(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】医療用ワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240208BHJP
A61M 25/092 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61M25/09 520
A61M25/092 500
(21)【出願番号】P 2023193203
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2023097625の分割
【原出願日】2023-06-14
【審査請求日】2023-11-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】今村 勝
(72)【発明者】
【氏名】中園 美保
(72)【発明者】
【氏名】林田 拓樹
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-042225(JP,A)
【文献】特開2012-070906(JP,A)
【文献】特開平03-070576(JP,A)
【文献】特開2011-062320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
A61M 25/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第1可撓管体と、
前後方向に延びるとともに、前記第1可撓管体の内側に挿入された操作ワイヤと、
前記第1可撓管体の後端部に固定された支持体と、を備え、
前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れた状態で、前記第1可撓管体の前端部に固定され、
前記第1可撓管体の内側には、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第2可撓管体が挿入され、
前記第2可撓管体の内側に、前記操作ワイヤが挿入され、
前記第2可撓管体の中心軸線、および前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの
同一の一方向に離れ、
前記第2可撓管体の前端部は、前記第1可撓管体、および前記操作ワイヤそれぞれの前端部のうちの少なくとも一方に固定され、
前記第2可撓管体のうち、前端部より後方に位置する後部は、前記支持体、および前記第1可撓管体の後端部のうちの少なくとも一方に固定されている、医療用ワイヤ。
【請求項2】
前記第1可撓管体のうち、前端部と後端部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている、請求項1に記載の医療用ワイヤ。
【請求項3】
前記第2可撓管体のうち、前端部と後部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている、請求項1または2に記載の医療用ワイヤ。
【請求項4】
前記第1可撓管体および前記第2可撓管体のうちの少なくとも一方は、前後方向に延びるコイルばねとされている、請求項1または2に記載の医療用ワイヤ。
【請求項5】
前記支持体の後方に、前記操作ワイヤが固定されるとともに、前記支持体に対して前後方向に移動可能な操作部が設けられている、請求項1または2に記載の医療用ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤ等の医療用ワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療用ワイヤとして、例えば下記特許文献1に示されるような、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第1可撓管体(外側可撓管体4)と、前後方向に延びるとともに、第1可撓管体の内側に挿入された操作ワイヤ(コアシャフト)と、第1可撓管体の後端部に固定された支持体と、を備えるガイドワイヤが知られている。一般に、ガイドワイヤは、血管内に挿入され、血管内の慢性完全閉塞病変部等を貫いた状態で、バルーンやステントを慢性完全閉塞病変部等に案内するために用いられる。
ガイドワイヤにより慢性完全閉塞病変部等を貫通する際、例えば次の手順がとられている。
