(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】不織布製造用繊維処理剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
D06M 13/292 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
D06M13/292
(21)【出願番号】P 2023567222
(86)(22)【出願日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2023002395
(87)【国際公開番号】W WO2023149326
(87)【国際公開日】2023-08-10
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2022016008
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 充宏
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-73741(JP,A)
【文献】特開昭59-157091(JP,A)
【文献】特開2009-91703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む不織布製造用繊維処理剤であって、前記化合物(A)、前記化合物(B)及び前記化合物(C)を必須に含み、
処理剤の不揮発分に対して、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)の合計重量割合が80~100重量%であり、
前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値(B)の比率〔B/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値(C)の比率〔C/(A+B+C+IN)〕が20~50%であり、
前記処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100未満である、
不織布製造用繊維処理剤。
【化1】
(式(1)中、R
1は直鎖の炭素数12のアルキル基、Q
1は、直鎖の炭素数12のアルキル基、アルカリ金属又は水素原子を示す。Q
2は、水素原子又はアルカリ金属を示す。2つのQ
2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】
(式(2)中、R
2及びR
3は直鎖の炭素数12のアルキル基、M
1は、水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【化3】
(式(3)中、R
4は直鎖の炭素数12のアルキル基、M
2及びM
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【請求項2】
前記処理剤の不揮発分の1%濃度水溶液のpHが6~8である、請求項1に記載の不織布製造用繊維処理剤。
【請求項3】
前記処理剤の不揮発分に占める防腐剤の重量割合が100ppm以下である、請求項1又は2に記載の不織布製造用繊維処理剤。
【請求項4】
原料繊維に対して、請求項1
又は2に記載の不織布製造用繊維処理剤が付着してなる、短繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布製造用繊維処理剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、短繊維を不織布に加工する場合、カード工程が行われる。しかし、短繊維がカードを通過する際に静電気発生量が多い若しくはカード通過性が良好でないと、ウェブが均一でなくなり、不織布の厚さに斑が生じる原因になる。したがって、静電気発生の抑制及び良好なカード通過性を付与することができる繊維処理剤が使用されている。
また、一般に、紙おむつや合成ナプキンを代表とする生理用品等の吸収性物品に用いられる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む繊維(ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維等)を主材とする各種不織布に親水性を付与したトップシートと、撥水性を付与したバックシートと、トップシートとバックシートの間に綿状パルプや高分子吸収体等からなる材料とを配置した3層から形成される構造になっていることが多い。尿や体液等の液体はトップシートを通過して吸収体に吸収されるが、トップシートには透水性のよいこと、すなわち液体がトップシート上から内部の吸収体に完全に吸収される迄の時間が極めて短い瞬時透水性が必要である。さらに、僅か1回から2回の液体の吸収によってトップシート上の処理剤が流出して透水性が急激に低下するのは、おむつの取り替え回数が増すことになって好ましくないので、トップシートには繰り返しの液体吸収に耐える耐久透水性が要求される。
不織布製造用繊維処理剤の耐久透水性を向上するために、高分子化合物を含む処理剤が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子化合物を含む不織布製造用繊維処理剤が付与された不織布は、確かに耐久親水性は優れるものの、経時的に親水性が低下するという問題が見られるようになった。
本発明が解決しようとする課題は、高温経時後に親水性が低下しない不織布製造用繊維処理剤及び用いた短繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の燐酸化合物を特定量含有し、その酸価が一定の値を示す不織布製造用繊維処理剤であれば、解決できることを突き止めた。
