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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】光測定装置の較正方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20240208BHJP
   G01J 1/44 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01J1/02 K
G01J1/44 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022037947
(22)【出願日】2022-03-11
(65)【公開番号】P2023132561
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一ノ倉 啓慈
(72)【発明者】
【氏名】新関 彰一
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-195455(JP,A)
【文献】特開2002-048642(JP,A)
【文献】特開2019-215167(JP,A)
【文献】特公平05-081849(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第103217215(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105352598(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDの発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む発光条件群を、複数の発光波長について決定する工であって、各前記発光条件は、前記LEDの選択及び選択した前記LEDへの入力電流値を含み、異なる前記発光条件群において選択される前記LEDは、互いに発光波長が異なる別の前記LEDである、決定工程と、
前記決定工程にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LEDの光出力を原器を用いて測定した第1測定結果を取得する第1取得工程と、
前記決定工程にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LEDの光出力を較正対象の光測定装置を用いて測定した第2測定結果を取得する第2取得工程と、
前記第1測定結果と前記第2測定結果とに基づき、前記光測定装置の感度を補正する感度補正工程と、
を備える光測定装置の較正方法。
【請求項2】
前記決定工程において決定する前記各発光条件群の前記複数の発光条件は、前記LEDの光出力が3水準以上となる条件であり、
前記各発光条件群の前記複数の発光条件は、前記各水準の光出力となる発光条件を複数ずつ有する、
請求項1に記載の光測定装置の較正方法。
【請求項3】
前記LEDの発光波長をλとし、前記第1測定結果をP1(λ)とし、前記第2測定結果をP2(λ)としたとき、前記感度補正工程は、P1(λ)/P2(λ)で表される感度補正係数に基づいて前記光測定装置の感度を補正する、
請求項1又は2に記載の光測定装置の較正方法。
【請求項4】
前記感度補正工程後、確認用LEDの光出力を、前記光測定装置と前記原器とで測定し、前記光測定装置による測定結果と前記原器による測定結果とを確認する確認工程と、
前記確認工程において前記光測定装置による出力結果と前記原器による出力結果とが異なるとき、前記光測定装置による光出力の測定結果を、前記原器による光出力の測定結果に近付ける調整工程と、をさらに備える
請求項3に記載の光測定装置の較正方法。
【請求項5】
前記各発光条件群の前記複数の発光条件は、前記LEDに入力する電流値を互いに異ならせた条件を含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光測定装置の較正方法。
【請求項6】
前記各発光条件群の前記複数の発光条件は、互いに異なる光出力特性の複数の前記LEDを用い、前記複数のLEDに入力する電流値を互いに同じにした条件を含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光測定装置の較正方法。
【請求項7】
前記光測定装置は、フォトダイオードを受光素子として備え、
