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特許7432710ポリプロピレン樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法、および成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポリプロピレン樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法、および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240208BHJP
   C08K 7/08 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K7/08
C08L53/02
C08K3/013
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022511676
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007755
(87)【国際公開番号】W WO2021199838
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020059404
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕三
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104558818(CN,A)
【文献】特開平09-012832(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102002184(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K3、7
C08J5
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~41質量部の繊維状塩基性硫酸マグネシウム、
50~98質量部のプロピレン重合体、
0.02~1.6質量部の滑剤、および
前記繊維状塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満、かつ0.1~20質量部の無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンを含有し、
前記繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が2~50の範囲内であるポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
40質量部までのエラストマーをさらに含有する請求項1記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
40質量部までの非繊維状充填材をさらに含有する請求項1又は2記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
1~41質量部の繊維状塩基性硫酸マグネシウム、50~98質量部のプロピレン重合体、0.02~1.6質量部の滑剤、および、前記塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満、かつ0.1~20質量部の無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンを混合し、次いで溶融混練することを含み、前記繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が2~50の範囲内であるポリプロピレン樹脂組成物の製造方法
【請求項5】
請求項1又は2記載のポリプロピレン樹脂組成物の成形物である成形体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法、および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂などのフィラーとして、塩基性硫酸マグネシウムが広く用いられている。塩基性硫酸マグネシウムとしては、例えばアニオン性およびカチオン性の2種類の界面活性剤で処理することによって、耐酸性を高めた繊維状塩基性硫酸マグネシウムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この繊維状塩基性硫酸マグネシウムを含有する樹脂組成物は、ブリスターの発生を抑制できることが記載されている。
【0003】
また、表面を無機リン化合物で被覆した塩基性硫酸マグネシウム粉末も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この塩基性硫酸マグネシウム粉末は、本来の生体内での溶解性を維持しているので生体安全性が確保される。しかも、樹脂と配合した際には、ブリスターの発生が抑制され、熱劣化特性の向上した樹脂組成物が得られる。この樹脂組成物の成形体は、耐衝撃強度に優れることが記載されている。
【0004】
さらに、繊維状無機充填材としての塩基性硫酸マグネシウムとともに、プロピレン重合体、変性オレフィン重合体、非繊維状無機充填材およびエラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この樹脂組成物を用いることによって、外観、剛性と耐衝撃性のバランス、耐衝撃性と耐熱性のバランスに優れた成形体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2016/186152号公報
【文献】特許第6612481号公報
【文献】特開2006-56971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように塩基性硫酸マグネシウムは、ポリプロピレン樹脂のFM(曲げ弾性率)や衝撃強度等の物理特性を向上させるためフィラーとして使用され、当該樹脂組成物は自動車等の部材用として使われている。特に雨水に曝されるバンパーなどの外装材に使用する場合には、塗装外観が損なわれないようにブリスターの発生を抑制するとともに、十分な機械特性を備えることが求められる。
【0007】
本発明の目的は、ブリスターの発生が抑制され、十分な機械特性を備えた成形体が得られるポリプロピレン樹脂組成物、およびポリプロピレン樹脂組成物の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ブリスターの発生が極力抑制され、十分な機械特性を備えた成形体を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、1~41質量部の繊維状塩基性硫酸マグネシウム、50~98質量部のプロピレン重合体、0.02~1.6質量部の滑剤、および、前記塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満、かつ0.1~20質量部の酸変性エラストマーを含有する。
