(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ナノネットワーク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20240208BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEZ
C08L101/14
(21)【出願番号】P 2022524834
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020297
(87)【国際公開番号】W WO2021234945
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】根本 純司
(72)【発明者】
【氏名】福島 彰太
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-073271(JP,A)
【文献】特開2014-152424(JP,A)
【文献】特開2018-172524(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114826(WO,A1)
【文献】特開平06-157807(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129504(WO,A1)
【文献】Yihan Wang, Minato Wakisaka,Chitosan nanofibers fabricated by combined ultrasonic atomization and freeze casting,Carbohydrate Polymers,2015年,Vol.122,p.18-25
【文献】脇坂 港、王 奕寒,噴霧式凍結乾燥法による水溶性多糖類ナノファイバーの創製,高分子論文集,2016年,Vol.73, No.3,p.233-237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 9/00-9/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00、301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を主体とするナノネットワークの製造方法であって、
前記ナノネットワークの全質量に対する前記水溶性高分子の質量が30%以上であり、
前記水溶性高分子の固形分濃度が0.001質量%以上0.1質量%未満である水溶性高分子溶液を減圧下で乾燥させる工程を有
し、
前記減圧下で乾燥させる方法は、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって該溶媒を乾燥させる凍結乾燥法であり、
前記予備凍結の凍結温度は、-80℃以上-30℃以下であり、かつ、
前記予備凍結の凍結速度は、-0.1℃/s以上-10℃/s以下であることを特徴とするナノネットワークの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子は、主鎖が直鎖状の高分子であることを特徴とする請求項1に記載のナノネットワークの製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)非セルロース系多糖類、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のナノネットワークの製造方法。
【請求項4】
前記ナノネットワークは、多孔質の支持体の表面、前記支持体の内部、若しくは前記支持体の表面及び内部に形成されており、
前記予備凍結は、前記水溶性高分子溶液が前記支持体に付着した状態で行う工程であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のナノネットワークの製造方法。
【請求項5】
水溶性高分子を主体とするナノネットワークであって、
前記ナノネットワークの全質量に対する前記水溶性高分子の質量が30%以上であり、
該ナノネットワークは、ナノファイバーで構成されており、
前記ナノネットワークを構成する前記ナノファイバーの数平均幅が1nm以上100nm以下であり、
前記ナノファイバーは、前記水溶性高分子からなるナノファイバーを含み、
前記ナノネットワークの窒素吸着BET法による比表面積が30m
2/g以上500m
2/g以下であ
り、
前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)カラギナン、グアガム、キサンタンガム、カラヤガム若しくはタマリンドガム、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含むことを特徴とするナノネットワーク。
【請求項6】
前記ナノネットワークは、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置してから測定した見かけ密度が0.01mg/cm
3以上10mg/cm
3以下であることを特徴とする請求項5に記載のナノネットワーク。
【請求項7】
前記ナノネットワークは、目付1.0g/m
