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特許7432631アンテナ装置及びアンテナ装置の製造方法
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  • 特許-アンテナ装置及びアンテナ装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アンテナ装置及びアンテナ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/103 20060101AFI20240208BHJP
   H01P 11/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H01P5/103 D
H01P5/103 F
H01P11/00 103
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022009562
(22)【出願日】2022-01-25
(65)【公開番号】P2023108434
(43)【公開日】2023-08-04
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】山本 綾
(72)【発明者】
【氏名】清水 健司
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0255227(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106374231(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/103
H01P 11/00
H01Q 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸ケーブルが連結される金属製の基体部(3)と、
前記基体部の内部に形成された導波路(4)と、
前記基体部に連結される前記同軸ケーブルと前記導波路を結ぶように前記基体部の内部に形成された挿通孔(15)と、
前記挿通孔と連続するように前記導波路に開口して前記基体部の内部に形成された受け孔(16)と、
前記同軸ケーブルと導通するように基端部が前記基体部に固定され、前記挿通孔に隙間をおいて挿入されるとともに先端部が前記受け孔に挿入される導体ピン(13)と、
前記導体ピンの先端部を前記受け孔内で固定するように前記基体部に設けられた固定部材(19)と、
を有することを特徴とするアンテナ装置(1)。
【請求項2】
前記固定部材(19)は、前記導体ピン(13)の長手方向と直交する方向に移動して前記導体ピンを押圧することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置(1)。
【請求項3】
前記導波路(4)には、リッジ(6)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ装置(1)。
【請求項4】
受け孔(16)が開口して形成された第1の構造部材(2a)と、挿通孔(15)が貫通して形成された第2の構造部材(2b)を含む複数の構造部材から構成された基体部(3)と、
前記第2の構造部材の表面に開口した前記挿通孔に取り付けられた同軸コネクタ(10)と、
基端部が前記同軸コネクタに取り付けられて前記挿通孔に隙間をおいて挿入されるとともに先端部が前記受け孔に挿入された導体ピン(13)と、
前記導体ピンの先端部を前記受け孔内で固定するように前記第1の構造部材に設けられた固定部材(19)と、
を有するアンテナ装置(1)の製造方法であって、
前記第1の構造部材に開口している前記受け孔に前記導体ピンを挿入する工程と、
前記第1の構造部材に前記固定部材を設けて前記導体ピンを固定する工程と、
前記導体ピンが前記挿通孔を通るように、前記第1の構造部材に前記第2の構造部材を組み合わせて基体部を組立てる工程と、
第2の構造部材に開口した前記挿通孔と前記導体ピンの前記基端部に前記同軸コネクタを取り付ける工程と、
を具備することを特徴とするアンテナ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体部に取り付けられた同軸ケーブルと、基体部の内部にある導波路に設けられた導体ピンとを結合し、この導体ピンにより電力を授受して電波の送受信を行なうアンテナ装置とその製造方法に係り、特に導体ピンを所定の位置に確実に固定することによって、より高い周波数帯において安定した良好な性能を示すアンテナ装置とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアの進展に伴い、セルラ、無線LAN等の無線通信用のアンテナが実装された無線端末(スマートフォン等)が盛んに生産されるようになっている。今後は、特に、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末が求められている。
【0003】
