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特許7432596液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャ
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/20 20060101AFI20240208BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G06F1/20 C
G06F1/20 A
H05K7/20 Q
H05K7/20 W
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021523998
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 SG2019050529
(87)【国際公開番号】W WO2020091690
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】10201809662Q
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】521186166
【氏名又は名称】グレゴリー オン コン チェ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー オン コン チェ
【審査官】白石 圭吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0199340(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0002393(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106455433(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/16 - 1/20
H05K 7/20
F25D 23/10 - 23/12
F28D 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャにおいて、
複数のカセットを含むシャーシであって、前記複数のカセットの各カセットが、前記複数の発熱コンポーネントのうちの1つ以上の発熱コンポーネントを含み、前記複数のカセットが前記シャーシに対して摺動可能に取付けられている、シャーシと;
前記複数の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管するための液槽と;
前記液槽から液体を吸引するための第1のポンプと;
前記第1のポンプを経由して前記液槽から前記液体を受入れるための配管システムと;
前記液体を受入れるために前記配管システムに接続された複数の管板であって、前記複数の管板の管板が前記複数のカセットのうちの隣り合う2つのカセットの間に設置されており、前記複数の管板が、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して前記複数の発熱コンポーネント上に前記液体を直接噴霧し、これにより、前記液体を前記複数の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させる、複数の管板と;
前記液槽の上方かつ前記シャーシの下方に設置された熱交換器であって、前記蒸気を前記熱交換器との接触時点で凝縮液体へと凝縮させ、それによって前記凝縮液体が前記液槽内に収集されるようにするための熱交換器と;
を含むエンクロージャであって、
前記シャーシ、前記第1のポンプ及び前記配管システムは前記エンクロージャ内にそれぞれ配置され、前記液槽は前記エンクロージャ内で底部に配置される、エンクロージャ
【請求項2】
前記シャーシがさらに、前記1つ以上の発熱コンポーネントに電力を供給するための少なくとも1つの電源ユニット、および少なくともローカルエリアネットワークまたはインターネットに対し外部からのネットワーク接続性を提供するための少なくとも1つのネットワークスイッチを含んでいる、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項3】
前記シャーシは、前記少なくとも1つの電源および前記少なくとも1つのネットワークスイッチと共通の電力およびデータバスを前記複数のカセットが共用できるようにするために、前記シャーシの後方端部に収納されたバックプレーンをさらに含む、請求項2に記載のエンクロージャ。
【請求項4】
前記液槽から前記液体を吸引するための第2のポンプをさらに含み、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが、或る瞬間に動作可能である、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項5】
前記配管システムは、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが動作不能である場合に前記第1のポンプおよび第2のポンプを通して前記液体が戻るように循環するのを防止するための逆流防止弁を備えている、請求項4に記載のエンクロージャ。
【請求項6】
前記複数の管板内の液体の流れを制御するため、前記配管システムと前記複数の管板の間に接続されたバイパス弁をさらに含む、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項7】
前記複数の管板はさらに、前記蒸気が前記複数の管板と接触した時点で、前記蒸気の前記凝縮液体への凝縮を提供する、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項8】
前記複数の管板がさらに、放射により前記複数の発熱コンポーネント由来の熱を吸収し、前記複数の管板の内部を循環する前記液体に前記熱を伝達する、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項9】
前記エンクロージャの健全性および動作パラメータを監視するための複数のセンサをさらに含み、前記複数のセンサが、温度センサ、流量センサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサまたは湿度および飽和蒸気センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項10】
前記複数のセンサから受信した出力に基づいて前記エンクロージャを監視し管理するための管理制御システムをさらに含む、請求項9に記載のエンクロージャ。
【請求項11】
前記エンクロージャの外部非蒸気気体をパージし前記蒸気が前記エンクロージャの外部に発散するのを防ぐためのカートリッジをさらに含む、請求項1に記載のエンクロージャ。
【請求項12】
複数の棚を有するラックにおいて、
前記複数の棚のうちの1つの棚上に位置付けされた複数のエンクロージャであって、前記複数のエンクロージャのうちの第1のエンクロージャが前記ラックの前方端部からアクセス可能であり、前記複数のエンクロージャのうちの第2のエンクロージャが前記ラックの後方端部からアクセス可能である複数のエンクロージャ、
を含むラックであって、前記複数のエンクロージャの第1のエンクロージャおよび第2のエンクロージャの各々が:
複数のカセットを含むシャーシであって、前記複数のカセットの各カセットが、1つ以上の発熱コンポーネントを含み、前記複数のカセットが前記シャーシから摺動可能に取外し可能である、シャーシと;
前記1つ以上の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管するための液槽と;
前記液槽から液体を吸引するための第1のポンプと;
前記第1のポンプを経由して前記液槽から前記液体を受入れるための配管システムと;
前記液体を受入れるために前記配管システムに接続された複数の管板であって、前記複数の管板の管板が前記複数のカセットのうちの隣り合う2つのカセットの間に設置されており、前記複数の管板が、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して前記1つ以上の発熱コンポーネント上に前記液体を直接噴霧し、これにより、前記液体を前記1つ以上の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させる、複数の管板と;
を含んでおり、
前記シャーシ、前記第1のポンプ及び前記配管システムは前記エンクロージャ内にそれぞれ配置され、前記液槽は前記エンクロージャ内で底部に配置される、ラック。
【請求項13】
前記液槽の上方かつ前記シャーシの下方に設置された熱交換器であって、前記蒸気を前記熱交換器との接触時点で凝縮液体へと凝縮させ、こうして前記凝縮液体が前記液槽内に収集されるようにするための熱交換器をさらに含む、請求項12に記載のラック。
【請求項14】
前記シャーシがさらに、前記1つ以上の発熱コンポーネントに電力を供給するための少なくとも1つの電源ユニット、および少なくともローカルエリアネットワークまたはインターネットに対し外部からのネットワーク接続性を提供するための少なくとも1つのネットワークスイッチを含んでいる、請求項12に記載のラック。
【請求項15】
前記シャーシは、前記少なくとも1つの電源および前記少なくとも1つのネットワークスイッチで共通の電力およびデータバスを前記複数のカセットが共用できるようにするために、前記シャーシの後方端部に収納されたバックプレーンをさらに含む、請求項14に記載のラック。
【請求項16】
前記液槽から前記液体を吸引するための第2のポンプをさらに含み、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが、或る瞬間に動作可能である、請求項12に記載のラック。
【請求項17】
前記複数の管板はさらに、前記蒸気が前記複数の管板と接触した時点で、前記蒸気の凝縮液体への凝縮を提供する、請求項12に記載のラック。
【請求項18】