2における通気度が1秒以上100秒以下であることを特徴とする請求項5又は6記載のナノネットワーク。
【請求項8】
前記ナノネットワークは、シート状であるか、又は多孔質の支持体の表面、前記支持体の内部、若しくは前記支持体の表面及び内部に形成されていることを特徴とする請求項5~7のいずれか一つに記載のナノネットワーク。
【請求項9】
前記水溶性高分子を蒸留水に溶解して、固形分濃度0.5質量%に調製した溶液のブルックフィールド粘度計(B型粘度)を用いて、回転数6rpm、液温20℃で測定した粘度が、20mPa・s以上であることを特徴とする請求項5~8のいずれか一つに記載のナノネットワーク。
【請求項10】
前記水溶性高分子の重量平均分子量は、500万以上5000万以下であることを特徴とする請求項5~9のいずれか一つに記載のナノネットワーク。
【請求項11】
前記ナノネットワークは、前記ナノファイバーの無配向のネットワーク構造を含むことを特徴とする請求項5~10のいずれか一つに記載のナノネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶性高分子を主体とするナノネットワーク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物と金属イオンとが交互に繋がった多孔質材料であるメタルオーガニックフレームワーク(MOF)が注目を集めている。MOFは、ナノオーダーで構造が制御できる構造体であり、大きな比表面積を有することから、その内部に分子を吸着、貯蔵させたり、その場で反応を行ったりすることができる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
他方、水溶性高分子には、天然系、半合成系、合成系などの種類があり、一般に使用されているものは環境又は生命に対して毒性は低い。そのため、紙、繊維、食品、医療又は水処理など様々な分野で使用されている。この水溶性高分子からも、微細な繊維構造体(ネットワーク)を作ることができる。例えば、水溶性高分子をエレクトロスピニングにて微細な繊維集合体としたナノファイバーシートが開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0004】
水溶性高分子によるネットワークの形成には、凍結乾燥を活用することができる。例えば、水溶性ポリマーの濃度が0.1~4.5重量%の水溶性ポリマー水溶液を急速凍結させた後に凍結乾燥させることで、水溶性ポリマーから成る繊維構造体が得られることを開示している(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-162887号公報
【文献】特開2011-132633号公報
【文献】特開2014-152424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のようなMOFは、有機物と金属イオンとを規則正しく並べる必要があり、有機溶剤を使用し、反応制御が難しいといった欠点もある。また、金属と有機化合物とが繋がった新規材料となるため、環境又は生命への悪影響が懸念されている。また、特許文献2では、得られるナノファイバーの太さは100~500nm程度であり、ナノというよりはサブミクロンオーダーである。また、エレクトロスピニングにより作られるシートは、高い空隙率を維持したまま厚くすることが難しく、堆積量を多くすると、ナノファイバーの網目状構造体というよりは、膜状物に多数の小さな孔を有する微多孔膜のようになってしまう。特許文献3においても、繊維の太さは最も細いものでも200nm程度であり、ナノというよりはサブミクロンオーダーである。このように、従来のネットワークは安全性が確保できていなかったり、構造がナノオーダーでなかったりするため、通気性を有しながら繊維幅が1~100nmであるネットワーク(ナノネットワークと呼ぶ)とするには実用性や性能面に課題があった。
【0007】
本開示は、極めて繊維径が細く、かつ、空孔が多いナノネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るナノネットワークの製造方法は、水溶性高分子を主体とするナノネットワークの製造方法であって、前記ナノネットワークの全質量に対する前記水溶性高分子の質量が30%以上であり、前記水溶性高分子の固形分濃度が0.001質量%以上0.1質量%未満である水溶性高分子溶液を減圧下で乾燥させる工程を有し、前記減圧下で乾燥させる方法は、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって該溶媒を乾燥させる凍結乾燥法であり、前記予備凍結の凍結温度は、-80℃以上-30℃以下であり、かつ、前記予備凍結の凍結速度は、-0.1℃/s以上-10℃/s以下であることを特徴とする。予備凍結の凍結温度を-80℃以上-30℃以下とすることで、凍結した水溶液に割れ又は変形が生じることを防止することができる。
【0009】
本発明に係るナノネットワークの製造方法では、前記水溶性高分子は、主鎖が直鎖状の高分子であることが好ましい。繊維幅が細くて長いナノファイバーを作ることができる。
【0010】
