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特許7432608正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置
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  • 特許-正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240208BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240208BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240208BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240208BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240208BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021541563
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 CN2021083334
(87)【国際公開番号】W WO2022198651
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】周 墨林
(72)【発明者】
【氏名】蒋 欣
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110265627(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103119761(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1691380(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109860587(CN,A)
【文献】特開2005-322480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設置された正極活物質層を含む正極片であって、
前記正極活物質層が、下記の式(1)で示される第1の正極活物質と、下記の式(2)で示される第2の正極活物質とを含み、
[化1]
Li1+xFeMnTiPO4-w (1)
式(1)において、-0.1<x<0.1、0<a<0.01、0≦y≦1、0≦z≦1、0.001<v<0.005、0≦w<0.05であり、AがNa又はKの少なくとも1つを含み、
[化2]
Li2+rNa1+q2+t (2)
式(2)において、-0.2<r<0.2、0<s<0.05、-0.1<q<0.1、0≦t<0.05であり、MがNi、Cu、Mn、Fe、又はCoのうちの少なくとも1つを含み、
前記正極片の圧縮密度がR g/cmであり、前記正極片の片面の面密度がQ g/1540.25mmであり、かつR/Qが5.2≦R/Q≦13.5を満たし、
前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との質量比が4:1~100:1であり、
前記正極活物質層における前記第1の正極活物質の含有量が80wt%以上98wt%以下である、正極片。
【請求項2】
前記正極片の圧縮密度Rが1.8<R<2.5を満たす、請求項1に記載の正極片。
【請求項3】
前記正極片の片面の面密度Qが0.18<Q<0.34を満たす、請求項1に記載の正極片。
【請求項4】
前記第1の正極活物質の平均粒子径Dv50が0.5μm~3μmであり、前記第1の正極活物質の粒子径分布Dv90が4μm~10μmである、請求項1に記載の正極片。
【請求項5】
前記第2の正極活物質の平均粒子径Dv50が6μm~18μmであり、前記第2の正極活物質の粒子径分布Dv90が15μm~32μmである、請求項1に記載の正極片。
【請求項6】
前記第2の正極活物質がX≧300mAh/g、Y/X≦40%を満たし、
Xが前記第2の正極活物質の初回充電比容量であり、Yが前記第2の正極活物質の初回放電比容量である、請求項1に記載の正極片。
【請求項7】
下記(a)~(e)のうちの少なくとも1つを満たす請求項1に記載の正極片、
(a)前記正極片が5.6≦R/Q≦12.0を満たし、
(b)前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との質量比が9:1~99:1であり、
(c)前記正極活物質層における前記第1の正極活物質の含有量が85wt%~98wt%であり、
(d)前記第1の正極活物質の平均粒子径Dv50が0.8μm~2μmであり、前記第1の正極活物質の粒子径分布Dv90が5μm~8μmであり、
(e)前記第2の正極活物質の平均粒子径Dv50が10μm~16μmであり、前記第2の正極活物質の粒子径分布Dv90が18μm~30μmである。
【請求項8】
前記正極活物質層が第1の正極活物質層と第2の正極活物質層とを含み、前記第1の正極活物質層が前記第1の正極活物質を含み、前記第2の正極活物質層が前記第2の正極活物質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の正極片。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の正極片を含む電気化学装置。
【請求項10】
