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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】蛍光体プレート、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240208BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240208BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240208BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
C09K11/64
C09K11/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022505042
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003451
(87)【国際公開番号】W WO2021176912
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020036876
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和也
(72)【発明者】
【氏名】山浦 太陽
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063930(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/098932(WO,A1)
【文献】特開2014-003070(JP,A)
【文献】特開2011-168627(JP,A)
【文献】特開2020-164797(JP,A)
【文献】特開2020-164796(JP,A)
【文献】特開2020-059764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01L 33/50
C09K 11/64
C09K 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを含む2種類以上の金属酸化物の焼結物である無機母材と、前記無機母材中に含まれる蛍光体と、を含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記蛍光体は、α型サイアロン蛍光体を含み、
下記の手順で測定される当該蛍光体プレートの、波長455nmの透過光の強度をT1、波長455nmの反射光の強度をR1としたとき、
T1、R1が、1.5×10-2≦T1/R1≦5.0×10-2を満たす、蛍光体プレート。
(手順)
当該蛍光体プレートにおいて、量子効率測定装置を用いて、波長455nmおよび波長600nmの各波長における、反射光および透過光の強度を測定する。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体プレートであって、
上記の手順で測定される当該蛍光体プレートの、波長455nmの透過光の強度をT1、波長600nmの透過光の強度をT2としたとき、
T1、T2が、8.0×10-2≦T1/T2≦2.5×10-1を満たす、蛍光体プレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体プレートであって、
下記の手順で測定される当該蛍光体プレートの、波長600nmの透過光の強度をT2、波長600nmの反射光の強度をR2としたとき、
T2、R2が、8.5×10-1≦T2/R2≦9.5×10-1を満たす、蛍光体プレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
下記の手順で測定される当該蛍光体プレートの、波長455nmの反射光の強度をR1、波長600nmの反射光の強度をR2としたとき、
R1、R2が、5.0≦R1/R2≦6.5を満たす、蛍光体プレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体の含有量が、前記α型サイアロン蛍光体と前記SiOを含む2種類以上の金属酸化物との合計体積100Vol%中、体積換算で、5Vol%以上50Vol%以下である、蛍光体プレート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体の平均粒子径D50が、5μm以上30μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの厚みが、50μm以上300μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いる、蛍光体プレート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
455nmの青色光における光線透過率が10%以下である、蛍光体プレート。
【請求項10】
