(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】増殖ブランケット
(51)【国際特許分類】
G21B 1/13 20060101AFI20240208BHJP
H05H 1/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G21B1/13
H05H1/16
(21)【出願番号】P 2023529968
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2021082283
(87)【国際公開番号】W WO2022106609
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-07-12
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】デービス、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ミドルバーグ、 サイモン
(72)【発明者】
【氏名】アストベリー、 ジャック
(72)【発明者】
【氏名】カマル、 ガーディープ
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-008295(JP,A)
【文献】米国特許第03969631(US,A)
【文献】特開昭63-044198(JP,A)
【文献】Satoshi Chiba et al.,Method to Reduce Long-lived Fission Products by Nuclear Transmutations with Fast Spectrum Reactors,Scientific Reports,2017年,7:13961,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 1/00-3/00
H05H 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核融合炉内に閉じ込められたプラズマ内での重水素及び/又はトリチウムの核融合によって生成される中性子を使用してトリチウムを生成するための増殖ブランケットであって、
プラズマに面する第一壁と、
前記中性子からトリチウムを生成するためのリチウム含有材料を含み、前記リチウム含有材料は、液体リチウム金属もしくは液体リチウム合金、又は溶融塩の形態で提供される、増殖層と、
(i)前記第一壁と前記
増殖層との間に配置された
又は(ii)前記増殖層内に設けられた、水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムを含む中性子減速材料と
を含む増殖ブランケット。
【請求項2】
前記中性子減速材料は、前記第一壁と前記増殖層との間に配置された中性子減速層として設けられている、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項3】
前記中性子減速層は、前記中性子減速層に入る前に14MeVのエネルギーを有する中性子のうちの60%を超える中性子を透過させるように構成されている、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項4】
前記中性子減速層は、前記中性子減速層に入る前に14MeVのエネルギーを有する中性子のうちの少なくともある割合の透過した中性子のエネルギーを、95%を超えて減少させるように構成されている、請求項2又は3に記載の増殖ブランケット。
【請求項5】
前記割合は25%より大きい、請求項4に記載の増殖ブランケット。
【請求項6】
前記中性子減速層の厚さは0.5cmから25cmである、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項7】
前記増殖層の厚さは1cmから200cmである、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項8】
前記第一壁と前記中性子減速層との間に他の増殖層が設けられていない、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項9】
水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムを含む他の中性子減速層を含み、前記増殖層は前記中性子減速層
と前記他の中性子減速層との間に配置されている、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項10】
前記他の中性子減速層は、前記第一壁と前記増殖層との間の中性子減速層よりも多くの中性子を反射するように構成されている、請求項9に記載の増殖ブランケット。
【請求項11】
前記他の中性子減速層は前記中性子減速層よりも厚い、請求項9に記載の増殖ブランケット。
【請求項12】
前記中性子からトリチウムを生成するためのリチウム含有材料を含む他の増殖層を含み、前記他の中性子減速層は前記増殖層
と前記他の増殖層との間に配置されている、請求項9に記載の増殖ブランケット。
【請求項13】
前記増殖層と前記中性子減速層は、1つ以上の金属層によって互いに分離されている、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項14】
前記中性子減速材料は前記増殖層内に設けられ、前記中性子減速材料は、前記増殖層内の前記リチウム含有材料から1つ以上の金属層によって分離されている、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項15】