【0009】
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物の製造方法は、1~41質量部の繊維状塩基性硫酸マグネシウム、50~98質量部のプロピレン重合体、0.02~1.6質量部の滑剤、および、前記塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満、かつ0.1~20質量部の酸変性エラストマーを混合し、次いで溶融混練することを含む。
【0010】
本発明に係る成形体は、前述のポリプロピレン樹脂組成物の成形物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブリスターの発生が抑制され、十分な機械特性を備えた成形体が得られるポリプロピレン樹脂組成物、およびポリプロピレン樹脂組成物の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、ブリスターの発生が抑制され、十分な機械特性を備えた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は鋭意研究により、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、プロピレン重合体および滑剤を含有するポリプロピレン樹脂組成物に、所定量の酸変性エラストマーを配合することによって、得られる成形体のブリスターの発生を抑制でき、機械特性も向上することを見出した。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
<塩基性硫酸マグネシウム>
塩基性硫酸マグネシウムは、MgSO・5Mg(OH)2・3H2Oで表され、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性物質と硫酸マグネシウムとを原料として、水熱合成により得ることができる。塩基性硫酸マグネシウムとしては、繊維状塩基性硫酸マグネシウムおよび扇状塩基性硫酸マグネシウムのいずれを用いてもよいが、繊維状塩基性硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0014】
繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維長が一般に2~100μm、好ましくは5~50μmの範囲であり、平均繊維径が一般に0.1~2.0μm、好ましくは0.1~1.0μmの範囲である。繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が一般に2以上、好ましくは3~1000、より好ましくは3~100、特に好ましくは5~50の範囲である。なお、繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から画像解析により測定した繊維長および繊維径のそれぞれの個数平均値から算出することができる。
【0015】
扇状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの一部が接合されて扇状に連なった粒子であり、例えば、その平均粒子長2~100μm、平均粒子幅1~40μm、平均アスペクト比1~100程度である。ここで、平均粒子長とは、粒子の長手方向の寸法を指し、平均粒子幅とは、粒子の短手方向の最大寸法を指す。粒子の長手方向とは粒子長が最大となる方向であり、粒子の短手方向とは長手方向と直交する方向である。また、平均アスペクト比とは、比(平均粒子長/平均粒子径)である。
【0016】
扇状塩基性硫酸マグネシウムを構成しているそれぞれの繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維長2~100μm、平均繊維径0.1~5μm、平均アスペクト比1~1000である。複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、例えば一端で束ねられ、他端で広がりを有する。また、複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、長手方向における任意の位置で束ねられて、両端で広がりを有していてもよい。こうした扇状塩基性硫酸マグネシウムは、例えば、特公平4-36092号公報、および特公平6-99147号公報等に記載されている方法に従って製造し、確認することができる。
【0017】
また、扇状塩基性硫酸マグネシウムは、必ずしも個々の繊維状塩基性硫酸マグネシウムが確認される状態である必要はなく、一部において繊維状塩基性硫酸マグネシウム同士が長手方向にて接合した状態であってもよい。上述のような形状を有し、さらに所定範囲の平均繊維長、平均繊維径、および平均アスペクト比を有する繊維状塩基性硫酸マグネシウムが含まれることが確認されれば、本発明で用いられる扇状塩基性硫酸マグネシウムとみなすことができる。
【0018】
塩基性硫酸マグネシウムの配合量は、1~41質量部である。塩基性硫酸マグネシウムの配合量は、2~30質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましい。
【0019】
<プロピレン重合体>
プロピレン重合体は、プロピレン単独重合体やプロピレン共重合体を用いることができる。耐衝撃強度が高い点で、プロピレンブロック共重合体がプロピレン重合体として、より望ましい。
【0020】
プロピレン重合体の配合量は、50~98質量部である。プロピレン重合体の配合量は、50~90質量部が好ましく、55~85質量部がより好ましい。
【0021】
<滑剤>
滑剤は、脂肪酸および脂肪酸金属塩から選択することができる。脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく、例えばステアリン酸が挙げられる。脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
滑剤の配合量は、0.02~1.6質量部である。滑剤の配合量は、0.04~1.2質量部が好ましく、0.06~0.8質量部がより好ましい。
【0022】
<酸変性エラストマー>
酸変性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性エラストマーが好ましく、具体的には、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)等が挙げられる。SEBSにおけるスチレン(S)とエチレン-ブチレン(EB)との比(S/EB)は、10/90~50/50程度が好ましく、20/80~40/60程度がより好ましい。