請求項に記載の電気化学装置を含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学分野に係り、具体的に、正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置に係る。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー貯蔵密度、高開回路電圧、低自己放電率、長いサイクル寿命、安全性に優れるなどの利点を有し、電気エネルギー貯蔵、携帯電子機器、電気自動車及び航空宇宙装置などの各分野に幅広く使用されている。携帯電子機器及び電気自動車の急速な発展に伴い、市場では、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度、サイクル性能及び動力学的性能などに対する要求が益々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、初回の充放電過程において、負極表面に大量の固体電解質界面膜(Solid Electrolyte Interphase、SEI)が生成するため、リチウムイオン電池における限られたリチウムイオン及び電解液を消費し、不可逆的な容量損失が生じ、それにより、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を低下させる。負極として黒鉛を用いた電池では、初回サイクルで活性リチウム源の約10%が消費され、負極として合金系(ケイ素、スズなど)、酸化物系(酸化ケイ素、酸化スズなど)、及び非晶質炭素系などの高い比容量を有する負極材料を用いた場合は、活性リチウム源の消費がさらに増大する。このため、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させるために、リチウムを補充する適切な方法を提供することが重要である。
【0004】
従来では、上記問題に対して、一般的に負極スラリーにリチウム金属粉末又は安定化リチウム金属粉末を添加するという負極にリチウムを補充する方法が提案されるが、リチウム金属粉末/安定化リチウム金属粉末は、反応活性が高く、空気中の水分と反応しやすく、危険係数が高いため、厳しい生産環境及び製造工程が求められることにより、負極のリチウム補充はが大きな課題となっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、電気化学装置のエネルギー密度、サイクル安定性及びレート性能を向上させるための正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置を提供することを目的とする。
【0006】
なお、本発明の内容では、電気化学装置の例としてリチウムイオン二次電池を挙げて説明するが、本発明の電気化学装置はリチウムイオン二次電池のみに限定されるものではない。
【0007】
具体的な技術的手段は以下のとおりである。
【0008】
本発明の1つの態様は、正極集電体と、当該正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられた正極活物質層とを含む正極片であって、前記正極活物質層が、下記の式(1)で示される第1の正極活物質と、下記の式(2)で示される第2の正極活物質とを含み、
[化1]
Li1+xFeMnTiPO4-w (1)
式(1)において、-0.1<x<0.1、0<a<0.01、0≦y≦1、0≦z≦1、0.001<v<0.005、0≦w<0.05、AがNa又はKの少なくとも1つを含み、
[化2]
Li2+rNa1+q2+t (2)
式(2)において、-0.2<r<0.2、0<s<0.05、-0.1<q<0.1、0≦t<0.05、MがNi、Cu、Mn、Fe又はCoの少なくとも1つを含み、
当該正極片の圧縮密度(compaction density)がR g/cmであり、即ち圧縮密度Rの単位がg/cmであり、当該正極片の片面の面密度がQ g/1540.25mmであり、即ち片面の面密度Qの単位がg/1540.25mmであり、5.2≦R/Q≦13.5である、正極片を提供する。
【0009】
本発明において、正極集電体は厚み方向に2つの対向する第1の表面と第2の表面を含み、正極活物質層は正極集電体の少なくとも1つの表面に設置される。当業者であれば理解できるように、正極活物質層は第1の表面に設置されてもよく、第2の表面に設置されてもよく、第1の表面と第2の表面に同時に設置されてもよく、当業者が実際の必要に応じて選択すればよい。なお、上記した「表面」は、第1の表面及び/又は第2の表面の全体であってもよく、第1の表面及び/又は第2の表面の一部であってもよく、本発明の目的を達成できれば、特に限定されない。
【0010】
本発明の正極活物質層は、Li1+xFeMnTiPO4-w(1)で示される第1の正極活物質と、Li2+rNa1+q2+t(2)で示される第2の正極活物質とを含む。ここで、式(1)において、-0.1<x<0.1、0<a<0.01、0≦y≦1、0≦z≦1、0.001<v<0.005、0≦w<0.05であり、AはNa又はKの少なくとも1つを含む。Li2+rNa1+q2+t(2)において、-0.2<r<0.2、0<s<0.05、-0.1<q<0.1、0≦t<0.05であり、MはNi、Cu、Mn、Fe又はCoの少なくとも1つを含む。本発明は、第1の正極活物質と第2の正極活物質を併用することで相乗効果を生み出し、初回充電時に、第2の正極活物質の高い初回充電比容量、低い初回効率という特性を利用し、SEIの生成による活性リチウムの損失を効果的に補うため、初回放電時に十分なリチウムイオンが第1の正極活物質に戻して插入されることにより、リチウムイオン二次電池の放電比容量を効果的に向上させ、更に、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。一方、第1の正極活物質は、構造が安定しており、サイクル特性も良好である。
【0011】
本発明において、正極片の圧縮密度はR g/cmであり、正極片の片面の面密度はQ g/1540.25mmであり、ここで、5.2≦R/Q≦13.5である。例えば、R/Qの下限値は、5.2、5.48、5.6、6.73、7.43、7.47、7.72、7.93、8.00、8.07又は8.36を含んでもよく、R/Qの上限値は、8.54、11、11.58、12、13.1、又は13.5を含んでもよい。いかなる理論に限定されていないが、R/Qが小さすぎると(例えば5.2未満)、正極片の圧縮密度が小さすぎて、リチウムイオン二次電池のレート性能及びサイクル性能を低下させ、また、正極片の片面の面密度が大きすぎて、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命が低下し、かつリチウムイオン二次電池のレート性能に影響を与え、特にリチウムイオン二次電池の高倍率での放電容量を低下させる。R/Qが大きすぎると(例えば13.5超え)、正極片の圧縮密度が大きすぎて、リチウムイオン二次電池のレート性能及びサイクル性能を低下させ、また、正極片の片面の面密度が小さすぎて、同じリチウムイオン二次電池の容量を有する場合に、集電体とセパレータの長さが増加し、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を増大させる。正極片の圧縮密度と片面の面密度を適切に設計することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル性能とレート性能を向上させることができる。好ましくは、5.6≦R/Q≦12.0であり、例えば、R/Qの下限値は、5.6、6.73、7.43、7.47、7.72、7.93、8.00、8.07又は8.36を含んでもよく、R/Qの上限値は、8.54、11、11.58又は12を含んでもよい。R/Qの値を上記好ましい範囲に制御することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性及び動力学的特性をより一層向上させることができる。
