(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】NAD+及び/又はNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストの使用及びその配合剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20240208BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20240208BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20240208BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240208BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240208BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240208BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240208BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K31/455
A61K31/7084
A61K35/17
A61P29/00
A61P37/04
A61P37/06
A61P31/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021572023
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 CN2019090022
(87)【国際公開番号】W WO2020243911
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】518222745
【氏名又は名称】上海科技大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI TECH UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.393 Middle Huaxia Road, Pudong New Area, Shanghai, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】範 高峰
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲こう▼鵬
(72)【発明者】
【氏名】王 月桐
(72)【発明者】
【氏名】王 飛
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0067272(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107375934(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107964012(CN,A)
【文献】国際公開第2020/114518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-35/768
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤の、製剤又は試薬キットの製造における使用であって、
前記製剤又は試薬キットは、
(1)T細胞活性の調節、及び/又は、
(2)T細胞表面のCD69発現レベルの調節、及び/又は、
(3)T細胞内のリン酸化レベルの調節、及び/又は、
(4)T細胞活性に関連する疾病の治療、に用いられ、
前記NAD+及び/又はNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストは、単一の有効成分であり、
前記T細胞はCAR-T細胞、又はTCR-T細胞から選択され、
前記NAD+アゴニストは、
ニコチンアミド(NAM)であり、
前記NAD+阻害剤は、
FK866(CAS No. 658084-64-1、下記式で表される化合物)
【化1】
である、
使用。
【請求項2】
前記製剤又は試薬キットは、T細胞内のNAD+レベルの調節に用いられ、
及び/又は、前記調節には正の調節と負の調節が含まれ、
及び/又は、前記T細胞活性は、具体的にはT細胞の細胞殺傷能力であり、前記細胞殺傷能力は腫瘍細胞殺傷能力であり、
及び/又は、上記のT細胞活性に関連する疾病は、T細胞の活性化不足に関連する疾病、及び/又は、T細胞の過剰活性化に関連する疾病から選択され、
及び/又は、上記のT細胞活性に関連する疾病は、T細胞の炎症抑制や免疫反応機能の過度の低下、腫瘍、伝染性疾患、自己免疫疾患、T細胞媒介炎症、移植拒絶反応から選択されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
T細胞と、NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤を含み、
前記NAD+阻害剤は、
FK866(CAS No. 658084-64-1、下記式で表される化合物)
【化2】
であり、
前記NAD+アゴニストは、NAD+、
ニコチンアミド(NAM)のうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択され、
前記T細胞は、CAR-T細胞、TCR-T細胞から選択され
る、
配合剤。
【請求項4】
請求項3に記載の配合剤の、薬物製造における使用。
【請求項5】