前記複数の管板がさらに、放射により前記1つ以上の発熱コンポーネント由来の熱を吸収し、前記複数の管板の内部を循環する前記液体に前記熱を伝達する、請求項12に記載のラック。
【請求項19】
前記エンクロージャの健全性および動作パラメータを監視するための複数のセンサをさらに含み、前記複数のセンサが、温度センサ、流量センサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサまたは湿度および飽和蒸気センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載のラック。
【請求項20】
前記複数のセンサから受信した出力に基づいて前記エンクロージャを監視し管理するための管理制御システムをさらに含む、請求項19に記載のラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体冷却を提供するためのシステムに関し、より詳細には、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最新のデータセンタは、数千基ものサーバを有し、各サーバは、マイクロプロセッサ、ハードディスクドライブおよびメモリチップなどの発熱コンポーネントを含む。コンポーネントの過熱および損傷などの事故を回避するために、データセンタ内の熱管理が不可欠である。例えば、上述の事故を回避するべく発熱コンポーネントが発生させた熱を除去するための冷却システムを使用することによって、熱管理を行なうことができる。データセンタを冷却するために使用されるエネルギは、データセンタの全エネルギ使用量の約40%である。このようなエネルギ消費量は、データセンタ設備を動作させる上での巨額の間接費の主たる要因である。電子工学分野の進歩に伴って、電子コンポーネントは効率が高いものとなってきた。高効率となるにつれて、電子コンポーネントは、付加的な望ましくない熱を生成する傾向を有し、これを除去することが好ましい。こうして、電子コンポーネントから熱を除去するためのより大容量の冷却システムに対するニーズが増々大きくなってきた。
【0003】
データセンタ内で冷却を提供する一般的な方法としては、強制空冷法、液浸冷却法、および直接液体冷却法が含まれる。強制空冷法は、広く使用されているものの、データセンタ内で冷却を提供する方法としては非効率である。強制空冷法は、発熱コンポーネント全体にわたり空気を強制するために大量のエネルギを必要とすることから、その所要電力は著しく高いものである(サーバの全電力使用量の約20~25%)。このため、データセンタのラック内に収容できるサーバの数は制限される。
【0004】
液浸冷却法では、電子コンポーネントが、誘電性の伝熱液体の浴槽中に浸漬される。沸点が低いことから、誘電液体は発熱コンポーネントの表面上で蒸発することができる。液浸冷却法は、強制空冷法よりもさらに効果的であるが、それ独自のデメリットを有する。液浸冷却法は、大量の高価な液体を必要とし、したがって、この方法はコストが高い。さらに、液体を含む浸漬浴は、データセンタ内において最大でラック設置面積4個分以上のスペースを占有し、したがって多大な床面積が必要となる。浸漬浴の重量は1500キログラムを超えることから、データセンタ内の床荷重は不十分になる。ロードスプレッダなどの特別な工学的必需品が必要とされ、これらは追加のスペースを占め、安全上の懸念を引き起こす。こうして、空間計画の観点から見て、この方法は非効率的とされる。
【0005】
直接液体冷却法は、発熱コンポーネント上に構築された特別設計のコンポーネント冷却用ヒートシンクハウジングを含む。このとき、ハウジングは、通常合成油または溶液の状態の液体を直接発熱コンポーネント上に送達するため加圧管を介して相互連結されている。この方法には、強制空冷法および液浸冷却法に比べていくつかの利点を有しているものの、いくつかの欠点もある。直接液体冷却の場合、液体の相変化は全く無く、したがって、冷却効率は、液体の流量および温度によって大きく左右される。その上、各ハウジングは、各サーバマザーボードに固有のものである発熱コンポーネントのサイズ、形状および位置にカスタマイズされる必要がある。
【0006】
データセンタ内で冷却を提供するための別の方法は、直接噴霧冷却法である。直接噴霧冷却法は、液体冷却の効率の良い形態である。直接噴霧冷却法は、上述の冷却方法のデメリットを克服する。直接噴霧冷却法は、誘電液体を使用し、これが発熱コンポーネントの表面に薄いフィルムを形成する。誘電液体のフィルムは、発熱コンポーネントと接触した時点で、蒸発して蒸気となるにつれて発熱コンポーネントから熱を吸収し、伝熱プロセスを完成させる。直接噴霧冷却法の冷却能力は、強制空冷、液浸、または直接液体冷却法に比べて優れている。その上、液体フィルム冷却法が消費するエネルギは、多数の冷却ファンの必要性が無くなるために強制空冷法に比べて著しく少ない。
【0007】
直接噴霧冷却を使用する従来のシステムは、エンクロージャ内に収納された発熱コンポーネントを含み、発熱コンポーネントを冷却するための熱交換器、ポンプ、配管システム、液槽(sump)などの必須コンポーネントは、エンクロージャの外部に位置付けされている。こうして、外部での凝縮のため蒸気を熱交換器に移行させるときに相当量のエネルギが使用されることから、発熱コンポーネントに対して冷却を提供する効率が悪くなる。さらに、従来のシステムは、データセンタ内のラック上に組付けられた全てのエンクロージャ用として共通の熱交換器を使用する。このことが、従来のシステムの性能、展開可能性および効率をさらに妨害する。例えば、Paul Knightらによる特許文献1は、カードアセンブリを収納するための密閉型シャーシおよびカードアセンブリ上に誘電性流体を送出するためにその上に埋込まれたノズルを有する噴霧モジュールを含む噴霧冷却システムを開示している。しかしながら、この特許出願においては、ポンプ、熱交換器およびリザーバが冷却システムの外部に位置設定されており、そのため、カードアセンブリに対して冷却を提供する効率が悪くなると同時に、冷却システムの性能、展開可能性および効率が妨害されることになる。さらに、誘電性流体は、ノズルに到達するために重力に対抗して流れなければならない。このことは、流体がカードアセンブリ全体にわたって等しく送出されない可能性があるために、カードアセンブリの非効率的な冷却を導く。効率の良い冷却を提供するためには、より強いポンプが必要とされると考えられ、このことが今度は、電力消費量の増大を導くと思われる。
【0008】
Charles L.Tiltonらによる特許文献2は、噴霧ユニットと、熱生成デバイスに熱的に連結されており且つ噴霧ユニットに流体連結されている冷媒のリザーバとを含む組合せ型噴霧器および冷却板の熱管理システムについて開示している。噴霧ユニットは、熱生成デバイス上に冷媒を噴霧するノズルを含む一方で、冷媒のリザーバは廃冷媒を保持しかつ蒸発状態および流体状態の両方で二相の冷媒の環状流を可能にする。しかしながら、ポンプ、フィルタおよび熱交換器を含む熱管理ユニットは熱管理システムの外部に位置設定されており、そのため、熱生成デバイスに対して冷却を提供する効率が悪くなり、熱管理システムの性能、展開可能性および効率が妨害されることになる。さらに、冷媒のリザーバは熱生成デバイスの熱管理を補助するものの、冷媒のリザーバの存在によりシステムは嵩高いものになる。
【0009】
さらに、Mort L.Haveyによる特許文献3は、密閉型ハウジングを含む、発熱コンポーネントの冷却用の熱拡散システムについて開示している。密閉型ハウジングは、発熱コンポーネントの表面全体にわたり薄いフィルムとして液体冷媒を分布させる噴霧板を含む。熱は、液体の薄いフィルムの少なくとも一部分の蒸発により発熱コンポーネントの表面から移動される。冷媒はハウジング上で凝縮し、液体状態に戻り、密閉型ハウジングの内部に位置設定されたリザーバ内に収集される。密封型ハウジングは同様に、液体冷媒をアトマイザまで再循環させるためのポンプも含んでいる。該特許は同様に、追加の冷却を提供するために密封型ハウジングの内部で熱交換管を使用することも開示している。しかしながら、噴霧板は、密封型ハウジングの単一の端部から液体冷媒を分配し、こうして発熱コンポーネントの冷却の非効率性を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2007/0199340号
【文献】米国特許第7,992、626号
【文献】米国特許第5,943,211号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことに照らして、発熱コンポーネントのための著しく改善された冷却を提供し、その展開のための床面積を削減できるシステムに対するニーズが存在する。同様に、上述の問題を解決し、システム内に位置設定された発熱コンポーネントのための改善された環境を提供し、冷却システムの展開を容易にするシステムに対するニーズも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態においては、複数の発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャが提供される。該エンクロージャは、シャーシ、液槽、第1のポンプ、配管システム、複数の管板、および熱交換器を含む。シャーシは、複数のカセットを含む。複数のカセットの各カセットは、複数の発熱コンポーネントのうちの1つ以上の発熱コンポーネントを含む。複数のカセットは、シャーシに対して摺動可能に取付けられている。液槽は、複数の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管する。第1のポンプは、液槽から液体を吸引する。配管システムは、第1のポンプを経由して液槽から液体を受入れる。複数の管板は、液体を受入れるために配管システムに接続されている。複数の管板のうちの1つの管板は、複数のカセットのうちの第1のカセットと第2のカセットの間に設置されている。複数の管板は、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して複数の発熱コンポーネント上に液体を直接噴霧する。液体は、複数の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させられる。熱交換器は、シャーシの下方に設置されている。熱交換器は、接触時点で蒸気を凝縮液体へと凝縮させる。凝縮液体は、液槽内に収集される。