【0012】
以上より、本発明の正極片は、第1の正極活物質と第2の正極活物質との相乗効果を十分に発揮することができ、第1の正極活物質によりリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させる一方、第2の正極活物質によりリチウムイオン二次電池のサイクル性能を向上させる。同時に、正極片の圧縮密度と片面の面密度を適切に設計することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル性能とレート性能をより一層向上させる。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、正極片の圧縮密度Rは、1.8<R<2.5を満たす。例えば、正極片の圧縮密度Rの下限値は、1.81又は1.84含んでもよく、正極片の圧縮密度Rの上限値は、2.2、2.22、2.23、2.24、2.26、2.4、又は2.49を含んでもよい。正極片の圧縮密度Rを上記範囲に制御することにより、正極片における電子及びイオンの移動に寄与し、リチウムイオン二次電池のレート性能及びサイクル性能を向上させる。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、正極片の片面の面密度Qは、0.18<Q<0.34を満たす。例えば、正極片の片面の面密度Qの下限値は、0.19、0.20、0.22、又は0.26を含んでもよく、正極片の片面の面密度Qの上限値は、0.28、0.29、0.30、0.32、又は0.33を含んでもよい。正極片の片面の面密度Qを上記範囲内に制御することにより、充放電容量を確保しつつ、リチウムイオン二次電池のレート性能及びサイクル性能を向上させることができる。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、第1の正極活物質と第2の正極活物質の質量比は4:1~100:1である。例えば、質量比の下限値は、4:1、4.9:1、7.5:1、9:1、11.4:1、18.3:1、又は33.4:1を含んでもよく、質量比の上限値は、98:1、99:1、又は100:1を含んでもよい。第1の正極活物質と第2の正極活物質の質量比を上記範囲内に制御することにより、第1の正極活物質と第2の正極活物質は、相乗効果を生み出し、リチウムイオン二次電池を向上させつつ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が改善されることができる。好ましくは、第1の正極活物質と第2の正極活物質の質量比は、9:1~99:1である。例えば、質量比の下限値は、9:1、11.4:1、18.3:1、又は33.4:1を含んでもよく、質量比の上限値は、98:1又は99:1を含んでもよい。第1の正極活物質と第2の正極活物質の質量比を上記の好ましい範囲内に制御すると、正極活性層には大部分が第1の正極活物質であるため、より高い構造安定性を有し、正極活物質の構造の破壊による容量の損失及び抵抗の増加を減少させることができ、それによりリチウムイオン二次電池のサイクル安定性及び動力学的性能を維持することができる。
【0016】
本発明の1つの実施形態においては、正極活物質層における第1の正極活物質の含有量が80wt%~98wt%である。例えば、第1の正極活物質の含有量の下限値は、80wt%、85wt%、又は88.6wt%を含んでもよく、第1の正極活物質の含有量の上限値は、91.4wt%、93.6wt%、又は98wt%を含んでもよい。正極活物質層における第1の正極活物質の含有量を上記範囲内に制御することにより、正極活物質層は良好な構造安定性を有し、正極活物質の構造の破壊による容量の損失及び抵抗の増加を低減することができる。好ましくは、正極活物質層における第1の正極活物質の含有量は、85質量%~98質量%である。例えば、第1の正極活物質の含有量の下限値は、85wt%又は88.6wt%を含んでもよく、第1の正極活物質の含有量の上限値は、91.4wt%、93.6wt%、又は98wt%を含んでもよい。当該好ましい範囲は、前記の範囲と比べて、正極活物質層における第1の正極活物質の含有量がより多いので、正極活物質層はより良好な構造安定性を有し、正極活物質の構造の破壊による容量の損失及び抵抗の増加をより一層低減することができる。
【0017】
本発明の1つの実施形態において、第1の正極活物質の平均粒子径Dv50は0.5μm~3μmであり、第1の正極活物質の粒子径分布Dv90は4μm~10μmである。例えば、第1の正極活物質の平均粒子径Dv50の下限値は、0.5μm、0.8μm、1.1μm、1.4μm、又は1.7μmを含んでもよく、第1の正極活物質の平均粒子径Dv50の上限値は、2μm、2.5μm、又は3μmを含んでもよい。第1の正極活物質の粒子径分布Dv90の下限値は、4μm、5μm、6μm、又は7μmを含んでもよく、第1の正極活物質の粒子径分布Dv90の上限値は、8μm、9μm、又は10μmを含んでもよく。第2の正極活物質の平均粒子径Dv50は6μm~18μmであり、第2の正極活物質の粒子径分布Dv90は15μm~32μmである。例えば、第2の正極活物質の平均粒子径Dv50の下限値は、6μm、8μm、10μm、又は12μmを含んでもよく、第2の正極活物質の平均粒子径Dv50の上限値は、14μm、16μm、又は18μmを含んでもよい。第2の正極活物質の粒子径分布Dv90の下限値は、15μm、17μm、18μm、19μm、21μm、又は23μmを含んでもよく、第2の正極活物質の粒子径分布Dv90の上限値は、25μm、27μm、29μm、30μm、又は32μmを含んでもよい。上記した粒子径分布の範囲を有する第1の正極活物質及び第2の正極活物質を用いることにより、正極片の電子及びイオンの伝導性がより改善され、リチウムイオン二次電池のサイクル特性及び動力学的性能を向上させることができる。好ましくは、第1の正極活物質の平均粒子径Dv50は0.8μm~2μmであり、第1の正極活物質の粒子径分布Dv90は5μm~8μmである。好ましくは、第2の正極活物質の平均粒子径Dv50は10μm~16μmであり、第2の正極活物質の粒子径分布Dv90は18μm~30μmである。上記した好ましい粒子径分布の範囲を有する第1の正極活物質及び第2の正極活物質を用いることにより、正極片の電子及びイオンの伝導性をより一層改善させることができる。ここで、粒子のDv50は、体積基準の粒度分布において、小径側から累積体積が50%となる粒子径を表す。粒子のDv90は、体積基準の粒度分布において、小径側から累積体積が90%とな粒子径を表す。