前記決定工程においては、250nm以上320nm以下の範囲のうちの複数の発光波長について、前記発光条件群を決定する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光測定装置の較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光測定装置の較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光源の光出力を測定する光測定装置(すなわち特許文献1に記載の光パワー測定装置)が開示されている。また、特許文献1には、被測定光の波長によって光測定装置の感度が変わることに起因して、光出力の測定精度が変わることを抑制すべく、光測定装置の感度を補正する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法は、それぞれ異なる波長の光を発する複数の基準光源を準備し、この基準光源から発される光を用いて光測定装置の感度の補正が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-195455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、LED(Light Emitting Diode)からの出射光にはある波長の範囲において連続した複数の波長の光が混在している。そのため、光測定装置にてLEDの光出力を正確に測定するためには、LEDの出射光に含まれるある波長の範囲において連続した複数の波長の光を考慮して光測定装置の感度が補正されるべきである。しかしながら、かかる観点については、特許文献1においては何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、LEDの光出力の測定精度に波長依存性が生じることを抑制できる光測定装置の較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、LEDの発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む発光条件群を、複数の発光波長について決定する工であって、各前記発光条件は、前記LEDの選択及び選択した前記LEDへの入力電流値を含み、異なる前記発光条件群において選択される前記LEDは、互いに発光波長が異なる別の前記LEDである、決定工程と、前記決定工程にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LEDの光出力を原器を用いて測定した第1測定結果を取得する第1取得工程と、前記決定工程にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LEDの光出力を較正対象の光測定装置を用いて測定した第2測定結果を取得する第2取得工程と、前記第1測定結果と前記第2測定結果とに基づき、前記光測定装置の感度を補正する感度補正工程と、を備える光測定装置の較正方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、LEDの光出力の測定精度に波長依存性が生じることを抑制できる光測定装置の較正方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態における、較正対象の光測定装置の構成を示す模式図である。
図2】実施の形態における、原器の構成を示す模式図である。
図3】実施の形態における、光測定装置の較正方法が実施する処理のフローチャートである。
図4】実施の形態における、発光条件群1の第1測定結果P1及び第2測定結果P2の関係を示すグラフである。
図5】実施の形態における、傾きP1(λ)/P2(λ)と平均発光波長との関係を示すグラフ。
図6】実施の形態における、傾きPc1(λ)/Pc2(λ)と平均発光波長との関係を示すグラフである。
図7】実施の形態における、Pc1(λ)とPc2(λ)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本形態における較正対象の光測定装置1の構成を示す模式図である。図2は、本形態における原器10の構成を示す模式図である。本形態の光測定装置1の較正方法は、光測定装置1と原器10とによるLED100の光出力の測定結果を参照して光測定装置1を較正する方法である。まず、光測定装置1と原器10とについて説明する。
【0011】
光測定装置1は、測定可能波長範囲の各波長の光を測定したときに表示される測定結果が真の値となるよう較正がなされていない光測定装置である。測定可能波長範囲とは、較正後の光測定装置1において正確に光出力を測定可能となる波長範囲である。測定可能波長範囲は、例えば250nm以上320nm以下の波長範囲とすることができ、特に本形態においては265nm以上300nm以下の波長範囲である。なお、本明細書において、LED100からの出射光に関して発光波長といったときは、特に言及しない限り、LED100の出射光におけるピーク波長(中心波長)を意味するものとする。
【0012】
