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特許7432791有機フッ素化合物非含有の耐アルコール型たん白泡消火薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】有機フッ素化合物非含有の耐アルコール型たん白泡消火薬剤
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/04 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A62D1/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023190089
(22)【出願日】2023-11-07
【審査請求日】2023-11-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595024869
【氏名又は名称】第一化成産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 裕司
(72)【発明者】
【氏名】鯉沼 武志
(72)【発明者】
【氏名】増田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】椿原 靖規
(72)【発明者】
【氏名】中村 優介
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-197659(JP,A)
【文献】特開昭53-135199(JP,A)
【文献】特公昭45-35998(JP,B1)
【文献】特開昭49-88394(JP,A)
【文献】特公昭34-846(JP,B1)
【文献】米国特許第5853050(US,A)
【文献】米国特許第5225095(US,A)
【文献】特開2000-328092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/00-1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。以下「規格」という。)」分類におけるたん白泡消火薬剤であって、加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンと、アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とするたん白泡消火薬剤。
【請求項2】
上記加水分解たん白質溶液は、分子量が300~8,000を分子量分布のピークとし、たんぱく鎖に結合している硫黄が0.1~8%である蹄角アルカリ加水分解たん白質溶液であることを特徴とする請求項1に記載のたん白泡消火薬剤。
【請求項3】
上記鉄イオンを0.1から3.0重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。
【請求項4】
上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である下記いずれかの構造式に示される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。
R1は炭素数20以下のアルキル基もしくはその混合体、Rはアミノ酸側鎖、Mは水素原子もしくはアルカリ金属あるいは炭素数6以下の1~3級のアルキルアミン(アミノ酸側鎖に含まれる場合のカルボキシル基も同様)、nは1~5
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存製品に含まれていた有機フッ素化合物(PFAS)を含まない、有機フッ素化合物非含有の耐アルコール型たん白泡消火薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機フッ素化合物(以下、PFASとも表記する。)は化学的に炭素とフッ素が非常に強く結びついているため、自然界で分解されず、海や土壌に堆積し、環境と健康に悪影響を及ぼす懸念がある。そのため、PFASの使用や廃棄物処理には規制があり、環境への影響を最小限に抑えるための取り組みが行われている。
【0003】
一方、従来の泡消火薬剤の多くには、例えば下記特許文献1に示されるように、泡の液体可燃物表面上における流動展開性を改善させて、特にアルコール性液体の火災に対する効果的な消火能力を持たせるため、PFASの一種であるフッ素系界面活性剤が含まれている。そのためPFASを含まない高性能な泡消火薬剤の開発が求められている。また、引用文献2は、耐アルコール性能については考慮されていないが、PFAS含有のたん白泡消火薬剤を記載している。なお、アルコール性液体の火災に対する効果的な消火能力を有することを「耐アルコール性能」あるいは「耐アルコール型」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-126327
【文献】特開2000-24134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、耐アルコール性能を有する既存の泡消火薬剤は、従来から概ね以下のように分類されている。
1) 金属石鹸型たん白泡消火薬剤
2) フッ素系界面活性剤を添加したたん白泡消火薬剤
3) フッ素系界面活性剤を添加した合成界面活性剤泡消火薬剤
4) フッ素系界面活性剤を添加した水成膜泡消火薬剤(例えば前記特許文献1参照)
【0006】
これらのうち2)~4)は既存の消火薬剤として広く使用されており、PFASの効果や増粘剤等を使用して上記効果を発現させている。これらは価格や性能によって異なる用途で利用されている。しかしながらこれらの製品は現在の規制により廃棄が難しく訓練ができず、緊急時のリスクが高まっている。また、火災時には大量のPFASが環境に放出され、近隣地域での高濃度のPFAS汚染が問題となっている。
【0007】
これに対して、1)金属石鹸型たん白泡消火薬剤は、主には石鹸と乳酸アルミニウム等をたん白泡消火薬剤に混合したもので、規定の濃度の水溶液に希釈すると乳酸アルミニウムのキレート結合が弱まり、アルミニウムと石鹸が結合して非水溶性の金属石鹸が形成され、耐アルコール性能を発揮する。
【0008】
しかしながら、1)は希釈するとすぐに非水溶性の金属石鹸が生成するため、発泡装置の細孔部分で目詰まりを引き起こす可能性がある。さらに希釈後すぐに発泡させないと効果が低下する。また、現在の国内販売必須要件である、泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。以下「規格」という。)」の希釈試験等、物理性状試験も満たすことができないため、四半世紀以上市販されていない。