【0013】
本発明の別の実施形態において、複数の棚を有するラックが提供される。ラックは、複数の棚のうちの1つの棚上に位置付けされた複数のエンクロージャを含む。複数のエンクロージャのうちの第1のエンクロージャがラックの前方端部からアクセス可能であり、複数のエンクロージャのうちの第2のエンクロージャがラックの後方端部からアクセス可能である。複数のエンクロージャの第1および第2のエンクロージャの各々は、シャーシ、液槽、第1のポンプ、配管システムおよび複数の管板、を含む。シャーシは、複数のカセットを含む。複数のカセットの各カセットは、複数の発熱コンポーネントのうちの1つ以上の発熱コンポーネントを含む。複数のカセットは、シャーシに摺動可能に取付けられている。液槽は、複数の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管する。第1のポンプは、液槽から液体を吸引する。配管システムは、第1のポンプを経由して液槽から液体を受入れる。複数の管板は、液体を受入れるために配管システムに接続されている。複数の管板のうちの1つの管板は、複数のカセットのうちの第1のカセットと第2のカセットの間に設置されている。複数の管板は、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して複数の発熱コンポーネント上に液体を直接噴霧することを可能にする。液体は、複数の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させられる。
【0014】
本発明のさまざまな実施形態は、複数の発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャを提供する。エンクロージャはシャーシを含む。シャーシは、複数のカセットを含み、複数のカセットは、複数の発熱コンポーネントのうちの1つ以上の発熱コンポーネントを含む。シャーシは、1つ以上の発熱コンポーネントに電力を供給するための少なくとも1つの電源ユニットを含む。シャーシは、少なくともローカルエリアネットワークまたはインターネットに対し外部からのネットワーク接続性を提供するための少なくとも1つのネットワークスイッチを含んでいる。シャーシは、少なくとも1つの電源および少なくとも1つのネットワークスイッチで共通の電力およびデータバスを複数のカセットが共用できるようにするために、シャーシの後方端部に収納されたバックプレーン(backplane)を含む。
【0015】
エンクロージャは、複数の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管するための液槽を含む。エンクロージャは、液槽から液体を吸引するための第1のポンプを含む。エンクロージャはさらに、液槽から液体を吸引するための第2のポンプを含む。或る瞬間において、第1および第2のポンプのうちの少なくとも1つが動作可能である。エンクロージャは、第1および第2のポンプを経由して液体を受入れる配管システムを含む。配管システムは、第1および第2のポンプのうちの少なくとも1つが動作不能である場合に第1および第2のポンプを通して液体が戻るように循環するのを防止するための逆流防止弁を備えている。エンクロージャは、液体を受入れるために配管システムに接続された複数の管板を含む。複数の管板のうちの1つの管板は、複数のカセットのうちの第1のカセットと第2のカセットの間に設置される。複数の管板は、放射により複数の発熱コンポーネント由来の熱を吸収し、複数の管板の内部を循環する液体に熱を伝達する。
【0016】
複数の管板は、複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して複数の発熱コンポーネント上に液体を直接噴霧する。液体は、複数の発熱コンポーネントと接触した時点で、蒸発して蒸気となる。複数の管板はさらに、蒸気が複数の管板と接触した時点で、凝縮液体への蒸気の凝縮をさらに提供する。エンクロージャは、複数の管板内の液体の流れを制御するため、配管システムと複数の管板の間に接続されたバイパス弁を含む。熱交換器は、蒸気が熱交換器と接触した時点で蒸気を凝縮液体へと凝縮させ、凝縮液体は液槽内に収集される。エンクロージャは、エンクロージャの健全性および動作パラメータを監視するための複数のセンサを含む。複数のセンサは、温度センサ、流量センサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサまたは湿度および飽和蒸気センサのうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
エンクロージャは、複数のセンサから受信した出力に基づいてエンクロージャを監視し管理するための管理制御システムを含む。エンクロージャは、エンクロージャの外部で非蒸気気体(non-vapor gas)をパージし蒸気がエンクロージャの外部に発散するのを防ぐためのカートリッジをさらに含む。熱交換器が各エンクロージャの内部に存在することによって、液体の蒸発に起因して形成された蒸気が直ちに凝縮液体へと凝縮して戻ることが保証され、したがって蒸発の損失は全く無い。複数の管板は、複数の発熱コンポーネント上に液体を噴霧し蒸気を凝縮液体へと凝縮させるという二重の機能を果たす。こうして、複数の管板は、凝縮プロセスを増強し、凝縮中に失なわれるエネルギを削減する。複数の管板の設計(design)および複数の管板上のノズルの位置により、発熱コンポーネントの表面全体が液体で被覆され、発熱コンポーネントから熱が均一に除去されることが保証される。
【0018】
添付図面は、本発明のシステム、方法および他の態様のさまざまな実施形態を例示している。当業者にとっては、図中の例示された要素の境界(例えばボックス、ボックス群または他の形状)が境界の一例を表わしているということは明白である。いくつかの実施例においては、1つの要素を多数の要素として設計することができ、あるいは多数の要素を1つの要素として設計することもできる。いくつかの実施例においては、1つの要素の内部コンポーネントとして示された一要素を、別の要素内の外部コンポーネントとして実装することができ、逆もまた同様である。
【0019】
本発明のさまざまな実施形態は、一例として示されており、添付の図によって限定されず、これらの図中では、同様の参照番号が類似の要素を標示している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明の一実施形態に係る、データセンタ内のラックを例示する。
図1B】本発明の一実施形態に係る、図1Aのラックの上面図を例示する。
図2A】本発明の一実施形態に係る、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するエンクロージャの上面図を例示する。
図2B】本発明の一実施形態に係る、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するエンクロージャの上面切断図を例示する。
図2C】本発明の一実施形態に係る、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するエンクロージャの正面図を例示する。
図2D】本発明の一実施形態に係る、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するエンクロージャの側面切断図を例示する。
図2E】本発明の一実施形態に係る、エンクロージャ内で発熱コンポーネント上に液体を送達する噴霧方法を例示する。
【0021】
本発明のさらなる利用可能性分野は、以下で提供される詳細な説明から明らかになる。例示的実施形態についての詳細な説明は、単に例示目的が意図されており、したがって本発明の範囲を必然的に限定するものとして意図されていないということを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、本明細書中に記載の説明および詳細図を参照することで、最も良く理解される。以下では、図を参照してさまざまな実施形態が論述される。しかしながら、当業者であれば、方法およびシステムは説明された実施形態を超えて拡大し得ることから、図に関連して本明細書中で与えられている詳細な説明が単に説明を目的とするものであるということを容易に認識するものである。一実施例において、提示された教示および特定の利用分野のニーズは、本明細書中に記載のあらゆる細部の機能性を実装するための多数の好適な代替的アプローチを生み出す可能性がある。したがって、いずれのアプローチも、説明され図示されている以下の実施形態中の特定の実装選択肢を逸脱することができる。
【0023】
「一実施形態」、「別の実施形態」、「さらに別の実施形態」、「一実施例」、「別の実施例」、「さらに別の実施例」、「例えば」などに対する言及は、そのように記載された実施形態または実施例が、特定の特徴部、構造、特徴、特性、要素または制限条件を含み得るが、全ての実施形態または実施例が必ずしもその特定の特徴部、構造、特徴、特性、要素または制限条件を含むわけではない、ということを標示する。さらに、「一実施形態において」なる言い回しの反復的使用は、必ずしも同じ実施形態を意味しない。
【0024】
本発明中で使用される液体は、ヒドロフルオロカーボン(HFC)またはヒドロフルオロエーテル(HFE)などの誘電性流体である。液体は、非導電性、非腐食性、低表面張力、低温そして相転移流体である。誘電性流体は、中央処理ユニット(CPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、メモリモジュールおよび電源デバイスなどの発熱コンポーネントと短絡電気接続をすることなく直接接触して使用可能である。誘電性流体の例としては、ミネソタ州Mapletonに本社のある3M Company製のNovec Engineered Fluidsとして市販されているHFE-7000およびHFE-7100(ならびにHFE-7200、HFE-7300、HFE-7500、HFE-7500およびHFE-7600)が含まれる。