光測定装置1は、積分球2、受光素子3及び処理部4を備える。積分球2は、内部が中空となるよう形成されているとともに、その内面が球面状に形成されている。積分球2の内面は、光を拡散反射可能な素材からなる。積分球2には、被測定対象の光を導入するための導入口21と、光を外部に取り出すための取出口22とが形成されている。導入口21から積分球2に光が入射されると、積分球2の内面において光が繰り返し拡散反射されることで、積分球2の内部における光強度の分布が均一化される。そして、取出口22から取り出された光は、受光素子3に送られる。光の伝搬は、例えば図示しない光ファイバを用いて行われる。また、受光素子3を取出口22に直接取り付けてもよい。
【0013】
受光素子3は、光を受光したときに、その光出力に応じた電流値を出力する。本形態において、受光素子3は、シリコンフォトダイオードである。受光素子3は、受光する波長の光によって感度が異なるため、例えば、受光素子3が同じ光出力の光を受光したとしても、波長が異なる場合は出力される電流値が異なる。このことを考慮し、処理部4は、光測定装置1による光出力の測定精度を上げるための処理を行う。
【0014】
処理部4は、受光素子3の出力電流に基づき、受光素子3が受光した光の光出力を算出する。処理部4は、I/V変換部41、演算部42、記憶部43及び表示部44を備える。
【0015】
I/V変換部41は、受光素子3から出力される電流を電圧信号に変換する。例えば、I/V変換部41は、オペアンプ及び抵抗を有する回路にて構成することができる。I/V変換部41から出力される電圧信号は、演算部42へ送られる。
【0016】
演算部42は、I/V変換部41から取得した電圧情報を、所定の規則に従って光出力情報に変換する処理を行う。例えば、演算部42は、I/V変換部41から取得した電圧情報を予め定められた規則に従って光出力に変換する。例えば、演算部42は、I/V変換部41から取得した電圧情報に、予め定められた係数を乗算することで、被測定光の光出力を算出する。しかしながら、光測定装置1が未較正の状態において、演算部42は、測定可能波長範囲の各波長のLED100の光について正確に光出力を算出できないことがある。そのため、本形態の較正方法にて光測定装置1が較正される。なお、本形態においては、受光素子3の出力電流の値をI/V変換部41にて電圧情報に変換し、さらにこれを最終的にワット又はミリワットに変換しているが、例えばI/V変換部41から取得した電圧情報を単位ボルト[V]又はミリボルト[mV]の単位の光出力として表示してもよいし、例えばI/V変換部41を排除し、受光素子3から出力される電流の情報をアンペア[A]又はミリアンペア[mA]の単位の光出力として表示してもよい。
【0017】
演算部42は、CPU(すなわち演算処理装置)を有する。また、記憶部43は、CPU動作時の演算領域となるRAMと、CPUが実行するプログラムが記憶されたROMとを有する。演算部42にて算出された被測定光の光出力の結果は、表示部44へ送られる。
【0018】
表示部44は、例えば演算部42から受信した被測定光の光出力の結果を表示させる。表示部44は、例えば液晶ディスプレイ又は有機EL(すなわちElectro-Luminescence)ディスプレイ等にて構成することが可能である。
【0019】
光測定装置1による光出力の測定対象となるLED100は、波長に幅がある光(例えば半値幅10nm以上の光)を出射する光源である。LED100は、例えばAlGaN系の組成を有する複数の半導体層が積層された発光素子がパッケージ化されたものであってもよいし、発光素子がパッケージ化される前の状態であってもよい。
【0020】
次に、図2を用いて、原器10の構成について説明する。
原器10は、少なくとも光測定装置1の測定可能波長範囲の各波長の光を測定したときに、表示される測定結果が真の値となるよう較正されている光測定装置である。原器10の較正方法は、種々の方法を採用することが可能である。原器10は、分光器102を備えていること、及び、少なくとも光測定装置1の測定可能波長範囲において正確な光出力を算出できるよう較正されていることを除いて、光測定装置1と同様の構成を有する。図2においては、積分球を符号101、積分球の導入口を符号101a、積分球の取出口を符号101b、分光器を符号102、受光素子を符号103、処理部を符号104、I/V変換部を符号104a、演算部を符号104b、記憶部を符号104c、表示部を符号104dにて表している。
【0021】
原器10においては、積分球101の取出口101bから取り出された光は、光ファイバを通して分光器102に送られる。そして、分光器102は、入射される光を単色化して出力する。すなわち、分光器102は、入射される光のうちの特定の波長の光のみを取り出すことができるよう構成されている。分光器102にて単色化された光は、受光素子103に送られる。その他の原器10の構成は、光測定装置1と同様である。なお、原器10がマルチチャンネルの検出器である場合、分光器102は、ポリクロメータとして動作するものを使用する。
【0022】