【0009】
そこで、本発明者らは、1)の薬剤における希釈してから不溶物が生成されるまでの時間(以下トランジットタイム)に着目し、加水分解たん白質溶液を主成分として鉄イオンを含むたん白泡消火薬剤において、アミノ酸を構造式に含む所定の化合物を含有させることにより、PFASを添加させることなく所望の耐アルコール性能を備えたたん白泡消火薬剤が得られるとの知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、環境汚染において問題となっているPFASを含有することなく、所望とする耐アルコール性能を有するPFAS非含有のたん白泡消火薬剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、規格分類におけるたん白泡消火薬剤であって、加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンと、アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において上記加水分解たん白質溶液が、分子量が300~8,000を分子量分布のピークとし、たんぱく鎖に結合している硫黄が0.1~8%である蹄角アルカリ加水分解たん白質溶液であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記鉄イオンを0.1から3.0重量%含有することを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である下記構造式に示されるいずれかの化合物であることを特徴とするものである。
【0015】
【0016】
R1は炭素数20以下のアルキル基もしくはその混合体、Rはアミノ酸側鎖、Mは水素原子もしくはアルカリ金属あるいは炭素数6以下の1~3級のアルキルアミン(アミノ酸側鎖に含まれる場合のカルボキシル基も同様)、nは1~5
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境汚染の懸念を解消し、PFASを一切含まないたん白泡消火薬剤を提供することができ、さらには、アルコール性液体の火災に対する効果的な消火能力を持つたん白泡消火薬剤を提供できる。これにより、消防活動や産業用途において、環境保護と安全性を同時に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を具体的に説明する。
【0019】
本発明で使用する主剤であるたん白原液は、添加する鉄とのキレート力の向上、発泡性能を高めるため、常圧若しくは加圧した条件で12時間以下の時間でアルカリ加水分解を実施したものを使用する。これにより、消火能力における泡の安定性と流動性を維持する、分子量が300~8,000を分子量分布のピークとするたん白液となる。かつジスルフィド結合の部分を丁寧に還元させ、ケラチン由来たん白質に多く硫黄を残留させることでキレート力を高めることができる。
【0020】
上記鉄イオンを生成すべく添加する鉄は酸性の水溶性鉄で投入することが望ましく、本目的で製造されたたん白液に0.1~3.0重量%で添加することで耐アルコール性能とトランジットタイムを調整された組成物を得ることができる。
【0021】
鉄イオンを形成する鉄は、主に2価の鉄が好ましく、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、クエン酸第一鉄などが好ましい。水溶液の状態にした上記に代表される鉄塩を、蹄角をアルカリ加水分解することでジスルフィド結合が開裂され生成されたメルカプト基を中心とした陰イオン性を有する箇所に均等かつ強固にキレート反応させるため、十分な時間をかけて添加することが望ましい。好ましくは100Lの製品を製造するのに1時間程度の時間をかけて鉄水溶液を投入することが望ましい。
【0022】
アミノ酸を構造式に含む化合物は、主剤のたん白原液と相性がよく、そのペプチド結合数と脂肪酸の数を制限することで、その含有する組成物を希釈したとき緩く鉄イオンと結合し、また耐アルコール性能とトランジットタイムをコントロールできる。
【0023】
より具体的に、上記化合物としては、セチルアラニントリエタノールアミン、ラウリル酸グリシンナトリウム、ミリスチル酸アシルグリシルアラニンカリウム、ヤシ脂肪酸アラニルグリシンジエタノールアミン、ミリスチル酸グリシルアラニルアルギニン酸モノエタノールアミン、ラウリルアラニルグリシルアスパラギン酸トリエタノールアミン、パルミチン酸チロシルフェニルアラニンジエタノールアミン、パルミチンアラニルイソロイシンカリウム、ステアリン酸グリシルアラニンジエタノールアミン、ミリスチルイソロイシンジエタノールアミン、ラウリル酸アラニンカリウム、ミリスチル酸アラニルグリシルアラニンカリウム塩、パルミチン酸ロイシルグリシルグリシンジエタノールアミン、ヤシ脂肪酸フェニルアラニルグリシルアラニルアルギニン酸モノエタノールアミン、ラウリルアラニルグリシルアスパラギン酸トリエタノールアミン、パルミチン酸チロシルフェニルアラニンジエタノールアミン、パルミチン酸アラニルイソロイルグリシルアラニンカリウム、ステアリン酸チロシルグリシルアラニルイソロイシルグリシンジエタノールアミン等が挙げられる。
【0024】
上記化合物において、ペプチド結合が多くなるほどトランジットタイムが長くなり耐アルコール性能が低下する。脂肪酸のカルボキシル基は酸、アルカリ塩若しくはアミン塩として存在し、その数により耐アルコール性能とトランジットタイムが変化する。
【0025】
本発明で使用する上記化合物の最適な構造式は、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造が最も主剤と相性がよく性能を満足するに至った。
【0026】
以下、下記表1に示す実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、3%希釈沈降及び発泡倍率は「規格」に従い行った。消火試験においては、総務省告示第 559号の別表4より、水溶性液体の代表物質をアルコール類からメタノール、ケトン類からアセトンを選択して、係数1により試験を実施した。
【実施例1】
【0027】
【表1】
【要約】
【課題】環境汚染において問題となっているPFASを含有することなく、所望とする耐アルコール性を有するPFAS非含有のたん白泡消火薬剤を提供する。
【解決手段】加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンと、アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しない、たん白泡消火薬剤。
【選択図】なし