【0025】
誘電性流体の別の一般的ブランドは、連邦登録商標Florinertの下で3Mが製造するペルフルオロカーボンである。Fluorinertは、ペルフルオロカーボン流体のファミリを表わすブランドである。各々のペルフルオロカーボン流体は、特有の相変化特性を有する。Fluorinert5060は、標準圧力において50℃の範囲内で液体から蒸気へと相変化することから、多くの冷却利用分野にとって理想的である。他のグレードは、他の利用分野と比べて特定の利用分野により好適であり得る。本発明は、誘電性流体としてNovecおよびFluorinertに限定されるものとみなされるべきではない。他の誘電性流体も同様に、本発明の範囲または精神内で使用可能である。
【0026】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る、データセンタ(図示せず)内のラック100を例示し、図1B図1Aのラック100の上面図を例示する。データセンタは、クラウドサーバ、専用サーバなどのさまざまなタイプのサーバ(図示せず)を収納することができる。ラック100は、垂直支持体102と、エンクロージャ106aおよび106bをその上に組付けることのできる等距離で位置付けされた水平棚104a~104dとを有する。一実施形態においては、ラック100は、鋼、アルミニウムなどの金属で作られている。エンクロージャ106a~106hのうちの第1のエンクロージャ106aは、発熱コンポーネントを保持するカセットのセット(set of cassettes)、および発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するための冷却システムを含む。第1のエンクロージャ106aは自立型(self-contained)である、すなわち第1のエンクロージャ106aは、第1のエンクロージャ106aの内部に収納された発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するために必要とされる全ての必須コンポーネントを含んでいる。第1のエンクロージャ106aは、カセットのセットへのアクセスを提供する。第1のエンクロージャ106aは、任意の標準的なデータセンタラック上に組付け可能である。ラック100は、本発明の明確さおよび理解を提供する目的で4つの棚104a~104dを例示しているが、これをラック100の正確な実装とみなすべきではない。当業者であれば、ラック100が、4つの棚104a~104dよりも多くの棚を有していてよく、こうして8個のエンクロージャ106a~106hよりも多くを収容できる、ということを理解するものである。
【0027】
図1Bに示されているように、ラック100は、棚104aに組付けられた第1のエンクロージャ106aおよび第2のエンクロージャ106bを含めた2つのエンクロージャを有する。別の実施形態においては、ラック100は、棚104a上に組付けられた3つ以上のエンクロージャを含む。第1および第2のエンクロージャ106aおよび106bは、第1のエンクロージャ106aがラック100の前方端部108からアクセス可能であり、第2のエンクロージャ106bがラック100の後方端部110からアクセス可能となるような形で、ラック100の中に組付けられ得る。一実施形態において、エンクロージャ106a~106hは、ボルトによってラック100の棚104a~104d上にエンクロージャ106a~106hを組付けできるようにするエンクロージャ上に埋込まれた一連の孔を有する。一実施形態において、ラック100は、それぞれラック100の前方端部108および後方端部110に、第1および第2の扉(図示せず)を含む。一実施形態において、エンクロージャ106a~106hは、鋼、アルミニウムなどで作られている。
【0028】
図2A~2Dは、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するエンクロージャ200のさまざまな図を例示する。図2Aは、本発明の一実施形態に係るエンクロージャ200の上面図を例示し、図2Bは上面切断図を例示し、図2Cは正面図を例示し、図2Dは側面切断図を例示する。エンクロージャ200は、図1Aのエンクロージャ106a~106hと構造的かつ機能的に類似している。エンクロージャ200は、シャーシ202(図2A、2Cおよび2D中に図示)および、液槽204(図2Dに図示)、第1のポンプ206(図2B~2Dに図示)、配管システム208(図2Bおよび2Dに図示)、管板のセット210a~210o(図2Aおよび2Dに図示)および熱交換器212(図2Bおよび2Dに図示)を有する冷却システムを含む。ここで冷却システムは直接噴霧冷却システムである。
【0029】
シャーシ202は、ホットスワップ可能な(hot swappable)カセットシステム214(図2Cに図示)およびバックプレーン216(図2Dに図示)を収容する。バックプレーン216は、シャーシ202の後方端部に組付けられる。ホットスワップ可能なカセットシステム214は、カセットのセット218a~218m(図2Cに図示)、カセットのセット218a~218mを回路基板(図示せず)上に埋込まれたさまざまな構成部品に接続するインタフェースケーブル、および対応するカセットのセット218a~218mをバックプレーン216に接続するためのバックプレーンコネクタのセット(図示せず)を保持する。カセットのセット218a~218mの各カセットは、発熱コンポーネントを収納する回路基板のセット(図示せず)を保持する。発熱コンポーネントとしては、コンピュータプロセッサ(例えばビットコインマイニング用プロセッサ)、グラフィックスプロセッサ、マイクロプロセッサ、ブレードサーバ、回路基板、メモリ、ビデオカード、電源デバイスなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。本発明は、いずれか1つのタイプの発熱コンポーネントに限定されるものとみなされるべきではない。カセットのセット218a~218mの各カセットは、垂直に組付けられシャーシ202に対して摺動可能に取付けられる。カセットのセット218a~218mの各カセットは、シャーシ202内に摺動でき、日常保守のために容易にアクセス可能で取外し可能である。シャーシ202は、複数のスロットを伴う頑丈なフレームを有する。複数のスロットの各スロットは、カセットのセット218a~218mのうちの1つのカセットに対応する。カセットのセット218a~218mの各カセットは、各スロット内部でレールに沿って摺動する。レールは、カセットのセット218a~218mをバックプレーン216に整列させるのを補助する。一実施形態において、シャーシ202は、炭素鋼、アルミニウム合金、銅などのうちの少なくとも1つで作られている。シャーシ202には、カセットのセット218a~218mをそれぞれのスロット内に保持するための係止メカニズムが具備されている。係止メカニズムは、カセットのセット218a~218mがシャーシ202内にひとたび設置された時点で所定の場所に保持され、確実にその場所から外へ出ないようにする。係止メカニズムには、機械式ロック、電気スイッチロック、ラッチなどが含まれる。
【0030】
図2Cに示されているように、ホットスワップ可能なカセットシステム214はさらに、発熱コンポーネントに電力を供給するための第1の電源220aを保持する。ホットスワップ可能なカセットシステム214はさらに、第1の電源220aが動作不能である場合に発熱コンポーネントに電力を供給するための第2の電源220bを保持する。第2の電源220bなどの冗長電源を使用することによって、発熱コンポーネントに対する電力の欠如または不足が起きないことが保証される。いずれの瞬間においても、第1および第2の電源220aおよび220bの一方のみが動作可能である。第1および第2の電源220aおよび220bは、外部電源を組付けるため、それぞれ、第1および第2の電源コネクタポートハウジング222aおよび222bを有する。
【0031】
ホットスワップ可能なカセットシステム214はさらに、外部ネットワーク接続性を提供するため第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bを保持する。第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bは、ホットスワップ可能なカセットシステム214をローカルエリアネットワークまたはインターネットに接続する。第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bは、外部ネットワークスイッチを組付けるため、それぞれ第1および第2のネットワークコネクタポートハウジング226aおよび226bを有する。
【0032】
バックプレーン216は、カセットのセット218a~218m、第1および第2の電源220aおよび220b、および第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bなどのシャーシ202のさまざまなコンポーネントを共に接続する。第1および第2の電源220aおよび220bならびに第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bは、バックプレーンコネクタのセットを経由してバックプレーン216に接続されている。こうして、カセットのセット218a~218mの内部に位置設定された発熱コンポーネントは、バックプレーン216を経由して第1および第2の電源220aおよび220bから電力を受取る。バックプレーン216は同様に、カセットのセット218a~218mと第1および第2のネットワークスイッチ224aおよび224bの間のネットワーク接続性を容易にする。バックプレーン216は、一般的に使用されるスタンドオフおよび締結具(図示せず)を用いて、シャーシ202に締結され得る。シャーシ202はさらに、シャーシ202をエンクロージャ200内に組付けるためのシャーシヒンジピン(図示せず)を含む。
【0033】