次に、光測定装置1の較正方法について詳説する。図3は、本形態の光測定装置1の較正方法が実施する処理のフローチャートである。光測定装置1の較正方法においては、決定工程S1、第1取得工程S2、第2取得工程S3、感度補正工程S4、確認工程S5、及び調整工程S6が行われる。
【0023】
決定工程S1は、所望の発光波長及び光出力が得られる発光条件を複数決定する工程である。発光条件は、LEDを発光させるための条件であり、選択LEDと入力電流値とを含む。選択LEDは、種々のLEDから、波長及び光出力が所望のものとなるように選択したLEDである。同種のLEDであっても、個体差で光出力及び波長が変わり得るため、このことも考慮してLEDが選択される。入力電流値は、選択LEDを発光させるために選択LEDに入力する電流値である。なお、LEDは、入力電流値が高くなる程、発光出力が高くなる傾向がある。
【0024】
決定工程S1においては、LEDの発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む発光条件群が、複数(本形態においては6つ)の発光波長について決定される。このことを、下記表1を参照しつつ説明する。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示すように、本形態においては、互いに発光波長が異なる6つの発光条件群1~6を決定した。表1に記載の記号λは、各発光条件群における狙いの発光波長である。例えば、発光条件群1は、発光波長が265nm又はその近傍となる4つの発光条件1.1~1.4を有する。本形態においては、6つの発光条件群1~6における発光波長は、5nmピッチ又は10nmピッチとなるようにした。例えば、発光条件群1における発光波長265nmと発光条件群2における発光波長270nmとの間は5nmピッチであり、発光条件群2における発光波長270nmと発光条件群3における発光波長280nmとの間は10nmピッチとなっている。
【0027】
本形態において、1つの発光条件群における複数の発光条件の選択LEDは、互いに光出力特性が同等の5つのLED(例えば、発光条件群1におけるLED1.1~1.5)とした。光出力特性が同等の複数のLEDとは、入力される電流値が同じであるときの光出力が同等となる複数のLEDである。なお、1つの発光条件群の複数の発光条件の選択LEDは、本形態においては5つとしたが、その他の数、例えば1つでもよい。
【0028】
各発光条件群の入力電流値は、100mA、200mA、300mA、及び350mAの4つとした。これにより、各発光条件群の複数の発光条件を、入力電流値100mAのときの光出力水準、入力電流値200mAのときの光出力水準、入力電流値300mAのときの光出力水準、及び入力電流値350mAのときの光出力水準の4つの水準の光出力を発することができる条件とした。本形態において、各発光条件群は、選択LEDとして光出力特性が同等の5つのLEDを有していることから、各発光条件群は、各水準の光出力となる発光条件を5つずつ有することとなる。例えば、発光条件群1は、光出力特性が同等のLED1.1~1.5のそれぞれに100mAを入力する5つ発光条件1.1を有するが、これら5つの発光条件1.1は、いずれも同じ水準の光出力となる条件である。4つの光出力水準は、6つの発光条件群1~6において異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、発光条件1.1、発光条件2.1、発光条件3.1、発光条件4.1、発光条件5.1及び発光条件6.1の光出力水準は、互いに異なっていてもよいし、互いに同じであってもよい。決定工程S1の後、第1取得工程S2及び第2取得工程S3が行われる。
【0029】
第1取得工程S2は、表1に示した各発光条件に従って発光させたLEDの光出力を原器10を用いて測定した結果である第1測定結果P1(λ)を取得する工程である。記号(λ)は、その直前の記号(例えばP1(λ)の場合はP1)が、波長λに依存する関数であることを意味する。第1測定結果P1(λ)は、原器10の分光器102にてLEDの出射光が波長毎に分光され、原器10にて波長毎の光出力が測定されるとともに、測定された各波長の光出力が積算されることで得られる。第2取得工程S3は、表1に示した各発光条件に従って発光させたLEDの光出力を光測定装置1を用いて測定した結果である第2測定結果P2(λ)を取得する工程である。第1取得工程S2及び第2取得工程S3においては、本形態の較正方法を実施する者による測定で第1測定結果P1(λ)及び第2測定結果P2(λ)を得てもよいし、第三者によって測定されることで得られた第1測定結果P1(λ)及び第2測定結果P2(λ)を得てもよい。
【0030】