前記薬物は、T細胞活性に関連する疾病の治療に用いられる薬物から選択されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野に関し、特に、T細胞活性の調節におけるNAD+及び/又はNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界における重大な公衆衛生問題であり、心血管疾患に代わって第1の致死性疾患となりつつある。よって、癌治療の攻略には一刻の猶予もない。近年、腫瘍の臨床治療においては免疫療法が革命的効果をあげている。現在のところ、臨床的免疫療法には、主に、免疫チェックポイント阻害剤療法と養子T細胞療法が存在する。免疫チェックポイント阻害剤を利用した癌の治療ストラテジーは、メラノーマ、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌といった疾病の臨床治療において印象的な効果を得ている。しかし、これらの阻害剤に対して最初から反応を示す患者は約20~40%にすぎず、かなりの割合の初期反応者が、最終的には数か月後又は数年後に再発している。一方、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、患者の体内からT細胞を取得して遺伝子改変を行ったあと、改変したT細胞を患者の体内に戻すことで、患者体内の腫瘍細胞に対し特異的な免疫反応を活性化させる治療法である。CAR-Tを対象に改変したドメインの違いによって、すでに4世代のCAR-T細胞が存在し、臨床試験を実施中であったり、FDAの承認を受けたりしている。T細胞は、活性化後に分化して長寿命のメモリーT細胞を産生することが多いため、この種の治療法は良好な時効性を有しており、造血系悪性腫瘍の治療において目覚ましい成果を得ている。しかし、今のところ、固形腫瘍への応用は非常に限られており、患者が長期的な効果を得られないことが多い。
【0003】
腫瘍微小環境や分子免疫学の研究が進むにつれて、腫瘍細胞における免疫回避のメカニズムや、細胞免疫反応の複雑な調節ネットワークが明らかとなっている。これらについては、主に以下が存在する。第一に、腫瘍細胞は、PD-L1等の免疫チェックポイントリガンドを高発現することで免疫殺傷を回避する。こうした発見から、PD-1やCTLA-4の抗体系薬が誕生しており、一部の腫瘍患者において非常に良好な治療効果を得ている。このほか、いくつかの新たな免疫チェックポイントについても、前臨床腫瘍モデルの作製や臨床試験効果の評価が行われている(例えば、LAG-3、TIM-3及びVISTA)。第二に、腫瘍微小環境における間質細胞、免疫抑制性単球、マクロファージ等がサイトカインを分泌することで、T細胞を腫瘍細胞から離れた基質部位に凝集させたり、腫瘍細胞を包み込んでT細胞に認識されないようにしたり、T細胞の分化方向を調節して免疫反応を抑制可能としたりする。よって、臨床で免疫療法を実施する際には、この種のサイトカインに特異的な阻害剤を併用することが多い。第三に、重視すべき点として、腫瘍微小環境は、代謝物質を変化させることで免疫細胞の活性を調節することも可能である。例えば、腫瘍細胞が嫌気的解糖に偏向することで、環境中の乳酸濃度が著しく上昇し、腫瘍関連マクロファージがM2型への分化に傾く結果、T細胞の活性化が抑制される。ここ10年間の研究で、免疫反応過程では、T細胞の増殖と分化に代謝の調節が密接に関連することが明らかとなっている。T細胞が抗原を検知すると、免疫応答が惹起されて、細胞が相対的な静止状態から高活性化状態へと変化する。そして、抗原負荷の減少に伴って、大部分の活性型T細胞はプログラム細胞死を開始する。しかし、少数の長寿命のメモリーT細胞は、時間が経過しても相対的な静止状態を維持し続ける。また、T細胞内の代謝活動もT細胞の状態変化に伴って変化する。例えば、T細胞が相対的な静止状態にある場合(例えば、naive T細胞又はメモリーT細胞)、細胞は、主に異化に依存して栄養素を完全に分解することで必要なエネルギーを生成する(例えば、ピルビン酸代謝(TCA))。これに対し、活性化したT細胞では、より多くのエネルギー需要について解決するとと
もに、大量のサイトカイン合成に必要な分子を十分とするために、より多くを解糖系又は酸化的リン酸化経路に依存してエネルギーを生成するようになる。そのため、T細胞の活性化過程において、T細胞は、ミトコンドリアの活性化によるTCA代謝機能への依存から、嫌気的解糖依存への転換を経る。例えば、CD28は、T細胞を刺激して活性化する際に、瞬時にカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1A(CPT1A)の発現を促進し、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化を強化することで、ミトコンドリアを伸長させるとともに、クリステ間隔を縮小させる。また、T細胞が静止状態に戻る過程では、ミトコンドリアが徐々に短くなってクリステ構造が緩む。しかし、腫瘍の免疫過程において、腫瘍微小環境が腫瘍内免疫細胞の代謝レベル調節にどのように関わっているのかについては、今のところ十分に明らかとはなっていない。よって、T細胞の代謝改善によってT細胞の腫瘍殺傷能力を強化することが、現在の研究における重点及び技術的難点となっている。
【0004】
ところで、アンチエイジングにおいてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)が発揮する重要な作用が広く注目を集めている。現在、すでに、NAD+と腫瘍細胞及び癌との間に一定の関連性が存在することを明らかとした研究があり、当該分野における重要な研究課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術の欠点に鑑みて、本発明の目的は、NAD+及び/又はNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストの、T細胞活性の調節における使用を提供し、従来技術の課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的及び関連するその他の目的を実現するために、本発明は、第1の局面において、NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤の、製剤又は試薬キットの製造における使用を提供する。前記製剤又は試薬キットは、(1)T細胞活性の調節、及び/又は、(2)T細胞表面のCD69発現レベルの調節、及び/又は、(3)T細胞内のリン酸化レベルの調節、及び/又は、(4)T細胞活性に関連する疾病の治療、に用いられる。