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた請求項1~9のいずれか一項に記載の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体プレート、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで蛍光体プレートについて様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ガラスマトリクス中に無機蛍光体が分散してなる波長変換部材が記載されている(特許文献1の請求項1)。同文献によれば、波長変換部材の形状は限定されず板状でもよいと記載されている(段落0054)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-199640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の板状の波長変換部材において、外部量子効率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、上記無機蛍光体としてα型蛍光体を使用したとき、蛍光体プレートにおいて、内部量子効率や外部量子効率が低下する恐れがあることを見出した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、励起光である波長455nmのT1/R1を指標とすることによって、蛍光体プレートについての光学特性を安定的に評価でき、指標T1/R1の下限を所定値以上とすることにより、蛍光体プレートの外部量子効率が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
SiOを含む2種類以上の金属酸化物の焼結物である無機母材と、前記無機母材中に含まれる蛍光体と、を含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記蛍光体は、α型サイアロン蛍光体を含み、
下記の手順で測定される当該蛍光体プレートの、波長455nmの透過光の強度をT1、波長455nmの反射光の強度をR1としたとき、
T1、R1が、1.5×10-2≦T1/R1≦5.0×10-2を満たす、蛍光体プレートが提供される。
(手順)
当該蛍光体プレートにおいて、量子効率測定装置を用いて、波長455nmおよび波長600nmの各波長における、反射光および透過光の強度を測定する。
【0007】
また本発明によれば、
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた、上記の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外部量子効率に優れた蛍光体プレート、及びそれを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
図2】(a)はフリップチップ型の発光装置の構成を模式的に示す断面図であり、(b)はワイヤボンディング型の発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の蛍光体プレートを概説する。
【0012】
本実施形態の蛍光体プレートの概要を説明する。
本実施形態の蛍光体プレートは、SiOを含む2種類以上の金属酸化物の焼結物である無機母材と、無機母材中に含まれるα型サイアロン蛍光体と、を含む板状の複合体を備える板状部材で構成される。
【0013】
蛍光体プレートは、照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として機能し得る。
【0014】
蛍光体プレートは、量子効率測定装置を用いて測定される、波長455nmの透過光の強度をT1、波長455nmの反射光の強度をR1としたとき、T1、R1が、1.5×10-2≦T1/R1≦5.0×10-2を満たすように構成される。
【0015】
本発明者の知見によれば、励起光である波長455nmのT1/R1を指標とすることによって、蛍光体プレートについての光学特性を安定的に評価でき、指標T1/R1の下限を上記上限値以上とすることにより、蛍光体プレートの外部量子効率を向上できることが見出された。
【0016】
詳細なメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。
T1は波長455nm(青色光)の透過光、R1は波長455nm(青色光)の反射率を表す。この波長455nmの青色光は、蛍光体プレートを発光させる為の励起光となる。そのため、波長455nmの励起光が蛍光体プレートにより多く吸収されることは、光学特性の向上に寄与することになる。
今回、指標T1/R1が大きくなるほど、T1とR1の値の差が大きくなることを示す。ここで、T1は、R1と比較すると1/100程度と非常に小さい値、T1<<R1となる。このため、T1/R1が大きくなることは、R1が小さくなること、すなわち、波長455nmの励起光が蛍光体プレートにより吸収されていることを示す。したがって、指標T1/R1の下限を上記下限値以上とすることによって、外部量子効率が大きくなると考えられる。
【0017】
蛍光体プレートにおいて、量子効率測定装置を用いて測定される、波長455nmの透過光の強度をT1、波長455nmの反射光の強度をR1、波長600nmの透過光の強度をT2、および波長600nmの反射光の強度をR2とする。
測定対象の蛍光体プレートは、厚みが約0.17mm~0.22mmのものを使用してもよい。
波長455nmや波長600nmの励起光の入射角が90度、反射角・透過角が45度としてもよい。
【0018】
T1/R1の下限は、1.5×10-2以上、好ましくは1.6×10-2以上、より好ましくは1.7×10-2以上である。これにより、外部量子効率および内部量子効率を向上できる。
T1/R1の上限は、例えば、5.0×10-2以下、好ましくは4.0×10-2以下、より好ましくは3.5×10-2以下でもよい。