ここで、一例として、発光条件群1の第1測定結果P1及び第2測定結果P2の関係を図4に示している。図4の各プロットは、同じ発光条件でLEDを発光させたときの出射光の光出力を原器10にて測定した第1測定結果P1と光測定装置1にて測定した第2測定結果P2との関係を表している。図4においては、入力電流値が100mAのときの光出力水準と、入力電流値が200mAのときの光出力水準と、入力電流値が300mAのときの光出力水準と、入力電流値が350mAのときの光出力水準との4つの水準の光出力が表れていることが分かる。第1取得工程S2にて取得された第1測定結果P1(λ)と第2取得工程S3にて取得された第2測定結果P2(λ)とは、記憶部43に記憶される。そして、第1取得工程S2及び第2取得工程S3の後、感度補正工程S4が行われる。
【0031】
感度補正工程S4は、第1測定結果P1(λ)と第2測定結果P2(λ)とに基づき、光測定装置1の感度の補正を行う工程である。感度補正工程S4は、演算部42にて実行される。感度補正工程S4においては、第1測定結果P1(λ)を第2測定結果P2(λ)で除して得られる傾きP1(λ)/P2(λ)を算出する。例えば、発光波長が265nmである発光条件群1に関し、第1測定結果P1を第2測定結果P2で除して得られる傾きは、図4のグラフにおける近似直線の傾きにて求めることができる。発光条件群1以外の発光条件群に関しても、同様に傾きP1(λ)/P2(λ)の算出を行うことで、図5のグラフのような結果が得られる。なお、図5の横軸は、各発光条件群を構成する複数の発光条件にてLEDを発光させたときのそれぞれの発光波長の平均値である。
【0032】
図5において、プロットがない箇所の傾きについては、例えばプロット箇所に基づく多項式補間等の補間法を用いて補間することができる。そして、感度補正工程S4においては、光測定装置1によるLEDの光出力の測定結果に、LEDの出射光の波長のときの図5の傾きを乗算することで、光測定装置1の感度補正が行われる。図5で示されるような発光波長と傾きとの関係は、記憶部43に記憶される。
【0033】
なお、図5に示す曲線は、感度補正前の光測定装置1における感度の逆数に比例する曲線に相当する。このことについて説明する。まず、ある光源からの光出力をP(λ)[W]とし、当該光源からの光を受光素子3に照射したときに受光素子3から出力される電流値をI(λ)[A]とし、光測定装置1の感度をS(λ)としたとき、これらはP(λ)=I(λ)/S(λ)・・・式(1)、の関係を満たす。式(1)の電流値I(λ)は、本形態の場合に当てはめるとk×P2(λ)に相当する。すなわち、光測定装置1による光出力の第2測定結果P2(λ)は、受光素子3から出力される電流値に所定の係数を乗算して光出力の値に変換したものであるため、電流値I(λ)は、前記所定の係数の逆数で表される係数kをP2(λ)に乗算した値に等しい。すなわち、I(λ)=k×P2(λ)が成立する。この式を用いて、式1を本形態に適した式に変形すると、P1(λ)/P2(λ)=k/S(λ)・・・式(2)、となる。この式から、図5のグラフの曲線は、感度S(λ)の逆数に比例する曲線であるとみなすことができる。そして、図5から、本形態における光測定装置1は、波長が280nm付近の光に関する感度が比較的低い状態であることが分かる。感度補正工程S4の後、確認工程S5が行われる。
【0034】
確認工程S5は、確認用LEDの光出力を、原器10と感度補正後の光測定装置1とで測定し、光測定装置1による測定結果が、原器10による測定結果に準拠しているかを確認する工程である。確認工程S5は、追加決定工程S51と第1確認測定工程S52と第2確認測定工程S53と比較工程S54とを有する。
【0035】
追加決定工程S51は、確認用LEDの発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む追加発光条件群を、複数(本形態においては8つ)の発光波長について決定する工程である。確認用LEDは、前述の決定工程S1にて決定した各発光条件の選択LEDとは異なるLEDであることを意味しており、以後単にLEDということもある。追加決定工程S51において決定する各発光条件は、決定工程S1と同様に、選択LEDと入力電流値とを含む。追加決定工程S51において決定する各発光条件の選択LEDは、前述の決定工程S1にて用いたLEDとは異なるLEDとした。また、追加決定工程S51において決定する各発光条件の選択LEDは、すべて異なるLEDである。さらに、追加決定工程S51において決定する各発光条件の入力電流値は、それぞれ同じ電流値、具体的には350mAである。つまり、追加決定工程S51においては、互いに同じ電流値を印加したときに、発光波長及び光出力が異なる種々のLEDを選択する。追加決定工程S51にて決定した各発光条件に従ってLEDを発光させたときの発光波長及び光出力水準を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すように、各追加発光条件群は、発光波長が略50mWとなる光出力水準1と、略60mWとなる光出力水準2と、略70mWとなる光出力水準3との3つの光出力水準の光を発する3つの発光条件からなる。なお、表2に記載の「平均発光波長」は、1つの追加発光条件群の複数の発光条件に従ってLEDを発光させたときの発光波長の平均値である。