近年、このような無線端末の性能試験として、ダブルリッジホーンアンテナ(Double-Ridged Horn Antenna:DRHA)又はクアッドリッジホーンアンテナ(Quad-Ridged HornAntenna :QRHA)などのホーンアンテナを用いたOTA(Over The Air)試験が行われるようになっている。下記特許文献1には、OTA環境の電波暗箱を用いて、被試験対象のアンテナから送受信される無線信号に対してスプリアス測定を行なうアンテナ装置の発明が開示されている。
【0004】
また、従来、DRHA又はQRHAなどのホーンアンテナのリッジの内部に設けられたアンテナ給電領域(フィードポイント)において、同軸ケーブルとリッジとの間のインピーダンス不整合を低減することにより、これらのアンテナの低周波数帯域における周波数特性を改善する試みがなされている。下記特許文献2には、電波暗箱におけるOTA試験に使用可能であり、インピーダンス不整合の低減によって動作周波数帯域を拡大したホーンアンテナの発明が開示されている。
【0005】
特許文献2に開示されたホーンアンテナによれば、同文献の図5Aに示されるように、アンテナの本体であるベース部分320に取り付けられた同軸伝送線350と、ベース部分320の内部に形成された導波路とを導体ピン370で結合し、この導体ピンにより電力を授受して電波の送受信を行なうことができる。この導体ピン370は、その一端部がベース部分320側に固定されており、さらにベース部分320の内部に形成された挿通孔を経て給電領域380の導波路を横断するように配置され、その他端部が、ベース部分320の内部において挿通孔と反対側に形成されたノッチ部390に挿入されている。そして、このホーンアンテナによれば、インピーダンス不整合を減少させるために、導体ピン370の直径または挿通孔及びノッチ部390の内径は、導体ピン370の先端に近づくに連れて減少する構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-60358号公報
【文献】特許第5036772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されたホーンアンテナを波長が短いミリ波帯において実現しようとすると、その製造・組立工程において、0.3mm程度である細い導体ピン370を、比較的内径の大きい挿通孔に挿通させるとともに、その先端部を比較的内径が小さいノッチ部390に差し込み、挿通孔及びノッチ部390の内面と接触しない一定の状態に安定して固定するのは、加工技術及び組立技術の面で困難であり、同一仕様の製品であっても、その性能にばらつきが生じる可能性があった。
【0008】
特許文献2には、導体ピン370と挿通孔の内面との間には隙間があるが、導体ピン370とノッチ部390の内面との間には誘電体400が充填されている構造例も開示されている。このような構造例に従い、上述したように比較的内径の小さいノッチ部390に誘電体を詰め込み、ここに導体ピン370の先端を差し込んで固定する構造も考えられるが、このような構造のアンテナでは、性能を所期の範囲に安定化させることは難しい。なぜなら、第1に比較的内径の小さいノッチ部390に誘電体を詰め込むことが技術的に困難だからである。また第2に、誘電体として多用される材料は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン樹脂)がそうであるように、機械材料としては寸法交差が大きい場合が多く、ノッチ部390に詰め込んだとしても、導体ピン370とノッチ部390の間に一定の厚さで設けることが難しいからである。そして、アンテナ装置の発明において、より高い周波数帯において安定した良好な性能を得ることを目的とした場合、アンテナ装置の給電領域である導波路を横断する導体ピンの配置が、微小寸法であっても所期の値から外れてしまうと、特に微小キャパシタンスの影響が大きな短波長帯域におけるアンテナの性能にばらつきが生じてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題に鑑みてなされたものであり、基体部に取り付けられた同軸ケーブルと、基体部の内部にある導波路に設けた導体ピンとを結合し、この導体ピンにより電力を授受して電波の送受信を行なうアンテナ装置において、導体ピンを所定の位置に確実に固定することにより、高い周波数帯において安定した良好な性能を示すことができるアンテナ装置と、その製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載されたアンテナ装置1は、
同軸ケーブルが連結される金属製の基体部3と、
前記基体部3の内部に形成された導波路4と、
前記基体部3に連結される前記同軸ケーブルと前記導波路4を結ぶように前記基体部3の内部に形成された挿通孔15と、
前記挿通孔15と連続するように前記導波路4に開口して前記基体部3の内部に形成された受け孔16と、
前記同軸ケーブルと導通するように基端部が前記基体部3に固定され、前記挿通孔15に隙間をおいて挿入されるとともに先端部が前記受け孔16に挿入される導体ピン13と、