本発明に係るナノネットワークの製造方法では、前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)非セルロース系多糖類、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含む形態を包含する。
【0011】
本発明に係るナノネットワークの製造方法では、前記ナノネットワークは、多孔質の支持体の表面、前記支持体の内部、若しくは前記支持体の表面及び内部に形成されており、前記予備凍結は、前記水溶性高分子溶液が前記支持体に付着した状態で行う工程であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るナノネットワークは、水溶性高分子を主体とするナノネットワークであって、該ナノネットワークは、ナノファイバーで構成されており、前記ナノネットワークを構成する前記ナノファイバーの数平均幅が1nm以上100nm以下であり、前記ナノファイバーは、前記水溶性高分子からなるナノファイバーを含み、前記ナノネットワークの比表面積が30m2/g以上500m2/g以下であり、前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)カラギナン、グアガム、キサンタンガム、カラヤガム若しくはタマリンドガム、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るナノネットワークでは、前記ナノネットワークは、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置してから測定した見かけ密度が0.01mg/cm3以上10mg/cm3以下であることが好ましい。空孔が多いナノネットワークとなることができる。
【0014】
本発明に係るナノネットワークでは、前記ナノネットワークは、目付1.0g/m2における通気度が1秒以上100秒以下であることが好ましい。流体透過性に優れたナノネットワークとすることができる。また、ナノネットワークの内部に物質を吸着させたり、貯蔵させたり、反応場を提供したりするのにより好適である。
【0015】
本発明に係るナノネットワークでは、前記ナノネットワークは、シート状であるか、又は多孔質の支持体の表面、前記支持体の内部、若しくは前記支持体の表面及び内部に形成されている形態を包含する。
【0016】
本発明に係るナノネットワークでは、前記水溶性高分子を蒸留水に溶解して、固形分濃度0.5質量%に調製したブルックフィールド粘度計(B型粘度)を用いて、回転数6rpm、液温20℃で測定した溶液の粘度が、20mPa・s以上であることが好ましい。より高強度のナノネットワークを得ることができる。本発明に係るナノネットワークでは、前記水溶性高分子の重量平均分子量は、500万以上5000万以下であることが好ましい。本発明に係るナノネットワークは、前記ナノファイバーの無配向のネットワーク構造を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、極めて繊維径が細く、かつ、空孔が多いナノネットワークを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1の表面を観察倍率5万倍で撮影したSEM画像である。
【
図2】比較例2の表面を観察倍率5千倍で撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0020】
本実施形態に係るナノネットワークの製造方法は、水溶性高分子の固形分濃度が0.001質量%以上0.1質量%未満である水溶性高分子溶液を減圧下で乾燥させる工程を有する。
【0021】
<水溶性高分子>
水溶性高分子とは、分子間に溶媒(水)が入り込み溶媒和することで、分子1本又は数本単位で溶媒中に安定的に溶解する高分子のことをいう。高分子の中には、分子形状として、主鎖が直鎖状の高分子、及び網目状の高分子があるが、本実施形態では、主鎖が直鎖状の高分子が好ましい。主鎖が直鎖状の高分子とは、モノマーが直線状に連なった高分子のことを意味する。主鎖が直鎖状の水溶性高分子(直鎖状水溶性高分子ということもある。)としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル若しくはポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸系高分子;アクリルアミドを基本骨格とするポリアクリルアミド系高分子;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド若しくはポリビニルピロリドンなどのその他合成高分子;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース若しくは酸化セルロースなどのセルロース系多糖類;デンプン、酸化デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン、カラギナン、グアガム、キサンタンガム、カラヤガム若しくはタマリンドガムなどの非セルロース系多糖類;又は上記水溶性高分子の2種以上を分子構造に含むように共重合させた共重合物がある。直鎖状水溶性高分子は、分子内に架橋構造や網目構造は持たないが、例えば、グアガム又はキサンタンガムのように側鎖を有していてもよい。また、本実施形態における水溶性高分子は、上記水溶性高分子を複数組み合わせてもよく、上記水溶性高分子の変性物であってもよい。