前記増殖層は前記中性子減速材料を含む複数のペレットを含み、前記ペレットは前記リチウム含有材料内に分散されている、請求項14に記載の増殖ブランケット。
【請求項16】
前記増殖層は前記中性子減速材料を含む複数のロッドを含む、請求項14に記載の増殖ブランケット。
【請求項17】
各ロッドは、前記第一壁に実質的に平行に配置された長手方向軸を有する、請求項16に記載の増殖ブランケット。
【請求項18】
前記長手方向軸は垂直に配置されている、請求項17に記載の増殖ブランケット。
【請求項19】
前記増殖層内の定位置に前記ロッドのそれぞれを保持するための解放可能な固定具を含み、前記固定具は、前記ロッドを前記増殖層から取り外し、前記増殖層内で交換できるように構成されている、請求項16に記載の増殖ブランケット。
【請求項20】
前記増殖層は、第2の領域よりも前記第一壁の近くに位置する第1の領域を含み、前記第1の領域のロッドは、前記第2の領域のロッドよりも互いに接近して離間されている、請求項16に記載の増殖ブランケット。
【請求項21】
前記水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウム中のイットリウム原子の水素原子又は重水素原子に対する比は1.0から2.0である、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項22】
リチウム6である前記リチウム含有材料中のリチウムの割合は7.6%より大きい、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項23】
中性子増倍材をさらに含む、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項24】
請求項1に記載の1つ以上の増殖ブランケットを含む核融合炉。
【請求項25】
前記核融合炉はトカマクである、請求項24に記載の核融合炉。
【請求項26】
前記トカマクは球状トカマクである、請求項25に記載の核融合炉。
【請求項27】
前記トカマクは2.5以下のアスペクト比を有する球状トカマクであり、前記アスペクト比は前記トカマクのトロイダルプラズマ閉じ込め領域の長半径と短半径の比として定義される、請求項26に記載の核融合炉。
【請求項28】
請求項24に記載の核融合炉を運転する方法であって、1つ以上の増殖ブランケットと、前記核融合炉内での重水素及び/又はトリチウムの核融合によって生成された中性子とを使用してトリチウムを生成することと、生成されたトリチウムを前記核融合炉内に閉じ込められたプラズマに導入することとを含む方法。
【請求項29】
同位体製造、材料試験、核廃棄物の変換、及び核融合炉によって生成される中性子束の監視のうちの1つ以上を実施するために、前記中性子減速材料によって減速された中性子を使用して、前記増殖ブランケット内に提供された1つ以上の試験片を照射することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合炉、例えばトカマク核融合炉においてトリチウムを生成するための増殖ブランケットに関する。
【背景技術】
【0002】
核融合発電の課題は非常に複雑である。核融合中性子は、重水素-三重水素(D-T)プラズマ又は重水素-重水素(D-D)プラズマが非常に高温になり、原子核が融合して高エネルギーの中性子が放出されるときに生成される。例えば、重水素と三重水素の核融合によって生成される17.6MeVのエネルギーの約80%は、放出された中性子によって得られる(4倍重い質量を有するアルファ粒子副産物とは対照的に)。この反応は次の式にまとめられる。
【数1】
【0003】
重水素は容易に入手できるが、トリチウムは放射性物質(12.3年の半減期を有する)であり、地球上には容易に抽出できるトリチウム源が存在しないため、核融合炉に必要な量を入手するのは困難である。そのため、一部の核融合炉の設計は、原子炉の運転時に生成される高エネルギーの中性子を使用して原子炉内でトリチウムを生成又は「増殖」することを目的としている。あるアプローチでは、リチウム原子核の中性子放射化を使用して、以下の核反応に従ってトリチウムを生成する。
【数2】
【0004】
リチウムは一般に、原子炉の内壁に設置されたいわゆる「増殖ブランケット」の内部に含まれている。リチウムは、金属(又は合金)として、又はリチウム含有化合物、例えば、Li2O、LiAlO2、Li2ZrO3、Li4SiO4などのリチウム含有セラミック材料として提供され得る。一般に、システムからの中性子の漏れに対抗し、ブランケットのトリチウム増殖比(TBR)(すなわち、原子炉で生成される核融合中性子ごとに生成されるトリチウム核の平均数)を改善するために、中性子増倍材(例えば、リチウムと合金化された鉛)を追加して追加の中性子集団を提供する。ベリリウム、鉛、錫などの金属が、(n,2n)反応による中性子増倍材として提案されている。溶融塩材料が、Li2F-BeF2などのトリチウム増殖材として提案されている。
【0005】
今日まで、核融合を行う最も有望な方法は、トカマクを用いて重水素とトリチウム核を磁気的に閉じ込めることである。従来のトカマクの核融合へのアプローチ(国際熱核融合実験炉ITERによって具体化される)では、このプロセスを最適化するために、プラズマは長い閉じ込め時間、高温、高密度を有する必要がある。トカマクは、核融合が起こり得るように高温で安定したプラズマを提供するために、強力なトロイダル磁場BTと、高いプラズマ電流Ipと、通常は大きなプラズマ体積及びかなりの補助加熱との組み合わせを特徴とする。補助加熱(例えば、高エネルギーのH、D又はTの数十メガワットの中性ビーム入射による)は、核融合が起こるのに必要な十分に高い値まで温度を上昇させるため及び/又はプラズマ電流を維持するために必要である。