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態において、前記NAD+アゴニストは、NAD+前駆体系アゴニスト、NAMPTアゴニスト、PARP阻害剤、SIRT阻害剤、CD38阻害剤、NAD+代謝酵素系阻害剤のうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態において、前記NAD+阻害剤は、NAMPT阻害剤、NAD合成酵素1阻害剤、SIRTアゴニストのうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、前記製剤又は試薬キットは、T細胞内のNAD+レベル又はNAD+活性の調節に用いられる。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、前記調節には正の調節と負の調節が含まれる。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、前記T細胞活性は、具体的にはT細胞の細胞殺傷能力であり、前記細胞殺傷能力は腫瘍細胞殺傷能力である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、前記T細胞は、CAR-T細胞、TCR-T細胞から選択される。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態において、上記のT細胞活性に関連する疾病は、T細胞の活性化不足に関連する疾病、又は、T細胞の過剰活性化に関連する疾病から選択される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、上記のT細胞活性に関連する疾病は、T細胞の炎症抑制や免疫反応機能の過度の低下、腫瘍、伝染性疾患、自己免疫疾患、T細胞媒介炎症、移植拒絶反応から選択される。
【0015】
本発明は、他の局面において、調節方法を提供する。前記調節方法は、(1)T細胞活性の調節、及び/又は、(2)T細胞表面のCD69発現レベルの調節、及び/又は、(3)T細胞内のリン酸化レベルの調節、に用いられる。及び/又は、前記調節方法は、具体的に、NAD+の細胞内レベル又は活性を調節することでT細胞活性を調節する。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、具体的に、T細胞をNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストが存在する条件に置く。前記NAD+阻害剤は、NAMPT阻害剤、NAD合成酵素1阻害剤、SIRTアゴニストのうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。前記NAD+アゴニストは、NAD+、NAD+前駆体系アゴニスト、NAMPTアゴニスト、PARP阻害剤、SIRT阻害剤、CD38阻害剤、NAD+代謝酵素系阻害剤のうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、前記調節は生体外調節である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、前記調節には正の調節と負の調節が含まれる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、前記T細胞活性は、T細胞の細胞殺傷能力から選択され、好ましくは、腫瘍細胞殺傷能力である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、前記T細胞は、CAR-T細胞、TCR-T細胞から選択される。
【0021】
本発明は、他の局面において、配合剤を提供する。前記配合剤は、T細胞と、NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤を含む。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、前記NAD+阻害剤は、NAMPT阻害剤、NAD合成酵素1阻害剤、SIRTアゴニストのうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、前記NAD+アゴニストは、NAD+、NAD+前駆体系アゴニスト、NAMPTアゴニスト、PARP阻害剤、SIRT阻害剤、CD38阻害剤、NAD+代謝酵素系阻害剤のうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、前記T細胞は、CAR-T細胞、TCR-T細胞から選択される。
【0025】
本発明は、他の局面において、前記配合剤の、薬物製造における使用を提供する。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、前記薬物は、T細胞活性に関連する疾病の治療に用いられる薬物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1におけるNAD+代謝によるT細胞の活性化能力の調節を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例2におけるNAD+代謝によるT細胞の生体外殺傷能力の調節を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例3におけるNAD+の代謝前駆体であるニコチンアミド(NAM)とCAR-Tの併用による腫瘍治療効果の強化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の発明者は、大量の実験研究を通じて、NAD+レベルを調節する物質が、T細胞表面におけるCD69の発現レベル及び細胞内のリン酸化レベルに影響を及ぼす結果、T細胞の活性に顕著な影響を及ぼし得ることを想定外に発見した。そこで、これを元に本発明を完了した。
【0029】