【0018】
本発明の1つの実施形態において、第2の正極活物質は、X≧300mAh/g、Y/X≦40%を満たす。ここで、Xは第2の正極活物質の初回充電比容量であり、Yは第2の正極活物質の初回放電比容量である。第2の正極活物質がX≧300mAh/g、Y/X≦40%を満たすことは、第2の正極活物質の比容量が高いことを意味し、初回放電時に、大量のリチウムイオンを放出することでSEIの生成による活性リチウムの損失を補うことができ、それにより、初回放電時に十分なリチウムイオンが第1の活物質に戻して插入されることにより、電池の放電比容量を効果的に向上させ、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させる。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、正極活物質層は、第1の正極活物質層と第2の正極活物質層とを含み、ここで、第1の正極活物質層は第1の正極活物質を含み、第2の正極活物質層は第2の正極活物質を含む。本発明において、それぞれ、第1の正極活物質のスラリー及び第2の正極活物質のスラリーを調製してから、順次に正極集電体の第1の表面及び第2の表面に塗布することにより、第1の正極活物質層及び第2の正極活物質層を形成することができる。本発明のいくつかの実施形態において、正極集電体の第1の表面及び/又は第2の表面に、第1の正極活物質層及び第2の正極活物質層が順次に設置される。本発明のいくつかの実施形態において、正極集電体の第1の表面及び/又は第2の表面に、第2の正極活物質層及び第1の正極活物質層が順次に設置される。本発明のいくつかの実施形態において、正極集電体の第1の表面/第2の表面に、第2の正極活物質層及び第2の正極活物質層が順次に設置され、正極集電体の第2の表面/第1の表面に、第1の正極活物質層及び第2の正極活物質層が順次に設置される。
【0020】
なお、上記のいずれかの実施形態における第2の正極活物質は、いずれも正極へのリチウム補充の材料として正極片に適用されることができる。
【0021】
本発明の正極片において、正極集電体は、特に限定されず、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔又は複合集電体などの当分野で周知の正極集電体であってもよい。本発明において、本発明の目的を達成できれば、正極集電体及び正極活物質層の厚さ、並びに、第1の正極活物質層及び第2の正極活物質層の厚さは、いずれも、特に限定されない。例えば、正極集電体の厚さは5μm~20μm、好ましくは6μm~18μm、より好ましくは8μm~16μmである。正極活物質層の厚さは30μm~120μmである。任意に、前記正極片は、正極集電体と正極活物質層との間に配置される導電層をさらに含んでもよい。前記導電層の組成は特に限定されず、当分野で一般的に使用される導電層であってもよい。前記導電層は、導電剤と粘着剤を含む。
【0022】
本発明の負極片は、リチウム金属片であってもよく、負極集電体と、負極集電体の少なくとも1つの表面に設置された負極活物質層とを含んでもよい。本発明において、負極集電体は、本発明の目的を達成できるものであれば、特に限定されず、例えば、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケルフォーム、銅フォーム、又は複合集電体などを含んでもよい。本発明における負極活物質層は、負極活物質と、導電剤と、増粘剤とを含む。本発明の負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素-炭素複合体、SiO、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のチタン酸リチウムLiTi12、Li-Al合金及びリチウム金属などのうちの少なくとも1つを含んでもよい。本発明において、本発明の目的を達成できれば、負極集電体及び負極活物質層の厚さは、特に限定されない。例えば、負極集電体の厚さが6μm~10μmであり、負極活物質層の厚さが30μm~120μmである。本発明において、負極片の厚さは、本発明の目的を実現できるものであれば特に制限されず、例えば、負極片の厚さは50μm~150μmである。任意に、前記負極片は、負極集電体と負極材料層との間に配置される導電層をさらに含んでもよい。前記導電層の組成は特に限定されず、当分野で一般的に使用される導電層であってもよい。前記導電層は、導電剤と粘着剤を含む。
【0023】
上記導電剤は、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されない。導電剤は、例えば、導電性カーボンブラック(Super P)、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、及びグラフェンなどのうちの少なくとも1つを含んでもよい。上記した粘着剤は、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されず、当分野で周知の任意の粘着剤を使用できる。粘着剤は、例えば、ポリプロピレンアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルブチラール(PVB)、水性アクリル樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)などのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0024】