【0022】
本実施形態では、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は20万以上であることが好ましく、より好ましくは100万以上である。さらに好ましくは500万以上である。Mwが20万以上のように高分子量であると、長くて強い水溶性高分子のナノファイバーを得ることができる。その結果、より高強度のナノネットワークを得ることができる。Mwが20万未満であると、水溶性高分子のナノファイバーの長さが短く脆くなり、ナノネットワークとして構造を維持できなくなる可能性がある。水溶性高分子のMwの上限値は、特に限定されないが、5000万以下であることが好ましく、3000万以下であることがより好ましい。5000万を超えると水に溶けない場合がある。尚、水溶性高分子のMwは、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーの検出器に多角度光散乱装置を配置したSEC-MALSと呼ばれる装置で求めることができる。
【0023】
本実施形態に係るナノネットワークは、水溶性高分子を2種類以上含んでもよい。また水溶性高分子以外の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、界面活性剤、微細繊維又は微細粒子などである。添加剤の添加量は、前記水溶性高分子質量に対して10倍を超えない量であることが好ましい。添加剤の添加量は、より好ましくは水溶性高分子質量に対して5倍を超えない量である。
【0024】
<水溶性高分子溶液>
本実施形態に係るナノネットワークの製造方法では、前述の水溶性高分子を使用する。蒸留水に溶解した前記水溶性高分子の水溶液(以降、水溶性高分子溶液又は高分子水溶液ということもある。)の固形分濃度は0.1質量%未満であることが好ましい。より好ましくは0.08質量%以下である。水溶性高分子溶液の固形分濃度が0.1質量%以上では、ナノオーダーの高分子ネットワークが形成されないことがある。水溶性高分子溶液の固形分濃度の下限値は、0.001質量%以上であり、0.005質量%以上であることがより好ましい。0.001質量%未満では、ナノネットワークが形成されない場合がある。
【0025】
水溶性高分子を蒸留水に溶解して、固形分濃度0.5質量%に調製した溶液の粘度は、20mPa・s以上であることが好ましい。より好ましくは50mPa・s以上である。水溶性高分子の溶液粘度が20mPa・s未満であると、ナノネットワークが形成されない場合がある。水溶性高分子の溶液粘度の上限値は、特に限定されないが、100000mPa・s以下であることが好ましく、50000mPa・s以下であることがより好ましい。本実施形態に係るナノネットワークでは、水溶性高分子は、直鎖状の分子構造かつ高分子量であることが好ましい。尚、水溶性高分子の溶液粘度は、ブルックフィールド粘度計(B型粘度)で測定した値である。ここで、粘度測定において固形分濃度が0.001質量%以上0.1質量%未満である水溶性高分子溶液ではなく、固形分濃度が0.5質量%の溶液を用いた理由は、粘度の差がより出やすいことから評価に適しているためである。固形分濃度が0.5質量%の溶液の粘度を比較することで、固形分濃度が0.001質量%以上0.1質量%未満である水溶性高分子溶液を用いた場合のナノネットワークの形成の良し悪しを推測することができる。
【0026】
本実施形態に係るナノネットワークの製造方法は、前記高分子水溶液を減圧下で乾燥させる。その際、乾燥方法は、凍結乾燥法又は真空乾燥法のいずれであってもよい。凍結乾燥法は、当該高分子水溶液を冷凍機又は冷媒などにて一旦凍結(予備凍結ともいう)させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって溶媒を乾燥させる方法である。また、真空乾燥法は、当該高分子水溶液を減圧下に置き、当該高分子水溶液液中の溶媒の気化によって、当該高分子水溶液の温度が低下して当該高分子水溶液を凍結させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって溶媒を乾燥させる方法である。好ましくは凍結乾燥法であり、より具体的には、冷却板の上で高分子水溶液を予備凍結させてから凍結乾燥させる方法である。冷却板の温度は、-80~-30℃であることが好ましく、-70~-40℃であることがより好ましい。凍結乾燥法による予備凍結では、一般的に例えば、-10℃/sを超え-100℃/s以下のような急速凍結が好まれるが、本実施形態では、極度の急速凍結又は液体冷媒(例えば液体窒素)を用いた凍結は好ましくない。極度の急速凍結では、凍結した溶液の体積変化が急激に起こるため、凍結した水溶液に割れ又は変形が生じることがある。また、液体冷媒を用いると、高分子水溶液と冷媒とが接した部分で液同士の混合が生じることがある。また、液体窒素を用いると、凍結した溶液が-196℃近くまで冷却されることがあり、凍結乾燥中に凍結した溶液が温度上昇する際にナノネットワークに割れ又は変形が生じることがある。