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特許7432600効率的な広視野蛍光寿命顕微鏡法を可能にする電気光学イメージング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】効率的な広視野蛍光寿命顕微鏡法を可能にする電気光学イメージング
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240208BHJP
   G01S 7/4863 20200101ALI20240208BHJP
   G01S 17/894 20200101ALI20240208BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240208BHJP
   G02F 1/03 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/64 B
G01S7/4863
G01S17/894
G02B21/36
G02F1/03 505
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021527850
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2019062640
(87)【国際公開番号】W WO2020106972
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】62/770,533
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボウマン、アダム
(72)【発明者】
【氏名】カセヴィッチ、マーク・エー
(72)【発明者】
【氏名】クロッパー、ブラノン
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523438(JP,A)
【文献】特表2013-518284(JP,A)
【文献】国際公開第2011/136382(WO,A1)
【文献】特表2017-517748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01S 7/00 - G01S 17/95
G02B 19/00 - G02B 21/36
G02F 1/00 - G02F 7/00
G01J 1/00 - G01J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間分解光学イメージングを提供する装置であって、
広視野光強度変調器と、
1以上の2次元検出器アレイと、
前記広視野光強度変調器を介して前記1以上の2次元検出器アレイに入射する入射光を結像するように構成された撮像光学系であって、シーンを観測するように構成された、該撮像光学系と、
前記広視野光強度変調器に印加された入力変調に対する、前記1以上の2次元検出器アレイからの信号を解析することにより、前記入射光の1以上の波形形状パラメータを自動的に決定するように構成されたプロセッサと、を含み、
前記入射光が、観測される前記シーンに対して行われた励起に対する光学的応答を含み、
前記光学的応答は、蛍光応答を含み、
前記1以上の波形形状パラメータは、励起後の蛍光減衰の指数関数的減衰定数を含み、
前記広視野光強度変調器の時間的な帯域幅が、前記1以上の2次元検出器アレイの時間的なピクセル帯域幅よりも広く、前記入射光の前記1以上の波形形状パラメータが、前記1以上の2次元検出器アレイのピクセルごとに決定される装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記広視野光強度変調器が、偏光変調を強度変調に変換するために、第1の偏光子と第2の偏光子との間に配置された広視野光偏光変調器を含む装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記広視野光強度変調器が、入力偏光子と、広視野光偏光変調器と、偏光ビームスプリッタとを含み、
前記偏光ビームスプリッタが、前記2次元検出器アレイの第1の検出器に第1の出力を提供し、かつ前記2次元検出器アレイの第2の検出器に第2の出力を提供することにより、
偏光変調が、前記第1の出力及び前記第2の出力の強度変調に変換される装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、
前記入力変調が、ステップ関数であり、
前記指数関数的減衰定数が、前記2次元検出器アレイの前記第1の検出器及び第2の検出器の、それぞれ対応するピクセルからの単一フレーム信号を解析することにより決定される装置。
【請求項5】
時間分解光学イメージングを提供する装置であって、
広視野光強度変調器と、
1以上の2次元検出器アレイと、
前記広視野光強度変調器を介して前記1以上の2次元検出器アレイに入射する入射光を結像するように構成された撮像光学系と、
前記広視野光強度変調器に印加された入力変調に対する、前記1以上の2次元検出器アレイからの信号を解析することにより、前記入射光の1以上の波形形状パラメータを自動的に決定するように構成されたプロセッサと、を含み、
前記広視野光強度変調器の時間的な帯域幅が、前記1以上の2次元検出器アレイの時間的なピクセル帯域幅よりも広く、前記入射光の前記1以上の波形形状パラメータが、前記1以上の2次元検出器アレイのピクセルごとに決定され、
前記広視野光強度変調器が、
第1の出力及び第2の出力を有する入力偏光ビームスプリッタと、
前記第1の出力及び前記第2の出力を並行して受信し、かつそれぞれに対応する第1のPM出力及び第2のPM出力を出力するように構成された広視野光偏光変調器(PM)と、
前記第1のPM出力を受信し、かつ第3の出力及び第4の出力を出力するように構成された第1の出力偏光ビームスプリッタと、
前記第2のPM出力を受信し、かつ第5の出力及び第6の出力を出力するように構成された第2の出力偏光ビームスプリッタと、を含み、
前記第3の出力は、前記2次元検出器アレイの第1の検出器に出力され、
前記第4の出力は、前記2次元検出器アレイの第2の検出器に出力され、
前記第5の出力は、前記2次元検出器アレイの第3の検出器に出力され、
前記第6の出力は、前記2次元検出器アレイの第4の検出器に出力される装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、
前記入力変調が、前記シーンに対して光励起が行われた後に自動的に調節可能な遅延時間tを有するパルスであり、
前記1以上の波形形状パラメータが、前記遅延時間に対する前記2次元検出器アレイの前記信号のデータポイントを含む装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、
前記入力変調が、ステップ関数、サンプリングパルス、及びロックイン検出のための周期的な変調からなる群から選択される装置。
【請求項8】
請求項1に記載の装置であって、
前記広視野光強度変調器が、光の伝搬方向及び電界の印加方向が一致する縦型ポッケルスセルを含む装置。
【請求項9】
時間分解光学イメージングを提供する装置であって、
広視野光強度変調器と、
1以上の2次元検出器アレイと、
前記広視野光強度変調器を介して前記1以上の2次元検出器アレイに入射する入射光を結像するように構成された撮像光学系と、
前記広視野光強度変調器に印加された入力変調に対する、前記1以上の2次元検出器アレイからの信号を解析することにより、前記入射光の1以上の波形形状パラメータを自動的に決定するように構成されたプロセッサと、を含み、
前記広視野光強度変調器の時間的な帯域幅が、前記1以上の2次元検出器アレイの時間的なピクセル帯域幅よりも広く、前記入射光の前記1以上の波形形状パラメータが、前記1以上の2次元検出器アレイのピクセルごとに決定され、
前記撮像光学系が、或る共振器往復時間を有するマルチパス光共振器を含み、
前記マルチパス光共振器が、前記共振器往復時間の倍数に対応した光学的時間分解能を提供するように構成された装置。
【請求項10】
請求項1に記載の装置であって、
前記入射光が、前記シーンに対する周期的な励起に応答する周期的な信号であり、
前記広視野光強度変調器が、前記周期的な信号に対して同期的に共振駆動される装置。
【請求項11】
請求項1に記載の装置であって、
前記広視野光強度変調器が、互いに同一または互いに異なる入力変調信号を有する2以上の光変調器を含む装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置であって、
前記光学的応答が、非線形応答である装置。
【請求項13】
請求項1に記載の装置であって、
前記広視野光強度変調器が、前記励起後に制御可能な遅延を有する変調信号で駆動される装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光イメージングにおける時間分解能の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
光イメージング測定において、時間分解能の向上がよく望まれている。例えば、蛍光分光法では、蛍光寿命から有用な情報が得られる。しかし、一般的な蛍光寿命はナノ秒のオーダーであり、これは、一般的なイメージング検出器アレイでは短すぎて検出することができない。この問題に対する従来のアプローチは、入射光の時間依存性を追うために、高速の単素子検出器を利用した、時間を要する走査手法が必要となる傾向にあった。このように、蛍光分光法は、入射光の時間依存性に関する情報が必要となるため、従来の撮像法のような、単にシーンに対して高速でシャッタを切るだけの技術とは一線を画している。したがって、光イメージング測定における時間分解能の向上を提供することは、当技術分野における前進となるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本願発明者らは、広視野光強度変調器(wide field optical intensity modulator)が一般的な光検出器アレイよりも広い帯域幅を有することが可能であり、これにより、広視野光強度変調器を光イメージングにおける時間分解能の向上に利用できることを発見した。好ましい実施形態では、変調器の構成は、高い光子収集効率を有し(損失が微小な寄生損失によるもののみであり)、かつ一般的な安価なカメラセンサに対して互換性を有する。変調器がこれらの長所を兼ね備えていることにより、該変調器は、特に、一般的に信号が弱く、かつ高い光子スループット(photon throughput)及び高速取得が望まれる蛍光寿命イメージング(FLIM)に対して好適である。しかし、以下に詳述するように、他の多くの用途に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態を示す図である。
図1B図1Bは、例示的な変調器のゲート効率の計算結果を示す図である。
図2A図2Aは、多重標識FLIMに関する実験結果を示す図である。
