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特許7432628低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240208BHJP
   C07K 14/505 20060101ALI20240208BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20240208BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20240208BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20240208BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
A61K38/22
C07K14/505
C12N5/078
A61P7/06
C12P21/02 C
C12N5/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022004857
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2019501501の分割
【原出願日】2017-07-12
(65)【公開番号】P2022050633
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】16179065.4
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304056936
【氏名又は名称】ヘキサル・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ・クロンターラー
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・トレーラ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-507426(JP,A)
【文献】特開2010-031017(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083683(WO,A1)
【文献】特開平03-151399(JP,A)
【文献】特表2005-530678(JP,A)
【文献】Molecular Pharmaceutics (2011) Vol.8, No.1, pp.286-296
【文献】Trends in Analytical Chemistry (2015) Vol.68, pp.18-27
【文献】NDT Plus (2009) Vol.2, Suppl.1, pp.i9-i17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
C07K 14/00
C12N 5/00
C12P 21/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低O-アセチル化率シアル酸残基を含む、エリスロポエチン、修飾エリスロポエチン又はエリスロポエチン模倣物からなる群から選択される赤血球生成促進剤(ESA)を含む、低平均赤血球ヘモグロビン(MCH)に関連する状態を治療するための医薬組成物であって、前記低O-アセチル化率が、50%以上低下した絶対アセチル化率を指す、医薬組成物。
【請求項2】
上記状態が、正常な赤血球(RBC)数であるが低ヘモグロビン(Hb)に関連する状態である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記状態が、低色素性貧血である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
シアル酸は、9炭素の骨格を有する単糖類であるノイラミン酸のN-又はO-置換誘導体の総称である。N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)に続いて最も頻繁に見られる種は、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及びO-アセチル化誘導体である。
【0003】
シアル酸は、動物の組織、並びに頻度は下がるが植物及び真菌から酵母や細菌に至る他の生物において、主に糖タンパク質に結合したグリカンの末端に存在する形で糖タンパク質中に広く分布している。
【0004】
グリカンのタンパク質への共有結合は進化的機構を意味し、それによってプロテオームの多様性を大幅に増加させることができる。タンパク質のグリコシル化のために複数の多様な機構が進化したという状況は、このタイプのタンパク質修飾の進化上の利点及び全体的な関連性を示している。そのような機構は、非酵素的糖化から複雑な翻訳後グリコシル化、いくつかの酵素的修飾を含む多段階かつ多細胞コンパートメント過程まで及ぶ。
【0005】
図17はシアル酸ファミリーを示す。1個のシアル酸分子は1個又は数個のアセチル基を有することができる。N-アセチルノイラミン酸が最も一般的である。
【0006】
アセチル化シアル酸は多くの生物学的現象に関与していると思われる。糖鎖構造はタンパク質-タンパク質相互作用において役割を果たしており、それらは正しい機能的立体配座への必須条件となり得る。また、いわゆる「がん胎児性抗原」の一部としての、それらの発生及び悪性腫瘍における発現の優位性及び変動性は、それらが多数の生理学的及び病理学的過程に関与していることを示唆している。驚くことではないが、グリカン部分の合成又はタンパク質への結合を損なう遺伝的欠陥は、多数のヒト疾患を引き起こす。これらの糖構造はさらに修飾することができ、それによってさらなる多様化を導入する。そのような修飾の一例はアセチル化である。細胞相互作用の強力な調節因子としてのその役割は、アセチル化を、タンパク質リン酸化又はN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びメチル化による修飾などの細胞機能の他の生化学的調節により分類する。
【0007】
シアル酸のアセチル化は、明らかにグリコシル化の多様性をさらに増大させる(すなわち、内因的に、結合した糖はさらに酵素的に修飾される)。シアル酸は、末端グリカンのそのような修飾の原型的な例であり、アセチル化は、広く行き渡っている、そのようなさらなる修飾の種類である。天然に存在するシアル酸は、9炭素骨格を共有し、それらのすべてのヒドロキシル基においてアセチル化され得る。これは、それらがC4、C7、C8及びC9位でアセチル化され得ることを意味する。各シアル酸は一回修飾することができるが、さらに単一のシアル酸の複数の誘導体が存在し得、1つより多くのシアル酸を担持する糖構造については特に、いくつかの組み合わせパターンが発生する。
【0008】
タンパク質の機能に対するグリコシル化の明らかな重要性及び修飾のための明らかに有意な空間を考慮して、それらのグリカン構造の修飾を標的化することによってタンパク質の治療特性を最適化することにかなりの努力が注がれた。最近、この新世代のバイオ医薬品の最初の2つの例:モガムリズマブ(Poteligeo(R))とオビヌツズマブ(Gazyvaro(R)/Gazyva(R))が販売承認を獲得した。
【0009】
しかし、グリコシル化の修飾を標的化することはモノクローナル抗体に限定されない。ダルベポエチンアルファ(Aranesp(R))は、球状タンパク質の特性もが改善された例であり、この場合、2つのシアル化炭水化物鎖を付加することによって有効性が延長され、すなわち治療頻度が減少した。
【0010】
しかし、これらのアプローチのいくつかは血清中半減期及び他の要因の適応に注目しているが、狭義の有効性の改変は質的改変の可能性には注目してこなかったように思われる。これは、血液のガス(酸素/二酸化炭素)輸送能力を高めるために使用される赤血球生成促進剤(ESA)に特に当てはまる。