まず、ガイドワイヤを、マイクロカテーテル内に挿入した状態で血管内に進入させ、血管内の慢性完全閉塞病変部等に到達させたときに、マイクロカテーテルは血管内に残したまま、これまで用いていたガイドワイヤを抜き出し、その後、このガイドワイヤより先端荷重等が高いガイドワイヤを、改めてマイクロカテーテル内に挿入して慢性完全閉塞病変部等に突き刺し、ガイドワイヤおよびマイクロカテーテルにより慢性完全閉塞病変部等を貫通する。その後、マイクロカテーテルは慢性完全閉塞病変部等を貫通した状態で血管内に残したまま、先端荷重等が高いガイドワイヤを抜き出し、先端荷重等が低い元のガイドワイヤを再度マイクロカテーテル内に挿入して、慢性完全閉塞病変部等を貫く位置まで到達させた後に、このガイドワイヤを残したまま、マイクロカテーテルを抜き出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガイドワイヤでは、慢性完全閉塞病変部等を貫通するためには、先端荷重等の曲げ剛性が異なるガイドワイヤを血管等に対して抜き差しして交換し使い分ける必要があり、また、慢性完全閉塞病変部等に到達させるまでの間に、血管分岐部において血管を選択して目的の血管に進入させるためには、ガイドワイヤを血管に対して抜き差して、体外でガイドワイヤの前端部の曲率(プリシェイプと呼ばれる曲げ癖)を微調整する必要があり、手術時間の短縮が求められていた。
【0005】
本発明は、手術時間を短縮させることができる医療用ワイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る医療用ワイヤは、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第1可撓管体と、前後方向に延びるとともに、前記第1可撓管体の内側に挿入された操作ワイヤと、前記第1可撓管体の後端部に固定された支持体と、を備え、前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れた状態で、前記第1可撓管体の前端部に固定され、前記第1可撓管体の内側には、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第2可撓管体が挿入され、前記第2可撓管体の内側に、前記操作ワイヤが挿入され、前記第2可撓管体の中心軸線、および前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れ、前記第2可撓管体の前端部は、前記第1可撓管体、および前記操作ワイヤそれぞれの前端部のうちの少なくとも一方に固定され、前記第2可撓管体のうち、前端部より後方に位置する後部は、前記支持体、および前記第1可撓管体の後端部のうちの少なくとも一方に固定されている。
【0007】
操作ワイヤの前端部が、第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れた状態で、第1可撓管体の前端部に固定されているので、操作ワイヤを後方に引くと、第1可撓管体が、圧縮変形しつつ径方向のうちの特定の一方向に曲がることとなり、操作ワイヤを操作して、医療用ワイヤの前端部を特定の向きに曲げながら、血管分岐部において血管を選択して医療用ワイヤを目的の血管に進入させることができる。これにより、医療用ワイヤを血管に沿わせながら慢性完全閉塞病変部等に到達させる際の、医師の操作感覚に対する依存を低減することができるとともに、医療用ワイヤを血管に対して抜き差して、体外で医療用ワイヤの前端部の曲率を微調整する必要を無くすことができる。
さらに、操作ワイヤを後方に引くと、操作ワイヤおよび第1可撓管体それぞれの前端部が後方に移動して、第1可撓管体が支持体との間で前後方向に圧縮変形することで、第1可撓管体の曲げ剛性が高くなる。したがって、医療用ワイヤを血管内に挿入した状態で、操作ワイヤを操作することで、第1可撓管体の曲げ剛性を変化させることができる。
これにより、医療用ワイヤにより慢性完全閉塞病変部等を貫通する際、医療用ワイヤを、血管内に進入させ、血管内の慢性完全閉塞病変部等に到達させるまでは、第1可撓管体の曲げ剛性を低くしておき、医療用ワイヤを慢性完全閉塞病変部等に突き刺して、医療用ワイヤにより慢性完全閉塞病変部等を貫通するときに、操作ワイヤを後方に引いて第1可撓管体の曲げ剛性を高くし、慢性完全閉塞病変部等の貫通後は、操作ワイヤの操作を解除して第1可撓管体の曲げ剛性を元の低い状態に戻すことができる。したがって、慢性完全閉塞病変部等を貫通するために、曲げ剛性の異なる医療用ワイヤを血管等に対して抜き差しして交換し使い分ける必要を無くすことができる。
以上より、手術時間を短縮させることができる。
【0008】
第2可撓管体が設けられているので、操作ワイヤを後方に引くと、第1可撓管体および第2可撓管体が、圧縮変形しつつ径方向のうちの一方向に曲がることとなり、例えば医療用ワイヤの外径を維持したまま、操作ワイヤに対する操作力と、医療用ワイヤの前端部の曲げ形状と、の関係を容易に調整(設計)すること等ができる。
【0009】
前記第1可撓管体のうち、前端部と後端部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなってもよい。
【0010】
第1可撓管体のうち、前端部と後端部との間に位置する中間部の曲げ剛性が、後方から前方に向かうに従い低くなっているので、操作ワイヤを操作して、医療用ワイヤの前端部のみを特定の向きに精度よく曲げることが可能になり、血管分岐部において血管を選択して医療用ワイヤを目的の血管に容易に進入させることができる。