すなわち、本発明の不織布製造用繊維処理剤は、下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む不織布製造用繊維処理剤であって、前記化合物(A)、前記化合物(B)及び前記化合物(C)を必須に含み、処理剤の不揮発分に対して、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)の合計重量割合が80~100重量%であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値(B)の比率〔B/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値(C)の比率〔C/(A+B+C+IN)〕が20~50%であり、前記処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100未満である。
【0006】
【0007】
(式(1)中、R1は直鎖の炭素数12のアルキル基、Q1は、直鎖の炭素数12のアルキル基、アルカリ金属又は水素原子を示す。Q2は、水素原子又はアルカリ金属を示す。2つのQ2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0008】
【0009】
(式(2)中、R2及びR3は直鎖の炭素数12のアルキル基、M1は、水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【0010】
【0011】
(式(3)中、R4は直鎖の炭素数12のアルキル基、M2及びM3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【0012】
前記処理剤の不揮発分の1%濃度水溶液のpHが6~8であると好ましい。
前記処理剤の不揮発分に占める防腐剤の重量割合が100ppm以下であると好ましい。
本発明の短繊維は、原料繊維に対して、上記不織布製造用繊維処理剤が付着してなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の不織布製造用繊維処理剤が付与した短繊維から製造される不織布は、高温経時後に親水性が低下しない。本発明の短繊維から製造された不織布は、高温経時後に親水性が低下しない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)及び無機燐酸塩(IN)を含む。各化合物について、以下に詳細に説明する。
【0015】
[化合物(A)]
化合物(A)は、本願発明の不織布製造用繊維処理剤に必須に含まれる成分である。
化合物(A)は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する効果がある。
【0016】
化合物(A)は、上記一般式(1)で示される。
式中、R1は直鎖の炭素数12のアルキル基である。
Q1は、水素原子、直鎖の炭素数12のアルキル基又はアルカリ金属である。
アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、カリウムが好ましい。
2つのQ2は、それぞれ独立して、水素原子又はアルカリ金属である。
【0017】
化合物(A)の具体例としては、特に限定されないが、ピロラウリルホスフェート、ピロラウリルホスフェートカリウム塩、ピロラウリルホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。中でも、ピロラウリルホスフェート又はピロラウリルホスフェートカリウム塩が好ましい。
【0018】
化合物(A)は、次のようにして検出することができる。
〔31P-NMR法〕
測定試料不揮発分約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、重水素化溶媒として約0.5mlの重水(D2O)あるいは重クロロホルム(CDCl3)を加え溶解させて、31P-NMR測定装置(BRUKER社製AVANCE400,162MHzおよび日本電子株式会社製JNM-ECZ400R,162MHz)で測定した。
化合物(A)に由来する燐元素のピークは、-5~-15ppmにて検出される。
なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0019】
〔化合物(B)〕
化合物(B)は、本願発明の不織布製造用繊維処理剤に必須に含まれる成分であり、化合物(A)及び化合物(C)と併用することにより、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する性能を有する。
化合物(B)は、上記一般式(2)で示される。
式中、R2及びR3は直鎖の炭素数12のアルキル基である。
【0020】
M1は、水素原子、アルカリ金属である。
アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、カリウムが好ましい。
【0021】
化合物(B)の具体例としては、特に限定されないが、ジラウリルホスフェート、ジラウリルホスフェートカリウム塩、ジラウリルホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。
【0022】
化合物(B)は、化合物(A)と同様に、31P-NMRの方法で検出することができる。
(測定試料不揮発分約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、重水素化溶媒として約0.5mlの重水(D2O)あるいは重クロロホルム(CDCl3)を加え溶解させて、31P-NMR測定装置(BRUKER社製AVANCE400,162MHzおよび日本電子株式会社製JNM-ECZ400R,162MHz)で測定した。)
化合物(B)、後述する化合物(C)及び後述する無機燐酸に由来する燐元素のピークは、+4~-1ppmにて検出される。