【0011】
ESA療法に伴う1つの主要なリスクは、死亡率の増加である。最も顕著なリスクとして、心血管イベントはヘモグロビン(Hb)が大きく増加することにより発生し、これはESAによる赤血球(RBC)増加によって引き起こされると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の1つの目的は、治療用糖タンパク質の有効性を改変するための新しいアプローチを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、赤血球生成促進剤を改変して、それらの有効性を増大させる新しいアプローチを提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、赤血球生成促進剤を改変して、副作用及び/又は死亡率のリスクを低減させるための新しいアプローチを提供することである。
【0015】
これらの目的は、本発明の独立請求項による方法及び手段によって達成される。従属請求項は好ましい実施形態に関する。
【0016】
発明の要旨
本発明を詳細に説明する前に、本発明は記載された装置の特定の構成部品又は記載された方法の過程工程に限定されず、そのような装置及び方法は変わり得ることを理解されたい。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、単数及び/又は複数の指示対象を含む。さらに、数値で区切られたパラメータ範囲が与えられている場合、その範囲はこれらの制限値を含むと見なされることを理解されたい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様によれば、エリスロポエチン受容体(EpoR)と相互作用するか、又はそれに対してアゴニストとして作用する、改変された有効性を有する糖タンパク質を製造する方法又は過程が提供される。この方法又は過程は、適切な発現系における前記糖タンパク質の異種発現を含み、ここで、糖タンパク質において低アセチル化率シアル酸残基をもたらす少なくとも1つの工程又は特徴が、提供される。
【0018】
特許請求の範囲に記載の改変された有効性に関する比較は、同一又は類似のアミノ酸配列の市販の糖タンパク質を用いて、又は野生型糖タンパク質(その天然宿主若しくは適切な発現系によって発現される、シアル酸残基のアセチル化率に影響するように改変されていない野生型糖タンパク質)を用いての、いずれかで行うことができる。
【0019】
エリスロポエチン受容体(EpoR)は、ヒトではEPOR遺伝子によってコードされるタンパク質である。EpoRは、単一の炭水化物鎖を有する52kDaのペプチドであり、EPO応答細胞の表面上に見出される約56~57kDaのタンパク質をもたらす。EpoRは元々二量体として存在し、適切なリガンドと結合することによりそのホモ二量体化状態が変化する。
【0020】
EpoRの細胞質ドメインは、リガンド結合によって引き起こされる立体構造変化の際にJak2によってリン酸化され、さまざまな細胞内経路活性化因子及びStat(Stat5など)のためのドッキング部位として機能する多数のホスホチロシンを含有する。
【0021】
EpoRの主な役割は、赤血球前駆細胞の増殖を促進し、赤血球前駆細胞を細胞死から救済することである。現存する証拠に基づいても、EpoRがインビボで赤血球前駆体の「増殖及び分化」を直接引き起こすかどうかは依然として不明である。
【0022】
EpoRが関与していると考えられるもうひとつの役割は、赤血球分化を促進することである。EpoRのPI3-K/AKTシグナル伝達経路はGATA-1活性を増強する。1つの仮説は、赤血球分化は、主に、GATA-1、FOG-1及びEKLFなどの赤血球転写因子の存在及び誘導に依存しているというものである。
【0023】
EpoRが、分裂促進シグナル伝達経路を活性化し得ること及びインビトロで赤白血病細胞株における細胞増殖をもたらし得ることもまた、知られている。EpoRの発現は、造血幹細胞コンパートメントまでさかのぼる。しかし、十分な赤芽球数を産生させるために、EpoRシグナル伝達が初期の多能性前駆細胞において許容的な役割を果たすのか、又は指示的役割を果たすのかは、不明である。
【0024】
用語「改変された有効性」は、本明細書の他の箇所で論じられる。
【0025】
本明細書で使用される「シアル酸残基のアセチル化率」という用語は、1つ以上のアセチル残基を担持する、所与の糖タンパク質型のシアル酸の全体的な割合を指す。好ましくは、この用語はこれらのシアル酸上のO-アセチル残基に関する。
【0026】
本明細書で使用される「糖タンパク質」という用語は、ポリペプチド側鎖に共有結合しているオリゴ糖鎖(グリカン)を含有するタンパク質及びペプチドを指す。炭水化物は、翻訳と同時の修飾又は翻訳後修飾においてタンパク質に結合する。この過程はグリコシル化として知られている。
【0027】
好ましくは、アセチル化の低減は、O-アセチル化の低減である。これは、アセチル化という用語を用いる、本明細書に開示されているすべての実施形態に適用される。すべての場合において、O-アセチル化は好ましい実施形態である。
【0028】
一実施形態では、低アセチル化率シアル酸残基をもたらす工程又は特徴は、以下からなる群から選択される少なくとも1つである:
a)前記糖タンパク質のグリカン中のシアル酸残基の脱アセチル化
b)アセチル化シアル酸残基の減少をもたらす、前記糖タンパク質の全体的なグリコシル化の低減、
c)脱アセチル化若しくは非アセチル化シアル酸残基又は低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質を発現することができる発現細胞株の使用、
d)脱グリコシル化されているか、又はグリコシル化が低減されている糖タンパク質を発現することができる発現細胞株の使用、
e)前記糖タンパク質のグリカン中のシアル酸含有量の減少、
f)低減したシアル酸の量が低減した、又はシアル酸を含まない糖タンパク質を発現することができる発現細胞株の使用。
【0029】
本明細書で使用される「発現細胞株」という用語は、同種又は異種のいずれかで糖タンパク質を発現することができる細胞株に関する。
【0030】
好ましくは、工程/特徴a)、b及びe)は、例えば糖タンパク質の翻訳後の酵素的又は化学的処理によって行われるインビトロ過程に関する。
【0031】
シアル酸残基の脱アセチル化(工程又は特徴a)は、例えば、適切なアセチルエステラーゼによる翻訳後処理によって達成することができる。一例は、シアル酸O-アセチルエステラーゼ(SIAE)であり、これはヒトにおいては第11染色体上に位置するSIAE遺伝子によってコードされている。SIAEは、親シアル酸の9位からのO-アセチルエステル基の除去を触媒する。
【0032】
しかし、他の生物及び他の発現細胞株は他の種類のアセチルエステラーゼを有する。シアル酸O-アセチルエステラーゼはExpasy酵素エントリーEC 3.1.1.53に開示されている。これらの酵素は、とりわけ、以下の反応を触媒する。
【0033】
N-アセチル-O-アセチルノイラミン酸+H(2)O⇔N-アセチルノイラミン酸+酢酸
したがって、本明細書に開示されている教示に基づいて、それぞれの生物、及び他の発現細胞株中のそれぞれのアセチルトランスフェラーゼをサイレンシングさせる、欠失させる又は変異させることは、当業者の慣用的な作業である。
【0034】
全体的なグリコシル化の低減(工程b)は、例えば、NANase II、エンドグリコシダーゼH、O-グリコシダーゼ及び/又はペプチド-N-グリコシダーゼF(PNGase F)のような適切な酵素による翻訳後処理によって達成することができる。プロトコルはKim&Leahy(2013)に記載されている。トリフルオロメタンスルホン酸を使用する糖タンパク質の脱グリコシル化のための化学的アプローチは、Sojar H&Bahl(1987)に開示されている。