【0006】
トカマク炉を可能な限りコンパクトにすることを確実にすることにより、特にトーラスの内半径が最小限に抑えられる「球状トカマク」の場合、より高い効率が可能になる。例えば、プラズマと磁場コイルとの間の距離を最小限に抑えることにより、プラズマ内のより高い磁場とコイル内のより低い電流が可能になる。しかしながら、コンパクトなトカマクには、より大きな設計に比べて、実用的な核融合炉を実現するために克服する必要がある多くの追加の課題がある。例えば、小さい(例えば球状の)トカマクの表面積対体積比は一般に、大きいトカマクの表面積対体積比よりもはるかに小さい。トリチウム増殖比(TBR)はトカマクの第一壁の表面積を通る中性子束によって決まるため、球状トカマクのこの特徴的な特徴は、トリチウムの増殖に課題をもたらしている。一般に、球状トカマクは、物理的なサイズの縮小により従来の大規模なITERのような装置に比べてトリチウムの増殖専用の表面積が小さくなるが、中心柱内の増殖「スペース」も失われる。あらゆる核融合装置内で実行可能な増殖システムを作成して核融合装置内のトリチウムの損失、トリチウムを抽出できる効率、及び放射性崩壊による損失を補償するために、TBRは通常1.05より大きくなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、核融合炉内に閉じ込められたプラズマ内での重水素及び/又はトリチウムの核融合によって生成される中性子を使用してトリチウムを生成するための増殖ブランケットが提供される。増殖ブランケットは、プラズマに面する第一壁と、中性子からトリチウムを生成するためのリチウム含有材料を含む増殖層と、第一壁とリチウム含有材料との間に配置された金属水素化物及び/又は金属重水素化物を含む中性子減速材料を含む。
【0008】
中性子減速材料は、第一壁と増殖層との間に配置された中性子減速層として提供することができる。
【0009】
中性子減速材料は、プラズマから生成される中性子のエネルギーを減少させ、リチウム含有材料内のリチウム6原子核による中性子捕獲を容易にする。
【0010】
中性子減速層は、中性子減速層に入る前に14MeVのエネルギーを有する中性子のうちの60%を超える中性子、好ましくは80%を超える中性子、より好ましくは95%を超える中性子を透過させるように構成することができる。
【0011】
中性子減速層は、中性子減速層に入る前に14MeVのエネルギーを有する中性子のうちの少なくともある割合の透過した中性子のエネルギーを、95%を超えて、好ましくは99%を超えて減少させるように構成することができる。割合は、10%より大きく、好ましくは50%より大きく、より好ましくは70%より大きいことができる。
【0012】
中性子減速層の厚さは、0.5cmから25cm、好ましくは2cmから15cmであり得る。
【0013】
増殖層の厚さは1cmから200cm、好ましくは5cmから150cmであり得る。
【0014】
いくつかの実施例では、第一壁と中性子減速層との間に増殖層が設けられていない。
【0015】
増殖ブランケットはさらに、金属水素化物及び/又は金属重水素化物を含む他の中性子減速層を含み、増殖層は中性子減速層の間に配置されることができる。他の中性子減速層は、第一壁と増殖層との間の中性子減速層よりも多くの中性子を反射するように構成することができる。他の中性子減速層は中性子減速層よりも厚いことができる。
【0016】
増殖ブランケットは、中性子からトリチウムを生成するためのリチウム含有材料を含む他の増殖層を含み、他の中性子減速層は増殖層の間に配置されることができる。
【0017】
増殖層及び中性子減速層は、1つ以上の金属層によって互いに分離され得る。
【0018】
代替的に又は追加的に、中性子減速材料は増殖層内に設けることができ、中性子減速材料は、増殖層内のリチウム含有材料から1つ以上の金属層によって分離される。例えば、増殖層は中性子減速材料を含む複数のペレットを含み、ペレットはリチウム含有材内に分散されることができる。
【0019】
中性子減速材料が増殖層内に設けられる別の実施例として、増殖層は中性子減速材料を含む複数のロッドを含み、各ロッドは、好ましくは第一壁に実質的に平行に配置された長手方向軸を有することができる。長手方向軸は、好ましくは垂直に配置されている。増殖ブランケットは、増殖層内の定位置にロッドのそれぞれを保持するための固定具を含むことができ、固定具は、ロッドを増殖層から取り外し、増殖層内で交換できるように構成されている。増殖層は、第2の領域よりも第一壁の近くに位置する第1の領域を含むことができ、第1の領域のロッドは、第2の領域のロッドよりも互いに接近して離間されている。
【0020】
金属水素化物及び/又は金属重水素化物中の金属原子の水素原子及び/又は重水素原子に対する比は0.5から5.5、好ましくは1.0から2.0であり得る。
【0021】
金属水素化物及び/又は金属重水素化物は、水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムであり得、又は水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムを含み得る。
【0022】
リチウム6であるリチウム含有材料中のリチウムの割合は7.6%より大きく、好ましくは20%より大きく、より好ましくは50%より大きいことができる。
【0023】