化合物(B)、化合物(C)及び無機燐酸に由来する燐元素のピークは、いずれも+4~-1ppmにて検出されるが、低磁場側から、無機燐酸、化合物(C)、化合物(B)の順に帰属が決定される。
【0023】
〔化合物(C)〕
化合物(C)は、本願発明の不織布製造用繊維処理剤に必須に含まれる成分であり、化合物(A)及び化合物(B)と併用することにより、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する性能を有する。
化合物(C)は、上記一般式(3)で示される。
式中、R4は直鎖の炭素数12のアルキル基である。
【0024】
M2は、水素原子又はアルカリ金属である。
アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、カリウム又はナトリウムが好ましい。
M3は、M2と同様である。
【0025】
化合物(C)の具体例としては、特に限定されないが、モノラウリルホスフェート、モノラウリルホスフェートモノカリウム塩、モノラウリルホスフェートジカリウム塩、モノラウリルホスフェートモノナトリウム塩、モノラウリルホスフェートジナトリウム塩等が挙げられる。
【0026】
化合物(C)は、化合物(B)と同様に、31P-NMRの方法で検出することができる。
化合物(C)に由来する燐元素のピークは、+4~-1ppmにて検出される。化合物(C)、化合物(B)及び後述する無機燐酸に由来する燐元素のピークは、いずれも+4~-1ppmにて検出されるが、低磁場側から、無機燐酸、化合物(C)、化合物(B)の順に帰属が決定される。
【0027】
〔無機燐酸塩(IN)〕
無機燐酸塩(IN)は、本願発明の不織布製造用繊維処理剤に任意に含まれる成分である。
無機燐酸塩(IN)は、リン酸、リン酸二水素金属塩、リン酸水素二金属塩及びリン酸三金属塩から選ばれる少なくとも一つである。
具体的に、リン酸二水素一金属塩としてはリン酸二水素一カリウム塩、リン酸二水素一ナトリウム塩等が挙げられ、リン酸水素二金属塩としてはリン酸水素二カリウム塩、リン酸水素二ナトリウム塩等が挙げられ、リン酸三金属塩としてはリン酸三カリウム塩、リン酸三ナトリウム塩等が挙げられる。
【0028】
前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+IN)〕は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、20~50%であり、25~48%が好ましく、30~45%がより好ましい。
前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値(B)の比率〔B/(A+B+C+IN)〕は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、20~50%であり、22~48%が好ましく、25~45%がより好ましい。
【0029】
前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値(C)の比率〔C/(A+B+C+IN)〕は、20~50%であり、20~45%が好ましく、20~40%がより好ましい。
前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+IN)〕は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、0~15%であり、0~10%が好ましく、0~5%がより好ましい。
【0030】
処理剤の不揮発分に対して、前記化合物(A)、前記化合物(B)及び前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)の合計重量割合が80~100重量%であり、85~100重量%が好ましく、90~100重量%がさらに好ましい。80重量%未満では、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する性能が不足する。
【0031】
〔不織布製造用繊維処理剤〕
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、処理剤の安全性の観点から、処理剤の有効濃度0.1%水溶液のBOD値が1~300であると好ましい。処理剤の有効濃度0.1%水溶液のBOD値は、10~290がより好ましく、30~280mg/Lがさらに好ましい。
ここで、BOD値とは、生物化学的酸素要求量のことをいい、ウインクラーアジ化ナトリウム変法に従って測定された値のことである。
【0032】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100未満であり、20~60が好ましく、30~50がより好ましい。100を超えると、高温経時後に親水性が不足する。なお、酸価(KOHmg/g)は、次の方法で測定した。
各サンプルを絶乾させ、0.01%フェノールフタレインを溶かしたキシレン/エタノール=1/1溶液50mLに各サンプル1gを溶解させた。当該溶液に0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を滴下し、微紅色に呈色するまでの液量(y mL)を測定し、下記計算式より算出した。
x=y×5.61
【0033】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、前記処理剤の不揮発分の1%濃度水溶液のpHが6~8であると好ましい。
【0034】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、前記処理剤の不揮発分に占める防腐剤の重量割合が100ppm以下であると好ましく、50ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。