前記導体ピン13の先端部を前記受け孔16内で固定するように前記基体部3に設けられた固定部材19と、
を有することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載されたアンテナ装置1は、請求項1に記載のアンテナ装置1において、
前記固定部材19は、前記導体ピン13の長手方向と直交する方向に移動して前記導体ピン13を押圧することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載されたアンテナ装置1は、請求項1又は2に記載のアンテナ装置1において、
前記導波路4には、リッジ6が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載されたアンテナ装置1の製造方法は、
受け孔16が開口して形成された第1の構造部材2aと、挿通孔15が貫通して形成された第2の構造部材2bを含む複数の構造部材から構成された基体部3と、
前記第2の構造部材2bの表面に開口した前記挿通孔15に取り付けられた同軸コネクタ10と、
基端部が前記同軸コネクタ10に取り付けられて前記挿通孔15に隙間をおいて挿入されるとともに先端部が前記受け孔16に挿入された導体ピン13と、
前記導体ピン13の先端部を前記受け孔16内で固定するように前記第1の構造部材2aに設けられた固定部材19と、
を有するアンテナ装置1の製造方法であって、
前記第1の構造部材2aに開口している前記受け孔16に前記導体ピン13を挿入する工程と、
前記第1の構造部材2aに前記固定部材19を設けて前記導体ピン13を固定する工程と、
前記導体ピン13が前記挿通孔15を通るように、前記第1の構造部材2aに前記第2の構造部材2bを組み合わせて基体部3を組立てる工程と、
第2の構造部材2bに開口した前記挿通孔15と前記導体ピン13の前記基端部に前記同軸コネクタ10を取り付ける工程と、
を具備することを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載されたアンテナ装置によれば、基体部に取り付けられる同軸ケーブルと、基体部の内部にある導波路を結ぶ導体ピンは、挿通孔に通されて導波路を横切るように配置されるとともに、その先端が受け孔に挿入されている。一方、基体部に設けられた固定部材は、受け孔に挿入された導体ピンの先端部を押圧しているので、挿通孔の内部及び受け孔の内部における導体ピンの位置は固定されて変化することがない。このためアンテナ装置は、導体ピンが固定されていないアンテナ装置に較べ、より高い周波数帯で安定した良好な性能を発揮することができ、また同一仕様の製品であれば性能にばらつきが生じることもない。
【0015】
請求項2に記載されたアンテナ装置によれば、固定部材は、導体ピンの長手方向と直交する方向に導体ピンを押圧するため、受け孔内にある導体ピンは、受け孔の内面と略平行な状態を維持しつつ、受け孔の内面に面接触する。このため、受け孔の内部における導体ピンの位置及び挿通孔の内部における導体ピンの位置は安定的に固定されて変化することがなく、アンテナ装置は所定の性能を発揮することができる。
【0016】
請求項3に記載されたアンテナ装置によれば、導波路には、リッジが設けられているため、そうでない場合に較べて、より広い周波数帯域、特に高周波帯域において安定した良好な性能を得ることができる。
【0017】
請求項4に記載されたアンテナ装置の製造方法によれば、第1の構造部材の受け孔に導体ピンを挿入して固定部材で固定してから、導体ピンが挿通孔を通るように、第1の構造部材に第2の構造部材を組み合わせて基体部を組立て、最後に、第2の構造部材の表面に開口した挿通孔と導体ピンの基端部に同軸コネクタを取り付ける。このような組立方法によれば、基体部を先に組み立てておき、同軸コネクタに取り付けた導体ピンを基体部の外側から挿通孔に挿入し、視認できない受け孔に差し込む組立方法に較べれば、導体ピンの取り扱いが容易で作業が簡便になり、組立精度が高いという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態のアンテナ装置の外観斜視図である。
図2】実施形態のアンテナ装置において上面の同軸コネクタの中心を通過し、基体部の長手辺に平行な鉛直面を切断面とした断面図である。
図3】実施形態のアンテナ装置に用いられている同軸コネクタを構成する部品の写真を示す図である。
図4図2のA部の拡大図である。
図5】実施形態のアンテナ装置の製造工程を示す流れ図である。
図6】実施形態のアンテナ装置の入力電圧定在波比(VSWR)と、比較例のアンテナ装置の入力電圧定在波比(VSWR)一グラフに表して対比した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るアンテナ装置の実施形態について図1図5を参照して説明する。なお、各図面上の各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0020】
まず、実施形態のアンテナ装置1の構造を中心に説明する。