【0035】
一般に、脱グリコシル化は、糖タンパク質からすべてのグリカン、したがってそれぞれすべてのシアル酸残基又はそれらのアセチル置換基を除去する。したがって、脱グリコシル化は、事実上、シアル酸に結合したアセチル残基の除去をもたらし、したがって同様の効果を有する。
【0036】
糖タンパク質のグリカン中のシアル酸含有量の低減は、WO2011061275A1に開示されている方法に従って行うことができる。
【0037】
工程/特徴c)は、好ましくは、(i)それ自体がアセチル化の低減を示す(すなわち、アセチル化率が人為的に操作されていない)又は(ii)翻訳後タンパク質修飾の間のシアル酸残基のアセチル化が影響を受けるような方法で改変されている、発現細胞株を指す。
【0038】
これは、例えば、シアル酸アセチル化を触媒する酵素をコードする遺伝子の遺伝子発現の阻害若しくは低減、又は機能不全若しくは不活性化されたシアル酸アセチル化を触媒する酵素、若しくは活性が低減したシアル酸アセチル化を触媒する酵素の発現によって、達成することができる。
【0039】
工程/特徴d)は、好ましくは、例えばタンパク質グリコシル化が影響を受けるように改変されている発現細胞株を指す。
【0040】
これは、例えば、脱グリコシル化を触媒する異種又は同種の酵素を発現又は過剰発現するように発現細胞株を改変することによって達成することができる。
【0041】
脱グリコシル化を触媒する酵素の例としては、NANase II、エンドグリコシダーゼH、O-グリコシダーゼ及び/又はペプチド-N-グリコシダーゼF(PNGase F)が挙げられる。適切な発現細胞株におけるこれらの遺伝子のいずれかの過剰発現又は適切な発現細胞株における異種発現は、翻訳後タンパク質修飾の間に脱グリコシル化をもたらす。
【0042】
前記異種発現は、例えば、それぞれの酵素をコードするベクターによる細胞の非一過性トランスフェクションを含む遺伝子工学技術によって達成することができる。
【0043】
前記同種過剰発現は、例えば、コード遺伝子の上流に挿入された適切なプロモーターによる、それぞれの酵素をコードする内在性遺伝子の過剰発現の誘導を含む遺伝子工学技術によって達成することができる。
【0044】
前記欠失又は突然変異誘発は、本明細書の他の場所に記載された方法によって達成することができる。
【0045】
本発明者らが本明細書に示したように、低アセチル化率シアル酸残基を有する本発明による糖タンパク質は、同じ治療効果を達成しながらより低い用量を適用する機会を提供する。このことは、より少量の糖タンパク質を患者に適用することによるコスト削減をもたらし、抗体の形成などの望ましくない副作用のリスクの減少をもたらす。より低い用量を適用する可能性はまた、患者に与えられるべき容量を減らし、そのような治療にさらなる利益を加え、患者のコンプライアンスを高める。
【0046】
さらに、低アセチル化率シアル酸を有する本発明の糖タンパク質は、ESA療法に伴う主要なリスク、すなわち死亡率の増加を低減させることができる。最も顕著なリスクとして、心血管イベントはHbが大きく増加することにより発生し、これはESAによるRBCの増加によって引き起こされると考えられている。本発明による糖タンパク質による療法は、上記の平均赤血球ヘモグロビン(MCH)の増加をもたらしながら、RBCの増加はあまり顕著ではない。まとめると、これは、例えば、心血管系の安全性と死亡率全般に関する好ましい安全性プロフィールをもたらす。
【0047】
一実施形態では、この糖タンパク質は赤血球生成促進剤(ESA)である。好ましい実施形態では、赤血球生成促進剤(ESA)は、エリスロポエチン、修飾エリスロポエチン又はエリスロポエチン模倣物である。
【0048】
本明細書で使用される「エリスロポエチン」という用語は、さまざまな野生型エリスロポエチン(エポエチンα、エポエチンβ、エポエチンγ、エポエチンδ、エポエチンε、エポエチンζ、エポエチンθ、エポエチンκ又はエポエチンω)を含む。
【0049】
本明細書で使用される「修飾エリスロポエチン」という用語は、構造的及び/又は配列的に野生型エリスロポエチンに依存するが、(i)そのアミノ酸配列、その(ii)グリコシル化パターンのいずれかに、又は(iii)他の部分の付加によって、構造改変を含むタンパク質を指す。これらの改変は、エリスロポエチン受容体とのそのアゴニスト相互作用それ自体には影響を及ぼさないが、前記アゴニスト相互作用を改変するか、又はバイオアベイラビリティ、血清半減期、組織分布、有効性、貯蔵寿命などの、それらの他の物理化学的、薬理学的若しくはPK/PD特性を改変する。
【0050】
本明細書で使用される「エリスロポエチン模倣物」という用語は、エリスロポエチン受容体とアゴニスト的に相互作用するタンパク質及びペプチドを指す。エリスロポエチン模倣物は、とりわけ、Johnson,&Jolliffe(2000)及びUS8642545B2に開示されている。EPO受容体は、ほぼ等しいサイズの細胞外ドメインと細胞内ドメインとの間に位置する単一の膜貫通セグメントを有する484アミノ酸の糖タンパク質であり、研究により、EPO受容体のPhe93がEPOの結合並びにエリスロポエチン模倣ペプチドの結合に極めて重要であることが示されている(Middleton et al.1999)。
【0051】
明らかに、修飾エリスロポエチンとエリスロポエチン模倣物は、大きな重複がある2つのクラスである。それ故、いくつかの修飾エリスロポエチンもまたエリスロポエチン模倣物と考えることができ、その逆も言える。
【0052】
本発明の一実施形態では、エリスロポエチン又は修飾エリスロポエチンは、以下からなる群から選択される少なくとも1つである:
・エポエチンα(Epogen(R)、ESPO(R)、Procrit(R)、Eprex(R)、Erypo(R)、Epoxitin(R)、Globuren(R)、Epopen(R)、Epoglobin(R)、Epox(R)、Eritrogen(R))
・エポエチン-β(NeoRecormon(R)、Epogin(R))
・ダルベポエチンα(アラネスプ(R)、Nespo(R))
・CERA(持続性赤血球生成受容体活性化剤(Continuous Erythropoiesis Receptor Activator))
・ErepoXen(R)
・Albupoetin(R)
・PT-401
・Epo-Fc
・CEPO(カルバミル化EPO)
・MOD-7023
・エポエチンδ(DynEpo(R))
・GO-EPO
・MK2578。
【0053】
本発明の他の実施形態では、改変された有効性は生理学的有効性又は治療有効性である。好ましくは、改変された治療有効性は、MCHの相対的増加及び/又はヘモグロビン(Hb)合成の相対的刺激である。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態では、低アセチル化率シアル酸残基をもたらす工程もまた、糖タンパク質のバイオアベイラビリティ、曝露、血清半減期又は絶対血清濃度に影響を及ぼす。
【0055】
本発明者らは、例えば、一方では、シアル酸アセチル化の低減がESAのバイオアベイラビリティを低減し得るが、同時に、非修飾ESAと比較して、Hbレベルの測定で示されるように、曝露の減少を過補償するとも言える程度までMCHを増大させることを示した。したがって、Hbの観点から見れば表面上逆生産的となるが、バイオアベイラビリティの低減は驚くべきことにHbの低下にはならない。実施例は、曝露の減少が、改変ESAによる処置から生じるMCHの増加によって過補償さえされることを示す。これは複数の結果をもたらし得る。製造の観点からは、患者の造血を矯正するのに必要とされるタンパク質の用量がより低いことは、商品のコストの低下につながり得る。患者の観点からは、この用量がより低いことと迅速な排除による曝露の減少はさらなる利益を意味する。治療用タンパク質への曝露は、個体が抗薬物抗体(ADA)を発生するリスクと相関している。ESAの場合、そのようなADA形成の可能性は一般に低い。したがって、曝露が低いほど免疫原性のリスクも減少すると思われる。最後に及び最も重要なことに、RBCの直線的な増加以外の他のことを伴わないHbの増加は、血栓症リスクの増加からHb上昇を切り離す。