図2B図2Bは、多重標識FLIMに関する実験結果を示す図である。
図2C図2Cは、多重標識FLIMに関する実験結果を示す図である。
図3A図3Aは、広視野FLIMに関する実験結果を示す図である。
図3B図3Bは、広視野FLIMに関する実験結果を示す図である。
図3C図3Cは、広視野FLIMに関する実験結果を示す図である。
図4A図4Aは、薄型ポッケルスセル変調器を有する高速FLIMに関する実験結果を示す図である。
図4B図4Bは、薄型ポッケルスセル変調器を有する高速FLIMに関する実験結果を示す図である。
図4C図4Cは、薄型ポッケルスセル変調器を有する高速FLIMに関する実験結果を示す図である。
図5A図5Aは、時間ビン(time binning)を提供するためのマルチパス共振器を示す図である。
図5B図5Bは、時間ビンを提供するためのマルチパス共振器を示す図である。
図5C図5Cは、時間ビンを提供するためのマルチパス共振器を示す図である。
図5D図5Dは、時間ビンを提供するためのマルチパス共振器を示す図である。
図6A図6Aは、寿命推定誤差の計算結果を示す図である。
図6B図6Bは、寿命推定誤差の計算結果を示す図である。
図7A図7Aは、ゲート効率の波長依存性の例を示す図である。
図7B図7Bは、変調器構成に1/4波長板を追加した結果の例を示す図である。
図8A図8Aは、種々の変調器構成を示す図である。
図8B図8Bは、種々の変調器構成を示す図である。
図8C図8Cは、種々の変調器構成を示す図である。
図8D図8Dは、種々の変調器構成を示す図である。
図8E図8Eは、種々の変調器構成を示す図である。
図9A図9Aは、例示的な時間分解ハイパースペクトルの構成を示す図である。
図9B図9Bは、例示的な時間分解ハイパースペクトルの構成を示す図である。
図10A図10Aは、ロックイン構成を示す図である。
図10B図10Bは、ロックイン構成を示す図である。
図11A図11Aは、荷電粒子検出への応用例を示す図である。
図11B図11Bは、荷電粒子検出への応用例を示す図である。
図11C図11Cは、荷電粒子検出への応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
この詳細な説明のセクションAでは、本発明の実施形態に関する一般原則を説明する。セクションBでは、ポッケルスセル変調器を用いた蛍光寿命イメージング(FLIM)に関する詳細な例を説明する。セクションCでは、いくつかの追加の変形例、実施形態、及び応用例について説明する。概して、本発明の実施形態は、セクションBに例示されるFLIMへの応用に限定されるものではなく、またセクションBに例示されるポッケルスセルの使用に限定されるものでもない。
【0006】
(A)一般原則
【0007】
上述したように、本発明は、カメラよりも高速な広視野光変調器を用いることにより、時間変化型の波形パラメータの分解能をピクセル単位で向上させることを目的とする。
【0008】
より詳細には、本発明の一実施形態は、時間分解光学イメージングを提供するための装置に関する。この装置は、広視野光強度変調器(例えば、図1Aの102、104、106、108の組み合わせ)と、1以上の2次元検出器アレイ(例えば、図1Aの142、144、146、148)と、広視野光強度変調器を介して2次元検出器アレイに入射光を結像するように構成された撮像光学系(例えば、図1Aの118、120)とを含む。広視野光強度変調器の時間的な帯域幅(temporal bandwidth)は、1以上の2次元検出器アレイの時間的なピクセル帯域幅(temporal pixel bandwidth)よりも広い。この装置は、広視野光強度変調器に印加された入力変調に対する、1以上の2次元検出器アレイからの信号を解析することにより、入射光の1以上の波形形状パラメータを自動的に決定するように構成されたプロセッサ(例えば図1Aの130)をさらに含む。
【0009】
ここで、入射光の1以上の波形形状パラメータは、1以上の2次元検出器アレイのピクセルごとに決定される。この「波形形状パラメータ」は、(1)例えば、受信パルスの指数関数的減衰定数などのカーブフィッティングパラメータ、(2)受信パルスの波形形状の、離散的にサンプリングされた推定値を提供するデータポイント、及び、(3)例えば、結像されているシーンに対して行われる周期的な励起に関する位相シフト及び振幅変調などの、周期的な受信信号のパラメータ、の3つの可能性を含むものとして定義されている。遅延時間は波形形状を変化させるものではないため、波形形状パラメータには含まれない。これは、別の見方をすれば、(例えば、従来のLIDAR(LIght Detection And Ranging)で使用されるような)分離パルス波形が、定まった位相を有さないということである。
【0010】
検出器アレイとは、互いに隣接して配置された、光学検出素子の2次元のアレイを意味する。複数の検出器アレイを有する実施形態では、これらのアレイを同一基板上に配置してもよいし、または、それぞれを個別のデバイスとしてもよい。本明細書における「広視野」とは、2次元検出器アレイにマッチするのに十分な広さを有する開口を有する光変調器(光強度変調器または光偏光変調器)を意味する。換言すれば、検出器アレイの各ピクセルで受信される光は、すべて1つの広視野光変調器によって変調されている。
【0011】
好ましい実施形態では、光強度変調は、偏光光学系と組み合わせた偏光変調器により提供される。光強度変調は、様々な構成とすることができる。第1の変調器構成では、広視野光強度変調器が、偏光変調を強度変調に変換するために、第1の偏光子と第2の偏光子との間に配置された広視野光偏光変調器を含む(図8Aの例)。
【0012】
第2の変調器構成では、広視野光強度変調器が、入力偏光子と、広視野光偏光変調器と、偏光ビームスプリッタとを含む。偏光ビームスプリッタは、2次元検出器アレイの第1の検出器に第1の出力を提供し、かつ2次元検出器アレイの第2の検出器に第2の出力を提供する。ここで、偏光変調はまた、第1の出力及び第2の出力の強度変調に変換される(図8Bの例)。
【0013】
第2の変調器構成の使用例としては、波形形状パラメータが指数関数的減衰時間を含み、かつ入力変調がステップ関数である場合が挙げられる。ここで、指数関数的減衰時間は、2次元検出器アレイの第1の検出器及び第2の検出器の、それぞれ対応するピクセルからの単一フレーム信号を解析することによって決定することができる。
【0014】
第3の変調器構成は図1Aに示されており、セクションBで詳細に説明する。ここでは、広視野光強度変調器は、
(a)第1の出力及び第2の出力を有する入力偏光ビームスプリッタ(例えば、図1Aの102)と、
(b)第1の出力及び第2の出力を並行して受信し、かつそれぞれに対応する第1のPM出力及び第2のPM出力を出力するように構成された広視野光偏光変調器(PM)(例えば、図1Aの104)と、
(c)第1のPM出力を受信し、かつ第3の出力及び第4の出力(例えば、図1Aの出力1、4)を出力するように構成された第1の出力偏光ビームスプリッタ(例えば、図1Aの106)と、
(d)第2のPM出力を受信し、かつ第5の出力及び第6の出力(例えば、図1Aの出力2、3)を出力するように構成された第2の出力偏光ビームスプリッタ(例えば、図1Aの108)と、を含む。
【0015】
ここで、第3の出力は2次元検出器アレイの第1の検出器(例えば、図1Aの142)に出力され、第4の出力は2次元検出器アレイの第2の検出器(例えば、図1Aの148)に出力され、第5の出力は2次元検出器アレイの第3の検出器(例えば、図1Aの144)に出力され、第6の出力は2次元検出器アレイの第4の検出器(例えば、図1Aの146)に出力される。
【0016】
上述した任意の変調器構成における偏光素子またはビームスプリッタは、様々な形態であってもよい。これには、偏光板、薄膜偏光子、グリッド偏光子、キューブ型ビームスプリッタ、及び偏光プリズムなどが含まれる。また、そのうちのいくつかは、複屈折ビームディスプレーサ、ロション偏光子、及びウォラストン偏光子などのインライン構成であってもよい。偏光変換系は、画像を維持しながら、一方で非偏光光を最小限の光学的損失で所定の偏光に変換するために使用される。このような偏光変換系は、特に、単一ビームのみが変調される場合における、光子効率を向上させるための第1の偏光子として適当であろう。最後の可能性として、各々がセンサの前に互いに異なる偏光子を有する検出器アレイに、空間的に互いに分離された領域が設けられてもよい。同様に、検出器アレイの各ピクセルが、それぞれ固有の偏光素子を有してもよい。偏光カメラセンサなどの一体化構成では、ビームスプリッタ出力の画像レジストレーションを行う必要はない。
【0017】
入力変調は、シーンに対して光が励起された後に自動的に調節可能な遅延時間tを有するパルスであってもよい。ここで、1以上の波形形状パラメータは、遅延時間に対する2次元検出器アレイの信号のデータポイントを含んでもよい。
【0018】
入力変調は、ステップ関数、サンプリングパルス、及びロックイン検出のための周期的な変調からなる群から選択されてもよい。
【0019】
広視野光強度変調器は、光の伝搬方向及び電界の印加方向が一致する縦型ポッケルスセルを含んでもよい。このような縦型変調器には、リン酸二重水素カリウム(KDPOまたはDKDP)またはリン酸二水素カリウム(KDP)の結晶が用いられる。この縦型変調器構成は、横型ポッケルスセルを含む構成と比較して、より多くの用途に適する傾向がある。また、光強度変調器は、広い開口を有する標準的な横電界型ポッケルスセル構成を含んでもよい。これらの構成は、共振高電圧駆動を必要とする系、または、より大きい受光角が必要となる系にとっての理想的な構成となり得る。一般的な市販の横型変調器では、2つの結晶を、一方が他方に対して90度をなすように回転させることにより、または、1/2波長板を用いて互いに分離することにより、軸外の複屈折効果を打ち消すようになされている。これにより、撮像性能が向上するばかりでなく、熱安定性も向上する。このような二結晶型変調器(dual modulator)としては、10mm以上の開口を有する、例えばルビジウムチタニルリン酸塩(RbTiOPO)及びタンタル酸リチウム(LiTaO)などの、標準的な材料を利用することができる。
【0020】
撮像光学系は、或る共振器往復時間を有するマルチパス光共振器を含んでもよい。マルチパス光共振器は、共振器往復時間の倍数に対応した光学的時間分解能を提供するように構成されている(図5A図5Dの例)。この場合、変調器は、マルチパス撮像系の内部にあってもよいし、外部にあってもよい。
【0021】
入射光は、観測されるシーンに対する周期的な励起に応答する周期的な信号であってもよい。ここで、広視野光強度変調器は、好ましくは、周期信号に対して同期的に共振駆動される(図10A及び図10Bの例)。
【0022】
ここで、変調器は、変調周波数が入射光の周波数と同じ(ホモダイン)である場合、入射光の周期信号に対して同期的に駆動される。ホモダインの場合、変調周波数は、入射光の周波数に対して位相同期される(さもなければ一定の位相関係に保たれる)。また、ヘテロダインの場合も本発明の関心の対象に含まれる。