リチウム含有材料は、リチウム金属、リチウムを含む合金、及び/又はリチウムを含むセラミック材料のうちの1つ以上を含むことができる。
【0024】
増殖ブランケットは、ベリリウム、鉛、錫及び/又はウランなどの中性子増倍材を含むことができる。いくつかの例では、増殖ブランケットは、フッ化リチウム及びフッ化ベリリウムを含む溶融塩、Li2F-BeF2などのリチウムと中性子増倍材の両方を含む溶融塩を含むことができる。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による1つ以上の増殖ブランケットを含む核融合炉が提供される。核融合炉は、トカマク核融合炉であり得る。トカマクは球状トカマク、好ましくは2.5以下のアスペクト比を有する球状トカマクであることができ、アスペクト比は、トカマクのトロイダルプラズマ閉じ込め領域の長半径と短半径の比として定義される。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様による核融合炉を運転する方法が提供される。この方法は、1つ以上の増殖ブランケットと、核融合炉内での重水素及び/又はトリチウムの核融合によって生成された中性子とを使用してトリチウムを生成することと、生成されたトリチウムを核融合炉内に閉じ込められたプラズマに導入することとを含む。
【0027】
核融合炉の増殖ブランケットゾーンは高中性子束を受け取るため、同位体製造、核融合産業のための材料監視プログラム、及び診断に中性子束を利用するために、増殖ブランケットの代替使用及び/又はコジェネレーション使用を実施することができる。したがって、方法は、同位体製造(例えば医療用放射性同位体製造)、材料試験、核廃棄物の変換、及び核融合炉によって生成される中性子束の監視のうちの1つ以上を実施するために、中性子減速材料によって減速された中性子を使用して、増殖ブランケット内に提供された1つ以上の試験片を照射することをさらに含むことができる。例えば、方法は、試験片を増殖ブランケットに挿入し、中性子増殖ブランケットによって減速された中性子を使用して試験片を照射することと、試験片を増殖ブランケットから除去することとを含むことができる。試験片は、試験片に対する中性子の影響を特定するために、照射中及び/又は照射後に(及び好ましくは照射前も)分析され得る。これらのステップを何度も繰り返して、繰り返しの照射によって生じる試験片の変化を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態によるトカマクの概略垂直断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による増殖ブランケットの概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による増殖ブランケットの概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による増殖ブランケットの概略断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による増殖ブランケットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の目的は、上記の問題に対処するか又は上記の問題を少なくとも緩和する核融合炉用の増殖ブランケットを提供することである。
【0030】
リチウムを含む増殖ブランケットのトリチウム(3T)増殖比は、リチウムの様々な同位体に対する中性子吸収断面積のエネルギー依存性の結果として、増殖ブランケットに入る中性子のエネルギーに強く依存する。6Li(リチウム6)の場合、中性子吸収断面積は(主に)中性子エネルギーに反比例する。すなわち、中性子エネルギーが低いほど、6Liの中性子放射化の可能性が高くなり、したがってトリチウムが生成される可能性が高くなる。例えば、6Liの中性子吸収断面積は、約10-5MeVと約10-6MeVの中性子エネルギーに対してそれぞれ100バーンと1000バーンのオーダーであるが、約10MeVの中性子エネルギーに対しては約0.05バーンである。対照的に、7Liの中性子吸収断面積は、約10MeVを超える中性子エネルギーに対しては6Liの約2.5倍大きいが、1MeV未満の中性子エネルギーに対しては無視できる。したがって、増殖ブランケットのトリチウム増殖比は、入射中性子のエネルギー、中性子束、リチウム含有材料の体積にだけでなく、リチウム含有材料中のリチウム6とリチウム7の比率にも依存する。天然に存在するリチウムは、92.5%の7Liとわずか7.5%の6Liとを含む。そのため、多くの場合、「高速」(すなわち1MeVを超えるエネルギー)中性子を生成する核融合炉は、主に7Liの中性子放射化によって実現可能なトリチウム増殖比を得るために、比較的大量のリチウム含有物質を必要とする可能性がある。しかしながら、このアプローチは、よりスペース効率の高い設計を必要としかつ磁石を保護するための放射線遮蔽の必要性のために中心柱領域に増殖ブランケットのスペースがないコンパクトな(例えば球状の)トカマクでは実用的ではない可能性がある。したがって、通常、外部増殖ブランケットが、球状トカマク内でトリチウムを生成するために使用される。
【0031】