図2Dに示されているように、エンクロージャ200の底部は、発熱コンポーネントからの熱を吸収するために使用される液体を収容するための液槽204を形成するように設計される。一実施形態において、第1のポンプ206(図2B、2Cおよび2D中に図示)は、液槽204から液体を吸引するためにエンクロージャ200の底部近くに位置付けされる。エンクロージャ200は、第1のポンプ206を収納するための第1のポンプハウジング228(図2D中に図示)を含む。第1のポンプ206は、液槽204に第1のポンプ206を接続する入口継手230a(図2B中に図示)を有する。液体は、入口継手230aを経由して第1のポンプ206に進入する。第1のポンプ206はさらに、出口継手232a(図2B中に図示)を有し、液槽204から吸引した液体を発熱コンポーネントに供給するため、第1のポンプ206は、出口継手232aを通じて、配管システム208に接続される。第1のポンプ206は、液槽204から液体を吸引するために、液槽204の内部または外部に位置設定され得る。一実施例において、第1のポンプ206は遠心ポンプである。当業者にとっては、遠心ポンプが、液体を吸引するのに使用可能なポンプタイプの一例であり、液体を吸引する任意の他の種類のポンプも同様に本発明において使用可能であるということは明白である。
【0034】
エンクロージャ200はさらに、動作に関して第1のポンプ206と類似のものである第2のポンプ234(図2Bおよび2C中に図示)を含む。一実施形態において、第1のポンプ206および第2のポンプ234は、互いから既定の距離のところに位置設定されている。第2のポンプ234は、液槽204に第2のポンプ234を接続する入口継手230b(図2B中に図示)を有する。液体は、入口継手230bを経由して第2のポンプ234に進入する。第2のポンプ234はさらに、出口継手232b(図2B中に図示)を有し、液槽204から吸引した液体を発熱コンポーネントに供給するために、第2のポンプ234が、出口継手232bにより、配管システム208に接続される。エンクロージャ200は、第2のポンプ234を収納するための第2のポンプハウジング(図示せず)を含む。第2のポンプ234は、液槽204の内部または外部に位置設定され得る。第2のポンプ234は、第1のポンプ206が動作不能である場合に、液体を提供するために使用される冗長ポンプとして機能する。一実施形態において、第1および第2のポンプ206および234は同時に動作可能となり得る。第1のポンプ206の入口継手230aおよび出口継手232aは、第1のポンプハウジング228からの第1のポンプ206の取外しを容易にする。同様にして、第2のポンプ234の入口継手230bおよび出口継手232bは、第2のポンプハウジングからの第2のポンプ234の取外しを容易にする。したがって、第1のポンプ206および第2のポンプ234はメンテナンスのために容易に取外し可能である。
【0035】
配管システム208は、液体を提供するためエンクロージャ200のさまざまな部分まで延在するパイプのセットを含む。パイプのセットは、アルミニウム、銅、プラスチック、ポリ塩化ビニル(PVC)、などで作られている。配管システム208は、液槽204から吸引された液体を受入れるため第1および第2のポンプ206および234に接続される。配管システム208は、第1のポンプ206の出口継手232aと配管システム208の間に接続された第1の逆流弁236a(図2B中に図示)、および第2のポンプ234の出口継手232bと配管システム208の間に接続された第2の逆流弁236b(図2B中に図示)を含む。第1および第2の逆流弁236aおよび236bは、第1および第2のポンプ206および234の一方または両方が動作不能である場合に、液体がそれぞれ第1および第2のポンプ206および234を通って戻るように循環するのを防ぐ。例えば、第1のポンプ206が動作可能であり第2のポンプ234が動作不能である場合、第2の逆流弁236bは、液体が第2のポンプ234を経由して液槽204まで戻るように循環しないことを保証する。同様にして、第2のポンプ234が動作可能で第1のポンプ206が動作不能である場合、第1の逆流弁236aは、液体が第1のポンプ206を経由して液槽204まで戻るように循環しないことを保証する。
【0036】
管板のセット210a~210oは、液体を受入れるために配管システム208に取付けられる。一実施形態において、管板のセット210a~210oはアルミニウム製である。当業者にとって、液体を循環させることのできる任意の材料で管板のセット210a~210oを製造できるということは明白である。管板のセット210a~210oは、マニホルド238を経由して配管システム208と流体連通状態にある(図2Aおよび図2B中に図示)。マニホルド238のサイズは、管板のセット210a~210oに対する液体の均一な分配および圧力を維持するように調整される。一実施形態においては、上に埋込まれている孔を伴う冷却板セット(図示せず)を、管板のセット210a~210oの代りに使用することができる。
【0037】
シャーシ202は、管板のセット210a~210oの各管板がカセットのセット218a~218mのうちの2つのカセットの間に位置付けされるような形で設計される。その上、各管板の寸法は、各管をシャーシ202の内部でカセットのセット218a~218mのうちの2つのカセットの間に位置できるようなものである。例えば、第1の管板210aはシャーシ202の内部でカセットのセットのうちの第1および第2のカセット218aおよび218bの間に位置付けされる。管板のセット210a~210oの寸法は、シャーシ202の設計中に考慮される。
【0038】
図2Dにおいて、第1の管板210aは、噴霧マニホルド240(図2D中に図示)および噴霧マニホルド240に取付けられた噴霧管セット(set of spray tubes)242(図2D中に図示)を含む。噴霧管セット242は、噴霧マニホルド240と流体連通状態にある垂直噴霧管、および垂直噴霧管と流体連通状態にある水平噴霧管を含む。液体は、噴霧管セット242の内部を循環する。噴霧管セット242の各噴霧管は、上に埋込まれたノズル244(図2D中に図示)を有する。ノズル244のサイズおよび数は、発熱コンポーネントが生成する熱を吸収するために必要とされる液体量に応じて変動し得る。発熱コンポーネントが生成する熱は、第1の管板210aが発熱コンポーネントに比べて低温であるために、放射によって第1の管板210aにより吸収され得る。熱はさらに、第1の管板210aの噴霧管セット242の内部を循環する液体に対し伝達される。噴霧管セット242は、噴霧法を用いてノズル244を経由して発熱コンポーネント上に直接液体を噴霧する。ノズル244は、発熱コンポーネントの表面全体に液体を効率良く送達できるような形で設計され位置付けされる。噴霧管セット242は、両側に埋込まれたノズル244を有し、したがって、第1のカセットの一方の側そして第2のカセットの他方の側に液体を直接噴霧する。例えば、第1の管板210aは、第1のカセットの前方側および第2のカセットの後方側に液体を噴霧する。液体を送達する噴霧法については、図2E中で詳細に説明されている。
【0039】
プロセッサなどの高発熱コンポーネントが占有するカセット内部のゾーンについて、必要とされる噴霧管242の数は、低発熱コンポーネントが占有するゾーンに比べて多い。このため、液体の流量は増大し、さらに、発熱コンポーネント上に噴霧される液体の量も増大する。エンクロージャ200にはさらに、管板のセット210a~210o中の液体流を制御するために各管板用のバイパス弁246(図2A中に図示)が含まれる。バイパス弁246は、マニホルド238と対応する管板210a~210oとの間に接続される。例えばバイパス弁246は、シャーシ202からカセットを取外している間、第1の管板210a内の液体の流れを停止させる。
【0040】
液体は、その低い表面張力のため発熱コンポーネントの表面上に薄いフィルムを形成する。液体は、発熱コンポーネントと接触した時点で蒸発して蒸気となる。管板のセット210a~210oはさらに、蒸気が管板のセット210a~210oと接触した時点で、蒸気を凝縮液体へと凝縮させる。凝縮した蒸気は液滴を形成し、これらの液滴は重力により液槽204内に落下する。したがって、管板のセット210a~210oの各管板は二重の機能を有する。まず、第1の管板210aは、噴霧管として作用し、カセットのセット218a~218mの内部で発熱コンポーネント上に液体を噴霧し、第2に、第1の管板210aは、液体が発熱コンポーネントと接触した時点で形成される蒸気の凝縮を補助する。
【0041】
熱交換器212は、液槽204の上方かつシャーシ202の下方に位置付けされる。熱交換器212は、シャーシ202の部域全体を通して延在する。熱交換器212の機能は、蒸気を凝縮させて凝縮液体に戻すことにある。したがって、エンクロージャ200内において、第1の管板210aおよび熱交換器212は、蒸気を凝縮して凝縮液体にする。一実施例において、第1の管板210aは平板凝縮器であり、熱交換器212はフィン式凝縮器である。熱交換器212は、周囲温度で水を循環させる管を含む凝縮器コイルである。蒸気が熱交換器212と接触した時点で、蒸気からの熱は熱交換器212の内部を循環する水に伝達される。加熱された水は、エンクロージャ200の外部に位置設定された外部集中熱交換器冷却システム(図示せず)に移送され、ここでファン、大気の周囲温度、冷却器などにより冷却され、冷却された水は熱交換器212内に戻るように循環させられる。
【0042】
外部集中熱交換器冷却システムは、この外部集中熱交換器冷却システムとラック100などのラックとの間で冷却された水を搬送する循環マニホルドパイプ(図示せず)を含む。ラック100などの各ラックは、水入口継手248および水出口継手250(図2Bおよび2C中に図示)などの急速解除弁を経由してエンクロージャ106a~106hなどの各エンクロージャに接続され、隅を回って下に走る循環マニホルドパイプを有する。外部集中熱交換器冷却システム由来の冷却された水は、水入口継手248を経由して熱交換器212に入り、加熱された水は、水出口継手250を経由して外部集中熱交換器冷却システムまで移送される。こうして、発熱コンポーネント由来の熱は除去される。
【0043】