【0023】
光強度変調器は、互いに同一または互いに異なる入力変調信号を有する2以上の光変調器を含んでもよい。
【0024】
光学撮像系は、典型的にはシーンを観測するように構成されている。ここで、観測される「シーン」とは、任意の種類の撮像光学系(例えば、顕微鏡、内視鏡、及び望遠鏡など)を介して観測される1以上の対象物の任意の組み合わせを意味する。このようなシーンの励起は、様々な励起方法(例えば、光学的方法、電気的方法、及び磁気的方法など)を用いて行うことができる。本明細書において関心の対象となる主な信号は、励起に応答してシーンから放出される光放射である。多くの場合、シーンから放出される光放射は、励起に対する該シーンの非線形応答である。より詳細には、このような非線形応答は、例えば光学的蛍光の場合のように、その応答内に、励起に含まれない周波数成分を含む。同様に、光励起の場合、このような非線形応答は、その応答内に、励起に含まれない波長成分を含む。
【0025】
入射光は、励起に対するシーンの光学応答により提供されてもよい。関心の対象となる多くの場合において、シーンの光学応答は非線形応答である。また、光学応答は、照明波形(illumination waveform)と比較して、入射光の波形形状に変化をもたらすこともある。広視野光強度変調器は、励起後に制御可能な遅延を有する変調信号で駆動されてもよい。
【0026】
出力偏光ビームスプリッタを使用する場合、その出力は相補的となる。例えば、一方の出力が印加変調信号G(t)に応じて変調される場合、他方の出力は1-G(t)に応じて変調される。
【0027】
(B)実験の説明
【0028】
(B1)導入
【0029】
広視野ナノ秒イメージング用の既存のセンサは、時間分解能を得るために性能を犠牲にしており、低信号用途において、科学用CMOSセンサ及び電子増倍型CCDセンサに対して太刀打ちできない。現在、種々の検出器がナノ秒の領域に到達している。マイクロチャネルプレート(MCP)を基にしたゲート光インテンシファイア(GOI)は、単一の画像フレームにおけるサブナノ秒のゲーティング(gating)を可能にする。また、セグメント化されたGOIは、画像分割と組み合わせることにより複数のフレームを取得できる。しかし、この方法を用いてn個のフレームをゲーティングすると、全体の収集効率が1/n未満に制限されると共に、その性能は、光電陰極の量子効率、MCPのピクセル密度、過剰ノイズ、及び横方向の電子ドリフトにより一層制限される。ストリークカメラ技術による広視野イメージングも実証されているが、このストリークカメラ技術では、光電陰極を変換するステップ及び追加の高損失エンコーディングがさらに必要となる。単一光子アバランシェ検出器(SPAD)アレイは、新規のソリッドステート・アプローチであるが、現在のところ、充填率が低く、かつ暗電流が大きいという制限がある。
【0030】
今日のナノ秒イメージング技術の制限は、特に蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)において顕著である。蛍光寿命は、蛍光体の局所環境の高感度なプローブであって、pH、極性、イオン濃度、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)、及び粘性などのファクタをレポートするために使用できる。蛍光寿命イメージングは、励起強度ノイズ、標識密度、及びサンプルの光退色から影響を受けないため、多数の用途にとって魅力的な手法である。FLIMには、通常、時間相関単一光子計数(TC-SPC)検出器が組み合わされた共焦点走査が使用される。TC-SPCのスループットは、検出器の最大計数レート(通常1~100MHz)により制限されており、また、共焦点顕微鏡法には高い励起強度が必要となるため、生体サンプルに非線形的な光損傷を与えてしまう虞がある。周波数領域を利用した広視野法は有望な代替手段であるが、現在のところ、GOIまたは高ノイズで変調されたカメラチップを用いた復調が必要となる。既存の広視野法及びTC-SPC法における欠点を考慮すれば、FLIMには、その実用性をバイオイメージングへと拡張するために、新規の効率的なイメージング手法の開発が一層求められている。
【0031】
ここで、標準的なカメラに対して互換性を有する超高速イメージング技術を説明する。この超高速イメージング技術は、固有の損失やデッドタイムがなく、これにより、サブフレームレートのサンプルダイナミクスに、ナノ秒の蛍光寿命と同程度の速さのタイムスケールでアクセスすることが可能となる。まず、偏光ビームスプリッタ(PBS)及びポッケルスセル(PC)を基にした全光子広視野イメージング系を説明する。これは、2つの時間ビンを作成するために、または、ナノ秒からミリ秒までの任意のタイムスケールで像を変調するために使用される。これを用いて、多重標識サンプル(multi-labeled sample)、単一分子、及び生物学的ベンチマークにおける効率的な広視野FLIMを説明する。次に、ポッケルスセル・ゲートと組み合わせた場合にn個のフレームの超高速イメージングを可能にする時空間変換器としての再結像光共振器の使用法について説明する。
【0032】
(B2)結果
【0033】
(B2a)2つの時間ビンを用いたゲーティング
【0034】
図1A及び図1Bは、ポッケルスセルを有する効率的な超高速広視野イメージングを示す図である。図1Aは、単一ピクセルの蛍光減衰用の、2つの時間ビンを有する広視野イメージングの模式図を示す図である。まず、PBS102によって蛍光発光が偏光された後、PC104によって時間依存性リターダンス(図示のステップ関数)が適用され、さらにその後、PBS106及びPBS108により、センサの前方で各偏光が再び分光される。2組の出力は、それぞれ、図示のステップ関数ゲートが適用される前の積分強度(出力1、3)及び適用された後の積分強度(出力2、4)に対応する。出力1、2、3、4は、それぞれ対応する検出器アレイ(またはカメラ)142、144、146、148によって受信される。ここで、挿入図110に、関連する、強度の時間依存性が示されている。この図において、112は励起であり、114は蛍光であり、116は変調器信号である。撮像光学系は、符号118、120で模式的に示されている。上述したプロセッサは、符号130で示されている。利便性の理由から、撮像光学系及びプロセッサは、概して存在はしているものの、以降の図では示されていない。また、この撮像光学系における他の部分とプロセッサ130との間の接続も示されていない。本発明の実施は、この撮像光学系に決定的に依存するものではなく、任意の既知の撮像構成(例えば、顕微鏡、望遠鏡、及び内視鏡など)が採用されてもよい。実際には、等しい光路長が使用され、また、これらの光路には、例えば、ビームエキスパンダ、ミラー、及びリレー光学系などの標準的な撮像光学系が組み込まれてもよい。図1Bは、30mmのKDPポッケルスセルのゲート効率(Iπ-I)を、コノスコープ干渉パターンからの入射角の関数として算出したものを示す。これにより、広視野イメージングにおける高いゲート効率は、半受光角が6mrad以下の範囲で得られることが分かる。
【0035】
図1Aに示すように、撮像系からの光はビームスプリッタにより偏光され、また各偏光に対応する像は、それぞれ、広開口PCにおける互いに異なる位置を伝搬するように調整される。PCは、入力光の偏光構成要素間に電界依存のリターダンスを与え、これにより、印加電界の時間的な特徴がイメージングビームの偏光状態にマッピングされる。PCの後に配置された第2のPBSは、分光されたイメージングビームを再び分光し、これにより、カメラに4つの画像フレームが与えられる。結果として得られる画像は、図1Aに示すように時間的な情報を含むこととなる。この方法を説明するために、短い(~ns)励起パルスに対応する遅延時間tをもって印加される、ステップ関数型電圧パルスを考える。tをエッジとするステップ関数は、t経過前及び経過後の積分信号にそれぞれ対応する一対の出力画像を与える。ゲート前及びゲート後のいずれにおいても、全光子は1回のカメラ露光で収集され得る。
【0036】
実際には、この構成は、後述の例に示すように、tのガウス型ゲーティングパルス、または、数ナノ秒の立ち上がり時間を有するステップゲートを用いて実現される。実際、特定の用途のために、PCに任意のV(t)が印加されてもよい(ディスカッションのセクションを参照)。ゲーティングパルスは、1ショット測定として適用されてもよいし、または、1つのカメラフレーム内に統合された繰り返しイベントにわたって適用されてもよいことに留意されたい。蛍光寿命は、蛍光減衰を直接測定するためのゲートの遅延時間tを変化させることによって(後述の多重標識FLIMのセクションを参照)、または、単一フレームにおけるゲートチャネル強度と非ゲートチャネル強度との比を用いることによって(後述の単一分子FLIMのセクションを参照)、回復させることができる。PCの開口が制限されている場合には、1つのPC結晶における互いに異なる領域を使用する代わりに、互いに異なる2つのPC結晶を使用してもよい。例えば、図8Cに示すように、各PCに別々のゲートを適用することにより、4個の時間ビンを作成できる。
【0037】
(B2b)ポッケルスセルを介する結像
【0038】
この手法における重要な側面は、ポッケルスセルが広視野イメージングに理想的に適している可能性があることを認識したという点である。何十年もの間、ポッケルスセルは、パルスピッキング、Qスイッチ、及び位相変調等の用途において広く使用されてきた。しかし、現在使用されている最も一般的なポッケルスセルの構成は、広視野イメージングには適していない。具体的には、ポッケルスセルは、横型変調器の場合には開口が狭く、また縦型変調器の場合には数mradの狭い受光角を有するのが一般的である。これにより、イメージング用途において、視野または開口数が大きく制限されている。
【0039】
例えば、一般的なPCには、厚い(30~50mmの)縦方向電界型リン酸二重水素カリウム(KDP)結晶が使用されることが多い。この結晶は高い消光比をもたらし、Qスイッチ及び位相変調の用途において広く使用されている。軸外光線(off-axis rays)は、軸上光線と異なる複屈折位相シフトを受け、これにより、広視野イメージング用結晶の開口数(NA)を制限している。像面では、PCの半受光角αによって、低角度において集光光学系のNAがMαに制限される。ここで、Mは倍率である。また、回折面(または無限補正空間)では、代わりに視野(FOV)が2tan(α)fobjに制限される。ここで、fobjはイメージング対物レンズの焦点距離である。例えば、1.4のNAを有する顕微鏡用対物レンズ(fobj=1.8mm)及び40mmの厚さを有するKDP製縦型PC結晶を無限遠空間上(α~4mrad)に配置した場合、FOVは10μmとなる。PCの開口が限界に達するまでビームを拡大することにより、FOVをさらに向上できる。従来のKDP製PCは、圧電共振によって長パルスの繰り返し率が数十kHzに制限されている。最終的な繰り返し率は、高電圧パルスの形状及び結晶の寸法に依存することに留意されたい。電気光学パルスピッカは、低ピエゾ材料を用いることにより、数百kHzのレートばかりか、数MHzのレートまで動作可能となる。さらに、周期的な駆動は、圧電共振の励起を回避し、かつ高励起速度で周波数領域FLIMに対して互換性を有している。