【0011】
前記第2可撓管体のうち、前端部と後部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなってもよい。
【0012】
第2可撓管体のうち、前端部と後部との間に位置する中間部の曲げ剛性が、後方から前方に向かうに従い低くなっているので、操作ワイヤを操作して、医療用ワイヤの前端部のみを特定の向きに精度よく曲げることができる。
【0013】
前記第1可撓管体および前記第2可撓管体のうちの少なくとも一方は、前後方向に延びるコイルばねとされてもよい。
【0014】
第1可撓管体および第2可撓管体のうちの少なくとも一方が、前後方向に延びるコイルばねとされているので、操作ワイヤを後方に引いたときに、前端部を特定の向きに曲げることが可能な医療用ワイヤを容易に得ることができる。
【0015】
前記支持体の後方に、前記操作ワイヤが固定されるとともに、前記支持体に対して前後方向に移動可能な操作部が設けられてもよい。
【0016】
支持体の後方に、操作ワイヤが固定された操作部が設けられているので、操作ワイヤを直接、操作する場合と比べて、医療用ワイヤの操作性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記態様によれば、手術時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の医療用ワイヤの縦断面図である。
【
図2】第2実施形態の医療用ワイヤの縦断面図である。
【
図3】第3実施形態の医療用ワイヤの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、医療用ワイヤの第1実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
医療用ワイヤ1は、第1可撓管体11と、操作ワイヤ12と、操作部13と、支持体14と、を備えたガイドワイヤとなっている。第1可撓管体11、操作ワイヤ12、操作部13、および支持体14は、例えば金属材料等で形成されている。なお、第1可撓管体11、操作ワイヤ12、操作部13、および支持体14を形成する材質は、適宜変更してもよい。操作部13は設けなくてもよい。
【0020】
操作部13および支持体14は、筒状に形成され、第1可撓管体11の中心軸線O1と同軸に配設されている。
以下、中心軸線O1が延びる方向において支持体14に対して第1可撓管体11が位置している側を前側といい、中心軸線O1が延びる方向において支持体14に対して操作部13が位置している側を後側といい、中心軸線O1が延びる方向を前後方向という。前後方向から見て中心軸線O1に交差する方向を径方向といい、前後方向から見て中心軸線O1回りに周回する方向を周方向という。
【0021】
第1可撓管体11は、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成されている。第1可撓管体11は、前後方向に延びるコイルばねとされている。
第1可撓管体11の外径は、血管内に挿入可能な大きさとなっている(例えば0.2mm以上1.0mm以下)。前後方向から見た第1可撓管体11の外形形状、およびその大きさは、前後方向の全長にわたって同じになっている。第1可撓管体11を形成する線材の直径は、全長にわたって同じになっている。
【0022】
なお、第1可撓管体11を形成する線材の直径は、全長にわたって同じになっていなくてもよく、また、前後方向から見た第1可撓管体11の外形形状、およびその大きさは、前後方向の全長にわたって同じになっていなくてもよい。例えば、第1可撓管体11の外径は、前方に向かうに従い小さくなっていてもよい。第1可撓管体11は、コイルばねに限らず、例えば前後方向および周方向それぞれの全長にわたって連続して延びる周壁からなる管体等であってもよい。
【0023】
支持体14は、第1可撓管体11の後端部に固定されている。支持体14は、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成されている。支持体14の前端開口縁に、第1可撓管体11の後端開口縁が前後方向に突き当てられている。支持体14の前端部と、第1可撓管体11の後端部と、は、例えばはんだ付、ろう付け、接着、若しくは加締め等によって固定されている。
【0024】
図示の例では、例えばはんだ材、ろう材、若しくは接着剤等からなる筒状の中固定部材23が、支持体14の前端開口縁から前方に向けて延びている。中固定部材23の肉厚は、コイルばねである第1可撓管体11を形成する線材の直径と同等になっている。第1可撓管体11の後端開口部が開放された状態で、第1可撓管体11の後端部が中固定部材23に埋設されている。中固定部材23の外周面は、支持体14および第1可撓管体11それぞれの外周面と前後方向に段差なく連なり、中固定部材23の内周面は、支持体14および第1可撓管体11それぞれの内周面と前後方向に段差なく連なっている。