【0019】
蛍光体プレートは、T1、T2が、8.0×10-2≦T1/T2≦2.5×10-1を満たすように構成されてもよい。
T1/T2の下限は、8.0×10-2以上、好ましくは9.0×10-2以上、より好ましくは1.0×10-1以上である。これにより、外部量子効率および内部量子効率を向上できる。
T1/T2の上限は、例えば、2.5×10-1以下、好ましくは2.3×10-1以下、より好ましくは2.0×10-1以下でもよい。
【0020】
蛍光体プレートは、8.5×10-1≦T2/R2≦9.5×10-1を満たすように構成されてもよい。
T2/R2の下限は、8.5×10-1以上、好ましくは8.8×10-1以上、より好ましくは9.0×10-1以上である。これにより、外部量子効率および内部量子効率を向上できる。
T2/R2の上限は、例えば、9.5×10-1以下、好ましくは9.4×10-1以下、より好ましくは9.3×10-1以下でもよい。
【0021】
蛍光体プレートは、5.0≦R1/R2≦6.5を満たすように構成されてもよい。
R1/R2の下限は、5.0以上、好ましくは5.1以上、より好ましくは5.2以上である。これにより、外部量子効率および内部量子効率を向上できる。
R1/R2の上限は、例えば、6.5以下、好ましくは6.4以下、より好ましくは6.3でもよい。
【0022】
本実施形態では、たとえば蛍光体プレート中のα型サイアロン蛍光体中に含まれる各成分の種類や配合量、α型サイアロン蛍光体や蛍光体プレートの調製方法等を適切に選択することにより、上記T1/R1、T1/T2、T2/R2、及びR1/R2を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、α型サイアロン蛍光体の製造工程においてアニール処理および酸処理を適切に行うこと等が、上記T1/R1、T1/T2、T2/R2、及びR1/R2を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0023】
上記蛍光体プレートによれば、波長455nmの青色光が照射された場合、蛍光体プレートから発せられる波長変換光のピーク波長は585nm以上605nm以下であることが好ましい。また、これによれば、青色光を発光する発光素子に蛍光体プレートを組み合わせることで、輝度が高い橙色を発光する発光装置を得ることができる。
【0024】
本実施形態の蛍光体プレートの構成について詳述する。
【0025】
上記蛍光体プレートを構成する複合体中は、α型サイアロン蛍光体と無機母材とが混在した状態となる。具体的には、複合体は、無機母材を構成するガラスマトリクス(SiOの焼結物)中にα型サイアロン蛍光体が分散された構造を有してもよい。このα型サイアロン蛍光体は、粒子の状態で、無機母材(金属酸化物の焼結物)中に均一に分散されていてもよい。
【0026】
(α型サイアロン蛍光体)
本実施形態のα型サイアロン蛍光体は、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含むものである。
(M)m(1-x)/p(Eu)mx/2(Si)12-(m+n)(Al)m+n(O)(N)16-n ・・一般式(1)
【0027】
上記一般式(1)中、MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し、pはM元素の価数、0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0を表す。nは、例えば、2.0以下でもよく、1.0以下でもよく、0.8以下でもよい。
【0028】
α型サイアロンの固溶組成は、α型窒化ケイ素の単位胞(Si1216)のm個のSi-N結合をAl-N結合に、n個のSi-N結合をAl-O結合に置換し、電気的中性を保つために、m/p個のカチオン(M、Eu)が結晶格子内に侵入固溶し、上記一般式のように表される。特にMとして、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロンが安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0029】
一般に、α型サイアロンは、当該α型サイアロンとは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロンの結晶相としては、α型サイアロン単相が好ましく、他の結晶相としてβ型サイアロン、窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド、CaSi、CaAlSiN等を含んでいてもよい。
【0030】
α型サイアロン蛍光体の製造方法としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び侵入固溶元素の化合物からなる混合粉末を高温の窒素雰囲気中で加熱して反応させる方法がある。加熱工程で構成成分の一部が液相を形成し、この液相に物質が移動することにより、α型サイアロン固溶体が生成する。合成後のα型サイアロン蛍光体は複数の等軸状の一次粒子が焼結して塊状の二次粒子を形成する。本実施形態における一次粒子とは、粒子内の結晶方位が同一であり、単独で存在することができる最小粒子をいう。
【0031】