【0023】
酸変性エラストマーは、グラフト化率が1.0~10.0%程度であることが好ましい。グラフト化率は、次のような手法により算出することができる。まず、酸変性エラストマーをキシレンに溶解し、次いでアセトンに再沈させて不純物を除去する。その後、グラフト無水マレイン酸部をメチルエステル化し、メチルエステル化後のH-NMR測定を行う。得られたスペクトルのHピーク面積を用いて、グラフト化率を求めることができる。グラフト化率は、1.0~5.0%程度がより好ましい。
【0024】
酸変性エラストマーの配合量は、塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満で、かつ0.1~20質量部である。所定量の酸変性エラストマーが配合された樹脂組成物を用いることにより、ブリスターの発生が抑制され、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度も優れた成形体が得られる。酸変性エラストマーの配合量は、塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.05~0.5倍程度が好ましく、0.1~0.3倍程度がより好ましい。また、0.1~15質量部が好ましく、0.2~10質量部がより好ましい。
【0025】
上記成分に加えて、本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、40質量部以下のエラストマーが含有されていてもよい。エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合系エラストマー、及びスチレン系エラストマーを挙げることができる。エラストマーは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
エチレン-α-オレフィン共重合系エラストマーの具体例としては、エチレン-プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン-1-ブチレン共重合エラストマー(EBR)、エチレン-1-オクテン共重合エラストマー(EOR)、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合エラストマー(EPDM)、エチレン-プロピレン-1-ブチレン共重合エラストマー(EPBR)、エチレン-1-ブチレン-非共役ジエン共重合エラストマー(EBDM)及びエチレン-プロピレン-1-ブチレン-非共役ジエン共重合エラストマー(EPBDM)を挙げることができる。
【0026】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合エラストマー(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合エラストマー(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合エラストマー(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合エラストマー(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合エラストマー(SEPS)等のブロック共重合体、及びこれらのエラストマーを水素添加したブロック共重合体等を挙げることができる。
【0027】
エラストマーの配合量は、5~35質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。エラストマーが含まれることによって、耐衝撃強度がよりいっそう高められ、本発明の効果が損なわれることはない。エラストマーとして、オレフィン系エラストマーを用いても良い。
【0028】
さらに、本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、非繊維状充填材が含有されていてもよい。非繊維状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、シリカ、硫酸カルシウム、けい砂、カーボンブラック、酸化チタン、水酸化マグネシウム、ゼオライト、モリブデン、けいそう土、セリサイト、シラス、水酸化カルシウム、亜硫酸カルシウム、硫酸ソーダ、ベントナイト、および黒鉛等が挙げられ、特にタルクが好ましい。40質量部までの非繊維状充填材が含まれることによって、衝撃強度、光沢、外観等のより優れた成形体を得ることができる。
【0029】
またさらに、本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤などを挙げることができる。
【0030】
<ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の製造に当たっては、まず、塩基性硫酸マグネシウム、プロピレン重合体、滑剤、および酸変性エラストマーを所定の配合量で混合する。各成分の配合量は、塩基性硫酸マグネシウムが1~41質量部、プロピレン重合体が50~98質量部、滑剤が0.02~1.6質量部である。酸変性エラストマーの配合量は、塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍未満、かつ0.1~20質量部である。混合には、タンブラー、ブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
【0031】
得られた混合物を、二軸混練機等を用いて180~250℃で溶融混練することによって、本発明のポリプロピレン樹脂組成物が得られる。
【0032】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明のポリプロピレン樹脂組成物を成形して製造することができる。成形には、例えば圧延成形機(カレンダー成形機など)、真空成形機、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、プレス成形機などの成形機を用いることができる。
【0033】
上述したとおり本発明の樹脂組成物には、酸変性エラストマーが所定の配合量で含有されているので、ブリスターの発生が抑制され、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度も優れた成形体を得ることができる。
【実施例
【0034】
以下に本発明の具体例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
用いる原料を以下にまとめる。
<原料>
繊維状塩基性硫酸マグネシウム(A-1):モスハイジA-1、宇部マテリアルズ(株)製、平均長径15μm、平均短径0.5μm
プロピレン重合体(B):ポリプロピレンブロック重合体 プライムポリプロ J708UG、(株)プライムポリマー製
【0036】