【0035】
(その他成分)
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、化合物(A)~(C)、無機燐酸以外にも、ノニオン性界面活性剤、化合物(A)~(C)以外のアニオン性界面活性剤を含んでもよい。不織布高温経時後の親水性低下を抑制する観点から、処理剤の不揮発分に対して、ノニオン性界面活性剤、化合物(A)~(C)以外のアニオン性界面活性剤の合計は20重量%以下が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、下記の化合物(D)、化合物(E)、化合物(F)が挙げられる。
【0036】
前記化合物(D)は、1価アルコール、多価アルコールおよびこれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる少なくとも1種と脂肪族カルボン酸とのエステルである。
【0037】
1価アルコールとしては、特に限定はないが、1価の脂肪族アルコール等が挙げられる。1価の脂肪族アルコールの炭素数は分布があってもよい。また、飽和であっても不飽和あってもよく、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。脂肪族アルコールの炭素数は、1~22が好ましく、1~18がより好ましく、4~18がさらに好ましく、8~18が特に好ましい。
1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
1価アルコールのアルキレンオキシド付加物について、アルキレンオキシドの炭素数は2~4が好ましい。2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。また、アルキレンオキシドの付加モル数は、0~150が好ましく、0~50がさらに好ましく、0~20が特に好ましく、0が最も好ましい。
【0038】
多価アルコールとしては、特に限定はないが、2~8価のアルコール等が挙げられ、2~6価のアルコールが好ましく、2~4価のアルコールが好ましい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどのジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ショ糖などのポリオール類が挙げられる。さらに、グリセリンの縮合物であるジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン等のポリグリセリンも含まれる。
多価アルコールのアルキレンオキシドのアルキレンオキシド付加物について、アルキレンオキシドの炭素数は2~4が好ましい。2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。また、アルキレンオキシドの付加モル数は、0~150が好ましく、0~50がさらに好ましく、0~20が特に好ましく、0が最も好ましい。
【0039】
脂肪族カルボン酸は、分子内にヒドロキシル基を有さない脂肪酸が好ましい。脂肪族カルボン酸としては、特に限定はなく、脂肪酸や脂肪族ポリカルボン酸であってもよい。脂肪酸としては、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。これらの中でも、飽和脂肪酸が好ましく、脂肪酸の炭素数は、4~30が好ましく、4~22がさらに好ましく、4~18が特に好ましい。
【0040】
飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0041】
脂肪族ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、トリカルバリル酸、クエン酸等が挙げられる。
また、これらの脂肪族ポリカルボン酸無水物も使用することができ、例えば、無水マロン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水ピメリン酸、無水スベリン酸、無水アゼライン酸、無水セバシン酸、無水マレイン酸、無水クエン酸等が挙げられる。
【0042】
多価アルコールと脂肪酸とのエステルとしては、椰子油、パーム油や大豆油、牛脂などの天然から得られる油脂類、パーム油や大豆油や牛脂に水素を添加した硬化パーム油や硬化大豆油、硬化牛脂等を用いてもよい。
【0043】
多価アルコールのアルキレンオキシド付加物と脂肪族カルボン酸のエステルとしては、多価アルコールと脂肪族カルボン酸とからエステルを得てから、炭素数2~4のアルキレンオキシドを付加した物質を使用してもよい。
【0044】
1価アルコールおよび/または1価アルコールのアルキレンオキシド付加物と脂肪族カルボン酸とのエステルとしては、2-エチルヘキシルオレエート、イソオクチルオレエート、ラウリルオレエート、ステアリルオレエート、オレイルオレエート、トリデシルオレエート、ブチルステアレート、イソオクチルステアレート、オレイルイソステアレート、オレイルステアレート、イソトリデシルステアレート、イソプロピルパルミテート、イソオクチルパルミテート、オレイルパルミテート、トリデシルパルミテート、トリデシルラウレート、オレイルラウレートポリオキシエチレン(10モル)ステアリルエーテルのオレイン酸エステル、ジオクチルアジペート、ジラウリルアジペート、ジイソトリデシルアジペート、ジイソステアリルアジペート、ジオレイルアジペート、ジオクチルフマレート、ジオクチルフタレート等が挙げられる。
【0045】