本開示では、水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムなどの金属水素化物及び/又は金属重水素化物を含む中性子減速層を有する増殖ブランケットの使用により、トリチウム及び/又は重水素の核融合反応によって生成される中性子のエネルギーを低減し、それによって減速層の後に提供される6Liからのトリチウム生成速度を増加させることにより、より好ましいトリチウム増殖比を得ることを提案する。金属水素化物及び金属重水素化物は非常に有効な中性子減速材である(すなわち、単位体積あたりの減速力が高い)ため、減速層の厚さを小さく保つことができる。非常に低い中性子エネルギーで6Liからトリチウムを生成するための高い断面積により、トリチウム増殖比を実質的に低下させることなく、リチウム含有層の厚さも小さく保つことができる。したがって、増殖ブランケットは、TBR>1.05を達成するために、コンパクトな(例えば球状の)核融合炉で効果的に使用することができる。
【0032】
図1は、軸A-A’に沿って配向された中心柱104の周りに配置された複数のD字形TFコイル103A、103B(
図1にはそのうちの2つのみを示す)から形成されたトロイダル磁場(TF)磁石102と、それぞれが中心柱104を取り囲む複数のポロイダル磁場(PF)磁石105A~105Fとを含む球状トカマク100の垂直断面を示す。TF磁石103A、103B及びPF磁石105A~105Fに印加される電流は、トカマクの使用中にトロイダル真空容器108の内部で高温プラズマ107を閉じ込め、成形し、制御する閉磁場を生成する。真空容器108の内面には、プラズマに面するセグメント又はタイル(図示せず)から形成されたいわゆる「ブランケット」109が設けられている。ブランケットのセグメントは、一般に、内面の曲率に従うように構成され、例えばハニカム構造に配置され得る。
【0033】
図2は、ブランケット109を形成するために使用される例示的な多層ブランケットタイル200の断面図を示す。ブランケットタイル200は、プラズマに面する第一壁201と、中性子減速層202と、中間金属(例えば鋼)層203と、リチウム含有「増殖」層204(例えば溶融塩の形態の鉛、錫、ベリリウムなどの中性子増倍材を含み得る)と、中性子遮蔽材205とを含む。ブランケットタイル200は一般に、そこから熱を抽出できるようにするために冷却流路又は冷却管、又はヒートシンク層(図示せず)も含む。ブランケットタイル200の様々な層が単一のタイル内に提供されるように示されているが、1つ以上の層を含む別個のタイルを使用することもでき、これらのタイルはブランケットタイル100について示される順序で互いの上に積み重ねられる。いくつかの実施例では、層のそれぞれに対して別個のタイルがあり、これらのタイルは
図2に示す多層配置を提供するように積み重ねられた配置で提供され得る。別の実施例では、中性子減速層202と、中間金属層203と、リチウム含有層204とが多層タイルとして一緒に提供され、第一壁201と中性子遮蔽材205とが別々に提供され得る。
【0034】
トカマク100が動作すると、プラズマ107から逃げた中性子206が第一壁201に衝突し、第一壁201を通ってブランケット200の他の層に入り込む。第一壁201は、高温プラズマ107とトカマク100の残りの部分との間の物理的境界を提供し、トロイダル真空容器109の熱及び核遮蔽として機能する。この実施例では、第一壁201は銅ヒートシンクに結合されたタングステン金属の層を含むが、当技術分野で知られているように、タングステンに加えて又はタングステンの代わりにベリリウム又はモリブデンなどの他の第一壁材料を使用することができる。
【0035】
第一壁201を貫通した中性子206は中性子減速層202に入り、中性子減速層202は、中性子206のエネルギーを減速(すなわち減少)させるが、好ましくは中性子の大部分を吸収(又は反射)しない。例えば、中性子減速層202は、減速層202を通過する中性子の数を20%未満、好ましくは40%未満減少させる(すなわち吸収又は反射によって減衰させる)ことができる。中性子減速層202は、金属水素化物及び/又は金属重水素化物の形態の中性子減速材料を含み、この場合は水素化イットリウムである。金属水素化物は、高密度の陽子(水素原子核)を提供するため特に有効な中性子減速材料であり、陽子と中性子の質量がほぼ同じであるため弾性散乱によって運動エネルギーを中性子から効率的に除去することができる。結果として、中性子減速層202は、依然として中性子の大部分を散乱させることを可能にしながら比較的薄くすることができる。減速層202は、単位体積あたりの減速対反射比及び減速対吸収比を最大にするように構成されている。この実施例では、中性子減速層202は厚さ10cmである。しかしながら、より一般的には、中性子減速層202の厚さは、0.5cmから25cm、又は2cmから15cmであることができ、一方で依然として第一壁201を通過する中性子206を効果的に減速し(それにより、リチウム含有層204内のトリチウム増殖の速度が増加する)、中性子の大部分をプラズマ107に向かって反射することはない。中性子減速層202は、ブランケットタイル200に入射する中性子206の一部を必然的に反射するが、中性子206の大部分は透過し、すなわち、減速層202は、反射モードではなく、中性子が(減速されたエネルギースペクトルで)透過される透過モードで動作するように構成されている。中性子減速層202の厚さは、例えば、減速層206から出る中性子206の平均エネルギーの減少によって特徴付けられる、減速される中性子206の割合及び/又は中性子206のエネルギースペクトルにおける減速の程度を増加させるために増加させることができる。金属水素化物及び/又は金属重水素化物の組成を変化させて、減速を調整することもできる。例えば、金属水素化物及び/又は金属重水素化物の化学量論的組成は、材料のプロトン密度を増加又は減少させるために、後述のように変化させることができる。
【0036】