α型サイアロン蛍光体の平均粒子径の下限は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、α型サイアロン蛍光体の平均粒子径の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。α型サイアロン蛍光体の平均粒子径は上記二次粒子における寸法である。α型サイアロン蛍光体の平均粒子径を5μm以上とすることにより、複合体の透明性をより高めることができる。一方、α型サイアロン蛍光体の平均粒子径を30μm以下とすることにより、ダイサー等で蛍光体プレートを切断加工する際に、チッピングが生じることを抑制することができる。
【0032】
ここで、α型サイアロン蛍光体の平均粒子径とは、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000II)により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算(積算通過分率)50%の粒子径D50をいう。
【0033】
α型サイアロン蛍光体の含有量の下限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば、5Vol%以上、好ましくは10Vol%以上、より好ましくは15Vol%以上である。これにより、薄層の蛍光体プレートにおける発光強度を高めることができる。また、蛍光体プレートの光変換効率を向上できる。一方、α型サイアロン蛍光体の含有量の上限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば、50Vol%以下、好ましくは45Vol%以下、より好ましくは40Vol%以下である。蛍光体プレートの熱伝導性の低下を抑制できる。
【0034】
α型サイアロン蛍光体および無機母材の含有量の下限値は、例えば、複合体全体に対して、体積換算で、95Vol%以上、好ましくは98Vol%以上、より好ましくは99Vol%以上である。つまり、蛍光体プレートを構成する複合体は、α型サイアロン蛍光体および無機母材を主成分として含むことを意味する。これにより、耐久性を高められる上に、安定的な発光効率を実現できる。一方、α型サイアロン蛍光体および無機母材の含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば、複合体全体に対して、体積換算で、100Vol%以下としてもよい。
【0035】
上記蛍光体プレートの少なくとも主面、または主面および裏面の両面における表面が表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、ダイアモンド砥石等を用いた研削、ラッピング、ポリッシング等の研磨などが挙げられる。
上記蛍光体プレートの主面における表面粗さRaは、例えば、0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは0.3μm以上1.5μm以下である。
一方、上記蛍光体プレートの裏面における表面粗さRaは、例えば、0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは0.3μm以上1.5μm以下である。
上記表面粗さを上記上限値以下とすることで、光の取り出し効率や、面内方向における光強度のバラツキを抑制できる。上記表面粗さを上記下限値以上とすることで、被着体との密着性を高められることが期待される。
【0036】
上記蛍光体プレートにおいて、450nmの青色光における光線透過率の上限値は、例えば、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。これにより、青色光が蛍光体プレートを透過することを抑制できるため、輝度が高い橙色を発光できる。α型サイアロン蛍光体の含有量や蛍光体プレートの厚みを適切に調整することで、450nmの青色光における光線透過率を低減できる。
なお、450nmの青色光における光線透過率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01%以上としてもよい。
【0037】
本実施形態の蛍光体プレートの製造工程について詳述する。
【0038】
本実施形態の蛍光体プレートの製造方法は、SiOを含む2種類以上の金属酸化物、及びα型サイアロン蛍光体を含む混合物を得る工程(1)と、得られた混合物を焼成する工程(2)と、を有してもよい。
【0039】
工程(1)において、原料として用いるα型サイアロン蛍光体や金属酸化物の粉末は、できるだけ高純度であるものが好ましく、構成元素以外の元素の不純物は0.1%以下であることが好ましい。
【0040】
原料粉末の混合は、乾式、湿式の種々の方法を適用できるが、原料として用いるα型サイアロン蛍光体粒子が極力粉砕されず、また混合時に装置からの不純物が極力混入しない方法が好ましい。
原料の金属酸化物として、ガラス粉末(SiOを含む粉末)を使用してもよい。
ガラス粉末としては、SiO粉末(シリカ粉末)や、一般的なガラス原料を使用できる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
SiO粉末は、不可避に含まれるSiO以外の成分を除いて、SiOのみを含むものである。
SiO粉末を焼成して得られたガラス(シリカガラス)の軟化点は、例えば、約1600~1700℃になる。シリカガラス中のSiOの含有量は、例えば、質量換算で98質量%以上、99質量%以上でもよい。
【0042】