ポリオレフィンエラストマー(C):エチレン-1-オクテン共重合体ゴム、ENGAGE7270、ダウ・ケミカル(株)製
脂肪酸金属塩(E):ステアリン酸マグネシウム
【0037】
酸変性エラストマー(F-1):
無水マレイン酸変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)、タフテックM1913、旭化成(株)製、スチレン:エチレン‐ブチレン=30:70、グラフト化率1.63%
酸変性エラストマー(F-2):
無水マレイン酸変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)、タフテックM1943、旭化成(株)製、スチレン:エチレン-ブチレン=20:80、グラフト化率1.49%
酸変性ポリプロピレン(F-3):
無水マレイン酸変性ポリプロピレン、アドマーQF551、三井化学(株)製、グラフト化率0.08%
酸変性ポリプロピレン(F-4):
無水マレイン酸変性ポリプロピレン、トーヨータックPMA-H1000P、東洋紡(株)製、グラフト化率1.01%
酸変性ポリプロピレン(F-5):
無水マレイン酸変性ポリプロピレン、SCONA TPPP 2003 GB、ビックケミー・ジャパン(株)製、グラフト化率0.28%
なお、酸変性エラストマーと酸変性ポリプロピレン中のグラフト化率は、グラフト無水マレイン酸部をメチルエステル化し、1H-NMR測定より得られたスペクトルから算出した。
【0038】
<実施例1>
まず、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(A-1)10質量部、プロピレン重合体(B)65質量部、ポリオレフィンエラストマー(C)25質量部、脂肪酸金属塩(E)0.3質量部、および酸変性エラストマー(F-1)1質量部を混合した。得られた混合物を二軸押出混練機((株)東洋精機製作所製、ラボプラストミル)を用いて溶融混練して、実施例1の樹脂組成物を得た。
【0039】
<実施例2>
酸変性エラストマー(F-1)の配合量を3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の樹脂組成物を得た。
【0040】
<実施例3>
酸変性エラストマー(F-1)を同量の(F-2)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の樹脂組成物を得た。
【0041】
<実施例4>
酸変性エラストマー(F-2)の配合量を3質量部に変更した以外は実施例3と同様にして、実施例4の樹脂組成物を得た。
【0042】
<比較例1>
酸変性エラストマー(F-1)を配合しない以外は実施例1と同様にして、比較例1の樹脂組成物を得た。
【0043】
<比較例2>
酸変性エラストマー(F-1)の配合量を5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の樹脂組成物を得た。
【0044】
<比較例3>
酸変性エラストマー(F-2)の配合量を5質量部に変更した以外は実施例3と同様にして、比較例3の樹脂組成物を得た。
【0045】
<比較例4>
酸変性エラストマー(F-1)を同量の酸変性ポリプロピレン(F-3)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例4の樹脂組成物を得た。
【0046】
<比較例5>
酸変性エラストマー(F-1)を同量の酸変性ポリプロピレン(F-3)に変更した以外は実施例2と同様にして、比較例5の樹脂組成物を得た。
【0047】
<比較例6>
酸変性エラストマー(F-1)を同量の酸変性ポリプロピレン(F-3)に変更した以外は比較例2と同様にして、比較例6の樹脂組成物を得た。
【0048】
<比較例7~9>
酸変性ポリプロピレン(F-3)を同量の酸変性ポリプロピレン(F-4)に変更した以外は比較例4~6と同様にして、比較例7~9の樹脂組成物を得た。
【0049】
<比較例10~12>
酸変性ポリプロピレン(F-3)を同量の酸変性ポリプロピレン(F-5)に変更した以外は比較例4~6と同様にして、比較例10~12の樹脂組成物を得た。
【0050】
下記表1には、実施例および比較例の樹脂組成物の配合組成をまとめる。
【表1】
【0051】
<試験片の作製>
電動射出成形機(新興セルビック(株)製、C,Mobile)を用いて、各樹脂組成物を所定の寸法に成形して、力学物性評価用の短冊型試験片(縦80mm、横10mm、厚さ4mm)、およびブリスター評価用の平板型試験片(縦40mm、横40mm、厚さ1mm)を得た。
【0052】
<ブリスター評価用試験片の作製>
平板型試験片の片面に、プライマー((株)ソーラー製、ピタキング602ECO)、ベースコート(日本ペイント(株)製、アドミラアルファ)、クリアコート(日本ペイント(株)製、ハイポクリヤー)の順に塗装して、ブリスター評価用試験片を作製した。
【0053】
<ブリスター評価>
ブリスター評価用試験片を80℃イオン交換水に浸漬し、48時間静置した。浸漬後、試験片を乾燥させて、表面のブリスター発生状況を光学顕微鏡により観察した。観察視野4cm2における直径0.1mm以上のブリスターの有無から、以下のように評価した。
ブリスター発生なし:〇
ブリスター発生:×
【0054】
<力学物性の評価>
力学物性評価用の短冊型試験片を用いて、以下の手法により、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度を測定した。
<曲げ弾性率の評価>
万能力学試験機((株)島津製作所製、AGS-x)を用いて、JIS K7171に準拠する方法で3点曲げ試験を行った。得られた荷重たわみ曲線から、曲げ弾性率を評価した。測定温度は23℃とした。
<シャルピー衝撃強度>
シャルピー衝撃試験機((株)マイズ試験機製)を用いて、JIS K7111に準拠する方法でノッチ付き衝撃強度を評価した。測定温度は23℃とした。
【0055】
下記表2には、各樹脂組成物を用いた成形体の評価結果を、ブリスター抑制効果とともにまとめる。
【0056】
【表2】
【0057】
上記表2に示されるように、所定量の無水マレイン酸変性SEBSを含有する実施例1~4の樹脂組成物を用いた成形体は、ブリスターの発生が抑制され、1.5GPa以上の曲げ弾性率および56kJ/m2以上のシャルピー衝撃強度を有している。すなわち、実施例の成形体においては、ブリスターの抑制と高い機械強度とが両立されている。
【0058】
これに対して、無水マレイン酸変性SEBSが含有されない場合(比較例1)には、ブリスターを抑制することができない。無水マレイン酸変性SEBSの配合量が、塩基性硫酸マグネシウムの配合量の0.5倍の場合(比較例2,3)には、曲げ弾性率が1.1GPaにとどまっており、機械特性が劣る。無水マレイン酸変性SEBSの代わりに無水マレイン酸変性ポリプロピレンが配合された場合(比較例4~12)には、ブリスターの抑制と高い機械特性とを両立することができない。