多価アルコールおよび/または多価アルコールのアルキレンオキシド付加物と脂肪族カルボン酸とのエステルとしては、エチレングリコールジオレエート、グリセリンモノオクタネート、グリセリンモノデカノエート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジオクタネート、グリセリンジデカノエート、グリセリンジラウレート、グリセリントリオレエート、ヘキサグリセリンモノステアレート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリオレエート、トリメチロールプロパンモノパルミテート、ペンタエリスリトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20モル)グリセリンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタントリオレエート、コハク酸ジ(3-ヒドロキシプロピル)、コハク酸メチル(3-ヒドロキシプロピル)等が挙げられる。
【0046】
前記化合物(E)は、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(E1)、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物(E2)及び当該縮合物(E2)の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(E3)から選ばれる少なくとも1種である。
【0047】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(E1)は、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上(好ましくは全部)の水酸基がエステル化されている。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0048】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
【0049】
ヒドロキシ脂肪酸としては、たとえば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が挙げられ、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸が好ましい。
多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。
ポリオキシアルキレン基としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2~4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0050】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物(E2)を構成するジカルボン酸としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0051】
前記縮合物(E2)の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(E3)を構成する封鎖脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラノリン脂肪酸(ウールグリースを精製したラノリン誘導体である炭素数12~36の脂肪酸)等が挙げられる。
【0052】
前記化合物(F)は、1価の脂肪族アルコールをポリオキシエチレン化して得られる構造を有するアルキルエーテル(以下、POEアルキルエーテル)である。
【0053】
1価の脂肪族アルコールの炭素数については、特に限定はないが、好ましくは8~24、より好ましくは10~20、さらに好ましくは12~18である。
ポリオキシエチレン基1モルを構成するエチレンオキシドの平均付加モル数については、特に限定はないが、好ましくは3~20モル、より好ましくは5~16モル、さらに好ましくは8~12モルである。
【0054】
化合物(A)~(C)以外のアニオン性界面活性剤としては、アルキルホスフェート(アルキル基が直鎖の炭素数12であるものを除く)、アルキルホスフェート塩(アルキル基が直鎖の炭素数12であるものを除く)、ポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート、ポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩、ジアルキルスルホコハク酸およびジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
アルキルホスフェート(アルキル基が直鎖の炭素数12であるものを除く)、アルキルホスフェート塩(アルキル基が直鎖の炭素数12であるものを除く)、ポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート及びポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩を構成する構成するアルキル基の炭素数としては、本願効果を奏する観点から、6~18(C12を除く)が好ましく、8~16(C12を除く)がより好ましく、8~14(C12を除く)がさらに好ましい。
ジアルキルスルホコハク酸およびジアルキルスルホコハク酸塩を構成する構成するアルキル基の炭素数としては、本願効果を奏する観点から、6~18が好ましく、8~16がより好ましく、8~14がさらに好ましい。
【0055】
〔短繊維〕
本発明の短繊維は、不織布製造用合成繊維(原料繊維)とこれに付着した上記不織布製造用繊維処理剤とから構成される短繊維であり、一般的には所定の長さに切断した短い繊維のことである。不織布製造用繊維処理剤の不揮発分の付着率は、前記短繊維に対して0.1~2重量%であり、好ましくは0.3~1重量%である。短繊維に対する不織布製造用繊維処理剤の不揮発分の付着率が0.1重量%未満では、カード工程での制電性が低下し、不織布の地合いが悪化することがある。一方、不織布製造用繊維処理剤の不揮発分の付着率が2重量%を超えると、繊維をカード処理する時に巻付きが多くなって生産性が大幅に低下し、乾式法等の方法により得られた不織布等の繊維製品が透水後にベトツキが大きくなることがある。