本発明は、第1の局面において、NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤の、製剤又は試薬キットの製造における使用を提供する。前記製剤又は試薬キットは、T細胞活性の調節、及び/又は、T細胞表面のCD69発現レベルの調節、及び/又は、T細胞内のリン酸化レベルの調節、及び/又は、T細胞活性に関連する疾病の治療に用いられる。NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、補酵素I、Nicotinamide adenine dinucleotide)は、ヌクレオチド系補酵素である。T細胞活性の調節は、T細胞内におけるNAD+の(含有量)レベルによって体現可能である。前記調節は正の調節とすることができる。例えば、NAD+及び/又はNAD+アゴニストによりNAD+の細胞内レベル及び/又はNAD+の活性を向上させることで、T細胞活性の強化、T細胞表面のCD69発現レベルのアップレギュレーション、又はT細胞内のリン酸化レベルのアップレギュレーションが可能となる。また、前記調節は負の調節としてもよい。例えば、NAD+阻害剤によりNAD+の細胞内レベル及び/又はNAD+の活性を低下させることで、T細胞活性の低下、T細胞表面のCD69発現レベルのダウンレギュレーション、又はT細胞内のリン酸化レベルのダウンレギュレーションが可能となる。
【0030】
本発明において、通常、前記NAD+阻害剤は、NAD+の細胞内(含有量)レベル及び/又はNAD+の活性を低下可能とする物質のことである。前記NAD+阻害剤の種類は当業者にとって既知のものとする。例えば、前記NAD+阻害剤は、NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)阻害剤、NAD合成酵素1阻害剤、SIRTアゴニストのうちの1種類又は複数種類の組み合わせから選択可能である(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記NAMPT阻害剤は、具体的に、STF-118804、GMX1778、KPT-9274、FK866、Nampt-IN-1、GNE-617hydrochloride、GNE-617、CB30865、KPT-9274等を含み得る(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記NAD合成酵素1阻害剤は、具体的に、NADSYN1i等を含み得る(但し、これに限らない)。更に、例えば、前記SIRTアゴニストは、具体的に、SRT1720、CAY10602、MDL-801、Quercetin、SRT2104等を含み得る(但し、これらに限らない)。
【0031】
本発明において、NAD+の細胞内レベル及び/又はNAD+の活性を向上させ得る物質は、NAD+アゴニスト及び/又はNAD+そのものとすることができる。前記NAD+アゴニストの種類は当業者にとって既知のものとする。例えば、NAD+以外に、前記NAD+アゴニストは、NAD+前駆体系アゴニスト、NAMPTアゴニスト、PARP阻害剤、SIRT阻害剤、CD38阻害剤、NAD+代謝酵素系阻害剤等のうちの1種類又は複数種類の組み合わせを含んでもよい(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記NAD+前駆体系アゴニストは、ニコチンアミド(NAM)、ニコチン酸(NA)、ニ
コチン酸モノヌクレオチド(nicotinic acid mononucleotide:NAMN)、トリプトファン(TRP)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、キノリン酸(QA)、ニコチンアミドリボシド(nicotinamide riboside:NR)等のうちの1種類又は複数種類の組み合わせを含み得る(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記NAMPTアゴニストは、具体的に、P7C3等とすることができる。更に、例えば、前記PARP阻害剤は、具体的に、PARP-2-IN-1、3-アミノベンズアミド、UPF1069、ベリパリブ(Veliparib)、AZD-2461、E7449、ルカパリブ(Rucaparib)、オラパリブ(Olaparib)、タラゾパリブトシル酸塩(Talazoparib tosylate)、A-966492、AG14361、NMS-P118、パミパリブ(Pamiparib)、イニパリブ(Iniparib)等を含み得る(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記SIRT阻害剤は、具体的に、SIRT-IN-2、AGK2、テノビン6塩酸塩(Tenovin 6 Hydrochloride)、OSS_128167、3-TYP、サレルマイド(Salermide)、AK-7等を含み得る(但し、これらに限らない)。更に、例えば、前記CD38阻害剤は、具体的に、CD38阻害剤1(CD38 inhibitor 1)、アピゲニン(Apigenin)等を含み得る(但し、これらに限らない)。更に、例えば、NAD+代謝酵素系阻害剤は、具体的にACMSD阻害剤等を含み得、ACMSD阻害剤は、具体的に、TES-1025、TES-991等を含み得る(但し、これらに限らない)。
【0032】
本発明において、T細胞活性の調節は、T細胞表面のCD69の発現レベルによって体現可能である。前記調節には、正の調節と負の調節が含まれる。例えば、NAD+阻害剤は、T細胞表面のCD69の発現レベルを低下可能とする。通常、T細胞表面のCD69の発現レベルの低下は、T細胞の活性低下を意味する。更に、例えば、NAD+アゴニストは、T細胞表面のCD69の発現レベルを向上可能とする。通常、T細胞表面のCD69の発現レベルの向上は、T細胞の活性向上を意味する。
【0033】
本発明において、T細胞活性の調節は、T細胞内の(チロシン)リン酸化レベルによって体現可能である。前記調節には、正の調節と負の調節が含まれる。例えば、NAD+阻害剤は、T細胞内のリン酸化レベルを低下可能とする。通常、T細胞内のリン酸化レベルの低下は、T細胞の活性低下を意味する。更に、例えば、NAD+アゴニストは、T細胞内のリン酸化レベルを向上可能とする。通常、T細胞内のリン酸化レベルの向上は、T細胞の活性向上を意味する。
【0034】