いくつかの実施例では、中性子減速層202は、中性子減速層202を通過する中性子のエネルギーを、95%を越えて、99%を越えて、又は99.9%もしくは99.99%を越えて減少させる。この量だけ減速される中性子206の割合は、中性子減速層202の厚さ及び/又は組成に応じて10%又は50%又は70%を超える可能性がある。場合によっては、中性子は、中性子エネルギーが約0.025eVになるように、中性子減速材の温度まで実質的に熱化され得る。
【0037】
水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムは(他の金属水素化物及び/又は金属重水素化物とは対照的に)、イットリウムが概して高速中性子と低速中性子の両方に対して中性子透過性であるため、中性子減速層202に特に適している。例えば、イットリウム89(イットリウムの唯一の天然同位体)の中性子捕獲断面積は、0.025eVと40MeVとの間の中性子エネルギーに対して1から2バーン未満である。
【0038】
この実施例のリチウム含有層204は、高比率のリチウム6、すなわち天然に存在するリチウム中のリチウム6の割合を超えるリチウム6の割合を有するように濃縮された液体リチウム金属(又は合金)を含む。中性子減速層202から出る減速された中性子は、リチウム含有層に衝突し、リチウム6について前述した反応に従ってリチウム含有層内にトリチウムを生成する。リチウムは、代替的に(又は追加的に)、リチウム鉛液体合金、又はリチウム錫合金、又はリチウム含有合金の形で提供することができ、その場合、鉛又は錫は、トリチウムを生成し、システム内の中性子の漏れの埋め合わせをするために、リチウム含有層204内の中性子数を増加させる中性子増倍材として機能する。リチウム含有増殖材料は、例えばLi2F及びBeF2を含む溶融塩の形で、中性子増倍材を含むこともできる。ブランケットタイル200は、好ましくは、液体リチウム(又はリチウム鉛共晶)が増殖層204に流入及び増殖層204から流出し、生成されたトリチウムがブランケットタイル200から抽出されることを可能にするために、増殖層204に接続された1つ以上の入口及び出口を含む。ブランケットタイル200の入口及び出口は、1つのブランケットタイル200の出口が別の同様のブランケットタイル200の入口に接続され、リチウムがブランケットタイル200を連続して流れることができるように配置することができる。
【0039】
中性子減速層202とリチウム含有層204の厚さは、核融合炉のサイズ、形状、材料及び/又は運転条件に従って、トリチウム増殖比を最適化するために変えることができる。このような最適化は、原子炉内の様々な材料によって透過及び反射される中性子束と、リチウム含有層204内のトリチウム増殖反応のような核反応の速度を計算する「中性子工学」のコンピュータシミュレーションによって行うことができる。
【0040】
水素化イットリウム又は重水素化イットリウム以外の金属水素化物又は金属重水素化物も、例えば、水素化リチウム、水素化チタン及び/又は水素化ジルコニウム(及び/又は対応する重水素化物)を単独で、又は相互にもしくは水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムと組み合わせて、中性子減速材料として使用することができる。金属水素化物又は金属重水素化物の化学量論的組成は、必要とされる減速の量と減速層202の必要とされる構造特性に応じて異なり得る。例えば、金属水素化物の組成は化学式MHxで表すことができ、xは材料中の水素原子(H)と金属原子(M)の比である(例えばM=Y、Li、Ti及び/又はZrである)。通常、xは0.5から5.5の間、又は1.0から2.0の間である。水素化イットリウム、すなわちYHxを使用する好ましい実施では、xは約1.50から約1.92の範囲にある。この範囲は、より高い水素含有量(すなわち、より高いx)に伴うより低い分解温度を回避しながら、効果的な中性子減速に適した水素含有量を提供することがわかっている。
【0041】
図2と同じ意味を有する要素に同じ符号が与えられている
図3は、リチウム含有層204の後に配置される、すなわちリチウム含有層204が2つの中性子減速層202、302の間にあるように配置される追加の中性子減速層302を有する点を除いて、
図2に示したブランケットタイル200と同様の代替的なブランケットタイル300を示す。この場合、追加の中性子減速層302によって反射された中性子は、リチウム含有層204におけるトリチウム増殖に寄与し、トリチウム増殖比をさらに高める。追加の中性子減速層302の厚さは、第1の中性子減速層202(すなわち、第一壁201に最も近い中性子減速層)よりも中性子を反射するのに効果的であることを確実にするために、第1の中性子減速層202の厚さよりも大きいことができる。追加の中性子減速層302は、第1の中性子減速層202について前述したように、金属水素化物及び/又は金属重水素化物、例えば水素化イットリウム及び/又は重水素化イットリウムを含むことができる。代わりに又は加えて、追加の中性子減速層302は、グラファイト又は炭化チタンなどの別の減速材料を含むことができる。追加の中性子減速層302は、好ましくは、
図2のブランケットタイル200について前述したように、金属(例えば鋼)層によってリチウム含有層204から分離される。
【0042】
ブランケットタイルの更なる実施例は、ブランケットタイル300から、追加の中性子減速層302の後に(すなわち、第一壁201から離れる方向に)1つ以上の更なるリチウム含有増殖層を追加し、更なるリチウム含有増殖層のそれぞれの後に追加の中性子減速層を設けて、中性子減速層202、302とリチウム含有増殖層204の交互のシーケンスを形成することによって得ることができる。シーケンスは、中性子減速層202(第一壁201に隣接)から始まり、設計に応じて中性子減速層302又はリチウム含有層204のいずれかで終了することができる。シーケンスは、(