【0038】
複数の追加発光条件群における平均発光波長は、略1nmピッチとなるようにした。例えば、追加発光条件群1における平均発光波長と追加発光条件群2における平均発光波長との差は、0.8nmであり、略1nmになっている。また、各追加発光条件群における3つの光出力間の出力レンジ(すなわち表2に記載の「3水準間の出力レンジ」)は、25mW以下となるようにした。例えば、追加発光条件群1については、3つの光出力水準のうちの最大値である69.4mWと最小値である54.7mWとの差である3水準間の光レンジが、25mW以下の14.7mWとなっている。さらに、複数の追加発光条件群における同一の光出力水準の出力レンジ(すなわち表2に記載の「各水準内の出力レンジ」)は、10mW以下となるようにした。例えば、光出力水準1については、複数の追加発光条件群における光出力水準のうちの最大値である58.1mWと最小値である51.5mWとの差である各水準内の出力レンジは、10mW以下の6.6mWとなっている。また、表2へは記載していないが、各追加発光条件群は、3つの光出力水準1~3にて発光させたときの発光波長のレンジが1nmとなっている。すなわち、各追加発光条件群において、光出力水準1~3のそれぞれにてLEDを発光させたときの発光波長の最大値と最小値との差が1nm以下となる。追加決定工程S51の後、第1確認測定工程S52及び第2確認測定工程S53が行われる。
【0039】
第1確認測定工程S52は、追加決定工程S51にて決定した各発光条件に従って発光させた確認用LEDの光出力を、原器10を用いて測定する工程である。第1確認測定工程S52においては、原器10の分光器102にてLEDの出射光が波長毎に分光され、原器10にて波長毎の光出力が測定されるとともに、測定された各波長の光出力が積算される。第2確認測定工程S53は、追加決定工程S51にて決定した各発光条件に従って発光させた確認用LEDの光出力を、感度補正後の光測定装置1を用いて測定する工程である。これらの測定結果は、記憶部43に記憶される。そして、第1確認測定工程S52の後、比較工程S54が行われる。
【0040】
比較工程S54は、第1確認測定工程S52の測定結果と、第2確認測定工程S53の測定結果とを比較し、感度補正後の光測定装置1の光測定精度を確認する工程である。比較工程S54は、演算部42にて実行される。比較工程S54においては、第1確認測定工程S52の測定結果Pc1(λ)[mW]を、第2確認測定工程S53の測定結果Pc2(λ)[mW]にて除して得られる傾きPc1(λ)/Pc2(λ)を、発光波長毎に算出する。これをグラフ化したものを、図6に示す。
【0041】
図6のグラフは、図5のグラフに対応するものである。つまり、図5のグラフは、原器10を用いた第1測定結果P1(λ)と感度補正前の光測定装置1を用いた第2測定結果P2(λ)との関係を波長毎に示している一方、図6のグラフは、原器10を用いた第1確認測定工程S52の測定結果と、感度補正後の光測定装置1を用いた第2確認測定工程S53の測定結果との関係を波長毎に示している。図6から分かるように、感度補正後の光測定装置1を用いた場合は、各プロットがフラットになり、光測定装置1における波長毎の感度の違いが略なくなっていることが分かる。しかしながら、傾きPc1(λ)/Pc2(λ)の値が1からずれていることから、感度補正後の光測定装置1と原器10との間には光出力の測定結果に未だ差異があることが分かる。光測定装置1に必要な補正としては、分光感度補正と分光透過率の補正とがあるところ、前述の差異は、光測定装置1において分光透過率が未補正であることに起因して生じ得る。そこで、比較工程S54の後、調整工程S6が行われる。傾きPc1(λ)/Pc2(λ)の値が1にどの程度近ければ感度補正後の光測定装置1の測定精度が高いといえるかは、光測定装置1に要求される測定精度に応じて決めることができる。なお、比較工程S54は省略することも可能である。
【0042】
調整工程S6は、光測定装置1による光出力の測定結果Pc2(λ)を、原器10による光出力の測定結果Pc1(λ)に近付ける工程であり、演算部42にて実行される。調整工程S6は、図7に示すような、第1確認測定工程S52の測定結果と、第2確認測定工程S53の測定結果との関係を作成する。図7の各プロットは、同じ発光条件でLEDを発光させたときの出射光の光出力を、原器10にて測定した測定結果Pc1(λ)と感度補正済の光測定装置1にて測定した測定結果Pc2(λ)との関係を表している。なお、図7に示すような、第1確認測定工程S52の測定結果と、第2確認測定工程S53の測定結果との関係は、確認工程S5にて作成してもよい。
【0043】