【0056】
不織布製造用合成繊維(繊維本体)としては、たとえば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維等であり、複合繊維の組み合わせとしては、ポリオレフィン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン等が挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、共重合ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート/ポリ乳酸、ポリブチレンアジペート・テレフタレート/ポリ乳酸、ポリ乳酸/ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート/ポリブチレンサクシネート等が挙げられる。また、さらにポリアミド系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂/ポリアミド系樹脂等からなる繊維も例示することができる。不織布製造用繊維処理剤が付着される前の不織布製造用合成繊維は、疎水性合成繊維ということもできる。
これら不織布製造用合成繊維(繊維本体)のなかでも、付着した不織布製造用繊維処理剤が尿や体液等の液体で濡れても繊維表面に残り易いという理由から、ポリオレフィン系繊維(ポリオレフィン繊維やポリオレフィン繊維を含む複合繊維)、ポリエステル系繊維(ポリエステル繊維やポリエステル繊維を含む複合繊維)等の不織布製造用合成繊維に本発明の不織布製造用繊維処理剤は好適である。
【0057】
繊維の断面構造は鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、多層型、放射型あるいは海島型が例示できるが、繊維製造工程での生産性や、不織布加工の容易さから、偏心を含む鞘芯型または並列型が好ましい。また、断面形状は円形または異形形状とすることができる。異形形状の場合、例えば扁平型、三角形~八角形等の多角型、T字型、中空型、多葉型等の任意の形状とすることができる。
【0058】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、そのまま希釈等せずに繊維本体に付着させてもよく、水等で不揮発分全体の重量割合が0.5~5重量%となる濃度に希釈してエマルジョンとして繊維本体に付着させてもよい。不織布製造用繊維処理剤を繊維本体へ付着させる工程は、繊維本体の紡糸工程、延伸工程、捲縮工程等のいずれであってもよい。本発明の不織布製造用繊維処理剤を繊維本体に付着させる手段については、特に限定はなく、ローラー給油、ノズルスプレー給油、ディップ給油等の手段を使用してもよい。繊維の製造工程やその特性に合わせ、より均一に効率よく目的の付着量が得られる方法を採用すればよい。また、不織布製造用繊維処理剤が付与された繊維の乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0059】
〔不織布の製造方法〕
不織布の製造方法として、特に限定なく、公知の方法を採用できる。原料繊維としては短繊維や長繊維を用いることができる。原料繊維が短繊維のウェブ形成方式としては、カード方式やエアレイド方式等の乾式法や抄紙方式等の湿式法が挙げられる。また原料繊維が長繊維のウェブ形成方式としては、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等が挙げられる。また、繊維間結合方式としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、スティッチボンド法等が挙げられる。
不織布の製造方法は、本発明の短繊維(例えば短繊維)をカード機等に通し繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを熱処理する工程を含むものが好ましい。すなわち、本発明の不織布製造用繊維処理剤は、不織布の製造において繊維ウェブを熱処理する工程を有する場合に、特に好適に使用されるものである。
繊維ウェブを熱処理して接合させる方法としては、加熱ロールまたは超音波による熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等の熱融着法が挙げられる。繊維ウェブを熱処理して接合させる一例としては、芯に高融点の樹脂を使用し鞘に低融点の樹脂を使用する鞘芯型の複合繊維の場合、低融点の樹脂の融点付近で熱処理することで、繊維交点の熱接着を容易に行なうことができる。
熱接着させる工程を含む不織布の製造方法としては、不織布製造用繊維処理剤が付与された短繊維をカード機等に通しウェブとしたものを上述のように熱処理して接合させ一体化する方法、エアレイド法でパルプ等を積層する際に本発明の短繊維(短繊維)と混綿して、上述のように熱処理して接合させる方法等も挙げられる。その他、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により得られた繊維成形体に対して、本発明の不織布製造用繊維処理剤を付着させたものを加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理して、または加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理したものに本発明の不織布製造用繊維処理剤を付着させて、不織布を製造する方法も挙げられる。
【0060】