凍結乾燥法で冷媒を用いる場合、冷媒の種類は、特に限定されないが、気体であることが好ましく、例えば、空気や窒素などである。本実施形態では、予備凍結は、緩慢な凍結でよく、その凍結速度は、-0.1℃/s以上-10℃/s以下であることが好ましく、-0.5℃/s以上-5℃/s以下であることがより好ましい。また、本実施形態に係るナノネットワークの製造方法では、減圧下で乾燥させる工程は、高分子水溶液を予備凍結させてから凍結乾燥させる工程であり、予備凍結の凍結温度は、-80℃以上-30℃以下であることが好ましい。より好ましくは、-70℃以上-40℃以下である。予備凍結の凍結温度が-80℃未満では、凍結した水溶液に割れ又は変形が生じ、所望の外形状を有するナノネットワークを得られなくなる場合がある。-30℃を超えると水溶性高分子に水和した水が凍結しない場合がある。予備凍結の凍結温度は、予備凍結時の棚温度であるか、又は凍結させる冷媒の温度である。
【0027】
本実施形態に係るナノネットワークの製造方法は、前記高分子水溶液を一旦凍結させてから溶媒を昇華させるため、溶液を蒸発乾燥させた時に生じる溶質の凝集が起こらない。本実施形態に係るナノネットワークで用いられる水溶性高分子は、分子の周囲に水和水を多量に含む。この水和水は凍結時に結晶化しにくい(氷晶が形成されにくい)ため、水に溶解していた高分子が氷晶間に濃縮されにくい。さらに、高分子水溶液の固形分濃度が0.1質量%未満であるため、高分子水溶液が凍結した時点で、高分子の凝集は殆ど発生しない。そのため、この時点で高分子分子鎖は配向の無いランダムなナノネットワーク構造をとっており、乾燥後もナノファイバー幅が細く、かつ該ナノファイバー間に空間を有する比表面積の大きいナノネットワークを形成できる。水溶性高分子が直鎖状の分子形状を有することで、繊維幅が細くて長いナノファイバーを作ることができる。尚、大気圧下での蒸発乾燥では、常温下であろうと加熱下であろうと液体の表面張力が強く働き、高分子は密に凝集してフィルム状の膜になってしまう。興味深いことに、本実施形態に係るナノネットワークの製造方法では、水溶性高分子は溶液中で分子鎖の周囲が水和しているため、前記のような緩慢な凍結でも溶液凍結時の溶媒結晶の粗大化を抑制できる。この水和水はガラス状で固体化し、氷晶が形成しても粗大化しないと推測される。
【0028】
本実施形態に係るナノネットワークの製造方法では、乾燥過程における乾燥工程の圧力は、減圧下、すなわち大気圧よりも低い圧力とし、その圧力は1000Pa以下であることが好ましく、50Pa以下であることがより好ましい。さらに好ましくは1Pa以下である。圧力が1000Paを超えると溶液中の溶媒が凍結状態を維持できず、ナノファイバー幅が細く、かつ該ナノファイバー間に空間を有する比表面積の大きいナノネットワークが得られない場合がある。圧力の下限については特に限定はないが、例えば0.001Pa以上であることが好ましく、0.01Pa以上であることがより好ましい。圧力が低いほど、凍結した溶液を低温で維持することができ、溶媒の温度上昇に伴う冷結晶化を防ぐことができる。
【0029】
乾燥温度としては、ナノネットワークが分解又は変形などを受けない温度で、且つ、乾燥中に溶媒が融解しない温度を選択する。乾燥温度とは、被乾燥物周囲の温度のことであり、温度制御の無い装置では室温となるが、乾燥容器全体又は乾燥棚の温度を制御することもできる。乾燥温度は溶媒又は溶質の種類によっても異なるが、一般的に-50℃から50℃が好ましく、-20℃から20℃がより好ましい。乾燥温度が高いと、溶媒の温度上昇に伴う冷結晶化が進んでナノネットワークの構造を破壊したり、溶媒の融解が生じたりする可能性がある。
【0030】
乾燥後期においては、凍結した溶媒の昇華がほぼ終了する。乾燥の終了を判断する方法としては、特に限定するものではないが、試料の最も乾燥されにくい箇所の温度を接触型、若しくは非接触型の温度計で測定し、温度上昇が起きた点から判断する方法、または、乾燥系内の圧力を測定して十分な真空となった点から判断する方法などがある。試料の最も乾燥されにくい箇所は、例えば、凍結部分の厚さが最も厚くなった箇所である。凍結した溶媒の昇華が終了した後、乾燥物の結露防止のため、または、熱処理のために乾燥温度を上げてもよい。その時の乾燥温度としては、例えば、20~200℃であるが、減圧下での焼結又はベーキングを必要とする場合、例えば、200~600℃である。
【0031】
本実施形態では、溶液に各種助剤を配合してもよい。また、ナノネットワークの表面改質剤として、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を配合することもできる。各種助剤の配合量は、水溶性高分子質量に対して10倍を超えない量であることが好ましい。各種助剤の添加量は、より好ましくは水溶性高分子質量に対して5倍を超えない量である。
【0032】
次に本実施形態に係るナノネットワークついて記載する。
【0033】
本実施形態において、ナノネットワークとは、通気性を有しながら数平均繊維幅が1~100nmであるナノファイバーで形成された網目状構造体のことをいう。網目状構造体は、2次元構造体又は3次元構造体をなしている。本実施形態に係るナノネットワークは、水溶性高分子を主体とするナノネットワークであって、該高分子ナノファイバーの数平均幅が1nm以上100nm以下であって、比表面積が30m2/g以上500m2/g以下であるナノネットワークを含む。