【0056】
本発明の一実施形態では、修飾糖タンパク質は、以下からなる群から選択される少なくとも1つを有する
a)絶対アセチル化率≦10%、及び/又は
b)アセチル化率の50%以上の低下。
【0057】
本明細書で使用される「絶対アセチル化率(%)」という用語は、所与の糖タンパク質型でありかつ1つ以上のO-アセチル化を有するシアル酸の、全体的な割合を指す。本開示の意味において、部分的又は全体的な脱グリコシル化は、アセチル化率の低下をももたらすことを強調することが、重要である。
【0058】
好ましくは、絶対アセチル化率は≦9、8、7、6、5、4、3、2又は1%である。最も好ましくは、絶対アセチル化率は0%である。この実施形態では、所与の糖タンパク質の全グリカンのシアル酸は完全に脱アセチル化又は非アセチル化されている。
【0059】
しかし、いくつかの条件下では、絶対アセチル化率は、同時に0.1;0.2;0.3;0.4又は0.5%未満であってはならない。
【0060】
本明細書で使用される「X%低下したアセチル化率」という用語は、所与の糖タンパク質型に対して(i)同一若しくは類似のアミノ酸配列の市販の糖タンパク質、又は(ii)天然の宿主若しくは適切な発現系により発現される同一若しくは類似のアミノ酸配列の野生型糖タンパク質(さらに言えばいずれの場合においても、市販の糖タンパク質又は野生型糖タンパク質のそれぞれは、シアル酸残基のアセチル化率に影響を与えるように改変されていない)と比較した場合の、当該所与の糖タンパク質型の、1つ以上のアセチル基を担持するシアル酸の相対的な減少を指す。
【0061】
好ましくは、アセチル化率は、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94又は95%以上低下する。
【0062】
しかし、いくつかの条件下では、絶対アセチル化率は、同時に99;98;97又は96%を超えて低下させるべきではない。
【0063】
例えば、本発明によるESA(ダルベポイエチンアルファ)の絶対アセチル化率は<1%であるが、同一又は類似のアミノ酸配列の市販のESA(Aranesp(R))は29.5%の絶対アセチル化率を有する。したがって、アセチル化率は、同一又は類似のアミノ酸配列の市販のESAのアセチル化率の約3%に減少されている。
【0064】
好ましくは、アセチル化率は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの方法で決定される:
・酵素的(ノイラミニダーゼを用いる)又は化学的手法(弱酸による加水分解)を用いた糖タンパク質又は単離されたグリカンからのグリコシド結合切断後のシアル酸の相対定量
・1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン(DMB)によるシアル酸の誘導体化とそれに続く蛍光検出高速液体クロマトグラフィー
・ペルトリメチルシリル化と、それに続くGLC(気液クロマトグラフィー)-MS
・薄層クロマトグラフィー(ラジオTLC又は濃度定量)。
【0065】
アセチル化率の決定に適した方法の概要については、例えばReuter and Schauer,1994を参照されたい。アセチル化率の低下が間接的に、すなわち部分的又は全体的グリコシル化によって達成された場合、アセチル化率は、とりわけ、トリフルオロメタンスルホン酸による化学的脱グリコシル化を用いて決定することもできる(Sojar&Bahl(1987)に開示)。
【0066】
本発明の別の態様によれば、エリスロポエチン受容体(EpoR)と相互作用するか、又はそれに対してアゴニストとして作用する、改変された有効性を有する糖タンパク質が提供される。糖タンパク質は、上記の記載による方法又は過程により製造される。
【0067】
本発明の別の態様によれば、ヒト若しくは動物の患者又は対象の治療用医薬品を製造するための、そのような糖タンパク質の使用が提供される。又は、ヒト若しくは動物の患者又は対象の治療のための、そのような糖タンパク質の使用が提供される。
【0068】
本発明の別の態様によれば、ヒト若しくは動物の患者又は対象の治療方法であって、薬学的有効量の上記の記載による糖タンパク質の投与を包含する方法が提供される。
【0069】
本発明の別の態様によれば、上記の記載による糖タンパク質を薬学的に許容される担体中に含む医薬製剤が提供される。
【0070】
有効性の増強のために、そのような製剤は、より少ない用量又は容量で投与することができ、それは次いで薬物凝集リスクの低減、貯蔵寿命の延長、貯蔵の必要性の低減、投与関連の不快感の減少及び患者のコンプライアンスの向上に役立ち得る。
【0071】
本発明の一実施形態によれば、ヒト若しくは動物の患者又は対象は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの疾患又は症状を患っており、その疾患又は症状の発症のリスクがありかつ/又はその疾患又は症状と診断されている:
・貧血
・AIDS及びがんに関連した疾患、及び化学療法などの関連療法の望ましくない結果、並びに
・低酸素症候群。
【0072】
前記貧血は、例えば腎臓の疾患による不全、放射線療法、骨髄抑制化学療法を行っているか若しくは行っていない骨髄異形成症候群などのがん、鉄不足又は鉄代謝不全、透析前の症候性貧血症、又は骨髄の不全若しくは骨髄疾患などの、異なる原因を有し得る。
【0073】
本発明の一実施形態によれば、ヒト若しくは動物の患者又は対象は、以下からなる群から選択される状態の対象、又はその治療を受ける対象である:
・造血幹細胞移植
・集中治療、
・例えば自己献血のための、手術前後の赤血球生成促進の必要性。
【0074】
本発明の別の態様によれば、上述の糖タンパク質の異種発現のための細胞であって、
a)脱アセチル化若しくは非アセチル化シアル酸残基若しくは低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質を発現することができ、かつ/又は
b)脱グリコシル化されているか、若しくはグリコシル化が低減している糖タンパク質を発現することができる、
細胞が提供される。
【0075】
一実施形態では、脱アセチル化若しくは非アセチル化シアル酸残基又は低アセチル化率シアル酸残基を有する糖タンパク質の発現は、以下のうちの少なくとも1つによって達成される:
a)シアル酸アセチル化を触媒する酵素をコードする遺伝子の遺伝子発現の阻害又は減少、
b)シアル酸アセチル化を触媒する機能が不全であるか若しくは不活性な酵素の発現、又は活性が低下したシアル酸アセチル化を触媒する酵素の発現、
c)シアル酸アセチル化を触媒する酵素の活性の阻害又は低下、及び/又は
d)シアル酸残基の脱アセチル化を触媒する酵素をコードする遺伝子の異種発現又は同種過剰発現。
【0076】
好ましくは、選択肢a)~c)の前記酵素はシアル酸O-アセチル化を触媒する。そのような酵素の例を以下のリストに示すが、これは限定と解釈されるべきではない:
・N-アセチルノイラミン酸7-O(又は9-O)-アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.45)
・ポリシアル酸O-アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.136)
・シアル酸O-アセチルトランスフェラーゼ(neuDファミリー)
・α-N-アセチルノイラミニドα-2,8-シアルトランスフェラーゼ1(GD3合成酵素)
・ヒトシアル酸-O-アセチルトランスフェラーゼ(CasD1)。
【0077】
これらの酵素は、例えば以下の種類の反応を触媒する:
アセチル-CoA+N-アセチルノイラミン酸 → CoA+N-アセチル-7-O(又は9-O)-アセチルノイラミン酸
アセチル-CoA+シアル酸のα-2,8結合ポリマー → CoA+O-7又はO-9でアセチル化されたポリシアル酸。
【0078】
適切なヒト発現細胞株における前記遺伝子のサイレンシング、欠失又は突然変異誘発は、欠損酵素又は機能不全の酵素をもたらし、それは次に翻訳後タンパク質修飾の間のシアル酸残基のアセチル化の減少又は欠損をもたらす。
【0079】
しかし、他の生物及び他の発現細胞株は他の種類のシアル酸アセチルトランスフェラーゼを有する。したがって、本明細書に開示されている教示に基づいて、それぞれの生物又は発現細胞株中のそれぞれのアセチルトランスフェラーゼをサイレンシングさせる、欠失させる、又は突然変異させることは、当業者の慣用的な作業である。
【0080】
好ましくは、選択肢d)の前記酵素は、シアル酸の脱o-アセチル化を触媒する。そのような酵素の例を以下のリストに示すが、これは限定と解釈されるべきではない:
・シアル酸-9-O-アセチルエステラーゼ(EC 3.1.1.53)
・9-O-アセチルN-アセチルノイラミン酸エステラーゼ
・血球凝集素エステラーゼ
・サイトゾルシアル酸9-O-アセチルエステラーゼ。
【0081】
これらの酵素は、とりわけ、以下の反応を触媒する。
N-アセチル-O-アセチルノイラミン酸+HO → N-アセチルノイラミン酸+酢酸
【0082】
ヒトシアル酸O-アセチルエステラーゼ(SIAE)は、例えば第11染色体上に位置するSIAE遺伝子によってコードされている。SIAEは、親シアル酸の9位からのO-アセチルエステル基の除去を触媒する。
【0083】
適切なヒト発現細胞株における上記のリストからの遺伝子の過剰発現又は非ヒト発現細胞株における異種発現は、翻訳後タンパク質修飾の間にシアル酸残基の翻訳後脱アセチル化をもたらす。
【0084】
しかし、他の生物及び他の発現細胞株は、他の種類のアセチルエステラーゼを有する。したがって、本明細書に開示されている教示に基づいて、それぞれの生物又は発現細胞株中のそれぞれのアセチルトランスフェラーゼをサイレンシングさせる、欠失させる、又は突然変異させることは、当業者の慣用的な作業である。
【0085】
一実施形態では、脱グリコシル化されているか、又はグリコシル化が低減されている糖タンパク質の発現は、脱グリコシル化を触媒する酵素をコードする遺伝子の異種発現又は同種過剰発現によって達成される。
【0086】
一実施形態では、遺伝子発現の阻害又は低減は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子操作工程によって達成される:
・遺伝子サイレンシング
・遺伝子ノックダウン
・遺伝子ノックアウト
・ドミナントネガティブ構築物の送達
・コンディショナル遺伝子ノックアウト、及び/又は
・シアル酸アセチル化又はシアル酸残基の脱アセチル化を触媒する酵素をコードする遺伝子に関する遺伝子改変。
【0087】
本明細書で使用される「遺伝子発現」という用語は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの工程を包含することを意味する:mRNAへのDNA転写、mRNAプロセシング、非コードmRNA成熟、mRNA核外輸送、翻訳、タンパク質フォールディング及び/又はタンパク質輸送。
【0088】
遺伝子の遺伝子発現の阻害又は低減は、限定するものではないが、例えば、特異的プロモーター関連リプレッサーの使用によるか、所与のプロモーターの部位特異的突然変異誘発によるか、プロモーター交換による、DNA転写の阻害若しくは低減、又は例えばRNAi誘導転写後遺伝子サイレンシングによる翻訳の阻害若しくは低減を含む、遺伝子発現に直接干渉する方法を指す。機能不全若しくは不活性な酵素、又は活性が低下した酵素の発現は、例えば、コード遺伝子内の部位特異的又はランダムな突然変異誘発、挿入又は欠失によって達成することができる。
【0089】
酵素の活性の阻害若しくは低減は、例えば、タンパク質発現の前又はそれと同時に、それぞれの酵素への阻害剤の投与又はそれらとのインキュベーションによって達成することができる。そのような阻害剤の例としては、限定するものではないが、前記酵素に対する阻害ペプチド、抗体、アプタマー、融合タンパク質若しくは抗体模倣物、又はそれらのリガンド若しくは受容体、又は類似の結合活性を有する阻害ペプチド若しくは核酸、又は小分子が挙げられる。N-アセチルノイラミン酸7-O(又は9-O)-アセチルトランスフェラーゼ活性について文献に記載されているいくつかの阻害剤は、ヨード酢酸、CoA、ジエチルカーボネート、N-ブロモスクシンイミド、Triton X-100又はp-クロロメルクリベンゾエートである。
【0090】
酵素を阻害する他の方法は、培地中の酵素の特定の補因子の減少を含む。
【0091】
遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン及び遺伝子ノックアウトは、遺伝子改変によって、又はmRNA転写産物若しくは遺伝子のいずれかに相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた処理によって、遺伝子の発現を低減させる技術を指す。DNAの遺伝子改変が行われた場合、ノックダウン又はノックアウト生物が得られる。遺伝子発現の変化がmRNAへのオリゴヌクレオチドの結合、又は一時的な遺伝子への結合によって引き起こされる場合、これは染色体DNAを改変することなく遺伝子発現の一時的な変化をもたらし、これは一過性ノックダウンと呼ばれる。
【0092】
上記の用語にも包含される一過性ノックダウンでは、このオリゴヌクレオチドの活性遺伝子又はその転写産物への結合は、転写の遮断(遺伝子結合の場合)、mRNA転写産物の分解(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)又はRNase-H依存性アンチセンス法による)、又はmiRNAなどの他の機能的RNAの成熟に使用されるmRNA翻訳、プレmRNAスプライシング部位若しくはヌクレアーゼ切断部位のいずれかの遮断(例えばモルホリノオリゴ又は他のRNase-H非依存性アンチセンス法)を介して発現の低減を引き起こす。他のアプローチは、shRNA(低分子ヘアピン型RNA、これはRNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングさせるために使用できる密なヘアピンターンを作るRNAの配列である)、esiRNA(エンドリボヌクレアーゼ調製siRNA、これはエンドリボヌクレアーゼによる長い二本鎖RNA(dsRNA)の切断から生じるsiRNAオリゴの混合物である)、又はRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の活性化の使用を伴う。
【0093】
本文脈において使用され得る遺伝子改変のための別のアプローチは、CRISPR Cas(Baumann et al.,2015)、TALEN又はZFN(Gaj et al.,2013)の使用を含む。
【0094】
遺伝子サイレンシング、ノックダウン又はノックアウトを実施するための他のアプローチはそれぞれの文献から当業者に公知であり、本発明の文脈におけるそれらの適用は慣用的であると考えられる。
【0095】
遺伝子ノックアウトは、それによって遺伝子の発現が完全に遮断される、すなわちそれぞれの遺伝子が機能しないか又は除去さえされるような技術を指す。この目的を達成するための方法論的アプローチは多様であり、当業者には公知である。例は、所与の遺伝子に対してドミナントネガティブである突然変異体の作製である。そのような突然変異体は、部位特異的突然変異誘発(例えば、欠失、部分的欠失、挿入又は核酸置換)によって、適切なトランスポゾンの使用によって、又はそれぞれの文献から当業者には公知の他のアプローチによって作製することができ、したがって、本発明の文脈におけるその適用は慣用的なものと見なされる。当業者が本発明の文脈において有用であると見なすであろう新しく開発された技術の一例は、標的化ジンクフィンガーヌクレアーゼの使用によるノックアウトである。それぞれのキットは、「CompoZRノックアウトZFN」としてSigma Aldrichによって提供されている。別のアプローチは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の使用を包含する。