エンクロージャ200は、さまざまな温度および圧力における効率の良い凝縮を確実にするため、蒸気回収システム(図示せず)をさらに含み得る。例えば、シャーシ202内部の蒸気圧が第1の既定の閾値を超えた場合、蒸気回収システムは、熱交換器212に向かう蒸気の動きを加速させ、こうして蒸気の凝縮を補助する。蒸気回収システムは、シャーシ202と熱交換器212の間に吸引力を創出することによって熱交換器212に向かう蒸気の動きを加速することができる。これにより、シャーシ202内部の蒸気圧の上昇が防止される。
【0044】
エンクロージャ200は、液体を清浄するためのフィルタ(図示せず)および目詰まりおよび汚染を防ぐ目的で液体を除去または脱水するためのデシケータ(desiccator)(図示せず)をさらに含む。フィルタおよびデシケータは、エンクロージャ200内部に設置されるのが好都合である。一実施形態において、フィルタおよびデシケータは、第1のポンプ206の出口継手232aと第1の逆流弁236aとの間に接続される。さらに、フィルタおよびデシケータは、第2のポンプ234の出口継手232bと第2の逆流弁236bとの間に接続される。別の実施形態において、フィルタおよびデシケータは、配管システム208とマニホルド238との間に接続される。
【0045】
エンクロージャ200はさらに、エンクロージャ200の前方端部に位置設定されている前方アクセスパネル252(図2D中に図示)を含む。エンクロージャ200は、液体の蒸気がエンクロージャ200から漏出するのを防ぐため密封されている。前方アクセスパネル252は、日常保守中シャーシ202からカセットのセット218a~218mを容易に取外すことができるようにする。前方アクセスパネル252はさらに、第1および第2の電源220aおよび220bなどのエンクロージャ200のさまざまな他のコンポーネントの追加および除去を可能にする。
【0046】
エンクロージャ200はさらに、エンクロージャ200の最上前方端部に位置設定されたカートリッジ254(図2D中に図示)を含む。カートリッジ254は、エンクロージャ200の外部に非蒸気気体をパージし、蒸気がエンクロージャ200の外部に発散するのを防ぐ。カートリッジ254の内部に存在する濾材の材料は、蒸気がエンクロージャ200の外部に発散するのを防ぐ。カートリッジ254は、エンクロージャ200内からエンクロージャ200外部へのおよびその逆の空気の膨張および収縮を可能にする。空気の膨張および収縮を可能にしながらエンクロージャ200の外部に蒸気が発散するのを防ぐことにより、蒸気の損失が防止され、ひいては交換コストが削減される。カートリッジ254が無い場合、その結果として、蒸気と空気の両方を含む気体がエンクロージャ200の内部に捕捉されることになる。これには、エンクロージャ200を加圧格納とすることが必要となり、コストが高くなるものと考えられる。追加のまたは不必要な圧力制御メカニズムを必要とせずに蒸気の膨張および収縮を可能にするためには、蒸気以外の気体をエンクロージャ200の外部に発散させる必要がある。したがって、カートリッジ254は、本質的に、両方向での空気の通過を可能にしかつエンクロージャ200の外部への蒸気の通過を遮断する一方で不必要な気体をエンクロージャ200の外部に発散させることを保証するフィルタである。
【0047】
エンクロージャ200はさらに、エンクロージャ200およびそのコンポーネントを監視し管理する管理制御システム256(図2Bおよび2C中に図示)を含む。管理制御システム256は、エンクロージャ200と結び付けられたさまざまなパラメータを監視するために使用されるセンサ(図示せず)を含む。センサからのデータは、エンクロージャ200内部の条件または機能不良を検出するため、および検出された機能不良または条件をオペレータデバイス(図示せず)またはオペレータに対し伝えるために使用される。センサには、温度センサ、流量センサ、レベルセンサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ(fouling sensor)、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサおよび湿度および飽和蒸気センサが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0048】
温度センサは、液体、蒸気、シャーシ202、熱交換器212、周囲水、発熱コンポーネントおよび第1および第2の電源220aおよび220bの温度を測定するため、エンクロージャ200の内部に設置されることが好都合である。流量センサは、熱交換器212および外部集中熱交換器冷却システム内に入る水の体積を測定する。流量センサはさらに、噴霧管セット242内部の液体の体積を測定するために使用可能である。レベルセンサは、液槽204内部の液体の体積を測定する。ポンプセンサは、第1および第2のポンプ206および234の効率を測定する。湿度センサは、シャーシ202内に存在する水分の量を測定する。汚染センサは、フィルタ内の汚染物質を決定する。電圧センサは、第1および第2の電源220aおよび220b内の電力パラメータを測定する。加速度計は、エンクロージャ200およびシャーシ202に対する衝撃を検出し、振動を測定し、シャーシ202の水準を検出する。扉センサは、前方アクセスパネル252が開いているか検出する。バックプレーンセンサは、シャーシ202内のカセットの存在およびカセットが消費した電力を特定する。圧力センサは、シャーシ202内部の圧力を特定する。湿度および飽和蒸気センサは、シャーシ202内に存在する蒸気の量を測定する。
【0049】
センサの数は、エンクロージャ200を制御し監視する上で所望される精度レベルによって左右される。センサは、条件を監視しデータを管理制御システム256に提供するために、液槽204の中などのコンポーネントの中ならびにコンポーネントの上に位置設定され得る。センサから得たデータにより、エンクロージャ200は、その性能、効率、正確性および安定性を改善することができる。センサの数を増加させると、エンクロージャ200内で利用される冷却システムの動作をより狭い動作範囲内で制御することが可能となり、これにより性能、効率、正確性および安定性を改善することができる。センサ数を減少させると、冷却システムのコストおよび複雑性を低減させることができる。
【0050】
管理制御システム256はさらに、センサからデータを受信する処理回路(processing circuitry)(図示せず)を含む。各センサは、処理回路に対して電気的に接続されるかまたは無線接続され得る。エンクロージャ200内部の機能不良の検出または標示時点でオペレータに通知するように処理回路を構成することができる。処理回路は、ショートメッセージサービス(SMS)、電子メール(E-mail)、簡易ネットワーク管理プロトコル(SNMP)および可聴ブザーアラームを経由して、オペレータに対してアラームおよびアラートを送って、機能不良または条件についてオペレータに警告するように構成され得る。アラームまたはアラートには、処理回路に接続されたセンサから記録された情報を含め、機能不良と結び付けられる具体的詳細が含まれる。アラームまたはアラートには同様に、部品が現地在庫内に存在するか否かをオペレータが直ちに決定できるように、故障した可能性の高いコンポーネントに結び付けられる部品番号も含まれている。その部品が手元にない場合、オペレータはできる限り速やかに供給業者に交換部品を発注することができる。アラームまたはアラート、そして機能不良に関するあらゆるデータは、コンピュータ可読媒体(例えばメモリ)内に記憶されかつ/または品質管理、保証および/またはリコール目的で、システムメーカに伝達され得る。
【0051】
処理回路には、1つ以上のマイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブル論理デバイス(PLD)、特定用途向け集積回路(ASIC)などが含まれる。いくつかの事例において、処理回路の機能は同様に、個別的デジタルコンポーネントおよび/または個別的アナログコンポーネントによっても行なわれ得る。当業者であれば、処理回路および/またはセンサが、集積回路(IC)および/または個別的コンポーネントを含めたさまざまな他の電気部品を含み得るということを理解する。
【0052】
センサは、無線通信を通して処理回路と通信し得る。無線通信は、1つ以上の無線通信プロトコル(wireless communication protocol)、例えば、Bluetooth(登録商標)、Bluetooth(登録商標) Low Energy、ZigBeeおよび/またはWi-Fiなどを用いて行なうことができる。代替的には、無線通信は、公知の光通信または赤外線通信を用いて実装されてよい。
【0053】
センサを使用することによって、オペレータは、各シャーシ202についての冷却のニーズを監視でき、シャーシレベルでの動的冷却の提供が支援される。したがって、オペレータは、冷却システムを始動させ調整し、次にそれを管理制御システム256に委ねて、冷却プロセスを動的に管理することができる。一実施例において、レベルセンサから得られたデータは、液槽204内部の液体体積が第2の既定の閾値に達する時点を特定し、液槽204内の液体の補充要求を標示するアラートをオペレータに送るために、管理制御システム256によって使用される。別の実施例では、レベルセンサから得られたデータは、第1のポンプ206の効率が第3の既定の閾値より下に達する時点を決定するために使用される。管理制御システム256は、第1のポンプ206を非活動化し、第2のポンプ234を活動化する。さらに、センサを使用すると、冷却プロセスのためにエンクロージャが使用するエネルギの量を特定することが可能である。このデータは、対応するエネルギ使用量に基づいて異なるエンクロージャのための可変的冷却コストを決定するために、管理制御システム256によって使用され得る。したがって、自ら生成する大量の熱を除去するために大量のエネルギを利用する第3のエンクロージャが、比較的少ない量のエネルギを利用する第4のエンクロージャよりも冷却コストが高いものとなる。
【0054】