【0040】
ゲート効率を評価するために、結晶の屈折率楕円体及びミューラー行列を用いて軸外複屈折の影響をシミュレートすることにより、交差偏光板を通して観測した場合のコノスコープ干渉パターン(アイソジャイヤ)を求めた。ゲート効率(Iπ-I)は、半波電圧(Vπ)における送達強度パターンIπから、ゼロ電圧(V)における送達強度パターンIを減ずることによって得られる。これによれば、PCにおける有用なNAは、ゲート効率が高い低角度の領域で得られる(図1B)。PCは、結晶軸の座標変換によって決定される軸外リターダンスを有する、線形均一リターダとして扱われる。この解析は、広視野イメージング用の標準的なポッケルスセルにおける理想的な構成を特定するために行った。縦型結晶では、結晶を薄くすることにより受光角を向上させることが可能であり、3mmの厚さを有する結晶ではαが約20mradに増加する。これにより、顕微鏡法におけるNA及びFOVの制限を効果的に取り除くことができる。本明細書には、40mmの厚さを有する市販のPCを使用した結果(図2A図2C及び図3A図3C)、及び、3mmの厚さを有する自作のKDP製PCを使用した結果(図4A図4C)を示している。さらに、負の(n<nの)一軸性を有するKDP結晶と、正の(n>nの)一軸性を有する静的補償結晶(static compensating crystal)(例えば、MgFまたはYVO)とを組み合わせることによって、軸外複屈折の完全なゼロフィールド・キャンセル(zero-field cancellation)を得ることができる。このような結晶は、Vでの軸外光線を完全に補償し、VπでのNAを一層向上させる(KDPは、印加電界により二軸になり、これにより、高電圧の完全な補償が妨げられる)。この方法は、結晶内の多数の経路においてPCが軸外に維持されるマルチパス光共振器内のゲートとして使用される薄型KDP結晶に対して特に有用である。本願発明者らは、業界標準の、二結晶補償型かつ横方向電界型の設計を用いることにより、ポッケルスセルの受光角をさらに拡大できる可能性があることを見出した。
【0041】
ここで、軸外複屈折及び熱的影響は、2つの横型電気光学変調器において、一方を他方に対して90度回転して配置することにより、または、両変調器間に1/2波長板を配置することにより、取り除くことができる。この構成では、電界の印加方向を切り替えながら、その一方で常光線と異常光線とを効果的に交換しており、これにより軸外複屈折効果及び熱複屈折効果が打ち消されている。このような二結晶型変調器では、大きな受光角が得られることが知られている。実際、電気光学結晶の光学軸とその伝搬軸とが直交する変調器ユニットでは、撮像用途における理論的に完璧な軸外キャンセルが起こり得る。一般的な二結晶型変調器は開口が非常に小さいが、ルビジウムチタニルリン酸塩及びタンタル酸リチウム等の材料を使用した変調器では、10mmよりも大きな開口を有するものが市販されている。このような変調器では、それに比例して高いスイッチング電圧が必要である。
【0042】
薄型DKDP結晶変調器はあまり一般的ではないが、例えば、インジウムスズ酸化物または他の透明導電性コーティング剤でコーティングされたガラス、透明導電性薄膜、ワイヤメッシュ、または光学マイクロメッシュなどの、適切な導電性及び光透過性を有する電極を含む薄型結晶基板と組み合わせて構成されてもよい。
【0043】
ポッケルスセルを駆動する電子機器には、例えば、アバランシェ・トランジスタ、MOSFET積重体、ハーフブリッジ構成またはフルブリッジ構成の高電圧MOSFET、ドリフトステップ回復ダイオード、フライバック変圧器または共振変圧器、パルス形成ネットワーク、あるいは、非線形伝送線または可飽和伝送線(saturable transmission lines)等の、任意の高電圧波形生成器または増幅器が含まれる。共振構成の場合、RFドライブは、ポッケルスセルを含む共振タンク回路に対して、電気素子としてインピーダンス整合されてもよい。このような回路には、例えば、標準的なLRC回路素子、インピーダンス整合ネットワーク、あるいは、共振伝送線または共振変圧器等が含まれる。冷却装置が、誘電加熱及び/または抵抗加熱を抑制するために設けられてもよい。誘電体液が、高電圧絶縁破壊を防止するために、屈折率を一致するために、または結晶を冷却するために使用されてもよい。
【0044】
(B2c)多重標識FLIM
【0045】
図2A図2Cは、多重標識FLIMに関する。図2Aは、オレンジ(O、4.9ns)、赤(R、3.4ns)、ナイルレッド(NR、~3.1ns)、赤外(IR、2.3ns)、及びヨウ化プロピジウム(PI、14ns)の各ビーズについて、ゲート遅延時間tを掃引することにより得られた蛍光減衰の直接測定結果を示している。減衰定数τは、フィッティングして示している。ガウス型の装置応答関数(IRF)の測定値もまたプロットされている。図2Bは、オレンジビーズ、ナイルレッドビーズ、及び赤外ビーズで三重標識された広視野サンプルの強度を示す画像である(標識同士は空間的に強く重なり合っている)。図2Cは、各標識の空間分布を示す蛍光寿命画像である。蛍光寿命は、各ピクセルにおける減衰トレース(decay traces)をフィッティングすることにより測定されている(スケールバーは10μm)。
【0046】
2つのビンを用いる方法は、固有のゲート損失を有さないことから、あらゆるセンサにおけるイメージングを可能にする。したがって、蛍光寿命イメージングは、蛍光励起後、遅延時間tが経過した後にPCゲーティングパルスが印加される本発明の技法において、理想的な実証法である。蛍光寿命は、その後、複数のフレームにわたって遅延時間tを変化させる方法(このセクションの方法)、または、単一フレームにおけるゲート強度(gated intensity)と非ゲート強度(ungated intensity)との比を測定する方法(次のセクションを参照)のうちのいずれかの方法を用いて測定される。図2A図2Cは、3.1ns(Invitrogenの2μmナイルレッドビーズ)、4.9ns(Invitrogenの0.1μmオレンジビーズ、背景)、及び2.3ns(Invitrogenの0.1μm赤外ビーズ(結晶を形成))と個別に測定された、互いに異なる蛍光寿命を有する3つの標識を合成した画像である。このデータでは、PCを像面に配置することにより、0.1のNA及び20倍の倍率で、100μmのFOVを有する明るいサンプルに対する広視野FLIMが可能となった。サンプルは、5kHzの繰り返し率を有する532nmのレーザパルスを用いて、1nsの持続時間で励起した。蛍光信号は、減衰関数と、約2.4σのFWHMパルス幅を有する、該レーザのガウス型励起パルスとの畳み込みによって得られた。本実験では、図2A図2Cで使用した市販のPCを用いて、幅2.6nsのガウス型ゲート関数g(t-t)を適用した。遅延時間tを掃引することにより、蛍光とゲート関数との畳み込み、すなわちf(t,τ,σ)×g(t-t)を求めた。蛍光寿命などの時間的情報は、求めた畳み込みを直接フィッティングすることにより算出できる。この場合における励起とゲート関数との畳み込みは、図2Aで直接測定された、ガウス型の機器応答関数(IRF)(σIRF=σ +σ )を与えることに留意されたい。このフィッティング手法は、蛍光減衰をより多くのタイムポイントでサンプリングするため、2つのビンを用いた測定と比較して、明るい標識サンプルに対して有利になり得る。これは、例えば、多重指数関数的減衰をより効果的に測定するために使用できる。
【0047】
(B2d)単一分子の広視野FLIM
【0048】
図3A図3Cは、Alexa Fluor 532分子の広視野FLIMに関する図である。図3Aは、ゲートチャネルの強度を示す。図3Bは、非ゲートチャネルの強度を示す(スケールバーは1μm)。図3Cは、番号付けされた各回折限界領域の全輝度に対して蛍光寿命の測定値をプロットし、SEエラーバーと共に示した図である。これらのスポットのうちの大部分は、その光退色及びブリンキング挙動から単一分子のエミッタであることが分かる。
【0049】
効率的な光子収集に依存するか、または、高速な取得速度を必要とする、信号が制限された用途の場合、蛍光寿命は、単一フレームにおけるゲート強度と非ゲート強度との比によって、最も良く決定される。図3A図3Cは、ガラス上のAlexa Fluor 532分子の10×10μmの領域に対して広視野蛍光寿命顕微鏡法を行ったものを示す図である。この蛍光寿命の測定値は、2.5nsのアンサンブル寿命を有する点、及び、ガラス上で行われた同様の研究で観測された大きな分子変動(molecular variation)を有する点の両方について一致している。このPCは、同じガウス型ゲート関数をt=1.6nsにおいて15kHzの繰り返し率で適用するために、顕微鏡対物レンズの無限遠空間で使用される。ゲート強度と非ゲート強度との比は、下記の数式1で与えられる。
【0050】
【数1】
【0051】
蛍光寿命を計算するために、この比は、各分子の周囲の関心領域の強度を合計することにより実験的に決定される。この方法によれば、回折限界分解能、及び1分子あたり~7×10(露光時間は15s)という効率的な光子収集を維持しながら単一分子寿命分光法を行うことができる。図3Cは、番号付けされた各回折限界エミッタの全輝度及び蛍光寿命の推定値を、蛍光寿命の推定値のエラーバーと共に示した図である。この推定は、蛍光のバックグラウンド及び暗電流により制限されている。検出器には、低価格の産業用CMOSマシンビジョンカメラ(FLIR)を使用した。この場合、PCの受光角によってFOVが10μmに制限されるものの、1.4NAでの光子収集は未だ可能である。広視野での単一分子寿命分光法は、共焦的アプローチでは依然困難なままであるが、ここではPCゲーティングと安価でノイズの多いカメラとを用いることにより、広視野での単一分子寿命分光法が容易に実現されている。
【0052】
(B2e)薄型PCを用いる高速FLIM
【0053】
図4A図4Cは、薄型PCを用いる高速FLIMに関する。図4Aは、標準的なFLIM用ベンチマークである、アクリジンオレンジで染色したConvallaria majalis rhizomeの強度を示す画像である(スケールバーは100μm)。図4Bは、100msの露光(50μWの励起)のタイミングトレースをフィッティングすることにより得られた蛍光寿命を示す画像である。図4Cは、100msの単一フレームの取得から得られた蛍光寿命を示す画像である。挿入図(図4Cの右下)は、同じ単一フレームにおいて、高励起強度(3mW)で2msの露光を行った場合の画像である(光化学反応による影響であるのか、このサンプルでは、高励起強度で寿命が著しく減少した)。これらの蛍光寿命を示す画像は、サンプルの構造を示すために強度マスクを含む。