【0034】
水溶性高分子を主体とするとは、ナノネットワークの全質量に対する水溶性高分子の質量が30%以上であることをいう。ナノネットワークの全質量に対する水溶性高分子の質量は50%以上であることがより好ましく、100%であることが更に好ましい。
【0035】
本実施形態に係るナノネットワークは、ナノファイバーで構成されており、ナノネットワークを構成するナノファイバーとして、水溶性高分子からなるナノファイバーを含むことが好ましい。また、本実施形態に係るナノネットワークは、水溶性高分子からなるナノファイバーに加えて、その他のナノファイバーを含んでいてもよい。
【0036】
本実施形態におけるナノネットワークを構成するナノファイバーの数平均幅は、100nm以下であることが好ましい。より好ましくは80nm以下である。さらに好ましくは60nm以下である。ナノファイバーの数平均幅の下限値は1nmであることが好ましく、2nmであることがより好ましい。ナノファイバーの数平均幅が100nmを超えると、比表面積が小さくなり吸着や貯蔵といった機能が低下する可能性がある。また、ナノファイバーの数平均幅が1nmより低いと、ナノネットワークの強度が著しく低下する可能性がある。ここで、ナノファイバーの数平均幅は、次に従って算出する。ナノネットワークを走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)を用いて観察し、電子顕微鏡画像による解析を行う。得られた観察画像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差するナノファイバーの幅を目視で読み取っていく。このとき、構成するナノファイバーの大きさに応じて5000~100000倍のいずれかの倍率で観察を行う。複数の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差するナノファイバー幅の値を読み取る。少なくとも120本のナノファイバー幅データから数平均幅を算出した。尚、試料は歪みの無い観察画像を得るため、予め導電性コーティングを行うが、コーティング膜厚による影響も考慮する。例えば、イオンスパッター(E-1045、日立ハイテクノロジー社製)を用いる場合、放電電流15mA、試料-ターゲット間距離30mm、真空度6Pa、コーティング時間2分とすると、コーティング膜厚は12nmである。ただし、ナノファイバー幅を測定する際は、コーティング膜の堆積方向が想定される方向と垂直になるため、コーティング膜厚は想定の半分とする。つまり、上記条件でコーティングした場合、SEMから求めたナノファイバー幅から両端のコーティング膜厚12nm(=6nm+6nm)分を除く。
【0037】
本実施形態におけるナノネットワークは、窒素吸着BET法による比表面積(以降、比表面積ということもある。)は、30m2/g以上であることが好ましく、40m2/g以上であることがより好ましく、50m2/g以上であることが更に好ましい。30m2/g未満では、ナノネットワークの外部表面による微小物質又は分子の吸着といった機能が低下する可能性がある。ナノネットワークの比表面積の上限値は特に設けないが、500m2/gであることが好ましく、400m2/gであることがより好ましい。500m2/gを超えると、ナノネットワークの強度が弱くなり、ナノファイバーが脆弱になる場合がある。
【0038】
本実施形態におけるナノネットワークは、見かけ密度が10mg/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは5.0mg/cm3以下である。見かけ密度の下限値は特に限定されないが、0.01mg/cm3以上であることが好ましく、0.05mg/cm3以上であることがより好ましい。見かけ密度が10mg/cm3を超えると空孔が少なくなってしまう場合がある。見かけ密度が0.01mg/cm3未満ではナノネットワークが形成されない場合がある。見かけ密度は、ナノネットワークの質量を体積で除した値である。ナノネットワークの質量および体積は、空気中の水分によって変動することがあるため、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置してから測定する。尚、該ナノネットワークは圧力を掛けると体積が変化する場合があるため、体積測定時は非接触で、縦、横、高さ又は直径などの寸法を測定する。寸法測定には、定規、ノギス、光学顕微鏡又は非接触3次元形状測定機などを使用することができる。
【0039】