本発明におけるセパレータは、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されない。セパレータは、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を主とするポリオレフィン(PO)系セパレータ、ポリエステルフィルム(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)、セルロースフィルム、ポリイミドフィルム(PI)、ポリアミドフィルム(PA)、スパンデックス又はアラミドフィルム、織布フィルム、不織布フィルム(不織布)、微細孔フィルム、複合フィルム、セパレータ紙、ラミネートフィルム、紡糸フィルムなどのうちの少なくとも1種である。セパレータは、例えば、基材層と表面処理層を含んでもよい。基材層は、多孔質構造を有する不織布、フィルム又は複合フィルムであってもよく、基材層の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドなどのうちの少なくとも1種を含んでもよい。任意に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合フィルムを用いることができる。任意に、基材層は、その少なくとも1つの表面に表面処理層が設置されて、表面処理層はポリマー層又は無機物層であってもよく、ポリマーと無機物を混合した層であってもよい。例えば、無機物層は無機粒子及び粘着剤を含み、前記無機粒子は、特に制限されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムなどからなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。前記粘着剤は、特に制限されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群から選ばれる1種又は複数の種類の組み合わせであってもよい。ポリマー層はポリマーを含み、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)などのうちの少なくとも1種を含む。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池はさらに電解質を含み、電解質は、ゲル電解質、固体電解質及び電解液のうちの1種又は複数の種類であってもよく、電解液はリチウム塩及び非水系溶媒を含む。本発明のいくつかの実施形態において、リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiSiF、LiBOB、又はジフルオロホウ酸リチウムのうちの少なくとも1つを含んでもよい。1つの例が挙げられると、LiPFは、高いイオン伝導度を有してサイクル特性を改善できるので、リチウム塩として用いられる。非水系溶媒は、例えば、カーボネート化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、他の有機溶媒、又はこれらの組み合わせであってもよい。前記カーボネート化合物は、鎖状カーボネート化合物、環状カーボネート化合物、フルオロカーボネート化合物又はこれらの組み合わせであってもよい。上記鎖状カーボネート化合物の例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。環状カーボネート化合物の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。フルオロカーボネート化合物の例としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロエチレンカーボネート、1,1,2,2-テトラフルオロエチレンカーボネート、1-フルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、1-フルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、及びこれらの組み合わせが挙げられる。上記カルボン酸エステル化合物の例としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ter-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、デカラクトン、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、及びこれらの組合せが挙げられる。上記エーテル化合物の例としては、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。上記他の有機溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル及びリン酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
本発明では、正極活物質層を作製する際に、第1の正極活物質及び第2の正極活物質の添加順序は、特に限定されない。例えば、スラリーとして調製される時に直接均一に混合し、混合されたスラリーを正極集電体の第1の表面及び/又は第2の表面に塗布してもよく、又は、それぞれ、第1の正極活物質のスラリー及び第2の正極活物質のスラリーを調製してから、上記の2種類のスラリーを正極集電体の第1の表面及び/又は第2の表面に、順次に塗布することにより、第1の正極活物質層及び第2の正極活物質層を形成してもよい。
【0027】
本発明は、上記のいずれかの実施形態に記載された正極片を含む電気化学装置をさらに提供し、当該電気化学装置は高いエネルギー密度、良好なサイクル性能及びレート性能を有する。
【0028】
本発明の電気化学装置は、特に限定されず、電気化学反応が発生する任意の装置を含んでもよい。いくつかの実施形態において、電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池などをを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0029】
本発明は、本発明の実施形態に記載された電気化学装置を含む電子装置をさらに提供し、当該電子装置は高いエネルギー密度、良好なサイクル性能及びレート性能を有する。
【0030】
本発明の電子装置は、特に限定されず、従来の技術で周知の任意の電子装置であってもよい。いくつかの実施形において、電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子ブックプレーヤ、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0031】