スパンボンド法の一例としては、複合繊維樹脂を紡糸し、次に、紡出された複合長繊維フィラメントを冷却流体により冷却し、延伸空気によってフィラメントに張力を加えて所期の繊度とする。その後、紡糸されたフィラメントを捕集ベルト上に捕集し、接合処理を行ってスパンボンド不織布を得る。接合手段としては、加熱ロールまたは超音波による熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等がある。
得られたスパンボンド不織布に本発明の不織布製造用繊維処理剤を付与する方法としては、グラビア法、フレキソ法、ゲートロール法等のロールコーティング法、スプレーコーティング法等で行うことができるが、不織布への塗布量を片面ずつ調節できるものであれば特に限定されるものではない。また、不織布製造用繊維処理剤が付与された不織布の乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0061】
本発明の不織布において、透水性を発揮する対象の液体としては、尿、軟便、泥状便、水様便、血液、体液、滲出液等が挙げられる。本発明の不織布の用途としては、乳児用使い捨ておむつ、介護用使い捨ておむつ、生理用品、包帯、絆創膏、消毒布、サージカルテープ等の衛生材料用途、ペット用排泄シート、芳香剤の吸液芯、液体防虫剤の吸液芯、清掃布等の日用品用途、コーヒーフィルター、水切りシート等の食品関連用途等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、各実施例、比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。又、各実施例、比較例における処理剤の明細と評価結果を表1及び2にまとめて示す。処理剤の明細中、配合比率はいずれも重量%を表す。なお、実施例及び比較例において、不織布製造用繊維処理剤の各特性の評価は次の方法に従って行った。
【0063】
[1重量%水溶液のpH]
各不織布製造用繊維処理剤を濃度が1重量%となるようにイオン交換水で希釈し、pHメーターで水溶液のpHを測定した。
【0064】
[BOD]
(ウインクラーアジ化ナトリウム変法)
排水を溶存酸素の飽和した希釈水で適量に希釈したものをフ卵瓶に入れ密栓して、5日間×20℃の恒温室で放置し、その前後の溶存酸素量の差から処理剤の有効濃度0.1%水溶液のBODを算出した。実施例1のBODは、270mg/L、実施例7のBODは、292mg/L、比較例1のBODは、311mg/Lであった。
【0065】
[製綿工程]
(スカム発生の有無)
製綿工程のスカム発生の代用評価として、ポリエステルフィラメントを用いてスカム評価を行った。
各不織布製造用繊維処理剤の有効10%濃度エマルションを市販のポリエステルフィラメント(200d/24f)の脱脂糸に定量ポンプを用いて、OPU=1.0%となるように給油した。
各不織布製造用繊維処理剤付着糸を40mmφ梨地クロムピン上、糸速度200m/分、入張力25g、接触角180度で一定長(10000m)走行させたときのピン上に蓄積するスカムの有無を肉眼で判定した。3以上であると実用に供し得る。
〔判定基準〕
5 … スカム発生が見られない
4 … スカム発生が僅かに見られる
3 … スカムが少し発生する
2 … スカム発生が見られる
1 … スカムの発生が多く見られる
【0066】
[カード工程]
(制電性)
カード試験機を用いて20℃×45%RHの条件で試料短繊維40gをシリンダー回転数970rpm(設定可能な最高回転数)でミニチュアカード機に通す。発生した静電気の電圧を測定し、以下の基準で評価する。なお、5が最も良い評価であり、3以上であると実用に供し得る。
5 … 0.5kV未満
4 … 0.5~1.0kV
3 … 1.0kV超~1.5kV、
2 … 1.5kV超~2.0kV
1 … 2.0kVより大
(シリンダー巻付き)
カード試験機を用いて30℃×70%RHの条件で試料短繊維40gをカーディングした後にシリンダーを観察し、以下の基準で評価した。なお、5が最も良い評価である。4以上であると実用に供し得る。
5 … 巻付きなし
4 … 巻付いているが、巻付がシリンダー面の1/10以下に巻付きあり
3 … 巻付がシリンダー面の1/10超かつ1/5以下に巻付きあり
2 … 巻付がシリンダー面の1/5超かつ1/3以下に巻付きあり
1 … 巻付がシリンダー面の1/3超~全面に巻付きあり
【0067】
(不織布の耐久透水性)
EDANA法のRepeated Liquid Strike-Through Time法に従い、不織布(10cm×10cm)に0.9%生理食塩水を透水させ、透水時間を測定した。透水後、不織布を2枚の濾紙(東洋濾紙、No.5)の間に挟み、その上に板(10cm×10cm)と重り(500g)を乗せて3分間放置して脱水し、その後さらに5分間風乾した。
試験に供した不織布について、同様の作業を繰り返して行う。この繰り返し試験では回数を重ねても透水時間が短い方がよい。時間(秒数)を以下の基準で評価する。なお、5が最も良い評価であり、3以上であると実用に供し得る。
〔判定基準〕
5 … 2秒未満
4 … 2秒以上3秒未満
3 … 3秒以上5秒未満
2 … 5秒以上10秒未満
1 … 10秒以上
【0068】
[透水性の経時安定性]
不織布(10cm×10cm)を40℃×70%RHの環境試験器に30日放置する。この不織布を30日後に環境試験器から取り出して、上記に示した不織布の耐久透水性試験を行う。環境試験器投入前後の耐久透水性の差が小さいほど、透水性の経時低下が小さいとする。この経時低下が小さい方がよい。
【0069】
なお、表1~4中に示す成分は次の通りである。なお、表3~4に示すP-1~P-9及びp1~p-3は、表1及び2に示すモル比率で含有する。