本発明において、通常、前記T細胞とはCD3+T細胞を意味する。また、前記T細胞活性とは、通常、細胞に対するT細胞の殺傷能力を意味し、好ましくは、標的細胞に対する殺傷能力を意味する。通常、前記標的細胞とは腫瘍細胞とすることができる。また、前記T細胞は、遺伝子導入技術により改変して得られるT細胞としてもよく、具体的には、CAR-T細胞(Chimeric Antigen Receptor T-Cell、キメラ抗原受容体T細胞)、TCR-T細胞(T細胞受容体導入T細胞)等を含み得る(但し、これらに限らない)。通常、前記CAR-T細胞とは、改変された受容体を細胞膜表面に含むT細胞である。通常、膜結合受容体は細胞外領域を1つ含んでもよいし、細胞外ヒンジ領域を1つ、膜貫通領域を1つ及び細胞内シグナル領域を1つ含んでもよい。通常、前記細胞外領域は、標的細胞を標的とする分子(腫瘍関連抗原結合領域)を含み得る。通常、前記TCR-T細胞は、T細胞受容体を形質導入したT細胞を意味し、T細胞受容体によって標的細胞の内部又は表面の抗原を認識することで、標的細胞を標的とし得る。本発明の別の具体的実施例において、前記T細胞はCAR-T細胞である。前記CAR-T細胞の細胞外領域が抗CD19一本鎖抗体(single-chain variable fragment,scFv)を含むことで、CD19を過剰発現した腫瘍細胞を対象とすることが可能となる。当該腫瘍細胞は、例えば、具体的に、CD19陽性B細胞
悪性腫瘍、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)、及びB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)等とすることができる。T細胞の活性を調節することで、更に、CAR-T細胞の活性も調節可能となる。本発明の具体的実施例において、活性調節後のCAR-T細胞はより強い腫瘍細胞殺傷能力を有し、腫瘍細胞の増殖を著しく抑制可能となる。また、これにより、担癌マウスの生存期間が延長される。
【0035】
本発明で提供する製剤又は試薬キットにおいて、前記NAD+及び/又はNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストは、単一の有効成分としてもよいし、その他の活性成分(即ち、NAD+、NAD+阻害剤、NAD+アゴニストを除くその他の成分)と組み合わせて、T細胞活性、T細胞表面のCD69発現レベル、T細胞内のリン酸化レベルの調節、又はT細胞活性に関連する疾病の治療に関与させてもよい。
【0036】
本発明において、前記製剤又は試薬キットは、T細胞活性に関連する疾病の治療に適用可能である。「治療」との用語には、所望の薬学的及び/又は生理学的効果をもたらし得る予防的、治愈的又は緩和的処置が含まれる。また、その効果とは、好ましくは、疾病の1又は複数の症状を医療的に減少させられること、或いは、疾病を完全に除去できること、或いは、疾病の発生を停滞、遅延させられること、及び/又は、疾病の進行又は悪化のリスクを低下させられることを意味する。T細胞活性に関連する疾病とは、具体的に、T細胞の過剰活性化に関連する疾病、及び/又は、T細胞の活性化不足に関連する疾病とすることができる。T細胞の活性化不足に関連する疾病は、T細胞の炎症抑制や免疫反応機能の過度の低下、腫瘍、伝染性疾患とすることができる。T細胞の過剰活性化に関連する疾病は、自己免疫疾患、T細胞媒介炎症、移植拒絶反応等とすることができる。前記腫瘍は、具体的に、血液癌、骨癌、リンパ癌(リンパ球腫を含む)、腸癌、肝臓癌、胃癌、骨盤内癌(子宮癌、子宮頸癌を含む)、肺癌(縦隔癌を含む)、脳腫瘍、神経癌、乳癌、食道癌、腎臓癌等を含み得る(但し、これらに限らない)。
【0037】
本発明は、第2の局面において、調節方法を提供する。前記調節方法は、T細胞活性の調節に適用可能である。T細胞活性の調節は、T細胞表面のCD69発現レベルによって体現可能である。また、T細胞活性の調節は、T細胞表面のCD69発現レベルによっても体現可能である。具体的に、前記調節方法は以下を含み得る。即ち、NAD+の細胞内レベル又は活性を調節することで、T細胞活性及び/又はT細胞表面のCD69発現レベル及び/又はT細胞内のリン酸化レベルを調節する。前記調節方法において、T細胞活性とは、具体的にはT細胞の細胞殺傷能力等とすることができ、具体的には、T細胞表面のCD69発現レベル及び/又はT細胞内のリン酸化レベルによって体現可能である。T細胞はCAR-T細胞から選択可能である。前記T細胞活性の調節には、例えば、T細胞活性の強化及び/又はT細胞活性の低下を可能とする正の調節及び負の調節が含まれる。
【0038】
当業者は、適切な方法を選択して、T細胞におけるNAD+の細胞内レベル又は活性を調節可能である。これらの方法は、生体外で調節する方法とすることができる。例えば、T細胞を外部由来のNAD+、NAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストが存在する条件に置けばよい。本発明の好ましい実施例において、NAD+及び/又はNAD+アゴニストの使用量は50~150μMとすることができ、NAD+阻害剤の使用量は10~1000nMとすることができる。本発明の他の好ましい実施形態において、外部由来のNAD+、NAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストは、培地に直接添加可能である。また、これらの方法は生体内で行ってもよく、例えば、個体に外部由来のNAD+、NAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストを投与してもよい。これらの方法は、生体内で調節する方法としてもよく、例えば、マウスモデルレベルでの生体内調節としてもよい。
【0039】
本発明で提供する調節方法において、前記NAD+阻害剤は、本発明の第1の局面で記載した各種NAD+阻害剤とすることができる。また、前記NAD+アゴニストは、本発明
の第1の局面で記載した各種NAD+アゴニストとすることができる。前記外部由来のNAD+、NAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストは、単一の有効成分としてT細胞活性の調節に用いてもよいし、T細胞活性を調節するためのその他の成分と組み合わせてT細胞活性の調節に関与させてもよい。
【0040】