電気化学装置の製造工程は当業者に一般的に知られているものであり、本発明では特に限定されない。例えば、電気化学装置は、セパレータを介して、正極片と負極片とを重ね合わせ、必要に応じて、巻く、折るなどしてケースに入れ、ケースに電解液を注入して封口することで製造される。ここで使用されたセパレータは本発明に係る上述したものである。また、電気化学装置内部の圧力上昇、過充放電を防ぐために、必要に応じて、過電流防止素子、リード板などをケースに入れることができる。
【0032】
本発明は正極片、当該正極片を含む電気化学装置及び電子装置を提供し、当該正極片は、正極集電体と、当該正極集電体の少なくとも1つの表面に設置された正極活物質層とを含む。当該正極活物質層は、Li1+xFeMnTiPO4-w(1)で示される第1の正極活物質と、Li2+rNa1+q2+t(2)で示される第2の正極活物質とを含み、当該正極片は5.2≦R/Q≦13.5を満たす。当該正極片は第1の正極活物質と第2の正極活物質との相乗効果を十分に発揮することができ、電気化学装置の放電比容量を効果的に向上させ、更に、電気化学装置のエネルギー密度を効果的に向上させる。そして、当該正極片の圧縮密度Rと片面の面密度Qとの関係に対する限定により、電気化学装置のサイクル安定性及びレート性能を効率的に向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明及び従来の技術的手段をより明確に説明するために、以下に実施例及び従来の技術における必要とされる図面を簡単に説明する。明らかに、以下の説明における図面は単に本発明のいくつかの実施例に過ぎない。
【0034】
図1図1は本発明の1つの実施形態の正極片の構造概略図(正面図)である。
図2図2は本発明の他の実施形態の正極片の構造概略図(正面図)である。
図3図3は本発明のさらに他の実施形態の正極片構造概略図(平面図)である。
図4図4は本発明のさらに他の実施形態の正極片の構造概略図(正面図)である。
図5図5は本発明のさらに他の実施形態の正極片の構造概略図(正面図)である。
【符号の説明】
【0035】
10…正極集電体、20…正極活物質層、21…第1の正極活物質層、22…第2の正極活物質層、31…第1の表面、32…第2の表面
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の目的、技術的手段、及び利点をより明確にするために、以下、図面及び実施例を参照しつつ、本発明をされに詳細に説明する。明らかに、説明される実施例は単に本発明の一部の実施例に過ぎず、全ての実施例ではない。当業者であれば、本発明に基づいて得られる他のすべての実施例は、いずれも本発明の保護請求する範囲に含まれる。
【0037】
なお、本発明の具体的な実施形態において、電気化学装置の例としてリチウムイオン二次電池を挙げて説明するが、本発明の電気化学装置はリチウムイオン二次電池に限定されるものではない。
【0038】
図1は本発明の1つの実施形態の正極片の構造概略図(正面図)を示す。図1に示すように、正極集電体10は、厚み方向における第1の表面31及び第2の表面32に正極活物質層20を塗布する。ここで、正極活物質層20における第1の正極活物質及び第2の正極活物質は、スラリーとして調製される時に直接均一に混合され、混合されたスラリーを正極集電体10の第1の表面31及び第2の表面32に塗布するように、用いられる。当然、第1の表面31又は第2の表面32のうちの1つの面のみに塗布してもよい。図2は本発明の他の実施形態の正極片の構造概略図(正面図)を示す。図2に示すように、正極活物質層20は正極集電体10の第1の表面31のみに塗布され、第2の表面32に塗布されていない。
【0039】
図3は本発明のさらに他の実施形態の正極片の構造概略図(平面図)を示す。図3に示すように、正極活物質層20は正極集電体10の表面の一部に塗布される。当然、正極活物質層20は、正極集電体10の表面の全体に塗布されてもよい。
【0040】
図4及び図5は、それぞれ本発明のさらに他の2つの実施形態の正極片の構造概略図(正面図)を示す。図4及び図5に示すように、正極活物質層20における第1の正極活物質のスラリー及び第2の正極活物質のスラリーをそれぞれ調製して、正極集電体10の第1の表面31及び第2の表面32に順次に塗布する。この2つの実施形態において、正極活物質層20は第1の正極活物質層21及び第2の正極活物質層22を含む。図4に示すように、第1の表面31/第2の表面32上に、第1の表面31/第2の表面32の外側へ延びる方向に沿って、第1の正極活物質層21及び第2の正極活物質層22を順次に塗布する。図5に示すように、第1の表面31上に、第1の表面31の外側へ延びる方向に沿って、第1の正極活物質層21及び第2の正極活物質層22を順次に塗布し、第2の表面32上に、第2の表面32の外側へ延びる方向に沿って、第2の正極活物質層22及び第1の正極活物質層21を順次に塗布する。
【0041】
実施例
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。各試験及び評価は、後述の方法に従って行われた。なお、「部」、「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0042】
測定方法及び装置:
【0043】
正極片の圧縮密度R:
正極片の圧縮密度Rは、式R=m/vによって算出される。当式において、mは正極活物質層の質量であって、その単位はgであり、vは正極活物質層の体積であって、その単位はcmである。ここで、体積vは正極活物質層の面積Arと正極活物質層の厚さとの積である。
【0044】
正極片の片面の面密度Q:
正極片の片面の面密度Qは、式Q=1540.25m/Arにより算出される。当該式において、mは正極活物質層の質量であって、その単位はgであり、Arは正極活物質層の面積であって、その単位はmmである。
【0045】
正極活物質のDv50及びDv90の測定:
第1の正極活物質及び第2の正極活物質のDv50、Dv90は、レーザー粒度計を用いて測定される。
【0046】
高温サイクル性能の測定:
60℃の条件で、リチウムイオン二次電池を1Cレートで3.6Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下になるまで定電圧充電してから、1Cレートで2.5Vまで定電流放電する。これを1つの充放電サイクルとし、リチウムイオン二次電池の1回目のサイクルの放電容量を記録する。リチウムイオン二次電池を上記の方法で充放電サイクルを1000回行い、1000回目のサイクルの放電容量を記録して、容量維持率=1000回目のサイクルの放電容量/1回目のサイクルの放電容量によって、容量維持率を記録する。