一般的なガラス原料は、SiOの他に、他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば、Al、BaO、Sb、SrO、NaO、Na、CaO、MgO、KO、La、CeO、Y、ZrO、ZnO、As、TiO、B、Cr、PbO、V、SnOなどが挙げられる。また、熱分解によってこれらの金属酸化物となる炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩を原料として配合してもよい。他の成分を含むことによってガラスの軟化点が低なるように調整できる。
【0043】
工程(2)において、SiOが焼結してガラスマトリックスを構成し、そのガラスマトリックス中にα型サイアロン蛍光体の粒子が分散してなる蛍光体プレートを成形する。あるいはSiOを溶融し、溶融したガラス中に蛍光体を分散させ、ラスを板状に成形し冷却することで、蛍光体プレートを成形する。
α型サイアロン蛍光体は、ガラス中に溶融せずに粒子状態で存在できる。
【0044】
工程(2)では、焼成温度としては、ガラスの軟化点±400℃以内としてもよく、好ましくはガラスの軟化点±300℃以内でもよい。
【0045】
焼成方法は常圧焼結でも加圧焼結でも構わないが、α型サイアロン蛍光体の特性低下を抑制し、且つ緻密な複合体を得るために、常圧焼結よりも緻密化させやすい加圧焼結が好ましい。
【0046】
加圧焼結方法としては、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)などが挙げられる。ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は10MPa以上、好ましくは30MPa以上が好ましく、100MPa以下が好ましい。
焼成雰囲気はα型サイアロンの酸化を防ぐ目的のため、窒素やアルゴンなどの非酸化性の不活性ガス、もしくは真空雰囲気下が好ましい。
以上により、本実施形態の蛍光体プレートが得られる。
得られた蛍光体プレート中の板状の複合体の表面は、本発明の効果を損なわない範囲において研磨処理、プラズマ処理や表面コート処理等の公知の表面処理などが施されてもよい。
【0047】
本実施形態の発光装置について説明する。
【0048】
本実施形態の発光装置は、III族窒化物半導体発光素子(発光素子20)と、III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレート10と、を備えるものである。III族窒化物半導体発光素子は、例えば、AlGaN、GaN、InAlGaN系材料などのIII族窒化物半導体で構成される、n層、発光層、およびp層を備えるものである。III族窒化物半導体発光素子として、青色光を発光する青色LEDを用いることができる。
蛍光体プレート10は、発光素子20の一面上に直接配置されてもよいが、光透過性部材またはスペーサーを介して配置され得る。
【0049】
発光素子20の上に配置される蛍光体プレート10は、図1に示す円板形状の蛍光体プレート100(蛍光体ウェハ)を用いてもよいが、蛍光体プレート100を個片化したものを用いることができる。
【0050】
図1は、蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
図1に示す蛍光体プレート100の厚みの下限は、例えば、50μm以上、好ましくは80μm以上、より好ましくは100μm以上である。蛍光体プレート100の厚みの上限は、例えば、1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。
蛍光体プレート100の厚みは、上記の製造工程で得られた後、研削などにより、適当に調整され得る。
【0051】
なお、円板形状の蛍光体プレート100は、四角形状の場合と比べて、角部における欠けや割れの発生が抑制されるため、耐久性や搬送性に優れる。
【0052】
上記の半導体装置の一例を、図2(a)、(b)に示す。図2(a)はフリップチップ型の発光装置110の構成を模式的に示す断面図であり、図2(b)はワイヤボンディング型の発光装置120の構成を模式的に示す断面図である。
【0053】
図2(a)の発光装置110は、基板30と、半田40(ダイボンド材)を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。フリップチップ型の発光装置110は、フェイスアップ型およびフェイスダウン型のいずれの構造でもよい。
また、図2(b)の発光装置120は、基板30と、ボンディングワイヤ60および電極50を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。
図2中、発光素子20と蛍光体プレート10とは、公知の方法で貼り付けられており、例えば、シリコーン系接着剤や熱融着等の方法で貼り合わされてもよい。
また、発光装置110、発光装置120は、全体を透明封止材で封止されていてもよい。
【0054】
なお、基板30に実装された発光素子20に対し、個片化された蛍光体プレート10を貼り付けてもよい。大面積の蛍光体プレート100に複数の発光素子20を貼り付けてから、ダイシングにより、蛍光体プレート10付き発光素子20ごとに個片化してもよい。また、複数の発光素子20が表面に形成された半導体ウェハに、大面積の蛍光体プレート100を貼り付け、その後、半導体ウェハと蛍光体プレート100を一括して個片化してもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0056】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0057】
<α型サイアロン蛍光体の製造>
以下の手順に基づいて、α型サイアロン蛍光体A~Cを作製した。