図3に示すブランケットタイル300のように)2つの中性子減速層202、302を含むことができ、3つ、4つ又は5つ(など)の中性子減速層202、302など、3つ以上の減速層を含むことができる。
図2及び
図3に示すブランケットタイル200、300については、中性子減速層202、303とリチウム含有層のそれぞれが鋼の層203によって互いに分離されているが、鋼以外の材料(例えば他の金属)をこの目的に使用できることが理解されるであろう。
【0043】
図4は、第一壁201と、リチウム含有材料を含む増殖層204と、中間金属(例えば鋼)シート203と、反射層401とを含む別のブランケットタイル400を示す。増殖層は、金属水素化物及び/又は金属重水素化物(例えばYH
x及び/又はYD
x)を含む中性子減速材料のペレット402を含み、ペレット402は、リチウム含有材料から分離するために金属(例えば鋼)に包み込まれている。ペレット402は一般に、増殖層402内にランダムに分散される。反射層は、C(例えばグラファイト)、TiC、Be及び/又はYHなどの中性子反射材料を含む。
【0044】
上記のように、リチウム含有材料は、例えば、リチウム含有液体金属合金(Pb-Li合金又はSn-Li合金など)又は、Li2F-BeF2などの溶融塩の形態であり得る。リチウム含有材料は、代替的に、リチウム含有材料のセラミックペレット(例えばリチウム金属のペレット)として提供され得る。増殖層204はまた、中性子増倍材(例えばベリリウム又は鉛化物(例えば、LaPb3又はYPb2など))のペレットを含み得る。ペレットの使用により、ペレット間の隙間に冷却流体(例えばガス、例えばHe)を通すことによって増殖層204を冷却することができる。増殖層内に中性子減速材料を含めることにより、中性子減速材料ペレット204によって反射された中性子のより大きな割合がリチウム含有材料によって吸収され得るため、より大きなTBRが可能になり得る。ペレット204はまた、メンテナンス又は交換のために、又は増殖層204内の中性子減速材料の量を変えるために、容易に増殖層204から除去/増殖層204に再導入することができる。
【0045】
ペレット204は、一般に、任意の大きさ又は形状、例えば、球形、円筒形又は楕円形であることができる。例えば、ペレット204は、約2.5mmから10mmの直径を有する中性子減速材料を含むコアと、厚さ約0.5mmから約1mmの外側鋼ケーシングとを有する球形ペレットであり得る。
【0046】
図5は、ペレット402が中性子減速材料のシリンダー又はロッド502、すなわち他の2つの軸よりも実質的に大きい長手方向軸を有する中性子減速材料の要素もよって置き換えられた別のブランケットタイル500を示す。ロッド502は、曲げひずみを最小限に抑えるためにそれらの長手方向軸が垂直になるように、増殖層204内で配向され得る。ロッド502の断面は、任意の形状、例えば円形、六角形を有することができる。ペレット402と同様に、ロッド502は金属(例えば鋼)層によって囲まれている。
【0047】
ロッド502は、一定の間隔で互いに離間していることができ、又は増殖層204内で変化する間隔を有することができる。例えば、
図5に示すように、ロッド502は、比較的高い減速能力を有する第1の領域506Aを形成するために第一壁201に近いほど接近して離間され得、ロッドの間隔が第1の領域506Aと比べて増加している(言い換えれば、ロッドの密度がより低い)1つ以上の後続の(すなわち、第一壁201からさらに遠い)領域506B、506Cが存在し得る。これらの後者の領域506B、506Cは、第1の領域506Aよりも減速度が低いが、これらの領域におけるリチウム含有材料の割合の増加と、領域506B、506Cに到達する中性子に対する第1の領域506Aの減速効果のために、TBRにより大きく貢献する可能性がある。代替的に又は追加的に、領域506A~506Cのそれぞれのロッド502は、減速の量を変えるために異なる直径(すなわち厚さ)を有することができる。例えば、ロッドの直径は0.5cmから5cmの範囲にあり得る。
【0048】
ロッド502は、好ましくは、メンテナンス及び/又は交換のためにブランケットタイル500からロッド502を取り外すことを可能にする固定具によって支持される。好ましくは、各ロッドは、増殖層204を貫通し、ロッド502を所定の位置に支持する金属管内に挿入される。金属管は、その内容物と増殖材料とが接触しないことを確実にするために密封されている。好ましくは、メンテナンスを容易にするために、固定具は、最初に人間の介入を必要とせず、例えばボルトを緩めたり取り外したりする必要がなく、スライドさせることによって固定具から取り外すことができるように、金属管又はロッド502を所定の位置に解放可能にクランプする。これにより、メンテナンス中に作業員が高レベルの放射能にさらされることが回避される。ロッド502は、重力によって所定の位置に保持され、それによって容易に取り外すことができるように、好ましくは金属管の上部から挿入される。金属管の底部は、漏れがないことを確実にするために好ましくは鋼で密封されている。金属水素化物/金属重水素化物を含む中性子減速材料は、摂氏約650度(水素化イットリウム/重水素化イットリウムが分解し始める温度)を超える温度でのガス放出に関する潜在的な問題を回避するために、さらに別の材料の内部に封入され得る。
【0049】