【0047】
レート性能の測定:
25℃の条件で、リチウムイオン二次電池を0.2Cのレートで3.6Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、その後30分間静置してから、更に、0.2Cレートで2.5Vまで定電流放電する。測定するによってリチウムイオン二次電池の0.2Cレートの放電容量を得る。
25℃の条件で、リチウムイオン二次電池を0.2Cレートで3.6Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、その後30分間静置してから、更に、1Cレートで2.5Vまで定電流放電する。測定するによってリチウムイオン二次電池の1Cレートの放電容量を得る。
リチウムイオン二次電池の1Cレートの放電容量維持率(%)=1Cレートの放電容量/0.2Cレートの放電容量×100%。
【0048】
エネルギー密度の測定:
25℃の条件で、リチウムイオン二次電池を0.2Cレートで3.6Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、その後30分間静置してから、更に、0.2Cレートで2.5Vまで定電流放電し、リチウムイオン二次電池の0.2Cレートでの放電容量D(Ah)及び放電プラットフォーム V(V)を記録する。リチウムイオン電池の質量を秤量し、m(kg)とする。
リチウムイオン二次電池のエネルギー密度は、エネルギー密度=D×V/mによって算出される。
【0049】
充放電比容量の測定:
【0050】
<ボタン型電池の調製>
第2の正極活物質と、導電剤である導電性カーボンブラックと、粘着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを90:5:5の質量比で混合し、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を添加して、撹拌して固形分含有量が40%であるスラリーを調製し、ドクターブレードにより、集電体であるアルミニウム箔に、塗布層の厚さが100μmとなるように塗布し、真空乾燥器による乾燥を130℃で12h行った後、乾燥環境で打ち抜き機によって直径が1cmの円形片に切り出し、グローブボックス内でリチウム金属片を対電極とし、ceglard複合膜をセパレーターとして選択し、電解液を添加し組み立ててボタン型電池を得る。電解液はエチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、30:50:20の質量比で混合して得られた有機溶液であり、電解液におけるリチウム塩の濃度は1.15mol/Lである。
【0051】
<充電比容量の測定>
本発明において、Wuhan Landian CT2001Aシステムを使用して充電比容量の測定を行う。第2の正極活物質を含む測定用ボタン型電池を25±3℃の雰囲気で30分間静置し、0.1C(グラムあたりの理論容量は400mAh/gとされる)レートで電圧が4.4Vになるまで定電流充電し、次に電流が0.025Cになるまで定電圧充電し、充電容量を記録する。
第2の正極活物質を含むボタン型電池の充電比容量=充電容量/第2の正極活物質の質量。
【0052】
<放電比容量の測定>
本発明において、Wuhan LandianCT2001Aシステムを使用して放電比容量の測定を行う。第2の正極活物質を含む測定用ボタン型電池を25±3℃の雰囲気で30分間静置し、0.1C(グラムあたりの理論容量は400mAh/gとされる)レートで電圧が4.4Vになるまで定電流充電し、次に電流が0.025Cになるまで定電圧充電し、5min静置してから、ボタン型電池は、更に、0.1Cでカットオフ電圧が2.5Vになるまで定電流放電し、初回放電容量を記録する。
第2の正極活物質を含むボタン型電池の放電比容量=放電容量/第2の正極活物質の質量。
【0053】
実施例1
【0054】
<正極片の調製>
第1の正極活物質であるLi0.998Na0.002Fe0.996Ti0.002POと、第2の正極活物質であるLi1.995Na0.005NiOと、粘着剤であるPVDFと、導電剤であるカーボンブラックとを混合した。ここで、Li0.998Na0.002Fe0.996Ti0.002POと、Li1.995Na0.005NiOと、PVDFと、導電性カーボンブラックとの質量比は93.6:2.8:2.1:1.5である。そして、溶媒としてNMPを添加し、真空で均一かつ透明な溶液になるまで撹拌することにより、固形分含有量が75%である正極スラリーを得た。正極スラリーを、厚さ10μmの正極集電体であるアルミニウム箔に均一に塗布し、130℃の条件で乾燥させ、塗布層の厚さが110μmである正極片を得た。以上のステップが完了した後、正極片の片面での塗布は完了した。その後、当該正極片の他の表面に対して、上記のステップを繰り返すことにより、両面に正極活物質が塗布された正極片を得た。塗布が完了した後、さらに冷間プレスを行い、正極片を74mm×867mmに裁断してタブを溶接した後、二次電池用正極片が得られた。
【0055】
<負極片の調製>
負極活物質であるグラファイトと、ナノレベルの導電性カーボンブラックと、スチレンブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロースナトリウムとを、95:2:1.5:1.5の質量比で混合し、溶媒として脱イオン水を添加して、固形分含有量が70%であるスラリーを調製して、均一に撹拌した。スラリーを集電体である銅箔に均一に塗布し、110℃の条件で乾燥させ、冷間プレスを行った後に、負極活物質層の厚さが150μmであり、かつ片面に活物質層が塗布された負極片を得た。以上のステップが完了した後、同様の方法で当該負極片の裏面に対して、これらのステップを行うことにより、両面で塗布された負極片を得た。塗布が完了した後、負極片を76mm×851mmに裁断し、タブを溶接した後、二次電池用負極片が得られた。
【0056】
<電解液の調製>
乾燥のアルゴン雰囲気において、有機溶媒であるエチレンカーボネートと、メチルエチルカーボネートと、ジエチルカーボネートとを、EC:EMC:DEC=30:50:20の質量比で混合して有機溶液を得た。そして、有機溶媒にリチウム塩であるヘキサフルオロリン酸リチウムを添加し溶解させ、均一に混合することで、リチウム塩の濃度が1.15mol/Lである電解液を得た。