図1及び図2に示すように、実施形態のアンテナ装置1は、複数の構造部材2(2a,2b)から略箱型に組み立てられた金属製の基体部3を備えている。基体部3の内部には、電磁波が伝送される導波路4が形成されている。導波路4は、基体部3の前方に向けて拡径するホーン部5に連続しており、ホーン部5は基体部3の前面に開口している。
【0021】
図1及び図2に示すように、基体部3の導波路4からホーン部5の内表面には、4つのリッジ6がホーン部5の開口に向けて形成されている。実施形態のアンテナ装置1は、リッジ6を設けていることにより、これを設けない場合に較べ、より広い周波数帯域、特に高周波帯域において安定した良好な性能を得ることができる。なお、リッジ6の数は4つに限定する理由はなく、1つ又は2つでもよい。
【0022】
図2に示すように、導波路4は、基体部3の後面に開口して形成された略直方体状の空洞部7に連通している。空洞部7は閉止部8により閉止されている。閉止部8は、空洞部7の内形状と略一致する外形状を備えるが、空洞部7よりも長手方向の寸法が若干小さく、導波路4に連通する空洞部7の前方部分を所定の容積に区画している。この空洞部7により、アンテナ装置1の給電領域となる導波路4の後方にシャントインダクタンスが設けられ、インピーダンスを整合してエネルギーがアンテナ装置1の後方に放射されるのを防止している。なお、閉止部8の後端にはフランジ部9が設けられている。図示しない固定手段でフランジ部9を基体部3に連結することにより、閉止部8を空洞部7内に保持し、空洞部7の前方部分を所定の容積に区画することができる。また、図1に示したフランジ部9の形状から理解されるように、フランジ部9と図示しない固定手段によって、アンテナ装置1を他の装置やフレーム等に連結して固定することができる。
【0023】
図1及び図2に示すように、基体部3の上面及び側面には、同軸コネクタ10が取り付けられており、図示しない同軸ケーブルを、同軸コネクタ10を介して基体部3に連結することができる。図3は、同軸コネクタ10の構造を説明するための図であって、同軸コネクタ10を構成する部品の一例の写真を示している。図3に示すように、同軸コネクタ10は、基体部3に取り付けるためのフランジ11aが設けられた略円筒体である金属製のシェル11と、シェル11の内部に収納されるコンタクト12を備えており、コンタクト12には基体部3側に向けて突出する金属製の導体ピン13を取り付けることができる。コンタクト12は、略円筒形の部材であり、中心導体12aと、中心導体12aを囲む円筒形の外部導体12bを備えており、導体ピン13はコンタクト12の中心導体12aに接続される。図示はしないが、同軸コネクタ10は中心導体と外部導体を備えており、同軸ケーブルを同軸コネクタ10に連結すれば、同軸ケーブルの中心導体と、同軸コネクタ10の中心導体12aは電気的に接続される。
【0024】
図4は、図2中に太線で囲んで示したA部の拡大図である。図4に示すように、基体部3の内部には、基体部3に取り付けられた同軸コネクタ10の中心導体12aに接続された導体ピン13が挿通する挿通孔15が形成されている。挿通孔15は、導波路4の方向と直交する断面円形の孔であって、同軸コネクタ10の中心導体12aと外部導体12bの隙間と、空洞部7に近い導波路4とを結んでいる。挿通孔15の内径は、導体ピン13よりも大きく、導体ピン13を挿通孔15に挿入すると、導体ピン13は挿通孔15と軸線を一致させて挿通孔15の中心に配置され、導体ピン13の周囲には誘電体としての空気層が一定の厚さで存在し同軸線路として機能する。
【0025】
図4に示すように、基体部3の挿通孔15のもう一端には、中心軸線を一致させることで挿通孔15と連続するように、導波路4に開口して受け孔16が形成されている。受け孔16の内径は、導体ピン13が大きな抵抗を受けずに挿入できる程度の大きさであり、従って導体ピン13を受け孔16に挿入すると、導体ピン13の周面と受け孔16の内周面は、ほぼ面接触した状態となる。また、受け孔16の長さは、アンテナ装置1を組み立てた状態で導体ピン13の先端が受け孔16の底に接触する程度である。
【0026】
図2に示すように、基体部3の後面には、受け孔16又は導体ピン13の長手方向と直交する向きで、挿入孔17が開口して形成され、さらに挿入孔17の奥には、挿入孔17に同軸で連続するねじ孔18が形成されている。ねじ孔18は受け孔16に開口している。図2及び図4に示すように、ねじ孔18には、導体ピン13の固定部材として止めねじ19がねじ込まれており、受け孔16内にある導体ピン13の周面を止めねじ19の先端が押圧している。止めねじ19は、導体ピン13の長手方向と直交する方向に導体ピン13を押圧するため、受け孔16内の導体ピン13は、受け孔16の内表面と略平行な状態を維持しつつ、受け孔16の内表面に面で接触する。このため、受け孔16の内部における導体ピン13の位置及び挿通孔15の内部における導体ピン13の位置は安定的に固定されて変化することがなく、アンテナ装置1は所定の性能を発揮することができる。
【0027】