【0025】
支持体14の外径は、第1可撓管体11の外径と同等とされ、血管内に挿入可能な大きさとなっている(例えば0.2mm以上1.0mm以下)。前後方向から見た支持体14の外形形状、およびその大きさは、前後方向の全長にわたって同じになっている。
なお、前後方向から見た支持体14の外形形状、およびその大きさは、前後方向の全長にわたって同じになっていなくてもよい。例えば、支持体14の外径は、前方に向かうに従い小さくなっていてもよい。前後方向から見た支持体14および第1可撓管体11それぞれの外形形状、およびその大きさを、互いに異ならせてもよい。この場合、前後方向から見て、支持体14は、第1可撓管体11の外周面から径方向の外側に張り出していないことが好ましい。
【0026】
操作部13は、支持体14の後方に設けられている。操作部13は、支持体14から後方に突出している。操作部13は、支持体14に対して前後方向に移動可能に設けられている。図示の例では、操作部13の前部内に、支持体14の後端部が挿入されている。
なお、操作部13の前端開口縁と、支持体14の後端開口縁と、が前後方向で対向してもよく、また、支持体14の後端部内に、操作部13の前部が挿入されてもよい。
操作部13に、操作ワイヤ12の後部が、例えばはんだ付、ろう付け、接着、若しくは加締め等によって固定されている。図示の例では、操作部13の後端開口部は、例えばはんだ材、ろう材、若しくは接着剤等からなる後固定部材24により閉塞されており、後固定部材24に操作ワイヤ12の後部が埋設されている。
【0027】
操作ワイヤ12は、前後方向に延びるとともに、第1可撓管体11の内側に挿入されている。操作ワイヤ12は、弾性変形可能に形成されている。操作ワイヤ12の前端部は、中心軸線O1から径方向のうちの一方向に離れた状態で、第1可撓管体11の前端部に、例えばはんだ付、ろう付け、接着、若しくは加締め等によって固定されている。
なお、操作ワイヤ12は、周方向に間隔をあけて複数設けられてもよい。
【0028】
操作ワイヤ12は、前後方向に真直ぐ延びている。なお、操作ワイヤ12は、例えば屈曲等しながら前後方向に延びてもよい。操作ワイヤ12は、第1可撓管体11および支持体14それぞれの内周面上に配置されている。操作ワイヤ12の後部は、支持体14から後方に突出している。操作ワイヤ12の前端部のうち、第1可撓管体11から前方に突出した突出部分12aは、径方向のうちの一方向に折り曲げられて、第1可撓管体11の前端開口縁に係止されている。操作ワイヤ12の突出部分12aは、第1可撓管体11の前端部の外周面に対して、径方向の同じ位置、若しくは径方向の内側に位置している。操作ワイヤ12の先端面は、径方向のうちの一方向を向いている。
【0029】
図示の例では、第1可撓管体11の前端開口部が、例えばはんだ材、ろう材、若しくは接着剤等からなる前固定部材25により閉塞されている。前固定部材25の外周面は、第1可撓管体11の外周面と前後方向に段差なく連なっている。前固定部材25に、操作ワイヤ12のうち、突出部分12aを含む前端部が埋設されている。
【0030】
第1可撓管体11のうち、前端部(前固定部材25)と後端部(中固定部材23)との間に位置する中間部11aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている。
図示の例では、第1可撓管体11は、曲げ剛性の高い第1硬管部22と、第1硬管部22より曲げ剛性が低く、かつ第1硬管部22を前後方向に挟む一対の第1軟管部21と、を備えている。一対の第1軟管部21のうち、前側に位置する第1軟管部21の巻き数は、後側に位置する第1軟管部21の巻き数より多くなっている。なお、前者の巻き数を、後者の巻き数以下としてもよい。
【0031】
第1軟管部21は、第1硬管部22と比べて、前後方向で互いに隣り合う線材同士の間隔(線間隙間)が広くなるように形成されている。これにより、第1軟管部21の曲げ剛性は、第1硬管部22の曲げ剛性より小さくなっており、屈曲した血管に追従して柔軟に曲がる。
図示の例では、第1硬管部22において前後方向で互いに隣り合う線材同士は互いに当接している。つまり、第1硬管部22は、密巻きのコイルばねとされている。これにより、第1可撓管体11の中間部11aにおいて、第1硬管部22は、第1軟管部21の曲げ変形に追従して柔軟に曲がることができる。
【0032】
一対の第1軟管部21のうち、前側に位置する第1軟管部21の前部が、前固定部材25に接合、若しくは接着され、この第1軟管部21の後部は、前固定部材25と中固定部材23との間に位置している。一対の第1軟管部21のうち、後側に位置する第1軟管部21は、全域にわたって中固定部材23に接合、若しくは接着されている。