本発明は、第3の局面において、組成物を提供する。前記組成物は、NAD+、NAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤を含む。前記組成物は、T細胞活性の調節、及び/又は、T細胞表面のCD69発現レベルの調節、及び/又は、T細胞内のリン酸化レベルの調節、及び/又は、T細胞活性に関連する疾病の治療に適用可能である。前記組成物に使用されるNAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤及びそのメカニズムについては、本発明の第1の局面における関連の内容を参照すればよい。前記薬物組成物において、NAD+、NAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤は、単一の有効成分としてもよいし、その他の活性成分と組み合わせてもよい。
【0041】
本発明は、第4の局面において、配合剤を提供する。前記配合剤は、T細胞と、NAD+及び/又はNAD+アゴニスト及び/又はNAD+阻害剤を含む。前記T細胞はCAR-T細胞とすることができる。前記NAD+阻害剤は本発明の第1の局面で記載した各種NAD+阻害剤とすることができる。また、前記NAD+アゴニストは、本発明の第1の局面で記載した各種NAD+アゴニストとすることができる。個体にNAD+阻害剤及び/又はNAD+アゴニストを投与するとともに、活性化させたCAR-T細胞を個体に投与することで、CAR-T細胞の活性を調節可能となる。これにより、CAR-T細胞は、より強い腫瘍細胞殺傷能力を有して腫瘍細胞の増殖を著しく抑制可能となり、担癌マウスの生存期間が延長される。
【0042】
本発明の第5の局面では、本発明の第4の局面で提供した配合剤の、薬物の製造過程における使用を提供する。通常、前記薬物は、T細胞活性に関連する疾病の治療に用いられる薬物とすることができる。T細胞活性に関連する疾病とは、具体的に、T細胞の過剰活性化に関連する疾病、及び/又は、T細胞の活性化不足に関連する疾病とすることができる。T細胞の活性化不足に関連する疾病は、T細胞の炎症抑制や免疫反応機能の過度の低下、腫瘍、伝染性疾患とすることができる。T細胞の過剰活性化に関連する疾病は、自己免疫疾患、T細胞媒介炎症、移植拒絶反応等とすることができる。前記腫瘍は、具体的に、血液癌、骨癌、リンパ癌(リンパ球腫を含む)、腸癌、肝臓癌、胃癌、骨盤内癌(子宮癌、子宮頸癌を含む)、肺癌(縦隔癌を含む)、脳腫瘍、神経癌、乳癌、食道癌、腎臓癌等を含み得る(但し、これらに限らない)。
【0043】
本発明は、第6の局面において、治療有効量のNAD+、NAD+阻害剤、NAD+アゴニスト、又は本発明の第4の局面で提供した配合剤を個体に投与する治療法を提供する。本発明で提供する治療法は、腫瘍、自己免疫疾患、炎症反応、伝染性疾患、移植拒絶反応等を含む(但し、これらに限らない)適応症の治療に適用可能である。前記腫瘍は、具体的に、血液癌、骨癌、リンパ癌(リンパ球腫を含む)、腸癌、肝臓癌、胃癌、骨盤内癌(子宮癌、子宮頸癌を含む)、肺癌(縦隔癌を含む)、脳腫瘍、神経癌、乳癌、食道癌、腎臓癌等を含み得る(但し、これらに限らない)。
【0044】
本発明において、「個体」とは、通常、ヒト、ヒト以外の霊長類、犬、猫、馬、羊、ブタ、牛等の哺乳動物を含む。「個体」は、前記製剤、試薬キット又は配合剤を利用した治療により利益を得ることができる。
【0045】
本発明において、「治療有効量」とは、通常、適切な投与期間の経過後に、上記で列挙した疾病を治療する効果を達成可能な用量を意味する。
【0046】
T細胞、NAD+、NAD+阻害剤、NAD+アゴニストの投与経路は当業者にとって既知のものとする。例えば、経口、経直腸、経胃・経腸以外(静脈内、筋肉内又は皮下等)、局所投与等の方式で、NAD+、NAD+阻害剤又はNAD+アゴニストを投与可能である。また、例えば、静脈注射経路によってT細胞を投与可能である。通常、T細胞、NAD+、NAD+阻害剤、NAD+アゴニストの投与量とは安全有効量のことをいう。例えば、NAD+及び/又はNAD+アゴニストの投与量は400~600mg/kg/dayとすることができ、NAD+阻害剤の投与量は50~150mg/kg/dayとすることができ、T細胞の投与量は0.5×106~5×106細胞/20gとすることができる。
【0047】
本発明の発明者は、NAD+代謝経路によってT細胞の活性を調節し得ることを革新的に見出した。生体外実験の結果、NAD+レベルを上昇させることで、腫瘍細胞に対するT細胞の殺傷能力を著しく向上させられることが証明された。更に、生体内実験の結果、NAD+関連の合成前駆体を補充することで、腫瘍に対するT細胞の殺傷効果を強化可能なことも証明された。このことから、NAD+をキメラ抗原受容体T細胞と組み合わせることで、腫瘍免疫療法の効果を著しく向上させられることが証明された。よって、現在のキメラ抗原受容体T細胞療法は固形腫瘍の治療効果に劣るとの課題が解決される可能性があり、良好な産業化の見込みがある。
【0048】
以下に、特定の具体的実施例によって、本発明の実施形態につき説明する。なお、当業者であれば、本明細書で開示した内容から本発明のその他の利点及び効果を容易に理解可能である。更に、本発明はその他の異なる具体的実施形態によっても実施又は応用が可能である。また、本明細書の各詳細事項については、視点及び応用の違いに応じて、本発明の精神を逸脱しないことを前提に各種の補足又は変更が可能である。
【0049】
本発明の具体的実施形態について更に記載する前に、理解すべき点として、本発明の保護の範囲は後述する特定の具体的実施方案に限らない。更に、理解すべき点として、本発明の実施例で使用する用語は特定の具体的実施方案を記載するためのものであって、本発明の保護の範囲を制限するものではない。また、本発明の明細書及び特許請求の範囲では、本文中に別途明記している場合を除き、「1つ」、「一の」及び「この」といった単数形には複数形も含まれる。
【0050】