なお、止めねじ19を回して押圧力を強める操作又は弱める操作は、挿入孔17からドライバ等の器具を差し込んで行なう。通常、基体部3の空洞部7には閉止部8が挿入されており、基体部3の後面はフランジ部9によって覆われているため、挿入孔17は外側からは視認できず、アクセスすることはできない。従って、導体ピン13の保持状態を止めねじ19で適切に調整した後は、閉止部8及びフランジ部9を基体部3に取り付けることで、止めねじ19に対する故意又は過失による操作を防止し、アンテナ装置1の本来の性能を保障することができる。
【0028】
次に、実施形態のアンテナ装置1の製造方法(工程)を、図2及び図4を参照して説明する。このアンテナ装置1の基体部3は、複数の構造部材から組み立てられているが、当該構造物中、特に下側の構造部材を第1の構造部材2aと称し、上側の構造部材を第2の構造部材2bと称する。第1の構造部材2aと第2の構造部材2bの間に配される他の構造部材は中間の構造部材として符号2で示すものとする。
【0029】
まず、基体部3を略箱型に組み立てる前に、基体部3の下半部を構成する下側の第1の構造部材2aに開口している受け孔16に、導体ピン13を挿入する(図4、工程S1)。
【0030】
次に、下側の第1の構造部材2aの後面の挿入孔17から止めねじ19を入れ、奥のねじ孔18に止めねじ19をねじ込み、止めねじ19の先端で導体ピン13を押圧して固定する(図4、工程S2)。
【0031】
次に、下側の第1の構造部材2aの上に中間の構造部材2を組み合わせ、さらに上側の第2の構造部材2bを、導体ピン13の上半分が挿通孔15を通るように、下側の第1の構造部材2aの上に被せて複数の構造部材2a,2b,2を互いに固定し、基体部3を組み立てる(図4、工程S3)。
【0032】
最後に、上側の第2の構造部材2bに開口している挿通孔15と、ここから突出している導体ピン13に、同軸コネクタ10を取り付ける(図4、工程S4)。
【0033】
実施形態のアンテナ装置は、基体部3を先に組み立て、また同軸コネクタ10に導体ピン13を取り付けておき、同軸コネクタ10に取り付けた導体ピン13を基体部3の外側から挿通孔15を通して視認できない受け孔16に差し込むことによって製造することもできる。しかしながら、先に説明した実施形態の製造方法(工程)によれば、第1の構造部材2aの受け孔16に導体ピン13を挿入してから基体部3を組立て、同軸コネクタ10を基体部3に対して最後に取り付けているため、特に導体ピンの取り扱いが容易で作業が簡便になり、組立精度が高いという効果が得られる。
【0034】
次に、実施形態のアンテナ装置1の作用及び効果について説明する。
以上のように構成されたアンテナ装置1によれば、図示しない同軸ケーブルを介して導体ピン13に高周波信号が給電されると、導体ピン13と基体部3の間に高周波の電圧が印加され、高周波信号の電波が外部に放射される。また、外部から導波路4に電波が入力されると、これを導体ピン13で受信し、受信した電波は同軸ケーブルに向けて出力される。
【0035】
図5は、実施形態のアンテナ装置1の入力電圧定在波比(VSWR: Voltage Standing Wave Ratio)と、比較例のアンテナ装置1の入力電圧定在波比を一グラフに表して対比した図である。入力電圧定在波比は、上述したアンテナ装置1の作用において、アンテナ装置1の入力ポートに入射したパワーがいくら反射したかを表しており、入力電圧定在波比の値が小さいことはアンテナ装置1の性能が良好であることを示している。なお、比較例のアンテナ装置は、給電構造が特許文献2と類似の方法で基体部はアンテナ装置1と同一の構成とした。
【0036】
図5に示すように、実施形態のアンテナ装置1の入力電圧定在波比は、比較例のアンテナ装置に較べ、27GHzよりも高い周波数帯域では概ね低い値を示している。特に、実施形態のアンテナ装置1は、35GHzよりも高い周波数帯域において、比較例のアンテナ装置1に較べて数倍も良好な入力電圧定在波比を示しており、IEEE802.11adや5Gセルラ等に対応したミリ波帯の広帯域な無線信号を使用する無線端末への適用を想定した場合、実施形態のアンテナ装置1が通信システムの世代交代に対応できる優れた性能を有するアンテナ装置1となっていることが示されている。
【0037】
以上説明した実施形態のアンテナ装置1は、導体ピン13を配置した導波路4と、これに連続するリッジ6及びホーン部5を基体部3内に設けた構成となっており、これ単体でも電波の送受信を行なうことができ、前述した電波暗箱を用いたOTA(Over The Air)試験において、被試験対象のアンテナから送受信される無線信号に対してスプリアス測定を行なうアンテナ装置等として使用することができる。しかしながら、実施形態のアンテナ装置1を電磁波と電力の変換部と考え、そのホーン部5の開口に、別部材としてのホーンアンテナを取り付けて全体としてアンテナとして使用することもできる。
【符号の説明】
【0038】

1…アンテナ装置
2…構造部材
2a…第1の構造部材
2b…第2の構造部材
3…基体部
4…導波路
6…リッジ
10…同軸コネクタ
13…導体ピン
15…挿通孔
16…受け孔
19…固定部材としての止めねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6