調整工程S6においては、図7の各プロットの近似直線が算出されるとともに記憶部43に記憶される。図7の例においては、Pc1=1.3229×Pc2+0.8136のように、Pc1とPc2との関係が得られている。この式に基づいて、感度補正後の光測定装置1による測定結果Pc2に、1.3229を乗算するとともに0.8136を加算することで、光測定装置1の出力結果と原器10の出力結果とを一致させ、光測定装置1の較正が完了する。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
本形態の光測定装置1は、決定工程S1と第1取得工程S2と第2取得工程S3と感度補正工程S4とを備える。決定工程S1は、LEDの発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む発光条件群を、複数の発光波長について決定する工程である。第1取得工程S2は、決定工程S1にて決定した各発光条件に従って発光させたLEDの光出力を原器10を用いて測定した第1測定結果P1(λ)を取得する工程である。第2取得工程S3は、決定工程S1にて決定した各発光条件に従って発光させたLEDの光出力を較正対象の光測定装置1を用いて測定した第2測定結果P2(λ)を取得する工程である。感度補正工程S4は、第1測定結果P1(λ)と第2測定結果P2(λ)とに基づき、光測定装置1の感度を補正する工程である。このように、本形態の光測定装置1の較正方法は、単色化された光源ではなく、波長の幅を有するLEDを用いて光測定装置1の感度補正を行っているため、本較正方法にて較正された光測定装置1は、LEDから発される波長の幅を有する光を高精度に測定可能となる。そのため、本形態の光測定装置1の構成方法により、LEDの光出力の測定精度に波長依存性が生じることを抑制できる。
【0045】
また、各発光条件群の複数の発光条件は、各水準の光出力となる条件を複数ずつ有する。これにより、光測定装置1において、各波長に関する感度の補正精度を高めることができ、光測定装置1の感度の波長依存性が一層低減される。
【0046】
また、LEDの発光波長をλとし、第1測定結果をP1(λ)とし、第2測定結果をP2(λ)としたとき、感度補正工程S4は、P1(λ)/P2(λ)で表される感度補正係数に基づいて光測定装置1の感度を補正する。これにより、光測定装置1の感度の補正を簡易な処理で実現することができる。
【0047】
また、本形態の光測定装置1の較正方法は、確認工程S5と調整工程S6とをさらに備える。確認工程S5は、感度補正工程S4の後、確認用LEDの光出力を光測定装置1と原器10とで測定し、光測定装置1による測定結果と原器10による測定結果とを確認する工程である。調整工程S6は、確認工程S5において光測定装置1による出力結果と原器10による出力結果とが異なるとき、光測定装置1による光出力の測定結果を、原器10による光出力の測定結果に近付ける工程である。それゆえ、感度補正後の光測定装置1によるLEDの光出力の測定結果を、原器10によるLEDの光出力の測定結果に一層近付けることができる。
【0048】
また、各発光条件群の複数の発光条件は、LEDに入力する電流値を互いに異ならせた条件を含む。このように、1つのLEDに対して、入力する電流値を変えて光出力を変えることで、決定工程S1にて選択するLEDの数を少なくすることができる。決定工程S1においては、所望の特性のLEDを選択する必要があるため、選択すべきLEDが多数ある場合は、選択作業に長時間を要し、光測定装置1の較正のための時間がかかり過ぎるおそれがあるが、本形態においては光測定装置1の較正時間を短縮することができる。
【0049】
また、較正対象の光測定装置1は、受光素子としてフォトダイオードを有しており、決定工程S1においては、265nm以上300nm以下の範囲のうちの複数の発光波長について発光条件群を決定する。すなわち、較正後の光測定装置1は、265nm以上300nm以下の範囲の波長を高精度に測定可能となる。フォトダイオードの感度曲線は、265nm以上300nm以下の波長範囲近辺において複雑な形状をしているため、特に工夫しなければ265nm以上300nm以下の波長範囲近辺においてフォトダイオードの感度補正を行うことは容易ではない。本形態の較正方法は、受光素子3の感度曲線の形状に関わらず容易に感度補正を行うことができるため、フォトダイオードの265nm以上300nm以下の波長範囲近辺の感度補正に好適に用いられる。
【0050】
以上のごとく、本形態によれば、LEDの光出力の測定精度に波長依存性が生じることを抑制できる光測定装置の較正方法を提供することができる。
【0051】
なお、本形態において、各発光条件群の複数の発光条件は、LEDに入力する電流値を互いに異ならせた条件を含むが、これに限られない。例えば、各発光条件群の複数の発光条件は、各追加発光条件群の複数の発光条件と同様に、互いに異なる光出力特性の複数のLEDを用い、LEDに入力する電流値を互いに同じにした条件を含むものであってもよい。また、本形態において、各追加発光条件群の複数の発光条件は、LEDに入力する電流値を互いに異ならせた条件を含んでもよい。また、本形態においては、較正後の光測定装置1の測定可能波長範囲は、265nm以上300nm以下としたが、これとは異なる所望の波長範囲とすることも可能である。この場合、決定工程S1にて決定する波長範囲を所望の波長の範囲に設定するとよい。