本実施形態におけるナノネットワークは、目付1.0g/m2当たりの前記ナノネットワークの通気度が100秒以下であることが好ましい。より好ましくは50秒以下である。100秒を超えると、ナノネットワークの流体透過性が低くなる場合がある。目付1.0g/m2当たりの前記ナノネットワークの通気度の下限値は特に限定されないが、0.1秒以上であることが好ましく、0.2秒以上であることがより好ましい。尚、通気度は、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」(B法、ガーレー形法)に従って測定した値であり、数値が低いほど通気性が高い。ナノネットワークの通気度は、シート状のナノネットワークを紙や不織布と同様にして直接通気度を測定することができる。ナノネットワークをシート状にすることが難しい場合は、通気度が既知の紙又は不織布などを支持体として、その上にナノネットワークを置くことや、支持体の中にナノネットワークを作製すること、あるいはナノネットワークを支持体同士の間に挟むことで通気度を測定する。ナノネットワークの通気度は、支持体の通気度との差分から求める。
【0040】
本実施形態におけるナノネットワークは、シート状であるか、又は多孔質の支持体の表面、支持体の内部、若しくは支持体の表面及び内部に形成されていてもよい。多孔質の支持体としては、織布、不織布、紙又はスポンジなどである。多孔質の支持体の表面は、例えば、支持体の表面のうち孔の内壁を除く表面であり、ナノネットワークは、支持体の外表面に設けられていてもよいし、孔の開口を覆うように設けられていてもよい。多孔質の支持体の内部は、例えば、支持体の孔の内部であり、ナノネットワークは、孔を横断するように設けられていてもよいし、孔の内壁に沿って設けられていてもよい。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0042】
(実施例1)
水溶性高分子であるポリアクリル酸ソーダ(直鎖状、アロンA-20P-X、分子量500万、東亞合成社製)の粉末を蒸留水で溶解し、固形分濃度0.1%の原液を作製した。この原液をさらに蒸留水を加えて、0.025%に希釈し、これを水溶性高分子溶液とした。目付50g/m2、圧力損失20Pa(面風速5.3cm/s時)の不織布に浸み込ませた。このとき、水溶性高分子溶液の不織布への付着量は200g/m2であった。この水溶性高分子溶液が付着した不織布を棚温度-50℃の凍結乾燥機に入れて溶液を予備凍結させた。予備凍結の降温速度は、-10℃/分であった。その後、真空ポンプを運転し、棚温度-20℃、最終到達圧力0.1Paで凍結乾燥させた。溶媒の昇華が終了後、棚温度を25℃に上げて不織布を凍結乾燥機から取り出し、不織布内に形成されたナノネットワークを得た。
【0043】
(実施例2)
水溶性高分子をポリアクリル酸エステル(直鎖状、アロンフロックC-535M、分子量700万、MTアクアポリマー社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0044】
(実施例3)
水溶性高分子をポリエチレンオキサイド(直鎖状、アルコックスE-300、分子量550~650万、明成化学工業社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0045】
(実施例4)
水溶性高分子をカルボキシメチルセルロース(直鎖状、セロゲンBSH-12、分子量33~38万、第一工業製薬社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0046】
(実施例5)
水溶性高分子をカラギナン(直鎖状、GENUVISCO CSM-2、分子量99万、CP Kelco社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0047】
(実施例6)
水溶性高分子をポリビニルアルコール(直鎖状、POVAL28-98、分子量8万、クラレ社製)に変更し、ポリビニルアルコールを水に溶解する際、液全体を90℃まで加温した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0048】
(実施例7)
水溶性高分子をポリアクリルアミド(直鎖状、アコフロックN-104、分子量1700万、MTアクアポリマー社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてナノネットワークを得た。
【0049】
(実施例8)
実施例1の水溶性高分子溶液が付着した不織布を予備凍結させず室温の真空容器に入れ、そのまま最終到達圧力0.1Paで真空乾燥させた。溶媒の乾燥が終了後、不織布を真空容器から取り出し、不織布内に形成されたナノネットワークを得た。
【0050】
(実施例9)
実施例1の0.1%濃度水溶性高分子溶液を蒸留水で0.075%に希釈し、内径86mmのポリスチレンシャーレに当該溶液を15.4g注いだ。このシャーレに入った水溶性高分子溶液を実施例1と同様に凍結乾燥させて、スポンジ状のナノネットワークを得た。
【0051】
(参考例10)
実施例9の高分子溶液の入ったシャーレを液体窒素上に置いて高分子溶液を-196℃で予備凍結させた以外は実施例9と同様に凍結乾燥させて乾燥体を得た。しかし、得られた乾燥体ではナノネットワークは形成されていたものの乾燥体は1~2cm程度の小片状に割れてしまった。このため乾燥体について評価は行わなかった。
【0052】
(比較例1)
実施例1の水溶性高分子を0.12%となるように蒸留水で溶解し、この溶液を希釈せずに不織布に浸み込ませた以外は実施例1と同様にして網目状構造体を得た。得られた網目状構造体は、数平均繊維幅が100nmを超えており、ナノネットワークには該当しなかった。
【0053】
