄性白血病を含む。
【0020】
本発明は、さらに、タンパク質キナーゼを阻害する医薬の調製における、上記3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩及びそのA型結晶の使用を提供する。
【0021】
遊離塩基(式I)及び塩酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩などをはじめとする他の塩形態に関して、酒石酸塩は、多くの利点を提供する。遊離塩基に比べて、酒石酸塩の水溶性は、40倍改善されている。しかしながら、リン酸塩などとは異なり、溶解性のこの上昇は、吸湿性の顕著な上昇を伴っていない。安定性の予備試験において、酒石酸塩は、高温、高湿度、及び照明の条件下でより良好な安定性を示した。さらに、酒石酸塩は、良好な結晶性を有し、製造の規模拡大が容易である。上記及び他の利点は、式Iの選択的CDK9キナーゼ阻害剤を含有する医薬製品の開発で直面する様々な困難を克服するのに好適となる。
【0022】
以下の説明及び添付の図面を参照して、本発明の様々な特長、利点、及び他の応用が、より明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶のX線粉末回折パターンである;
図2】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のB型結晶のX線粉末回折パターンである;
図3】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のX線粉末回折パターンを、2θ値が0~40の範囲で重ね合わせたものである;
図4】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のX線粉末回折パターンを、2θ値が0~20の範囲で重ね合わせたものである;
図5】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のX線粉末回折パターンを、2θ値が20~40の範囲で重ね合わせたものである;
図6】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶のラマンスペクトルを、ラマンシフト値が0cm-1~3000cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図7】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のB型結晶のラマンスペクトルを、ラマンシフト値が0cm-1~3000cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図8】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のラマンスペクトルを、ラマンシフト値が0cm-1~3000cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図9】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のラマンスペクトルを、ラマンシフト値が750cm-1~1750cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図10】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のラマンスペクトルを、ラマンシフト値が100cm-1~800cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図11】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶のDSCサーモグラムである;
図12】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のB型結晶のDSCサーモグラムである;
図13】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶の赤外スペクトルを、赤外線シフト値が500cm-1~3500cm-1の範囲で重ね合わせたものである;
図14】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶の赤外スペクトルを、赤外線シフト値が500cm-1~2000cm-1の範囲で重ね合わせたものである;ならびに
図15】3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶の赤外スペクトルを、赤外線シフト値が2500cm-1~3000cm-1の範囲で重ね合わせたものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
「がん」という用語は、以下のがんを含むが、これらに限定されない:白血病、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、精巣癌、食道癌、胃癌、皮膚癌、肺癌、骨癌、結腸癌、膵癌、甲状腺癌、胆道癌、咽喉癌、口唇癌、舌癌、口腔癌、咽喉癌、小腸癌、結腸直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳及び中枢神経系癌、悪性神経膠腫、膀胱癌、肝臓癌、腎臓癌、リンパ腫など。