【0054】
これらの技術は、薄型PC結晶を使用することにより、超広視野へと拡張することができる。20mmの開口を有する3mm厚のKDPポッケルスセルは、0.8NAの対物レンズを有する標準的な倒立顕微鏡における略全ての出力をゲートする。4.5nsの立ち上がりエッジを有するパルスを、5kHzの繰り返し率で使用することにより、図4A図4Cに示す標準的なFLIMベンチマークを撮像した。単一フレーム及びトレースフィッティング解析により、300μmのFOVにおいてメガピクセル単位のFLIMイメージを高速取得できることが示されている。単一フレームにおいて100msの露光及び2msの露光を行ったが、後者は、カメラの最大フレームレートで撮像されてもよい。これらの取得は、広視野取得におけるスループットが飛躍的に向上していることを示している。図4Cに示す、100ms露光のフレームは、1度の露光により検出された、0.8メガピクセル中の4.8×10個の光子により形成されている。図4Cの挿入図(右下)は、同様に、同フレームに対して、2msの露光をより高い励起強度で行った図であり、3.1×10個の光子が検出されている。検出された光子の数は、既知である該カメラの応答性から推定した。上述の取得では、TC-SPCの2MHzの光子計数レート(パイルアップによるエラーを避けるための標準)と比較して、光子スループットがそれぞれ2400倍及び78000倍に向上している。この取得法は、このような高スループットを有し、かつ低露光時間の可能性をも有することから、将来的には動的なサンプルに対するFLIM研究に使用できるであろう。単一フレーム取得法は、画像における(複数回の取得または走査等によって生じる)モーションアーチファクトを回避し、かつ、自己正規化を行うことにより、1度の露光中に強度ノイズを除去することができるため、非常に有効な方法である。定量的な寿命は、前のセクションで説明したように、校正前のIRFを用いることにより簡単に計算できる。
【0055】
(B2f)マルチフレームイメージング用のゲート型再結像共振器
【0056】
図5A図5Dは、時空間変換共振器を用いたマルチフレームナノ秒イメージングに関する。図5Aは、外部ゲート式の傾斜ミラー型4f再結像共振器を示す。像の入力は、像面(i)の小型インカップリング(in-coupling)ミラーM1に対して行われる。ミラーM2は回折面(f)で傾斜しており、これにより、M1面における像を光路ごとに空間的にオフセットする。像は、往復する度に、部分的に透過可能なミラーM2を介して受動的にアウトカップリングされる(out-coupled)。ここで、502及び504は4f共振器用の再結像レンズであり、506はPC出力ゲートである。図5Bは、共振器からの4つの出力像について正規化した画像強度を示す図であり、この画像強度は、往復遅延が4nsであることを示している。図5Cの共振器出力オンカメラ(CMOSカメラ)の画像は、1往復ごとに共振器から出力される、PCアナライザから出力された4枚の画像を示す(図1Aと同様に、各列に1~4の番号を付している)。図には、4回の往復(i~iv行)が示されている(スケールバーは50μm)。このサンプルは、2μmのナイルレッドビーズ(~3.1ns)をドロップキャストしたものと、拡散フィラメントを形成する0.1μmのオレンジビーズ(4.9ns)との混合物である。図5Dは、t=5ns((b)の赤線)のゲートチャネルにおける、i行4列目の出力フレーム及びii行4列目の出力フレームの比を示す。この比は、後述する単一フレームFLIMに用いられる。これら2つの標識は互いに容易に区別される(スケールバーは10μm)。
【0057】
PCを用いたナノ秒イメージングは、ゲート型再結像光共振器を用いることにより、時間ビンの数を2個よりも増やすことができる。ビンの数を増やすことにより、多重指数関数的減衰の推定精度が高まり、かつ寿命のダイナミックレンジが向上するばかりでなく、効率的な1ショット超高速イメージングも可能となる。ここで、傾斜型共振器ミラーと組み合わせた再結像光共振器における光学的往復遅延を利用して、共振器往復を空間的に互いに分離することにより、ナノ秒の時間分解能が実現されている。GOIを用いたnフレームのイメージングは、その収集効率が1/n以下に制限されるものの、一方で、この再結像共振器技術は、高感度の低照度(low-light)用途または単一光子用途における効率的な光子収集を可能にする。関連する研究では、共振器は、単一チャネルの軌道角運動量及び波長を時間に変換するために使用される。整合型光共振器は、マルチパス顕微鏡法などの時間折り畳み型(time-folded)光学イメージングモダリティに使用されてきた。本明細書では、広視野イメージングにおける時間分解能を得るための手段として、代わりに再結像光共振器を採用している。
【0058】
図5Aに示すように、画像は、小型ミラーM1により、中央焦点面で4f共振器にインカップリングされる。この4f構成では、1往復ごとにエンドミラー(回折面)が再結像される。一方のエンドミラーM2を角度θだけ傾けると、中央焦点面におけるn往復後の像位置yは、y=fsin(2nθ)だけ変位する。ここで、fは4f共振器の焦点距離である。この角度θは、結果として得られる像がインカップリングミラーによって遮られないように設定される。順次変位される各画像は、更なる往復によって順番に遅延されている。時間的な情報を得るためには、空間的に分離された像を外部からゲートするか、または、PCを用いて、空間的に分離された像を共振器から同時にアウトカップリングする必要がある。外部ゲート方式(図5Aに模式的に示す)では、光は、往復する度に、透過ミラーを介して受動的にアウトカップリングされる。空間的に変位された各像は、対応する往復回数nに基づく相対遅延時間Δt=8fn/cを有する。また、外部ゲートは、時間的に別個なフレームを作成するために、全ての遅延画像に対して同時に適用される。ステップ関数ゲートV(t)は、上述した2個のビンを有する場合と同様に、時間的に遅延したビンの比による蛍光寿命の測定を可能にする。この2ビンPC方式を外部ゲートに用いた場合、各往復の出力から4つの画像フレームが得られる(図5C)。エンドミラーの反射率がrである場合、光子効率、すなわち共振器に入力された光子数に対する検出光子数の比は、共振器内での損失を無視すれば、1-rで与えられる。この光子効率は、rを適切に選択することにより非常に高いものとすることができる。例えば、r=0.6かつn=4の場合には、87%の光子効率が得られる。なお、異なるフレーム間における強度変化は、n往復後の部分透過により生じるものであることに留意されたい。
【0059】
図5C図5Dは、傾斜ミラー型外部ゲート式共振器からの出力を示す図である。ここでは、往復時間よりも短い幅を有するガウス型ゲートパルスが使用される。図5Dに示す蛍光寿命は、4nsの共振器往復時間trtで1回遅延されたゲート後チャネルにおける2つのフレーム(図5Bの、i行4列目の像及びii行4列目の像)の比Rを用いて、下記の数式2のように計算される。
【0060】
【数2】
【0061】
あるいは、上述した数式1のように全光子を利用するために、ゲート後フレーム及びゲート前フレームの両方を推定に含めてもよい。
【0062】
第2のゲート式共振器方式では、代わりに透過ミラーが含まれず、かつ、共振器中のポッケルスセル及び偏光ビームスプリッタによって、全入力光が同時に共振器からアウトカップリングされる。より具体的には、この構成では、ポッケルスセル506が、偏光子502と偏光子504との間の共振器中に配置されており、また、アウトカップリングのために、偏光ビームスプリッタ素子が、やはり偏光子502と偏光子504との間に配置されている。このような方式では、trt=8f/cの連続露光を用いてn個の画像が直接得られ、また共振器内には光が残らない。光は1往復ごとにPCを通過するため、共振器内ゲートには薄型結晶または補償PCを用いるのが好適であろう。n個のビンを用いた寿命測定法と2個のビンを用いた寿命測定法とを、理論的な推定精度の観点から比較することは興味深い(図6A及び図6B参照)。単一指数関数的減衰の場合、全体的な推定精度が互いに略一致する一方で、n個のビンを用いた方法が比較的広い時間的ダイナミックレンジを有するという利点がある。
【0063】
これらの共振器イメージング法は、フレーム間にデッドタイムが存在しないという利点があり、かつ共振器内損失以上に収集効率を制限する固有の損失を有さない。外部ゲート式共振器は、厚型PC結晶を用いて容易に実現できるものの、時間的ゲーティングが間接的になってしまう(indirect temporal gating)という欠点がある。代わりに、共振器内ゲーティングは、各往復が時間的に異なる1つの画像フレームにそれぞれ対応する、真のnフレーム超高速イメージングを可能にする。1~10nsの往復時間は、標準的な光学系を用いて実現されてもよい。なお、n個のビンを用いたイメージングにおける別のアプローチとして、同様に、複数のPC及び検出器の構成(complexity)を加えた状態で、2ビンの複数のゲートを直列に(例えば図8Dのように)使用することもできる。
【0064】
(B2g)理論上の推定精度
【0065】
図6A及び図6Bは、寿命推定の誤差に関する図である。図6Aは、異なる数のビンを用いた場合の、単一指数関数的蛍光減衰の寿命推定精度におけるクラメール・ラオの限界を示す。破線は、測定窓がn×4nsである場合における、2~n個のビンを用いた寿命測定を比較したものである。実線は、有限の測定窓(すなわち、理想的なステップ関数ゲート)を有さない場合における、t=4nsで2個のビンを用いた寿命推定に対応している。なお、最大感度の範囲はtに応じてシフトできることに留意されたい。水平方向に延びる一点鎖線は、下記の数式3で表されるショットノイズ限界στ/τを示す。
【0066】
【数3】
【0067】
図6Bは、図6Aの実線におけるケースと同様に、1nsのσ及び1nsで10~90%のロジスティックな立ち上がり時間を有するPCゲートを含む、2個のビンを用いた現実的なPC測定における寿命分解能をシミュレートしたものを示す図である。ショットノイズ限界に近い推定精度は、τがPCの立ち上がり時間よりも大きい場合に得ることができる。
【0068】
n個のビンを用いたTC-SPCにおけるクラメール・ラオの限界と比較すると、2個のビンを用いた寿命推定は驚くほど良い性能を発揮する。2個のビン及びn個のビンを用いた場合の推定精度は、いずれも光子計数のショットノイズに応じて変化する。図6A及び図6Bは、n個のビンを用いた測定の方が寿命感度のダイナミックレンジは広いものの、2個のビンを用いたPCゲートでは、ゲート遅延を適切な値に調節した場合に単一指数関数的減衰と略等しい推定精度を得ることができることを示している。TC-SPCは、ADCのビット深度から多数の時間ビンを得ることができ、これはダイナミックレンジに対して大きく影響を与える。理想的なPCゲーティングにより、10年間の蛍光寿命にわたって、SNLの約1.3倍のピーク感度で、ショットノイズ限界(SNL)の2倍以内の推定値を得ることができる。実際、1nsのPC立ち上がり時間を有するステップ関数ゲートでは、1~10nsの間で、SNLの2~3倍の範囲の推定値を得ることができる。