したがって、第1可撓管体11のうち、前固定部材25と中固定部材23との間に位置する中間部11aは、第1硬管部22の全体と、一対の第1軟管部21のうち、前側に位置する第1軟管部21の後部と、により構成されている。これにより、第1可撓管体11の中間部11aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い段階的に低くなっている。なお、第1可撓管体11の中間部11aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い線形的に低くなってもよい。
図示の例では、第1硬管部22の前後方向の長さは、一対の第1軟管部21のうち、前側に位置する第1軟管部21の後部の前後方向の長さより長くなっている。なお、前者の長さを後者の長さ以下としてもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態による医療用ワイヤ1によれば、操作ワイヤ12の前端部が、第1可撓管体11の中心軸線O1から径方向のうちの一方向に離れた状態で、第1可撓管体11の前端部に固定されているので、操作ワイヤ12を後方に引くと、第1可撓管体11が、圧縮変形しつつ径方向のうちの一方向に曲がることとなり、操作ワイヤ12を操作して、医療用ワイヤ1の前端部を所望の向きに曲げながら、血管分岐部において血管を選択して医療用ワイヤ1を目的の血管に進入させることができる。これにより、医療用ワイヤ1を血管に沿わせながら慢性完全閉塞病変部等に到達させる際の、医師の操作感覚に対する依存を低減することができるとともに、医療用ワイヤを血管に対して抜き差して、体外で医療用ワイヤの前端部の曲率を微調整する必要を無くすことができる。
【0034】
さらに、操作ワイヤ12を後方に引き切ると、操作ワイヤ12および第1可撓管体11それぞれの前端部が後方に移動して、第1可撓管体11が支持体14との間で前後方向に圧縮変形することで、第1可撓管体11の曲げ剛性が高くなる。したがって、医療用ワイヤ1を血管内に挿入した状態で、操作ワイヤ12を操作することで、第1可撓管体11の曲げ剛性を変化させることができる。
【0035】
これにより、医療用ワイヤ1により慢性完全閉塞病変部等を貫通する際、医療用ワイヤ1を、血管内に進入させ、血管内の慢性完全閉塞病変部等に到達させるまでは、第1可撓管体11の曲げ剛性を低くしておき、医療用ワイヤ1を慢性完全閉塞病変部等に突き刺して、医療用ワイヤ1により慢性完全閉塞病変部等を貫通するときに、操作ワイヤ12を後方に引き切って第1可撓管体11の曲げ剛性を高くし、慢性完全閉塞病変部等の貫通後は、操作ワイヤ12の操作を解除して第1可撓管体11の曲げ剛性を元の低い状態に戻すことができる。したがって、慢性完全閉塞病変部等を貫通するために、曲げ剛性の異なる医療用ワイヤを血管等に対して抜き差しして交換し使い分ける必要を無くすことができる。
【0036】
以上より、手術時間を短縮させることができる。
【0037】
第1可撓管体11のうち、前端部(前固定部材25)と後端部(中固定部材23)との間に位置する中間部11aの曲げ剛性が、後方から前方に向かうに従い低くなっているので、操作ワイヤ12を操作して、医療用ワイヤ1の前端部を所望の向きに精度よく曲げることが可能になり、血管分岐部において血管を選択して医療用ワイヤ1を目的の血管に容易に進入させることができる。
【0038】
支持体14の後方に、操作ワイヤ12が固定された操作部13が設けられているので、操作ワイヤ12を直接、操作する場合と比べて、医療用ワイヤ1の操作性を向上させることができる。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態に係る医療用ワイヤ2を、
図2を参照しながら説明する。
なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0040】
本実施形態の医療用ワイヤ2では、第1可撓管体11の内側に、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第2可撓管体15が挿入されている。第2可撓管体15の前端部は、第1可撓管体11、および操作ワイヤ12それぞれの前端部のうちの少なくとも一方に固定され、第2可撓管体15のうち、前端部より後方に位置する後部は、支持体14、および第1可撓管体11の後端部のうちの少なくとも一方に固定されている。
第2可撓管体15は、第1可撓管体11から前後方向の両方向に突出している。なお、第2可撓管体15は、第1可撓管体11から前後方向に突出していなくてもよい。
【0041】
第1可撓管体11および第2可撓管体15のうちの少なくとも一方は、前後方向に延びるコイルばねとされている。図示の例では、第1可撓管体11および第2可撓管体15の双方が、前後方向に延びるコイルばねとされている。第1可撓管体11および第2可撓管体15それぞれの巻方向は、互いに逆向きとなっている。
なお、第1可撓管体11および第2可撓管体15それぞれの巻方向は、互いに同じ向きであってもよい。第1可撓管体11および第2可撓管体15のうちのいずれか一方は、コイルばねに限らず、例えば前後方向および周方向それぞれの全長にわたって連続して延びる周壁からなる管体等であってもよい。