管理制御システム256はさらに、システムパラメータ、メッセージおよび動作状態を表示するための液晶ディスプレー(LCD)を含む。管理制御システム256はさらに、データセンタ内のラック(例えばラック100)および例えば外部集中熱交換器冷却システムなどの外部熱交換器を制御するための通信ポートを含む。
【0055】
動作中、第1のポンプ206は、液槽204から液体を吸引し、液体を配管システム208に供給する。配管システム208は、管板のセット210a~210oに液体を供給するマニホルドに接続されている。管板のセット210a~210oはシャーシ202内に設置されていることから、管板のセット210a~210oは、発熱コンポーネントにより生成された熱を放射により吸収する。これは、管板のセット210a~210oが発熱コンポーネントよりも低い温度にあるからである。管板のセット210a~210oは、管板のセット210a~210oの内部を循環する液体に対して、吸収した熱を放出する。
【0056】
管板のセット210a~210oは、カセットのセット218a~218m上に液体を噴霧する。ノズル244は噴霧管242上に埋込まれており、第1のノズルセット244が第1のカセットの前方側に液体を噴霧し、第2のノズルセット244が第2のカセットの後方側に液体を噴霧するようになっている。液体は、その低い表面張力のため、発熱コンポーネントの表面上に薄いフィルムを形成する。液体の低い表面張力は同様に、薄いフィルムがカセットの表面全体を被覆することも保証する。使用されない液体は、液槽204内に収集される。液体の薄いフィルムは、発熱コンポーネントからの熱を吸収し、蒸発させられて蒸気となり、これにより発熱コンポーネントから熱を除去する。
【0057】
形成された蒸気はシャーシ202内に存在し、カセットのセット218a~218mの前に設置された管板のセット210a~210oに向かって移動する。蒸気は、蒸気よりも低い温度にある管板のセット210a~210oと接触した時点で、管板のセット210a~210oの表面上で凝縮する。管板のセット210a~210oは、液体が管板のセット210a~210oの内部を循環していることから、より低い温度にあり、液槽204から得られる液体の温度は、発熱コンポーネントよりもはるかに低い温度に維持される。管板のセット210a~210oの表面上の凝縮した蒸気は液滴を形成し、これらの液滴は、凝縮液体として落下して液槽204内に戻る。
【0058】
同様にして、乾燥空気よりも重量密度が高いシャーシ202内部の蒸気は、シャーシ202の底部に位置設定された熱交換器212に向かって移動する。熱交換器212は、熱交換器212の内部を循環する周囲温度の水により蒸気よりも低い温度に維持される。したがって、蒸気が熱交換器212と接触した時点で、熱交換器212は、蒸気からの熱を吸収し、蒸気は熱交換器212の表面上で凝縮し、その後、凝縮液体として落下して液槽204内に戻る。吸収された熱は、周囲温度の水へと放出され、したがって水の温度は上昇することになる。加熱された水は、水のネットワークにより、エンクロージャ200の外部に設置された外部集中熱交換器システムまで搬送される。外部集中熱交換器システムは、加熱された水から大気に熱を排出することによって加熱された水を冷却するために、ファン、冷却器および周囲温度空気を使用する。冷却された水は、熱交換器212内に戻るように循環させられる。
【0059】
管板のセット210a~210oの内部での液体の循環および熱交換器212の内部での周囲温度の水の循環には、それぞれ別個の閉ループシステムがあり、したがって液体と周囲温度の水が混合することはない。液槽204で収集された凝縮液体および未使用の液体は、次に循環のために再利用される。
【0060】
ここで図2Eを参照すると、これは、本発明の一実施形態に係る発熱コンポーネント上に液体を送達する噴霧法を例示している。第2の管板210bが、第3のカセット(図示せず)と第4のカセット218bとの間に位置付けされる。第3の管板210aが、第4のカセット218bと第5のカセット218cとの間に位置付けされる。第4の管板210dが、第5のカセット218cと第6のカセット218dの間に位置付けされる。噴霧管セット(図示せず)は、第4の管板210dの上に埋込まれており、こうして第4の管板210dが第6のカセット218dの前方側および第5のカセット218cの後方側の上に液体を噴霧するようになっている。当業者にとっては、第2および第3の管板210bおよび210cを含めた管板のセット210a~210oの各管板が第4の管板210dと類似の機能を果たすということは明白である。管板のセット210a~210oによる液体の2方向噴霧は、発熱コンポーネントからの熱の効率の良い除去を導く。
【0061】
当業者にとっては、本発明が発熱コンポーネント上に液体を送達するための噴霧方法の使用について話しているにせよ、エンクロージャ200内での送達方法として他の方法を使用することもできる、ということは明白である。別の実施形態においては、液体を送達するためにウォータフォール法を使用することができる。ウォータフォール法では、管板のセット210a~210oは、頂端部に孔を有しており、これらの孔がカセットのセット218a~218mの頂端部で液体を送達し、重力がカセットのセット218a~218mの表面を下へと液体を引降ろすことができるようにし、こうして薄いフィルムが形成される。未使用の液体は、液槽204に戻るように収集される。
【0062】
本発明の具体的利点としては、発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャ200の使用が含まれる。エンクロージャ200が密封されていることにより、蒸気が大気中に漏出せず、そのため蒸気の損失が回避されることが確保される。さらに、ラック100上に組付けられた各々のエンクロージャは、熱交換器212などの独自の熱交換器を有する。エンクロージャ200の内部に熱交換器212が存在することによって、液体の蒸発に起因して形成された蒸気が急速に凝縮して凝縮液体に戻ることが確保される。したがって、蒸気は、従来のエンクロージャの場合のようにエンクロージャの外部に設置されている熱交換器へと移送される必要がない。このため、移送中の蒸気の損失が最小限に抑えられる。
【0063】
従来のエンクロージャにおいては、管板のセット210a~210oにより果たされる二重の機能を噴霧管が果たすことはない。したがって、追加の凝縮表面(additional condensation surfaces)は、管板のセット210a~210oによって提供される。シャーシ202の設計(design)は、管板のセット210a~210oをカセットのセット218a~218mの間に位置付けすることを可能にしている。したがって、シャーシ202の設計および噴霧管セット242上のノズル244の位置により、発熱コンポーネントの表面全体が液体で被覆され、熱が発熱コンポーネントから均等に除去されることが保証される。これにより、ホットスポットの創出が回避される。エンクロージャ200の内部に液槽204、第1および第2のポンプ206および234ならびに配管システム208などのコンポーネントが存在することにより、エンクロージャ200の効率、安定性および性能はさらに改善される。
【0064】
液体フィルム冷却法は、強制空冷および液体浸漬冷却などの従来の冷却方法に比べた利点を有する。液体フィルム冷却法は、強制空冷に比べてその動作のために著しく少量の電力しか使用しない。これは、液体フィルム冷却法が、強制空冷法で使用されるファン、空気管理手段および冷却設備を不要にし、発熱コンポーネントから熱を除去するために熱交換器212および管板のセット210a~210oを使用するからである。このことにより、液体フィルム冷却法は強制空冷に比べさらに安価なものになる。液体フィルム冷却法は、少量の液体しか使用しないことから、液体浸漬冷却法に比べて著しく安価かつ軽量である。さらに、浸漬冷却法で使用される浸漬浴が不在であることから、必要とされる床面積は削減され、ロードスプレッタも使用されない。
【0065】
シャーシ202および液体フィルム冷却法の設計は、ラック100上で利用可能なスペースを最適化し、ラック100の棚104a上に2つ以上のエンクロージャを組付けることを可能にする。したがって、ラック100上に組付けられるサーバまたは他の発熱コンポーネントの数は、液体フィルム冷却法以外の冷却方法を使用する従来のエンクロージャを組付けるラックと比べて増大する。例えば、従来のエンクロージャを組付けるラック上に組付けられるサーバの数が192個であるとすると、ラック100上に組付けられるサーバの数は400~500個の範囲内にある。さらに、エンクロージャ200は、ラックにわずかな修正を加えるだけで、ラック100などの標準データセンタラック上で容易に展開可能である。管理制御システム256を使用することから、エンクロージャ200内で動的冷却(dynamic cooling)を実装することができる。シャーシ202の設計は、エンクロージャ内の発熱コンポーネントの効果的な冷却を可能にする。その上、シャーシ202の設計は、エンクロージャ200内の冷却システムの容易な展開を可能にする。エンクロージャ200は、液体の蒸気の漏出を防止して、液体の損失を回避する。
【0066】
本発明は直接噴霧冷却法の使用およびそのさまざまな利点について説明しているものの、本発明の範囲はそれに限定されない。本発明の一実施形態においては、直接噴霧冷却法の代替的技術として、噴霧およびフォギング冷却法などの液体フィルム冷却法の他のさまざまな形態を使用することができる。直接噴霧冷却法と噴霧およびフォギング冷却法の主な差異は、液体液滴のサイズにある。噴霧およびフォギング冷却法では、送達すべき液体はミストおよびフォグ(fog)にそれぞれ変換される。一実施形態においては、超音波装置(図示せず)を用いて、送達すべき液体をミストおよびフォグに変換することが可能である。噴霧およびフォギング冷却法は、発熱コンポーネントを冷却するためにエンクロージャ200内で実装され得る。噴霧およびフォギング冷却法における液滴サイズがより小さいことによって、ミストおよびフォグで被覆され得る発熱コンポーネントの表面積範囲は増大し、これにより、発熱コンポーネントの表面を完全に被覆する効率の良い方法が提供される。これによりさらに、ミストおよびフォグの蒸気への変換(すなわち蒸発)が増強されて、効率の良い効果的な冷却が提供される。