【0069】
(B2h)PCのゲート効率のスペクトル依存性
【0070】
図7Aは、Vを532nmに設定した場合における、PCのゲート効率のスペクトル依存性を計算した結果を示す。高ゲート効率は、蛍光発光スペクトルに対して互換性を有する100nmの波長範囲で得られることが示されている。図7Bは、出力画像チャネルの強度をPCのリターダンスの関数として示した図である。図1Aに示すケースでは、交差偏光板により、その強度がそれぞれ線702、704に従う一対の出力フレームが生じることとなる。第2のPBSの前に配置されているPCの出力のうちの1つに1/4波長板(QWP)が挿入されている場合、チャネルのうちの2つは、代わりに、それぞれ線706、708に従う。これは、正弦波変調を用いた場合、出力画像間に光学的な位相シフトを発生させる効果がある。また、光変調器より前、または、光変調器の直後に1/4波長板を追加した場合、フルスイッチングに必要な変調範囲をシフトさせる効果も得られ、これにより、共振正弦波駆動が0とπとの間の位相シフトを変調するために必要な振幅を半減できる。また、QWP出力は、図7Aに示すゲート効率が変動し難い532nm近傍において、高い分光感度を有することにも留意されたい。QWP出力は、スペクトル及び寿命の多次元測定に利用できる可能性がある。
【0071】
(B3)ディスカッション
【0072】
2個のビンを用いた時間イメージング及びn個のビンを用いた時間イメージングを、ポッケルスセルを用いてナノ秒のタイムスケールで実施する方法について説明してきた。単一分子寿命分光法及び広視野FLIMを用いた概念実証的実験は、該方法が、信号が制限されたアプリケーションに対してナノ秒の分解能をもたらす可能性があることが示している。本願発明者らのアプローチは、高光子効率を有し、かつ科学用カメラにおける画質及び感度を維持していることにより、広い互換性を有する上、安価に入手できる可能性もある。ゲート損失を有することなく単一フレームFLIMが可能であるという点は、他のアプローチで見られる、強度のアーチファクト及び動作の虞と、損失と、ノイズとを有さない動的FLIMを可能にするため、特にユニークな利点である。点走査FLIMを効率的な広視野取得法に置き換えることにより、寿命FRET、単一分子顕微鏡法及び超解像顕微鏡法、マルチモーダルイメージング、及び臨床診断などの生体イメージング用途において特に有用になる可能性がある。さらに、超高速イメージング、時空間多重化(time-to-space multiplexing)、ロックインの検出、及び飛行時間法への応用も考えられる。
【0073】
FLIM用途では、PCを用いたナノ秒イメージングにより、従来のTC-SPCに対してスループットが大幅に向上している。PCを用いたFLIMのスループットは、低い繰り返し率であってもTC-SPCのスループットを容易に上回る。例えば、15kHzで1光子/ピクセル/パルスという低い信号レベルでPCゲートされた1メガピクセルの画像を取得するには、10%のカウントレート(パイルアップを避けるための標準)で動作する20MHzの共焦的TC-SPCシステムの約7500倍長い時間かかかる。このスループットの優位性は、信号及びピクセルの数に比例して大きくなる。なお、PCは、GOIまたはTC-SPC検出器とは異なり、飽和することなく1光子/ピクセル/パルスをゲートできる。PCを用いた高スループットの広視野寿命イメージングは、生物学的なダイナミクスを高いフレームレートでイメージングすることを可能にできる。関連する応用例としては、例えば、細胞内シグナル伝達、特にニューロンのリアルタイムイメージングなどが考えられる。FLIMは、臨床診断またはin vivo診断に対しても適用可能であり、広視野ゲーティングは内視鏡プローブにも容易に対応できる。
【0074】
PCイメージングは、他の広視野技術における限界を解決する。特にゲート光インテンシファイアは、例えば、光電陰極の低量子効率、解像度の低下、相乗性雑音、及び飽和などの技術的な欠点に直面している。さらに、ゲートされていない光子(n個の時間ビンでは1/nが収集される)の損失は、複数回の露光を用いたFLIM取得が必要となる。近年、高いスループットを有するFLIMを実現するために周波数変調カメラが開発されたが、非常に高い暗電流及び読み取りノイズに悩まされている。PC変調は、MHz代の励起速度を可能にする、周波数領域FLIMの代替アプローチを提供する。
【0075】
PCゲーティングは、さらに、ナノ秒の時間次元を利用することにより、新しい顕微鏡法技術をもたらす可能性がある。例えば、生物サンプルにおける多重標識を可能にするためにスペクトル情報が使用されており、これは、複雑な細胞内相互作用について理解する上で重要であることが証明されている。蛍光寿命も同様に、多重標識型信号をアンミックスするための魅力的な時間的アプローチを提供することができる。共焦点FLIMは、既にこの問題に対して適用されている。単一分子の研究において、並列蛍光寿命測定(parallel lifetime measurements)と、空間的かつスペクトルなチャネルとを組み合わせることができれば、分子集団及び光物理学的状態を研究するための新しいタイプの高スループット分光実験が可能となる。また、寿命から得られる新たな情報は、超高解像顕微鏡法における空間的な局在性を高めるために利用することもできる。さらに、時間的ゲーティングは、短寿命で発生するバックグラウンドの自家蛍光を抑制するために利用されてもよい。
【0076】
主に蛍光顕微鏡法の用途に焦点を当ててきたが、PCナノ秒イメージング技術は、高速ゲーティング、ロックイン検出、イベント選択、及びマルチパス顕微鏡などとして、量子光学分野においてさらに広く適用できることにも留意されたい。2個のビンを有するPCを用いた方式では、異なる変調V(t)を適用することにより、他の有用な動作モードを実現することができる。プラズマ物理学、レーザ誘起破壊分光法、燃焼、飛行時間法、及び流体力学などの従来的な高速イメージング用途においても、高感度な1ショットイメージングから恩恵を受けることができる。nフレームの傾斜ミラー型再結像共振器は、内部のPCゲートを使用した場合に、フレーム間のデッドタイムなしに、弱い非反復性のイベントの超高速1ショットイメージングを行うことができる点で特にユニークである。また、この共振器は、広いダイナミックレンジを有する寿命イメージングに対しても有用である。
【0077】
以上を要約する。まず、広視野PC型FLIMについて、単一フレームモダリティ及びタイムトレースモダリティで説明を行った。単一分子寿命分光法は、信号が制限された応用例に対して互換性を有することが示された。薄型PC結晶を使用することにより、本発明の技術が単一フレーム取得を有する超広視野FLIMへと拡張された。FLIM画像は、標準的な生物学的ベンチマークを用いて取得した。このとき、露光時間は最小で2msであり、また取得速度を最小でカメラのフレームレートまで落として取得を行った。最後に、時空間多重化による超高速イメージングを可能にする、再結像共振器を用いた新規の方法を示した。これらの技術は、広視野蛍光顕微鏡法または単一分子蛍光顕微鏡法などの、信号が制限された適用分野におけるナノ秒領域への到達を担保する。さらに、これらの技術はあらゆる撮像系及びセンサに対して広く互換性を有するため、様々な分野への応用が期待できる。
【0078】
(B4)方法
【0079】
(B4a)実験準備
【0080】
図2A図2C図3A図3C、及び図5A図5Dでは、自作の蛍光顕微鏡及び市販の厚型PC結晶を用いてFLIMを行った。単一分子顕微鏡法では、油浸対物レンズ(ニコン PlanApoVC 100x 1.4NA)を使用した。その他のデータはすべて、対物レンズ(Zeiss PlanApo 20x 0.8NA)を用いて測定した。532nmの励起パルス(FWHMは1ns)は、QスイッチングされたNd:YAGを用いて5kHz(単一分子のデータ測定時は15kHz)の繰り返し率により発生させた(Standa Q10-SH)。検出器には、マシンビジョンCMOSカメラ(FLIR BFS-U3-32S4M-C)を使用した。50Ωの伝送線に組み込まれた、10mmの開口及び40mmの厚さを有する二結晶型の縦型KDP製PC(Lasermetrics 1072)を使用した。このPCには2つの結晶(一方が他方に対して90度回転して配置され、かつ互いに逆の電界を有する)が使用されており、これにより、必要な半波電圧が半減されている。この設計により、同程度の厚さを有する単結晶PCと同等の受光角(α~4mrad)が得られた。理論的には、結晶のマッチングが良ければ、この構成であっても、ある程度の軸外打消しを達成できることに留意されたい。高電圧ゲーティングパルスは、FWHMが2.8nsである1.3kVの振幅(FID GmbH)を用いて50Ωで発生され(FID GmbH)、Vπの85%及び1.1nsのσIRFが達成された。レーザ及びHVパルサは、DG 535遅延発生器(Stanford Research Systems)と同期させた。タイミングジッタは、100ps未満であった。また、蛍光減衰時におけるパルスのスプリアス反射(spurious pulse reflections)を防ぐために、長い伝送線を用いた。単一分子のデータには、PCを介したFOVを最大化するために、2つの出力フレーム(最初のPBSからの1つの出力)のみを使用し、これにより光子効率が約50%に制限された。これは、この技術における根本的な限界ではなく、PCの開口を1つに制限することにより、実装を単純化するために行った。IRFは、すりガラスサンプルを用いて取得した。
【0081】
図4A図4Cに示す薄型PC結晶の説明は、倒立顕微鏡(Zeiss Axiovert)を用いて、対物レンズ(Zeiss PlanApo 20x 0.8NA)及びsCMOS(Andor Neo5.5)を使用して行った。3mmの厚さ及び20mmの開口を有する縦型KDP製PCは、ナノ秒のスイッチングパルスを最大5kVで供給できる高電圧ドライバと共に自作した。図4A図4Cのデータでは、0.8のゲート効率及び4.5nsの立ち上がり時間を使用した。ここでは、片方の偏光チャネルのみが示されているが、第2のPCまたはウォラストン偏光子を追加することにより、両方のチャネルを組み込んでもよい。
【0082】
n個のビンを用いた説明のために使用した4f再結像共振器は、インカップリングに3mmのプリズムミラー(Thorlabs MRA03-G01)を使用し、このミラーのfは150mm(trt=8f/c=4.0ns)であった。受動的なアウトカップリングは、光学濃度1(R=0.4、T=0.1)の中性濃度フィルターを介して行った。PC及びカメラ(CMOS)における像面の形成には、リレーレンズを使用した。ピックオフミラーは、互いに等しい経路長を有する2つのPBSによって生成されたイメージングビームを組み合わせた。
【0083】
(B4b)サンプルの準備
【0084】