【0052】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0053】
[1]本発明の第1の実施態様は、LED(100)の発光波長が互いに同等となる複数の発光条件を含む発光条件群を、複数の発光波長について決定する決定工程(S1)と、前記決定工程(S1)にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LED(100)の光出力を、原器(10)を用いて測定した第1測定結果(P1(λ))を取得する第1取得工程(S2)と、前記決定工程(S1)にて決定した各発光条件に従って発光させた前記LED(100)の光出力を、較正対象の光測定装置(1)を用いて測定した第2測定結果(P2(λ))を取得する第2取得工程(S3)と、前記第1測定結果(P1(λ))と前記第2測定結果(P2(λ))とに基づき、前記光測定装置(1)の感度を補正する感度補正工程(S4)と、を備える光測定装置(1)の較正方法である。
これにより、LEDの光出力の測定精度に波長依存性が生じることを抑制できる。
【0054】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記決定工程(S1)において決定する前記各発光条件群の前記複数の発光条件が、前記LED(100)の光出力が3水準以上となる条件であり、前記各発光条件群の前記複数の発光条件は、前記各水準の光出力となる発光条件を複数ずつ有することである。
これにより、光測定装置の感度の波長依存性が一層低減される。
【0055】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記LED(100)の発光波長をλとし、前記第1測定結果(P1(λ))をP1(λ)とし、前記第2測定結果(P2(λ))をP2(λ)としたとき、前記感度補正工程(S4)が、P1(λ)/P2(λ)で表される感度補正係数に基づいて前記光測定装置(1)の感度を補正することである。
これにより、光測定装置の感度の補正を簡易な処理で実現することができる。
【0056】
[4]本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記感度補正工程(S4)後、確認用LEDの光出力を、前記光測定装置(1)と前記原器(10)とで測定し、前記光測定装置(1)による測定結果と前記原器(10)による測定結果とを確認する確認工程(S5)と、前記確認工程(S5)において前記光測定装置(1)による出力結果と前記原器(10)による出力結果とが異なるとき、前記光測定装置(1)による光出力の測定結果を、前記原器(10)による光出力の測定結果に近付ける調整工程(S6)と、をさらに備えることである。
これにより、較正後の光測定装置の光測定精度を一層向上させることができる。
【0057】
[5]本発明の第5の実施態様は、第1乃至第4のいずれか1つの実施態様において、前記各発光条件群の前記複数の発光条件が、前記LED(100)に入力する電流値を互いに異ならせた条件を含むことである。
これにより、光測定装置の較正時間を短縮することができる。
【0058】
[6]本発明の第6の実施態様は、第1乃至第4のいずれか1つの実施態様において、前記各発光条件群の前記複数の発光条件が、互いに異なる光出力特性の複数の前記LED(100)を用い、前記複数のLED(100)に入力する電流値を互いに同じにした条件を含むことである。
これにより、発光条件によってLEDへの入力電流値を種々変更する必要がなく、光測定装置の較正作業を容易にしやすい。
【0059】
[7]本発明の第7の実施態様は、第1乃至第6のいずれか1つの実施態様において、前記光測定装置(1)が、フォトダイオードを受光素子として備え、前記決定工程(S1)において、250nm以上320nm以下の範囲のうちの複数の発光波長について、前記発光条件群を決定することである。
第1乃至第6のいずれか1つの実施態様は、受光素子の感度曲線の形状に関わらず容易に感度補正を行うことが可能である。そのため、第1乃至第6のいずれか1つの実施態様は、フォトダイオードにおける感度曲線の形状が複雑となっている250nm以上320nm以下の波長範囲において、フォトダイオードの感度を補正するのに好適に用いられる。
【0060】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…光測定装置
10…原器
100…LED
S1…決定工程
S2…第1取得工程
S3…第2取得工程
S4…感度補正工程
S5…確認工程
S6…調整工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7