【0025】
3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(式II)は、A型及びB型を含む1種または複数の結晶多形で存在することが可能である。上記のとおり、結晶多形は、X線粉末回折、ラマン分光法、赤外分光法、示差走査熱量測定、またはこれらの特性決定法のあるものを組み合わせることにより識別することができる。酒石酸塩(式II)は、高純度のもの、すなわち、多形のうちの特定の1種を少なくとも99重量%含有する場合も、多形のうち2種の混合物である場合もある。
【0026】
図1及び図2は、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(式II)のX線粉末回折パターンを提示し、X線粉末回折パターンにより、これらの結晶多形を、図1のA型及び図2のB型として定義する。比較及び解釈を促進する目的で、図3は、A型結晶とB型結晶のX線粉末回折パターンを重ね合わせており、図4及び図5は、それぞれ、重ね合わせを部分的に拡大表示したものである。拡大表示の比較を通じて、結晶多形B型は、8.1、10.6、14.9、16.1、などでA型とは明らかに異なっている。多型同定の分野の当業者なら、X線粉末回折パターンを重ね合わせて比較し、特性決定ピークの組み合わせを選択することにより、1種の結晶形を、別の結晶形とは区別することができる。
【0027】
図1図5に示すX線粉末回折パターンは、Bruker D8 advance X線粉末回折計でCuKα(40kV、40mA)線照射を用いて得られたものである。回折計の操作時、管電圧及び電流は、それぞれ40kV及び40mAに設定し、試料から検出器までの距離:30cm、スキャンステップ:0.1秒、及びスキャン範囲:3°~40°(2θ)である。
【0028】
図6図10は、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(式II)のラマンスペクトルを提示する。図6及び図7は、それぞれ、酒石酸塩のA型結晶及びB型結晶のラマンスペクトルを提示し、図中、ラマンシフトは、0cm-1~3000cm-1である。比較及び解釈がしやすいように、図8は、A型結晶とB型結晶のラマンスペクトルを重ね合わせている。図9及び図10は、それぞれ、重ね合わせを部分的に拡大表示したものである。拡大表示の比較を通じて、結晶多形B型は、297cm-1、325cm-1、806cm-1、及び1569cm-1でA型とは明らかに異なっている。多型同定の分野の当業者なら、上記の特性決定データまたは他の特性を選択することにより、多形のうち1種の結晶形を、別種の結晶形とは区別することができる。
【0029】
図11及び図12は、それぞれ、結晶多形A型及びB型と指定される3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(式II)のDSCサーモグラムを提示する。DSCデータは、Perkin Elmer DSC 8500を用い、温度範囲:50-280℃、スキャン速度:10℃/分、及び窒素流速:20mL/分で得られたものである。DSCスペクトルは、A型結晶及びB型結晶が、加熱により溶融して分解し、この2種は同様な融点を有することを示す。A型は、238.6℃に鋭い吸熱ピークを有し、B型は、239.9℃に鋭い吸熱ピークを有する。
【0030】
図13図15は、3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(式II)の赤外スペクトルを提示する。比較及び解釈がしやすいように、図13図15は、全て、A型結晶及びB型結晶の重ね合わせ比較図である。図13の赤外シフトは500cm-1~3500cm-1であり、図14の赤外シフトは500cm-1~2000cm-1であり、図15の赤外シフトは2500cm-1~3000cm-1である。赤外スペクトルの重ね合わせの比較からわかるとおり、結晶多形B型は、1641.1cm-1、3355.5cm-1などでA型とは明らかに異なっている。
【実施例
【0031】
以下で実施例を併せて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、それらに限定されない。
【0032】
実施例1
3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩(LS007の名称を使用)の塩形成性
1.1塩形成の高処理スクリーニング
LS007のpKa値及び異なるpHでの溶解度に基づき、pKa値が約3以下の酸を塩形成スクリーニングの酸として使用することが可能であると決定することができる。したがって、本発明者らは、塩酸、硫酸、アスパラギン酸、マレイン酸、リン酸、グルタミン酸、酒石酸、及びフマル酸を含む8種の酸を選択した。
【0033】
薬物を溶解させ、それを96ウェルプレートに加え、加えた薬物のモル質量及びカウンターイオン官能基の量に従って加えるべきカウンターイオンの量を決定する。加熱時間及び温度は、具体的な状況によって決定することができる(典型的には、40℃及び1時間)。反応中フラスコにある一定の圧がかかっていることを確実にする目的で、混合、ボルテックス、及び加熱プロセス中、試料が完全に密閉されていることを確実にしなければならず、プロセス全体を通じて、少なくともケイ素樹脂内壁が存在していなければならない。具体的な工程は、以下のとおりである:
1)酸の0.02MのTHF溶液を調製する、ただし、グルタミン酸、硫酸、及びリン酸は水溶液である;
2)LS007の0.01MのTHF/MeOH(1:1)溶液を調製する;
3)塩酸1mL、硫酸0.25mL、アスパラギン酸0.5mL、マレイン酸0.5mL、リン酸0.5mL、グルタミン酸0.5mL、酒石酸0.5mL、及びフマル酸0.5mLを加え、ついでそれぞれにLS007の溶液1mLを加える;ならびに
4)ボルテックス後、40℃の油浴で1時間反応させ、室温で有機溶媒をエバポレートし、最後に50℃で減圧乾燥させる。
【0034】
ラマンスペクトルの比較は、塩酸、硫酸、リン酸、マレイン酸、酒石酸、及びフマル酸は全て、LS007と塩を形成するが、アスパラギン酸及びグルタミン酸は塩を形成しないことを示す。
【0035】
上記の6種の塩で規模拡大実験を行い、異なるpH緩衝液及び脱イオン水に対する各種塩の溶解度を特定し、遊離塩基と比較する。結果を表1にまとめる:
【表1】
【0036】
相対的に良好な溶解度から塩酸塩、リン酸塩、及び酒石酸塩を選択し、遊離塩基LS007、塩酸塩、リン酸塩、及び酒石酸塩で包括的固相特性決定を行う。比較結果を表2にまとめる:
【表2-1】
【表2-2】
【0037】
HPLC試験による溶解度結果は、pH2.0緩衝液及び脱イオン水に対する塩酸塩、リン酸塩、及び酒石酸塩の溶解度が、原材料の溶解度と比較して顕著に上昇していることを示す。溶解度:酒石酸塩>リン酸塩>塩酸塩>遊離塩基。
【0038】
活性医薬成分のDVS実験からわかるとおり、LS007は、非常に低い吸湿性を有するが、吸湿性は塩形成後に上昇しており、実験では、リン酸塩が最も高い吸湿性を有し、60%RHで水を11.71%吸収し、続いて、塩酸塩、そして酒石酸塩が最も低い吸湿性を有する。
【0039】
本発明者らは、驚いたことに、酒石酸塩が溶解度及び吸湿性の両方において並外れた性能を有することを見出した。
【0040】
実施例2
3-(5-フルオロ-4-(4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-ベンゼンスルホンアミド酒石酸塩の結晶形
LS007酒石酸塩の結晶多型問題について、この試験では、異なる結晶化条件及び実験的アプローチを用いることにより、化合物LS007酒石酸塩の可能な結晶形を系統的にスクリーニングした。約300通りの結晶化実験を通じて、LS007酒石酸塩は、2種の異なる結晶形、それぞれ、A型結晶及びB型結晶で存在する可能性があることがわかった。さらなる特性決定から、異なる結晶形の間に物理化学的特性の顕著な差異はないことが明らかとなった。結晶形間の変換実験では、A型がより安定な結晶形であり、ある一定の条件下でB型はA型結晶に変換可能であることがわかった。
【0041】
(1)A型
柱状結晶、薬物は溶融して分解し、分解ピーク温度は236.8℃である。これは、非吸湿性である(80%湿度において、吸湿性重量増加は0.22%)。通常の貯蔵湿度の範囲内において、湿度の変動幅は小さい。物理及び化学特性は、比較的理想的であり、試料は、最良の結晶化度を有し、流動性はB型のものよりも大きく、薬物形成能はB型のものよりも良好である。そのうえ、平衡溶解度は、種々の模擬in vivo条件(pH=2.0、4.6、6.8)下でB型のものより大きい。
【0042】
A型結晶の具体的な調製法は、以下のとおりである:
【0043】
四つ口フラスコに、LS007遊離塩基及び遊離塩基の質量の6倍の質量のジメチルスルホキシドを加え、加熱して完全に溶解させ(60℃を超えないように温度を制御する)、熱いまま濾過し;反応混合物を10L反応フラスコに移し、酒石酸を0.494倍量(遊離塩基の重量に対し、1.3当量)で、及び水を0.27倍量(遊離塩基の重量に対し)で加え、攪拌し、60±2℃に加熱し、0.5時間温度を一定に保ち;無水エタノールを8.6倍量(遊離塩基の重量に対し)で加え、4時間、温度を60±2℃に保ち;系の温度を25±5℃に下げ、吸引濾過し(または遠心して脱水し)、フィルターケーキを適切な量の無水エタノールで洗う。
【0044】
フラスコに、上記の固体及び固体の質量の2~3倍の質量の無水エタノールを加え、80℃で1時間攪拌し、熱いまま濾過し、得られたフィルターケーキを熱風で80℃で乾燥させ、生成物を黄色固体として得る。これが、LS007酒石酸塩のA型結晶である。
【0045】
(2)B型
顆粒状結晶、薬物は溶融して分解し、分解ピーク温度は240.5℃である。これは、非吸湿性である(80%湿度において、吸湿性重量増加は0.11%)。通常の貯蔵湿度の範囲内において、湿度の変動幅は小さい。B型は、50℃での懸濁実験において、溶媒としてNM:HO(1:1)を用いた場合に得ることができる。
【0046】
XRPD重ね合わせからわかるとおり、B型は、8.08°、10.63°、14.85°、16.12°、22.30°、24.33°、26.50°などでA型とは明らかに異なる。
【0047】
本発明中言及される参照文献は全て、個々の参照文献が個別に参照されるかのごとく、本出願において参照される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15