いくつかの実施では、増殖ブランケットは水冷され得る。例えば、増殖ブランケットは、増殖ブランケット内の(又は増殖ブランケットに隣接する)流路を通して水を循環させるように構成された冷却システムに接続することができる。このような場合、水によってもたらされる追加の減速、すなわち増殖ブランケット内の中性子の減速に対する水の寄与を考慮して、減速材料中の水素に対する重水素の比率を増加させることによって、中性子減速材料の減速力を低減することが好ましい場合がある。例えば、冷却水が増殖ブランケット内の中性子の大幅な減速をもたらす場合、金属水素化物/金属重水素化物中性子減速材料中の重水素の割合(すなわち、水素原子核と重水素原子核の総数で割った重水素原子核の数)は、例えば、20%より大きいか又は40%より大きいことができる。場合によっては、中性子減速材料中の重水素の割合が100%になることさえある。増殖ブランケットが水冷以外の機構(例えばガス冷却、溶融金属又は溶融塩冷却)によって冷却されるか又は冷却水が増殖ブランケット内の中性子をあまり減速しない他の実施では、異なる割合の重水素が好ましい場合がある。例えば、重水素の割合は2%から38%の間、好ましくは10%から30%の間、より好ましくは約20%であり得る。このような場合に減速材として使用される金属水素化物/金属重水素化物は、例えば、水素化ジルコニウム/重水素化ジルコニウム(例えばZrH2/ZrD2)又は水素化イットリウム/重水素化イットリウムであり得る。
【0050】
リチウム6の濃縮は多くの場合TBRを改善できるが、増殖材料の選択及び/又は増殖材料内の中性子増倍材の存在を考慮すべきである。例えば、ブランケットの内部で実質的な中性子増倍がある場合(例えば、リチウム鉛又は「FLiBe」、フッ化リチウム及びフッ化ベリリウム、ブランケット)、中性子減速材料中の金属重水素化物の量を(金属水素化物と比較して)増やすことによって、より高いTBRが達成される可能性がある。例えば、中性子減速材料は10%を超える、30%を超える、又は50%を超える金属重水素化物、例えば重水素化イットリウムを含み、残りの中性子減速材料はいずれも金属水素化物であり得る。このような場合、(金属水素化物と比較して)金属重水素化物の減速力が低いため、中性子増倍材によってより多くの中性子が生成される可能性がある。中性子増倍材によって生成された結果として生じる中性子の「ソフト」スペクトル(すなわち、5MeV未満の中性子が大半を占めるスペクトル)により、リチウム6の方がリチウム7よりも低エネルギー(n,T)反応速度が高い結果として、濃縮されたリチウム6の方がより大きなTBRが生成される。逆に、増殖ブランケットに専用の中性子増倍材がない場合(例えば、増殖材料が液体リチウム又は水素化リチウムである実施)、(金属重水素化物ではなく)金属水素化物の中性子減速材料と組み合わせて増殖材料に非濃縮(すなわち天然)リチウムを使用することが好ましい場合がある。このような場合、TBRはより豊富なリチウム7で起こる(n,T)反応によって高められる。
【0051】
ロッド502の1つ以上を、例えば適格性確認及び安全状態実証のために、ブランケットタイル500を通る中性子束を測定するための監視試験片及び/又は実験装置を含むロッドと置き換えることができる。ロッド502の1つ以上はまた、例えば中性子照射下での特定の材料の挙動を特定するための材料試験用の試験片を含むことができる。試験片はまた、場合によっては、例えば医用画像及び/又は治療のために、1つ以上の元素の同位体を製造するのに使用され得る。例えば、試験片は、1つ以上の金属を含む同位体製造合金(例えばモリブデン-99及びヨウ素-131)であることができ、同位体製造合金から、核融合炉によって生成された中性子に合金を暴露した後に特定の同位体を製造することができる。ブランケットタイル502内のそのようなロッドの位置は、効率的な同位体製造に必要な中性子エネルギースペクトルに従って最適化することができる。例えば、低エネルギー中性子スペクトルを必要とする同位体製造合金は、対象の同位体の核変換率を最大にするために、タイル500の後方(すなわち、核融合炉の中心から離れたところ)に優先的に先的に配置され得る。
【0052】
ロッド502の1つ以上を、Pu、Np、Am、Cmなどの核分裂廃棄物流物質の密閉管と、大量の核分裂生成物(Cs、Sr)とを含むロッドと置き換えることができる。核融合炉によって生成される中性子束は、これらの同位体を半減期が大幅に短い娘同位体に変換し、廃熱の発生を減らすことで、地層処分された高レベル廃棄物の充填率を高めることができる。これらのロッドは、核廃棄物の核変換ロッドと考えることができる。一般に、これらの管は核分裂ガス(発生した場合)を封じ込めるために密封されており、好ましくは外部から冷却されるように適合されている。
【0053】
増殖層204内に減速材を含めることにより、場合によっては、高いTBRを維持しながらブランケットタイル400、500の全体的な厚さを減少することができる。減速材を含めることで、中性子エネルギースペクトルを変更することによって製造される同位体の種類を調整することもできる。
【0054】
本発明の様々な実施形態が上述されているが、それらは限定ではなく例として示されていることを理解すべきである。当業者には、本発明の主旨と範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に様々な変更を加えることができることが明らかであろう。したがって、本発明は、上記の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物に従ってのみ定義されるべきである。