【0042】
第2可撓管体15のうち、前端部(前固定部材25)と後部(中固定部材23)との間に位置する中間部15aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている。
図示の例では、第2可撓管体15は、曲げ剛性の低い第2軟管部31と、第2軟管部31より曲げ剛性が高い第2硬管部32と、が前方から後方に向けてこの順に連ねられて構成されている。第2軟管部31が、第1可撓管体11から前方に突出し、第2硬管部32が、第1可撓管体11から後方に突出している。第2軟管部31の前後方向の長さは、第2硬管部32の前後方向の長さよりわずかに短くなっている。
【0043】
第2軟管部31は、第2硬管部32と比べて、前後方向で互いに隣り合う線材同士の間隔(線間隙間)が広くなるように形成されている。これにより、第2軟管部31の曲げ剛性は、第2硬管部32の曲げ剛性より小さくなっており、屈曲した血管に追従して柔軟に曲がる。
図示の例では、第2硬管部32において前後方向で互いに隣り合う線材同士は互いに当接している。つまり、第2硬管部32は、密巻きのコイルばねとされている。これにより、第2可撓管体15の中間部15aにおいて、第2硬管部32は、第2軟管部31の曲げ変形に追従して柔軟に曲がることができる。
【0044】
第2軟管部31の前部が、前固定部材25に接合、若しくは接着されている。これにより、第2可撓管体15の前端部が、第1可撓管体11、および操作ワイヤ12それぞれの前端部に、前固定部材25を介して固定されている。第2軟管部31の後部は、前固定部材25と中固定部材23との間に位置している。
第2硬管部32のうち、第1可撓管体11内に位置する前端部と、支持体14内に位置する後端部と、の間に位置する部分の外周面に、中固定部材23が接合、若しくは接着されている。これにより、第2可撓管体15のうち、前端部より後方に位置する後部が、支持体14、および第1可撓管体11の後端部に中固定部材23を介して固定されている。図示の例では、中固定部材23が、第2硬管部32内を閉塞しておらず、支持体14内が、第2硬管部32内を通して第2軟管部31の後部内に連通している。
【0045】
第2可撓管体15のうち、前固定部材25と中固定部材23との間に位置する中間部15aは、第2軟管部31の後部と、第2硬管部32の前端部と、により構成されている。これにより、第2可撓管体15の中間部15aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い段階的に低くなっている。なお、第2可撓管体15の中間部15aの曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い線形的に低くなってもよい。
図示の例では、第2軟管部31の後部の前後方向の長さは、第2硬管部32の前端部の前後方向の長さより長くなっている。なお、前者の長さを後者の長さ以下としてもよい。第2軟管部31の後部は、第1可撓管体11の中間部11a内において、第1硬管部22と、一対の第1軟管部21のうち、前側に位置する第1軟管部21と、の境界部分を前後方向に跨いでいる。
【0046】
第2可撓管体15の内側に、操作ワイヤ12が挿入されている。第2可撓管体15の中心軸線O2、および操作ワイヤ12の前端部は、第1可撓管体11の中心軸線O1から径方向のうちの一方向に離れている。
操作ワイヤ12の前端部は、第2可撓管体15の中心軸線O2から径方向のうちの一方向に離れた状態で、第2可撓管体15の前端部に、例えばはんだ付、ろう付け、接着、若しくは加締め等によって固定されている。操作ワイヤ12は、第2可撓管体15の内周面上に配置されている。
【0047】
操作ワイヤ12の前端部のうち、第2可撓管体15から前方に突出した突出部分12aは、径方向のうちの一方向に折り曲げられて、第2可撓管体15の前端開口縁に係止されている。操作ワイヤ12の突出部分12aは、第1可撓管体11の前端部の外周面に対して、径方向の同じ位置、若しくは径方向の内側に位置している。操作ワイヤ12の突出部分12aは、第1可撓管体11の前端開口縁に対して前方に離れ、かつ前後方向に対向している。操作ワイヤ12の突出部分12aと、第1可撓管体11の前端開口縁と、の間にも、前固定部材25が充填されており、操作ワイヤ12のうち、突出部分12aを含む前端部が、前固定部材25に埋設されている。操作ワイヤ12の先端面は、径方向のうちの一方向を向いている。
【0048】
以上説明したように、本実施形態による医療用ワイヤ2においても、
図1に示される医療用ワイヤ1と同様の作用効果を有する。
【0049】
第2可撓管体15が設けられているので、操作ワイヤ12を後方に引くと、第1可撓管体11および第2可撓管体15が、圧縮変形しつつ径方向のうちの一方向に曲がることとなり、例えば医療用ワイヤ2の外径を維持したまま、操作ワイヤ12に対する操作力と、医療用ワイヤ2の前端部の曲げ形状と、の関係を容易に調整(設計)すること等ができる。