【0096】
ドミナントネガティブ構築物の送達は、例えばトランスフェクションによる、機能不全酵素をコードする配列の導入を伴う。前記コード配列は、機能不全酵素の遺伝子発現が野生型酵素の天然の発現を無効にし、それが次いでそれぞれの酵素活性の有効な生理学的欠損をもたらすような方法で強力なプロモーターに機能的に結合されている。
【0097】
コンディショナル遺伝子ノックアウトは、組織特異的又は時間特異的な様式で遺伝子発現を遮断可能にする。これは、例えば、目的の遺伝子の周りにloxP部位と呼ばれる短い配列を導入することによって行われる。この場合もまた、他のアプローチはそれぞれの文献から当業者に公知であり、本発明の文脈におけるそれらの適用は慣用的であると考えられる。
【0098】
他の1つのアプローチは、機能不全遺伝子産物又は活性の低下した遺伝子産物をもたらし得る遺伝子改変である。このアプローチは、フレームシフト突然変異、ナンセンス突然変異(すなわち、早期終止コドンの導入)、又は全遺伝子産物を機能不全にする、若しくは活性の低下を引き起こすアミノ酸置換をもたらす突然変異の導入を伴う。そのような遺伝子改変は、例えば、非特異的(ランダム)突然変異誘発又は部位特異的突然変異誘発のいずれかの突然変異誘発(例えば、欠失、部分的欠失、挿入又は核酸置換)によって生じさせ得る。
【0099】
遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、ドミナントネガティブ構築物の送達、コンディショナル遺伝子ノックアウト及び/又は遺伝子改変の実用化を記載したプロトコルは、当業者に一般に利用可能であり、当業者の慣用作業範囲内にある。したがって、本明細書で提供される技術的教示は、酵素をコードする遺伝子の遺伝子発現の阻害若しくは低減、又は機能不全若しくは不活性酵素、又は活性の低下した酵素の発現をもたらすすべての考え得る方法に関して完全に可能である。
【0100】
本明細書に開示された教示は以下を含む、
a)EpoRに対して異種的に発現されたアゴニストの酵素的脱O-アセチル化が所与の改変された有効性を有するという知見
b)異なる細胞発現系においてO-アセチル化又は脱O-アセチル化を触媒する例示的な酵素の開示
c)損傷若しくは欠損のある同種酵素を有するか、又は異種酵素を発現するか、又は同種酵素を過剰発現するかのいずれかを有する発現細胞株の作製を可能にする当業者に利用可能な技術の列挙。
【0101】
したがって、本出願の技術的教示により、当業者は、所与の改変された有効性を有するEpoRアゴニストを作製するために、O-アセチル化が損傷若しくは欠損した、又は脱O-アセチル化が増加した発現細胞株を開発することができる。
【0102】
本発明の一実施形態では、細胞は真核細胞である。「真核細胞」という用語は、例えば昆虫細胞のような動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を包含するが、それらに限定されない。好ましくは、細胞は動物細胞及び/又は植物細胞である。より好ましくは、細胞は哺乳動物細胞である。
【0103】
好ましくは、細胞は、以下からなる群から選択される少なくとも1つである:
・ベビーハムスター腎臓細胞(例えば、BHK21)
・チャイニーズハムスター卵巣細胞(例えば、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DXB又はCHO-dhf)
・マウス骨髄腫細胞(例えば、SP2/0又はNSO)
・ヒト胎児腎臓細胞(例えば、HEK-293)
・ヒト網膜由来細胞(例えば、PER-C6)並びに
・羊膜細胞(例えば、CAP)。
【0104】
好ましい一実施形態では、細胞は組換え細胞である。本明細書中で使用される場合、「組換え細胞」という用語は、細胞のクローン増殖において組み込まれたままであるように安定に組み込まれるか、又は細胞(又は細胞集団)内に一時的に導入されるかのいずれかで組み込まれた外因性及び/又は異種性の核酸を有する細胞を指すために使用される。そのような外因性及び/又は異種性の核酸は、発現されるべき異種タンパク質をコードし得るか、又は酵素をコードする遺伝子の遺伝子発現の阻害若しくは低減、又は機能不全若しくは不活性酵素の発現又は活性が低下した酵素の発現に影響を及ぼし得る。
【0105】
ディスクレーマー
明細書を過度に長くすることなく包括的な開示を提供するために、本出願人は、上記で参照した特許及び特許出願のそれぞれを参照により本明細書に組み入れる。
【0106】
上記の詳細な実施形態における要素及び特徴の特定の組み合わせは例示的なものにすぎず、これらの教示と、本明細書並びに参照により援用される特許/出願中の他の教示との交換及び置換もまた明示的に企図される。当業者には理解されるように、特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されているものの変形、修正及び他の実施を当業者は思い浮かべることができよう。したがって、前述の説明は単なる例示にすぎず、限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物において定義される。さらに、説明及び特許請求の範囲で使用されている参照符号は、特許請求されている本発明の範囲を限定するものではない。
【0107】
実施例及び図面の簡単な説明
本発明の目的のさらなる詳細、特徴、特性及び利点は、従属請求項、並びにそれぞれの図及び実施例の以下の説明に開示されており、それらは例示的な様式で本発明の好ましい実施形態を示す。しかし、これらの図面は、決して本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1】ウサギにおけるヒトIgG及び脱グリコシル化ヒトIgGの単回注射時の平均血清レベル(n=8~10/群)の経時変化の図である。
図2】ウサギにおけるヒトIgG及び脱グリコシル化ヒトIgGの単回注射時の個々のCmax(n=8~10/群)の図である。
図3】ウサギにおける、O-アセチル化が異なる2種のバッチのFc融合タンパク質Orencia(R)(アバタセプト)の単回皮下注射時の平均血清レベル(n=11/群)の経時変化を示す図である(バッチ1が高O-アセチル化、バッチ2が低O-アセチル化)。
図4】ウサギにおける2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の個々のAUC(n=11/群、バーは群平均を示す)を示す図である。本明細書並びに図5~7及び10~13で使用される「O-アセチル化のレベル」という用語は、本明細書の他の箇所で定義されるように、「シアル酸残基のアセチル化率」を意味する。
図5】2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の平均AUCとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す図である(n=11~14/群)。
図6】ウサギにおける2種のOrencia(R)バッチ(バッチ1が低O-アセチル化、バッチ2が高O-アセチル化)の単回皮下注射時の個々のCmaxを示す図である(n=11/群、バーは群平均を示す)。
図7】2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の平均CmaxとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す図である(n=11/群)。