【0057】
<セパレータの調製>
厚さ14μmのポリプロピレン(PP)フィルム(Celgard社製)を使用した。
【0058】
<リチウムイオン電池の調製>
セパレータが正極片と負極片との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記で調製された正極片、セパレーター、負極片を順に積層し、巻いて電極組立体を得た。電極組立体をアルミニウムプラスチック複合フィルム包装袋に入れて、80℃で水分を除去し、調製された電解液を注入し、真空封止、静置、フォーメーション、成形などの工程を行うことにより、リチウムイオン電池を得た。
【0059】
実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例11、実施例12、実施例13、実施例14、実施例15、実施例16、実施例17、実施例18及び実施例19において、<正極片の調製>、<負極片の調製>、<電解液の調製>、<セパレータの調製>、及び<リチウムイオン電池の調製>の調製工程については、いずれも実施例1と同様であり、関連する調製パラメータの変化は表1に示される。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び比較例5において、<正極片の調製>、<負極片の調製>、<電解液の調製>、<セパレータの調製>、及び<リチウムイオン電池の調製>の調製工程については、いずれも実施例1と同様であり、関連する調製パラメータの変化は表2に示される。
【0062】
【表2】
【0063】
比較例6
<第2の正極活物質の調製>
適量のクエン酸を秤量してLiNiOに添加し(クエン酸とLiNiOとの質量比が1:50である)、エタノールを溶媒として機械的に撹拌して混合し、1hの超音波分散を行って、混合溶液を得た。その後、水浴で撹拌して溶媒を揮発させ、乾燥生成物を得た後に窒素雰囲気で1回目の焼結を行い、焼結温度は350℃であり、焼結時間は4hであり、冷却後に上記生成物とアセチレンブラックとを十分に砕いて粉末にした(上記生成物とアセチレンブラックとの質量比は97:3である)。そして、不活性雰囲気で2回目の焼結を行い、焼結温度は600℃であり、焼結時間は8hであり、これにより、炭素被覆LiNiOの第2の正極活物質を得た。
<正極片の調製>、<負極片の調製>、<電解液の調製>、<セパレータの調製>、及び<リチウムイオン電池の調製>については、実施例1と同様である。
【0064】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例11、実施例12、実施例13、実施例14、実施例15、実施例16、実施例17、実施例18、実施例19、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、及び比較例6の調製パラメータ及び試験結果は、表3に示される。
【0065】
【表3】
【0066】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例11、実施例12、実施例13、実施例14、実施例15、実施例16、実施例17、実施例18、実施例19、及び比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例6から分かるように、第1の正極活物質と第2の正極活物質を併用することにより、相乗効果を生み出し、初回充電時に、第2の正極活物質の高い初回充電比容量、低い初回効率という特性を利用し、SEIの生成による活性リチウムの損失を効果的に補うため、初回放電時に十分なリチウムイオンが第1の正極活物質に戻して插入されることにより、リチウムイオン二次電池の放電比容量を効果的に向上させ、更にエネルギー密度を向上させることができる。一方、第1の正極活物質は、構造が安定しており、サイクル特性も良好である。そして、正極片の圧縮密度R及び片面の面密度Qを本発明の範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池に良好なレート性能を付与することができる。
【0067】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例13、実施例14、実施例15及び比較例5から分かるように、正極片において、同じ第1の正極活物質及び第2の正極活物質を使用する場合、リチウムイオン二次電池のサイクル性能、レート性能、及びエネルギー密度は第1の正極活物質及び第2の正極活物質の含有量によって変化する。正極活物質層における第1の正極活物質及び第2の正極活物質の含有量が本発明の範囲内であると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、レート特性、及びエネルギー密度が著しく改善される。正極片の圧縮密度Rと片面の面密度Qとの間の比例関係も、一般的にリチウムイオン二次電池の性能に影響を与えるため、正極片の圧縮密度Rと片面の面密度Qとの比を本発明の範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル安定性及びレート性能を向上させることができる。
【0068】
実施例8及び比較例4から分かるように、同じ第1の正極活物質を使用する場合、本発明の第2の正極活物質を使用することにより、第1の正極活物質と第2の正極活物質との相乗効果がより効果的に発揮され、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、レート特性、及びエネルギー密度が著しく改善される。
【0069】
以上の分析から分かるように、本発明に係る正極片は、適切な第1の正極活物質及び第2の正極活物質を選択することにより、当該正極片に第1の正極活物質と第2の正極活物質との相乗効果を十分に発揮させることにより、電気化学装置の放電比容量を効果的に向上させ、さらに、電気化学装置のエネルギー密度、サイクル性能、及びレート性能も向上させることができる。
【0070】
以上の説明は単に本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の構想及び旨の範囲内で、行われた任意の変更、同等置換、改良などは、いずれも本発明が保護請求する範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5