【0050】
第2可撓管体15のうち、前端部(前固定部材25)と後部(中固定部材23)との間に位置する中間部15aの曲げ剛性が、後方から前方に向かうに従い低くなっているので、操作ワイヤ12を操作して、医療用ワイヤ2の前端部を所望の向きに精度よく曲げることができる。
【0051】
第1可撓管体11および第2可撓管体15のうちの少なくとも一方が、前後方向に延びるコイルばねとされているので、操作ワイヤ12を後方に引いたときに、前端部を所望の向きに曲げることが可能な医療用ワイヤ2を容易に得ることができる。
【0052】
次に、本発明の第3実施形態に係る医療用ワイヤ3を、
図3を参照しながら説明する。
なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0053】
本実施形態の医療用ワイヤ3では、操作ワイヤ12の前端部のうち、第2可撓管体15から前方に突出した突出部分12aが、径方向のうちの一方向に折り曲げられつつ、後方に折り返されて、第2可撓管体15の前端開口縁に係止されている。第2可撓管体15の前端部における周方向の一部が、操作ワイヤ12の前端部により径方向に挟まれている。操作ワイヤ12の先端面は、後方を向いている。操作ワイヤ12の先端面は、第1可撓管体11の前端開口縁に当接、若しくは近接している。
【0054】
以上説明したように、本実施形態による医療用ワイヤ3においても、
図2に示される医療用ワイヤ2と同様の作用効果を有する。
【0055】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0056】
例えば、中間部11a、15aの曲げ剛性を、前後方向の全長にわたって同じにしてもよい。
【0057】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した実施形態、および変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
本発明の態様は、例えば以下の通りである。
<1>
前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第1可撓管体と、
前後方向に延びるとともに、前記第1可撓管体の内側に挿入された操作ワイヤと、
前記第1可撓管体の後端部に固定された支持体と、を備え、
前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れた状態で、前記第1可撓管体の前端部に固定されている、医療用ワイヤ。
<2>
前記第1可撓管体のうち、前端部と後端部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている、前記<1>に記載の医療用ワイヤ。
<3>
前記第1可撓管体の内側には、前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第2可撓管体が挿入され、
前記第2可撓管体の内側に、前記操作ワイヤが挿入され、
前記第2可撓管体の中心軸線、および前記操作ワイヤの前端部は、前記第1可撓管体の中心軸線から径方向のうちの一方向に離れ、
前記第2可撓管体の前端部は、前記第1可撓管体、および前記操作ワイヤそれぞれの前端部のうちの少なくとも一方に固定され、
前記第2可撓管体のうち、前端部より後方に位置する後部は、前記支持体、および前記第1可撓管体の後端部のうちの少なくとも一方に固定されている、前記<1>または<2>に記載の医療用ワイヤ。
<4>
前記第2可撓管体のうち、前端部と後部との間に位置する中間部の曲げ剛性は、後方から前方に向かうに従い低くなっている、前記<3>に記載の医療用ワイヤ。
<5>
前記第1可撓管体および前記第2可撓管体のうちの少なくとも一方は、前後方向に延びるコイルばねとされている、前記<3>または<4>に記載の医療用ワイヤ。
<6>
前記支持体の後方に、前記操作ワイヤが固定されるとともに、前記支持体に対して前後方向に移動可能な操作部が設けられている、前記<1>から<5>のいずれか1つに記載の医療用ワイヤ。
【符号の説明】
【0059】
1、2、3 医療用ワイヤ
11 第1可撓管体
11a 第1可撓管体の中間部
12 操作ワイヤ
13 操作部
14 支持体
15 第2可撓管体
15a 第2可撓管体の中間部
O1 第1可撓管体の中心軸線
O2 第2可撓管体の中心軸線
【要約】
【課題】手術時間を短縮させる。
【解決手段】前後方向に延びるとともに、曲げ変形可能に形成された第1可撓管体11と、前後方向に延びるとともに、第1可撓管体11の内側に挿入された操作ワイヤ12と、第1可撓管体11の後端部に固定された支持体14と、を備え、操作ワイヤ12の前端部は、第1可撓管体11の中心軸線O1から径方向のうちの一方向に離れた状態で、第1可撓管体11の前端部に固定されている。
【選択図】
図1