(P-1~9、p-3の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn-ドデシルアルコール(花王株式会社製、カルコール2098)150gを加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量50gになるように徐々に加えて80℃にて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。
その後、未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。P核NMR積分値を測定し、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び無機燐酸塩(IN)の帰属を行った。
【0070】
(p-1の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn-ドデシルアルコール(花王株式会社製、カルコール2098)200gを加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量54gになるように徐々に加えて、80℃にて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。
その後、未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。P核NMR積分値を測定し、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び無機燐酸塩(IN)の帰属を行った。
【0071】
(p-2の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn-ドデシルアルコール(花王株式会社製、カルコール2098)250gを加えて撹拌しながら、水を11g仕込み、攪拌した。次に、10酸化4リンを総量90gになるように徐々に加えて反応させた。水を40g加え、さらに80℃で1時間攪拌する。得られた未中和物の酸価を測定した。
その後、未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。P核NMR積分値を測定し、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び無機燐酸塩(IN)の帰属を行った。
【0072】
なお、表1~4中に示す成分は次の通りである。なお、表3及び4に示すP-1~P-9及びp1~p-3は、表1及び2に示す積分比率で含有する。
A-1 一般式(1)化合物、R1=n-ドデシル基、Q1:H、K又はn-ドデシル基、Q2:H又はK
B-1 一般式(2)化合物、R2=n-ドデシル基、R3=n-ドデシル基、M1:H又はK
C-1 一般式(3)化合物、R4=n-ドデシル基、M2:H又はK、M3:H又はK、
【0073】
化合物D:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックス
化合物E:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
化合物F:ポリオキシエチレン(7モル)ラウリルアルコール
化合物G:オクチルホスフェート及びオクチルホスフェートカリウム塩(酸価:26)
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表3及び4から分かる通り、実施例1~9の不織布製造用繊維処理剤は、前記一般式(1)で示される化合物(A)、前記一般式(2)で示される化合物(B)、前記一般式(3)で示される化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む不織布製造用繊維処理剤であって、前記化合物(A)、前記化合物(B)及び前記化合物(C)を必須に含み、
処理剤の不揮発分に対して、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)の合計重量割合が80~100重量%であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+IN)に対して、前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値(B)の比率〔B/(A+B+C+IN)〕が20~50%、前記化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値(C)の比率〔C/(A+B+C+IN)〕が20~50%であり、前記処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100未満であるため、本願課題を解決できている。
一方、前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+IN)〕が20~50%の範囲にない場合(比較例1~2)、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)及び前記無機燐酸塩(IN)の合計重量割合が100を超える場合(比較例4)、処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100を超える場合(比較例3)には、高温経時後に親水性が低下しないという本願の課題を解決できていない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の不織布製造用繊維処理剤を用いて処理した透水性繊維及び不織布において、透水性を発揮する対象の液体としては、尿、軟便、泥状便、水様便、血液、体液、滲出液等が挙げられる。本発明の不織布の用途としては、乳児用使い捨ておむつ、介護用使い捨ておむつ、生理用品、包帯、絆創膏、消毒布、サージカルテープ等の衛生材料用途、ペット用排泄シート、芳香剤の吸液芯、液体防虫剤の吸液芯、清掃布等の日用品用途、コーヒーフィルター、水切りシート等の食品関連用途等が挙げられる。