(比較例2)
実施例4の水溶性高分子を1.00%となるように蒸留水で溶解し、この溶液を希釈せずに不織布に浸み込ませた以外は実施例1と同様にして網目状構造体を得た。得られた網目状構造体は、膜状の部分と繊維状の部分が混在していたが、繊維状の部分の数平均繊維幅が100nmを超えており、ナノネットワークには該当しなかった。
【0054】
(比較例3)
乾燥方法を大気圧下で105℃の乾燥機を用いた方法とした以外は実施例1と同様にして作製したが、ナノネットワークは得られず、高分子が凝集してフィルム状の膜状物の高分子乾燥体が得られた。
【0055】
(比較例4)
実施例6のポリビニルアルコールを蒸留水に分散させ、液温を90℃まで加温して8.00%溶液を作製した。エレクトロスピニング装置(NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット、カトーテック社製)のターゲット部に実施例1と同じ不織布を固定し、前記水溶性高分子溶液が充填されたシリンジの針先に電圧をかけナノファイバーを紡糸した。尚、エレクトロスピニングの条件は、印可電圧20kV、ターゲット回転速度6m/min、紡糸時間1時間で、目付1.3g/m2の網目状構造体を得た。得られた網目状構造体は、数平均繊維幅が100nmを超えており、ナノネットワークには該当しなかった。
【0056】
(溶液粘度)
水溶性高分子の溶液粘度は、ブルックフィールド粘度計(B型粘度)を用いて、回転数6rpm、液温20℃、固形分濃度0.5質量%に調製した溶液にて測定した。
【0057】
(見かけ密度)
見かけ密度は、ナノネットワークの重量と見かけ体積から求めた。見かけ体積は、ナノネットワークの底面積と高さをノギスまたは定規で測定して求めた。不織布内に形成させたナノネットワークの重量は、不織布へ付着させた水溶性高分子溶液の量と固形分濃度から求め、見かけ体積は、不織布の見かけ体積から求めた。
【0058】
(目付1g/m2当たり通気度)
通気度は、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」(B法、ガーレー形法)に従い、ガーレー式デンソメータ透気度試験器(東洋精機製作所社製)を用いて測定した。不織布内に形成させたナノネットワークの通気度は、不織布の通気度との差分から算出した。また、得られた通気度はナノネットワークの目付の値で除して、目付1g/m2当たりの通気度とした。
【0059】
(比表面積の測定)
窒素吸着BET法による比表面積を自動比表面積測定装置(TriStarII3020、Micromeritics社製)を用いて測定した。不織布内に形成させたナノネットワークの比表面積は、不織布の比表面積をまず測定し、次に不織布とナノネットワーク複合体の比表面積を測定してその差分と重量比から算出した。
【0060】
(ナノネットワークの観察)
各実施例及び各比較例で得られた乾燥体について、その形状をSEM(SU8010、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍から50000倍に拡大して観察した。
図1に実施例1で得られたナノネットワークのSEM画像を、
図2に比較例2で得られた高分子乾燥体のSEM画像をそれぞれ示す。
【0061】
【0062】
実施例1~10では、いずれもナノネットワークが得られた。さらに、表1からわかるように、実施例1~9のナノネットワークは、比表面積が大きく、目付1g/m2当たりの通気度が低かった。このため、これらナノネットワークはその内部に物質を吸着させたり、貯蔵させたりするのに好適である。一方、比較例1、2は、高分子水溶液濃度が0.1%より高かったため、ナノファイバー数平均幅が比較的大きくなった。そのため、比表面積が小さく、特に比較例2では見かけ密度及び目付1g/m2当たりの通気度が著しく高くなった。比較例3は、減圧下での乾燥を行わなかったため、ナノネットワークが形成されなかった。比較例3で得られた乾燥体は、水溶性高分子のナノファイバーが凝集してフィルム状の膜状物であった。実施例9では、不織布などの支持体が無くてもナノネットワークを作製することができ、高い通気性及び比表面積を維持していた。一方、実施例10は、急速冷凍かつ液体窒素温度で凍結させたため、急激な温度変化のため凍結した溶液にひびが入り、乾燥体が割れてしまった。比較例4は、エレクトロスピニングによって作製されたため、ナノファイバー数平均幅が比較的大きくなった。そのため、比表面積が小さく、見かけ密度が著しく高くなった。
【0063】
このように、本発明に係るナノネットワークの製造方法では、構造がナノオーダーであり比表面積も大きくありながら、高い通気性も有するナノネットワークが得られるため、その内部に物質を吸着させたり、反応場を提供したりするのに好適である。また、特殊な物質を使用せず、環境や生命に対して悪影響が少ない水溶性高分子を用いているため、本ナノネットワークは様々な場面での使用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るナノネットワークは、環境に対して低負荷であり、比表面積が大きいにも関わらず、高い通気性も有するため、フィルタ、触媒担持体、再生医療材料など様々な分野・用途に好適に用いることができる。