【0067】
本発明と一貫性のある技術は、他の特徴部の中でも特に、液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャを提供する。開示されたシステムおよび方法のさまざまな例示的実施形態が以上で説明されてきたが、それらは限定条件としてではなく単なる一例として提供されたにすぎないということを理解すべきである。それは網羅的ではなく、開示された精確な形態に本発明を限定するわけではない。上述の技術に照らして修正および変形形態が可能であるか、または本発明の実践から獲得され得、そのために本発明の広さまたは範囲から逸脱することはない。
【0068】
クレーム中、「comprising(含む)」、「including(含む)」および「having(有する)」なる用語は、クレーム中に列挙されたもの以外の要素またはステップの存在を排除するものではない。本明細書中で使用される「a」または「an」なる用語は、1つ以上として定義される。別段の記載のないかぎり、「第1の」および「第2の」なる用語は、このような用語が描写する要素間で任意に区別するために使用される。したがって、これらの用語は、必ずしもこのような要素の時間的または他の優先順位付けを標示するように意図されていない。互いに異なるクレームの中に一部の手段が記されているという事実は、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを標示するものではない。
【0069】
本発明のさまざまな実施形態が例示され説明されてきたが、本発明がこれらの実施形態のみに限定されないということは明白である。クレーム中で説明されているような本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの修正、変更、変形形態、置換および等価物が当業者には明らかになるものである。
なお、本発明の実施態様として、以下に示すものがある。
[態様1]
複数の発熱コンポーネントに対して液体フィルム冷却を提供するためのエンクロージャにおいて、
複数のカセットを含むシャーシであって、前記複数のカセットの各カセットが、前記複数の発熱コンポーネントのうちの1つ以上の発熱コンポーネントを含み、前記複数のカセットが前記シャーシに対して摺動可能に取付けられている、シャーシと;
前記複数の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管するための液槽と;
前記液槽から液体を吸引するための第1のポンプと;
前記第1のポンプを経由して前記液槽から前記液体を受入れるための配管システムと;
前記液体を受入れるために前記配管システムに接続された複数の管板であって、前記複数の管板のうちの1つの管板が前記複数のカセットのうちの第1のカセットと第2のカセットの間に設置されており、前記複数の管板が、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して前記複数の発熱コンポーネント上に前記液体を直接噴霧し、これにより、前記液体を前記複数の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させる、複数の管板と;
前記シャーシの下方に設置された熱交換器であって、前記蒸気を前記熱交換器との接触時点で凝縮液体へと凝縮させ、それによって前記凝縮液体が前記液槽内に収集されるようにするための熱交換器と;
を含むエンクロージャ。
[態様2]
前記シャーシがさらに、前記1つ以上の発熱コンポーネントに電力を供給するための少なくとも1つの電源ユニット、および少なくともローカルエリアネットワークまたはインターネットに対し外部からのネットワーク接続性を提供するための少なくとも1つのネットワークスイッチを含んでいる、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様3]
前記シャーシは、前記少なくとも1つの電源および前記少なくとも1つのネットワークスイッチと共通の電力およびデータバスを前記複数のカセットが共用できるようにするために、前記シャーシの後方端部に収納されたバックプレーンをさらに含む、態様2に記載のエンクロージャ。
[態様4]
前記液槽から前記液体を吸引するための第2のポンプをさらに含み、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが、或る瞬間に動作可能である、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様5]
前記配管システムは、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが動作不能である場合に前記第1のポンプおよび第2のポンプを通して前記液体が戻るように循環するのを防止するための逆流防止弁を備えている、態様4に記載のエンクロージャ。
[態様6]
前記複数の管板内の液体の流れを制御するため、前記配管システムと前記複数の管板の間に接続されたバイパス弁をさらに含む、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様7]
前記複数の管板はさらに、前記蒸気が前記複数の管板と接触した時点で、前記蒸気の前記凝縮液体への凝縮を提供する、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様8]
前記複数の管板がさらに、放射により前記複数の発熱コンポーネント由来の熱を吸収し、前記複数の管板の内部を循環する前記液体に前記熱を伝達する、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様9]
前記エンクロージャの健全性および動作パラメータを監視するための複数のセンサをさらに含み、前記複数のセンサが、温度センサ、流量センサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサまたは湿度および飽和蒸気センサのうちの少なくとも1つを含む、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様10]
前記複数のセンサから受信した出力に基づいて前記エンクロージャを監視し管理するための管理制御システムをさらに含む、態様9に記載のエンクロージャ。
[態様11]
前記エンクロージャの外部で非蒸気気体をパージし前記蒸気が前記エンクロージャの外部に発散するのを防ぐためのカートリッジをさらに含む、態様1に記載のエンクロージャ。
[態様12]
複数の棚を有するラックにおいて、
前記複数の棚のうちの1つの棚上に位置付けされた複数のエンクロージャであって、前記複数のエンクロージャのうちの第1のエンクロージャが前記ラックの前方端部からアクセス可能であり、前記複数のエンクロージャのうちの第2のエンクロージャが前記ラックの後方端部からアクセス可能である複数のエンクロージャ、
を含むラックであって、前記複数のエンクロージャの第1のエンクロージャおよび第2のエンクロージャの各々が:
複数のカセットを含むシャーシであって、前記複数のカセットの各カセットが、1つ以上の発熱コンポーネントを含み、前記複数のカセットが前記シャーシから摺動可能に取外し可能である、シャーシと;
前記1つ以上の発熱コンポーネントに供給すべき液体を保管するための液槽と;
前記液槽から液体を吸引するための第1のポンプと;
前記第1のポンプを経由して前記液槽から前記液体を受入れるための配管システムと;
前記液体を受入れるために前記配管システムに接続された複数の管板であって、前記複数の管板のうちの1つの管板が前記複数のカセットのうちの第1のカセットおよび第2のカセットの間に設置されており、前記複数の管板が、この複数の管板上に埋込まれたノズルを経由して前記1つ以上の発熱コンポーネント上に前記液体を直接噴霧し、これにより、前記液体を前記1つ以上の発熱コンポーネントとの接触時点で蒸気へと蒸発させる、複数の管板と;
を含んでいる、ラック。
[態様13]
前記シャーシの下方に設置された熱交換器であって、前記蒸気を前記熱交換器との接触時点で凝縮液体へと凝縮させ、こうして前記凝縮液体が前記液槽内に収集されるようにするための熱交換器をさらに含む、態様12に記載のラック。
[態様14]
前記シャーシがさらに、前記1つ以上の発熱コンポーネントに電力を供給するための少なくとも1つの電源ユニット、および少なくともローカルエリアネットワークまたはインターネットに対し外部からのネットワーク接続性を提供するための少なくとも1つのネットワークスイッチを含んでいる、態様12に記載のラック。
[態様15]
前記シャーシは、前記少なくとも1つの電源および前記少なくとも1つのネットワークスイッチで共通の電力およびデータバスを前記複数のカセットが共用できるようにするために、前記シャーシの後方端部に収納されたバックプレーンをさらに含む、態様14に記載のラック。
[態様16]
前記液槽から前記液体を吸引するための第2のポンプをさらに含み、前記第1のポンプおよび第2のポンプのうちの少なくとも1つが、或る瞬間に動作可能である、態様12に記載のラック。
[態様17]
前記複数の管板はさらに、前記蒸気が前記複数の管板と接触した時点で、前記蒸気の凝縮液体への凝縮を提供する、態様12に記載のラック。
[態様18]
前記複数の管板がさらに、放射により前記1つ以上の発熱コンポーネント由来の熱を吸収し、前記複数の管板の内部を循環する前記液体に前記熱を伝達する、態様12に記載のラック。
[態様19]
前記エンクロージャの健全性および動作パラメータを監視するための複数のセンサをさらに含み、前記複数のセンサが、温度センサ、流量センサ、ポンプセンサ、湿度センサ、汚染センサ、電圧センサ、加速度計、扉センサ、バックプレーンセンサ、圧力センサまたは湿度および飽和蒸気センサのうちの少なくとも1つを含む、態様12に記載のラック。
[態様20]
前記複数のセンサから受信した出力に基づいて前記エンクロージャを監視し管理するための管理制御システムをさらに含む、態様19に記載のラック。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E