図8】脱O-アセチル化後のシアル酸プロファイルを示す図である(試料A擬似処理対照、試料E脱O-アセチル化Orencia(R))。
図9】ウサギにおける擬似修飾又は脱O-アセチル化Orencia(R)の単回皮下注射時の平均血清レベルの経時変化を示す図である(n=11~14/群)。
図10】ウサギにおける擬似修飾又は脱O-アセチル化Orencia(R)の単回皮下注射時の個々のAUC及び群平均を示す図である(n=11/群、バーは群平均を示す)。
図11】ウサギにおけるOrencia(R)(擬似修飾又は脱O-アセチル化物)の単回皮下注射時の平均AUCとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す図である(n=11~14/群)。
図12】ウサギにおける擬似修飾又は脱O-アセチル化Orencia(R)の単回皮下注射時の個々のCmax及び群平均を示す図である(n=11~14/群、バーは群平均を示す)。
図13】ウサギにおけるOrencia(R)(擬似修飾又は脱O-アセチル化物)の単回皮下注射時の平均CmaxとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す図である(n=11~14/群)。
図14】脱O-アセチル化後のシアル酸プロファイルを示す図である(試料1 脱O-アセチル化Aranesp(R)、試料2 未処理対照)。
図15】Aranesp(R)及び修飾Aranesp(R)で処理した後のHb(ベースラインでのHbレベルに対して正規化)の経時変化を示す図である。(平均±SD、n=10/群)。
図16】Aranesp(R)及び修飾Aranesp(R)で処理した後のMCHの経時変化を示す図である(平均±SD、n=10/群)。
図17】N-又はO-アセチル化シアル酸のいくつかの例を示す図である。
図18】アセチル化シアル酸を含むN-結合グリカン及びO-結合グリカンの一般構造を示す図である。N結合グリカンは、小胞体中のタンパク質に配列モチーフ中のAsnが結合している(Asn-X-Ser又はAsn-X-Thr、式中、XはProを除く任意のAA酸である)。O結合グリカンは、ゴルジ体のSer又はThr残基において一度に1つの糖が組立てられる。コンセンサスモチーフはないように思われるが、Ser又はThrに対して-1又は+3のいずれかでProが存在することが好ましい。
【実施例
【0109】
[実施例1]
糖タンパク質生物製剤の薬物動態に対する糖構造の完全除去の効果
最初の研究では、糖タンパク質生物製剤の薬物動態に対する糖構造の完全除去の効果を調べた。この実験には、グリコシル化IgG1型モノクローナル抗体を使用した。抗体のFcドメインのガラクトシル化が、エフェクター細胞の効率的な動員のための役割を果たすといういくつかの証拠があるが、薬物動態学などの残りの特徴についてのグリコシル化それ自体の役割、特にシアル酸のシアル化及びO-アセチル化の役割についてはあまり理解されていない。
【0110】
この目的のために、ヒトIgG1 mAbを標準的なプロトコルに従って酵素的に脱グリコシル化し(例えば、Kim&Leahy 2013を参照されたい)、表1に要約されるように、薬物動態を単一静脈内注射後に評価した。
【0111】
【表1】
【0112】
高密度血清試料を採取して、処置後14日までの全経時変化を綿密にモニターし、凍結保存し、従来のELISAを用いてヒトIgG濃度について定量し、これをこの目的のために検証した。
【0113】
図1は、初期段階を除き、未修飾IgG及び脱グリコシル化IgGの比較においてかなり類似した経時変化を示す。初期段階、すなわち図2に例示するCmaxをより詳細に検討すると、データは、ほとんどの糖構造がタンパク質骨格の外面に位置していないが、これらの構造がエフェクター細胞の動員だけでなく、分布についても十分役割を果たし得ることを示す。具体的には、この実施例の結果は、すべてのグリカンを完全に除去すると、最大濃度が低下することを示している。
【0114】
[実施例2]
異なるシアル酸O-アセチル化率を有する異なるバッチの糖タンパク質生物製剤のバイオアベイラビリティの違い
異なるレベルのO-アセチル化を有する2種のバッチのCTLA-FC融合タンパク質アバタセプト(Orencia(R))が単回皮下投与時のそれらの曝露/バイオアベイラビリティにおいて異なるかどうかを試験した。それぞれのジ-O-アセチル化率は、バッチ番号1では11.4%、バッチ番号2では6.5%であった。トリ-O-アセチル化シアル酸は観察されなかった。
【0115】
【表2】
【0116】
高密度血清試料を、処置後14日まで採取して、血清レベルを綿密にモニターし、凍結保存し、従来のELISAを用いてアバタセプト濃度について定量した。
【0117】
図3は、ウサギにおける、2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の平均血清レベル(n=11/群)の経時変化を示す図である(製造業者の指示に従った再構成及びさらなる取り扱い工程を、Orencia(R)緩衝液でわずかに希釈して適用し、両方の群について同一の注射容量をもたらした)。図4は個々のAUCを示す。図5は、平均AUCとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す。図6は、ウサギにおける2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の個々のAUCを示し、図7は、2種のOrencia(R)バッチの単回皮下注射時の平均CmaxとO-アセチル化レベルとの間の関係を示す。
【0118】
図3は、使用した2種のバッチの平均血清濃度の経時変化を示す。投与された用量は同じであるが、2種のバッチは達成された血清濃度が明らかに異なる。図4はさらに、両群の動物について観察された個々のAUC及びそれらの曝露の違いを示す。図5は、O-アセチル化レベルと曝露との間の外見上の関係を示す。この違いはAUCに関して観察されるだけではなく、図6は最大血清濃度もまたAUCと同様に異なり、明らかにCmaxとも相関することを示している(図6及び7)。したがって、O-アセチル化率が高いほど、バイオアベイラビリティが明らかに増加する。これは、脱グリコシル化された、したがって脱シアル化/脱O-アセチル化されたIgGと比較して、実施例1のIgGについて観察されたより高いCmaxと一致する。
【0119】
[実施例3]
曝露/バイオアベイラビリティに対するシアル酸O-アセチル化率低下の影響
この実施例では、選択された糖タンパク質生物製剤のO-アセチル化率と曝露/バイオアベイラビリティとの間の因果関係を調査した。
【0120】
この目的のために、十分量の単一バッチのアバタセプト(Orencia(R))を購入し、再構成し、pH7の10mMリン酸ナトリウム/1mM MgCl緩衝液中に脱塩した。バッチを二等分に分けた。最初の半分を、シアル酸-9-O-アセチルエステラーゼ(Applied BioTech、Angewandte Biotechnologie GmbH)と共に37℃において2時間インキュベートした。第2の半分も同様に処理したが、酵素は加えなかった。続いて、エステラーゼをアフィニティークロマトグラフィーにより除去した。得られた2つの物質の特徴を表3及び図8に要約した。表4は、これら2つの物質の比較のための研究デザインを要約している。
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
高密度血清サンプリング(血清レベルの綿密で信頼できる経時的なモニタリングを可能にする高頻度のサンプリング)を処理後14日まで使用し、試料を凍結保存し、従来のELISAを使用してOrencia(R)濃度について定量した。
【0124】