Alexa 532(Invitrogen、Thermo Fisher)の単一分子サンプルは、疎水性基板上に希薄溶液をドロップキャストし、その後新品のカバースリップを配置及び除去することにより調製した。密なフィールド(dense field)は、単一の回折限界エミッタが観察されるポイントまで光退色された。ブリンキング現象(blink-on dynamics)と共に、階段状の光退色が観察された。回折限界のスポット内では複数分子の発光も確かに見られたものの、大部分のエミッタは単一分子であった。蛍光ビーズサンプルは、オレンジ(100nm)、赤(1μm)、ナイルレッド(2μm)、赤外(100nm)(Invitrogen、Thermo Fisher)、及びヨウ化プロピジウム(10μm)(Bangs Laboratories.Inc.)のビーズ溶液を、カバーグラスにドロップキャストすることにより作製された。赤外ビーズの溶液は、図2B及び図2Cに示されるように結晶を形成した。
【0085】
(B4c)データ解析
【0086】
蛍光寿命は、画像強度からのレシオメトリック計算及びタイムトレースフィッティングの両方を用いて算出した。レシオメトリック計算では、数値的に生成されたルックアップテーブルを用いることにより、明細書中に示す数式及び事前に特性化されたIRFに基づいて、測定値の比を蛍光寿命の推定値に変換する。図3A図3Cでは、特定のt及びガウス型ゲートパルスを使用しているため、1.1ns以下の蛍光寿命は、数値変換において1.1ns以上の蛍光寿命と重複している。ここでは、寿命の値が大きい方を報告する。タイミングトレースの計算では、最小二乗法によるフィッティングを用いて蛍光寿命の推定を行った。PCは、直線偏光の入力に対して、下記の数式4で示される、時間的に変化するリターダンスを適用する。
【0087】
【数4】
【0088】
ここで、複屈折位相シフトδは、印加電圧V、常光線屈折率n、及び縦電気光学係数r63により決定される。平行ビームスプリッタチャネル及び垂直ビームスプリッタチャネルでの伝送は、それぞれ、T=sin(δ/2)及びT=cos(δ/2)となる。蛍光寿命の計算では、IRFで観測されるポッケルスセルの不完全なゲート効率を考慮している。図2A図2C図3A図3C、及び図5A図5Dでは、FOVが小さい領域全体でIRFが一定であると仮定している。これにより、位置依存の蛍光寿命誤差が生じる虞がある。図4A図4Cでは、FOVが大きいことに起因して空間的な変化がより明らかとなっており、これは蛍光寿命の計算に含まれている。顕微鏡のフィルタースライダに配置されたビームスプリッタにより、蛍光とすりガラスによるIRF校正とを迅速に切り替えることができる。IRF校正には、蛍光寿命が短い色素を使用してもよい。
【0089】
単一分子のゲート強度及び非ゲート強度は、バックグラウンドを減じた後、各分子の関心領域に対応するNピクセルを合計することにより決定した。図3Cのエラーバーでは、下記の数式5に示すように、比の標準誤差σとして、ゲート後(G)及びゲート前(U)のフレームにおけるショットノイズ、並びに、バックグラウンド標準偏差σ及びσが考慮されている。
【0090】
【数5】
【0091】
ここで、バックグラウンドは、バックグラウンド信号及び高カメラ暗電流が組み合わされた主要な誤差項である。
【0092】
理想的な2ビンPCゲートにおける蛍光寿命の推定精度は、下記の数式6で表される。
【0093】
【数6】
【0094】
幅Tを有する固定時間窓におけるn個のビンを用いた寿命推定のクラメール・ラオの限界は、多項確率分布から直接計算することができる。図6A及び図6Bの固定窓境界は、往復数をnとしてT=n×trtに設定することにより求めた。大きくnが制限されている場合、これらの境界はTC-SPCの性能を示す。光子が正規化された場合における、n個のビンを用いた寿命推定のクラメール・ラオの限界は、下記の数式7で表される。
【0095】
【数7】
【0096】
(C)追加の変形例
【0097】
(C1)変調器構成
【0098】
上述したように、図1Aに示す例だけでなく、様々な光変調器構成が可能である。図8Aは、偏光板120と偏光板124との間に配置された偏光変調器104を示す図である。図8Bは、入力偏光板120と出力PBS106との間に配置された偏光変調器104を示す図である。図8Cは、2つの偏光変調器104a、104bが採用されている点を除いて、図1Aの例と同様である。このケースでは、2つの変調器104a、104bに印加される駆動信号は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0099】
これらの変調器構成には、偏光変調器の後(図8Cでは、例えば変調器104a及び/または変調器104bの後)に、光を反射して対応する変調器に戻すためのミラーが設けられた、二重経路の変形例も含まれる。その後、変調器102の前に設けられたビームスプリッタが反射された変調光を入射光から分光し、またそれを検出器アレイへ導いてもよい。これは、所定の変調器位相シフトに必要な電圧が半分になるという利点がある。欠点としては、二重経路では、両チャネルの同時出力が容易でないことが挙げられる。
【0100】
図8Dの例は、n個のビンを用いたイメージングを提供するために使用される光変調器の直列配置を示す。ここで、変調器802、PBS804、変調器806、PBS808、変調器810、及びPBS812は、図のように直列に配置されている。変調器802、806、810へのゲーティング入力は、図示のように、それぞれT1、T2、T3におけるステップ関数である。その結果、カメラ814、816、818、820は、それぞれ対応する時間ビン822、824、826、828を取得することとなる。この例では4つの時間ビンが設けられているが、このような配置をもって任意の数の出力を設けることもできるし、また任意の変調波形が適用されてもよい。
【0101】
図8Eは、光変調器の直列配置の他の例を示す図である。ここで、第1のサブシステム850はPBS852及び変調器854を含み、第2のサブシステム860はPBS862及び変調器864を含む。このような直列配置における個々の変調器は、上述した任意の変調器構成を任意に組み合わせて使用してもよい。例えば、直列の各偏光変調器がN個の入力画像を受信して任意の変調を適用し、その後、ビームスプリッタを介して2N個の画像出力を生成してもよい。ある応用例は、一連の変調器に対して高速の変調波形及び低速の変調波形を適用することにより、系における時間的なダイナミックレンジを改善することができる。
【0102】
(C2)ハイパースペクトル構成
【0103】
図9Aに示す例は、波長分離素子902、904(例えば、プリズムやグレーティングなど)が追加され、かつカメラ906、908が明示的に示されている点を除いて、図8Cに示す例と同様である。図9Bの例では、任意の数のカメラ932、934、936に対して光出力をカップリングする波長分離素子922、924、926(例えば、ダイクロイックミラー)が示されている。このような追加の分離素子は、変調器の一部の出力に設けられてもよいし、すべての出力に設けられてもよい。これにより、広視野画像における空間測定、ナノ秒時間測定、偏光測定、及び色測定を同時に行うことができる。このような時間分解ハイパースペクトルイメージングは、単一分子蛍光顕微鏡法において特に有用である。
【0104】
光変調器は、多次元または「ハイパースペクトル」モードの広視野イメージングを実現するために、波長分解素子と組み合わされてもよい(図9A図9B)。例えば、パルス励起を有する蛍光顕微鏡では、各放出光子が、それぞれ、放出時間、偏光、空間座標、及び波長という自由度を有する。偏光に基づく全光変調と波長選択光学系とを組み合わせることにより、これらのパラメータは、低速アレイ検出器ですべて同時に測定することができる。
【0105】
まばらなシングルポイントエミッタからシーンが構成されている局在顕微鏡法または単一分子分光法では、光変調器の出力経路に、プリズム、回折格子、または楔形フィルタースタックなどの分散素子を挿入してもよい。これにより、スペクトル情報を線形ストリークまたはエミッタ画像のアレイとしてエンコードすることができる。同様に、ダイクロイックミラーなどの波長分割素子を用いて、出力光を色チャネルのアレイに分割してもよい。この分割方法は広視野画像に対応しており、まばらなシーンに限定されるものではない。また、吸収性カラーフィルタ及びベイヤーフィルタなどのセンサアレイフィルタを採用してもよい。多次元技術では、波長チャネルと蛍光寿命チャネルとを組み合わせることにより、蛍光体間のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)の測定精度を高めることができる。また、生体サンプル中の個々の蛍光標識をより多く識別できる、高次元のイメージングが可能となる。
【0106】
(C3)共振/ロックイン動作
【0107】
図10Aは、このアプローチによる共振/ロックイン信号処理の例示的な構成を示す図である。ここで、光学的構成は、図8Cと同様のものである。変調器104aは、駆動電子機器1010により、第1の信号(φ1、ω1)で駆動される。変調器104bは、駆動電子機器1020により、第2の信号(φ2、ω2)で駆動される。カメラ1002で得られることとなる画像は第1の信号であり、カメラ1004における画像はカメラ1002に対して位相がずれている。同様に、カメラ1006で得られることとなる画像は第2の信号であり、カメラ1008における画像はカメラ1006に対して位相がずれている。図10Bは、ロックイン信号処理の入射波形における2つの例である、蛍光減衰シーケンス1022及び正弦波1024を示す図である。周期的な入力波形の形状は、より一般的なものであってもよい。形状パラメータを推定するために、変調にPCを適用することにより、高速で変化する波形が低速検出器アレイに復調される。この構成は、2つの変調位相を使用することにより、低速帯域幅検出器における復調及び全ベクトル測定を可能にするロックインカメラと見做すことができる。
【0108】
正弦波変調により、周波数領域での波形形状パラメータの推定が可能となる。この技術は、標準的なカメラセンサの広視野画像にホモダイン検出またはヘテロダイン検出のいずれかを実装することができる。図10A及び図10Bにその一例を示す。偏光変調器(例えば104a、104b)の後ろにある偏光ビームスプリッタ(例えば106、108)は、2つの強度像を生成する。この強度像のうちの一方は、入射強度波形と変調との畳み込みに対応している。この強度像のうちの他方は、入射強度波形と変調の逆数との畳み込みに対応している。これは、正弦波変調の場合、2つの出力が互いに180度ずれた変調位相を有することを意味する。時間ゲート波形推定の場合と同様に、このアプローチにおける大きな利点は、ゲート画像及び非ゲート画像を同時に取得できる点である。ここでは、ゲート画像及び非ゲート画像は、それぞれ0度の位相を有する画像及び180度の位相を有する画像を意味する。これにより、入射光強度の正規化及び高速の単一フレーム取得が可能となる。