【0058】
(実施例1:α型サイアロン蛍光体A)
<混合>
グローブボックス内で、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、E10グレード)を62.4質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製、Eグレード)を22.5質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製RUグレード)を2.2質量部、窒化カルシウム粉末(高純度化学研究所社製)を12.9質量部とし、原料粉末をドライブレンド後、目開き250μmのナイロン製篩を通して原料混合粉末を得た。その原料混合粉末120gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製、N-1グレード)に充填した。
【0059】
<焼成>
この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で大気圧窒素雰囲気中、1800℃で16時間の加熱処理を行った。原料混合粉末に含まれる窒化カルシウムは、空気中で容易に加水分解しやすいので、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製容器はグローブボックスから取り出した後、速やかに電気炉にセットし、直ちに真空排気し、窒化カルシウムの反応を防いだ。合成物は乳鉢で軽く解砕し、目開き150μmの篩を全通させ、蛍光体粉末を得た。
【0060】
<アニール>
得られた蛍光体粉末を、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器に充填し、電気炉で、水素雰囲気中、1450℃で8時間のアニール処理を行った。
【0061】
<酸処理>
次に、50%フッ酸50mlと、70%硝酸50mlとを混合して混合原液とした。混合原液に蒸留水300mlを加え、混合原液の濃度を25%に希釈し、混酸水溶液400mlを調製した。この混酸水溶液に、上述のα型サイアロン蛍光体粒子からなる粉末30gを添加し、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度500rpmで攪拌しながら、60分浸漬する酸処理を実施した。酸処理後の粉末は、蒸留水にて十分に酸を洗い流して濾過し、乾燥させた後、目開き45μmの篩を通して実施例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる粉末を作製した。
【0062】
(実施例2:α型サイアロン蛍光体B)
実施例1で用いた混酸水溶液を用いて、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度300rpmで攪拌しながら、60分浸漬する酸処理を実施したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例2のα型サイアロン蛍光体粒子からなる粉末を作製した。
【0063】
(比較例1:α型サイアロン蛍光体C)
<混合>
グローブボックス内で、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、E10グレード)を62.4質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製、Eグレード)を22.5質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製RUグレード)を2.2質量部、窒化カルシウム粉末(高純度化学研究所社製)を12.9質量部とし、原料粉末をドライブレンド後、目開き250μmのナイロン製篩を通して原料混合粉末を得た。その原料混合粉末120gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製、N-1グレード)に充填した。
【0064】
<焼成>
この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で大気圧窒素雰囲気中、1800℃で16時間の加熱処理を行った。原料混合粉末に含まれる窒化カルシウムは、空気中で容易に加水分解しやすいので、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製容器はグローブボックスから取り出した後、速やかに電気炉にセットし、直ちに真空排気し、窒化カルシウムの反応を防いだ。合成物は乳鉢で軽く解砕し、目開き150μmの篩を全通させ、α型サイアロン蛍光体Cからなる蛍光体粉末を得た。
【0065】
実施例1、2、及び比較例1で得られた蛍光体粉末について、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD測定)により結晶相を調べたところ、結晶相は、いずれも、EuおよびCaを含むα型サイアロンであることを確認した。また、α型サイアロン型蛍光体A~Cのいずれも、上記の一般式(1)を満たすものであった。
【0066】
(実施例1)
実施例1の蛍光体プレートの原料として、ガラス粉末、Ca-α型サイアロン蛍光体(得られたα型サイアロン蛍光体A、平均粒径D50:15μm)を用いた。ガラス粉末と、Ca-α型サイアロン蛍光体粉末を所定量比で、メノウ乳鉢により乾式混合した。混合後の原料を目開き75μmのナイロン製メッシュ篩を通して凝集を解き、原料混合粉末を得た。尚、原料の真密度(ガラス粉末:3.70g/cm、Ca-α型サイアロン蛍光体:3.34g/cm)から算出した配合比は、ガラス粉末:Ca-α型サイアロン蛍光体=70:30体積%である。