次いで2種のバッチの用量をウサギに皮下投与した。結果を図9~13に示す。平均血清濃度(図9)、対応する個々のAUC(図10図11)の経時変化は、O-アセチル化率の低下がバイオアベイラビリティの低下をもたらすことを明らかに示している。Cmaxもまた、O-アセチル化率をより低く低下させた物質ほどより低かった(図12図13)。
【0125】
[実施例4]
O-アセチル化レベルの低下したシアル酸によるESAの有効性の増大
赤血球生成促進剤の典型的な例として、Aranesp(R)(ダルベポエチンアルファ)を選択した。Aranesp(R)は高度にシアル化されており、同様にO-アセチル化シアル酸を担持している。ヒトについて得られる結果に対する優れた予測性のため、ラットをモデルとして選択した。注射経路として、臨床実践の典型的な経路を代表する皮下注射をこの場合もまた選択した。用量範囲も同様に、臨床実践に従うように選択した。
【0126】
インビボで試験される脱O-アセチル化Aranesp(R)の調製のために、Aranesp(R)を使用した。簡潔には、いくつかの注射器をプールして、約1mgのダルペポエチン出発物質を提供し、その緩衝液を透析によって140mM NaClを含有する50mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.6に交換し、その後、1Uのシアル酸9-O-アセチルエステラーゼで処理した1mlと共に37℃において20時間インキュベートした。
【0127】
インキュベーション後、酵素を抗Epo抗体カラムでのアフィニティークロマトグラフィーにより除去した。カラム溶出液を再び140mMのNaClを含有する20mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)に対して緩衝液交換し、濾過滅菌し、アリコートをとり、この実施例に示されるように動物の処置に使用するまで-60℃以下で保存した。含有量測定はRP-HPLCにより行った。RP-HPLCにより測定された濃度は0.136mg/mlであり、これは投与量を計算するための基礎として使用された。
【0128】
脱O-アセチル化Aranesp(R)をLC-MSによって分析して酵素処理の効率を決定し、無傷のタンパク質構造を制御した。O-アセチル化シアル酸を含む種は検出されず、効率的な脱O-アセチル化を示した。そうでなければ、スペクトルは、5つすべてのN結合部位にテトラアンテナ型の、テトラ-シアログリカン構造及び1つのジシアル化O結合グリカンを担持する、概して高度にシアル化された分子(22個のシアル酸を有する種)が豊富に存在する予想されるグリコシル化種を示す。グリコフォームの分布もシアログリカンマップの結果と定性的に一致している。
【0129】
シアル酸の分析は、DMB標識及びRP-HPLCによって行った。得られたクロマトグラムを未処理のAranesp(R)試料と比較して図14に示す。この分析は、モノ-又はジ-O-アセチル化シアル酸に対応する極めて低い強度のピークのみが検出できたので、脱-O-アセチル化が非常に効率的であったことを示す。脱O-アセチル化物質を、凍結-解凍サイクル時の凝集、及びグリカン分析(イオン交換クロマトグラフィーによるシアログリカンマップ)に関してさらに特徴付けた。得られた2つの物質の特徴を表5に要約した。
【0130】
【表5】
【0131】
ヒトについて得られる結果に対する優れた予測性のため、ラットを比較のための種として選択した。注射経路として、臨床実践の典型的な経路を代表する皮下注射を選択した。用量範囲も同様に、臨床実践に従うように選択した。
【0132】
PD読み出しの感度のために、この実施例において研究デザインをさらに改良した。高度に特異的な酵素的修飾に加えて、修飾による分子量の変化を投薬に考慮した。天然Aranesp(R)の分子量は約37,100Daである。完全な脱O-アセチル化の場合、MWは約36,366Daに減少する。先の実施例では用量は重量ベース(mg/kg)であったが、この用量は投与される分子数に基づきこの研究において同じであった、すなわち、分子量の1~2%の変化を考慮して等モルの投薬であった(表6)。
【0133】
【表6】
【0134】
動物を標準条件下で飼育し、表6に詳述するように単回注射で処置した。処置群への割り当ては投薬前にランダムに行った。尾静脈から血液を採取し、標準の血液学的機器を用いて分析した。
【0135】
表7は、相当数のAranesp(R)ロットについて観察された最小レベルのO-アセチル化を要約しており、Neu5AcのO-アセチル化がO-アセチル化の全体平均レベルに関して一貫して主要な役割を果たすことを示している。
【0136】
【表7】
【0137】
群間、すなわち処置前のHbの最小ベースライン差を補償するために、図15は観察されたHbをベースラインレベルの%として示す。データは、天然のAranesp(R)と比較して、修飾Aranesp(R)で処置した後の、わずかにより顕著なHbの増加を示す。試験した3つすべての用量レベルにおいて、より顕著な増加が一貫して観察された。
【0138】
Hb増加の詳細についてより多くの洞察を得るために、網状赤血球数及び赤血球数を調べた。意外なことに、修飾Aranesp(R)で処置した群におけるRBC増加のレベルは、Aranesp(R)処置群で観察されたものよりもわずかに顕著ではなかった。
【0139】
その結果、MCHを図16に示すように分析した。驚くべきことに、処置後に観察されたHbの増加と同期して、修飾Aranesp(R)による処置後のMCHの増加は、天然のAranesp(R)よりも顕著であった。
【0140】
結果として、脱アセチル化又は非アセチル化シアル酸を含むESAは、未修飾ESAと比較して、顕著なRBC増殖刺激を示さなかったが、得られたRBCにおけるMCHの増加を示した。
【0141】
RBCは凝固促進性リン脂質の曝露を介して止血に関与するので(Peyrou et al.,1999)、RBCのESA媒介増加は心血管リスクの増加をもたらす。しかし、ESA処置の治療目標は血液の酸素容量の増加であり、必ずしもRBCの増加ではない。従来のESA治療は、RBC増殖の刺激によってこれを達成し、それ故、より高い酸素容量をもたらす。
【0142】
本発明者らは、脱アセチル化又は非アセチル化シアル酸を含むESAが、従来のESAと同程度にRBCを増加させることなく、しかしMCH、すなわちHbの平均負荷/RBCの増加によって血液の酸素容量を増加させることを示した。このアプローチは、心血管リスクの増加のような、ESA処置と同時に起こる副作用を減らすのを助けることができる。
【0143】
理論に縛られるわけではないが、1つの説明は、成熟中にRBCに負荷されるHbの量が異なり得るということであり得る。低色素性貧血を特徴とするいくつかの状態は、正常なRBC数を示すが低いHbを示し、RBCの容積に対してHbの不均衡な減少があるので、脱アセチル化又は非アセチル化シアルを含むESAは、Hb/RBCの充填量が増加するという点で反対の現象を引き起こすと思われる。
【0144】
一般に、シアル酸は、多数の生物学的過程において重要な役割を果たすことが知られている糖構造の例である。シアル化のレベルを増加させるための治療用タンパク質の遺伝子改変は、投与用量から生じる曝露を最大にするための、成功した頻繁に使用されるアプローチである。ESA中のシアル酸のO-アセチル化レベルの低下が一貫して、一方ではより低いレベルの曝露/バイオアベイラビリティをもたらすが、同時にMCHに関しては有効性の増大をもたらすことは驚くべきことである。エリスロポエチンに関する刊行物はシアル酸のO-アセチル化が実際に半減期を増加させることを示しているのでこれは予想外である(Shahrokh et al.,2011)。
【0145】
したがって、O-アセチル化のレベルがより低いシアル酸を含むESAは、酸素容量に関して有効性がより低いであろうと予想されたが、観察された効果は逆であった。
【0146】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16
図17
図18