実施例において数値範囲を提示している場合には、本発明で別途説明している場合を除き、各数値範囲の2つの端点及び2つの端点間の任意の数値をいずれも選択可能であると解釈すべきである。また、別途定義している場合を除き、本発明で使用するあらゆる技術・科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同義である。また、実施例で使用する具体的方法、デバイス、材料のほかに、当業者が把握する従来技術及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例で記載する方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0051】
別途説明している場合を除き、本発明で開示する実験方法、検出方法、製造方法は、いずれも当該分野において一般的な分子生物学、生化学、クロマチン構造及び分析、分析化学、細胞培養、組換えDNA技術及び関連分野における一般的技術を用いている。これらの技術は、従来の文献で完全に説明されており、具体的には、Sambrookほか,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989 and Third edition,2001、Ausubelほか,CURRENTPROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley&Sons,New York,1987 and periodic updates、the series METHODS IN ENZYMOLOGY,Ac
ademic Press,San Diego、Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998、METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,Chromatin(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999、及び、METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,Chromatin Protocols(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999等の文献を参照すればよい。
【実施例1】
【0052】
NAD+レベルによるT細胞の活性化能力の調節:
ヒト末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell,PBMC)を1:1の新鮮な血液及び生理食塩水(美侖生物社 MA0083)で希釈したあと、等体積のHistopaque(登録商標)-1077分離溶液(シグマ社 10771)の上層に平らに加えた。次に、室温の水平ローター500gで30min遠心分離(緩やかに加速及び減速)した。遠心分離の終了後、血漿と分離溶液の間のバッフィーコートを吸い取り、生理食塩水で洗浄した。そして、繰り返し洗浄したあと、10%FBS(サーモフィッシャー社 10099141C)RPMI(コーニング社 10-040-CV)培地で細胞を再懸濁した。
【0053】
PBMC細胞濃度を0.5million/ml以下に調整し、終濃度が1μMのFK866(セレック社 S2799)、100μMのNAD+(セレック社 S2518)、又は、1μMのFK866及び100μMのNAD+をそれぞれ加えた。薬物の添加を完了した細胞は、37度、CO2 5%の細胞培養装置で24時間培養した。
【0054】
終濃度が0又は3μg/mlのCD28(バイオレジェンド社 102112)及びCD3(サーモフィッシャー社 14-0037-82)抗体で高結合能の96ウェルマイクロプレートをコーティングし、上記の異なる処理を施したPBMC細胞をそれぞれマイクロプレートに加えて24時間刺激したあと、細胞を採取してCD69染色を行った。CD69染色については、細胞の収集後、遠心分離にかけて培地を取り除き、Staining buffer(バイオレジェンド社 420201)で1:800に希釈したanti-CD69-APC(バイオレジェンド社 310910)抗体を加えて、氷上で40分間染色した。次に、遠心分離にかけて染色液を除去し、Staining bufferで洗浄したあと、DAPIを加えたStainingbufferで細胞を再懸濁してから、BD LSRFortessaで測定した。
【0055】
終濃度が0又は3μg/mlのCD28(バイオレジェンド社 102112)及びCD3(サーモフィッシャー社 14-0037-82)抗体で高結合能の96ウェルマイクロプレートをコーティングし、上記の異なる処理を施したPBMC細胞をそれぞれマイクロプレートに加えて5分間刺激したあと(同時に、オルトバナジン酸ナトリウムとしてホスファターゼ阻害剤を添加)、細胞を採取してWB検出を行った。WB検出については、細胞の収集後、細胞を分解してタンパク質を抽出し、電気泳動で転写したあと、4G10抗体(ミリポア社 16-103)を用いてAnti-Phosphotyrosine検出を行った。
【0056】
上述したように、ヒト末梢血液リンパ球(PBMC)を使用して実験を行った。anti-CD3を用いてPBMC中のT細胞を活性化させる際に、NAD+合成阻害剤FK866又は溶媒をそれぞれ加えて、NAD+レベルの変化を比較した。このとき、T細胞が活性化すると、細胞膜表面のCD69の発現量が増加するとともに、細胞内のリン酸化レベル全体が瞬時に上昇することから、ヒトT細胞の膜表面におけるCD69の発現量と、細
胞内のリン酸化レベルの変化から、ヒトT細胞の活性化能力に対するNAD+レベルの影響を検証可能であった。具体的な実験結果は
図1に示す通りとなった。図中の(a)は、異なる薬物で処理し、anti-CD3でPBMCを活性化したあとの細胞表面におけるCD69の発現レベルを示している。また、図中の(b)は、異なる薬物で処理し、anti-CD3でPBMCを活性化したあとの細胞内におけるチロシンリン酸化レベルを示している。実験の結果、NAD+の合成が阻害された場合には、T細胞表面のCD69及び細胞内のリン酸化レベルはいずれも明らかに低下し、T細胞の活性化能力が著しく低下することが分かった。
【実施例2】
【0057】
NAD+レベルによるT細胞の腫瘍細胞殺傷能力の調節:
T細胞の生体外殺傷能力を検証するための実験モデルを作製し、NAD+レベルがT細胞の腫瘍殺傷能力に及ぼす影響を検証した。CD19-mcherry過剰発現プラスミドを作製し、レンチウイルスパッケージングシステムを利用してHEK293(ATCC CRL-1573)細胞にウイルスをパッケージした。次に、培地上清を吸い取って40μmの濾過膜で濾過し、濾過した培地上清をK562(ATCC CCL 243)腫瘍細胞に加えることで、CD19及びmcherryを過剰発現したマーカータンパク質をウイルスにより感染させた。PBMC細胞の取得については上述の通りとした。PBMC細胞を1μg/mlのCD3及びCD28抗体で活性化させたあと、10%FBS 100U/ml IL2(ノボプロテイン(Novoprotein)社 P60568)のRPMI中で培養した。そして、anti-CD19-41BB(配列についてはSEQ
ID NO.1を参照)がパッケージされたウイルスをレンチウイルスパッケージングシステムで感染させて、増幅後に実験を行った。作製したK562-CD19-mcherryとK562細胞を1:1の割合で混合してから、改変したanti-CD19-41bbのCAR-T細胞と異なる割合で混合し、培養した。そして、残ったmcherry発現陽性細胞の数を検出することで、標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷能力を正確に評価した。具体的な実験結果は
図2に示す通りとなった。図中の(a)は、異なる割合でK562-CD19とCD19-41BB CAR-T細胞を混合して8時間培養したあと、生存していたK562-CD19の割合をフローサイトメトリーで測定したものである。また、(b~d)は、K562-CD19細胞と混合して培養したCD19-41BB CAR-T細胞から分泌されたGranzyme B(GzmB)、Interferon gamma(IFNγ)及びInterleukin 2(IL-2)のレベルを細胞内で染色して検出したものである。実験の結果、NAD+の合成が阻害された場合には、共培養システムにおけるmcherry陽性細胞の割合が明らかに高くなることが分かった。これは、CAR-T細胞の殺傷能力が弱まったことを意味している。且つ、CAR-T細胞が活性化時に分泌するサイトカインと、タンパク質GzmB(b)、IFNγ(c)及びIL-2(d)についてFACS検出を行った。実験の結果、NAD+の合成が阻害された場合に、関連するサイトカイン及びタンパク質の分泌が著しく減少することが分かった。
【実施例3】
【0058】
NAD+関連合成前駆体とCAR-T療法を組み合わせた場合の腫瘍に対するT細胞の殺傷効果の強化:
CAR-T療法をモデルとしてマウスの生体内実験を行い、NAD+の補充による臨床的免疫療法の改善効果について実行可能性を検証した。上述したK562-CD19-mcherryの細胞に、レンチウイルスシステムを利用してルシフェラーゼ(luciferase)を過剰発現させた。次に、作製したK562-CD19-mcherry-luciferase細胞を標的細胞とし、免疫不全型マウスの皮下に移植して固形腫瘍モデルを作製した。具体的な方法は、次の通りであった。5週齢のNSGマウスを用いて実験を行った。マウスは、国家蛋白質科学センター動物施設における関連規定に従い飼育し
た。次に、1×10
6個のK562-CD19-mcherry-luciferase細胞を皮下注射し、4日後に、マウスの尾静脈に1×10
6個の上述した改変anti-CD19-41BB CAR-T細胞を注射するか、等量の生理食塩水を注射した。その後、NAD+の合成前駆体であるニコチンアミド(NAM)(シグマ社 N3376-100G)をNAD+補充剤として使用し、実験を行った。NAMを投与した実験群マウスについては、濃度1g/mlのNAM生理食塩水溶液を毎日100μL腹腔注射した。一方、対照群については、毎日100μLの生理食塩水溶液を腹腔注射した。皮下注射したK562細胞がルシフェラーゼを同時に過剰発現するため、マウスの腹腔にD-ルシフェリン(パーキンエルマー社 122799)を注射することで、細胞内の蛍光を励起可能であった。これにより、生体イメージングを利用してマウス体内の腫瘍の成長状況を取得可能となった。マウスの尾静脈にCAR-T細胞を注射する前に、マウスの腫瘍細胞の蛍光信号強度を開始点として検出した。その後、7日ごとにマウスの腫瘍細胞の蛍光強度を検出した。検出時には、マウスに対し、濃度10mg/mlのD-ルシフェリンカリウム塩を150μL腹腔注射し、10分後に、IVIS(登録商標) Lumina III小動物生体イメージングシステムを用いて腫瘍細胞の蛍光検出を行った。蛍光が強いほど腫瘍細胞は多く、腫瘍の成長が速いことを意味した。具体的な実験結果は
図3に示す通りとなった。図中の(a)は、K562-CD19細胞を用いてマウスの皮下に腫瘍を形成したあと、生理食塩水、ニコチンアミド(NAM)、CAR-T、又はCAR-T及びニコチンアミド(NAM)をそれぞれ加えて処理し、図中のタイミングでそれぞれマウスの生体イメージングを実施した場合を示している(n=5)。(b)は、マウスの腫瘍のルシフェラーゼ蛍光値に基づいて、腫瘍の成長状況を統計し、1回目のイメージングで標準化した場合を示している(n=5)。(c)は、処理の違いによる担癌マウスの生存状況を示している(n=10)。実験の結果、ニコチンアミド(NAM)は、免疫不全型マウス体内における腫瘍細胞の蛍光強度及び腫瘍の成長に顕著な影響を及ぼさないことが分かった。一方、ニコチンアミド(NAM)をCAR-T療法と併用した場合には、腫瘍細胞の成長に対する抑制効果がCAR-T療法よりも明らかに優れていた。この場合には、マウスの腫瘍細胞内の蛍光信号を検出不可能になるとともに、担癌マウスの生存期間が著しく延長された。
【0059】
以上述べたように、本発明は従来技術における様々な欠点を効果的に解消しており、高度な産業上の利用価値を有している。
【0060】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明したものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形可能である。従って、当業者が本発明で開示した精神及び技術的思想から逸脱することなく完了するあらゆる等価の補足又は変形もまた本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】