【0109】
ホモダインによる周波数領域の蛍光寿命推定は、よく知られている手法である。現在の広視野法では、ゲート光インテンシファイア、またはオンチップのマルチタップ変調カメラセンサのいずれかを使用することにより、周波数領域で撮像を行っている。この手法は、効率、コスト、及び速度の点で重大な欠点がある。代わりに、本願発明者らの方法は、蛍光寿命信号の全光復調を可能にする。
【0110】
蛍光シーンに周波数変調励起が適用される場合、蛍光応答は、変調深度及び励起光に対する位相シフトによって特徴付けることができる。これは、数学的には、通常、受信光強度の正弦フーリエ変換G(ω)及び余弦フーリエ変換S(ω)の観点から説明される。G及びSは、下記の数式8及び数式9において、該応答の位相θ及び変調深度Mに関連している。これらは、蛍光減衰のフェーザ・プロット解析を可能にするために組み合わされることが多い。
【0111】
【数8】
【0112】
【数9】
【0113】
本願発明者らの技術は、所定の変調位相及び周波数を有する多数の強度出力を生成できる。図10Aは、4つの出力(カメラ1002、1004、1006、1008への出力)を示しており、各PC変調器の2つの出力は、一方が他方に対して180度シフトされている。単一指数関数的減衰を仮定し、かつ応答光の位相シフトが事前に較正されている場合、検出器に0度及び180度の2つの位相(I(0,ω1)及びI(180,ω1))を有する1つの変調器による、1回の露光のみが必要となる。これにより、下記の数式10によって、蛍光寿命の変調深度の推定値が求められる。
【0114】
【数10】
【0115】
応答の位相は、時間領域の遅延トレースと同様に、それぞれが互いに異なる変調器駆動位相を有する複数の個別のサンプルをフィッティングすることにより測定できる。互いに異なる駆動位相を有する複数の変調を使用することもできる。これにより、例えば、下記の数式11に示すように、4つの強度出力から直接位相を推定することが可能となり、より一般的には、周期信号の全ベクトル測定が可能となる。
【0116】
【数11】
【0117】
位相及び変調深度から、下記の数式12及び数式13に示す2つの個別の寿命推定値が得られる。多重指数関数的寿命をより正確に推定するために、例えば位相プロット等でこれらを比較してもよい。周波数領域の推定は、時間領域の推定と同じ光子感度限界に近づく可能性がある。
【0118】
【数12】
【0119】
【数13】
【0120】
周波数領域の動作により、イメージングロックイン検出器であって、イメージング検出器アレイにおけるすべてのピクセルが、単一のロックインアンプに類似する個別のロックインまたは復調処理を行う、該イメージングロックイン検出器が実現されている。2つの位相シフトを互いに組み合わせることにより、同相成分及び直交成分の両方を取得する複素フェーザ(complex phasor)の全測定が実現されてもよい。これは、互いに異なる位相で駆動される2つの変調器を使用することにより、あるいはリターダまたは波長板を用いてイメージングビームの一部に位相シフトを光学的に導入することにより、容易に同時実現することができる。また、照明入力に対してわずかに異なる変調周波数を用いて、ヘテロダイン検出を行うことも考えられる。低速のビート周波数は、例えば、低速のカメラチップにより検出されてもよい。同様に、直列変調器は、異なる駆動周波数または不整合な位相で駆動されてもよい。ポッケルスセルが広視野イメージングに適しているという固有の前提条件に加え、高周波動作は独自の課題を有している。(1)結晶に対して高電圧の交流電圧の印加が必要となる場合がある。PCを駆動させるための方法としては、LCタンク回路などの共振電子回路にPCを組み込み、コンデンサとして機能させるのが理想的である。この回路は、実用的なドライブエレクトロニクスを実現するために、高いQファクタを有する必要がある。(2)誘電損失に起因するポッケルスセル結晶の加熱により、または抵抗損失に起因するポッケルスセル電極の加熱により、アクティブ冷却の手段が必要となる場合がある。結晶は、冷却されたプレートに該結晶をマウントすることにより、あるいは、該結晶の金属電極を冷却することにより(例えば、横電界型変調器のジオメトリの場合)アクティブ冷却されてもよい。これらは、(流動または静的熱伝導を目的として)該結晶を誘電性冷却剤に浸すことにより、あるいは、縦型変調器を、熱伝導性を有しかつ光学的に透過的であるプレートで挟むことにより達成されてもよい。このようなプレートは、例えば、ガラス、透明セラミックス、またはサファイアなどから作成されてもよい。また、ヒートシンクまたは熱制御ユニットに接続されてもよい。
【0121】
(C4)荷電粒子の検出
【0122】
図11A図11Cは、本発明を荷電粒子検出器に応用したものを示す図である。これらの粒子検出器(例えば電子カメラ)は、リン光スクリーンまたはシンチレーション結晶を用いて、粒子束を高度な非線形光学応答に変換することが多い。結果として生じる「蛍光」の減衰波形形状は、既知の蛍光寿命をフィッティングして荷電粒子がいつ検出器に衝突したかという時間的情報を得るために、本明細書に記載の方法を用いて測定されてもよい。これにより、同時的に発生し、かつ空間的に互いに分離された数十から数千の衝突を含む広視野画像において、時間相関型荷電粒子計数が可能となる。この機能は、現在の検出器には備わっておらず、電子顕微鏡法における新しいタイプの測定を可能にするであろう。
【0123】
図11Aは、蛍光体またはシンチレータ1104に対して互いに異なる位置及び互いに異なる時間に衝突する3つの粒子(#1、#2、#3)を模式的に示す図である。ここで、1102は任意選択で設けられる増倍器またはインテンシファイアであり、1106は上述して説明したような光変調器ユニットであり、1108はカメラである。時間の差異は、図11Bに模式的に示されている。蛍光体/シンチレータ1104は、減衰が長く(P47では80ns)、かつ光子数が多い(マイクロチャネルプレート増倍器では10個)光のバーストを生成する。図11Cのプロットでは、増倍器ステージのいくらかの電子走行時間広がり(TTS)と、80ナノ秒の減衰定数とを仮定し、理想的なステップゲートと、立ち上がり時間が長く、かつ90%の効率を有するステップゲートとにおける時間推定精度をプロットしている。マイクロチャネルプレート及び蛍光体の光子数Nが大きい場合、これにより100ピコ秒以下の時間分解能が得られる。
【0124】
時間相関型荷電粒子検出器は、時間相関型単一光子計数器と同様に制限されている。既存の技術では、マイクロチャネルプレートの電子増倍器を、交差配線(crossed-wire)のディレイラインからなる1以上のアノードに組み合わせている。粒子が衝突すると、マイクロチャネルプレートから電子のバーストが発生する。このバーストは、各線のパルス遅延時間に基づいて、交差配線アノードに空間的に局在する。この方法は複雑であって、同時に衝突する粒子数が数個に制限されており、かつカウントレートも数MHzに制限されている(低スループット)。本願発明者らの光学的手法は、シンチレータまたは燐光スクリーンを用いて各衝突から燐光または蛍光減衰波形を生成することにより、効率的な代替手段を提供する(図11A図11C)。この場合、減衰波形の蛍光寿命は既に知られており、燐光波形形状をフィッティングすることにより、粒子がスクリーンに衝突した時間を知ることができる。
【0125】
広視野の時間領域FLIMの場合、理想的なゲートは、以下に示す数式14により、ショットノイズ限界における精度を用いて蛍光寿命を推定できる。
【0126】
【数14】
【0127】
代わりに寿命が既知であれば、同様に、粒子の衝突時間は、ショットノイズ限界における感度を用いて、以下に示す数式15のように推定できる。
【0128】
【数15】
【0129】
高ゲインのマイクロチャネルプレートは、1パルスあたり106個を超える光子を生成可能であり、これにより、非常に高い時間分解能での推定が可能となる。この時間分解能は、電子増倍器の数十ピコ秒のジッタに迫る程である。各粒子事象により変動するゲインを正規化するためには、ゲート画像と非ゲート画像の両方を得ることが重要である。MCP検出器における通常の電子走行時間広がりは約300ピコ秒であり、パルスのジッタは数十ピコ秒である。
【0130】
粒子用の時間相関型空間検出器は、各イメージング電子における高解像度の空間情報及び時間情報を記録するために、電子顕微鏡法に使用されてもよい。例えば、超高速透過電子顕微鏡(UTEMS)、あるいは、パルスまたはレーザによって惹き起こされる発光源を有する他の電子顕微鏡及び超高速回折実験などに利用できる可能性がある。また、このような検出器は、サンプル内の非弾性散乱に起因するエネルギー損失が電子の速度及び到達時間に変化をもたらすこととなる電子エネルギー損失分光(EELS)において、新規のイメージングモードを実現できる。同様に、低エネルギー電子撮像系(例えば、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)及び光電子顕微鏡(PEEM))において、光源エネルギーの変化に起因する色彩効果を除去することも可能である。このカメラは、さらに量子検出器としても機能するため、これにより、位置及び運動量の相関関係の測定、並びに、複数粒子の同時性(multi-particle coincidences)の検出が可能となる。
【0131】
本願発明者らの技術は10個以上の同時衝突を測定できるという点で特徴的であり、さらに10000個以上の同時衝突を測定できるように拡張することも可能である。その他の応用例としては、質量分析計のイオン飛行時間検出、イオン運動量分光実験(例えば、コールドターゲット反跳イオン運動量分光法:COLTRIMS)、イメージインテンシファイア管を用いた単一光子の時間相関検出などが挙げられる。
【0132】
(C5)内視鏡への応用
【0133】
広視野光変調器は、臨床用蛍光寿命システムとして有望である。蛍光及び組織の自家蛍光をイメージングすることにより、様々な疾患及びバイオマーカーの指標を得ることができる。光変調器のフロントエンドとして、内視鏡、関節鏡、またはマクロ撮像系を臨床現場で使用することにより、病変組織及び切除縁の識別を向上できる。例えば、FLIMでは、細胞内のNADH/NAD(P)Hを代謝のマーカーとして測定することができる。これにより、がん組織の光学的特徴を得ることができる。蛍光寿命と波長とを組み合わせたマルチスペクトルFLIMもまた、重要な診断ツールとなり得る。
【0134】
本願発明者らの単一フレーム法によって実現した高速撮影及び迅速な蛍光寿命計算は、医療行為中または手術中に蛍光寿命画像のリアルタイム表示及びビデオレート観察を可能にする点で特に有用である。
【0135】
内視鏡システムは、変調器ユニットに、柔軟な光ファイバ束、マルチモード光ファイバ、及び/またはGRIN光学系をインターフェースしてもよい。また、リレーレンズ系は、例えば硬質な関節鏡等に使用されてもよい。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C