【0067】
約11gの原料混合粉末をカーボン製下パンチをセットした内径30mmのカーボン製ダイスに充填し、カーボン製上パンチをセットし、原料粉末を挟み込んだ。尚、原料混合粉末とカーボン治具の間には固着防止のために、厚み0.127mmのカーボンシート(GraTech社製、GRAFOIL)をセットした。
【0068】
この原料混合粉末を充填したホットプレス治具をカーボンヒーターの多目的高温炉(富士電波工業株式会社製、ハイマルチ5000)にセットした。炉内を0.1Pa以下まで真空排気し、減圧状態を保ったまま、上下パンチを55MPaのプレス圧で加圧した。加圧状態を維持したまま、毎分5℃の速さで1450℃まで昇温した。1450℃に到達後、加熱を止め、室温まで徐冷し、除圧した。その後、外径30mmの焼成物を回収し、平面研削盤と円筒研削盤を用いて、外周部を研削し、直径25mm、厚さ1.5mmの円板状の蛍光体プレートを得た。
実施例1の蛍光体プレートを研磨してSEM観察を実施した結果、ガラスマトリクス相の間にCa-α型サイアロン蛍光体粒子が分散した状態が観察された。
なお、JIS B0601:1994に準拠し、表面粗さ測定器(ミツトヨ製、SJ-400)を用いて測定した実施例1の蛍光体プレートの主面の表面粗さRaが1.0μmであり、主面とは反対側の裏面の表面粗さRaが1.0μmであった。
【0069】
(実施例2)
Ca-α型サイアロン蛍光体として、得られたα型サイアロン蛍光体Bを使用した以外は、実施例1と同様にして、円板状の蛍光体プレートを得た。
【0070】
(比較例1)
Ca-α型サイアロン蛍光体として、得られたα型サイアロン蛍光体Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、円板状の蛍光体プレートを得た。
【0071】
【表1】
【0072】
表1中、T1は、波長455nm透過光の強度、T2は、波長600nm透過光の強度、R1は、波長455nm反射光の強度、R2は、波長600nm反射光の強度を表す。
【0073】
得られた蛍光体プレートについて以下の評価項目について評価を行った。
得られた厚さ1.5mmの円板状の蛍光体プレートの、表1に示す厚みまで薄く加工し、試験用プレートを作製した。
【0074】
[光学特性]
得られた試験用プレートを使用し、発光スペクトルを測定した。その結果、いずれの発光スペクトルにおいて、波長が595nm以上605nm、すなわち橙色光(Orange)の波長領域に、最大の発光強度を示した。
【0075】
[反射光、透過光の強度]
得られた試験用プレートについて、励起光:455nmおよび600nmにおける、反射光(R1、R2)や透過光(T1、T2)を、独立に評価するシステムを有する量子効率測定装置(QE-2100HMB、大塚電子株式会社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0076】
[吸収率、反射率、透過率、外部量子効率、内部量子効率]
また、得られた試験用プレートについて、[反射光、透過光の強度]と同様にして、量子効率測定装置(QE-2100HMB、大塚電子株式会社製)を用いて、455nmにおける、吸収率、反射率、透過率、外部量子効率、内部量子効率を測定した。結果を表1に示す。
即ち、測定する実施例、比較例の蛍光体プレートを、積分球の開口部に取り付けた。この積分球内に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として導入した。この単色光を蛍光体プレートに照射し、蛍光体プレートの蛍光スペクトルを量子効率測定装置を用いて測定した。
得られたスペクトルデータから、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、480~800nmの範囲で算出した。
また同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、435~470nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
実施例、比較例の各蛍光体の455nm光吸収率、内部量子効率、次に示す計算式によって、求めた。
455nm光吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
なお、外部量子効率は、以下に示す計算式により求められ、
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
従って、上記式より外部量子効率は以下に示す関係となる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0077】
実施例1、2の蛍光体プレートは、比較例1に比べて、内部量子効率および外部量子効率に優れる結果を示した。したがって、実施例1、2の蛍光体プレートを用いることで、輝度に優れた発光装置を実現できる。
【0078】
この出願は、2020年3月4日に出願された日本出願特願2020-036876号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0079】
10 蛍光体プレート
20 発光素子
30 基板
40 半田
50 電極
60 ボンディングワイヤ
70 凹部
100 蛍光体プレート
100 発光装置
120 発光装置
130 LEDパッケージ
図1
図2